ゲスト
(ka0000)
エレクトリック・ヘッドバット
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/28 09:00
- 完成日
- 2014/11/01 23:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
準備は整った。魔術師は興奮した面持ちで、弟子を見やる。
「スイッチを入れるぞ。最後にもう一度、拘束具を確認してくれ」
床に固定された頑丈な椅子に、革のベルトで括りつけられた検体――『元』ホブゴブリン。
頭部は切断され、代わりに薄黄色い液体の詰まった透明なガラス球へ置き換えられている。
弟子は検体の太い手足を縛るベルトを引っ張って、拘束が万全であることを確かめた。
今より、この首なしのホブゴブリンに新たな生命が吹き込まれる。
魔術師は、自然界における精霊発生のメカニズムを調べるべく、この実験を準備してきた。
検体の頭部に当たるガラス球の中身は、ホブゴブリンの脳髄を潰して脳漿と混ぜ合わせたものを漉し取り、
更にそこへ塩水と薬品を加えた、魔術師曰く『生命の水』である。
ガラス球に差し込まれた数本の金属端子は、ケーブルで特製の魔法装置と繋がれている。
ひとたび装置のスイッチを入れれば、
鉱物性マテリアルから抽出されたエネルギーがケーブルを伝い、ガラス球の中身へ注ぎ込まれる。
マテリアルを充填された液体は、その中に含まれた脳髄から生前のホブゴブリンの記憶・生理を復活させ、
本当に彼の新しい頭として機能し始める――というのが魔術師の仮説だった。
ホブゴブリン本来の内在マテリアルではとても精霊化は見込めないが、外から補填してやればどうだろう。
更に肉体の欠損、それも『魂』に深く関わるであろう脳という重要部分が不完全な状態にあれば、
マテリアルによってその欠損をひとりでに補おうとする作用が生じるかも知れない。
完全な空無から、いきなりマテリアルのみで人工的に精霊のような自律的存在を作るのはとても無理だ。
しかし、死体から段階を経て、少しずつ肉体を離れていけば――
異端の魔術師は期待を込めた眼差しで検体を振り返ると、
拘束具を確認し終えた弟子が準備完了の合図を送るや否や、装置のスイッチを捻った。
●
狭い室内を凄まじい電光が駆け巡る。装置の故障、と弟子は咄嗟に考えた。
しかし、それらの電光は装置ではなく椅子に座ったホブゴブリンの、あのガラス球の頭部から発せられていた。
弟子は慌てて検体から飛び退く。一方、装置に向き直ってスイッチを切ろうとする魔術師の背中を稲妻が撃つ。
上着に着火した魔術師は半狂乱で装置から離れ、床に倒れた。
駆け寄って火を叩き消す弟子。その間もガラス球からの放電は止まず、
更なる電撃に手足を縛る革ベルトを焼き切られ解放された検体が、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
自らの創造主たちへ向かって、歩を進める検体。
装置と頭部を繋ぐケーブルが引っ張られて外れると、放電も収まった。
しかし今や、未知なる意思に支配されたホブゴブリンの肉体自体が新たな脅威であった。
明らかな攻撃の意図を以て拳を振り上げる検体を見るや、
弟子は苦痛に呻く魔術師をどうにか引きずって、その場から逃れた。
暴走した検体は、痙攣するようなぎこちない歩みでふたりを追う。
あるいは実験が成功したのか――弟子は思う。生前のホブゴブリンなら成る程、自分たちを攻撃しただろう。
それを予測しての拘束具でもあったのだが、魔法装置に金がかかり過ぎて二級品を使ったのが悪かった。
よろめき歩く検体の周囲に、白く輝く雷球がいくつも現れる。
検体が身振りをすると、雷球たちは魔術師と弟子目がけて飛んでいった。
どうやら実験の副作用か何かで、魔法まで身につけてしまったらしい。
弟子はほうほうの体で家から逃げ出すと、負傷した魔術師を近所の教会へ放り込んだ。
次いで彼は呆れ顔の司祭に対し、医者とハンターの手配を求める。
●
「とある魔術師の実験によって作成された魔法生物が、市街地で暴走している、との報告がありました。
魔術師は、魔術師協会が認可していない実験、自称『人工精霊生成術』に手を染め、
検体に頭部の欠損したホブゴブリンの死体1体を使用したのですが、これが実験中に暴走。
慌てて逃げ出した魔術師と弟子を追って、屋外へと脱出しました。
現在、検体は実験室のあった魔術師の自宅周辺を徘徊し、近づく者を魔法で無差別に攻撃しています。
魔術師協会に問い合わせたところ、近似した儀式魔術は過去に数度試みられたことがあるそうですが、
いずれも死体の蘇生や精霊の人工的生成には失敗したそうです。
今回のケースでは、死体に注ぎ込まれたマテリアルの量や質、
供給方法の工夫によって『蘇生』に成功したようですが、有識者の意見によれば、
問題のホブゴブリンは精霊とは何ら関係のない魔法生物に過ぎず、
かつ魔法生物作成の手順としても不完全な為、術者がコントロール出来る可能性もなく、
また、放置すればいずれマテリアルバランスの欠如により雑魔化するであろう、とのことです。
近隣住民の避難は既に完了し、一帯へ続く街路は封鎖されていますが、
検体自身の危険性のみならず、彼が不完全な魔法を多用することによって、
周囲に魔法公害が広がる恐れもあり、速やかな駆除が求められています。
この依頼を受けられるハンターの方は、所定の書類にサインの後、準備を終え次第現地に集合して下さい」
準備は整った。魔術師は興奮した面持ちで、弟子を見やる。
「スイッチを入れるぞ。最後にもう一度、拘束具を確認してくれ」
床に固定された頑丈な椅子に、革のベルトで括りつけられた検体――『元』ホブゴブリン。
頭部は切断され、代わりに薄黄色い液体の詰まった透明なガラス球へ置き換えられている。
弟子は検体の太い手足を縛るベルトを引っ張って、拘束が万全であることを確かめた。
今より、この首なしのホブゴブリンに新たな生命が吹き込まれる。
魔術師は、自然界における精霊発生のメカニズムを調べるべく、この実験を準備してきた。
検体の頭部に当たるガラス球の中身は、ホブゴブリンの脳髄を潰して脳漿と混ぜ合わせたものを漉し取り、
更にそこへ塩水と薬品を加えた、魔術師曰く『生命の水』である。
ガラス球に差し込まれた数本の金属端子は、ケーブルで特製の魔法装置と繋がれている。
ひとたび装置のスイッチを入れれば、
鉱物性マテリアルから抽出されたエネルギーがケーブルを伝い、ガラス球の中身へ注ぎ込まれる。
マテリアルを充填された液体は、その中に含まれた脳髄から生前のホブゴブリンの記憶・生理を復活させ、
本当に彼の新しい頭として機能し始める――というのが魔術師の仮説だった。
ホブゴブリン本来の内在マテリアルではとても精霊化は見込めないが、外から補填してやればどうだろう。
更に肉体の欠損、それも『魂』に深く関わるであろう脳という重要部分が不完全な状態にあれば、
マテリアルによってその欠損をひとりでに補おうとする作用が生じるかも知れない。
完全な空無から、いきなりマテリアルのみで人工的に精霊のような自律的存在を作るのはとても無理だ。
しかし、死体から段階を経て、少しずつ肉体を離れていけば――
異端の魔術師は期待を込めた眼差しで検体を振り返ると、
拘束具を確認し終えた弟子が準備完了の合図を送るや否や、装置のスイッチを捻った。
●
狭い室内を凄まじい電光が駆け巡る。装置の故障、と弟子は咄嗟に考えた。
しかし、それらの電光は装置ではなく椅子に座ったホブゴブリンの、あのガラス球の頭部から発せられていた。
弟子は慌てて検体から飛び退く。一方、装置に向き直ってスイッチを切ろうとする魔術師の背中を稲妻が撃つ。
上着に着火した魔術師は半狂乱で装置から離れ、床に倒れた。
駆け寄って火を叩き消す弟子。その間もガラス球からの放電は止まず、
更なる電撃に手足を縛る革ベルトを焼き切られ解放された検体が、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
自らの創造主たちへ向かって、歩を進める検体。
装置と頭部を繋ぐケーブルが引っ張られて外れると、放電も収まった。
しかし今や、未知なる意思に支配されたホブゴブリンの肉体自体が新たな脅威であった。
明らかな攻撃の意図を以て拳を振り上げる検体を見るや、
弟子は苦痛に呻く魔術師をどうにか引きずって、その場から逃れた。
暴走した検体は、痙攣するようなぎこちない歩みでふたりを追う。
あるいは実験が成功したのか――弟子は思う。生前のホブゴブリンなら成る程、自分たちを攻撃しただろう。
それを予測しての拘束具でもあったのだが、魔法装置に金がかかり過ぎて二級品を使ったのが悪かった。
よろめき歩く検体の周囲に、白く輝く雷球がいくつも現れる。
検体が身振りをすると、雷球たちは魔術師と弟子目がけて飛んでいった。
どうやら実験の副作用か何かで、魔法まで身につけてしまったらしい。
弟子はほうほうの体で家から逃げ出すと、負傷した魔術師を近所の教会へ放り込んだ。
次いで彼は呆れ顔の司祭に対し、医者とハンターの手配を求める。
●
「とある魔術師の実験によって作成された魔法生物が、市街地で暴走している、との報告がありました。
魔術師は、魔術師協会が認可していない実験、自称『人工精霊生成術』に手を染め、
検体に頭部の欠損したホブゴブリンの死体1体を使用したのですが、これが実験中に暴走。
慌てて逃げ出した魔術師と弟子を追って、屋外へと脱出しました。
現在、検体は実験室のあった魔術師の自宅周辺を徘徊し、近づく者を魔法で無差別に攻撃しています。
魔術師協会に問い合わせたところ、近似した儀式魔術は過去に数度試みられたことがあるそうですが、
いずれも死体の蘇生や精霊の人工的生成には失敗したそうです。
今回のケースでは、死体に注ぎ込まれたマテリアルの量や質、
供給方法の工夫によって『蘇生』に成功したようですが、有識者の意見によれば、
問題のホブゴブリンは精霊とは何ら関係のない魔法生物に過ぎず、
かつ魔法生物作成の手順としても不完全な為、術者がコントロール出来る可能性もなく、
また、放置すればいずれマテリアルバランスの欠如により雑魔化するであろう、とのことです。
近隣住民の避難は既に完了し、一帯へ続く街路は封鎖されていますが、
検体自身の危険性のみならず、彼が不完全な魔法を多用することによって、
周囲に魔法公害が広がる恐れもあり、速やかな駆除が求められています。
この依頼を受けられるハンターの方は、所定の書類にサインの後、準備を終え次第現地に集合して下さい」
リプレイ本文
●~0:00
「索敵範囲は……ここから先、だな」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が、ブーツの爪先で地面に線を引いた。
その先50メートルほどの路上を、浮遊する雷球を伴った『首なし』がぎくしゃくと歩き回っている。
静まり返った昼日中の住宅地、家々に挟まれた大通りへ6人のハンターが集う。
標的は『首なし』のホブゴブリン。
「頭の金魚鉢から下は、本当にただのホブゴブリンなんだな。むげぇことしやがる」
「魔術師の端くれとしては、ちょ~っと興味あるけど……さっさと倒さないとマズイわよねぇ」
「私たちは清く正しい魔術師代表として、この大迷惑を止めてみせるよ!」
射撃と支援担当の3人、J・D(ka3351)とイルマ(ka3393)、リンカ・エルネージュ(ka1840)も、
それぞれ射線を確保する為に慎重に立ち位置を決める。
「あの賑やかなのはどうした?」
J・Dがエヴァンスに尋ねた。エヴァンスは短伝話の受話器を振り、
「もうすぐ来……いや、来た」
「あっらァ~、ゴブちゃんちょっと見ない間に随分変わったねェ☆
あ、ゴメン別人か! なんだかお首がなくなってチョ~可哀想~! アタシらが早く楽にシてあげるネ☆」
5人の後ろから、別行動で斥候をしていたリオン(ka1757)が合流する。
フィストガードをはめた両の拳を、胸の前で打ちつけつつ、
「って訳でェ、まずはロニちゃん壁役ヨロ☆」
名前を呼ばれたロニ・カルディス(ka0551)が、待機していた物陰から立ち上がる。
「前をよろしく! 頼りにしてるわよ!」
イルマがロニに、ストーンアーマーの魔法をかける。
石混じりの砂が足元から渦を巻いて立ち昇り、彼の身体をぐるりと包み込んだ。
「行けそうか?」
こちらもリンカから風の防御魔法を与えられつつ、エヴァンスがロニの脇に立った。
ロニはメイスを持つ手を額に当て、目を瞑りしばし祈ると、
「……問題ない。最短時間で決着をつける」
路上の敵を見据え、防御を固めたロニが走り出す。
地面に引かれた線を踏み越えるなり、『首なし』と周囲の雷球が反応した。
(やれやれ、また厄介そうなものを……学者の考えることは、よく分からん)
●0:01
5体の雷球は、まさしく電光石火の動きで先鋒のロニへ殺到した。
彼の背後の両翼にエヴァンスとリオン、更に後方へ残り3人が控えている。
まずはできる限り雷球の襲撃を引き受けて、後ろに攻撃を漏らさないようにする。
低い軌道で飛んできた雷球ひとつを、走る足で蹴り上げた。
閃光がほとばしり、鋭い痛みが走るも、イルマの魔法のお蔭か足がもつれることもない。
次いで左右からやって来た2発を、メイスと盾でそれぞれ受け止める。
雷球の消滅と共に身体を覆う砂の鎧が弾け飛び、少しずつ塵へと還っていく。
だが、魔法はまだ効果時間内だ。
懐に忍んでいた石ころが足元に転がり落ちたのを、『首なし』に向けて蹴飛ばした。
石は『首なし』のガラス球の頭部に命中し、かつん、と音を立てる。
少しでも彼と雷球の気を引いて、的をこちらに絞らせたいが――
「あらよっと!」
ロニが捕まえ損ねた雷球がひとつ、リオンの眼前に迫ってくるが、咄嗟の前転でこれをかわした。
彼女の頭上をかすめた雷球は、空中で反転しようとしたところをイルマの魔法の矢に撃ち落とされる。
エヴァンスも大剣・ツヴァイハンダーを担いで軽々と走りつつ、『首なし』へ突き進んだ。
雷球が近づくのを、直前で道端の荷車へ隠れてやり過ごす。
エヴァンスにかわされて逡巡する雷球を、リンカがファイアアローで破壊した。
「まずは1発!」
塀越しに猟銃を差し出して、J・Dがこちらへ振り返ったばかりの『首なし』の腕を撃つ。
ホブゴブリンの暗灰色の皮膚が弾丸に切り裂かれると、腐敗した黒い血が辺りに飛び散った。
『首なし』はよろめきつつも、ハンターたちへ歩を進める。
ガラス球の頭部が一瞬、眩い光を放ったかと思うと、彼の頭上に新たな雷球が出現した。
J・Dに反撃が来るかと思いきや、雷球は再びロニたち先鋒へ飛んでいく。
雷球3発がロニを直撃した。1発は胸元で構えた盾に防がれたが、残りが彼の顔面をまともに捉える。
視界が一瞬で真っ白に焼けたかと思うと、脳味噌が丸々花火になって吹っ飛んだような衝撃を感じた。
●0:21
ロニの思考は彼方へ飛ぶ。
目を焼く眩い光が消え、暗闇の中へ落ちていく。
不意に、潮の香りを嗅いだ。冷たい風が頬を撫ぜる。
両足が宙に浮き、飛翔している感覚があった。だが、高度は次第に下がっていくらしい。
目は見えずとも、海面へ叩きつけられようとしていることが分かる――
いや違う、俺は地上で戦っていた筈だ。
気づけば潮の香りと思われたのも、本当は血の鉄臭さだった。
俺は負傷したのか? すると、倒れればとどめを刺されてしまう。
手足の感覚もないまま、走る動作を続けようと必死で意識を集中させた。
踏み出せば硬い、確固たる地面がそこにはある筈。
突然、ぼやけながらも視界が戻る。自分の足が地面を蹴っているのが見えた。
顔を上げれば『首なし』まであと数メートルというところ。
踏み堪えられたことが、そして動き続けられたことが、自分でも信じられない。
ロニは鼻と耳からの激しい出血にも構わず、再びメイスを振り上げる。
●0:22
血だらけになりながらもロニは走り続け、メイスで新たな雷球を打ち落としてさえ見せた。
(大したタマだよ、アンタ)
J・Dの支援射撃がまたも命中し、『首なし』をよろめかせる。
その隙にリオンもデリンジャーを発砲しつつ、相手の懐へと飛び込んだ。
「ぜッ」
リオンの拳が、敵の引き締まった胸筋へ叩き込まれる。
(人間ならコレ1発だけど、コイツみたくブッ壊れたお人形サンは……)
すかさず反撃のアッパーカットが飛ぶ。
(やっぱねェ)
バックステップで回避しながら、デリンジャーの残弾を粗方撃ち尽くした。
こちらも身体の調子がいい。いつの間にか用意されていたリンカのウィンドガストが、
周囲に魔法の気流を作り、リオンの動きを助けていた。
リオンを追撃しようとする『首なし』の肩へ、ロニの背後から飛び出したエヴァンスが大剣で切りつけた。
本来なら袈裟がけにばっさり両断できたところだが、刃は敵の肉体へ食い込む中途で筋骨に防がれてしまう。
すぐさま剣を戻し、ロニと位置を入れ替えながら2撃目を準備する。
『首なし』の傷口から、薄いもやのようなものが立ち昇る。後方のリンカはそれを見て、
(身体から放出されるマテリアルが防護障壁になって、敵の防御力を上げているのかも知れない……、
ロニが負傷してるし、押し返されたら不利になる。急がなきゃ!)
(急がなきゃ。私がかけた魔法もそろそろ切れどきだし……!)
新たな雷球5つの発生を見るや、イルマは咄嗟にマジックアローを撃つ。
放たれた光の矢は空中で雷球ひとつと衝突すると、小さな爆発を起こして共に消滅する。
ロニはまだエヴァンスやリオンの盾として立ち働いているが、どうやら本調子ではない。
雷球をこちらで処理しなければ、彼には回復のチャンスがない。
(回復のチャンスがない)
ロニはメイスで『首なし』を殴打した。
(腕に痺れが残っている。これでは倒しきれん)
更に敵の背後から、リオンが体重を乗せた前蹴りで姿勢を崩させようとする。
だが、『首なし』は倒れない。
「リンカ、例の奴っ!」
エヴァンスが叫ぶが早いか、リンカがファイアエンチャントの魔法を投げかける。
(宿れ炎よ! ……エヴァンス、お願い、私の分までっ)
下がるロニと入れ替わりに、エヴァンスが剣を振り下ろした。
ぎりぎりで魔法が発動し、刀身が炎をまとう。
攻撃を受け止めた『首なし』の片腕は、そのまま斬り落とされた。
ダメージを受けた主人に代わって雷球が反撃を行う。
1発をエヴァンスが避けきれず腹に喰らってしまう。もう1発がリオンへ飛んだがそちらは、
「っぶね!」
慌てて屈んで避けた。残り2発が、エヴァンスを狙って飛んでいく。
そこへロニが割って入った。盾で受け――損ねて、肩にもらった。
顔面にぶつけられるよりましだったが、それでも強い痛みと痺れが彼の半身を貫いた。
(これ以上は受け切れない! 一旦下がって、回復を――)
後退して回復の法術を使おうとするが、麻痺が彼の動作を遅らせた。
『首なし』はメイスを握るロニの右腕を掴むと、ガラス球の頭部を発光させる。
頭部から肩、肩から腕、そして掴まれたロニの腕へと伝って、マテリアルの閃光が迸った。
(……!)
●0:40
ロニが片腕を焼かれて、その場に倒れ込んだ。
横たわるロニの頭を踏みつけようとした『首なし』の足は、
(右足は、そっちじゃねぇな!)
J・Dの射撃を受けて狙いを外した。
リオンも横合いから、オーバーハンドで思いきり相手の頭を殴りつけたが、
(コイツ硬ってぇ!?)
ガラス球はリオンの拳固を跳ね返した。
(ここで決めねぇと!)
エヴァンスが、剣の切っ先を地面にかすらせながら逆袈裟に斬りかかる。
しかし『首なし』は痙攣するような動きで攻撃をぎりぎり外し、後退しつつ残り1発の雷球を飛ばした。
(身体が痺れてやがる……避けられねぇ!)
エヴァンスは覚悟を決めて、剣で雷球を斬り払う。
無理な体勢で剣を振ったせいで残心もまともに取れないが、どうにか雷球の直撃は避けられた。
痺れが取れるまでは防御に徹したほうがいい。だが、ここで下がりきってしまうとロニが危なくなる。
(ロニが倒れて、前衛のフォーメーションが崩れちまった。
このままじゃ射線が通らねぇぞ……っと)
J・Dの目が、道の途中に転がる雑多な障害物を検分していく。
荷車――違う。
作りかけの石垣――違う。
木箱に入れて玄関口に出された空き瓶――これも違う。
酒樽――鉄製のたが。これだ!
J・Dは隠れていた塀から飛び出すと、自身と酒樽、
そして『首なし』の配置が扁平な三角形を作るような位置取りをした。後はタイミング次第。
ちょうどリオンとエヴァンスが、めちゃくちゃに片腕を振り回す『首なし』から離れたところを――
樽にはめられたたがを狙って、撃った。
弾丸は鉄製のたがに当たって軌道を変え、『首なし』の左の脇腹へ命中する。
『首なし』は腹部を斜めに貫かれ、右腰部の射出口からどす黒い血を噴き出した。
後方では魔術師ふたりが並び立ち、それぞれワンドを握りしめていた。
雷球は全て破壊され、エヴァンスとリオンも一旦退いた。
たった今、数秒の内なら火力を敵本体に集中できる。
J・Dの射撃で『首なし』が怯んだ隙に、リンカはすかさずワンドの先端を『首なし』へと差し向ける。
「イルマちゃん合わせて!」
「はいはいっ!」
とどめを前衛に任せきりにはできない。ここはファイアアローを直接ぶつけて、一気に畳みかける。
隣り合うイルマも同じ構えをして、マジックアローを放った。
火と光の矢が平行して飛び、再度召喚されたばかりの雷球ごと『首なし』を吹き飛ばす。
●1:00
土煙の中、『首なし』はゆっくりと起き上がる。
頭部のガラス球を点滅させ、ずたずたになった身体でなおも戦おうとする。
だが、炎をまとったエヴァンスの剣によって、遂に力の源たるガラス球が打ち砕かれる。
ガラスが割れて、溢れ出した液体は魔法の火に反応して燃え上がる。
液体を浴びたホブゴブリンの身体も炎に巻かれ、瞬く間に塵と消えた。
残されたのはガラスの破片と、僅かな金属部品だけだった。
敵に食い込んでいた大剣の刃が、すっ、と落ちて地面を打つ。
「……やったか?」
「それ、実は生きてるフラグとちゃう?」
「いやどうみても死んだよなコレは!?」
エヴァンスとリオンが、『首なし』の残骸を見下ろして話し合う。
「仕留めるまでに時間、どれくらいかかったよ?」
「ん~、たぶんだけど1、2分ってとこかなァ?
依頼通りのスピード解決、オメ☆ カッコよかったぞ……ってかロニちゃんだいじょび?」
「あっ」
●1:30
エヴァンスが剣を置いて、倒れたままのロニへ駆け寄った。
頭を揺らさぬよう慎重に抱き起すと、ロニも気がついて、
「やったか?」
「お前もそれを言うのな。兎に角、お前さん死んじゃいねぇ。ヒヤヒヤしたぜ」
ちゃんと倒したよ、と言いながら、駆けつけたリンカがハンカチでロニの顔を拭ってやる。
「すまんがよく聴こえない。耳がまだおかしいようだ」
ロニが自分の耳を指差してそう言うと、
リオンが笑顔で親指を立て、首を掻き切るジェスチャーをしてみせる。
「なるほど。倒したか」
「具合は大丈夫? 耳の他は――」
「右腕の感覚が全くない。痛みもないのは、幸いだが」
「治療を急がないと……エヴァンス、もう1度寝かせてあげて」
「全っ然わかんないなぁ。どういう仕組みで動いてたんだろう?」
イルマはしゃがみ込んでガラス片を拾い、陽の光にかざしてみた。
気泡まじりの分厚いガラスを透かすと、太陽が黄色く、歪んで見える。投げ捨てて、
「……ま、いっか。真似する気もないしね」
「ったく、漏電のひでぇ野郎だったなぁ」
J・Dが猟銃を肩に提げ、仲間たちの下へやって来た。
「だが、バッチリ殺ったな。得物がでかいとトドメの1撃も映えるもんだ……、
ロニはどうだ? 応急手当くらいなら俺にもできるが」
J・Dがロニの容体を調べたところ、命に別状はないようだった。
ロニは自前の法術で傷を癒すと、エヴァンスの助けを断って自分の足で歩き出す。
一方、リンカは念の為にと、イルマに手伝われつつ『首なし』の残骸を掃除し始めた。
「貴方に恨みはないけど……放っておく訳にもいかなかったの。ごめんね」
「出会ったことのないタイプの相手だったが、お蔭でどうにか仕留められた。助かったぜ」
リンカにそう言うと、エヴァンスはやおらロニを振り返り、
「お前さんにも」
「途中から任せきりになってしまって、すまなかったな」
「何だよ水臭いな~。仲間なんだから、何ごとも持ちつ持たれつっしょ♪」
リオンに背中を1発どつかれて、ロニが顔をしかめた。
「あ、止めてくれ流石に痛い」
「めんごめんご」
「さて」
イルマが掃除を終えて立ち上がり、腰をとん、と叩く。
「お仕事も片付いたし、ここはぱ~っと、打ち上げでもいきましょうか!
ウチのお店来る? 転移門でぱぱっと飛んでさ」
打ち上げ、と聞いて、エヴァンスとリオンが目を輝かせる。
「俺に飲ませる気か? なら店の看板は下ろしとけよ、酒が涸れるぜ」
「ロニちゃんもなんか治ったぽいし、一緒に来るっしょ!? 怪我をアルコールで消毒しようぜェ」
「おいおい、怪我人に飲ませる気か? 飲めるかロニ?」
J・Dの言葉に、ロニは右腕をさすりつつ、ただ苦笑いで応えるのみだった。
「索敵範囲は……ここから先、だな」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が、ブーツの爪先で地面に線を引いた。
その先50メートルほどの路上を、浮遊する雷球を伴った『首なし』がぎくしゃくと歩き回っている。
静まり返った昼日中の住宅地、家々に挟まれた大通りへ6人のハンターが集う。
標的は『首なし』のホブゴブリン。
「頭の金魚鉢から下は、本当にただのホブゴブリンなんだな。むげぇことしやがる」
「魔術師の端くれとしては、ちょ~っと興味あるけど……さっさと倒さないとマズイわよねぇ」
「私たちは清く正しい魔術師代表として、この大迷惑を止めてみせるよ!」
射撃と支援担当の3人、J・D(ka3351)とイルマ(ka3393)、リンカ・エルネージュ(ka1840)も、
それぞれ射線を確保する為に慎重に立ち位置を決める。
「あの賑やかなのはどうした?」
J・Dがエヴァンスに尋ねた。エヴァンスは短伝話の受話器を振り、
「もうすぐ来……いや、来た」
「あっらァ~、ゴブちゃんちょっと見ない間に随分変わったねェ☆
あ、ゴメン別人か! なんだかお首がなくなってチョ~可哀想~! アタシらが早く楽にシてあげるネ☆」
5人の後ろから、別行動で斥候をしていたリオン(ka1757)が合流する。
フィストガードをはめた両の拳を、胸の前で打ちつけつつ、
「って訳でェ、まずはロニちゃん壁役ヨロ☆」
名前を呼ばれたロニ・カルディス(ka0551)が、待機していた物陰から立ち上がる。
「前をよろしく! 頼りにしてるわよ!」
イルマがロニに、ストーンアーマーの魔法をかける。
石混じりの砂が足元から渦を巻いて立ち昇り、彼の身体をぐるりと包み込んだ。
「行けそうか?」
こちらもリンカから風の防御魔法を与えられつつ、エヴァンスがロニの脇に立った。
ロニはメイスを持つ手を額に当て、目を瞑りしばし祈ると、
「……問題ない。最短時間で決着をつける」
路上の敵を見据え、防御を固めたロニが走り出す。
地面に引かれた線を踏み越えるなり、『首なし』と周囲の雷球が反応した。
(やれやれ、また厄介そうなものを……学者の考えることは、よく分からん)
●0:01
5体の雷球は、まさしく電光石火の動きで先鋒のロニへ殺到した。
彼の背後の両翼にエヴァンスとリオン、更に後方へ残り3人が控えている。
まずはできる限り雷球の襲撃を引き受けて、後ろに攻撃を漏らさないようにする。
低い軌道で飛んできた雷球ひとつを、走る足で蹴り上げた。
閃光がほとばしり、鋭い痛みが走るも、イルマの魔法のお蔭か足がもつれることもない。
次いで左右からやって来た2発を、メイスと盾でそれぞれ受け止める。
雷球の消滅と共に身体を覆う砂の鎧が弾け飛び、少しずつ塵へと還っていく。
だが、魔法はまだ効果時間内だ。
懐に忍んでいた石ころが足元に転がり落ちたのを、『首なし』に向けて蹴飛ばした。
石は『首なし』のガラス球の頭部に命中し、かつん、と音を立てる。
少しでも彼と雷球の気を引いて、的をこちらに絞らせたいが――
「あらよっと!」
ロニが捕まえ損ねた雷球がひとつ、リオンの眼前に迫ってくるが、咄嗟の前転でこれをかわした。
彼女の頭上をかすめた雷球は、空中で反転しようとしたところをイルマの魔法の矢に撃ち落とされる。
エヴァンスも大剣・ツヴァイハンダーを担いで軽々と走りつつ、『首なし』へ突き進んだ。
雷球が近づくのを、直前で道端の荷車へ隠れてやり過ごす。
エヴァンスにかわされて逡巡する雷球を、リンカがファイアアローで破壊した。
「まずは1発!」
塀越しに猟銃を差し出して、J・Dがこちらへ振り返ったばかりの『首なし』の腕を撃つ。
ホブゴブリンの暗灰色の皮膚が弾丸に切り裂かれると、腐敗した黒い血が辺りに飛び散った。
『首なし』はよろめきつつも、ハンターたちへ歩を進める。
ガラス球の頭部が一瞬、眩い光を放ったかと思うと、彼の頭上に新たな雷球が出現した。
J・Dに反撃が来るかと思いきや、雷球は再びロニたち先鋒へ飛んでいく。
雷球3発がロニを直撃した。1発は胸元で構えた盾に防がれたが、残りが彼の顔面をまともに捉える。
視界が一瞬で真っ白に焼けたかと思うと、脳味噌が丸々花火になって吹っ飛んだような衝撃を感じた。
●0:21
ロニの思考は彼方へ飛ぶ。
目を焼く眩い光が消え、暗闇の中へ落ちていく。
不意に、潮の香りを嗅いだ。冷たい風が頬を撫ぜる。
両足が宙に浮き、飛翔している感覚があった。だが、高度は次第に下がっていくらしい。
目は見えずとも、海面へ叩きつけられようとしていることが分かる――
いや違う、俺は地上で戦っていた筈だ。
気づけば潮の香りと思われたのも、本当は血の鉄臭さだった。
俺は負傷したのか? すると、倒れればとどめを刺されてしまう。
手足の感覚もないまま、走る動作を続けようと必死で意識を集中させた。
踏み出せば硬い、確固たる地面がそこにはある筈。
突然、ぼやけながらも視界が戻る。自分の足が地面を蹴っているのが見えた。
顔を上げれば『首なし』まであと数メートルというところ。
踏み堪えられたことが、そして動き続けられたことが、自分でも信じられない。
ロニは鼻と耳からの激しい出血にも構わず、再びメイスを振り上げる。
●0:22
血だらけになりながらもロニは走り続け、メイスで新たな雷球を打ち落としてさえ見せた。
(大したタマだよ、アンタ)
J・Dの支援射撃がまたも命中し、『首なし』をよろめかせる。
その隙にリオンもデリンジャーを発砲しつつ、相手の懐へと飛び込んだ。
「ぜッ」
リオンの拳が、敵の引き締まった胸筋へ叩き込まれる。
(人間ならコレ1発だけど、コイツみたくブッ壊れたお人形サンは……)
すかさず反撃のアッパーカットが飛ぶ。
(やっぱねェ)
バックステップで回避しながら、デリンジャーの残弾を粗方撃ち尽くした。
こちらも身体の調子がいい。いつの間にか用意されていたリンカのウィンドガストが、
周囲に魔法の気流を作り、リオンの動きを助けていた。
リオンを追撃しようとする『首なし』の肩へ、ロニの背後から飛び出したエヴァンスが大剣で切りつけた。
本来なら袈裟がけにばっさり両断できたところだが、刃は敵の肉体へ食い込む中途で筋骨に防がれてしまう。
すぐさま剣を戻し、ロニと位置を入れ替えながら2撃目を準備する。
『首なし』の傷口から、薄いもやのようなものが立ち昇る。後方のリンカはそれを見て、
(身体から放出されるマテリアルが防護障壁になって、敵の防御力を上げているのかも知れない……、
ロニが負傷してるし、押し返されたら不利になる。急がなきゃ!)
(急がなきゃ。私がかけた魔法もそろそろ切れどきだし……!)
新たな雷球5つの発生を見るや、イルマは咄嗟にマジックアローを撃つ。
放たれた光の矢は空中で雷球ひとつと衝突すると、小さな爆発を起こして共に消滅する。
ロニはまだエヴァンスやリオンの盾として立ち働いているが、どうやら本調子ではない。
雷球をこちらで処理しなければ、彼には回復のチャンスがない。
(回復のチャンスがない)
ロニはメイスで『首なし』を殴打した。
(腕に痺れが残っている。これでは倒しきれん)
更に敵の背後から、リオンが体重を乗せた前蹴りで姿勢を崩させようとする。
だが、『首なし』は倒れない。
「リンカ、例の奴っ!」
エヴァンスが叫ぶが早いか、リンカがファイアエンチャントの魔法を投げかける。
(宿れ炎よ! ……エヴァンス、お願い、私の分までっ)
下がるロニと入れ替わりに、エヴァンスが剣を振り下ろした。
ぎりぎりで魔法が発動し、刀身が炎をまとう。
攻撃を受け止めた『首なし』の片腕は、そのまま斬り落とされた。
ダメージを受けた主人に代わって雷球が反撃を行う。
1発をエヴァンスが避けきれず腹に喰らってしまう。もう1発がリオンへ飛んだがそちらは、
「っぶね!」
慌てて屈んで避けた。残り2発が、エヴァンスを狙って飛んでいく。
そこへロニが割って入った。盾で受け――損ねて、肩にもらった。
顔面にぶつけられるよりましだったが、それでも強い痛みと痺れが彼の半身を貫いた。
(これ以上は受け切れない! 一旦下がって、回復を――)
後退して回復の法術を使おうとするが、麻痺が彼の動作を遅らせた。
『首なし』はメイスを握るロニの右腕を掴むと、ガラス球の頭部を発光させる。
頭部から肩、肩から腕、そして掴まれたロニの腕へと伝って、マテリアルの閃光が迸った。
(……!)
●0:40
ロニが片腕を焼かれて、その場に倒れ込んだ。
横たわるロニの頭を踏みつけようとした『首なし』の足は、
(右足は、そっちじゃねぇな!)
J・Dの射撃を受けて狙いを外した。
リオンも横合いから、オーバーハンドで思いきり相手の頭を殴りつけたが、
(コイツ硬ってぇ!?)
ガラス球はリオンの拳固を跳ね返した。
(ここで決めねぇと!)
エヴァンスが、剣の切っ先を地面にかすらせながら逆袈裟に斬りかかる。
しかし『首なし』は痙攣するような動きで攻撃をぎりぎり外し、後退しつつ残り1発の雷球を飛ばした。
(身体が痺れてやがる……避けられねぇ!)
エヴァンスは覚悟を決めて、剣で雷球を斬り払う。
無理な体勢で剣を振ったせいで残心もまともに取れないが、どうにか雷球の直撃は避けられた。
痺れが取れるまでは防御に徹したほうがいい。だが、ここで下がりきってしまうとロニが危なくなる。
(ロニが倒れて、前衛のフォーメーションが崩れちまった。
このままじゃ射線が通らねぇぞ……っと)
J・Dの目が、道の途中に転がる雑多な障害物を検分していく。
荷車――違う。
作りかけの石垣――違う。
木箱に入れて玄関口に出された空き瓶――これも違う。
酒樽――鉄製のたが。これだ!
J・Dは隠れていた塀から飛び出すと、自身と酒樽、
そして『首なし』の配置が扁平な三角形を作るような位置取りをした。後はタイミング次第。
ちょうどリオンとエヴァンスが、めちゃくちゃに片腕を振り回す『首なし』から離れたところを――
樽にはめられたたがを狙って、撃った。
弾丸は鉄製のたがに当たって軌道を変え、『首なし』の左の脇腹へ命中する。
『首なし』は腹部を斜めに貫かれ、右腰部の射出口からどす黒い血を噴き出した。
後方では魔術師ふたりが並び立ち、それぞれワンドを握りしめていた。
雷球は全て破壊され、エヴァンスとリオンも一旦退いた。
たった今、数秒の内なら火力を敵本体に集中できる。
J・Dの射撃で『首なし』が怯んだ隙に、リンカはすかさずワンドの先端を『首なし』へと差し向ける。
「イルマちゃん合わせて!」
「はいはいっ!」
とどめを前衛に任せきりにはできない。ここはファイアアローを直接ぶつけて、一気に畳みかける。
隣り合うイルマも同じ構えをして、マジックアローを放った。
火と光の矢が平行して飛び、再度召喚されたばかりの雷球ごと『首なし』を吹き飛ばす。
●1:00
土煙の中、『首なし』はゆっくりと起き上がる。
頭部のガラス球を点滅させ、ずたずたになった身体でなおも戦おうとする。
だが、炎をまとったエヴァンスの剣によって、遂に力の源たるガラス球が打ち砕かれる。
ガラスが割れて、溢れ出した液体は魔法の火に反応して燃え上がる。
液体を浴びたホブゴブリンの身体も炎に巻かれ、瞬く間に塵と消えた。
残されたのはガラスの破片と、僅かな金属部品だけだった。
敵に食い込んでいた大剣の刃が、すっ、と落ちて地面を打つ。
「……やったか?」
「それ、実は生きてるフラグとちゃう?」
「いやどうみても死んだよなコレは!?」
エヴァンスとリオンが、『首なし』の残骸を見下ろして話し合う。
「仕留めるまでに時間、どれくらいかかったよ?」
「ん~、たぶんだけど1、2分ってとこかなァ?
依頼通りのスピード解決、オメ☆ カッコよかったぞ……ってかロニちゃんだいじょび?」
「あっ」
●1:30
エヴァンスが剣を置いて、倒れたままのロニへ駆け寄った。
頭を揺らさぬよう慎重に抱き起すと、ロニも気がついて、
「やったか?」
「お前もそれを言うのな。兎に角、お前さん死んじゃいねぇ。ヒヤヒヤしたぜ」
ちゃんと倒したよ、と言いながら、駆けつけたリンカがハンカチでロニの顔を拭ってやる。
「すまんがよく聴こえない。耳がまだおかしいようだ」
ロニが自分の耳を指差してそう言うと、
リオンが笑顔で親指を立て、首を掻き切るジェスチャーをしてみせる。
「なるほど。倒したか」
「具合は大丈夫? 耳の他は――」
「右腕の感覚が全くない。痛みもないのは、幸いだが」
「治療を急がないと……エヴァンス、もう1度寝かせてあげて」
「全っ然わかんないなぁ。どういう仕組みで動いてたんだろう?」
イルマはしゃがみ込んでガラス片を拾い、陽の光にかざしてみた。
気泡まじりの分厚いガラスを透かすと、太陽が黄色く、歪んで見える。投げ捨てて、
「……ま、いっか。真似する気もないしね」
「ったく、漏電のひでぇ野郎だったなぁ」
J・Dが猟銃を肩に提げ、仲間たちの下へやって来た。
「だが、バッチリ殺ったな。得物がでかいとトドメの1撃も映えるもんだ……、
ロニはどうだ? 応急手当くらいなら俺にもできるが」
J・Dがロニの容体を調べたところ、命に別状はないようだった。
ロニは自前の法術で傷を癒すと、エヴァンスの助けを断って自分の足で歩き出す。
一方、リンカは念の為にと、イルマに手伝われつつ『首なし』の残骸を掃除し始めた。
「貴方に恨みはないけど……放っておく訳にもいかなかったの。ごめんね」
「出会ったことのないタイプの相手だったが、お蔭でどうにか仕留められた。助かったぜ」
リンカにそう言うと、エヴァンスはやおらロニを振り返り、
「お前さんにも」
「途中から任せきりになってしまって、すまなかったな」
「何だよ水臭いな~。仲間なんだから、何ごとも持ちつ持たれつっしょ♪」
リオンに背中を1発どつかれて、ロニが顔をしかめた。
「あ、止めてくれ流石に痛い」
「めんごめんご」
「さて」
イルマが掃除を終えて立ち上がり、腰をとん、と叩く。
「お仕事も片付いたし、ここはぱ~っと、打ち上げでもいきましょうか!
ウチのお店来る? 転移門でぱぱっと飛んでさ」
打ち上げ、と聞いて、エヴァンスとリオンが目を輝かせる。
「俺に飲ませる気か? なら店の看板は下ろしとけよ、酒が涸れるぜ」
「ロニちゃんもなんか治ったぽいし、一緒に来るっしょ!? 怪我をアルコールで消毒しようぜェ」
「おいおい、怪我人に飲ませる気か? 飲めるかロニ?」
J・Dの言葉に、ロニは右腕をさすりつつ、ただ苦笑いで応えるのみだった。
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作戦会議! エヴァンス・カルヴィ(ka0639) 人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/10/28 08:47:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/24 00:00:12 |