ゲスト
(ka0000)
【哀像】光と闇の錬金術師たち
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/27 07:30
- 完成日
- 2017/05/07 13:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
機導戦艦メアヴァイパー。それは帝国軍と錬魔院が協力して製造した巨大新造戦艦だ。
「……何故私が……」
メアヴァイパーの甲板で不満そうな面持ちで海を眺める黒髪の青年――ヘイアンがいた。
彼はこれから新型魔導アーマー『プラヴァー』に乗って出撃する。
その出撃先は剣機博士がいると言われる島で、出撃は彼の上司であるブリジッタ・ビットマン(kz0119)の差し金だった。
「まーだそんなこと言ってるのよさ? あんたはあたしの助手なのよ。助手は言うこと聞くのが当たり前なのよ!」
そう両手を腰に当てて仁王立ちするブリジッタは、出港の数時間前にふらりと姿を消した。そして再び姿を現した時、突然プラヴァーを持ってメアヴァイパーに乗り込むと言い出したのだ。
「お言葉ですが博士。私は錬金術を滅ぼそうとする者です。その様な者に博士の大事な機体を預けて良いのですか?」
「あたしは錬金術が好きなのよ。だからあんたの気持ちはまーったくわからないのよ。よって、あたしはあたしの好きに従って進むのよさ!」
「あの……まったく意味が分かりません……」
「ニュアンスでわかれなのよ!」
そう言って笑った彼女の顔に、ヘイアンはなんとも言い難い表情で目を細めた。
●時は遡る――
錬金術師組合の近くにあるBarで、ブリジッタはリーゼロッテと顔を合わせていた。
「錬金術を憎む錬金術師、ですか……」
「そうなのよ。根暗は錬金術が原因で家族を亡くしてるのらしいのよさ。そんで捻くれちゃったらしいのよ~」
ぼやくようにミルクを飲むブリジッタに、リーゼロッテは思案気に視線を落とす。
幼い頃に家族を亡くした錬金術師。それはリーゼロッテやブリジッタ、ナサニエルも同じだ。
彼女達はそれぞれ違う理由で錬金術を極めて今の場所に辿り着いた。そしてヘイアンも皆と異なる理由でこの場所へと辿り着いた。その姿はまるで、
「……ナサ君みたい」
思わず零れた声にブリジッタの首が傾げられる。それに少し苦笑すると、リーゼロッテは今思ったことを語り始めた。
「……ナサニエル院長は今でこそ何を考えているのかよくわからないのですが……はじめて顔を合わせた時は、とても素直でただ錬金術が大好きな男の子だったんです」
リーゼロッテが錬金術に興味を持ち始めたのはナサニエルが見せてくれた魔導機械があったから。彼が見せる機導術はまるで魔法の様で、キラキラと輝く夢の世界だった。
けれど彼の心や技は年齢と共に変わってゆき、今では錬金術だけを極める事だけが心を満たす方法となった。そしてそれはヘイアンも同じだろう。
「ボイン?」
思考に沈みかけるリーゼロッテを引き戻したブリジッタは、何を隠しているのかと唇を尖らせている。
「ごめんなさい。そう言えば、ナサニエル院長は剣機博士がいると言う島に行くのですよね? 実は私も同行しようかと思ってるんです」
「は? 何でボインまで行くのよさ。あそこはちょー危険なのよ?」
「わかってはいますが、ナサニエル院長は剣機博士が先代のラプンツェルではないかと考えていると思うんです……だから」
「それがどうしたのよさ?」
そう。これが普通の反応だ。
そしてリーゼロッテにはこれ以上のことは言えない。そもそも憶測の段階で口にする事は出来ない内容だ。
――ナサニエルが先代院長を殺したかもしれないから。などと……。
「……心配なんです……」
一度は勝手な憶測で距離を取った仲だが、それでも放っておく事は出来ない。
そう視線を伏せたリーゼロッテに「う~ん」と言う声が聞こえてくる。
「なんだかよくわからないのよ。根暗もボインもワカメも、難しいことばっかり考えて肝心なところが抜け落ちてるのよさ」
一気にミルクを飲み干したブリジッタは、勢いよくグラスを置くと身を乗り出すようにしてリーゼロッテを見た。
「ここはあたしにドーンッと任せて、ボインはここで大人しく待ってるのよさ!」
「え? でも……」
「あたしにはプラヴァーがあるから、だーいじょうぶ! ワカメは無事にボインの元に帰してやるのよさ!」
そう啖呵を切ったブリジッタにリーゼロッテの目が瞬かれる。
ヤンに連れられて再会した時、ブリジッタは研究だけに没頭して周りとの協調性が全くなかった。そんな彼女が、今では誰かの為に手を貸すまでに成長している。
その事実にリーゼロッテは微笑み、グラスの残りを飲み干した。
●それぞれの想い
メアヴァイパーで島に上陸したハンターを待ち受けていたのはつい先日も対峙したばかりの歪虚、タイラント・キヨモリとタムレッド・マリアーディことタマだ。
「今回はなんだかよくわからないが、行けと言われたので来たぞ!」
「強化、シテモラッタお礼、ダヨ?」
そう言ったキヨモリの腕には、前回無かったはずのガトリング砲が付けられている。
彼は銃口を周囲の岩に向けると、ランダムに撃ち始めた。
そこへプラヴァーを装着したヘイアンが到着する。彼はガトリングの影響で飛んでくる大小さまざまな岩に気付くと、事前に教わっていたスキルの起動して進軍を開始した。
「地形プログラム起動……!」
発動させたスキルは悪路走行の難易度を柔和するプログラムだ。
プラヴァーは元々の悪路である砂浜を平地同様の速度で走行すると、難なく障害物を避けて進んでゆく。
「これがプラヴァーですかぁ~」
感心したように声を零すのはメアヴァイパーに同乗していたナサニエルだ。その声を耳にブリジッタが声を上げる。
「根暗ー! プラヴァーで障害物を排除して一気にアホを片付けろー!」
「一気にって……無茶ですよ」
若干汗を滴らせ、ヘイアンの口から苦笑が漏れる。
そもそも敵はタマとキヨモリだけではない。何処からかともなく溢れだしたゾンビも障害物の一部なのだから。
「手伝いましょうか~?」
「ワカメは危ないから後ろで見てるのよさ!」
「そうは言っても。私も自分にとって~避けられない過去を確かめに行きたいので~、あの人たち邪魔なんですよね~」
避けられない過去。その言葉にブリジッタの目が戻って来た。
「……それを確かめたら、ワカメはまた楽しく機導術を研究できるのよさ?」
「楽しくですか~? 考えた事もなかったですね~」
でも~。そう言葉を切ったナサニエルは、ゾンビたちの先に在る道へ視線を止める。そして――
「たぶん見て来ないと前に進めないでしょうね」
求める真実があるなら変われる可能性はある。そう零したナサニエルにブリジッタの手が打たれた。
「なーらいってこーい!」
マジかよ! そう周囲から声が響くが関係ない。
「うだうだ考えるから楽しくないのよ! ここらの敵は引き受けるから、ワカメはさっさと過去とやらをふり切ってこーい!」
ブリジッタはそう叫んでメアヴァイパーに同乗していたハンター達に、プラヴァーに乗るヘイアンの支援と、ワカメことナサニエルの支援を要請した。
「……何故私が……」
メアヴァイパーの甲板で不満そうな面持ちで海を眺める黒髪の青年――ヘイアンがいた。
彼はこれから新型魔導アーマー『プラヴァー』に乗って出撃する。
その出撃先は剣機博士がいると言われる島で、出撃は彼の上司であるブリジッタ・ビットマン(kz0119)の差し金だった。
「まーだそんなこと言ってるのよさ? あんたはあたしの助手なのよ。助手は言うこと聞くのが当たり前なのよ!」
そう両手を腰に当てて仁王立ちするブリジッタは、出港の数時間前にふらりと姿を消した。そして再び姿を現した時、突然プラヴァーを持ってメアヴァイパーに乗り込むと言い出したのだ。
「お言葉ですが博士。私は錬金術を滅ぼそうとする者です。その様な者に博士の大事な機体を預けて良いのですか?」
「あたしは錬金術が好きなのよ。だからあんたの気持ちはまーったくわからないのよ。よって、あたしはあたしの好きに従って進むのよさ!」
「あの……まったく意味が分かりません……」
「ニュアンスでわかれなのよ!」
そう言って笑った彼女の顔に、ヘイアンはなんとも言い難い表情で目を細めた。
●時は遡る――
錬金術師組合の近くにあるBarで、ブリジッタはリーゼロッテと顔を合わせていた。
「錬金術を憎む錬金術師、ですか……」
「そうなのよ。根暗は錬金術が原因で家族を亡くしてるのらしいのよさ。そんで捻くれちゃったらしいのよ~」
ぼやくようにミルクを飲むブリジッタに、リーゼロッテは思案気に視線を落とす。
幼い頃に家族を亡くした錬金術師。それはリーゼロッテやブリジッタ、ナサニエルも同じだ。
彼女達はそれぞれ違う理由で錬金術を極めて今の場所に辿り着いた。そしてヘイアンも皆と異なる理由でこの場所へと辿り着いた。その姿はまるで、
「……ナサ君みたい」
思わず零れた声にブリジッタの首が傾げられる。それに少し苦笑すると、リーゼロッテは今思ったことを語り始めた。
「……ナサニエル院長は今でこそ何を考えているのかよくわからないのですが……はじめて顔を合わせた時は、とても素直でただ錬金術が大好きな男の子だったんです」
リーゼロッテが錬金術に興味を持ち始めたのはナサニエルが見せてくれた魔導機械があったから。彼が見せる機導術はまるで魔法の様で、キラキラと輝く夢の世界だった。
けれど彼の心や技は年齢と共に変わってゆき、今では錬金術だけを極める事だけが心を満たす方法となった。そしてそれはヘイアンも同じだろう。
「ボイン?」
思考に沈みかけるリーゼロッテを引き戻したブリジッタは、何を隠しているのかと唇を尖らせている。
「ごめんなさい。そう言えば、ナサニエル院長は剣機博士がいると言う島に行くのですよね? 実は私も同行しようかと思ってるんです」
「は? 何でボインまで行くのよさ。あそこはちょー危険なのよ?」
「わかってはいますが、ナサニエル院長は剣機博士が先代のラプンツェルではないかと考えていると思うんです……だから」
「それがどうしたのよさ?」
そう。これが普通の反応だ。
そしてリーゼロッテにはこれ以上のことは言えない。そもそも憶測の段階で口にする事は出来ない内容だ。
――ナサニエルが先代院長を殺したかもしれないから。などと……。
「……心配なんです……」
一度は勝手な憶測で距離を取った仲だが、それでも放っておく事は出来ない。
そう視線を伏せたリーゼロッテに「う~ん」と言う声が聞こえてくる。
「なんだかよくわからないのよ。根暗もボインもワカメも、難しいことばっかり考えて肝心なところが抜け落ちてるのよさ」
一気にミルクを飲み干したブリジッタは、勢いよくグラスを置くと身を乗り出すようにしてリーゼロッテを見た。
「ここはあたしにドーンッと任せて、ボインはここで大人しく待ってるのよさ!」
「え? でも……」
「あたしにはプラヴァーがあるから、だーいじょうぶ! ワカメは無事にボインの元に帰してやるのよさ!」
そう啖呵を切ったブリジッタにリーゼロッテの目が瞬かれる。
ヤンに連れられて再会した時、ブリジッタは研究だけに没頭して周りとの協調性が全くなかった。そんな彼女が、今では誰かの為に手を貸すまでに成長している。
その事実にリーゼロッテは微笑み、グラスの残りを飲み干した。
●それぞれの想い
メアヴァイパーで島に上陸したハンターを待ち受けていたのはつい先日も対峙したばかりの歪虚、タイラント・キヨモリとタムレッド・マリアーディことタマだ。
「今回はなんだかよくわからないが、行けと言われたので来たぞ!」
「強化、シテモラッタお礼、ダヨ?」
そう言ったキヨモリの腕には、前回無かったはずのガトリング砲が付けられている。
彼は銃口を周囲の岩に向けると、ランダムに撃ち始めた。
そこへプラヴァーを装着したヘイアンが到着する。彼はガトリングの影響で飛んでくる大小さまざまな岩に気付くと、事前に教わっていたスキルの起動して進軍を開始した。
「地形プログラム起動……!」
発動させたスキルは悪路走行の難易度を柔和するプログラムだ。
プラヴァーは元々の悪路である砂浜を平地同様の速度で走行すると、難なく障害物を避けて進んでゆく。
「これがプラヴァーですかぁ~」
感心したように声を零すのはメアヴァイパーに同乗していたナサニエルだ。その声を耳にブリジッタが声を上げる。
「根暗ー! プラヴァーで障害物を排除して一気にアホを片付けろー!」
「一気にって……無茶ですよ」
若干汗を滴らせ、ヘイアンの口から苦笑が漏れる。
そもそも敵はタマとキヨモリだけではない。何処からかともなく溢れだしたゾンビも障害物の一部なのだから。
「手伝いましょうか~?」
「ワカメは危ないから後ろで見てるのよさ!」
「そうは言っても。私も自分にとって~避けられない過去を確かめに行きたいので~、あの人たち邪魔なんですよね~」
避けられない過去。その言葉にブリジッタの目が戻って来た。
「……それを確かめたら、ワカメはまた楽しく機導術を研究できるのよさ?」
「楽しくですか~? 考えた事もなかったですね~」
でも~。そう言葉を切ったナサニエルは、ゾンビたちの先に在る道へ視線を止める。そして――
「たぶん見て来ないと前に進めないでしょうね」
求める真実があるなら変われる可能性はある。そう零したナサニエルにブリジッタの手が打たれた。
「なーらいってこーい!」
マジかよ! そう周囲から声が響くが関係ない。
「うだうだ考えるから楽しくないのよ! ここらの敵は引き受けるから、ワカメはさっさと過去とやらをふり切ってこーい!」
ブリジッタはそう叫んでメアヴァイパーに同乗していたハンター達に、プラヴァーに乗るヘイアンの支援と、ワカメことナサニエルの支援を要請した。
リプレイ本文
砂浜に響くバイクの音を耳に、機導戦艦メアヴァイパーの甲板で身を乗り出したブリジッタは叫んだ。
「あんたたち、なにしてるのよさーッ!」
視界に映るプラヴァーとそれをサポートするハンター。
彼ら内数名は砂浜を自由に動くプラヴァーに追い付く為に魔導バイクでの出陣を選んだ。
本来であれば機動力のあるバイクは有効な選択肢だ。けれど今回は砂浜での出陣。普段のように自由に運転するという訳にはいかず――
「何だ。思った以上にハンドルが……!」
「面倒くせぇ戦場だな……って、おい! 無理に動かすな!」
声を上げた柊 恭也(ka0711)の目の前でレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)のバイクが傾く。そして次の瞬間、彼の機体は砂埃を上げて地面に倒れ込んだ。
「ああー! 本当になにしてるのよさっ」
思わず頭を抱えたブリジッタは、バイクが砂浜を走行するのにかなりの運転技術が必要なのを知っている。
「根暗! ハンターを支援するのよ!」
トランシーバーを使って指示を飛ばすブリジッタにヘイアンの軌道が修正される。
彼は地形プログラムを使って砂浜を移動すると、倒れたレオーネ目掛けて銃弾を放つ歪虚の前に立った。
「お前、何でここに!」
正面から弾を受けて立ち塞がる機体にレオーネの眉が寄る。だが次の瞬間、彼の視界に別の光が飛び込んで来てそれを受け止めた音と存在に息を呑んだ。
「守原さん!」
「……最悪、乗り捨てるのも視野に入れた方が良い」
守原 有希遥(ka4729)はそう語ると受け止めた刃を振り払う様に前に出た。
斬撃と共に崩れる歪虚を視界に彼の目が飛ぶ。
「悪いな……」
改めて見回した戦場は状況的に思わしくない。
レオーネと共に砂浜を駆けていた柊は現在も砂浜を走行中。彼が騎乗するバイクはモトクロスタイプでレオーネが騎乗していた機体よりは優位に進軍している。だがそれも時間の問題だろう。
「岩が、邪魔過ぎる!」
本来であれば最速で敵の親玉に接近する予定だった。
だが行く手を阻む岩とそこに潜む歪虚が狙い通りに進軍を許してくれない。
「これでは速度不足により走行は不可能。徒歩へ移行する」
他の面々同様に魔導バイクで進軍を開始していた白山 菊理(ka4305)はそう宣言すると徒歩での進軍を開始した。そんな彼女の目に思わぬものが飛び込んでくる。
「これは少しマズイですよ」とは水城もなか(ka3532)談だ。
彼女は先行する柊に徒歩でついて行き、岩陰に隠れる歪虚の対処を中心に行う筈だった。
しかし戦場は予想外に荒れた。その為、彼女が行うべきだった撹乱も思うように進まない。それどころか敵の位置が予想よりも僅かにずれている。
「戦場が下がってきてる?」
異変に気付いた八島 陽(ka1442)が魔導拳銃を手に周囲を見回す。
確か戦艦から降りた時、敵の姿はもっと遠くに在ったはずだ。それが気付けば間近まで迫っている。その原因は何なのか。
そう思案した彼の耳に轟音にも近い銃声が響いた。
「キヨモリ、そのまま前へ進めー!」
ガトリング砲を放ちながら進軍してくるのはタムレッドことタマだ。
彼らの目的は未だ不明。予想では戦艦の攻撃、もしくはハンターの妨害と言ったところだろう。つまりこの戦場をかき乱す事が彼らの目的だとするならば――
「ふむ。ただ頭が悪い訳でもないらしいのう」
戦馬の手綱を引き蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が目を細める。そして馬の脇を叩き上げると一気に加速した。
彼女は迫りくる歪虚の防衛で手一杯のレオーネたちの所へ向かっている。あのままでは折角の新型魔導アーマーが台無しになってしまうからだ。
「少しだけ時間を稼ぎます。その間にどうか道を」
不意に通り過ぎた風に蜜鈴の目が動く。その目が捉えたのは同じく戦馬で砂浜を駆ける天竜寺 詩(ka0396)だ。
彼女は祈りを込めるように息を吸い――
「――祈りの歌よ。死しても尚彷徨う魂に安息を」
唇から零れた美しき鎮魂歌。それらが活発に動く歪虚へと響くと、蜜鈴の持つ短剣も淡く光り始める。
「うむ。なかなかに良き声音じゃな。それでは妾も……生ける屍となろうとも、想い紡いだ愛し子に違いは無い。なれば紅蓮の魔女の炎の腕で、抱き留めてやろう」
彼女が紡ぐのも想いの力。
力は赤い蕾を模り蜜鈴の前に姿を現す。そうして馬の足が止まると、彼女の口角が上がった。
「舞うは炎舞、散るは徒花、さぁ、華麗に舞い散れ!」
蕾が開き、炎の華が舞い踊る。花弁は詩のレクイエムによって動きを鈍らせていた敵を包み込み、炭へといざなってゆく。そして彼女が技を放った一角を1つの空間に変えると、詩と蜜鈴は離れていた仲間と合流を果たした。
●遅れた反撃
戦闘開始直後の僅かな乱れは、本来送るべきではなかった場所へ敵を送り出す結果となった。その1つが魔導戦艦メアヴァイパーである。
「それ以上の進軍は許可出来ない」
菊理はアルテミスソードを弓状に変化させて一矢を放った。
戦艦へ接近を果たした敵は2体。未だに距離はあるものの、このまま放置すれば戦艦へ足を踏み入れる可能性もある。
「軌道を予測。進行方向に向けて」
「いや、その必要はないよ。オレが抑え込むから、その隙に攻撃してくれるかな?」
1人で現状を打破しようとしていた菊理を援護すべく陽が到着した。
そもそも何故菊理が戦艦を襲撃しようとする歪虚に気付けたのか。
それは彼女が戦艦周囲を気にしていたからに他ならない。そしてそんな彼女の行動を受けて陽もまた敵の存在に気付くことが出来た。
彼は戦馬を駆って砂浜を抜けると、戦艦の間合いに飛び込もうとする歪虚の間に滑り込んだ。そして手綱を引き上げて馬に嘶きを上げさせることで注意を惹き、手にしていた剣を振り上げた。
「お前たちを相手にしている暇はないんだ!」
切り裂き、自分に注意を向かせて走り出し、その姿を見ていた菊理が動く。
何も番えていない弦を引き、意識を集中させ、マテリアルの矢を出現させる。そうしてギリギリまで引き上げると、一気に放った。
矢は炎へと変化して扇状に広がってゆき、陽を追い掛ける歪虚に辿り着く。そして彼らに貪りつくように渦を巻いて燃え上がり姿を消した。
「これでなんとか……」
「いや、少数だが向こうへ行ってしまった」
胸を撫で下ろす陽に近付き、菊理が難しい顔で島の奥へと続く道を睨む。
その表情に目を見開いた陽は、続いて聞こえて来た爆音にハッと顔を上げた。
●タマキヨ攻略
「ゾンビがナサニエルさんの方へ!?」
「少数らしいですが……」
もなかの報告に驚きを隠せない詩。彼女は祈るように胸の前で手を組むと、キッと眉を上げてタマを睨み付けた。
「またしてもタマキヨ……!」
何度目の遭遇だろうか。いい加減そろそろ如何にかしたい頃合いだが、どう見てみキヨモリは前回よりもパワーアップしている。しかもタマの周りには警戒するように複数のゾンビも見える。
「ヘイアンさん。私、またレクイエムを歌いますから、その隙に範囲攻撃でゾンビを蹴散らしてくれませんか?」
「レディ? 貴女は私のご存じの筈。私にその様な事を願い出て言うことを聞く謂れが」
「大丈夫ですよ」
にっこり笑った詩にヘイアンの眉が動く。
「ブリちゃんがあなたを乗せたのはあなたを信じているから。だったら私はあなたを信じたブリちゃんを信じてあなたを信じる! あなたはプラヴァーを使って私たちを助けてくれるんだよ!」
詩は自信をもってそう返すと、睨むようにヘイアンを見るレオーネを振り返った。
その視線に彼の目が逸らされる。
「俺は……いや、思う所はありすぎだけど。まずはお互い、為すべきを為そうぜ!」
今為すべき事はこの戦場を生き抜くこと。そしてブリジッタの願いを叶える事だ。
レオーネは逸らした目を戻すと、キヨモリを指差してニッと笑った。そこに無数の弾丸が降り注ぐ。
「そろそろ反撃したいんだけどなぁ!!」
岩場に身を顰めた柊の声に3人が顔を見合わせると詩の歌声が響き始めた。
彼女の奏でる歌は音が届く範囲に存在する歪虚にほぼ効いている印象がある。その証拠に柊が潜む岩場に気付いた歪虚が攻撃に転じようとした瞬間動きを止めた。
「よし、これならいける!」
飛び出した柊がキヨモリ目掛けて駆け出す。
それに合わせるように動ける歪虚が一斉に立ち塞がるが、反撃に動き始めたハンターは強い。
「イカロスブレイカーの威力を見せてやれ!」
「魔導エンジン出力最大。軌道上の敵殲滅に移行する」
レオーネの声に脚部のローラーにマテリアルエネルギーがオーラとなって集まってくる。その姿はまるで翼を宿した騎士――そう、渡り鳥の騎士だ。
有希遥はプラヴァーの雄姿を目に焼き付け、踏み込んできた敵に向かって二刀の刃を抜いた。
斬撃と同時に倒れた敵。それとほぼ同時に飛び出したプラヴァーが直線状の敵を打ち払う。そして最初の障害に触れた直後、
「ぬあああああああ!!!」
ブリジッタの絶叫にレオーネが口をガン開きにする。それは有希遥も同じ気持ちで、あまりの出来事に柊ですら動きを止めてしまった程だ。
「呆けている場合ではないぞ。今ならばまだ行ける!」
追撃を指示する蜜鈴の目の前で、プラヴァーは岩にぶつかって動きを停止している。予定では岩を粉砕してさらに直線状の敵を倒す予定だった。
だが出力の問題なのか、運なのか、岩を1つも壊すことなくプラヴァーは停止した。それはブリジッタも予想外だったらしく、わなわなと震えているので意図した結果でない事だけは確かだろう。
ともかく!
「ちょっとだけだけど道は出来た!」
そう、ちょっとだけだけど道は出来た! 柊の声に気を取り直した面々は詩のレクイエムが効いている間に反撃を強める。
「キィィヨモリクゥゥゥン! 俺と一緒にあーそーぼー!」
喜々として飛び出した柊を援護するように蜜鈴の炎が火を噴く。そして彼の行く手を阻む存在を消し去り接近まであと僅か、と言う所でキヨモリのガトリング砲が彼らを捉えた。
「そのガトリング砲、ちょーっと邪魔だよねー!」
構造が複雑な機械の分、そこを狙って攻撃を見舞ったらどうなるか。
柊は青白い弾丸を込めた銃を手に飛び込むと、蜜鈴に敵の目が行かないよう自らをアピールしながら突撃してゆく。そしてキヨモリの砲撃が開始されるのと、彼の弾丸が火を噴くのはほぼ同時に声が響いた。
「プラヴァー!」「ヘイアン、行けー!」
出力を再び上げたプラヴァーがキヨモリへ突撃する。結果、少しだけガトリング砲の軌道がずれた。しかも軌道がずれた事でガトリング砲の側面に柊の弾が直撃。
弾を振り払うように腕を下ろしたキヨモリへ更にプラヴァーが詰め寄ると、戦況は一気に優位へと運び出した。
「ドンドン撃ち込むよォ!」
柊は更に追い込むべく、ガトリング砲に弾を撃ち込み続ける。そしてプラヴァーもまたキヨモリを押さえ付ける為に前に出る。だが敵とてただ追い込まれるのを待っている訳ではない。
弾丸を撃ち込まれながらもガトリング砲を起動させると、柊目掛けて放った。
「――」
咄嗟に岩場に転がり込んだが左腕と脚に被弾。
隠れ込んだ岩も徐々に削れ始め、絶体絶命の大ピンチ!
「逃げるか、更に撃つか……イチかバチか――」
身を潜めたまま動く機会を窺っていた時、キヨモリのガトリング砲が止まるのを感じた。しかも彼の存在自体も傍から消えている。
「本当に愚図だな。敵の意図も考えず己や相棒の強さを浪費して、無能で愚図以外何だ?」
キヨモリとの攻防の最中、タマに接近を試みていた有希遥は彼を護るように陣を張ったゾンビを見て息を吐く。
仲間がキヨモリに集中し、ゾンビを次々と蹴散らす事の意味。それを司令塔であるはずのタマが理解していないのはあまりに愚鈍だ。そしてそれこそがこのコンビの隙を突く絶好の機会でもある。
「死者玩弄も終幕だ」
飛び出した有希遥の刃が壁となる歪虚を叩き斬る。そしてタマを葬り去るべく更に踏み込んだ彼の背を凄まじい衝撃が襲った。
「タマ、ハ、無能ジャ、なイ」
背やガトリング砲に柊の弾を受けながらタマを守りに来たキヨモリ。彼の言葉に何かを反す間もなく、有希遥の体が吹き飛ばされる。そして彼がタマの前に立ち塞がるのと同時に蜜鈴が雷撃を放った。
「死の安寧を拒む者……生者の光を穿つ者……なれば妾はおんしを抱き留め、冥府へと送ろう――」
幾度となく受けた弾。そして雷撃に装着していたガトリング砲が吹き飛ぶ。
キヨモリはその衝撃からタマを護るべく覆い被さると、彼は小さな声で呟いた。
「……嫌いだ。コイツ等は嫌いだ。嫌いだ嫌いだ嫌いだ」
禍々しい気と共に渦巻く負のマテリアル。それが周囲で動きを止めていた歪虚に纏わりつくと、それらは何かに引き摺られる様にしてタマとキヨモリの元へ集まり始めた。
「亡骸を……全てを消し炭にせねば終わらぬのか!」
慌てて炎で紡ごうとする蜜鈴だが間に合わない。
殆どの歪虚は炎に消えたがそれでも残っていたゾンビを集め、ガトリング砲が消えた場所に新たな腕が出現する。しかもその腕は大きさを増し、やがて巨大な斧へと変じてハンターの前に振り下ろされた。
岩を砕き、砂を巻き上げ、周囲に転がる屍を粉砕して迫る斧に菊理が弓を構える。そして最後の一矢となる炎のエネルギーを番えると、迷いもなく放った。
斧にぶつかって弾け飛ぶ炎。黒く焦げたその姿からダメージ自体は窺える。しかしそれすら一瞬の事で直ぐに彼の傷は回復しているようだった。
「なんてデタラメな……」
もなかは注意深く2人の姿を確認して気付く。
それはキヨモリが回復をするたびに消えてゆくゾンビの姿だ。つまりキヨモリは味方を媒介に回復を果たしている。しかもそれを為しているのはタマの力で、この2人が一緒にいる事こそが最悪なのだとわかる。
「完全に分断しないとダメって訳ね」
タマにべったりなキヨモリの様子を見る限り引き離すのは容易ではないだろう。そしてキヨモリが再び岩を砕く一撃を見舞った直後、彼らはこの場から姿を消した。
砂浜の残る僅かな足跡から察するに彼らは走って逃げたと見て間違いない。それでもそんな彼らを追う気力は、どのハンターにも残されていなかった。
●ヘイアン
「私は……」
錬金術を憎む自分を信じた娘が2人。
1人は魔導アーマーの生みの親ですらある少女で、彼女が自分を許す理由が理解できない。
そしてハンターを助けるべく動いた自分も――
「機導術を滅ぼすとは大きく出たね」
聞こえた声にヘイアンの目が動く。
「俺もその手伝いをさせてもらえないかな?」
「……は?」
「いや、機導術が必要とされない世界って歪虚の活発な活動の終息を意味するからさ」
そう微笑んだ陽にヘイアンは眉間に皺を寄せて彼の顔を見詰めた。
「あんたたち、なにしてるのよさーッ!」
視界に映るプラヴァーとそれをサポートするハンター。
彼ら内数名は砂浜を自由に動くプラヴァーに追い付く為に魔導バイクでの出陣を選んだ。
本来であれば機動力のあるバイクは有効な選択肢だ。けれど今回は砂浜での出陣。普段のように自由に運転するという訳にはいかず――
「何だ。思った以上にハンドルが……!」
「面倒くせぇ戦場だな……って、おい! 無理に動かすな!」
声を上げた柊 恭也(ka0711)の目の前でレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)のバイクが傾く。そして次の瞬間、彼の機体は砂埃を上げて地面に倒れ込んだ。
「ああー! 本当になにしてるのよさっ」
思わず頭を抱えたブリジッタは、バイクが砂浜を走行するのにかなりの運転技術が必要なのを知っている。
「根暗! ハンターを支援するのよ!」
トランシーバーを使って指示を飛ばすブリジッタにヘイアンの軌道が修正される。
彼は地形プログラムを使って砂浜を移動すると、倒れたレオーネ目掛けて銃弾を放つ歪虚の前に立った。
「お前、何でここに!」
正面から弾を受けて立ち塞がる機体にレオーネの眉が寄る。だが次の瞬間、彼の視界に別の光が飛び込んで来てそれを受け止めた音と存在に息を呑んだ。
「守原さん!」
「……最悪、乗り捨てるのも視野に入れた方が良い」
守原 有希遥(ka4729)はそう語ると受け止めた刃を振り払う様に前に出た。
斬撃と共に崩れる歪虚を視界に彼の目が飛ぶ。
「悪いな……」
改めて見回した戦場は状況的に思わしくない。
レオーネと共に砂浜を駆けていた柊は現在も砂浜を走行中。彼が騎乗するバイクはモトクロスタイプでレオーネが騎乗していた機体よりは優位に進軍している。だがそれも時間の問題だろう。
「岩が、邪魔過ぎる!」
本来であれば最速で敵の親玉に接近する予定だった。
だが行く手を阻む岩とそこに潜む歪虚が狙い通りに進軍を許してくれない。
「これでは速度不足により走行は不可能。徒歩へ移行する」
他の面々同様に魔導バイクで進軍を開始していた白山 菊理(ka4305)はそう宣言すると徒歩での進軍を開始した。そんな彼女の目に思わぬものが飛び込んでくる。
「これは少しマズイですよ」とは水城もなか(ka3532)談だ。
彼女は先行する柊に徒歩でついて行き、岩陰に隠れる歪虚の対処を中心に行う筈だった。
しかし戦場は予想外に荒れた。その為、彼女が行うべきだった撹乱も思うように進まない。それどころか敵の位置が予想よりも僅かにずれている。
「戦場が下がってきてる?」
異変に気付いた八島 陽(ka1442)が魔導拳銃を手に周囲を見回す。
確か戦艦から降りた時、敵の姿はもっと遠くに在ったはずだ。それが気付けば間近まで迫っている。その原因は何なのか。
そう思案した彼の耳に轟音にも近い銃声が響いた。
「キヨモリ、そのまま前へ進めー!」
ガトリング砲を放ちながら進軍してくるのはタムレッドことタマだ。
彼らの目的は未だ不明。予想では戦艦の攻撃、もしくはハンターの妨害と言ったところだろう。つまりこの戦場をかき乱す事が彼らの目的だとするならば――
「ふむ。ただ頭が悪い訳でもないらしいのう」
戦馬の手綱を引き蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が目を細める。そして馬の脇を叩き上げると一気に加速した。
彼女は迫りくる歪虚の防衛で手一杯のレオーネたちの所へ向かっている。あのままでは折角の新型魔導アーマーが台無しになってしまうからだ。
「少しだけ時間を稼ぎます。その間にどうか道を」
不意に通り過ぎた風に蜜鈴の目が動く。その目が捉えたのは同じく戦馬で砂浜を駆ける天竜寺 詩(ka0396)だ。
彼女は祈りを込めるように息を吸い――
「――祈りの歌よ。死しても尚彷徨う魂に安息を」
唇から零れた美しき鎮魂歌。それらが活発に動く歪虚へと響くと、蜜鈴の持つ短剣も淡く光り始める。
「うむ。なかなかに良き声音じゃな。それでは妾も……生ける屍となろうとも、想い紡いだ愛し子に違いは無い。なれば紅蓮の魔女の炎の腕で、抱き留めてやろう」
彼女が紡ぐのも想いの力。
力は赤い蕾を模り蜜鈴の前に姿を現す。そうして馬の足が止まると、彼女の口角が上がった。
「舞うは炎舞、散るは徒花、さぁ、華麗に舞い散れ!」
蕾が開き、炎の華が舞い踊る。花弁は詩のレクイエムによって動きを鈍らせていた敵を包み込み、炭へといざなってゆく。そして彼女が技を放った一角を1つの空間に変えると、詩と蜜鈴は離れていた仲間と合流を果たした。
●遅れた反撃
戦闘開始直後の僅かな乱れは、本来送るべきではなかった場所へ敵を送り出す結果となった。その1つが魔導戦艦メアヴァイパーである。
「それ以上の進軍は許可出来ない」
菊理はアルテミスソードを弓状に変化させて一矢を放った。
戦艦へ接近を果たした敵は2体。未だに距離はあるものの、このまま放置すれば戦艦へ足を踏み入れる可能性もある。
「軌道を予測。進行方向に向けて」
「いや、その必要はないよ。オレが抑え込むから、その隙に攻撃してくれるかな?」
1人で現状を打破しようとしていた菊理を援護すべく陽が到着した。
そもそも何故菊理が戦艦を襲撃しようとする歪虚に気付けたのか。
それは彼女が戦艦周囲を気にしていたからに他ならない。そしてそんな彼女の行動を受けて陽もまた敵の存在に気付くことが出来た。
彼は戦馬を駆って砂浜を抜けると、戦艦の間合いに飛び込もうとする歪虚の間に滑り込んだ。そして手綱を引き上げて馬に嘶きを上げさせることで注意を惹き、手にしていた剣を振り上げた。
「お前たちを相手にしている暇はないんだ!」
切り裂き、自分に注意を向かせて走り出し、その姿を見ていた菊理が動く。
何も番えていない弦を引き、意識を集中させ、マテリアルの矢を出現させる。そうしてギリギリまで引き上げると、一気に放った。
矢は炎へと変化して扇状に広がってゆき、陽を追い掛ける歪虚に辿り着く。そして彼らに貪りつくように渦を巻いて燃え上がり姿を消した。
「これでなんとか……」
「いや、少数だが向こうへ行ってしまった」
胸を撫で下ろす陽に近付き、菊理が難しい顔で島の奥へと続く道を睨む。
その表情に目を見開いた陽は、続いて聞こえて来た爆音にハッと顔を上げた。
●タマキヨ攻略
「ゾンビがナサニエルさんの方へ!?」
「少数らしいですが……」
もなかの報告に驚きを隠せない詩。彼女は祈るように胸の前で手を組むと、キッと眉を上げてタマを睨み付けた。
「またしてもタマキヨ……!」
何度目の遭遇だろうか。いい加減そろそろ如何にかしたい頃合いだが、どう見てみキヨモリは前回よりもパワーアップしている。しかもタマの周りには警戒するように複数のゾンビも見える。
「ヘイアンさん。私、またレクイエムを歌いますから、その隙に範囲攻撃でゾンビを蹴散らしてくれませんか?」
「レディ? 貴女は私のご存じの筈。私にその様な事を願い出て言うことを聞く謂れが」
「大丈夫ですよ」
にっこり笑った詩にヘイアンの眉が動く。
「ブリちゃんがあなたを乗せたのはあなたを信じているから。だったら私はあなたを信じたブリちゃんを信じてあなたを信じる! あなたはプラヴァーを使って私たちを助けてくれるんだよ!」
詩は自信をもってそう返すと、睨むようにヘイアンを見るレオーネを振り返った。
その視線に彼の目が逸らされる。
「俺は……いや、思う所はありすぎだけど。まずはお互い、為すべきを為そうぜ!」
今為すべき事はこの戦場を生き抜くこと。そしてブリジッタの願いを叶える事だ。
レオーネは逸らした目を戻すと、キヨモリを指差してニッと笑った。そこに無数の弾丸が降り注ぐ。
「そろそろ反撃したいんだけどなぁ!!」
岩場に身を顰めた柊の声に3人が顔を見合わせると詩の歌声が響き始めた。
彼女の奏でる歌は音が届く範囲に存在する歪虚にほぼ効いている印象がある。その証拠に柊が潜む岩場に気付いた歪虚が攻撃に転じようとした瞬間動きを止めた。
「よし、これならいける!」
飛び出した柊がキヨモリ目掛けて駆け出す。
それに合わせるように動ける歪虚が一斉に立ち塞がるが、反撃に動き始めたハンターは強い。
「イカロスブレイカーの威力を見せてやれ!」
「魔導エンジン出力最大。軌道上の敵殲滅に移行する」
レオーネの声に脚部のローラーにマテリアルエネルギーがオーラとなって集まってくる。その姿はまるで翼を宿した騎士――そう、渡り鳥の騎士だ。
有希遥はプラヴァーの雄姿を目に焼き付け、踏み込んできた敵に向かって二刀の刃を抜いた。
斬撃と同時に倒れた敵。それとほぼ同時に飛び出したプラヴァーが直線状の敵を打ち払う。そして最初の障害に触れた直後、
「ぬあああああああ!!!」
ブリジッタの絶叫にレオーネが口をガン開きにする。それは有希遥も同じ気持ちで、あまりの出来事に柊ですら動きを止めてしまった程だ。
「呆けている場合ではないぞ。今ならばまだ行ける!」
追撃を指示する蜜鈴の目の前で、プラヴァーは岩にぶつかって動きを停止している。予定では岩を粉砕してさらに直線状の敵を倒す予定だった。
だが出力の問題なのか、運なのか、岩を1つも壊すことなくプラヴァーは停止した。それはブリジッタも予想外だったらしく、わなわなと震えているので意図した結果でない事だけは確かだろう。
ともかく!
「ちょっとだけだけど道は出来た!」
そう、ちょっとだけだけど道は出来た! 柊の声に気を取り直した面々は詩のレクイエムが効いている間に反撃を強める。
「キィィヨモリクゥゥゥン! 俺と一緒にあーそーぼー!」
喜々として飛び出した柊を援護するように蜜鈴の炎が火を噴く。そして彼の行く手を阻む存在を消し去り接近まであと僅か、と言う所でキヨモリのガトリング砲が彼らを捉えた。
「そのガトリング砲、ちょーっと邪魔だよねー!」
構造が複雑な機械の分、そこを狙って攻撃を見舞ったらどうなるか。
柊は青白い弾丸を込めた銃を手に飛び込むと、蜜鈴に敵の目が行かないよう自らをアピールしながら突撃してゆく。そしてキヨモリの砲撃が開始されるのと、彼の弾丸が火を噴くのはほぼ同時に声が響いた。
「プラヴァー!」「ヘイアン、行けー!」
出力を再び上げたプラヴァーがキヨモリへ突撃する。結果、少しだけガトリング砲の軌道がずれた。しかも軌道がずれた事でガトリング砲の側面に柊の弾が直撃。
弾を振り払うように腕を下ろしたキヨモリへ更にプラヴァーが詰め寄ると、戦況は一気に優位へと運び出した。
「ドンドン撃ち込むよォ!」
柊は更に追い込むべく、ガトリング砲に弾を撃ち込み続ける。そしてプラヴァーもまたキヨモリを押さえ付ける為に前に出る。だが敵とてただ追い込まれるのを待っている訳ではない。
弾丸を撃ち込まれながらもガトリング砲を起動させると、柊目掛けて放った。
「――」
咄嗟に岩場に転がり込んだが左腕と脚に被弾。
隠れ込んだ岩も徐々に削れ始め、絶体絶命の大ピンチ!
「逃げるか、更に撃つか……イチかバチか――」
身を潜めたまま動く機会を窺っていた時、キヨモリのガトリング砲が止まるのを感じた。しかも彼の存在自体も傍から消えている。
「本当に愚図だな。敵の意図も考えず己や相棒の強さを浪費して、無能で愚図以外何だ?」
キヨモリとの攻防の最中、タマに接近を試みていた有希遥は彼を護るように陣を張ったゾンビを見て息を吐く。
仲間がキヨモリに集中し、ゾンビを次々と蹴散らす事の意味。それを司令塔であるはずのタマが理解していないのはあまりに愚鈍だ。そしてそれこそがこのコンビの隙を突く絶好の機会でもある。
「死者玩弄も終幕だ」
飛び出した有希遥の刃が壁となる歪虚を叩き斬る。そしてタマを葬り去るべく更に踏み込んだ彼の背を凄まじい衝撃が襲った。
「タマ、ハ、無能ジャ、なイ」
背やガトリング砲に柊の弾を受けながらタマを守りに来たキヨモリ。彼の言葉に何かを反す間もなく、有希遥の体が吹き飛ばされる。そして彼がタマの前に立ち塞がるのと同時に蜜鈴が雷撃を放った。
「死の安寧を拒む者……生者の光を穿つ者……なれば妾はおんしを抱き留め、冥府へと送ろう――」
幾度となく受けた弾。そして雷撃に装着していたガトリング砲が吹き飛ぶ。
キヨモリはその衝撃からタマを護るべく覆い被さると、彼は小さな声で呟いた。
「……嫌いだ。コイツ等は嫌いだ。嫌いだ嫌いだ嫌いだ」
禍々しい気と共に渦巻く負のマテリアル。それが周囲で動きを止めていた歪虚に纏わりつくと、それらは何かに引き摺られる様にしてタマとキヨモリの元へ集まり始めた。
「亡骸を……全てを消し炭にせねば終わらぬのか!」
慌てて炎で紡ごうとする蜜鈴だが間に合わない。
殆どの歪虚は炎に消えたがそれでも残っていたゾンビを集め、ガトリング砲が消えた場所に新たな腕が出現する。しかもその腕は大きさを増し、やがて巨大な斧へと変じてハンターの前に振り下ろされた。
岩を砕き、砂を巻き上げ、周囲に転がる屍を粉砕して迫る斧に菊理が弓を構える。そして最後の一矢となる炎のエネルギーを番えると、迷いもなく放った。
斧にぶつかって弾け飛ぶ炎。黒く焦げたその姿からダメージ自体は窺える。しかしそれすら一瞬の事で直ぐに彼の傷は回復しているようだった。
「なんてデタラメな……」
もなかは注意深く2人の姿を確認して気付く。
それはキヨモリが回復をするたびに消えてゆくゾンビの姿だ。つまりキヨモリは味方を媒介に回復を果たしている。しかもそれを為しているのはタマの力で、この2人が一緒にいる事こそが最悪なのだとわかる。
「完全に分断しないとダメって訳ね」
タマにべったりなキヨモリの様子を見る限り引き離すのは容易ではないだろう。そしてキヨモリが再び岩を砕く一撃を見舞った直後、彼らはこの場から姿を消した。
砂浜の残る僅かな足跡から察するに彼らは走って逃げたと見て間違いない。それでもそんな彼らを追う気力は、どのハンターにも残されていなかった。
●ヘイアン
「私は……」
錬金術を憎む自分を信じた娘が2人。
1人は魔導アーマーの生みの親ですらある少女で、彼女が自分を許す理由が理解できない。
そしてハンターを助けるべく動いた自分も――
「機導術を滅ぼすとは大きく出たね」
聞こえた声にヘイアンの目が動く。
「俺もその手伝いをさせてもらえないかな?」
「……は?」
「いや、機導術が必要とされない世界って歪虚の活発な活動の終息を意味するからさ」
そう微笑んだ陽にヘイアンは眉間に皺を寄せて彼の顔を見詰めた。
依頼結果
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MVP一覧
- 黒髪の機導師
白山 菊理(ka4305)
重体一覧
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サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 柊 恭也(ka0711) 人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/04/26 10:49:02 |
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相談卓 柊 恭也(ka0711) 人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/04/27 07:27:45 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/23 21:57:08 |