ゲスト
(ka0000)
帰らぬ子供
マスター:TRIM

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/17 15:00
- 完成日
- 2014/06/24 21:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
──チリンチリン。
腰に着けた鈴が、鳴る。
「ふぅ……薪は、この位でいいかな?」
拾い集めた薪を背負子に纏めて少年が背負うと眠っていた犬のジョンが目を覚まし、「やっと帰るのか?」と嬉しそうに尻尾を振る。
「まだだよ、ジョン。お母さんの薬草を採って帰らなきゃ」
マルコの母親は、長い間胸を患っていた。
薬草が生えている山の奥へと向かうマルコ。
だが──
「あれ? なんで生えていないの?」
一面新芽が刈り取られたようになっている。
「鹿が食べちゃったのかな? ちょっと位残して置いてくれてもいいのに……」
愚痴っても仕方がないので、薪を背負いなおし、別の場所に向かうマルコ。
(あっちは、昨日の雨で途中の道が崩れたってジェフおじさんが言っていたよな。
回り道しなきゃいけないけど夕方までに帰れるかなぁ……)
近道をしようと小さな脇道に入ったマルコ。
ワンワンと吠えながらジョンが、マルコの服を引っ張る。
「五月蝿いよ、ジョン」
叱られたジョンが悲しそうな顔をする。
「あそこはちょっと遠いし、昨日の雨で道が崩れていたんだよな」
余り遅くなれば立った二人の家族である母親が心配する。
夕方までに帰ってこれるか?──と考えていた矢先で、マルコの前の茂みが動いた。
──と思った瞬間、黒い大きな塊が飛び出してきた。
咆哮を上げて突進してきたのは、若い大きな熊だった。
恐怖で動けないマルコの目に大きな牙が見えた。
(ああ、僕死んじゃうの? 神様──!)
ドン!
ぎゅっと目をつぶったマルコを激しく突き飛ばしたものがいた。
犬のジョンであった。
身を挺して小さな主人を守ったのである。
熊の爪に引っかけられたジョンの体が、宙に飛ぶ。
「ギャヒン!」
「ジョン!」
急斜面を転がり落ちるマルコの目に傷つきながら戦うジョンの姿が見えたのだった。
──夕方、村は蜂の巣を突っついたような大騒ぎであった。
マルコ母子に食事を届けにきた近所のおばさんが、
母親からマルコが戻ってこないと知らされていた時に瀕死のジョンが帰ってきたからであった。
ジョンの傷からマルコが熊に襲われたのは一目瞭然だった。
***
ハンターオフィスに急ぎの依頼が、舞い込んだ。
「お急ぎ集まり頂き、ありがとうございます」
今回のお仕事は、人命救助です。
熊は既にこの場を離れておりますので、
特に退治していただく必要はないと思われます。
退治できればそれにこした事はないと思いますが、普通の熊ですので
優先していただきたいのは、子供の人命救助になります」
「こちらが、熊の目撃情報があった場所。
こちらが、最後に少年の姿を目撃した場所──」
次々と赤い丸が、つけられていく。
「少年の生死は、不明で楽観視は出来ません。
救助に必要と思われる松明やロープは、地元の村でお受け取りください。
皆さん、よろしくお願いいたします」
腰に着けた鈴が、鳴る。
「ふぅ……薪は、この位でいいかな?」
拾い集めた薪を背負子に纏めて少年が背負うと眠っていた犬のジョンが目を覚まし、「やっと帰るのか?」と嬉しそうに尻尾を振る。
「まだだよ、ジョン。お母さんの薬草を採って帰らなきゃ」
マルコの母親は、長い間胸を患っていた。
薬草が生えている山の奥へと向かうマルコ。
だが──
「あれ? なんで生えていないの?」
一面新芽が刈り取られたようになっている。
「鹿が食べちゃったのかな? ちょっと位残して置いてくれてもいいのに……」
愚痴っても仕方がないので、薪を背負いなおし、別の場所に向かうマルコ。
(あっちは、昨日の雨で途中の道が崩れたってジェフおじさんが言っていたよな。
回り道しなきゃいけないけど夕方までに帰れるかなぁ……)
近道をしようと小さな脇道に入ったマルコ。
ワンワンと吠えながらジョンが、マルコの服を引っ張る。
「五月蝿いよ、ジョン」
叱られたジョンが悲しそうな顔をする。
「あそこはちょっと遠いし、昨日の雨で道が崩れていたんだよな」
余り遅くなれば立った二人の家族である母親が心配する。
夕方までに帰ってこれるか?──と考えていた矢先で、マルコの前の茂みが動いた。
──と思った瞬間、黒い大きな塊が飛び出してきた。
咆哮を上げて突進してきたのは、若い大きな熊だった。
恐怖で動けないマルコの目に大きな牙が見えた。
(ああ、僕死んじゃうの? 神様──!)
ドン!
ぎゅっと目をつぶったマルコを激しく突き飛ばしたものがいた。
犬のジョンであった。
身を挺して小さな主人を守ったのである。
熊の爪に引っかけられたジョンの体が、宙に飛ぶ。
「ギャヒン!」
「ジョン!」
急斜面を転がり落ちるマルコの目に傷つきながら戦うジョンの姿が見えたのだった。
──夕方、村は蜂の巣を突っついたような大騒ぎであった。
マルコ母子に食事を届けにきた近所のおばさんが、
母親からマルコが戻ってこないと知らされていた時に瀕死のジョンが帰ってきたからであった。
ジョンの傷からマルコが熊に襲われたのは一目瞭然だった。
***
ハンターオフィスに急ぎの依頼が、舞い込んだ。
「お急ぎ集まり頂き、ありがとうございます」
今回のお仕事は、人命救助です。
熊は既にこの場を離れておりますので、
特に退治していただく必要はないと思われます。
退治できればそれにこした事はないと思いますが、普通の熊ですので
優先していただきたいのは、子供の人命救助になります」
「こちらが、熊の目撃情報があった場所。
こちらが、最後に少年の姿を目撃した場所──」
次々と赤い丸が、つけられていく。
「少年の生死は、不明で楽観視は出来ません。
救助に必要と思われる松明やロープは、地元の村でお受け取りください。
皆さん、よろしくお願いいたします」
リプレイ本文
「やぁ。俺はジルボ」
要請を受け、村の前にやってきた6人はジルボ(ka1732)を皮切りに、手短に挨拶を交わす。
「マルコ君の状況が判らない以上、事態解決には迅速且つ確実に対応する必要があるよね」と十色 エニア(ka0370)が答える。
「私はもう親孝行できないが、他人の親孝行の手伝いぐらいはできるからな」
そう言うダーヴィド・ラウティオ(ka1393)は、亡き両親に対する思いからマルコに対して感じいる所があった。
最善を尽くさせてもらおうとダーヴィドは言った。
「依頼をしたものは、揃えていただけましたか?」
簡単なものだから今回は用意できたが、毎回必ず用意できるとは限らないと村長は言った。
実際、ホイッスルの代わりに用意されたのは、呼子笛である。
「一緒に頼んだ医者は、どうなりました?」
竜潜 神楽(ka1498)に続いてアレクシス・ロットワイラー(ka1891)が質問する。
大きな怪我には対応できないが、骨折程度ならば対応できる医者はいると村長が言った。
「じゃあ俺は、捜索に出た村人が戻って来るまで、ジョンの見舞いでもするかな」
「俺も行こう。ヒールでジョンが癒せないか試してみたい」とロニ・カルディス(ka0551)。
「私も母親や村人の知る範囲で今日の少年の行動予定を教えて貰いに行こう」
ダーヴィドもマルコの家へと向かう。
***
マルコの家の納屋でジョンが苦しそうに浅く息を繰り返していた。
「どんな具合?」
世話をしていた村人が、血は止まったが朝まで持つか判らないと答えた。
聖導士であるロニが早速、ジョンにヒールを開始した。
淡く清らかな光が、ジョンを包んでいく。
暫くして目を開けたジョンが、ヨロヨロと立ち上がる。
「おお、ヒール。効いたじゃん」
足元がおぼつかない様子で戸の方へと向かっていくジョン。
「完全に回復していないというのに、お前もマルコを助けに向かおうというのか?」
戸にぶつかった拍子に再び倒れたジョンを抱き上げるロニ。
「もう一度、ジョンにヒールを施す。上手く回復したらジョンにマルコの匂いを辿らせて捜索にあたろう」
「たいした野郎だよお前は。主人は必ず連れて帰るよ(たとえ死体でもな)」
最後の言葉は口の中で、ジルボは、ジョンの頭を撫で呟いた。
金欠のジルボにとって報酬のあり・なしは死活問題だった。
実際、愛用の装備を生活の為に売るわけにもいかず、なし崩しでこの仕事に参加したようなものである。
少なくとも基本料金ぐらいは欲しいジルボだが、流石に堂々とロニや村人がいる前で口にする訳にはいかなかった。
***
ジョンを連れたロニとジルボが村の広場に戻ると、そこに母親らから話を聞いてきたダーヴィドが戻ってきた。
「マルコは昼食後、薪拾いに山に入ったそうだ。母親が言うにはその後、薬草を採りに更に奥に向かったようだ」
「マルコが取りに行った場所が、村で共用の場所なのか、それとも彼しか知らない場所なのか……」
村人達の捜索で見つかっていない事から後者なのだろうと結論付けたハンターたち。山狩りをしていた男達が既に回ってきた箇所とマルコと最後に会ったと思われるジェフからもマルコと一つ向こうの山に向かう道が崩れたという話を確認したハンター達は、場所を地図で確認しながら捜索範囲を絞っていく。
「恐らくマルコは、一つ向こうの山に向かう途中で熊に遭遇したのですね」
「ジェフさん、この道の迂回路は?」
便利な魔法や道具があるわけではない。
ハンター2名と村人達で構成された班。
3班でしらみつぶしに捜索である。
「急ごしらえのチームだが、俺達ハンターなら問題ないだろう」
「私はマルコ君の発見が第一だから、賛成かな」とエニア。
「同行して頂ける方々宜しくお願いしますね」
村人達を見回し、微笑む神楽。
「地滑りがあった危険な地域は私達ハンターが引き受けましょう」
「後は熊か……」
「こちらも大人数だ。避けられるなら避けたいところだな」
「戦闘が避けられない場合は確実に仕留めろよ? 手負い熊は人を襲うし。最悪村に降りて来るからな」
方針が決まれば、後は行動するだけである──。
●
「皆さん、泥濘には注意してくださいね」
地図と星明りを頼りに進んでいた神楽が振り返り、村人達に注意を促す。
足元は、昨日の雨でぐちゃぐちゃになり滑りやすくなっている。
熊が目撃された箇所を基点に向こうの山へと続く道とマルコが何時も薪を拾う場所を重点的に探すジルボと神楽班。
熊が暴れた時についた木々の爪あとや、踏み荒らされた下草。
大きな枝等が、周囲に散乱している。
「激しい熊同士の争いがあったみたいですね」
「でもさ、なんで熊が出るのに子供を一人で山に登らせたんだ?」
「奥の山から来たんだろうな。麓に近い山には、鹿や猪は出ても熊なんぞ何年も見てなかったんだよ」
ジルボの問いに村人が、答える。
「ふーん。それって雑魔とかに追われてかい?」
「さあね。雑魔もここらじゃ見た事がないから」
「雑魔の心配がないのは良いことですが、それなら余計マルコさんの安全が心配ですね」と神楽が心配をする。
「まあ、それを言ったら俺達もだな。いいか、熊が出てきたら背中を見せるなよ? 後ろからざっくりなんて最悪だぜ」
大声も出すな。木に登るなとガルボが言う。
「要は熊なんて気の勝負だ。目を逸らさないで去るのを待つ。それでも襲ってくるなら俺が片付けてやるからよ」
「ジルボさん、道中頼りにしておりますね」と神楽が微笑む。
「おう、任せておいてくれよ!」
そう言いながら這い蹲るように身を屈め、鋭敏視覚で鋭くなった目で地面に残る僅かな印を探すジルボが見やすいようランタンをかざす神楽。
(チッ……こう暗くて足跡が多いんじゃマルコの足跡を探すのは難しいか?)
一緒に探していた神楽が、血痕を見つけた。
「これ、熊でしょうか? それともジョン?」
踏み荒らされた草に小さな血液がついていた。
「ジョンじゃないと思うな。ジョンの傷は、もっと深かった」
出血量が合わないとジルボ。
「では熊ですか」
「ああ。血の乾き具合から行けば昼に確認された分だと思うけどこいつと遭遇すると厄介だな」
ジルボと神楽の言葉に村人達が、青くなる。
「大丈夫ですよ。虫が鳴いているでしょう? この近所に熊はいませんから」
(ですが、枝の倒れているこの方角は……)
枝が倒れている先を見つめる神楽。
他の2班が、捜索している方向である。
(幸運は手繰り寄せるものですけれど私の幸運が、皆さんの上にも舞い降りますように……)
●
熊が出没した地点から崩れた道を避け、隣の山へ続く道を進むのは、ダーヴィドとエニアの班である。先頭をダーヴィド。殿をエニアが務め、細い道を一行は進んでいた。
村人達が棒で茂みをついて行くのを横目にエニアは、自分がマルコの立場だったらどう考えるのか考える。
「マルコ君があまり動き回れない状態なら、どこかに隠れてる……とか?」
(『熊から逃げ隠れ出来そうな場所』や『子供が隠れそうな茂みや隙間』ってどんな所だろう)
エニアは、岩陰や背の高い草の影などを一つ一つ丁寧にペンライトで覗き込んでいく。
ガサガサ──物音がした後の方にペンライトを向けるエニア。
「マルコ君?」
その途端、ずるっと足元が滑り、慌てて側の木にしがみつく。
「きゃっ?!」
思わず声を上げてしまったエニアに前から声が掛かる。
「大丈夫か?」
「ちょっと足が滑っただけだよ」
「それならいいが……」
ダーヴィドと村人達が再び捜索を始めるのを見て、
(初めての仕事だから緊張しているのかな?)
外れかけた髪飾りをポケットに仕舞い、ワンドを握りなおすエニア。
「よし! 大丈夫」
(……でも?)
どうしても気になるエニアがダーヴィドを呼ぶ。
(「わたし達の後ろに何かいました」)
村人達に聞こえないよう小さな声で話す。
『ピーーー! ピーーー!
ピー! ピー!』
呼子笛が長く強く2回。そして少し間をおき、2回響く。
それが2回繰り返された。
「あの方向は……」
出発前にマルコが発見された場合は『長く強く2回』。
緊急事態が発生した場合は『緊急事態発生』呼子笛を鳴らすと決めたのだった。
『確認した』と呼子笛を吹くダーヴィド。
(「リスクを避けたい。予定通り撤収しよう」)
ダーヴィドの言葉に頷くエニア。
「マルコが発見されたようだ。だが何かトラブルが発生したようだ。このまま予定通り発見した班にマルコを任せて、私達は急ぎ村に戻った方がいいだろう」
そうダーヴィドは村人達に話したが、トラブルが発生したのならマルコの所に駆けつけたいと村人達は主張した。
「気持ちは判るよ。でも熊が戻っているかもしれないし、みんなが無事でいる為にわたし達が来たんだから、ね?」
とエニアが説得する。
「この辺りは、色々動物がいるんだよね。普段大人しく可愛い鹿でも怒ったら人間にとって危険だよ」
「今はしがない傭兵だが、元騎士として貴方達の安全を守る義務がある」
それにエニアが先程私達以外がいる可能性を確認したと告げるダーヴィド。
そう言われ慌てる村人達に、
「マルコだけじゃなくみんなも村に帰ればひとまずハッピーエンド、だよ」
私は、側に動物がいないか確認すると言うとエニアは、森の中へ消えていった。
「隊列を縦に。戻るぞ!」
(少年、死ぬなよ。生きて田を耕し、子を作ることも戦いなのだ)
ダーヴィドは静かにマルコの無事を祈った。
●
犬のジョンに連れられ道なき道を進むのは、ロニとアレクシス班。
最初は道を進んでいたが、今は道から大きく外れ、沢を行く一行の進むスピードはかなり遅い。
「熊に負わされた傷もそうだが、ジョンは上から転落したのか? いや、降りたのか?」
見上げるロニの目に木々の合間を行く松明の炎がちらちらと見える。
「何れにしろ、良く命があったものだ」
「俺、松明なんて使うの初めてですよ」
軍学校の教育課程でサバイバル訓練もあったが、勝手が違うと殿を務めるアレクシスが、村人達の緊張感をほぐそうと話しかける。
「うわっ!」
ぐにゃっとしたモノを踏み、転んでしまったロニ。
「怪我、ないですか……?」
「大丈夫だ。こいつを踏んだらしい」
ロニが忌々しげに見つめる先には、打ち上げられた魚が落ちていた。
川の水が引くと取り残された魚を狙って遅くなれば遅くなる程、色々な動物が沢に集まって危険が増す。
今だどの班からもマルコが見つかったという知らせはない。
「マルコの怪我の状況が、心配ですね」
「ああ……」
橋がない沢を横切り、更に山の奥へと向かう一行。
そして、沢を登りだして2時間──。
突然、ジョンがロニの手を振り切り、走り出した。
目指す先は、大きな岩があり、その上に大きな木が枝を茂らせていた。岩は長い年月。川の増水の度に削られ、雨避けが出来るような窪みが幾つかあった。
「うわ~っ。確かにこれなら上から見えないですね」
ジョンは、迷う事なくその窪みの1つに入っていった。
その窪向かって血と何かを引きずったような跡が続いていた。
「ここにマルコが、いるのか?」
ロニが、身を屈めて穴に入っていく。
「いたぞ!!」
「どうです? 怪我はないですか?」
アレクシスの問いに「余りよくない」と答えがロニから返ってくる。
「怪我をしていて今のままでは、動かすのも危険だ。これからヒールを施す」
「朝まで待って……なんて言ってられないようですね。ここからどのルートが、村まで最短です?」
一番早いのは、崖を上がった所にある道をまっすぐ下るのが早いという返答にアレクシスの表情が険しくなる。
「判りました。皆に知らせます」
アレクシスは呼子笛を取り出すと長く強く2回。少し間をおき、2回吹く。それを2回繰り返す。
(どっちかが気がついてくれるといいんですが……)
ロニがアレクシスが渡した毛布の上に気を失ったマルコを乗せ、橇を引きずるように窪から連れ出した。
「血は止まったが、余り良くない」
両足が折れているとロニ。
「これ以上、ヒールを行うと足が曲がったまま傷が塞がろうとして悪影響が出るかもしれない」
「じゃあ添え木になるものを探しますね」
見つけた枝を添え木にし、ロープで固定していく。
「うう……」
呻き声をあげてマルコが気がついた。
「よく頑張ったね、もう大丈夫だよ」
パンがあるよ。食べられそう? とアレクシスが尋ねるとマルコは「食べたくない」と答えた。
「じゃあ、飲めたら頑張ってジュースだけ飲もうね」
***
「そこに何方かいますか?」
崖の上から声が届いた。
神楽の声だった。
「ここです! 崖の下の沢。上からは木の影になってます!」
「神楽が、何か感じるって言ったけど大当たりだな」
危うく帰ってしまうところだったとジルボが言う。
「少年の日頃の行いや、ジョンの見事な忠誠があればこそですね」
マルコの怪我の状態を話すロニ。
「下のルートは、足場が悪く時間が掛かりすぎる」
「判った。下にロープを垂らすよ」
村人と協力して木にロープを結び、下に垂らす神楽とジルボ。
マルコを毛布で包み、背負うアレクシス。その上からロニがロープを巻いて、マルコが落ちないように固定する。
「じゃあ、お先にひとっ走り村まで行って来るね」
アレクシスは、ロープを掴むと気をつけながら崖を登っていた。
上で待ち受けていたジルボと神楽が二人を引っ張りあげる。
「よう。悪運が強いな。一生分の運を使い切ったんじゃねえのか」
「もう大丈夫です。安心してください、主人思いのジョンも朝には村に到着しますからね」
「さあ、急いで村に戻りましょう!」
──こうしてハンター達の努力の結果、無事村に辿り着き治療を受けることが出来たのであった。
●
マルコの生還に村は、沸きかえっていた。
村人達は口々にハンター達を讃え、礼を言う。
「ふふ、喜ばれると達成感がありますね」
再会を喜ぶ母子を見つめ、神楽が微笑む。
「うん。『人から助けられる』立場から『人を助ける立場』。わたしにも出来ることがあるって最高な気分だよね」
嬉しそうにエニアが頷く。
そんな中──
「なあなあ……」
ツイツイと村長の袖を引っ張るジルボ。
「緊急の依頼だったし、マルコも無事。名犬ジョンも無事。イロつけてくれてもいいじゃん!」
こっそり報酬増額を要求するジルボ。
「そうですね。一人ぐらい村にハンターがいると便利かもしれませんね」
にっこりと笑う村長。
「ご褒美に私との結婚は、どうです?」
一気に村の名士ですよ。と笑う村長は、ごっついドワーフの50代女性だった。
「ごめんなさい! 冗談です!」
思わず逃げ出すジルボだった──。
<了>
要請を受け、村の前にやってきた6人はジルボ(ka1732)を皮切りに、手短に挨拶を交わす。
「マルコ君の状況が判らない以上、事態解決には迅速且つ確実に対応する必要があるよね」と十色 エニア(ka0370)が答える。
「私はもう親孝行できないが、他人の親孝行の手伝いぐらいはできるからな」
そう言うダーヴィド・ラウティオ(ka1393)は、亡き両親に対する思いからマルコに対して感じいる所があった。
最善を尽くさせてもらおうとダーヴィドは言った。
「依頼をしたものは、揃えていただけましたか?」
簡単なものだから今回は用意できたが、毎回必ず用意できるとは限らないと村長は言った。
実際、ホイッスルの代わりに用意されたのは、呼子笛である。
「一緒に頼んだ医者は、どうなりました?」
竜潜 神楽(ka1498)に続いてアレクシス・ロットワイラー(ka1891)が質問する。
大きな怪我には対応できないが、骨折程度ならば対応できる医者はいると村長が言った。
「じゃあ俺は、捜索に出た村人が戻って来るまで、ジョンの見舞いでもするかな」
「俺も行こう。ヒールでジョンが癒せないか試してみたい」とロニ・カルディス(ka0551)。
「私も母親や村人の知る範囲で今日の少年の行動予定を教えて貰いに行こう」
ダーヴィドもマルコの家へと向かう。
***
マルコの家の納屋でジョンが苦しそうに浅く息を繰り返していた。
「どんな具合?」
世話をしていた村人が、血は止まったが朝まで持つか判らないと答えた。
聖導士であるロニが早速、ジョンにヒールを開始した。
淡く清らかな光が、ジョンを包んでいく。
暫くして目を開けたジョンが、ヨロヨロと立ち上がる。
「おお、ヒール。効いたじゃん」
足元がおぼつかない様子で戸の方へと向かっていくジョン。
「完全に回復していないというのに、お前もマルコを助けに向かおうというのか?」
戸にぶつかった拍子に再び倒れたジョンを抱き上げるロニ。
「もう一度、ジョンにヒールを施す。上手く回復したらジョンにマルコの匂いを辿らせて捜索にあたろう」
「たいした野郎だよお前は。主人は必ず連れて帰るよ(たとえ死体でもな)」
最後の言葉は口の中で、ジルボは、ジョンの頭を撫で呟いた。
金欠のジルボにとって報酬のあり・なしは死活問題だった。
実際、愛用の装備を生活の為に売るわけにもいかず、なし崩しでこの仕事に参加したようなものである。
少なくとも基本料金ぐらいは欲しいジルボだが、流石に堂々とロニや村人がいる前で口にする訳にはいかなかった。
***
ジョンを連れたロニとジルボが村の広場に戻ると、そこに母親らから話を聞いてきたダーヴィドが戻ってきた。
「マルコは昼食後、薪拾いに山に入ったそうだ。母親が言うにはその後、薬草を採りに更に奥に向かったようだ」
「マルコが取りに行った場所が、村で共用の場所なのか、それとも彼しか知らない場所なのか……」
村人達の捜索で見つかっていない事から後者なのだろうと結論付けたハンターたち。山狩りをしていた男達が既に回ってきた箇所とマルコと最後に会ったと思われるジェフからもマルコと一つ向こうの山に向かう道が崩れたという話を確認したハンター達は、場所を地図で確認しながら捜索範囲を絞っていく。
「恐らくマルコは、一つ向こうの山に向かう途中で熊に遭遇したのですね」
「ジェフさん、この道の迂回路は?」
便利な魔法や道具があるわけではない。
ハンター2名と村人達で構成された班。
3班でしらみつぶしに捜索である。
「急ごしらえのチームだが、俺達ハンターなら問題ないだろう」
「私はマルコ君の発見が第一だから、賛成かな」とエニア。
「同行して頂ける方々宜しくお願いしますね」
村人達を見回し、微笑む神楽。
「地滑りがあった危険な地域は私達ハンターが引き受けましょう」
「後は熊か……」
「こちらも大人数だ。避けられるなら避けたいところだな」
「戦闘が避けられない場合は確実に仕留めろよ? 手負い熊は人を襲うし。最悪村に降りて来るからな」
方針が決まれば、後は行動するだけである──。
●
「皆さん、泥濘には注意してくださいね」
地図と星明りを頼りに進んでいた神楽が振り返り、村人達に注意を促す。
足元は、昨日の雨でぐちゃぐちゃになり滑りやすくなっている。
熊が目撃された箇所を基点に向こうの山へと続く道とマルコが何時も薪を拾う場所を重点的に探すジルボと神楽班。
熊が暴れた時についた木々の爪あとや、踏み荒らされた下草。
大きな枝等が、周囲に散乱している。
「激しい熊同士の争いがあったみたいですね」
「でもさ、なんで熊が出るのに子供を一人で山に登らせたんだ?」
「奥の山から来たんだろうな。麓に近い山には、鹿や猪は出ても熊なんぞ何年も見てなかったんだよ」
ジルボの問いに村人が、答える。
「ふーん。それって雑魔とかに追われてかい?」
「さあね。雑魔もここらじゃ見た事がないから」
「雑魔の心配がないのは良いことですが、それなら余計マルコさんの安全が心配ですね」と神楽が心配をする。
「まあ、それを言ったら俺達もだな。いいか、熊が出てきたら背中を見せるなよ? 後ろからざっくりなんて最悪だぜ」
大声も出すな。木に登るなとガルボが言う。
「要は熊なんて気の勝負だ。目を逸らさないで去るのを待つ。それでも襲ってくるなら俺が片付けてやるからよ」
「ジルボさん、道中頼りにしておりますね」と神楽が微笑む。
「おう、任せておいてくれよ!」
そう言いながら這い蹲るように身を屈め、鋭敏視覚で鋭くなった目で地面に残る僅かな印を探すジルボが見やすいようランタンをかざす神楽。
(チッ……こう暗くて足跡が多いんじゃマルコの足跡を探すのは難しいか?)
一緒に探していた神楽が、血痕を見つけた。
「これ、熊でしょうか? それともジョン?」
踏み荒らされた草に小さな血液がついていた。
「ジョンじゃないと思うな。ジョンの傷は、もっと深かった」
出血量が合わないとジルボ。
「では熊ですか」
「ああ。血の乾き具合から行けば昼に確認された分だと思うけどこいつと遭遇すると厄介だな」
ジルボと神楽の言葉に村人達が、青くなる。
「大丈夫ですよ。虫が鳴いているでしょう? この近所に熊はいませんから」
(ですが、枝の倒れているこの方角は……)
枝が倒れている先を見つめる神楽。
他の2班が、捜索している方向である。
(幸運は手繰り寄せるものですけれど私の幸運が、皆さんの上にも舞い降りますように……)
●
熊が出没した地点から崩れた道を避け、隣の山へ続く道を進むのは、ダーヴィドとエニアの班である。先頭をダーヴィド。殿をエニアが務め、細い道を一行は進んでいた。
村人達が棒で茂みをついて行くのを横目にエニアは、自分がマルコの立場だったらどう考えるのか考える。
「マルコ君があまり動き回れない状態なら、どこかに隠れてる……とか?」
(『熊から逃げ隠れ出来そうな場所』や『子供が隠れそうな茂みや隙間』ってどんな所だろう)
エニアは、岩陰や背の高い草の影などを一つ一つ丁寧にペンライトで覗き込んでいく。
ガサガサ──物音がした後の方にペンライトを向けるエニア。
「マルコ君?」
その途端、ずるっと足元が滑り、慌てて側の木にしがみつく。
「きゃっ?!」
思わず声を上げてしまったエニアに前から声が掛かる。
「大丈夫か?」
「ちょっと足が滑っただけだよ」
「それならいいが……」
ダーヴィドと村人達が再び捜索を始めるのを見て、
(初めての仕事だから緊張しているのかな?)
外れかけた髪飾りをポケットに仕舞い、ワンドを握りなおすエニア。
「よし! 大丈夫」
(……でも?)
どうしても気になるエニアがダーヴィドを呼ぶ。
(「わたし達の後ろに何かいました」)
村人達に聞こえないよう小さな声で話す。
『ピーーー! ピーーー!
ピー! ピー!』
呼子笛が長く強く2回。そして少し間をおき、2回響く。
それが2回繰り返された。
「あの方向は……」
出発前にマルコが発見された場合は『長く強く2回』。
緊急事態が発生した場合は『緊急事態発生』呼子笛を鳴らすと決めたのだった。
『確認した』と呼子笛を吹くダーヴィド。
(「リスクを避けたい。予定通り撤収しよう」)
ダーヴィドの言葉に頷くエニア。
「マルコが発見されたようだ。だが何かトラブルが発生したようだ。このまま予定通り発見した班にマルコを任せて、私達は急ぎ村に戻った方がいいだろう」
そうダーヴィドは村人達に話したが、トラブルが発生したのならマルコの所に駆けつけたいと村人達は主張した。
「気持ちは判るよ。でも熊が戻っているかもしれないし、みんなが無事でいる為にわたし達が来たんだから、ね?」
とエニアが説得する。
「この辺りは、色々動物がいるんだよね。普段大人しく可愛い鹿でも怒ったら人間にとって危険だよ」
「今はしがない傭兵だが、元騎士として貴方達の安全を守る義務がある」
それにエニアが先程私達以外がいる可能性を確認したと告げるダーヴィド。
そう言われ慌てる村人達に、
「マルコだけじゃなくみんなも村に帰ればひとまずハッピーエンド、だよ」
私は、側に動物がいないか確認すると言うとエニアは、森の中へ消えていった。
「隊列を縦に。戻るぞ!」
(少年、死ぬなよ。生きて田を耕し、子を作ることも戦いなのだ)
ダーヴィドは静かにマルコの無事を祈った。
●
犬のジョンに連れられ道なき道を進むのは、ロニとアレクシス班。
最初は道を進んでいたが、今は道から大きく外れ、沢を行く一行の進むスピードはかなり遅い。
「熊に負わされた傷もそうだが、ジョンは上から転落したのか? いや、降りたのか?」
見上げるロニの目に木々の合間を行く松明の炎がちらちらと見える。
「何れにしろ、良く命があったものだ」
「俺、松明なんて使うの初めてですよ」
軍学校の教育課程でサバイバル訓練もあったが、勝手が違うと殿を務めるアレクシスが、村人達の緊張感をほぐそうと話しかける。
「うわっ!」
ぐにゃっとしたモノを踏み、転んでしまったロニ。
「怪我、ないですか……?」
「大丈夫だ。こいつを踏んだらしい」
ロニが忌々しげに見つめる先には、打ち上げられた魚が落ちていた。
川の水が引くと取り残された魚を狙って遅くなれば遅くなる程、色々な動物が沢に集まって危険が増す。
今だどの班からもマルコが見つかったという知らせはない。
「マルコの怪我の状況が、心配ですね」
「ああ……」
橋がない沢を横切り、更に山の奥へと向かう一行。
そして、沢を登りだして2時間──。
突然、ジョンがロニの手を振り切り、走り出した。
目指す先は、大きな岩があり、その上に大きな木が枝を茂らせていた。岩は長い年月。川の増水の度に削られ、雨避けが出来るような窪みが幾つかあった。
「うわ~っ。確かにこれなら上から見えないですね」
ジョンは、迷う事なくその窪みの1つに入っていった。
その窪向かって血と何かを引きずったような跡が続いていた。
「ここにマルコが、いるのか?」
ロニが、身を屈めて穴に入っていく。
「いたぞ!!」
「どうです? 怪我はないですか?」
アレクシスの問いに「余りよくない」と答えがロニから返ってくる。
「怪我をしていて今のままでは、動かすのも危険だ。これからヒールを施す」
「朝まで待って……なんて言ってられないようですね。ここからどのルートが、村まで最短です?」
一番早いのは、崖を上がった所にある道をまっすぐ下るのが早いという返答にアレクシスの表情が険しくなる。
「判りました。皆に知らせます」
アレクシスは呼子笛を取り出すと長く強く2回。少し間をおき、2回吹く。それを2回繰り返す。
(どっちかが気がついてくれるといいんですが……)
ロニがアレクシスが渡した毛布の上に気を失ったマルコを乗せ、橇を引きずるように窪から連れ出した。
「血は止まったが、余り良くない」
両足が折れているとロニ。
「これ以上、ヒールを行うと足が曲がったまま傷が塞がろうとして悪影響が出るかもしれない」
「じゃあ添え木になるものを探しますね」
見つけた枝を添え木にし、ロープで固定していく。
「うう……」
呻き声をあげてマルコが気がついた。
「よく頑張ったね、もう大丈夫だよ」
パンがあるよ。食べられそう? とアレクシスが尋ねるとマルコは「食べたくない」と答えた。
「じゃあ、飲めたら頑張ってジュースだけ飲もうね」
***
「そこに何方かいますか?」
崖の上から声が届いた。
神楽の声だった。
「ここです! 崖の下の沢。上からは木の影になってます!」
「神楽が、何か感じるって言ったけど大当たりだな」
危うく帰ってしまうところだったとジルボが言う。
「少年の日頃の行いや、ジョンの見事な忠誠があればこそですね」
マルコの怪我の状態を話すロニ。
「下のルートは、足場が悪く時間が掛かりすぎる」
「判った。下にロープを垂らすよ」
村人と協力して木にロープを結び、下に垂らす神楽とジルボ。
マルコを毛布で包み、背負うアレクシス。その上からロニがロープを巻いて、マルコが落ちないように固定する。
「じゃあ、お先にひとっ走り村まで行って来るね」
アレクシスは、ロープを掴むと気をつけながら崖を登っていた。
上で待ち受けていたジルボと神楽が二人を引っ張りあげる。
「よう。悪運が強いな。一生分の運を使い切ったんじゃねえのか」
「もう大丈夫です。安心してください、主人思いのジョンも朝には村に到着しますからね」
「さあ、急いで村に戻りましょう!」
──こうしてハンター達の努力の結果、無事村に辿り着き治療を受けることが出来たのであった。
●
マルコの生還に村は、沸きかえっていた。
村人達は口々にハンター達を讃え、礼を言う。
「ふふ、喜ばれると達成感がありますね」
再会を喜ぶ母子を見つめ、神楽が微笑む。
「うん。『人から助けられる』立場から『人を助ける立場』。わたしにも出来ることがあるって最高な気分だよね」
嬉しそうにエニアが頷く。
そんな中──
「なあなあ……」
ツイツイと村長の袖を引っ張るジルボ。
「緊急の依頼だったし、マルコも無事。名犬ジョンも無事。イロつけてくれてもいいじゃん!」
こっそり報酬増額を要求するジルボ。
「そうですね。一人ぐらい村にハンターがいると便利かもしれませんね」
にっこりと笑う村長。
「ご褒美に私との結婚は、どうです?」
一気に村の名士ですよ。と笑う村長は、ごっついドワーフの50代女性だった。
「ごめんなさい! 冗談です!」
思わず逃げ出すジルボだった──。
<了>
依頼結果
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相談卓 ダーヴィド・ラウティオ(ka1393) 人間(クリムゾンウェスト)|35才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/06/17 00:30:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/15 01:54:59 |