• 郷祭1014

【郷祭】芋煮戦争

マスター:cr

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2014/10/24 15:00
完成日
2014/10/29 06:08

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 川を船が進む。
 両岸には人々が集っている。
 やがて船は止まり、船上から顔を出した女性が両岸に集った人々に声をかける。
「お約束の大豆と塩をお持ちしました」
 船に乗っていた女性、バロテッリ商会の番頭であるモア・プリマクラッセは指示を出して積荷の大豆と塩を降ろしていく。そんなモアの元にに両岸から二人の人物がやって来る。
「今年も持ってきてくれて助かったべ」
「んだ、これが無きゃ行けねぇ」
 ここは農耕推進地域ジェオルジ。モアに声をかけた人物は村長達である。二つの村は間に流れる川を境目にして存在しており、その位置関係上作る作物はほぼ同じである。また、川一本挟んだだけという行き来のし易さからか、人の交流なども多く行われており、いさかいとは無縁の村々であった。


「これらの材料で調味料を作るのですか」
 川の両岸に運ばれた大豆と塩の袋を見上げてモアはそう問う。先日、和食レストランの開店のためにバロテッリ商会では和食の試食会を開いていた。そのための調味料をモアはここで手に入れたのだった。
「んだんだ、これが無いと立ちゆかねぇべ」
「そうだ、ちょうどいま芋煮やってるところだべ、折角だから食べていってくんろ」
 川の両岸では人々が集まってかまどをこしらえ、大きな鍋を用意している。この村々では人が集まったら芋煮という料理を作ることになっていた。
 主役は村の特産品であるサトイモ。これを鍋で煮るだけのシンプルな料理だが、沢山の人で協力して作り、皆で一つの鍋をつつくことで交流が生まれる、そういった側面もあり、些細な事でも集まるたびに芋煮を作るのが風物詩となっていた。
「ああ、それは興味があります。どうやって作るのかも知りたいですね」
 和食レストランのメニューに入れてもいいかも、とモアは思っていた。そこで素直に村長達にお願いするモア。
「「ああ、見てくんろ」」
 村長達は準備を始める。
「まずは鍋で芋を煮るんだ」
 大量の水とサトイモが鍋に投入される。しばらく経つと鍋がふつふつと沸き出す。
「で、こうなったらここに豚肉を入れるんだ」
「はあ?! 何言ってるんだべ! 芋煮には牛肉だろが!」
 肉を投入する段階で和やかな雰囲気が一遍、村長達の言い争いが始まる。モアは何とか村長達をなだめ、次の手順に進む。


 ややあって肉も煮えたところで、村長は容器を取り出す。
「ここで味の決め手、ショウユを入れるんだべ!」
 彼が言うショウユとは、リアルブルーで言われる醤油のことである。リアルブルーから伝承した醤油がこの村には伝わっており、毎年芋煮のために結構な量をに仕込むのであった。モアが持ってきた大豆と塩は醤油を仕込むための材料なのである。
「はあ?! 何言ってるんだべ! ミソに決まってるべ!」
 川を挟んでもう一つの村の村長が言うミソとはつまり味噌のことである。リアルブルーから伝承した味噌がこの村には伝わっており、毎年芋煮のために結構な量を仕込むのであった。モアが持ってきた大豆と塩は味噌を仕込むための材料なのである。
「何言ってんだ、ミソなんぞ入れるなんて考えられないべ」
「んなショウユをドボドボ入れて真っ黒けにしたのが上手いわけないべ」
「お前んとここそ、そんなもの入れて濁らせて……この田舎もんが!」
「お前んとここそ田舎もんだろが!」
 こうなると意地の張り合いである。どんどんエスカレートしていく両者の喧嘩。そしてその喧嘩にモアも巻き込まれるのであった。


「こうなったら今度こそどっちが上か、決着をつけるべ!」
「ああ、望むところだ、美味い方が村長祭に持って行って、負けた方はもう作らないって約束するべ」
 事ここに居たり、モアも聞き逃せない話が出てくる。どちらかが作らないとなると、醤油か味噌が作られなくなるのである。そうなるとこの二つをこの村から仕入れようと考えていたモアにとっても一大事だ。
「よーし、番頭さん、今から二つの芋煮を食べ比べてどっちが美味いか決めてくんろ!」
「え? 私ですか……」
 しかも審査員はモアになってしまった。その場に居る全員の視線がモアに注がれる。玉虫色の決着は許されない雰囲気だ。どうしよう、思案を巡らせたモアはとりあえず時間を稼ぐことにした。
「……それでしたら、私一人で決めるのもどうかと思いますし、たくさん人を集めて芋煮会を開きませんか?」
「アテはあるのか?」
「ハンターオフィスに頼むといいと思います」
 かくしてハンターオフィスに芋煮会参加者募集のお知らせが出るのであった。

リプレイ本文


「もいお! もいおー!」
 現場へ向かう道すがら、狛(ka2456)がはしゃいでいた。彼が言う「もいお」とは、どうやら芋の事。狛は芋が大好物。自分の大好物を好きなだけ食べられる、ということで彼は大喜びだ。
「こっちで芋煮食えると思わなかったわー、マジで!」
 友人の春次 涼太(ka2765)もはしゃいでいた。春次はリアルブルー出身である。かの地で食べた芋煮の味が忘れられない。
「……って言っても都会育ちだったから、あんま食べた事ねーんだけどさ。だから余計楽しみっていうか! めっちゃ食うぞー!」
 お腹をすかせ、二人は村への道をウキウキしながら歩く。
 そんな二人を見守るように、後ろから付いていくのは薄氷 薫(ka2692)とカミーユ・鏑木(ka2479)。少し呆れながら騒ぐ二人を見ている薄氷は、隣にいる鏑木が難しい顔をしていることに気づく。
「ん? どうしたんだ? おたく、芋煮の本場の出、なんだろ?」
「正しくはあたしのダディが、だけどね……」
 薄氷の問いに難しい顔をして答えるカミーユ。本場の味をよく知っているだけに、何か思うことがあるようだ。
「お肉ばかりで野菜を摂らない若お嬢様のために、芋煮を覚えて帰らないといけませんね」
 そう言うのは、アミグダ・ロサ(ka0144)。彼女はさるお嬢様に仕えるメイドだ。さらに言えば、彼女が仕えるお嬢様はとあるサーカス団の娘である。となると、メイドである彼女には団員へのまかないを任される。まかないとしては、芋煮のような大鍋で作れる料理は大変都合がいい。
 そこで、アミグダは芋煮の勉強をして帰ろうと考えていた。
「ここが、和食の時にお世話になった村か……」
 藤堂研司(ka0569)は、以前の依頼を思い出していた。モアが依頼人となって行われた和食の試食会。その際、モアが用意した醤油と味噌は、この村々から手に入れたものだった。
「ええ、それでなんですが……」
「え!? なんてこった! 芋煮派閥の争いは異世界にまでも!?」
「リアルブルーにもあったのですか……」
 モアからの詳しい説明を聞き、驚愕する藤堂。そして、リアルブルーにも芋煮戦争があったことを聞き、暗鬱たる気持ちになるモア。
「味噌も醤油もどちらも優れた調味料で、欠かす事の出来ないものですのに。どちらかが失われるなんて、これは食文化の危機です。なんとか和解に持ち込みたいですね」
 同じく和食試食会に参加した日下 菜摘(ka0881)も状況を聞き、危機感を強める。その言葉に強く同意するモア。
 一方、もう一人の和食試食会参加者だった葵(ka2143)は、別の反応を示していた。
「ああ、実家の芋炊食いてぇええええ!」
「いもたき、ですか……?」
「ああ、芋煮じゃないんだけど激似料理があるんだよ!」
 と熱く語り始める葵。そんな会話をしているうちに、芋煮会会場に到着するのであった。


「なんだか険悪っすねー……」
 現場の雰囲気は異様だった。ピリピリした空気、ムスっとした表情の村人達。川の両岸に分かれた村人達は視線を合わせようともしない。
「『え? 好きなだけ芋煮食べられるんじゃないの?』」
 その空気を感じて異変を察したアナベル・ラヴィラヴィ(ka2369)も、不満を口にする。アナベルは沢山芋煮を食べるために、お腹を限界まで空かせてきた。さあ食べようと思ったら、この状況だ。少なくとも美味しく食べる雰囲気ではない。
「芋煮と言えば……イベントの終わりや冬に忙しくなる前に皆で集まり、ほっとする。そんな穏やかなイベントだったと思うのですが……」
 張り詰める緊張感に石橋 パメラ(ka1296)も小首を傾げる。このような雰囲気の芋煮会など見たことが無い。だが、パメラは別の場所でこの雰囲気を味わったことが有った。
「ここは戦場……ですわね」
「俺の出身の静岡には無かったが……これが話に聞く……!」
 藤堂が戦場という言葉に反応した。
「芋煮戦争……」


 雰囲気はとても芋煮会を楽しむというものではないが、何はともあれ芋煮会を開く必要がある。
 そこで、料理に覚えのある者たちが川の左右に別れ、芋煮作りを手伝い始めた。
「力仕事やナイフの扱いは任せてください!」
 パメラは醤油派の側に向かうと、河原から大きめの石を見繕って並べていく。あまり体格の大きくないパメラだが、言葉通りひょいひょいと手際よく石を並べた。薪をくべる穴、空気を入れる穴を考慮して石を並べるとかまどが出来上がる。
「ふふふっ……とても、楽しみです。軍に入ってからは中々芋煮会も参加できなくて……」
 かまどを作り終えたパメラは、材料の下処理に入る。ナイフで切りながら、周りの村民に話しかけるパメラ。しかし、ピリピリしたままの村民たちはそっけない返事。
「作業中の世間話も芋煮会の醍醐味ですのに……」
 微笑んだまま、一歩引くパメラ。
「実家が懐かしいなぁ……」
 同じく醤油味の芋煮作りを手伝いながら、遠い目をしてつぶやく葵。しみじみそうつぶやく彼の姿は、周りの人々の郷愁を誘っていた。

 それに対し、味噌派は芋の下茹でに入っていた。水と芋が鍋に入れられたところで制し、少量の豚肉と味噌を加えたのは菜摘。こうして水に旨味を引き出すことで、より芋に味が染み込みやすくなる。
「……ちょっとした手間で仕上がりは変わってきますから、ね」
 あくを丁寧に掬いながら、そう語る菜摘は話を続ける。
「ところで、皆さん向こうの村の芋煮を食べたことはあるんですか?」
 村民たちはなんと答えたらいいか、反応に困ったような戸惑いの表情を見せる。その空気を打ち破るように「食べたこと無いべ! 食べる必要なんて無いべ!」と村長が叫んだ。
(なるほど……これは試食会が勝負、ですね)
 菜摘は内心そう思っていた。
 一方アミグダは芋煮作りを手伝いながら、先日のことを思い起こす。ヴァリオス魔術学院の資料館、そこで彼女はあらかじめ芋煮の成り立ちを調べていたのだ。
「この川を登って来た商人が、船が出るまでの間腹ごしらえと時間つぶしのため、積荷の芋を煮て食べたのが始まり……」
 目の前を流れる水流を見て、かつての光景に思いをはせる。
「しかし、そうなると……」
 アミグダの中では、すでに一つの結論が出ていた。


 両方の芋煮が煮え始めると、早速試食会が始まる。
「みそはとても濃厚でおいしいっす!」
 まずは味噌味の方に飛んでいった狛。仮面を外さず口に入れ、一瞬でもぐもぐと食べると大喜びで尻尾をぶんぶん振る。
「おっちゃん! この芋煮うめーなー!」
 春次も味噌味の芋煮を食べてにかっと笑顔。
「かおるーん! しょうゆわけてほしいっすー♪」
 そのまま二人は対岸に居る薄氷とカミーユの元へ向かった。
「やっぱり牛肉と醤油の相性は最高ですわ……」
 一方、パメラは醤油味の方から食べ始める。彼女の故郷で食べられている芋煮は、醤油味。やはり故郷の味は落ち着く。
「『ワオ! ワタシ味噌派だけどこの醤油味はイカしてマース!!』」
 と、突然エセアメリカ人口調で評価を始めたのはアナベル。台本を読んでいるような特徴的なしゃべり方で評価する。そのまま対岸に移動して味噌味を一口。
「『醤油派の某の舌を唸らせる味噌味……!』」
 と、口調もガラリと変えて一言。しかし本当は醤油派なのか味噌派なのか、これでは全くわからない。
「お味噌も初体験ですが、美味しいですわね。なんていうか優しい味わいですね……」
 パメラも対岸に移って味噌味を試食。今までとは違う味わいに感動しているようだ。
「どっちかってーなら、味噌汁の時お世話になった味噌で」
 藤堂は両方を食べた上で、一度結論を出す。だが、これで最終決定したわけでは無さそうだ。

「ん? あぁ、じゃあ交換な。あーん」
 狛と春次がやってきて、薄氷は醤油味の芋煮を二人に食べさせる。

「醤油味の芋煮って初めて食べたけど、めっちゃ美味いわ!」
「醤油もさっぱりしてて、めちゃくちゃおいしいっす!」
 と醤油味を褒めちぎる二人。狛は味噌味を食べた時と同じように尻尾をふりふり。
(どっちかっていや、醤油の方が美味いけど、どっちも味濃いなぁ~。なんか、醤油とか味噌の主張が強い感じ? 俺、個人的には素材の味が生きてる料理が好きなんだよね)
 だが、二つの味を食べ比べた薄氷は首をひねっていた。
「で、かみーゆくんは食べないっすか?」
 と、狛はカミーユに声をかける。伏し目がちにしていたカミーユは突如顔を上げると、一言こう叫んだ。
「なんで、この2種しか選択肢がないの?」


「あたしのダディの出身地では醤油と味噌をブレンドした豚汁風味だったわよ? それを差し置いてこの2種で優劣付けなんて、失礼しちゃうわね!」
 そう叫んだカミーユはやおらかまど作りを始める。かまどが出来上がると「これ、どうぞ」とモアがこんなこともあろうかと持ち込んでいた鍋を提供した。
「おたく、俺にもちょっと、鍋貸してくんねー?」
 首をひねっていた薄氷は、そんなモアの姿を見て協力を申し出た。
「出来りゃ土鍋……土でできてるやつがいいな。あとさ、鶏はねーの? モモでもムネでもいいんだけどあったらちょっと分けてくんねー? あー、あと昆布? 煮干? どっちでもいいや。少しくれると嬉しいんだけど」
「ええ、全部ありますよ」
 以前の和食試食会で作っていた様子を見て、モアはこんなときのために材料を用意していた。薄氷はさっそく水を張った鍋に昆布を入れ、出汁を取り始める。
 一方その頃、醤油派の手伝いが終わり、出来上がった芋煮を食べていた葵がやおらこう叫んでいた。
「……うう、実家の! 実家の出汁味が食いてぇ!」
 そのまま別の鍋を用意して調理を始める葵。あまりの剣幕に周りの村人達も止められない。
「旨いんだよ! 醤油美味いんだよ! だけどな、似てるからこそ、実家の味食いたいんだよ!」
 と言いながら、水を張った鍋の中に煮干を入れていく葵。

(俺は自分で作ったブレンドがいいんだがなぁ……)
 藤堂は両方の芋煮を食べた後、そう思っていた。どちらも甲乙つけがたいが、もっと美味しいものがあるのではないか。そう思った時、芋煮を作り始めているカミーユの姿が目に入った。カミーユと二人で芋煮づくりに取りかかる。
「どて煮とかどうだろう。豚にも、牛にも、無論芋にもよく合うし醤油と味噌がケンカしないぜ!」
 そう言って、まずは鍋に芋を入れる前にスジ肉を加える藤堂。長く煮込んで柔らかく食べられるようにし、肉からの旨味を引き出す藤堂の工夫だった。
「それに、こいつは調理中の香りがたまんねぇんだ」
「言われなくてもわかってるわよ」
 とカミーユがウィンク。
「さ、食べに来てくれる皆のためにも……丹精込めて、煮込むとするか!」
 調理を続ける二人。
 やがて藤堂は芋を入れて煮えたところで醤油で味付け。カミーユは思い返しながらきのこを加え、最後に味噌を加える。特製のブレンド芋煮の完成だ。

 その頃、葵の芋炊も完成していた。味付けは醤油で行われているのだが、入れる量が随分と少ない。代わりに煮干しから出る出汁の旨味が出ている。さらに、肉は牛肉でも豚肉でもなく鶏肉。二つのスープが芋に染み込み、随分と違った印象になっていた。
 ちなみに「特にこのささがきにしたゴボウが大切なんだ」とは、葵の言葉である。

「狛~、思ったより美味いの出来たけど食わねー?」
 その頃、薄氷が狛に声をかける。薄氷特製塩芋煮も完成していた。最初は醤油と味噌の味比べだったはずが、ここに来て新勢力が3つも現れた。


「かおるーん、呼んだっすかー?」
 とてとてと薄氷の鍋のもとに駆け寄る狛。昆布と鶏からくるいい匂いが広がっている。思わずよだれが出る狛。はやる気持ちを抑えて塩芋煮を一口。
「これ、すっごく美味しいっす!」
 他の芋煮とはまた違う味わいに、尻尾をぶんぶん振って大喜びする狛。
「おお! この芋煮もめっちゃ美味いし! 味噌と醤油混ぜてんすか? へぇー。まーどっちもリアルブルーの調味料だしな! 合わないわけないっつーか!」
 その頃、春次はカミーユと藤堂の鍋の元にいた。差し出された特製芋煮を一口。
「コマも食べてみ? 美味いっしょ!? あ、そこのおっちゃんも一口どうっすか!」
 と狛を呼んでくるついでに周りの人間に勧める春次。見れば、村人達は他の芋煮に興味を示している。あとひと押しだ。
「味噌のみの味付けより味が深くなっていると思うのですけれど、どうでしょうか?」
 菜摘は味噌芋煮の一部に醤油を加え、味を仕立て直したものを周りの村人達に渡す。こういう時、今までの経験を飛び越えて新しい世界に迎えるのは子供達だ。両岸に居た子供達が互いに行き来し、味噌、醤油のみならずハンター達が作った新たな味にも手を出していく。
「ちょっとで、また違うだろ?」
 と、芋炊鍋の前でにこにことしているのは葵。葵の鍋の周りにも子供達が集まり、芋の子を洗うような賑わいになっていた。


 子供達は川という壁を乗り越え、芋煮を楽しんでいた。しかし大人達はまだ一歩、踏み込めない。
「リアルブルーの言葉に、敵を知り、己を知れば、百戦危うからず、というのがあります。より美味しい芋煮を作る為にも相手の芋煮を知っておくのは悪い事ではないと思いますけれど」
 大人達を諭す菜摘。そこにまるで舞台女優のように、アナベルが台詞を掛け合う。
「『醤油と味噌以外にも、出汁とか塩味もあるし、両方混ぜちゃいなYO!ってのもあるんだぜ?』」
「『それに具で論争が起きる事があるらしいですの』」
 くるりと振り向こと声色を変えて台詞を続けるアナベル。
「というか、そもそもですね」
 アミグダがそれに答える。
「調べましたが、芋煮はこの川辺りで商人たちが積荷の芋を煮て食べていたのが始まりです。つまり醤油味の芋煮も、味噌味の芋煮も……いえ、全ての芋煮は『所詮同じ芋蔓の中』ということになります」
 ですから、とアミグダは言葉を続ける。
「同じ根に産まれた芋同士が衝突する必要は無いですよね」
「それに美味いもん食べてるのにいがみあうのって、『もったいねぇ』じゃん」
 と、さらに葵が続ける。
「ええ、どちらも生き残り、可能性を許容する文化になって貰わなくてはいけません。どちらか一強のみが生き残り、流通を続けるのではすぐに食べなくなってしまいますよ」
 アミグダはお嬢様を頭に思い浮かべながら演説を打っていた。
「二つの村が求めている『決着』は、即ち同じ芋煮の可能性を自ら消し去る事。この村の名産である里芋の未来を細らせる行為、という事です」
「ああ、美味さを堪能する前に考え込むとか、めんどくさくね?」
 そんなアミグダと葵の言葉に、アナベルが続ける。
「『優劣を決めるだなんて……もったいないじゃないか』」
 それまで芝居がかったしゃべり方をしていたアナベルが、初めて自分の言葉で一言語った。
「皆で仲良く囲んでお腹いっぱい食べて幸せになる、それが本当の芋煮なんじゃないの?」


「醤油も味噌も両方すっげぇ美味いんだけどさ……一口に醤油、味噌っつっても色々あるじゃないですか」
 子供達にブレンド芋煮を振舞っていた藤堂が口を開く。
「そうよ! 使う味噌や醤油で味は変わるの。それで優劣を付けようってナンセンスだわ」
 カミーユも後押し。
「醤油ならこいくち、うすくち……味噌なら米味噌、豆味噌、その中でも辛口甘口とか。単品にしても合わせるにしても、味つけの種類は無限に増やせると思う!」
 と、自分の主張を語った後「きっと美味い! ああ、食べたい……!」と想像してよだれが出ている藤堂。
「だから先ずは各自、材料の味噌と醤油、自分の味を研鑽し、出直して来なさい!」
 と、カミーユがピシャリと一言。
「さて……この状況で投票、いたしますか?」
 パメラが纏めた一言に、大人達は無言で他の芋煮を食べ始めた。
 だが、美味しい食事には場の雰囲気を変える力がある。他の味の芋煮を堪能しているうちに、自然と人々も打ち解けあっていた。
「ともあれ、美味い飯食ってケンカなんてしちゃいけない! 食事ってのは幸せじゃなきゃな!」
 と楽しげに食事する人々を見て、しみじみそう語る藤堂。横に居たパメラは宴が盛り上がったところを見て、高台になったところに上がり村人達にこう話しかけた。
「今回はこんなになりましたが……せっかくだし来年も再来年も毎年、また同じように競ってみるのはいかがでしょうか?」
「いえ、折角ですからすぐにするのはいかがでしょう。村長祭で、醤油、味噌だけでなく今回供された全部の芋煮を持ち込むというのは? バロテッリ商会が同盟一大きな鍋を用意しますよ」
「……ああ、そうだな」
「んだんだ!」
 ハンター達とモアの提案を受け入れた村長達。後はもう飲めや歌えやの賑やかな宴になるだけである。
「げふっ……もう芋は……当分いらねえかな……」
 と中にはお腹いっぱいになって倒れている春次の様な人間も居たが。
 宴もたけなわになったところで、アナベルが皆の前で歌い、踊りを披露する。あれだけいがみ合っていた村長達も肩を組んで歌い出している。
「『これにて一件落着ー!』」
 アナベルの歌声はずっと村々に響いていた。
 後にこの村々では、年に一度の大芋煮会が評判を呼ぶことになるのだが、またこれは別の話である。

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MVP一覧

  • 穏かなる銃使い
    石橋 パメラka1296
  • 新勢力・芋炊の提案者
    ka2143
  • 黒豹の漢女
    カミーユ・鏑木ka2479
  • 不器用、なれど優しき言葉
    薄氷 薫ka2692

重体一覧

参加者一覧

  • 荊の果実
    アミグダ・ロサ(ka0144
    人間(紅)|24才|女性|魔術師
  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘(ka0881
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • 穏かなる銃使い
    石橋 パメラ(ka1296
    人間(蒼)|20才|女性|疾影士
  • 新勢力・芋炊の提案者
    葵(ka2143
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 歌とダンスと芋煮会
    アナベル・ラヴィラヴィ(ka2369
    エルフ|16才|女性|聖導士
  • 超☆嗅覚
    狛(ka2456
    人間(紅)|17才|男性|霊闘士
  • 黒豹の漢女
    カミーユ・鏑木(ka2479
    人間(蒼)|28才|男性|闘狩人
  • 不器用、なれど優しき言葉
    薄氷 薫(ka2692
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 目指せハーレムマスター
    春次 涼太(ka2765
    人間(蒼)|14才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談掲示板
狛(ka2456
人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/10/24 03:23:25
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/21 01:05:01