ゲスト
(ka0000)
路地裏工房コンフォートとペンダント
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/05/08 09:00
- 完成日
- 2017/05/17 02:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
極彩色の街ヴァリオス。その中でもごくごく小さな商店街の路地裏に佇む宝飾工房。
窓から差し込む麗らかな昼下がりの暖かい光りが照らす。モニカは珍しく、工房ではなく店のカウンターで商品のアクセサリーを磨きながら、ベビーベッドに寝かせた弟のピノをあやしている。
ドアに映る人影が来客を報せ、すぐにベルの音がからんと鳴った。
「いらっしゃいませ。お待ち申し上げておりました。……出来てますよ」
お掛け下さいとカウンターの椅子を勧め、引き出しから褪せた天鵞絨張りの小箱を取り出す。
客の方へ向けて箱が開けられると、瞠った目がすぐに嬉しそうに笑った。
「ありがとう、すごく綺麗になってる」
「……こちらこそ。先代の作品を……それもデザイン画まで見せて頂けたなんて」
縁あって、この工房を継いでいるが、モニカとこの工房を開いた先代との間に面識はない。
宝飾の技術を持っていたモニカが、弟子入りを志願し時には先代は既に亡く、彼の義理の息子に当たる老人が残された道具の片付けの為に滞在しているきりだった。
モニカの技術を知り、工房をモニカに任せた老人も昨年の暮れに亡くなり、年が明けて漸くモニカと弟のピノはこの店を再開させた。
時折持ち込まれる宝飾品の修理やリメイクで店を維持している。
稀に、先代の作品が持ち込まれることもあり、今回の客は石が外れ、割れてしまったペンダント。
凝った装飾に1度は躊躇ったが、購入当時のデザイン画も残されていると聞き、その閲覧を条件に引き受けた。
「ここには、もう描きかけのものや、没になったものしか残っていなかったから、すごくありがたかったんです」
●
色々あって、この店の職人になったと、客はモニカの自己紹介を聞いた。
彼女の若さに不安もあったが、完成したペンダント、祖母の形見のそれは写真の中で見たままの美しさだった。
「すごいわね。……でも、1人きりじゃ大変でしょ?」
「……いいえ、弟もいますし……」
弟だと示されたベビーベッドからふにゃふにゃと笑う声が聞こえ、首は据わっているらしい子どもが起き上がってもごもごと口を動かしている。
「いあいー、やぃっ」
唐突にこちらを向いて喚く言葉に瞬くと、モニカが笑って弟を撫で、いらっしゃいって言いたいんですよと内緒話のように囁く。
「この子と2人? ご両親は?」
思わず尋ねて口を噤んだ。
健在なら、こんな風に子どもを抱えて店番なんて。
案の定、黙って首を横に揺らしたモニカに、ごめんなさいと謝る。
「……で、でも、本当にすごいのね、才能? それとも、何方かに教わったの?」
話題を変えようと焦って尋ねると、モニカは少し困った顔で首を傾げて、
「伯父に」
そう、答えた。
モニカが歩んできた「色々」の中でハンターと関わることがまま有ったと聞いた。
「なら、私もお願いしようかな……今、どこも危ないでしょ? お祭りが始まる前にジェオルジに行っておきたいのよね」
フマーレは火事、歪虚が出たのはどこだったか。
知人の知人が襲われたなんて、噂話には事欠かず。
直に始まるだろう村長祭までに静まっているか、或いは、更に。
「護衛をお願いしたいんだけど、お願い出来るかしら?」
危ない事件に人手は割かれているだろうと溜息を吐く。
「大丈夫ですよ。私が確約出来ることではありませんが」
気易い依頼を受けて下さった方もいらっしゃいますから。
最寄りのオフィスへの簡単な地図を書いて差し出す。
きっと助けてくれますよ。
客を見送り、モニカはベッドから抱き上げたピノを膝に座らせ、まだ細く柔らかな髪を撫でながら目を閉じる。
『――モニカは筋が良いね、きっと、私以上の職人になれるよ――』
『――キラキラしているモノは美しいだろう? 宝石も、人も。モニカの見ている世界は、どんな風にキラキラしているのだろうね――』
記憶の中の、伯父の優しい面差しを追う。
「……あーあ、伯父さん、怒ってるだろうなぁ……怒ってる、よね……うん。怒って、くれるかなぁ……」
ピノをぎゅっと抱き締めて項垂れる。
窮屈だというように、小さな手で藻掻く柔らかい身体を、もう少しだけと抱え込み、震える声が告げる。
「ピノは、本当に、今までに見た、どんなきれいな宝石よりも、キラキラしてるんだから」
●
助けて頂けますか。
モニカの地図を握ってオフィスを尋ねてきた女性の胸許に優婉なペンダントが揺れている。
虹色に輝く大粒のオパールを弦のようなシルバーが支え、透き通る石が囲う。
受付嬢が依頼を尋ねると、近日中に安全にジェオルジに向かいたいとの旨が伝えられた。
「……馬車は酔ってしまうの。出来れば徒歩で向かいたいのだけど……お願い出来るかしら? 野宿は、どうしようも無いものね、テントとか寝袋とかって、重いのかしら……」
依頼人は細身の女性。
テントに寝袋、食糧に水。野宿に必要な道具一式を背負って街道を越えられそうには見えない。
抑も、背負えそうにも見えない。
一時ぽかんと首を傾げた受付嬢は慌てて首を横に振って、畏まりましたと微笑んだ。
「大丈夫です、お任せ下さい!」
ジェオルジまで、きっとハンターさんなら大丈夫。
極彩色の街ヴァリオス。その中でもごくごく小さな商店街の路地裏に佇む宝飾工房。
窓から差し込む麗らかな昼下がりの暖かい光りが照らす。モニカは珍しく、工房ではなく店のカウンターで商品のアクセサリーを磨きながら、ベビーベッドに寝かせた弟のピノをあやしている。
ドアに映る人影が来客を報せ、すぐにベルの音がからんと鳴った。
「いらっしゃいませ。お待ち申し上げておりました。……出来てますよ」
お掛け下さいとカウンターの椅子を勧め、引き出しから褪せた天鵞絨張りの小箱を取り出す。
客の方へ向けて箱が開けられると、瞠った目がすぐに嬉しそうに笑った。
「ありがとう、すごく綺麗になってる」
「……こちらこそ。先代の作品を……それもデザイン画まで見せて頂けたなんて」
縁あって、この工房を継いでいるが、モニカとこの工房を開いた先代との間に面識はない。
宝飾の技術を持っていたモニカが、弟子入りを志願し時には先代は既に亡く、彼の義理の息子に当たる老人が残された道具の片付けの為に滞在しているきりだった。
モニカの技術を知り、工房をモニカに任せた老人も昨年の暮れに亡くなり、年が明けて漸くモニカと弟のピノはこの店を再開させた。
時折持ち込まれる宝飾品の修理やリメイクで店を維持している。
稀に、先代の作品が持ち込まれることもあり、今回の客は石が外れ、割れてしまったペンダント。
凝った装飾に1度は躊躇ったが、購入当時のデザイン画も残されていると聞き、その閲覧を条件に引き受けた。
「ここには、もう描きかけのものや、没になったものしか残っていなかったから、すごくありがたかったんです」
●
色々あって、この店の職人になったと、客はモニカの自己紹介を聞いた。
彼女の若さに不安もあったが、完成したペンダント、祖母の形見のそれは写真の中で見たままの美しさだった。
「すごいわね。……でも、1人きりじゃ大変でしょ?」
「……いいえ、弟もいますし……」
弟だと示されたベビーベッドからふにゃふにゃと笑う声が聞こえ、首は据わっているらしい子どもが起き上がってもごもごと口を動かしている。
「いあいー、やぃっ」
唐突にこちらを向いて喚く言葉に瞬くと、モニカが笑って弟を撫で、いらっしゃいって言いたいんですよと内緒話のように囁く。
「この子と2人? ご両親は?」
思わず尋ねて口を噤んだ。
健在なら、こんな風に子どもを抱えて店番なんて。
案の定、黙って首を横に揺らしたモニカに、ごめんなさいと謝る。
「……で、でも、本当にすごいのね、才能? それとも、何方かに教わったの?」
話題を変えようと焦って尋ねると、モニカは少し困った顔で首を傾げて、
「伯父に」
そう、答えた。
モニカが歩んできた「色々」の中でハンターと関わることがまま有ったと聞いた。
「なら、私もお願いしようかな……今、どこも危ないでしょ? お祭りが始まる前にジェオルジに行っておきたいのよね」
フマーレは火事、歪虚が出たのはどこだったか。
知人の知人が襲われたなんて、噂話には事欠かず。
直に始まるだろう村長祭までに静まっているか、或いは、更に。
「護衛をお願いしたいんだけど、お願い出来るかしら?」
危ない事件に人手は割かれているだろうと溜息を吐く。
「大丈夫ですよ。私が確約出来ることではありませんが」
気易い依頼を受けて下さった方もいらっしゃいますから。
最寄りのオフィスへの簡単な地図を書いて差し出す。
きっと助けてくれますよ。
客を見送り、モニカはベッドから抱き上げたピノを膝に座らせ、まだ細く柔らかな髪を撫でながら目を閉じる。
『――モニカは筋が良いね、きっと、私以上の職人になれるよ――』
『――キラキラしているモノは美しいだろう? 宝石も、人も。モニカの見ている世界は、どんな風にキラキラしているのだろうね――』
記憶の中の、伯父の優しい面差しを追う。
「……あーあ、伯父さん、怒ってるだろうなぁ……怒ってる、よね……うん。怒って、くれるかなぁ……」
ピノをぎゅっと抱き締めて項垂れる。
窮屈だというように、小さな手で藻掻く柔らかい身体を、もう少しだけと抱え込み、震える声が告げる。
「ピノは、本当に、今までに見た、どんなきれいな宝石よりも、キラキラしてるんだから」
●
助けて頂けますか。
モニカの地図を握ってオフィスを尋ねてきた女性の胸許に優婉なペンダントが揺れている。
虹色に輝く大粒のオパールを弦のようなシルバーが支え、透き通る石が囲う。
受付嬢が依頼を尋ねると、近日中に安全にジェオルジに向かいたいとの旨が伝えられた。
「……馬車は酔ってしまうの。出来れば徒歩で向かいたいのだけど……お願い出来るかしら? 野宿は、どうしようも無いものね、テントとか寝袋とかって、重いのかしら……」
依頼人は細身の女性。
テントに寝袋、食糧に水。野宿に必要な道具一式を背負って街道を越えられそうには見えない。
抑も、背負えそうにも見えない。
一時ぽかんと首を傾げた受付嬢は慌てて首を横に振って、畏まりましたと微笑んだ。
「大丈夫です、お任せ下さい!」
ジェオルジまで、きっとハンターさんなら大丈夫。
リプレイ本文
●
「ご利用ありがとうございますぅ。お任せくださいぃ、最高の野営をプレゼントしますぅ」
にこりと笑んで、星野 ハナ(ka5852)が依頼人の前へ。ところで、と前置きしながら、荷物を尋ねる。
真新しい革張りのトランクの上に口金の錆びた円筒形の鞄、腕に下げた春色のハンドバッグ。特徴的に偏るドットを散りばめる模様の革、蓋を捻りと錠で留めた上品なデザイン。
上着を脱いだ装いも晩春に葉を茂らせる陽差しに備えているが、レースアップの革靴に歩き慣れた跡は無い。
「あ! こ、今回は、今回は、よろしくお願い、します、わ」
淑女然とした様相の依頼人を前に緊張し、声の跳ねたカリアナ・ノート(ka3733)が瞬きを繰り返して視線を泳がせた。
見とれていたことを気付かれなかっただろうかと、カリアナの不安も気付かずに、依頼人は視線を合わせるように屈んで、よろしくね、小さなハンターさんと微笑んだ。
「ジェオルジまでの道中、任せときな」
ジャック・エルギン(ka1522)が自身の荷物を背負い直して声を掛けた。
引いたロバに依頼人のトランクを積んで紐を掛け、依頼人のハンドバッグを指す。
荷物はなるべく減らした方が良いと尋ねると、依頼人はロバの背なを見ながら零れると困ると言って首を横に。
「普通の女性に無理をさせるわけにはいかないし、ボクが持ってもいいかな?」
手提げの一つで無駄になるのも嫌だから。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が眺めていた地図を畳みながら尋ねた。
依頼人は申し訳なさそうにしながらハンドバッグを托す。
その様子を見ていた南護 炎(ka6651)は首を傾がせる。
非力そうな女性1人の旅を訝しんでいたが、素直に手荷物を預ける様子が意外に思えた。
「……油断しないでやり遂げるぞ」
道中の敵も、依頼人のことも。
「ジェオルジまでの護衛だな」
任せろと言う様に依頼人を真っ直ぐに見た。
「分担すれば運べるでしょうか」
依頼人のもう1つの荷物を引き受けると、ミオレスカ(ka3496)が馬を傍に引く。
手伝うわ、とカリアナが古びた鞄の紐に手を伸ばす。依頼人が待ってと声を掛けるが間に合わず、細い腕にずしりと感じた重みに膝を震わせた。
「こーみえても、重いものだってはこべぅ……うあ、これ本当に重っ、重いっ!」
「中身は大事な物ばかりだと思いますので、確実に運びましょう」
ミオレスカが手を添え、馬の背に引き上げ落ちないように紐を掛ける。
荷運びのためではなくとも頑健な身体はふらつくこともなく、重く古い鞄を乗せて歩み始めた。
「ジェオルジまでそこそこお急ぎ徒歩ツアーとのんびり野草食スロージャーニー、どちらがご希望ですぅ?」
まだ街の見える街道を歩きながら、星野が依頼人を振り返る。
翌朝には着きたいか、それとも2泊するくらいのんびり向かうか。
引いている馬に積んだ広めのテントと調理道具、数泊を野で過ごす程度の支度は十分に。
2泊はしたくないけれど、あまり急いで歩きたくはないと言う依頼人の答えに頷き、アルトと地図を眺めながら、先ずは近くの水場を目指そうと明るい日の差す街道を進む。
●
昇りきった日が少し傾き始めた頃。
遅い昼食の時間帯に、開けた休憩地点へと辿り着いた。
警戒しながらの道中は幸いにも何事も無く、敷物の上に荷を下ろし馬も休ませながらアルトの持参した食事を広げる。
街道や森を警戒しながらも、ハンター達も交代で食事を摂った。
祭の前にはと言う依頼人の頼みに思い当たるミオレスカは、スパイスの利いたナゲットを摘まむ。
「ジェオルジのお祭りは、参加したことがあります」
その時に作ったのが、カレーだった。
最近は色んな料理が増えて楽しいとしみじみと告げれば、依頼人も楽しそうに頷いている。
技術の一端か、宝石の発掘や加工も進んで、役立つ物も増えている。
でも、見た目が綺麗なのがいい、と緑の目を細め、穏やかな微風を聞く。
「そういやそれも、なかなか良い細工だな」
胸許を示したジャックに、依頼人が項に手を回しチェーンの金具を外して手渡す。
淡く反射する光がジャックの頬に映り込んだ。
祖母が若い頃に購入したらしい品で、店を継いだ少女に頼んで直したばかりだと依頼人はそのペンダントの装飾を示した。
「あの子もそうでしたけれど……ハンターさんも若い方が多いわね」
素敵ね、と目を細めた依頼人が、見張りに出ている仲間の背を見詰めていた。
依頼人にペンダントを返し、ジャックとミオレスカは見張りを代わる。
休憩を交代したアルトは、依頼人の表情や顔色を見て小さく安堵の息を吐いた。
「体調は悪くないかな? しっかり食事や休憩も取っておかないとね」
依頼人はありがとう、元気よと微笑んだ。
サンドイッチを摘まみながら街道へ目を向け、掛かった時間や今後の行程を考える。夜はもう少し早めに休んだ方が良いだろう。
依頼人の隣に腰を下ろした星野は野草を花束のように抱えていた。依頼人が目を輝かせて覗き込む。
「スイバに、ノビルに、ハコベに、カタクリ、こんなにいっぱい取れましたぁ」
花の咲く時期は見分けやすいと、一つ一つ名前を教えるように指し示していく。
夜に料理すると言えば、怖々とその葉に触れた依頼人が楽しみだと答えた。
荷物を積んで、再出発。カリアナは依頼人の傍に続き、南護も静かに周囲を警戒しながら依頼人の動きを見守る。
緩いカーブの先、伸び出した枝が視界を遮ると、それを数本打ち払ってアルトは馬に乗った。
ハル、と呼んで犬を連れて先行する。
「敵を発見したら連絡するよ」
「分かりました、少し待ちましょうか。……ハニーマーブル」
アルトを見送り、ミオレスカは馬を止める。呼ばれた馬が揺らした首を撫でてアルトからの連絡を待った。
地図ではそう狭い道ではなかったが、雨と好天に恵まれた為に茂っただろう茂みが揺れた。
風のそれでは無い、獣の立てる音の気配にアルトは飛び道具を握りその気配を覗う。
歯を剥き唸る犬が、吠えた瞬間に飛び出してきたゴブリンへそれを投じた。浅からぬ傷に藻掻いた敵へ攻撃を続けながら、トランシーバーを取って連絡を入れる。
長く伸びた赤い髪が、さらりと風に揺れた。
茂みを覗けばまだ数匹の気配が有る。
「――こちらへの奇襲にも注意しましょう」
アルトからの連絡を受け取ったミオレスカの声に反応し、構えたカリアナと南護が援護に駆る。
星野は依頼人の傍へ、ミオレスカとジャックも陰るような茂みは避けて留まり、周囲を警戒する。
騒いだ風と遠く聞こえた獣の唸るような声が止んで暫し、ハルの警戒を保ったままアルトが戻り、得物を握ったカリアナと南護の姿も見えた。
「すぐ動けるように心の準備をしておくわ!」
「この先も奇襲を受けないように警戒します」
一先ずの危機は去ったが、安全とは言い難い道に差し掛かっていることに怯えた依頼人を宥めながら先を急いだ。
傾く日が落ちてしまうまでに、休める場所までは辿り着かなくては。
●
予定の1つ前の休憩地点でハンター達は夜営の支度を始めた。
直接見てはいなくとも、戦いがあったと知れる様子に依頼人も落ち付かない様子でハンター達を見詰めている。
「今夜のメニューはスパゲッティ、お浸し……天麩羅ですぅ」
テントを建てる傍ら火を焚いて夕食の支度を進める。
星野が摘んだ野草を手際よく刻み、スキレットで茹でたり炒めたりと調理を進める。火力を見ながら揚げた若葉の油を切って皿に乗せる。
交代で食事を取り、夜の更ける前にハンター達は2つのテントに分かれる。
依頼人も、出入りを妨げないテントの奥で休むように指示され、星野のテントに招かれる。
「ま、前半の見張りはすっから女同士、のんびりやってくれ」
日没頃からテントの外で見張るジャックが石に腰掛け、ランタンの明かりで盾を磨く。
ウエスに移る埃を叩き、時折青い瞳を左右に走らせ、物音に耳を澄ます。
テントからは談笑の声が聞こえ、その中に紛れた依頼人の声に表情を緩めた。
もう1人の同じ時間帯に見張りに出るカリアナは、荷物の中からチョコレートを手にジャックの反対側へ回った。
「えへん! これで、見張りも怖くなぃ……」
日が落ちきって仕舞うと訪れる眠気を咳払いで紛らわせ、風味の濃いチョコレートを齧った。
「ああぁ、苦っ! これ、苦いっ!」
想像以上に薫るカカオに涙目になって噎せながらも、得物は離さず見張りを交代するまで警戒を続けた。
おやすみなさい、と星野がテントの中を振り返る。
微睡む様子の依頼人の手首には、星野が占ったラッキーカラーの花をあしらうハンカチが結ばれていた。
短く戻った髪を夜風に揺らすアルトと共に、昇って沈んでいく月明かりの下でテントの周囲を見張る。
道中に遭遇した群の手はここまでは及んでいないようだった。
最後の見張りとなったミオレスカと南護がおはようと迎える中起き出してきたハンター達と依頼人は朝食を済ませると、霧の立ちこめる早朝、ジェオルジへ向けた出発した。
何事も無ければ、到着は日没頃になるだろう。
●
昼に休憩を取ってすぐ、ハンター達は足を止める。
気配に気付かなかった依頼人が彼女を庇う様に盾を構えたジャックの背に顔をぶつけた。
「きゃっ」
「守るから、安心しな」
肩越しに振り返った青い瞳が、熱された金属が次第に赤く染まるように色を変える。
敵の気配を捉えると、長い金の髪の毛先が火の粉のように赤いマテリアルの光りを舞わせながら、同じように赤い色を帯びる。
「しゃがんで下さいぃ」
ふわりと風に抗うように星野の髪が揺れた。
引き抜き翳される呪文や灯籠を描く符が舞い、依頼人を庇う様に覆い被さる。目を瞑ってしゃがみ込んだ依頼人の上に大きな人型の式が現れる。
その脇に構えた星野は符を引き直して敵を狙う。
南護の片目が紅く、険しい目つきで音を立てその鼻先を覗かせた茂みを睨む。
「南護炎、行くぜ!」
声を張り上げて抜き放った刀が周囲に低い音を響かせる。
前へ出てその胴を、道まで伸び出す草を刈りながら袈裟に切り下ろして次の敵へ迫ろうと更に奥へと踏み込んだ。
8、10、12の目が、ぎらぎらと餌を狙う獣の目がこちらを向いた。
鳥を模した炎の幻影が一瞬、アルトの全身を包む。赤い髪が風に遊ばれる長さに伸び、瞳と共に炎の色を帯びて揺れる。
星野の式の下で、言われた通りにしゃがみながら竦んでいる依頼人を見下ろし、南護の駆けた茂みを見遣る。
普通の女性に、血なまぐさいものは極力見せたくない。
血の色に染めた糸を繋ぐ手裏剣を投じ、街道からは見えない森の中まで残像を残しながら瞬時に移動する。
こちらを狙うのは6匹のゴブリン。糸の消えた手裏剣を収め刀を抜くと、手近な敵から斬り払っていく。
ミオレスカも敵の見えるまで前進し、得物を構える。
虹の色を髪から零し、双銃を握る手が微かに震える。落ち付かせようと息を吐いて、聞き手に握った銃口を敵に向け照星を定めて続けざまに放った。
雨のように注ぐ鉛玉に水の礫が落とされる。
茂みから出て接近していた1匹が沈黙すると、カリアナは銀の刃を翻して大鎌を構え直して安堵の息を吐く。
草を掻き分け森の中へ、先に跳んだアルトが駆け抜けた跡に転がる亡骸が一つ。
残るゴブリンへ南護が斬り掛かる。素早く上段に引き上げ脳天から振り下ろす。刃が僅かに逸れて仕留めきるには至らなかった反撃を刀身でいなし、確実に首を狙って斬り上げる。
「ゴブリンめ! 逃がしはしない!」
険しさの増した顔は眉間に深く皺を刻み、1匹倒れると次と言う様に敵へ視線を走らせる。
追い立てられるように飛び出してきたものが2匹、
「ゴブリンに深追いはすんなよ。今回は護衛だからな」
依頼人を庇う姿勢を動かさず、ジャックが声を掛けるが、ここを通り抜けるには殲滅するより無さそうだ。
盾を握り締め、もしもの接近に備えて剣を抜いた。
星野がその敵を射程に捉えると符を放って光りで囲む。光りに灼かれた1匹はその場で藻掻いているがもう1匹は逃げようと這っている。
凍て付いた矢がその動きを止め、カリアナは依頼人を気に掛けるように振り返った。他所から攻撃を受けている様子は無く、表に出てきた物が何かを投げつける様子も無い。
止めの様に降り注いだ弾丸の中絶えたゴブリンの亡骸が転がり、ミオレスカは換えた弾倉を軽く叩く。
森の中で最後の1匹が血飛沫を上げ、依頼人の回りに役目を維持しきれなくなった符が散らばる。
盾の影で身動いだ依頼人にジャックはもう少しだと告げて亡骸を隠す。
アルトと南護が戻り、先の安全を伝えると、仄かな血の匂いの残る湿気った陰りの中を駆け抜けた。
ほぼ読み通り、白い月が薄らと浮かび、山の端が藤色に染まった頃にジェオルジの町の影が見え、疲れの見えていた依頼人の顔に色が戻る。
街道の入り口で分かれるというハンター達に依頼人は深々と頭を下げた。
守ってもらえて心強かったとジャックに、結ばれたままだったハンカチに触れ、良い一日だったと星野に改まった様子で礼を告げた。
荷物を運んでくれたからと褒めるように馬の背を撫でて依頼人を一瞥し、アルトが鞄を渡す。
アルトには容易い相手でも、彼女のような力を持たない者には、ゴブリンも驚異なのだろうと、歩いてきた道を振り返った。
少しでも減らしに行ってくるというアルトに、依頼人が慌てて鞄を開けるとクッキーの包みを一つ差し出した。
よろしければ、道中召し上がって下さい、と。
アルトを見送り、差し出されたそれを摘まみ、確かに零れたら困るなとジャックはロバの背を見ながら呟いた。
少し迷いながら摘まんだ南護は暫くそれを見詰めてから小さく齧った。
違和感のない味に残りを口に放り込んで、漸く到着と、依頼人の無事に安堵した。
「チョコレートの方が好きかしら?……今年のお祭りにも、是非いらして下さいね?」
カリアナとミオレスカにそう告げると、依頼人は手を振って、迎えらしい男性に鞄を預けて町の中へ歩いて行った。
「ご利用ありがとうございますぅ。お任せくださいぃ、最高の野営をプレゼントしますぅ」
にこりと笑んで、星野 ハナ(ka5852)が依頼人の前へ。ところで、と前置きしながら、荷物を尋ねる。
真新しい革張りのトランクの上に口金の錆びた円筒形の鞄、腕に下げた春色のハンドバッグ。特徴的に偏るドットを散りばめる模様の革、蓋を捻りと錠で留めた上品なデザイン。
上着を脱いだ装いも晩春に葉を茂らせる陽差しに備えているが、レースアップの革靴に歩き慣れた跡は無い。
「あ! こ、今回は、今回は、よろしくお願い、します、わ」
淑女然とした様相の依頼人を前に緊張し、声の跳ねたカリアナ・ノート(ka3733)が瞬きを繰り返して視線を泳がせた。
見とれていたことを気付かれなかっただろうかと、カリアナの不安も気付かずに、依頼人は視線を合わせるように屈んで、よろしくね、小さなハンターさんと微笑んだ。
「ジェオルジまでの道中、任せときな」
ジャック・エルギン(ka1522)が自身の荷物を背負い直して声を掛けた。
引いたロバに依頼人のトランクを積んで紐を掛け、依頼人のハンドバッグを指す。
荷物はなるべく減らした方が良いと尋ねると、依頼人はロバの背なを見ながら零れると困ると言って首を横に。
「普通の女性に無理をさせるわけにはいかないし、ボクが持ってもいいかな?」
手提げの一つで無駄になるのも嫌だから。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が眺めていた地図を畳みながら尋ねた。
依頼人は申し訳なさそうにしながらハンドバッグを托す。
その様子を見ていた南護 炎(ka6651)は首を傾がせる。
非力そうな女性1人の旅を訝しんでいたが、素直に手荷物を預ける様子が意外に思えた。
「……油断しないでやり遂げるぞ」
道中の敵も、依頼人のことも。
「ジェオルジまでの護衛だな」
任せろと言う様に依頼人を真っ直ぐに見た。
「分担すれば運べるでしょうか」
依頼人のもう1つの荷物を引き受けると、ミオレスカ(ka3496)が馬を傍に引く。
手伝うわ、とカリアナが古びた鞄の紐に手を伸ばす。依頼人が待ってと声を掛けるが間に合わず、細い腕にずしりと感じた重みに膝を震わせた。
「こーみえても、重いものだってはこべぅ……うあ、これ本当に重っ、重いっ!」
「中身は大事な物ばかりだと思いますので、確実に運びましょう」
ミオレスカが手を添え、馬の背に引き上げ落ちないように紐を掛ける。
荷運びのためではなくとも頑健な身体はふらつくこともなく、重く古い鞄を乗せて歩み始めた。
「ジェオルジまでそこそこお急ぎ徒歩ツアーとのんびり野草食スロージャーニー、どちらがご希望ですぅ?」
まだ街の見える街道を歩きながら、星野が依頼人を振り返る。
翌朝には着きたいか、それとも2泊するくらいのんびり向かうか。
引いている馬に積んだ広めのテントと調理道具、数泊を野で過ごす程度の支度は十分に。
2泊はしたくないけれど、あまり急いで歩きたくはないと言う依頼人の答えに頷き、アルトと地図を眺めながら、先ずは近くの水場を目指そうと明るい日の差す街道を進む。
●
昇りきった日が少し傾き始めた頃。
遅い昼食の時間帯に、開けた休憩地点へと辿り着いた。
警戒しながらの道中は幸いにも何事も無く、敷物の上に荷を下ろし馬も休ませながらアルトの持参した食事を広げる。
街道や森を警戒しながらも、ハンター達も交代で食事を摂った。
祭の前にはと言う依頼人の頼みに思い当たるミオレスカは、スパイスの利いたナゲットを摘まむ。
「ジェオルジのお祭りは、参加したことがあります」
その時に作ったのが、カレーだった。
最近は色んな料理が増えて楽しいとしみじみと告げれば、依頼人も楽しそうに頷いている。
技術の一端か、宝石の発掘や加工も進んで、役立つ物も増えている。
でも、見た目が綺麗なのがいい、と緑の目を細め、穏やかな微風を聞く。
「そういやそれも、なかなか良い細工だな」
胸許を示したジャックに、依頼人が項に手を回しチェーンの金具を外して手渡す。
淡く反射する光がジャックの頬に映り込んだ。
祖母が若い頃に購入したらしい品で、店を継いだ少女に頼んで直したばかりだと依頼人はそのペンダントの装飾を示した。
「あの子もそうでしたけれど……ハンターさんも若い方が多いわね」
素敵ね、と目を細めた依頼人が、見張りに出ている仲間の背を見詰めていた。
依頼人にペンダントを返し、ジャックとミオレスカは見張りを代わる。
休憩を交代したアルトは、依頼人の表情や顔色を見て小さく安堵の息を吐いた。
「体調は悪くないかな? しっかり食事や休憩も取っておかないとね」
依頼人はありがとう、元気よと微笑んだ。
サンドイッチを摘まみながら街道へ目を向け、掛かった時間や今後の行程を考える。夜はもう少し早めに休んだ方が良いだろう。
依頼人の隣に腰を下ろした星野は野草を花束のように抱えていた。依頼人が目を輝かせて覗き込む。
「スイバに、ノビルに、ハコベに、カタクリ、こんなにいっぱい取れましたぁ」
花の咲く時期は見分けやすいと、一つ一つ名前を教えるように指し示していく。
夜に料理すると言えば、怖々とその葉に触れた依頼人が楽しみだと答えた。
荷物を積んで、再出発。カリアナは依頼人の傍に続き、南護も静かに周囲を警戒しながら依頼人の動きを見守る。
緩いカーブの先、伸び出した枝が視界を遮ると、それを数本打ち払ってアルトは馬に乗った。
ハル、と呼んで犬を連れて先行する。
「敵を発見したら連絡するよ」
「分かりました、少し待ちましょうか。……ハニーマーブル」
アルトを見送り、ミオレスカは馬を止める。呼ばれた馬が揺らした首を撫でてアルトからの連絡を待った。
地図ではそう狭い道ではなかったが、雨と好天に恵まれた為に茂っただろう茂みが揺れた。
風のそれでは無い、獣の立てる音の気配にアルトは飛び道具を握りその気配を覗う。
歯を剥き唸る犬が、吠えた瞬間に飛び出してきたゴブリンへそれを投じた。浅からぬ傷に藻掻いた敵へ攻撃を続けながら、トランシーバーを取って連絡を入れる。
長く伸びた赤い髪が、さらりと風に揺れた。
茂みを覗けばまだ数匹の気配が有る。
「――こちらへの奇襲にも注意しましょう」
アルトからの連絡を受け取ったミオレスカの声に反応し、構えたカリアナと南護が援護に駆る。
星野は依頼人の傍へ、ミオレスカとジャックも陰るような茂みは避けて留まり、周囲を警戒する。
騒いだ風と遠く聞こえた獣の唸るような声が止んで暫し、ハルの警戒を保ったままアルトが戻り、得物を握ったカリアナと南護の姿も見えた。
「すぐ動けるように心の準備をしておくわ!」
「この先も奇襲を受けないように警戒します」
一先ずの危機は去ったが、安全とは言い難い道に差し掛かっていることに怯えた依頼人を宥めながら先を急いだ。
傾く日が落ちてしまうまでに、休める場所までは辿り着かなくては。
●
予定の1つ前の休憩地点でハンター達は夜営の支度を始めた。
直接見てはいなくとも、戦いがあったと知れる様子に依頼人も落ち付かない様子でハンター達を見詰めている。
「今夜のメニューはスパゲッティ、お浸し……天麩羅ですぅ」
テントを建てる傍ら火を焚いて夕食の支度を進める。
星野が摘んだ野草を手際よく刻み、スキレットで茹でたり炒めたりと調理を進める。火力を見ながら揚げた若葉の油を切って皿に乗せる。
交代で食事を取り、夜の更ける前にハンター達は2つのテントに分かれる。
依頼人も、出入りを妨げないテントの奥で休むように指示され、星野のテントに招かれる。
「ま、前半の見張りはすっから女同士、のんびりやってくれ」
日没頃からテントの外で見張るジャックが石に腰掛け、ランタンの明かりで盾を磨く。
ウエスに移る埃を叩き、時折青い瞳を左右に走らせ、物音に耳を澄ます。
テントからは談笑の声が聞こえ、その中に紛れた依頼人の声に表情を緩めた。
もう1人の同じ時間帯に見張りに出るカリアナは、荷物の中からチョコレートを手にジャックの反対側へ回った。
「えへん! これで、見張りも怖くなぃ……」
日が落ちきって仕舞うと訪れる眠気を咳払いで紛らわせ、風味の濃いチョコレートを齧った。
「ああぁ、苦っ! これ、苦いっ!」
想像以上に薫るカカオに涙目になって噎せながらも、得物は離さず見張りを交代するまで警戒を続けた。
おやすみなさい、と星野がテントの中を振り返る。
微睡む様子の依頼人の手首には、星野が占ったラッキーカラーの花をあしらうハンカチが結ばれていた。
短く戻った髪を夜風に揺らすアルトと共に、昇って沈んでいく月明かりの下でテントの周囲を見張る。
道中に遭遇した群の手はここまでは及んでいないようだった。
最後の見張りとなったミオレスカと南護がおはようと迎える中起き出してきたハンター達と依頼人は朝食を済ませると、霧の立ちこめる早朝、ジェオルジへ向けた出発した。
何事も無ければ、到着は日没頃になるだろう。
●
昼に休憩を取ってすぐ、ハンター達は足を止める。
気配に気付かなかった依頼人が彼女を庇う様に盾を構えたジャックの背に顔をぶつけた。
「きゃっ」
「守るから、安心しな」
肩越しに振り返った青い瞳が、熱された金属が次第に赤く染まるように色を変える。
敵の気配を捉えると、長い金の髪の毛先が火の粉のように赤いマテリアルの光りを舞わせながら、同じように赤い色を帯びる。
「しゃがんで下さいぃ」
ふわりと風に抗うように星野の髪が揺れた。
引き抜き翳される呪文や灯籠を描く符が舞い、依頼人を庇う様に覆い被さる。目を瞑ってしゃがみ込んだ依頼人の上に大きな人型の式が現れる。
その脇に構えた星野は符を引き直して敵を狙う。
南護の片目が紅く、険しい目つきで音を立てその鼻先を覗かせた茂みを睨む。
「南護炎、行くぜ!」
声を張り上げて抜き放った刀が周囲に低い音を響かせる。
前へ出てその胴を、道まで伸び出す草を刈りながら袈裟に切り下ろして次の敵へ迫ろうと更に奥へと踏み込んだ。
8、10、12の目が、ぎらぎらと餌を狙う獣の目がこちらを向いた。
鳥を模した炎の幻影が一瞬、アルトの全身を包む。赤い髪が風に遊ばれる長さに伸び、瞳と共に炎の色を帯びて揺れる。
星野の式の下で、言われた通りにしゃがみながら竦んでいる依頼人を見下ろし、南護の駆けた茂みを見遣る。
普通の女性に、血なまぐさいものは極力見せたくない。
血の色に染めた糸を繋ぐ手裏剣を投じ、街道からは見えない森の中まで残像を残しながら瞬時に移動する。
こちらを狙うのは6匹のゴブリン。糸の消えた手裏剣を収め刀を抜くと、手近な敵から斬り払っていく。
ミオレスカも敵の見えるまで前進し、得物を構える。
虹の色を髪から零し、双銃を握る手が微かに震える。落ち付かせようと息を吐いて、聞き手に握った銃口を敵に向け照星を定めて続けざまに放った。
雨のように注ぐ鉛玉に水の礫が落とされる。
茂みから出て接近していた1匹が沈黙すると、カリアナは銀の刃を翻して大鎌を構え直して安堵の息を吐く。
草を掻き分け森の中へ、先に跳んだアルトが駆け抜けた跡に転がる亡骸が一つ。
残るゴブリンへ南護が斬り掛かる。素早く上段に引き上げ脳天から振り下ろす。刃が僅かに逸れて仕留めきるには至らなかった反撃を刀身でいなし、確実に首を狙って斬り上げる。
「ゴブリンめ! 逃がしはしない!」
険しさの増した顔は眉間に深く皺を刻み、1匹倒れると次と言う様に敵へ視線を走らせる。
追い立てられるように飛び出してきたものが2匹、
「ゴブリンに深追いはすんなよ。今回は護衛だからな」
依頼人を庇う姿勢を動かさず、ジャックが声を掛けるが、ここを通り抜けるには殲滅するより無さそうだ。
盾を握り締め、もしもの接近に備えて剣を抜いた。
星野がその敵を射程に捉えると符を放って光りで囲む。光りに灼かれた1匹はその場で藻掻いているがもう1匹は逃げようと這っている。
凍て付いた矢がその動きを止め、カリアナは依頼人を気に掛けるように振り返った。他所から攻撃を受けている様子は無く、表に出てきた物が何かを投げつける様子も無い。
止めの様に降り注いだ弾丸の中絶えたゴブリンの亡骸が転がり、ミオレスカは換えた弾倉を軽く叩く。
森の中で最後の1匹が血飛沫を上げ、依頼人の回りに役目を維持しきれなくなった符が散らばる。
盾の影で身動いだ依頼人にジャックはもう少しだと告げて亡骸を隠す。
アルトと南護が戻り、先の安全を伝えると、仄かな血の匂いの残る湿気った陰りの中を駆け抜けた。
ほぼ読み通り、白い月が薄らと浮かび、山の端が藤色に染まった頃にジェオルジの町の影が見え、疲れの見えていた依頼人の顔に色が戻る。
街道の入り口で分かれるというハンター達に依頼人は深々と頭を下げた。
守ってもらえて心強かったとジャックに、結ばれたままだったハンカチに触れ、良い一日だったと星野に改まった様子で礼を告げた。
荷物を運んでくれたからと褒めるように馬の背を撫でて依頼人を一瞥し、アルトが鞄を渡す。
アルトには容易い相手でも、彼女のような力を持たない者には、ゴブリンも驚異なのだろうと、歩いてきた道を振り返った。
少しでも減らしに行ってくるというアルトに、依頼人が慌てて鞄を開けるとクッキーの包みを一つ差し出した。
よろしければ、道中召し上がって下さい、と。
アルトを見送り、差し出されたそれを摘まみ、確かに零れたら困るなとジャックはロバの背を見ながら呟いた。
少し迷いながら摘まんだ南護は暫くそれを見詰めてから小さく齧った。
違和感のない味に残りを口に放り込んで、漸く到着と、依頼人の無事に安堵した。
「チョコレートの方が好きかしら?……今年のお祭りにも、是非いらして下さいね?」
カリアナとミオレスカにそう告げると、依頼人は手を振って、迎えらしい男性に鞄を預けて町の中へ歩いて行った。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 7人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/06 14:43:51 |
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徒歩でジェオルジに行こう 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/05/07 20:04:04 |