• 陶曲
  • 血盟

【陶曲】【血盟】アメジスト・ワルツ

マスター:大林さゆる

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/05/18 09:00
完成日
2017/05/26 20:19

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 自由都市同盟、極彩色の街「ヴァリオス」近郊。
 連なる山脈の麓に、とある鉱山があった。
「何がどうしちまったのか、先月から紫水晶の原石も見つかるようになったなぁ」
「以前は、銅が採れたら、一ヶ月分くらいは暮らせる程度のモンだったのによ」
「それが紫水晶の原石が採れるようになってからは、給料も良くなったしな」
「原因は分からんが、俺たちにはありがたいことだわな。子供たちにも、少しは贅沢させてやれるようになったしよ」
「そうだな。紫水晶の原石を加工してもらって、宝石職人に指輪を作ってもらってよ。それを恋人に贈ったら、すんげー喜んでくれてよ。マジで生きてて良かったと思ったね」
「いやはや、この鉱山はワシらにとっては宝の山だな」
「そだな。ありがたや、ありがたやってなもんよ」
 鉱山で働く作業員たちにとっては、日々の生活が何よりも大切であった。
「そろそろ休憩するかー。腹が減っては、なんとやらーだしよ」
「おう、そだな」
「おまえ、毎日、奥さんの手作り弁当なんだってな。うらやましいぜ」
「なに言ってやがる。限られた給料の中で、無駄なモンは買えねーだけさ」
「ハハハ、俺なんざ、自分で毎朝、自分のために弁当、作ってんだぜ。奥さんの手作り弁当とは、幸せ者だよ、おまえさんは」
 作業員たちは道具を地面に置いて、休憩することにした。
「そういやよ、最近、妙な噂……あるよな?」
「おいおい、そういう話はよせよ」
「けどよ、フマーレ近郊の鉱山では『腕』が発掘されたって噂があるじゃねぇか」
「このまま奥まで掘り進めたら……」
「それ以上、憶測だけで言うもんじゃねぇぞ。ここの鉱山で発掘されるようになったのは、紫水晶だろう。『腕』とかは関係ないぜ、絶対によ」
 とは言うものの、作業員たちは最近の不穏な動向が気になって仕方なかった。



 数日後。
 魔術師協会広報室から、魔術師たちが派遣されてきた。
 念の為、鉱山で働いていた作業員たちは自宅へ帰り、休暇を取ることになった。
 何故、紫水晶の原石が見つかるようになったのか、調査するためであった。
 ランタンを腰に付けて、鉱山の奥へと進んでいく魔術師たち。
 護衛として、マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)、ラキ(kz0002)も同行していた。
 もう少しで突き当り……という場所で、魔術師スコットは、紫水晶の原石が剥き出しになっている箇所に気付き、地脈から多量のマテリアルがあるのではと推測していた。
「紫水晶が見つかるようになった時期は、確か……ハンターたちが大精霊と接触した頃。同盟には、知恵の精霊アメンスィが戻ってきたという噂もあるし、まさか……な?」
「アメンスィか……『地と光の属性を持つ』精霊と聞いたことがあるが、紫水晶が出現するようになったのは、何かの問いかけなのか?」
 考え込むマクシミリアン。
「まだ、あたしたちのこと、信用してないのかな?」
 ラキは、ハンターとしての職務を誇りに思っていたが、精霊たちに信頼されていないのではという不安も少なからずあった。
「仮に、『紫水晶』がハンターに向けての『問いかけ』だったとしたら、やはり意味があるのかもしれないし、その謎を解かなければ、先へは進めない可能性もあるよ」
 スコットがそう言うと、マクシミリアンは溜息をついた。
「精霊の考えていることは、よく分からんな。ハンターを試すというのなら、バトルでもやれば良いだろう」
 ラキが慌てて、周囲を見渡した。
「ちょっと、精霊さんが、あたしたちの話を聞いてたら、どうするつもりなの? バトルとか、そんな単純な話じゃ……」
 そう言いかけた時、黒い霧のようなものが発生し、しばらくすると、紫水晶の原石に異変が起こった。
『……い、た、い……』
 何かが浮遊していた。ハンターたちには、それが『子供の姿』に見えた。はっきりとした姿ではなく、ぼんやりと輝く光球になったり、子供の形になったり、不定型で曖昧なモノであった。
「あれは……もしかして、精霊か?」
 スコットは興味津々に様子を窺っていた。
『……で、て、い、け……』
 不定形の精霊が、言葉として、伝えてきた。
「……ここから、出ていけってことかな?」
 ラキは残念そうだった。まだ、ハンターは精霊たちに信頼されていないのか?
 その刹那、ビシッという音がした。
 ほぼ同時に紫水晶が、まるで動く人形のごとく、湧いて出現してきた。
「なんだ、こいつらは? 騎士と剣士の姿をしてるぞ」
 スコットは杖を持ち、身構えた。
 だが、紫水晶の騎士と剣士たちは、不定形の精霊に襲い掛かっていく。
「どういうことだ?」
 マクシミリアンには意味が分からなかった。
「これは異常事態だ。紫水晶に精霊が宿っていたのなら、同じ眷属の精霊を襲うことはないはずだ」
 スコットは、トランシーバーを使い、外部で待機している仲間の魔術師に連絡した。
 その知らせは、ハンターズ・ソサエティにも報告され、依頼として舞い込んできた。

 紫水晶がヴォイド化して、精霊を襲っていた。
 もし、精霊がハンターたちと話し合うために現れたのなら、紫水晶の原石がヴォイド化したのは、一体、何故なのか?
 同属の精霊同士が争うことなど、あってはならないことなのか?
 それとも、紫水晶からのメッセージなのか?
 その謎を知るべく、ハンターたちは目的地へと向かった。
 自由都市同盟にある鉱山へと……。

リプレイ本文

 極彩色の街「ヴァリオス」近郊にある鉱山。
「ガキの姿をしているとは言え、精霊だったら敵に返り討ちくらいしやがれっての。しゃあねぇ、相手が精霊だろうとこの世界の一部だ。そんならノブレス・オブリージュ、きっちり果たしてやろうじゃねぇか!」
 ジャック・J・グリーヴ(ka1305)が言うことも、納得できる意見だ。貴族に生まれたからには、力を持つ者は持たざる者に対して責任を持つ……この信念こそ、ノブレス・オブリージュだ。
 だが、精霊が女性の姿をしていたら、スーパーグレイトジャック様のグリーヴは、どのような反応だったのだろうか。気になるところではある。
「まずは歪虚化した紫水晶の人形を退治して、それから精霊の保護もしようぜ」
 ジャック・エルギン(ka1522)はユグディラを連れて、自身の腰にランタンを付けて周囲を警戒しながら鉱山の中へと入る。
 グリーヴはハンディLEDライトを点灯させて、奥へと突き進む。
 二人の遣り取りを聴いていたオリヴィア・ウェールズ(ka6828)は、初陣とは言え、落ち着いた雰囲気だった。
「エルギンさんとスーパーグレイトジャック様、他の皆さんも、私の心配をしてくれたり、頼もしい先輩方で安心して依頼に望めます」
 オリヴィアが独り言。
 イレーヌ(ka1372)の傍らには、ユグディラのラオがいた。
「おじぃ、紫水晶の人形が、精霊を襲っているらしいよ。遭遇したら、ソルジャーの人形を一緒に足止めしていこう」
 おじぃと呼ばれたラオは、任せておけ…とでも言わんばかりに頷いていた。
 仁川 リア(ka3483)も、ユグディラのメイズを連れて、エルギンたちの後を追っていた。
「いろいろと調査したいところもあるけど、歪虚化した紫水晶の人形たちを全て倒してからになるね」
「そうね。精霊が子供の姿をしているなら、助けを求めている可能性もあるわ。だったら尚更のこと、救い出してあげたいわね」
 アリア・セリウス(ka6424)は、精霊の想いを確信していた。同行していたイェジドのコーディは、主のアリアの横に寄り添うように歩いていた。
「コーディに騎乗して移動するほどの高さや広さはないようね」
 アリアたちの足音が、やけに響いていた。
 レルム=ナスバオム(ka3987)は、出会ったばかりのユキウサギ、アルウィと共に、鉱山の奥へと進んでいた。
「……仕方ないな……名前がないと不便だから、アルウィって呼ぶことにするけど……この依頼で役に立ったら、考える……から」
 レルムの言葉に、ユキウサギのアルウィはキリっとした顔付きをした。主人と決めた相手には、最後まで尽くすのがユキウサギのポリシーだ。



 魔術師協会広報室から派遣された魔術師たちも、事の次第を間近に観察するため、ランタンを片手に持ち、周囲を照らしていた。
 最初に異変に気付いたのは、グリーヴだった。
「てめぇら、この俺様と戦えること、光栄に思いやがれっ」
 法術盾「咲き誇る薔薇の如く」を構え、『強撃』を仕掛けるグリーヴ。
 技が発動すると、薔薇の花弁の如き光が放たれた。
 盾で押し倒されたアメジスト・ソルジャーが一体、移動不能になった。
「思った通り、ソルジャーが前衛で、ナイトは後衛に陣取ってんな。だったら、こうしてやるまでだぜ」
 エルギンもソルジャーの動きを予測して、バスタードソード「アニマ・リベラ」による『強撃』を繰り出し、アメジスト・ソルジャーを一体、移動不能にさせた。
 エルギンと同行していたユグディラは、『あぶないにゃ!』のサバイバル術を使い、周囲に隠れる場所が無かったため、死んだフリをして、やり過ごそうとしていた。依頼が終わったら、エルギンから魚の干し物をゲットするためにも、ユグディラは必死に気配を消していた。
 ユグディラのラオが、横笛を吹き『猫の幻夢術』を奏でた。ソルジャーたちは特に変わった様子はなく、盾を身構えていた。
「おじぃ、どうやらソルジャーは音楽が理解できるほどの知性を持たないようだね」
 それが分かっただけでも御の字……イレーヌは『ジャッジメント』を繰り出す。アメジスト・ソルジャーに命中し、敵を一体、移動不能にさせることができた。
「これで私も攻撃に専念できます。皆さん、ありがとうございます」
 オリヴィアは、転倒して身動きが取れないアメジスト・ソルジャーに狙いを定めて、『剣心一如』で精神を統一すると、太刀「紫流葉」を水平に構え『疾風剣』を繰り出した。
 ソルジャーの胴部を太刀が貫き、素早く斬り裂いた。舞刀士ならではの技である。
「もう一体、動きを封じないと……」
 レルムはパリィグローブ「ディスターブ」で『強撃』を発動させ、力任せにアメジスト・ソルジャーの胴部を打ち付けた。その反動で、ソルジャーは転倒して、移動不能となった。
 ユキウサギのアルウィは、雪水晶の防御結界を発動させ、レルムを白い光の結界に包む込み、防御力を上昇させた。さらに移動不能になったソルジャーに対して、アルウィは幻獣爪で攻撃をしかけていた。
「これで前衛のソルジャーは全て移動ができなくなったわね」
 アリアは大太刀「破幻」を構え『透刃花・玲瓏』によって放たれた刃が、ソルジャーたちを一閃に貫いていく。刹那と永遠が交差する技は、儚くも紫水晶の人形が一体、砕け散り、消滅していく。
 コーディはアリアのために、幻獣砲「狼炎」で援護射撃していた。
「挨拶代わりに、これはどうだな?」
 リアは『アサルトディスタンス』で駆け抜けながら、『呪術の才』を纏った影殺剣「カル・ゾ・リベリア」を繰り出し、ソルジャーを切り裂き、消滅させた。
「内側から砕けたってことは、僕の毒が効いたってことかな。人形が相手では、苦しむ顔が見れなかったけど」
 さらりと告げるリア。対象が生物であったなら、毒の効き目で苦しみながら消え去っていたことだろう。
 ユグディラのメイズは、ビクビクしながらも回復できる相手がいないかと辺りを見渡していた。
 アメジスト・ナイトたちは間合いを取り、弓を構えて『ダブルシューティング』を放った。
 オリヴィアは回避を試みるが、敵の矢が肩に突き刺さり、腕から血が流れ落ちた。
「ナイトたち、精霊だけでなく、ハンターも狙う気なのね」
 アリアは、パリィグローブ「ディスターブ」でナイトが放った矢を受け払い、 シールド「セリニキクロス」を身に付けたコーディがブロッキングで威嚇し、アメジスト・ナイト一体の移動を阻害することに成功した。
 身を挺したコーディは、アメジスト・ナイトと押し合い、互いに一歩も譲らなかった。
 イレーヌはシールド「トゥルム」を構えて、アメジスト・ナイトが放った矢を全て受け止め、オリヴィアの援護に廻っていた。
 ユグディラのラオは、敵の矢を余裕で回避していた。
「さすが、おじぃ」
 イレーヌの言葉に、ラオは当然のことじゃ、とでも言うように不敵な笑みを浮かべていた。
 レルムは、身動きが取れないアメジスト・ソルジャーが自分の前にいたこともあり、ナイトからの狙いからは外れていた。
「……ソルジャーのおかげで助かるなんて……皮肉だな」
 ナイトが弓で狙っていたのは、ユキウサギのアルウィだった。
 アルウィは一本目の矢を『おばけクルミのお守り』の加護で回避できたが、二本目に放たれた矢がアルウィの胴部に突き刺さり、鎧から血が滲み出た。だが、幻獣鎧を装備していたこともあり、急所からは外れ、命拾いした。
「……アルウィ……」
 レルムの声に反応して、アルウィは健気にも痛みに耐えて、ガッツポーズをしていた。
 エルギンのユグディラが『げんきににゃ~れ!』の術を施すと、オリヴィアの傷が癒されていく。だが、かなりのダメージを受けていたのか、完全には回復することができなかった。
「……ありがとうございます。戦うことはできそうです」
「お、立ち上がれたか、オリヴィア。良かったぜ」
 エルギンは安堵すると、180度前方にいるアメジスト・ソルジャーを狙って、バスタードソード「アニマ・リベラ」による『薙払「一閃」』を繰り出した。
「俺達の行く手を阻んだことが仇になったな。薙ぎ払いにはもってこいの位置に陣取るとは、攻撃してくれって言ってるよーなモンだぜ」
 この一閃により、アメジスト・ソルジャーたちも全て砕け散り、消え去っていった。
「エルギン、やるじゃねぇか。残りはアメジスト・ナイト三体……俺様の魂が黙っちゃいねぇぜっ」
 グリーヴは『獅子吼』で熱い血潮のごとく吼えた。
 
 オォォォォォォォォォォォっ!!

 アメジスト・ナイトたちは反応が無かったが、子供の姿をした精霊がグリーヴに接近してきた。
「なっ? ガキの精霊が俺様の所に……まあ、良い。むしろ好都合だ。せっかく来たんなら、守ってやるぜ」
 偶然なのか、必然なのか、子供の姿をした精霊はグリーヴの後ろで浮遊していた。
『……た、す、け……』
「そうよ。私たちは、貴方を助けに来たの。ゆっくり話すのは、アメジスト・ナイトを全て倒してからね」
 アリアは精霊に優しく語りかけ、『織花・祈奏』を施した大太刀「破幻」を振り翳し、『透刃花・玲瓏』でナイトを貫いた。胴部の結晶が砕けるが、アメジスト・ナイトはアリアと向かい合い、防御態勢を取っていた。
「……まだ居たのか」
 レルムは『渾身撃』をアメジスト・ナイト一体に叩き込む。ダメージを与えることができたが、まだ消滅はしていなかった。アルウィは怪我を負いながらもレルムを援護するため、紅水晶の結界術を発動させた。
「次は、この武器を試してみましょう」
 オリヴィアは影殺剣「カル・ゾ・リベリア」を構え、『剣心一如』からの『疾風剣』を繰り出す。渾身の一撃が決まり、アメジスト・ナイト一体に多大なダメージを与えることができた。
「まだ消えませんね。けれど、私は諦めません」
 敵が強ければ強いほど、オリヴィアの技が冴えてくる。それは彼女が目指す『道』への鍛錬にもなっていた。
 イレーヌが『ジャッジメント』を発動させ、射程内にいるアメジスト・ナイト一体に光の杭を打ちこんだ。
「ソルジャーが全て消えても、ナイトの動きも封じないとね」
 イレーヌの攻撃により、アメジスト・ナイト一体が移動不能になった。
 ラオは『猫たちの挽歌』を奏でるが、アメジスト・ナイトたちには心がないのか、まったく興味がない素振りだった。戦闘に巻き込まれ、子供の精霊が脅えていた。
『……な、か、ま……た、す、け……』
「分かってるよ。僕たちは、そのために来たんだから」
 リアは精霊を守るため、『炎刃翼纏』を駆使してアメジスト・ナイトに接近すると、魔導拳銃「エニアグラム」を構えて、敵の頭部を狙い撃つ。見事に命中して、アメジスト・ナイト一体が消滅。
 ユグディラのメイズは、幻獣弓「グランディネ」で別のアメジスト・ナイトを狙い、牽制射撃をしていた。メイズの矢は命中しなかったが、エルギンが加勢に入る隙を作ることができた。バスタードソード「アニマ・リベラ」を振り回して『強撃』を放ち、アメジスト・ナイトを転倒させた。
「矢を放つ前に、動きを封じてやるぜ」
 エルギンの攻撃が決まり、アメジスト・ナイト一体が移動不能になった。
 そして、エルギンのユグディラは『げんきににゃ~れ!』をユキウサギのアルウィに施す。アルウィの怪我はある程度、回復することができたが、完全には治癒できなかった。
 子供の精霊は、恐怖で泣きじゃくっていた。
「ガキがっ、ビービー泣いてる暇があったら、俺様の後ろに隠れてやがれっ」
 グリーヴは『矜持』の構えを取り、ワン・オブ・サウザンドの銃口をアメジスト・ナイトに向けて、弾丸を放った。胴部に命中したが、アメジスト・ナイトはダメージに耐え、イレーヌに接近戦を持ちかけようした。
「私に接近するとはね」
 イレーヌは『シールドバッシュ』で押し流し、アメジスト・ナイトは体勢を崩して移動ができなくなった。
 イェジドのコーディはウォークライの咆哮で威嚇……アリアは舞いながら『織花・祈奏』を発動させ、『透刃花・玲瓏』で直線上にいるアメジスト・ナイトを貫いていく。
 敵の紫水晶が煌めきながら砕け散り、消滅していった。



 歪虚化した紫水晶の人形たちは、何かに解放されたかのように全て消え去っていた。
 レルムは、精霊との対話は仲間たちに任せ、アルウィに対する今後の待遇をどうするか、ぼんやりと考え込んでいた。
 ユグディラのラオが、横笛を吹いていた。『森の午睡の前奏曲』を聴いた者は傷が癒され、子供の姿をした精霊もようやく落ち着きを取り戻していた。
『覚醒者の皆さん、ありがとう』
 精霊がペコリと御辞儀をした。中性的な顔立ちで、ぼんやりとした姿をしていた。
 エルギンは、同盟で起こっていることが気になり、精霊に質問してみた。
「この土地で、普通じゃねえ数の歪虚が湧いて出てきてる。俺にゃ、単なる攻勢じゃなく何かの前触れに思えてならねえ。精霊のアンタにゃ、俺らに見えないモンが見えるんじゃねーか?」
 その問いに、精霊が応えた。
『ボクには、アメンスィ様が、この大地に戻ってきた気配を感じた。それだけじゃない……『ヤツら』はボクたちの仲間を闇に落として、消滅させようとしているんだ。ボクの仲間が、次々と『ヤツら』のせいで『人形』になって、ヒトの子らを襲うようにもなった』
「ヤツらってのは誰だ? 鉱山で働いてる奴が掘ってる紫水晶、それ一つ一つが精霊の体の一部なんじゃねぇか?」
 グリーヴの推測に、イレーヌが思案する。
「同盟で出現している『人形』を生み出しているのは、精霊ではなく『ヤツら』か……紫水晶の採掘によって精霊達を傷付けているなら、作業員達に説明して止めるよう説得するつもりでいたが、どうやら、ヒトのせいではないようだね」
『ここで、ボクの身体を掘って持っていったヒトの子らは、ボクの身体を大切にしてくれている。だから、とてもうれしいんだ。それなのに、『ヤツら』はボクの身体の一部を『人形』に変えて、ボクを闇に落とそうとしたんだ。完全に堕落する前に、魔術師たちが来てくれて、キミたちが『人形』を消滅させてくれたから、助かったよ。本当にありがとう』
「あのさ、さっきから気になってたけど『ヤツら』って何者なのかな? アメンスィと関係あるのかな?」
 リアが言うと、子供の姿をした精霊は「そうだ」と思い出したように話を続けた。
「今のところ、ボクにも『ヤツら』の正体と名前は分からない……けど、この大地を消滅させようとしていることは、波動で伝わってくるんだ。実際、ボクの仲間は、この大地のいろんなところにいるけど、闇に落ちた者の多くが『人形』になって、『ヤツら』の道具みたいに扱われているんだ』
 悔しそうに告げる精霊。
 アリアは皆の話をじっくりと聴きながら武器を納めて、敵意はない意志を示し、一礼した。
 精霊とは対等に接したいからこそ、礼と心を大事にしたかったのだ。
「……異変の『脈動』を、フマーレで歪虚と戦った時に感じたの……その中、大地の精霊が私達にして欲しいことは何かしら? 私は、貴方たちと手を取り、助け合いたいと願っているわ」
 子供の姿をした精霊は、しばらくアリアを見つめ、一息ついてから、こう告げた。
『アメンスィ様や、この大地に居る仲間たちを救うためにも、『ヤツら』の正体が何者で、どこにいるのか、居場所を見つけて欲しいんだ』
 精霊がハンターたちに懇願する。
「ちょい疑問なんだが、『ヤツら』の波動が読み取れるなら、アメンスィほどの精霊なら、敵の居場所も分かるんじゃねぇのか、そこんところどうなんかね、精霊君よ」
 グリーヴの言うことも尤もだ。
『それが、『ヤツら』の気配が点々としていて、具体的な場所が特定できないんだよ』
 精霊の言葉に、リアが念の為に確認する。
「紫水晶が、きみの身体の一部ってことは、きみ自身は『紫水晶の精霊』ってことなのかな?」
『そうだよ。ヒトの子らが、ボクを子供みたいに大切にしてくれるから、ボクの見た目も、こんな感じになったのかもね』
「お、そういうことか。外見に意味はないと思ってたが、鉱山の作業員たちが紫水晶を子供みてーに大事に掘ってたから、そういう姿になったって訳か」
 エルギンが納得したように告げた。
「と言うことは、もし、男性の作業員たちが恋人を思うように大事に紫水晶を掘ってたら、美人の女性になってたかもしれないね」
 イレーヌが、からかうように微笑む。
「なんだと? それは本当かっ?!」
 グリーヴが、紫水晶の精霊に詰め寄る。
『そうだね。そういう可能性もあるかも』
 子供の精霊は、不思議そうにグリーヴを見つめていた。
「……そ、そそそそ、そうか。場合によっては、リアルで精霊が女性に……」
 何やら落ち着かない素振りのグリーヴだった。
 リアが改めて、紫水晶の精霊に提案する。友好の証として。
「出来れば、ほんの少しでいいので力を貸して欲しい。力を貸してくれる存在は多い方がありがたいから」
『ボクの力は、本当に小さいけど、ここに来てくれた覚醒者さんたちに、これを……』
 紫水晶の精霊が、そう告げると、ハンターたちの掌には、いつのまにか輝く石があった。
『ボクからのお礼だよ』
「ありがとう。力を貸してくれて。きみの願いは、この依頼を通して、本部に伝えておくよ」
 気さくな笑みを浮かべるリア。
 アリアは自分の掌にある輝く石を、優しく撫でた。
「……地の奥底に人の魂は眠り、集まって宝石となる……夜空の星と同じように輝いているわ」
 星や草花、宝石のように物語が語り継がれるなら、命や想いを――それを受け継ぎ、明日へと斬り拓きたい……アリアの純粋な想いは、精霊たちにも届いていたようだ。
 オリヴィアは、冷静にハンターたちと精霊の会話を聴いていた。紫水晶の精霊が、友好の使者とは限らない……それも一理あった。
「それでは、ここで聞いた話は、ハンターズ・ソサエティと魔術師協会広報室へ報告しておきますね」
 オリヴィアの判断も、賢明だ。



「この調子じゃ、他の鉱石も狙われそうな感じがするな。実際、青銅も人形と化して集団で人魚の島を襲ってきたこともあったしな」
 エルギンの言葉に、アリアが頷く。
「だとしたら、裏で何者かが嫉妬の歪虚を操っている可能性も出てきたわね。今回の紫水晶も、嫉妬の歪虚が絡んでいるとみた方が妥当かしら?」
 グリーヴは、エルギンと並ぶように歩き、鉱山の外へと向かう。
「ちっ、同盟じゃあ、嫉妬の歪虚が悪さしてるみてぇだな。だとしたら、平民どもの暮らしにも支障が出てきそうな気もするがな」
 イレーヌは鉱山の外へと出ると、皆の顔を見ながら、こう告げた。
「噂では、楽器とか陶器とかも、勝手に動き出しているって聞いたこともあるよ。これも、紫水晶の精霊が言っていた『ヤツら』の仕業かもね」
 リアは後ろを振り返り、鉱山の入口を見つめた。
「アメンスィは、知恵の精霊としても知られている……それが、ヒントに繋がるかもしれないね。そのためにも、同盟を騒がしている歪虚の正体と居場所を、はっきりさせたいところかな」
 紫水晶の精霊は、鉱山の中が居心地が良いらしく、外へ出ようとはしなかった。
 そのことも、本部へと報告することになった。


 同盟の各地を騒がせている歪虚たち。
 ヤツらは、忍び寄るようにやってきていた。
 ……大地が、脈打つ。
 それはまるで、劇の序章にも似ていた。

依頼結果

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MVP一覧

  • 大地の救済者
    仁川 リアka3483
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウスka6424

重体一覧

参加者一覧

  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ラオ
    ラオ(ka1372unit002
    ユニット|幻獣
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    エルバ
    エルバ(ka1522unit003
    ユニット|幻獣
  • 大地の救済者
    仁川 リア(ka3483
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    メイズ
    メイズ(ka3483unit004
    ユニット|幻獣

  • レルム=ナスバオム(ka3987
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アルウィ
    アルウィ(ka3987unit001
    ユニット|幻獣
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    コーディ
    コーディ(ka6424unit001
    ユニット|幻獣

  • オリヴィア・ウェールズ(ka6828
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談用スレッド
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/05/17 22:23:57
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/13 21:36:56