山峡を彷徨う黒い五兄弟

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~6人
サポート
0~2人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/05/03 19:00
完成日
2017/05/12 01:38

みんなの思い出

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オープニング

 風に暖気が含まれるようになって久しい、ある日の夕刻。山あいに帰途を急ぐブルネットの少女・セリカがいた。
 彼女の家はこの山の向こう。小さな谷を越えたところにある。働き盛りとなった大人たちの流出が激しく、過疎が進んだわびしい村だ。
 しかし彼女にとってこの村は何よりも大切な故郷となっている。
 かつて両親を早くに亡くし、行く先を失ったセリカを救ってくれたのがこの村の人々だったのだ。
 純朴で温厚な老人たちは彼女にまるで本当の子供のように優しく接し、育ててくれた。
 そこで先月18歳になったばかりの彼女は村人に恩返しをするべく、16の頃から嗜んでいた馬術と明朗闊達な話術に磨きをかけ、今月から村の外への交渉役を担っている。
 厳しい冬を乗り越えた春の村は希少な薬草や滋味あふれる山菜に恵まれており、その自然の恵みを金や物資に替えることも彼女に任された仕事のひとつ。
 今日もセリカは街まで足を運び、村の子供や老人達が摘んだ薬草を彼らが必要とする雑貨や食品に換えたのだった。

 商売に思いのほか時間がかかった一日だった。いつの間にか空が闇に染まりかけている。
 月が雲に隠れ、普段は心地よいはずの薫風が生暖かく不気味に頬をなでた。
「あぁ、もう日が暮れそう。マリラばあちゃんのとこに夕方までに油を届けようと思ってたのに……」
 夜の山道の恐ろしさを知っている彼女はやむなく馬から降り、腰から下げていたランタンに火を点ける。
 ここからは歩いていくしかないか、そうため息をついて馬を牽く。
 山の向こう、木々の間から温かみのある明かりが見える。ささやかだが幸せな村の風景だ。
 あと少し歩けば愛しい故郷に着く。

 その時、彼女は奇妙なことに気がついた。道の先に何かがいる。
 無意識に、彼女は木々の陰に隠れた。
 それはランタンほど大きな光ではないが、煌々と輝いている。
 そして10ほどあるその小さな光は2つずつ対となり、時折ゆったりとした動作で左右に揺れた。大きさから判断すると、狼だろうか。
(獣? 困ったわね。でも熊ならともかく、狼なら戸締りさえしっかりしていれば問題ないはず。皆に申し訳ないけど、街の方で事情を話して一晩だけ休ませてもらおうかしら。あんまり遅い時は村の門を閉めるようにお願いしているし大丈夫よね)
 やれやれ、と踵を返そうとした少女。その時、月が雲間から顔を出して山峡を照らし出した。
 彼女は見てしまった。
 そこにいたのは4匹の漆黒の獣と、それより一回り大きい何か。
 それは普通の狼では在り得ないほど長大な尻尾を垂らしている。
 大きく張り出した筋肉は獣本来のしなやかなものと明らかに異なっていた。
 おおまかな形こそ狼だが、狼とは呼びたくないと思える異形のものがそこにいる。
 思わず、息を呑む。その音が聞こえたのだろうか、10の瞳がこちらを見たような気がした。
 セリカは慌てて馬に飛び乗ると、街に向かって一目散に駆け出す。
(何なの、あれ。きっと私や普通の人間じゃどうにもできない。ハンターに助けてもらわないと……!)

 深夜のハンターオフィスに駆け込んだセリカは草と泥に塗れた無残な姿で悲痛な声をあげた。
「お願いします、私たちの村を助けてください! 小さい集落で、頼りになる大人がみんな外に働きに行っていて……このままじゃ狼の化け物にみんなやられちゃう!」
 彼女によると山道には売り物となる薬草を摘むため、朝早くから村人が訪れることが少なくないという。
 オフィスの受付嬢は「まずは落ち着いて」と彼女の顔を湯で湿らせた布で拭い、傷の手当てをしながら事情を聞いた。
 話が進むにつれ、受付嬢の眉が顰められていく。
 オフィスに出入りしている初々しいハンターたちに向けて彼女が言った。
「急ぐ必要がありそうですね。今から出られる方はいらっしゃいませんか!」
 何人かのハンターが頷きあい、武器を手に取り立ち上がる。
 集落の少女は受付嬢の隣で涙を拭い、彼らに向けて深く頭を下げた。

リプレイ本文

 薄明の中、ある山道を足早にゆく一行の姿があった。
 道案内を申し出た依頼人・セリカと共に歩むのは集落の危機に立ち向かう決意をしたハンターたち。彼らは言葉少なに、ただただ山道を急ぐ。

 山頂を過ぎ、坂を降りていく道中。ふいに村の方角に見通しが開ける。その瞬間、セリカが鋭い声を発した。
「あ、あそこ! 橋の上に!」
 少女が突き出した指の先にはこの山と集落を繋ぐ架け橋があり、そこに5体の雑魔が伏せている。
「狼雑魔さんはどこにでも居る気がしますね」
 自転車を押す少女・アシェ-ル(ka2983)がおっとりと呟いた。
 一方で自身を狼と称する少女・ソティス=アストライア(ka6538)は敵の姿にかすかな戸惑いを抱いたが、それを振り切るように強く言い放った。
「同胞とはいえ歪虚は歪虚だ。焼き払ってくれよう……!」

 橋まではまばらに木が生えているが見晴らしのいい道になっている。つまり互いに視認可能ということだ。
「ここから先は危険ね。私は『準備』をしてくるわ。もし動きがあったら教えて頂戴」
「あの、私にできることがあればお手伝いさせてくださいっ」
 皆に背を向けたアルスレーテ・フュラー(ka6148)に縋るようにセリカが言った。村のためにできることを今は何でもやりたいのだ。
「ああ、血抜きしていない肉塊を荷解きするのよ。血の臭いに慣れていないかぎりおすすめしないわ」
「そうなんですか……」
「さ、行くわよ。聖ニクラウス三世」
 先ほどまで乗っていた愛馬の手綱を引き、岩陰に向かうアルスレーテ。
 肩を落とすセリカに、青い髪を持つ端正な姿の兄妹・雹(ka5978)と澪(ka6002)が声をかける。
「自己紹介が遅れたね。僕は雹、よろしくね。ここは危ないから避難しよう」
「私は澪、よろしく」
 朗らかな表情の雹に安心したのか、セリカは2人に「こちらこそ」と微笑んだ。避難の道すがら、彼女はハンター達の役に立てばと谷周辺の足場が悪い場所を教える。幸い、戦場となる橋の近辺から離れた場所だったが、兄妹は頷き心に留めた。
 
 雹と澪が戻ってきてからほどなくして、肉塊を抱えたアルスレーテも帰ってきた。その傍に馬は、いない。
「変わりはない?」
「はい! 橋の上でまったりしてますですっ」
 レネット=ミスト(ka6758)が声の主に向かい、くるりと振り向くと驚愕した。
 声の主は両手いっぱいに肉を抱えていた。そのことに問題はない。だがその肉はつい先ほどまで生きていた動物だったかのように血が滴っている。
「あ、あの……これば?」
「さすがに血に慣れていないお嬢さんの前で捌くわけにはいかないでしょ。具合を悪くされると困るしね」
 妙に生々しい肉塊と、飄々とした先輩ハンターの言葉。レネットはふいに恐ろしい情景を想像した。
(ああああれはきっと、お肉屋さんに出発間近に急いで用意してもらったお肉なんですっ! さっきあんなに大きな荷物持ってなかったよね? とか、お馬さんはどこに? とか、考えちゃいけないですっ!)
 そんな純朴なドワーフ少女の錯乱を知ってか知らずか、手が血まみれのエルフは「乗り物にも肉にもなる。馬って便利よね」と呟いた。
 アシェールはレネットと真逆に肉へ瞳を輝かせたが、寂しげに目を伏せる。
「新鮮なうちに、食べたいですが……悠長にしている暇もありませんよね」
「そうね、さっさと終わらせましょ」
 淡々とした様で橋方面に向かうアルスレーテ。雑魔らの目線を窺っては死角となる茂みや木陰に隠れ、木々の枝や岩の上に肉のかけらを配置する。
 雑魔たちは彼女を視認できなかったが、強烈な臭いに警戒したようだ。大狼雑魔が顎をくい、と上げると狼雑魔たちが立ち上がる。左右に広がり先行する4体に、大狼雑魔がゆったりとした歩みで続いた。
 アルスレーテは身を隠したまま後方に下がり、雑魔たちが完全に橋から離れるのを仲間達とともに隠れて待つ。
 レネットも先ほどの戸惑いを胸の奥にしまい込み、隣で息を潜める澪へ光の加護を与えた。



 狼雑魔2体がまず先行し、一行の隠れ場所に接近した。警戒しているのか歩みは遅いが、最後尾の大狼雑魔も橋から離れて久しい。
 そこでアルスレーテが仲間たちと頷きあうと、第一に彼女が茂みから姿を現した。たちまち雑魔どもが唸りを上げる。
(「頼りになる大人」の代わりになれるほど私は頼りになるとは思ってないけど。まあ頼りになりそうな人が他にもいるから何とかなるでしょう)
 アルスレーテが振り向くと木陰で自転車のハンドルを握るアシェールが目に映った。彼女には彼女なりの思惑があるのだろう。じっと敵の動向を窺っている。
 互いに息が詰まる中、開戦の口火を切ったのは次に姿を現したソティスだった。
「……狩りの時間だ、狼と言えど容赦はせんぞ……!」
 開いた聖書に手を翳す。練り上げたマテリアルが力を増幅させていく。その力は彼女の周囲に複数の魔方陣を展開し、青白い炎を纏う狼を何体も召喚した。空に向かい火球を吐き、虚空へと還る狼たち。いくつもの火球は空中でひとつの塊となり、苛烈な力をもって爆散した。
 先行していた2体が炎に包まれる。背や尾から表皮が剥がれ、赤黒い肌が露わになった。地に転がり、必死に火消しを試みる彼らの前に外側を守備していた2体が庇うように立ち塞がる。
(横が空いた、今なら!)
 雹の鍛えぬかれた健脚が地を強く蹴った。彼の視線は橋の向こうに向けられている。
「澪、そちらは任せたよ」
「兄様、ご武運を!」
 瞬時に兄の意を察した澪も大きく踏み出した。彼女は戦況を把握し、先手を打つため身体に流れるマテリアルを整えていく。
 妹の勇ましい姿を頼もしく思いながら兄は橋を越えるべく駆ける。だがその前に大狼の雑魔が立ち塞がった。ゆったりと前進していたそれが雹の姿に気づき、迎撃する形となったのだ。黒い獣が笑うように牙を剥く。
「悪いけど、通してもらうよ」
 雹もまた、不敵な笑みを湛えて身構えた。
 一方、大狼に対峙する雹の姿を目にしたレネットが杖を振り上げた。
「怪我を治すのが神子のお仕事ですっ! けれど、罪も過ちも浄め癒すのも神子の仕事なのです。ですから、狼さん達の罪を浄めるですっ!」
 祈りが光の加護となり、彼の身を包み込む。どうかご無事で、と彼女は願った。
 
 本格的な開戦を確認したアシェールは自転車に跨り、地を蹴った。
 彼女が乗っているのはいわゆる「ママチャリ」だが、覚醒した彼女が全力で加速すれば動く凶器としか呼びようのない速度を発揮する。
 疾風のように戦場を駆けるそれに狼雑魔が気づき、襲い掛からんとした。その時、白刃が煌めく。澪が雑魔の後ろ足を切り飛ばしたのだ。
「余所見しちゃ、駄目だよ」
 愛くるしい姿に不釣合いなほど流麗な太刀筋を描いて鞘に納められる刀。守りを捨てる覚悟がうら若き舞刀士に更なる力を与えていく。 
(ありがと、ですっ!)
 魔術師は振り返ることなく心の中で礼を告げた。
 橋を渡りきり、半ば自転車から飛び降りる形で着地したアシェール。体勢を立て直すと地の精霊の力を借り、橋を塞ぐように大地から壁を出現させた。この地を死守する、と心に誓って。

「……ふっ、はあっ!」
 アルスレーテは狼雑魔の攻撃を鉄扇でいなし、隙を見ては疾風のごとき打撃からコンビネーション攻撃を叩き込んだ。
 相手はもとよりソティスの火炎により表皮の大半を失っている獣である。明らかに動きが鈍っていた。
 一旦後方にステップし、まばらに残った尾を振り上げて特攻を敢行する狼。しかし彼女は容易くそれを避け、鉄扇でそのみすぼらしい頭を易々と砕く。
 呆気なく雑魔は灰燼となり、風に乗って消えた。

 雹は光の加護を受けているものの、大狼の尋常ならぬ力に圧されつつあった。
 橋を越え、逃亡を図る敵の迎撃をと考えていた雹だが、橋の前で遭遇した敵は彼に『橋を渡らせない』とばかりに行く手を塞ぐ。
「どきなよっ!」
 高く飛び上がり、体重をかけた強烈な蹴りを放つ。並みの敵ならば吹き飛ばされる一撃だ。しかし大狼雑魔は瞬間的にぐらついただけで、すぐに体勢を立て直して丸太のような尾が宙を薙いだ。
 雹は咄嗟に腕を交差し、受身を取る。電撃のように腕に走る刺激。皮膚を持っていかれたかもしれない、と彼は思った。だがその痛みが不思議と引いていく。
「絶対、絶対にこれ以上悪い事はさせないのですっ!」
 雹にレネットの癒しの祈りが届いたのだ。
「そうだね、こんな奴を逃すわけにはいかないよ」
 頷いた雹はもう一度大狼に鋭い蹴りを見舞う。固い顎が蹴り上げられ、巨大な雑魔が怯んだ瞬間に橋の向こうから桃色混じりの電撃が巨体を貫いた。
 驚いた雹が橋を見やると、アシェールが魔力を放ったばかりの杖を前に大きく振る。
「そうそう、ここから先で悪いことは絶対にさせないですよ!」
 
 時を同じくして、澪は狼による突進を受けて地面に腰を落とした。爪で裂かれた肩から血が伝う。足を一本失った狼雑魔の体当たりは然程の脅威ではなかったが、巨大な敵と対峙する兄の姿に焦りが募る。
「邪魔しないで!」
 澪の鞘から再び放たれた切っ先が地表を掠め、火花を散らす。ごう、と炎を宿した刀が目の前の雑魔の背を叩き割った。
 だがそこに新たな狼雑魔が突進。鋼鉄の鞭に似た尾を振り上げる敵に、受身を取れぬ澪が思わず身を竦める。しかし、衝撃が訪れることはなかった。
「戯けが、逃げ切れるとでも思ったか……!」
 澪の前で炎にまかれ灰と化す雑魔。その向こうでソティスが無情に言い放つ。そして彼女の隣に控える狼が陽炎のように揺れて、消えた。

 戦場を俯瞰しながら自身に重き土の鎧を纏わせ、極弩重雷撃砲による長距離攻撃支援を行うアシェール。
 そんな中でふと、彼女の背から乾いた音が聴こえた。茂みの中で草を握り締めた幼い少年が立ち尽くしている。
「出てきちゃダメですよ! 隠れててね。お姉さん達、とーても強いから!」
 彼女は少年を安心させるため僅かに振り向き、微笑んでみせた。我を取り戻した彼は「う、うん!」と辛うじて声を発し、身を隠す。
「いい子ですね」と呟いて彼女は視線を戦場に戻した。そして戦いの佳境を確信する。生き残りの雑魔達がこちらをしきりに見返す様に気づいたのだ。
 彼女は橋を封鎖する土壁にも守りの加護を与え「今こそ、防御型魔術師の真髄、お見せします!」と気合十分に宣言した。

 粘り強く鋭い蹴りを放つ少年と強力な魔法を放つ少女に挟まれた大狼雑魔。彼は橋に向かって後退すると天に向かって咆哮した。
 空気を震わせる轟音に狼雑魔が主の盾となるがごとく集う。合計2体の雑魔は橋の突破を防がんとする雹に向かい、飛び掛かった。
「くっ!」
 あわやという瞬間、アルスレーテが雹を突き飛ばし、狼雑魔の牙を鉄扇で弾く。大狼の牙が彼女の足を掠めたが、戦いに支障が出るほどの傷ではない。
 一方、狼雑魔を追っていたソティスがふいに聖書をかざした。生き残った敵が全て集まっている状況、しかもこの場にいる仲間達の中に幸いにして重傷者はいない。それなら、と彼女は決断する。
「レネット、皆の治療を頼む!」
 開戦時と同様にソティスは力を高め、複数の魔方陣から狼たちを召喚する。膨張した火球が橋の前に広がる空間を火炎地獄に変えた。火達磨となった雑魔達は吼える力も失い、崩れ落ちていく。
「皆さん、しっかり!」
 レネットは火に巻き込まれた仲間に駆け寄ると、傷の深い順に癒しの力を注いでいく。
 その時、死したかに見えた雑魔達がよろよろと立ち上がるのが見えた。
「兄様っ!」
 妹の悲痛な声に体を起こす雹。雑魔が直線上に重なる光景を目した彼は両足で地を踏みしめ、全身のマテリアルを集約する。手に激流の如きエネルギーを感じた彼は、それをまっすぐに敵に叩きつけた。
「……いくよ、青龍翔咬波っ!」
 壮絶な気迫の奔流が雑魔たちの体を突き抜けていく。最後の狼雑魔が炎を纏ったまま、ぼろぼろと崩れた。大狼雑魔も雹の気を受けて右目が潰れたが、最後の力を振り絞り、橋に向かって駆け出した。
「よし、来なさいっ!」
 橋を越えた先で土砂の重い鎧を纏ったアシェールが聖盾を掲げる。爪を振り上げた大狼は道を塞ぐ彼女をかよわい存在と見なしたのか、土壁ごとなぎ払おうと爪を振り上げた。
 どう、と土壁が崩れる。橋からの視界が開ける。茂みに隠れる少年が悲鳴をあげた。
 しかし、道は開けない。土壁などよりも強固な「防御型魔術師」がここにいるのだから。
 自慢の爪が少女に弾かれた事実を認められないのか、雑魔は怯んだ。彼の体は限界を迎えている。
 もはや逃げ道がないのならば、死なばもろとも。大狼雑魔は自らが立つ橋に向けて尾を振り上げる。……しかし彼が最期に見たものは己が身に食い込む刃だった。
 鬼の少女が兄を傷つけたそれを許さじと、先手必勝の構えをとり必殺の居合を極めたのだった。



 静寂が取り戻された山峡。
 肩を押さえて休む澪にアルスレーテが声をかけ、華奢な肩に刻まれた爪痕を確認した。派手な傷だが、見た目ほどは深くない。
「これぐらいなら何とかなりそうね」
 アルスレーテが聖書を開くと温かな光が澪を包み込んだ。心地よさを伴いながら傷が消されていく。
「あ、ありがとうございます……」
 澪が頬を桜色に染め、小さく頭を下げる。その隣で休んでいた雹が「ありがとう、助かったよ」と微笑んだ。そんな彼に銀髪のエルフが素っ気なく言った。
「何言ってるの、あなたの分もやるからじっとしてなさい」と。

 アシェールは戦場に撒かれた肉を集めていた。
「まだ、大丈夫そうですね」
 肉の表面はやや乾燥しているが、幸い傷んでいない。十分に洗い火を通せば食しても腹を病むことはないだろう。
「アルスの話では高級な肉ということだったな。さぞ美味いんだろう」
 ソティスが横からひょい、と顔を出した。アシェールが訳知り顔で「とても新鮮ですから」と頷き、提案する。
「折角だから、セリカさん達を送るついでに食べられそうな所を村に持って行きます?」
「ああ、それは名案だ。調理場を貸してもらえれば良いな。焼肉もいいし、煮込みも捨てがたい。……いや、やはり焼肉だ。タレを忘れてはいかん」
 普段は大人びているソティスの瞳の輝きに、アシェールは思わず微笑んだ。

(今回は神子らしくできたでしょーかっ! もっともっと経験を積んで立派な神子になるですよ!)
 レネットは初めての実戦で癒し手として腕を振るえたことに達成感を抱き、胸がいっぱいになっていた。
 故郷のある方角を眺め、敬愛する祖父に少しでも近づけたかと自問する。答えはわからないが、ハンターとして前に進んだことは確かだ。
 その時、村に戻ったはずのセリカが一行を呼ぶ声が聞こえた。村で歓迎会が行われるという。
 神子志望の少女は元気いっぱいに返事をすると走り出した。

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MVP一覧

  • 東方帝の正室
    アシェ-ルka2983
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラーka6148

重体一覧

参加者一覧

  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 陽と月の舞
    雹(ka5978
    鬼|16才|男性|格闘士
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 白狼は焔と戯る
    ソティス=アストライア(ka6538
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 紡ぎしは歌、そして生命
    レネット=ミスト(ka6758
    ドワーフ|17才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓 ~狼雑魔討伐~
アシェ-ル(ka2983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/05/03 18:26:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/28 20:02:48