ゲスト
(ka0000)
【郷祭】恋と勇気とゴブリンと
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/24 19:00
- 完成日
- 2014/11/03 01:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●夜の街道
月のない夜。頼りなげに揺れるカンテラの灯がひとつ、見え隠れしていた。
少し先には篝火が焚かれているが、灯はそれを避けるかのように移動する。
突然、その灯が動かなくなった。
「きゃっ……!」
小さな悲鳴。何かの割れる音。
地面に落ちてカンテラは割れていたが、僅かに残った油に小さな炎が揺れていた。
怯えきった若い娘が、提げたかごをしっかり握りしめたままで立ちすくむ。彼女の視線の先には異形の生き物。
「た、たす、け……」
かすれた声が漏れる。その時だった。
ギャーッ!!
鋭い叫び声と共に異形は素早く飛び退り、そのまま逃げていった。
へなへなとその場に座り込んだ娘の目の前に、大きな手が差し出される。
「怪我はないか?」
「貴方は……」
娘が大きく目を見張った。
●郷祭の会合
自由都市同盟領内、農耕推進地域ジェオルジは恒例の「村長祭」を迎え多くの人で賑わっていた。
だが、領主の館の一番広い部屋は、険呑な空気に満たされている。
並んでいる顔は年配の男性ばかりだ。彼らはジェオルジ内に点在する村の村長たちである。
これが本来の「村長祭」だった。
それぞれの村を纏めるのは村長たちだが、村同士の調整役は領主一族が担っている。年に2回の「村長祭」は、複数の村に関わる問題を話し合う場なのだ。
今年一番揉めているのは、デストラ村とシニストラ村。
「そもそもあのゴブリンが現れたのはお前の村だろう! そちらが責任を持て!」
「何を言うか! あの日の見張りはお前の村の当番だ。わざわざうちの村でゴブリンを斬りおって!!」
それぞれの村長は顔を真っ赤にして怒鳴り合っていた。
ふたつの村は、街道を挟んで隣り合っている。
ここに時折ゴブリンが現れては村の作物を勝手に食い散らかしたり、女性や子供を脅かしたりしていたのだが、秋の収穫シーズンを前に、それぞれの村から若い者を出して見張りを立てていたのだ。
ある夜、街道のデストラ村に近い場所にゴブリンが現れた。その日の見張りを担当していたシニストラ村の若者が、脅しではなくゴブリンに切りつけた。だが倒すには至らず、ゴブリンは逃げていった。
その日以来、それまでは適当に脅せば逃げていったゴブリンが、数体集まってデストラ村の畑を荒らしに来るようになったのだ。しかも知恵をつけて、畑荒らしと見張りを分担。見張りは威嚇しても動じることなく反撃してきて、残りの連中は悠々と作物を食い荒らしている始末である。
言い争いはますます白熱していく。
静かにその様子を眺めていた若き領主セスト・ジェオルジ(kz0034)は、ガス抜きのタイミングを見て軽く咳払いした。
「お話は判りました。ゴブリンが街道に出没する以上、問題は既にデストラ村とシニストラ村だけのものではありません。ハンターに依頼してゴブリンを討伐して貰うことにします」
2人の村長は言葉を切り、セストを見遣る。
「それで宜しいですね?」
丁寧だが有無を言わせぬ調子でセストが休憩を宣告した。
●村娘の告白
廊下を歩くセストは、自分に呼びかける微かな声に振り向いた。
「領主様、すみません。少しだけお話を聞いて頂けますか」
見るとセストと同じぐらいの年頃の娘だった。泣き出しそうな顔で自分を見る目に、内心戸惑う。実はセストは、おっさん共の話相手は得意だが、女性、特に若い女性との会話は不得手である。
「何でしょう、折り入って。余り他の人に聞かれたくないお話ですか」
娘が何度も頷いた。
娘はデストラ村の村長の娘、リタと名乗った。
「ごめんなさい、みんな私が悪いんです……!!」
いきなり泣き出すリタに、セストは思わず身を引く。
何とか聞きだした顛末は……。
去年の祭で、リタはシニストラ村の若者に恋をした。
ゴブリン警戒にあたると聞いて、一目会いたくて飛び出したところで、運悪くゴブリンに出くわしたのだ。
それを助けてくれたのが、当の本人。
だがこの事件が切欠で、ふたつの村の関係はこじれ、会うこともままならなくなったのである。
「だからせめて、囮になります。ゴブリンは弱い相手を狙ってきます。他にも心当たりがありますから」
はらはらと涙を流して懇願するリタに、セストは無表情のまま困惑しきってしまうのだった。
月のない夜。頼りなげに揺れるカンテラの灯がひとつ、見え隠れしていた。
少し先には篝火が焚かれているが、灯はそれを避けるかのように移動する。
突然、その灯が動かなくなった。
「きゃっ……!」
小さな悲鳴。何かの割れる音。
地面に落ちてカンテラは割れていたが、僅かに残った油に小さな炎が揺れていた。
怯えきった若い娘が、提げたかごをしっかり握りしめたままで立ちすくむ。彼女の視線の先には異形の生き物。
「た、たす、け……」
かすれた声が漏れる。その時だった。
ギャーッ!!
鋭い叫び声と共に異形は素早く飛び退り、そのまま逃げていった。
へなへなとその場に座り込んだ娘の目の前に、大きな手が差し出される。
「怪我はないか?」
「貴方は……」
娘が大きく目を見張った。
●郷祭の会合
自由都市同盟領内、農耕推進地域ジェオルジは恒例の「村長祭」を迎え多くの人で賑わっていた。
だが、領主の館の一番広い部屋は、険呑な空気に満たされている。
並んでいる顔は年配の男性ばかりだ。彼らはジェオルジ内に点在する村の村長たちである。
これが本来の「村長祭」だった。
それぞれの村を纏めるのは村長たちだが、村同士の調整役は領主一族が担っている。年に2回の「村長祭」は、複数の村に関わる問題を話し合う場なのだ。
今年一番揉めているのは、デストラ村とシニストラ村。
「そもそもあのゴブリンが現れたのはお前の村だろう! そちらが責任を持て!」
「何を言うか! あの日の見張りはお前の村の当番だ。わざわざうちの村でゴブリンを斬りおって!!」
それぞれの村長は顔を真っ赤にして怒鳴り合っていた。
ふたつの村は、街道を挟んで隣り合っている。
ここに時折ゴブリンが現れては村の作物を勝手に食い散らかしたり、女性や子供を脅かしたりしていたのだが、秋の収穫シーズンを前に、それぞれの村から若い者を出して見張りを立てていたのだ。
ある夜、街道のデストラ村に近い場所にゴブリンが現れた。その日の見張りを担当していたシニストラ村の若者が、脅しではなくゴブリンに切りつけた。だが倒すには至らず、ゴブリンは逃げていった。
その日以来、それまでは適当に脅せば逃げていったゴブリンが、数体集まってデストラ村の畑を荒らしに来るようになったのだ。しかも知恵をつけて、畑荒らしと見張りを分担。見張りは威嚇しても動じることなく反撃してきて、残りの連中は悠々と作物を食い荒らしている始末である。
言い争いはますます白熱していく。
静かにその様子を眺めていた若き領主セスト・ジェオルジ(kz0034)は、ガス抜きのタイミングを見て軽く咳払いした。
「お話は判りました。ゴブリンが街道に出没する以上、問題は既にデストラ村とシニストラ村だけのものではありません。ハンターに依頼してゴブリンを討伐して貰うことにします」
2人の村長は言葉を切り、セストを見遣る。
「それで宜しいですね?」
丁寧だが有無を言わせぬ調子でセストが休憩を宣告した。
●村娘の告白
廊下を歩くセストは、自分に呼びかける微かな声に振り向いた。
「領主様、すみません。少しだけお話を聞いて頂けますか」
見るとセストと同じぐらいの年頃の娘だった。泣き出しそうな顔で自分を見る目に、内心戸惑う。実はセストは、おっさん共の話相手は得意だが、女性、特に若い女性との会話は不得手である。
「何でしょう、折り入って。余り他の人に聞かれたくないお話ですか」
娘が何度も頷いた。
娘はデストラ村の村長の娘、リタと名乗った。
「ごめんなさい、みんな私が悪いんです……!!」
いきなり泣き出すリタに、セストは思わず身を引く。
何とか聞きだした顛末は……。
去年の祭で、リタはシニストラ村の若者に恋をした。
ゴブリン警戒にあたると聞いて、一目会いたくて飛び出したところで、運悪くゴブリンに出くわしたのだ。
それを助けてくれたのが、当の本人。
だがこの事件が切欠で、ふたつの村の関係はこじれ、会うこともままならなくなったのである。
「だからせめて、囮になります。ゴブリンは弱い相手を狙ってきます。他にも心当たりがありますから」
はらはらと涙を流して懇願するリタに、セストは無表情のまま困惑しきってしまうのだった。
リプレイ本文
●
埃っぽい街道の先に、こんもりとした森が見える。
「お疲れ様です、ここがデストラ村です」
リタが安堵と緊張の混じった面持ちで身を乗り出す。
ジェールトヴァ(ka3098)が乗合馬車を降りて目を細めた。秋枯れの草村や小さな物置小屋の先に、集落らしきものが見える。
道を挟んで反対側にも似たような光景。シニストラ村だ。
(時に恋は人を盲目にさせる。ただ会いたい……そのための行動で、村同士の関係が拗れてしまったとは)
責任を感じているだろうリタの心痛を思い、穏やかな目を向ける。
「では行こうかね」
「はいっ、がんばりますおっ!」
ルーキフェル・ハーツ(ka1064)が鼻息荒くジェールトヴァを見上げた。
双子の弟のウェスペル・ハーツ(ka1065)は、もっともらしく心配顔をしてみせる。
「るー、がんばるなの。でもジェールさんに迷惑かけないようにするなの」
「大丈夫だお! うーたちもしっかり準備を頼むお!」
ジェールトヴァとルーキフェルは、シニストラ村へと向かう。
リタが先頭に立ち、デストラ村に入る。
エルム(ka0121)がエハウィイ・スゥ(ka0006)の肘をつついた。
「ひきこもりが依頼なんて、めずらしいじゃない」
エハウィイはどろんと濁った眼でリタの背中を見ている。
「楽に生活費を稼げる……そう思っていた時期が私にもありました。何でリア充予備軍が居るんや……」
エハウィイから見れば、愛の嵐でヒロイン状態のリタは異次元の存在だ。
「あら、勇気ある乙女じゃない? ふふ、私そういうの大好き。応援しちゃう」
ベアトリクス・ブルーム(ka0785)が翠玉の瞳を煌めかせて微笑む。
普通の女の子には、ゴブリンとの遭遇がどれだけ恐ろしいか。それでも囮を申し出たのだ。その気持ちは大事にしてあげたいと思うのだ。
「んー、でもちょっと確認しときたいんだよね」
頭を少し掻いて、エハウィイは声をかけた。
「あのさ、一応私が囮になるつもりだからさ。リタはいてもいなくてもどっちでもいんだよね。悲劇のヒロイン気取って囮になるってんなら正直迷惑なんd……うぐふぉっ!?」
ベアトリクスが笑顔のまま、いきなり右手の指に渾身の力を籠めてエハウィイの頭を掴む。振り向いたリタには、ぼさぼさの髪に隠れてアイアンクローは見えないようだ。
「でも、ゴブリンがどうやって狙う相手を決めているかは、判っていません。だったら、一度狙われた私が行く方が確実だと思うんです」
しっかりとした答え。無謀な自己満足という訳ではないらしい。エハウィイはベアトリクスに合図を送り、ようやく解放された。
「わかった。そこまで言うならもう止めはしないよ」
ただのリア充予備軍じゃないってわけなら、悪くはないと思うのだ。
「あーいがー すべーて……でシュ」
鼻歌を歌うシュマ・グラシア(ka1907)の小さな体が、草むらを行き来している。
宮前 怜(ka3256)はその歌に、リアルブルーに伝わる無粋を厭う都都逸の一節を思い出した。
「『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ』……か」
リタがゴブリンと遭遇したという物置小屋の辺りを注意深く観察する。どうやらゴブリンは畑を横切り、街道の先の森に逃げたようだ。
「恋する少女は強いでシュね。なんとか守ってあげたいでシュ」
ふう、と息をつき、シュマが呟く。幼いシュマの口ぶりに、怜が僅かに口元を緩めた。
「そうだな。恋する乙女の邪魔する奴は、今回は奈落の底に落ちてもらおうか」
●
デストラ村の人々は領主が雇ってくれたハンター達を歓迎した。
「悪いゴブリンはやっつけるから安心してくださいなの」
胸を張るウェスペルは見た目こそちびっこだが、立派なハンターだ。
「今迄罠を作った事はあるかしら? 効果の有無なども教えて頂きたいの」
ベアトリクスが尋ねると、これまでの策が語られる。
食べ物を入れた檻を作ってみたり、鳴子のついたロープを張り巡らしてみたり。だが倒すまでは至らず、逃れたゴブリンは逆に知恵をつけてしまったらしい。
「じゃあね、道具を貸して下さらない? 今回は落とし穴を作るわ」
「あと、網もあるといいなの!」
だがここで一斉に不満の声が上がる。
「落とし穴? 冗談じゃない、家畜が嵌っちまう!」
土は簡単には締まらない。そこに牛や馬が足を突っ込んだら、捻挫は免れないというのだ。
それでなくてもデストラ村の人は『自分達が損をしている』との意識が強い。不満は溢れ出し、次第に隣村の悪口となる。
ウェスペルは思わず顔を赤くして抗議した。
「悪いのはゴブリンなの、村や村の人じゃないなの。悪口はいくないの」
子供に言われて皆が一応は口をつぐむ。ベアトリクスはその様子に、村同士の諍いの根深さを思う。
「後で分かりやすい柵を作っていただきますから」
リタの説得にようやく村人たちも承知して、スコップや網やロープなどを運んできた。
必要な道具を揃えてゴブリンが現れた場所へ戻る。
穴の位置を確認する為に青年2人が一緒についてきた。
「ほんと、人間ってめんどくさいわね」
エルムはスコップを担いで溜息をつく。協力すれば簡単なことを、どうして面倒にしてしまうのか。
ベアトリクスは同行してきたひとりに尋ねた。
「ねえ、貴方個人としてはどう思っているの? ふたつの村が交流できるようになれば楽しいと思うのよ」
だが青年は首を振る。
「以前はそうでした。でも生きるか死ぬかになれば、皆そんなことも言ってられません」
だからこそ、領主はせめてゴブリンの脅威を取り除こうと考えたのだろう。
「じゃあね、ゴブリンを倒したらもう一度考えてみてね」
ベアトリクスが少し寂しそうに微笑む。
シニストラ村に向かいながら、ジェールトヴァは考え込む。
(相手のシニストラ村の若者って、誰なんだろうね)
村長祭ではリタの名前は出ていない。若者は助けた時に、相手が若い女だということぐらいは分かっているはずだ。
ならば彼女の行為が責められないようにと、庇ってやったのだろう。
畑仕事をしている男に近付き、ゴブリン退治に雇われたハンターだと名乗った。
「そりゃ助かる。あいつら、ゴブリンをこっちに押しつけるんじゃないかと気が気じゃなくてな」
ジェールトヴァは、自分を悲しそうに見上げるルーキフェルの頭を軽く撫でた。
「連中について詳しく知りたいんだ、できたらゴブリンと戦った若者と話をさせてもらえないかな」
「いいとも。村長の息子のアンジェロだ」
意外とあっさり案内してくれる。だがその理由はすぐにわかった。
「遠いところを有難うございます」
アンジェロは、なかなかの好青年だ。
だが家の周囲に数名、通された部屋の隅にもひとり、男がいる。アンジェロが勝手に動かぬように監視していた。
「早速ですが、私達が聞いた内容は……」
ジェールトヴァが色々と細かい内容を質問する。
その間に、ルーキフェルは男に近付いて、真っ直ぐな目で見上げた。
「おじさんはゴブリンに会いましたかお?」
「ああ、遭った」
「すごいお! おじさんも戦ったんですかお!?」
「いや、俺は……」
質問攻めの間、ずっと足元をもぞもぞ。
「どうした坊主、怖いのか」
気付いた男が小さく笑った。
「あの……おトイレ行きたいお……」
「ああ?」
「おトイレ行きたいですぉおおお!」
バタバタ足踏みしつつ、演技を超えた切迫した形相で相手の服の裾に縋りつく。男はルーキフェルを横抱きに抱えて走り出した。
「ちょっと我慢しろ、坊主!!」
ポカンとして見送るアンジェロに、ジェールトヴァが小声で仔細を伝える。
リタが飛び出したのは、アンジェロに会いたかったからであること。
今回は囮役を申し出ていること。
「勿論責任を感じているのは本当だと思うけどね。でもやっぱりきみと自由に会えるようになりたいのじゃないかな」
静かな赤い瞳がじっと若者を見つめた。
リタの名に、アンジェロは僅かに身じろぎした。相手が誰なのか知らない訳ではないらしい。
なら、彼女が原因であると黙っているのは……憎からず思っているからではないか?
「もし力になってくれるのなら……一人で心細い思いをしている彼女を守りにきてほしい」
手渡した紙片を、アンジェロは素早く掌に握りしめた。
●
ミートパイの香りがリタの下げた籠から漂っている。エハウィイはその隣に立つ。飽くまでも普通の女の子として。
例のゴブリンが出た小屋の前だ。
「あ、そだ、さっきの話。彼氏ってさ、誰と×たら腐的にオイシイかな」
「かけ……腐……?」
意味がわからないという顔で、リタがエハウィイを見た。この村にはリアルブルー文化は広がっていないようだ。
「ひとりごと。気にしないで」
一緒にパイを焼きながら、色々な話を聞いた。ほとんどの女の子は恋の話が大好きだ。エハウィイだってそうなのだ。
ふたりでじっと待つこと暫し。
街道からこちらへ向かって、草を踏む物音が近づいてきた。
リタの顔がこわばる。
その瞬間。
「いまですの!」
ウェスペルが被っていた藁束を跳ねのけ、同時にリトルファイアを使った。
魔法の灯がランタンのように輝く。ゴブリンは突然背後に現れた光源に驚いて足を止めた。
「こっち!」
エハウィイがリタの腕を掴んで小屋の陰へ。
「安全なところでまってるといいのでシュよ」
シュマは少しでもリタが傷つかないよう、おまじないのようにウィンドガストの加護を送る。
回り込んだベアトリクスが立ち塞がる。
「大丈夫よ、後は私達に任せてね」
どの方向からゴブリンが来ようと、絶対にここは通さない。
少し離れた所に居た1体が、鋭い叫びを上げた。
ジェールトヴァは声のする方へ向かって、魔法の影球を叩きつける。致命傷にはならなかったが、見張りを混乱させるには充分だ。
続いて怜が、エイミングで精度を上げた鋭い一弾を撃ち込む。
「他の奴は何処だ?」
敵が倒れたのを確認すると、怜はすぐに灌木に身を隠し移動する。
残る3体は見張り役が倒れたと知ると一斉に逃げだした。だがハンター達は互いに距離をとって隠れている。
「きたわ! せーの!」
「うんとこしょーお!」
「どっこいしょー!」
ベアトリクスが掛け声と共に引くロープを、反対側からルーキフェルとウェスペルが引っ張る。
そこに走ってきたコボルトが引っかかり、派手に転んだ。後に続くもう1体も止まり切れずにバランスを崩す。
「悪いゴブリンぶっとばすおー!」
一気に間合いを詰めたルーキフェルが、小さな体ごとぶつかっていく。受け止め踏ん張ろうとした足元がいきなり崩れ、ゴブリンの姿が視界から消えた。後に響く悲鳴。
エルムが松明を灯して落とし穴を覗き込み、しみじみと呟いた。
「……苦労した甲斐があったわ。いや、本当に」
落ちたゴブリンが簡単に上がれない程の深い穴を掘るのに、昼間どれだけ頑張ったことか。
その上穴が分からないよう、薄い布の上に土や枯れ枝、落ち葉を撒く念の入れようだ。
しかも底には怜が集めて来た固くトゲのある木の枝を一杯に敷き詰めてある。まさに奈落の底だ。
エルムはワンドをかざし、まるで昼間の労力をそれで購わせるかのように宣言した。
「1匹残らず、ボコボコにしてやるわよ!」
それでもコボルトは、穴の底から石を拾っては死に物狂いで投げつけて来る。
「いって!?」
エハウィイが脛を押さえてしゃがみ込む。ウェスペルも庇った腕に礫を受けた。
「負けないですなの!!」
遠くで彼らの為に祈る者達の力を確かに感じ、尚も奮い立つ。
穴の周りに集まったのは6名。完全にオーバーキル状態である。
ジェールトヴァが少し離れて辺りを見回し、目を細めた。
「おや、あれは……」
揺れるカンテラ。誰かが駆けて来る。
シュマは息を殺して、街道沿いの藪に潜む。
まだ1体が逃げている。皆が灯した明かりは避けるだろう。
思った通り、人ではないモノの足音が近づいた。
「覚悟するのでシュ」
ウィンドスラッシュの旋風が、見えない刃となってゴブリンを切り裂く。
「そこに居たか」
街道側から駆けつけた怜が、逃げだそうとしたゴブリンの足元を狙って銃撃。
ゴブリンは落とし穴から響く悲鳴に混乱しており、ふたりのハンターをまともに相手できるはずもない。
こうして4体全てのゴブリンが、見事仕留められたのだった。
●
作戦完了の知らせに、リタはへなへなと座り込んだ。
「これで気が済んだ? 囮役なんて無茶な真似、二度としない方がいいわよ」
エルムの声音は優しい。
「すみません。でも皆さんに怪我がなくて、良かった……! もしものことがあったら、私……」
リタが泣きだしそうになるのを見て、エルムが肩をすくめる。
「別に貴女が責任を感じる事でもないわ。……ところで、そのミートパイどうするの?」
しっかり抱えた籠をちらりと見る。怜がリタが答えるより先に、穏やかに言った。
「聞くだけ野暮ってものだ。それは元々、アンジェロのために用意したんだろう? 冷めないうちに届けると良い」
びっくりして目を見開いたリタに、エハウィイがそっと耳打ちする。
「さっき来たんだよ。だいたいさ、好きでもない相手を助ける男なんていないよ、勇気出したら?」
何だかんだでリア充促進のエハウィイは、「笑う乙女」の名を冠する部族の巫女。この無鉄砲な女の子が笑うところが見たいのだ。
皆に背中を押されて、リタはアンジェロと対面する。
「あの、この前は……ありがとうございました、それと、ごめんなさい……」
消え入りそうになる声。
戸惑うアンジェロを、シュマが小突いた。
「女が命張ってるんだから、黙ってるだけじゃダメなんじゃないでシュかね、アンジェロさん」
アンジェロもどうにか、言葉を繋ぐ。
「僕の方こそ。その、もっと早く、父に本当の事を話すべきだったかもしれない」
「いえ、私が、馬鹿な事をしたので……」
この繰り返しに、エルムが口を挟んだ。
「あーもう、本当に人間ってめんどくさいわね! あなた達が力を合わせて、2つの村の架け橋になればいいでしょ! ゴブリンだけじゃない、いろんな問題を、お隣同士の村で一緒に解決していけばいいじゃない!」
ふたりはエルムの剣幕に、只管こくこくと頷く。怜が小さく笑いながら、助け船を出した。
「親父さん達に口添えが要るなら、追加料金なしで立会人になってやるぞ」
ベアトリクスも頷く。道案内の若者たちも、きっと本心ではそうなることを望んでいるはずだ。
ルーキフェルとウェスペルがぴょんぴょん跳ねた。
「このままセストのとこに行くお! 村長さんたちもセストの言うことなら聞くお!」
「そうするといいなの! べ、べつに、うーたちはお祭りでセストに遊んでもらいたいんじゃないなの!」
湧きあがる笑い声に誘われたように、東の空から太陽が顔を出しつつあった。
<了>
埃っぽい街道の先に、こんもりとした森が見える。
「お疲れ様です、ここがデストラ村です」
リタが安堵と緊張の混じった面持ちで身を乗り出す。
ジェールトヴァ(ka3098)が乗合馬車を降りて目を細めた。秋枯れの草村や小さな物置小屋の先に、集落らしきものが見える。
道を挟んで反対側にも似たような光景。シニストラ村だ。
(時に恋は人を盲目にさせる。ただ会いたい……そのための行動で、村同士の関係が拗れてしまったとは)
責任を感じているだろうリタの心痛を思い、穏やかな目を向ける。
「では行こうかね」
「はいっ、がんばりますおっ!」
ルーキフェル・ハーツ(ka1064)が鼻息荒くジェールトヴァを見上げた。
双子の弟のウェスペル・ハーツ(ka1065)は、もっともらしく心配顔をしてみせる。
「るー、がんばるなの。でもジェールさんに迷惑かけないようにするなの」
「大丈夫だお! うーたちもしっかり準備を頼むお!」
ジェールトヴァとルーキフェルは、シニストラ村へと向かう。
リタが先頭に立ち、デストラ村に入る。
エルム(ka0121)がエハウィイ・スゥ(ka0006)の肘をつついた。
「ひきこもりが依頼なんて、めずらしいじゃない」
エハウィイはどろんと濁った眼でリタの背中を見ている。
「楽に生活費を稼げる……そう思っていた時期が私にもありました。何でリア充予備軍が居るんや……」
エハウィイから見れば、愛の嵐でヒロイン状態のリタは異次元の存在だ。
「あら、勇気ある乙女じゃない? ふふ、私そういうの大好き。応援しちゃう」
ベアトリクス・ブルーム(ka0785)が翠玉の瞳を煌めかせて微笑む。
普通の女の子には、ゴブリンとの遭遇がどれだけ恐ろしいか。それでも囮を申し出たのだ。その気持ちは大事にしてあげたいと思うのだ。
「んー、でもちょっと確認しときたいんだよね」
頭を少し掻いて、エハウィイは声をかけた。
「あのさ、一応私が囮になるつもりだからさ。リタはいてもいなくてもどっちでもいんだよね。悲劇のヒロイン気取って囮になるってんなら正直迷惑なんd……うぐふぉっ!?」
ベアトリクスが笑顔のまま、いきなり右手の指に渾身の力を籠めてエハウィイの頭を掴む。振り向いたリタには、ぼさぼさの髪に隠れてアイアンクローは見えないようだ。
「でも、ゴブリンがどうやって狙う相手を決めているかは、判っていません。だったら、一度狙われた私が行く方が確実だと思うんです」
しっかりとした答え。無謀な自己満足という訳ではないらしい。エハウィイはベアトリクスに合図を送り、ようやく解放された。
「わかった。そこまで言うならもう止めはしないよ」
ただのリア充予備軍じゃないってわけなら、悪くはないと思うのだ。
「あーいがー すべーて……でシュ」
鼻歌を歌うシュマ・グラシア(ka1907)の小さな体が、草むらを行き来している。
宮前 怜(ka3256)はその歌に、リアルブルーに伝わる無粋を厭う都都逸の一節を思い出した。
「『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ』……か」
リタがゴブリンと遭遇したという物置小屋の辺りを注意深く観察する。どうやらゴブリンは畑を横切り、街道の先の森に逃げたようだ。
「恋する少女は強いでシュね。なんとか守ってあげたいでシュ」
ふう、と息をつき、シュマが呟く。幼いシュマの口ぶりに、怜が僅かに口元を緩めた。
「そうだな。恋する乙女の邪魔する奴は、今回は奈落の底に落ちてもらおうか」
●
デストラ村の人々は領主が雇ってくれたハンター達を歓迎した。
「悪いゴブリンはやっつけるから安心してくださいなの」
胸を張るウェスペルは見た目こそちびっこだが、立派なハンターだ。
「今迄罠を作った事はあるかしら? 効果の有無なども教えて頂きたいの」
ベアトリクスが尋ねると、これまでの策が語られる。
食べ物を入れた檻を作ってみたり、鳴子のついたロープを張り巡らしてみたり。だが倒すまでは至らず、逃れたゴブリンは逆に知恵をつけてしまったらしい。
「じゃあね、道具を貸して下さらない? 今回は落とし穴を作るわ」
「あと、網もあるといいなの!」
だがここで一斉に不満の声が上がる。
「落とし穴? 冗談じゃない、家畜が嵌っちまう!」
土は簡単には締まらない。そこに牛や馬が足を突っ込んだら、捻挫は免れないというのだ。
それでなくてもデストラ村の人は『自分達が損をしている』との意識が強い。不満は溢れ出し、次第に隣村の悪口となる。
ウェスペルは思わず顔を赤くして抗議した。
「悪いのはゴブリンなの、村や村の人じゃないなの。悪口はいくないの」
子供に言われて皆が一応は口をつぐむ。ベアトリクスはその様子に、村同士の諍いの根深さを思う。
「後で分かりやすい柵を作っていただきますから」
リタの説得にようやく村人たちも承知して、スコップや網やロープなどを運んできた。
必要な道具を揃えてゴブリンが現れた場所へ戻る。
穴の位置を確認する為に青年2人が一緒についてきた。
「ほんと、人間ってめんどくさいわね」
エルムはスコップを担いで溜息をつく。協力すれば簡単なことを、どうして面倒にしてしまうのか。
ベアトリクスは同行してきたひとりに尋ねた。
「ねえ、貴方個人としてはどう思っているの? ふたつの村が交流できるようになれば楽しいと思うのよ」
だが青年は首を振る。
「以前はそうでした。でも生きるか死ぬかになれば、皆そんなことも言ってられません」
だからこそ、領主はせめてゴブリンの脅威を取り除こうと考えたのだろう。
「じゃあね、ゴブリンを倒したらもう一度考えてみてね」
ベアトリクスが少し寂しそうに微笑む。
シニストラ村に向かいながら、ジェールトヴァは考え込む。
(相手のシニストラ村の若者って、誰なんだろうね)
村長祭ではリタの名前は出ていない。若者は助けた時に、相手が若い女だということぐらいは分かっているはずだ。
ならば彼女の行為が責められないようにと、庇ってやったのだろう。
畑仕事をしている男に近付き、ゴブリン退治に雇われたハンターだと名乗った。
「そりゃ助かる。あいつら、ゴブリンをこっちに押しつけるんじゃないかと気が気じゃなくてな」
ジェールトヴァは、自分を悲しそうに見上げるルーキフェルの頭を軽く撫でた。
「連中について詳しく知りたいんだ、できたらゴブリンと戦った若者と話をさせてもらえないかな」
「いいとも。村長の息子のアンジェロだ」
意外とあっさり案内してくれる。だがその理由はすぐにわかった。
「遠いところを有難うございます」
アンジェロは、なかなかの好青年だ。
だが家の周囲に数名、通された部屋の隅にもひとり、男がいる。アンジェロが勝手に動かぬように監視していた。
「早速ですが、私達が聞いた内容は……」
ジェールトヴァが色々と細かい内容を質問する。
その間に、ルーキフェルは男に近付いて、真っ直ぐな目で見上げた。
「おじさんはゴブリンに会いましたかお?」
「ああ、遭った」
「すごいお! おじさんも戦ったんですかお!?」
「いや、俺は……」
質問攻めの間、ずっと足元をもぞもぞ。
「どうした坊主、怖いのか」
気付いた男が小さく笑った。
「あの……おトイレ行きたいお……」
「ああ?」
「おトイレ行きたいですぉおおお!」
バタバタ足踏みしつつ、演技を超えた切迫した形相で相手の服の裾に縋りつく。男はルーキフェルを横抱きに抱えて走り出した。
「ちょっと我慢しろ、坊主!!」
ポカンとして見送るアンジェロに、ジェールトヴァが小声で仔細を伝える。
リタが飛び出したのは、アンジェロに会いたかったからであること。
今回は囮役を申し出ていること。
「勿論責任を感じているのは本当だと思うけどね。でもやっぱりきみと自由に会えるようになりたいのじゃないかな」
静かな赤い瞳がじっと若者を見つめた。
リタの名に、アンジェロは僅かに身じろぎした。相手が誰なのか知らない訳ではないらしい。
なら、彼女が原因であると黙っているのは……憎からず思っているからではないか?
「もし力になってくれるのなら……一人で心細い思いをしている彼女を守りにきてほしい」
手渡した紙片を、アンジェロは素早く掌に握りしめた。
●
ミートパイの香りがリタの下げた籠から漂っている。エハウィイはその隣に立つ。飽くまでも普通の女の子として。
例のゴブリンが出た小屋の前だ。
「あ、そだ、さっきの話。彼氏ってさ、誰と×たら腐的にオイシイかな」
「かけ……腐……?」
意味がわからないという顔で、リタがエハウィイを見た。この村にはリアルブルー文化は広がっていないようだ。
「ひとりごと。気にしないで」
一緒にパイを焼きながら、色々な話を聞いた。ほとんどの女の子は恋の話が大好きだ。エハウィイだってそうなのだ。
ふたりでじっと待つこと暫し。
街道からこちらへ向かって、草を踏む物音が近づいてきた。
リタの顔がこわばる。
その瞬間。
「いまですの!」
ウェスペルが被っていた藁束を跳ねのけ、同時にリトルファイアを使った。
魔法の灯がランタンのように輝く。ゴブリンは突然背後に現れた光源に驚いて足を止めた。
「こっち!」
エハウィイがリタの腕を掴んで小屋の陰へ。
「安全なところでまってるといいのでシュよ」
シュマは少しでもリタが傷つかないよう、おまじないのようにウィンドガストの加護を送る。
回り込んだベアトリクスが立ち塞がる。
「大丈夫よ、後は私達に任せてね」
どの方向からゴブリンが来ようと、絶対にここは通さない。
少し離れた所に居た1体が、鋭い叫びを上げた。
ジェールトヴァは声のする方へ向かって、魔法の影球を叩きつける。致命傷にはならなかったが、見張りを混乱させるには充分だ。
続いて怜が、エイミングで精度を上げた鋭い一弾を撃ち込む。
「他の奴は何処だ?」
敵が倒れたのを確認すると、怜はすぐに灌木に身を隠し移動する。
残る3体は見張り役が倒れたと知ると一斉に逃げだした。だがハンター達は互いに距離をとって隠れている。
「きたわ! せーの!」
「うんとこしょーお!」
「どっこいしょー!」
ベアトリクスが掛け声と共に引くロープを、反対側からルーキフェルとウェスペルが引っ張る。
そこに走ってきたコボルトが引っかかり、派手に転んだ。後に続くもう1体も止まり切れずにバランスを崩す。
「悪いゴブリンぶっとばすおー!」
一気に間合いを詰めたルーキフェルが、小さな体ごとぶつかっていく。受け止め踏ん張ろうとした足元がいきなり崩れ、ゴブリンの姿が視界から消えた。後に響く悲鳴。
エルムが松明を灯して落とし穴を覗き込み、しみじみと呟いた。
「……苦労した甲斐があったわ。いや、本当に」
落ちたゴブリンが簡単に上がれない程の深い穴を掘るのに、昼間どれだけ頑張ったことか。
その上穴が分からないよう、薄い布の上に土や枯れ枝、落ち葉を撒く念の入れようだ。
しかも底には怜が集めて来た固くトゲのある木の枝を一杯に敷き詰めてある。まさに奈落の底だ。
エルムはワンドをかざし、まるで昼間の労力をそれで購わせるかのように宣言した。
「1匹残らず、ボコボコにしてやるわよ!」
それでもコボルトは、穴の底から石を拾っては死に物狂いで投げつけて来る。
「いって!?」
エハウィイが脛を押さえてしゃがみ込む。ウェスペルも庇った腕に礫を受けた。
「負けないですなの!!」
遠くで彼らの為に祈る者達の力を確かに感じ、尚も奮い立つ。
穴の周りに集まったのは6名。完全にオーバーキル状態である。
ジェールトヴァが少し離れて辺りを見回し、目を細めた。
「おや、あれは……」
揺れるカンテラ。誰かが駆けて来る。
シュマは息を殺して、街道沿いの藪に潜む。
まだ1体が逃げている。皆が灯した明かりは避けるだろう。
思った通り、人ではないモノの足音が近づいた。
「覚悟するのでシュ」
ウィンドスラッシュの旋風が、見えない刃となってゴブリンを切り裂く。
「そこに居たか」
街道側から駆けつけた怜が、逃げだそうとしたゴブリンの足元を狙って銃撃。
ゴブリンは落とし穴から響く悲鳴に混乱しており、ふたりのハンターをまともに相手できるはずもない。
こうして4体全てのゴブリンが、見事仕留められたのだった。
●
作戦完了の知らせに、リタはへなへなと座り込んだ。
「これで気が済んだ? 囮役なんて無茶な真似、二度としない方がいいわよ」
エルムの声音は優しい。
「すみません。でも皆さんに怪我がなくて、良かった……! もしものことがあったら、私……」
リタが泣きだしそうになるのを見て、エルムが肩をすくめる。
「別に貴女が責任を感じる事でもないわ。……ところで、そのミートパイどうするの?」
しっかり抱えた籠をちらりと見る。怜がリタが答えるより先に、穏やかに言った。
「聞くだけ野暮ってものだ。それは元々、アンジェロのために用意したんだろう? 冷めないうちに届けると良い」
びっくりして目を見開いたリタに、エハウィイがそっと耳打ちする。
「さっき来たんだよ。だいたいさ、好きでもない相手を助ける男なんていないよ、勇気出したら?」
何だかんだでリア充促進のエハウィイは、「笑う乙女」の名を冠する部族の巫女。この無鉄砲な女の子が笑うところが見たいのだ。
皆に背中を押されて、リタはアンジェロと対面する。
「あの、この前は……ありがとうございました、それと、ごめんなさい……」
消え入りそうになる声。
戸惑うアンジェロを、シュマが小突いた。
「女が命張ってるんだから、黙ってるだけじゃダメなんじゃないでシュかね、アンジェロさん」
アンジェロもどうにか、言葉を繋ぐ。
「僕の方こそ。その、もっと早く、父に本当の事を話すべきだったかもしれない」
「いえ、私が、馬鹿な事をしたので……」
この繰り返しに、エルムが口を挟んだ。
「あーもう、本当に人間ってめんどくさいわね! あなた達が力を合わせて、2つの村の架け橋になればいいでしょ! ゴブリンだけじゃない、いろんな問題を、お隣同士の村で一緒に解決していけばいいじゃない!」
ふたりはエルムの剣幕に、只管こくこくと頷く。怜が小さく笑いながら、助け船を出した。
「親父さん達に口添えが要るなら、追加料金なしで立会人になってやるぞ」
ベアトリクスも頷く。道案内の若者たちも、きっと本心ではそうなることを望んでいるはずだ。
ルーキフェルとウェスペルがぴょんぴょん跳ねた。
「このままセストのとこに行くお! 村長さんたちもセストの言うことなら聞くお!」
「そうするといいなの! べ、べつに、うーたちはお祭りでセストに遊んでもらいたいんじゃないなの!」
湧きあがる笑い声に誘われたように、東の空から太陽が顔を出しつつあった。
<了>
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 シュマ・グラシア(ka1907) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/10/24 17:06:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/19 21:10:34 |