聖導士学校――ポンコツ聖職者

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/04/25 19:00
完成日
2017/04/29 16:34

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●大貴族から視察

 子供。
 アサルトライフル。
 荷台に機銃をとりつけたトラック。
 グラズヘイム王国の片隅に、地球の紛争地帯風の組み合わせがうまれていた。

「すみませーん、雑魔の駆除が終わってないから危ないですよー」

 少年が、人懐っこい笑みを浮かべて元気に呼びかける。
 年齢は11歳というところだろうか。
 皮の防具も下の服も汚れてはいるけれど、どれも造りがよくて頑丈そうだ。
 顔も艶々し肌には張りがある。
 特に印象的なのは目だ。
 大勢の、武装した男達を前にしているのに、卑屈にも高圧的にもならずに自然体の笑顔だ。

「ちょっと」

 荷台の上。
 隣の少女が少年の頬を引っ張った。
 痛いよ、と囁く少年が妙に可愛い。

「あの馬車見なさい」
「いい馬だよね」
「馬じゃなくて馬車、具体的には側面の紋章!」

 じっと見て、あっと驚く少年。
 馬車を護衛する男達は、微笑ましいものを見る表情を浮かべている。
 馬車の小さな窓が薄く開かれ、鋭い視線が少年少女に向けられていた。

「僕たち、この先にある学校の生徒です。どのようなご用向きでしょうか?」

 銃を背中に戻してきびきびと挨拶してくる。
 姿勢は美しく、声にも張りがあり、小さくても立派な聖堂戦士に見えた。

「馬車を走らせたまま失礼するよ」

 小さな窓が開く。
 顔に深い傷が刻まれた、渋い灰色髪の老人が姿を見せた。

「学校を見学したい。前触れなしで申し訳ないが、頼めるかな」

 上品に微笑む。
 しかし目に笑みはなく、相手を侮らず観察する冷えた光があった。

「見学! 校長先生、いつでも歓迎って言ってます!」

 少年はとにかく元気だ。
 彼と同時期に入学し、そろそろ卒業が見えて来た少女が小声で注意する。

「ちょっと……この人爵位持ちよ」
「え? でも召使いさんっぽい服装だよ?」
「爵位持ちを使いっぱに出来る高位貴族の用事ってことよ。ひとっ走りして司祭様に伝えてきなさい」

 なお、少年が貧乏法衣貴族の4男、少女が貧農出身の元文盲だ。
 最近では出身を逆に勘違いされることも多いが、執事風の老人は正確に2人の出身と能力を推測していた。

「先に行ってきます!」

 少年が走る。
 鎧と大型の銃を持っているのに、徐行する馬車より速く、しかも速度が全く落ちない。

 老人の口角が、愉快そうに吊り上がっていた。


●薄暗がり

 学校から見て西隣の地を支配する貴族が、傲岸な顔で苛立たしげに吐きすてた。

「細作を片付けろ」

「はい。例の学校の騒動が収まるまで身を隠すよう伝え」

 極寒の視線で見下ろされ、執事長が冷や汗を流す。

「片付けろと言った」

 絨毯に額がつくほど頭を下げて、領主の腹違いの弟が書斎から退出する。

「厄介なものを呼び込みおって。手筈が狂ったわ」

 本格的に圧力をかけることで、最終的に奪える物全てを奪うつもりだった。
 だが大貴族の使いが滞在している所へ手を出せば破滅するのはこちらだ。
 苛立たしげに机を叩き、もう1度吐きすててからペンを手に取る。

「下民は下民らしくすればよいのだ」

 光に満ちた部屋に、熱の無い言葉が響いた。


●光と影

「とつげーき!」
「勝手口からもとつげーき!」
「なんか出たっ」

 気楽なかけ声と、メイスが床や壁を撃つ轟音が同時に聞こえてくる。
 獰猛な音と、雑魔の動物じみた悲鳴が連続。すぐに音が小さくなった。

「1班いじょーなし!」
「2班う゛ぉいどとそうぐう、げきは!」
「3班っ、たすけ、これ離れなっ」

 メイスが皮鎧をかすめる音。
 歓声混じりの悲鳴に、ごめんごめんと謝る声ととヒールの気配。
 かつて富農の屋敷だった廃屋の屋根裏で、細作は気配を殺して明るい音を聞いていた。

 寒い。

 長年、体をすり減らすように使えた結果が、ごみを片付けるように振るわれた刃だ。
 包帯の下にある深い傷の痛みより、寒さの方がずっと堪える。

「ねぇ、血の臭いしない?」
「僕におう?」
「汗とほこりで鼻が馬鹿になってる。早く帰っておふろはいろ」

 2階に続く階段は、腐食したように見せかけて壊しておいた。
 おそらく未来が約束されているだろう子供たちは、無用な危険をおかさず、しっかり目印は残して細作の避難所から離れていった。


●困惑

「ゆっくり見ていって下さい」

 慣れていない挨拶を残し、学校の長が応接室から逃げ出した。
 護衛達が室内の安全確認を完了する。
 そしてようやく、爵位を持つ老人がティーカップに手を伸ばす。

 香りと色から財政状況と人材の質を把握する。
 今日見せられた一般教養授業や戦闘訓練と同様に、かなり高水準と判断できた。

「……様、ここの傭兵達は凄腕です。万一に備え、日の高いうちにここを出ることを進言します」

 覚醒者である護衛が緊張している。
 戦闘訓練担当教官として紹介された男達全員が、田舎の学校勤めとは思えない実力者だった。
 万一悪心を抱かれれば主もろとも闇から闇に消される可能性すらあった。

「いつも通り慎重だね」

 老人の目に微かな笑みが浮かぶ。
 護衛は謹厳な表情を崩さない。

「その程度の人を使う組織なら、私も主も楽なのだが」

 聖堂教会は甘い組織では無い。
 その中で生き残り続け、これだけ豪華な学校を運営する派閥も同様だ。

「私はしばらく休んでいる。君達も見物に行くとよい」

 今回連れてきたのは本来の彼の護衛ではない。
 本家の妾の子の護衛や、分家の三男三女以降の護衛が彼等の本来の仕事だ。

「あの、ありがとうございます」

 彼等は半分を残し、それぞれの主のため学校の敷地内に散って行った。
 老人は目を閉じ静かに考える。

 奇妙だ。
 今回の転入で大金が転がり込むのと引き替えに、マーロウ大公に近い貴族の影響を受けやすくのは彼等も分かっているはずだ。
 だが校長はそのことを全く理解していない。
 まるで、本来の責任者が急に消えてしまったかのようだ。
 学校を動かしているのがハンターという噂も、もしかしたら嘘でないかもしれない。

「よい学校だ」

 自力できずに潰れるようなら、聖堂教会色を抜いて引き取るつもりだった。


●へるぷっ!

 己の危機に気づかないから強かった少女が、知って怯えて弱くなった。
 普通の子供なら成長の一過程ですむが、彼女は司祭だった。

「躓いたか」

 ある派閥の幹部が一堂に会していた。

「これで立ち直れるかどうかで司祭止まりかそれ以上かが分かる」

「立ち直れよ」

「うむ。でないと」

 あくの強い面々の顔に、大量の冷や汗が浮かんだ。

「学校以外の事業も傾く」
「誰だ、あの子に案件任せまくったのは」
「主におぬしじゃ」
「だって毎回成功させるんだもん」
「若者言葉のつもりかこのジジイ」
「1月で泣きつくと思ってたのに2年もったからのぅ」
「いいから増援送ってやれ」
「増援があの子だよ。増援の増援なんてうちにいないの!」

 地味に、派閥崩壊の危機であった。


●依頼票

 求む。クルセイダー養成校の臨時教師
 付近の歪虚討伐、開拓、猫の相手など、それ以外の担当者も募集中です。

リプレイ本文

●先制パンチ

 宵待 サクラ(ka5561)が壇上に立つ。
 それぞれ修羅場を潜ってきた男女が戸惑い、焦り、そして不信感に転じる1秒前になって、ようやくサクラが口を開いた。

「早速お足さんがやって来ました! 対策会議始めるよ」

 朗らかな笑みを浮かべ、眼光は強くて不敵に。
 ゆっくりと見渡す仕草は洗練され尽くしていた。

「この学校は、能力の高い聖導士を作るための学校だよね? それが貴方達の目的……理想なんだよ」

 絶妙の間。

「ここは貴方達の理想を作り出す場所、貴方達はここで、貴方達の理想を作っているんだ」

 己を肯定され、教職員の士気がみるみる盛り上がる。

「貴方達の理想である生徒達にとって、理想って何だと思う? 戦うだけなら戦士になればいい。彼等は守るために戦いたいから聖導士になるんだよ」

 絶妙のタイミングで身振りが入る。
 校長以下全職員が彼女に夢中になっている。

「困ってる人が何に困ってるのか知って助けたいから一生懸命ここで勉強してるんだよ。貴方達の作る理想である生徒達の理想は……彼等を導く貴方達なんだよ」

 祈るように手をあわせ、余韻が消える一瞬で激しい言葉遣いに変わる。

「理想に誇れる理想であれ! それを忘れなければ、やることは浮かぶはずだよ。これからもっとここには貴族が集まってくる。貴族の利権に飲まれない、やるべきことは譲らない。そして相手を逃がさない。理想に誇れる理想であるために!」

 歓声が爆発する。
 まずは貴族対策マニュアルを作ろうか、の現実的な一言が完全にかき消されていた。


●ローマは一日にして成らず

 貴族に通用する教養。貴族に対するとき最低限必要な仕草にマナー。
 どれも身につけるのに長期の学習か優れた才能が必要であり、貴族の相手は貴族か高学歴の人間がつとめることになった。

「資質が無く覚醒者になれずとも、医術の基礎を押さえておけば様々な場面で役に立つと思います」

 洒落た眼鏡に白衣で身を固めた日下 菜摘(ka0881)が、風格のある貴族とおまけの護衛を案内している。
 実際は護衛に貴族が着いて来たのだが、迫力が違いすぎて貴族が中心にしか見えなかった。

「医療課程にはリアルブルーの知識も反映されています。その分学ぶ内容が多くなっていますので卒業までに……」

 どれだけ分かり易くしても一定の知識がないと理解が困難だ。
 必然的に菜摘と貴族の会話が多くなる。

 実習室の前で立ち止まる。。
 ホワイトボードに書かれているのは販売戦略概論。
 講師役はロニ・カルディス(ka0551)で、傷薬の材料や各種瓶と一緒に値札が並べられていた。

「だからだな、ブランド力がない今、地味な瓶で売ろうとしても買いたたかれるだけだ」

 生徒が倫理や理想を掲げて反論し、ロニが言葉の一太刀で斬って捨てる。

「自分を養えない者では人の助けになれるものか。おまえ達は卒業後数十年医療に従事できる。数年でリタイアするなど許さん」

 理路整然と、お金の必要性とお薬の値段と経営について容赦なく耳から頭に叩き込む。
 来月から売り出し予定の傷薬はよい練習材料だ。
 目で見て手で作らせ、どう売れてどう損せず儲けるかを実地で知る機会など、本来なら社会に出ない限り全くないのだから。

「私が知っている医者と違います」
「2年で医者を作る気か」

 戸惑うばかりの護衛と、学校の能力と本気を実感した貴族の反応は対照的だった。

「見学者の方ですね。初めまして」

 医療課程生徒とあまり歳が変わらないように見えるのに、教室内にいる薬師より落ち着いて見えるソナ(ka1352)が席から立ち上がる。
 礼を失さない程度の丁寧さで挨拶を行い、授業の邪魔にならない場所へ誘導し授業内容の解説を始めた。

「……という内容を最低2年かけて学んでもらいます」
「すばらしい、のでしょうね。ああ、その、卒業後の就職先の方は大丈夫なのでしょうか。前線に送られることもあるのでは?」

 本来の主である貴族子弟、ただし継ぐ爵位はなく受け継ぐ財産も貴族としては小さな子のために、護衛が精一杯頭を使って質問する。
 ソナは柔らかく微笑み、一切偽らずに事実と己の心情を口にした。

「私が当校で気に入ってるのは身分に関係ない教育の機会。対歪虚の人材育成という看板はあるものの、生徒を信頼して卒業後の自由が与えられることです」

 強制も事実上の強制もない。
 聖堂教会と太い繋がりがあるため好待遇の求人が来ることも多く、聖堂教会かそれに近い場所に就職する卒業生が多いのは事実だが。

「校長は教育者として長けたお方です。私は非常勤の雇われですが、ここに関わる人は皆、生徒や学校を愛しく思っています」

 教室を後ろから眺める。
 そのまなざしは、まだ10代に見えるのに慈愛と母性すら感じさせた。

「生徒が自分の力で歩めるように、持った力を伸ばしてあげたいのです。私たちの教育理念に共感戴けるなら、当校を信頼してただお子さまをお預け戴きたいと存じます」

 向き直って真正面から頭を下げる。
 護衛は慌ててより深く礼をして、貴族は鷹揚にうなずいていた。

「ありがとうございます。子どもたちともぜひお話ししていって下さいませ。子供たちに良い刺激になると重いますので、是非」

 生徒と薬師の顔色が、真っ青になった。


●学校紹介VTR

 スプーンを下ろす仕草ひとつとっても美しい。
 視線に気づいたあげた瞳には深い知性があり、顔も肌には染みも無く表情のコントロールは成人した貴族女性並だ。
 これで約13歳である。
 隣に表示された入学前の経歴を見て、彼女が本人であると納得出来る者は多くないだろう。

『エステル様? どのようなご用件で……インタビュー? 失礼しました。はい、私はあの学校の卒業生です』

 本格的な撮影が始まろうとしたとき、彼女を呼ばわる老人の声が届く。

『申し訳ありません。司教様に呼ばれていますので。司教様、イコニア司祭待ちの案件は私では……』

 画面が切り替わる。
 王都の著名な病院が映り、高速で画面が移動し気難しい男が正面に来た。

『おい貴様帰ってこい。研究を止め教育畑に転身なんて俺が許さ……。アァ? あいつのことか? ほれ、ここからここまでが奴の……』

 立派な装丁の本と論文を指さしぐちぐちと文句を言い続ける。
 画面の端に小さな画面が生じ、先程学校で目にした医者が無言で拒否の仕草をしていた。

「オフィスでもないのに映像が」
「さすがに立体ではないのだね」

 護衛が驚愕している。
 貴族は動画から膨大な情報を拾い上げて自身の知識と比較検討。卒業生の現在と教師の経歴が嘘では無いと判断した。

「失礼します」

 エステル(ka5826)が熱い茶を運んで来る。
 卓の上の紅茶はすっかり冷たくなっていた。

 当たり障りのない会話を交わしつつ、エステルは2人の様子を観察する。
 どちらも学校の質に疑問は抱いていないようだ。

「当校に対するご要望、また、逆に気になっている点があればお聞かせ願えれば。必要とされる人材育成こそが生徒の為ですので」

 穏やかに言葉を交わす間も、2人の貴族は決して隙を見せなかった。
 なお、VTR制作・再生機材はオフィスからの貸与、製作担当はエステルである。


●土

 野太い歓声が重なって響いていた。

 原因は刻令耕運機「ガンバルン」だ。
 覚醒者に使えない上刻令術使用機。しかも大規模農家には向いていない手押し車型耕耘機。
 趣味の園芸くらいにしか使えないはずの機械が、熱烈に歓迎され大活躍している。

「いやー……どうせ俺持ってても使うアテねぇし。倉庫で埃被るよりは使ってもらう方がよっぽどいいけどよ」

 次々に畝が出来ていく様を、珍しく非武装のボルディア・コンフラムス(ka0796)が興味深そうに眺めていた。

 こうなった理由は単純だ。
 新米開拓民である彼等は、気力と体力はあっても技術は拙い。。
 技術面で助けになる機械がかなり効率が上がる。

「魔導機械の導入も検討……いや人件費……安全が……」

 開拓民に比べるとひょっとした、一般的には十分筋肉質な農業技術者が何やら悩んでいた。
 ボルディアは餅は餅屋と後のことを任せ、ソナに構われているイコニアに向かう。

「こんにちはです」
「応」

 イコニアの目が死んでいる。
 甘い香りの薬草茶に口をつけるたびに、ほんの少しだけ目に光が戻る気もするが気のせいかもしれない。

「重傷だな」

 柔らかい頬をつまんでも反応が無い。

「腕っ節と体の傷に効く術だけじゃ足り無いんだよな」

 ほっぺをぐにぐにしながらため息をひとつ。
 開拓民が何故か目を逸らして下手な口笛を吹き始める。

 今の生徒では王国中央に売り込むには物足りない。
 コネを使って騎士団や戦士団に模擬戦を組ませて売り込もうにも、その時間を教育に使った方が生徒の力が伸びる。ここは田舎で移動時間がかかるのだ。

「イコニアさん、ここにいましたか」

 立派な馬を緩やかに歩かせ、鳳城 錬介(ka6053)がやって来た。
 予想以上のポンコツ具合を目にしてしまい、悲しげな吐息が零れそうになるのをぐっと押さえる。

 次代を担う期待の星だからって皆やり過ぎです。加減を知らないポンコツ管理職しかいないのですか。

 今後の予定を笑顔で話す裏で、錬介はそんなことを考えていた。
 そして1人南東へ馬を走らせる。
 時折スケルトンを見かけたり保護色の雑魚雑魔に襲われたりもするが、重装甲と馬の健脚があればかすり傷すら受けない。

 無人の元果樹園を抜け小さな丘をゆっくりと登る。
 学校からの報告にあったように、確かに気配が他とは違う。
 丘の上には物理的には何もない。
 ただ、そこにある気配は奇妙なほど馴染みがあった。

「社、か?」

 半ば無意識につぶやいた言葉が妙にしっくりときた。
 南から風が吹く。
 負の混じった風が丘に達して奇妙に弱まり、その分丘に漂う正の気配が薄れていく。

「放置されたのはホロウレイド以前からか」

 草の間に、かつてあった建物の痕跡を見つけて眉をしかめる。
 南を見ると酷く気配が薄い緑が見える。
 木も生えてはいるが、微かに蠢いているのでひょっとすると大型の歪虚かもしれない。

「社、放置、その後は……」

 聖堂教会は関わってはいないだろう。
 あれは対歪虚に役立つなら何でも受け入れる連中だ。
 鬼でも他と区別せず受け入れるほど徹底している。

「根が深いぞこれは」

 丘に近づく骨に気づき、錬介は丘を下って駆除を開始した。


●謎の聖導士I

 遠足へ行こう。
 そんな軽~いノリで過酷な大規模演習が決定された。

 第一陣は頭脳労働は苦手でも気合いの入った2年生約10人。
 実力は並でも連携と思い切りはなかなかのもので、付き添いの教官は厳めしい顔を保つのに苦労するほどだっった。

 問題は第二陣だ。
 頭脳面でも肉体面でも秀才がいるのに、わずかに腰が引けていて第一陣の半分の成果も出ない。
 その中でも最悪なのが、自称普通の聖導士、色眼鏡と不自然に大きな胸が特徴的なIである。

 かっぷんちょ。

 動物型の雑魔に深く噛みつかれて流血し、しかし肌の色は白くなるどころかどんどん健康的になる。
 それを見て後方担当の1年生が驚き騒ぎ出す。
 護衛されている医療課程生徒はぽかんと大く口を開けて呆然とし、見学者である貴族は感情を感じさせない目で観察していた。

 今回の見学会兼大規模探索兼生徒教導の企画責任者、フィーナ・マギ・ルミナス(ka6617)は無言で魔導バイクのアクセルを踏んだ。
 草が伸び放題の元果樹園を走り抜ける。
 沸き起こる土煙や砂埃を置き去りにして、2年生を追い抜きイコニアもといIへファイアーボールをぶちかます。

 ぎにゃー。

 一瞬で消し飛ぶ雑魔。
 盾と防具を最大限活かした上で自ら吹き飛び被害を押さえるI。
 ダメージは、放置された場合の半分未満の被害で済んでいた。

「何をっ」
「調子は戻りましたね。戻ってください」
「でででも、すっごく久しぶりの戦闘で」

 すすだらけの体で必死に主張するI。
 うっすら焦げた髪も頬も、無駄に強力な回復術により急速に治癒されていく。

「悪い、見本は、戻って」

 うつむき加減だったフィーナが顔をあげる。
 灰色の瞳に心の中までのぞき込まれ、イコニアはこくこくうなずき自分で走って行った。

「なんですか今のは」

 戦場後方。護衛の顔に激しい動揺が浮かんでいる。
 覚醒者にうまれついた主をここに入学させるつもりだったが、ここまで激しいと躊躇してしまう。
 バイクで生徒を追い回すフィーナは、まさに鬼軍曹そのものだ。

「Iさんはとても悪い例ですね。必要もない危険は極力避けるべきですから」

 最後尾につい来ている開拓民に菜摘が目配せした。
 元騎士団所属なので戦傷や体力の衰えを考慮に入れても1年生よりは頼りになる。
 菜摘に事前に伝えられた通りに、後衛全体の進路をより安全な方向へ変えていく。

「好戦的な派閥から紛れ混んだようだな」

 あれが誰かも分かっているぞと悪意でなしに伝えてくる貴族は、馬車ではなく魔導トラックに乗り悠然と眺めている。

「大丈夫かね?」
「何事も万全とはいきません」

 菜摘は馬に乗ったまま穏やかに答え、彼女を中止していた医療課程生徒を見る。

「南東から負傷者3名、重度の骨折の可能性があるからヒール持ちを1人同伴すること」
「は、はい!」

 未だ動きはつたないけれど、既に職業意識が身についていた。

「……聖導士や医療関係に従事する者を増やして置くのは長い目で見て国力を底上げすることに繋がるはずですし、ここでこの学校を無くしてしまうのは勿体ないですわね」
「それには同意する」

 名状しがたい緊張感に、護衛も開拓民も緊張で汗を浮かべていた。


●光か闇か

 木材色の狐が押し潰された。
 ロニは巨大な盾を構えたまま周囲を見渡し、生徒が置いた目印を屋敷の軒先に見つける。

 わん。

 サクラの飼い犬がようやく動き出す。
 負の気配が消えた屋敷内をあちこち駆け回る。数分後、2頭揃って壊れた階段の前で停止した。

「数年は使っていないようだが」

 人の気配は感じないけれども、犬の嗅覚は信用できるし何より今は時間的余裕がある。
 ロニは重装甲を纏ったまま軽々と跳躍。
 手足に重量を分散させ階段にとりつき、激しい音を立てながら上の階へ上った。

「あぁ、居るなぁ」

 軽装のサクラが最初に屋根裏部屋に気づいた。
 ロニも気配に気づく。
 固定された扉を腕力だけで壊して入り、抵抗も反論も許さず祈りの言葉と共に癒やしの力を振るう。

 全快である。

 熟練の細作が呆然とするレベルの極めて高度な治癒術の行使であった。
 人相と体格を隠すローブの下で、限界まで目が見開かれていた。

「そこの、おじさんかお姉さん。このままここで死んじゃうより」

 新しいところで生きてみない?
 サクラの元気な声が、なぜか悪魔の囁きに聞こえていた。

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MVP一覧

  • 聖堂教会司祭
    エステルka5826
  • 丘精霊の絆
    フィーナ・マギ・フィルムka6617

重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘(ka0881
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 聖堂教会司祭
    エステル(ka5826
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • 丘精霊の絆
    フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
    エルフ|20才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/04/25 00:59:18
アイコン 質問卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/04/21 21:22:40
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/24 23:32:10