• 界冥

【界冥】函館市内掃討・北上ルート

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/05/22 12:00
完成日
2017/06/04 08:26

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「……酷い有様だな」
 偵察用ドローンから送られてくる現在の函館市内の映像に、宙軍に属す小隊の面々は眉を顰める。
 特に市街地の被害は酷く、ビルなどはことごとくなぎ倒され、剥き出しになった鉄筋だけが天を指していた。散乱した瓦礫でもはやどこが道路だったのかさえ定かでない。辛うじて確認できるのは函館駅と市電の軌道くらいだ。
 かつてここに人の営みがあった事を勘ぐりたくなるほど荒んだ光景。その中で蠢く影は狂気歪虚ども。
 すると突然映像が乱れて消えた。ドローンが撃墜されたのだろう。

 小隊長の南条は短く息を吐き、部下達に向き直った。
「今回の俺達の任務は、函館クラスタへ向かう白兵部隊の道を拓く事だ。七重浜及び函館朝市付近から上陸する彼らが無事クラスタへ辿り着けるよう先んじて出発し、市内の歪虚掃討を行う」
 それを受け、一番若い隊員の下国が肩を竦める。
「って言っても、自分らがやるのは『掃討作戦を行うハンター達のサポート』なんスよね?」
 南条は思わず苦笑い。
「まあそう言うな。ハンター達には広範囲で戦闘を行ってもらわねばならないから、移動手段が必要なのさ。かと言って運転免許のない異世界人に車を運転させるわけにもいかん。だから我々が彼らの運転手を務めるよう仰せつかったのさ」
「こんっな時にまで免許とか……まったく、お偉いさんが考えるこたぁ自分にはさっぱりでさ。ま、ハンターさん達のお手伝いができるのは歓迎っすけどね」
 ゲームから飛び出して来たみたいで格好良いからと、下国はカラカラ笑う。
 しかし、隣で聞いていた三白眼の小林は苦い顔。
「お前は楽天家だな。俺は向こうの世界はどうも信用ならねぇ。聞けば、ハンター達の中にはかつてこちらで行方不明になった者がいたって言うじゃねぇか。それなのにどうしてこちらに返さねぇんだ、やましい事でもあんじゃねぇのか?」
「何か事情があるのだろう。それにその事と今回の作戦とは関わりのない事だ。私情を挟むんじゃないぞ」
 南条に窘められ、小林は黙って眉を跳ね上げた。


 オフィス職員のモリスは、函館市の地図を表示したスクリーンを背にハンター達を見回す。
「いよいよ函館クラスタ殲滅作戦が決行されようとしています。ここへお集りの皆さんには、クラスタ南側へ向かう白兵部隊の露払いを担っていただきます」
 そしてクラスタと化した五稜郭の西南、函館朝市及び函館駅周辺を指し、
「白兵部隊を乗せた揚陸艦の内数隻が、函館朝市付近に接岸する手筈です。上陸した部隊はそこから北上しクラスタを目指します。ですが市街地には無数の狂気歪虚が蠢いており、部隊を無事クラスタに送り届ける為には、北上ルート付近の歪虚を一匹でも多く討つ必要があるのです」
 しかし現地調査によれば、市内を跋扈しているものは小型ばかりだという。恐らく力のある歪虚はクラスタの守りを固めているものと推測される。それでも数が数だ、とても露払いなしに白兵部隊が進めるものではない。
「なお、今回はあちらさん……失礼、宙軍の協力で二台の軍用車両と運転手が手配されています。基本的にこちらの指示に従ってくれるそうなので、有効に活用していただければと思います」
 車は宙軍が所持する軍用オフロード車で、瓦礫まみれの市街地では流石にスピードは出せないものの、走行自体は可能だという。これに同乗すれば、ハンター達は悪路での移動に煩わされる事なく、討伐に専念する事ができる。
 そこまで説明すると、モリスはふっと眦を緩めた。
「函館での戦闘もこれが最後となるでしょう。……いえ、皆さんならきっと最後にしていただけるものと信じています。道南で重ねて来た戦いの全てはこの時のため。どうぞ、悔いのない戦いを」
 深々と一礼するモリス。と、隣室で別ルートでの掃討作戦の説明をしていた香藤 玲(ka0220)がぴょこりと顔を覗かせた。
「だいじょぶだよー、きっと! だってね、今回使われる車は輸送機で運ばれたものなんだって。輸送機だよ? そう、前の作戦でハンターさん達が函館空港を奪還してくれたからこそ、今回の作戦で使えるようになった車って事!」
 一応その奪還戦に参加していた玲、やたら誇らしげに胸を張る。
「これはほんの一例だけど、これまで大勢のハンターさん達がクラスタ殲滅に向けて頑張って来たんだもん。その成果はちゃんとこうして繋がってる。だからきっとだいじょーぶっ!」
 言いたい事を言うだけ言うと、玲は素早く引っ込んだ。
 今までの戦いを無駄にしないためにも――ハンター達は転移装置に向かった。

リプレイ本文


(――これ大丈夫か?)
 宙軍所属の軍人が運転する二台の四駆車に分乗し、瓦礫の街へ乗り出した所で、柊 恭也(ka0711)は眉根を寄せた。
 弁天台場制圧成功――別部隊の活躍により、一行と白兵部隊を乗せた揚陸艦は敵の妨害を受ける事なく函館朝市付近に接岸した。……までは良かったのだが。
 並走する車両を見やれば、セーラー服姿の八原 篝(ka3104)、金の髪をなびかせたレム・フィバート(ka6552)が運転する下国と話している。下国はうら若い少女二人にデレっぱなしだ。
「ハンターってこんな可愛い子もいるンすねぇ!」
「友好的なのね。自分達とは違う力を持った『異世界人』なんて、普通は気味悪がるものでしょう?」
 意地悪っぽく微笑んで見せた篝だが、彼は食い気味に否定する。
「こんな時じゃなきゃメシにでも誘うのにぃ。レムちゃん知ってる? この辺りは魚介類が旨いンすよ」
「復興したらまた来てみたいですなっ♪」
 こんな調子なのだ。友好的なのは間違いないが緊張感に欠ける。出発前も、
「今回はよろしくー。一緒に頑張ろうね~」
 と気さくに挨拶した藤堂 小夏(ka5489)へ強引に握手を求めてたりもした。
(あっちも不安だが)
 恭也は自らが乗る車両の運転手をちらり。対してこちらの小林は静か過ぎる。顔合わせの時も短く名乗ったのみで、六人を胡散臭げな目で眺めていた。
 それでも協力して作戦に挑まねばと身を乗り出す。
「改めてよろしく頼むぜ旦那?」
「……口を閉じろ、舌噛むぞ」
 途端、大きな瓦礫に乗り上げ車体が跳ねた。恭也は銃架に据えた「オイリアンテMk3」を急いで押さえる。わざとかと思ったが口には出さず、代わりに短く息を吐いた。



 車両を先導し疾駆する三台の魔導バイク。
 先頭を行くのは高い機動力を誇る「バルバムーシュ」に跨るトリプルJ(ka6653)だ。Jは行く手が倒壊したビルで塞がれているのを見、
「よう、早速行き止まりみてぇだぜ?」
 トランシーバーでどちらへ迂回するか指示を仰ぐ。ルートを把握しているのは運転する軍人達なのだ。
『敵の気配は?』
 恭也の声が返ってきた時、追い上げて来たアーク・フォーサイス(ka6568)がJの隣で停まった。獣を思わす縦割れの瞳孔を持つ金眼で、横たわるビルの残骸を睨む。
「……隠れてるつもりのようだけど気配がだだ漏れだ。この向こう側にそれなりの数がいるようだね」
 そして小夏も二人に並ぶ。ビルの大きさ等を報告した後、
「こっちがビルを回り込んだ所を急襲してくるつもりだろーね」
 自らの推測も付け加える。全員連絡手段をトランシーバーで統一してきている為伝達の漏れはない。
 停車した車の後部座席で、篝がすっと立ち上がった。
「そんな手にわざわざ乗ってやる事ないわね」
 そして肩から下げた工具箱のような物を手にしマテリアルを込めると、カチリ、カチリと歯車の噛み合う音が響いた。箱は鳥が両翼を広げるが如く展開し、身の丈を超す長弓へ姿を変える――魔導機式複合弓「ピアッサー」。魔導機械を用いた特殊な弓だ。
 篝は持参した鏑矢を番え、放つ。鏑矢は猛禽の啼き声に似た甲高い音を引いて飛び、コンクリの壁面に突き刺さった。

 ――ズ、ズズ

 刹那、ビルの残骸が鳴動する。そして向こうから無数の狂気歪虚が、ある者は空へ、ある者は残骸をよじ登り姿を現した!
 距離を開けその全容を視界に納めていた恭也、トランシーバーに向け告げる。
「先行班ちっと後退だ、サイドから挟み込もうとしてる連中がいるぞ!」
『了解』
 三者の声が響き、魔導バイクが再びエンジンを吹き上げる。挟撃を躱し巧く退いた三人は、それぞれの得物を手に戦闘開始。それを双眼鏡で確認した篝、下国に向け言う。
「じゃあわたし達ももう少し後ろへ――」
 だが車は猛然と前進を始めた!
「下国さんっ!?」
 レムが慌てて運転席に取り縋る。
「わたしの射程話したわよね!?」
 篝が詰め寄るも下国はすっかり舞い上がっているらしい。
「でもレムちゃんはその鉄拳みたいので殴るんっしょ? なら近付かないと! 大丈夫、俺覚悟はできてるっすから!」
「そんな覚悟要りませんぞっ!」
「いっけぇー!」
 どうやら彼の中ではすっかり『美少女二人を決死の覚悟でお連れする俺』なヴィジョンが描かれているらしい。二人は何故コイツが突入部隊に編制されなかったのか解った気がした。

 急発進した下国車を見た恭也、
「おい戻れッ」
 叫ぶが下国には届かない。
「案の定か! 旦那、射程一杯まで退が、」
 言いかけた所で、小林は何故か左へハンドルを切った。
「旦那後退だ!」
「ここまでに車両ごと潜めるような遮蔽物はなかったろう」
「あっちは未探索だ、新手に囲まれたら詰むぞ? それに隠れたいんじゃねぇアイツらの支援をすんだ、射線遮ってどうするよ!?」
 口調は荒いが、先程から恭也の状況把握は冷静かつ正確だ。小林にもそれが察せられたのだろう。返事はなかったが今度こそギアをバックに入れた。

「おいどうなってやがんだ?」
 パリィグローブに現した障壁で敵の攻撃をいなしていたJ、下国車の接近に気付き思わず声を上げる。振り向いたアークは、幼馴染のレムが必死に運転席にしがみついているのを見つけ歯噛みする。
「レム? どうして、」
 けれどその間も敵は待ってはくれない。唸りを上げ振動する「オートMURAMASA」で、迫るクラゲ擬きを一刀両断に斬り捨てた。
「ちょっと轢かないでよねー? こっちはノーヘルなんだから」
 言いつつ小夏も、同じく試作振動刀で人型の首を跳ね飛ばす。篝とレムを案じていないわけではなく、軽口を叩きながら気負わず構えるのが彼女のやり方なのだ。
 三人はどうにかしたいと思えど敵の数が多すぎる。せめて車へ近付けぬよう、この場で叩き落すべく懸命に得物を振るった。

 暴走止まらぬ下国車。先行班はもう目と鼻の先だ。
「下国さんってばぁ!」
 レムは事前に説明してあった作戦を繰り返すものの、下国はレムの聖拳しか見ていない。拳=格闘武器。下国の思考はそこで停止している。
 遂に篝がキレた。
 下国の眼前にずいっと複合弓を突き出し、
「あんたこの弓が目に入らないのかよ? 作戦忘れたってんなら思い出させてやろうか?」
 言ってワイヤー弦を耳元でキリキリ鳴らしてやる。豹変した篝の口調、そして張り詰めた弦の音に青ざめた下国は急ブレーキを踏んだ。レムは勢い前座席の間から前へ飛び出しそうになる。
「レム!」
 息を飲むアーク。だが気を取られた隙に彼の背へ複数の人型が躍りかかる!
「アーくんっ!」
 レム、前のめりついでにそのまま青龍翔咬波を放つ! 聖拳の法術印が輝くと、マテリアルが渦を巻き一直線に敵を圧し潰した。
 アークから敵を退けホッとしたレム、固まっている下国の肩を叩きにっこり。
「やる気があるのはいーけど、アーくんに万が一あると流石におこだぞっ☆」
 下国はカクカク頷くと、物凄い勢いで車をバックさせ始めた。



 そうして次々押し寄せる敵をその場で迎撃し続け、援軍が絶えた時には約一時間が経過していた。討伐数は悪くない。ここまでで既に一八〇を超える歪虚を屠っている。
 しかし問題は軍人二人と足並みが揃わない事だった。
 否、正確に言えば下国は篝とレムに恐れをなし唯々諾々、小林も恭也の辣腕を認め指示には従うのだが、言ってしまえば『それだけ』なのだ。篝とレムは下国が暴走しないか目を光らせていなければならなかったし、恭也も前線支援に加え逐一小林に指示せねばならず、攻撃に集中できているかと言えばNOだ。
 そこで、少々早いがJの提案で一旦休憩する事になった。車両をビルの残骸の陰に寄せ、辺りを警戒しつつポーションや水を呷る。
「ポーションは水分補給にも使えていいね」
 小夏ののんびりとした言葉にもぎこちなさは蟠ったまま。恭也は青い髪をくしゃりと掻き上げた。
「少なくとも俺達には共通の敵がいる。共に戦う理由には十分だろ」
 小林に向けて言う。その言葉で何故か下国の方がこくこく頷き目を輝かせたが、小林は明後日の方を向いていた。
 Jは空にしたボトルを潰すと、彼の視線の先に回り込む。
「いよぉ嘗てのご同輩。『異世界人』ってのが信じらんねぇか?」
「……嘗て? お前は、」
「俺様は元々こっちの人間だ、軍にも所属してた。だから狂気歪虚ってヤツが大嫌いでよ。アンタも同じだろ?」
 Jは互いの共通項を示し話しやすい雰囲気を作ると、少しずつ小林の言葉を引き出していく。彼が入隊したての頃上官が忽然と姿を消した事や、先の共同作戦の際その上官に良く似たハンターを見つけていた事――
 Jは共感を込めて頷く。
「俺らも良く分からねぇが、今の所こっちに長期に戻れる手段がねぇんだ。その上官らしいヤツ探して手紙くらい届けてやるぜ? 絶対届けられるかは賭けだがな……上が口止めしようがなんだろうが、知らせるのは生き延びた俺たちの義務で責務だ」
 熱の籠った言葉に、初めて小林がJの眼を見返す。だが、ややあって黙って首を横に振るのだった。
 Jはそれ以上言わず彼の許を離れた。小夏が控えめに声をかける。
「どうだった?」
「悪ぃ失敗だ」
「そう、」
「頑なだな」
 篝と恭也は何とも言えない顔で小林を盗み見た。この四人は蒼界出身者、彼の事情を知り思う所もあるのだろう。紅界出身のアークとレムは目配せし合い、小さく肩を竦めた。



 一行は北上を再開。程なく函館クラスタが見えて来た――だが。その威容の足元から黒い霞が発生し、こちらに押し寄せて来る。そう、歪虚どもの群れだ!
「来たっ! 数はえっと、いっぱい!」
 アークのバイクを借り先行するレムが叫ぶ。実の所アークはまだ体力もスキルも充分残していたのだが、大事な幼馴染をお調子者に預けておくのが不安になったか。元々レムが交代の準備していた事もあり、代わりに下国車へ乗り込んでいた。
 篝も駅だった廃墟から溢れ出す一群を発見。
「七時の方向、人型歪虚多数!」
『後ろからも? 加勢に行こうか?』
 トランシーバーからの小夏の声に、アークは篝に目配せし抜刀しながら言う。
「後方の敵は僕達二人で充分。恭也は、」
 言いかけ恭也に視線をやると、恭也は間髪入れず頷く。
「先行班の支援は俺が。車両停止! 射撃支援を開始する!」
 言うなり長い射程を誇るオイリアンテで再開戦の火蓋を切った!

「ゴミは処分しないとね。精神衛生上よろしくないし」
 殺到する歪虚どもに、小夏は魔導拳銃を立て続けに発砲! 被弾した歪虚どもは耐えきれず爆ぜる。函館戦に参加してきた小夏、思わず首を傾げた。
「随分打たれ弱くないー?」
 そして振動刀に持ち替え刺突一閃! 一突きで四体の敵を霧散せしめた。それはレムも感じていた事で。
「だね、空港の敵は頑丈だったのにー。どんどんぶっ飛ばそっ!」
 青龍翔咬波の範囲を活かしきるべく前進、そして思いっきり拳を突き出すと群れに深い風穴を穿つ!
 これに怯んだ人型ども、ぐにゃりとその輪郭を歪ませた。数で押すべく分裂するつもりなのだ。
「させるかよ」
 だが彼らは人型が分裂する事を知っていた。恭也は大きな人型を率先して狙い撃ち、小夏とレムも分裂を許さず幾多の人型を討つ!
「ったく狂気歪虚ってヤツぁ!」
 Jもウィップを振り回し、尚息があるものは絡めとって引き寄せ、グローブの拳を叩き込んだ!

 アークは車から降りると、押し寄せる敵の前に立ちはだかった。既に敵を射程に収めた篝が空高く飛ぶ個体を次々に射落としている。マテリアルで操作された光の矢は予測不能な軌道で敵を貫く!
 アークが相手取るのは瓦礫を踏み越え迫る人型どもだ。一瞬、前線の幼馴染を見た。活き活きと技を揮っている。彼女達を援護するのは信頼する狙撃手・恭也だ。
 憂いはない。自身を囲おうと展開する敵を前に、集中し気息充溢。と、前線の敵が分裂を図ったのと同調し、人型どもがぐずりと崩れた。
「……お見通しだ!」
 踏み込み、一呼吸の間に白刃を幾度も閃かせる。縦横無尽――その名に違わぬ自在の剣筋で敵を無に帰していく。篝とアークはたった二人で後方からの敵を防いで見せた。だが敵の増援は途切れない。二人の姿に奮起したか小林がキッと顔を上げた。
「少し退がるっすよ!」
 そして篝の射程を考慮し自発的にアクセルを踏む。
「今度は殊勝なのね。ふふ、冗談よ」

 一方恭也。圧倒的威力を誇る大型魔導銃で仲間を支援し続けていたが、先行班を抜け三体の敵が迫ってきた。
「活け造りにしてやるよっ」
 後方への注意を怠らなかった小夏が反応し、一体斬り伏せる。恭也も迎え撃ったが残った一体のレーザーに腕を灼かれた。怯まず狙いを定めようとするも身体が思うように動かない。
「狂気感染か」
 忌々し気に吐き捨て立て続けにぶっ放す! 一発目は仕損じたが二発目で敵を捉えた。篝は持参した精神安定剤へ手を伸ばしかけたが、それより早く恭也へ差し出された手があった。
 小林だ。その手には軍から支給された精神安定剤が。驚く恭也に、小林は初めて恭也を振り返って言う。
「余剰分だ、使え」
「……ああ」
 安定剤を注入しながら恭也はJの背を見やる。彼の語りかけは確かに小林の心を動かしていたのだ。
「ありがとな。お、先行班の奴らが押し始めたな。旦那、もう少し前へ出るか」
「了解」
 頑強なタイヤが再び砂塵を巻き上げた。

 連携の整った彼らは、いつ尽きるとも知れぬ増援を掃い続ける。歪虚どもの体液、彼らの傷口から滴る紅が瓦礫の原に染みていく。数で圧倒されるも個の力は弱く脆い。次第にハンター達が圧倒していく形となった――



 クラスタへ向かう白兵部隊を見送る一同。部隊が鳴らす軍靴の音が高らかに響くも、飛来する影はない。
 討伐総数六〇八体。彼らは付近の敵を狩り尽くしていた。
 無事進路を拓けた事で、六人の顔に安堵が浮かぶ。
「本当に良いのか?」
 Jが小林に尋ねる。手紙や伝言を預からなくて良いのかと。小林は首を横に振る。
「お前達を見ていて分かった。誰かに強制され戦っている訳ではないのだと……それだけでも充分だ」
 そうして各々礼を言い合っていると、ふっと六人の姿が消えた。帰還したのだ、彼らが『今』在るべき場所へ。
 軍人二人は最敬礼で見届けると、歪虚のいない街を眺めた。あとはクラスタさえ殲滅すればいずれこの地に人々が戻り、再び都市を築く事だろう。
 二人は頷き合い、揃って車に乗り込んだ。

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MVP一覧

  • Commander
    柊 恭也ka0711
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJka6653

重体一覧

参加者一覧

  • Commander
    柊 恭也(ka0711
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • スライムの御遣い
    藤堂 小夏(ka5489
    人間(蒼)|23才|女性|闘狩人
  • キャスケット姐さん
    レム・フィバート(ka6552
    人間(紅)|17才|女性|格闘士
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
柊 恭也(ka0711
人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/05/21 10:12:55
アイコン 質問卓
柊 恭也(ka0711
人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/05/19 20:08:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/17 03:39:28