ゲスト
(ka0000)
Operazione★SUSHI
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/05/09 22:00
- 完成日
- 2017/05/18 00:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●お客のひとこと
同盟きっての漁港、ポルトワールの近くには美味い魚介料理を出す店がひしめいている。
その中にメリンダ・ドナーティ(kz0041)の行きつけの一軒があった。
今日もポルトワールに立ち寄ったついでに、その店に向かう。
「ハァイ、ジャン。お邪魔していいかしら?」
店主の名は、ジャン=マリア・オネスティという。
三十前のがっしりした体格の男で、派手なエプロンをつけ、背中まである金髪を1本みつあみにしておリボンを結んでいるのが店でのスタイルだ。
「あらメリンダ。いらっしゃーい」
にっこり笑うジャンだが、どことなく違和感が漂う。
カウンターに腰を落ち着けたメリンダは、頃合いを見て尋ねた。
「どうしたの? 何か考え事?」
「うーん、まあそんな感じ。聞いてくれる?」
ジャンは軽く肩をすくめ、語りだした。
それは今から3日前のこと。
メリンダのようにカウンターに座って、料理をつつきながらジャンと世間話をしていた客が言い出したのだ。
『ここのお料理は充分美味しいんだけど。他の店もだいたい似たようなメニューじゃない。何か変わったモノを出してみたらどう?』
『変わったモノ?』
『うん。いい材料が手に入るだろうし、スシなんかいいんじゃないかな』
『スシ……?』
「というわけで、そのお客さんの言う通りスシというのを作ってみようと思って。材料を探しにリゼリオにも行ってみたのよネ」
「スシって、あれでしょ? あの、コメの塊に生魚の切り身が乗った……」
メリンダが真面目な顔で腕組みする。
「私も前に一度だけ、偉い人のお供で食べたことがあるわ。確かに美味しいけど、すっごく難しいらしいわよ?」
そこで今度はジャンが身を乗り出した。
「え、コメに生魚の切り身!? スシってこんなのじゃないの!?」
どん。
具材をコメの塊で包み、ノリで巻いて、ロールケーキのように切った物が出てきた。
「え?」
そこに、話を聞きつけた別の客が割り込んできた。
「スシか~。マスター、俺はどうせやったら、ばらずし食べたいわあ。あれのほうが作りやすいと思うんやけどなあ」
「??????」
スシの謎は深まるばかり。
助けて、ハンター!!
同盟きっての漁港、ポルトワールの近くには美味い魚介料理を出す店がひしめいている。
その中にメリンダ・ドナーティ(kz0041)の行きつけの一軒があった。
今日もポルトワールに立ち寄ったついでに、その店に向かう。
「ハァイ、ジャン。お邪魔していいかしら?」
店主の名は、ジャン=マリア・オネスティという。
三十前のがっしりした体格の男で、派手なエプロンをつけ、背中まである金髪を1本みつあみにしておリボンを結んでいるのが店でのスタイルだ。
「あらメリンダ。いらっしゃーい」
にっこり笑うジャンだが、どことなく違和感が漂う。
カウンターに腰を落ち着けたメリンダは、頃合いを見て尋ねた。
「どうしたの? 何か考え事?」
「うーん、まあそんな感じ。聞いてくれる?」
ジャンは軽く肩をすくめ、語りだした。
それは今から3日前のこと。
メリンダのようにカウンターに座って、料理をつつきながらジャンと世間話をしていた客が言い出したのだ。
『ここのお料理は充分美味しいんだけど。他の店もだいたい似たようなメニューじゃない。何か変わったモノを出してみたらどう?』
『変わったモノ?』
『うん。いい材料が手に入るだろうし、スシなんかいいんじゃないかな』
『スシ……?』
「というわけで、そのお客さんの言う通りスシというのを作ってみようと思って。材料を探しにリゼリオにも行ってみたのよネ」
「スシって、あれでしょ? あの、コメの塊に生魚の切り身が乗った……」
メリンダが真面目な顔で腕組みする。
「私も前に一度だけ、偉い人のお供で食べたことがあるわ。確かに美味しいけど、すっごく難しいらしいわよ?」
そこで今度はジャンが身を乗り出した。
「え、コメに生魚の切り身!? スシってこんなのじゃないの!?」
どん。
具材をコメの塊で包み、ノリで巻いて、ロールケーキのように切った物が出てきた。
「え?」
そこに、話を聞きつけた別の客が割り込んできた。
「スシか~。マスター、俺はどうせやったら、ばらずし食べたいわあ。あれのほうが作りやすいと思うんやけどなあ」
「??????」
スシの謎は深まるばかり。
助けて、ハンター!!
リプレイ本文
●
約束の日。
ジャンの店では、厨房に収まらない食材が、カウンターに寄せたテーブルにまで進出していた。
「えっと、こんなカンジでよかったかしら?」
「なかなか面白そうなことになっているね」
桃之枝(ka6824)はテーブルの上を眺めると、持参した酒瓶を置いた。
魚や貝はどれも新鮮そうだ。
「あら、東方のお酒ですか?」
メリンダが酒瓶に気付いた。
「味見役を全うするために、少しばかりね。新鮮な魚介類にはこれが合うだろうさ」
最初から味見役を決め込んでいる桃之枝である。
「メリンダさん、ジャンさん、お久しぶりです!」
元気いっぱいの声はノワ(ka3572)だ。
「そうそう、以前メリンダさんがリクエストされていた『しょくしゅぷれい』なんですけど!」
「はぁ!?」
メリンダがぎょっとして振り向いた。なぜかシバ・ミラージュ(ka2094)の背中もびくっと動く。
以前大ダコ退治のときに、『触手で遊ぶこと』と言い逃れしたのがこんなところで返ってくるとは。
「ついに見つける事が出来たので持って来ましたよ! はいっ、どうぞ!」
ノワが取り出したのは赤い毛糸の紐をループにしたもの。
「あれからお友達に聞いたらコレだって教えてくれたんです♪」
ノワは嬉しそうに指を絡ませ、あやとりで橋を作って見せてくれた。
「わあ。ノワさん、器用ですね!」
……もしかしたらその『お友達』も言い逃れに苦心したのかもしれない。
などと思うメリンダ。シバはその横顔にふと微笑み、持ってきた荷物を大事に抱える。
料理ができる男であることをアピールすべく、彼は静かに燃えている。
ロス・バーミリオン(ka4718)は久々に耳にした『寿司』に思いを馳せつつ、店主のジャンにひらひらと手を振って見せた。
「どーもぉ♪ 初めまして、私はロゼよv」
すらりと長身の、華やかな赤髪が印象的な美女……だが、骨格は相当しっかりしていた。
「ハァイ! アタシはジャン=マリア・オネスティよ。うふふ、オネエじゃないわよ、オネスティ。正直者なの、自分の気持ちにね♪」
ウィンクして見せるジャンに、ロスは何かシンパシーを感じたようだ。
「まぁ! マリアちゃんって呼んでいいかしら!? すっごく可愛いお名前じゃないのぉv」
「やだあ、こんな美人さんに名前で呼ばれちゃうなんて嬉しいワ。アタシもロゼちゃんって呼ばせてね?」
キャッキャと盛り上がるガタイのいい男ふたり。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は穏やかに微笑む。
「仲良きことは美しきことかな、というところですね」
などと言いながら、大きな袋から手早く色々な物をとりだす。
「……寿司の歴史を胃袋で確かめられるとは何て素晴らしい依頼でしょう。感謝しますよ、ジャンさん、メリンダさん」
着流し姿の金髪男が、箱寿司用の木型を掴んでいるさまは、何やら妙な迫力を漂わせていた。
●
そもそもスシとは何ぞや? というところから始まるのが今回の依頼で。
この辺りはリアルブルー出身者に詳しい者が多かった。
日下 菜摘(ka0881)はジャンとメリンダの話した内容を聞いて深く頷く。
「……メリンダさんが召し上がったような本格的なお寿司は、さすがにハードルが高いと思います。あれは一種の芸術だと聞きますので」
ロス……もとい、ロゼは握り寿司についてまとめた資料を用意していた。
「昔はそれなりに食べたのだけど。思い付く限りのネタと材料ね」
捌き方や漬け、炙りについてなど、詳しい説明が並ぶ。
道元 ガンジ(ka6005)は更に具体的に語り始めた。
「ちょっと生は苦手って人のために炙るのもアリ! 漬けっていうのは細長い魚さばいて、砂糖とショーユと酒少しで味つけしたのを薄く切って乗せる。ぶっちゃけ薄切り肉にネギを乗っけてもアリだとおもう!」
ほぼ、自分が食べたいものを主張しているだけかもしれない。
「あとね、寿司は鮮度が命よ! 切ったら直ぐ握ってお客さんに出す! 作り置きとか以ての外よ!!」
ぐっと拳を握ったロゼだが、すぐに表情をゆるめた。
「というわけで、握りは難易度が高いと思うわ。おいしい巻き寿司を作りましょ♪」
時雨 凪枯(ka3786)は左手で火のついていない煙管を弄びながら、どうすればクリムゾンウエストの、それも同盟領の住人に、わかりやすいか言葉を探していた。
握りと巻きが全然違うのに何故『スシ』なのか、そこからだと思ったのだ。
「んー、例えていうなら、『スシ』ってのは『スパゲティ』って感じで。スパゲティにもペペロンチーノやボロネーゼみたいに作り方や使う具材で名前が色々あるだろ?」
うんうんと頷くジャンとメリンダに、ふと笑って見せる。
「簡単に言えば酢飯……シャリって呼ぶんだけどね。それとおかずの組み合わせさね」
握りと巻き、そして通りすがりの客の言った『ばらずし』なるものを説明していく。
「ということなんだけど、握り寿司はシャリが難しいから、あたしも巻きかばら寿司を勧めるよ」
「ばらずしって、皆でワイワイ食べるものだった気がするぜ」
ちょっと嬉しそうな表情で、ガンジが口を挟む。
いつも腹ペコで、美味しいごはんは世界を救うと信じてやまないガンジである。みんなでワイワイお腹いっぱい食べられる物が嬉しくないわけがない。
「ま、とりあえず色々作ってみよ。この店で出すんなら、手早く作れて、たくさんのお客に提供できなきゃ。試作して、ジャンが出したい物にすればいいんだよ」
ジャンはその気遣いに感激してガンジの両手を握った。
「有難う!!」
「うおっ!? あ、出来た試作品は俺が片っ端からいただきたいと思います!」
「まっかせてー!」
方向性が決まったところで、試作開始。
ロゼがふと思いついたことを尋ねる。
「酢飯を…って酢飯あるわよね?」
「ビネガーよね。それはリゼリオで買って来たワ!」
ジャンの用意したビネガーを凪枯が少し味見する。
「ああ、これならだし用昆布漬けて砂糖を混ぜると青の日本に近いのができるよ」
「じゃあ酢飯はオッケーね♪」
シバがおずおずと手を出した。
「では僕が混ぜましょうか」
が、ウチワ片手に、酢飯を混ぜる姿はまるで職人。この依頼にかける真剣さが伝わるというものだ。
その少女のような横顔に、メリンダは経験上、一抹の不安を感じずには居られなかった――。
菜摘はジャンが試作した”巻き寿司のようなもの”を観察する。まだまだ工夫の余地がありそうだ。
「まずは細巻きから練習してみてはどうでしょう。それからキュウリはありませんか?」
「キュウリ?」
細長く切ったキュウリを入れて、菜摘はカッパ巻きを作って見せた。
「魚介類だけでは飽きてしまうかもしれませんし、これはこれで好んでくれる人が居ると思いますわ」
「あらヘルシー。これもスシなの?」
「ええ。これに慣れたら、太巻きも上手にできると思います」
その間に、皆がそれぞれの具材を用意する。
卵、エビのそぼろ、イカ、赤身の魚に白身の魚と、様々な種類の具材が並んだ。
ロゼはいくつかを組み合わせた太巻きを実演して見せる。
「んまー、綺麗に作るのネ!」
感心するジャンに、ロゼは片目をつぶって見せた。
「マリアちゃん、お料理上手でしょ? こんなの直ぐ覚えて、マリアちゃんなりにアレンジできちゃうんじゃないかしら?」
ガンジは更に、酢飯に具材を混ぜ込んでいく。
盛り付けには飾り用にとっておいた刺身や魚卵、卵焼きや野菜の緑を散らした、賑やかで楽しいばら寿司だ。
「綺麗ですねえ。これがバラズシなんですか?」
メリンダが尋ねると、ガンジは大きく頷いた。
「デコ大事! 店で出すんだから、美味しそうって思ってもらわないとね」
その傍らでは金髪のサムライが木箱に酢飯を詰めている。
メリンダが恐る恐る尋ねた。
「あの……これもスシなんですか?」
「これは2日ほど置いて食べる大阪寿司です」
ハンスはジャンにも見えるように、錦糸卵、シイタケ、レンコンなど、目にも楽しい具材を詰め込んだ。
「こうやって少し押して……作って1晩置いた方が味が馴染んで美味しいです」
そしてこれが、出来上がったモノ。と、料理番組よろしく、完成品も持参している。
「煮たり茹でたりするものの、その場で食べられるものは江戸前。酢〆や煮きりが仕事としてありがたがられるそうですが、私は軍艦が楽で好きです」
「軍艦……?」
メリンダもジャンも首を傾げる。ハンスは軍艦巻きの説明までする羽目になった。
「そして海苔やナマモノが苦手なら、おぼろ昆布やレタスで巻いたり、スモークサーモンやローストビーフ、エビフライにしたりという方法もありますね」
「あ、こってりとさっぱりで、魚も果物と一緒に巻くとウマかったりする。っと、ちょっと違う?」
ガンジも加わって、創作スシ談義は盛り上がる。
皆がわいわいとスシを作る様子を、桃之枝は楽しそうに眺めていた。
普通のおスシ、普通じゃないおスシ、何でもござれ。本来のお寿司のカタチにこだわるのも野暮というもの。
「だって美味しければそれでいいじゃないか。私は皆が丹精込めて作ったおスシを美味しく頂くだけさ」
桃之枝の言葉にハンスが頷く。
「仰る通りです」
すでに星が違うのだ。スシの内容がどんな変化を遂げても、美味しければそれで充分。
東方かぶれを自称するハンスは、多様な文化をとりこむ楽しさをよくわかっているのかもしれない。
●
出来上がった寿司が、小皿に載ってカウンターを滑ってきた。
「リアルブルーに居た頃、回転ズシという運搬方法を聞いたことがあります」
シバが無駄に腕をしならせ、見事なコントロールで皿を回転させる。
メリンダは内心(絶対違うと思う……)と思っていたが、目の前でピタリと止まった皿にはさすがに感心してしまった。
「これは……?」
「メリンダスペシャルです」
頬を赤らめるシバ。メリンダは引きつりながら呟いた。
「……干し芋が乗ってるんですね……」
シバは箸で取り分けた寿司を突き出す。
「メリンダさん。はい、ア~ン」
好物とはいえ別に寿司には要らない。メリンダは心からそう思ったという。
「こんなのもどうかねぇ」
凪枯はシャリが見えている裏巻きの巻き寿司や、自分で好きな具材を取る手巻き寿司も用意していた。
ノワはその手巻き寿司一式であることを思いついた。
「私も噂でしか聞いたことがないのですが……こうしてお米を握るんでしたよね」
いびつなおにぎりのようなものができる。
「ワサビを入れて、赤身のお魚を置いて……そして最後にコレです!」
なぜか注射器を取り出したノワは、謎の液体を赤身の魚に注ぎ込む!
「この薬品には食材を腐りにくくさせる他に、発色を良くする効果があるのですが」
持ち込んだ荷物はいつもの実験セットだった。研究者は研究に貪欲なのだ。というかもうほとんどマッドなんたら。
「今回は珍しい物をという事なので、虹色になるように調整してみました♪ このまま一ヶ月は腐りませんよ」
凪枯はノワの目の前に、虹色に変化したスシを突き出す。
「あのさ……明らかにやばそうな物は作った人に食べて貰うよ?」
「……え? これは食べたら駄目ですよ? お腹壊しちゃいますから!」
何故作った!!
その場のほぼ全員がそう思った。
ここでハンスとシバが頷きあい、恭しく小さな壺をふたつ取り出した。
「本来の意味の鮨は、保存用の発酵食のことです。製造方法は、新鮮な魚の内臓を抜いて塩詰め1ヶ月以上、そこからご飯に漬込んで半年から数年……」
ハンスの口上は淀みなく、その間にシバが壺の蓋をそっと開ける。
「これぞスシの起源、と確か家庭科の授業で習いました」
「いやぁ、探せばあるものですね。2年物の鮒ずしと10年ものの鮒ずし……譲っていただきましたよ?」
いわゆるなれ寿司だ。その臭い、慣れない者には想像を絶するほどの刺激臭。
「漬けた飯を拭って薄切りにして、炙って酒のつまみにしたり茶漬けにしたり。なんとリゼリオまで持ってこられていた方がいましてね、貴重な鮒ずしを譲っていただけたのですよ」
ハンスが感慨深げに説明を続け、シバはうんうんと頷きながら薄く切り、火で炙り始める。
「ちょっと! ソレ、食べ物なの!?」
ジャンの悲鳴とほぼ同時に、店のドアが乱暴に叩かれた。
「同盟陸軍だ! ここを開けなさい!!」
●
漏れ出た臭いに、通報を受けた陸軍が出動。
毒ガス兵器の密造拠点との疑念を、メリンダが誤解だと説明する。
結局、なれ寿司持ち込みのハンスとシバに加え、虹色の切り身の怪しさにノワもしっかりお説教を食らってしまった。
「異文化に対する無理解は嘆かわしいことです」
「お店のディスプレイに使えると思ったんですけど」
ハンスもノワも全然懲りていないようだ。
「そういう問題でもないだろうけどねぇ」
凪枯は呆れながらも、持ち込んだワサビをすりおろし、なれ寿司を中和できないかと考えた。
菜摘は炙ったなれ寿司を口に運んだ。
大事に作り続けてきた人達にとっては、最高のごちそうなのだから。
「もう少し臭みを抑えることができれば、発酵食品ですから健康にもよさそうですね」
桃之枝は盃片手に箸を伸ばす。
「これはこれでオツな味だとは思うけどね。お酒の肴には悪かないよ」
テーブルいっぱいに並んだ色とりどりの寿司は、どれも見ているだけで楽しい。
ガンジはようやくありついた寿司を次々と頬張っていく。
「やっぱり、みんなで一緒に食べるとウマいんだよね! あ、ちゃんと他の人のぶんも残しておくよ?」
「遠慮せずにどうぞ。どれが一番おいしかったか、ジャンさんに報告をお願いしますね」
菜摘は切り口に綺麗な具材が並んだ太巻きをとりわけ、ガンジに手渡した。
「で、マリアちゃんはどんなお寿司にするか決めたの?」
ロゼがグラス片手に尋ねると、ジャンはそうねえ、と考え込む。
「おスシって奥が深いのね。みんなのお陰でとっても勉強になったワ」
巻き寿司も、店で喜ばれるような具のバランスはまだわからない。
「でも折角だから、ばら寿司と、お肉やエビフライの入った巻き寿司を出せるようにしてみたいわネ!」
「マリアちゃんの作ったお寿司、早く食べて見たいわ~v」
「完成したときはお店に呼ぶワ♪」
かちん。
グラスを合わせて、楽しい約束。
メリンダは小さくため息をついた。
ジャンといい、ハンターというのはどうしてこうもめちゃくちゃで、そして面白い人々なのか――。
「あの……」
シバがおずおずとお酒をすすめてきた。
メリンダの顔に一瞬苦笑が浮かんだが、すぐにそれを収め、本当の笑顔を向ける。
「いただきます」
シバはほっとして隣に座る。
「僕もお酒を呑めるようになったら、おスシ屋さんにお誘いさせて下さいね」
――勿論、奢りますので。
付け加えた一言に、メリンダが笑った。
「楽しみにしていますよ」
<了>
約束の日。
ジャンの店では、厨房に収まらない食材が、カウンターに寄せたテーブルにまで進出していた。
「えっと、こんなカンジでよかったかしら?」
「なかなか面白そうなことになっているね」
桃之枝(ka6824)はテーブルの上を眺めると、持参した酒瓶を置いた。
魚や貝はどれも新鮮そうだ。
「あら、東方のお酒ですか?」
メリンダが酒瓶に気付いた。
「味見役を全うするために、少しばかりね。新鮮な魚介類にはこれが合うだろうさ」
最初から味見役を決め込んでいる桃之枝である。
「メリンダさん、ジャンさん、お久しぶりです!」
元気いっぱいの声はノワ(ka3572)だ。
「そうそう、以前メリンダさんがリクエストされていた『しょくしゅぷれい』なんですけど!」
「はぁ!?」
メリンダがぎょっとして振り向いた。なぜかシバ・ミラージュ(ka2094)の背中もびくっと動く。
以前大ダコ退治のときに、『触手で遊ぶこと』と言い逃れしたのがこんなところで返ってくるとは。
「ついに見つける事が出来たので持って来ましたよ! はいっ、どうぞ!」
ノワが取り出したのは赤い毛糸の紐をループにしたもの。
「あれからお友達に聞いたらコレだって教えてくれたんです♪」
ノワは嬉しそうに指を絡ませ、あやとりで橋を作って見せてくれた。
「わあ。ノワさん、器用ですね!」
……もしかしたらその『お友達』も言い逃れに苦心したのかもしれない。
などと思うメリンダ。シバはその横顔にふと微笑み、持ってきた荷物を大事に抱える。
料理ができる男であることをアピールすべく、彼は静かに燃えている。
ロス・バーミリオン(ka4718)は久々に耳にした『寿司』に思いを馳せつつ、店主のジャンにひらひらと手を振って見せた。
「どーもぉ♪ 初めまして、私はロゼよv」
すらりと長身の、華やかな赤髪が印象的な美女……だが、骨格は相当しっかりしていた。
「ハァイ! アタシはジャン=マリア・オネスティよ。うふふ、オネエじゃないわよ、オネスティ。正直者なの、自分の気持ちにね♪」
ウィンクして見せるジャンに、ロスは何かシンパシーを感じたようだ。
「まぁ! マリアちゃんって呼んでいいかしら!? すっごく可愛いお名前じゃないのぉv」
「やだあ、こんな美人さんに名前で呼ばれちゃうなんて嬉しいワ。アタシもロゼちゃんって呼ばせてね?」
キャッキャと盛り上がるガタイのいい男ふたり。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は穏やかに微笑む。
「仲良きことは美しきことかな、というところですね」
などと言いながら、大きな袋から手早く色々な物をとりだす。
「……寿司の歴史を胃袋で確かめられるとは何て素晴らしい依頼でしょう。感謝しますよ、ジャンさん、メリンダさん」
着流し姿の金髪男が、箱寿司用の木型を掴んでいるさまは、何やら妙な迫力を漂わせていた。
●
そもそもスシとは何ぞや? というところから始まるのが今回の依頼で。
この辺りはリアルブルー出身者に詳しい者が多かった。
日下 菜摘(ka0881)はジャンとメリンダの話した内容を聞いて深く頷く。
「……メリンダさんが召し上がったような本格的なお寿司は、さすがにハードルが高いと思います。あれは一種の芸術だと聞きますので」
ロス……もとい、ロゼは握り寿司についてまとめた資料を用意していた。
「昔はそれなりに食べたのだけど。思い付く限りのネタと材料ね」
捌き方や漬け、炙りについてなど、詳しい説明が並ぶ。
道元 ガンジ(ka6005)は更に具体的に語り始めた。
「ちょっと生は苦手って人のために炙るのもアリ! 漬けっていうのは細長い魚さばいて、砂糖とショーユと酒少しで味つけしたのを薄く切って乗せる。ぶっちゃけ薄切り肉にネギを乗っけてもアリだとおもう!」
ほぼ、自分が食べたいものを主張しているだけかもしれない。
「あとね、寿司は鮮度が命よ! 切ったら直ぐ握ってお客さんに出す! 作り置きとか以ての外よ!!」
ぐっと拳を握ったロゼだが、すぐに表情をゆるめた。
「というわけで、握りは難易度が高いと思うわ。おいしい巻き寿司を作りましょ♪」
時雨 凪枯(ka3786)は左手で火のついていない煙管を弄びながら、どうすればクリムゾンウエストの、それも同盟領の住人に、わかりやすいか言葉を探していた。
握りと巻きが全然違うのに何故『スシ』なのか、そこからだと思ったのだ。
「んー、例えていうなら、『スシ』ってのは『スパゲティ』って感じで。スパゲティにもペペロンチーノやボロネーゼみたいに作り方や使う具材で名前が色々あるだろ?」
うんうんと頷くジャンとメリンダに、ふと笑って見せる。
「簡単に言えば酢飯……シャリって呼ぶんだけどね。それとおかずの組み合わせさね」
握りと巻き、そして通りすがりの客の言った『ばらずし』なるものを説明していく。
「ということなんだけど、握り寿司はシャリが難しいから、あたしも巻きかばら寿司を勧めるよ」
「ばらずしって、皆でワイワイ食べるものだった気がするぜ」
ちょっと嬉しそうな表情で、ガンジが口を挟む。
いつも腹ペコで、美味しいごはんは世界を救うと信じてやまないガンジである。みんなでワイワイお腹いっぱい食べられる物が嬉しくないわけがない。
「ま、とりあえず色々作ってみよ。この店で出すんなら、手早く作れて、たくさんのお客に提供できなきゃ。試作して、ジャンが出したい物にすればいいんだよ」
ジャンはその気遣いに感激してガンジの両手を握った。
「有難う!!」
「うおっ!? あ、出来た試作品は俺が片っ端からいただきたいと思います!」
「まっかせてー!」
方向性が決まったところで、試作開始。
ロゼがふと思いついたことを尋ねる。
「酢飯を…って酢飯あるわよね?」
「ビネガーよね。それはリゼリオで買って来たワ!」
ジャンの用意したビネガーを凪枯が少し味見する。
「ああ、これならだし用昆布漬けて砂糖を混ぜると青の日本に近いのができるよ」
「じゃあ酢飯はオッケーね♪」
シバがおずおずと手を出した。
「では僕が混ぜましょうか」
が、ウチワ片手に、酢飯を混ぜる姿はまるで職人。この依頼にかける真剣さが伝わるというものだ。
その少女のような横顔に、メリンダは経験上、一抹の不安を感じずには居られなかった――。
菜摘はジャンが試作した”巻き寿司のようなもの”を観察する。まだまだ工夫の余地がありそうだ。
「まずは細巻きから練習してみてはどうでしょう。それからキュウリはありませんか?」
「キュウリ?」
細長く切ったキュウリを入れて、菜摘はカッパ巻きを作って見せた。
「魚介類だけでは飽きてしまうかもしれませんし、これはこれで好んでくれる人が居ると思いますわ」
「あらヘルシー。これもスシなの?」
「ええ。これに慣れたら、太巻きも上手にできると思います」
その間に、皆がそれぞれの具材を用意する。
卵、エビのそぼろ、イカ、赤身の魚に白身の魚と、様々な種類の具材が並んだ。
ロゼはいくつかを組み合わせた太巻きを実演して見せる。
「んまー、綺麗に作るのネ!」
感心するジャンに、ロゼは片目をつぶって見せた。
「マリアちゃん、お料理上手でしょ? こんなの直ぐ覚えて、マリアちゃんなりにアレンジできちゃうんじゃないかしら?」
ガンジは更に、酢飯に具材を混ぜ込んでいく。
盛り付けには飾り用にとっておいた刺身や魚卵、卵焼きや野菜の緑を散らした、賑やかで楽しいばら寿司だ。
「綺麗ですねえ。これがバラズシなんですか?」
メリンダが尋ねると、ガンジは大きく頷いた。
「デコ大事! 店で出すんだから、美味しそうって思ってもらわないとね」
その傍らでは金髪のサムライが木箱に酢飯を詰めている。
メリンダが恐る恐る尋ねた。
「あの……これもスシなんですか?」
「これは2日ほど置いて食べる大阪寿司です」
ハンスはジャンにも見えるように、錦糸卵、シイタケ、レンコンなど、目にも楽しい具材を詰め込んだ。
「こうやって少し押して……作って1晩置いた方が味が馴染んで美味しいです」
そしてこれが、出来上がったモノ。と、料理番組よろしく、完成品も持参している。
「煮たり茹でたりするものの、その場で食べられるものは江戸前。酢〆や煮きりが仕事としてありがたがられるそうですが、私は軍艦が楽で好きです」
「軍艦……?」
メリンダもジャンも首を傾げる。ハンスは軍艦巻きの説明までする羽目になった。
「そして海苔やナマモノが苦手なら、おぼろ昆布やレタスで巻いたり、スモークサーモンやローストビーフ、エビフライにしたりという方法もありますね」
「あ、こってりとさっぱりで、魚も果物と一緒に巻くとウマかったりする。っと、ちょっと違う?」
ガンジも加わって、創作スシ談義は盛り上がる。
皆がわいわいとスシを作る様子を、桃之枝は楽しそうに眺めていた。
普通のおスシ、普通じゃないおスシ、何でもござれ。本来のお寿司のカタチにこだわるのも野暮というもの。
「だって美味しければそれでいいじゃないか。私は皆が丹精込めて作ったおスシを美味しく頂くだけさ」
桃之枝の言葉にハンスが頷く。
「仰る通りです」
すでに星が違うのだ。スシの内容がどんな変化を遂げても、美味しければそれで充分。
東方かぶれを自称するハンスは、多様な文化をとりこむ楽しさをよくわかっているのかもしれない。
●
出来上がった寿司が、小皿に載ってカウンターを滑ってきた。
「リアルブルーに居た頃、回転ズシという運搬方法を聞いたことがあります」
シバが無駄に腕をしならせ、見事なコントロールで皿を回転させる。
メリンダは内心(絶対違うと思う……)と思っていたが、目の前でピタリと止まった皿にはさすがに感心してしまった。
「これは……?」
「メリンダスペシャルです」
頬を赤らめるシバ。メリンダは引きつりながら呟いた。
「……干し芋が乗ってるんですね……」
シバは箸で取り分けた寿司を突き出す。
「メリンダさん。はい、ア~ン」
好物とはいえ別に寿司には要らない。メリンダは心からそう思ったという。
「こんなのもどうかねぇ」
凪枯はシャリが見えている裏巻きの巻き寿司や、自分で好きな具材を取る手巻き寿司も用意していた。
ノワはその手巻き寿司一式であることを思いついた。
「私も噂でしか聞いたことがないのですが……こうしてお米を握るんでしたよね」
いびつなおにぎりのようなものができる。
「ワサビを入れて、赤身のお魚を置いて……そして最後にコレです!」
なぜか注射器を取り出したノワは、謎の液体を赤身の魚に注ぎ込む!
「この薬品には食材を腐りにくくさせる他に、発色を良くする効果があるのですが」
持ち込んだ荷物はいつもの実験セットだった。研究者は研究に貪欲なのだ。というかもうほとんどマッドなんたら。
「今回は珍しい物をという事なので、虹色になるように調整してみました♪ このまま一ヶ月は腐りませんよ」
凪枯はノワの目の前に、虹色に変化したスシを突き出す。
「あのさ……明らかにやばそうな物は作った人に食べて貰うよ?」
「……え? これは食べたら駄目ですよ? お腹壊しちゃいますから!」
何故作った!!
その場のほぼ全員がそう思った。
ここでハンスとシバが頷きあい、恭しく小さな壺をふたつ取り出した。
「本来の意味の鮨は、保存用の発酵食のことです。製造方法は、新鮮な魚の内臓を抜いて塩詰め1ヶ月以上、そこからご飯に漬込んで半年から数年……」
ハンスの口上は淀みなく、その間にシバが壺の蓋をそっと開ける。
「これぞスシの起源、と確か家庭科の授業で習いました」
「いやぁ、探せばあるものですね。2年物の鮒ずしと10年ものの鮒ずし……譲っていただきましたよ?」
いわゆるなれ寿司だ。その臭い、慣れない者には想像を絶するほどの刺激臭。
「漬けた飯を拭って薄切りにして、炙って酒のつまみにしたり茶漬けにしたり。なんとリゼリオまで持ってこられていた方がいましてね、貴重な鮒ずしを譲っていただけたのですよ」
ハンスが感慨深げに説明を続け、シバはうんうんと頷きながら薄く切り、火で炙り始める。
「ちょっと! ソレ、食べ物なの!?」
ジャンの悲鳴とほぼ同時に、店のドアが乱暴に叩かれた。
「同盟陸軍だ! ここを開けなさい!!」
●
漏れ出た臭いに、通報を受けた陸軍が出動。
毒ガス兵器の密造拠点との疑念を、メリンダが誤解だと説明する。
結局、なれ寿司持ち込みのハンスとシバに加え、虹色の切り身の怪しさにノワもしっかりお説教を食らってしまった。
「異文化に対する無理解は嘆かわしいことです」
「お店のディスプレイに使えると思ったんですけど」
ハンスもノワも全然懲りていないようだ。
「そういう問題でもないだろうけどねぇ」
凪枯は呆れながらも、持ち込んだワサビをすりおろし、なれ寿司を中和できないかと考えた。
菜摘は炙ったなれ寿司を口に運んだ。
大事に作り続けてきた人達にとっては、最高のごちそうなのだから。
「もう少し臭みを抑えることができれば、発酵食品ですから健康にもよさそうですね」
桃之枝は盃片手に箸を伸ばす。
「これはこれでオツな味だとは思うけどね。お酒の肴には悪かないよ」
テーブルいっぱいに並んだ色とりどりの寿司は、どれも見ているだけで楽しい。
ガンジはようやくありついた寿司を次々と頬張っていく。
「やっぱり、みんなで一緒に食べるとウマいんだよね! あ、ちゃんと他の人のぶんも残しておくよ?」
「遠慮せずにどうぞ。どれが一番おいしかったか、ジャンさんに報告をお願いしますね」
菜摘は切り口に綺麗な具材が並んだ太巻きをとりわけ、ガンジに手渡した。
「で、マリアちゃんはどんなお寿司にするか決めたの?」
ロゼがグラス片手に尋ねると、ジャンはそうねえ、と考え込む。
「おスシって奥が深いのね。みんなのお陰でとっても勉強になったワ」
巻き寿司も、店で喜ばれるような具のバランスはまだわからない。
「でも折角だから、ばら寿司と、お肉やエビフライの入った巻き寿司を出せるようにしてみたいわネ!」
「マリアちゃんの作ったお寿司、早く食べて見たいわ~v」
「完成したときはお店に呼ぶワ♪」
かちん。
グラスを合わせて、楽しい約束。
メリンダは小さくため息をついた。
ジャンといい、ハンターというのはどうしてこうもめちゃくちゃで、そして面白い人々なのか――。
「あの……」
シバがおずおずとお酒をすすめてきた。
メリンダの顔に一瞬苦笑が浮かんだが、すぐにそれを収め、本当の笑顔を向ける。
「いただきます」
シバはほっとして隣に座る。
「僕もお酒を呑めるようになったら、おスシ屋さんにお誘いさせて下さいね」
――勿論、奢りますので。
付け加えた一言に、メリンダが笑った。
「楽しみにしていますよ」
<了>
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/09 15:36:15 |