青空の値段

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/10/22 19:00
完成日
2014/10/30 05:43

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 帝都バルトアンデルスに聳え立つ建造物の中でも一際異質な塔、ワルプルギス練魔院。そこに併設する形でイルリヒト機関の宿舎は存在している。
 優秀な覚醒者を育成する教育機関であると同時に錬魔院の実験兵装のテストを行う少年少女達も、先日の剣機騒動から漸く日常に回帰しようとしていた。
「……む。ハラーツァイか」
「ばんちょー、お出かけ?」
 宿舎前でばったり顔を合わせたハラーツァイとエルガーが同時に足を止め、肩を並べて入口の戸を開ける。
「ああ……ベルフラウの事で少しな。そういうお前は買い出しか」
「育ちざかりなので配給食だけじゃ足りないんだべよ」
 抱えた紙袋からパンを取り出し噛り付くハラーツァイ。行儀の悪さを指摘しようかと迷ったエルガーだが、そんな二人の前、開いた扉から上半身裸のゲルトが姿を見せた。
「ハラーツァイ、それにエルガーか」
「うわー、変態だー。変態がいるー」
 ゲルトは上半身裸でびっしょりを汗を滴らせていた。首からかけたタオルで顔を拭い、スっと眼鏡を取り出す。
「ゲルトだったんだ。眼鏡がないから誰かと思ったべ」
「俺の存在を眼鏡の有無で認識するというイルリヒト内の風潮には物申したい」
「自主トレーニングか。相変わらず見上げた努力家だな」
 エルガーの声に首を横に振る。そうしてゲルトは裸のまま腕を組み。
「剣機との戦いで俺は何も出来なかった。外部戦力であるハンターに助けられているようでは帝国軍人として申し訳が立たない。訓練メニューを増強するつもりだ」
「それはいいけどまず服着なよ」
「ハラーツァイ、よく見ろ。俺は下はきちんと穿いている」
「そういう問題じゃないべ」
 ジト目でパンを齧るハラーツァイ。エルガーは目をつむりふっと笑みを浮かべる。
「ハラーツァイにも見習わせたいものだな。ああ、二人には伝えておこう。ベルフラウだが、既に退院したそうだ」
「その退院したベルフラウがあんたに同行していないというのは?」
「ん……ああ。お前達も知っての通り、ベルフラウは剣機との戦いで重傷を負った。そして軍病院に入院……退院後、直ぐ別の任務についたそうだ」
 きょとんとする二人を前に苦々しくエルガーは息を吐く。
「あの傷ですぐ復帰って……だいじょーぶなの? 何かヤバい事されてないよね?」
「それはない筈だが、一応問い詰めてきた所だ。ただでさえ聖機剣という物騒な装備の試験をしているのだからな」
「最近組むようになったからよく知らないんだけど、ベルフラウってちょっと変わってるべな」
「そうか。ハラーツァイは確かに知らなくても当然かもしれんな。まあ、あれは少し問題児でな……」
 難しい表情のエルガーに首を傾げるハラーツァイ。ゲルトは汗を拭き、眼鏡を持ち上げ。
「イルリヒトはエリートだけが入る事を許されている。その性質上、見た目や性格はどうあれ全員が実力者だ。ベルフラウもその例外ではない」
「まあそーだべな。ベルフラウが真面目に戦ってる所見た事ないけど」
「あれでも奴は入隊試験をトップクラスの成績で通過している。俺と奴は同期で同じ会場だったのでな、少しだけ様子を見た」
 ゲルトが目撃したのは試験終了後。最終項目の一対一での候補生同士の決闘が終わった直後の事だ。
 会場は騒めいていて、複数の試験官がベルフラウを囲んでいた。その両手は血に染まり、少女の足元にはぼろぼろになった対戦相手の姿があった。
「え……そんなやばい子だったの?」
「わからん。が、あいつはその時も、自分が死にそうな時も何故か笑っていた。俺達とは少し死生観が違うのかもしれない」
「全然そうは見えないけどなぁ。へらへらして、おどおどしてて」
 パンくずのついた指先を舐めながら目を細めるハラーツァイ。エルガーは神妙な面持ちでベルフラウを見舞った時の事を思い出していた。
「昔の錬魔院にはよくいたのだ。ああいう生徒がな」
「ああいうって?」
「生きていても死んでいてもどっちでもいい――そういう、危なっかしい目をした奴だ」



 機械の剣を背負い、少女はリゼリオの街を歩いていた。
 傷は完治したわけではないが、戦闘に支障はない。剣機ともう一度戦えというのならば話は別だが、あれはすでに撃滅されている。
 剣機との戦いでは多くの人が傷ついた。自分はその間ベッドで寝ていたという事がどうにも腑に落ちず、簡単な依頼に志願申請をしたのが数日前。
「ハンターさんは親切な人が多いから、きっと今回も何とかなるよね!」
 今回の任務は火事場泥棒を働く盗賊の始末。剣機を退けた帝国は選挙と剣機騒動で炙り出された反政府組織、犯罪者の把握と拿捕に動き出そうとしていた。ベルフラウも簡単ながらその流れに乗って仕事をするわけだ。
「犯罪者といえども命は大切なものだから、絶対に殺したりしないようにしなきゃ」
 怪我をした人がいたら治療もしてあげよう。それが善行だ。
 悪い人は捕まえて罪を償わせてあげよう。第二の人生を与える、それが善行。
 善い行いは全て祈りだ。果てしなく積み重ねた祈りの先に、ようやく罪は赦される。
「この世界がいつかいい人だけになれば、きっと誰も傷つかないで済むよね」
 足を止め見上げた空は今日も青い。青空の下を歩く人々の心もきっと澄み渡っているに違いない。
「強くならなきゃ。強くなって誰にも心配されなくなって、皆いい人にしてあげなきゃ……ね」
 ぱきりと指を片手で鳴らし、少女は歩き出す。一瞬だけ浮かべた鋭い笑みはまるで別人のように、しかし雑踏の中に溶けて消えていった。

リプレイ本文

「この度一緒に行動する事になった真田天斗と申します。以後お見知りおきを」
 一礼する真田 天斗(ka0014)に続き、ヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)は腰に手を当て胸を張るように笑みを浮かべる。
「初めまして、あたしはヴィンフリーデよ。フリーデって呼んでちょうだい」
 ハンターを雇いにやってきたベルフラウの依頼を引き受けた六名はこれから帝国領まで転移門にて移動する。ベルフラウは一人一人にペコペコ頭をさげ挨拶に応じた。
「イルリヒト機関のベルフラウ二等兵です」
「そう言えば病み上がりなんだってな。あまり無理はするなよ。ま、今回はそう大変でもないだろうし頑張ろうぜ」
 苦笑を浮かべ握手を求める鳴神 真吾(ka2626)を照れ笑いしつつ握り返す少女。關 湊文(ka2354)は組んだ腕の上に乗った胸を揺らしつつ。
「確かに特に危険……という訳ではなさそうだけど。油断も過信も禁物ね」
「火事場泥棒を捕まえろって事だけど……彼らだって好き好んで盗賊に身をやつしたわけではないだろうからね」
「まー、盗賊になんのも、わからねーでも無い、です」
 口元に手を当て眉を潜める坂斎 しずる(ka2868)。八城雪(ka0146)は片目を瞑り、前髪を弄りながら無表情に呟く。
「分からないでもないって……犯罪は犯罪よ? 法を犯している以上、擁護の余地はないわ」
「勿論、無法を許してはならないわ。けれど、彼等だって生まれつきの犯罪者ではなかった筈よ」
「何処の世界でも戦の後は一緒なのですね……」
 しずるの隣で目を瞑る天斗の横顔にヴィンフリーデは不思議そうに首を傾げた。

 そんな彼女の疑問が解決したのは、現地で盗賊達の暮らしを見た時だった。
 廃村で日々暮らすのがやっとと言った細々とした有り様。住人にばれないよう、遠巻きに村を見てもわかる。彼等は傲慢なわけでも満たされているわけでもないのだと。
「あー……やっぱこういう事だよなあ」
「でしょうね」
 微妙な表情の真吾と対照的に眉一つ動かさない湊文。雪は小さく息を吐き。
「最近の事件見てりゃ、何時何処で、理不尽に死ぬかわかんねー、です。真面目に働いてもふつーに暮らせねーなら、馬鹿馬鹿しくもなんだろ、です」
 青ざめた表情で俯くヴィンフリーデ。あんな痩せた畑を幾ら耕したって無駄だし、穴だらけの廃屋では満足に風も防げない。
 改めて自分は恵まれていたのだと気づいた時、皆の浮かない表情の理由が身に染みる。
「自分が何も知らない小娘だって事、思い知らされるのは本当に嫌なものね……」
 拳を握り締めるヴィンフリーデに雪は肩を竦め僅かに笑う。しずるはその肩を叩き。
「彼等の事情は理解するけれど、こちらも仕事よ。きちんと切り替えましょう」
「こんな生活をずっと続けられる筈もないんだ。今の俺達に出来る事、俺達なりに納得の行くようにやってみようぜ?」
 真吾の力強い言葉に頷くヴィンフリーデ。その話の最中、天斗は別に気になる事があった。
 それはベルフラウ一人だけが、まるでハンター達が何の話をしているのか理解できないような、きょとんとした顔をしていた事だった。



 ハンター達は先ず、盗賊達の動向を観察する事から開始する。
 彼等の活動は多岐に渡っており、畑仕事をしている者、狩りに森へ入っている者、建物の中から出てこない者と様々なのだ。
 当然だが、一網打尽にできなければ逃げ出される可能性もある。そのタイミングを見計らう為にも、人数や行動範囲は把握しておく必要があった。
 まず、遠くからしずるや湊文が村全体の構造にあたりをつける。そして実際に天斗と真吾が村に接近し偵察する段取りだ。
「あんた、グングン行くなあ」
「所詮素人の警戒ですからね。それより恐らくあちらがそうです」
 冷や汗を流す真吾の前を天斗がしなやかに、しかし速やかに進む。尤も、真吾も隠密行動が苦手なわけではない。物陰から物陰へ、見つからずに移動する。
 なにせ見張りの中にはまだ幼い子供までいるのだ。ボールで遊んだりしていて、そもそも見張りになってない。
 お目当ては盗品を貯めこんでいると思われる場所だ。廃墟同然の村の中で比較的原型を留めている大きめの民家の一室を窓から覗き込むと、数人の盗賊が話す様子が見える。興奮しているのか、大きめの声は外からも聞き取れた。
「どうするんだ、こんなに沢山盗んで来て! 高価な調度品は貴族がらみかも知れない! 金目の物は軍に目を付けられやすくなる!」
「だって、だって……少しでも皆の生活が楽になると思って……」
「元の場所に戻すわけにもいかんしのう……」
 腕を組みげんなりした様子で真吾が溜息を零す。天斗も何とも言えない様子だ。
「なんで子供が怒られてんだ……」
「しかし、子供が一度に持ち帰れる量の盗品ではありませんから、継続的に盗賊行為が行われていたのは事実でしょう」
 部屋の中では子供の鳴き声と大人の困惑する声がまだ響いている。二人はもう十分と判断し、その場を後にした。

「……えっ? 子供が勝手に盗んできただけかもしれない?」
 額に手を当て困った様子のしずる。偵察してきた二人からの報告でまた微妙な空気が広がる。
「民家の数は八、そのうち一つは物置のように使われているようです。盗品は実質一箇所に集まっていますから、制圧そのものは苦労しないでしょう」
「大人達も盗みを働いているのは確かみたいだが、高価な品物を盗めば足がつくと理解していた。あの感じだと、この依頼が生じたのは子供のやりすぎが原因みたいだぜ」
「どーりで“仕事”に行く奴がいねーわけ、です」
「単純な話ね。元々盗賊行為自体、頻繁に行っていないのよ」
 雪と湊文の言う通り森に狩りに行く者はいても盗賊行為に出かける者は見られなかった。
「だとしても奪う事を決めたのは彼らの選択。彼らは弱かった……同情の余地はないわ」
 腕を組み呟くヴィンフリーデ。ベルフラウはにっこりと笑い。
「そうですよね。悪い事は悪い事、一度でも罪に手を染めれば、裁かれない限り許されないんです。だから、私達は善い事をしているんですよ」
 屈託のない笑みだが、場の空気は微妙だ。悪意はないとわかるのだが。
「ま、夜更けには狩りに出た連中も戻ってくんだろ。仕掛けるならその頃に、です」



 夜も更けた頃、ハンター達は行動を開始する。
 民家に突入する者や出入口を塞ぐ者、逃走を防止する者等の役割に分かれ、タイミングを合わせ包囲状態から制圧に移る。
 短伝は一対に使う物であり、全員が持っていても連絡は一方向にしか回せないのだが、大まかに村の出入口を塞ぐ雪と森への当走路を塞ぐベルフラウにそれぞれを連絡の纏め役とする事でカバーする。
「こちら天斗、配置に着きました」
「こちら真吾、いつでもいけるぜ」
「それじゃあ仕事を始めましょう。分かっているとは思うけど、いつどんな状況でも冷静に。戦場では鉄則よ。必要以上にやるのはリソースの無駄」
 湊文の声に耳を傾けながら月を背に出入口で大斧を肩に乗せる雪。しずるはライフルを手に、ヴィンフリーデは息を吐き顔を上げ。
「……作戦開始です」
 言うと同時、天斗は颯爽と駆け出す。まずは盗品のある民家を抑える。道中には昼間と違い一応武装した大人が見張りに付いているが、天斗は素早く背後に回り込み、首筋を手刀で打ち気絶させる。
「少し、お休み下さい」
 目立たぬ所へ見張りを寝かし、民家の入口へ。そこに立つ男にも側面から一瞬で接近、反応されるより早く腹に拳を減り込ませる。
 呆気無く倒れた男を横にして扉を開くと、中には男と女が一組、それから数人の子供と老人が狭いベッドに押し込められるように眠っている。
 扉の開いた気配に気づいた男が振り返るが、直ぐに天斗は大地へと組み伏せる。女は突然の事に呆気に取られ動けずにいた。
「抵抗しなければ危害は加えません。大人しく投降して下さい」
 女は怯えながらも子供達に目を向けると、机の上にあった果物ナイフを手に取る。叫びを上げながら襲い掛かる女に天斗は眉を潜めた。

 予想通り制圧には殆ど手こずらない。天斗が盗品を確保している頃、真吾も別の民家で三人の男を相手にしていた。
 こちらはまだ三人共起きていたので部屋に入るや否や直ぐに剣を構えられたが、真吾を同行できるようには見えない。
「復興のためにも盗賊行為への取締りは厳しくなる。どちらにせよ先はない、大人しく降伏するんだ!」
「な、なんだこいつは……軍じゃないぞ!?」
「ここで捕まったら子供達は……うおおっ!」
 真吾は舌打ちし、斬りかかる男の目の前で構えた杖から雷を迸らせる。雷撃を前に三人は腰を抜かしたように飛び退いた。
「あんたらだけが悪いわけじゃない、それは百も承知だ。だけどな、都合が悪けりゃヒーロー引っ込めるようじゃ、そりゃ筋が通らねえ。悪いようにはしない。大人しくしてくれ!」
 この世界では異様な真吾の姿も相まって男たちはあっさりと戦意を喪失した。拾い物の錆びた剣が木の床を鳴らすと、真吾も杖を下ろすのであった。

 ヴィンフリーデの振るった仕込み杖は刃を抜いていなくても鈍器として十分な威力。まともに受けた男は剣を落とし、腕を抑え倒れこむ。
「父ちゃん!」
「く、来るんじゃねぇ……こいつらまともな軍人じゃない!」
 ヴィンフリーデの突入した民家には男二人と老人、そして子供が二人住んでいた。男一人は既に気絶させ、もう一人も腕を怪我して剣は振れない。少女は泣いてばかりだったが、少年は転がった剣を手に取り立ち上がる。
「ちくしょう! かかってこい、バケモノ!」
 少年は駆け寄り剣を振り下ろすが、ヴィンフリーデは片手でそれを薙ぎ払う。
「さあ、実力差は思い知ったでしょ! まだやる気!? ここで降伏すれば命と衣食住は保証するわよ!」
「どうせ俺達みんな殺されるんだ!」
「……そんな事はしないわ。帝国は犯罪者を処刑したりしない。こんな所でこんな生活をいつまでも続ける事は無理なのよ」
「私のせいだ……私がお兄ちゃんに、盗みに行こうって言ったから……っ」
 泣きじゃくる少女の声に少年の目からも涙が溢れる。父親らしき男は二人を抱き寄せ、抵抗の意思はないと言うように頭を下げた。

 比較的静かに進められた仕事だが、喚きだしたりするような者がいれば異常は伝播する。慌てて逃げ出そうと民家を飛び出した者達、それを湊文の銃口が捉える。
 物置にされている民家の屋根に立った湊文はマテリアルを込めた弾丸を発射。しかし狙いは盗賊ではなく彼らの足元や近くにある民家だ。
 当然だがただの弾丸ではない威力のそれは、容易く地面を抉る。その衝撃と恐怖を利用し、逃走ルートを制限する狙いだ。
「こういうときのセオリーは、まず一番強いのを潰す事、それと相手の取りうる選択肢を可能な限り狭める事」
 また悲鳴が聞こえる。逃げ惑う人々を前にスコープを覗き込み。
「尤も――ここに強者なんていないようだけれど」
 しずるは直接盗賊達の近くへ向かい、やはり威嚇射撃で足を止める。
「動かないで! 武器を捨てて投降しなさい!」
 子供もいるのだから、銃を向けられてはどうにもならない。老人に縋りつくも大人しくする子供達にしずるは銃を下ろし歩み寄る。
「そう、いい子だから大人しくしてね。そうしたら痛い事も怖い事も、何もしないで済むから……」

「……ったく。子供を見捨てず一緒に逃げる根性は見上げたもんですが、全然それじゃにげらんねーだろ、です」
 出入口に誘導された盗賊を前に雪は溜息を零す。逃げ場がないと悟ると盗賊は大人しく投降した。退路を塞ぐ斧を構えた雪を見れば逃げる気も失せるというものだ。
「抵抗とか、無意味なんで、いてー目見たくなきゃ、大人しくしろよっと……です」
 念の為盗賊をロープで縛り、しずるや湊文と共に民家に盗賊を押し込む。既に制圧完了の連絡は来ているが、ベルフラウだけどうなったかわからない。
「ちっと様子をみてくっか、です」
 軽く走って森の入口まで移動する雪。そこで見たのは、血のついた聖機剣を振り上げようとしているベルフラウの背中だった。咄嗟に腕を掴んで止めるが、一般人に向けてはいけない勢いがついていた。
「……おめーなにやってんだ、です」
「えっ?」
 振り返った少女は頬についた血を拭い微笑む。交わる二人の視線。闇の中で光るそれらは、どこか似た色を放っていた。



「無事終了してよかったですね」
 集められた盗賊は帝国軍に引き渡される。その様子を眺めるベルフラウへ天斗は声をかける。
 彼女は村人を殺しはしなかったが、ある程度は痛めつけていた。それが何を意味するのかは今はわからない。だが……。
「貴女にとって強さとはなんですか?」
「正しくある事、でしょうか?」
「正義、ですか。貴女がその強さを手に入れた時、青空の様な心の中に吹く風を感じられれば良いですね。その風を止められた時、貴女は本当の自分を手に入れる事が出来るのです」
 首を傾げる少女に天斗は危うさを、そして自分に似た物を感じていた。雪はそんな会話を背中に鼻を鳴らし。
「盗賊やんなとは言わねー、です。でも、“オレは盗賊だ”って、どーどー言えねーなら、向いてねー、です」
「そうね。まあ、向いていなかったからこそ、こんな事になったのでしょうけれど」
 髪をかきあげ呟く湊文。その視線の先ではヴィンフリーデと真吾が子供達と向き合っている。
「俺を恨んでくれて構わない。だが覚えておいてくれ、人から盗む生き方は安易に見えてもいつかは必ずこうなってしまんだ」
「ねえ貴方達? お腹一杯食べたければ、これから行く所でしっかり学びなさいな。強制労働が農作業なら効率のいい作付の仕方を、土木作業なら崩れない塀や石の積み方を。そうして技術を身につければ外に出てからも少しは楽なはずよ」
 なぜ皇帝が犯罪者に労働をさせるのか、ヴィンフリーデはその意図を読む。だからきっとこの子達も悪いようにはされない。そう信じている。
「強くなりなさい。奪わず、奪われず、自分の力で守る為に」
 子供達が連れて行かれる様子を真吾はポケットに手を入れ見送る。
「なんとかあの子達が真っ当に生きられる世界にしなきゃな」
「帝国の治世がもっとしっかりしていれば、彼等も罪に手を染める事はなかったかもしれない。彼等から悪意は感じなかったもの」
 呟くしずるの髪を風が揺らす。ヴィンフリーデは息を吐き、夜明けの空を見上げる。
「いつか帝国のため共に戦える日が来るといいわね」

 トラックに揺られ、兄妹はヴィンフリーデから与えられたパンを齧り同じ空を見る。
 理不尽な現実を変えるには力が要る。少年は一気にパンを飲み干し空に叫んだ。帝国兵はバックミラーに移るその姿に笑みを浮かべ、ゆっくりと帝都への道を走らせていく……。

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参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • バトル・トライブ
    八城雪(ka0146
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • 金の旗
    ヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207
    人間(紅)|14才|女性|闘狩人
  • あふれ出る色気
    關 湊文(ka2354
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • ヒーローを目指す者
    鳴神 真吾(ka2626
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • シャープシューター
    坂斎 しずる(ka2868
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
鳴神 真吾(ka2626
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/10/22 08:32:51
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/21 20:59:27