クリスとマリー 道中、薄暮

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/04/21 12:00
完成日
2017/04/28 19:04

みんなの思い出

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オープニング

 王国巡礼の旅に出た貴族の令嬢クリスと若き侍女マリーは、その途中、事故により供を失った大貴族ダフィールド侯爵家の四男、ルーサーを館まで送っていくことになった。
 誘拐騒ぎなどを経て辿り着いた侯爵家新領は、だが、新たな領主によって過酷な重税等の圧政を強いられる地であった。
 道中、道連れとなった逃散民の家族連れを襲撃に来た山賊紛いの『逃散民取締官』──『髭面の男』と『落ち着き払った男』の2チームを返り討ちにして捕らえる羽目となり。更に、彼らを連れて訪れた村では暴動騒ぎに巻き込まれ、行き掛かり上、村人たちの代表を連れて侯爵家に上訴に向かうことになった。
 山賊紛いの取締官に、圧政に苦しむ農民たち──父の統治の実態を目の当たりにして衝撃を受けるルーサーと。訪れた侯爵家本領の好景気に沸く様を見て怒りに燃える村人たち。
 そんな中、捕らえていた『虎刈りの男』(=元『髭面の男』)が逃げ出して、駆け込んだ駐在所で自らの身分を明かし、「奴らを逮捕しろ!」と官憲に訴えた。対するクリスとハンターたちは「自分たちは火の粉を払っただけ」と、ルーサーの正体を明かして反論。だが、双方共に言ってる事に証は無く──
 困り果てた官憲は、判断がつくと思しき存在に判定を委ねることにした。
「どっちでもいい。シモン様かソード様をとにかくここへお呼びしろ!」


●クリスとマリー 道中、薄暮

 賑わう宿場町の駐在所に辿り着いたその一行は、全員が騎馬の集団だった。
 得物は剣。槍ではない。華美な装飾を施した揃いの制服── それらの点から、クリスは彼らが軍人ではなく、騎馬警官かそれに類する存在だと当たりを付ける。
 そんな中、最も華麗な装飾を施した赤い制服姿の若い男が下馬し、翼を模した飾りのついた鉄兜を脱いで、熱を払うように頭を振った。応じて揺れる、癖のある長い赤毛──整った顔立ちではあるが、そばかすの存在が実年齢と比べて、より若さを印象強くしている。
「職務中だ。略式で構わんぞ」
 右膝をついて出迎えようとした中年の官憲を手で制し、冗談めかして言う青年。余程の貴家の出身かと思考するクリスの目の前で、当の本人が思いがけずその出自を明らかにする。
「……ルーサー? お前、ルーサーか!?」
「……ソード、兄様……?」
「ええっ!?」
 驚愕するマリー。ダフィールド侯爵家三男、ソード。それがこの青年の正体だった。ルーサーの件も合わせ、露見したそれらの事実に騒然とする村人たち。常に冷静沈着だった『落ち着き払った男』リーアでさえ驚きを隠せず、『虎刈りの男』に至ってはよく事態を呑み込めず、ただただその顔を蒼白にする。
「……騎馬警官隊の隊長に就任なさったのですね。おめでとうございます」
「おう、ありがとな! ……って、お前、こんな所で何してるんだ!? 確か、巡礼の旅に出されたと聞いたぞ? 嫌々ながら!」
 顔を上げたルーサーへと歩み寄り、その両肩をバンバンと叩くソード。ルーサーはどう話したものかと、助けを求めるようにクリスへ視線を向ける。
「……その件に関しましては、私からご説明いたしたく……」
「あん?」
 兄弟の会話に割り込まれ、不機嫌な表情で振り返ったソードは、だが、クリスの面貌を視界に捉えた瞬間、目を瞠って硬直した。
「お初にお目に掛かります。オードラン伯爵家が一女、クリスティーヌと申します。故あってルーサー様をご実家までお送りする途上でありました」
「お、おう…… き、貴族か。うん」
 先程までの威勢が嘘の様に、どぎまぎと言葉を返すソード。その様子にクリスはきょとんとしつつ、事情を説明する為に屋内へと誘った。

「……なるほど。兄上より正式な認可を受けた『逃散民取締官』という職務を遂行中に、その執行を妨害され、拘束されたというわけか。確かに、それは不当だな」
 駐在所の応接室── クリスからルーサーを送るに至った事情を説明された後、中年の官憲から自分を呼ばれた理由を聞かされたソードは、そう結論を出し、欠伸をした。
「火の粉を払っただけと言うが、そもそも正式に身分を明かした『逃散民取締官』に反撃すること自体がここ(侯爵領)では違法だ」
「そうでしょう! そうでしょうとも!」
 ソードの言葉にすっかり意気を取り戻した『虎刈りの男』が、ソードの眼前に跪礼したまま喜色満面に追従をする。
「で、何が問題なんだ? 俺を呼びつけた用とはなんだ?」
 不機嫌そうに耳を掻くソードに、中年の官憲は恐縮し、その『取り締まり』の際に『虎刈りの男』がルーサーに剣を向けた事実を恭しく申し上げた。
「……何?」
 ソードの『虎刈りの男』を見る目が変わった。部屋の温度が急に低下したかの如く──自分の運命を司る存在の機微を察し、慌てて男が顔を上げる。
「し、知らなかったのです! そのガキ、いえ、ルーサー様が侯爵家の係累であるなどとは! 私はただ職務を遂行しただけであって……!」
 瞬間、男の言葉が途切れた。
 ゴトリ、という重い音と共に部屋の隅に転がった『それ』──『虎刈りの男』の頸に気付いて。一瞬の静寂の後、マリーの悲鳴が部屋に響いた。
「キャアーーーー!」
 フッと意識を失い、崩れ落ちるマリー。顔面を蒼白にしたクリスとルーサーが慌ててその身を支える。
「下民が。侯爵家の者に剣を向けただと? それだけで万死に値する」
 唾でも吐き掛けかねない表情でソードが『虎刈りの男』の死体を見下ろし。ふと床の血だまりに気付いて、「すまん、床を汚してしまった」と官憲たちに頭を下げる。
 泡を喰い、騒然とする村長と村人たち。その中で『怜悧な村人』は一人、スッと目を細め。やはり貴族どもは信用ならん、と内心で唾を吐き。逆に『村人たちのリーダー』はその光景に『正義の執行』を垣間見て、この人ならば! と希望を抱いた。
「畏れながら申し上げます!」
 リーダーはソードの眼前に跪礼し、『奏上』した。
「そこな『取締官』と同様、『新領』では官職の名を借りた悪逆なる者どもの手によって、多くの村々、領民たちが無体を強いられております! なにとぞ、殿下の威をもって、悪逆なる者どもへ鉄槌をお願いしたく……」
「おい、ルーサー」
 ソードが弟に呼び掛けた。村人の言葉など聞こえぬとでも言うように。
「もしかして、俺は下民に話し掛けられているのか? こいつらはお前とどういった関係だ?」
 まずい、とルーサーは息を呑んだ。そして、間髪入れずすぐに「道中、自分が世話になった者たちだ」と兄に告げた。
 そうか、とソードは腰を上げ、剣を収めた。そして、気絶したマリーを支えるクリスを──貴族であるクリスだけを見やって、告げた。
「……ルーサーが世話になったと聞いて、恩を返さぬ訳にはいかぬ。我らが館へ、客人としてお招きいたす」

リプレイ本文

「ソード殿、すみません。私の侍女が気を失ってしまいました。できましたら少し休ませる時間をいただきたいのですが……」
 気絶したマリーを抱き止め、見上げるクリスに呼び止められて── 白き愛馬に歩みかけていたソードは、そのまっすぐな視線に鼓動を跳ね上げた。
「こ、これは至らぬことを……! 婦女子の方々には刺激の強い光景でありましたか。侍女殿には申し訳ないことをしてしまった」
 どこかドギマギとした調子で部下たちに大休止を命じるソード。クリスは「?」と小首を傾げた後。背後のヴァイス(ka0364)に目配せする。コクリと頷くヴァイス──出発の前に話し合いの時間が取れるよう、ソードの説得を頼んだのは彼だった。……もっとも、『説得』というほどの労は要らなかったようだが。
「あの様子だと、クリスが『手綱』を握れそうですねぇ。もっとも、奴ごときに嫁にやる気はねーですが」
「え? え?」
 なんだかよく分かっていないクリスの背中からギュッと密着しつつ、シレークス(ka0752)が遠ざかる侯爵家三男(16歳)の背中を半眼で睨めつける。
「……鼻持ちならない男ですね。気に入りません。私の嫌いなイルダーナの貴族そのまま過ぎる」
「出会った頃のルーサーの態度からある程度は予想していたが…… 彼を見れば、ルーサーがああであった理由がよく分かる」
 同様にその背を睨みながら、両腕を組んで大きく息を吐く『騎士』ユナイテル・キングスコート(ka3458)。ヴァイスもまた同様に──だが、領主の館に着く前に侯爵家の者と出会えたのは、考えようによっては良かった。村人たちにその実態を──領主側の価値観と『ものの見方』を知らしめた。
「……信用に足る人物とはとても言えなさそうですね。村人たちの考えもわかろうと言うものです」
 アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)がその視線をソードから村人へと移す。村人たちは離れた所に固まり、戸惑いと不信の視線で一行を見やっていた。
 ルーサーに寄り添うようにしていたサクラ・エルフリード(ka2598)が、少年の手をギュッと握った。……無理もない、とサクラも思う。故あってのこととは言え、ルーサーが侯爵家の四男坊であることを彼らに隠していたのは事実なのだ。しかも、それを隠していたのが『同じ貴族』のクリスとあっては……
(無理もない。無理もないですが……)
 だが、サクラは落胆する。ルーサーの心情を慮れば…… 出自を知った途端に距離を取った村人たちの態度は余りに寂しい。
「やはり貴族は信用できない? ふざけんじゃねぇです。二人をあんな野郎と一緒にすんじゃねぇです!」
 そんなサクラの心を代弁するかのように、シレークスが己の感情を一切隠さず、村人たちを怒ってくれた。
「これまで共に来た道中の道行を通じて……貴族云々という線引きではなく、彼女ら自身を信じることはできないか……?」
 シレークスとは対照的に、落ち着いた口調でヴァイスが尋ねる。
「……それは無理というものでございましょう」
 答えたのは意外なことに、穏健派の村長だった。
「ルーサー様の正体を隠したのは、我々がその子に危害を加えるかもしれない、と……少なくともその危惧が皆様の中にあったからでありましょう?」
 ハンターたちは沈黙した。村人の幾人かが目を逸らした。
 村長の言は、双方にとって図星であった。村人たちの中には、知っておれば人質に取れたものを、と考えた者も実際にいた。
「……で、皆さんはこれからどうします?」
 これ以上は平行線だ、と判断したルーエル・ゼクシディア(ka2473)が話を先に進めた。『虎刈りの男』は処刑されたが、その理由は『領主の係累に剣を向けるという無礼を働いた罪』。村人たちに対する『罪科』を贖わされたわけではなく、状況は何も変わってはいない。
 『怜悧』な村人は言った。──あの調子では上訴も無駄だ。すぐに村へと取って返し、周囲の村々と謀って『物理的な手段』も視野に行動を起こすべきだ、と。
 リーダー格の男は答えた。当初の予定通り、領主様の寛恕を求めて上訴に赴くべきだ、と。
「領主家を相手に上訴をしたところでおそらくは死刑になるだけですよ? その場で切られるか、でなければ見せしめの為に処刑されるか……」
 アデリシアの言葉に。構わない、とリーダーは答えた。たとえ処刑されたとて、それで我らの窮状がこの地の民に知らしめられるのであれば──
「無駄だな」
 答えた声は背後から──それまで駐在所の『壁の花』とばかりに沈黙していた、『怜悧』以上に怜悧な門垣 源一郎(ka6320)──
「この時代の処刑など、庶民にとっては娯楽にすぎない。ましてや好景気の恩恵に預かっている本領の人間にとって、新領のことなど他人事だ」
 無論、自己満足で死にたいというならわざわざ止めるつもりもないが── と、突き放す様に源一郎は言った。彼は、よその世界の、よその国の農民たちに、必要以上に肩入れする気はなかった。
「だから言っただろう。俺たちの運命は、俺たち自身で切り開かねばならぬ」
「……反乱など、成功率はゼロでしかありませんよ。我が戦神も自棄をもって自死の手段とする様な戦いはお認めにはなりません」
 戦神に仕える者として、アデリシアが『怜悧』の前に立ちはだかる。
「勝算はある」
 『怜悧』は真っ向から向かい合った。──その為に他の村々と諮るのだ。やがて新領の全ての民が立ち上がる。侯爵の兵など恐れるものか。人数は圧倒的にこちらの方が上なのだ。最終的には貴族を倒し、我々の手で我々の国を作るのだ──
「それは流石に…… 侯爵家がそれをただ座視するとは思えませんけど」
 夢想が過ぎる、との言葉をルーエルはどうにか飲み込んだ。
 だが、そんなハンターたちの言葉は、上訴という希望を失った村人たちの心に届かない……


 教会の鐘に送られることなく、墓銘も刻まれることもなく──共同墓地の片隅に、その『罪人』の遺体は埋葬された。
「村人たちの話を聞く限り、この人も相応の事をしてきたみたいだけど……」
「報いってのは必ず訪れるものですが、まさかこうなろうとは……」
 ただ石が置かれただけの、墓に向かって呟くルーエルとシレークス。罪人──虎刈りの男の無残な末路は当然のこと。それだけの罪をあの男は犯してきた。だが……
「さて、と……それじゃあ、別れの祈りだ。来世は平穏に暮らせることを祈るよ。……迷惑かもしれないけどね。これでも一応、共に旅した間柄だから」
「……やれやれ。祈りより荒事の方がわたくしは向いてやがるのですがねぇ」
 葬礼の祈りを捧げるルーエルとシレークス。泥のついたスコップを肩に担いだヴァイスがジッとそれを見守る……

 騎馬警官隊副官の、大休止の終わりと出発準備を告げる声が響き、クリスが駐在所を外に出る。
 これより先の道程に、村人たちは同道しないと決めた。故郷に帰るべく、一行から離れた所に集まった彼らの中から、村長だけが別れの挨拶に訪れた。
「私も村に帰ります。無謀な反乱など起こさせぬよう、なるべく頑張ってみるつもりです」
 クリスに一礼する村長。ヴァイスとアデリシアは『明朗』を手招きし、最後に強く念押しした。
「……反乱など起こしたら、侯爵家の『正義の刃』はあんたたちの村や家族に振り下ろされることになるぞ」
「個人的には、反乱よりは逃散をお勧めします。命を捨てる様な戦いよりはよほどマシな『戦い』でしょう」
 去っていく村人たち──その背に、シレークスが声を掛ける。
「お前たち。さっき、この子が……ルーサーがお前たちを庇ってくれたこと、分かっていやがるでしょうね? ……安易に信用しろだなんて、軽い言葉は言いません。ですが、事実は事実として受け入れやがったらどうですか」
 振り返った村人たちが、再び歩を前へと進める。最後に村長が一礼し、今度こそ彼らは去っていった。
「……あまりに酷な話でやがります。サクラ、ルーサーを支えてやってください」
「……はい」
 頷き、サクラは傍らのルーサーの横顔に目をやった。
「ルーサー。あなたは今回の度で色んな事を、世間を知った。実際にその目で新領の人たちの辛苦を目の当たりにした」
 少年が振り返る。怯えた瞳で。
「……今はできないことの方が遥かに多いでしょう。でも、一人では無理なことでも、貴方には私たちがいる。……その事を、忘れないで」

「マリー。気を強く持て。いざという時、最後にクリスを助けられるのは、常に傍にいるお前だけだ」
 ヴァイスの言葉に、震える拳を握り締め。決意の表情で頷いたマリーが主人の元へと走る。
「お前自身が行かなくていいのか?」
「……俺はお前を『監視』しなければならなん。『監視』と『護送』だ。何が起こるか分からんからな」
「なるほど、『護送』か」
 口の中で呟き、お優しいことだ、と微苦笑を浮かべるリーア。彼は引き続き一行に同行することとなった。出発前、「構わないか?」と訊ねる彼に、「構わないよ、僕は」とルーエルがなんとも真っ直ぐな表情でそう答えたのだった。
「今までの行動からある程度は信用している。村人に的確に忠告してくれたし、『職務』に真面目そうな人みたいだしね」
「こちらと敵対しないのであれば泳がせておけば。というか構っている余裕がないですし(」
 正直すぎる感想を口にするサクラに、苦みを強くするリーア。そこへクリスの護衛についていたユナイテルが馬速を緩めて下がって来た。
「……貴方はこの状況をどう考えているのですか? どう見ても厄介な状況に追い込まれていますが」
 そうだな…… とリーアは首を傾げた。
「この先、どう転ぶかは俺にも分からんが…… 侯爵家のお膝元を実際にこの目で見ておきたくはある」

 その日の夜──
 騎馬警官隊が街道の脇に設けた野営地で、班ごとに幾つもの焚火が起こされた。
「クリスさんたちは『あの』ソードさんと一緒かぁ…… ルーサーはお兄さんと僕たちとの間に板挟みで苦しそうだね……」
 火に薪をくべながら、ルーエルがそう心配そうに少し離れた焚火を見やった。弟の旅の話を聞かせていただきたい、とソードがルーサーとクリス、マリーを夕食の席に招待したのだ。……護衛のハンターたちは除いて。
(なるほど。かような御仁か。ならば無駄なおしゃべりは控えて影となるか)
 場に招待こそされていないものの、ハンターたちは強引に何人かをクリスに付けていた。源一郎もその一人だ。ソードは不満そうであったが、侍女の様なものです、とクリスに言われてしまっては追い出すこともできなかった。
「流離いのシスター、シレークスです。ご不快とは思いますが、暫しご容赦を」
「騎士、ユナイテル・キングスコート。依頼中ゆえご無礼仕る」
 万全の営業スマイルで自己紹介するシレークスの横で、完全武装のままクリスの背後に控えるユナイテル。納刀した鞘の石突を地面にどっかと落とし、柄頭に両手を置いたままの姿勢でどこか虚空の一点を見やっている。
「その、なんだ、騎士殿…… 歓談の場であるわけであるし、もう少し気楽にというか……」
「失礼。自分、不器用なもので……」
 ギロリ、と周囲へ警戒の視線を動かし、ガチャリと剣を鳴らす騎士。
(なるほど。騎士や聖職者であれば下民の扱いはないらしい)
 沈黙を保ったまま、源一郎は思考する。
 村人たちについて何か鎌をかけられるかと憂慮もしていたのだが、まるで興味がないのか、ソードからその話題が上がることもない。

 背後に人の気配がして── アデリシアが即座に地面を蹴り、振り返る。
 ワイヤーを引き出し、瞬間的に修道服を解放して戦闘態勢を取る戦神の修道女に、その気配の主は、驚き、目を丸くした。
「何者です?」
「へ!? あ、いや、客人をもてなす為に酒を振る舞え、と隊長からお達しが……」
 気配の主は騎馬警官の一人であった。その手には幾本かのエール酒とつまみが提げられていた。
 アデリシアは武器を収めると、ヴァイスやルーエルと顔を見合わせた。そして、小さく頷き合うと、3人揃って右手の平を騎馬警官に突き出した。
「護衛依頼中だ。申し訳ないが辞退させていただく」
「飲めません。戒律で(嘘」
「すみません、自分、下戸なんで……」
「ええー……」
 全員に断られ、警官はしょんぼりしながら、酒だけを置いてトボトボと帰っていった。
「……悪いことをしましたかね。でも、個人の性格はともかく、上からの命令で何か仕込んできてもおかしくないですし……」
 展開した修道服を元へと戻しながら、焚火の前へと戻るアデリシア。紳士的に目を逸らしていたヴァイスとルーエルがホッとする。
「賢明な判断です」
 と、草場の陰()に隠れていたサクラがズボッと現れ、トテトテと皆に合流する。
「酔っぱらいは酔っぱらっているだけで危険ですからね。理性を無くして何をポロッと言ってしまうか……」
 サクラが酒の束を見た。そして、ひょいと摘み上げた。
「酒は危険です。ここは私が責任をもって全部処理してしまいましょう」
 ……いつもは止める者がいる。
 だが、そのシレークスはこの場にいない。

 結局、多少のぎこちなさを残しつつ、弟が経験した冒険譚のお披露目会はお開きとなった。
 ソードは女性陣の為に、自分の天幕を寝床として提供した。ちなみに警官たちと野郎どもは野宿だ。
「あまり気を許さない方がいい。油断してはダメですよ」
 そうクリスに釘を刺しつつ、ユナイテルがシレークスらと共に焚火へと戻って来る。
 生真面目な表情とは対照的に、その足取りはズンズンと騎兵の突撃が如く。……ええ、お酒の差し入れがあったと小耳に挟んだばかりです! 皆が飲まぬなら自分が全部片付けてしまいましょう! ええ、ええ、不本意ですが!
 高揚しつつ焚火に戻って来たユナイテルは、だが、その『惨状』を見た瞬間、愕然とし、絶望した。
 ……酒は全て、サクラが飲み干していた。
 酔った彼女は周囲が止めるのも聞かず、身に着けた鎧と衣服を全部脱いでいた。が、下にビキニアーマーを着ていたお陰でなんともなかったぜ!

 翌朝。出発の準備を整える騎馬警官たちの中、ガンガンと痛む頭と共に目を覚ましたサクラを、恨めし気に見やるユナイテル。
 そんな彼らを見やりながら、リーアは「あれで良かったのかねぇ」とポツリとつぶやいた。
「あのソードという男は、本丸に辿り着く前に出会えた侯爵家の人間だ。あの騎馬警官も情報源と成り得た。気に喰わないから、怪しいから、とそれらを遠ざけて、本当に良かったのか……?」

 源一郎は沈思する。
 人口は国力だ。農民は兵力であり、生産の基幹をなす存在だ。
 生かさず殺さずが基本のはず。それをなぜ、悪影響が生じるレベルで行っているのか……

 一行は出発する。
 侯爵領の首府はもう間近に迫っていた。

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参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • いつも心に盾を
    ユナイテル・キングスコート(ka3458
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人

  • 門垣 源一郎(ka6320
    人間(蒼)|30才|男性|疾影士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/18 20:40:29
アイコン 相談です・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/04/21 09:59:25