ゲスト
(ka0000)
【血盟】黒い影の深淵
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/26 19:00
- 完成日
- 2017/05/10 06:25
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――その日。彼が所属している部隊は簡単な護衛業務に向かう予定だった。
小型の哨戒艇に乗り、目的地に向かっている途中に……それは起きた。
けたたましく響く警告音。揺れる機体――。
それが『転移』と呼ばれる現象であると知ったのは随分後になってからだ。
――気づけば、部隊は氷に閉ざされた山中にいた。
「空振りかー。長官殿怒りそうだな……」
「仕方ない。集落を見つけられただけでも僥倖だ。薪だけでも貰って行こう」
鮮やかな銀糸の髪の男に、肩を竦めてみせる黒髪の男。
凍てつき、荒れ果てた大地。食べ物も少なく、弱り始めた身体で歩き続け、ようやくたどり着いた小さな集落は、既に滅び去った後だった。
建物の状態を見ても、滅びたのは大分前なのかもしれない。
手際良く薪を広い集める2人の男。
この一帯は、どうやらVOIDの巣窟であるらしい。
自分達の故郷にいたそれとは大分形が違ったが……どちらにせよ、ここに長居していては危険だ。
「腹減ったなー。雪も食い飽きたわ」
「セト、せめて雪は溶かしてからにしろ。身体が冷えて体力の消耗に繋がる」
「あー? お前いちいち細かいのなー。んな細かいこと気にしてるとハゲるぞ?」
「お前が大雑把すぎるだけだ。俺の髪の心配はして戴かなくて結構」
「へいへいそーですか。ったく可愛くないねー」
「俺に可愛げを求めるな」
大きくため息をつくセトと呼ばれた銀髪の男。
終始軽いノリの彼。黒髪の男とは正反対の性格をしていたが、何故か気が合った。
何より、セトはこんな過酷な状況でも飄々として変わることなく。
それは周囲の者達と……そしてこの男自身の支えであり、救いになっていた。
セトは薪を拾い上げると、ふと黒いコートの友人を見つめる。
「……ところでさ。お前、腹減らねえの?」
「ん? ……ああ、俺は……そりゃ勿論」
「ふーん?」
セトの問うような瞳から目を反らす黒いコートの男。
この男は、自分の変化に気付いているのだろうか。
――少し前、不思議な存在に出会った。
「お前はなかなか見どころがあるな。どうだ、俺と契約しないか。人を遥かに凌駕する力と、最高に自堕落な毎日を約束するぜ」
幾度となく戦場に出ていたその男には、それがヒトならざるものだとすぐに分かった。
通常であれば、一蹴していたであろう誘い。
寒く、食べ物はなく、通信も通じない。
助けを呼びに行こうにも、どこに何があるのか分からない。
周りはVOIDだらけで、単身行動は即、死を意味する。
上官はアテにならず――仲間達は次々と弱って死んで行く。
そんな極限の状態で……彼は思わず願った。
――自分はどうなっても構わない。その代わり――。
「エンタロウ、伏せろ……!」
その声で我に返る男。セトが己を突き飛ばして――。
次の瞬間、弾かれる友人の槍。
体勢を立て直した黒髪の男が銃撃でVOIDにトドメを刺し……そして振り返ると。セトは雪の上で倒れていた。
「セト、大丈夫か。おい、セト……!」
「……わり、ちょっと……油断したわ……」
「すまん。油断したのは俺の方だ……」
そうしている間にも広がっていく赤。止血を試みるが止まる様子がない。
このままではまずい。急がないと――。
友人を抱えて、来た道を戻る黒髪の男。
雪に足を取られ、起伏の激しい道なき道を歩き、歪虚から逃げ続けた。
「……エンタロウ。俺はもういい……捨てていけ」
「何を言っているんだ。ほら、もうすぐ船だ。しっかりしろ!」
「………」
セトが返事をしなくなったのが気がかりだったが、時間がない。
休むことも忘れて、彼が戻った場所で見たものは……哨戒艇の外。雪の上で身を寄せ合って衰弱した仲間達の姿だった。
「お前達、こんなところで何をしている? 何故船の中にいない?」
「……コルト長官が、我々に出て行けと銃を向けて来まして……」
「説得は試みたのですが……」
「……何てことだ」
うめくように声を絞り出す黒髪の男。
セトを背負ったまま、船のドアを叩く。
「長官! コルト長官! 開けてください!」
「……エンタロウか。食糧は!? あったか!? 寄越せ!」
「いえ、今はそれどころでは……。セトがVOIDに襲われて怪我をしました。彼の手当てをしたい。中に入れて下さい」
「断る。この船は俺のものだ!」
「コルト長官。お疲れなのはわかります。しかしこういう場では助け合わねば……」
「うるさい! 俺に指図するな! そいつはもう死んでいるだろう! 良く見ろ! お前は目まで悪くなったのか!? いいか、食糧を見つけられるまで戻って来るな! これは命令だ!」
……こいつは今、何と言った?
セトが、死んだ?
こいつは殺しても死なない男だ。
そんなことがある訳がない――。
男の中に、未だかつて抱いたことがない程の、燃え上がるようなどす黒い感情が湧いた。
ドアの小窓越しに見える物体が肉塊にしか見えない。
――待っていろ、セト。
この肉塊を始末したらすぐに手当てをしてやるから。
――この記録は、後に闇黒の魔人と呼ばれ、紅の世界に恐怖を振りまく存在となる男の話である。
小型の哨戒艇に乗り、目的地に向かっている途中に……それは起きた。
けたたましく響く警告音。揺れる機体――。
それが『転移』と呼ばれる現象であると知ったのは随分後になってからだ。
――気づけば、部隊は氷に閉ざされた山中にいた。
「空振りかー。長官殿怒りそうだな……」
「仕方ない。集落を見つけられただけでも僥倖だ。薪だけでも貰って行こう」
鮮やかな銀糸の髪の男に、肩を竦めてみせる黒髪の男。
凍てつき、荒れ果てた大地。食べ物も少なく、弱り始めた身体で歩き続け、ようやくたどり着いた小さな集落は、既に滅び去った後だった。
建物の状態を見ても、滅びたのは大分前なのかもしれない。
手際良く薪を広い集める2人の男。
この一帯は、どうやらVOIDの巣窟であるらしい。
自分達の故郷にいたそれとは大分形が違ったが……どちらにせよ、ここに長居していては危険だ。
「腹減ったなー。雪も食い飽きたわ」
「セト、せめて雪は溶かしてからにしろ。身体が冷えて体力の消耗に繋がる」
「あー? お前いちいち細かいのなー。んな細かいこと気にしてるとハゲるぞ?」
「お前が大雑把すぎるだけだ。俺の髪の心配はして戴かなくて結構」
「へいへいそーですか。ったく可愛くないねー」
「俺に可愛げを求めるな」
大きくため息をつくセトと呼ばれた銀髪の男。
終始軽いノリの彼。黒髪の男とは正反対の性格をしていたが、何故か気が合った。
何より、セトはこんな過酷な状況でも飄々として変わることなく。
それは周囲の者達と……そしてこの男自身の支えであり、救いになっていた。
セトは薪を拾い上げると、ふと黒いコートの友人を見つめる。
「……ところでさ。お前、腹減らねえの?」
「ん? ……ああ、俺は……そりゃ勿論」
「ふーん?」
セトの問うような瞳から目を反らす黒いコートの男。
この男は、自分の変化に気付いているのだろうか。
――少し前、不思議な存在に出会った。
「お前はなかなか見どころがあるな。どうだ、俺と契約しないか。人を遥かに凌駕する力と、最高に自堕落な毎日を約束するぜ」
幾度となく戦場に出ていたその男には、それがヒトならざるものだとすぐに分かった。
通常であれば、一蹴していたであろう誘い。
寒く、食べ物はなく、通信も通じない。
助けを呼びに行こうにも、どこに何があるのか分からない。
周りはVOIDだらけで、単身行動は即、死を意味する。
上官はアテにならず――仲間達は次々と弱って死んで行く。
そんな極限の状態で……彼は思わず願った。
――自分はどうなっても構わない。その代わり――。
「エンタロウ、伏せろ……!」
その声で我に返る男。セトが己を突き飛ばして――。
次の瞬間、弾かれる友人の槍。
体勢を立て直した黒髪の男が銃撃でVOIDにトドメを刺し……そして振り返ると。セトは雪の上で倒れていた。
「セト、大丈夫か。おい、セト……!」
「……わり、ちょっと……油断したわ……」
「すまん。油断したのは俺の方だ……」
そうしている間にも広がっていく赤。止血を試みるが止まる様子がない。
このままではまずい。急がないと――。
友人を抱えて、来た道を戻る黒髪の男。
雪に足を取られ、起伏の激しい道なき道を歩き、歪虚から逃げ続けた。
「……エンタロウ。俺はもういい……捨てていけ」
「何を言っているんだ。ほら、もうすぐ船だ。しっかりしろ!」
「………」
セトが返事をしなくなったのが気がかりだったが、時間がない。
休むことも忘れて、彼が戻った場所で見たものは……哨戒艇の外。雪の上で身を寄せ合って衰弱した仲間達の姿だった。
「お前達、こんなところで何をしている? 何故船の中にいない?」
「……コルト長官が、我々に出て行けと銃を向けて来まして……」
「説得は試みたのですが……」
「……何てことだ」
うめくように声を絞り出す黒髪の男。
セトを背負ったまま、船のドアを叩く。
「長官! コルト長官! 開けてください!」
「……エンタロウか。食糧は!? あったか!? 寄越せ!」
「いえ、今はそれどころでは……。セトがVOIDに襲われて怪我をしました。彼の手当てをしたい。中に入れて下さい」
「断る。この船は俺のものだ!」
「コルト長官。お疲れなのはわかります。しかしこういう場では助け合わねば……」
「うるさい! 俺に指図するな! そいつはもう死んでいるだろう! 良く見ろ! お前は目まで悪くなったのか!? いいか、食糧を見つけられるまで戻って来るな! これは命令だ!」
……こいつは今、何と言った?
セトが、死んだ?
こいつは殺しても死なない男だ。
そんなことがある訳がない――。
男の中に、未だかつて抱いたことがない程の、燃え上がるようなどす黒い感情が湧いた。
ドアの小窓越しに見える物体が肉塊にしか見えない。
――待っていろ、セト。
この肉塊を始末したらすぐに手当てをしてやるから。
――この記録は、後に闇黒の魔人と呼ばれ、紅の世界に恐怖を振りまく存在となる男の話である。
リプレイ本文
リューリ・ハルマ(ka0502)が泣きながら語った言葉を、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は覚えている。
――広い意味での世界とはまた違って。
誰にでも、自分にとっての『世界』があると思うの。
私の世界はアルトちゃんがいるところだったり、『月待猫』という場所だったり……。
――多分、だけれど。燕太郎さんにとっての『世界』は、きっと……。
「ここは一体……?」
「うわっ。さっぶ……!!」
「何!? 一面雪だらけだよ!!?」
呆然と周囲を見渡すアルバ・ソル(ka4189)。吹き付けてきた冷たい風にアルスレーテ・フュラー(ka6148)とリューリが震えあがる。
ハンターズソサエティで資料を整理していた筈だったのに、気づけば雪山の中――。
記録の中に入り込んだことは間違いないようだが、一体誰の記録で、どういう状況なのか……。
吹き付ける吹雪。視界が悪い中、目を凝らしたアルト。
雪を被った岩だと思っていたものがうずくまった人間であることに気付いて慌てて駆け寄る。
「おい! しっかりしろ!」
「……寒い……。腹が減った……」
「……これは。お前達、リアルブルーの部隊か? 一体何があった!」
雪を払った先に見える見覚えのある制服。マリィア・バルデス(ka5848)が目を見開く。
「あ、あ……。助けて……助けてくれ」
「もう大丈夫だ。落ち着いて話してくれ」
努めて静かに声をかけるアルバ。雪に埋もれた男たちは歯をカタカタと鳴らしながら、ぽつりぽつりと話し出す。
護衛業務に向かっていたはずが、気づけば、氷に閉ざされた山中にいたこと。
周りはVOIDだらけで通信も通じないこと。
寒さと飢えで、櫛の歯が欠けたように1人、また1人と死んで行ったこと。
僅かな生き残りの隊員達は乗っていた哨戒艇を拠点代わりにしていたが、長官に銃を向けられ全員追い出されたこと――。
そこまで聞いて、マリィアは彼らが何であるか……リアルブルーからの転移に巻き込まれた者達であることを理解した。
そして、精神に変調をきたした上官の凶行で、部隊が全滅しかかっていることも。
更にただ1人、動いているヒト……血だらけの人間を背負った男が、哨戒艇のドアを蹴破ろうとしているのに気づく。
「……燕太郎さん? 燕太郎さんだよね?」
「え、燕太郎って……まさか青木か?」
目を丸くするリューリの声に顔を上げるアルト。黒髪の男はこちらに気付く様子もなく、ただただ必死にドアに攻撃を続けている。
確かに彼女達が知っている歪虚によく似ているが、槍は持っていない。
でも……この顔。間違いない。世を騒がせている闇黒の魔人……青木 燕太郎(kz0166)だ。
その姿に警戒するアルバ。だが、様子がおかしい。
青木は強い歪虚だ。この程度のドアはすぐに蹴破れるはずなのに。
何より自分達に反応も示さず、ただただ、背負っている男を救おうとしているように見えて……。
――目の前の男がどうあれ、人命の方が大事だ。
こうしている間も、容赦のない寒さが人の命を奪っていく。一刻の猶予もない。
クィーロ・ヴェリル(ka4122)は歩み寄ると、黒髪の男に手を差し伸べる。
「彼を背負っていては動きにくいだろう。手伝うよ」
「……セトに触るな」
「ドアを壊す動作は怪我人の負担になるだろう」
「邪魔だ! 下がっていろ! 私がドアを開ける!!」
「手出しをするな。あいつは俺が殺す」
銃を構えてドアの前に滑り込むマリィア。エンタロウから感じる怒り。にじみ出る負の気配。
彼女はそれを気にすることなく黒髪の男を睨みつける。
「お前が中にいる豚をどうしようが興味はないが彼を背負ったまま暴れるな! 彼に迷惑だ!」
「……お前の背にいる男はセトと言ったか? 彼は重傷と見える。過度な負担は命に関わるぞ」
「彼を一旦降ろせ。手当てもしたい。すぐに信用しろとは言えないが、彼が死ぬよりいいだろう」
「……っ」
マリィアとクィーロの言葉に唇を噛むエンタロウ。やけに素直にセトを降ろす。
その様子に拍子抜けするアルト。やはりいつものあの男とは様子が違う。
そこに、ドアの向こう側から男性の声が聞こえて来た。
「お前達見ない顔だな。どこの部隊だ!? 部隊名を言え!」
「……二度は言わないわ。扉を開けなさい!」
「この船は俺のものだ! 誰にも渡さんぞ!」
「死にたくなければ扉から離れていろ! 豚っ!」
「ちょっと待て! 無暗に扉を……」
ヒステリックな中年男性の声に苛立ちを隠さぬマリィア。アルトの声は銃撃の音でかき消される。
彼女は扉の鍵を撃ち抜くと体当たりで扉をこじ開け、中に滑り込む。
長官らしき男は短い悲鳴をあげると船の奥へと逃げ、黒髪の男が親友の槍を手にして、幽霊のようにそれを追う。
「……無暗に扉を壊したら、船全体に影響が出ないのかって言おうと思ったんだけどね」
「この構造の船は私も乗っていたことがある。鍵だけ狙えば問題ない。さて、私は逃げた豚を制圧する。アルト達は……」
マリィアの声を遮る断末魔。船の奥で、エンタロウが長官を始末したのだろう。
異常者の行動のせいで部隊全滅など到底認められるものではない。
長官の生き死になどどうでも良かったし、ある意味自業自得とも思うが――。
「……これ以上の凶行は避けたいところだな」
アルトの呟き。続いた衝撃。
クィーロが銀髪の男を抱えてドアをくぐろうとした瞬間、哨戒艇が大きく揺れた。
「……あいつ、暴れ出したのか?」
おかしい。まだセトは生きていると言うのに……。
銀髪の男をそっと降ろしたクィーロ。そこに、顔色が真っ青な隊員達に肩を貸しながらアルスレーテが入って来る。
「ほら! 皆ドア開いたわよ! 入って入って!! 奥から順番にね!」
「必ず助ける。皆で生きよう」
振り返るアルバ。誰も動く気配がない。
――仕方がない。アルスレーテとアルバが見た時には、外にいた部隊の大半が既に衰弱の末に息絶えていた。
かろうじて生き残っている者達もいるが、もう自力では動けないのだろう。
リューリはまだ微かに息のある隊員に己が持っていたコートを被せて抱え上げる。
「……寒い……腹が減った……」
「……大変だったね。もう大丈夫だからね。ほら、ごはんもあるよ」
カタカタと震えるだけで、喋る元気もない隊員の前に持っていたサンドウィッチや高熱量食料を並べるリューリ。
――弱っていて、食べる元気もないのかもしれない。
でも、これで少しでも生きる気力に繋がってくれたら――。
「例の長官とやらは片付いたのかしら。じゃあ遠慮なく重病者の治療に入れるわね」
目を閉じて、練り上げたマテリアルを隊員達に分け与えるアルスレーテ。
その温かな光に、隊員達が涙を零す。
「……母さん。帰りたい……」
「痛い。痛いよぉ……。かぁさん……」
「うんうん。身体が治れば食事も摂れるようになる。大丈夫よ」
隊員達を安心させるように順番に撫でる彼女。
その時再び、船が大きく揺れる。
……エンタロウが暴れているのだろうが、今回ばかりは彼も被害者なのだろうと思うし。
仲間が心配ではあったけれど……正直、目の前で死にかけてる人に治療を施すだけで手一杯だ。
例え記録だったとしても、彼らを黙って見ているなんて出来ない。
「……うるせえな……。おちおち寝てられねえっつの……」
揺れた船に反応を見せる銀髪の男。その顔を、アルスレーテとリューリが覗き込む。
「目が覚めた? 今手当てするわ」
「セトさん……。大丈夫?」
「……何で俺の名前知ってんだ? さては天使がお迎えに来たか……。随分可愛い天使達だな。……どーよ。俺とお茶しない?」
「ごめんなさいね。私、恋人がいるのよ」
「私も心に決めた人がいるんだー。ごめんね」
「……天使にも相手がいるたあ世も末だな。さっき燃える赤毛の天使も見たんだが……」
「アルトちゃんのこと?」
「そっか。いい名前だな。折角好みの女に会ったってのに勿体ねえ……」
口から血を吐きながら笑うセトに苦笑しつつポーションを与えるクィーロ。
この怪我、この状況下でこんな冗談が言える。
このセトという人物は精神的に強靭で、そしてユーモアに溢れていたのだろう。
ポーションも、癒しの術も気休め。誰が見ても分かる。もう手遅れだ――。
急速に消えていく命の灯火を感じて、彼はセトの顔を覗き込む。
「……何か言いたいことはあるか? 何か伝えたい事があるなら聞くよ」
「……この作戦終わったら、あいつと飲む約束してたんだが……約束破って悪ィって伝えてくれ」
「あいつってエンタロウって人? 生き残って自分で言ったらどう? その方が早いわよ」
「……そうしたいのはやまやま何だけどな。あいつ、クソがつくほど真面目で硬えけど、仲間思いのいい奴なんだ……。人間でいられるうちに、止めてやってくれ……」
マテリアルを分け続けるアルスレーテに、光のない瞳を向けるセト。
――もう見えていないのかもしれない。
リューリはその言葉にハッとして彼を見つめる。
「……セトさん、知ってたの?」
「ああ。付き合い長いもんでね……エンタロウを頼む……」
「……分かった。請け負うよ。もう休め」
セトの手を取るクィーロ。その言葉に安心したようにため息をついた彼。
……彼がもう一度息を吸い込むことはなく――。
零れ落ちた命に唇を噛むアルバ。
落ち込んでいる場合じゃない。まだ生きている人達はいる。
これ以上、誰も死なせたくはない。
考えろ。考えろ。彼らを休ませている間に出来ることを。
状況の確認と、逃げ道の確保。それから――。
「僕は諦めない……! 必ず生き抜いてみせる」
再び揺れる船。エンタロウと交戦状態に入ったのかもしれない。戦う音が聞こえてくる。
アルスレーテはため息をつくと仲間を振り返る。
「ここで全滅は流石に笑えないわ。行って、マリィアとアルトを助けて来て。私は私の仕事をするから」
「僕も人命救助と逃げ道の確保に努める。頼む、行ってくれ!」
「分かった。アルスレーテさんとアルバさんも気を付けて」
「お前達も自分の命を優先しろよ。何かあったら迷わず逃げろ」
リューリとクィーロに頷き返すアルバ。2人の背を見送って、彼も動き出す。
リューリとクィーロが駆けつけた先は、哨戒艇の操舵室。
噎せかえる程の血の匂い。
見えるのは事切れた長官。セトの血と返り血で真っ赤に染まった黒髪の男が闇雲に槍を振う。
そして、それを必死に止めているマリィアとアルトの姿だった。
「やめろ! この船は命綱だ! お前が仲間の命を縮めてどうするんだ!!」
マリィアの叫び。エンタロウは酷く不思議そうな目線を彼女に向ける。
――動く肉塊は始末したはずなのに、何故まだ残っているのだろう。
――許せない。許さない。
――上官に……組織に従わなければ、仲間達は生き残れたのか。
――分からない。分からないけれど。
――身体が変わっていく。冷たくて黒いものが支配していく。
――許せない。許さない。憎い。憎い。憎い。
殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺――!!
「アルトちゃん、大丈夫!?」
「リューリちゃん、下がって。こいつはもう……」
「でも血だらけだよ……!?」
「これは私の血じゃない。心配しないでいい」
駆け付けたリューリを庇うように立つアルト。
黒髪の男のマテリアルに明らかな変化が起きている。クィーロは舌打ちすると、迷わず刀を抜き放つ。
「……堕ちると見境無しかよ!」
覚醒し、黒い髪が銀色に変化した彼。
守りを捨てて攻め込んで来るその姿に、エンタロウは本能で避けながら目を見開く。
「……セト?」
「聞け! エンタロウ! てめぇの護りたかったもんは何だった! 護りたいと願ったもの……望んだことはこんな事か!」
彼の問いに否定も肯定もせず、懐に飛び込むクィーロ。
――彼自身、相棒と呼べる絶対の信頼を寄せる男がいる。
エンタロウの一途さは行き過ぎだとは思うが。そういうのは嫌いではないし、彼の気持ちには少し共感する気持ちがあった。
――俺は、あいつの為に、何もかもを捨てることは出来るだろうか。
ここまで思える相手がいる。
羨ましく、そして眩しいとも感じる。けれど――クィーロには一つだけ分かることがある。
それは――。
「セトはお前が堕ちることを望むか!? お前に生きて欲しいと願っていると何故分からない!!」
「お前は部隊の仲間達に生きて欲しかったんじゃないのか!? だからこその選択だったんだろう!? それを……それをお前自身の手で壊すなんて馬鹿げた話があるか!!」
マリィアの怒りと哀しみのこもった叫び。
元軍人である彼女にとって、この事態は有り得る未来で過去だった。自身の上官がまともで、サルヴァトーレ・ロッソと共に転移したから起きなかった。
この些細で、埋めようがない決定的な差。
運が悪かった、の一言で片づけるにはあんまりで――。
「ねえ、燕太郎さん。もうこんなことやめよう? 今ならまだ、人間のままでいられるよ」
黒髪の男に近づくリューリ。それにエンタロウは無言を返す。
「人間のままだと燕太郎さんのしたい事は出来ない?」
彼女の問い。返答の代わりに振り下ろされる槍。
そこに割って入る赤い風。アルトはそれを弾き返し。燃える瞳で黒い男を睨みつける。
「……お前には同情する。だけど、リューリちゃんを傷つけることだけは許さない!! 私はお前とは違う! 生きて、親友を守る……!」
男の怒りに満ちた声にならない叫びが空間に満ちて――。
次の瞬間、溢れる眩い光。急速に景色が遠ざかる。記録が終わるのだろう。
マリィアは、消えゆく景色に敬礼を送る。
生きる為にもがいた彼らを、せめて軍人として送ってやりたい。
「燕太郎さん……! 止めるから! 私、未来で絶対あなたを止める!」
あの日、青木から感じた深い絶望と怒り。
その理由が、少しだけ理解できた気がする。
最後に耳に残ったのは吹きつける風の音。雪原に響く咆哮……。
――リューリには、エンタロウが泣いているように聞こえた。
「うううう。アルトちゃん……」
「わあ! リューリちゃん泣かないで……!」
起き上がるなり泣き出したリューリを抱きしめるアルト。
アルスレーテとマリィアは、ライブラリの椅子にぐったりと身を投げ出す。
「……何か酷い気分になる記録だったわね」
「本当他人事じゃないわ……」
「そう、だね……」
頷くアルバ。
今にも消えそうな命。冷えた身体の感触がまだ手に残っている。
――同じ状況になったら、僕は。きっと何度でも同じ選択をするだろう……。
「青木ってやつのことが分かったんだ。無駄じゃないさ。一応、ソサエティに報告を入れよう」
ため息をつくクィーロ。脳裏にふと、親友の顔が思い浮かんだ。
――広い意味での世界とはまた違って。
誰にでも、自分にとっての『世界』があると思うの。
私の世界はアルトちゃんがいるところだったり、『月待猫』という場所だったり……。
――多分、だけれど。燕太郎さんにとっての『世界』は、きっと……。
「ここは一体……?」
「うわっ。さっぶ……!!」
「何!? 一面雪だらけだよ!!?」
呆然と周囲を見渡すアルバ・ソル(ka4189)。吹き付けてきた冷たい風にアルスレーテ・フュラー(ka6148)とリューリが震えあがる。
ハンターズソサエティで資料を整理していた筈だったのに、気づけば雪山の中――。
記録の中に入り込んだことは間違いないようだが、一体誰の記録で、どういう状況なのか……。
吹き付ける吹雪。視界が悪い中、目を凝らしたアルト。
雪を被った岩だと思っていたものがうずくまった人間であることに気付いて慌てて駆け寄る。
「おい! しっかりしろ!」
「……寒い……。腹が減った……」
「……これは。お前達、リアルブルーの部隊か? 一体何があった!」
雪を払った先に見える見覚えのある制服。マリィア・バルデス(ka5848)が目を見開く。
「あ、あ……。助けて……助けてくれ」
「もう大丈夫だ。落ち着いて話してくれ」
努めて静かに声をかけるアルバ。雪に埋もれた男たちは歯をカタカタと鳴らしながら、ぽつりぽつりと話し出す。
護衛業務に向かっていたはずが、気づけば、氷に閉ざされた山中にいたこと。
周りはVOIDだらけで通信も通じないこと。
寒さと飢えで、櫛の歯が欠けたように1人、また1人と死んで行ったこと。
僅かな生き残りの隊員達は乗っていた哨戒艇を拠点代わりにしていたが、長官に銃を向けられ全員追い出されたこと――。
そこまで聞いて、マリィアは彼らが何であるか……リアルブルーからの転移に巻き込まれた者達であることを理解した。
そして、精神に変調をきたした上官の凶行で、部隊が全滅しかかっていることも。
更にただ1人、動いているヒト……血だらけの人間を背負った男が、哨戒艇のドアを蹴破ろうとしているのに気づく。
「……燕太郎さん? 燕太郎さんだよね?」
「え、燕太郎って……まさか青木か?」
目を丸くするリューリの声に顔を上げるアルト。黒髪の男はこちらに気付く様子もなく、ただただ必死にドアに攻撃を続けている。
確かに彼女達が知っている歪虚によく似ているが、槍は持っていない。
でも……この顔。間違いない。世を騒がせている闇黒の魔人……青木 燕太郎(kz0166)だ。
その姿に警戒するアルバ。だが、様子がおかしい。
青木は強い歪虚だ。この程度のドアはすぐに蹴破れるはずなのに。
何より自分達に反応も示さず、ただただ、背負っている男を救おうとしているように見えて……。
――目の前の男がどうあれ、人命の方が大事だ。
こうしている間も、容赦のない寒さが人の命を奪っていく。一刻の猶予もない。
クィーロ・ヴェリル(ka4122)は歩み寄ると、黒髪の男に手を差し伸べる。
「彼を背負っていては動きにくいだろう。手伝うよ」
「……セトに触るな」
「ドアを壊す動作は怪我人の負担になるだろう」
「邪魔だ! 下がっていろ! 私がドアを開ける!!」
「手出しをするな。あいつは俺が殺す」
銃を構えてドアの前に滑り込むマリィア。エンタロウから感じる怒り。にじみ出る負の気配。
彼女はそれを気にすることなく黒髪の男を睨みつける。
「お前が中にいる豚をどうしようが興味はないが彼を背負ったまま暴れるな! 彼に迷惑だ!」
「……お前の背にいる男はセトと言ったか? 彼は重傷と見える。過度な負担は命に関わるぞ」
「彼を一旦降ろせ。手当てもしたい。すぐに信用しろとは言えないが、彼が死ぬよりいいだろう」
「……っ」
マリィアとクィーロの言葉に唇を噛むエンタロウ。やけに素直にセトを降ろす。
その様子に拍子抜けするアルト。やはりいつものあの男とは様子が違う。
そこに、ドアの向こう側から男性の声が聞こえて来た。
「お前達見ない顔だな。どこの部隊だ!? 部隊名を言え!」
「……二度は言わないわ。扉を開けなさい!」
「この船は俺のものだ! 誰にも渡さんぞ!」
「死にたくなければ扉から離れていろ! 豚っ!」
「ちょっと待て! 無暗に扉を……」
ヒステリックな中年男性の声に苛立ちを隠さぬマリィア。アルトの声は銃撃の音でかき消される。
彼女は扉の鍵を撃ち抜くと体当たりで扉をこじ開け、中に滑り込む。
長官らしき男は短い悲鳴をあげると船の奥へと逃げ、黒髪の男が親友の槍を手にして、幽霊のようにそれを追う。
「……無暗に扉を壊したら、船全体に影響が出ないのかって言おうと思ったんだけどね」
「この構造の船は私も乗っていたことがある。鍵だけ狙えば問題ない。さて、私は逃げた豚を制圧する。アルト達は……」
マリィアの声を遮る断末魔。船の奥で、エンタロウが長官を始末したのだろう。
異常者の行動のせいで部隊全滅など到底認められるものではない。
長官の生き死になどどうでも良かったし、ある意味自業自得とも思うが――。
「……これ以上の凶行は避けたいところだな」
アルトの呟き。続いた衝撃。
クィーロが銀髪の男を抱えてドアをくぐろうとした瞬間、哨戒艇が大きく揺れた。
「……あいつ、暴れ出したのか?」
おかしい。まだセトは生きていると言うのに……。
銀髪の男をそっと降ろしたクィーロ。そこに、顔色が真っ青な隊員達に肩を貸しながらアルスレーテが入って来る。
「ほら! 皆ドア開いたわよ! 入って入って!! 奥から順番にね!」
「必ず助ける。皆で生きよう」
振り返るアルバ。誰も動く気配がない。
――仕方がない。アルスレーテとアルバが見た時には、外にいた部隊の大半が既に衰弱の末に息絶えていた。
かろうじて生き残っている者達もいるが、もう自力では動けないのだろう。
リューリはまだ微かに息のある隊員に己が持っていたコートを被せて抱え上げる。
「……寒い……腹が減った……」
「……大変だったね。もう大丈夫だからね。ほら、ごはんもあるよ」
カタカタと震えるだけで、喋る元気もない隊員の前に持っていたサンドウィッチや高熱量食料を並べるリューリ。
――弱っていて、食べる元気もないのかもしれない。
でも、これで少しでも生きる気力に繋がってくれたら――。
「例の長官とやらは片付いたのかしら。じゃあ遠慮なく重病者の治療に入れるわね」
目を閉じて、練り上げたマテリアルを隊員達に分け与えるアルスレーテ。
その温かな光に、隊員達が涙を零す。
「……母さん。帰りたい……」
「痛い。痛いよぉ……。かぁさん……」
「うんうん。身体が治れば食事も摂れるようになる。大丈夫よ」
隊員達を安心させるように順番に撫でる彼女。
その時再び、船が大きく揺れる。
……エンタロウが暴れているのだろうが、今回ばかりは彼も被害者なのだろうと思うし。
仲間が心配ではあったけれど……正直、目の前で死にかけてる人に治療を施すだけで手一杯だ。
例え記録だったとしても、彼らを黙って見ているなんて出来ない。
「……うるせえな……。おちおち寝てられねえっつの……」
揺れた船に反応を見せる銀髪の男。その顔を、アルスレーテとリューリが覗き込む。
「目が覚めた? 今手当てするわ」
「セトさん……。大丈夫?」
「……何で俺の名前知ってんだ? さては天使がお迎えに来たか……。随分可愛い天使達だな。……どーよ。俺とお茶しない?」
「ごめんなさいね。私、恋人がいるのよ」
「私も心に決めた人がいるんだー。ごめんね」
「……天使にも相手がいるたあ世も末だな。さっき燃える赤毛の天使も見たんだが……」
「アルトちゃんのこと?」
「そっか。いい名前だな。折角好みの女に会ったってのに勿体ねえ……」
口から血を吐きながら笑うセトに苦笑しつつポーションを与えるクィーロ。
この怪我、この状況下でこんな冗談が言える。
このセトという人物は精神的に強靭で、そしてユーモアに溢れていたのだろう。
ポーションも、癒しの術も気休め。誰が見ても分かる。もう手遅れだ――。
急速に消えていく命の灯火を感じて、彼はセトの顔を覗き込む。
「……何か言いたいことはあるか? 何か伝えたい事があるなら聞くよ」
「……この作戦終わったら、あいつと飲む約束してたんだが……約束破って悪ィって伝えてくれ」
「あいつってエンタロウって人? 生き残って自分で言ったらどう? その方が早いわよ」
「……そうしたいのはやまやま何だけどな。あいつ、クソがつくほど真面目で硬えけど、仲間思いのいい奴なんだ……。人間でいられるうちに、止めてやってくれ……」
マテリアルを分け続けるアルスレーテに、光のない瞳を向けるセト。
――もう見えていないのかもしれない。
リューリはその言葉にハッとして彼を見つめる。
「……セトさん、知ってたの?」
「ああ。付き合い長いもんでね……エンタロウを頼む……」
「……分かった。請け負うよ。もう休め」
セトの手を取るクィーロ。その言葉に安心したようにため息をついた彼。
……彼がもう一度息を吸い込むことはなく――。
零れ落ちた命に唇を噛むアルバ。
落ち込んでいる場合じゃない。まだ生きている人達はいる。
これ以上、誰も死なせたくはない。
考えろ。考えろ。彼らを休ませている間に出来ることを。
状況の確認と、逃げ道の確保。それから――。
「僕は諦めない……! 必ず生き抜いてみせる」
再び揺れる船。エンタロウと交戦状態に入ったのかもしれない。戦う音が聞こえてくる。
アルスレーテはため息をつくと仲間を振り返る。
「ここで全滅は流石に笑えないわ。行って、マリィアとアルトを助けて来て。私は私の仕事をするから」
「僕も人命救助と逃げ道の確保に努める。頼む、行ってくれ!」
「分かった。アルスレーテさんとアルバさんも気を付けて」
「お前達も自分の命を優先しろよ。何かあったら迷わず逃げろ」
リューリとクィーロに頷き返すアルバ。2人の背を見送って、彼も動き出す。
リューリとクィーロが駆けつけた先は、哨戒艇の操舵室。
噎せかえる程の血の匂い。
見えるのは事切れた長官。セトの血と返り血で真っ赤に染まった黒髪の男が闇雲に槍を振う。
そして、それを必死に止めているマリィアとアルトの姿だった。
「やめろ! この船は命綱だ! お前が仲間の命を縮めてどうするんだ!!」
マリィアの叫び。エンタロウは酷く不思議そうな目線を彼女に向ける。
――動く肉塊は始末したはずなのに、何故まだ残っているのだろう。
――許せない。許さない。
――上官に……組織に従わなければ、仲間達は生き残れたのか。
――分からない。分からないけれど。
――身体が変わっていく。冷たくて黒いものが支配していく。
――許せない。許さない。憎い。憎い。憎い。
殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺――!!
「アルトちゃん、大丈夫!?」
「リューリちゃん、下がって。こいつはもう……」
「でも血だらけだよ……!?」
「これは私の血じゃない。心配しないでいい」
駆け付けたリューリを庇うように立つアルト。
黒髪の男のマテリアルに明らかな変化が起きている。クィーロは舌打ちすると、迷わず刀を抜き放つ。
「……堕ちると見境無しかよ!」
覚醒し、黒い髪が銀色に変化した彼。
守りを捨てて攻め込んで来るその姿に、エンタロウは本能で避けながら目を見開く。
「……セト?」
「聞け! エンタロウ! てめぇの護りたかったもんは何だった! 護りたいと願ったもの……望んだことはこんな事か!」
彼の問いに否定も肯定もせず、懐に飛び込むクィーロ。
――彼自身、相棒と呼べる絶対の信頼を寄せる男がいる。
エンタロウの一途さは行き過ぎだとは思うが。そういうのは嫌いではないし、彼の気持ちには少し共感する気持ちがあった。
――俺は、あいつの為に、何もかもを捨てることは出来るだろうか。
ここまで思える相手がいる。
羨ましく、そして眩しいとも感じる。けれど――クィーロには一つだけ分かることがある。
それは――。
「セトはお前が堕ちることを望むか!? お前に生きて欲しいと願っていると何故分からない!!」
「お前は部隊の仲間達に生きて欲しかったんじゃないのか!? だからこその選択だったんだろう!? それを……それをお前自身の手で壊すなんて馬鹿げた話があるか!!」
マリィアの怒りと哀しみのこもった叫び。
元軍人である彼女にとって、この事態は有り得る未来で過去だった。自身の上官がまともで、サルヴァトーレ・ロッソと共に転移したから起きなかった。
この些細で、埋めようがない決定的な差。
運が悪かった、の一言で片づけるにはあんまりで――。
「ねえ、燕太郎さん。もうこんなことやめよう? 今ならまだ、人間のままでいられるよ」
黒髪の男に近づくリューリ。それにエンタロウは無言を返す。
「人間のままだと燕太郎さんのしたい事は出来ない?」
彼女の問い。返答の代わりに振り下ろされる槍。
そこに割って入る赤い風。アルトはそれを弾き返し。燃える瞳で黒い男を睨みつける。
「……お前には同情する。だけど、リューリちゃんを傷つけることだけは許さない!! 私はお前とは違う! 生きて、親友を守る……!」
男の怒りに満ちた声にならない叫びが空間に満ちて――。
次の瞬間、溢れる眩い光。急速に景色が遠ざかる。記録が終わるのだろう。
マリィアは、消えゆく景色に敬礼を送る。
生きる為にもがいた彼らを、せめて軍人として送ってやりたい。
「燕太郎さん……! 止めるから! 私、未来で絶対あなたを止める!」
あの日、青木から感じた深い絶望と怒り。
その理由が、少しだけ理解できた気がする。
最後に耳に残ったのは吹きつける風の音。雪原に響く咆哮……。
――リューリには、エンタロウが泣いているように聞こえた。
「うううう。アルトちゃん……」
「わあ! リューリちゃん泣かないで……!」
起き上がるなり泣き出したリューリを抱きしめるアルト。
アルスレーテとマリィアは、ライブラリの椅子にぐったりと身を投げ出す。
「……何か酷い気分になる記録だったわね」
「本当他人事じゃないわ……」
「そう、だね……」
頷くアルバ。
今にも消えそうな命。冷えた身体の感触がまだ手に残っている。
――同じ状況になったら、僕は。きっと何度でも同じ選択をするだろう……。
「青木ってやつのことが分かったんだ。無駄じゃないさ。一応、ソサエティに報告を入れよう」
ため息をつくクィーロ。脳裏にふと、親友の顔が思い浮かんだ。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/23 15:43:09 |
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質問卓! アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/04/25 08:13:01 |
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相談?雑談?卓 アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/04/26 11:40:51 |