ゲスト
(ka0000)
或る少女と3つの依頼
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/26 22:00
- 完成日
- 2017/05/03 01:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
オフィスに向かう足取りは重く、引き摺る様に。
立ち止まっては頭の後ろでふわふわと漂うように浮かんでいる、緑の淡い光りで瞬く精霊が、体当たりをするように背を押した。
「っ、ひーちゃん」
ひーちゃん。そう呼ばれた精霊は、彼女の視界に入ることもなく、今一度その小さな背をぽんと押した。
メグこと、マーガレット・ミケーリ。
初陣を終えたばかりのハンターである。
魔法使いに憧れたものの、その才に恵まれず。通っていた魔術学院を退学した折、予てより自身に寄り添っていた精霊の存在を知る。後に覚醒し、ハンターとして活動を始め、今に至る。
初めての依頼は春先の畑に湧いたコボルトの駆除。
ぬかるむ地面の泥跳ねは厄介だったが、その他はとても簡単な仕事だった。らしい。
依頼自体は成功したが、その戦いの中メグは竦むばかりで何も出来ず、近くに来たコボルトにも怯え、依頼を共にした先輩ハンター達の手を借りることになった。
依頼の後に彼等から案を募り、ひーちゃん、と名付けられた精霊の機嫌は良さそうに見えるが、近付いたオフィスの看板に、メグは今すぐ走って引き返したい気持ちで一杯だった。
泣きそうになった目を擦って扉に手を掛けると、入れ違いになったように何人もの依頼人が足音を立てて外へ出てきた。
頼んだよ。こっちもお願いね。本当に助けてくれ。
叫く声が縋るように書類を抱えた受付嬢に向かう。
彼等を見送った受付嬢は、溜息を吐き書類をテーブルへ置いた。
何れも、近辺で出没した歪虚の物らしい。
彼等が去ったオフィスにぽつんと佇むメグに気付くと、疲れた顔で微笑み迎える。
「ハンターさんですね。依頼探しですか? 待ってました! 今し方頼まれた以来がこんなに……」
最近、自由都市同盟の各地で事件が多発しているという。
書類に追われる受付嬢も、その事件の1つ、フマーレの工業区で暴れた歪虚の事件を追っていると話した。
「大きな火事もありましたし……協会の方も忙しいみたいで。いつでも人手不足なんですよ。でも! どんな困難だって、ハンターさんの手に掛かれば、ちょいちょい、の、ちょい! なんです!」
ぐっと拳を突き上げて、鼓舞するようにそう言った受付嬢、彼女の語るハンターの姿は、メグにはまだ遠く、眩しすぎる憧れだ。
●
受付嬢は出動の地域や、推察される大凡の脅威に依って書類を分けながら、掲示前の依頼をメグに示した。
「この前のお話は、依頼主さんからちょっとだけ聞きました。大変だったみたいですけど……また来てくれたって事は、まだ頑張ってくれるんですよね! 諦めないって大事なことです!」
コボルトは怖いかも知れませんが。そう言いながら、3枚目の書類を並べた。
『コボルト駆除をお願いします』……1
「どうやら、夜な夜な徘徊して、畑や庭を荒らしているみたいです。
出没時間に見回りをして、見かけたら駆除をお願いしたいとのことですね。
どこかに巣があるらしいのですが、まだ見付かってなくて、全部で何匹いるかは分かりません。
全部倒して、巣の駆除までとなると……夜通しのお仕事になりそうです。
メグさん、徹夜は平気ですか? 私は無理なんですよね……」
『廃屋の片付けをお願いします』……2
「いつもなら、ちょっとしたことにもハンターさんの手を貸します!……と、大歓迎なのですが。
今は忙しくて、後回しになってしまっているんですよね。
何年も前から放置されている大きな家の片付け……解体に備えて、残っている家具を運び出すそうです。
野良犬の影を見た噂もありますが、幽霊って噂もありますね」
『おにんぎょうを、さがしてください』……3
「小さな女の子からの依頼なんです。
何でも、いじめっ子にお気に入りの人形を取られちゃった、とか。
実は、そのいじめっ子にも話を聞いたのですが、人形はすぐに返した……置いていったらしいんです。
女の子がそれに気付く前に誰かに持って行かれてしまったと思うんですよ」
●
ゆっくり選んで下さいね。そう言い残し受付嬢は作業に戻った。
その後も依頼人が来たり帰ったりと、オフィスの忙しい時間は続いた。
暫く経って、他の依頼の掲示に来た受付嬢が、決まりましたかと尋ねた。
メグはまだ迷っていると項垂れる。
「コボルトは……とても危ないと思うので、怖いけど、危ないから……お片付けは嫌いじゃないので、多分出来ると思うんです。でも、女の子の人形は、見付けてあげたいなって……」
「そうですか。大丈夫、どれも、真っ当な動機だとおもいますよ!」
しないといけないこと、できること、してあげたいこと。
「それでも、迷ってしまう時は、先輩ハンターさんに相談です!」
「こんにちは、依頼をお探しですか?」
オフィスを訪ねてきたハンターに、受付嬢が満面の笑みで声を掛けた。
オフィスに向かう足取りは重く、引き摺る様に。
立ち止まっては頭の後ろでふわふわと漂うように浮かんでいる、緑の淡い光りで瞬く精霊が、体当たりをするように背を押した。
「っ、ひーちゃん」
ひーちゃん。そう呼ばれた精霊は、彼女の視界に入ることもなく、今一度その小さな背をぽんと押した。
メグこと、マーガレット・ミケーリ。
初陣を終えたばかりのハンターである。
魔法使いに憧れたものの、その才に恵まれず。通っていた魔術学院を退学した折、予てより自身に寄り添っていた精霊の存在を知る。後に覚醒し、ハンターとして活動を始め、今に至る。
初めての依頼は春先の畑に湧いたコボルトの駆除。
ぬかるむ地面の泥跳ねは厄介だったが、その他はとても簡単な仕事だった。らしい。
依頼自体は成功したが、その戦いの中メグは竦むばかりで何も出来ず、近くに来たコボルトにも怯え、依頼を共にした先輩ハンター達の手を借りることになった。
依頼の後に彼等から案を募り、ひーちゃん、と名付けられた精霊の機嫌は良さそうに見えるが、近付いたオフィスの看板に、メグは今すぐ走って引き返したい気持ちで一杯だった。
泣きそうになった目を擦って扉に手を掛けると、入れ違いになったように何人もの依頼人が足音を立てて外へ出てきた。
頼んだよ。こっちもお願いね。本当に助けてくれ。
叫く声が縋るように書類を抱えた受付嬢に向かう。
彼等を見送った受付嬢は、溜息を吐き書類をテーブルへ置いた。
何れも、近辺で出没した歪虚の物らしい。
彼等が去ったオフィスにぽつんと佇むメグに気付くと、疲れた顔で微笑み迎える。
「ハンターさんですね。依頼探しですか? 待ってました! 今し方頼まれた以来がこんなに……」
最近、自由都市同盟の各地で事件が多発しているという。
書類に追われる受付嬢も、その事件の1つ、フマーレの工業区で暴れた歪虚の事件を追っていると話した。
「大きな火事もありましたし……協会の方も忙しいみたいで。いつでも人手不足なんですよ。でも! どんな困難だって、ハンターさんの手に掛かれば、ちょいちょい、の、ちょい! なんです!」
ぐっと拳を突き上げて、鼓舞するようにそう言った受付嬢、彼女の語るハンターの姿は、メグにはまだ遠く、眩しすぎる憧れだ。
●
受付嬢は出動の地域や、推察される大凡の脅威に依って書類を分けながら、掲示前の依頼をメグに示した。
「この前のお話は、依頼主さんからちょっとだけ聞きました。大変だったみたいですけど……また来てくれたって事は、まだ頑張ってくれるんですよね! 諦めないって大事なことです!」
コボルトは怖いかも知れませんが。そう言いながら、3枚目の書類を並べた。
『コボルト駆除をお願いします』……1
「どうやら、夜な夜な徘徊して、畑や庭を荒らしているみたいです。
出没時間に見回りをして、見かけたら駆除をお願いしたいとのことですね。
どこかに巣があるらしいのですが、まだ見付かってなくて、全部で何匹いるかは分かりません。
全部倒して、巣の駆除までとなると……夜通しのお仕事になりそうです。
メグさん、徹夜は平気ですか? 私は無理なんですよね……」
『廃屋の片付けをお願いします』……2
「いつもなら、ちょっとしたことにもハンターさんの手を貸します!……と、大歓迎なのですが。
今は忙しくて、後回しになってしまっているんですよね。
何年も前から放置されている大きな家の片付け……解体に備えて、残っている家具を運び出すそうです。
野良犬の影を見た噂もありますが、幽霊って噂もありますね」
『おにんぎょうを、さがしてください』……3
「小さな女の子からの依頼なんです。
何でも、いじめっ子にお気に入りの人形を取られちゃった、とか。
実は、そのいじめっ子にも話を聞いたのですが、人形はすぐに返した……置いていったらしいんです。
女の子がそれに気付く前に誰かに持って行かれてしまったと思うんですよ」
●
ゆっくり選んで下さいね。そう言い残し受付嬢は作業に戻った。
その後も依頼人が来たり帰ったりと、オフィスの忙しい時間は続いた。
暫く経って、他の依頼の掲示に来た受付嬢が、決まりましたかと尋ねた。
メグはまだ迷っていると項垂れる。
「コボルトは……とても危ないと思うので、怖いけど、危ないから……お片付けは嫌いじゃないので、多分出来ると思うんです。でも、女の子の人形は、見付けてあげたいなって……」
「そうですか。大丈夫、どれも、真っ当な動機だとおもいますよ!」
しないといけないこと、できること、してあげたいこと。
「それでも、迷ってしまう時は、先輩ハンターさんに相談です!」
「こんにちは、依頼をお探しですか?」
オフィスを訪ねてきたハンターに、受付嬢が満面の笑みで声を掛けた。
リプレイ本文
●
依頼を探しに来たヴァイス(ka0364)は見知った後ろ姿に声を掛ける。
彼女の前に並べられているのは掲示前の依頼らしい。
「マーガレットにひー、お前たちも依頼を受けに来たのか?」
振り返ったメグは、ぺこりと深く頭を下げる。お久しぶりです、先日はご迷惑をお掛けして、慌てすぎてどもりながらの挨拶に、その下がった頭の上で緑の淡い光は再会を喜ぶように跳ねている。
2人を見付けたカリアナ・ノート(ka3733)が駆け寄って、メグの手を握った。
顔を上げてと促す様な仕草に、メグが頭を起こすとカリアナは小柄な身体で飛び跳ねて、にっこりと笑む。
「お久しぶりね! 元気そうでよかったわ」
青い瞳を輝かせて、少女らしい可憐な声が親しげに。メグが挨拶を返すと、慌てて背筋を伸ばし、あたふたとスカートを払い髪を整えて指先を揃える。
「こ、今回はよろしくね。うん。メグおねーさん」
受付嬢に勧められた3つの依頼。
悩んでいると打ち明けて助言を請うと、同じく依頼を探しに来たノワ(ka3572)と雪都(ka6604)も加わった。
「メグさん、お久しぶりです」
悩みごとですか、と首を傾がせてノワが依頼を見る。
雪都はその内の一枚に触れて小さく溜息を吐いた。
「少し前まで戦闘なんて縁のないただの学生だったんだけどね」
ここに来たばかりの頃は、コボルト退治にも怯えたんだったと思い出す様に瞼を伏せて。
「慣れればなんとかなるもんだな……」
メグを励ます様に笑顔で話す友人を見る。ここまでこれたのは友人の、小さき健啖家の励ましや助けが有ったからだ。これからは彼女の力になりたい。そう思っている。
「私の研究所兼診療所では悩み事の相談も承ってるんです。なので、何か心配な事があったらお気軽にどうぞ!」
ノワがメグの手を取って掛ける言葉に頷く。
「相談ならいつでも乗るよ……ノワが」
「……どんな仕事も依頼人さんにとっては同じくらい大切なことだと、ファリスは思うの」
ファリス(ka2853)は並べられた依頼に手を伸ばしては躊躇うメグを見詰めて、真摯な声で言った。
初めましてと頭を下げたメグは、ファリスに憧憬の眼差しを向ける。
赤い瞳が柔和に微笑み頷いた。
それでも、メグの手はまだ迷っている。
その手を見守るように眺めながら南護 炎(ka6651)は依頼を順に見ていった。
コボルト駆除、片付け、人形探し。
メグの指は人形探しの文面を辿っている。
「コボルト退治か…難しい依頼じゃないが油断は禁物だな」
メグの視線が外れている依頼を摘まみ挙げて詳細を読む。
「コボルドが悪さをしているのなら、きちんと駆除しなくちゃいけないと思うの」
ファリスが同じくコボルト駆除の依頼に手を挙げた。
夜だから、ライトが、単独行動は控えてと、2人が打ち合わせに掛かると、他のハンター達も自身の向かう依頼を選ぼうと動き始める。
「おねーさんは決まった?」
カリアナが尋ねると、メグは手を引っ込めて頭を振る。どうしたら良いのか分からないと言う様に。
「自分で決めるのが良いとは思うが、俺はそれを勧めるぜ」
ヴァイスが指すのはメグが気に掛けていた人形探しの依頼。
依頼を読んだノワも、依頼主の少女のことを思いながら、大切な人形なのだろうと頷く。
大切な、と呟いたメグの指が再びその依頼に伸ばされる。
「見つけてあげたいという気持ちを優先してみるのもいいと思う」
「はい! 見付けてあげて下さい」
泳がせた視線を漸くハンター達に向けて、何度目かの礼をすると、メグは受付嬢にその依頼を受けると伝えに走った。
「俺も、付いて行くかな」
「そうね、女の子、困ってるだろうし……」
ヴァイスとカリアナが同じ依頼へ、残されたもう一枚の依頼をノワと雪都が見詰める。
「……軍手とマスクは必須ですね……」
依頼の文面を読みながら呟いて、一緒に行きましょうと誘うノワの言葉に雪都はそのつもりだと頷いた。
「メグちゃんの御守はヴァイスさんとカリアナに任せれば良いかな?」
決定したらしい様子に南護が尋ねると、任せろと言うように頷き、レディらしく接するわと胸を張る。
「ファリスも頑張って駆除するの」
夜に備える2人がオフィスを後にする。
去り際に、受付嬢と話し終えたメグがテーブルに戻った来た。軽く振った手を下ろし、南護はその頼りない背を一瞥する。
今回の依頼で自信を付けてくれれば良い、と。
●
早朝、ノワと雪都は今にも崩れそうな古い屋敷の前に来ていた。
「――でも、メグさんにはひーちゃんっていう、素敵なお守りがあるのできっと大丈夫ですよね」
ノワがポケットから取り出した鉱石を朝日に翳す。メグに渡そうか迷った小さな石。
ひーちゃんと呼ばれる緑の精霊の由来はヒスイ、すごい力を持った石だとノワは満面の笑みで雪都を見上げた。
それはメグのお守りには十分だと言う様に、きらりと陽光に輝いた鉱石をポケットに仕舞い、マスクと軍手を着ける。
「すごい力?」
聞いたことがあっただろうかと雪都は首を傾がせながら、軍手を着けた手でライトを灯す。
マスクに遮られてくぐもる声が隣で応えることには、穏やかに、そして、彼女が高く羽ばたけるように。
「……いい、お守りだな」
お守り、胸裏で反復しノワを見る。硝子の奥で静謐なブラウンが温かな笑みを映した。
雪都にとって、お守りのような人。大切な友人。
開かれた廃屋の扉、割れた窓から差す日は十分とは言えず、頼りない光りのなか積もった埃が舞い上がる。
マスクをしていて尚咳き込みそうな光景と、獣の臭い。
「野良犬が出た時はそっと追い出しましょう。叩いたりしたら駄目ですよ」
忠告するように言って、先に踏み込むノワの足元を雪都のライトが照らした。
「雪都さんも、足元気をつけてくださ……ひゃあ?!」
ノワが雪都を振り返ると、その足が乗った床が割れる。軋んだ木の音に驚いて引いた足が、埃の中、絨毯に紛れた様にコートを被って転がっていたハンガーラックに乗って大きくバランスを崩した。
「ノワ!」
「……いたぁ……はい、こうなるので、気を付けて下さい!」
雪都の慌てた声が響く中、ぽんと軽く尻餅をついて。
見上げながら笑って見せると、雪都もほっと深い溜息を吐く。
服の埃を払って、荷物を運び出してしまおうと、先ずは転ばされたばかりのハンガーラックを掴んで担いだ。
雪都もライトの光を周囲に向ける。野良犬の姿は今のところはまだ見えない。
追い出すのに使えるだろうと、壊れた家具に紛れた箒を拾って立て掛けておく。
コボルトが出るという街へ向かうのだからと、ヴァイスはメグに装備の点検を勧める。
ヴァイスの言葉に頷いて、メグはローブが綻んでいないかと、ロッドに傷がないかと検める。
「あの子が心配なのか?」
ヴァイスが尋ねると、その手を止めて頷いた。
「それなら、マーガレット自身の手で返すんだ」
約束しよう。ヴァイスの言葉にメグは杖を握り締めて頷いた。
ヴァイスとカリアナ、メグの3人で公園に向かった。
「んー。風で動くってことはないでしょうし」
公園を見回しながら例え転がっても近くの木に引っ掛かりそうだ。
昼下がりの公園には遊んでいる子どもや、談笑している住人の姿がある。
遊具や植え込みの影、ゴミ箱やベンチを見回ったカリアナが、彼等の方へと駆け寄っていく。
「あ! あのねあのね。人形を探しているんだけど……」
情報を集めようとするカリアナの姿を見詰めるメグが震えた。
促す様にヴァイスの手が背を押す。
一歩踏み出すと、メグも人形の目撃者を捜しに向かった。
「……いつから無かったんだ」
陽差しを仰ぎヴァイスは呟く。人形が置かれた夕方から確認された翌日の昼まで。持ち去られたのは夜か、或いは朝か。
先ずはその情報収集からだと公園を歩き、植え込みの影に見付けた獣の足跡を見下ろして足を止めた。
2人に伝えた方が良いだろうかと振り返る。
既に話を聞き終えたらしいカリアナが、心配そうにメグの様子を見守っていた。
済まなそうに首を横に振った老人に何度も頭を下げてメグが戻って来る。
「……犬が咥えて持ってっちゃったのかしら」
人形を持ち去った人間の目撃情報は無かったが、カリアナはゴミ箱を振り返り呟いた。その日も、ゴミ箱が荒らされていたらしい。おそらくは、ヴァイスの見付けた足跡の主に。
犯人は、人間ではないのだろう。
人形が置かれていたはずの朝にも公園にいたという老人が見ていないとメグが告げると、ヴァイスは少し考えてから頷いた。
夜間の他の被害が見付かるかも知れない。それから足跡を追って情報収集を続けよう。
3人は公園を出て走り出した。
日が落ちるのを待ってファリスと南護は街へ出る。
街並みの中はぐれないように、ライトの明かりを走らせて、警戒しながら被害の多い場所へと急ぐ。
気配を感じファリスの前へ走り込んで足を止め、柄を握るのと鯉口を切ったのは同時。
片紅の双眸が影に潜む獣の息遣いを睨む。
「南護炎、行くぜ!」
モーターの駆動する振動が手に伝わる。ファリスがライトを翳す影、軒から飛び出してきたコボルトへ唸るような音を響かせ斬り掛かった。
「こっちは眠らせるの」
ヤドリギの杖を掲げる。
ファリスの身体を光りが包み、背に3対の翼の幻影が羽ばたいて柔らかな羽を舞わせる。
夜に映える白い羽を背負い、杖を振り翳すと、その先にいた数匹のコボルトがぱたりと倒れた。
次の敵へ構える南護の背後から援護するように周囲を見回す。
こちらを囲むように覗う気配は少なくないが、その内の数匹が離れる足音を聞いた。
「……ここで逃したら、また悪さをするの」
ファリスは逃走を図るコボルトへ雷を走らせる。
その背後で南護に腕を飛ばされたコボルトがぱたりと倒れた。
「コボルトめ! 逃がしはしない!」
モーターに刃を震わせて一瞬のうちに血糊は濯がれる。
果敢にも振り回して向かった来る棍棒を鋼の刀身にいなして、その衝撃を受け流す。接近しているその敵の腹を、攻撃を流した構えからの逆袈裟に刈り飛ばし、まだ残っている敵の気配に眉を寄せた。
「きちんと全部退治しておかないといけないの」
敵の得物の至らぬ距離から雷を放つファリスも、攻撃の手を緩めることはない。
集まっていた敵が片付くと、周囲を見回す。
ライトの光の届く限り、動いているコボルトはいないようだ。
しかし、目撃されている数にはいくらか足りない。まだ潜んでいるのだろう。
追うかと南護が探る。頬に掠めた風の乱れと、僅かに砂を撫でる音を聞いた。
「そんな見え透いた手に乗るかよ」
眠り倒れていたコボルトの内の1匹がひっそりと起き出して、闇の中に爛爛と光る目で南護を狙っていた。
振り返り一刀に、ファリスも次は眠らせるには留めずに攻撃を放った。
●
粗方の家具を運び出し、西日の眩しさに目を細めたノワと雪都。
幸い野良犬は出なかった、幽霊というのも噂だろうとほっとしたところ、最後の箪笥からかさこそと物音を聞いた。
割れた裏板から獣の毛が覗いている。
追い出そうと箪笥を叩いても逃げ出す様子は無い。
箪笥を残して片付けを終えると既に夜。仕方ない、と、裏板に手を掛けるとそこから覗いたのはコボルトの手。
「――コボルトです、雪都さん!」
「大丈夫、構えて、ノワ」
肩に双子の幻影を囀らせ、雪都は符を操って光を放つ。
脅かされて飛び出して来たコボルトを、ノワが左右の毛束を跳ねさせながら、太刀打を握り間合いを詰めた長柄で斬り飛ばした。
迫る日没に3人は走る。
夜間の被害はコボルトの出没場所と重なり、何かを咥えて走るそれらしき姿の証言が幾つも集まった。
人形も恐らく公園まで脚を伸ばしたコボルトが持ち去ったのだろうと確信に近い物を得る。
走り去った方角を尋ねてコボルトの動向を追うと、やがてそれは廃屋へ向かっていった。
夜の街を走りながら、ヴァイスとカリアナは備えるように得物を構えた。
杖を握りながら不安そうにするメグに、カリアナは平気だと笑顔を見せる。
「これから慣れればいいと思うわ。私だって、怖いもの」
「点検はしたよな?」
人形、返すんだろうとヴァイスがメグの杖を示す。
メグが頷くのを見て廃屋の門を開ける。飛び出してきたコボルトをカリアナが眠らせ、ヴァイスが踏み込んで斬りつけた。
「おいこら! 逃げんじゃねえよ」
コボルトがまた1匹廃屋に現れると、それを追ってきた南護の刀が背後から斬り倒した。
「……ここが、巣だったみたいなの。皆さん無事で良かったの」
続いてファリスも倒れているコボルトと、開けられた箪笥を見てほっと息を吐いた。
まだどこからか戻って来るものがいるかも知れない。
もう暫くここで警戒する必要があると走って来た道を振り返り、遠い足音にも警戒を続ける。そう経たずに巣へ戻ってきたコボルトがハンター達の前に現れた。
南護が刀を構え直して斬り掛かっていく。
「オラオラ! 行くぜ! 行くぜ!」
「ここなら巻き込まないから、……眠ってもらうの。通さないの」
ファリスが杖を振り翳し、南護の隙を抜け後方のハンター達に向かおうとするコボルトを眠らせ、倒れたコボルトを狙って確実に仕留める氷の矢を落とす。
庇われるように後退したメグも杖を握り締めて構えを保っている。
終わってから守られていたことに気付いて頭を下げると、カリアナは何でも無いと手を振って、これからだってと微笑んだ。
カリアナに向けるメグの憧憬の目に気付いて南護は苦笑いを。
「確かに、今すぐに理想のハンターになるのは難しいさ」
頷くメグは杖を握り締めて俯いている。
「けど努力を怠らなければいずれは理想のハンターになれるはずさ、応援してるぜ」
驚いた様に顔を上げて瞠る目に、南護は口角を上げて見せた。
抱きかかえるように杖を下ろしたファリスも傍に、メグの顔を見てにこりと穏やかに微笑んだ。
「お仕事を終わらせた後に依頼人さんから掛けて貰える労いの言葉はファリスの励みになっているの」
思い出す様に紡がれる言葉が静かに響いた。
「だから、メグ姉様もひとつひとつ積み上げていくと良いと思うの」
長くその言葉を噛み締めるように黙ってメグは、はいと頷いた。
戦いが終わった廃屋の庭。運んでしまおうと箪笥を傾けると、様々なガラクタが零れてきた。作物の蔓や動物の骨、潰れた空き箱に空き缶、それらに紛れて噛み跡の付いた人形が見付かった。
土埃を払い、依頼の特徴と照らしながら取れ掛かったボタンやリボンに溜息を吐いた。
日が昇って、可能な限り汚れを落とした人形を依頼人の少女に返す。
依頼を共にした3人が状況や状態への言葉を発する前に、少女は、おかえりなさい、と泣きそうな笑顔で人形を抱き締めた。
依頼を探しに来たヴァイス(ka0364)は見知った後ろ姿に声を掛ける。
彼女の前に並べられているのは掲示前の依頼らしい。
「マーガレットにひー、お前たちも依頼を受けに来たのか?」
振り返ったメグは、ぺこりと深く頭を下げる。お久しぶりです、先日はご迷惑をお掛けして、慌てすぎてどもりながらの挨拶に、その下がった頭の上で緑の淡い光は再会を喜ぶように跳ねている。
2人を見付けたカリアナ・ノート(ka3733)が駆け寄って、メグの手を握った。
顔を上げてと促す様な仕草に、メグが頭を起こすとカリアナは小柄な身体で飛び跳ねて、にっこりと笑む。
「お久しぶりね! 元気そうでよかったわ」
青い瞳を輝かせて、少女らしい可憐な声が親しげに。メグが挨拶を返すと、慌てて背筋を伸ばし、あたふたとスカートを払い髪を整えて指先を揃える。
「こ、今回はよろしくね。うん。メグおねーさん」
受付嬢に勧められた3つの依頼。
悩んでいると打ち明けて助言を請うと、同じく依頼を探しに来たノワ(ka3572)と雪都(ka6604)も加わった。
「メグさん、お久しぶりです」
悩みごとですか、と首を傾がせてノワが依頼を見る。
雪都はその内の一枚に触れて小さく溜息を吐いた。
「少し前まで戦闘なんて縁のないただの学生だったんだけどね」
ここに来たばかりの頃は、コボルト退治にも怯えたんだったと思い出す様に瞼を伏せて。
「慣れればなんとかなるもんだな……」
メグを励ます様に笑顔で話す友人を見る。ここまでこれたのは友人の、小さき健啖家の励ましや助けが有ったからだ。これからは彼女の力になりたい。そう思っている。
「私の研究所兼診療所では悩み事の相談も承ってるんです。なので、何か心配な事があったらお気軽にどうぞ!」
ノワがメグの手を取って掛ける言葉に頷く。
「相談ならいつでも乗るよ……ノワが」
「……どんな仕事も依頼人さんにとっては同じくらい大切なことだと、ファリスは思うの」
ファリス(ka2853)は並べられた依頼に手を伸ばしては躊躇うメグを見詰めて、真摯な声で言った。
初めましてと頭を下げたメグは、ファリスに憧憬の眼差しを向ける。
赤い瞳が柔和に微笑み頷いた。
それでも、メグの手はまだ迷っている。
その手を見守るように眺めながら南護 炎(ka6651)は依頼を順に見ていった。
コボルト駆除、片付け、人形探し。
メグの指は人形探しの文面を辿っている。
「コボルト退治か…難しい依頼じゃないが油断は禁物だな」
メグの視線が外れている依頼を摘まみ挙げて詳細を読む。
「コボルドが悪さをしているのなら、きちんと駆除しなくちゃいけないと思うの」
ファリスが同じくコボルト駆除の依頼に手を挙げた。
夜だから、ライトが、単独行動は控えてと、2人が打ち合わせに掛かると、他のハンター達も自身の向かう依頼を選ぼうと動き始める。
「おねーさんは決まった?」
カリアナが尋ねると、メグは手を引っ込めて頭を振る。どうしたら良いのか分からないと言う様に。
「自分で決めるのが良いとは思うが、俺はそれを勧めるぜ」
ヴァイスが指すのはメグが気に掛けていた人形探しの依頼。
依頼を読んだノワも、依頼主の少女のことを思いながら、大切な人形なのだろうと頷く。
大切な、と呟いたメグの指が再びその依頼に伸ばされる。
「見つけてあげたいという気持ちを優先してみるのもいいと思う」
「はい! 見付けてあげて下さい」
泳がせた視線を漸くハンター達に向けて、何度目かの礼をすると、メグは受付嬢にその依頼を受けると伝えに走った。
「俺も、付いて行くかな」
「そうね、女の子、困ってるだろうし……」
ヴァイスとカリアナが同じ依頼へ、残されたもう一枚の依頼をノワと雪都が見詰める。
「……軍手とマスクは必須ですね……」
依頼の文面を読みながら呟いて、一緒に行きましょうと誘うノワの言葉に雪都はそのつもりだと頷いた。
「メグちゃんの御守はヴァイスさんとカリアナに任せれば良いかな?」
決定したらしい様子に南護が尋ねると、任せろと言うように頷き、レディらしく接するわと胸を張る。
「ファリスも頑張って駆除するの」
夜に備える2人がオフィスを後にする。
去り際に、受付嬢と話し終えたメグがテーブルに戻った来た。軽く振った手を下ろし、南護はその頼りない背を一瞥する。
今回の依頼で自信を付けてくれれば良い、と。
●
早朝、ノワと雪都は今にも崩れそうな古い屋敷の前に来ていた。
「――でも、メグさんにはひーちゃんっていう、素敵なお守りがあるのできっと大丈夫ですよね」
ノワがポケットから取り出した鉱石を朝日に翳す。メグに渡そうか迷った小さな石。
ひーちゃんと呼ばれる緑の精霊の由来はヒスイ、すごい力を持った石だとノワは満面の笑みで雪都を見上げた。
それはメグのお守りには十分だと言う様に、きらりと陽光に輝いた鉱石をポケットに仕舞い、マスクと軍手を着ける。
「すごい力?」
聞いたことがあっただろうかと雪都は首を傾がせながら、軍手を着けた手でライトを灯す。
マスクに遮られてくぐもる声が隣で応えることには、穏やかに、そして、彼女が高く羽ばたけるように。
「……いい、お守りだな」
お守り、胸裏で反復しノワを見る。硝子の奥で静謐なブラウンが温かな笑みを映した。
雪都にとって、お守りのような人。大切な友人。
開かれた廃屋の扉、割れた窓から差す日は十分とは言えず、頼りない光りのなか積もった埃が舞い上がる。
マスクをしていて尚咳き込みそうな光景と、獣の臭い。
「野良犬が出た時はそっと追い出しましょう。叩いたりしたら駄目ですよ」
忠告するように言って、先に踏み込むノワの足元を雪都のライトが照らした。
「雪都さんも、足元気をつけてくださ……ひゃあ?!」
ノワが雪都を振り返ると、その足が乗った床が割れる。軋んだ木の音に驚いて引いた足が、埃の中、絨毯に紛れた様にコートを被って転がっていたハンガーラックに乗って大きくバランスを崩した。
「ノワ!」
「……いたぁ……はい、こうなるので、気を付けて下さい!」
雪都の慌てた声が響く中、ぽんと軽く尻餅をついて。
見上げながら笑って見せると、雪都もほっと深い溜息を吐く。
服の埃を払って、荷物を運び出してしまおうと、先ずは転ばされたばかりのハンガーラックを掴んで担いだ。
雪都もライトの光を周囲に向ける。野良犬の姿は今のところはまだ見えない。
追い出すのに使えるだろうと、壊れた家具に紛れた箒を拾って立て掛けておく。
コボルトが出るという街へ向かうのだからと、ヴァイスはメグに装備の点検を勧める。
ヴァイスの言葉に頷いて、メグはローブが綻んでいないかと、ロッドに傷がないかと検める。
「あの子が心配なのか?」
ヴァイスが尋ねると、その手を止めて頷いた。
「それなら、マーガレット自身の手で返すんだ」
約束しよう。ヴァイスの言葉にメグは杖を握り締めて頷いた。
ヴァイスとカリアナ、メグの3人で公園に向かった。
「んー。風で動くってことはないでしょうし」
公園を見回しながら例え転がっても近くの木に引っ掛かりそうだ。
昼下がりの公園には遊んでいる子どもや、談笑している住人の姿がある。
遊具や植え込みの影、ゴミ箱やベンチを見回ったカリアナが、彼等の方へと駆け寄っていく。
「あ! あのねあのね。人形を探しているんだけど……」
情報を集めようとするカリアナの姿を見詰めるメグが震えた。
促す様にヴァイスの手が背を押す。
一歩踏み出すと、メグも人形の目撃者を捜しに向かった。
「……いつから無かったんだ」
陽差しを仰ぎヴァイスは呟く。人形が置かれた夕方から確認された翌日の昼まで。持ち去られたのは夜か、或いは朝か。
先ずはその情報収集からだと公園を歩き、植え込みの影に見付けた獣の足跡を見下ろして足を止めた。
2人に伝えた方が良いだろうかと振り返る。
既に話を聞き終えたらしいカリアナが、心配そうにメグの様子を見守っていた。
済まなそうに首を横に振った老人に何度も頭を下げてメグが戻って来る。
「……犬が咥えて持ってっちゃったのかしら」
人形を持ち去った人間の目撃情報は無かったが、カリアナはゴミ箱を振り返り呟いた。その日も、ゴミ箱が荒らされていたらしい。おそらくは、ヴァイスの見付けた足跡の主に。
犯人は、人間ではないのだろう。
人形が置かれていたはずの朝にも公園にいたという老人が見ていないとメグが告げると、ヴァイスは少し考えてから頷いた。
夜間の他の被害が見付かるかも知れない。それから足跡を追って情報収集を続けよう。
3人は公園を出て走り出した。
日が落ちるのを待ってファリスと南護は街へ出る。
街並みの中はぐれないように、ライトの明かりを走らせて、警戒しながら被害の多い場所へと急ぐ。
気配を感じファリスの前へ走り込んで足を止め、柄を握るのと鯉口を切ったのは同時。
片紅の双眸が影に潜む獣の息遣いを睨む。
「南護炎、行くぜ!」
モーターの駆動する振動が手に伝わる。ファリスがライトを翳す影、軒から飛び出してきたコボルトへ唸るような音を響かせ斬り掛かった。
「こっちは眠らせるの」
ヤドリギの杖を掲げる。
ファリスの身体を光りが包み、背に3対の翼の幻影が羽ばたいて柔らかな羽を舞わせる。
夜に映える白い羽を背負い、杖を振り翳すと、その先にいた数匹のコボルトがぱたりと倒れた。
次の敵へ構える南護の背後から援護するように周囲を見回す。
こちらを囲むように覗う気配は少なくないが、その内の数匹が離れる足音を聞いた。
「……ここで逃したら、また悪さをするの」
ファリスは逃走を図るコボルトへ雷を走らせる。
その背後で南護に腕を飛ばされたコボルトがぱたりと倒れた。
「コボルトめ! 逃がしはしない!」
モーターに刃を震わせて一瞬のうちに血糊は濯がれる。
果敢にも振り回して向かった来る棍棒を鋼の刀身にいなして、その衝撃を受け流す。接近しているその敵の腹を、攻撃を流した構えからの逆袈裟に刈り飛ばし、まだ残っている敵の気配に眉を寄せた。
「きちんと全部退治しておかないといけないの」
敵の得物の至らぬ距離から雷を放つファリスも、攻撃の手を緩めることはない。
集まっていた敵が片付くと、周囲を見回す。
ライトの光の届く限り、動いているコボルトはいないようだ。
しかし、目撃されている数にはいくらか足りない。まだ潜んでいるのだろう。
追うかと南護が探る。頬に掠めた風の乱れと、僅かに砂を撫でる音を聞いた。
「そんな見え透いた手に乗るかよ」
眠り倒れていたコボルトの内の1匹がひっそりと起き出して、闇の中に爛爛と光る目で南護を狙っていた。
振り返り一刀に、ファリスも次は眠らせるには留めずに攻撃を放った。
●
粗方の家具を運び出し、西日の眩しさに目を細めたノワと雪都。
幸い野良犬は出なかった、幽霊というのも噂だろうとほっとしたところ、最後の箪笥からかさこそと物音を聞いた。
割れた裏板から獣の毛が覗いている。
追い出そうと箪笥を叩いても逃げ出す様子は無い。
箪笥を残して片付けを終えると既に夜。仕方ない、と、裏板に手を掛けるとそこから覗いたのはコボルトの手。
「――コボルトです、雪都さん!」
「大丈夫、構えて、ノワ」
肩に双子の幻影を囀らせ、雪都は符を操って光を放つ。
脅かされて飛び出して来たコボルトを、ノワが左右の毛束を跳ねさせながら、太刀打を握り間合いを詰めた長柄で斬り飛ばした。
迫る日没に3人は走る。
夜間の被害はコボルトの出没場所と重なり、何かを咥えて走るそれらしき姿の証言が幾つも集まった。
人形も恐らく公園まで脚を伸ばしたコボルトが持ち去ったのだろうと確信に近い物を得る。
走り去った方角を尋ねてコボルトの動向を追うと、やがてそれは廃屋へ向かっていった。
夜の街を走りながら、ヴァイスとカリアナは備えるように得物を構えた。
杖を握りながら不安そうにするメグに、カリアナは平気だと笑顔を見せる。
「これから慣れればいいと思うわ。私だって、怖いもの」
「点検はしたよな?」
人形、返すんだろうとヴァイスがメグの杖を示す。
メグが頷くのを見て廃屋の門を開ける。飛び出してきたコボルトをカリアナが眠らせ、ヴァイスが踏み込んで斬りつけた。
「おいこら! 逃げんじゃねえよ」
コボルトがまた1匹廃屋に現れると、それを追ってきた南護の刀が背後から斬り倒した。
「……ここが、巣だったみたいなの。皆さん無事で良かったの」
続いてファリスも倒れているコボルトと、開けられた箪笥を見てほっと息を吐いた。
まだどこからか戻って来るものがいるかも知れない。
もう暫くここで警戒する必要があると走って来た道を振り返り、遠い足音にも警戒を続ける。そう経たずに巣へ戻ってきたコボルトがハンター達の前に現れた。
南護が刀を構え直して斬り掛かっていく。
「オラオラ! 行くぜ! 行くぜ!」
「ここなら巻き込まないから、……眠ってもらうの。通さないの」
ファリスが杖を振り翳し、南護の隙を抜け後方のハンター達に向かおうとするコボルトを眠らせ、倒れたコボルトを狙って確実に仕留める氷の矢を落とす。
庇われるように後退したメグも杖を握り締めて構えを保っている。
終わってから守られていたことに気付いて頭を下げると、カリアナは何でも無いと手を振って、これからだってと微笑んだ。
カリアナに向けるメグの憧憬の目に気付いて南護は苦笑いを。
「確かに、今すぐに理想のハンターになるのは難しいさ」
頷くメグは杖を握り締めて俯いている。
「けど努力を怠らなければいずれは理想のハンターになれるはずさ、応援してるぜ」
驚いた様に顔を上げて瞠る目に、南護は口角を上げて見せた。
抱きかかえるように杖を下ろしたファリスも傍に、メグの顔を見てにこりと穏やかに微笑んだ。
「お仕事を終わらせた後に依頼人さんから掛けて貰える労いの言葉はファリスの励みになっているの」
思い出す様に紡がれる言葉が静かに響いた。
「だから、メグ姉様もひとつひとつ積み上げていくと良いと思うの」
長くその言葉を噛み締めるように黙ってメグは、はいと頷いた。
戦いが終わった廃屋の庭。運んでしまおうと箪笥を傾けると、様々なガラクタが零れてきた。作物の蔓や動物の骨、潰れた空き箱に空き缶、それらに紛れて噛み跡の付いた人形が見付かった。
土埃を払い、依頼の特徴と照らしながら取れ掛かったボタンやリボンに溜息を吐いた。
日が昇って、可能な限り汚れを落とした人形を依頼人の少女に返す。
依頼を共にした3人が状況や状態への言葉を発する前に、少女は、おかえりなさい、と泣きそうな笑顔で人形を抱き締めた。
依頼結果
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面白かった! | 8人 |
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相談卓 ヴァイス・エリダヌス(ka0364) 人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/04/25 21:16:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/23 23:53:36 |