ゲスト
(ka0000)
【AP】お友達ユニット
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/09 22:00
- 完成日
- 2017/04/16 23:49
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「相変わらず、ハンターたちは、ユニットとか言うのに御執心のようねえ」
ぷかぷかと虚空に浮かびながら、YAシャオuが、ふーんという顔で言いました。
「機械やけものなんかのどこがいいんだか。そんなに好きなら、もっと可愛い感じで、ずっといればいいのにねっ♪」
そう言うと、何か考えたらしく、夢魔は夢の扉を開きました。
「ふぁーあ。よく寝た」
「おはようございます」
「えっ、誰!?」
気持ちよく朝を迎えたと思ったら、何やら様子が変です。というか、誰かいます。ちょっと可愛い女の子です。
「やだなあ、お友達でしょ? わたし、わたしですよう。デュミナスです♪」
そう言って、白いエプロン姿の美少女が、小首をかしげました。不思議な蒼い色の髪が、耳許でわずかにゆれます。
「なんだってえ!?」
なんで、CAMが人間になっているのでしょうか。
あっ、何だか、あちこちから、同じような悲鳴が聞こえます。それとも歓喜の声でしょうか。どうやら、あちこちで、同じようなことが起きているようです。
あれ、なんで、そんなに御近所がいるのでしょうか。だいたい、ここはどこでしょう?
「御飯できてるからね。一緒に食べよ」
「まあ、これはこれでいいかも……」
何だか夢のようです。
そう、ここは夢の世界なのでした。
外に、巨大な扉が存在していることに気づいたのは、楽しくユニットと過ごした後のことです。
天をつくような巨大な扉は、いくつもあるようにも、たった一つのようにも見えます。そのう、何だか形容しがたいのです。ただ、その扉が存在することは、確かなようでした。そして、その扉には、巨大な錠前がつけられていて、しっかりと施錠されていました。巨大さゆえに、鍵のあるなしの前に人の手ではとても開けられそうにありません。
「なんとなく、あの扉の向こうに行けば戻れるような気がする……」
そう思えるのですが、戻れると言っても、いったいどこに戻れるというのでしょう。それに、ここには、デュミナスがいます。ここでの暮らしも楽しそうです。
「あの扉の向こうに行くと、わたしは、鉄になったり動物になったりするんだって。あなたは……何になるのかな?」
デュミナスが聞きました。
「うーん、何かに変わるかもしれないし、変わらないかもしれないなあ……」
「すごーい、変わらないかもしれないんだ。だったら、それが本当のあなたなのかも。じゃあ、本当の私って、なんなのかなあ」
「うーん」
デュミナスに言われて、ちょっと考え込みます。もし、ここにいる自分たちが、本当の自分たちでないとしたら、本当の自分たちは、いったい、今、何をしているのでしょう。それって、大丈夫な状態なのでしょうか。生き物なら、放置されれば餓死してしまいますし、機械であっても、錆びて朽ち果ててしまいそうな気がします。
「どうしょうか?」
デュミナスは、そう訊ねました。
ぷかぷかと虚空に浮かびながら、YAシャオuが、ふーんという顔で言いました。
「機械やけものなんかのどこがいいんだか。そんなに好きなら、もっと可愛い感じで、ずっといればいいのにねっ♪」
そう言うと、何か考えたらしく、夢魔は夢の扉を開きました。
「ふぁーあ。よく寝た」
「おはようございます」
「えっ、誰!?」
気持ちよく朝を迎えたと思ったら、何やら様子が変です。というか、誰かいます。ちょっと可愛い女の子です。
「やだなあ、お友達でしょ? わたし、わたしですよう。デュミナスです♪」
そう言って、白いエプロン姿の美少女が、小首をかしげました。不思議な蒼い色の髪が、耳許でわずかにゆれます。
「なんだってえ!?」
なんで、CAMが人間になっているのでしょうか。
あっ、何だか、あちこちから、同じような悲鳴が聞こえます。それとも歓喜の声でしょうか。どうやら、あちこちで、同じようなことが起きているようです。
あれ、なんで、そんなに御近所がいるのでしょうか。だいたい、ここはどこでしょう?
「御飯できてるからね。一緒に食べよ」
「まあ、これはこれでいいかも……」
何だか夢のようです。
そう、ここは夢の世界なのでした。
外に、巨大な扉が存在していることに気づいたのは、楽しくユニットと過ごした後のことです。
天をつくような巨大な扉は、いくつもあるようにも、たった一つのようにも見えます。そのう、何だか形容しがたいのです。ただ、その扉が存在することは、確かなようでした。そして、その扉には、巨大な錠前がつけられていて、しっかりと施錠されていました。巨大さゆえに、鍵のあるなしの前に人の手ではとても開けられそうにありません。
「なんとなく、あの扉の向こうに行けば戻れるような気がする……」
そう思えるのですが、戻れると言っても、いったいどこに戻れるというのでしょう。それに、ここには、デュミナスがいます。ここでの暮らしも楽しそうです。
「あの扉の向こうに行くと、わたしは、鉄になったり動物になったりするんだって。あなたは……何になるのかな?」
デュミナスが聞きました。
「うーん、何かに変わるかもしれないし、変わらないかもしれないなあ……」
「すごーい、変わらないかもしれないんだ。だったら、それが本当のあなたなのかも。じゃあ、本当の私って、なんなのかなあ」
「うーん」
デュミナスに言われて、ちょっと考え込みます。もし、ここにいる自分たちが、本当の自分たちでないとしたら、本当の自分たちは、いったい、今、何をしているのでしょう。それって、大丈夫な状態なのでしょうか。生き物なら、放置されれば餓死してしまいますし、機械であっても、錆びて朽ち果ててしまいそうな気がします。
「どうしょうか?」
デュミナスは、そう訊ねました。
リプレイ本文
●施錠
「さあ、いらっしゃい。夢の封土(ほうど)へ」
YAシャオuが空間に手を差し入れると、ゆっくりと左右に開きました。
空間が裂け、それが天をつくような上の見えない巨大な扉となります。
扉の中から光が差し、黒いゴスロリ衣装を身に纏った少女の姿を照らし出しました。その影が、後ろの空間へと、長くのびて広がっていきます。光を呼び込めば、影が世界を満たせます。
扉のむこうから、何かが飛び込んできました。
形を持たぬ何か、ゆえに、ここではあらゆる形をとることができる者。
輝きを放つそれらは、この世界のあちらこちらへと飛び散っていきました。
「おやすみなさい。永遠(とわ)によい夢を」
YAシャオuが両手を交差させると、その動きに合わせて重厚な扉がひとりでに閉じました。
髪を編んでいた黒いリボンを一本解くと、YAシャオuがそれを鞭のように振るいます。不思議なことに、壁も扉の裏にも何もないかのように、リボンが一周してして戻ってきました。それは蛇のように扉に巻きつき、強固な鎖へと変化したのです。重なった鎖の両端にYAシャオuが手を触れると、そこに、巨大な錠前が現れて鎖を結びつけました。
これで、世界は封じられました。
「さあて、どんな面白い夢が見られることかしら」
黒いレースの日傘を手に取ってクルクルと回すと、YAシャオuはゆっくりと空へ浮きあがっていきました。空の高みへ、自分だけの見物席へと……。その姿が、やがて小さな点となって世界に溶け込んで消えます。
●降臨
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「えっ?」
いきなり、イケメンに声をかけられて、メアリ・ロイド(ka6633)は反射的に玄関のドアを閉めてしまいました。
しまった、これでは逃げられません。というか、なぜ逃げる!?
落ち着きましょう。いったい、今、何が起きているのでしょうか。
「コホン。あなた、どなたでしょうか?」
努めて冷静を装って、メアリがイケメンに訊ねました。内心はもう、心臓バクバクものなのですが、それを外に出したりして相手に悟られないようにしています。
だって、イケメンですよ、イケメン。もしかして、今、幸運の総量が怒濤のように減っていってるんじゃないでしょうか。
「やっだねー、忘れちゃったのかよ」
急に砕けた口調になって、イケメンが言いました。信じられないぜという、呆れ顔をします。
だからあ、あんたは誰よと、イケメンの緑の瞳を、メアリの瞳が下から見上げました。
豊かに波打つメアリの金髪とは対象的な銀髪が、クックッと笑うイケメンの動きに合わせて肩の上で踊ります。両肩からは背中にむかって三角の肩布が下がっています。後ろから見たら、まるで翼を模したように見えなくもありません。
服には、全体敵に、歯車模様がちりばめられています。これは、メカメカしい模様と言うことでしょうか。別に、メアリとしては、歯車は嫌いではありません。むしろ好きです。でも、なぜ?
「せっかく、お前の大好きなイケメンになったって言うのになあ。ほらほらほらあー」
イケメンが、これ見よがしに顔やスタイルをメアリに見せつけながらまくしたてます。
それは、メアリとしてもイケメンは大好物ですけれども、あからさまにがっつくわけにもいけません。ちょっとはしたないですし、毒だったら食あたりしそうです。
「あまりの美形ぶりに、俺が誰だかまだ分かってないなー? 聞いて驚け、俺様はてめえのサンダルフォンだぜ」
「その、サンちゃんさんが、この私に何用……って、ええっ!?」
自慢げに言うイケメンに答えつつ、突然メアリが思いあたりました。サンダルフォンといえば、メアリが預かっているCAMの名前ではないですか。このイケメン、CAMのなれの果て、いえ、昇華した姿だと言うのでしょうか?。――本当に? とても、元がR7エクスシアとは思えない変貌ぶりなのですが。
「どうだ、すげーだろー」
なんか、すっごく自信過剰です。この性格、どこから来た物なのでしょうか。
いやいやいや、それはさておいて、この状況は、メアリにとってなんという御褒美でしょう。メカの擬人化、これは思ってもみなかったことです。神様、ありがとう。どこの神様かは知りませんが……。
とりあえず、ちょっと分解してみたいかもなどと思ってしまいます。きゃっ♪
おっと、あまり嬉しそうな顔を表に出してしまっては……。
「嬉しそうだなあ」
「そ、そんなことは、な、ないですよ……」
何だか心の中を見透かされたようで、慌ててメアリが否定しました。まあ、すでに隠しきれないほど嬉しいというのが正解なわけですが。
「それにしても、ちょっと、言葉遣いが……」
そのへんがちょっと残念イケメンに片足ツッコミかけているかもと、メアリが思いました。
「似てるだろ? お前に」
なんだか、自慢げな顔で、サンダルフォンが言いました。
確かに、メアリが覚醒したときの、ちょっと箍(たが)が外れた感じに似てはいます。建前ではなく、本音ダダ漏れとか。猫は飼い主に似てくると言うか、CAMも乗り手に似てきてしまうと言うことなのでしょうか。それとも、似た者夫婦? いやいやいやいや……。
「まあ、搭乗者に似たと言うかなんと言うかだな。にしても、普段のお前って、ずいぶん違うなあ。猫被ってんのか?」
図星です。
普段考えていることが一般人からするとあまりにも突拍子もないことなので、さすがにある程度自重しているというわけなのですが。それでも、覚醒してしまうと、隠していた心がオープンになってしまいます。本当の自分が表に出てきてしまうのです。まあ、それこそが、メアリの力の源でもあるわけですが。文字通り、覚醒してしまうわけです。そういえば、サンダルフォンに乗っているときは、ほとんど覚醒状態でした。
「まあ、それでも、俺は結構気に入ってるんだぜ」
ちょっと顔を赤らめて、どう答えたらいいのか戸惑っているメアリに、サンダルフォンがあらたまって言いました。
「俺のことメンテしたり、大事にしてくれるしな。だからさ、……死ぬなよ。まだまだお前と一緒に戦いたいんだからよ、メアリ」
そう言うと、サンダルフォンが腕をメアリの首に回して自分の方にぐいと引き寄せました。
突然のことに、メアリが抵抗できません。抵抗する必要もありません。
「ぎ、擬人化、さいこ~」
そのままどっぷりとはまり込んでしまうメアリでした。
●ぱわふりゃあ!
「なんだか、うるさいなあ……」
どこからか、さいこーと叫ぶ女の子の声が聞こえて、南護 炎(ka6651)は目を覚ましました。
何か騒ぎでも起きているのでしょうか。
「なあに、何も変なことは起きてはいないさ」
野太い声が部屋の中に響きました。
「なんだ、なんだ!?」
さすがに、一発で南護炎の目も覚めます。今のは、誰の声でしょうか。
「やあ」
ベッドの上で上半身を起こした南護炎に、えらくガタイのいい漢(おとこ)がポーズをとって挨拶しました。鮮やかな青い柔道着を着ていますが、その発達した筋肉をつつみきれず、思いっきり胸元などからはみ出しています。柔道着の胸には、『覚悟完了』と書かれた布が縫いつけてありました。
「まだ寝ぼけているな。もう一度寝よう」
そう決めつけると、南護炎は急いで布団に潜り込みました。
「なぜ二度寝する! さあ、起きろ! そして、オレの……筋肉美を見よー!! ムン!」
南護炎が頭から被った掛け布団を力任せに引っぺがすと、またもやポーズをとって腕の筋肉を見せつけながら漢が言いました。
「君は、何者だ!?」
「お前のパートナーだろうが。ムン!」
大声で誰何する南護炎に、またもやポーズをとって漢が答えました。いちいちポーズをとらないと、会話ができないのでしょうか。
「そんなガチムチ兄貴をパートナーにした覚えはない!」
きっぱりと、南護炎が言いました。かねてから、パートナーとするのであれば、ナイスバディのぼんきゅっぼんの強い女の子と決めています。それ以外は却下です。
「却下も何も、オレはフレーム・オブ・マインドだ。であれば、お前のパートナーであろう!」
暑苦しく、漢が名乗りました。
「フレーム・オブ・マインド? それは、俺が乗っているCAM、R7エクスシアのパーソナルコードだぞ」
南護炎がちょっと混乱します。確かに、フレーム・オブ・マインドであるならば、自分のパートナーだと言えます。でも、フレーム・オブ・マインドはCAMです。人間ではありません。いったい、何がどうなっているのでしょうか。
「その通り! オレがそのCAMのフレーム・オブ・マインドなのだあ!!」
「いちいちポーズをとるなあ!!」
南護炎が叫びましたが、そこはスルーするフレーム・オブ・マインドです。
「どーしてこーなった!?」
「お前に会うために、やってきたのだ!」
「だったら、なぜ、超絶美少女になって現れない!」
そうだったら、すぐさま受け入れるのにと南護炎が言いいました。ある意味、魂の叫びです。普通は、CAM少女でしょう、絵面から言っても。
「筋肉は嫌いかあ!!」
「好きだあ!!」
突如フレーム・オブ・マインドに聞かれて、思わず南護炎が即答してしまいました。
「ならばよし。存分に、オレの筋肉を堪能するがいい。ムン!!」
そう言うと、フレーム・オブ・マインドが柔道着を脱いで、上半身のムキムキ筋肉をもりもりと盛り上げさせます。
「だが、堪能するのは、君の方だ!」
負けじとベッドを飛び降りると、南護炎もポーズをとりました。なぜか、パンツ一丁です。まあ、その姿で寝ていたのでしょう。
フレーム・オブ・マインドのように、全身ムキムキというわけではありませんが、南護炎も十分に細マッチョです。全身筋肉で、不必要な駄肉は一つもありません。
パートナーならば、女丈夫(じょじょうふ)のぼいーんばいーんな美女が理想ですが、CAMはちょっと違います。共に行動する相手と言うよりも、一心同体となって一緒に戦う存在です。だとすれば、いろいろと南護炎と共通する存在なのではありませんか。似ていても仕方ないのかもしれません。
ならば、確かめねばなりません。
フレーム・オブ・マインドが自身の筋肉を自慢するのであれば、南護炎の筋肉についてこられなければ、相棒としての資格がありません。
「ムン!」
「なんの、ムムムムン!」
「だったら、これでどうだ、ムンムン!」
「いや、これぐらいはしてほしいものだな。ムーン!!」
何だか、筋肉対決になってきてしまいました。
お互いに、様々なポーズを取り合って、自分の筋肉を相手に見せつけて自慢します。
いったい、どれだけの時間、筋肉対決を続けたのでしょう。
二人の筋肉からは、熱意によってもうもうと湯気がたちのぼり、汗でテカテカと光り輝き始めてきました。
美しい。
正に、これこそ筋肉の輝きです。
「炎よ。お前の細マッチョボディも、なかなかの美しさだな。世界で2番目の美ボディだ」
南護炎を讃えつつも、フレーム・オブ・マインドが自分の勝利を力強くアピールしました。
「フレーム・オブ・マインドよ。お前のガチムチボディ、なかなかイケてるぜ!! ただし、世界じゃ2番だ」
南護炎も負けてはいません。チッチッチッと人差し指を軽く左右に振って、自らの勝利を宣言します。
「はっはっはっ、結局、オレたちが世界のワンツートップであることだけは、どうやら間違いではないようだな」
「そうだな。俺たちが世界の頂点だ」
とりあえず、二人の他に敵はいないことを確認します。
「ワン、ツー、フィニッシュ!!」
二人一組でポーズをとって、南護炎とフレーム・オブ・マインドが叫びました。
「だが、敵がいないというのも、おかしなものだな」
ふいに我に返って、南護炎が言いました。だいたい、ここはどこなのでしょう。最初は自分の部屋だと思い込んでいましたが、明らかに違います。そして、フレーム・オブ・マインドのこの姿です。
「夢のよう……、そう、いい夢なのかもしれないなっ!」
フレーム・オブ・マインドが言います。
そう気づいてしまえば、遙か彼方に巨大な扉が見えました。
「さしずめ、夢の扉というところか」
もう、理不尽さにも驚いたりはしませんが、これではっきりしたとも言えます。
「にしても、遠いなあ」
少し面倒くさそうに南護炎が言いました。
「なあに、今の俺たちなら一っ飛びだろうが」
「ああ、その通りだ!」
フレーム・オブ・マインドの言葉どおり、肩を組んだ二人のジャンプ一つで、一気に扉の前まで移動します。
天をつくような扉が目の前にあり、巨大な鎖で封印され、錠前がついていました。
「今の俺たちは無敵だな」
「ああ。だが、歪虚と戦うには、今のオレの身体は少し心許ない」
南護炎の言葉にうなずきつつも、フレーム・オブ・マインドがちょっと顔を顰めました。
「やはり、この筋肉に鋼鉄の装甲を纏ってこその最強。炎を守り、炎の夢である『強大な敵から家族や友人を守る』ための力となるためには、元に戻るのがいいのだろう」
「ああ。ここには、俺たち以外に守るべき者がいない」
そう確かめ合うと、フレーム・オブ・マインドと南護炎がお互いにうなずき合いました。
「ならば、戻るか」
「ああ、そうしよう、相棒よ」
二人が、扉の左右にがっしりと手をかけました。そのままフルパワーで左右に引っぱります。錠前だろうと、鎖だろうと、関係ありません。扉が開きだし、鎖がギシギシと悲鳴をあげます。錠前は今にも砕け散りそうです。
「いい夢だったな!」
●夢の褥(しとね)
身体は、床から数十センチ浮いています。いや、正確には、ベッドの上にいるのだけれど。でも、この高さが大事なのです。
白いシーツに頬を押しあてると、マットレスのスプリングが軽く押し返してきます。
手足をのばせば角に届いてしまいそうなベッドの空間ですが、この広さは、今は自分だけの物だと、マルカ・アニチキン(ka2542)は目を閉じたままニマニマしていました。
ああ、なんという征服感。
手をのばせば……、あれっ!?
手をのばしたら、何かにぶつかりました。
誰かいる!?
「うーん、なんじゃ、朝からうるさい……。むにゃむにゃむにゃ……」
女の子がいます! それも、ちっちゃい!
いったい、なんで幼女と添い寝しているのでしょう。寝ている間に産んだ覚えはありません。いえ、そんなことで突如幼女が湧いて出るだなんてことはない……、いやいやいや、なんか根本から間違っていませんか?
「だから、少し落ち着くのじゃ。まったく、これだからマニカは……」
目をこすりながらそう言った幼女は、大あくびをしてから、うーんっと身体をのばしました。それから、よいしょっと身体を起こします。
シルクのベビードールが、独特の光沢を放ちます。それ以上に美しい光沢を放つのが、幼女の豪奢な銀髪です。ちょっと寝癖がついて、あっちこっちぴょこぴょこと撥ねていますが、そこがまたちょっと可愛らしくもあります。
なのですが、でも……。
「なんじゃ、何か言いたいことがあるのか。ほれ、言うてみい、言うてみい!」
ロリ婆です。
というか、いったいこの子は誰? なんで、マルカと一緒に寝ていたのでしょう。
「なんじゃと!? お前はいったい何を言っておるのじゃ、この痴れ者めが!」
呆れたように、幼女がマルカを叱責します。
「このわしが分からんと申すか。コシチェイじゃ。見て分からぬのか、まったく……」
いえ、見た目では全然分かりません。分かるはずもありません。だいたい、コシチェイは老猾なイェジドのはずです。
その証拠に、壁には、そのイェジドのコシチェイとマニカがならんで映っているポートレートが飾ってあるではありませんか。
「うん、なかなかにいい姿絵じゃ」
あ、そういえば、なんなんでしょうか、これは。もしかすると、リアルブルーの人たちが言っている写真という物でしょうか。すっごくリアルです。
「それよりも、何だか変じゃな」
変? まあ、変と言えば、一番変なことになっているのはコシチェイなのですが、他にも何かおかしいことが――ありありですね。いったい何が起こっているのでしょう。
「よし、確かめに行くのじゃ。早く起きんか、早く早く!」
コシチェイが急かします。まったく、大人なのか子供なのかよく分かりません。見た目は、ロリっ子そのものではありますが。
急きたてられるようにして、マルカがベッドから這い出しました。長いピンクの髪と同じ色の、ピンクのパジャマを着ています。
着替えを探すと、忽然と部屋の隅にタンスが現れました。便利です。
さっそく物色すると、いつもの洋服が見つかりました。白いブラウスと、デニムのスカートと、白いストッキングを取り出します。
なぜか、同じ服が、今の幼女コシチェイサイズで別に一揃いありました。ペアルックです。可愛い……。
まるで、親子のよう……。
「姉妹であろう?」
すかさず、コシチェイが訂正しました。
さすがにそれは……。
「異論は許さぬ! だいたいにして、そんなことだから、こんな空間に閉じ込められるのじゃ」
それは……。
やっぱり、ここは変な世界なのですね。今までずっと閉じ込められていたのでしょうか。
「あれを見れば分かるであろうに。そんなことでは、マギステル失格じゃぞ」
遠くに見える巨大な扉を指して、コシチェイが言いました。
異様です。確かに、あんな物がある場所なんて、まともな場所であるわけがありません。いったい、いつこんな所へ連れてこられたのでしょうか。いったい、誰が……。
「まったく、どこのどいつじゃ。わしをこんな姿に変えおって。まあ、それほど悪くはないがな……」
まんざらでもなさそうに自分の姿を見ながら、コシチェイが言いました。
それにしても、どうやって脱出すればいいのでしょうか。
「なあに、ああいう、変なモニュメントは、昔からぶち壊せばよいと決まっておる。だから、さっさとやってしまえ。それで終(しま)いじゃ」
えー、それはちょっと乱暴です。
「やっておしまい!」
えー……。
とにかく、謎の扉に近づいていくと、すでにこじ開けようとしている人たちがいました。なんだか、ムキムキです。
「おお、もう頑張っておるのがいるな。さあ、お前も一緒に参加してこい」
そうは言われても、ちょっと……。さすがに、あのムキムキに交じるほど、マルカにはムキムキが足りません。
「お前は、何を言っておるのじゃ!?」
呆れたように、コシチェイがまじまじとマルカを見つめました。そんなに見つめられても、怪力など出てこないのですが……。
「アホかあ! 叩かれたいのか、お前は!」
ああ、ごめんなさい、ごめんなさい。
「お前には、魔法があるだろうが、魔法が。なんのために、マギステルをやっておる!」
叱られてしまいました。
でもいいのでしょうか?
「構わぬ。やれ~♪」
じゃ、ファイアーボール。
ちゅどーん!
あっ、やっぱり、他の人を巻き込んじゃいました。
でも、おかげで、扉は開いたようです。
「さて、では、戻るとするかの。この世界にも、この姿にも、名残はおしいが、誰が他人の思い通りになるものか。ははは、ば~か!」
点にむかってあっかんべーをすると、コシチェイはマルカのお尻を押して、扉へむかって走りだしました。
●道場
カコーンという鹿威しのたてる音で、榊 兵庫(ka0010)は目を覚ましました。
気がつけば、日本庭園を臨む渡り廊下を歩いています。
見慣れた景色のようでもあり、ひどく久しぶりのような気もします。
ひんやりとした木の感触を素足の裏で味わいつつ進んでいくと、道場に突き当たりました。大きな建物ですが、榊兵庫には、はっきりとここは道場だと分かります。いえ、なぜ分かるのでしょうか。
扉を引き開けて中へと入ると、板張りの広間の中央に、一人の娘が待っていました。
長躯に紫紺の小袖と白袴を通し、背をシャンとのばして、微動だもせずに正座しています。後ろに流した艶やかな黒髪は、高い位置で留め、そのまま紺の紐を編み込んで総髪(そうがみ)にしています。静かに軽く目を閉じた顔はやや細く小さく、凜とした覇気につつまれています。そのかたわらには、一柄(ひとがら)の薙刀(なぎなた)がおかれていました。
「お待ちしておりました、主殿(あるじどの)」
静かに目を開くと、娘が深々と榊兵庫にむかって頭(こうべ)を垂れました。
「ええっと、どちらさまでしたっけ?」
誰だか分からずに、榊兵庫が聞き返しました。相手は自分のことを知っているようですが、榊兵庫としてはトンと見覚えがありません。
「私をお忘れとは、情けない。鍛錬の時間にも遅れておいでになるし。たとえ主殿であっても、少し気が緩んでいませぬか?」
真摯な視線を返しながら、娘が言いました。
「すまない、本当に……」
「烈風でございます」
困ったように答える榊兵庫の言葉を遮るようにして、娘が名乗りました。
「烈風……。これは奇縁だな。俺のCAMと同じ名だ」
「そこまでお忘れとは……。私が、その烈風ではありませぬか」
軽く溜め息をつきながら、烈風が言いました。その言葉に、ああ、そうかと榊兵庫が両手を打ちます。突然、すべてを納得しました。ただ、その理由は分かりません。この目の前の娘が、間違いなく烈風であると分かっただけです。これは、夢なのでしょうか。
「それでは、いつものお手合わせ、お願いいたします」
そう言って一礼すると、烈風が立ち上がり、取り出した襷(たすき)の端を軽く口に銜え、淀みない所作でそれを掛けました。そして、薙刀を手に取ります。
得物を探した榊兵庫は、壁際に槍立てを見つけると、その中から一条の十文字槍を手に取りました。身長よりも少し長い程度で、烈風の薙刀とほぼ同じ長さです。これならばリーチに関しては対等でしょう。
軽く一振りすると、穂先が空を鋭く切り裂きます。しっくりくる確かな重さは、使い慣れた物のようでした。
同じように薙刀を一振りして、烈風もバランスを確かめます。その刃先の描く軌跡は二人共そっくりでした。同じ榊流の動きです。
「では」
お互いに一礼すると、流れるような動作で構えに入ります。
互いに構えた槍と薙刀の切っ先が、ピタリと互いの急所にむけられ、わずかな歩の動きにも外れることがありません。
しばしの読み合いの後、烈風の薙刀がスーッと上に掲げられました。榊兵庫には、ゆっくりとした流れるような動きとして目に映りましたが、実際には一瞬の出来事です。そのときには、榊兵庫は槍を引いて腰だめに構えなおしていました。
気合い一閃、薙刀が大上段から振り下ろされます。やや動きが大きいですが、強烈な一撃です。
けれども、それが振り下ろされるよりも早く、榊兵庫は横に回り込んで薙刀の太刀筋を外します。
間髪を入れず、榊兵庫自らの身体を支点として、槍を横薙ぎにして烈風の胴を狙おうとしました。
とっさに烈風が身を退くと同時に、勢いよく振り下ろされたはずの薙刀の先が、空中でクンと軌道を変えて榊兵庫に襲いかかってきました。
それさえも予測していたのでしょうか、それとも勝手に身体が動いたのでしょうか、榊兵庫は槍の穂先を床に叩きつけ、その動きのままに槍を立てました。槍の柄が薙刀の柄と交差し、それを受けとめます。
それに留まらず、穂先を支点としてぐいと回転させた榊兵庫は、一瞬にして石突きを烈風の喉元へと突きつけていました。
「お見事です、主殿」
烈風が、負けを認めて言いました。その声に震える喉が、軽く石突きに触れてひんやりとした感触が伝わってきます。もし榊兵庫が寸止めしなければ、そのまま喉をつかれて体勢を崩したところへ、止めの一撃が襲いかかってきたことでしょう。
「まだまだでございますね」
一礼して、烈風が言いました。
「いや、その動き、十分に榊流に通じるところがある。教えがいがあるな」
ちょっと嬉しそうに榊兵庫が言いました。
R7エクスシア型である烈風の操縦にもずいぶんと慣れてきて、身体にしっくりとくるようになったと思っていましたが、人が機械に慣れるのと同様に、機械も人に慣れていくのだと実感できます。榊兵庫の身体に染みついた榊流の動きは、このまま烈風の動きとしても記録されていくのでしょう。
いや、今の烈風は機械ではありません。それでも、烈風は、烈風です。
「私の顔に、何かついていますか?」
緊張を解いた烈風が、ちょっとキョトンとした顔で榊兵庫の視線を見返しました。そんなちょっとした動きに、なんとも言えない愛嬌があります。
「これも悪くはない。だが、やはり、その……」
「奇妙でございますか」
楽しくはあっても、違和感は常に残っています。
「ここは、どこなのだろう」
二人揃って、外の景色を確かめに行きました。
道場の外、夜とも朝ともつかない仄暗い空が重苦しくたちこめ、そこに巨大な塔が建っていました。いえ、塔ではありません、巨大な扉です。石の柱の間には、金物で補強されたがっしりとした朱塗りの木の扉があります。閉ざされた扉には、重苦しい鎖と錠前がかけられていました。
門であるのは確かなのに、建物も壁もありません。これでは、門の意味がないではありませんか。
ですが、門の裏に回ってみようとした榊兵庫たちは、すぐにその異様さに気づきました。どんなに回り込んでも、門が自分たちに正面をむけているのです。これでは、横を回り込んで裏側に行くことはできません。そのため、裏がどうなっているのか、確かめようがありませんでした。
だいたいにして、この門が、見た通りの物である保証もないのです。もしかしたら、人によってはまったく違うデザインの門に見えているかもしれません。
「まるで結界だな」
「この先に何かが封印されてでもいるのでしょうか」
榊兵庫の言葉に、烈風が小首をかしげました。その仕種に、いい姿だとちょっと思いながらも、榊兵庫がすぐに視線を門へと戻します。
「いや、封印されているとしたら、それは俺たちの方だろう」
どう見ても、ここが現世だとは思えません。
「であれば……」
「押し通るまでのことでございますね、主殿」
「うむ」
ニッコリと笑いながら言う烈風に、榊兵庫がうなずきました。すでに、阿吽の呼吸です。
おそらく、この門を通れば、元の世界に戻れるのでしょう。理由は分かりませんが、それで合っている気がします。
ただ、もったいないような気もします。
榊兵庫は、改めて烈風の姿を見ました。
「これは、これで……」
「主殿」
戒めるように榊兵庫を見据えて、烈風が言いました。
「私は、いつも主殿の側におります。こうして相まみえるのは楽しゅうございましたが、現し身は主殿をお待ちしているはずです。我が身は、主殿と一体になってこそ意味を成す物。ここに囚われてはなりません」
「ああ、分かっている」
名残惜しさを振り捨てて、榊兵庫が答えました。
「共に戦えることが、我が喜びです、主殿。私は、主殿の鎧であり、槍であるのですから」
烈風が、持っている薙刀を錠前にむけて構えました。薙刀と身体が一体となり、一点の曇りもなく意識が研ぎ澄まされていくのが分かります。
「ああ。お前は俺の槍に違いない」
同様に、榊兵庫も槍を構えます。
「それでは!」
「また会おう!!」
互いの思いを込めて、榊兵庫と烈風は槍と薙刀を突き出しました。
「さあ、いらっしゃい。夢の封土(ほうど)へ」
YAシャオuが空間に手を差し入れると、ゆっくりと左右に開きました。
空間が裂け、それが天をつくような上の見えない巨大な扉となります。
扉の中から光が差し、黒いゴスロリ衣装を身に纏った少女の姿を照らし出しました。その影が、後ろの空間へと、長くのびて広がっていきます。光を呼び込めば、影が世界を満たせます。
扉のむこうから、何かが飛び込んできました。
形を持たぬ何か、ゆえに、ここではあらゆる形をとることができる者。
輝きを放つそれらは、この世界のあちらこちらへと飛び散っていきました。
「おやすみなさい。永遠(とわ)によい夢を」
YAシャオuが両手を交差させると、その動きに合わせて重厚な扉がひとりでに閉じました。
髪を編んでいた黒いリボンを一本解くと、YAシャオuがそれを鞭のように振るいます。不思議なことに、壁も扉の裏にも何もないかのように、リボンが一周してして戻ってきました。それは蛇のように扉に巻きつき、強固な鎖へと変化したのです。重なった鎖の両端にYAシャオuが手を触れると、そこに、巨大な錠前が現れて鎖を結びつけました。
これで、世界は封じられました。
「さあて、どんな面白い夢が見られることかしら」
黒いレースの日傘を手に取ってクルクルと回すと、YAシャオuはゆっくりと空へ浮きあがっていきました。空の高みへ、自分だけの見物席へと……。その姿が、やがて小さな点となって世界に溶け込んで消えます。
●降臨
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「えっ?」
いきなり、イケメンに声をかけられて、メアリ・ロイド(ka6633)は反射的に玄関のドアを閉めてしまいました。
しまった、これでは逃げられません。というか、なぜ逃げる!?
落ち着きましょう。いったい、今、何が起きているのでしょうか。
「コホン。あなた、どなたでしょうか?」
努めて冷静を装って、メアリがイケメンに訊ねました。内心はもう、心臓バクバクものなのですが、それを外に出したりして相手に悟られないようにしています。
だって、イケメンですよ、イケメン。もしかして、今、幸運の総量が怒濤のように減っていってるんじゃないでしょうか。
「やっだねー、忘れちゃったのかよ」
急に砕けた口調になって、イケメンが言いました。信じられないぜという、呆れ顔をします。
だからあ、あんたは誰よと、イケメンの緑の瞳を、メアリの瞳が下から見上げました。
豊かに波打つメアリの金髪とは対象的な銀髪が、クックッと笑うイケメンの動きに合わせて肩の上で踊ります。両肩からは背中にむかって三角の肩布が下がっています。後ろから見たら、まるで翼を模したように見えなくもありません。
服には、全体敵に、歯車模様がちりばめられています。これは、メカメカしい模様と言うことでしょうか。別に、メアリとしては、歯車は嫌いではありません。むしろ好きです。でも、なぜ?
「せっかく、お前の大好きなイケメンになったって言うのになあ。ほらほらほらあー」
イケメンが、これ見よがしに顔やスタイルをメアリに見せつけながらまくしたてます。
それは、メアリとしてもイケメンは大好物ですけれども、あからさまにがっつくわけにもいけません。ちょっとはしたないですし、毒だったら食あたりしそうです。
「あまりの美形ぶりに、俺が誰だかまだ分かってないなー? 聞いて驚け、俺様はてめえのサンダルフォンだぜ」
「その、サンちゃんさんが、この私に何用……って、ええっ!?」
自慢げに言うイケメンに答えつつ、突然メアリが思いあたりました。サンダルフォンといえば、メアリが預かっているCAMの名前ではないですか。このイケメン、CAMのなれの果て、いえ、昇華した姿だと言うのでしょうか?。――本当に? とても、元がR7エクスシアとは思えない変貌ぶりなのですが。
「どうだ、すげーだろー」
なんか、すっごく自信過剰です。この性格、どこから来た物なのでしょうか。
いやいやいや、それはさておいて、この状況は、メアリにとってなんという御褒美でしょう。メカの擬人化、これは思ってもみなかったことです。神様、ありがとう。どこの神様かは知りませんが……。
とりあえず、ちょっと分解してみたいかもなどと思ってしまいます。きゃっ♪
おっと、あまり嬉しそうな顔を表に出してしまっては……。
「嬉しそうだなあ」
「そ、そんなことは、な、ないですよ……」
何だか心の中を見透かされたようで、慌ててメアリが否定しました。まあ、すでに隠しきれないほど嬉しいというのが正解なわけですが。
「それにしても、ちょっと、言葉遣いが……」
そのへんがちょっと残念イケメンに片足ツッコミかけているかもと、メアリが思いました。
「似てるだろ? お前に」
なんだか、自慢げな顔で、サンダルフォンが言いました。
確かに、メアリが覚醒したときの、ちょっと箍(たが)が外れた感じに似てはいます。建前ではなく、本音ダダ漏れとか。猫は飼い主に似てくると言うか、CAMも乗り手に似てきてしまうと言うことなのでしょうか。それとも、似た者夫婦? いやいやいやいや……。
「まあ、搭乗者に似たと言うかなんと言うかだな。にしても、普段のお前って、ずいぶん違うなあ。猫被ってんのか?」
図星です。
普段考えていることが一般人からするとあまりにも突拍子もないことなので、さすがにある程度自重しているというわけなのですが。それでも、覚醒してしまうと、隠していた心がオープンになってしまいます。本当の自分が表に出てきてしまうのです。まあ、それこそが、メアリの力の源でもあるわけですが。文字通り、覚醒してしまうわけです。そういえば、サンダルフォンに乗っているときは、ほとんど覚醒状態でした。
「まあ、それでも、俺は結構気に入ってるんだぜ」
ちょっと顔を赤らめて、どう答えたらいいのか戸惑っているメアリに、サンダルフォンがあらたまって言いました。
「俺のことメンテしたり、大事にしてくれるしな。だからさ、……死ぬなよ。まだまだお前と一緒に戦いたいんだからよ、メアリ」
そう言うと、サンダルフォンが腕をメアリの首に回して自分の方にぐいと引き寄せました。
突然のことに、メアリが抵抗できません。抵抗する必要もありません。
「ぎ、擬人化、さいこ~」
そのままどっぷりとはまり込んでしまうメアリでした。
●ぱわふりゃあ!
「なんだか、うるさいなあ……」
どこからか、さいこーと叫ぶ女の子の声が聞こえて、南護 炎(ka6651)は目を覚ましました。
何か騒ぎでも起きているのでしょうか。
「なあに、何も変なことは起きてはいないさ」
野太い声が部屋の中に響きました。
「なんだ、なんだ!?」
さすがに、一発で南護炎の目も覚めます。今のは、誰の声でしょうか。
「やあ」
ベッドの上で上半身を起こした南護炎に、えらくガタイのいい漢(おとこ)がポーズをとって挨拶しました。鮮やかな青い柔道着を着ていますが、その発達した筋肉をつつみきれず、思いっきり胸元などからはみ出しています。柔道着の胸には、『覚悟完了』と書かれた布が縫いつけてありました。
「まだ寝ぼけているな。もう一度寝よう」
そう決めつけると、南護炎は急いで布団に潜り込みました。
「なぜ二度寝する! さあ、起きろ! そして、オレの……筋肉美を見よー!! ムン!」
南護炎が頭から被った掛け布団を力任せに引っぺがすと、またもやポーズをとって腕の筋肉を見せつけながら漢が言いました。
「君は、何者だ!?」
「お前のパートナーだろうが。ムン!」
大声で誰何する南護炎に、またもやポーズをとって漢が答えました。いちいちポーズをとらないと、会話ができないのでしょうか。
「そんなガチムチ兄貴をパートナーにした覚えはない!」
きっぱりと、南護炎が言いました。かねてから、パートナーとするのであれば、ナイスバディのぼんきゅっぼんの強い女の子と決めています。それ以外は却下です。
「却下も何も、オレはフレーム・オブ・マインドだ。であれば、お前のパートナーであろう!」
暑苦しく、漢が名乗りました。
「フレーム・オブ・マインド? それは、俺が乗っているCAM、R7エクスシアのパーソナルコードだぞ」
南護炎がちょっと混乱します。確かに、フレーム・オブ・マインドであるならば、自分のパートナーだと言えます。でも、フレーム・オブ・マインドはCAMです。人間ではありません。いったい、何がどうなっているのでしょうか。
「その通り! オレがそのCAMのフレーム・オブ・マインドなのだあ!!」
「いちいちポーズをとるなあ!!」
南護炎が叫びましたが、そこはスルーするフレーム・オブ・マインドです。
「どーしてこーなった!?」
「お前に会うために、やってきたのだ!」
「だったら、なぜ、超絶美少女になって現れない!」
そうだったら、すぐさま受け入れるのにと南護炎が言いいました。ある意味、魂の叫びです。普通は、CAM少女でしょう、絵面から言っても。
「筋肉は嫌いかあ!!」
「好きだあ!!」
突如フレーム・オブ・マインドに聞かれて、思わず南護炎が即答してしまいました。
「ならばよし。存分に、オレの筋肉を堪能するがいい。ムン!!」
そう言うと、フレーム・オブ・マインドが柔道着を脱いで、上半身のムキムキ筋肉をもりもりと盛り上げさせます。
「だが、堪能するのは、君の方だ!」
負けじとベッドを飛び降りると、南護炎もポーズをとりました。なぜか、パンツ一丁です。まあ、その姿で寝ていたのでしょう。
フレーム・オブ・マインドのように、全身ムキムキというわけではありませんが、南護炎も十分に細マッチョです。全身筋肉で、不必要な駄肉は一つもありません。
パートナーならば、女丈夫(じょじょうふ)のぼいーんばいーんな美女が理想ですが、CAMはちょっと違います。共に行動する相手と言うよりも、一心同体となって一緒に戦う存在です。だとすれば、いろいろと南護炎と共通する存在なのではありませんか。似ていても仕方ないのかもしれません。
ならば、確かめねばなりません。
フレーム・オブ・マインドが自身の筋肉を自慢するのであれば、南護炎の筋肉についてこられなければ、相棒としての資格がありません。
「ムン!」
「なんの、ムムムムン!」
「だったら、これでどうだ、ムンムン!」
「いや、これぐらいはしてほしいものだな。ムーン!!」
何だか、筋肉対決になってきてしまいました。
お互いに、様々なポーズを取り合って、自分の筋肉を相手に見せつけて自慢します。
いったい、どれだけの時間、筋肉対決を続けたのでしょう。
二人の筋肉からは、熱意によってもうもうと湯気がたちのぼり、汗でテカテカと光り輝き始めてきました。
美しい。
正に、これこそ筋肉の輝きです。
「炎よ。お前の細マッチョボディも、なかなかの美しさだな。世界で2番目の美ボディだ」
南護炎を讃えつつも、フレーム・オブ・マインドが自分の勝利を力強くアピールしました。
「フレーム・オブ・マインドよ。お前のガチムチボディ、なかなかイケてるぜ!! ただし、世界じゃ2番だ」
南護炎も負けてはいません。チッチッチッと人差し指を軽く左右に振って、自らの勝利を宣言します。
「はっはっはっ、結局、オレたちが世界のワンツートップであることだけは、どうやら間違いではないようだな」
「そうだな。俺たちが世界の頂点だ」
とりあえず、二人の他に敵はいないことを確認します。
「ワン、ツー、フィニッシュ!!」
二人一組でポーズをとって、南護炎とフレーム・オブ・マインドが叫びました。
「だが、敵がいないというのも、おかしなものだな」
ふいに我に返って、南護炎が言いました。だいたい、ここはどこなのでしょう。最初は自分の部屋だと思い込んでいましたが、明らかに違います。そして、フレーム・オブ・マインドのこの姿です。
「夢のよう……、そう、いい夢なのかもしれないなっ!」
フレーム・オブ・マインドが言います。
そう気づいてしまえば、遙か彼方に巨大な扉が見えました。
「さしずめ、夢の扉というところか」
もう、理不尽さにも驚いたりはしませんが、これではっきりしたとも言えます。
「にしても、遠いなあ」
少し面倒くさそうに南護炎が言いました。
「なあに、今の俺たちなら一っ飛びだろうが」
「ああ、その通りだ!」
フレーム・オブ・マインドの言葉どおり、肩を組んだ二人のジャンプ一つで、一気に扉の前まで移動します。
天をつくような扉が目の前にあり、巨大な鎖で封印され、錠前がついていました。
「今の俺たちは無敵だな」
「ああ。だが、歪虚と戦うには、今のオレの身体は少し心許ない」
南護炎の言葉にうなずきつつも、フレーム・オブ・マインドがちょっと顔を顰めました。
「やはり、この筋肉に鋼鉄の装甲を纏ってこその最強。炎を守り、炎の夢である『強大な敵から家族や友人を守る』ための力となるためには、元に戻るのがいいのだろう」
「ああ。ここには、俺たち以外に守るべき者がいない」
そう確かめ合うと、フレーム・オブ・マインドと南護炎がお互いにうなずき合いました。
「ならば、戻るか」
「ああ、そうしよう、相棒よ」
二人が、扉の左右にがっしりと手をかけました。そのままフルパワーで左右に引っぱります。錠前だろうと、鎖だろうと、関係ありません。扉が開きだし、鎖がギシギシと悲鳴をあげます。錠前は今にも砕け散りそうです。
「いい夢だったな!」
●夢の褥(しとね)
身体は、床から数十センチ浮いています。いや、正確には、ベッドの上にいるのだけれど。でも、この高さが大事なのです。
白いシーツに頬を押しあてると、マットレスのスプリングが軽く押し返してきます。
手足をのばせば角に届いてしまいそうなベッドの空間ですが、この広さは、今は自分だけの物だと、マルカ・アニチキン(ka2542)は目を閉じたままニマニマしていました。
ああ、なんという征服感。
手をのばせば……、あれっ!?
手をのばしたら、何かにぶつかりました。
誰かいる!?
「うーん、なんじゃ、朝からうるさい……。むにゃむにゃむにゃ……」
女の子がいます! それも、ちっちゃい!
いったい、なんで幼女と添い寝しているのでしょう。寝ている間に産んだ覚えはありません。いえ、そんなことで突如幼女が湧いて出るだなんてことはない……、いやいやいや、なんか根本から間違っていませんか?
「だから、少し落ち着くのじゃ。まったく、これだからマニカは……」
目をこすりながらそう言った幼女は、大あくびをしてから、うーんっと身体をのばしました。それから、よいしょっと身体を起こします。
シルクのベビードールが、独特の光沢を放ちます。それ以上に美しい光沢を放つのが、幼女の豪奢な銀髪です。ちょっと寝癖がついて、あっちこっちぴょこぴょこと撥ねていますが、そこがまたちょっと可愛らしくもあります。
なのですが、でも……。
「なんじゃ、何か言いたいことがあるのか。ほれ、言うてみい、言うてみい!」
ロリ婆です。
というか、いったいこの子は誰? なんで、マルカと一緒に寝ていたのでしょう。
「なんじゃと!? お前はいったい何を言っておるのじゃ、この痴れ者めが!」
呆れたように、幼女がマルカを叱責します。
「このわしが分からんと申すか。コシチェイじゃ。見て分からぬのか、まったく……」
いえ、見た目では全然分かりません。分かるはずもありません。だいたい、コシチェイは老猾なイェジドのはずです。
その証拠に、壁には、そのイェジドのコシチェイとマニカがならんで映っているポートレートが飾ってあるではありませんか。
「うん、なかなかにいい姿絵じゃ」
あ、そういえば、なんなんでしょうか、これは。もしかすると、リアルブルーの人たちが言っている写真という物でしょうか。すっごくリアルです。
「それよりも、何だか変じゃな」
変? まあ、変と言えば、一番変なことになっているのはコシチェイなのですが、他にも何かおかしいことが――ありありですね。いったい何が起こっているのでしょう。
「よし、確かめに行くのじゃ。早く起きんか、早く早く!」
コシチェイが急かします。まったく、大人なのか子供なのかよく分かりません。見た目は、ロリっ子そのものではありますが。
急きたてられるようにして、マルカがベッドから這い出しました。長いピンクの髪と同じ色の、ピンクのパジャマを着ています。
着替えを探すと、忽然と部屋の隅にタンスが現れました。便利です。
さっそく物色すると、いつもの洋服が見つかりました。白いブラウスと、デニムのスカートと、白いストッキングを取り出します。
なぜか、同じ服が、今の幼女コシチェイサイズで別に一揃いありました。ペアルックです。可愛い……。
まるで、親子のよう……。
「姉妹であろう?」
すかさず、コシチェイが訂正しました。
さすがにそれは……。
「異論は許さぬ! だいたいにして、そんなことだから、こんな空間に閉じ込められるのじゃ」
それは……。
やっぱり、ここは変な世界なのですね。今までずっと閉じ込められていたのでしょうか。
「あれを見れば分かるであろうに。そんなことでは、マギステル失格じゃぞ」
遠くに見える巨大な扉を指して、コシチェイが言いました。
異様です。確かに、あんな物がある場所なんて、まともな場所であるわけがありません。いったい、いつこんな所へ連れてこられたのでしょうか。いったい、誰が……。
「まったく、どこのどいつじゃ。わしをこんな姿に変えおって。まあ、それほど悪くはないがな……」
まんざらでもなさそうに自分の姿を見ながら、コシチェイが言いました。
それにしても、どうやって脱出すればいいのでしょうか。
「なあに、ああいう、変なモニュメントは、昔からぶち壊せばよいと決まっておる。だから、さっさとやってしまえ。それで終(しま)いじゃ」
えー、それはちょっと乱暴です。
「やっておしまい!」
えー……。
とにかく、謎の扉に近づいていくと、すでにこじ開けようとしている人たちがいました。なんだか、ムキムキです。
「おお、もう頑張っておるのがいるな。さあ、お前も一緒に参加してこい」
そうは言われても、ちょっと……。さすがに、あのムキムキに交じるほど、マルカにはムキムキが足りません。
「お前は、何を言っておるのじゃ!?」
呆れたように、コシチェイがまじまじとマルカを見つめました。そんなに見つめられても、怪力など出てこないのですが……。
「アホかあ! 叩かれたいのか、お前は!」
ああ、ごめんなさい、ごめんなさい。
「お前には、魔法があるだろうが、魔法が。なんのために、マギステルをやっておる!」
叱られてしまいました。
でもいいのでしょうか?
「構わぬ。やれ~♪」
じゃ、ファイアーボール。
ちゅどーん!
あっ、やっぱり、他の人を巻き込んじゃいました。
でも、おかげで、扉は開いたようです。
「さて、では、戻るとするかの。この世界にも、この姿にも、名残はおしいが、誰が他人の思い通りになるものか。ははは、ば~か!」
点にむかってあっかんべーをすると、コシチェイはマルカのお尻を押して、扉へむかって走りだしました。
●道場
カコーンという鹿威しのたてる音で、榊 兵庫(ka0010)は目を覚ましました。
気がつけば、日本庭園を臨む渡り廊下を歩いています。
見慣れた景色のようでもあり、ひどく久しぶりのような気もします。
ひんやりとした木の感触を素足の裏で味わいつつ進んでいくと、道場に突き当たりました。大きな建物ですが、榊兵庫には、はっきりとここは道場だと分かります。いえ、なぜ分かるのでしょうか。
扉を引き開けて中へと入ると、板張りの広間の中央に、一人の娘が待っていました。
長躯に紫紺の小袖と白袴を通し、背をシャンとのばして、微動だもせずに正座しています。後ろに流した艶やかな黒髪は、高い位置で留め、そのまま紺の紐を編み込んで総髪(そうがみ)にしています。静かに軽く目を閉じた顔はやや細く小さく、凜とした覇気につつまれています。そのかたわらには、一柄(ひとがら)の薙刀(なぎなた)がおかれていました。
「お待ちしておりました、主殿(あるじどの)」
静かに目を開くと、娘が深々と榊兵庫にむかって頭(こうべ)を垂れました。
「ええっと、どちらさまでしたっけ?」
誰だか分からずに、榊兵庫が聞き返しました。相手は自分のことを知っているようですが、榊兵庫としてはトンと見覚えがありません。
「私をお忘れとは、情けない。鍛錬の時間にも遅れておいでになるし。たとえ主殿であっても、少し気が緩んでいませぬか?」
真摯な視線を返しながら、娘が言いました。
「すまない、本当に……」
「烈風でございます」
困ったように答える榊兵庫の言葉を遮るようにして、娘が名乗りました。
「烈風……。これは奇縁だな。俺のCAMと同じ名だ」
「そこまでお忘れとは……。私が、その烈風ではありませぬか」
軽く溜め息をつきながら、烈風が言いました。その言葉に、ああ、そうかと榊兵庫が両手を打ちます。突然、すべてを納得しました。ただ、その理由は分かりません。この目の前の娘が、間違いなく烈風であると分かっただけです。これは、夢なのでしょうか。
「それでは、いつものお手合わせ、お願いいたします」
そう言って一礼すると、烈風が立ち上がり、取り出した襷(たすき)の端を軽く口に銜え、淀みない所作でそれを掛けました。そして、薙刀を手に取ります。
得物を探した榊兵庫は、壁際に槍立てを見つけると、その中から一条の十文字槍を手に取りました。身長よりも少し長い程度で、烈風の薙刀とほぼ同じ長さです。これならばリーチに関しては対等でしょう。
軽く一振りすると、穂先が空を鋭く切り裂きます。しっくりくる確かな重さは、使い慣れた物のようでした。
同じように薙刀を一振りして、烈風もバランスを確かめます。その刃先の描く軌跡は二人共そっくりでした。同じ榊流の動きです。
「では」
お互いに一礼すると、流れるような動作で構えに入ります。
互いに構えた槍と薙刀の切っ先が、ピタリと互いの急所にむけられ、わずかな歩の動きにも外れることがありません。
しばしの読み合いの後、烈風の薙刀がスーッと上に掲げられました。榊兵庫には、ゆっくりとした流れるような動きとして目に映りましたが、実際には一瞬の出来事です。そのときには、榊兵庫は槍を引いて腰だめに構えなおしていました。
気合い一閃、薙刀が大上段から振り下ろされます。やや動きが大きいですが、強烈な一撃です。
けれども、それが振り下ろされるよりも早く、榊兵庫は横に回り込んで薙刀の太刀筋を外します。
間髪を入れず、榊兵庫自らの身体を支点として、槍を横薙ぎにして烈風の胴を狙おうとしました。
とっさに烈風が身を退くと同時に、勢いよく振り下ろされたはずの薙刀の先が、空中でクンと軌道を変えて榊兵庫に襲いかかってきました。
それさえも予測していたのでしょうか、それとも勝手に身体が動いたのでしょうか、榊兵庫は槍の穂先を床に叩きつけ、その動きのままに槍を立てました。槍の柄が薙刀の柄と交差し、それを受けとめます。
それに留まらず、穂先を支点としてぐいと回転させた榊兵庫は、一瞬にして石突きを烈風の喉元へと突きつけていました。
「お見事です、主殿」
烈風が、負けを認めて言いました。その声に震える喉が、軽く石突きに触れてひんやりとした感触が伝わってきます。もし榊兵庫が寸止めしなければ、そのまま喉をつかれて体勢を崩したところへ、止めの一撃が襲いかかってきたことでしょう。
「まだまだでございますね」
一礼して、烈風が言いました。
「いや、その動き、十分に榊流に通じるところがある。教えがいがあるな」
ちょっと嬉しそうに榊兵庫が言いました。
R7エクスシア型である烈風の操縦にもずいぶんと慣れてきて、身体にしっくりとくるようになったと思っていましたが、人が機械に慣れるのと同様に、機械も人に慣れていくのだと実感できます。榊兵庫の身体に染みついた榊流の動きは、このまま烈風の動きとしても記録されていくのでしょう。
いや、今の烈風は機械ではありません。それでも、烈風は、烈風です。
「私の顔に、何かついていますか?」
緊張を解いた烈風が、ちょっとキョトンとした顔で榊兵庫の視線を見返しました。そんなちょっとした動きに、なんとも言えない愛嬌があります。
「これも悪くはない。だが、やはり、その……」
「奇妙でございますか」
楽しくはあっても、違和感は常に残っています。
「ここは、どこなのだろう」
二人揃って、外の景色を確かめに行きました。
道場の外、夜とも朝ともつかない仄暗い空が重苦しくたちこめ、そこに巨大な塔が建っていました。いえ、塔ではありません、巨大な扉です。石の柱の間には、金物で補強されたがっしりとした朱塗りの木の扉があります。閉ざされた扉には、重苦しい鎖と錠前がかけられていました。
門であるのは確かなのに、建物も壁もありません。これでは、門の意味がないではありませんか。
ですが、門の裏に回ってみようとした榊兵庫たちは、すぐにその異様さに気づきました。どんなに回り込んでも、門が自分たちに正面をむけているのです。これでは、横を回り込んで裏側に行くことはできません。そのため、裏がどうなっているのか、確かめようがありませんでした。
だいたいにして、この門が、見た通りの物である保証もないのです。もしかしたら、人によってはまったく違うデザインの門に見えているかもしれません。
「まるで結界だな」
「この先に何かが封印されてでもいるのでしょうか」
榊兵庫の言葉に、烈風が小首をかしげました。その仕種に、いい姿だとちょっと思いながらも、榊兵庫がすぐに視線を門へと戻します。
「いや、封印されているとしたら、それは俺たちの方だろう」
どう見ても、ここが現世だとは思えません。
「であれば……」
「押し通るまでのことでございますね、主殿」
「うむ」
ニッコリと笑いながら言う烈風に、榊兵庫がうなずきました。すでに、阿吽の呼吸です。
おそらく、この門を通れば、元の世界に戻れるのでしょう。理由は分かりませんが、それで合っている気がします。
ただ、もったいないような気もします。
榊兵庫は、改めて烈風の姿を見ました。
「これは、これで……」
「主殿」
戒めるように榊兵庫を見据えて、烈風が言いました。
「私は、いつも主殿の側におります。こうして相まみえるのは楽しゅうございましたが、現し身は主殿をお待ちしているはずです。我が身は、主殿と一体になってこそ意味を成す物。ここに囚われてはなりません」
「ああ、分かっている」
名残惜しさを振り捨てて、榊兵庫が答えました。
「共に戦えることが、我が喜びです、主殿。私は、主殿の鎧であり、槍であるのですから」
烈風が、持っている薙刀を錠前にむけて構えました。薙刀と身体が一体となり、一点の曇りもなく意識が研ぎ澄まされていくのが分かります。
「ああ。お前は俺の槍に違いない」
同様に、榊兵庫も槍を構えます。
「それでは!」
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互いの思いを込めて、榊兵庫と烈風は槍と薙刀を突き出しました。
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最終発言 2017/04/07 20:37:05 |