ゲスト
(ka0000)
【哀像】己のために、誰かのために
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2017/05/18 22:00
- 完成日
- 2017/06/01 20:54
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
僕たちは街の外へと逃げ出さなきゃいけない事になった。
いつ帰れるかわからない。
もしかしたら、街そのものが無くなるかも知れない。
もちろん、そうならないように軍の人たちが頑張ってくれるみたいだけど。
「新しい皇帝になって15年ぐらいになるのに、全然変わらないね」ってパン屋のおばちゃんが嘆いていた。
元々、ベルトルードは海沿いの街だから、海の恵みも、海の恐ろしさも両方を等しく受けていた。
危険なのはわかっていても船で荷を運んだり、漁をしたり。
海竜が暴れれば津波が起こることだってあった。
海は広くて、力強くて、怖くて、美しい。
僕は生まれてからずっとこの街しか知らないけれど、この街が好きだった。
多分、この街に住んでいるほとんどの人がそうだと思う。
だから、また歪虚が襲ってくると聞いた時にはみんなびっくりした。
どうにかして、それを止められないのかって大人たちはすごい勢いで軍の人たちに詰め寄ってた。
だけど、僕たちじゃ歪虚に勝てない。
僕たちがこの街に残ると、軍の人たちが戦う事だけに集中出来ない。
――だから、僕たちは街の外へと逃げ出すことを選んだ。
夜。
一番末っ子で甘えん坊のエイミーがけたたましく泣いた。
「チャーリーいないのー!! ちゃーりぃーーーーー!!」
チャーリーとはいつもエイミーが眠るときに抱いて眠っているブリキの人形だ。
避難生活の間は街のいろんな人たちと一緒に過ごすことになる。
エイミーの泣き声につられて、他の子ども達も泣き始めた。
初めての夜。
たくさんの大人に囲まれて不安定になっていた赤ちゃんたちが一斉に泣き始めて、それにイライラした男達が怒鳴り始める。
父さんも「うるさい」とエイミーを怒鳴り、母さんはエイミーを抱っこしてあやしているけど、エイミーはちっとも泣き止まないどころか、さらにその泣き声はヒートアップする。
どのお母さんも一生懸命赤ちゃんをあやすけれど、お母さんの不安な心を察したのか、赤ちゃん達はいっこうに眠ってくれる様子は無く。
僕は薄い毛布を頭から被り直して、その赤ちゃん達の大合唱の中、耳を塞いで朝までじっとしていた。
エイミーは頑固だった。
一晩中ぐずぐずと泣き続け、チャーリーだけを求め続けた。
他の人形で気を引こうとしても駄目で、ご飯を食べてもすぐにチャーリーを泣いて呼んだ。
目が涙でぐずぐずに腫れても、声が嗄れてきても、チャーリーを求めて泣き続けた。
もう陽が高くなった頃、ようやく泣き疲れて眠ってくれたけど、目が覚めたらまた泣き始めた。
周囲の大人はうんざりした顔で母さんを見て、母さんは申し訳なさそうに周囲に謝り続けた。
「ねぇ、トム」
「なに? ジェイ兄ちゃん」
おっとりとした弟はそんなエイミーのご機嫌取りにも飽きて、1人で石を蹴って遊んでいた。
「僕、ちょっと街まで戻ってチャーリーを取ってくるよ」
「えぇ? 街には大人がいいよって言うまで行っちゃダメなんだよ?」
「うん、でもエイミーをこのままにはしておけないだろ?」
「うーん。たしかに」
昨晩の大合唱。エイミーが全て悪いわけじゃ無いけど、エイミーの声は一際大きく僕たちには聞こえていた。
「チャーリーがいて、静かになってくれるならそれがいいだろ?」
「そりゃそうだけど、兄ちゃん、危なくないの?」
「大丈夫だよ。ここから街までなら街道を行くだけだからね。今から出たんじゃ今日中には無理だろうけど……明日の夜には間に合うように帰ってくるよ。だから、その間、母さんとエイミーをよろしくな」
くせっ毛のトムの頭をわしわしと撫でると、トムは僕の手を取って頷いた。
「わかった……じゃぁ、ジェイ兄ちゃん、僕もお願い事していい?」
「何?」
「僕のクローゼットの一番奥に、宝箱があるんだ」
トムは地面に四角い箱を書いて見せた。
「すぐ帰るから、置いて行きなさいってママが言ったから、置いてきたんだけど……」
「わかった、取ってくるよ」
「ホント! ありがとう、兄ちゃん」
その後すぐに僕はベルトルードに向かって走り出した。
夜になって僕の姿が見えないことに気付いた両親が大騒ぎしたらしいけど、それは僕の知らない話しだ。
●
「……始まったか」
港から聞こえる大砲の音にその場にいる全員の顔に緊張が走った。
「ゾンビ達が街に侵入しないよう、何としてもここを守り通すぞ!」
「「「はい!!」」」
師団員達は各々の得物を構え、街と港とを区切る石壁との間に作ったバリケード前にて盾を構えて待ち受け、この前後では同じように歪虚による被害を港だけで抑えるべくハンターが控えている。
一同は遠目からも見える巨神の姿と空を飛ぶ歪虚に油断無く視線を向けた。
「……生まれてこの方この街育ちを舐めんなよっと」
街をぐるりと囲うように作られたバリケードの隙間を縫って少年は街の中へと入り込んだ。
街を巡回する兵士を隠れてやり過ごし、自宅へと入ると、ブリキの人形を手にし、クローゼットの奥から手のひらほどの宝箱を手にした。
家を出たその時、カシャン、という硝子の割れる音に気付いて足を止める。
身を隠しながら、ガラス越しにそっと外を窺う。
裏手の雑貨屋の窓ガラスが割られている。
そっと外から様子を窺えば、街のならず者として名高い三兄弟が盗みを働いている。
恐らく彼らもこの少年と同じようにバリケードの隙間を抜けて来たのだろう。
(どうしよう……)
少年は迷った。
雑貨屋の女店主は穏やかな笑顔が印象的な心優しい人だった。
そんな人が不安を抱えて避難生活をしていて、帰って来た時に盗難に遭ったなんて知ったら悲しむだろうと思うと胸が痛んだ。
だが、自分が師団員を呼べば自分もまた勝手にこの街に帰ってきた者として怒られるかも知れない。
みんなの安眠の為にも夜までには避難先に帰って、妹にこのブリキの人形をわたさなければならない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……
後ろにじりりと下がった時、小石を踏みつけて尻餅を着いてしまった。
「いっ!」
慌てて声を抑えるがもう遅い。
静かにそして素早く扉が開いて、長い棒を片手に持ったリーダー格の長兄が音も無く飛びだしてくるとほぼ同時に少年は意識を手放した。
「……あれ?」
師団員とは別に街の中に歪虚が侵入してきていないかの巡回に出てきたハンター達は不自然に割れた窓を見つけ首を傾げた。
中を覗き込むが、これと言って変わった様子は見られない。
石か何かがぶつかって割れたのだろうか?
「こっちもだ」
仲間が手招きして似たような割れ方をした窓を指差す。
「……何かいるな」
激しい戦闘が始まった中、この街にまだ人がいるのなら早急に見つけ出し、避難させるなり保護するなりしなければ。
たとえそれが、こんな緊急時にコソドロを働くようなどうしようもない者だとしても。
人であるならば、守る事が使命だから。
僕たちは街の外へと逃げ出さなきゃいけない事になった。
いつ帰れるかわからない。
もしかしたら、街そのものが無くなるかも知れない。
もちろん、そうならないように軍の人たちが頑張ってくれるみたいだけど。
「新しい皇帝になって15年ぐらいになるのに、全然変わらないね」ってパン屋のおばちゃんが嘆いていた。
元々、ベルトルードは海沿いの街だから、海の恵みも、海の恐ろしさも両方を等しく受けていた。
危険なのはわかっていても船で荷を運んだり、漁をしたり。
海竜が暴れれば津波が起こることだってあった。
海は広くて、力強くて、怖くて、美しい。
僕は生まれてからずっとこの街しか知らないけれど、この街が好きだった。
多分、この街に住んでいるほとんどの人がそうだと思う。
だから、また歪虚が襲ってくると聞いた時にはみんなびっくりした。
どうにかして、それを止められないのかって大人たちはすごい勢いで軍の人たちに詰め寄ってた。
だけど、僕たちじゃ歪虚に勝てない。
僕たちがこの街に残ると、軍の人たちが戦う事だけに集中出来ない。
――だから、僕たちは街の外へと逃げ出すことを選んだ。
夜。
一番末っ子で甘えん坊のエイミーがけたたましく泣いた。
「チャーリーいないのー!! ちゃーりぃーーーーー!!」
チャーリーとはいつもエイミーが眠るときに抱いて眠っているブリキの人形だ。
避難生活の間は街のいろんな人たちと一緒に過ごすことになる。
エイミーの泣き声につられて、他の子ども達も泣き始めた。
初めての夜。
たくさんの大人に囲まれて不安定になっていた赤ちゃんたちが一斉に泣き始めて、それにイライラした男達が怒鳴り始める。
父さんも「うるさい」とエイミーを怒鳴り、母さんはエイミーを抱っこしてあやしているけど、エイミーはちっとも泣き止まないどころか、さらにその泣き声はヒートアップする。
どのお母さんも一生懸命赤ちゃんをあやすけれど、お母さんの不安な心を察したのか、赤ちゃん達はいっこうに眠ってくれる様子は無く。
僕は薄い毛布を頭から被り直して、その赤ちゃん達の大合唱の中、耳を塞いで朝までじっとしていた。
エイミーは頑固だった。
一晩中ぐずぐずと泣き続け、チャーリーだけを求め続けた。
他の人形で気を引こうとしても駄目で、ご飯を食べてもすぐにチャーリーを泣いて呼んだ。
目が涙でぐずぐずに腫れても、声が嗄れてきても、チャーリーを求めて泣き続けた。
もう陽が高くなった頃、ようやく泣き疲れて眠ってくれたけど、目が覚めたらまた泣き始めた。
周囲の大人はうんざりした顔で母さんを見て、母さんは申し訳なさそうに周囲に謝り続けた。
「ねぇ、トム」
「なに? ジェイ兄ちゃん」
おっとりとした弟はそんなエイミーのご機嫌取りにも飽きて、1人で石を蹴って遊んでいた。
「僕、ちょっと街まで戻ってチャーリーを取ってくるよ」
「えぇ? 街には大人がいいよって言うまで行っちゃダメなんだよ?」
「うん、でもエイミーをこのままにはしておけないだろ?」
「うーん。たしかに」
昨晩の大合唱。エイミーが全て悪いわけじゃ無いけど、エイミーの声は一際大きく僕たちには聞こえていた。
「チャーリーがいて、静かになってくれるならそれがいいだろ?」
「そりゃそうだけど、兄ちゃん、危なくないの?」
「大丈夫だよ。ここから街までなら街道を行くだけだからね。今から出たんじゃ今日中には無理だろうけど……明日の夜には間に合うように帰ってくるよ。だから、その間、母さんとエイミーをよろしくな」
くせっ毛のトムの頭をわしわしと撫でると、トムは僕の手を取って頷いた。
「わかった……じゃぁ、ジェイ兄ちゃん、僕もお願い事していい?」
「何?」
「僕のクローゼットの一番奥に、宝箱があるんだ」
トムは地面に四角い箱を書いて見せた。
「すぐ帰るから、置いて行きなさいってママが言ったから、置いてきたんだけど……」
「わかった、取ってくるよ」
「ホント! ありがとう、兄ちゃん」
その後すぐに僕はベルトルードに向かって走り出した。
夜になって僕の姿が見えないことに気付いた両親が大騒ぎしたらしいけど、それは僕の知らない話しだ。
●
「……始まったか」
港から聞こえる大砲の音にその場にいる全員の顔に緊張が走った。
「ゾンビ達が街に侵入しないよう、何としてもここを守り通すぞ!」
「「「はい!!」」」
師団員達は各々の得物を構え、街と港とを区切る石壁との間に作ったバリケード前にて盾を構えて待ち受け、この前後では同じように歪虚による被害を港だけで抑えるべくハンターが控えている。
一同は遠目からも見える巨神の姿と空を飛ぶ歪虚に油断無く視線を向けた。
「……生まれてこの方この街育ちを舐めんなよっと」
街をぐるりと囲うように作られたバリケードの隙間を縫って少年は街の中へと入り込んだ。
街を巡回する兵士を隠れてやり過ごし、自宅へと入ると、ブリキの人形を手にし、クローゼットの奥から手のひらほどの宝箱を手にした。
家を出たその時、カシャン、という硝子の割れる音に気付いて足を止める。
身を隠しながら、ガラス越しにそっと外を窺う。
裏手の雑貨屋の窓ガラスが割られている。
そっと外から様子を窺えば、街のならず者として名高い三兄弟が盗みを働いている。
恐らく彼らもこの少年と同じようにバリケードの隙間を抜けて来たのだろう。
(どうしよう……)
少年は迷った。
雑貨屋の女店主は穏やかな笑顔が印象的な心優しい人だった。
そんな人が不安を抱えて避難生活をしていて、帰って来た時に盗難に遭ったなんて知ったら悲しむだろうと思うと胸が痛んだ。
だが、自分が師団員を呼べば自分もまた勝手にこの街に帰ってきた者として怒られるかも知れない。
みんなの安眠の為にも夜までには避難先に帰って、妹にこのブリキの人形をわたさなければならない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……
後ろにじりりと下がった時、小石を踏みつけて尻餅を着いてしまった。
「いっ!」
慌てて声を抑えるがもう遅い。
静かにそして素早く扉が開いて、長い棒を片手に持ったリーダー格の長兄が音も無く飛びだしてくるとほぼ同時に少年は意識を手放した。
「……あれ?」
師団員とは別に街の中に歪虚が侵入してきていないかの巡回に出てきたハンター達は不自然に割れた窓を見つけ首を傾げた。
中を覗き込むが、これと言って変わった様子は見られない。
石か何かがぶつかって割れたのだろうか?
「こっちもだ」
仲間が手招きして似たような割れ方をした窓を指差す。
「……何かいるな」
激しい戦闘が始まった中、この街にまだ人がいるのなら早急に見つけ出し、避難させるなり保護するなりしなければ。
たとえそれが、こんな緊急時にコソドロを働くようなどうしようもない者だとしても。
人であるならば、守る事が使命だから。
リプレイ本文
●
銃撃の音が聞こえ始めた。
(2人とも、無事に帰って来て……街の人々は、ざくろがしっかりと護るから)
時音 ざくろ(ka1250)が音の方角を見て両手を組むと祈りを捧げる。
それを見て浅黄 小夜(ka3062)も両手を握り込むと視線を地面へと落とした。
(……アルゴス、倒すんは……お任せになってしもうたけど……)
剣機博士の研究所襲撃の際に重体を負った小夜は直接の戦闘に参加することが適わずここにいた。
「あ、ごめんね、小夜。待たせちゃった」
「え? いえ、大丈夫、です……」
ざくろの謝罪に小夜は首を振りながら答え、小さく握り拳を作る。
(………後ろでも、やれること……あるなら……やれることやろうってこれに志願したんやし、ちゃーんと、こなさんと)
顔を上げ、前を見る。傷が癒えた今、後ろの音が気にならないと言われたら嘘になる。だが、それ以上にこの巡回に集中しようと小夜は自分に言い聞かせた。
メンカル(ka5338)とオリガ・ローディン(ka6253)の出逢いは7年前に遡る。
まだ7歳だったオリガは住んでいた村を歪虚の襲撃で失い、各地を転々としていた時にメンカルに拾われ暫く世話を焼いて貰った縁がある。
「避難は完了しているか。……誰か見かけたらコソ泥どもだと思ってよさそうだな」
「あそこも……こんな風になってれば……きっと……」
メンカルの声に応えるとも無くオリガが呟く。
「どうした?」
その言葉を聞き取り損ねて問うたが、オリガは静かに首を横に振った。
「……なんでもない……」
「……そうか。お前から話し出すのは珍しいが」
暫しオリガから言葉が出るのを待つようなメンカルの態度に、オリガは少しだけ目元を和らげた。
「ザウラクは……昔から……変わらない……」
ザウラクとはメンカルのファーストネームだ。メンカル自身が呼ばれるのを拒み伏せているため、限られた人間しか知らない名前だった。
「…………。そろそろお喋りは止めだ。行くぞ」
名を呼ばれた事が不快だった、という訳では無いだろうが、メンカルはオリガに背を向けて歩き出す。
オリガはその背を見て、少し歩調を早めて後を追う。
最初に異変に気付いたのは鳳城 錬介(ka6053)だった。
囁くように短伝話でざくろとメンカルに連絡をつけ、現場まで来てもらう。
「火事場泥棒とは、また随分見下げ果てた行動をするねー……」
その間ヴィリー・シュトラウス(ka6706)は他に異常がないか静かに耳をそばだてながら確認していた。
「こんな時に……いや、こんな時だからこそか。全く……」
駆けつけたメンカルが呆れるやら腹が立つやらといった表情で嘆く。
「……港では皆を守る為の激しい戦いが行われ、街の外では吉報を待つ人々が不安と戦っているこの日に……泥棒ですか。良い度胸ですね」
メンカルの言葉に大きく頷き同意しながら、普段は笑みを絶やさない錬介もこの時ばかりは目が笑っていない。
「……まぁこういう事も想定の内ですし、歪虚でなくて良かった……いや、実際確認するまでは分かりませんか」
錬介は努めて冷静に視野を広く保とうとする。
「気を引き締めて探すとしましょう。本当にただの泥棒であっても油断して逃がしたでは笑えませんし」
錬介の言葉に5人は頷くと、同じようにガラスの割れた家を中心に三班で区域外側を囲み、弧を描くように内側へと範囲を狭めるローラー作戦を実行することとした。
●
錬介は鋭敏視覚を宿した瞳で、割れたガラスの室内の様子をそっと窺う。
ヴィリーもまた音を立てないよう、壁を背に内部を窺う。
2人が入ったのは酒屋だった。
そっと扉を開ければ真新しい酒の匂いが鼻をつく。
緊急避難だったため、慌てて高価な酒瓶や酒樽を持ち出した跡……と見えなくも無いが、それにしても荒れた店内に錬介とヴァリーは顔を見合わせた。
匂いの原因だろう、まだ開けたばかりの酒瓶が転がっているのを見て、2人はその情報を他2班へも入れると次へと移動した。
メンカルとオリガが入ったのは乾物屋だった。
港町だけあって、様々な干物や昆布などが売られている店……のようだった。
オブジェなのかそれとも売り物なのか。3枚ほど昆布が天井から吊され、普段なら煮干しなども瓶の中に詰められているのだろうが、それごと避難したようだ。
「ザウラク」
オリガが小さく呼んで、メンカルは声の方へ寄る。
カウンターの裏に売り上げなどを入れておくためだろうか、小さな金庫があるがその金庫をこじ開けた跡があった。
中身は当然空だが、これは盗まれたからなのか、それとも避難の時に持ち出したからなのかはわからない。
メンカルがこの情報を他の2班に入れると次へと移動した。
ざくろは足跡が残っていないかと地面をじぃと見つめるが、残念ながらここ最近は天気が良く、目に見えて足跡があるような様子は無い。
だが小夜と共に入った雑貨屋の中、ざくろの狛犬がふわふわの尻尾を揺らしながら奥の家屋側へと走って行く。
「何かあるのかも!」
地下収納と思われる床に設けられた扉の前で狛犬が床を掘るような仕草をしてみせる。
小夜がいつでもスリープクラウドを放てるよう杖を構え、ざくろが口パクで「3、2、1」とカウントダウンをすると扉を開けた。
そこには気を失っている10歳ぐらいの少年が転がされていた。
小夜が水瓶から水を拝借して、少年の後頭部にあったたんこぶをタオルで冷やす。
「うん、そう。男の子がいて……あ、気がついたみたいだから、また連絡するね」
ざくろが魔導伝話で連絡を入れていると、少年が目を覚ました。
「どうかな? 気持ちが悪いとかないかな?」
ざくろが優しく問いかけると少年は吃驚したように目を剥いて、その後何かに気付いたように自分の身体を触り何かを探している。
「……どうかしたん?」
小夜が問いかけると、少年が泣きそうな顔で小夜に訴える。
「鞄がない……」
「鞄?」
念のためにざくろが少年を発見した床下収納を見るが、鞄は見つからない。
「……あいつらに取られたんだ」
「あいつら?」
小夜が問うと、少年は自分を襲った3兄弟について2人に伝えたのだった。
●
その酒場は窓という窓に日よけにカーテンが引かれ、外から中を窺うことは出来ないようになっていた。
だが、割れたガラス、その窓の桟には僅かに乾いた土が付いているのを錬介は見つけると他2班に連絡を入れた。
「この子の話だと、多分中に居るのはこの界隈で有名な三兄弟。ケチなチンピラ紛いみたいだけど、一般人だから手加減しようね」
「下手に外に出られて地の利を活かして逃げられてもつまらない。中にいるうちに捕まえよう」
メンカルの言葉に5人は頷き簡単な打ち合わせの後、解散となった。
メンカルは傍に合った樹を登り、窓の桟に指先を引っかけて飛び移ると雨樋に手を掛け、レンガの僅かなくぼみに爪先をかけ屋根へと登っていく。
流石、疾影士。と見守る仲間が感心する中、実は途中、木の枝がミシリと妖しい音を立てたり、雨樋がベゴッという音を立てたり、屋根の端が足を置いたらちょっと崩れたりしたのは抜群に秘密だ。
錬介とヴィリーが正面出入口へ。ざくろと小夜が裏口へ。オリガは割れた窓周辺に隠れ、万が一出入口以外から飛び出してきたときに備えた。
正面と裏口、合図を出し合って同時にこっそりと中へと入ろうとして……鍵が掛かっていることに気付いて錬介とヴィリー、ざくろと小夜は顔を見合わせた。
「そりゃそうですよね……」
ヴィリーが苦笑しながら頬を掻く。今まで見回ってきた店の玄関が空いていたのはこの3人が出て行った後だったからで、中にいる間は鍵をかけていたのだとようやく気付いたのだ。
誰も解錠道具を持ってきていなかったため、一番小柄なオリガが割れた窓をそっと開けて中へと侵入し、中から正面の扉を開けることとなった。
静かに窓を開け、窓の桟に足をかけると硝子の破片を踏まないように気を付けながら静かに床に降りた。
ギィ、と床が鳴り、オリガの心臓が跳ねる。
奥の部屋……厨房だろうか。そちらからする気配に変わりはない事に胸を撫で下ろしながら、オリガは足音を立てないように慎重に玄関へと回ると、静かに鍵を外してゆっくりと扉を開けた。
――カランコロン♪
「っ!?」
驚いて頭上を見上げれば、ドアベルが軽やかな音を立てて揺れている。
奥から足音がして、「やべぇ! 人だ!」という声と、裏口側へ走る音がする。
錬介と神罰銃を構えたヴィリーが大きく扉を開けて中へ入ると「待て!」と声を掛けながら店内を駆け抜ける。
「どわぁっ!」という声に「ちくしょう!」という声が被さり、オリガが奥へ向かおうとすると、奥から帰ってきた太ましい青年とばったり出会した。
「どけっ!」
恐らく、小柄な少女1人ぐらい、自分1人で押し退けられると思ったのだろう。
自分に向かって延ばされたその手首を取ると、オリガは自分の3倍は体重があろうという青年を軽々と投げ飛ばしたのだった。
結局どういうことになったのかと言えば。
裏口は小夜のアースウォールで予め塞ぎ、結果扉を開けて外へと飛び出そうとした長男は額を激突させ昏倒。
三男はヴィリーの神罰銃を見て足を止めたところを錬介の容赦無い一撃で昏倒。
次男はオリガに投げ飛ばされて昏倒。
……と、見事に店内で3人の捕縛に成功したのだった。
●
「これでいいのかな?」
ヴィリーが厨房に落ちていた鞄を少年に見せると少年は大きく頷いて受け取り、慌てて中を確認する。
「……宝箱が無い」
「……宝箱?」
オリガが問うと、少年は両の手のひらほどのサイズの宝箱が消えているという。
再度厨房に入って確認すると、その宝箱と思しき木箱がゴミ箱に突っ込まれているのをメンカルが見つけ、綺麗に拭いた後に少年へと手渡した。
「酷いことをするなぁ」
ざくろが頬を膨らませ三兄弟を睨み、小夜は首を傾げ、少年の手の中にある宝箱を見た。
「……何が、入っとったん?」
聞いてもいいのかな、と思いつつも小夜が問うと、少年は少し笑って宝箱を開けた。
「弟のなんだ。別にお金になる物が入っていた訳じゃ無いから捨てられたんだろうな」
中から出てきたのは綺麗な貝殻や不思議な形のつるりとした石など。海岸沿いで拾ったと思われる弟の“宝物”が収められていた。
「……きれい」
オリガもその素朴な宝物に目を細めた。
「……で、だ。この少年……ジェイだったか、をどうするか、だ」
メンカルの言葉にびくりと少年は震えた。
少年の事情は本人の口から6人に説明されていた。
どこから入ってきたのかも、弟妹の宝物を手にしたらすぐに町から出て行くつもりだったことも。
「待って。弟妹思いのいいお兄ちゃんなんだ、だから……」
ざくろが庇いに入ると「わかっている」とメンカル。
「……下の兄弟の我儘を叶えるのも兄の務めだな。だが、親に心配をかけるんじゃない」
ふぅ。とわざとらしい大きな溜息の後にメンカルは口角を上げた。
「俺も『お兄ちゃん』だからな。褒められた事じゃないが、気持ちは解る」
「じゃぁ……!」
表情を明るくするざくろに、メンカルはわざと渋面を作って、その後両肩を竦めて見せる。
「……叱るのは俺達の役目じゃない。帰ってたっぷり叱って貰え」
きょとん、とした少年にヴィリーがやんわりと微笑みを向ける。
「小さい子達が心配してるよ。早く戻ってあげなさい」
「ご両親も心配しているだろうしね。あまり心配掛けてはいけないよ」
「……帰って良いの?」
ヴィリーと錬介の言葉に信じられない、というように目を見張る少年に、ヴィリーは人差し指を立てて1つだけ、と告げる。
「――ああ、それと。咄嗟の行動は、必ずしも正しいとは限らない。今回は、君が捕まった。どういうことかは戻ってから考えてみてくれ」
「何が起きるか……判らないところに行くのは……命を差し出す……覚悟が出来てから……」
ヴィリーの言葉に続くようにオリガが告げ、少年は神妙な顔でそれを聞いて、深く頷いた。
メンカルとオリガ、錬介とヴィリーが三兄弟を師団員に引き渡している間に、ざくろと小夜は少年の見送りに来ていた。
「迷惑をかけてごめんなさい。助けてくれて、ありがとうございました」
バリケードの前で頭を下げる少年に、ざくろと小夜が柔らかく微笑む。
「一緒には行ってあげられないけど……気を付けて帰るんだよ?」
「うん」
小柄な身体をバリケードの隙間に器用に潜り込ませて少年は町の外へと出た。
「ありがとー! おねーちゃんたちも気を付けてね-!!」
手を振って走り出した少年の言葉に、ざくろはひっくり返った。
「……ざくろ、男!」
そんなやりとりを見て小夜は思わず声を上げて笑って、走り去る背中に手を振ったのだった。
背後ではまだ派手な戦闘音が響いている。
「……みんな、無事で」
何度でも仲間の無事を祈る。
祈りながら、6人は再び巡回を再開したのだった。
銃撃の音が聞こえ始めた。
(2人とも、無事に帰って来て……街の人々は、ざくろがしっかりと護るから)
時音 ざくろ(ka1250)が音の方角を見て両手を組むと祈りを捧げる。
それを見て浅黄 小夜(ka3062)も両手を握り込むと視線を地面へと落とした。
(……アルゴス、倒すんは……お任せになってしもうたけど……)
剣機博士の研究所襲撃の際に重体を負った小夜は直接の戦闘に参加することが適わずここにいた。
「あ、ごめんね、小夜。待たせちゃった」
「え? いえ、大丈夫、です……」
ざくろの謝罪に小夜は首を振りながら答え、小さく握り拳を作る。
(………後ろでも、やれること……あるなら……やれることやろうってこれに志願したんやし、ちゃーんと、こなさんと)
顔を上げ、前を見る。傷が癒えた今、後ろの音が気にならないと言われたら嘘になる。だが、それ以上にこの巡回に集中しようと小夜は自分に言い聞かせた。
メンカル(ka5338)とオリガ・ローディン(ka6253)の出逢いは7年前に遡る。
まだ7歳だったオリガは住んでいた村を歪虚の襲撃で失い、各地を転々としていた時にメンカルに拾われ暫く世話を焼いて貰った縁がある。
「避難は完了しているか。……誰か見かけたらコソ泥どもだと思ってよさそうだな」
「あそこも……こんな風になってれば……きっと……」
メンカルの声に応えるとも無くオリガが呟く。
「どうした?」
その言葉を聞き取り損ねて問うたが、オリガは静かに首を横に振った。
「……なんでもない……」
「……そうか。お前から話し出すのは珍しいが」
暫しオリガから言葉が出るのを待つようなメンカルの態度に、オリガは少しだけ目元を和らげた。
「ザウラクは……昔から……変わらない……」
ザウラクとはメンカルのファーストネームだ。メンカル自身が呼ばれるのを拒み伏せているため、限られた人間しか知らない名前だった。
「…………。そろそろお喋りは止めだ。行くぞ」
名を呼ばれた事が不快だった、という訳では無いだろうが、メンカルはオリガに背を向けて歩き出す。
オリガはその背を見て、少し歩調を早めて後を追う。
最初に異変に気付いたのは鳳城 錬介(ka6053)だった。
囁くように短伝話でざくろとメンカルに連絡をつけ、現場まで来てもらう。
「火事場泥棒とは、また随分見下げ果てた行動をするねー……」
その間ヴィリー・シュトラウス(ka6706)は他に異常がないか静かに耳をそばだてながら確認していた。
「こんな時に……いや、こんな時だからこそか。全く……」
駆けつけたメンカルが呆れるやら腹が立つやらといった表情で嘆く。
「……港では皆を守る為の激しい戦いが行われ、街の外では吉報を待つ人々が不安と戦っているこの日に……泥棒ですか。良い度胸ですね」
メンカルの言葉に大きく頷き同意しながら、普段は笑みを絶やさない錬介もこの時ばかりは目が笑っていない。
「……まぁこういう事も想定の内ですし、歪虚でなくて良かった……いや、実際確認するまでは分かりませんか」
錬介は努めて冷静に視野を広く保とうとする。
「気を引き締めて探すとしましょう。本当にただの泥棒であっても油断して逃がしたでは笑えませんし」
錬介の言葉に5人は頷くと、同じようにガラスの割れた家を中心に三班で区域外側を囲み、弧を描くように内側へと範囲を狭めるローラー作戦を実行することとした。
●
錬介は鋭敏視覚を宿した瞳で、割れたガラスの室内の様子をそっと窺う。
ヴィリーもまた音を立てないよう、壁を背に内部を窺う。
2人が入ったのは酒屋だった。
そっと扉を開ければ真新しい酒の匂いが鼻をつく。
緊急避難だったため、慌てて高価な酒瓶や酒樽を持ち出した跡……と見えなくも無いが、それにしても荒れた店内に錬介とヴァリーは顔を見合わせた。
匂いの原因だろう、まだ開けたばかりの酒瓶が転がっているのを見て、2人はその情報を他2班へも入れると次へと移動した。
メンカルとオリガが入ったのは乾物屋だった。
港町だけあって、様々な干物や昆布などが売られている店……のようだった。
オブジェなのかそれとも売り物なのか。3枚ほど昆布が天井から吊され、普段なら煮干しなども瓶の中に詰められているのだろうが、それごと避難したようだ。
「ザウラク」
オリガが小さく呼んで、メンカルは声の方へ寄る。
カウンターの裏に売り上げなどを入れておくためだろうか、小さな金庫があるがその金庫をこじ開けた跡があった。
中身は当然空だが、これは盗まれたからなのか、それとも避難の時に持ち出したからなのかはわからない。
メンカルがこの情報を他の2班に入れると次へと移動した。
ざくろは足跡が残っていないかと地面をじぃと見つめるが、残念ながらここ最近は天気が良く、目に見えて足跡があるような様子は無い。
だが小夜と共に入った雑貨屋の中、ざくろの狛犬がふわふわの尻尾を揺らしながら奥の家屋側へと走って行く。
「何かあるのかも!」
地下収納と思われる床に設けられた扉の前で狛犬が床を掘るような仕草をしてみせる。
小夜がいつでもスリープクラウドを放てるよう杖を構え、ざくろが口パクで「3、2、1」とカウントダウンをすると扉を開けた。
そこには気を失っている10歳ぐらいの少年が転がされていた。
小夜が水瓶から水を拝借して、少年の後頭部にあったたんこぶをタオルで冷やす。
「うん、そう。男の子がいて……あ、気がついたみたいだから、また連絡するね」
ざくろが魔導伝話で連絡を入れていると、少年が目を覚ました。
「どうかな? 気持ちが悪いとかないかな?」
ざくろが優しく問いかけると少年は吃驚したように目を剥いて、その後何かに気付いたように自分の身体を触り何かを探している。
「……どうかしたん?」
小夜が問いかけると、少年が泣きそうな顔で小夜に訴える。
「鞄がない……」
「鞄?」
念のためにざくろが少年を発見した床下収納を見るが、鞄は見つからない。
「……あいつらに取られたんだ」
「あいつら?」
小夜が問うと、少年は自分を襲った3兄弟について2人に伝えたのだった。
●
その酒場は窓という窓に日よけにカーテンが引かれ、外から中を窺うことは出来ないようになっていた。
だが、割れたガラス、その窓の桟には僅かに乾いた土が付いているのを錬介は見つけると他2班に連絡を入れた。
「この子の話だと、多分中に居るのはこの界隈で有名な三兄弟。ケチなチンピラ紛いみたいだけど、一般人だから手加減しようね」
「下手に外に出られて地の利を活かして逃げられてもつまらない。中にいるうちに捕まえよう」
メンカルの言葉に5人は頷き簡単な打ち合わせの後、解散となった。
メンカルは傍に合った樹を登り、窓の桟に指先を引っかけて飛び移ると雨樋に手を掛け、レンガの僅かなくぼみに爪先をかけ屋根へと登っていく。
流石、疾影士。と見守る仲間が感心する中、実は途中、木の枝がミシリと妖しい音を立てたり、雨樋がベゴッという音を立てたり、屋根の端が足を置いたらちょっと崩れたりしたのは抜群に秘密だ。
錬介とヴィリーが正面出入口へ。ざくろと小夜が裏口へ。オリガは割れた窓周辺に隠れ、万が一出入口以外から飛び出してきたときに備えた。
正面と裏口、合図を出し合って同時にこっそりと中へと入ろうとして……鍵が掛かっていることに気付いて錬介とヴィリー、ざくろと小夜は顔を見合わせた。
「そりゃそうですよね……」
ヴィリーが苦笑しながら頬を掻く。今まで見回ってきた店の玄関が空いていたのはこの3人が出て行った後だったからで、中にいる間は鍵をかけていたのだとようやく気付いたのだ。
誰も解錠道具を持ってきていなかったため、一番小柄なオリガが割れた窓をそっと開けて中へと侵入し、中から正面の扉を開けることとなった。
静かに窓を開け、窓の桟に足をかけると硝子の破片を踏まないように気を付けながら静かに床に降りた。
ギィ、と床が鳴り、オリガの心臓が跳ねる。
奥の部屋……厨房だろうか。そちらからする気配に変わりはない事に胸を撫で下ろしながら、オリガは足音を立てないように慎重に玄関へと回ると、静かに鍵を外してゆっくりと扉を開けた。
――カランコロン♪
「っ!?」
驚いて頭上を見上げれば、ドアベルが軽やかな音を立てて揺れている。
奥から足音がして、「やべぇ! 人だ!」という声と、裏口側へ走る音がする。
錬介と神罰銃を構えたヴィリーが大きく扉を開けて中へ入ると「待て!」と声を掛けながら店内を駆け抜ける。
「どわぁっ!」という声に「ちくしょう!」という声が被さり、オリガが奥へ向かおうとすると、奥から帰ってきた太ましい青年とばったり出会した。
「どけっ!」
恐らく、小柄な少女1人ぐらい、自分1人で押し退けられると思ったのだろう。
自分に向かって延ばされたその手首を取ると、オリガは自分の3倍は体重があろうという青年を軽々と投げ飛ばしたのだった。
結局どういうことになったのかと言えば。
裏口は小夜のアースウォールで予め塞ぎ、結果扉を開けて外へと飛び出そうとした長男は額を激突させ昏倒。
三男はヴィリーの神罰銃を見て足を止めたところを錬介の容赦無い一撃で昏倒。
次男はオリガに投げ飛ばされて昏倒。
……と、見事に店内で3人の捕縛に成功したのだった。
●
「これでいいのかな?」
ヴィリーが厨房に落ちていた鞄を少年に見せると少年は大きく頷いて受け取り、慌てて中を確認する。
「……宝箱が無い」
「……宝箱?」
オリガが問うと、少年は両の手のひらほどのサイズの宝箱が消えているという。
再度厨房に入って確認すると、その宝箱と思しき木箱がゴミ箱に突っ込まれているのをメンカルが見つけ、綺麗に拭いた後に少年へと手渡した。
「酷いことをするなぁ」
ざくろが頬を膨らませ三兄弟を睨み、小夜は首を傾げ、少年の手の中にある宝箱を見た。
「……何が、入っとったん?」
聞いてもいいのかな、と思いつつも小夜が問うと、少年は少し笑って宝箱を開けた。
「弟のなんだ。別にお金になる物が入っていた訳じゃ無いから捨てられたんだろうな」
中から出てきたのは綺麗な貝殻や不思議な形のつるりとした石など。海岸沿いで拾ったと思われる弟の“宝物”が収められていた。
「……きれい」
オリガもその素朴な宝物に目を細めた。
「……で、だ。この少年……ジェイだったか、をどうするか、だ」
メンカルの言葉にびくりと少年は震えた。
少年の事情は本人の口から6人に説明されていた。
どこから入ってきたのかも、弟妹の宝物を手にしたらすぐに町から出て行くつもりだったことも。
「待って。弟妹思いのいいお兄ちゃんなんだ、だから……」
ざくろが庇いに入ると「わかっている」とメンカル。
「……下の兄弟の我儘を叶えるのも兄の務めだな。だが、親に心配をかけるんじゃない」
ふぅ。とわざとらしい大きな溜息の後にメンカルは口角を上げた。
「俺も『お兄ちゃん』だからな。褒められた事じゃないが、気持ちは解る」
「じゃぁ……!」
表情を明るくするざくろに、メンカルはわざと渋面を作って、その後両肩を竦めて見せる。
「……叱るのは俺達の役目じゃない。帰ってたっぷり叱って貰え」
きょとん、とした少年にヴィリーがやんわりと微笑みを向ける。
「小さい子達が心配してるよ。早く戻ってあげなさい」
「ご両親も心配しているだろうしね。あまり心配掛けてはいけないよ」
「……帰って良いの?」
ヴィリーと錬介の言葉に信じられない、というように目を見張る少年に、ヴィリーは人差し指を立てて1つだけ、と告げる。
「――ああ、それと。咄嗟の行動は、必ずしも正しいとは限らない。今回は、君が捕まった。どういうことかは戻ってから考えてみてくれ」
「何が起きるか……判らないところに行くのは……命を差し出す……覚悟が出来てから……」
ヴィリーの言葉に続くようにオリガが告げ、少年は神妙な顔でそれを聞いて、深く頷いた。
メンカルとオリガ、錬介とヴィリーが三兄弟を師団員に引き渡している間に、ざくろと小夜は少年の見送りに来ていた。
「迷惑をかけてごめんなさい。助けてくれて、ありがとうございました」
バリケードの前で頭を下げる少年に、ざくろと小夜が柔らかく微笑む。
「一緒には行ってあげられないけど……気を付けて帰るんだよ?」
「うん」
小柄な身体をバリケードの隙間に器用に潜り込ませて少年は町の外へと出た。
「ありがとー! おねーちゃんたちも気を付けてね-!!」
手を振って走り出した少年の言葉に、ざくろはひっくり返った。
「……ざくろ、男!」
そんなやりとりを見て小夜は思わず声を上げて笑って、走り去る背中に手を振ったのだった。
背後ではまだ派手な戦闘音が響いている。
「……みんな、無事で」
何度でも仲間の無事を祈る。
祈りながら、6人は再び巡回を再開したのだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/17 01:12:47 |
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三兄弟を締め上げる オリガ・ローディン(ka6253) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/05/17 22:27:56 |