【アルカナ】 力こそ、我が証明

マスター:桐咲鈴華

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~2人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/04/24 07:30
完成日
2017/05/03 08:19

みんなの思い出

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オープニング



 人は競争したがる生き物じゃ。他者との優劣をつけたがって、他より優れている事を証明したがる。
 種類はなんでもかまへん。知恵の力を磨く奴、自分の魅力を磨く奴、他人より金持ちになりたい奴、人の世界にはそういう奴がようけおる。『誰かより優れている』という実感が自分に自信を与えてくれるさかい、人はそれを欲しがるんじゃろう。

 ワイが目指したのは腕っ節の力じゃった。いつか世界取ったる言うて、餓鬼の頃からがむしゃらに自分の力と技を磨いてきた。
 いつか天下にワイの名前が轟く事を夢見て、サンドバッグを殴り続けた日々じゃった。
 努力は実を結んできた。世界に名だたる強豪との戦いまで後一歩という所まで控えてた頃じゃった。

 けどそれは叶わんかった。戦いの前に薬を盛られて、ワイは崩れ落ちてしもうたけのう。

 人の中には競争やない、"優劣"しか見えてへん奴も同じくらいぎょうさんおることを知ったわ。
 自分が上になる為に、他者を陥れる事も平気でやる奴もおる。
 それも人間という生き物の性なんやじゃろうな。

 なら、それはそれでええ。それもまた、『力』の一つなんやろう。
 そやったら、ワイは今度はもっと強くなる。

 そんな狡猾な手にも負けへん、圧倒的な力を目指したる。
 それが、ワイという存在の証明じゃけ。





「あれは……?」
 ある朝、集落近辺の見回りをしていたエフィーリア・タロッキ(kz0077)は、集落のはずれにて何やら奇妙なものが落ちているる事に気付く。
 動物の皮だろうか? 長く薄い皮が、折り畳まれるようにして打ち捨てられている。不審に思ったエフィーリアは、その物体に近づく。何かの歪虚の罠である事も警戒し、周辺に注意を払いながら、折り畳まれている物体を広げてみる。
「……これは」
 そこには、黒っぽい液体でこう書かれていた。

『貴殿らとの闘いを申し込む。北の山脈、台地にて待つ。力』

 果たし状めいた文面、そして最後に書かれた”力”という文字に、エフィーリアは一人の歪虚の存在が頭に思い浮かぶ。
「Strength……こんな事をするのは彼しか居ませんね」
 動物の皮に書かれた不器用な文体、アルカナの『力』の名を冠するThe Strengthの仕業だろうとエフィーリアは推測する。正直、他の歪虚が罠の地点に誘き出そうとしている線を考えられなくもない。だが、こんなずさんな方法で送られてきた果たし状に、裏があるとはなかなか思えなかった。
「歪虚でありながら、正々堂々を望むアルカナ、ですか。本当に変わってる方です……」
 エフィーリアは過去の報告で彼の闘い方、立ち回りを聞いている。ハンターと正々堂々闘おうとする歪虚で、その意図こそ掴めなかったが、大きな陰謀のようなものは全く匂わせない実直さを感じさせた。
「人員を募らないと、いけませんね」
 それでも彼は”アルカナ”、過去の英雄の一人であり、歪虚に身をやつした存在に違いはない。ならば、先代の願い、自らの使命に則って、彼を討滅しなければならない。エフィーリアは決意を胸に、ハンター達を募るのだった。

リプレイ本文

●独白

 ワイにあるものは”力”じゃった。
 相手をねじ伏せる腕力に、相手の裏をかく技量、んでもって、相手を上回れるかを察する本能。
 ひたすらに自分の拳を磨き、鍛え抜いた。より強くなりたい、その気持ちだけを糧に毎日を生きてきた。自分より強い奴に勝ちたいと、自分の力を証明したいと、一所懸命に努力を重ねてきた。

 愚直やと人は笑う、勝てっこないと人は呆れる。確かにワイの前にあった壁はえろう高いもんじゃき、んなもん夢物語じゃって笑い飛ばされんのも仕方なかったわ。
 けれどワイは越えたった。重ねた努力は、ワイの前に高みへの階段を作ってくれた。

 それを妨げられたんは確かに悔しかった。情けなかった。ワイの積み重ねた努力が崩れてしもうたけの。

 せやけん、じゃったら次はそいつすらも越えたる。
 騙し、騙され、大いに結構。それすらも笑い飛ばして踏み越えたろう。

 その為に、ワイは……ありもしない”二度目”にしがみついたんやけのう。
 

●その名は『力』

 辺境のとある場所、山間の大きく開けた台地に、大きな『山』が鎮座している。赤銅色の山肌は、前方に迫る気配を察知すると、その隆々とした体躯をゆっくりと動かし立ち上がる。
 山の如き体躯を誇る巨人。『アルカナ』の一体、名は『力(The Strength)』。遠くから歩み寄る、此度の対戦相手の到来に全身の力を漲らせる。
「漸く来おったか。待ちくたびれたのう!」
 巨大な身体から発せられる声もまた大きく快活で、開けた台地に反響してびりびりと地面を振動させる。
「お山……みたい。肩に乗ったら……見晴らしが良さそう……」
 聳え立つ巨体を見上げ、シェリル・マイヤーズ(ka0509)はぽつりと呟く。『力』と比較しなくともシェリルは他人より遥かに小柄であり、その体格差は一目瞭然だ。その呟きもしっかり聞こえたのか、『力』は顔を近づけるように上体を傾ける。
「なんや、ちまっこい嬢ちゃんやのう。見晴らしはええぞ? 嬢ちゃんももっと食って大きなったらええ見晴らしになるさかいな」
「そうなんだ……今日は肩車の日なんだ。私にも……その景色、見せてくれる?」
「なんや面白い日が出来とるんじゃな!? クリムゾンウェストの記念日ってどうなっとるん!? せなあかんの!?」
 本気で狼狽する『力』の様子に、シェリルは思わず顔を緩ませる。
「嘘だけど……」
「せやろな!」
「でも……ありがと。あなたの真っ直ぐさに応えられるよう……」
 シェリルはすらりと振動刀を抜き、自分の何倍もの大きさを持つ『力』に、同じく真っ直ぐな視線を投げかける。
「頑張って戦う……ね」
 その声色に佇まいは歴戦の戦士のものだ。数多くの戦場を渡り歩いた本物のみが纏う気迫に、『力』は満足げに頷く。
「こら、ちまっこい思て舐めたらえらい目に会いそうやな」
 『力』は上体を起こし、拳を握りしめる。
「初めまして、『力』。僕は駆け出し猟撃士のナタナエルというよ。今回はよろしくね」
 続いて名乗りをあげたのはナタナエル(ka3884)だ。あえてクラスを名乗る彼に対しても、『力』は何の疑問も抱かずに信じ込む。
「おう、ハンターのクラスの一つじゃったか? わざわざ明かすとは律儀なやっちゃのう」
「(普通に信じ込んじゃったよ)」
 実際のナタナエルのクラスはストライダーだ。しかし『力』は名乗りを上げた彼のクラスを疑いもしない。彼にとってはさして重要でもないというのもあるだろうが、それでも敵の言うことを臆面もなく信じ込む様子に、ナタナエルはやや毒気を抜かれる。
「三度目の正直なの。というわけで、こんにちはーなの」
「出やがったなクソガキ! またお前かい!」
 リリア・ノヴィドール(ka3056)の登場に『力』は露骨に嫌そうな顔をする。『力』は過去2度も彼女に辛酸を嘗めさせられている、言うなれば”天敵”だ。さすがの『力』もこれには警戒せざるを得ない。
「はいはい、賢しくも今回も戦いに来ました、なの。楽しい勝負にしようなのー」
「今回は騙されへんからな! ぎゃふんと言わせたるけの!」
 想像以上のヘイトの高さにリリアはくすくすと笑む。意識されている証拠だ。
 そんなやり取りを遠巻きから眺めるテノール(ka5676)は、『力』のそんな愉快なやり取りの最中にも、自らの拳を握り、戦意を高めている事を窺い知る。鍛え上げられ、締まり上がった筋肉は彼の強さそのものであり、同時にその気迫もまた本物であることを洞察する。テノールは同じ格闘家として彼に敬意を払い、一歩歩み出て名乗りを上げる。
「テノールだ。格闘技の技としての騙し以外は俺も向いていない。互いに技と技を出し切るつもりで、全力でやり合おうか」
「ほぉ……お前も格闘家か。ええ面構えじゃ」
 テノールの身体を視る『力』。筋肉の付き方や構え方から、同じく格闘に精通するものと見抜き、期待を高める。
 同じくして、真っ向から挑む者として名乗りを上げる者がいる。グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)もまた剣を引き抜き、『力』に真正面から対峙する。
「俺はグリムバルド・グリーンウッドだ。出会いに感謝を……挑ませてもらうぜ、『力』!」
「おう、ええ気迫じゃ! そういう奴の相手は気持ちええのう!」
 グリムバルドの名乗りに『力』は応え、にかっと笑む。正面から挑むと宣言されて退く彼ではない。
「ワイもこの出会いに感謝しよか! グリムバルドとやら、ええ勝負にしよか!」
 そうして高まってきた戦意の中、『力』はやや離れた位置に佇み、大きく深呼吸して気を高める存在に気付く。自らの内に闘志を押し込むように、気迫を高め、意識を鋭く研ぎ澄ます存在。彼女はゆっくりと目を開き、『力』を見据え――『力』もまた、その視線に応える。
「待たせたわね……『力』。今回は勝たせてもらうわよ」
「よう、アイビス。ワイも待っとったわ、白黒つけれるこの日をな」
 アイビス・グラス(ka2477)は過去数度に渡って、『力』と真正面から激突した猛者だ。『力』もその真っ直ぐな力と意思に敬意を示し、最大の好敵手として認めている。そんな彼らが対峙し、今まさに戦いを始めようとしている。滾る血潮に昂る戦意が抑えられず、『力』は構えを取る。
「ええ、ええぞお前ら。面白い勝負が出来そうや。さあ、そろそろ始めようかの!」
 『力』はファイティングポーズを取り、臨戦態勢に入る。そんな『力』の前に立ちふさがるのは、シガレット=ウナギパイ(ka2884)だ。
「まあ待ちなァ。決闘に名乗りは必要だろう? 俺は聖導師のシガレットだ。仲間を護るのが俺の力だぜェ」
 咥えた紙巻煙草を揺らしながら、大きな盾を構えて名乗りあげるシガレット。『力』は、その様子にニヤリと笑う。
「そやな、戦う前の礼儀は必要やな。なら……」
 すぅっ、と息を吸い込み、『力』は名乗りをあげる。
「ワイは『アルカナ』が一人、『力(The Strength)」じゃ! さあハンター共、いい勝負に」
「今だ!」
「しよごふぅっ!?」
 『力』が名乗りをあげようとした瞬間、シガレットの合図と同時にその顔面に援護射撃と魔導符剣が炸裂する。、完全な不意打ちをまともに食らった『力』は大きく仰け反る。
「畜生今回もやってくれるようじゃな! 上等やわ!」
 斯くしてハンターと『力』の激突が開始された。




●ぶつかり合う『力』と”力”

 巫女服をひらりと翻しながら着地するのは夜桜 奏音(ka5754)。手にした魔導符剣を軽く振るい、今一度『力』に向き直る。
「失礼しました。『『力』じゃ!』の所で名乗りは終わったものと思いましたので」
「くっ、後半は蛇足じゃったか? 格好つかんなぁ!」
 『力』は振り上げた拳を奏音に叩き込む。奏音は舞うような足取りでそれを回避すると、大きくステップを踏んで距離を取る。しかし『力』はおかまいなしに拳を掬い上げ、大地を抉るようにアッパーを放って後退した奏音を追撃しようとする。
 そこへ援護射撃が突き刺さる。振り抜かれた拳の勢いを止める事は出来ないが、ほんの僅かに攻撃の出を遅らせた事が出来た為、寸での所で奏音は暴腕の犠牲にならずに済む。
「この狙撃……あいつか」
 妨害射撃をされた拳に食い込んだ銃弾をぺしぺしと指で払って落とす『力』は、射線の先にいる存在を睨みつける。そこにはライフルを構えるアメリア・フォーサイス(ka4111)の姿があった。
「またお前か、狙撃手!」
「それはこっちの台詞ですよ!」
 アメリアは以前も『力』と対峙し、その狙撃によって『力』を苦しめたハンターだ。厄介な銃撃は当然『力』も警戒しており、彼は遠距離からの攻撃によるダメージを減らす特性を獲得している。
 しかし今回のアメリアは戦闘区域のすぐ近くにいる。『力』にとってみれば数歩で詰められるような距離で、彼女は次の銃弾を装填する。アメリアもまた『力』が遠距離からの攻撃手段によるダメージ軽減の特性を獲得していることを理解し、離れすぎない距離を維持しているのだった。
「とはいえ、私は目立ちたくない性分ですからねー。今回もちまちまさせてもらいますよ」
「放っておくかいな、そんなもん!」
 『力』が跳び、一息でアメリアとの距離を詰める、着地の瞬間に振動した地面は人間すらも飛び上がる程の強烈さを伴い、一瞬動けなくなったアメリアに容赦ない蹴りが放たれる。
「――残念だが、やらせないさ」
 その声とどちらが速いか、テノールが縮地によってアメリアと『力』の間に割り込む。
(格闘で重要なのは、重心の扱いと、臆さぬこと――)
 常識外の速度で迫る大木のような脚の蹴りに真正面から対峙するテノールは、鋭い視覚で瞬時に判断を下す。『力』は巨大だが、その体幹と重心移動は人間の格闘技そのものを倣っており、蹴りの際に踏みしめる軸足に体重が集中していることを見抜いている。テノールはその蹴りを打ち払うように受け流し、その勢いを殺さずに身体ごと回転、脚の横側に潜り込むと同時に、拳を叩き込む。
「ふ……っ!!」
 インパクトの瞬間、マテリアルを開放。衝撃は鋼鉄の筋肉を突き抜けて体内を貫き、強烈な打撃に『力』の蹴りが横方向にズレる。
「おぉっ!?」
 軸足に預けていた体重によりバランスを崩した『力』の蹴りは大きく逸れ、アメリアはその隙に横へ転がり、ブレた蹴りめがけて銃撃を行う。
「ぐぐぐぐ……!」
 なんとか倒れずに踏みとどまる『力』。そうして体制を強引に切り替えた為に、視界にあるハンターの姿が飛び込む。キャンディを口に咥え、ゆっくりと近寄ってくるヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)の姿を捕捉する。彼の手には拳銃が携えられており、それを『力』に向けて構えている。
「『力』とやら。一つ忠告だ、決して目を逸らすな」
 突きつけられた銃口。だがライフルですら穿たれなかった『力』はその行動を一笑に付す。
「なんじゃワレ、そないな豆鉄砲でワイに傷つける事が出来る思うてんか?」
「試してみるか?」
 戦闘において問答は無用だ。『力』はそんなやり取りなど意にも介さず、そのまま殴り飛ばそうとする。だが、ヴィントの言葉には妙な気迫がある。『何か仕掛けてくる』という疑念が、『力』の天性の本能を刺激し、その拳を繰り出すのが一瞬遅れる。
 だがそれこそがヴィントの狙いだ。ほんの僅かな時間だが、意識をヴィントに傾けた。その一瞬の間隙を縫うように投擲されたムーンチャクラムが、『力』の分厚い筋肉の表面を切り裂く。痛みに振り向けば、投擲されたチャクラムに引っ張られるように急接近してきたリリアが、振り上げたダガーに自らの体重を乗せて『力』の右肩に突き立てる。食い込むように突き刺されたダガーは筋肉の鎧を貫き、確かなダメージを与える。
「いづっ……こ、このガキっ」
 『力』が右肩に乗るリリアを捕まえようと左手を振り上げた頃には、リリアは跳躍して離脱、絶えず隙を縫うように彼女は死角へと入り込むように足取りを行う。
「ふふっ、そう簡単には捕まらないなの。次は上から来るわ! 気をつけなさい!」
「おう、お前には何度も騙されてるんじゃ! そんな手に引っかかる訳」
「残念だが本当だ」
 3度に渡って騙され続けているリリアの言葉を警戒し、遂に信じなくなった『力』は立体攻撃で飛び上がったナタナエルの上空からの強襲をまともに受ける。首筋の部位を狙った明王剣の一撃が、『力』に強烈なダメージを入れる。
「くっそ、今度はホンマかい!」
「今日は嘘をついちゃいけない日なのよ。だから私は今日はホントの事しか言わないわ」
「またその話かい! そないな嘘をついていい日なんてあるわけ……」
「本当だ。嘘を吐いても良い日があるんだ。エイプリルフールというんだが」
「え、マジで? ホンマにあるん?」
 ナタナエルが注釈を入れ、はっとする『力』から飛び上がって離れる。
「ただし午前中だけで、午後にはネタ晴らしをしなくちゃいけないっているルールがあるがな」
「午前……午後……」
 えーと今何時やったっけな? と思案する『力』。決闘の時間は日が高く登るタイミングではあったが、正確な時間を覚えていない。思案している隙に離脱するナタナエルに気付いた『力』は、それが狙いかと追撃するようにフック気味の拳でナタナエルを追撃する。咄嗟に繰り出した拳にナタナエルはバランスを崩しすっ転ぶが、その影響で『力』の拳を寸での所で回避する。
「お……っと! 靴紐が解けてしまったが、運が良かったようだな!」
「ちぃ、悪運の強い奴め……」
 態勢を整え、第二撃を放とうとする『力』。ナタナエルと入れ替わるように、正面からグリムバルドが飛び込んでくる。横合いからでなく、真正面から突っ込んでくるグリムバルドに、『力』はニヤリと笑う。
「ええ度胸や、それでこそ……倒し甲斐があるってもんじゃ!」
 瞬間、豪速のストレートパンチがグリムバルドを襲う。想像以上の速さに咄嗟に攻性防壁を展開するも、斥力で弾ききれない拳と衝撃がグリムバルドを襲う。しかし彼は怯む事なく、振り抜かれた腕目掛けて剣を振るい、叩き込む。
「重てぇっ……シガレットのヴェールがなきゃ危なかったな」
 シガレットは予め、真正面から戦うハンター達にホーリーヴェールをかけてダメージの軽減に貢献している。グリムバルドにかけられた防護膜が燐光となって消えていく中、格闘技に精通している『力』がただの一発で終わる筈はない。逆の拳を握りしめ、続けざまに拳を放つ。
 拳がグリムバルドを襲う最中、横合いから疾風が割り込む。疾風はグリムバルドを掻っ攫い、彼がいた場所に命中した拳が地面を大きく陥没させる。疾風の正体は鋭く踏み込んだシェリル。彼女には受ける盾はないが、だからこそ自前の速度をもって誰かを助ける事で、仲間を護っていた。
「悪ぃ、助かった!」
「へーき……」
 こくりと頷くシェリルは素早く体勢を立て直すと、ワイヤーウィップを打ち鳴らし、振るう。
「そんな攻撃……」
 甘い鞭撃など、逆に反撃に利用してやろうと言わんばかりに、ワイヤーウィップの動作ごとラリアットで薙ぎ払おうとする『力』。だが、横合いから現れたアイビスがその腕に飛び乗ると、その腕伝いに走り、『力』の頬に強烈な蹴りを食らわせる。
「ぐおおっ!?」
「この構図、あの時と同じね……!」
 シェリルのウィップの攻撃は陽動、死角から機を伺っていたアイビスの攻撃が本命だ。勢いをつけたアイビスの一撃に、『力』の胴体は大きくぐらつく。奇しくもその攻撃は、かつてアイビスが最初に『力』と戦った時に行った攻撃と同じだった。
「ぐっ……はは、お前はいつも身体でぶつかってくるのう、アイビス!」
「ええ……私にはこれしかないから」
 大きく腕を回してアイビスを捉えようとする『力』。アイビスはその腕を類稀なる立体感覚で踏み、回避し、飛び退く。近くにある樹木に飛び乗って再跳躍し、地形、『力』の体躯を利用して縦横無尽に飛び回る。
「面白いのう……! それでこそじゃ!」
 『力』は身体を大きく捻り、片足を軸に回し蹴りを行う。大質量の脚によって放たれる高速の蹴りはそれだけで暴力だ。なんとか跳躍で離脱したアイビスだったが、遅れてやってきた衝撃波だけで吹き飛ばされる。
「まだまだぁ!」
 打ち下ろされる拳。空気が破裂するほどの速度を伴って飛来する拳を、空中にいるアイビスに回避する手段はない。
「おい待て! 空から隕石だ!」
「なんじゃて!?」
 唐突にシガレットが声を張り上げる。緊迫感の伴った叫びに思わず『力』は腕の勢いを弱める。そこへアメリア、ヴィントの妨害射撃の連射が突き刺さり、拳の速度が弱まる。遅れた拳が到達する前、地面を蹴って跳んだシェリルがアイビスを掻っ攫い、拳の直撃から護った。
「ってこれも嘘かい! 気にしてもうた!」
 空を見上げた『力』は慌てて視線を下ろす。しかしその隙を見逃さず、間髪入れずハンター達の攻撃が叩き込まれる。奏音の剣戟が踵を切り裂き、投擲したチャクラムに続けて接近したリリアがその箇所へ追撃を入れる。ぐらりとバランスを崩した『力』はガードを空けてしまい、縮地による助走から跳び上がったテノールが、勢いを殺さずその胴体に拳を叩き込む。衝撃を貫通させるテノールの一撃を受け、『力』はついに膝をつく。
「ぐ……ふっ、くくく……ははは! やるのうお前ら、滾ってきたわ!」
 『力』はハンター達を賞賛し、動きを止める。ハンター達の攻撃は確実に『力』にダメージを与えていき、遂にその体力を半分まで削りとった。
「タロッキのぉ! おるんじゃろう!」
「……」
 『力』が声を張り上げると、様子を伺っていたエフィーリアが顔を出す。
「アレを使え、最後じゃけ、全力でやろうや!」
 『力』はエフィーリアに、秘術の行使を促す。エフィーリアの秘術はアルカナの核を引きずり出し、断片のアルカナを撃破可能とするためのものだ。当然アルカナにとっては消滅の危機を伴うものだが、それでも『力』は、ハンター達と本気の力比べをしたいと、敢えて秘術を受け入れるのだ。
「……それが貴方の選択ならば」
 エフィーリアは歩み出る。その間、シガレットは回復魔法を使用して、傷を負ったハンター達を回復する。『力』もそれは特に咎めず、エフィーリアが歩み寄るまで膝をついたまま動かない。やがて、エフィーリアが手を『力』へと翳す。
「8番目の使徒……真なる姿をここに」
 エフィーリアが秘術を唱える。ハンター達は、『力』の本領が発揮される事を予見し、構えを取る。

 
「――『アテュ・コンシェンス』」

 エフィーリアの術が発動し、周囲一帯が光に包まれる。そしてハンター達は、その光の中で、ある男の一生を垣間見た。


●行間

 とある格闘家がいた。来る日も来る日もサンドバッグを突き、自らの技を研鑽した男がいた。

 ただひたすらに強さを、高みを追い求め、男は突き進む。ひたむきに、見ようによっては妄信的に努力を重ねてゆく。
 意味を問う者に、彼は一様に応える。厳密に言えばそこに意味はない。ただ目指すべき場所が高みにあるから、そこを目指すだけだと答える。

 しかし、逆に言ってしまえば、男にはそれしかなかった。
 文字通り自らの全てを賭けて育んできた、己の強さしか、自分には証明するものがなかった。潰しが効かない道を真っ直ぐに突き進んだ男には、力を以って自らを証明する事しかできなかったのだ。

 そうして男の強さを妬んだ者がいた。その者は男に毒を盛り、男は選手生命を断たれる。
 男は病床で涙を流した。自らの道が途切れた事に、悔しさに顔を歪めて。

 それでも尚、彼は戦い続けた。認めたくなかった、自らの力をこんな所で折りたくないと。転移した世界にて英雄に出会い、彼は尚戦い続けた。

 だが、ある日の行軍中、歪虚の狙撃によって彼は唐突に生命を断たれた。彼はまたしても、正面からの戦いを成し遂げる事なく崩れ落ちたのだった。

 今際の際、彼は願う。
 最期に、自分の力を試せる相手が欲しい。例え卑怯な手であったとしても、ちゃんとした『戦い』の中で死にたいと。

 歪虚は間違っている。歪んでいる。
 それでも彼は、己の存在証明の為に、その道にすがりつくしかなかったのだった。




●”力”の証明

 光が収束する。秘術の行使は一瞬で、ハンター達は記憶が流れ込むかのように、”男”の最期を追体験した。眼前に鎮座した『力』が、ゆっくりと立ち上がる。その筋肉はより隆々とし、闘志が熱をも伴って身体から蒸気を発する。ひと目見ても戦闘力が大幅に向上した事が分かる。
「下がれ、エフィーリア。あいつマジになりやがったぜェ!」
「……ええ、どうかご武運を!」
 シガレットが言い、エフィーリアはハンター達に目配せすると同時にその場を離れる。『力』が再びその巨大な体躯でファイティングポーズを取る。
「待たせたなぁ、ハンター。さあ、やろうや、ここからが本当の勝負じゃきに」
 以前にも増して強大となった筋力は一目見れば分かる。力もスピードも先程の比ではない。格闘技に覚えがない者であっても、その佇まいと闘志は軽々と人を粉砕する事が出来る程の圧倒的な威圧感を放つ。
 だが、ハンター達は臆さない。彼の闘志の前に、全員が武器を構える。『力』は満足げに口元を釣り上げる。
「いくで、こんな戦いを、ワイは望んでたけのう!」
 『力』は身を低く落とし、地面をすくい上げるように腕を振るい、アッパーカットを放つ。地面に触れてないにも関わらず衝撃波のみで地面が抉られ、破砕した大地が飛沫のように瓦礫を飛ばす。
「……どんな状況でも、どんな相手でも。小細工抜きの真っ向勝負か……良いな、あんた。格好いいな!」
 グリムバルドが、『力』のまっすぐな姿勢に感心する。そうして彼は迫る拳に真っ向から相対する。大人になる頃には諦めてしまう、理想を追い求めるひたむきな強さ。グリムバルドは彼に一種の憧れを抱き、それ故に敬意をもって向き合う。彼の全力に答える為に。
 魔導機械にマテリアルを集束、エネルギーをその一点に凝縮する。限界を超えて駆動する魔導機械が彼の腕に一本の光の剣を生成し、絶大な出力を伴って眩いばかりの光を放つ。
「うおおおおおおッ!!」
 咆哮するグリムバルド。真正面には人一人を容易く木っ端微塵に粉砕する拳が迫る。だからどうした、ここで挑まねばいつ挑む。相手が真っ直ぐならば自分もまた真っ直ぐに。全力を……叩き込む!!
 激突する。グリムバルドは吹き飛ばされ、光の剣も激突のエネルギーに耐えきれず四散する。腕の関節があらぬ方向に曲がり、錐揉みするように宙を舞うグリムバルド。だが、『力』もまたそのエネルギーに耐えきれなかったか、左腕の指が全てひしゃげ、血が吹き出す。
「がっ……あ! 見事じゃ……グリムバルドとやら……ワイの左腕はこれで使えんのう……!」
「へッ……格好悪いなぁ……」
「ンな事ねェよ、最高に格好いいぜェ、お前」
 地面に落ちる前にグリムバルドを受け止めたのはシガレットだ。ゆっくりと吹き出した煙草の煙が、十字架のような形を取る。グリムバルドを抱えるように後方に回しながら、片腕を『力』に向ける。掌から放たれる光の波動が『力』の左腕に追撃が入り、更なるダメージが蓄積される。
「がっ……」
「動きが鈍ったぜェ、今だ! グリムバルドの拓いた活路、無駄にすんじゃねェぞ!」
 シガレットの叫びと同時に、ナタナエルが飛び出す。魔導拳銃をしまい、取り出した明王剣が、超大な火焔を纏う。使い物にならなくなった左腕側に回り込み、熱量を伴った斬撃を脇腹に加える。
「嘘をついてすまないな、本業は疾影士なんだ。こうでもしないと攻撃が届かなくてね」
「はん、流石に戦い方で分かるわ」
 ナタナエルの動きは本来のクラスでないことは、戦闘経験が豊富な『力』は見抜いていた。だがあえて、彼は名乗られた通りの戦い方を尊重して動いていた。それが対峙する者への礼節として。
「足りん力を工夫で埋める、それもまた力や! ワイは、それにも負けん、勝たるけのう!」
 身体ごと回転させて薙ぎ払われる右足の蹴りがナタナエルに迫る。ほぼ予備動作なしで放たれる反則級の速度、スピードが売りのナタナエルをもってしても完全に躱しきることはできず、掠めた腕がおかしな方向に曲がり、叩き落される。
 だが蹴りを行った事で軸足を動かした『力』は、とある場所に踏み込んでしまう。
「おおっ!?」
 ずぶり、と急に踏みしめていた地面が泥濘む。奏音が予め予測し、張っておいた地縛符だ。
「そろそろ手札を明かす事にしましょう……といっても、戦い方から本業でないことは見抜かれてたかもしれませんが」
 安定しない足場に片足立ちで入ってしまったが為にバランスを崩す『力』。傾いた頭部目掛けて更に複数の符を繋ぎ、閃光を放つ。強烈な閃光に目が眩んだ『力』は平衡感覚を維持できない。蹴りに利用した右足を即座に引き戻して体勢を維持しようとするが……
「重心が揺らいだな……そこだ!」
 完全に体勢を崩した隙をテノールは見逃さない。引き戻してきた右足に移動してきた重心を刈り上げるように掬い上げ、地面につこうとする動きを逆に利用する。引き戻す勢いをそのまま流された『力』は、その巨体を信じられない程に回転させられ、豪快に横転する。
「なめ……んなや!」
 しかし『力』も格闘技の精通者だ。投げられた時の受け身の動作を利用し、転がるように右腕で肘打ちを大地に叩き込む。爆発の如き破壊力の肘打ちが大地を粉砕し、テノールと奏音は吹き飛ばされる。
「は、ははっ、投げられる、なんて何年ぶりじゃろうな! おもろいやんけ、ほんま!」
 しかし転倒してしまった事による隙、そして奏音によって眩んだ視界が回復する前に、視覚外から飛来する銃弾。アメリアだ。地面と太腿の間に打ち込まれた冷気の弾丸が、彼と地面を凍結によって縫い付ける。
「”力”ですか、私は目立ちたくない性分ですからね」
 銃弾に再び弾丸を装填しつつ、遠距離に離れているアメリアは呟く。
「縁の下の力持ち。永遠の5番、6番手。それくらいが私には丁度いいんですよね。ですから」
 あれくらいの凍結はすぐに引き剥がされる事くらいは解っている。決して決定打になりえない。だが、それによって稼げる2秒、いや、1秒にも満たない隙が、他のハンター達の活路を開くと信じて。
「――私は、私なりの。そういう”力”を示してみせましょう」
 その凍結した部位を更に精密に射撃するアメリア。バリバリと氷が割れて引き剥がされる所に更に冷気の弾丸が着弾し、ほんの僅かに復帰の時間を遅らせる。
「ぐっ……! ホンマ、抜かり無いわな、お前……!」
 『力』は歯噛みしつつも、どこか賞賛するような声色でアメリアを睨む。地面に数秒、縫い付けられた『力』の左側から何者かが接近する。
「ちっ……!」
 起き上がれない『力』は咄嗟に上体のみを捻って左側の接近者に攻撃を加える。しかし存分な姿勢でない攻撃は先程のような精度はない。襲撃者……ヴィントは身を低く屈め、放たれた拳の下に潜り込むように回避すると、逆側の脚にもゼロ距離でレイターコールドショットお見舞し行動を阻害する。
「目を逸らすな……と、忠告しておいた筈だ」
 その印象的な言葉に、思わず懐に入ったヴィントに目線が行く。リリアは視線がヴィントに集中したその隙に、大声で叫ぶ。
「今度は後ろから行くわよ、気をつけなさい!」
「ぬっ……!」
 この声は散々騙されたリリアの声、『力』は警戒し、背後を振り向く事に疑惑を抱く。その一瞬の判断の迷いが、本当に背後から強襲を仕掛けてきたリリアへの対応を遅らせた。チャクラムに引っ張られるように急接近したリリアは、慣性を活かしたダガーの一撃で『力』の首元に刃を食い込ませる。
「ぐ、ぅっ! 今度もホンマか! お前、今回に限ってなんで……!」
「さぁね、気が変わったかもなのよ」
 右手の払いのける攻撃も、リリアは瞬時にいなし、離脱する。そうして着地した地面を蹴り、更にダガーを腰部に突き刺す。
「騙され、騙されて。わかった上で尚、力で押し通す……その心の強さは見習いたいのよ」
「ガキ、お前……」
「最後だし、本当の事を言うの」
 リリアは散々『力』を煙に巻いてきたが、彼女の戦い方はもとより相手の不意を突くことを得意とするものだ。彼女なりの正々堂々で彼と戦ってきた。しかし、同時に驚くほどに真っ直ぐな彼の強さに敬意を抱いていたのも、また事実だった。
「違う形で出会えてたら、友達になれたかもね」
「……はっ、お前みたいな嘘吐きなんて願い下げじゃ」
「ざーんねん、なの」
 その声色はどこか穏やかな『力』だったが、薙ぎ払う腕に手加減はない。背中側に回す腕の攻撃は周囲の障害物ごとリリアを吹き飛ばす。咄嗟に地面を蹴って回避行動をとったリリアだったが、ダメージを逃しきれない。それを受け止めたのは、駆け付けてきたシェリルだった。
「おじさんが真っ直ぐなの……とても、凄いと思う……」
 リリアを抱えながら、シェリルは『力』につぶやく。
「私は、打たれ強くもないし、力もない。そんなに素早くも、ない。私の強さって何だろうって……ずっと、考えてた……」
 静かな、されど確かに届く声でシェリルは呟く。『力』は、確かにその声を聞く。
「……だけど私は……自分だって何か出来るって、信じてる……!」
 リリアを降ろしたシェリルは、『力』に接近する。『力』は凍りついた脚を漸く剥がすと、素早く身体を入れ替え……右腕の筋肉のみでその巨体を支える。
「……ええ心意気や嬢ちゃん。ワイはそんな嬢ちゃんの想いこそ強い力やと思うで。嬢ちゃんもまさしく戦士じゃ。だからこそ……全力でお前を倒したる!」
 右手を軸にして身体を回転。薙ぎ払う両足が破壊の渦となってシェリルを襲う。シェリルはすぅっと息を吸うと、迷いのない目でその懐に飛び込む。迫りくる破壊の渦は防御する事を捨てた紙一重のステップをもって回避に成功し、軸となる、その腕にワイヤーを結びつける。
「……全力、で……!」
 駆ける速度を殺さないままに通り過ぎ、助走をつけたままに『力』に結びつけたワイヤーウィップを後ろ手に引っ張る。『力』の巨躯を動かす力は本来、小柄なシェリルは持ちえない。しかし不安定な体勢に加え、片腕しかない状態。更に回転しているともなれば話は別だ。シェリルは力だけでは足りない。その速度も利用し、勢いをそのまま殺さずに『力』の軸腕を引き抜いた。
「うおおおっ!?」
 引っ張られた『力』は横方向に加わった力の影響で横転する。自重によって倒れ込む『力』は、相当のダメージが蓄積されていた。
 それでも尚、立ち上がる。ゆっくりとその赤銅色の筋肉を上下させ、起き上がる。
「……本当に、強い人ね、あなたは」
「最後はお前か、アイビス」
 先程の回転攻撃によって周辺のすべてがなぎ倒され、ハンター達の相当数がダメージを受けている。今現在立っているのは、アイビス、そして『力』の二人だけだ。どちらも、立ってるのがやっとというダメージで対峙している。
「最後まで、お前は正直にワイと戦ってくれたのう……ワイが恐ろしゅうないんか。格闘技やっとるなら、体格差のアドバンテージ差くらいわかるじゃろう」
「そうね……私は、魔法も、射撃の才能もない。格闘士みたいに強くもない。けど」
 アイビスは呼吸を整え、自らを奮い立たせる。
「それでも私は、この戦い方を貫くって決めたの。それを曲げたくない、自分に嘘はつきたくない。敵だとしても、私を好敵手と認めてくれた貴方に、嘘はつきたくないの」
 構えを取る。アイビスは今までも数多くの敵と戦ってきた。圧倒的な強敵に打ちのめされたときもあれば、自分よりも強い仲間にを羨む事もあった。疾影士本来の戦い方とは異なる自らのスタイルに迷いを抱いている自分もいた。
「けれど貴方と戦っていて、貴方の過去を見て、はっきりと分かった。自分の信じる道を貫く事、それこそが人の強さなんだって。魂を賭けてぶつかった事に、間違いなんてないんだって」
 アイビスは、構える。自分の何倍もの体躯を持つ『力』に、真っ向から相対する。
「……だからこそ、貴方に絶対に勝ってみせる! 私も、私の在り方を証明とする為に! 『これが私』だって、胸を張って誇れるように!」
「――ええで、来いやアイビス!!」
 その咆哮に、『力』は応える。彼もまた最後の力を振り絞り、拳を握りしめる。
 両者が地面を蹴る。振りかぶった拳が、互いの身体目掛けて真っ直ぐに突き出される。

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「おぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 拳と拳がぶつかり合う。衝撃波が互いの身体を駆け巡る。互いの全てを賭けた一撃が、互いの体中を駆け巡っていく。筋肉に稲妻が走るような激痛が走り、身体が中から破裂するかのような感覚を、歯を食い縛って耐える。ぶつかり合った両者が、互いに崩れ落ちる。

「――私の……勝ちね」
「――そうみたいじゃのぉ……」

 しかし、最後に、アイビスは

 ぼろぼろの身体で、立っていたのだった。

 

●示された『力』

 巨大な体躯はもうここにはない。敗北した『力』は、粒子のような光となって、少しずつその身体が分解されていく。
「……なあ、『力』、あんたの名は?」
 肩を貸されながら、グリムバルドが消え行く男に問いかける。
「……なんじゃったけのお、昔の事やさかい、忘れてしもうたわ」
「そっか……けれど、俺は忘れないぜ、いつか爺さんになっても……真っ直ぐで格好いい戦士がいたってな」
「そか、そらぁ、光栄やってな」
 シェリルもまた、消え行く男の傍に寄り添う。
「よう、嬢ちゃん。あんたの意思、見事じゃったのう」
「……うん」
 シェリルは、消え行く彼にそっと微笑む。強い想いを持った彼女は、それでも。誰かを思いやる為に笑うのだ。
「想いは、誰にも負けない……私だって、いつか……あなたみたいにおっきくなるから……」
「おう、嬢ちゃんならきっとなれるわ、ワイが保証したる」
 にっと笑う彼に合わせて、シェリルも微笑む。そんな様子を、リリアは眺め、そして声をかけた。
「満足できたかしら?」
 リリアの問いかけに、男はにかっと微笑む。
「ああ、満足じゃ、お前らみたいな戦士に、最期に出会えたんや」
「そっか。良かったの」
 消え行く男は、穏やかに笑う。全てを出し切った男は、最後にいい戦いと、良い敵に巡り会えた。かつて叶わなかった強敵との戦いに、満足な表情を浮かべて、空へと昇っていった。

「……私は忘れない、貴方という好敵手がいたということを」

 アイビスはその拳を、天に昇っていく彼に向けて突き出したのだった。

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  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドールka3056
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  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッドka4409

重体一覧

  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラスka2477
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッドka4409

参加者一覧

  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドール(ka3056
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 《死》を翳し忍び寄る蠍
    ナタナエル(ka3884
    エルフ|20才|男性|疾影士
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • 白腕の13
    ヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346
    人間(蒼)|18才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/19 18:31:14
アイコン 質問卓
シガレット=ウナギパイ(ka2884
人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/04/22 03:18:16
アイコン 相談卓
シガレット=ウナギパイ(ka2884
人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/04/22 14:44:59