ゲスト
(ka0000)
【界冥】函館・二股口炎上B
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/12 12:00
- 完成日
- 2017/04/16 06:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
自分が誰なのか。
何処で生まれたのか。
まったく覚えていない。
気付けば、この地で愛機と共に戦っていた。
声を失い、喋ることが出来なくなっていたが、不思議と悲しくはなかった。
何故なら、生きているから。
すべてを忘れたと思っていた自分にとっての存在意義――それは、戦う事。
敵を見つけ、叩き、殲滅する。
理由は、わからない。
ただ、そうする事だけが自分の存在証明。
今日も、戦わなければならない。
愛機を戦場へと向かう。
敵を屠り、自らの存在を示すために。
●
松前要塞を陥落させたメタ・シャングリラは、ルートを二つに分割する。
一つは海岸線に沿って函館湾を目指す海上ルート。
そして、もう一つが江差から東へ向かい、函館クラスタの北を襲撃する陸上ルートだ。
メタ・シャングリラは陸上ルートで東へ進軍。
しかし、敵もこのまま素通りはさせてくれない。
斥候の情報通り、二股口付近で待ち伏せしていた敵と接触。早くも戦端は開かれていた。
「こちら別働隊。異常なし! 順調、順調!」
台場山を迂回する形で数機のCAMが二股口付近を進む。
作戦では八重樫ら前衛部隊が台場山の攻撃を凌いでいる隙に、別働部隊が迂回。台場山の側面から敵を襲撃する。
通信によれば山岳猟団の八重樫敦(kz0056)は無事に台場山前で敵と交戦しているようだ。別働部隊が台場山の側面から攻撃を仕掛けるまで持ちこたえてくれると良いのだが――。
「油断するんじゃないザマス。ここは戦場ザマスよ」
「はいはい、分かって……ん? なんだあれは?」
森山恭子(kz0216)のクレームに、別働部隊の兵士が一言。
しかし、言葉は途中で途切れる。
地上から猛スピードでやってくる何か。
深く蒼い影が、こちらへ向かって押し寄せる。
(蒼い、影?)
目を凝らす兵士。
次の瞬間、蒼い影は動きを止める。
そこにはCAMらしき機体。手には黒光りするライフルのようなもの。
銃口はこちらに向けられている。
(……まずいっ!)
兵士は、直感的にそう感じた。
だが、体がうまく動かない。
間もなく通信で悲鳴にも似た声が漏れてきた。
「謎の機体が高速で接近中! この反応は……え、CAM?」
「なんザマス!?」
恭子の声。
続いて、オペレーターの言葉に焦りが入り混じる。
「機体より高エネルギー反応!」
「別働部隊、退避しろっ!」
無線を通じて八重樫の指示が飛ぶ。
その声にようやく体を反応させる兵士。
だが――もう遅かった。
「うわぁぁぁぁ!…………」
銃口から放たれた、巨大な光。
眼前にまで接近したそれは、デュミナスの機体を貫き空に向かって突き進む。
次の瞬間、デュミナスは爆発。機体は炎に包まれた。
●
目の前で爆発するデュミナスを前に、他の兵士やハンター達は呆気に取られる。
一撃。
たった、一撃でデュミナスは鉄の棺桶と化した。
軽量化していたとはいえ、一撃で葬る火力を敵は保持している。
「デュミナス、一機撃墜です」
メタ・シャングリラのブリッジからもたらされる言葉。
さらに悲劇は続く。
「海岸線ルートの海上自衛隊より入電。敵影確認、交戦に移る。同行していたハンターも行動開始しました」
「マズいザマスね。
八重樫さん、正面突破で台場山を抑えるザマス。急いで別働部隊と合流するザマス」
「簡単に言ってくれるな。相変わらずの『名指揮官様』だ」
別働部隊の眼前にいる蒼い機体の登場で、作戦に暗雲が立ちこめる。
しかし、ここで逃げ出す訳にはいかない。ここで撤退すれば作戦は失敗に終わる。
強敵を前に身構えるハンター。
だが、ここで驚くべき事態が発生する。
「艦長! 謎の機体ですが、軍の識別コードがあります。機体は……ヴァルキリー1、実験中に行方不明となっていた試作機です」
「なんだと!?」
通信から漏れる八重樫の声。
明らかに驚嘆と焦りに混じった声だ。
それを無視するかのようにオペレーターが声を続ける。
「ヴァルキリー1より通信。チャンネルを開きます!」
ヴァルキリー1からの通信で流れたのは、合成された機械音であった。
『ハロー、シチズン。私はエンドレスです。
現在、フェイド3実行中。函館湾及びその周辺への侵入は禁止されています。これより侵入者の排除を開始。フィールド構築、フェーズシフト実行……』
――エンドレス。
それがあの強敵の名前。
ハンター達は、身震いする。
それが恐怖なのか、武者震いなのかは分からない。
はっきりしている事は、一つ。
この強敵と渡り合えなければ、次にあの燃える棺桶に入るのは自分だ。
●
幾度倒しても、姿を見せる敵の影。
キリがない。だが、それでも戦い続けなければ。
自分が、自分であり続ける為に。
行こう、ヴァルキリー1――。
何処で生まれたのか。
まったく覚えていない。
気付けば、この地で愛機と共に戦っていた。
声を失い、喋ることが出来なくなっていたが、不思議と悲しくはなかった。
何故なら、生きているから。
すべてを忘れたと思っていた自分にとっての存在意義――それは、戦う事。
敵を見つけ、叩き、殲滅する。
理由は、わからない。
ただ、そうする事だけが自分の存在証明。
今日も、戦わなければならない。
愛機を戦場へと向かう。
敵を屠り、自らの存在を示すために。
●
松前要塞を陥落させたメタ・シャングリラは、ルートを二つに分割する。
一つは海岸線に沿って函館湾を目指す海上ルート。
そして、もう一つが江差から東へ向かい、函館クラスタの北を襲撃する陸上ルートだ。
メタ・シャングリラは陸上ルートで東へ進軍。
しかし、敵もこのまま素通りはさせてくれない。
斥候の情報通り、二股口付近で待ち伏せしていた敵と接触。早くも戦端は開かれていた。
「こちら別働隊。異常なし! 順調、順調!」
台場山を迂回する形で数機のCAMが二股口付近を進む。
作戦では八重樫ら前衛部隊が台場山の攻撃を凌いでいる隙に、別働部隊が迂回。台場山の側面から敵を襲撃する。
通信によれば山岳猟団の八重樫敦(kz0056)は無事に台場山前で敵と交戦しているようだ。別働部隊が台場山の側面から攻撃を仕掛けるまで持ちこたえてくれると良いのだが――。
「油断するんじゃないザマス。ここは戦場ザマスよ」
「はいはい、分かって……ん? なんだあれは?」
森山恭子(kz0216)のクレームに、別働部隊の兵士が一言。
しかし、言葉は途中で途切れる。
地上から猛スピードでやってくる何か。
深く蒼い影が、こちらへ向かって押し寄せる。
(蒼い、影?)
目を凝らす兵士。
次の瞬間、蒼い影は動きを止める。
そこにはCAMらしき機体。手には黒光りするライフルのようなもの。
銃口はこちらに向けられている。
(……まずいっ!)
兵士は、直感的にそう感じた。
だが、体がうまく動かない。
間もなく通信で悲鳴にも似た声が漏れてきた。
「謎の機体が高速で接近中! この反応は……え、CAM?」
「なんザマス!?」
恭子の声。
続いて、オペレーターの言葉に焦りが入り混じる。
「機体より高エネルギー反応!」
「別働部隊、退避しろっ!」
無線を通じて八重樫の指示が飛ぶ。
その声にようやく体を反応させる兵士。
だが――もう遅かった。
「うわぁぁぁぁ!…………」
銃口から放たれた、巨大な光。
眼前にまで接近したそれは、デュミナスの機体を貫き空に向かって突き進む。
次の瞬間、デュミナスは爆発。機体は炎に包まれた。
●
目の前で爆発するデュミナスを前に、他の兵士やハンター達は呆気に取られる。
一撃。
たった、一撃でデュミナスは鉄の棺桶と化した。
軽量化していたとはいえ、一撃で葬る火力を敵は保持している。
「デュミナス、一機撃墜です」
メタ・シャングリラのブリッジからもたらされる言葉。
さらに悲劇は続く。
「海岸線ルートの海上自衛隊より入電。敵影確認、交戦に移る。同行していたハンターも行動開始しました」
「マズいザマスね。
八重樫さん、正面突破で台場山を抑えるザマス。急いで別働部隊と合流するザマス」
「簡単に言ってくれるな。相変わらずの『名指揮官様』だ」
別働部隊の眼前にいる蒼い機体の登場で、作戦に暗雲が立ちこめる。
しかし、ここで逃げ出す訳にはいかない。ここで撤退すれば作戦は失敗に終わる。
強敵を前に身構えるハンター。
だが、ここで驚くべき事態が発生する。
「艦長! 謎の機体ですが、軍の識別コードがあります。機体は……ヴァルキリー1、実験中に行方不明となっていた試作機です」
「なんだと!?」
通信から漏れる八重樫の声。
明らかに驚嘆と焦りに混じった声だ。
それを無視するかのようにオペレーターが声を続ける。
「ヴァルキリー1より通信。チャンネルを開きます!」
ヴァルキリー1からの通信で流れたのは、合成された機械音であった。
『ハロー、シチズン。私はエンドレスです。
現在、フェイド3実行中。函館湾及びその周辺への侵入は禁止されています。これより侵入者の排除を開始。フィールド構築、フェーズシフト実行……』
――エンドレス。
それがあの強敵の名前。
ハンター達は、身震いする。
それが恐怖なのか、武者震いなのかは分からない。
はっきりしている事は、一つ。
この強敵と渡り合えなければ、次にあの燃える棺桶に入るのは自分だ。
●
幾度倒しても、姿を見せる敵の影。
キリがない。だが、それでも戦い続けなければ。
自分が、自分であり続ける為に。
行こう、ヴァルキリー1――。
リプレイ本文
迂回して側面から台場山を奇襲する。
それが、別働部隊へ与えられた任務だ。
既に敵部隊正面にはメタ・シャングリラとCAM部隊が布陣。敵の注意を引きつけている。
今回の任務はイージーミッション
何も難しくはない。
敵を攪乱して、殲滅する。
これで報酬が出るなら、万々歳。
クリムゾンウェストへ戻ったら、今日の戦果を思い浮かべて悦に入っていたかもしれない。
そう――簡単な任務のはず、だった。
「友軍機、一機撃墜……敵の増援とは、厄介だな」
アバルト・ジンツァー(ka0895)は、愛機『Falke』の中から敵機を見据える。
暗い蒼に彩られた機体。
手には機体に不釣り合いな砲身を持つライフル。
射撃手として活躍してきたアバルトは、そのライフルが長距離用のロングレンジVOIDライフルだと見抜いていた。
しかし、恐るべきはその射程距離だけではない。
「おいおいおい。
軽装とはいえ、デュミナスを一撃たぁふざけた威力だな」
『ギガント』の操縦席から柊 恭也(ka0711)は、足下を見下ろした。
そこには、爆散したデュミナスの機体が転がっている。
ロングレンジライフルの一撃を受けたデュミナスは、爆発炎上。がらくたとなって無残な死骸を横たえている。同行していたハンターは脱出する暇もなかっただろう。
恭也は、軽口を叩きながらも緊張を隠しきれない。
舐めてかかれば、自分も足下にいるハンターに次ぐ事になる。
「松前要塞のVOID砲とは比較にならない威力……函館湾で破壊を繰り返していたのは、こいつか」
R7エクスシアに握られた魔銃「ナシャート」。
その照準でヴァルキリー1を捉えるのは、アーク・フォーサイス(ka6568)。
情報によれば、函館湾へ侵入した友軍が悉く撃破されているらしい。生存者によれば蒼い影を見たという話だったが、おそらくヴァルキリー1の仕業だろう。
そして、友軍に続いて厳しい戦いを強いられるのはアークの番という訳だ。
ヴァルキリー1と呼称された歪虚CAMを相手にするハンター達。
戦端を切ったのは、ヴァルキリー1ではなく、ハンター側であった。
「こちらから仕掛ける」
フォークス(ka0570)は、魔導型デュミナスを前進させる。
敢えて単騎での前進――それは、ヴァルキリー1のロングライフルに身を晒す事を意味していた。
「おい、一人で突っ込むつもりか?」
トランシーバーで、恭也が声をかける。
フォークスの眼前には既にヴァルキリー1が中距離用VOIDビームマシンガンを構えている。
先程撃沈したデュミナスを葬ったロングレンジVOIDライフルはリロードが終わっていない。だからこそ、ビームマシンガンを手にしたのだ。
フォークスにも勝算は、ある。
「前に出れば、敵はこちらを狙ってくる。攻撃を一気に集中させる事ができれば、味方全体の被害を抑えられる」
操縦桿を握るフォークスの手に、力が籠もる。
所謂、囮役に徹すると言っているのだ。もし、ヴァルキリー1がこちらの前進を無視するのであれば、そのまま台場山へ急行する手もある。被害を抑えながら作戦全体の遂行を考えた末の囮役である。
「…………」
フォークスの前進に、ヴァルキリー1は沈黙を守る。
言葉を一切、発する事無くビームマシンガンを魔導型デュミナスへ向けた。
●
敵は、ヴァルキリー1だけではない。
後方を固めるように中型狂気が2機存在している。
この2機を排除しなければ、台場山へ向かう事は難しい。
ハンター達は戦力を分散して、敵の分断を目指す。
「擬人型、歪虚CAMを抑えます!」
沙織(ka5977)は、ターゲットを中型狂気へと据える。
一緒に駆るのは、R7エクスシア。エーデルワイスマークIIである。
生来、おっとりした性格で軍人にはあまり向かないが、戦場や緊急時には士官学校出身の軍人として冷静な対応を取る沙織である。
中型狂気相手でも油断する素振りもない。
「紛い物でCAMを名乗るなんて許せません!」
エーデルワイスマークIIは、30mmアサルトライフルで牽制射撃を試みる。
最初からこの射撃が的中するとは思っていない。重要な事は、ヴァルキリー1から中型狂気を引き離す事。対ヴァルキリー1へ臨む味方の邪魔をさせないよう、こちらに注意を向けて誘き出そうというのだ。
「……来ました」
案の定、牽制射撃を受けて中型狂気のうち1機がエーデルワイスマークIIに向かって動き出した。
手にしているのは同じく30mmアサルトライフル。
撃ち返しながら、ゆっくりとこちらへ移動してくる。
「もっと、もっとこちらへ」
機体を台場山から引き離すように移動させる沙織。
ヴァルキリー1はフォークスと敵対中。このままこちらへ誘導できるなら最高なのだが――。
「やるしかありません。作戦を成功させる為に」
沙織とエーデルワイスマークIIの戦いは、始まったばかりだ。
●
「あー、畜生! 何でまたあんなトンでもねぇのが出てきやがる! こちとらそろそろ帰って愛しのタングラムの声が聞きてーんだよ! 邪魔すんな!」
R7エクスシアの操縦席でぼやくのは、紫月・海斗(ka0788)。
予定では簡単な任務をさっさと片付けて、優雅な一時を過ごすはずだった。
しかし、ヴァルキリー1のせいで簡単な任務は何処へやら。
おまけに愛しいタングラムの代わりにいるのは――。
「ザマスの婆さんがいるだけなんだよなぁ」
「誰が婆さんザマス! あたくしはまだ還暦前ザマス!」
海斗の呟きに即反応する森山恭子(kz0216)。
メタ・シャングリラの艦長であると同時に、函館攻略の指揮官でもある。
まさかの恭子の反応に、海斗は思わずたじろいだ。
「お、まさか聞こえてたのか」
「筒抜けザマス。それより、別働部隊は大丈夫ザマスか?」
恭子は、ハンター達へ呼び掛けた。
現在、台場山の正面から八重樫 敦(kz0056)率いる本隊が救出へ向かっている。
それまでに別働部隊が生存できるかを心配しているようだ。
「現在、ヴァルキリー1と交戦中。援護を!」
フォークスは試作型スラスターライフルをヴァルキリー1に向けて放つ。
だが、弾丸がヴァルキリー1に到達するよりも早く高速ブースター「リープテイル」により回避。次の瞬間には中距離からのVOIDビームマシンガンがこちらへ向けられる。
フォークスもアクティブスラスターを多用してヴァルキリー1の攻撃を回避。牽制射撃を併用しながら隙を窺っているのだが、簡単に一撃を叩き込める相手ではなさそうだ。
「わーってる! けどよ……」
援護要請するフォークスに対して恭也は答える。
恭也を含むハンター達もフォークスの援護射撃を行っていた。フォークスへ命中しないように最善の注意を払って狙い撃つ。
「そらよっ!」
恭也はランスカノン「メテオール」で遠距離からヴァルキリー1を狙う。
フォークスを巻き込まないよう、着弾地点を計算してカノン砲を発射――だが、ヴァルキリー1はフォークスとの戦いでリープテイルを多用。一時として同じ場所に留まる事がない。
「くそっ! また外れやがった! これだから……」
舌打ちをしながら、前を向く恭也。
そこには一度として留まっていなかったヴァルキリー1が足を止めている。
その手にはロングレンジVOIDライフル――。
「来るぞ! 避けろ!」
フォークスの警告。
だが、装甲重視のギガントは機動性に乏しい。
「今からギガントで回避? へっ、できるならもうやってるよ」
シールド「ストルクトゥーラ」を構えるギガント。
次の瞬間、ロングレンジVOIDライフルから放たれる長大なビーム。
先程も見た光線が、ギガントに突き刺さる。
「……押される? まじかよ!」
重量級のギガントが、衝撃で後方に押される。
この威力。軽量級のデュミナスがやられる訳だ。
「高機動型CAMの相手は苦手なんだよ。……それにしても、この攻撃は反則だろ!」
「させるか!」
ロングレンジVOIDライフルを発射している最中に、アークのR7エクスシアが斬魔刀「祢々切丸」で斬り掛かる。
接近してきたアークに対し、ヴァルキリー1は射撃体勢を解除してリープテイルで後方へ飛び退く。
「ふぅ、危なかったか」
ギガントはロングレンジVOIDライフルの攻撃を乗り越えた。
ギガントの装甲がある上、ライフルの命中度が低い為に直撃を避ける事ができた。
この為、ギガントが撃破される事はなかった。だが、長時間ビームを防げると思わない方が良いだろう。
「あー、こりゃまた……オジサンが損な役回りを請け負わないとダメ、か」
ヴァルキリ-1を前に、海斗は帽子を被り直した。
●
「……悪いが、もうしばらくこちらと付き合って貰おう。仲間がヴェルキリー1を撃破するまでな」
アバルトのFalkeは、眼前にいた中型狂気に向けて30mmアサルトライフルで狙い撃つ。
アバルトは、沙織と連携しながら中型狂気を対応していた。二人の目論見通り、中型狂気はヴェルキリー1から離れて戦闘開始。
敵の戦力分断に成功していた。
「ここで台場山を強襲できなければ作戦自体が瓦解しかねない。我々は、我々の成すべき事をさせてもらう」
牽制射撃を回避する為に、中型狂気は射線の右側へ機体を動かした。
同時に中型狂気も30mmアサルトライフルで応戦してくる。
「そうだ。その調子だ。そして……むっ」
その時、ふいにアバルトの脳裏に『ある事』が思い浮かぶ。
それは中型狂気を相手にしていたからなのか。それとも軍人としての直感なのか。
いずれにしても、その事が状況を急展開させる。
「試してみるか」
再び中型狂気へ30mmアサルトライフルを放つ。
今度は意図的に弾丸を敵の視界の右側へ集中させる。左側へ移動するよう誘う為に。
すると、中型狂気は予測通り左側へ機体を動かした。
「……やはりか」
アバルトは気付いた。
中型狂気の動きは、完全に『マニュアル通り』なのだ。
誰かが出来る悪いプログラムをしたかのような単調な動き。
指示した内容は新兵よりも優れているが、動きが単調である為に予測しやすい。
「戦場で先を予測されるという事は、死を意味する。覚えておけ」
中型狂気の動きを読んでいたアバルトは、移動先へ200mm4連カノン砲を叩き込んだ。
中型狂気がアサルトライフルの弾丸を回避すると同時に、カノン砲の弾丸が直撃。中型狂気の機体は後方へ大きく吹き飛ばされる。
「沙織、罠だ。罠を張れ。中型狂気は単調な動きしか取れない」
「はい、やってみます」
同じく中型狂気と対峙する沙織へ通信を入れるアバルト。
この調子ならば中型狂気の排除は難しくない。
そうすれば、次はあのヴァルキリー1――。
「中型狂気と比較にならない動き……人工知能が狂化されたとしても、あの動きは……。
おそらくそうだ。
各機へ連絡。恭也とアークの予想通りだ。ヴァルキリー1には誰かが乗っている」
●
「えっ? 誰かが乗ってるザマスか?」
ハンターからの打診で、恭子は首を捻る。
報告によればエンドレスは何らかの高度な人工知能が狂化してブレインとなっている可能性が高いという。狂気のVOIDとして同化して強力な存在となっていると目されているが、ヴァルキリー1の操縦席に誰かが乗っているとすれば話は変わってくる。
「そう考える方が自然だ。人工知能の演算に起因する適確な動きををする時もあれば、突然おかしな動きを取る事もある。言うなれば、人間らしい『不完全さ』がある」
ハンターとしてフォークスの勘が、そう告げていた。
無駄がない動きは中型狂気のように単調となりやすい。しかし、目の前で戦うヴァルキリー1には明らかに無駄がある。人工知能が動かしているとすれば、あまりにも人間臭いのだ。
「やはり誰かが乗っているか。ならば、通信に答えないのは何故だ」
アークは、頭の中で考えを巡らせる。
先程から恭也とアークは通信で呼び掛けていた。
エンドレスがこちらへチャンネルを合わせてきたという事は逆もしかり。その為、通信で何度も呼び掛けてみたのだが、一切の反応は無し。
喋る気がないのか。それとも、喋る事ができないのか。
アークとしては戦う理由を探りたいところだが、本人から聞きだそうとするのは難しいようだ。
「あのヴァルキリー1ってぇのは試作機だったんだろ?
だったら、その試作機に乗っていたパイロットが今の乗っているんじゃねぇのか?」
恭也はある推論を述べた。
かつてヴァルキリー1が統一連合宙軍の試作機であったなら、その専属パイロットが居たはずだ。データを漁ればそのパイロットの情報が見つかるかもしれない。
しかし、その可能性を恭子は即座に否定する。
「それはないザマス」
「なんでだよ」
「ヴァルキリー1の専属パイロットは不在ザマス。専属パイロットがヴァルキリー1へ初搭乗する前にヴァルキリー1を乗せたヴァルハラが行方不明になったザマス」
「ヴァルハラが行方不明になった時に、一緒に専属パイロットも居なくなったんだろ?」
「その専属パイロットは、あの八重樫ザマス」
恭子によれば、ヴァルキリー1の専属パイロット候補として八重樫が上がっていたようだ。残念ながら専属パイロットとして搭乗する前にヴァルキリー1は歪虚に奪われていたのだろう。
「そもそも、あのヴァルキリー1はトマーゾ博士の忠告を無視した研究者が作り上げた禁忌の機体って報告書にあるザマス。あのリープテイルってブースターも操縦者の体を無視した無茶な代物らしいザマス。敵に奪われるとは間抜けは話ザマス」
今もハンターを苦しめるヴァルキリー1を間抜けで片付ける恭子。
だが、これではっきりした事がある。
ヴァルキリー1には誰かが乗っているが、あのリープテイルは操縦者の体に大きな負担がかかっている。VOIDの手に落ちている以上、操縦者もVOIDと考えるのは自然。それでもリープテイルを多用させる事は、操縦者にダメージが加わっているようなものだ。
「光明が見えてきたようだな。あとは操縦者が誰か、だな」
恭也は、ヴァルキリー1に向き直る。
敵もダメージを負っている。
そう考えば、倒せる気にもなってくる。
「操縦者は誰、か。いいだろう。オジサンが調べてやろう」
後方で様子を窺っていた海斗は、R7エクスシアを前進させる。
一世一代の大博打を打つ為に――。
●
「トドメです!」
エーデルワイスマークIIの斬機刀「新月」が至近距離で中型狂気に向かって放たれる。
刃が中型狂気を貫き、悶えさせる。
しばらくすると中型狂気は動かなくなった。
アバルトの指摘通り、敵の回避方向を先読みすれば面白いように攻撃を命中させる事ができた。
おそらくエンドレスが用意した急増の狂気だったのだろう。
「紛い物のCAMを成敗しました。残るはあの強敵ですね」
沙織は、後方を向き直る。
そこにはヴァルキリー1との距離を縮める海斗のR7エクスシアがあった。
「どうした、『人工無能』? お得意の演算はお昼寝か?」
シールド「ウムアルメン」を構えながら、防御障壁を発動。
防御力を上げながら、可変機銃「ポレモスSGS」で中間距離を維持していた。狙いは、海斗のR7エクスシアが『中間距離を保ちながら戦う機体』と誤認させる事だ。
前進する海斗。
ヴァルキリー1もビームマシンガンで応戦するが、R7エクスシアの足が止まる様子はない。多少攻撃を受けてもお構いなしに反撃を仕掛けている。
「さぁ、急げ。婚期を逃すな。得意のブースターを見せてみろよ」
Mライフル「イースクラW」とデルタレイも使って、遠距離攻撃を意識付ける。
意図的に単調な射撃を繰り返して誘い続ける。
既に中距離用VOIDビームマシンガンもロングレンジVOIDライフルもリロード中。残る武器はリープテイルと近距離用のナイフのみ。
選べる選択肢は少ない。
そして――ヴァルキリー1は動き出す。
用意された道とも知らずに。
「…………!」
後部のリープテイルが噴射する。
同時に動き出す機体。流れるように海斗の弾丸を掻い潜りながら、一気に間合いを詰める。
ヴァルキリー1の手首から飛び出す近距離用ナイフ。
これならチャージも関係なく、確実に海斗のR7エクスシアを捉える事ができる。
リープテイルの加速も加わり、重い一撃がR7エクスシアへ突き刺さる。
「……オジサン、待ってたよ。この瞬間を」
これこそ、海斗が待ち望んだ時だった。
近距離用ナイフが届くという事は、海斗のR7エクスシアの手も届く場所である。
マテリアルカーテンを展開、さらにシールド「ウムアルメン」の下にポレモスSGSを重ねて防御していた。
それでも近距離用ナイフは、貫いた。
ウムアルメンに弾かれたナイフは、エクスシアの右肩を貫く。
だが、エクスシアの左手はしっかりとナイフを握るヴァルキリー1の腕を掴んだ。
「たっぷり味わってくれ。オジサン特製のプレゼントだ」
海斗は至近距離からエレクトリックショックを放った。
次の瞬間、電撃がヴァルキリー1を捉える。ヴァルキリー1はその場で行動の自由が利かなくなる。
「さぁ、みんなで歓迎の挨拶だ。オジサンが作ったチャンスを逃すなよ」
「分かってる」
「承知した」
フォークスとアークはヴァルキリー1へ試作型スラスターライフルと魔銃「ナシャート」の嵐を叩き込む。
今まで当たらなかった攻撃が、ヴァルキリー1へ一気に叩き込まれる。
「こいつはさっきのお返しだ」
恭也はショットクロー「スカロプス」をヴァルキリー1の胸部に向けて放った。
スカロプスは、ヴァルキリー1の機体へに深く爪を食い込ませる。
「おらよ、ご開帳だ」
恭也はスカロプスのリールを巻き上げる。
ヴァルキリー1の胸部が剥がれ、操縦席が露わになる。
そこには、一人の青年が座っていた。
右目の下から左斜め下に大きく付けられた傷が飛び込んでくる。
「アジア人……統一連合宙軍の制服から、やはり元CAMパイロットか」
「統一連合宙軍のデータベースを調べるのであれば、MIAリストから調べるべきだ。おそらく、その男はそこに記載されている」
アークの推論を補足するようにアバルトは情報を付け足した。
統一連合宙軍の関係者であれば、必ず何処かに情報がある。アバルトはMIA、つまり戦闘中行方不明者の中に青年の情報があると考えたようだ。
「誰だって良い。戦いである以上、ここでケリを付ける」
フォークスは地面に転がっていたロングレンジVOIDライフルをCAMソード「エスグリミスタ」で破壊する。確実に倒す為にヴァルキリー1の装備を黙らせておく為だ。
だが、ここで異変が起こる。
突如ヴァルキリー1から鳴り響く警報音。
恭也は思わず耳を塞ぐ。
「な、なんだ?」
『生体ユニット「カルネージ」に異常発生。脈拍、血圧の異常なる上昇。
ヴァルキリー1の機体ダメージが警告領域に到達。さらに台場山の友軍が想定よりも30%早く全滅。状況は危険と判断。戦場を離脱します』
エンドレスの声が周囲に木霊する。
ヴァルキリー1はリープテイルのブースターを全開にして高速移動。
ダメージを負った海斗の傍らを抜けるように撤退していった。
「あいつ、もう動けるのか? 本当に化け物だな」
海斗は負傷した機体を休めるように、その場で跪かせた。
ヴァルキリー1は強力な機体であったが、別働部隊の活躍で撤退させる事に成功する事ができた。八重樫率いる本隊と合流できれば、台場山の拠点を陥落させる事は難しくないだろう。
●
「あの操縦者の情報は、まだ見つかりませんか?」
メタ・シャングリラの恭子に対して沙織は、ヴァルキリー1の操縦者情報検索を打診していた。
何故、あの操縦者がヴァルキリー1に乗っているのか。
何故、エンドレスはあの操縦者を必要としているのか。
エンドレスが『生体ユニット』と呼称していた事も気になっている。
謎ばかりが深まるが、ここで立ち止まる訳にはいかない。
函館クラスタへ接近すれば、必ずヴァルキリー1と再会する事になるのだから。
「そう簡単じゃないザマス。なにせ、行方不明者だけでもかなりの数ザマス。そこから調べるだけでも大仕事ザマス」
戦場行方不明者と一口に言っても、VOIDとの戦闘で行方不明になった軍人はかなりの数が存在する。元パイロットと限定されていたとしても調査だけで大変な作業だ。
「それでもお願いします。私達は、あの人とまた出会わなければならないのですから」
沙織は、海を見据える。
函館クラスタがあると思われる五稜郭を視界に捉えるように。
彼らは、何だ?
今までの敵とは、違う。
連携してこちらへ挑んでくる。
倒さなきゃ、倒さなきゃ、倒さなきゃ。
でなければ、俺は――。
それが、別働部隊へ与えられた任務だ。
既に敵部隊正面にはメタ・シャングリラとCAM部隊が布陣。敵の注意を引きつけている。
今回の任務はイージーミッション
何も難しくはない。
敵を攪乱して、殲滅する。
これで報酬が出るなら、万々歳。
クリムゾンウェストへ戻ったら、今日の戦果を思い浮かべて悦に入っていたかもしれない。
そう――簡単な任務のはず、だった。
「友軍機、一機撃墜……敵の増援とは、厄介だな」
アバルト・ジンツァー(ka0895)は、愛機『Falke』の中から敵機を見据える。
暗い蒼に彩られた機体。
手には機体に不釣り合いな砲身を持つライフル。
射撃手として活躍してきたアバルトは、そのライフルが長距離用のロングレンジVOIDライフルだと見抜いていた。
しかし、恐るべきはその射程距離だけではない。
「おいおいおい。
軽装とはいえ、デュミナスを一撃たぁふざけた威力だな」
『ギガント』の操縦席から柊 恭也(ka0711)は、足下を見下ろした。
そこには、爆散したデュミナスの機体が転がっている。
ロングレンジライフルの一撃を受けたデュミナスは、爆発炎上。がらくたとなって無残な死骸を横たえている。同行していたハンターは脱出する暇もなかっただろう。
恭也は、軽口を叩きながらも緊張を隠しきれない。
舐めてかかれば、自分も足下にいるハンターに次ぐ事になる。
「松前要塞のVOID砲とは比較にならない威力……函館湾で破壊を繰り返していたのは、こいつか」
R7エクスシアに握られた魔銃「ナシャート」。
その照準でヴァルキリー1を捉えるのは、アーク・フォーサイス(ka6568)。
情報によれば、函館湾へ侵入した友軍が悉く撃破されているらしい。生存者によれば蒼い影を見たという話だったが、おそらくヴァルキリー1の仕業だろう。
そして、友軍に続いて厳しい戦いを強いられるのはアークの番という訳だ。
ヴァルキリー1と呼称された歪虚CAMを相手にするハンター達。
戦端を切ったのは、ヴァルキリー1ではなく、ハンター側であった。
「こちらから仕掛ける」
フォークス(ka0570)は、魔導型デュミナスを前進させる。
敢えて単騎での前進――それは、ヴァルキリー1のロングライフルに身を晒す事を意味していた。
「おい、一人で突っ込むつもりか?」
トランシーバーで、恭也が声をかける。
フォークスの眼前には既にヴァルキリー1が中距離用VOIDビームマシンガンを構えている。
先程撃沈したデュミナスを葬ったロングレンジVOIDライフルはリロードが終わっていない。だからこそ、ビームマシンガンを手にしたのだ。
フォークスにも勝算は、ある。
「前に出れば、敵はこちらを狙ってくる。攻撃を一気に集中させる事ができれば、味方全体の被害を抑えられる」
操縦桿を握るフォークスの手に、力が籠もる。
所謂、囮役に徹すると言っているのだ。もし、ヴァルキリー1がこちらの前進を無視するのであれば、そのまま台場山へ急行する手もある。被害を抑えながら作戦全体の遂行を考えた末の囮役である。
「…………」
フォークスの前進に、ヴァルキリー1は沈黙を守る。
言葉を一切、発する事無くビームマシンガンを魔導型デュミナスへ向けた。
●
敵は、ヴァルキリー1だけではない。
後方を固めるように中型狂気が2機存在している。
この2機を排除しなければ、台場山へ向かう事は難しい。
ハンター達は戦力を分散して、敵の分断を目指す。
「擬人型、歪虚CAMを抑えます!」
沙織(ka5977)は、ターゲットを中型狂気へと据える。
一緒に駆るのは、R7エクスシア。エーデルワイスマークIIである。
生来、おっとりした性格で軍人にはあまり向かないが、戦場や緊急時には士官学校出身の軍人として冷静な対応を取る沙織である。
中型狂気相手でも油断する素振りもない。
「紛い物でCAMを名乗るなんて許せません!」
エーデルワイスマークIIは、30mmアサルトライフルで牽制射撃を試みる。
最初からこの射撃が的中するとは思っていない。重要な事は、ヴァルキリー1から中型狂気を引き離す事。対ヴァルキリー1へ臨む味方の邪魔をさせないよう、こちらに注意を向けて誘き出そうというのだ。
「……来ました」
案の定、牽制射撃を受けて中型狂気のうち1機がエーデルワイスマークIIに向かって動き出した。
手にしているのは同じく30mmアサルトライフル。
撃ち返しながら、ゆっくりとこちらへ移動してくる。
「もっと、もっとこちらへ」
機体を台場山から引き離すように移動させる沙織。
ヴァルキリー1はフォークスと敵対中。このままこちらへ誘導できるなら最高なのだが――。
「やるしかありません。作戦を成功させる為に」
沙織とエーデルワイスマークIIの戦いは、始まったばかりだ。
●
「あー、畜生! 何でまたあんなトンでもねぇのが出てきやがる! こちとらそろそろ帰って愛しのタングラムの声が聞きてーんだよ! 邪魔すんな!」
R7エクスシアの操縦席でぼやくのは、紫月・海斗(ka0788)。
予定では簡単な任務をさっさと片付けて、優雅な一時を過ごすはずだった。
しかし、ヴァルキリー1のせいで簡単な任務は何処へやら。
おまけに愛しいタングラムの代わりにいるのは――。
「ザマスの婆さんがいるだけなんだよなぁ」
「誰が婆さんザマス! あたくしはまだ還暦前ザマス!」
海斗の呟きに即反応する森山恭子(kz0216)。
メタ・シャングリラの艦長であると同時に、函館攻略の指揮官でもある。
まさかの恭子の反応に、海斗は思わずたじろいだ。
「お、まさか聞こえてたのか」
「筒抜けザマス。それより、別働部隊は大丈夫ザマスか?」
恭子は、ハンター達へ呼び掛けた。
現在、台場山の正面から八重樫 敦(kz0056)率いる本隊が救出へ向かっている。
それまでに別働部隊が生存できるかを心配しているようだ。
「現在、ヴァルキリー1と交戦中。援護を!」
フォークスは試作型スラスターライフルをヴァルキリー1に向けて放つ。
だが、弾丸がヴァルキリー1に到達するよりも早く高速ブースター「リープテイル」により回避。次の瞬間には中距離からのVOIDビームマシンガンがこちらへ向けられる。
フォークスもアクティブスラスターを多用してヴァルキリー1の攻撃を回避。牽制射撃を併用しながら隙を窺っているのだが、簡単に一撃を叩き込める相手ではなさそうだ。
「わーってる! けどよ……」
援護要請するフォークスに対して恭也は答える。
恭也を含むハンター達もフォークスの援護射撃を行っていた。フォークスへ命中しないように最善の注意を払って狙い撃つ。
「そらよっ!」
恭也はランスカノン「メテオール」で遠距離からヴァルキリー1を狙う。
フォークスを巻き込まないよう、着弾地点を計算してカノン砲を発射――だが、ヴァルキリー1はフォークスとの戦いでリープテイルを多用。一時として同じ場所に留まる事がない。
「くそっ! また外れやがった! これだから……」
舌打ちをしながら、前を向く恭也。
そこには一度として留まっていなかったヴァルキリー1が足を止めている。
その手にはロングレンジVOIDライフル――。
「来るぞ! 避けろ!」
フォークスの警告。
だが、装甲重視のギガントは機動性に乏しい。
「今からギガントで回避? へっ、できるならもうやってるよ」
シールド「ストルクトゥーラ」を構えるギガント。
次の瞬間、ロングレンジVOIDライフルから放たれる長大なビーム。
先程も見た光線が、ギガントに突き刺さる。
「……押される? まじかよ!」
重量級のギガントが、衝撃で後方に押される。
この威力。軽量級のデュミナスがやられる訳だ。
「高機動型CAMの相手は苦手なんだよ。……それにしても、この攻撃は反則だろ!」
「させるか!」
ロングレンジVOIDライフルを発射している最中に、アークのR7エクスシアが斬魔刀「祢々切丸」で斬り掛かる。
接近してきたアークに対し、ヴァルキリー1は射撃体勢を解除してリープテイルで後方へ飛び退く。
「ふぅ、危なかったか」
ギガントはロングレンジVOIDライフルの攻撃を乗り越えた。
ギガントの装甲がある上、ライフルの命中度が低い為に直撃を避ける事ができた。
この為、ギガントが撃破される事はなかった。だが、長時間ビームを防げると思わない方が良いだろう。
「あー、こりゃまた……オジサンが損な役回りを請け負わないとダメ、か」
ヴァルキリ-1を前に、海斗は帽子を被り直した。
●
「……悪いが、もうしばらくこちらと付き合って貰おう。仲間がヴェルキリー1を撃破するまでな」
アバルトのFalkeは、眼前にいた中型狂気に向けて30mmアサルトライフルで狙い撃つ。
アバルトは、沙織と連携しながら中型狂気を対応していた。二人の目論見通り、中型狂気はヴェルキリー1から離れて戦闘開始。
敵の戦力分断に成功していた。
「ここで台場山を強襲できなければ作戦自体が瓦解しかねない。我々は、我々の成すべき事をさせてもらう」
牽制射撃を回避する為に、中型狂気は射線の右側へ機体を動かした。
同時に中型狂気も30mmアサルトライフルで応戦してくる。
「そうだ。その調子だ。そして……むっ」
その時、ふいにアバルトの脳裏に『ある事』が思い浮かぶ。
それは中型狂気を相手にしていたからなのか。それとも軍人としての直感なのか。
いずれにしても、その事が状況を急展開させる。
「試してみるか」
再び中型狂気へ30mmアサルトライフルを放つ。
今度は意図的に弾丸を敵の視界の右側へ集中させる。左側へ移動するよう誘う為に。
すると、中型狂気は予測通り左側へ機体を動かした。
「……やはりか」
アバルトは気付いた。
中型狂気の動きは、完全に『マニュアル通り』なのだ。
誰かが出来る悪いプログラムをしたかのような単調な動き。
指示した内容は新兵よりも優れているが、動きが単調である為に予測しやすい。
「戦場で先を予測されるという事は、死を意味する。覚えておけ」
中型狂気の動きを読んでいたアバルトは、移動先へ200mm4連カノン砲を叩き込んだ。
中型狂気がアサルトライフルの弾丸を回避すると同時に、カノン砲の弾丸が直撃。中型狂気の機体は後方へ大きく吹き飛ばされる。
「沙織、罠だ。罠を張れ。中型狂気は単調な動きしか取れない」
「はい、やってみます」
同じく中型狂気と対峙する沙織へ通信を入れるアバルト。
この調子ならば中型狂気の排除は難しくない。
そうすれば、次はあのヴァルキリー1――。
「中型狂気と比較にならない動き……人工知能が狂化されたとしても、あの動きは……。
おそらくそうだ。
各機へ連絡。恭也とアークの予想通りだ。ヴァルキリー1には誰かが乗っている」
●
「えっ? 誰かが乗ってるザマスか?」
ハンターからの打診で、恭子は首を捻る。
報告によればエンドレスは何らかの高度な人工知能が狂化してブレインとなっている可能性が高いという。狂気のVOIDとして同化して強力な存在となっていると目されているが、ヴァルキリー1の操縦席に誰かが乗っているとすれば話は変わってくる。
「そう考える方が自然だ。人工知能の演算に起因する適確な動きををする時もあれば、突然おかしな動きを取る事もある。言うなれば、人間らしい『不完全さ』がある」
ハンターとしてフォークスの勘が、そう告げていた。
無駄がない動きは中型狂気のように単調となりやすい。しかし、目の前で戦うヴァルキリー1には明らかに無駄がある。人工知能が動かしているとすれば、あまりにも人間臭いのだ。
「やはり誰かが乗っているか。ならば、通信に答えないのは何故だ」
アークは、頭の中で考えを巡らせる。
先程から恭也とアークは通信で呼び掛けていた。
エンドレスがこちらへチャンネルを合わせてきたという事は逆もしかり。その為、通信で何度も呼び掛けてみたのだが、一切の反応は無し。
喋る気がないのか。それとも、喋る事ができないのか。
アークとしては戦う理由を探りたいところだが、本人から聞きだそうとするのは難しいようだ。
「あのヴァルキリー1ってぇのは試作機だったんだろ?
だったら、その試作機に乗っていたパイロットが今の乗っているんじゃねぇのか?」
恭也はある推論を述べた。
かつてヴァルキリー1が統一連合宙軍の試作機であったなら、その専属パイロットが居たはずだ。データを漁ればそのパイロットの情報が見つかるかもしれない。
しかし、その可能性を恭子は即座に否定する。
「それはないザマス」
「なんでだよ」
「ヴァルキリー1の専属パイロットは不在ザマス。専属パイロットがヴァルキリー1へ初搭乗する前にヴァルキリー1を乗せたヴァルハラが行方不明になったザマス」
「ヴァルハラが行方不明になった時に、一緒に専属パイロットも居なくなったんだろ?」
「その専属パイロットは、あの八重樫ザマス」
恭子によれば、ヴァルキリー1の専属パイロット候補として八重樫が上がっていたようだ。残念ながら専属パイロットとして搭乗する前にヴァルキリー1は歪虚に奪われていたのだろう。
「そもそも、あのヴァルキリー1はトマーゾ博士の忠告を無視した研究者が作り上げた禁忌の機体って報告書にあるザマス。あのリープテイルってブースターも操縦者の体を無視した無茶な代物らしいザマス。敵に奪われるとは間抜けは話ザマス」
今もハンターを苦しめるヴァルキリー1を間抜けで片付ける恭子。
だが、これではっきりした事がある。
ヴァルキリー1には誰かが乗っているが、あのリープテイルは操縦者の体に大きな負担がかかっている。VOIDの手に落ちている以上、操縦者もVOIDと考えるのは自然。それでもリープテイルを多用させる事は、操縦者にダメージが加わっているようなものだ。
「光明が見えてきたようだな。あとは操縦者が誰か、だな」
恭也は、ヴァルキリー1に向き直る。
敵もダメージを負っている。
そう考えば、倒せる気にもなってくる。
「操縦者は誰、か。いいだろう。オジサンが調べてやろう」
後方で様子を窺っていた海斗は、R7エクスシアを前進させる。
一世一代の大博打を打つ為に――。
●
「トドメです!」
エーデルワイスマークIIの斬機刀「新月」が至近距離で中型狂気に向かって放たれる。
刃が中型狂気を貫き、悶えさせる。
しばらくすると中型狂気は動かなくなった。
アバルトの指摘通り、敵の回避方向を先読みすれば面白いように攻撃を命中させる事ができた。
おそらくエンドレスが用意した急増の狂気だったのだろう。
「紛い物のCAMを成敗しました。残るはあの強敵ですね」
沙織は、後方を向き直る。
そこにはヴァルキリー1との距離を縮める海斗のR7エクスシアがあった。
「どうした、『人工無能』? お得意の演算はお昼寝か?」
シールド「ウムアルメン」を構えながら、防御障壁を発動。
防御力を上げながら、可変機銃「ポレモスSGS」で中間距離を維持していた。狙いは、海斗のR7エクスシアが『中間距離を保ちながら戦う機体』と誤認させる事だ。
前進する海斗。
ヴァルキリー1もビームマシンガンで応戦するが、R7エクスシアの足が止まる様子はない。多少攻撃を受けてもお構いなしに反撃を仕掛けている。
「さぁ、急げ。婚期を逃すな。得意のブースターを見せてみろよ」
Mライフル「イースクラW」とデルタレイも使って、遠距離攻撃を意識付ける。
意図的に単調な射撃を繰り返して誘い続ける。
既に中距離用VOIDビームマシンガンもロングレンジVOIDライフルもリロード中。残る武器はリープテイルと近距離用のナイフのみ。
選べる選択肢は少ない。
そして――ヴァルキリー1は動き出す。
用意された道とも知らずに。
「…………!」
後部のリープテイルが噴射する。
同時に動き出す機体。流れるように海斗の弾丸を掻い潜りながら、一気に間合いを詰める。
ヴァルキリー1の手首から飛び出す近距離用ナイフ。
これならチャージも関係なく、確実に海斗のR7エクスシアを捉える事ができる。
リープテイルの加速も加わり、重い一撃がR7エクスシアへ突き刺さる。
「……オジサン、待ってたよ。この瞬間を」
これこそ、海斗が待ち望んだ時だった。
近距離用ナイフが届くという事は、海斗のR7エクスシアの手も届く場所である。
マテリアルカーテンを展開、さらにシールド「ウムアルメン」の下にポレモスSGSを重ねて防御していた。
それでも近距離用ナイフは、貫いた。
ウムアルメンに弾かれたナイフは、エクスシアの右肩を貫く。
だが、エクスシアの左手はしっかりとナイフを握るヴァルキリー1の腕を掴んだ。
「たっぷり味わってくれ。オジサン特製のプレゼントだ」
海斗は至近距離からエレクトリックショックを放った。
次の瞬間、電撃がヴァルキリー1を捉える。ヴァルキリー1はその場で行動の自由が利かなくなる。
「さぁ、みんなで歓迎の挨拶だ。オジサンが作ったチャンスを逃すなよ」
「分かってる」
「承知した」
フォークスとアークはヴァルキリー1へ試作型スラスターライフルと魔銃「ナシャート」の嵐を叩き込む。
今まで当たらなかった攻撃が、ヴァルキリー1へ一気に叩き込まれる。
「こいつはさっきのお返しだ」
恭也はショットクロー「スカロプス」をヴァルキリー1の胸部に向けて放った。
スカロプスは、ヴァルキリー1の機体へに深く爪を食い込ませる。
「おらよ、ご開帳だ」
恭也はスカロプスのリールを巻き上げる。
ヴァルキリー1の胸部が剥がれ、操縦席が露わになる。
そこには、一人の青年が座っていた。
右目の下から左斜め下に大きく付けられた傷が飛び込んでくる。
「アジア人……統一連合宙軍の制服から、やはり元CAMパイロットか」
「統一連合宙軍のデータベースを調べるのであれば、MIAリストから調べるべきだ。おそらく、その男はそこに記載されている」
アークの推論を補足するようにアバルトは情報を付け足した。
統一連合宙軍の関係者であれば、必ず何処かに情報がある。アバルトはMIA、つまり戦闘中行方不明者の中に青年の情報があると考えたようだ。
「誰だって良い。戦いである以上、ここでケリを付ける」
フォークスは地面に転がっていたロングレンジVOIDライフルをCAMソード「エスグリミスタ」で破壊する。確実に倒す為にヴァルキリー1の装備を黙らせておく為だ。
だが、ここで異変が起こる。
突如ヴァルキリー1から鳴り響く警報音。
恭也は思わず耳を塞ぐ。
「な、なんだ?」
『生体ユニット「カルネージ」に異常発生。脈拍、血圧の異常なる上昇。
ヴァルキリー1の機体ダメージが警告領域に到達。さらに台場山の友軍が想定よりも30%早く全滅。状況は危険と判断。戦場を離脱します』
エンドレスの声が周囲に木霊する。
ヴァルキリー1はリープテイルのブースターを全開にして高速移動。
ダメージを負った海斗の傍らを抜けるように撤退していった。
「あいつ、もう動けるのか? 本当に化け物だな」
海斗は負傷した機体を休めるように、その場で跪かせた。
ヴァルキリー1は強力な機体であったが、別働部隊の活躍で撤退させる事に成功する事ができた。八重樫率いる本隊と合流できれば、台場山の拠点を陥落させる事は難しくないだろう。
●
「あの操縦者の情報は、まだ見つかりませんか?」
メタ・シャングリラの恭子に対して沙織は、ヴァルキリー1の操縦者情報検索を打診していた。
何故、あの操縦者がヴァルキリー1に乗っているのか。
何故、エンドレスはあの操縦者を必要としているのか。
エンドレスが『生体ユニット』と呼称していた事も気になっている。
謎ばかりが深まるが、ここで立ち止まる訳にはいかない。
函館クラスタへ接近すれば、必ずヴァルキリー1と再会する事になるのだから。
「そう簡単じゃないザマス。なにせ、行方不明者だけでもかなりの数ザマス。そこから調べるだけでも大仕事ザマス」
戦場行方不明者と一口に言っても、VOIDとの戦闘で行方不明になった軍人はかなりの数が存在する。元パイロットと限定されていたとしても調査だけで大変な作業だ。
「それでもお願いします。私達は、あの人とまた出会わなければならないのですから」
沙織は、海を見据える。
函館クラスタがあると思われる五稜郭を視界に捉えるように。
彼らは、何だ?
今までの敵とは、違う。
連携してこちらへ挑んでくる。
倒さなきゃ、倒さなきゃ、倒さなきゃ。
でなければ、俺は――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 柊 恭也(ka0711) 人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/04/12 10:18:53 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/07 22:45:10 |