ゲスト
(ka0000)
【血盟】紅蓮の縁(ぐれんのよすが)
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/05/16 22:00
- 完成日
- 2017/05/23 23:09
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●手のひらサイズのてるてる坊主
「……結局こうなるのか……」
ヴィルヘルミナの私室に呼び出されたオズワルド(kz0027)は、目の前の物体(失礼)を見てこめかみを押さえたする。
「うっかり歪虚の標的にされるくらいならここにいて貰う他あるまい」
ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)が机の上でちょこんと座り込んでいる手のひらサイズのてるてる坊主……もとい、四大精霊が一柱、火と闇・正義を司るサンデルマンを見て失笑する。
「あの威厳はどこへ……」
オズワルドが額を抑えて深い溜息を吐く。
と、座り込んでいたてるてる……サンデルマンの姿が揺れ、別の形を作る。
『私とて好きでこの姿に甘んじている訳では無い。精霊の力が高まれば元の力も使えるようになろう。……だが、今はこれが限界だ』
「……陛下なのに可愛いな」
「なのに、とは何だ。失礼だな」
手の平大のヴィルヘルミナに変化したサンデルマンは、その動きも口調もヴィルヘルミナなのに、その小ささから壊滅的に可愛い。
「……陛下、この姿のサンデルマンをあの小娘に見せたりしないでくれよ」
「きゃぁああああああ~!! 陛下そっくりで何て可愛いんでしょう!!!!」
いないはずの某第十師団長が目の色を変えて(そして身をくねらせながら)走り寄る様が同時に2人の脳裏に浮かび……同時に2人は顔を見合わせ、無言で頷いた。
一方で、言いたい事を言って力を使い果たしたサンデルマンは再びてるてる坊主の姿に戻ると、ぺしょんと机の上に潰れた。
●精霊と英霊を探せ!!
「そんなわけで、ハンター諸君にはサンデルマンを連れて、精霊や英霊がいそうな所に行ってもらいたい」
オズワルドからの説明にハンター達は頷くも……視線は机の上にちょこんと乗っているへんちくりんな顔の描かれていないてるてる坊主に釘付けである。
こほん、と咳払いを聞いて、慌ててハンター達はオズワルドへと視線を戻す……が、落ち着かないのは、まぁ、無理も無いだろう。
「幸いにしてサンデルマンが顕現したことは精霊や英霊になら自然に伝播する物らしく、比較的友好的な精霊や英霊ならば勝手に寄って来るであろうし、そうで無ければ“力試し”を迫られるだろう……とサンデルマンが言っていた」
「……触っても良い?」
1人のハンターが恐る恐る訊ねる。
「構わん。鞄に付けるなり肩に乗せるなり頭に乗せるなりして、適当に国内を散策して、精霊や英霊を見つけて活性化させてやってくれ。彼らが活性化した分、サンデルマンは力を取り戻せるらしい」
「もう変身出来ないの?」
「今日の分の力は先ほど使い果たした」
残念。手乗り陛下見たかった……と一部ハンター達から落胆の声が上がる。
「見た目この通りなので、もちろん戦う力もない。歪虚からは真剣に守ってもらわねばならん」
「わかった」
「精霊や英霊は……まぁ、モノに因るだろうが、基本はこんな姿でもサンデルマンの方が上位だから積極的に狙って来るなどはないらしいが……まぁ、気を付けてやってくれ」
当のサンデルマンは机の上1cmぐらいをふわふわと浮きながら1人のハンターの手のひらの上に乗った。
「……あのシミュレーターじゃ、結構怖かったんだけどな」
「よろしくな」と声を掛ければ、手乗りサンデルマンはこくりと頷いてみせたのだった。
●地中に沈んだ町の精霊
帝都バルトアンデルスよりブラストエッジ鉱山へ向かう途中にある高台の草原で、ハンター達は一休みしていた。
空は青く、遠くで鳥がさえずり、風は穏やかで、晩春の暖かな午後だ。
ピクニック気分でお弁当などを広げ、くつろぐハンター達と、そんな彼らの傍でじっと動かないてるてる坊主。
少し、熱を孕んだ風が吹いた。
サンデルマンが風上を向いて、その後、ハンターの手をてしてしと叩く。
「え? 何???」
見ると1人の燃える様な赤い髪をした少年が立っていた。
……いや、感じるマテリアルは人の持つ物より強い。
「……もしかして……」
「うっわぁ! マジでサンデルマン様?! 何でそんな格好なんっすか!?」
近寄ってきた少年は10歳前後ぐらい。大きめな深紅の瞳はややつり目。それが手乗りサンデルマンを前に好奇心いっぱいに見開かれている。
「……君は……精霊?」
そう問われて、初めて少年はヒトの姿に目を留めた。
「おぉぅ!? ヒトにオレの姿が見えている……だとっ!?」
驚く少年に、ハンター達はサンデルマンや他四大精霊とのやりとりやサンデルマンの近況などを告げる。
「……へー。何だかよくわかんねぇけど、大変なんだな」
本当に良くわかっていないんだろうな、という気の抜けた返事に一同は苦笑を浮かべた。
「つまり、あれか。サンデルマン様がこの国に来たから、オレも起きた……みたいなもんか」
ふぅん、と呟きながらハンターを見る。
「うん、力を貸してやっても良いよ。でも、その前にお願いがあるんだ」
少年は地面を指差す。
「俺の事大事にしてくれた人達の町がこの下に埋まっているんだ。ちょっと掘り起こしてくれねぇ? 俺の依り代が見つかったら、お前達に力貸してやるよ」
思っても無い少年の頼みに、ハンター達は顔を見合わせたのだった。
そして、翌日。
ハンター達は各々準備を整えると少年がかつて生活していたという町を掘り起こすための大作戦が決行されることとなったのだった……
「……結局こうなるのか……」
ヴィルヘルミナの私室に呼び出されたオズワルド(kz0027)は、目の前の物体(失礼)を見てこめかみを押さえたする。
「うっかり歪虚の標的にされるくらいならここにいて貰う他あるまい」
ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)が机の上でちょこんと座り込んでいる手のひらサイズのてるてる坊主……もとい、四大精霊が一柱、火と闇・正義を司るサンデルマンを見て失笑する。
「あの威厳はどこへ……」
オズワルドが額を抑えて深い溜息を吐く。
と、座り込んでいたてるてる……サンデルマンの姿が揺れ、別の形を作る。
『私とて好きでこの姿に甘んじている訳では無い。精霊の力が高まれば元の力も使えるようになろう。……だが、今はこれが限界だ』
「……陛下なのに可愛いな」
「なのに、とは何だ。失礼だな」
手の平大のヴィルヘルミナに変化したサンデルマンは、その動きも口調もヴィルヘルミナなのに、その小ささから壊滅的に可愛い。
「……陛下、この姿のサンデルマンをあの小娘に見せたりしないでくれよ」
「きゃぁああああああ~!! 陛下そっくりで何て可愛いんでしょう!!!!」
いないはずの某第十師団長が目の色を変えて(そして身をくねらせながら)走り寄る様が同時に2人の脳裏に浮かび……同時に2人は顔を見合わせ、無言で頷いた。
一方で、言いたい事を言って力を使い果たしたサンデルマンは再びてるてる坊主の姿に戻ると、ぺしょんと机の上に潰れた。
●精霊と英霊を探せ!!
「そんなわけで、ハンター諸君にはサンデルマンを連れて、精霊や英霊がいそうな所に行ってもらいたい」
オズワルドからの説明にハンター達は頷くも……視線は机の上にちょこんと乗っているへんちくりんな顔の描かれていないてるてる坊主に釘付けである。
こほん、と咳払いを聞いて、慌ててハンター達はオズワルドへと視線を戻す……が、落ち着かないのは、まぁ、無理も無いだろう。
「幸いにしてサンデルマンが顕現したことは精霊や英霊になら自然に伝播する物らしく、比較的友好的な精霊や英霊ならば勝手に寄って来るであろうし、そうで無ければ“力試し”を迫られるだろう……とサンデルマンが言っていた」
「……触っても良い?」
1人のハンターが恐る恐る訊ねる。
「構わん。鞄に付けるなり肩に乗せるなり頭に乗せるなりして、適当に国内を散策して、精霊や英霊を見つけて活性化させてやってくれ。彼らが活性化した分、サンデルマンは力を取り戻せるらしい」
「もう変身出来ないの?」
「今日の分の力は先ほど使い果たした」
残念。手乗り陛下見たかった……と一部ハンター達から落胆の声が上がる。
「見た目この通りなので、もちろん戦う力もない。歪虚からは真剣に守ってもらわねばならん」
「わかった」
「精霊や英霊は……まぁ、モノに因るだろうが、基本はこんな姿でもサンデルマンの方が上位だから積極的に狙って来るなどはないらしいが……まぁ、気を付けてやってくれ」
当のサンデルマンは机の上1cmぐらいをふわふわと浮きながら1人のハンターの手のひらの上に乗った。
「……あのシミュレーターじゃ、結構怖かったんだけどな」
「よろしくな」と声を掛ければ、手乗りサンデルマンはこくりと頷いてみせたのだった。
●地中に沈んだ町の精霊
帝都バルトアンデルスよりブラストエッジ鉱山へ向かう途中にある高台の草原で、ハンター達は一休みしていた。
空は青く、遠くで鳥がさえずり、風は穏やかで、晩春の暖かな午後だ。
ピクニック気分でお弁当などを広げ、くつろぐハンター達と、そんな彼らの傍でじっと動かないてるてる坊主。
少し、熱を孕んだ風が吹いた。
サンデルマンが風上を向いて、その後、ハンターの手をてしてしと叩く。
「え? 何???」
見ると1人の燃える様な赤い髪をした少年が立っていた。
……いや、感じるマテリアルは人の持つ物より強い。
「……もしかして……」
「うっわぁ! マジでサンデルマン様?! 何でそんな格好なんっすか!?」
近寄ってきた少年は10歳前後ぐらい。大きめな深紅の瞳はややつり目。それが手乗りサンデルマンを前に好奇心いっぱいに見開かれている。
「……君は……精霊?」
そう問われて、初めて少年はヒトの姿に目を留めた。
「おぉぅ!? ヒトにオレの姿が見えている……だとっ!?」
驚く少年に、ハンター達はサンデルマンや他四大精霊とのやりとりやサンデルマンの近況などを告げる。
「……へー。何だかよくわかんねぇけど、大変なんだな」
本当に良くわかっていないんだろうな、という気の抜けた返事に一同は苦笑を浮かべた。
「つまり、あれか。サンデルマン様がこの国に来たから、オレも起きた……みたいなもんか」
ふぅん、と呟きながらハンターを見る。
「うん、力を貸してやっても良いよ。でも、その前にお願いがあるんだ」
少年は地面を指差す。
「俺の事大事にしてくれた人達の町がこの下に埋まっているんだ。ちょっと掘り起こしてくれねぇ? 俺の依り代が見つかったら、お前達に力貸してやるよ」
思っても無い少年の頼みに、ハンター達は顔を見合わせたのだった。
そして、翌日。
ハンター達は各々準備を整えると少年がかつて生活していたという町を掘り起こすための大作戦が決行されることとなったのだった……
リプレイ本文
●Let's お宝探し!
「俺はレイジ。輝羽・零次だ。よろしくな」
「私は紅媛=アルザード・ネーヴだ。よろしくな♪」
「うん、よろしくな」
輝羽・零次(ka5974)と紅媛=アルザード(ka6122)の自己紹介に、にこやかに返事を返す赤髪の精霊。
「そういえば遅れてしまったけれど、ちゃんと自己紹介をしてなかったね。ボクはシェラリンデ、君は……名前があるのなら、教えてもらってもいいかな?」
そうシェラリンデ(ka3332)に請われて、少年(の様に見える精霊)はきょとんとした後、首を傾げた。
「俺の? 無いよ」
何でも無い事のようにさらりと言うものだから、花厳 刹那(ka3984)が覚醒により青と真紅のオッドアイになった双眸を軽く瞠った。
「無いの? でも、奉られていたんでしょう?」
「うん。でも“精霊サマお願いします!”って感じで、別に名前とか無かったなぁ……え? 普通は名前ってあるものなの? あ、サンデルマン様もそういえばあるもんな、そっかー」
大きな真紅の瞳をくりくりと動かしながら少年は1人納得しつつ頷いた。
「もう今日は変身出来ないのですか?」
水城もなか(ka3532)の問いに彼女の手の上でてるてる坊主と化しているサンデルマンはこくりと頷いて見せる。
「ちっちゃいサンデルマン可愛い~♪」
夢路 まよい(ka1328)はその指先でサンデルマンの頭をちょいちょいと撫でると、サンデルマンは撫でられるがままになっている。
まよいと共にきゃっきゃしながら、もなかはこっそりと少年とサンデルマンの間に距離を取る。
もともと心配性ではあったのだが、転移後特に神経質になってしまったらしく、念には念を入れて行動するようになっていた。
つまり、まだこの少年の姿をした精霊がはっきりと味方とわかるまでは、彼からサンデルマンを守らなければ、という意識が働いている。
とりあえず午前中いっぱいの探索時間の間は唯一のCAM持ち込みだったもなかが護衛を兼ねてサンデルマンを預かることになった。
「うぅ……いいなぁ」
「私も手乗りサンデルマン様、連れて歩きたいです!!」
紅媛と刹那がデュミナスのコックピットへと乗り込んでいくもなかとサンデルマンを名残惜しそうに見送る。
「お昼はまたみんなで一緒だから、ね?」
まよいだって護ってあげたいと思っていた1人ではあるので、2時間独り占め出来るもなかが羨ましくないと言えば嘘になるが、それよりも早く精霊の奉られていたという町を見つけてあげたいという意欲にも燃えていた。
「じゃー、行くよー! よーい、どーん!!」
公平を期すために少年が声を張り上げると、6人と5体の幻獣達は一斉に各々の第六感や肉体が指し示すままに大地を駆け、土を掘り始めた。
●イエススタート、ノーヒント
「最初に精霊さんが立っていたのってこの辺だよね……」
まよいは昨日、少年が立っていた位置にユグディラのトラオムと共に立った。
「あ、まよいさん」
顔を上げると刹那がイェジドと共にやはりこちらへと向かって来ていた。
「あら、あなたも?」
まよいの問いに刹那は頷いて小さく笑う。
「……推理力に関してはそこまで自信が無いんだけど……でも同じ事を考えていた人がいるってだけで心強いわ」
刹那もまた、精霊の出現した方向を目がけて進んで来たのだと知り、まよいもつられるようにして笑う。
「それじゃ、お互い頑張りましょ」
ふたりは自分の直感を信じ掘り始める。
そんなまよいを応援するようにトラオムが旅人たちの練習曲を歌い始め、イェジドは楽しそうに尻尾を振りながらやはり直感が示すままに掘り始めたのだった。
「折角だから、掘る前にここにあった町の話を聞かせてもらえないかな? 掘る場所のヒントになるかもしれないし、そうでなくともちょっと聞いてみたいしね?」
そう告げるシェラリンデに、少年は困ったように首を傾げた。
「んー……俺自身はずーっと室内にいたから、外とか言われてもよくわかんないんだよね」
「なあ、その依り代ってどんなもんなんだ?」
零次の問いにも腕を組んでむーと唸る。
「俺は俺の姿を見た事がないからなぁ……いや、見つけてくれれば『これだ!』ってわかるとは思うんだよ。でも、『じゃぁどんな形だったか』って言われても……分かんないとしか言えない」
その言葉に逆に零次は「なるほどな」と納得した。
そもそもてるてる坊主……もとい、サンデルマンが来たから目覚めたと言ってた事からも、それまで実は明確な意思とかあんまなかったんじゃないか? という推測を立てていた零次としてはその返答も想定済みだった。
「わかった。やれるだけやってみるな!」
紅媛は少年に微笑みかけて約束する。
そして『大事にしてくれた』と彼が言うのだからきっととても素敵な関係を気づけていたんだろうと、地中にあるであろう過去の住人達へと想いを馳せる。
そしてシェラリンデはユグディラのマナニミアと共に、零次はイェジドの黒優と共に、紅媛はイェジドの白夜と共にそれぞれ掘り進め始めたのだった。
太陽が昇る方角から沈む方角にかけて掘り進め始めたのは魔導型デュミナスのEWACデュミナス Catsに搭乗したもなかだ。
少年についてわかっているのは火の精霊の眷属らしいという事ぐらいだ。
そうなると太陽と共に崇められていた可能性を考慮して、町の中心点を目指している。
「ねぇ」
呼びかけると少年はぱっと顔を上げて物凄い勢いで走ってCatsの足元まで来た。
「すげー、何これかっけぇ、すげー」
どうやらCAMを見るのが初めてであるらしい少年はきらっきらした瞳でCatsを見上げている。
こうしていると普通の少年とほとんど変わらないな、なんて事をもなかは思いながら少年にマイクを使って話しかける。
「何か暖かい感じがするとか、この辺にありそうな感じがするとか、何か変わりはないのでしょうか?」
「んー……強いて言うなら……」
そう言って少年はぐるりと周囲を見回す。
「絶対この辺にある筈なんだけど、埋もれちゃってるせいで良く分かんないって感じ」
「……あー……」
昔、友人が上官の私室から1冊の本を取ってくるように頼まれ、本人立ち会いの下に部屋に立ち入ってみたら、そこは足の踏み場も無い程の書籍流に埋もれた部屋だった、という話しを聞いた時を思い出す。
たしかその上官も似たような事を言ったはずだ。『確かこの辺にある筈なんだけど』とかなんとか。
「まぁ、気長にやるしかないでしょうか」
「うん、ごめんな」
申し訳なさそうに俯く姿は素直な子どものようだ。
だが、気を許してはいけないと気を引き締めると、もなかは掘削を開始したのだった。
●Who is he?
そもそも少年はどんな“火”の精霊だったのだろうか。
地理的な意味でも鉱山が近くそれなりに栄えた集落だったのだろうと推測されることからも、まよい、シェラリンデ、紅媛は“鍛冶”に関わる精霊なのではと予測を立てていた。
そして奉られていたという“祭壇”については、各々町の中央だろうとか最奥だろうとか、神殿的なものではないだろうかなど考える中で、逆にもっと小さいモノを想像したのが零次だった。
(大事にしてくれたって言ってたけど、多分精霊としてじゃなくてその依り代が、なんじゃないか)
知人である紅媛の直感を頼りに、掘り当てた大きな岩を怪力無双で引っこ抜く。……どうやら壁の一部らしいと感じて周囲を慎重に掘り進めながら零次は推論を立てて行く。
サンデルマンは火と共に正義の精霊でもある為に人型でありながら顔が無いという特徴があるが、この精霊は人の姿……それも少年の姿で現れた。
(瞳や髪の色はともかくとして、姿はかつてその街に住んでて特に関係の深かった子供の姿を借りてんじゃないのかな)
何より、意思疎通が出来て、フランクな会話も可能。ということは……
(祭壇といっても、子どもとも距離が近い……家屋の中、とか)
もしくは接していた人物が自分の子どものように彼の依り代を扱っていたか、だ。
そこまで思考したところで、黒優が少し離れたところで気になる何かを見つけたらしい。
行って一緒に掘ってみる。
「……んー……」
慌てて潜り込んでいくモグラのお尻を見て、零次は少し笑った。
1時間後。
「……戦の跡、かな……」
シェラリンデが掘り当てた壁には明らかに焼けたような跡があった。
「こっちには鏃っぽいのが出てきたよ」
刹那が見つかったモノを“拠点”と決めた場所へと持ってくる。
「私は大量に割れたお皿を見つけたわよ」
まよいが粘土を焼いて作ったと見られる皿を持ち寄る。
「これはもしかして、考古学とかでは割と貴重なのでは……?」
地図に無い、帝国が“帝国”になる前の歴史が、6人と大精霊と精霊の前に並んだのを見て、もなかが呟く。
「この中には無いんだな?」
紅媛が問うと、少年はしっかりと頷いて「無い」と答えた。
「んー、皆さんと導き出した推測が間違っている気はしないんですけどね」
刹那が首を傾げ、まよいは少年を見る。
(鍛冶で武器を作ってた人達とか……今、そういう仕事をしてる人達って言ったら、ドワーフの人達とかが思い浮かぶけど)
少年の容姿はエルフのような特徴は無いが、ドワーフだと言われればそう見えなくも無い。
「それじゃ、お昼までのあと1時間、頑張ろう」
シェラリンデの声に、5人は頷いて、再び各々の掘削場へと戻っていく。
●奉られていた物
白夜と共に掘削場所を広げていった紅媛は、一端掘り出した土をまとめた。
そして周囲を見る。
シェラリンデ達の掘っている中央部分はそれなりに家屋の壁などが見つかっているのもあって、恐らくあの辺りがメイン通りだったのだろうと推測できた。
「……あぁ、そうか」
「? どうした、紅媛」
独り言を呟いたつもりだったのに、零次には聞こえたらしい。
「いや、もしも零次の言うように鍛冶屋などに直接奉られていたならば、鉱石などを搬入しやすい場所を探すのもありかな、と……うん、この辺りがなんだか温かい感じがする。零次」
「手伝おう」
白夜に黒優、紅媛に零次の4人掛かりで周囲を広く浅く、そして徐々に深く掘っていく。
白夜が嬉しそうに尻尾を振り、見てみれば、家の基礎のようなものが見えた。
少しずつ広げると、壊れた壁が見つかり、砕けた食器のようなモノも見えてきた。
少し離れたところでは黒優が地面を掘り、吠えた。
零次が後を継いで掘れば、そこからは大量の鉱石が見つかった。
「みんな、来てくれ!」
紅媛が叫ぶと、皆すぐに駆けつけた。
「外れて迷惑を掛けてしまったらすまない」
「まだ時間はある。鍛冶に関係したモノなら、もしかしたら精霊が見て思い出すかも知れないからね? 一緒に掘ろう」
咄嗟に皆を呼んではみたものの、間違っていたらと恐縮する紅媛にシェラリンデが安心させるように微笑み、まよいも同意して頷く。
トラオムが応援するように歌を歌い、マナニミアはシェラリンデを手伝うように一緒にかぎ爪で周囲を掘り始めた。
もなかは出てきた土や破壊された壁などを邪魔にならない所へと運び、刹那は発掘されたそのひと品ひと品を丁寧に見ては土を払って並べていく。
「なんだか、発掘作業のバイトをしているみたい……これ、日焼けしそうよね……」
思わず漏れた言葉に、まよいは「確かに」と笑って見つかった、へしゃげた鉄の盾を地面に置いた。
「これでもない?」
「うん。でも、近い気はする」
その言葉に一同は喜色を浮かべる。
陽は高くなり、もうすぐ12時になろうという頃。
6人は流れる汗を拭いながら発掘を進めた。
大量の灰が見つかり、どうやら高炉の跡と思わしき見つかった。
「どうやらここが鍛冶屋の作業場だったようだな」
そして、食器などが見つかった区画がどうやら住居だったようだ。
シェラリンデが少年の様子を窺えば、少し緊張しているような面持ちで発掘作業に勤しむ仲間達を見つめていた。
“依り代”とはつまり奉られていた自分自身のような物なのだろう。
それが見つかるかもしれない、となれば緊張するのも無理は無い。
「これ、なにかな?」
刹那が見つけたのは一抱えほどの石をくり抜いて作ったと思われる創造物。
中を覗き込んでみると手のひらで握れる程の大きさの穴の開いた鉄の塊が見つかった。
「……なんでしょう……形に見覚えが無いわけでも無い気が……」
覗き込んだまよいも首を傾げて唸る。
「……ハンマーの頭みたいですね」
モニター越しに見つめたもなかが告げれば、少年がぱっと顔を輝かせて駆け寄った。
「それ! それだよ、俺の祭壇と依り代!」
「えぇ?!」
驚いた刹那が思わず取り落としそうになって、慌てて胸元に引き寄せると、一同ホッと胸を撫で下ろしたのだった。
●奉られたものと司るもの
丁度お昼時ということもあり、木陰に入ってみんなで食事を取ることにした。
近くの小川で手を洗い、ついでに顔も洗って泥を流す。
シートを広げ、6人と大精霊、精霊と幻獣5体という大所帯は「いただきます」の合図と共に昼食を取り始めた。
とはいえ、サンデルマンは食事を必要としないし、少年も食には興味がないようだ。
色々と聞きたい事はあったが、とりあえず早々に食事を終えると、6人は少年の姿をした精霊と向かい合った。
「うん、思い出せたよ。俺はね、この町の鍛冶屋が最初に作った鎚の精霊なんだ」
精霊は自身とも言えるその依り代を大事そうに撫でながら笑った。
「初代が死んで、その石の祭壇の中に奉られるようになって……これもね、周りを木の細工で囲ったりして綺麗だったはずなんだけど、全部土に還っちゃったんだろうなぁ」
他には? と促されて少年は口を開いた。
「さっき川で見てきたけど、この顔は最後の当主の子どもの顔だ。大きな戦があって、負けて、町は焼けて、滅んだ。正直言うと、これ以上のことはあんまり覚えていない。ただ、もうずっと……あの家の人達は初代が作った俺を奉って、“良い道具が作れますように”って祈って、大事にしてくれてた」
「それで、君は……どうしたい?」
シェラリンデが問うと、少年は大きな瞳を瞬かせた。
「どうしたい?」
「無事依り代が見つかったんだ。君は自由になれるんじゃ無いのか?」
土着の精霊ならこの場に留まるのだろうが、彼の依り代はその鎚だというのであれば、恐らく少年はその鎚さえあれば移動することが出来るのだろう。
「え? サンデルマン様の為に力を貸せばいいんだろ? うん、忘れてないよ」
少年の言葉を聞いて、もなかは少しだけ息を吐いた。
「でも、それは……えっと、精霊さんにとって何のメリットがあるんですか?」
「メリット? 考えてないけど、サンデルマン様が困ってて、お前達は俺の祭壇と依り代を約束通り見つけてくれた。なら、今度は俺が約束を守る番なんじゃ無いのか?」
少年はきょとんとした顔でもなかを見る。
場に沈黙が降りた。
「あれ? 俺が眠ってる間にもしかしてこういう考え方ってもう無くなったとか!?」
驚いた顔で6人の顔を見回す少年を見て、零次は小さく笑った。
「いや、お前、本当にいい人達の間で奉られていたんだな」
「本当だな」
つられるように紅媛も笑い、その笑みは全員に広がった。
「もう、なんだよ、みんな揃って」
1人状況が理解出来ていない少年だけが少しふてくされたように頬を膨らませた。
「いえ、申し訳ありません。少し意地悪を言いました。許して下さい」
もなかが丁寧に頭を下げると、少年は慌てて首を振る。
「え? そうなの? 大丈夫だよ? 俺怒ってないから」
少年がもなかに笑いかけ、もなかも少年に微笑み返すと、サンデルマンがちょこちょこと少年へと近寄った。
どこからともなく取り出した分厚い本と螺旋状の剣を手に、少年と向かい合う。
「うん、誓うよ。俺は、サンデルマン様と一緒に行く」
少年がそう告げるた次の瞬間、サンデルマンの開かれたページが光り、音を立てて閉じた。
「今の……?」
まよいが瞬くと、サンデルマンの姿が溶けるように揺らぎ、次にヴィルヘルミナの形を取った。
「陛下!?」
相変わらずのミニサイズだが、その苛烈な目ぢからはまさしくヴィルヘルミナのものだ。
「皆のお陰で私の力は僅かだが戻った。感謝する。彼の力はその鎚を直せば万全となるだろう」
噂の手乗りサイズのヴィルヘルミナを目の前にしたもなかは感動に震えている。
「えぇと、1つ質問いいか?」
「何だ?」
「なんでヴィルヘルミナ陛下なんだ?」
零次の問いに全員の視線が再びミニミニルミナちゃんに集まる。
「この国の者が期待する正義の象徴だからだ。私は私の形を選べない。別の国に行けばまた違う形を取るのだろう。いや、この国にあっても、違う者を信じる者達の住む場所に行けば、今とは違う形になるだろう」
その言葉に、王国に縁を置く者達は一斉に王女の姿、もしくはあの騎士団長の姿を思い浮かべた。
「私は正義を司るが、私自身に正義があるわけでは無い。正義はヒトと共にあり、ヒトと共にまた移ろう物である」
だが、とヴィルヘルミナの顔でサンデルマンが笑う。
「私はいつでもヒトの可能性を信じている。これからも宜しく頼む」
そう告げると、再びヴィルヘルミナの姿は揺らぎ、もとのサンデルマンの形に戻った。
●Hello World
「すっげー! すっげー!!」
Catsの手のひらにしがみつくようにしながら少年は歓声を上げる。
ハイパーブーストを使っての移動にもかかわらず少年は始終楽しそうにしている。
「あー、でも人の身体ではやらない方がいいと思うよ」
「やっぱりですか」
地面に下ろすとそう少年に言われてもなかは苦く笑う。
まだ上手く力を出せない少年に、まよいがリトルファイアで小さな火を灯す。
「火はいいよね、暖かくて」
少年の人懐っこい笑顔にまよいも微笑み返す。
ファイアアローやファイアーボールもセットしてきてはあるが、わざわざ見せる必要もないだろう。
ユグディラ同士トラオムとマナニミアがじゃれ合っているところに少年が飛び込んで行く。
子どもが大きな猫と戯れているようにしか見えず、シェラリンデとまよいは顔を見合わせて笑った。
「好みのお供物は?」
「んー? 何でも、出されれば食べるけど、別に無くても良いよ」
鍛冶職人に奉られていただけあって、仕事をしている人を見るのが好きだという少年に、刹那は少し首を傾げた。
「でも、名前が無いのは不便よね」
「そうなのか?」
ひとり不自由さを感じていない少年に刹那は困ったように微笑んだ。
「とりあえず、鎚に宿った精霊ってことで……ツッチーとか?」
刹那の提案に、零次と共に手乗りサンデルマンと戯れていた紅媛が無言のまま顔を見合わせて首を横に振った。
「えー? ダメ?」
「いいよ、何でも」
「じゃぁ、“カッコカリ”ってことで」
「カッコカリ? 何か格好いいな」
「違う、そうじゃない」
冷静に突っ込む零次が面白くて紅媛が声を上げて笑う。
掘り返した地面はある程度平になるように元に戻しておいた。
もう少し時代が進んで、考古学などが重要視されるようになったら再び掘り起こされるかも知れないが、それまではもう少し眠っていて貰おうという意見に纏まったのだ。
石の祭壇は一応もなかがCatsで抱え、本体である鉄の鎚は本人が持っていた。
少し先ではまよいが帰路の間サンデルマンを肩に乗せる権利をゲットして喜んでいる声が聞こえてくる。
「……寂しくは無いかい?」
シェラリンデが問うと、少年は少しだけ戸惑うように視線を町のあった方へ投げて、静かに目を伏せると首を横に振った。
「……寂しいとはちょっと違うかな……みんなに有り難うって気持ちはあるけど」
少年は少しだけ大人びた顔で笑った。
「あの祭壇から見ていた風景以外の物を見られることが今は楽しみでしょうが無いんだ」
刹那のイェジドが少年を急かすように鼻先を押しつける。
「さぁ、陽が沈む前に帰ろう」
紅媛の声に、「あぁ」と応え、少年は駆けだした。
シェラリンデが知る限り、少年は振り返らなかった。
「俺はレイジ。輝羽・零次だ。よろしくな」
「私は紅媛=アルザード・ネーヴだ。よろしくな♪」
「うん、よろしくな」
輝羽・零次(ka5974)と紅媛=アルザード(ka6122)の自己紹介に、にこやかに返事を返す赤髪の精霊。
「そういえば遅れてしまったけれど、ちゃんと自己紹介をしてなかったね。ボクはシェラリンデ、君は……名前があるのなら、教えてもらってもいいかな?」
そうシェラリンデ(ka3332)に請われて、少年(の様に見える精霊)はきょとんとした後、首を傾げた。
「俺の? 無いよ」
何でも無い事のようにさらりと言うものだから、花厳 刹那(ka3984)が覚醒により青と真紅のオッドアイになった双眸を軽く瞠った。
「無いの? でも、奉られていたんでしょう?」
「うん。でも“精霊サマお願いします!”って感じで、別に名前とか無かったなぁ……え? 普通は名前ってあるものなの? あ、サンデルマン様もそういえばあるもんな、そっかー」
大きな真紅の瞳をくりくりと動かしながら少年は1人納得しつつ頷いた。
「もう今日は変身出来ないのですか?」
水城もなか(ka3532)の問いに彼女の手の上でてるてる坊主と化しているサンデルマンはこくりと頷いて見せる。
「ちっちゃいサンデルマン可愛い~♪」
夢路 まよい(ka1328)はその指先でサンデルマンの頭をちょいちょいと撫でると、サンデルマンは撫でられるがままになっている。
まよいと共にきゃっきゃしながら、もなかはこっそりと少年とサンデルマンの間に距離を取る。
もともと心配性ではあったのだが、転移後特に神経質になってしまったらしく、念には念を入れて行動するようになっていた。
つまり、まだこの少年の姿をした精霊がはっきりと味方とわかるまでは、彼からサンデルマンを守らなければ、という意識が働いている。
とりあえず午前中いっぱいの探索時間の間は唯一のCAM持ち込みだったもなかが護衛を兼ねてサンデルマンを預かることになった。
「うぅ……いいなぁ」
「私も手乗りサンデルマン様、連れて歩きたいです!!」
紅媛と刹那がデュミナスのコックピットへと乗り込んでいくもなかとサンデルマンを名残惜しそうに見送る。
「お昼はまたみんなで一緒だから、ね?」
まよいだって護ってあげたいと思っていた1人ではあるので、2時間独り占め出来るもなかが羨ましくないと言えば嘘になるが、それよりも早く精霊の奉られていたという町を見つけてあげたいという意欲にも燃えていた。
「じゃー、行くよー! よーい、どーん!!」
公平を期すために少年が声を張り上げると、6人と5体の幻獣達は一斉に各々の第六感や肉体が指し示すままに大地を駆け、土を掘り始めた。
●イエススタート、ノーヒント
「最初に精霊さんが立っていたのってこの辺だよね……」
まよいは昨日、少年が立っていた位置にユグディラのトラオムと共に立った。
「あ、まよいさん」
顔を上げると刹那がイェジドと共にやはりこちらへと向かって来ていた。
「あら、あなたも?」
まよいの問いに刹那は頷いて小さく笑う。
「……推理力に関してはそこまで自信が無いんだけど……でも同じ事を考えていた人がいるってだけで心強いわ」
刹那もまた、精霊の出現した方向を目がけて進んで来たのだと知り、まよいもつられるようにして笑う。
「それじゃ、お互い頑張りましょ」
ふたりは自分の直感を信じ掘り始める。
そんなまよいを応援するようにトラオムが旅人たちの練習曲を歌い始め、イェジドは楽しそうに尻尾を振りながらやはり直感が示すままに掘り始めたのだった。
「折角だから、掘る前にここにあった町の話を聞かせてもらえないかな? 掘る場所のヒントになるかもしれないし、そうでなくともちょっと聞いてみたいしね?」
そう告げるシェラリンデに、少年は困ったように首を傾げた。
「んー……俺自身はずーっと室内にいたから、外とか言われてもよくわかんないんだよね」
「なあ、その依り代ってどんなもんなんだ?」
零次の問いにも腕を組んでむーと唸る。
「俺は俺の姿を見た事がないからなぁ……いや、見つけてくれれば『これだ!』ってわかるとは思うんだよ。でも、『じゃぁどんな形だったか』って言われても……分かんないとしか言えない」
その言葉に逆に零次は「なるほどな」と納得した。
そもそもてるてる坊主……もとい、サンデルマンが来たから目覚めたと言ってた事からも、それまで実は明確な意思とかあんまなかったんじゃないか? という推測を立てていた零次としてはその返答も想定済みだった。
「わかった。やれるだけやってみるな!」
紅媛は少年に微笑みかけて約束する。
そして『大事にしてくれた』と彼が言うのだからきっととても素敵な関係を気づけていたんだろうと、地中にあるであろう過去の住人達へと想いを馳せる。
そしてシェラリンデはユグディラのマナニミアと共に、零次はイェジドの黒優と共に、紅媛はイェジドの白夜と共にそれぞれ掘り進め始めたのだった。
太陽が昇る方角から沈む方角にかけて掘り進め始めたのは魔導型デュミナスのEWACデュミナス Catsに搭乗したもなかだ。
少年についてわかっているのは火の精霊の眷属らしいという事ぐらいだ。
そうなると太陽と共に崇められていた可能性を考慮して、町の中心点を目指している。
「ねぇ」
呼びかけると少年はぱっと顔を上げて物凄い勢いで走ってCatsの足元まで来た。
「すげー、何これかっけぇ、すげー」
どうやらCAMを見るのが初めてであるらしい少年はきらっきらした瞳でCatsを見上げている。
こうしていると普通の少年とほとんど変わらないな、なんて事をもなかは思いながら少年にマイクを使って話しかける。
「何か暖かい感じがするとか、この辺にありそうな感じがするとか、何か変わりはないのでしょうか?」
「んー……強いて言うなら……」
そう言って少年はぐるりと周囲を見回す。
「絶対この辺にある筈なんだけど、埋もれちゃってるせいで良く分かんないって感じ」
「……あー……」
昔、友人が上官の私室から1冊の本を取ってくるように頼まれ、本人立ち会いの下に部屋に立ち入ってみたら、そこは足の踏み場も無い程の書籍流に埋もれた部屋だった、という話しを聞いた時を思い出す。
たしかその上官も似たような事を言ったはずだ。『確かこの辺にある筈なんだけど』とかなんとか。
「まぁ、気長にやるしかないでしょうか」
「うん、ごめんな」
申し訳なさそうに俯く姿は素直な子どものようだ。
だが、気を許してはいけないと気を引き締めると、もなかは掘削を開始したのだった。
●Who is he?
そもそも少年はどんな“火”の精霊だったのだろうか。
地理的な意味でも鉱山が近くそれなりに栄えた集落だったのだろうと推測されることからも、まよい、シェラリンデ、紅媛は“鍛冶”に関わる精霊なのではと予測を立てていた。
そして奉られていたという“祭壇”については、各々町の中央だろうとか最奥だろうとか、神殿的なものではないだろうかなど考える中で、逆にもっと小さいモノを想像したのが零次だった。
(大事にしてくれたって言ってたけど、多分精霊としてじゃなくてその依り代が、なんじゃないか)
知人である紅媛の直感を頼りに、掘り当てた大きな岩を怪力無双で引っこ抜く。……どうやら壁の一部らしいと感じて周囲を慎重に掘り進めながら零次は推論を立てて行く。
サンデルマンは火と共に正義の精霊でもある為に人型でありながら顔が無いという特徴があるが、この精霊は人の姿……それも少年の姿で現れた。
(瞳や髪の色はともかくとして、姿はかつてその街に住んでて特に関係の深かった子供の姿を借りてんじゃないのかな)
何より、意思疎通が出来て、フランクな会話も可能。ということは……
(祭壇といっても、子どもとも距離が近い……家屋の中、とか)
もしくは接していた人物が自分の子どものように彼の依り代を扱っていたか、だ。
そこまで思考したところで、黒優が少し離れたところで気になる何かを見つけたらしい。
行って一緒に掘ってみる。
「……んー……」
慌てて潜り込んでいくモグラのお尻を見て、零次は少し笑った。
1時間後。
「……戦の跡、かな……」
シェラリンデが掘り当てた壁には明らかに焼けたような跡があった。
「こっちには鏃っぽいのが出てきたよ」
刹那が見つかったモノを“拠点”と決めた場所へと持ってくる。
「私は大量に割れたお皿を見つけたわよ」
まよいが粘土を焼いて作ったと見られる皿を持ち寄る。
「これはもしかして、考古学とかでは割と貴重なのでは……?」
地図に無い、帝国が“帝国”になる前の歴史が、6人と大精霊と精霊の前に並んだのを見て、もなかが呟く。
「この中には無いんだな?」
紅媛が問うと、少年はしっかりと頷いて「無い」と答えた。
「んー、皆さんと導き出した推測が間違っている気はしないんですけどね」
刹那が首を傾げ、まよいは少年を見る。
(鍛冶で武器を作ってた人達とか……今、そういう仕事をしてる人達って言ったら、ドワーフの人達とかが思い浮かぶけど)
少年の容姿はエルフのような特徴は無いが、ドワーフだと言われればそう見えなくも無い。
「それじゃ、お昼までのあと1時間、頑張ろう」
シェラリンデの声に、5人は頷いて、再び各々の掘削場へと戻っていく。
●奉られていた物
白夜と共に掘削場所を広げていった紅媛は、一端掘り出した土をまとめた。
そして周囲を見る。
シェラリンデ達の掘っている中央部分はそれなりに家屋の壁などが見つかっているのもあって、恐らくあの辺りがメイン通りだったのだろうと推測できた。
「……あぁ、そうか」
「? どうした、紅媛」
独り言を呟いたつもりだったのに、零次には聞こえたらしい。
「いや、もしも零次の言うように鍛冶屋などに直接奉られていたならば、鉱石などを搬入しやすい場所を探すのもありかな、と……うん、この辺りがなんだか温かい感じがする。零次」
「手伝おう」
白夜に黒優、紅媛に零次の4人掛かりで周囲を広く浅く、そして徐々に深く掘っていく。
白夜が嬉しそうに尻尾を振り、見てみれば、家の基礎のようなものが見えた。
少しずつ広げると、壊れた壁が見つかり、砕けた食器のようなモノも見えてきた。
少し離れたところでは黒優が地面を掘り、吠えた。
零次が後を継いで掘れば、そこからは大量の鉱石が見つかった。
「みんな、来てくれ!」
紅媛が叫ぶと、皆すぐに駆けつけた。
「外れて迷惑を掛けてしまったらすまない」
「まだ時間はある。鍛冶に関係したモノなら、もしかしたら精霊が見て思い出すかも知れないからね? 一緒に掘ろう」
咄嗟に皆を呼んではみたものの、間違っていたらと恐縮する紅媛にシェラリンデが安心させるように微笑み、まよいも同意して頷く。
トラオムが応援するように歌を歌い、マナニミアはシェラリンデを手伝うように一緒にかぎ爪で周囲を掘り始めた。
もなかは出てきた土や破壊された壁などを邪魔にならない所へと運び、刹那は発掘されたそのひと品ひと品を丁寧に見ては土を払って並べていく。
「なんだか、発掘作業のバイトをしているみたい……これ、日焼けしそうよね……」
思わず漏れた言葉に、まよいは「確かに」と笑って見つかった、へしゃげた鉄の盾を地面に置いた。
「これでもない?」
「うん。でも、近い気はする」
その言葉に一同は喜色を浮かべる。
陽は高くなり、もうすぐ12時になろうという頃。
6人は流れる汗を拭いながら発掘を進めた。
大量の灰が見つかり、どうやら高炉の跡と思わしき見つかった。
「どうやらここが鍛冶屋の作業場だったようだな」
そして、食器などが見つかった区画がどうやら住居だったようだ。
シェラリンデが少年の様子を窺えば、少し緊張しているような面持ちで発掘作業に勤しむ仲間達を見つめていた。
“依り代”とはつまり奉られていた自分自身のような物なのだろう。
それが見つかるかもしれない、となれば緊張するのも無理は無い。
「これ、なにかな?」
刹那が見つけたのは一抱えほどの石をくり抜いて作ったと思われる創造物。
中を覗き込んでみると手のひらで握れる程の大きさの穴の開いた鉄の塊が見つかった。
「……なんでしょう……形に見覚えが無いわけでも無い気が……」
覗き込んだまよいも首を傾げて唸る。
「……ハンマーの頭みたいですね」
モニター越しに見つめたもなかが告げれば、少年がぱっと顔を輝かせて駆け寄った。
「それ! それだよ、俺の祭壇と依り代!」
「えぇ?!」
驚いた刹那が思わず取り落としそうになって、慌てて胸元に引き寄せると、一同ホッと胸を撫で下ろしたのだった。
●奉られたものと司るもの
丁度お昼時ということもあり、木陰に入ってみんなで食事を取ることにした。
近くの小川で手を洗い、ついでに顔も洗って泥を流す。
シートを広げ、6人と大精霊、精霊と幻獣5体という大所帯は「いただきます」の合図と共に昼食を取り始めた。
とはいえ、サンデルマンは食事を必要としないし、少年も食には興味がないようだ。
色々と聞きたい事はあったが、とりあえず早々に食事を終えると、6人は少年の姿をした精霊と向かい合った。
「うん、思い出せたよ。俺はね、この町の鍛冶屋が最初に作った鎚の精霊なんだ」
精霊は自身とも言えるその依り代を大事そうに撫でながら笑った。
「初代が死んで、その石の祭壇の中に奉られるようになって……これもね、周りを木の細工で囲ったりして綺麗だったはずなんだけど、全部土に還っちゃったんだろうなぁ」
他には? と促されて少年は口を開いた。
「さっき川で見てきたけど、この顔は最後の当主の子どもの顔だ。大きな戦があって、負けて、町は焼けて、滅んだ。正直言うと、これ以上のことはあんまり覚えていない。ただ、もうずっと……あの家の人達は初代が作った俺を奉って、“良い道具が作れますように”って祈って、大事にしてくれてた」
「それで、君は……どうしたい?」
シェラリンデが問うと、少年は大きな瞳を瞬かせた。
「どうしたい?」
「無事依り代が見つかったんだ。君は自由になれるんじゃ無いのか?」
土着の精霊ならこの場に留まるのだろうが、彼の依り代はその鎚だというのであれば、恐らく少年はその鎚さえあれば移動することが出来るのだろう。
「え? サンデルマン様の為に力を貸せばいいんだろ? うん、忘れてないよ」
少年の言葉を聞いて、もなかは少しだけ息を吐いた。
「でも、それは……えっと、精霊さんにとって何のメリットがあるんですか?」
「メリット? 考えてないけど、サンデルマン様が困ってて、お前達は俺の祭壇と依り代を約束通り見つけてくれた。なら、今度は俺が約束を守る番なんじゃ無いのか?」
少年はきょとんとした顔でもなかを見る。
場に沈黙が降りた。
「あれ? 俺が眠ってる間にもしかしてこういう考え方ってもう無くなったとか!?」
驚いた顔で6人の顔を見回す少年を見て、零次は小さく笑った。
「いや、お前、本当にいい人達の間で奉られていたんだな」
「本当だな」
つられるように紅媛も笑い、その笑みは全員に広がった。
「もう、なんだよ、みんな揃って」
1人状況が理解出来ていない少年だけが少しふてくされたように頬を膨らませた。
「いえ、申し訳ありません。少し意地悪を言いました。許して下さい」
もなかが丁寧に頭を下げると、少年は慌てて首を振る。
「え? そうなの? 大丈夫だよ? 俺怒ってないから」
少年がもなかに笑いかけ、もなかも少年に微笑み返すと、サンデルマンがちょこちょこと少年へと近寄った。
どこからともなく取り出した分厚い本と螺旋状の剣を手に、少年と向かい合う。
「うん、誓うよ。俺は、サンデルマン様と一緒に行く」
少年がそう告げるた次の瞬間、サンデルマンの開かれたページが光り、音を立てて閉じた。
「今の……?」
まよいが瞬くと、サンデルマンの姿が溶けるように揺らぎ、次にヴィルヘルミナの形を取った。
「陛下!?」
相変わらずのミニサイズだが、その苛烈な目ぢからはまさしくヴィルヘルミナのものだ。
「皆のお陰で私の力は僅かだが戻った。感謝する。彼の力はその鎚を直せば万全となるだろう」
噂の手乗りサイズのヴィルヘルミナを目の前にしたもなかは感動に震えている。
「えぇと、1つ質問いいか?」
「何だ?」
「なんでヴィルヘルミナ陛下なんだ?」
零次の問いに全員の視線が再びミニミニルミナちゃんに集まる。
「この国の者が期待する正義の象徴だからだ。私は私の形を選べない。別の国に行けばまた違う形を取るのだろう。いや、この国にあっても、違う者を信じる者達の住む場所に行けば、今とは違う形になるだろう」
その言葉に、王国に縁を置く者達は一斉に王女の姿、もしくはあの騎士団長の姿を思い浮かべた。
「私は正義を司るが、私自身に正義があるわけでは無い。正義はヒトと共にあり、ヒトと共にまた移ろう物である」
だが、とヴィルヘルミナの顔でサンデルマンが笑う。
「私はいつでもヒトの可能性を信じている。これからも宜しく頼む」
そう告げると、再びヴィルヘルミナの姿は揺らぎ、もとのサンデルマンの形に戻った。
●Hello World
「すっげー! すっげー!!」
Catsの手のひらにしがみつくようにしながら少年は歓声を上げる。
ハイパーブーストを使っての移動にもかかわらず少年は始終楽しそうにしている。
「あー、でも人の身体ではやらない方がいいと思うよ」
「やっぱりですか」
地面に下ろすとそう少年に言われてもなかは苦く笑う。
まだ上手く力を出せない少年に、まよいがリトルファイアで小さな火を灯す。
「火はいいよね、暖かくて」
少年の人懐っこい笑顔にまよいも微笑み返す。
ファイアアローやファイアーボールもセットしてきてはあるが、わざわざ見せる必要もないだろう。
ユグディラ同士トラオムとマナニミアがじゃれ合っているところに少年が飛び込んで行く。
子どもが大きな猫と戯れているようにしか見えず、シェラリンデとまよいは顔を見合わせて笑った。
「好みのお供物は?」
「んー? 何でも、出されれば食べるけど、別に無くても良いよ」
鍛冶職人に奉られていただけあって、仕事をしている人を見るのが好きだという少年に、刹那は少し首を傾げた。
「でも、名前が無いのは不便よね」
「そうなのか?」
ひとり不自由さを感じていない少年に刹那は困ったように微笑んだ。
「とりあえず、鎚に宿った精霊ってことで……ツッチーとか?」
刹那の提案に、零次と共に手乗りサンデルマンと戯れていた紅媛が無言のまま顔を見合わせて首を横に振った。
「えー? ダメ?」
「いいよ、何でも」
「じゃぁ、“カッコカリ”ってことで」
「カッコカリ? 何か格好いいな」
「違う、そうじゃない」
冷静に突っ込む零次が面白くて紅媛が声を上げて笑う。
掘り返した地面はある程度平になるように元に戻しておいた。
もう少し時代が進んで、考古学などが重要視されるようになったら再び掘り起こされるかも知れないが、それまではもう少し眠っていて貰おうという意見に纏まったのだ。
石の祭壇は一応もなかがCatsで抱え、本体である鉄の鎚は本人が持っていた。
少し先ではまよいが帰路の間サンデルマンを肩に乗せる権利をゲットして喜んでいる声が聞こえてくる。
「……寂しくは無いかい?」
シェラリンデが問うと、少年は少しだけ戸惑うように視線を町のあった方へ投げて、静かに目を伏せると首を横に振った。
「……寂しいとはちょっと違うかな……みんなに有り難うって気持ちはあるけど」
少年は少しだけ大人びた顔で笑った。
「あの祭壇から見ていた風景以外の物を見られることが今は楽しみでしょうが無いんだ」
刹那のイェジドが少年を急かすように鼻先を押しつける。
「さぁ、陽が沈む前に帰ろう」
紅媛の声に、「あぁ」と応え、少年は駆けだした。
シェラリンデが知る限り、少年は振り返らなかった。
依頼結果
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相談卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/05/15 23:13:39 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/11 20:30:40 |