• 界冥

【界冥】函館・二股口炎上A

マスター:近藤豊

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/04/12 15:00
完成日
2017/04/14 23:37

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 江差から上陸したメタ・シャングリラ。
 函館クラスタ攻略に向けて、統一連合宙軍はついに重い腰を上げた。
 松前要塞攻略を少数の精鋭とハンターによって成し遂げた事は、日本政府と統一連合宙軍に希望の灯をつけた。

 ――勝てる。
 それが統一連合宙軍を動かした動機だ。
 メタ・シャングリラの元へ集う各部隊の有志達。
 対函館クラスタに向けて、作戦は大きく前進する。

「状況は?」
「上々ザマス。メタ・シャングリラも被害は軽微ザマス」
 貸与されたデュミナスで正面から台場山へ向かう山岳猟団の八重樫敦(kz0056)。
 それに対してメタ・シャングリラのブリッジから答えるのは、森山恭子(kz0216)特務大尉だ。
 松前要塞を陥落させたメタ・シャングリラは、ルートを二つに分割する。
 一つは海岸線に沿って函館湾を目指す海上ルート。
 そして、もう一つが江差から東へ向かい、函館クラスタの北を襲撃する陸上ルートだ。
 メタ・シャングリラは陸上ルートで東へ進軍。
 しかし、敵もこのまま素通りはさせてくれない。
 斥候の情報通り、二股口付近で待ち伏せしていた敵と接触。早くも戦端は開かれていた。
「そうか。何とかなりそうだな」
 八重樫はディミナスに対VOID砲試作壁盾を持たせて前進させる。
 敵は台場山の山上にて布陣。大砲型の中型狂気を数機配置して次々とビーム砲を撃ち込んでくる。さらに人型の中型狂気を布陣してメタ・シャングリラの行く手を阻んでいた。
「こちら別働隊。異常なし! 順調、順調!」
 恭子の元へデュミナスに乗る別働部隊の兵士から通信。
 作戦では八重樫ら前衛部隊が台場山の攻撃を凌いでいる隙に、別働部隊が迂回。台場山の側面から敵を襲撃する。
 現段階では、別働部隊は敵に気付かれる事なく迂回できているようだ。
 このまま行けば、台場山はあっさり落ちるだろう。
「油断するんじゃないザマス。ここは戦場ザマスよ」
「はいはい、分かって……ん? なんだあれは?」
 別働部隊の兵士が一言。
 間を置かずにメタ・シャングリラのオペレーターが悲鳴にも似た声を上げる。
「謎の機体が高速で接近中! この反応は……え、CAM?」
「なんザマス!?」
 振り返る恭子。
 オペレーターの言葉に焦りが入り混じる。
「機体より高エネルギー反応!」
「別働部隊、退避しろっ!」
 無線を通じて八重樫の指示が飛ぶ。
 しかし。
「あれは……」
 メタ・シャングリラのブリッジから、恭子の目に飛び込んできたのは空を走る一本の光。
 その光の束が、一体何なのか。
 それは、想像に難くない。
「うわぁぁぁぁ!…………」
 兵士の悲鳴が聞こえた後、通信は途絶えた。
 遠くで聞こえる爆発音。断末魔にも似た黒煙が、空に向かって立ち上る。
「デュミナス、一機撃墜です」
 悔しさを滲ませるオペレーター。
 先程の攻撃は謎の機体が発したものだろう。だとするならば、別働部隊は当初の任務とは異なる。作戦遂行に暗雲が立ちこめる。
 さらに――。
「海岸線ルートの海上自衛隊より入電。敵影確認、交戦に移る。同行していたハンターも行動開始しました」
「マズいザマスね。
 八重樫さん、正面突破で台場山を抑えるザマス。急いで別働部隊と合流するザマス」
「簡単に言ってくれるな。相変わらずの『名指揮官様』だ」
 皮肉を口にする八重樫。
 しかし、台場山の砲撃は激しく油断すればメタ・シャングリラを落とされかねない。

 ――苦戦。
 まさに謎の機体の登場で戦局は大きく覆された事になる。

「艦長! 謎の機体ですが、軍の識別コードがあります。機体は……ヴァルキリー1、実験中に行方不明となっていた試作機です」
「なんだと!?」
 驚きの声。
 それは恭子の声ではなく、前線で戦う八重樫の声だった。

 ヴァルキリー1。
 実験中に行方不明となった八重樫が乗る予定だった機体。
 再び愛機となる予定だった機体は、クリムゾンウェストで姿を見せる。
 狂気の眷属が操る歪虚CAMとして。

「ヴァルキリー1を動かしているのはエンドレスが遠隔操作か? いや、それ以前に何故、奴がここにいる。ヴァルハラは見当たらないが、この付近にいるのか?」
「え? なんザマス? エンドがなんザマス?」
 恭子が通信で呼び掛けているが、八重樫の耳には入らない。
 統一連合宙軍がリスクを度外視して製作した危険な機体。それがクリムゾンウェストで敵として姿を現した。
(地球にヴァルキリー1がいるという事は、エンドレスが黙示騎士と関連があるのか? それとも……まさか、エンドレスがヴォイドゲートを?)
 ――エンドレス。
 それは八重樫にとって、過去の業と屈辱の象徴とも称するべき敵であった。
「ヴァルキリー1より通信。チャンネルを開きます!」
「な、なんザマス!?」
 事態を飲み込めない恭子。
 しかし、ヴァルキリー1からの通信で流れたのは、合成された機械音であった。
『ハロー、シチズン。私はエンドレスです。
 現在、フェイド3実行中。函館湾及びその周辺への侵入は禁止されています。これより侵入者の排除を開始。フィールド構築、フェーズシフト実行……』
「ちょ、ちょっと八重樫さん! あの機体が函館湾で攻撃してた機体っぽいザマス!
 急ぐザマス! 別働隊が危ないザマス!」
 危機を感じて大騒ぎする恭子であったが、当の八重樫は集中していた。
 この難局を乗り越えて、エンドレスを葬る事に。
「……各員へ通達。台場山へ進軍を強行。別働部隊と合流する」

リプレイ本文

「きゃー! 何とかするザマスっ!」
 メタ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)が悲鳴にも似た雄叫びを上げる。
 二股口にて台場山を拠点とする敵部隊と遭遇したメタ・シャングリラであったが、別働部隊を迂回させて台場山を側面から襲撃する予定であった。
 ――だが。
 突如現れたヴァルキリー1が別働部隊を襲撃。
 さらに、台場山の正面に展開していたメタ・シャングリラは、砲撃型の中型狂気の射程内。
 このまま台場山の敵を倒せなければ、メタ・シャングリラの撃沈も時間の問題である。「騒ぐな、婆さん。まだ負けた訳じゃない」
 山岳猟団団長の八重樫 敦(kz0056)は、乗り込んだデュミナスに対VOID砲試作壁盾を装備させて台場山へ向かっている。
 ヴァルキリー1に別働部隊が全滅させられる前に、何としても助けに向かわなければならない。
 焦りながら機体を進ませているが、敵の砲撃が雨のように容赦なく降り注ぐ。
「緊急事態で作戦変更か。だが、依頼の結果は変わらない」
 八重樫同様、魔導型デュミナスに対VOID砲試作壁盾を装備させて前進するジーナ(ka1643)。
 対VOID砲試作壁盾は、松前要塞にて長時間攻撃に耐えきった実績を持つ壁盾だ。今回の作戦でも相応の防御力を見せてくれるだろう。
「最優先すべきは、あの砲撃型だ。四体いる砲撃型は小型のVOID砲も生み出している。早々に叩かなければ、メタ・シャングリラが危ない」
 魔導レーダー「アイステーシス」で状況を調査していたジーナ。
 指摘通り、最優先で撃破するべきは砲撃型の中型狂気だ。こいつを放置していれば、メタ・シャングリラに攻撃を集中されて函館クラスタの攻略が不可能になる。幸いにも精密射撃が苦手な事からメタ・シャングリラを狙った攻撃は明後日の方向へ飛び去っていく。
 そうだとしても、砲撃型を放置して良い理由にはならない。
「そうだな。部隊を擬人型と砲撃型の対応に別れて展開。砲撃型を最優先ターゲットとする」
「あの砲撃型を放置しておいては、メタ・シャングリラに危険が及ぶ。ならば、我らの成すべき事は一つだな。自分も尽力させて貰おう」
 烈風にいる榊 兵庫(ka0010)の声がトランシーバーを通して聞こえてくる。
 榊の指摘通り、この状況を打破するのであればハンター同士の連携は必須。早々に擬人型対応へと動き出す。
「しばらくぶりのリアルブルーを満喫する暇もなし、か。
 俺も擬人型を相手にしよう。ミグのお嬢ちゃん、そっちは頼む」
「よかろう。ミグに安心して託すが良い」
 ラジェンドラ(ka6353)の呼び掛けにミグ・ロマイヤー(ka0665)が答える。
 ラジェンドラの秋月が向かうのは、榊同様擬人型。今は台場山の山頂近くで援護射撃を行っているのだが、如何にしてこの対応に臨むのか。
 一方、ミグの方はジーナと共に先行する八重樫を後方から追う形になる。
 敵が放つVOID砲の逆風を前に、S.S.Fは前進する事になる。
「各機へ通達。台場山の敵を排除する」
 ハンター達へ通信した八重樫は、壁盾を構えながらゆっくりと台場山へと向かって行く。


「はやてにおまかせですの!」
 早々に前へ突き進むのはGustavの八劒 颯(ka1804)。
 騎兵用盾「ウグイ」を片手に強気な前進を繰り返していた。
 この強気には、理由がある。
「やっぱりあの砲台型は、狙い撃ちが苦手ね」
 八劒は事前情報からある程度の前進は可能と踏んでいた。
 これは、砲台型がメタ・シャングリラを狙っているにも関わらずダメージが軽微である事だ。『精密射撃が苦手』という情報から、直線的な動きをこちらが行わなければ直撃されないと考えた為だ。
 事実、強気に前へ出るGustavを砲台型は狙うものの、命中させる事ができないようだ。
 だが、気を付けねばならない事もある。
「八劒、二時方向に小型VOID砲だ」
「この巨大ドリルと機動性に特化した構成が、伊達や酔狂でない事をご覧に入れましょう。
 踊れ! Gustav!」
 ジーナの通信を受け、体を捻るGustav。
 同時にアーマードリル「轟旋」が高速回転を開始。唸りを上げながら小型VOID砲へ振り下ろされる。
 周囲に響く破壊音。
 小型VOID砲はドリルを前に無残な残骸を晒す。
 砲台型の厄介な点は、小型VOID砲を精製する事にある。
 砲台型が精密射撃を苦手としていても、大量の小型VOID砲がメタ・シャングリラを狙うとなれば話は別だ。ハンター達は小型VOID砲を駆除しながら台場山へと向かう必要があった。
「このまま、台場山を目指します」
 八劒は、再びGustavを駆る。
 その様子を八重樫が後方を振り返って見つめていた。
「壁盾で慎重に進もうと思ったが、機動力を生かすという手もあったか」
「あれは攻撃が直撃しない自信と技術が必要になります。誰でもできるという訳ではありません」
 八重樫のデュミナスを追いかけるのは、羊谷 めい(ka0669)のステラマリス。
 メタ・シャングリラから貸し出されたトランシーバーを手に、最後方から各機をサポートするべく動き出していた。
「そうか。ならば、慎重に進むべきだな。なにせ、デュミナスの操縦は久しぶりだからな」
「八重樫さん、CAMの操縦経験があったのですね。
 あ、そういえば八重樫さんは、あの別働部隊を襲撃した歪虚CAMを知っている……のですか?」
 羊谷は、別働部隊を襲撃したヴァルキリー1に対して八重樫の焦りを感じ取っていた。
 だからこそ、誰よりも別働部隊救出に拘っている。
 そこに危うさを感じたからこそ、羊谷は八重樫の身を案じていた。
「! 何故、そう思う?」
「焦っておられているようでしたから。間違っていたらすいません」
 図星を付かれた八重樫は、一瞬瞳孔を見開いた。
 だが、羊谷の謝罪を受けてすぐに冷静さを取り戻す。
「いや……俺もまだまだ甘いな」
「八重樫さん?」
「俺は元々ヴァルキリー1のパイロット候補だった。あの機体は操縦者の命を無視した危険な代物だ。それでもテストを継続するという名目で、俺に白羽の矢が立った。
 だが、何の因果かヴァルキリー1はエンドレスに奪われて、俺の前に敵として立ちはだかったという訳だ」
 八重樫の話を、羊谷は黙って聞いていた。
 羊谷は、恐る恐る問いかける。
「聞いてはいけない話題でしたでしょうか」
「いや、そんな事は無い。
 ――俺はエンドレスをこの手で叩き潰す。それが、ヴァルハラで共に過ごした者達への義務だと考えている。ここで必ず、エンドレスを……」
 デュミナスの操縦席の中で、八重樫は強く拳を握った。


 八重樫が砲撃型へ向かう最中、擬人型への対応が開始される。
「さて……敵を釣り出すとするか」
 ある程度前進して敵を射程距離に捉えた榊。
 見晴らしの良い場所を選んで烈風の足を止める。
 照準に入れるのは擬人型とその近くにいる砲撃型だ。
「この距離からの攻撃ならば無視はできまい……そらっ」
 烈風の200mm4連カノン砲が砲撃を開始。
 カノン砲の轟音が鳴り響き、派手な爆発が台場山周辺に広がる。
 辺りに立ちこめる煙。
 その煙の奥から、砲撃型と擬人型が姿を見せる。
 大きなダメージは与えられていない。
 しかし、榊の狙いはカノン砲を撃ち込む事にあった。
「そうだ。この距離からのカノン砲だ。このまま俺を放置しておけば、このまま潰されるだけだぞ。
 ……さぁ、俺を倒しに来い」
 榊は更に烈風の200mm4連カノン砲を撃ち込んだ。
 動かなければ、このままカノン砲の雨を降らし続ける。
 見たところ砲撃型は、台場山から移動する気配が無い。
 自ら動く事は可能だが、台場山防衛が任務なのだろう。そうであるならば、榊を抑える為に擬人型が動くはずだ。
「よし」
 擬人型がアサルトライフルを片手にこちらへ動き始めた。
 目論見通りの展開に、榊は小さく頷く。
 しかし、未だ戦いの最中。
 今は出番を控えている鎗が振るわれるのはもう少し後だ。
「もう少し付き合って貰うぞ。仲間が砲撃型を倒すまでな」
 烈風を後方に下げながら、榊は200mm4連カノン砲の照準を近づく擬人型へ合わせた。

 一方、もう一体の擬人型についてはラジェンドラが対応していた。
「さあ、おまえの相手は俺だ」
 ラジェンドラの対応は、かなり分かりやすいものだった。
 ズバリ、一対一による擬人型への攻撃。
 Mライフル「イースクラW」を手に秋月を前線まで押し進め、擬人型へ攻撃を集中する。
 そして、反撃に動く擬人型をそのまま迎え撃つ作戦だ。
 実にシンプルな作戦である。
「どうした。このままじゃ、やられちまうぞ?」
 イースクラWで射撃を加えながら前進するラジェンドラの秋月。
 容赦なく擬人型へ攻撃を加えていく。全弾が的中している訳ではないが、秋月を敵がターゲットしてくれるのであればそれで良い。
 だが、ラジェンドラの考え通りに物事は進まない。
「……ちっ。ライフルだけじゃ、ダメか」
 擬人型はおそらく砲撃型の守備を行っている。
 そこをライフルで攻撃しても擬人型は、台場山に留まったまま撃ち返してくるだけだ。
 もっと、秋月を無視できない存在だと認識させる必要がある。
「なら、これでどうだ!」
 スキルトレースでラジェンドラの動きを再現しながら、機導砲を発動。
 一条の光が宙に生まれ、砲撃型に突き刺さる。
 砲撃型の体表で、爆発。
 小さな爆発の為に倒す事はできないが、砲撃型が激しく揺れる。
 この行動で秋月への認識が変わったのか、擬人型は台場山から秋月の方へ動き出した。
「そうだ。こっちへ来い。タイマン勝負……」
「先に行くぞ」
 秋月の傍らを通過したのは、ミグのS.S.F。
 砲撃型や小型といえどVOID砲が俳諧する二股口で、飛翔するのはリグの夢が詰まった『デュミナス飛行試作型』。
 飛行試作型といえば聞こえは良いが、機動力を最優先に考えられた設計の為に主要部以外の装甲は可能な限り取り外されている。
 言い換えれば、敵の攻撃が当たれば危険極まりない。
「嬢ちゃん、まさか単騎で行くつもりか?」
「うむ。S.S.Fを飛ばせば八重樫にも追いつくだろう」
「敵の攻撃が当たったらどうするんだ」
「当たらなければどうという事はないのじゃ」
 危険覚悟で突貫しようとするS.S.F。
 超軽量級と称しても差し支えないCAMで突っ込むつもりなのだ。リグも相応の覚悟をしている。だが、壁盾一枚で単身突き進む八重樫を死なせない為には最速で辿り着く他ない。
 だが、ラジェンドラとしても、このままリグを黙って行かせる訳にはいかない。
「ったくっ!」
 接近する擬人型からS.S.Fを守るように秋月を動かす。
 盾になる形でS.S.Fを擬人型のアサルトから守ろうというのだ。
「無茶するなよ」
「案ずるな。こんな無茶に二度はせぬわ」
 秋月の影に隠れる形でS.S.Fは、ハイマニューバとハイパーブーストで台場山へと向かう。
 リグの、決死の特攻。
 S.S.Fは、最速のスピードで二股口を駆け抜ける。


「邪魔邪魔邪魔っ!」
 Gustavはスピードを維持したまま、ドリルで小型のVOID砲を蹴散らした。
 単調で直線的な動きが取れない分、多少移動距離は長くなってしまう。
 それでも最短距離で移動、さらに途中に存在する小型のVOID砲も足を止めること無く始末していく。
「敵の数は多くありません。このまま一気に間合いを詰められれば……」
「危ない」
 八劒のGustavの前に飛び込む一つの影。
 ジーナの魔導型デュミナスであった。
 ローラー「ゾーオン」とアクティブブラスターで機動力を上げ、Gustavを追い越した。
 そのデュミナスが手にしていたのは、対VOID砲試作壁盾。
 次の瞬間、砲撃型のビームキャノンが壁盾に直撃する。
「山へ近づくに連れて敵の命中率が向上している」
 ジーナの言葉通り、砲撃型の攻撃は台場山へ近づくにつれて激化していた。
 台場山へハンター達を近づけない為に攻撃回数が増加しているが、砲撃型へ接近するにつれて命中率が向上していたのもその理由だ。
 どうやら、この砲撃型は近くにいる存在の方が命中させやすいようだ。
「なるほど。感謝致します」
 ジーナのおかげで、Gustavは命中を免れた。
 S.S.F程ではないにしろ、Gustavも機動力を優先して装甲を薄めにしてある。
 だが、Gustavにとってここまで来れば十分だ。
 砲撃型が命中しやすいほど近づいたということは、Gustavの方も台場山にかなり近づいていた事になる。
「お返しして差し上げますわ」
 ジーナの影から飛び出したGustav。
 素早い動きで砲撃型の照準を掻い潜り、一足飛びに接近する。
 アーマードリル「轟旋」が、再び轟音を立て始める。
「びりびり電撃どりる!」
 轟旋の一撃が砲撃型に突き刺さる。
 容赦ない回転が、砲撃型へ深くめり込んでいく。
 そして――爆発音。
 爆散する砲撃型が、台場山へのハンター到達を知らせた。


 八劒が台場山へ到達する少し前。
 ミグは、一足早く八重樫の元へ到達していた。
「それっ、追いついたぞ!」
 八重樫の横から、滑り込むミグのS.S.F。
「ミグか。かなり後方にいたはずだが、随分早く辿りついたな」
「うむ。このS.S.Fは身軽さと機動力が取り柄だからな。フレームにエンジンと武装とセンサーぐらいしか積んでおらん」
「!」
 ミグの言葉に、八重樫は一瞬驚いた。
 ミグの言葉通りであれば、ビーム飛び交う戦場で軽量型のデュミナスを走らせて単身特攻してきた事になる。いつもなら安全な装甲に守られていたのだが、今回は小型のVOID砲を近接バルカン「ジョルト」で迎撃しながらここまで辿り着いた。
 道中――危険な場面もあったが、何とか到着する事ができたようだ。
 しかし、ここより先は敵の攻撃も激化する。ミグの身を案じた八重樫は、早々に自分の後方へ付くよう指示を出す。
「ミグ、俺の後ろに隠れていろ」
「む。せっかく追いついたというのに。
 だが、まあいい。既に敵は射程内に捉えておるからな」
 ミグは八重樫の後方で隠れるように200mm4連カノン砲を発射。
 既に台場山近くまで進んでいた為、ここからでも砲撃型を十分狙えたのだ。
 ――さらに。
「その動き、封じます」
 八重樫の傍らで羊谷のステラマリスがジャッジメントで砲撃型の動きを制限する。
 今まで台場山から移動していなかった砲撃型であるが、ハンターがここまで接近すれば距離を置く可能性もある。確実に撃破する為には、その動きを封じる必要があったのだ。
 ジャッジメントによりその場へ釘付けとなる砲撃型。
「よし、敵を一気に叩く。各機、砲撃型を狙え」
 八重樫は壁盾を放り投げると一気に台場山に向かって間合いを詰める。
 羊谷のステラマリスはMハルバード「ウンヴェッター」を、ミグのS.S.Fは斬機刀「建御雷」を手に砲撃型へ肉薄する。
「さぁ、急接近なのじゃ!」
 身動きの取れない砲撃型に対して建御雷の刃が振り下ろされた。


「この機体は私好みだ。速くて丈夫で……何より精確に撃てる」
 魔導型デュミナスを走らせるジーナも台場山近くて到達。
 高性能照準装置「ベルサーリオ」で砲撃型を射程に捉え、マシンガン「ラディーレン」の弾丸を浴びせかける。
 集弾率を高めた状態な上、羊谷のジャッジメントで動けない砲撃型。
 今や砲撃型は単なる的と化していた。
「こちらは間もなく砲撃型を黙らせられる。擬人化対応している各機はどうだ?」
「こちら秋月。擬人型の一機を始末した」
 ラジェンドラの声がトランシーバーを通して聞こえてくる。
 秋月の前にはアーマーペンチ「オリゾン」で胸部を潰された擬人型の姿があった。
 双方中距離の撃ち合いから近接戦闘へともつれ込んだ結果、秋月のオリゾンが勝負を制した形となった。
「これから砲撃型を対応する連中の支援に向かう。
 もう一体の擬人型の方は、どうだ?」
「……大事ない。すぐに済む」
 ラジェンドラの問いかけに、榊は落ち着いた様子で答えた。
 烈風の前に立つのは、擬人型。手には近距離用のソードを手にしている。
 中間距離から、更に一歩踏み込んだ場所。
 そこは近接戦闘が十分に可能な距離。
 烈風はランス「アヴァンツァーレ」を握り締め、擬人型に挑む。
「…………」
(こちらの出方を見るつもりか?)
 周囲を包み込む沈黙。
 既に砲撃型も八重樫達が叩き潰している最中。ビームの一筋も飛んでこない。
 二機の間に吹くのは、駒ヶ岳の方から流れ込む一迅の風。
(来る)
 擬人型の僅かな動きを、榊は逃さない。
 ソードを振り上げようとした擬人型の右腕をアヴァンツァーレで一撃。
 瞬間、擬人型の右腕は弾かれ、体は大きく開く。
「そこだ!」
 榊流【狼牙一式】。
 強力な踏み込みから生まれた突きは擬人型の胸部を貫いた。
 擬人型は暴れる様子も無く、力を失い地面へと倒れ込んだ。
「……本来の俺の得手はこちらだ。近接に持ち込んだ時点で勝負は決していたな」
 烈風は、踵を返すと台場山へ急いだ。


 台場山の敵部隊を殲滅するまで、そこから多くの時間は必要としなかった。
 大きかったのは砲撃型を短時間で始末した事にある。
「恭子さん、こちらは片付きましたわ。別働部隊の方は大丈夫でしょうか?」
 八劒は、メタ・シャングリラで状況を見守る恭子へ通信を入れた。
 だが、恭子の様子は何やら慌ただしいようだ。
「そっちは終わったザマスか。なら、早く別働部隊の方へ向かって欲しいザマス」
「どうした? 何かあったのか?」
 恭子の焦りが混じった声を聞いて榊が問いかけた。
 それに対する答えは――ハンターには知らされていなかった新しい情報であった。
「どうもこうも。あのヴァルキリー1には誰かが乗ってるって話ザマス」
「なんだと?」
 恭子の一言に、八重樫は反応する。
 以前、エンドレスが操作していた歪虚CAMに操縦者は存在していなかった。操縦席は大量の配線が入り込み、歪虚CAMを遠隔で操作していた。
 あのヴァルキリー1の特殊なブーストは、操縦者の体に多大なる負担がかかる。
 だからこそ、操縦者を必要としないエンドレスはヴァルキリー1の機能を最大限に使う事ができた。
 だが、真実はそうではない。
 誰かがあのヴァルキリー1を操縦しているというのだ。
「良く分からないザマスが、別働部隊からそういう情報が入ってきたザマス」
「一体、誰が乗っているんだ?」
 ジーナが当然の問いを投げかけた。
「それを今調べてるザマス。別働部隊の話では、戦闘中に行方不明となった者じゃないかって話ザマスが……」
「つまり、対象者は星の数ほどですか」
 羊谷が呟く。
 VOIDとの戦いで行方不明となった者が、おそらくVOID側の存在としてヴァルキリー1として操縦している。
 それは統一連合宙軍でかなりの数が対象となる。
 一人一人調べるとなれば、途方も無い時間と労力が必要となる。
「いや、待つのじゃ。条件は絞れるのではないか? かなりCAM操縦技術を保持しているなら、相応の戦果を上げているはずじゃ」
「なるほど。それなら何とか調べられそうザマス」
 ミグの指摘に恭子は、納得した表情を浮かべる。
 ヴァルキリー1をあれだけ動かせるのであれば、操縦者の腕も相当なものだ。撃墜数の多い者から調べれば何か分かるかも知れない。
「今はここで話していても仕方ない。別働部隊と早く合流した方がいい」
「そうだな。各機、戦いの後で悪いが……合流を急ぐぞ」

 八重樫の号令で動き出すハンター達。
 ヴァルキリー1の新たな謎を抱きつつ、別働部隊への合流を急いだ。

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MVP一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫ka0010
  • びりびり電撃どりる!
    八劒 颯ka1804

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    レップウ
    烈風(ka0010unit004
    ユニット|CAM
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    スーパーストライクフェアリー
    S.S.F.r(ka0665unit003
    ユニット|CAM
  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ステラマリス
    ステラマリス(ka0669unit002
    ユニット|CAM
  • 勝利への開拓
    ジーナ(ka1643
    ドワーフ|21才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    バレル
    バレル(ka1643unit001
    ユニット|CAM
  • びりびり電撃どりる!
    八劒 颯(ka1804
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    グスタフ
    Gustav(ka1804unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    アキツキ
    秋月(ka6353unit001
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
榊 兵庫(ka0010
人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/04/08 22:10:36
アイコン 質問卓
榊 兵庫(ka0010
人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/04/07 22:49:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/08 09:37:28