• 血盟

【血盟】龍の園より~碧の龍騎士

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2017/05/15 09:00
完成日
2017/05/24 20:10

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ――北方王国『リグ・サンガマ』。

 青龍を神と戴くこの国は、かつて歪虚の大侵攻により滅び去った。
 今となっては、青龍が座す神殿を中心としたわずかな一帯、龍園とも呼ばれる神殿都市『ヴリトラルカ』があるばかり。
 いまだ幾多の歪虚が跋扈するこの地で、人々は青龍の加護と支配とを享受しながら肩寄せ合うよう生きていた。



●龍園にて
 ワイバーン達が寛ぐ龍舎の一角。
 ひとりの青年が額に汗しながら、飛龍の身体を丁寧に拭っていた。龍は長い尾をゆさりと一振り。気持ちが良いらしい。
「……ふう。爪はどうだい、手入れは必要かな?」
 拭い終えた青年はまるで友人に話しかけるかのような口ぶりで言い、顔を上げる。雪のように白い髪が揺れ、上気した頬が覗いた。さらによく見れば、顎や頬の外縁には碧く硬質な鱗が煌めいている。

 少数種族・龍人《ドラグーン》だ。

 青龍と血の契約を交わした人々を祖とする種族で、身体の一部に鱗を持つ。そんな来歴からか、ここ龍園では龍人達の大方が青龍に仕える神官か、龍騎士として暮らしている。彼もそんなひとりだった。
 そこへ、
「おーい隊長殿ぉー」
 扉を開け黒髪の龍人がやって来た。見た目は三十代後半といったところか。左頬に蜥蜴を思わす細かな鱗が光っている。
「ここだよダルマさん」
 青年が軽く手を上げて応えると、ダルマと呼ばれた彼は大股に歩み寄ってきた。
「探したぜ、隊長殿自ら飛竜達の手入れとはなァ」
 十歳近く年下の自分を「隊長殿」と呼ぶダルマに、青年は飛龍を撫でつつ苦笑する。
「『隊長』はよしてくれないかな、今は休憩中だよ」
「休憩中でも何でもお前は俺らの隊長だろうがよ。もっと自信持てシャンカラ」
 ダルマは、若くして龍騎士隊長になった青年――シャンカラがその重責に圧し潰されそうになっているのだと思ったか、景気よくその背を叩く。手荒な励ましにシャンカラは再び苦笑い。
「ありがとう。だけど、そうじゃないんだ」
 そう言う顔は今一つ晴れない。無言で続きを促すダルマに、シャンカラは一つ息を吐いてから切り出す。
「……僕達は、このままではいけないと思うんだ」
「唐突だなァ。もうちっと分かり易く頼むぜ」
 シャンカラは小さく頷くと、過去へ思いを馳せた。

 ここ北方は、辺境の更に北に位置する。
 辺境とは地続きだが負のマテリアル汚染や深い雪に阻まれ、長きに渡り陸の孤島であった。西方への移動手段も連絡を取る術もなく断絶状態にあったのだ。
 しかし過日、転機が訪れた。
 龍園の庇護者たる青龍は、それまで強欲王メイルストロム――かつては六大龍の一角であった赤龍を封ずる事に力を尽くしていたのだが、ワイバーンの協力を得たハンター達が死闘の末見事これを撃破したのだ。
 青龍は強欲王を封印する役目から解放され、ヒトと龍の間には少しずつだが確かな絆が結ばれつつある。
 今では龍園内に転移門も設置され、西方との行き来も可能となった。
 これにより龍園の民も西方の人々と融和していくかに思えたのだが――

「なかなか難しいんじゃねぇかなァ」
 ダルマ、顎髭を擦りながらぼそり。
「俺ら龍人とヒトとは在り方っつーか、生き方が違うからよぉ」
 これなのだ。
 転移門により物理的な断絶は解除されたものの、龍園の民と西方の人々との間にはいわば精神的な隔たりが残されていた。
 西方との交流をと焦るシャンカラに対し、ダルマの反応は芳しくない。まだ若く柔軟なシャンカラに比べ、年長の彼はよりその思いが強いらしい。と言うよりも、彼の感覚の方が龍園の民のスタンダードなのだ。
 シャンカラはゆるりと首を振る。
「違いで言うなら、龍とヒトの方が余程違う。高位の龍でなければ言葉すら交わせないのだから。それでも龍達はヒトと在る道を選んだ……対話ができる僕達龍人とヒトが分かり合えないはずがない。僕はそう思うんだ」
 碧い瞳に強い信念を湛えたシャンカラに、ダルマはそれ以上口を挟まなかった。
 と、シャンカラが思い出したように言う。
「そうだ、僕に何か用かい?」
「おっと忘れてた」
 ダルマは神殿を目で示した。
「アズラエル様がおいでだ。お前さんに話があるとよ」
「アズラエル様が?」


●開かれる龍園
 アズラエル・ドラゴネッティ。
 ハンター達にとってはお馴染みの存在かもしれないが、龍園の民にとっては違う。青龍に次ぐ最高位の神官であり、ヒト――ここには龍人も含まれる――が精霊たる龍に背かぬよう見張る監視者でもあるからだ。
 ふたりは緊張の面持ちで彼の前に膝を折る。
「君が新しい龍騎士隊長か、随分若いね。まずは強欲竜の砦制圧おめでとう」
 眼鏡の奥の目を細めるアズラエルに、シャンカラは深く頭を垂れる。
「恐れ入ります。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません、半年前に隊長職を拝命しましたシャンカラと申します」
「堅苦しいのは結構。仕方ないさ、砦攻略のために半年間出ずっぱりだったんだからね」
 面を上げるよう促され、少しだけほっとしたように背筋を伸ばす。そんなふたりへアズラエルは告げた。
「単刀直入に言おう。龍騎士隊に、西方の連合軍へ合流してもらいたい」
 その言葉に、シャンカラは喜色を浮かべダルマを振り返る。
 しかし、もたらされた話は喜ばしいものばかりではなかった。

 ハンター達が先の作戦で過去を垣間見た事。
 対峙した邪神の絶望的な強さ。
 神との対話に臨んだが言葉一つ得られなかった事。
 しかし今、世界中で呼び起された精霊達の力を借りるべく動き出している事――

「この世界を構成するすべての者達の力を合わせなければ、滅びを免れる事はできない。無論龍園の民もだ」
「いや、しかし」
 待ったをかけたのはダルマだ。
「龍園の者は龍園から出た事がないんですよ? 何つーか世間知らずってぇか……上手く西方の連中と馴染めるとは」
「それは心配ないと思うがの」
 突然背後から少女の声が響いた。見れば、遅れて来たナディア・ドラゴネッティ(kz0207)が立っている。
「ハンター達と交流する所から始めたらどうじゃ。あやつらは龍と人間との間にあったわだかまりを解して見せたのじゃぞ、世間知らずな龍園の者とも何とかして打ち解けるじゃろ」
「はあ」
 長年龍園を留守にしていたナディアに「誰?」という顔をしつつも、アズラエルの反応から何となく偉い人なんだろうと察したふたり、丁寧に一礼する。龍人とは生来真面目な種族なのだ。
「ではまずはハンターさん達をここへ招き、歓待するとしましょうか」
 シャンカラの提案に、
「それがよい、宴好きな連中じゃからのう」
「歓待っつっても、西方の連中が何を好むか……」
「あーよいよい、うまいモンと酒でも出しときゃ大体オッケーじゃ」
「間違いないね」
 反応はそれぞれだったが、ともかくこうして、龍園の民とハンター達との交流会が催される運びとなったのである。

リプレイ本文

●龍の園へ
「綺麗な神殿やねー」
「こんなきらきらした建物初めて見たです!」
 白亜の結晶神殿の威容に声をあげたのは、レナード=クーク(ka6613)とレネット=ミスト(ka6758)だった。
 レム・フィバート(ka6552)は上空を飛ぶ飛龍を見つけ、幼馴染アーク・フォーサイス(ka6568)の袖をぐいぐい。
「アレがワイバーンくんですなっ!?」
「確認しなくてもそうだと思うよ」
 はしゃぐ彼らの一方で、神妙な面持ちの面々もいた。
「合同葬儀を行った時以来か……」
「あれから一年、ですか」
 呟くのは、以前にも龍園を訪れていたカフカ・ブラックウェル(ka0794)と天央 観智(ka0896)。彼らがこの地を訪れたのは、強欲王との戦いに散った龍達の葬儀の時だった。アーサー・ホーガン(ka0471)も短く息を吐く。
「……ま、丁度良い機会だな」
 ノエル・ウォースパイト(ka6291)は彼らの心境に敬意を払いながらも、雰囲気を和らげるべくぽんと手を叩いた。
「難しい話は抜きにして。せっかくご用意してくださったのだもの。パーティを目いっぱい楽しませていただきましょう?」
「うむ、宴の席は参加する者達と楽しく語らってこそじゃ」
 ヴィルマ・ネーベル(ka2549)は青い髪を揺らし首肯する。
「それは良いんだけど、」
 ケイ(ka4032)は辺りをきょろきょろ。
「お招きいただいた割に出迎えがないじゃない?」
 全員で見回したその時、石造りの家の向こうからひとりの龍騎士が駆けて来た。
「お迎えが遅くなり申し訳ありません、ようこそお越し下さいました」
 息を切らして言うのは、頬を縁取る碧い鱗が印象的な青年。歳は二四、五か。呼吸を整えると一人一人に握手を求めて回る。あまりのフレンドリーさに一同は驚いた。というか初っ端から積極的過ぎて若干引く程である。握手を済ませた所で「で、誰?」と言いたげな皆の視線に気付き、青年は照れたように笑った。
「これは失礼を。龍騎士隊長のシャンカラと申します」
 一同、二度驚いた。



 案内されたのは神殿傍の広場だった。周囲では飛龍達が翼を寛げ、槍を持ったリザードマン達が興味深げに一行を眺めている。少々寒いのは否めないが、屋内で彼らと触れ合うには余程広い空間が要るだろう。
 一方ダルマを始めとした龍騎士達は少し遠巻き気味にしている。神官達の笑顔もぎこちない。気まずさに似た空気の中、すっと進み出たのはヴィルマだった。
「お招き感謝するのじゃ。我は自称霧の魔女ヴィルマ・ネーベル」
 ドレスで艶やかに着飾った彼女の頭上には龍冠が輝き、首許を「眠り竜の首輪」が彩っている。
「正装してみたが、気恥ずかしいのじゃ」
 はにかむヴィルマだが、正装での訪いは誠意の現れ。そして龍の意匠の品々を着ける事よって友好の意を体現して見せた彼女に、龍人達の張りつめた気が解れていく。
 それを機に自己紹介が始まった。龍のモチーフを身に着けて来たのは彼女だけではなく、アーサーは鎧を、観智は首飾りを、カフカとレナードは杖を手にしていた。
 その他の面々も、
「ノエルといいます。エルフハイムのシードルをお持ちしました」
「あら奇遇ね、私も手土産の一つくらいと思って持って来たわ。帝国のワインに、以前マヨヒガで手に入れた、飲みやすいくせに二日酔いにならないワイン! これ、凄くおいしいの。お勧めよ? あ、私はエルフのケイよ」
「レム・フィバート! レムさんですよっ! よろしくっ♪ ワイバーンくんへお土産持って来ましたぞっ」
 それぞれ土産を持ち寄ったり、
「それがしはレネットと言うですっ! 神子を目指して今は頑張ってるですっ」
「アーク・フォーサイス。龍騎士の戦法に興味があるな、戦い方について語り合えれば嬉しい」
 元気いっぱいの挨拶や相手に対する興味を示し、警戒心を解いていく。場の空気が和らいだ所でシャンカラが改めて一礼した。
「皆さん、ようこそ龍園へ。心から歓迎致します」

 一行が席に着くと料理や酒が運ばれてきた。鹿肉の煮込みや丸鳥のスープなど、熱々で肉っ気に溢れたラインナップ。そこへ、
「世界に誇れる故郷の肉料理だぜ。料理は得意じゃねぇが、肉の扱いだけは別でな」
 蒼界は英国出身のアーサーは持参したローストビーフを取り出し、レナードもローストチキンを卓へ。肉っ気が加速する。龍人達は大歓迎、ハンター達も男性陣は気にした風もないが、女性陣には少々重いか。やや怯み気味の彼女達へ観智が小声で言う。
「……龍人の方々は、狩猟民族の一面があるようですね」
 小首を傾げたノエルに観智は続ける。
「ここは年間通して寒い上、汚染された土地ですから……農耕は難しいのでしょう」
「それで狩りを」
「所変わればじゃのぅ」
 ノエルとヴィルマは大きく頷く。そこへ少し席を外していたカフカが銀盆を手に戻ってきた。
「持参した果物やパンで、簡単にオープンサンドを作ってみたよ。それに苺やメロンの生ハム乗せ、炭酸を効かせたフルーツポンチ」
 カフカの機転の利いた料理で卓の上が華やぐ。こちらにとっても珍しい物ばかりだが、あちらにとっても同じ事。龍人達は一行の出す品々に釘付けだ。ケイは早速自慢のワインを手にシャンカラの許へ。
「お酌の一つもさせてちょうだいな」
 シャンカラは戸惑ったようにダルマを見た。西方との交流に未だ抵抗を持つダルマではあるが、無言で頷き受けるよう促す。
「では少しだけ」
 だが酌をするのは誰であろうケイさんである。たぷんと注いだ。
「ほら隣のお兄さんも!」
 ダルマにも遠慮なく注ぐ。それから自らの杯を取り、にっこり。
「返礼って大事よ大事」
 きょとんとしたシャンカラだったが、ダルマに肘で小突かれようやく察し、ケイの杯へ特製のコケモモ酒を注ぐ。そんな彼の所作は見た目の割に幼く感じられた。
 そうしてハンター達は龍人達の杯に持参したワインや茶を。龍人達はハンター達の杯へ龍園製の酒やジュースを互いに満たし合う。そして――

「乾杯!」
 交流発展を願い杯が掲げられると、設けられた舞台の上で神官達が楽を奏で始めた。北方独自の旋律が異国情緒を誘う。
 カフカは会話を弾ませるべくオフィスで借りた本を取り出した。西方各域の風景画を集めた画集だ。卓の上に広げ、
「これは辺境のドワーフ達の採掘場で……」
 文字の不足を埋めるべく、吟遊詩人の彼は情感込めて語り聞かす。
「それがし、そのドワーフですよっ」
 合間にレネットが自らの顎下で結わいた髪……否、本人曰く髭を指して説明を加えたり、レナードも王国施設の絵を指し、
「ここで前にセレモニーがあって、僕も参加したんやー」
 思い出を交え話した。シャンカラが熱心に聞き入っていると、他の龍人達も身を乗り出して来た。最初はおずおずといった様子だったが、一旦引き込まれてしまえば好奇心で目を輝かす。一通り頁をめくり終えると、
「こちらについても色々聞いてみたいわね」
「ここでしかないお仕事とか、普段の様子も気になりますなっ」
 ケイとレムは龍園の話も聞きたがった。シャンカラは顎の鱗に指を当てる。
「ここでしかない仕事……やはり我々龍騎士や、青龍様にお仕えする神官でしょうか。龍騎士隊は龍園の治安維持を、神官達は青龍様を始めとする龍達のお世話や祭祀を担っていますよ」
 神官の単語に、背筋を正したのは観智だった。
「過日は、其方側の代表とも言えるアズラエルさんに、ハンターズソサエティの方に暫らく来て頂いて……ありがとう御座いました。御蔭様で、此方の方では色々と判り、助かりましたけれど……やはり代表不在は、何かと大変だったでしょう?」
 シャンカラは苦笑気味に首を振る。
「いえ、あの方は細部まできちんと準備や指示をして行かれますから」
 さもありなんと観智はくすり。
「所で……ナディア総長は、御存知でしょうか?」
「先日初めてお目に掛かりました」
 シャンカラは宴を催すにあたりナディアから助言を貰ったのだと話した。観智は記憶を手繰る。
「アズラエルさんが戻られる時に、此方に来ていたと思うんですけれど? 見た目、少女の様ですけれど……長く生きている人で、暫定で連合軍の司令官もしていた人で、此処との接点に成った作戦にも深く関わっていた人なんですよ、ああ見えて」
「そのようですね、後から詳しくお聞きしました。不勉強でお恥ずかしいです……何分一年前はまだ若輩の一兵に過ぎず、ナディア様がいらした時は近隣の警邏に当たっていたものですから」
「若輩?」
 観智は周囲の龍騎士達を見回した。ざっと見、龍騎士達の中では最年長と思しきダルマでも精々三十代後半といった所で、シャンカラは二五歳程。若輩と言われても今一つピンと来ない。
「謙遜する事はないのじゃ」
 ヴィルマが横からフォローすると、シャンカラは気恥ずかしそうに頭を下げる。
「いえ本当に、まだ一八の青二才ですから」
「一八!?」
 一同、思わず目を剥く。
「何か?」
「いや、随分大人びているなと。なあレム?」
「そう! た、他意はありませんぞっ」
 慌てて取り繕うハンター達に、シャンカラは思い出したように頷く。
「僕が大人びているのではなく、龍人という種による所でしょう。我々龍人は五十年程で生を終えます。その分他の種族の皆さんより成長が早いようです」
「五十年、」
 長寿のドワーフやエルフ達はその短さに息を飲む。こと実年齢(パルムの筆が乱れ判読不能)歳のケイは随分驚いているようで。
「そう……あら、じゃあそちらのお兄さんは?」
 年長のダルマに話を向けると彼はむっつりした顔で、
「二七だ」

 時が、止まった。

 が、
「ああ、まあ飲もうぜ。な?」
 実年齢より年上に見られがちなアーサーが、何がしかの理解を示しダルマの肩を叩いた。再び時は動き出す。アーサーは凍った場を溶かすべく、あえて羽目を外そうと腹を括った。
「景気づけに飲み比べと行こうぜ! 隊長の貫禄を見せてくれ……と言いたい所だが酒はまだ不慣れなようだな。ダルマだったか、どうだ一つ」
「隊長代理って訳か、負けらんねェな」
 ダルマの方もどこか親近感を抱いたようで、腕まくりして応じる。
「我は酌でもするかのぅ」
「じゃあ私は審判ね。勿論飲みつつ」
「それがしも後で飲んでみたいですっ!」
 場の勢いが盛り返した所で、カフカとレナードは楽器の準備を始めた。代わりに、まだ本を見ている龍人達へ観智が説明しだす。
「龍園のお酒ー!」
 いそいそ杯を手に取るレムに、
「程々にしないと」
 アークはすかさず注意した。と、そんな彼の肩を叩く者があった。龍騎士数人がアークの刀を珍しそうに見ている。
「綺麗な得物だね、見せてくれない?」
 刀を扱う舞刀士は元々東方発祥。北方に籠っていた彼らの目には余程珍しく映るのだろう。アーク、二つ返事で立ち上がる。
「レム、飲み過ぎたらだめだよ」
「むー、何か子供扱いされてる気がっ」
 そんな彼女もまた誰かに背を叩かれた。振り向くと……くんくんと鼻を鳴らす一頭の飛龍が。
「わわっ!? ……あっ、コレかな?」
 レムはお土産の干し肉をそっと鼻先に差し出した。飛龍はそれを首を傾げて見つめていたが、やがてぱくりと頬張った。
「食べたぁっ♪」
 はしゃぐレムの許へ、女性の龍騎士が歩み寄る。
「乗ってみます?」
「是非ともっ! 乗り方のコツとかあれば知りたいですなっ」
「ふふ、こちらへどうぞ」
 数分後、上空からレムの歓声が降り注いだ。


 カフカとレナード、それにレネットは、演奏を終えた神官達に声をかけ舞台に上がる。
「今度はトルバドゥールの新作は如何かな?」
 カフカはレナードへ目配せし、黄金に輝くハープを奏で始めた。レナードはそれに合わせリュートの弦を爪弾く。同盟の四季を表現した旋律が、龍の園へ鮮やかに響く。いつしかリザードマン達が身体を揺らしているのに気付いたレネットは、リズムを取り易いよう手を打って見せた。すると彼らは楽し気に、手拍子に合わせ槍の石突で地を叩き出す。
 ノエルは席を立つとシャンカラの許へ。
「一曲踊っていただけますか?」
「折角ですが西方の踊りの心得は、」
「私がリードして差し上げましょう」
 柔らかく語りかけるノエル。シャンカラは微笑んでその手をとった。
 真白なドレスを翻し、ノエルは易しいステップで彼を導く。
「お上手ですよ」
「有難うございます」
 目を細める彼にノエルは続ける。
「南方の国々にご興味はありませんか? お立場上、物見遊山を目的に赴かれるのは難しいかもしれませんが、機会があれば是非お越しいただきたく思います」
 彼は驚いたようにノエルの緑眼を見つめた。
「リグ・サンガマとは異なる文化、ヴリトラルカとは違う街並み、そして数多の種族の交流――この数年で、世界は驚くほど”広がっている”のです。私はそう感じています」
 少女の誘いに、彼の中で異郷への憧れが募る。ハンター達がもたらしたものは、龍人達の興味を少なからず掻き立てていた。
「ええ、きっと」
 約束を口にし、シャンカラは深く頭を垂れた。

「今度はこれをお願いしたいですっ」
 レネットがカフカとレナードへ持参した楽譜を見せていると、先程演奏していた神官達が寄ってきた。
「楽譜がおありで? なら私達もご一緒できそうですわ」
「わあ、是非っ! それがしは作って来たお歌を歌うですっ。実は人様にお聴かせするのは初めてなので、ちょっとだけ緊張してるですっ」
「深呼吸やでー」
「北方と西方の楽器がどう響き合うか、楽しみだね」
 軽く打ち合わせると、今度はレナードのリュートを主旋律とした合奏が始まる。人であるカフカ、エルフのレナード、そして龍人達の音色を取り持つのは、ドワーフのレネットの歌声だ。ふんわり包み込むような歌声が聞く者の心を和ませる。
 それを耳にし振り向いたアークへ、レナードは誘うように微笑みかける。頷いて応じたアーク、武器談義中だった龍騎士達の許を辞し舞台前へ。そして音楽に合わせ二振りの刀を抜き、確かな剣技に裏打ちされた華麗な剣舞を披露した。長さの異なる刃が北国の陽に煌めく。東方由来の武技を得た音楽は深みを増し、園中に溢れていった。

 一方。
「なかなかやるらねェか」
「お前もな」
 ダルマとアーサー、杯は既に一五を超えた。空いた杯に酒を注ぐケイ、
「はい次ー、今度は米酒はどう?」
 彼女も結構な量を飲んでいるはずなのだが、その顔は涼し気で。男二人、その様子にぐぬぬと歯噛み。が、更なる猛者が横にいた。
「北方の酒もまた甘露じゃな」
 ヴィルマだ。霧の魔女はそれこそ霧霞を飲むが如く次々杯を空けていく。ケイはその数を数え、
「あら、これは魔女さんの圧勝ね」
 その言葉に、男二人こくりと頷き合う。
「アーサーっつったか、次は二人であの魔女に勝つとしようや」
「ああ……!」
 ガッと拳をかち合わせると、仲良く卓へ突っ伏した。そこへ空中散歩を終えたレムが駆けてくる。
「楽しかったーっ、ワイバーンくんありがと♪」
 そして手近な杯をくいっと。
「それワインよ?」
 ケイが気付いた時には既に遅く。みるみる紅潮するレムの頬。
「レムさんも演奏に飛び入りーっ!」
 かと思うと、ヴァイオリンを手にアークへ突進していく。
「危な……って、レム酔ってるのか!?」
 入れ替わりにレネットが拍手と共に舞台を下りて来た。
「はー緊張したです! 喉乾きましたー」
「良い歌だったのぅ。甘くて弱めの酒を見繕っておいたのじゃ」
 ヴィルマの差し出した杯をレネットもくいっ。途端に足元がふらふらしだす。
「ふふー、何だか楽しくなってきたです! もう一曲歌っちゃうです!」
「あら、でしたらもう一度踊りに行きましょうか」
「良いわね。さあそこの貴方もご一緒に! 踊る阿呆に見る阿呆、同じアホなら踊らなきゃ大損ってやつよ!」
 宴もたけなわ、ノエルとケイに乗せられて誰も彼もが躍り出す。最初の気まずさはどこへやら、種族や出身の別なしに、音色に合わせご陽気に。

 ――賑やかな喧騒は、神殿最奥で眠る青龍にも届く。青龍は顔を上げ耳を澄ますと、
「……――」
 ふっと口許を緩め、再び眠りについた。

「まだ弾けるかいレナード?」
「勿論やで!」
「レム、近いっ」
「へへー♪」
「コケモモ酒はまだあるかの?」
「ほら、そこの座ってる貴方もっ」
「え、っと……僕ですか?」
「よろしければ私と一曲」
「お歌ーお歌ー♪」
 もう最後はしっちゃかめっちゃか。けれど誰もが笑顔の内に宴は幕を下ろしたのだった。


「うぅ、俺とした事が」
「レナード、そっちの肩支えてくれるかな?」
「大丈夫やでアークさん。アーサーさんしっかりやでー?」
 一行を龍人達が見送りに出る。
「本日はお越しいただき有難うございました」
 折り目正しく礼をするシャンカラへ、ヴィルマは龍冠を手に取り言った。
「この冠はのぅ、リグ・サンガマが平穏であった時代に人の手により作られたそうじゃ。人は龍に、龍は人に、交換するように冠に戴かれたという」
 傾いた陽に、炎を模した冠が緋色に輝く。
「龍人と人は違う生き方をして双方の間には溝があるじゃろう。……時間はかかるが、埋めていけると我は思う」
 その実感を確かに感じていたシャンカラはしっかりと頷く。
「僕もそう思います。きっと――」
 一行が転移門を潜った後も、若き龍騎士隊長はいつまでも手を振っていた。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 10
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタインka2549
  • 紡ぎしは歌、そして生命
    レネット=ミストka6758

重体一覧

参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 月氷のトルバドゥール
    カフカ・ブラックウェル(ka0794
    人間(紅)|17才|男性|魔術師
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 紅風舞踏
    ノエル・ウォースパイト(ka6291
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士
  • キャスケット姐さん
    レム・フィバート(ka6552
    人間(紅)|17才|女性|格闘士
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • 夜空に奏でる銀星となりて
    レナード=クーク(ka6613
    エルフ|17才|男性|魔術師
  • 紡ぎしは歌、そして生命
    レネット=ミスト(ka6758
    ドワーフ|17才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/11 20:52:59
アイコン それがし、知りたいです!
レネット=ミスト(ka6758
ドワーフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/05/14 22:12:23