• 初心

【初心】春のうららの凶悪カエル

マスター:芹沢かずい

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
LV1~LV20
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/04/24 19:00
完成日
2017/04/30 18:22

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

● 
 季節は春。空気が柔らかく、周辺の森からは緑の匂いが流れてくる穏やかな村。
 ゴブリンによって廃村の危機に瀕していたとは思えないほど、復興が進んだこの村は賑わっている。
 のんびりした季節を歌う鳥の声や森の木々に混じって響くのは、建物を修復するための大工仕事の音と号令、荒らされた畑を耕し整備する音。休憩時間には、食事を囲んで談笑する声。隣町から来ている行商人の呼び声もそうだ。
 村の家々は半分ほどが修復され、戻ってきた村人たちが身を寄せて暮らしている。畑はそれ以上に復興しており、この季節、ようやく最初の種を植え付けることになるだろう。
 村は活気に溢れている。その中で、復興以前から続く賑やかな少女たちの声も健全だった。
「お姉ちゃん今までどこ行ってたの? ……3日も」
 呆れたような、安心したような、微妙なエマの声。
「ふう……なんとか3日で帰ってこられたわ」
 答えるリタはどこか満足気に額の汗を拭う。彼女の方向音痴は筋金入りで、一度家を出てしまったら最後、誰かが傍に居ないと帰って来られないほどだ。
 エマと違ってそれほど忙しくない彼女は、いつも何処かしらに出かけている。最近では、村の有志の若者たちが面白がって相手をしてくれているようだが、今回は『古城の復旧具合を見てくる!』と言って飛び出したきり、3日という期間を経ての帰還である。
 エマがリタと違う点、それは年齢よりもしっかりしていることだ(大半はリタの面倒を見ていたために身についたことなのだが)。
 村おこしの拠点としているここ、ガーゴ爺さんとイル婆さんの家で、古城をはじめとした村の復興状況の整理を任されている。
 そんなこともあり、リタはいつの間にかペットとして連れ歩いているユグディラのゆぐでぃんと共に、イル婆が持たせてくれる大量の食糧を抱えて、村と村周辺を歩き回っているというわけだ。歩き回るといっても、エマにしつこく釘を刺されているので、人のいるところしか行くことは許されていないのだが、これまで一人で外出したことのないリタにとっては、大変画期的な進歩だ。


「それで? 今回は何か収穫あったの?」
 エマが台所でイル婆の手伝いをしながら話しかける。
 ゆぐでぃんを抱っこしたまま椅子に座り、早速差し出されたお茶とユグディラ饅頭・通称ゆぐまんを頬張っているリタは、一口目をしっかりと飲み込むと、そういえば、とばかりに身を乗り出した。

「大変よ!」

 リタが身を乗り出して話し始める。……大変なことなら開口一番に出てきそうなものなのだが。
 今回彼女は、イル婆から預かった大量の食糧を抱え、古城復興の現場指揮を執っているリブ爺のもとに向かっていた。しかしリタは、食糧を厨房に置いてすぐ、探険と称して城の中や外を歩き回っていた。城から離れないという約束を真面目に守り、城の外壁伝いに歩いていたところで、『それ』を目撃した。

「何がいたの?」

 エマの質問に答えるべく、リタは十分な間を空けて重々しく口を開いた。
「……カエルよ」
「カエル? 春だからじゃない?」
「違うわよっ! あんな巨大なカエルがいたら例えばカエルが大好きな人がいたって安心して生活できなくなるわ! そのくらい危険なニオイのするカエルだったわ!」
 がたぁんっ! と椅子を蹴って片方の拳を握りしめ、リタは力説する。

 細かく状況を聞き出すと、こうだ。
 現在、村の畑の水を確保するため、古城の裏手にある湖から用水路を整備している。用水路は幾つも枝分かれし、広い畑の隅々までを潤す重要な水路となっているのだが、そのうちの一つに、水路を塞き止めるほどに膨れ上がったブッサイクなカエルが陣取っているという。
 カエルが居るのは細く枝分かれする手前の用水路。そこで水が塞き止められてしまい、畑への水が共有できなくなっているらしい。
「……カエルの姿、ちゃんと見れたの?」
「うーん……大きいは大きいわよ。緑と茶色が混じったみたいな色で、ゴツゴツぬるぬるした感じだったわ。大人の人が5人くらい集まったより大きかったと思うわ。それに顔がいっぱいついてたし、目とか口もいっぱいあったわね。ジャンプしたら大変よ、あれは。子供なら食べられそうだし」
 顎に手をやり、自身が目にしたものを思い出しつつ語るリタ。

「恐らくは雑魔の類じゃと思うがのぅ……早いとこ何とかしてもらわんと、耕したばかりの畑がダメになってしまう」
 いつの間にそこにいたのか、イル婆に振る舞われた緑色のごぶまん(正式名称はゴブリン饅頭)を手にしたリブが苦い顔で言う。 
「そうですね。せっかく畑も家も順調に復興してますからね。カエルなんかに踏みにじらせるわけにいかないですよ」
 エマは武器を取り、可愛い顔に似合わない雰囲気を纏って言う。彼女もまたハンターの端くれ。いざとなれば戦うことを厭わないだろう。
「そうと決まれば早速討伐よっ!」
 リタもまた弓を手に、意気揚々と家を出る。……と、その前に。
「ちょっと待って! お姉ちゃん、幾ら何でも私たちだけじゃ太刀打ちできないと思うんだけど!」
「でも!」
「でもじゃない! お姉ちゃんの面倒を見るのも大変なのに、得体の知れない巨大カエルと戦うなんてできっこないと思うの。遠距離攻撃で一撃で相手を仕留める自信があるっていうなら別だけど」
「ぐ……痛いところを突くわね」
 少々毒のあるエマの言葉に、ぐっと喉を詰まらせるリタ。
 助け船はそんなときにやってきた。

「城の裏手から確認したことは、村のモンには伝達してあるぞぃ。村人は避難と同時にハンターさんに手助けを求めに行ってるはずじゃ」


「……思ってたより凶悪なんだけど……お姉ちゃん」
 ゴクリと喉を鳴らすエマ。遠目だが、改めてそれを見たリタの頬にも冷たい汗が伝っている。
 現在彼女たちは、古城の裏手を回り込み、湖の近くからカエルを視認できる位置にいる。
 周辺の畑よりも少しばかり低いところを流れる水路から、身体の上半分をのぞかせる巨体はやたらと歪で、隆起したように見える場所は頭のようだ。それぞれに長い舌を伸ばしては、手当たり次第に草やら虫やらを口に運んでいる。
「あたしの弓じゃ届かないわ……近づいても隠れる場所もなさそうね……」
 弓矢を握りしめ、リタが珍しく慎重に呟く。

 アレが暴れ出したら……それよりも、アレを放っておけばせっかく復興してきた村がまた汚染される。ハンターたちは、カエル討伐へと策を巡らせる。

リプレイ本文


 問題のカエルを視認できる距離に集まったハンター達は、その異様にそれぞれの感想を抱いていた。
「なんと面妖な……」
 自身の体よりも大きな斧を携えた観那(ka4583)が呟く。
「……随分でかい蛙だな。……大丈夫か?」
 セルゲン(ka6612)が観那に声をかける。
「大丈夫、大丈夫です。蛙なんて皮を剥いで下処理をすれば美味しくいただける程度の生き物ですから!!」
「…………逞しいな」
 今回の相手はカエル。当然普通のカエルではない。ヒトよりも大きな身体に幾つもの頭を持った歪な姿は、その見た目だけでも結構な破壊力がある。しかし、今回集まったメンバーの半分以上は女性だ。それを含めての感想なのだろうか、セルゲンが呟くように言う。
 その横では、レオナ(ka6158)が見知った顔ににこやかに挨拶していた。
「リタちゃんもエマちゃんも、元気だった?」
「はい! 元気だけが取り柄ですから。……特にお姉ちゃんは」
「だけってことはないわよ! 今回のアレを発見したのはあたしだもの!」
 エマとリタが順番に答える。
「そうね……あんな蛙がいては周りに何もなくなってしまいますものね」
 改めてカエルに視線を送り、レオナ。カエルは舌だけを器用に伸ばし、ひたすら何かを口に運んでいる。……それが瓦礫でもお構いなしだ。
「蛙だーぼこぼこにするぞーおー」
 そんな不恰好なカエルを見て、楽しそうな声を出すのは墨城 緋景(ka5753)。
「おっきな、蛙……顔、いっぱい」
 カエル自体を苦手としていないのか、坂上 瑞希(ka6540)がじっと観察して率直な感想を述べる。さらにその横で、微笑みをたたえたままで同じように観察していた御法 莉乃(ka6796)が言葉を重ねる。
「春の誘いには蛙はつきもの……でも少し張り切りすぎのよう」
「そうでしょっ? 春なのにあんなのがいたら安眠できないわ!」
「皆さん、よろしくお願いします」
「……よろしくな、リタにエマ。……何やら美味そうなもんが……是非ご相伴に預かりた……ごほん」
 セルゲンの視線はリタが持っていた『ゆぐまん』と『ごぶまん』に止まっていた。イル婆に持たされたものだが、ここまで持ってきたらしい。
 ひとつ咳払いをして、セルゲンが仕切り直す。
「復興を邪魔する無粋な蛙には、きっちりご退場頂かないとな」
「皆さんが困ってしまっては良くないですわ。それから、お饅頭もよろしくてよ。景気付けは大作戦にはとっても大事と聞き及びますもの」
 セルゲンの言葉を引き継いで、莉乃。饅頭のお陰でどことなく緊張感がないが、彼らが目標とするのはカエルの討伐。
「あの……」
 そこに観那が遠慮がちに声をかけてきた。視線が集まる。
「あ、すみません、私もその、戦いが終わったらお饅頭いただけますか……?」
「勿論よっ! すっごく美味しいもの、皆で食べましょ! あとでイル婆ちゃんから出来立てを貰ってくるわ!」
 リタが請け負う。
「古城の復興も進んでいるのでしょう? 屋上でお茶会なんてどうかしら?」
「それ、いい、ね?」
「ボクごぶまん食べたい」
 ……会話の内容がカエル討伐からお茶会の予定に切り替わった。


「皆さん、これを」
 気持ちを切り替えレオナが差し出したのは、森の王と呼ばれる樹木の加護をもたらす符。彼女の故郷に伝わるものだ。守護の力を持った符を、一つひとつ詠唱しながら貼り付ける。
 全員に符を貼り終えると、レオナが姉妹に声をかける。
「あの水路、水門はあるのかしら?」
「え? ううん、ただ湖から引いてるだけよ」
 いずれ水門も作るだろうが、今は自然な水の流れに任せて放流し、畑に利用しているだけだ。
「水がない方が自由に動きやすいですからね。少し上流で堰き止めた方が良いでしょうか」
「……そうだな。……そこら辺の瓦礫使って堰き止めるか」
 レオナの提案に、セルゲンが同意する。

 水路の堰き止め作業はレオナとセルゲン。リタとエマも加わり、カエルに気づかれないようにこっそりと移動を開始した。
 同時に、他のメンバーも動く。

●スタンバイ
 周りに点在する瓦礫の山に身を隠し、片手に木片を持って待機するのは緋景。彼の衣服や影が一段と暗くなり、瓦礫の影に馴染んでいく。
「分裂してスーツ着た二足歩行の蛙人間になったりしないかなー」
 冗談を口にしつつも、油断なく符を構えてカエルの動きを見る。

 同じように瓦礫の山を盾にするように移動したのは瑞希。赤い銃身を構えたその姿は、凛として引き締まった雰囲気を纏っている。目の前の巨大なカエルだけでなく、周辺の状況にも意識を向ける。
「別に蛙は嫌いじゃないけど……流石にキモイわコレ。とっとと倒してしまいましょう」
 いくつもある顔、歪な身体のカエルに宣言する。
 ……水の流れに何かを察知したのか、カエルは舌を出さずに固まっている。

 水路の水が減ってきた。レオナとセルゲンの作業は順調のようだ。
 
 観那と莉乃が動く。堰き止められ、水流が途絶えた水路の底にぬかるんだ地面が見えてきた。水路を見下ろす位置、カエルの正面に陣取って斧を構える観那。メンバーの準備が整うまで、ここに引きつける。ジャンプに備えているが、動く気配はない。

「ではいざ、参りましょう」
 穏やかな微笑みを絶やさぬまま、莉乃はカエルの正面に降り立った。囮になるつもりだ。観那もそれに続き、水路に降り立つ。

「これでいいかしら」
 レオナが作業を終えて言う。
「……ああ。……蛙なら身体が乾けばちっとは弱るんじゃないか」
 堰き止めた水路を見下ろして、セルゲン。目で確認してから、二人は同時に動き出す。レオナは自身の射程の範囲で遠巻きに、セルゲンは水路を辿ってカエルの横に移動する。水を堰き止めたとはいえ、今まで常に水があったような場所だ。足元には細心の注意を払う。


「!?」
 しばらく睨み合いが続いていたが、不意にカエルが動きを見せた。喉元が膨らんでいく。
『ゲゴオオォォ……』
「「!!」」
 ……大音量で鳴いた。複数ある頭が、周囲に散ったハンターを捉えるべく動き、虚ろな目が気配を追う。正面の頭が固定され、おもむろに口を開く。
 びゅっ!
 音さえ立てて巨大カエルの口から鞭のような舌が繰り出された! が、それは槍状に構えてあった莉乃のネレイデスに受け流される。
「大きさだけあって……重いですわね」
 攻撃を受けた莉乃の足は、その重さで地面にめり込んでいる。
「……相手は正面だけじゃない」
 幻影による牙をちらつかせ、セルゲンが横手から威嚇する。こちら側の頭が動き、やはりゆっくりと口を開ける。瞬間、長い舌が繰り出されることになるが、その前にセルゲンの武器が唸りを上げた!
『ゲッ……ゴュ……』
 連続して繰り出される攻撃をまともに受け、カエルは大きくバランスを崩す。だが巨体は倒れることなく、五つある頭のうち、三つが他のハンターを捉えた。
「うわそっち見てる! 瑞希君、気をつけてー!」
 緋景が瑞希に向けて声を張り上げ、符を投げつける。それは桜吹雪のような幻影を生み出し、カエルの視界を封じる。
 どごっ……!
 鈍く響くのは、地面が抉られる音。視界を遮られたためか、狙いが外れたようだ。緋景の声に反応した瑞希は、素早くその場から離れていた。
「危ないわねっ!」
 半ば叫ぶように言い放ち、瑞希は銃口をカエルに向け、狙いを定める。瓦礫の山から離れつつ不安定な体勢から放った弾丸は、それでもまっすぐにカエルに向かう!
『ゲュ……!』
 衝撃音の後には、絞り出されるような気持ち悪い音。そしてカエルが奇妙な動きを見せる。
「目はどの生き物も弱点でしょ」
 瑞希が自ら放った弾丸の行方を確認しつつ言う。すでに別の瓦礫に身を隠している。
 奇妙な動きは激しさを増し、もがき続けるカエル。苦し紛れに、辺り構わず口を向けては長い舌を繰り出す。目標もなく放たれる舌は、周辺の地面を抉り、瓦礫の山を吹き飛ばす。
「……っ!」
 思わぬ暴れっぷりに、正面に陣取っていた莉乃と観那に緊張が走る。それぞれに武器を構え、無作為に放たれる舌と、巻き込まれて舞い上がる瓦礫から身を守る。
「しまった……これでは思うように振り回せません……」
 繰り出されるカエルの舌を狙っていたが、狭い水路では観那の武器は大きすぎた。これでは思い切り振り抜くことができない。盾がわりにして舌の攻撃を防ぐので精一杯だ。一方で莉乃は、蛇節槍を巧みに操り、分割した七つの棍で対応しているが、太く長い舌の力はかなり強い。……狙いが定かでないのが救いだろうか。
 正面にあるカエルの頭は二人が見事に引きつけているが、頭は全部で五つ。
「これでどうでしょうっ」
 声とともに放たれたのは、瓦礫の山の上にいたレオナの符だ。それは光り輝く鳥の姿を成し、二人の代わりに攻撃を受けた後、消滅する。
「……二人とも、上がれ!」
 一瞬の隙をついたセルゲンが二人を誘導する。再び威嚇し、その鉄拳が連続してカエルを捉える! 
 莉乃と観那は水路から上がろうとするが、重い攻撃を受けた衝撃で二人の足はかなり地面にめり込んでいた。
「……まずいですわね」
 泥だらけになりながら、莉乃と観那は必死にその場を離れようとする。
「こっち!」
 そこに、素早く回り込んだ緋景の手が差し伸べられる。二人は順に手を借りて、水路から上がる。……これで観那の武器が本領を発揮できる。
「とっととくたばりなさいよ! 目に毒なのよあんた!!」
 瓦礫の山を盾に、着実にダメージを重ねているのは瑞希。銃撃音が絶え間なく響く。厄介な舌を狙いたいところだが、無作為に動くために狙いが定まらない。
「……ん?」
 不意に緋景が気付いた。
「そっちに飛び跳ねるのは駄目だよー!」
「「え?」」
 緋景の声にリタとエマが間の抜けた声を出す。緋景は姉妹とカエルの間に割り込むように素早く動き、木片を構える。
 べちょっ……!
「うわっ」
 カエルの背中にある顔から舌が伸びる。それは緋景が持っていた木片を捉えると、器用に搦めとる。
 舌は口に吸い込まれる前に、雷に撃ち抜かれた。素早く木片を手放した緋景の符だ。
 身体を支配している頭とは別の意思があるようにも思える動きを見せるカエル。だがその動きに注視していたからこそ、五つの頭が好き勝手に動くことに気づき、ジャンプする前兆に気づけた。そして彼の声に素早く反応したハンター達は、ジャンプへの対処も心得ていた。
 飛び跳ねるべく重心が少しだけ下に向いたカエルの頭上から、観那のギガースアックスが容赦無く振り下ろされる! 
 ぞんっ!
 柔らかい肉を裂くような音。が、カエルは動きを止めない。身体の一部を裂かれながらも脚は伸びきり、観那と莉乃の頭上を飛び越える。
「そっち落ちてくるよー! 避けて避けて!」
 ごふぅ……っ!
 カエルの鳴き声と炸裂する炎の音が混じる。着地点を予測して放ったレオナの攻撃が、蛙の喉元に直撃した!
 炎を抱き込みながらべちゃりと不恰好に地面に激突するカエルの背中が、奇妙な形に盛り上がる。
「……分裂する気か!」
 セルゲンが苦い声を出す。
 ぼこぼこと隆起するカエルの背中。幾つもあった頭からそれぞれに胴体がくっついて現れる。一つひとつのサイズは人間の大人ほど。
「しぶといわね!」
 銀灰色の瞳でカエルの頭部に狙いを定め、攻撃に集中する瑞希。その威力は瞬間的に高まり、頭の一つを撃ち抜いた。
「それ以上動かないでっ」
 渾身の力で振り抜いた観那の武器から衝撃派が生まれる。それは狙い違わずカエルの脚を打ち抜き、動きを封じる。
「そう、跳ね回るのが蛙というもの。……可愛らしくもしかし、それでは困りますわ」
 穏やかな口調や表情とは裏腹に、不安定な体勢のカエルに突っ込む莉乃。そのまま格闘士ならではの技をかける。カエルは大きくバランスを崩すが、背中から出ているいくつもの分裂体が重心を操作し、倒れるには至らない。
 重なる攻撃を受けているためか、分裂は完全ではない。背中から生えているだけだ。
「セルゲンさん!」
「……おう!」
 タイミングを合わせて走り込んだセルゲンが吠える。鉄拳からは火焔の幻影が立ち上り、野生を思わせる素早い連撃が繰り出される!
「させないよー」
 セルゲンの連撃に押されるカエルの上に、緋景の符が舞い上がっていた。稲妻と化した符は、背中に生えた分裂体を貫く!
 後衛からの攻撃の気配を察知し、莉乃とセルゲンはカエルから距離をとる。そこに降り注いだのは瑞希の銃弾とレオナの炎。さらに観那の衝撃波が加わる。
『グ……グゲ……ゲゴォ』
 ハンター達の攻撃の合間に、カエルが絞り出す音が混じる。
「よーし、これで」
「……トドメだ!」
 一瞬の切れ目。そこに緋景が放った符が雷と化して飛来し、セルゲンの鉄拳が降り注ぐ。
『……ゲゴ……』
 最期に一声絞り出すような音を残し、カエルはその姿を塵へと変え、消えた。


 巨大カエルが姿を消し、平穏が戻った。用水路にはそれが存在した跡が残り、畑にも多少の影響が出ているが、この程度、復興に燃える村人にとってはさしたる問題ではない。
 堰き止めた用水路の瓦礫を撤去し、討伐依頼は完了だ。
「皆さん、ありがとうございました」
 礼儀正しく、エマが頭を下げる。
「これで一安心ね!」
 何故か腰に手を当て胸を張ったポーズで、リタが提案したのはお茶会。レオナも楽しみにしている、屋上でのお茶会だ。

「イルお婆さんのお饅頭、新作が出たのかしら?」
 場所を移した屋上に輪になって座り、イル婆から貰ってきたバスケットを開ける。中にはお茶と山盛りの饅頭。
 ユグディラの肉球マークがポイントのカスタードとチョコレートのユグディラ饅頭、そしてハーブを練りこんだビターチョコのゴブリン饅頭。
「これゴブリンの爪痕かなー」
 早速手を伸ばす緋景。描かれた模様を見てから、出来立ての饅頭を頬張る。
「はふはふ……んまー! ねぇこれお土産にもらっていい?」
「勿論よ! この美味しさを広めて欲しいところだわ!」
 リタが胸を張る。
「……村おこしの良い名物になりそうだな」
 静かに饅頭を口に運びながら、セルゲン。その言葉を聞き逃すリタではない。
「そう思う? やっぱりあたしの目に狂いはないわね!」
「はふぅ……美味しいです」
 のんびりとした口調は観那。
「お饅頭、美味しい、ね?」
「肉球マークがかわいいわね。白はカスタードなのね」
 先ほどの凜とした姿はなく、独特の口調で饅頭を頬張る瑞希に、しっかりと味わうレオナ。
 いつの間にやってきたのかゆぐでぃんも加わり、何事もなかったかのような平和な時間が過ぎていく。
「ゆぐでぃんも元気だった? このお城にまた来られて嬉しいわ」
「にゃあ」 

 春のうららの昼下がり。穏やかな日差しが降り注ぐ屋上からは、楽しそうな声が響いていた。

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MVP一覧

  • 凶悪カエル討伐隊
    墨城 緋景ka5753
  • 半折れ角
    セルゲンka6612

重体一覧

参加者一覧

  • 清淑にして豪胆
    観那(ka4583
    ドワーフ|15才|女性|闘狩人
  • 凶悪カエル討伐隊
    墨城 緋景(ka5753
    鬼|20才|男性|符術師
  • 遊演の銀指
    レオナ(ka6158
    エルフ|20才|女性|符術師
  • ドント・ルック・バック
    坂上 瑞希(ka6540
    人間(蒼)|17才|女性|猟撃士
  • 半折れ角
    セルゲン(ka6612
    鬼|24才|男性|霊闘士
  • セーラー服と蛇節槍
    御法 莉乃(ka6796
    人間(蒼)|16才|女性|格闘士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/22 22:12:42
アイコン ご相談につき
御法 莉乃(ka6796
人間(リアルブルー)|16才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/04/23 03:56:32