ゲスト
(ka0000)
地下遺跡の救助任務
マスター:赤羽 青羽

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/30 07:30
- 完成日
- 2017/05/09 03:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「あれっ? エミール、まだ来てねーの?」
集まった子供たちの中に親友の姿がないのを、ジーノは不思議に思った。
エミールが待ち合わせに遅れるのは珍しい。
じきに来るだろう、と年下の子供たちと何をするでもなく待つ。
1時間が過ぎた。
●
「とっくに家を出ましたよ、って。エミールのお母さんが!」
「川にはいなかったよ」
「秘密基地にもいなかった!」
仲間から次々にもたらされる報告に、ジーノは腕組みをして眉根を寄せる。
南の森は、この辺りの子供にとって庭同然の場所だ。
どこに何があるか、目を瞑ってたって分かる。迷子になるのはまずあり得ない。
何よりエミールは慎重な性格だった。
「兄ちゃん!! たいへん!」
森から駆けてきた甲高い声の主は、ジーノの弟だった。
「どうした、テオ」
「いいからきて!」
体重をかけて腕を引かれ、その場にいる子供たちと一緒に森に向かう。
連れていかれた先は、樹に囲まれた窪地(くぼち)だった。
森の捜索に行っていた子供たちが、何かを取り巻くように集まっている。
「……みんな、ちょっと下がれ。絶対に落ちんなよ」
やってきたジーノは、中心にある物を認めて子供たちを下がらせる。
これまで何もなかったはずの地面に、真っ黒な穴が空いていた。
慎重に屈んで中を覗き込む。
陽は高く昇っているというのに底が見えない。
手をついた拍子に穴の縁から転がり落ちた小石は、暗闇に吸い込まれてから冷たく音を立てた。
眩暈がしそうになって、ジーノは顔を上げる。
正面に立ち尽くしている少年の手元にある物に気づいた。
「それ、エミールの帽子じゃないか」
「そこに落ちてたんだ。まさかエミール兄ちゃん、この穴に……?」
ジーノは腹いっぱいに空気を吸いこみ、穴に顔を突っ込んだ。
「おい……!!! そこにいるのかっ!? エミール!!」
闇の底に声が吸い込まれる。
その反響が消えた時、微かな音が返ってきた。
残響が激しく聞き取りにくかったが、それは確かに親友の声だった。
『…………ーノかい……? ……うご…………ないんだ……。……けを……で……くれ……!』
●
「……というわけでして、子供たちから話を聞いて確認した後、すぐにハンターズソサエティに連絡を取りました」
村の入り口で待っていた村長は、これまでの経緯をハンターたちに説明する。
「エミールがいなくなったのは2日前。声をかけて返答があったのは、子供たちが聞いたという1度きりです」
村長は準備していた地図を見えるように広げる。
「南の森の更に向こうに谷があります。その谷底に古代遺跡の入り口があるんです。奥が深い上にゴブリンの巣窟なので、誰も近づきません。40年近く前に調査に入った記録があるくらいです。村への実害もなかったので放ってありましたが、おそらくその遺跡が南の森の地下まで伸びていたんでしょう。穴からロープで降りると申し出てくれた者もいましたが、なにぶん村の者では中に入れないくらい小さい穴でして……」
「だからオレが入るよ!! 父さん!」
威勢のいい声に全員が振り返る。
家の扉をわずかに開けて盗み聞いていたのだろう。短髪の少年が村長の前に飛び出してきた。
村長は頭痛をこらえるような表情で、額に手を当てる。
「ジーノ、何度言わせるんだ。お前は子供じゃないか。ここはハンターの皆さんに任せておきなさい」
「でも、オレだって力に……」
村長はジーノの腕を掴み、家の中に押し込んで扉を閉めた。
済まなそうに目を伏せる。
「お騒がせいたしました。あの子なりに親友を心配してるんでしょう。エミールの両親も穴の近くで夜通し声をかけ続け、憔悴しきっていましたので今は村で休ませています。『たとえ、手遅れだったとしても息子を連れ帰って欲しい』とのことです。どうか、私からもよろしくお願いいたします」
●
マッチに作業ナイフ、ビスケットにロープを鞄に詰める兄の袖をテオは引いた。
「兄ちゃん、ほんとに行くの? やめたほうがいいよ」
構わずに麻の包帯を突っ込んで、ジーノは鞄の口紐を閉める。
「いいか、テオ。男にはやらなきゃいけねー時があるんだ」
「それって、父さんの言葉だよね」
弟のツッコミを無視して、家の壁から燭台を一つ拝借する。
「ダチが大変な目に遭ってるんだ。何もしないわけにいかねー。オレは秘密基地に行ってくる。絶対に村の大人には言うなよ」
そう言い置いて、ジーノは窓枠を乗り越えて外に出て行ってしまう。
テオはひとしきり悩んだ後、頷いた。
村の大人が駄目なら、他の人たちに伝えればいい。
ハンターの姿を探すべく、テオは兄に続いて窓枠を乗り越えた。
集まった子供たちの中に親友の姿がないのを、ジーノは不思議に思った。
エミールが待ち合わせに遅れるのは珍しい。
じきに来るだろう、と年下の子供たちと何をするでもなく待つ。
1時間が過ぎた。
●
「とっくに家を出ましたよ、って。エミールのお母さんが!」
「川にはいなかったよ」
「秘密基地にもいなかった!」
仲間から次々にもたらされる報告に、ジーノは腕組みをして眉根を寄せる。
南の森は、この辺りの子供にとって庭同然の場所だ。
どこに何があるか、目を瞑ってたって分かる。迷子になるのはまずあり得ない。
何よりエミールは慎重な性格だった。
「兄ちゃん!! たいへん!」
森から駆けてきた甲高い声の主は、ジーノの弟だった。
「どうした、テオ」
「いいからきて!」
体重をかけて腕を引かれ、その場にいる子供たちと一緒に森に向かう。
連れていかれた先は、樹に囲まれた窪地(くぼち)だった。
森の捜索に行っていた子供たちが、何かを取り巻くように集まっている。
「……みんな、ちょっと下がれ。絶対に落ちんなよ」
やってきたジーノは、中心にある物を認めて子供たちを下がらせる。
これまで何もなかったはずの地面に、真っ黒な穴が空いていた。
慎重に屈んで中を覗き込む。
陽は高く昇っているというのに底が見えない。
手をついた拍子に穴の縁から転がり落ちた小石は、暗闇に吸い込まれてから冷たく音を立てた。
眩暈がしそうになって、ジーノは顔を上げる。
正面に立ち尽くしている少年の手元にある物に気づいた。
「それ、エミールの帽子じゃないか」
「そこに落ちてたんだ。まさかエミール兄ちゃん、この穴に……?」
ジーノは腹いっぱいに空気を吸いこみ、穴に顔を突っ込んだ。
「おい……!!! そこにいるのかっ!? エミール!!」
闇の底に声が吸い込まれる。
その反響が消えた時、微かな音が返ってきた。
残響が激しく聞き取りにくかったが、それは確かに親友の声だった。
『…………ーノかい……? ……うご…………ないんだ……。……けを……で……くれ……!』
●
「……というわけでして、子供たちから話を聞いて確認した後、すぐにハンターズソサエティに連絡を取りました」
村の入り口で待っていた村長は、これまでの経緯をハンターたちに説明する。
「エミールがいなくなったのは2日前。声をかけて返答があったのは、子供たちが聞いたという1度きりです」
村長は準備していた地図を見えるように広げる。
「南の森の更に向こうに谷があります。その谷底に古代遺跡の入り口があるんです。奥が深い上にゴブリンの巣窟なので、誰も近づきません。40年近く前に調査に入った記録があるくらいです。村への実害もなかったので放ってありましたが、おそらくその遺跡が南の森の地下まで伸びていたんでしょう。穴からロープで降りると申し出てくれた者もいましたが、なにぶん村の者では中に入れないくらい小さい穴でして……」
「だからオレが入るよ!! 父さん!」
威勢のいい声に全員が振り返る。
家の扉をわずかに開けて盗み聞いていたのだろう。短髪の少年が村長の前に飛び出してきた。
村長は頭痛をこらえるような表情で、額に手を当てる。
「ジーノ、何度言わせるんだ。お前は子供じゃないか。ここはハンターの皆さんに任せておきなさい」
「でも、オレだって力に……」
村長はジーノの腕を掴み、家の中に押し込んで扉を閉めた。
済まなそうに目を伏せる。
「お騒がせいたしました。あの子なりに親友を心配してるんでしょう。エミールの両親も穴の近くで夜通し声をかけ続け、憔悴しきっていましたので今は村で休ませています。『たとえ、手遅れだったとしても息子を連れ帰って欲しい』とのことです。どうか、私からもよろしくお願いいたします」
●
マッチに作業ナイフ、ビスケットにロープを鞄に詰める兄の袖をテオは引いた。
「兄ちゃん、ほんとに行くの? やめたほうがいいよ」
構わずに麻の包帯を突っ込んで、ジーノは鞄の口紐を閉める。
「いいか、テオ。男にはやらなきゃいけねー時があるんだ」
「それって、父さんの言葉だよね」
弟のツッコミを無視して、家の壁から燭台を一つ拝借する。
「ダチが大変な目に遭ってるんだ。何もしないわけにいかねー。オレは秘密基地に行ってくる。絶対に村の大人には言うなよ」
そう言い置いて、ジーノは窓枠を乗り越えて外に出て行ってしまう。
テオはひとしきり悩んだ後、頷いた。
村の大人が駄目なら、他の人たちに伝えればいい。
ハンターの姿を探すべく、テオは兄に続いて窓枠を乗り越えた。
リプレイ本文
両手で口を覆う。
また明かりが近づいてくる。瓦礫の壁に背中を押し付け体を縮こまらせる。
浅く息を継ぎ、気配が通り過ぎるのを待ち続ける。
―――。
戻ってきた暗闇に、肺にたまった空気を吐き出す。
頭を預ける岩はごつごつしていたが、ひんやりと冷たく幾度目かの吐き気を収めるには丁度良かった。
それでも壁際に移動したのに比べればずっとましだ。腕を使って這い進んだ時は、脚が小石に触るたびに胃がひっくり返りそうだった。
眠る前に聞こえていた微かな声は、今はもう聞こえない。
再び訪れたまどろみに沈んでいく。
●村にて
準備を整え、村の広場にやって来たアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は、子供の目線に屈んで話を聞くパトリシア=K=ポラリス(ka5996)の姿に目を止めた。
「森の中にハ、他に何があるカナ?」
「川!」
「亀っぽい岩」
集まった子供たちはパトリシアこと、パティに口々に答える。
「秘密基地の洞窟! ……あっ」
「秘密基地……どーくつ、ナノ?」
しまった、という風に口に手を当てた男の子にパティは首を傾げる。
男の子は困ったような表情で周りの子供たちの顔を見てから、こくん、と頷いた。尋ねているのは憧れのハンター。そして今は大事な仲間の危機なのだ。
「みんなデ掘った? それとも……」
「ジーノ兄ちゃんと、エミール兄ちゃんが見つけた。入口はめだたないけど中は大きな石で作ってあるんだ」
「この地図ナラ、どの辺りカナ?」
村長から貰った地図には、既に遺跡の入口と穴の場所がマークしてある。小さな指がその中間点を指す。
パティはそこに印をつけ、お礼を言って子供たちの輪から離れた。
「この位置……遺跡に通じているんでしょうかね?」
同じく可能性を考えていたアデリシアが、パティの持つ地図を凝視する。
「昔からの洞窟ナラ、可能性ありダネ」
「手がかりがあるなら、行くしかないね」
別の場所から一部始終を見ていたケイ(ka4032)も同意見のようだ。
「大変だよ!」
家の影から走り出てきたのはレオナ(ka6158)と超級まりお(ka0824)だ。
後ろに小柄な少年を連れている。ジーノの弟、テオだった。
「ジーノくんが秘密基地に行くと、外に出て行ってしまったようなのです」
レオナはジーノのもどかしそうな様子が気になって、まりおは地形について話を聞こうとしていた。
家を訪ねた所、ハンターを探すテオに会い事情を聞いたのだった。
「急いで救助に行こう!」
「こっちだよ」
勢い込むまりおに、テオは村の出口を指差した。
●説得
「あれは……」
一足先に騎馬で穴へ向かっていた時音 ざくろ(ka1250)とディーナ・フェルミ(ka5843)、案内役の村人は、先を走る子供に気づいて手綱を引いた。
「ジーノ!?」
馬を降りて駆け寄る3人に『げっ』と声をあげたジーノだったが、重い荷物を抱えていては振り切れない。
渋々足を止め、不貞腐れた様子で地面にどかっとあぐらをかいた。
「なんだよ。男にはやらなきゃいけねー時があるっつったり、駄目だっつったり……」
「その気持ちはよく分かる。でも時には堪えるのも男だよ」
ジーノは片目でハンターたちを見る。ディーナの心配そうな顔が目に入る。
そうしているうちに、テオと5人のハンターたちも追いついた。
「帰ってきた時に会いたい相手が出迎えてくれないなんて寂しいじゃない」
静かな笑みを湛えたケイが、ジーノの肩に触れる。
「やらなきゃいけない時がある……そう、今は待機をしなければならない時よ。男ならぐっと堪えなさいな」
姿は若いのに老練さも感じさせる、不思議な響きをもった言葉だ。
「兄ちゃん……」
テオがハンターの影から不安げに兄を見ている。
ハンターの説得と弟の手前、ジーノもいつまでも意地を張るわけにいかなかった。
「……秘密基地に行こうと思ったんだ。エミールと、奥に続く隠し通路を見つけて。多分、遺跡の中に出れる」
やっぱり、とハンターたちは頷き交わす。
「オレ、案内するよ。だからエミールのこと……お願い。ハンターの姉ちゃんたち」
「必ず助けてくる、待ってて。……ってざくろ男! 男だからっ!」
「へ……?」
力強く応えてから慌てて否定するざくろに、ジーノとテオは同じように目を丸くした。
●降下
穴の縁で目を閉じたレオナが、細い糸を手繰るように探り当てたのは、微かな希望だった。
「真下から少し離れた所に……孤立している生命を感じます。……かなり深い場所です」
ロープの一端を樹に結び、ざくろとディーナはそれを頼りに真っ暗な穴の中へ降りていく。
中は思った以上に狭く、粗削りな壁面には尖った岩がそこかしこに突き出していた。
ダックスフントは大きすぎて村人に預けるほかなかったが、ディーナの懐には、パティから預かった口伝符がしまい込まれている。いざという時の大切な連絡手段だ。
先行するざくろの『灯火の水晶球』が底を照らし出した。――と思ったら、穴は傾斜して更に下へ続く。
狭い箇所を体を押し込めるようにして抜けると、急に視界が開けた。
宙に浮いたざくろの爪先の向こうに、仄かな灯りに映し出された町が階段状に広がっている。
ここが村で聞いた『大空洞』なのだろう。
ゴブリンの巣窟とはいえ、細部に彫刻が施された建物が連なる光景は幻想的だった。
直下の地面には、最上段の壁際に沿って瓦礫が積みあがっている。上の穴から落ちた土砂が築いたのだろう。
もう少しで底という時、ざくろとディーナの髪に何かが降りかかる。
小石混じりの砂のような……。
それが何を意味するかに気づいて、ざくろは短く叫んだ。
「気をつけろ! 崩れる!」
途端、重い音が空洞内を震わせる。
浮遊感を覚えた次の瞬間、土煙とともに2人は落下した。
埃にせき込み頭を振りながら、ざくろは体を起こす。
「いたた……大丈夫? ディーナ」
「な、何とかなの……」
互いに大きな怪我は無い。
2人の手の中には短くなってしまったロープが残っている。途中にあった岩が崩れ、ロープを断ち切ったのだろう。
「そうだ、エミール!」
ざくろの声をディーナが腕を伸ばして制する。
町の方からざわついた気配と明かりが近づいてくる。住処の近くで大きな音がすれば、確認に来るのは自然の事だった。
2人はその場に静かに身を伏せる。簡単には登って来れない場所なのが幸いしたか、しばらくすると元の静寂が戻ってきた。
崖下を覗き込み、ざくろは脅威が去ったのを確かめる。
その背中で、ディーナが息をのむ音が聞こえた。
灯火の水晶球が照らした奥の壁。
岩壁の窪みにもたれるようにして、蒼白の顔で目を瞑った少年が、独り足を投げ出して座っていた。
●秘密基地
「よくこんな場所を見つけたね」
ケイが感心したような呆れたような口調で高い天井を見上げる。巨石を組んで作られた秘密基地の中は、明らかに人の手が入ったものだ。
秘密基地の本棚を動かすと隠し通路が現れる。その先が、遺跡の大空洞だった。
さながら、空洞を見下ろすバルコニーだろうか。『ツバメの巣』によく似た位置と形をしている。
アデリシアが柱に持ってきたロープを結び付ける。張り具合を確かめてからロープを握り、まりおが手すりを越える。
降下の順番を待ちながら、パティは不安を隠せずにいた。
(ロープが切れちゃったけど、2人とも無事なの)
(エミール君を見つけたの。でも、両脚ともひどい骨折をしてて、まだ目を覚まさないの……)
口伝符を使ってディーナが地上に伝えた言葉だ。仲間はともかく、子供たちにそのまま伝えるのはためらわれた。
緊迫した雰囲気を感じ取ったか、ジーノも緊張した様子で降下を見守っている。
そんなジーノの前に、レオナが座り込んで優しく尋ねた。
「エミールくんに、何か伝えたいことはある?」
きょとんと瞬きしてから、ジーノは鞄の中から紙包みをレオナに差し出した。
「これは……ビスケットね。渡しておくわ」
「あっ、あと……!」
周りを見回し、ジーノは手を添えてエルフの長い耳に囁く。
レオナは少年の言葉に耳を傾けて淡く笑んだ。
「必ず伝えますね」
●地下遺跡
角から顔を出し、まりおは通りの先を窺った。
エミールの安全を考えると、ゴブリンたちに侵入を気づかせないほうがいい。一刻を争う今は、戦闘は極力避けたい気持ちもある。
「あの建物、怪しいんじゃない?」
まりおの視線の先、町はずれの建物の前にゴブリンが2体、松明を背に立っている。いかにも暇そうな様子だが、手には長い棍棒、腰には角笛を提げていた。
マッピングを行うパティが、方向感覚で地図と地形を照らし合わせる。
「方角もだいたい合ってるヨ」
「なら、奥は私がやるわね」
まりおの横でケイが仮面をつける。その瞳は黒から金に転じていた。
2人はタイミングを合わせ、一気に仕掛けた。
「ギッ……!」
ゴブリンの腕に手裏剣が刺さった瞬間、目の前にまりおの姿が現れる。
何よりも移動力と加速を重視した動きは、油断したゴブリンの眼に捉えきれるものでは無い。チェイシングスローで接敵したまりおが、ハンターマントを翻し目の前のゴブリンを易々と斬り伏せる。
急な敵の出現に、もう1体のゴブリンが後ずさった。慌てて腰の角笛を探る。
その喉元に矢が突き刺さる。
ケイの放ったエルヴィンアローが微かな風切り音とともに急所を射抜く。仄暗いのを考慮して、スターゲイザーを暗視ゴーグル代わりに使ったからこそ成せる技だった。
周囲から自分たち以外の生命体が消えたのを確認してレオナが頷く。アデリシアが建物の中を確認すると、真っ暗な石の廊下が奥へ伸びていた。
灯りを最小限に抑え足を踏み入れる。
まりおを先頭にしばらく歩くと、道が二股に分かれていた。
パティが道を書き込んだペンを片手に首を傾げる。
「どっちカナー?」
「何もいないのは、こちらですね」
来た道の両側に石で印をつけていたレオナが、迷いなく左の道を指差す。
10体ほどの生命が右の道の先に集中しているのを、生命感知で感じ取っていた。遮蔽物が少ない事もあり、周囲の生命体の位置を把握するにはこれ以上ない力だ。
5人は着実に遺跡の奥へと進んでいく。
●治療
ディーナは少年の額に浮かぶ汗を拭った。
ざくろと協力して少年を横にし、フルリカバリーで切り傷を塞ぐ。影響が少ない場所ではあったが、浄化も併せて行った。
不自然な角度に曲がった両脚は熱をもって腫れ上がっている。ここでは、添え木代わりの物で固定するくらいしかできない。
ざくろが懐中時計を取り出す。
「降りて1時間か」
「口伝符は時間切れなの。大切な事は伝えられたけど……」
ざくろは魔導短伝話とディーナのトランシーバーを操作する。通信が繋がる気配はない。
仲間は今どのあたりまで来ているだろうか。
「う……」
「エミール君……?」
微かなうめき声に、ディーナとざくろは枕元に駆け寄った。
薄く目を開き、2人の顔を交互に見てから少年は小さく頷く。
「足が……」
「もう大丈夫。よく頑張ったね」
「水分と、できれば栄養も摂った方がいいの」
慎重にエミールの上半身を起こし、水筒の水を飲ませる。
様子を見ながら、ディーナの持ってきた蜂蜜と、ざくろの「ピッガーズ」を与える。
エミールの顔色が随分良くなってきたのに、ディーナはほっと胸を撫でおろした。
後は仲間と合流してここから脱出するだけだ。
町の方がにわかに騒がしくなったのは、その時だった。
●@*#
最上段の瓦礫の上に明かりが見える。
そう住民から報告を受けて兵たちは色めき立った。
偶然穴から落ちてきたのだろう。久しぶりの獲物だ。
『@*#!』
角笛が鳴らされる。
通路からも仲間を集めて瓦礫へ向かう。
増援を呼びに別の大空洞へ伝令兵が駆けた。
分岐路に差し掛かった時、暗がりから飛び出した影の塊が伝令兵を襲った。
ワイヤーで体の自由を奪ったゴブリンを細い足で蹴り倒して、アデリシアは通路の奥を鋭く見据える。
「先程までの巡回とは明らかに違うようですね」
「つながった……!」
魔導短伝話で通信を試みていたまりおが、抑えた声で仲間に知らせる。
酷い雑音の影に聞こえてきたのは、ゴブリンの声と剣戟の音だった。
●危機
マテリアルアーマーを纏い、瓦礫を登ってくる集団をデルタレイで貫く。
仲間を盾に近付くゴブリンを機導剣で薙ぎ払う。その死体を乗り越えてホブゴブリンが現れる。
「誰にも手出しはさせない……」
瓦礫の際で敵を食い止めるざくろが、誰に聞かせるでもなく告げる。
単純な戦闘技術はこちらの方が数段上。だが、相手の数が多すぎる。
肩で息をしながら、一向に減る気配の無いゴブリン達に武器を構え直す。
ディーナはエミールを庇って、別方向のゴブリンを食い止めていた。
ナイフを構えて敵を牽制する。セイクリッドフラッシュはあと何回撃てるだろう。
どちらかがエミールを背負うとして、あと1人が守り抜いて入口まで辿りつけるだろうか。
「僕はもういいです、ハンターさんたちだけでも――!」
「それだけは絶対ダメなの」
たまらず叫んだエミールを、ディーナがきっぱりと制する。
ここまで来て、置いていく選択肢などあり得ない。
打開策を探して周囲に視線を巡らせ、ディーナは気づいた。トランシーバーが電波を受信している。
ざくろを囲んだゴブリンの攻撃が輝く鳥に受け止められる。レオナの瑞鳥符だ。
パティが五色光符陣で敵の目を眩ませ、まりおが持ち前のスピードで縦横無尽にゴブリンを討ち取る。
暗がりから狙う敵は、ケイが見極めて妨害射撃で次々に足を射抜いていく。
ディーナとエミールを狙うゴブリンをワイヤーで引きはがし、シャドウブリットで討ち取ったアデリシアが瓦礫の上の姿を認めて走り寄る。
「無事ですか、ざくろさん」
その後ろでは抱きつかんばかりに、パティがディーナとの再会を喜んでいる。
「エミールくん?」
レオナがエミールを見つけて駆け寄った。
伝言を聞いて包みを受け取ると、少年は緊張の糸が切れたように笑顔を浮かべた。
「ジーノの大好物ですね、これ」
●報告
翌日。
パティは本格的に遺跡の調査の必要があると、作った地図を元に村長と話し合った。ソサエティにはケイが情報を流してくれるようだ。
事件が無事解決しても、地下の遺跡は変わらずそこにある。
「やっぱ、かっこ良かったよなぁ……」
ベッドの足元に腰かけ呟いたジーノに、エミールが読んでいた本を閉じる。
遺跡の奥で聞いた伝言を思い出した。
「本当に目指すの? ハンター」
「お前は遺跡の調査したいんだろ? オレがハンターになってついてってやるよ」
「いつか、足が治ったらね」
苦笑するエミールにジーノはにやりと笑う。
「決まりだな。父さんの所に地図があるんだ。それを借りて……」
また明かりが近づいてくる。瓦礫の壁に背中を押し付け体を縮こまらせる。
浅く息を継ぎ、気配が通り過ぎるのを待ち続ける。
―――。
戻ってきた暗闇に、肺にたまった空気を吐き出す。
頭を預ける岩はごつごつしていたが、ひんやりと冷たく幾度目かの吐き気を収めるには丁度良かった。
それでも壁際に移動したのに比べればずっとましだ。腕を使って這い進んだ時は、脚が小石に触るたびに胃がひっくり返りそうだった。
眠る前に聞こえていた微かな声は、今はもう聞こえない。
再び訪れたまどろみに沈んでいく。
●村にて
準備を整え、村の広場にやって来たアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は、子供の目線に屈んで話を聞くパトリシア=K=ポラリス(ka5996)の姿に目を止めた。
「森の中にハ、他に何があるカナ?」
「川!」
「亀っぽい岩」
集まった子供たちはパトリシアこと、パティに口々に答える。
「秘密基地の洞窟! ……あっ」
「秘密基地……どーくつ、ナノ?」
しまった、という風に口に手を当てた男の子にパティは首を傾げる。
男の子は困ったような表情で周りの子供たちの顔を見てから、こくん、と頷いた。尋ねているのは憧れのハンター。そして今は大事な仲間の危機なのだ。
「みんなデ掘った? それとも……」
「ジーノ兄ちゃんと、エミール兄ちゃんが見つけた。入口はめだたないけど中は大きな石で作ってあるんだ」
「この地図ナラ、どの辺りカナ?」
村長から貰った地図には、既に遺跡の入口と穴の場所がマークしてある。小さな指がその中間点を指す。
パティはそこに印をつけ、お礼を言って子供たちの輪から離れた。
「この位置……遺跡に通じているんでしょうかね?」
同じく可能性を考えていたアデリシアが、パティの持つ地図を凝視する。
「昔からの洞窟ナラ、可能性ありダネ」
「手がかりがあるなら、行くしかないね」
別の場所から一部始終を見ていたケイ(ka4032)も同意見のようだ。
「大変だよ!」
家の影から走り出てきたのはレオナ(ka6158)と超級まりお(ka0824)だ。
後ろに小柄な少年を連れている。ジーノの弟、テオだった。
「ジーノくんが秘密基地に行くと、外に出て行ってしまったようなのです」
レオナはジーノのもどかしそうな様子が気になって、まりおは地形について話を聞こうとしていた。
家を訪ねた所、ハンターを探すテオに会い事情を聞いたのだった。
「急いで救助に行こう!」
「こっちだよ」
勢い込むまりおに、テオは村の出口を指差した。
●説得
「あれは……」
一足先に騎馬で穴へ向かっていた時音 ざくろ(ka1250)とディーナ・フェルミ(ka5843)、案内役の村人は、先を走る子供に気づいて手綱を引いた。
「ジーノ!?」
馬を降りて駆け寄る3人に『げっ』と声をあげたジーノだったが、重い荷物を抱えていては振り切れない。
渋々足を止め、不貞腐れた様子で地面にどかっとあぐらをかいた。
「なんだよ。男にはやらなきゃいけねー時があるっつったり、駄目だっつったり……」
「その気持ちはよく分かる。でも時には堪えるのも男だよ」
ジーノは片目でハンターたちを見る。ディーナの心配そうな顔が目に入る。
そうしているうちに、テオと5人のハンターたちも追いついた。
「帰ってきた時に会いたい相手が出迎えてくれないなんて寂しいじゃない」
静かな笑みを湛えたケイが、ジーノの肩に触れる。
「やらなきゃいけない時がある……そう、今は待機をしなければならない時よ。男ならぐっと堪えなさいな」
姿は若いのに老練さも感じさせる、不思議な響きをもった言葉だ。
「兄ちゃん……」
テオがハンターの影から不安げに兄を見ている。
ハンターの説得と弟の手前、ジーノもいつまでも意地を張るわけにいかなかった。
「……秘密基地に行こうと思ったんだ。エミールと、奥に続く隠し通路を見つけて。多分、遺跡の中に出れる」
やっぱり、とハンターたちは頷き交わす。
「オレ、案内するよ。だからエミールのこと……お願い。ハンターの姉ちゃんたち」
「必ず助けてくる、待ってて。……ってざくろ男! 男だからっ!」
「へ……?」
力強く応えてから慌てて否定するざくろに、ジーノとテオは同じように目を丸くした。
●降下
穴の縁で目を閉じたレオナが、細い糸を手繰るように探り当てたのは、微かな希望だった。
「真下から少し離れた所に……孤立している生命を感じます。……かなり深い場所です」
ロープの一端を樹に結び、ざくろとディーナはそれを頼りに真っ暗な穴の中へ降りていく。
中は思った以上に狭く、粗削りな壁面には尖った岩がそこかしこに突き出していた。
ダックスフントは大きすぎて村人に預けるほかなかったが、ディーナの懐には、パティから預かった口伝符がしまい込まれている。いざという時の大切な連絡手段だ。
先行するざくろの『灯火の水晶球』が底を照らし出した。――と思ったら、穴は傾斜して更に下へ続く。
狭い箇所を体を押し込めるようにして抜けると、急に視界が開けた。
宙に浮いたざくろの爪先の向こうに、仄かな灯りに映し出された町が階段状に広がっている。
ここが村で聞いた『大空洞』なのだろう。
ゴブリンの巣窟とはいえ、細部に彫刻が施された建物が連なる光景は幻想的だった。
直下の地面には、最上段の壁際に沿って瓦礫が積みあがっている。上の穴から落ちた土砂が築いたのだろう。
もう少しで底という時、ざくろとディーナの髪に何かが降りかかる。
小石混じりの砂のような……。
それが何を意味するかに気づいて、ざくろは短く叫んだ。
「気をつけろ! 崩れる!」
途端、重い音が空洞内を震わせる。
浮遊感を覚えた次の瞬間、土煙とともに2人は落下した。
埃にせき込み頭を振りながら、ざくろは体を起こす。
「いたた……大丈夫? ディーナ」
「な、何とかなの……」
互いに大きな怪我は無い。
2人の手の中には短くなってしまったロープが残っている。途中にあった岩が崩れ、ロープを断ち切ったのだろう。
「そうだ、エミール!」
ざくろの声をディーナが腕を伸ばして制する。
町の方からざわついた気配と明かりが近づいてくる。住処の近くで大きな音がすれば、確認に来るのは自然の事だった。
2人はその場に静かに身を伏せる。簡単には登って来れない場所なのが幸いしたか、しばらくすると元の静寂が戻ってきた。
崖下を覗き込み、ざくろは脅威が去ったのを確かめる。
その背中で、ディーナが息をのむ音が聞こえた。
灯火の水晶球が照らした奥の壁。
岩壁の窪みにもたれるようにして、蒼白の顔で目を瞑った少年が、独り足を投げ出して座っていた。
●秘密基地
「よくこんな場所を見つけたね」
ケイが感心したような呆れたような口調で高い天井を見上げる。巨石を組んで作られた秘密基地の中は、明らかに人の手が入ったものだ。
秘密基地の本棚を動かすと隠し通路が現れる。その先が、遺跡の大空洞だった。
さながら、空洞を見下ろすバルコニーだろうか。『ツバメの巣』によく似た位置と形をしている。
アデリシアが柱に持ってきたロープを結び付ける。張り具合を確かめてからロープを握り、まりおが手すりを越える。
降下の順番を待ちながら、パティは不安を隠せずにいた。
(ロープが切れちゃったけど、2人とも無事なの)
(エミール君を見つけたの。でも、両脚ともひどい骨折をしてて、まだ目を覚まさないの……)
口伝符を使ってディーナが地上に伝えた言葉だ。仲間はともかく、子供たちにそのまま伝えるのはためらわれた。
緊迫した雰囲気を感じ取ったか、ジーノも緊張した様子で降下を見守っている。
そんなジーノの前に、レオナが座り込んで優しく尋ねた。
「エミールくんに、何か伝えたいことはある?」
きょとんと瞬きしてから、ジーノは鞄の中から紙包みをレオナに差し出した。
「これは……ビスケットね。渡しておくわ」
「あっ、あと……!」
周りを見回し、ジーノは手を添えてエルフの長い耳に囁く。
レオナは少年の言葉に耳を傾けて淡く笑んだ。
「必ず伝えますね」
●地下遺跡
角から顔を出し、まりおは通りの先を窺った。
エミールの安全を考えると、ゴブリンたちに侵入を気づかせないほうがいい。一刻を争う今は、戦闘は極力避けたい気持ちもある。
「あの建物、怪しいんじゃない?」
まりおの視線の先、町はずれの建物の前にゴブリンが2体、松明を背に立っている。いかにも暇そうな様子だが、手には長い棍棒、腰には角笛を提げていた。
マッピングを行うパティが、方向感覚で地図と地形を照らし合わせる。
「方角もだいたい合ってるヨ」
「なら、奥は私がやるわね」
まりおの横でケイが仮面をつける。その瞳は黒から金に転じていた。
2人はタイミングを合わせ、一気に仕掛けた。
「ギッ……!」
ゴブリンの腕に手裏剣が刺さった瞬間、目の前にまりおの姿が現れる。
何よりも移動力と加速を重視した動きは、油断したゴブリンの眼に捉えきれるものでは無い。チェイシングスローで接敵したまりおが、ハンターマントを翻し目の前のゴブリンを易々と斬り伏せる。
急な敵の出現に、もう1体のゴブリンが後ずさった。慌てて腰の角笛を探る。
その喉元に矢が突き刺さる。
ケイの放ったエルヴィンアローが微かな風切り音とともに急所を射抜く。仄暗いのを考慮して、スターゲイザーを暗視ゴーグル代わりに使ったからこそ成せる技だった。
周囲から自分たち以外の生命体が消えたのを確認してレオナが頷く。アデリシアが建物の中を確認すると、真っ暗な石の廊下が奥へ伸びていた。
灯りを最小限に抑え足を踏み入れる。
まりおを先頭にしばらく歩くと、道が二股に分かれていた。
パティが道を書き込んだペンを片手に首を傾げる。
「どっちカナー?」
「何もいないのは、こちらですね」
来た道の両側に石で印をつけていたレオナが、迷いなく左の道を指差す。
10体ほどの生命が右の道の先に集中しているのを、生命感知で感じ取っていた。遮蔽物が少ない事もあり、周囲の生命体の位置を把握するにはこれ以上ない力だ。
5人は着実に遺跡の奥へと進んでいく。
●治療
ディーナは少年の額に浮かぶ汗を拭った。
ざくろと協力して少年を横にし、フルリカバリーで切り傷を塞ぐ。影響が少ない場所ではあったが、浄化も併せて行った。
不自然な角度に曲がった両脚は熱をもって腫れ上がっている。ここでは、添え木代わりの物で固定するくらいしかできない。
ざくろが懐中時計を取り出す。
「降りて1時間か」
「口伝符は時間切れなの。大切な事は伝えられたけど……」
ざくろは魔導短伝話とディーナのトランシーバーを操作する。通信が繋がる気配はない。
仲間は今どのあたりまで来ているだろうか。
「う……」
「エミール君……?」
微かなうめき声に、ディーナとざくろは枕元に駆け寄った。
薄く目を開き、2人の顔を交互に見てから少年は小さく頷く。
「足が……」
「もう大丈夫。よく頑張ったね」
「水分と、できれば栄養も摂った方がいいの」
慎重にエミールの上半身を起こし、水筒の水を飲ませる。
様子を見ながら、ディーナの持ってきた蜂蜜と、ざくろの「ピッガーズ」を与える。
エミールの顔色が随分良くなってきたのに、ディーナはほっと胸を撫でおろした。
後は仲間と合流してここから脱出するだけだ。
町の方がにわかに騒がしくなったのは、その時だった。
●@*#
最上段の瓦礫の上に明かりが見える。
そう住民から報告を受けて兵たちは色めき立った。
偶然穴から落ちてきたのだろう。久しぶりの獲物だ。
『@*#!』
角笛が鳴らされる。
通路からも仲間を集めて瓦礫へ向かう。
増援を呼びに別の大空洞へ伝令兵が駆けた。
分岐路に差し掛かった時、暗がりから飛び出した影の塊が伝令兵を襲った。
ワイヤーで体の自由を奪ったゴブリンを細い足で蹴り倒して、アデリシアは通路の奥を鋭く見据える。
「先程までの巡回とは明らかに違うようですね」
「つながった……!」
魔導短伝話で通信を試みていたまりおが、抑えた声で仲間に知らせる。
酷い雑音の影に聞こえてきたのは、ゴブリンの声と剣戟の音だった。
●危機
マテリアルアーマーを纏い、瓦礫を登ってくる集団をデルタレイで貫く。
仲間を盾に近付くゴブリンを機導剣で薙ぎ払う。その死体を乗り越えてホブゴブリンが現れる。
「誰にも手出しはさせない……」
瓦礫の際で敵を食い止めるざくろが、誰に聞かせるでもなく告げる。
単純な戦闘技術はこちらの方が数段上。だが、相手の数が多すぎる。
肩で息をしながら、一向に減る気配の無いゴブリン達に武器を構え直す。
ディーナはエミールを庇って、別方向のゴブリンを食い止めていた。
ナイフを構えて敵を牽制する。セイクリッドフラッシュはあと何回撃てるだろう。
どちらかがエミールを背負うとして、あと1人が守り抜いて入口まで辿りつけるだろうか。
「僕はもういいです、ハンターさんたちだけでも――!」
「それだけは絶対ダメなの」
たまらず叫んだエミールを、ディーナがきっぱりと制する。
ここまで来て、置いていく選択肢などあり得ない。
打開策を探して周囲に視線を巡らせ、ディーナは気づいた。トランシーバーが電波を受信している。
ざくろを囲んだゴブリンの攻撃が輝く鳥に受け止められる。レオナの瑞鳥符だ。
パティが五色光符陣で敵の目を眩ませ、まりおが持ち前のスピードで縦横無尽にゴブリンを討ち取る。
暗がりから狙う敵は、ケイが見極めて妨害射撃で次々に足を射抜いていく。
ディーナとエミールを狙うゴブリンをワイヤーで引きはがし、シャドウブリットで討ち取ったアデリシアが瓦礫の上の姿を認めて走り寄る。
「無事ですか、ざくろさん」
その後ろでは抱きつかんばかりに、パティがディーナとの再会を喜んでいる。
「エミールくん?」
レオナがエミールを見つけて駆け寄った。
伝言を聞いて包みを受け取ると、少年は緊張の糸が切れたように笑顔を浮かべた。
「ジーノの大好物ですね、これ」
●報告
翌日。
パティは本格的に遺跡の調査の必要があると、作った地図を元に村長と話し合った。ソサエティにはケイが情報を流してくれるようだ。
事件が無事解決しても、地下の遺跡は変わらずそこにある。
「やっぱ、かっこ良かったよなぁ……」
ベッドの足元に腰かけ呟いたジーノに、エミールが読んでいた本を閉じる。
遺跡の奥で聞いた伝言を思い出した。
「本当に目指すの? ハンター」
「お前は遺跡の調査したいんだろ? オレがハンターになってついてってやるよ」
「いつか、足が治ったらね」
苦笑するエミールにジーノはにやりと笑う。
「決まりだな。父さんの所に地図があるんだ。それを借りて……」
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/27 23:15:13 |
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エミールくん救出作戦 レオナ(ka6158) エルフ|20才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/04/30 06:52:53 |