ゲスト
(ka0000)
初夏のアウトドア@長江
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/05/21 07:30
- 完成日
- 2017/05/29 03:56
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●十鳥城
東方にあるエトファリカ連邦国の発足は、それほど昔という事ではない。
王国歴でいう所の850年~970年頃の間というらしいが、その頃、大規模な歪虚の襲来が度重なった。特に970年頃の北狄の南下により辺境諸部族が滅亡し、東方諸国との繋がりが絶えたのは、エトファリカ連邦国の体制を確実なものとしたはずだ。
つまり、強大な歪虚勢力により、包囲された東方諸国は生存を賭けて一致団結。結界を維持する『帝』を擁する“朝廷”を頂点にし、朝廷と民を守る為に“幕府”が成立したのだ。
幕府の運営は、主に最上位第一家門の長『征夷大将軍』と上位六家門により管理された。滅亡の危機の中、武家は最前線で戦い続けた。滅んだ武家も少なくなく、上位六家門もまた、多大な犠牲を払った。
――そして、現在に至っているというのが、十鳥城代官の一人、仁々木正秋の認識だった。
「…………」
正秋が見つめているのは幕府からの書状。
不貞腐れた様子で、正秋の親友である菱川瞬が大きな溜息をついた。
「なぁ……憤怒王って、もう滅亡した訳だろ。幕府って必要ないんじゃねぇ?」
これが密室でのやり取りでなければ、瞬の首と胴体が離れていても可笑しく発言である。
しかし、瞬がそう言いたくなるのも理由はある。
『幕府体制維持の為に、十鳥城にも“相応の負担”を』――書状を要約すると、そんな感じだ。
「復興もまだ途上で、余力という余力も、苦しい時に……」
「どうせ、俺達の状況を知らねぇんだろう」
頭を抱えた正秋の言葉に瞬が悪態を付く。
少なくとも、『征夷大将軍』は十鳥城の状況は把握しているはずだ。
先の長江での戦いでは、正秋率いる隊はハンター達と共同し多大な戦果を挙げた。その功績により、長江西端のカカオ豆栽培を、条件付きだが認められている。
「何か、別の策を考えないと」
正秋が良いアイデアがないかと考える。
カカオ豆栽培の産業は成立しつつあるが、それだけでは足らない。
「そうは言っても、あるのは自然しかねぇしな~。遊廓でもありゃ、別なんだろうが」
「それです!」
瞬の言葉に正秋が反応する。
「え? なに、遊廓作るのか?」
首を横に振った正秋が地図で指した場所は、長江西端のある一角だった。
●アウトドア
清らかな水の流れ、そして、なだらかな坂、青々とした木々。
突貫工事で簡易的な道が作られ、堰止めた川が大きな池を作り、川原に人が滞在するのに必要な設備が出来る。
「くそう。まさか、全部、俺らで手作りとは」
汗を流しながら瞬がそんな事を呟いた。
職人も居ない訳ではない。十鳥城の住民にも協力を仰ぎ、手伝って貰っている。
彼らが無償というのに精力的なのは、これが、ハンター達への恩返しにもなるからという事だろう。
「人の想いというのは、凄いものです」
「……あぁ、そうだな」
十鳥城はハンター達の力で歪虚勢力から開放された。
あれ以上は保てなかった、ギリギリの状態だった。住民らにとって、ハンター達の存在は正しく、救世主だっただろう。
「ようやく、恩返しが出来ると」
ハンター達向けの保養施設であると同時に、外部運営によるアウトドア施設でもある。
長江の穏やかな暖かい気候と、独特な地形や自然を利用したのだ。
後はハンター達に自然を満喫してもらえればいいのだが――。
「将軍様がお見えになられました!」
兵の一人が告げた。
今回の件は、幕府にも伝えてある。大規模な工事にもなった為、理由を説明する必要があったからだ。
そして、その反応は意外なものであった。
『征夷大将軍』自らが、視察を兼ねて訪れるという。
「止められなかったのかよ?」
瞬の小さな声の質問に正秋は頷く。
「何か、深い意味があるかもしれない」
「ただ暇なだけなんじゃねぇ」
ブツブツと言っていると『征夷大将軍』立花院 紫草(kz0126)が僅かな供を引き連れて姿を現した。
正秋と瞬の二人は仰々しく頭を下げて出迎える。驚いたのは話を聞かされていなかった住民らだろう。突然の大物の登場にどうしたものかと顔を見合わせる。
平伏しようとした動きを立花院は手で静止した。
「皆さん、ご苦労様です。私に構わず、作業を続けて下さい」
凛とした声が響く。
微笑を浮かべた表情は優しげで――。
「……あれ……どっかで、見たことあるような無いような」
瞬が首を傾げていた。
東方にあるエトファリカ連邦国の発足は、それほど昔という事ではない。
王国歴でいう所の850年~970年頃の間というらしいが、その頃、大規模な歪虚の襲来が度重なった。特に970年頃の北狄の南下により辺境諸部族が滅亡し、東方諸国との繋がりが絶えたのは、エトファリカ連邦国の体制を確実なものとしたはずだ。
つまり、強大な歪虚勢力により、包囲された東方諸国は生存を賭けて一致団結。結界を維持する『帝』を擁する“朝廷”を頂点にし、朝廷と民を守る為に“幕府”が成立したのだ。
幕府の運営は、主に最上位第一家門の長『征夷大将軍』と上位六家門により管理された。滅亡の危機の中、武家は最前線で戦い続けた。滅んだ武家も少なくなく、上位六家門もまた、多大な犠牲を払った。
――そして、現在に至っているというのが、十鳥城代官の一人、仁々木正秋の認識だった。
「…………」
正秋が見つめているのは幕府からの書状。
不貞腐れた様子で、正秋の親友である菱川瞬が大きな溜息をついた。
「なぁ……憤怒王って、もう滅亡した訳だろ。幕府って必要ないんじゃねぇ?」
これが密室でのやり取りでなければ、瞬の首と胴体が離れていても可笑しく発言である。
しかし、瞬がそう言いたくなるのも理由はある。
『幕府体制維持の為に、十鳥城にも“相応の負担”を』――書状を要約すると、そんな感じだ。
「復興もまだ途上で、余力という余力も、苦しい時に……」
「どうせ、俺達の状況を知らねぇんだろう」
頭を抱えた正秋の言葉に瞬が悪態を付く。
少なくとも、『征夷大将軍』は十鳥城の状況は把握しているはずだ。
先の長江での戦いでは、正秋率いる隊はハンター達と共同し多大な戦果を挙げた。その功績により、長江西端のカカオ豆栽培を、条件付きだが認められている。
「何か、別の策を考えないと」
正秋が良いアイデアがないかと考える。
カカオ豆栽培の産業は成立しつつあるが、それだけでは足らない。
「そうは言っても、あるのは自然しかねぇしな~。遊廓でもありゃ、別なんだろうが」
「それです!」
瞬の言葉に正秋が反応する。
「え? なに、遊廓作るのか?」
首を横に振った正秋が地図で指した場所は、長江西端のある一角だった。
●アウトドア
清らかな水の流れ、そして、なだらかな坂、青々とした木々。
突貫工事で簡易的な道が作られ、堰止めた川が大きな池を作り、川原に人が滞在するのに必要な設備が出来る。
「くそう。まさか、全部、俺らで手作りとは」
汗を流しながら瞬がそんな事を呟いた。
職人も居ない訳ではない。十鳥城の住民にも協力を仰ぎ、手伝って貰っている。
彼らが無償というのに精力的なのは、これが、ハンター達への恩返しにもなるからという事だろう。
「人の想いというのは、凄いものです」
「……あぁ、そうだな」
十鳥城はハンター達の力で歪虚勢力から開放された。
あれ以上は保てなかった、ギリギリの状態だった。住民らにとって、ハンター達の存在は正しく、救世主だっただろう。
「ようやく、恩返しが出来ると」
ハンター達向けの保養施設であると同時に、外部運営によるアウトドア施設でもある。
長江の穏やかな暖かい気候と、独特な地形や自然を利用したのだ。
後はハンター達に自然を満喫してもらえればいいのだが――。
「将軍様がお見えになられました!」
兵の一人が告げた。
今回の件は、幕府にも伝えてある。大規模な工事にもなった為、理由を説明する必要があったからだ。
そして、その反応は意外なものであった。
『征夷大将軍』自らが、視察を兼ねて訪れるという。
「止められなかったのかよ?」
瞬の小さな声の質問に正秋は頷く。
「何か、深い意味があるかもしれない」
「ただ暇なだけなんじゃねぇ」
ブツブツと言っていると『征夷大将軍』立花院 紫草(kz0126)が僅かな供を引き連れて姿を現した。
正秋と瞬の二人は仰々しく頭を下げて出迎える。驚いたのは話を聞かされていなかった住民らだろう。突然の大物の登場にどうしたものかと顔を見合わせる。
平伏しようとした動きを立花院は手で静止した。
「皆さん、ご苦労様です。私に構わず、作業を続けて下さい」
凛とした声が響く。
微笑を浮かべた表情は優しげで――。
「……あれ……どっかで、見たことあるような無いような」
瞬が首を傾げていた。
リプレイ本文
●池浮
清流を堰止めし、透き通る水がこんこんと湛えている中、黒の夢(ka0187)は浮き輪に乗って漂っていた。
「えへへ。気持ちいいのなー」
ぷかぷかと揺れながら、胸を隠しているのか隠していないのか際どい水着とその姿勢が、無駄に谷間をも強調している。
水着の紐をちょんと摘む。
「何だか同じものなのに、前より水着小さいのな……太っただろうか……」
首を傾げる。きっと、それは育ったのに違いありません。
まるで浮袋を抱えているようなそんな光景に桜憐りるか(ka3748)はそっと自分の胸に手を当てた。
「ふわぁ……」と見惚れてた後、「んむぅ……」と唸る。
りるかの胸が無いわけではない。こればっかりは相手が悪い。圧倒的格差だ。
日焼け対策に着てきたラッシュガードの前閉じを何事も無かったように締めた。
「とにかく、のんびり遊べるの、楽しみ……です。新しいお友達もできると嬉しいの……」
「りるかちゃん、気持ちいいのなー」
控えめに呟いたりるかの言葉にアンノウンが応えて手招きをする。
確かにぷかぷか浮いて気持ち良さそうであるし、なにより、この機会に、あの浮袋の感触を確かめるのも良いかもしれない。
そんな風に考えている所にノワ(ka3572)の元気な声を響く。
「今日は泳ぎの練習に来ました」
縞々模様の可愛らしいビキニで、水着を着ること自体が初というノワは、水の中に入る前から気合十分だ。
しっかりと準備運動を終えたので、後は水の中に入るだけ。若干緊張した趣で池に近寄る。
「右手と右足が一緒に出ているのな、ノワちゃん」
「は、はい! 人は浮力で必ず浮くはず! きっと、大丈夫です!」
アンノウンの言葉の意味を理解する事なく、そのまま池の中へ入るノワ。
「「おぉ」」
様子を見守っていたアンノウンとりるかの声が重なった。
ノワはゆっくりと池の中へ入り――そのまま、沈んでいった。
「「…………」」
ボコボコと空気を吐き出した気泡が水面に現れ、やがて、ノワが池の中から戻ってきた。
「……ぷはーっ! なんでですかー!?」
どうやら浮かぶ事は叶わなかったらしく、水底を歩いていた様子だ。
これでは泳ぎの練習にならない。
そんな池の上をスゥーとユグディラ……の着ぐるみを着込んだチョココ(ka2449)が走る。
「長江と聞くと、鳩マッチョを思い出すですの……。それはおいといて、保養施設でのんびりするのですわー♪」
ウォーターウォークの魔法で水上に居るのだ。
海のように波がある訳ではないので、スイスイと進む。
「チョココちゃんも泳がないのー?」
アンノウンの質問に手をブンブンして返事をするチョココ。
「今回、泳いだら沈みそうですの……だから、水の上を歩きますの~」
スケートのように水の上を楽しそうにしているチョココの様子を見ながら、ノワもやってみたい気がしないでもないが、当初の目的を思い出す。
「ま、まだです。泳ぎの練習はこれからです!」
「それなら、私も……応援、するわ」
りるかが笑顔を浮かべながらノワに手を差し伸べた。
その横を浮き輪に乗ったアンノウンが流れていく。
「ノワちゃん、頑張るのなー。我輩は見てるのなー」
「わたくしもそうするのですわー」
チョココも着ぐるみのままに水の上を横たわって滑っていった。
日はまだまだ高い。練習するのも遊ぶのも、時間は沢山あるはずなのだから。
●ざくろ:×:ハーレム
「川遊びといえば、はやてにおまかせですの!」
八劒 颯(ka1804)のビキニ姿……いつもの衣装と大差ないような気がしない訳でもないが、これは気分の問題だ。
張り切って、バン! っと両腕を天に広げると、女性らしい身体のラインが強調された。
その隣の岩に座り、白く細い足で水をパシャパシャと跳ねさせているのは白山 菊理(ka4305)だ。僅かに濡れた水着が妙に艶かしい。
「涼しいな。最近は暑くなってきたから、助かる」
顔に掛かった髪を指先で耳に掛けながら、不敵な笑みを浮かべる舞桜守 巴(ka0036)に声をかけた。
「こうやって皆でのんびりするのも、久しぶりかな?」
「そうですね。さぁーて! これだけ可愛い可愛い恋人達なんですから、何かお言葉くださいな?」
巴も揃って全員ビキニ姿の女性達が向けた視線の先には、我らがハーレム王、時音 ざくろ(ka1250)。
視線をどこに向けていいのか分からず、既にオロオロとしている様子はいつもの事だ。
「可愛くて色っぽくて、良く似合ってるよ」
「ふぅむ……まあ、いいでしょう。ほら、もっと誉めてもいいんですよ。全員恋人! 私も、皆、愛していますわ!」
既に太陽の光で焼けたように真っ赤になっているざくろの言葉に、巴が返すと、ざくろの右腕に抱きつく。
「ふぁ……あ、当たってる!」
「当ててますから」
逃れるように視線を向けた先には、非情にも先回りした颯が待ち構えていた。
「せっかく、ひん剥いたのにもっとガン見しとかなくていいんですか?」
「ひ、ひん剥いたって」
左腕を全身で抱える颯。
そして、正面からは菊理が向かって来るが……。
「く、このままで終わってはいつも通りに。ここは……」
「甘いぞざくろん♪」
背後から強襲してきたのは、アルラウネ(ka4841)だった。
豊かな胸の頂きを遠慮なしにざくろの背中へと密着させる。
「ひゃぁ!」
驚いたざくろが豪快に転ぶ。
足元は水なので怪我をする事は無かったが、全員を巻き込んでの盛大な状態に、そそり立つ水飛沫。
なんとか、膝立ちになった所で、ざくろは手に何か持っている事に気がついた。
「………あれ? この布? はわわわわ」
色の違う水着が4枚。どうしてか分からないが、絡まりあったそれらが、ざくろの手の中にあった。
ここまで来るとらきすけ全開である。ハーレム王は顔を真っ赤にしながら謝った。
「ごっ、ごめんワザとじゃ……な……や、八ヶ岳……」
目の前に堂々と立つ八つの柔らかい頂き。
ざくろの鼻からダムの放流の如く勢いで鼻血が吹き出るのであった。
その後もざくろ達は川遊びを堪能した。
ハーレム王が魚やザリガニを掴み取ろうとしたりする度に、違う柔らかいナニを掴んだり、急な水の流れに足を滑らせ恋人を巻き込んで倒れてみたり、着替えようとしたら仕切りの板が突如と外れてみたり、それはもう、らきすけの神が降臨していた。
偶然にもその惨状は、他の人達には目撃されなかったが、かなり際どかった時もあっただろう。
その度に吹き出すざくろの鼻血が川を赤く染めたとか染めてないとか。
そして、今は温泉で落ち着いていた。
あのままラキスケ会場に居たら、『「初夏のアウトドア@長江」において圧倒的鼻血にて、重い傷を負いました。』とか通告される所だったかもしれない。
ざくろは溜め込んだ空気をゆっくりと吐き出す。
「……」
遠くから川遊びや堰止め池で遊ぶハンター達の声が微かに聞こえる。
温泉はそれらから一本隣の沢だ。即席で作られた露天風呂で彼は一人、湯煙に包まれていた。
一寸先も見えない程濃い煙だ。それは目を閉じていなくとも、ある意味、何もない空間で――これまでの喧騒が静かになると、不意に心が重くなる。
「……護れなかった」
呪うようにボソリと呟く。
古の塔での戦い。傲慢の歪虚『死を刈る蜘蛛』メフィスト(kz0178)と対峙したざくろ達、ハンターは奮戦した。
結果的に、古の塔は守りきる事が出来た。姫も、そして、塔の機能の無事だった。
だが、隊長である騎士は爆発に巻き込まれ満足な遺体すら残らなかった。
気分が沈まない訳がない。口元まで温泉に浸かる。今は――もう、沈んでいたい。
「また何か考えてますわねー……」
煙の中から巴の声が響いた。
風が湯煙を運び、ざくろの視界の中に愛する者達の姿が映った。
「ふぅ……やはり温泉はいいな」
「お時ちゃん、ここ、混浴だからね」
菊理が疲れを癒すように、颯が普段通りの明るさで、そう言った。
ざくろが落ち込んでいる理由は知っている故に、そのように務めているのだろう。
戦死した騎士と関わりがあったのはざくろだけではない。このハーレムの中にも縁があった者が居る。だからこそ、その辛さは身に染みていた。
「泣きついても、甘えてもいいのよ? それとも……私達じゃ、力不足?」
寂しげな表情を浮かべ、アルラウネが問うた。
ざくろは静かに首を横に振る。
「……ん? ……皆の事、絶対幸せにするって、改めてそう思ってただけだよ」
その台詞に対し、優しげな表情で、巴は彼を包んだ。
変に強がったりしているのがよく分かるから。
「どうしようもない時は逃げていいんですからね? 私は、どこでもついていきますわ、愛する人」
「大丈夫。ざくろんなら“想い”を繋げられるから」
「はやても、お時ちゃんと一緒です」
「そういう事よ」
アルラウネも颯も菊理も、ざくろを抱き締める。
皆の優しさが嬉しいと共に、彼も決意する。
もう、誰も死なせない――皆は自分が護ると。
「ありがとう……じゃあ、今はこのまま……」
彼はありったけ腕を伸ばし、恋人達を強く抱き締めた。
もう二度と、失ったりしない。そんな決意と共に。
●ダチ
思いっきり遊んでいた綿狸 律(ka5377)の視界の中に、正秋の姿が映った。
「おっ、ありゃ、正秋じゃねぇか!」
「これは、律殿」
丁寧に頭を下げる正秋。
先ほどまで将軍を案内していたようで、しっかりと十鳥城の代官を務めていたようだ。
「めっちゃ久しぶりだなぁ。結局、どの道歩んだんだ?」
「代官兼ハンターを選びました。といっても、まだ、ハンターの活動はしていませんが」
「それじゃ、似たようなもんだな! ただ、ハンターは楽しいんだけどなぁ……」
人懐っこい笑顔を浮かべた律。
「近々、継がれるのですか?」
「姉ちゃんいるから、姉ちゃんやってくれねぇかなって思ってんだけどさ……姉ちゃん嫁いじまったから」
誰が家名を継ぐかというのは、案外、どこにでもある話かもしれない。
正秋が選んだように、いつか律も選択の時が来るだろう。
「って、オレばっか話してたな。今度、お前の話も聞かせてくれよ、正秋!」
遠くで彼の事を呼ぶ声が聞こえ、律は別れ際に言う。
「そんでもって、オレとダチになってくれ! 瞬もな!」
「はい。もちろんです。瞬にも、言っておきます」
二人の若武者はしっかりと手を握ったのだった。
●コンサル
手を流れる湯の中に入れて泉質を確かめる龍崎・カズマ(ka0178)。
(牡丹を療養させるのもいいかもしれないな)
さすがに傷の回復となると、ギルド区画内が良いかもしれないが、温泉は心にも効く。周囲に満ちている自然のマテリアルの中、ゆっくりと浸かれば気持ちが良いだろう。
おまけに、肌にも効く。これはきっと、肌がスベスベになるはずだ。
そんな事を思ったが、それ以上考えていても仕方ないので、今日来た目的に意識を戻した。
彼はここの保養施設を回って他の保養施設との差別化があるかを確認していたのだ。
「遊ぶ場所もある、癒す場所もある……」
となれば、他の特色も今後必要になるだろうし、やはり、天ノ都から離れすぎているというのも課題だろう。
ここが、十鳥城にとって外貨を稼ぐ手段の一つとなっているのなら尚更だ。
(……そうか。将軍も同じ理由という事か)
もっとも、十鳥城の為……ではないだろうが。
多忙の中にわざわざ見に来るだけのものが、“此処”にはあるのだろう。
「ほんと、中央の目が届きにくい現場は大変だわ」
カズマは苦笑を浮かべた顔を上げたのであった。
●既視感
屋内にも作られた食事処で立花院 紫草(kz0126)が軽食を静かに口に運んでいた。
その真隣でシェルミア・クリスティア(ka5955)はテーブルに並んだ品を見つめている。
「紫草さんは、食べ物の好みとかあるの?」
「そうですね……食べられれば……という事でしょうか」
特に味の濃淡や甘い辛いなどに興味は無さそうだ。
「ただ……そうですね。のど越しが良いのは好きかもしれません」
二人でテーブルを囲う状況にニコッと笑う紫草。
その様子にシェルミアは既視感を感じた。
「なにか、デジャブ感がするわ」
「実は、私もです」
穏やかな表情でシェルミアの言葉に応じると、漬物に箸の先を向けた。
その様子は施設の視察に来たというよりかは息抜きのようにも見える。今は供回りも席を外しているのもあるかもしれないが。
「紫草さんには“此処”はどんな風に見えているのかな?」
大きな窓の向こう側ではハンター達が遊んでいる光景が見えた。
十鳥城の事もあるので、正秋達の事も気になる所ではある。
「……頼もしくみえますね」
紫草はいつもの微笑を浮かべてそう答えたのだった。
●模擬戦
「お久しぶり、タチ……大将軍」
呼び直したアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
振り返る紫草に向けて、アルマ・A・エインズワース(ka4901)が紫草へと猛然と駆け寄る。
「お久しぶりですっ! 紫草さん、僕、沢山頑張ったですよ! ほめてくださいっ」
賜った羽織を嬉しそうにぐるぐる回る様は、犬のようだ。
アルマの頭を褒めながら撫でている将軍にアーク・フォーサイス(ka6568)が礼儀正しく頭を下げた。
そんな3人の様子に紫草は静かに頷く。ハンター達の望みを察したからだ。
最初に紫草の前に立ったのはアークだった。
(勝てないのは承知の上です)
心の中で呟くアーク。だとしても、全力で挑む。お互い舞刀士という事もあるならば、尚更だ。
東方最強の侍とも言われる紫草に対してアークは敬意を持って礼と名乗る。
模擬戦はアークの軽快な攻撃から始まった。
フェイントを交えた動き――それを紫草は冷静に捌いていく。
(命を守るために……救うために、強くならなければ)
圧倒的な実力差に己の未熟さを感じられる。それでもアークは諦めない。
刀先を振り抜いて、くるりと体勢を入れ替えながら後ろ回し蹴り。剣術の稽古では有り得ない動きだが、これは模擬戦だ。
(救えたはずの命を取り零すことのないように。大切なものをなくさないように)
「その意気込みや良し」
アークの心の声を感じ取ったのか、紫草が蹴りを避けながら言った。
気合の掛け声と共にアークは刀を全力で振るう。息もつかせぬ連撃は――これまでずっと避けていた紫草に刀での受けを使わせた。
善戦をしたアークだったが、ここまでだった。幾度か猛烈な反撃を耐えるが押し切られて模擬戦は終了する。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げてるアーク。試合には負けた。だが、それ以上の何かを彼は得たに違いない。
「……わぅ。紫草さん……八つ当たりしていいです?」
やや力なく言ったアルマに紫草は微笑を浮かべた。
「もちろんですよ」
刀を構える事なく立つ紫草。パッと両者が円を描くように駆ける。
放たれるのは光の機導術。回避位置を予測した上で放つが紫草は何事もなく避け続けた。
「貴方の本気はこんなものじゃないはずですよ」
もちろん、アルマは遠慮していない。本気の本気だ。だが、紫草の言葉が抉る。
接近してきた紫草に放たれる蒼い刃。しかし、紫草は俊敏な動きで避け続ける。
「それで、勝利できると思うのですか! アルマ!」
その台詞がアルマの精神的に溜まった物に対して突き刺さった。
落ち込んでいる理由を紫草は知らないはずだ。溜まった淀みを全て吐き出させるかのような、そんな強さと優しさを感じる。
「……ありがと、ですよ。そして、ごめんなさいですー…っ!」
アルマの左胸に青い炎の幻影が燃え上がった。その幻影は彼を包み、蒼く輝く刃が幾重にもマテリアルのオーラに包み込まれる。
今持てる最大の攻撃。人間に当たれば蒸発しても可笑しくない一撃を紫草に繰り出し、猛烈な土煙があたりを包む。
「良い一撃でしたよ」
一撃は届かなかったが、想いは十分に届いただろう。
土煙が流れた時、無傷の紫草がアルマの首に刀の峰を当てていた。
最後はアルトだった。
二戦立て続いた紫草は息の乱れが全く無く、アルトの攻撃を迎え撃つ。
「半年前のあの時から、ちゃんと成長できてるかな」
あの時は紫草の変幻自在な流水のような刀に押し切られた。
「……まるで、風ですね」
全方位からの一撃離脱。
アルトの攻撃を刀で受け流しながら紫草は言った。
水の勢いは風を止める事が出来ない。疾風のような鋭さや時に嵐のような力強さは、自由自在なアルトの刀。
「強くなりましたね。何よりも、“心”が違います」
それは、苦しみや悲しみを越えた先へ。
折れぬ意志の強さを紫草は感じた。
「礼を言うよ。ボクの道は見えた。後は……ただ、登るだけだ」
「では、私はその途上で待ちましょう」
疾影士のスキルを全て出し切るまで、二人はほぼ互角の戦いとなった。
全てのマテリアルを出し切ったアルトが崩れ落ちるまで模擬戦は続いたのであった。
●正秋隊
長江の日差しはこの季節というのに暑い。
蝉っぽい虫が鳴く中、川遊びのはしゃぐハンター達の声が響いていた。
「遊びまくるぞー、おーっ! で、ござるぅー!」
既に若干ハイテンションなミィリア(ka2689)が右拳を突き上げる。
ピンク色のフリルビキニの、フリルだけがふわふわっと揺れた。
銀 真白(ka4128)もミィリアと同様のフリルビキニだ。白いフリルだけが、やはり、ふわふわっと風に揺れる。
「此度はお誘い有難く、体験がてら楽しませて頂こう」
フッと微笑を浮かべるように真白はそう言った。
表向きは保養施設で過ごす事だが、第三者が見れば、若い連中(保護者付き)が男女でキャッキャウフフしている空間のようにしか見えないだろう。
兄上が居たら発狂してしまうかもしれないが、そんな兄心など真白には理解出来る訳もなく……。
「お二人共、よくお似合いですよ」
満面の笑顔を魅せるのはエステル・クレティエ(ka3783)だった。
彼女もまた、ミィリアや真白と同様の水着を着ているが、その上にラッシュガードを羽織っている。
流行りというか、間に合わせではこれ位しかなかったのだが、問題はないだろう。
「よっしゃ、今日は全力で遊ぶぜぇ!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)の高らかな宣言と共に強調される胸。
その圧倒的威圧感に、3人の乙女達の視線が自然と集中した。
朱色のラインが入った紺の水着に、割れている腹筋がモナカのようにも見える。
「なんという、女・子・力、でござる!?」
「凄い……です」
ミィリアとエステルが生唾を飲み込む。
女子力が何を指しているかは、各自のイマジネーションに任せるとして。
「目のやり場に……そ、その、困ってしまい……ます」
正秋の目が明らかに泳いでいた。
誰か女性を注視してしまう訳にもいかないし、かと言って、野郎に視線を向け続ける訳にもいかず。
「腹筋なら、私も割れているはず。どうだろう、正秋殿」
「は、はい。し、しかと」
水着を着用しているとはいえ、まじまじと身体を正視する訳にもいかず、正秋の目は完全に行き場を無くしていた。
「男らしくビシッとしろや」
ドンっと正秋の背を押すボルディア。
その勢いで彼は派手に川の中へとダイブした。
「あぁ、ずるいでござる! これは、ミィリアも負けてられない!」
一番に飛び込む事になった正秋に対し、無駄な対抗心を燃やすミィリア。
後に続くように豪快に突貫。
大岩を踏み場にして跳躍した(真似してはいけません)。
「正秋殿、ミィリア殿と続けば、私が行かないわけにはいかない」
真白も岩場から高々と飛び込んだ(絶対、ダメ)。
その様子に、状況的に自身も行かなければいけないかなと気持ちが流されたエステルも川へと足を向けて、ゆっくりと入る(推奨)。
「冷たくて気持ちいいですね」
そんな乙女チックな反応とは正反対に、最後にボルディアがわざわざ吊り橋から飛び降りる()。
これが全力だぜぇ! という叫び声と共に水面を激しくうち、水飛沫が激しく飛んだ。
「厳靖さーん。ご飯前に飲み過ぎないで下さいね」
「ミィリアの分を残して置いててござるー」
「毒見役には、私を」
などなど、水遊びの女子からの声に劉 厳靖(ka4574)は酒瓶を持った手を挙げて応えた。
周囲の自然も含め、良い光景を肴にして彼は、ひたすら飲みまくっていた。
「そろそろバーベキューか。意外と火の扱いは慣れてるぜ?」
準備を手伝う気ではいるようだ。
七葵(ka4740)が厳靖の台詞に頷く。
「それなら、魚でも釣ってきます」
沢はいくつもあるので、川遊び以外の所で釣りは出来そうだ。
得意という自負はある。新鮮な魚を釣れればバーベキューも更に盛り上がるはず。
「正秋殿も一緒にどうだ?」
「それはいいな。せっかく川に来たんだから素手でも魚とりやろうぜ!」
休憩がてら上がってきた正秋を七葵は呼び掛け、水分補給していたボルディアも誘う。
「釣りも手掴みもやった事なくて……」
「んじゃ、尚更やってみろって。ゼッテー面白ェからよ!」
そのやり取りに厳靖も立ち上がる。
「面白そうだな。俺も同行するか」
既に手には酒を持っているが、釣りをするつもりらしい。
思ったより釣りや掴み取りの成果は良かった。
これは自然が豊かというよりかは、放流してあったおかげでもあるのだが……。
「骨酒だな」
いかにも酒好きな様相で厳靖がニヤリと口元を緩めた。
籠には川魚が沢山だ。少しばかり酒に回しても文句は誰も言うまい。
正秋とボルディアが手掴みで頑張っている中、七葵は静かに釣り糸を垂らしていた。
幕府からの書状について正秋から話を聞いたのは先刻の事。その事について考えを巡らしていたのだ。
(十鳥城にも届いているという事は詩天にも……)
復興中の諸藩を追い立てねばならぬ程幕府が逼迫しているというのだろうか。
この場には将軍も来ているので、機会があれば聞いてみるのもいいかもしれない。
一度釣り針を確認する為、手元に戻した七葵は次のポイントを定める。若干距離があるので、腕を反り、投げる――。
「な……に……」
周りに人は居ないと確認したはず。
それなのに、釣り糸を引っ掛けてしまったようだ。慌てて振り返ると。
「釣られてしまいましたね」
「え、えと、これ、どうやって外れるのかな」
青髪の少女のハンターを伴った立花院が釣れた。
どうやら散策中らしく、釣り針が一緒にいるハンターの服を巻き込んで立花院の服に引っ掛かっている。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
七葵の驚きとも悲鳴にも聞こえる叫びに厳靖が気が付く。
「これは、やばいの釣れたな」
「あわわわわ」
正秋は目が点になっていた。
その後、七葵と正秋、そして保護者を自認していた厳靖が平謝りするのであるが、将軍は笑ってこう応えたという。
「魚よりも動きの早い私を釣れるのです。良い腕前ですよ」
●BBQ
天候、地形、人、その全てが、まさに、アウトドア日和! 絶好のロケーションだろう。
「青い空! 気持ちいい風! イケメン! カワイ子ちゃん! サイッコーねぇ」
両腕で自身の体を抱き締めてロス・バーミリオン(ka4718)が心の思うまがままに言った。
それに応えるように、ルキハ・ラスティネイル(ka2633)がウインクしながら応える。
「新鮮な食材でバーベキューしましょ♪」
「バーベキューなんて、るーちゃんナイスアイデアね!」
親指を立て合うルキハとロゼ。
オネェ二人によるバーベキューが始まろうとしていた。
もちろん、二人だけのバーベキューではない。参加しているハンター達全て、そして、このステキな場を作ってくれた十鳥城の住民らにもだ。
「さぁ、肉焼きましょう。肉! 肉祭りよ!」
「任せて☆ 肉は得意なのよ」
ナニが得意かはとにかく、分厚い肉を、アツアツの鉄板の上へと豪快に並べる。
「焼けるまでの間に、折角だから渓流で釣ったお魚も使いましょう」
「いいわね、るーちゃん。って、お魚捌くの? やだぁっ! お魚の眼って私苦手なのよぉ……」
「あたしもよ~。お魚さんの眼がこっち見てるワ~~。やだぁーー。何か怖ぁい~。ロゼ姐平気ぃ?」
と言いつつ、ロゼはメスで捌き、ルキハは包丁で魚の頭をぶった切っていた。
「鱗も、骨も、身も、皮も☆ 全部やっちゃうわよ」
「きゃっ☆ ロゼ姐のメス捌き惚れちゃう~~」
もはや止める事が誰にも出来ないオネェ空間。
準備が出来上がった食材から鉄板に並べられ、足らなくならると、追加の鉄板をドスの効いた掛け声と共に設置する二人。
「それじゃ、塩胡椒を利かせて~~っと」
ルキハが肘を曲げて状態から、摘んだ塩を指先から溢れ落とす。
「あら! るーちゃんったら、塩を振るのとってもセクシーじゃない」
「ロゼ姐もやってみて☆」
「そうね。私も塩をセクシーに振ってみようかしらね。イケメンたち! 私達を見なさい!!」
見事な塩振りで味付けも万全だ。
良い焼き香りと共に色もついてきた所で、ルキハがサッとワイン瓶を持ち上げた。
「これで乾杯しましょ、ロゼ姐!」
「ワインもあるなんて、るーちゃんったら準備がいいんだから♪」
幾つものグラスにワインを注ぐと高らかにルキハとロゼは宣言した。
「「さぁ、バーベキュー始めるわよ!」」
その宣言であちらこちらで過ごしていたハンター達が集まって来た。
「しのさん、ごきげんようですの」
チョココが魚を頬張りながら立花院に声を掛ける中、りるかはおにぎり焼きに神経を尖らせていた。慣れない手つきが怖い。
「焼くと美味しいらしいの……ですよ」
「お腹が空いたのでしっかり食べます!」
ノワが泳ぎの練習で使った体力を回復させるかのように焼肉を口に運ぶ。
アンノウンといえば、ロボットクリーナー2台をリードに繋いで状態で稼働させていた。
「この子達、とっても小さな物しか食べないのなー」
彼女にとっては生き物……らしい。
「やっぱり、酒だよな!」
「ぷはーっ! この休日を楽しみきった感……! すゅごい!!」
「もう、本当に飲み過ぎないで下さいね」
厳靖とミィリアの酒盛りに心配そうなエステル。
「立花院様も如何です?」
「では、いただきましょうか」
七葵は先の件ですっかり畏縮してしまっていた。
大将軍を釣るなど、ある意味、歴史に残る快挙だ。
色々と聞きたい事もあったが今日はきっと言い出せないだろうなと七葵は思った。
一方の立花院は気にした様子なく、同行していたハンターに串を渡していた。
バーベキューの一角では正秋を左右から水着姿の真白とボルディアが挟んでいた。
両手に花状態なのだが、慣れないのか正秋も七葵と同様に畏縮してしまっている。そして、そんな事に気が付く二人でもない。
「正秋殿、これは美味しいです」
「か、かたじけない」
毒見(味見)して美味しいと思ったのを真白は正秋に甲斐甲斐しく渡していた。ちょっとした姉気分だ。
突如、ドンドンと背を正秋の背を叩くボルディア。
「は、はい?」
「憤怒が居なくなってもまだ大変みてぇだが、困った事があったら、遠慮なく俺等を頼れよ? 俺等、もうダチだろ。なぁ、まさあき?」
うんうんと頷く真白。事情はなんとなく七葵から聞いている。
まだまだ問題は山積しているだろうが、一人で抱え込む事はないのだから。
正秋は照れたように頭を掻きながら返事をするのであった。
●明日から
キョロキョロと周りの状況を見渡しながら、穂積 智里(ka6819)がオドオドとしていた。
「やっぱり、みんな、二の腕も、お腹も、ぷにぷにしていないです……どうしよう、場違い感が半端ないです……」
水着のままの人も多いが、あんなに食べているのに無駄なものがついていない。
むしろ、立派な物がついている人もチラホラ……。
「知ってる人を誘って遊びたかったけど、これでよかったのかもしれないなぁ」
その無駄なものを見せつけてしまうぐらいなら、今回は一人で良かったかもしれない。
「………夏までにビキニを着られるようになって、友達も増やして、もう1回チャレンジです……」
その為には、しっかりと痩せて、そして、腹筋ぐらい割る必要もあるだろうか。
そんな風に思っても、無慈悲にも鼻の奥へと侵入してくるバーベキューの香りには逆らえず……。
「滅多に来られないですし、ダイエットはきちんと明日から頑張りますっ」
とりあえず、明日から本気を出せば良いんだと至り――智里は焼きたての肉を思いっきり頬張るのだった。
長江西端の一角に作られた保養施設でハンター達は大いに楽しみ英気を養った。
同時に保養施設として調整が必要な箇所も明らかにもなったのであった。
おしまい。
●祈り
そこは、水遊びやバーベキューを楽しむ人達から少し離れた静かな場所だった。
青々とした木々の葉。色取り取りな草花。
それらに囲まれ、志鷹 都(ka1140)は大きく深呼吸をした。
空を飛ぶような甲高い小鳥達の囀り。木々の枝が風で揺れ葉が響かせる音。可愛らしく広がる水草の花と澄んだ自然の香り。
心地良い一時を全身で感じていた。
見上げれば太陽の光が重なり合う葉の間から揺れながら煌く。
それは――心の宝箱にしまってある、優しい、懐かしい景色なのかもしれない。
都は笹舟を丁寧に作り始める。幼い頃に幼馴染の少年から教わった作り方で。
「……」
哀しみに満ちた表情で笹舟に、小さい白い花を添えた。
そして、穏やかな流れの清流に、大事に、そっと……そっと、流す。
「……どうか、貴女の魂が安らかな眠りにつけますように」
ある女性へ想いを馳せながら。
心から、祈りを籠めて。
笹舟はゆっくりと流れていく。都は笹舟が遠くに消えていくまで、見送り続けるのであった。
清流を堰止めし、透き通る水がこんこんと湛えている中、黒の夢(ka0187)は浮き輪に乗って漂っていた。
「えへへ。気持ちいいのなー」
ぷかぷかと揺れながら、胸を隠しているのか隠していないのか際どい水着とその姿勢が、無駄に谷間をも強調している。
水着の紐をちょんと摘む。
「何だか同じものなのに、前より水着小さいのな……太っただろうか……」
首を傾げる。きっと、それは育ったのに違いありません。
まるで浮袋を抱えているようなそんな光景に桜憐りるか(ka3748)はそっと自分の胸に手を当てた。
「ふわぁ……」と見惚れてた後、「んむぅ……」と唸る。
りるかの胸が無いわけではない。こればっかりは相手が悪い。圧倒的格差だ。
日焼け対策に着てきたラッシュガードの前閉じを何事も無かったように締めた。
「とにかく、のんびり遊べるの、楽しみ……です。新しいお友達もできると嬉しいの……」
「りるかちゃん、気持ちいいのなー」
控えめに呟いたりるかの言葉にアンノウンが応えて手招きをする。
確かにぷかぷか浮いて気持ち良さそうであるし、なにより、この機会に、あの浮袋の感触を確かめるのも良いかもしれない。
そんな風に考えている所にノワ(ka3572)の元気な声を響く。
「今日は泳ぎの練習に来ました」
縞々模様の可愛らしいビキニで、水着を着ること自体が初というノワは、水の中に入る前から気合十分だ。
しっかりと準備運動を終えたので、後は水の中に入るだけ。若干緊張した趣で池に近寄る。
「右手と右足が一緒に出ているのな、ノワちゃん」
「は、はい! 人は浮力で必ず浮くはず! きっと、大丈夫です!」
アンノウンの言葉の意味を理解する事なく、そのまま池の中へ入るノワ。
「「おぉ」」
様子を見守っていたアンノウンとりるかの声が重なった。
ノワはゆっくりと池の中へ入り――そのまま、沈んでいった。
「「…………」」
ボコボコと空気を吐き出した気泡が水面に現れ、やがて、ノワが池の中から戻ってきた。
「……ぷはーっ! なんでですかー!?」
どうやら浮かぶ事は叶わなかったらしく、水底を歩いていた様子だ。
これでは泳ぎの練習にならない。
そんな池の上をスゥーとユグディラ……の着ぐるみを着込んだチョココ(ka2449)が走る。
「長江と聞くと、鳩マッチョを思い出すですの……。それはおいといて、保養施設でのんびりするのですわー♪」
ウォーターウォークの魔法で水上に居るのだ。
海のように波がある訳ではないので、スイスイと進む。
「チョココちゃんも泳がないのー?」
アンノウンの質問に手をブンブンして返事をするチョココ。
「今回、泳いだら沈みそうですの……だから、水の上を歩きますの~」
スケートのように水の上を楽しそうにしているチョココの様子を見ながら、ノワもやってみたい気がしないでもないが、当初の目的を思い出す。
「ま、まだです。泳ぎの練習はこれからです!」
「それなら、私も……応援、するわ」
りるかが笑顔を浮かべながらノワに手を差し伸べた。
その横を浮き輪に乗ったアンノウンが流れていく。
「ノワちゃん、頑張るのなー。我輩は見てるのなー」
「わたくしもそうするのですわー」
チョココも着ぐるみのままに水の上を横たわって滑っていった。
日はまだまだ高い。練習するのも遊ぶのも、時間は沢山あるはずなのだから。
●ざくろ:×:ハーレム
「川遊びといえば、はやてにおまかせですの!」
八劒 颯(ka1804)のビキニ姿……いつもの衣装と大差ないような気がしない訳でもないが、これは気分の問題だ。
張り切って、バン! っと両腕を天に広げると、女性らしい身体のラインが強調された。
その隣の岩に座り、白く細い足で水をパシャパシャと跳ねさせているのは白山 菊理(ka4305)だ。僅かに濡れた水着が妙に艶かしい。
「涼しいな。最近は暑くなってきたから、助かる」
顔に掛かった髪を指先で耳に掛けながら、不敵な笑みを浮かべる舞桜守 巴(ka0036)に声をかけた。
「こうやって皆でのんびりするのも、久しぶりかな?」
「そうですね。さぁーて! これだけ可愛い可愛い恋人達なんですから、何かお言葉くださいな?」
巴も揃って全員ビキニ姿の女性達が向けた視線の先には、我らがハーレム王、時音 ざくろ(ka1250)。
視線をどこに向けていいのか分からず、既にオロオロとしている様子はいつもの事だ。
「可愛くて色っぽくて、良く似合ってるよ」
「ふぅむ……まあ、いいでしょう。ほら、もっと誉めてもいいんですよ。全員恋人! 私も、皆、愛していますわ!」
既に太陽の光で焼けたように真っ赤になっているざくろの言葉に、巴が返すと、ざくろの右腕に抱きつく。
「ふぁ……あ、当たってる!」
「当ててますから」
逃れるように視線を向けた先には、非情にも先回りした颯が待ち構えていた。
「せっかく、ひん剥いたのにもっとガン見しとかなくていいんですか?」
「ひ、ひん剥いたって」
左腕を全身で抱える颯。
そして、正面からは菊理が向かって来るが……。
「く、このままで終わってはいつも通りに。ここは……」
「甘いぞざくろん♪」
背後から強襲してきたのは、アルラウネ(ka4841)だった。
豊かな胸の頂きを遠慮なしにざくろの背中へと密着させる。
「ひゃぁ!」
驚いたざくろが豪快に転ぶ。
足元は水なので怪我をする事は無かったが、全員を巻き込んでの盛大な状態に、そそり立つ水飛沫。
なんとか、膝立ちになった所で、ざくろは手に何か持っている事に気がついた。
「………あれ? この布? はわわわわ」
色の違う水着が4枚。どうしてか分からないが、絡まりあったそれらが、ざくろの手の中にあった。
ここまで来るとらきすけ全開である。ハーレム王は顔を真っ赤にしながら謝った。
「ごっ、ごめんワザとじゃ……な……や、八ヶ岳……」
目の前に堂々と立つ八つの柔らかい頂き。
ざくろの鼻からダムの放流の如く勢いで鼻血が吹き出るのであった。
その後もざくろ達は川遊びを堪能した。
ハーレム王が魚やザリガニを掴み取ろうとしたりする度に、違う柔らかいナニを掴んだり、急な水の流れに足を滑らせ恋人を巻き込んで倒れてみたり、着替えようとしたら仕切りの板が突如と外れてみたり、それはもう、らきすけの神が降臨していた。
偶然にもその惨状は、他の人達には目撃されなかったが、かなり際どかった時もあっただろう。
その度に吹き出すざくろの鼻血が川を赤く染めたとか染めてないとか。
そして、今は温泉で落ち着いていた。
あのままラキスケ会場に居たら、『「初夏のアウトドア@長江」において圧倒的鼻血にて、重い傷を負いました。』とか通告される所だったかもしれない。
ざくろは溜め込んだ空気をゆっくりと吐き出す。
「……」
遠くから川遊びや堰止め池で遊ぶハンター達の声が微かに聞こえる。
温泉はそれらから一本隣の沢だ。即席で作られた露天風呂で彼は一人、湯煙に包まれていた。
一寸先も見えない程濃い煙だ。それは目を閉じていなくとも、ある意味、何もない空間で――これまでの喧騒が静かになると、不意に心が重くなる。
「……護れなかった」
呪うようにボソリと呟く。
古の塔での戦い。傲慢の歪虚『死を刈る蜘蛛』メフィスト(kz0178)と対峙したざくろ達、ハンターは奮戦した。
結果的に、古の塔は守りきる事が出来た。姫も、そして、塔の機能の無事だった。
だが、隊長である騎士は爆発に巻き込まれ満足な遺体すら残らなかった。
気分が沈まない訳がない。口元まで温泉に浸かる。今は――もう、沈んでいたい。
「また何か考えてますわねー……」
煙の中から巴の声が響いた。
風が湯煙を運び、ざくろの視界の中に愛する者達の姿が映った。
「ふぅ……やはり温泉はいいな」
「お時ちゃん、ここ、混浴だからね」
菊理が疲れを癒すように、颯が普段通りの明るさで、そう言った。
ざくろが落ち込んでいる理由は知っている故に、そのように務めているのだろう。
戦死した騎士と関わりがあったのはざくろだけではない。このハーレムの中にも縁があった者が居る。だからこそ、その辛さは身に染みていた。
「泣きついても、甘えてもいいのよ? それとも……私達じゃ、力不足?」
寂しげな表情を浮かべ、アルラウネが問うた。
ざくろは静かに首を横に振る。
「……ん? ……皆の事、絶対幸せにするって、改めてそう思ってただけだよ」
その台詞に対し、優しげな表情で、巴は彼を包んだ。
変に強がったりしているのがよく分かるから。
「どうしようもない時は逃げていいんですからね? 私は、どこでもついていきますわ、愛する人」
「大丈夫。ざくろんなら“想い”を繋げられるから」
「はやても、お時ちゃんと一緒です」
「そういう事よ」
アルラウネも颯も菊理も、ざくろを抱き締める。
皆の優しさが嬉しいと共に、彼も決意する。
もう、誰も死なせない――皆は自分が護ると。
「ありがとう……じゃあ、今はこのまま……」
彼はありったけ腕を伸ばし、恋人達を強く抱き締めた。
もう二度と、失ったりしない。そんな決意と共に。
●ダチ
思いっきり遊んでいた綿狸 律(ka5377)の視界の中に、正秋の姿が映った。
「おっ、ありゃ、正秋じゃねぇか!」
「これは、律殿」
丁寧に頭を下げる正秋。
先ほどまで将軍を案内していたようで、しっかりと十鳥城の代官を務めていたようだ。
「めっちゃ久しぶりだなぁ。結局、どの道歩んだんだ?」
「代官兼ハンターを選びました。といっても、まだ、ハンターの活動はしていませんが」
「それじゃ、似たようなもんだな! ただ、ハンターは楽しいんだけどなぁ……」
人懐っこい笑顔を浮かべた律。
「近々、継がれるのですか?」
「姉ちゃんいるから、姉ちゃんやってくれねぇかなって思ってんだけどさ……姉ちゃん嫁いじまったから」
誰が家名を継ぐかというのは、案外、どこにでもある話かもしれない。
正秋が選んだように、いつか律も選択の時が来るだろう。
「って、オレばっか話してたな。今度、お前の話も聞かせてくれよ、正秋!」
遠くで彼の事を呼ぶ声が聞こえ、律は別れ際に言う。
「そんでもって、オレとダチになってくれ! 瞬もな!」
「はい。もちろんです。瞬にも、言っておきます」
二人の若武者はしっかりと手を握ったのだった。
●コンサル
手を流れる湯の中に入れて泉質を確かめる龍崎・カズマ(ka0178)。
(牡丹を療養させるのもいいかもしれないな)
さすがに傷の回復となると、ギルド区画内が良いかもしれないが、温泉は心にも効く。周囲に満ちている自然のマテリアルの中、ゆっくりと浸かれば気持ちが良いだろう。
おまけに、肌にも効く。これはきっと、肌がスベスベになるはずだ。
そんな事を思ったが、それ以上考えていても仕方ないので、今日来た目的に意識を戻した。
彼はここの保養施設を回って他の保養施設との差別化があるかを確認していたのだ。
「遊ぶ場所もある、癒す場所もある……」
となれば、他の特色も今後必要になるだろうし、やはり、天ノ都から離れすぎているというのも課題だろう。
ここが、十鳥城にとって外貨を稼ぐ手段の一つとなっているのなら尚更だ。
(……そうか。将軍も同じ理由という事か)
もっとも、十鳥城の為……ではないだろうが。
多忙の中にわざわざ見に来るだけのものが、“此処”にはあるのだろう。
「ほんと、中央の目が届きにくい現場は大変だわ」
カズマは苦笑を浮かべた顔を上げたのであった。
●既視感
屋内にも作られた食事処で立花院 紫草(kz0126)が軽食を静かに口に運んでいた。
その真隣でシェルミア・クリスティア(ka5955)はテーブルに並んだ品を見つめている。
「紫草さんは、食べ物の好みとかあるの?」
「そうですね……食べられれば……という事でしょうか」
特に味の濃淡や甘い辛いなどに興味は無さそうだ。
「ただ……そうですね。のど越しが良いのは好きかもしれません」
二人でテーブルを囲う状況にニコッと笑う紫草。
その様子にシェルミアは既視感を感じた。
「なにか、デジャブ感がするわ」
「実は、私もです」
穏やかな表情でシェルミアの言葉に応じると、漬物に箸の先を向けた。
その様子は施設の視察に来たというよりかは息抜きのようにも見える。今は供回りも席を外しているのもあるかもしれないが。
「紫草さんには“此処”はどんな風に見えているのかな?」
大きな窓の向こう側ではハンター達が遊んでいる光景が見えた。
十鳥城の事もあるので、正秋達の事も気になる所ではある。
「……頼もしくみえますね」
紫草はいつもの微笑を浮かべてそう答えたのだった。
●模擬戦
「お久しぶり、タチ……大将軍」
呼び直したアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
振り返る紫草に向けて、アルマ・A・エインズワース(ka4901)が紫草へと猛然と駆け寄る。
「お久しぶりですっ! 紫草さん、僕、沢山頑張ったですよ! ほめてくださいっ」
賜った羽織を嬉しそうにぐるぐる回る様は、犬のようだ。
アルマの頭を褒めながら撫でている将軍にアーク・フォーサイス(ka6568)が礼儀正しく頭を下げた。
そんな3人の様子に紫草は静かに頷く。ハンター達の望みを察したからだ。
最初に紫草の前に立ったのはアークだった。
(勝てないのは承知の上です)
心の中で呟くアーク。だとしても、全力で挑む。お互い舞刀士という事もあるならば、尚更だ。
東方最強の侍とも言われる紫草に対してアークは敬意を持って礼と名乗る。
模擬戦はアークの軽快な攻撃から始まった。
フェイントを交えた動き――それを紫草は冷静に捌いていく。
(命を守るために……救うために、強くならなければ)
圧倒的な実力差に己の未熟さを感じられる。それでもアークは諦めない。
刀先を振り抜いて、くるりと体勢を入れ替えながら後ろ回し蹴り。剣術の稽古では有り得ない動きだが、これは模擬戦だ。
(救えたはずの命を取り零すことのないように。大切なものをなくさないように)
「その意気込みや良し」
アークの心の声を感じ取ったのか、紫草が蹴りを避けながら言った。
気合の掛け声と共にアークは刀を全力で振るう。息もつかせぬ連撃は――これまでずっと避けていた紫草に刀での受けを使わせた。
善戦をしたアークだったが、ここまでだった。幾度か猛烈な反撃を耐えるが押し切られて模擬戦は終了する。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げてるアーク。試合には負けた。だが、それ以上の何かを彼は得たに違いない。
「……わぅ。紫草さん……八つ当たりしていいです?」
やや力なく言ったアルマに紫草は微笑を浮かべた。
「もちろんですよ」
刀を構える事なく立つ紫草。パッと両者が円を描くように駆ける。
放たれるのは光の機導術。回避位置を予測した上で放つが紫草は何事もなく避け続けた。
「貴方の本気はこんなものじゃないはずですよ」
もちろん、アルマは遠慮していない。本気の本気だ。だが、紫草の言葉が抉る。
接近してきた紫草に放たれる蒼い刃。しかし、紫草は俊敏な動きで避け続ける。
「それで、勝利できると思うのですか! アルマ!」
その台詞がアルマの精神的に溜まった物に対して突き刺さった。
落ち込んでいる理由を紫草は知らないはずだ。溜まった淀みを全て吐き出させるかのような、そんな強さと優しさを感じる。
「……ありがと、ですよ。そして、ごめんなさいですー…っ!」
アルマの左胸に青い炎の幻影が燃え上がった。その幻影は彼を包み、蒼く輝く刃が幾重にもマテリアルのオーラに包み込まれる。
今持てる最大の攻撃。人間に当たれば蒸発しても可笑しくない一撃を紫草に繰り出し、猛烈な土煙があたりを包む。
「良い一撃でしたよ」
一撃は届かなかったが、想いは十分に届いただろう。
土煙が流れた時、無傷の紫草がアルマの首に刀の峰を当てていた。
最後はアルトだった。
二戦立て続いた紫草は息の乱れが全く無く、アルトの攻撃を迎え撃つ。
「半年前のあの時から、ちゃんと成長できてるかな」
あの時は紫草の変幻自在な流水のような刀に押し切られた。
「……まるで、風ですね」
全方位からの一撃離脱。
アルトの攻撃を刀で受け流しながら紫草は言った。
水の勢いは風を止める事が出来ない。疾風のような鋭さや時に嵐のような力強さは、自由自在なアルトの刀。
「強くなりましたね。何よりも、“心”が違います」
それは、苦しみや悲しみを越えた先へ。
折れぬ意志の強さを紫草は感じた。
「礼を言うよ。ボクの道は見えた。後は……ただ、登るだけだ」
「では、私はその途上で待ちましょう」
疾影士のスキルを全て出し切るまで、二人はほぼ互角の戦いとなった。
全てのマテリアルを出し切ったアルトが崩れ落ちるまで模擬戦は続いたのであった。
●正秋隊
長江の日差しはこの季節というのに暑い。
蝉っぽい虫が鳴く中、川遊びのはしゃぐハンター達の声が響いていた。
「遊びまくるぞー、おーっ! で、ござるぅー!」
既に若干ハイテンションなミィリア(ka2689)が右拳を突き上げる。
ピンク色のフリルビキニの、フリルだけがふわふわっと揺れた。
銀 真白(ka4128)もミィリアと同様のフリルビキニだ。白いフリルだけが、やはり、ふわふわっと風に揺れる。
「此度はお誘い有難く、体験がてら楽しませて頂こう」
フッと微笑を浮かべるように真白はそう言った。
表向きは保養施設で過ごす事だが、第三者が見れば、若い連中(保護者付き)が男女でキャッキャウフフしている空間のようにしか見えないだろう。
兄上が居たら発狂してしまうかもしれないが、そんな兄心など真白には理解出来る訳もなく……。
「お二人共、よくお似合いですよ」
満面の笑顔を魅せるのはエステル・クレティエ(ka3783)だった。
彼女もまた、ミィリアや真白と同様の水着を着ているが、その上にラッシュガードを羽織っている。
流行りというか、間に合わせではこれ位しかなかったのだが、問題はないだろう。
「よっしゃ、今日は全力で遊ぶぜぇ!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)の高らかな宣言と共に強調される胸。
その圧倒的威圧感に、3人の乙女達の視線が自然と集中した。
朱色のラインが入った紺の水着に、割れている腹筋がモナカのようにも見える。
「なんという、女・子・力、でござる!?」
「凄い……です」
ミィリアとエステルが生唾を飲み込む。
女子力が何を指しているかは、各自のイマジネーションに任せるとして。
「目のやり場に……そ、その、困ってしまい……ます」
正秋の目が明らかに泳いでいた。
誰か女性を注視してしまう訳にもいかないし、かと言って、野郎に視線を向け続ける訳にもいかず。
「腹筋なら、私も割れているはず。どうだろう、正秋殿」
「は、はい。し、しかと」
水着を着用しているとはいえ、まじまじと身体を正視する訳にもいかず、正秋の目は完全に行き場を無くしていた。
「男らしくビシッとしろや」
ドンっと正秋の背を押すボルディア。
その勢いで彼は派手に川の中へとダイブした。
「あぁ、ずるいでござる! これは、ミィリアも負けてられない!」
一番に飛び込む事になった正秋に対し、無駄な対抗心を燃やすミィリア。
後に続くように豪快に突貫。
大岩を踏み場にして跳躍した(真似してはいけません)。
「正秋殿、ミィリア殿と続けば、私が行かないわけにはいかない」
真白も岩場から高々と飛び込んだ(絶対、ダメ)。
その様子に、状況的に自身も行かなければいけないかなと気持ちが流されたエステルも川へと足を向けて、ゆっくりと入る(推奨)。
「冷たくて気持ちいいですね」
そんな乙女チックな反応とは正反対に、最後にボルディアがわざわざ吊り橋から飛び降りる()。
これが全力だぜぇ! という叫び声と共に水面を激しくうち、水飛沫が激しく飛んだ。
「厳靖さーん。ご飯前に飲み過ぎないで下さいね」
「ミィリアの分を残して置いててござるー」
「毒見役には、私を」
などなど、水遊びの女子からの声に劉 厳靖(ka4574)は酒瓶を持った手を挙げて応えた。
周囲の自然も含め、良い光景を肴にして彼は、ひたすら飲みまくっていた。
「そろそろバーベキューか。意外と火の扱いは慣れてるぜ?」
準備を手伝う気ではいるようだ。
七葵(ka4740)が厳靖の台詞に頷く。
「それなら、魚でも釣ってきます」
沢はいくつもあるので、川遊び以外の所で釣りは出来そうだ。
得意という自負はある。新鮮な魚を釣れればバーベキューも更に盛り上がるはず。
「正秋殿も一緒にどうだ?」
「それはいいな。せっかく川に来たんだから素手でも魚とりやろうぜ!」
休憩がてら上がってきた正秋を七葵は呼び掛け、水分補給していたボルディアも誘う。
「釣りも手掴みもやった事なくて……」
「んじゃ、尚更やってみろって。ゼッテー面白ェからよ!」
そのやり取りに厳靖も立ち上がる。
「面白そうだな。俺も同行するか」
既に手には酒を持っているが、釣りをするつもりらしい。
思ったより釣りや掴み取りの成果は良かった。
これは自然が豊かというよりかは、放流してあったおかげでもあるのだが……。
「骨酒だな」
いかにも酒好きな様相で厳靖がニヤリと口元を緩めた。
籠には川魚が沢山だ。少しばかり酒に回しても文句は誰も言うまい。
正秋とボルディアが手掴みで頑張っている中、七葵は静かに釣り糸を垂らしていた。
幕府からの書状について正秋から話を聞いたのは先刻の事。その事について考えを巡らしていたのだ。
(十鳥城にも届いているという事は詩天にも……)
復興中の諸藩を追い立てねばならぬ程幕府が逼迫しているというのだろうか。
この場には将軍も来ているので、機会があれば聞いてみるのもいいかもしれない。
一度釣り針を確認する為、手元に戻した七葵は次のポイントを定める。若干距離があるので、腕を反り、投げる――。
「な……に……」
周りに人は居ないと確認したはず。
それなのに、釣り糸を引っ掛けてしまったようだ。慌てて振り返ると。
「釣られてしまいましたね」
「え、えと、これ、どうやって外れるのかな」
青髪の少女のハンターを伴った立花院が釣れた。
どうやら散策中らしく、釣り針が一緒にいるハンターの服を巻き込んで立花院の服に引っ掛かっている。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
七葵の驚きとも悲鳴にも聞こえる叫びに厳靖が気が付く。
「これは、やばいの釣れたな」
「あわわわわ」
正秋は目が点になっていた。
その後、七葵と正秋、そして保護者を自認していた厳靖が平謝りするのであるが、将軍は笑ってこう応えたという。
「魚よりも動きの早い私を釣れるのです。良い腕前ですよ」
●BBQ
天候、地形、人、その全てが、まさに、アウトドア日和! 絶好のロケーションだろう。
「青い空! 気持ちいい風! イケメン! カワイ子ちゃん! サイッコーねぇ」
両腕で自身の体を抱き締めてロス・バーミリオン(ka4718)が心の思うまがままに言った。
それに応えるように、ルキハ・ラスティネイル(ka2633)がウインクしながら応える。
「新鮮な食材でバーベキューしましょ♪」
「バーベキューなんて、るーちゃんナイスアイデアね!」
親指を立て合うルキハとロゼ。
オネェ二人によるバーベキューが始まろうとしていた。
もちろん、二人だけのバーベキューではない。参加しているハンター達全て、そして、このステキな場を作ってくれた十鳥城の住民らにもだ。
「さぁ、肉焼きましょう。肉! 肉祭りよ!」
「任せて☆ 肉は得意なのよ」
ナニが得意かはとにかく、分厚い肉を、アツアツの鉄板の上へと豪快に並べる。
「焼けるまでの間に、折角だから渓流で釣ったお魚も使いましょう」
「いいわね、るーちゃん。って、お魚捌くの? やだぁっ! お魚の眼って私苦手なのよぉ……」
「あたしもよ~。お魚さんの眼がこっち見てるワ~~。やだぁーー。何か怖ぁい~。ロゼ姐平気ぃ?」
と言いつつ、ロゼはメスで捌き、ルキハは包丁で魚の頭をぶった切っていた。
「鱗も、骨も、身も、皮も☆ 全部やっちゃうわよ」
「きゃっ☆ ロゼ姐のメス捌き惚れちゃう~~」
もはや止める事が誰にも出来ないオネェ空間。
準備が出来上がった食材から鉄板に並べられ、足らなくならると、追加の鉄板をドスの効いた掛け声と共に設置する二人。
「それじゃ、塩胡椒を利かせて~~っと」
ルキハが肘を曲げて状態から、摘んだ塩を指先から溢れ落とす。
「あら! るーちゃんったら、塩を振るのとってもセクシーじゃない」
「ロゼ姐もやってみて☆」
「そうね。私も塩をセクシーに振ってみようかしらね。イケメンたち! 私達を見なさい!!」
見事な塩振りで味付けも万全だ。
良い焼き香りと共に色もついてきた所で、ルキハがサッとワイン瓶を持ち上げた。
「これで乾杯しましょ、ロゼ姐!」
「ワインもあるなんて、るーちゃんったら準備がいいんだから♪」
幾つものグラスにワインを注ぐと高らかにルキハとロゼは宣言した。
「「さぁ、バーベキュー始めるわよ!」」
その宣言であちらこちらで過ごしていたハンター達が集まって来た。
「しのさん、ごきげんようですの」
チョココが魚を頬張りながら立花院に声を掛ける中、りるかはおにぎり焼きに神経を尖らせていた。慣れない手つきが怖い。
「焼くと美味しいらしいの……ですよ」
「お腹が空いたのでしっかり食べます!」
ノワが泳ぎの練習で使った体力を回復させるかのように焼肉を口に運ぶ。
アンノウンといえば、ロボットクリーナー2台をリードに繋いで状態で稼働させていた。
「この子達、とっても小さな物しか食べないのなー」
彼女にとっては生き物……らしい。
「やっぱり、酒だよな!」
「ぷはーっ! この休日を楽しみきった感……! すゅごい!!」
「もう、本当に飲み過ぎないで下さいね」
厳靖とミィリアの酒盛りに心配そうなエステル。
「立花院様も如何です?」
「では、いただきましょうか」
七葵は先の件ですっかり畏縮してしまっていた。
大将軍を釣るなど、ある意味、歴史に残る快挙だ。
色々と聞きたい事もあったが今日はきっと言い出せないだろうなと七葵は思った。
一方の立花院は気にした様子なく、同行していたハンターに串を渡していた。
バーベキューの一角では正秋を左右から水着姿の真白とボルディアが挟んでいた。
両手に花状態なのだが、慣れないのか正秋も七葵と同様に畏縮してしまっている。そして、そんな事に気が付く二人でもない。
「正秋殿、これは美味しいです」
「か、かたじけない」
毒見(味見)して美味しいと思ったのを真白は正秋に甲斐甲斐しく渡していた。ちょっとした姉気分だ。
突如、ドンドンと背を正秋の背を叩くボルディア。
「は、はい?」
「憤怒が居なくなってもまだ大変みてぇだが、困った事があったら、遠慮なく俺等を頼れよ? 俺等、もうダチだろ。なぁ、まさあき?」
うんうんと頷く真白。事情はなんとなく七葵から聞いている。
まだまだ問題は山積しているだろうが、一人で抱え込む事はないのだから。
正秋は照れたように頭を掻きながら返事をするのであった。
●明日から
キョロキョロと周りの状況を見渡しながら、穂積 智里(ka6819)がオドオドとしていた。
「やっぱり、みんな、二の腕も、お腹も、ぷにぷにしていないです……どうしよう、場違い感が半端ないです……」
水着のままの人も多いが、あんなに食べているのに無駄なものがついていない。
むしろ、立派な物がついている人もチラホラ……。
「知ってる人を誘って遊びたかったけど、これでよかったのかもしれないなぁ」
その無駄なものを見せつけてしまうぐらいなら、今回は一人で良かったかもしれない。
「………夏までにビキニを着られるようになって、友達も増やして、もう1回チャレンジです……」
その為には、しっかりと痩せて、そして、腹筋ぐらい割る必要もあるだろうか。
そんな風に思っても、無慈悲にも鼻の奥へと侵入してくるバーベキューの香りには逆らえず……。
「滅多に来られないですし、ダイエットはきちんと明日から頑張りますっ」
とりあえず、明日から本気を出せば良いんだと至り――智里は焼きたての肉を思いっきり頬張るのだった。
長江西端の一角に作られた保養施設でハンター達は大いに楽しみ英気を養った。
同時に保養施設として調整が必要な箇所も明らかにもなったのであった。
おしまい。
●祈り
そこは、水遊びやバーベキューを楽しむ人達から少し離れた静かな場所だった。
青々とした木々の葉。色取り取りな草花。
それらに囲まれ、志鷹 都(ka1140)は大きく深呼吸をした。
空を飛ぶような甲高い小鳥達の囀り。木々の枝が風で揺れ葉が響かせる音。可愛らしく広がる水草の花と澄んだ自然の香り。
心地良い一時を全身で感じていた。
見上げれば太陽の光が重なり合う葉の間から揺れながら煌く。
それは――心の宝箱にしまってある、優しい、懐かしい景色なのかもしれない。
都は笹舟を丁寧に作り始める。幼い頃に幼馴染の少年から教わった作り方で。
「……」
哀しみに満ちた表情で笹舟に、小さい白い花を添えた。
そして、穏やかな流れの清流に、大事に、そっと……そっと、流す。
「……どうか、貴女の魂が安らかな眠りにつけますように」
ある女性へ想いを馳せながら。
心から、祈りを籠めて。
笹舟はゆっくりと流れていく。都は笹舟が遠くに消えていくまで、見送り続けるのであった。
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行先相談? 銀 真白(ka4128) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/05/20 22:14:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/20 20:35:57 |
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【タグ】表明卓 立花院 紫草(kz0126) 人間(クリムゾンウェスト)|34才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/05/20 21:31:46 |