貴族の依頼、私の昔話

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/05/23 09:00
完成日
2017/05/31 20:43

みんなの思い出

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オープニング


 私が犯した過ちについて話そう。
 それは珍しくも無いことだ。
 一抹の巡り合わせと、一瞬の衝動が、私の与り知らぬところで罪を誂えた。


 オフィスに届いた不可解な依頼。
 ヴァリオスの高級住宅街に居を構える貴族からの、人捜しの依頼だった。
 何方を、と受付嬢が尋ねると、その貴族は……彼は代理人を通さず、自らオフィスまで出向いていた……口を噤んだ。
 兎に角、ハンターを数名屋敷に寄越して欲しいとのことで、受付嬢は概要の大半を空欄にしたままで、その依頼を掲示した。

 払いが良かったためだろうか、名乗りを上げたハンターが数名その貴族の館に集まった。
 ハンター達が招かれたのは古い屋敷。
 蔦の這った重厚な塀で囲われ、門の脇には守衛らしい老いた使用人がしょぼくれた目でハンター達を眺めている。
 庭に植えられた大木が葉を茂らせ、屋敷の大きな窓を塞ぐ様に影を落とし、白い壁には苔が生してその建物の経た年月以上の衰えを感じさせた。
 出迎えた執事がハンター達に一礼し、建物の中へと通す。
 掃除は行き届いているものの日の差さぬ為か、どことなく湿気た香りのするホールを通り、広間へと通される。
 本来は応接室を使うべきなのでしょうが、と執事は苦笑する。
 ひょろりと上背が有り、吊り上がった眦と眉間の皺が神経質そうな、青白い肌の男だった。
 応接室では椅子が足りないので、と言いながら開かれた扉、暖かな色の木に緻密な模様を浮き彫りにした瀟洒なそれ。
 大きなテーブルを囲む椅子、ハンター達が席に着くと程なくしてメイドが紅茶を運んできた。
 旦那様は少々遅れていらっしゃるそうです、と一礼して部屋を出て行く。

 ハンターの1人がふと目を遣った壁には家の間取りが額装されていた。
 著名な設計者のサインと共に添えられた施工の年は300年ほど遡る。

 多少の改築をしているが、今も概ねそのままだと執事はその額を示しながら屋敷の紹介をする。
 依頼主の支度が澄むまでの時間つぶしにとのことらしく、再び入室したメイドが茶菓子を載せたワゴンを運んできた。
 広間の隣には調理室、建設当時から尤も手の入っている場所で、今はリアルブルーの技術を参照した最新の調理道具が置かれているとのことだ。
 ハンター達が歩いた庭は、裏に回った方が広く、全貌は応接室に続くサンルームから眺める事が出来るらしい。
 広間と応接室の他、1階には書庫も置かれており、様々なジャンルの古今の書物と、趣味の蒐集品が収められているそうだ。
 屋敷は3階建てで、2階と3階には客間が用意されている。庭を臨む依頼主の自慢の部屋らしい。
 主寝室と書斎も上階に、流石に主寝室は難しいがと前置きし、執事はハンター達を見回した。
「もしよろしければ、お話の後にでも、見学なさいますか?」
 そして、長針が一回りする程待っただろうかという頃になって、広間の扉が開けられた。

 家の当主だと名乗ったのは、この界隈ではまだ若い部類だろう中年の男。
 ハンター達を招いた依頼主。
 執事は当主の傍らへ控え、一礼。硝子を埋め込んだ様な感情の乏しい目でハンター達眺め、相変わらず抑揚のない声で話し始めた。
「本日は、ダ・ヴィスカルディ家当主、エドガー・ダ・ヴィスカルディの招きに応じて頂き、また、ご多忙の中態々のお運びを、真に有り難く存じ上げます。……さて、本題に入ります前に今回の依頼につきまして、一つお約束頂きたい事が御座います」
 細い目がハンター達の顔色を覗いながら続ける。
「……この家で見聞きしたことを全て、全て、内密にして頂くと言うこと。以上で御座います」
 ハンター達の了承を見ると執事は、依頼は、当主本人からと告げて下がる。

「仰々しくて済まないね。……私の息子を捜して欲しい。見付かれば提示額以上の報酬を約束しよう」


 ハンター達は当然のようにその捜索対象の容姿を尋ねたが、依頼人、エドガーはそこで黙る。
 暫しの沈黙の後、初めから話す必要が有るだろうと諦めたように呟いて、溜息を吐いた。
「……私が犯した過ちについて話そう」
 エドガーが声を震わせて話し始めると、小さなノックが執事を呼んだ。
 一旦、その場を辞した執事は部屋に戻ると、眉間の皺を更に深くしながら貴族に何事かを囁いた。

「そうか、ああ、丁度良い。人捜しには変わるまい。……皆さん、依頼の内容を多少変更しても構わないだろうか? 医者を呼んできてほしい、大至急だ」

 唐突に変えられた依頼。
 エドガー人に後を任された執事はハンター達に事情を話した。
 メイドが倒れたらしい。
 高熱が有り、意識も朦朧としている。
 この家に専属の医者は暇を取って遠方へ帰省、近くで開業している診療所も今日と明日は休み。
 聞いた話では旅行らしい。

 エドガーは執事に、彼の兄について尋ねた。
 君の兄さんの家に助けを求められないか、と。執事は黙って首を傾げる。
「ああ、皆さんにも紹介していなかったな。彼は亡き弟の友人で……彼の実家も近くに屋敷を持っている。長男が家督を継いだと話を聞いているが……否、連絡も無しに駆け込めるほど親しくしてはいないな」
 上流階級に生まれ、家督を継がない者が交流の有る家で働くのは珍しいことではない。
 知識に作法が備わっており、身元も明らかでなければ家令を任せるに足らぬからだ。
 かといって、その家同士が密な繋がりが絶対ということもなく、エドガーも彼を雇ってからまだ5年ほどしか経っていない。
 腰の曲がってきた前任者の年を考えてのことだ。倒れたメイドはその前任者の縁のある者だった。
「君は、彼女とも親しくしていたね。心配だろう。……依頼は構わない、どのみち、今日は妻にも会えんだろうからね。この人達を使って構わないから、サーラを頼むよ」
 そう言うと、執事が黙っている内にエドガーは部屋を出て行った。

 執事は緩りとハンター達へ頭を下げた。
 どことなく芝居じみた仕草で、深々と辞儀をして、ハンター達に助けを乞う。

リプレイ本文


「医者なら此処におりますが。いや、正確には薬師なんですがね。お役に立てますかな」
 エアルドフリス(ka1856)が肩を竦め、ひらりと手を翳す。
 執事はエアルドフリスに恭しく辞儀をして、こちらでございます、と、使用人部屋へ向かった。
 手の空いてしまったハンター達は屋敷それぞれ広間を出る。
 突発的に変えられた依頼、隠したがる息子の正体が気に掛かっていた。

 エアルドフリスは執事の案内で使用人部屋の一室へ、到着を報せるノックを、ドアを開けると執事はどうぞと室内へ招き入れる。
 20代中程だろうか、熱で紅潮した頬はより若く見せるが、投げ出された荒れた手は彼女を更に年嵩に見せた。
 発熱に効く煎じ薬、柳の樹皮、接骨木、菩提樹の花。今日は何れも持ち合わせていない。
 しかし、今有る物でどうにかしなければ。冷水と布を尋ねれば、執事はすぐにと応えて部屋を出た。
 程なくそれらを揃えて抱えたメイドから、執事は他のハンターの対応を行っていると伝えられた。


 医者が見付かったことは依頼人に伝えておこうと金目(ka6190)が広間を出た。
 彼はどこに向かっただろうと首を捻る。見回すと、お困りですかと執事が声を掛けた。
 金目が用件を告げると、執事は近くにいたメイドにエアルドフリスの元へと言いつけ、お伝えしますと芝居掛かった辞儀をする。
 その所作を金目は眠たげな表情を動かさず眺める。
 あからさまに不自然な依頼人、エドガーとその周囲の態度にもう一歩踏み込んでみようと執事を呼び止めた。
「少しでも話しをしたいんだが……見学させて貰うのだから、設えの見所を教えて貰えないか?」
 それなら私がと言いかける執事に、エドガーから直接と念を押す。
 執事は細い目の奥で何かを考えるように首を揺らし、お伝えしますとその場を去った。
 残された金目は廊下の装飾を見回す。この辺りに気になる場所は無い。
 少し、屋敷の中を歩こうと思った。

 J・D(ka3351)は食欲を刺激するスパイスの香りが漂う調理室を覗く。
 何か用かと料理人が鈍った口調で尋ねる。
 依頼の暇に屋敷の見学をしていると応えると、ここには面白い物は無いだろうと笑った。
 いや、とジェイは広い調理室を見回した。
「こいつァ立派な台所だ。100人分の飯だって一度に作れッちめえそうだ」
 料理人は更に可笑しそうに笑う。
「普段は何人分作ってるンだろうな?」
 その笑い声に乗じるように尋ねた。
 料理人は見るかと言って献立を寄越し、旦那様、奥様、と始まり、使用人の名前を挙げていく。
 書き添えられた仕入れの量は、確かに何百という数では無いが、正確な皿の数の判断し難い。しかし、煮込みになるらしい鯛の数に、挙がった名前の数は一致した。
 使用人の他は、エドガーとその妻しか暮らしていないらしい。

 応接室へ向かうヒース・R・ウォーカー(ka0145)とカリアナ・ノート(ka3733)
 ヒースはその部屋を通り抜けてサンルームへの扉を開ける。
 施錠こそされていないが扉は重く、長らく人の出入りが無いように感じられた。
 絨毯が敷かれ、長椅子とテーブルが飾るように置かれている。
 テーブルに触れれば指の跡が残り、この部屋が放棄されて一月二月では済まないことが覗えた。
 どのくらい経っているのだろうかと、チェストに並ぶ硝子ケースに目を留めた。
 その中にはトルソーに飾られたネックレス。添えられた4桁の数字は制作年か購入年だろう。
 10近く連なる数字が、今年に至る3つ手前で途絶えていた。
 壁に目を遣れば、家紋らしい紋章のレリーフと短剣。
「……使われてない、みたいだよねぇ」
 簡単に手に取れたその剣の刃に錆びた跡も、血の油が巻いた跡も見られない。
 サンルームから見える庭の様子に違和感を感じ、ヒースはそれを確かめに庭へ向かった。

 応接室には暖かみのある艶やかな木のテーブルに、5人掛けのソファセット。集まったハンターを収容するには少々手狭な印象を受けるが、質の良い調度品なども飾られ、暖かみのある色調で纏められている。
 しかし、見回してもめぼしい物は見当たらず、飾られた可憐な花が甘く香っているばかりだ。
 触れれば手の沈むほど柔らかな天鵞絨張りのソファ。
 思わず手を引いてカリアナは天井を仰ぐ。釣られた瀟洒なシャンデリアは、灯さずとも燦めく硝子は眩しい。
「お、お姉ぢゃん。私に、私に力をぉ……」
 気押される様な部屋の雰囲気に声を震わせながら、カリアナはテーブルやソファの下を覗き込む。
 絨毯の長い毛足に頬が埋まるほど屈んでも、そこには何も見当たらない。
 これ以上探すには、家具を退ける必要があるだろうが、1人ではそれも難しい。
 サンルームからヒースが出てくると、カリアナも他の部屋を見に行こうと応接室を出て階段を昇る。

 門垣 源一郎(ka6320)は磨かれた階段を上り、主寝室へ目を向けた。
 手が空いてしまったという理由もあるが、エドガーの態度はあからさまに何かを隠し、それを見せたがっているように思えた。
 それなら、見ない訳にもいかないだろう。
 同じく主寝室に向かうらしいカリアナと2人扉の前に立つと、不意に解錠の音がした。
 出てきた執事はさして驚いた様子も無く2人を眺め、ご用でしょうかと、細い目を更に細めた。
 開いた扉の隙間から覗く室内は仄暗く、庭に向いているらしい窓には重いカーテンが床まで垂れている。
「夏も近いのに暑そうなカーテンだな。替えないのか?」
 門垣が尋ねると、執事は歪に笑ってエドガーの指示だと答えた。
 入室の許可を求めると、執事は深く頭を垂れて、プライベートな部屋だからとそれを断る。
 カリアナもカーテンの奥を気にしていたが、執事に促されて部屋の前を離れた。
「……サーラおねーさん、大丈夫かしら」
 広間で呼ばれていたメイドの名前を思い出して階段を下り、使用人部屋へ向かった。
 門垣はその場に留まり奥の書斎へ向かうが、扉には鍵の抵抗を感じる。
 それに気付いた執事が、その扉は開かないと門垣の前を遮るように腕を伸ばした。
「出入りは寝室からか?……不便だが防犯上の理由があるのか?」
「こちらへ何方かをお通しすることは、まず御座いませんので……」
 人と会うのは応接室だと話しながら、執事は門垣の表情を覗き込むように、ご覧になりますか、と尋ねてくる。
 はぐらかす様な会話を逃れ、門垣は客間へと向かった。
 メイドがにこやかに応対し、一室を開けて中へと招く。
 2人掛けのテーブルセット、敷居を隔ててベッド、小さいが収納も有り、数日の滞在は適いそうだ。
 遠方からの客を泊めることもあると話しながら、メイドはベッドの脇のカーテンを開けた。
 見下ろせば整えられた庭の濃い緑が広がっているが、隣室の様子は覗えず音も聞こえない。
 それ以上の案内は断ったが、仕事だと言いメイドはある一室の前を離れない。
「……申し訳御座いません、こちらのお部屋は……お休みになって、いらっしゃいますので」
 身を潜めて暫く様子を覗っていたが、メイドはその場所を離れなかった。

 その頃、庭へ出たヒースとジェイはサンルームの前で根元近くから伐たれた細い木の跡を見ていた。
 その辺りは土の色も異なり、回りの庭の景観に紛れるように枝が伸ばされているが、嘗ては別の何かが植えられていたらしいことは明白だ。
 木を伐ったのも、その断面に苔が生すほど、過去のことなのだろう。
 ヒースは硝子の向こうのサンルームを見る。飾られていた最後のトルソーが3年前の物だとするなら、庭もその時変わったのだろうか。
「何かお困りですか?」
 2人の姿が見えたからと、下りてきたらしい執事が声を掛けた。
「花の一つも植えたりゃァしねえのかい?」
 ジェイが示す庭は、整えられていながら夏に向けて緑を茂らせている。
 その中に有って、隠すように土を均し、何も植えずにいるこの一角が酷く目立った。
 ヒースも同じく頷いた。
 サンルームを使っていた者が臨む庭を潰してしまった理由を、何故放棄したかのように閉ざしているのか。
 花は植えられていたらしいと執事は答えた。
 一昨年の春までは。
 夫人はこのサンルームを気に入り、一昨年まではこの庭も夫人の指示で整えていたらしいが、薔薇を伐ち、ベリーを全て刈ったのも彼女の指示だという。
「……昔はサーラに籠を持たせ、実った苺を自ら摘まれたとも聞いております」
 一昨年かと呟き、ジェイは広間に戻ると言い残して踵を返した。
 ヒースは執事と共に書庫へ向かった。

 書庫に来ていた金目に執事はエドガーからの断りを伝えた。
 金目は、そうかと応じながら、表情を曇らせた。自ら話すつもりが無い、或いは、何かを見付けさせたいのか。
「ところで、あなたのことは何とお呼びすれば?」
 執事は、お好きなようにと口角を釣り上げた。
 部屋に入り、2人を促すと執事は書棚を示しながら、ダ・ヴィスカルディ家の経営する会社の社史や趣のある表紙で綴じた古書、箔押しされた縁の有る作家の全集を説明する。
 手前の書架には一般書や実用書、戸口に近い棚には近年発行された文学作品が並ぶ。
 蒐集品の棚には、多少の埃が見られるボトルシップと、長く手を掛けられた様子の無いジュエリーボックス。
「取ってみても良いのかい?」
 執事が了承すると、ヒースは瓶を1つ手許へ下ろし、覗き込むように眺める。
 書架に比べて至らない手入れを尋ねると執事は肩を竦めた。
 エドガーが手入れも含め趣味としており、手出しを断られているらしい。
 ジュエリーボックスの方へも視線を向ける。
 そちらもかと尋ねると、執事肯定も否定もせずに笑む。
 1つ取って開くと中は空。添えられたラベルには、相当な大きさのルビーの裸石とある。
 蒐集品について一通り話し終えると、金目はこの家や彼自身について尋ねた。
 エドガーと夫人には素晴らしい方だと淀みなく、サーラと先代の執事には目を細めるままよく知らないと答えた。
「サーラさんが心配か?」
「長く勤めている者が伏せっていては、旦那様も気を揉まれることでしょう」
「執事は何年前から?」
「ここでは1番短いですね」
 掴み所の無い答えに執事の表情を覗うが、笑顔を崩さずに金目とヒースを眺めている。
 最後に息子について尋ねると、存じ上げません、と口を閉ざした。


 出来る限りの手をたエアルドフリスは背もたれに凭れきって天井を仰ぐ。
 風邪の発熱にしては症状が重く、眠ってはいるが先程までは酷く魘されていた。
 何度か額のタオルを替え、ぼんやりと目を開けた時を見計らって水分を取らせ、額や首の汗を拭った。
 エアルドフリスを手伝っていていたメイドは仕事に戻り、エアルドフリスもサーラの寝顔を見て一息吐いた。
 小さなノックが聞こえ、誰かと尋ねればカリアナが答えた。
 心配そうに入ってきたカリアナは、サーラの様子を眺めて首を傾げた。
「本当に病気で寝込んでるのかしら?」
 何か盛られてということは無いかと尋ねるが、エアルドフリスにもそれは分からない。
 快復したのなら話しを聞きたかったが目覚める様子は無い。
 カリアナがサーラの物らしい机を見ると、微笑む女性と緊張したように強張る少女が並ぶ写真が飾られていた。
 10年前の日付が添えられたその写真に写る少女は幼い頃のサーラだろう。写真を覗いたエアルドフリスは呟いた。女性の方は服装から見て夫人だろうか。
 他にも何か、この家について隠されたものを知る手掛かりは無いかと、カリアナは机やベッドの下を覗く。
 探せる場所は少なく、ベッドの下を照らしても何も見付からなかった。
 メイドが様子を見に戻ってくると、2人は広間で仲間と合流することにした。

 仲間を待ちながらジェイは広間でメイドに話し掛けた。
 サーラについて尋ねると、メイドはぱちくりと瞬いて笑い出した。
 気に入ったのか、ダメだよ、サーラはあの執事が大好きだからね。
 ジェイは違うと振り払うように手を揺らす。
「女中1人の為に元々の相談を曲げッちまうたァ驚きだ」
 良い主人なのかと尋ねる。
 噂好きなメイドは笑いながら内緒だよと声を潜めた。
「サーラはね、一昨年まで別邸にいたんだよ」
 別邸、と尋ねる。
 メイドは更に声を低くして、愛人だよ、と囁いた。
「身分の低い女だから、隠すみたいに囲って……サーラを1人遣って世話をさせてたんだ」
 ジェイは眉間に手を伸ばして考え込んだ。
 一昨年。庭でも聞いた。

 何が有ったのだろうかと考えていると、ハンター達が戻ってきた。
 この屋敷にはエドガー夫妻と使用人の他は暮らしてないと、ジェイが話す。
 ハンター達が見回った場所の何れにも、エドガーが探して欲しいと言った筈の息子の痕跡が無かった。
 蒐集品とやらは、とエアルドフリスが尋ねる。
 金目とヒースは首を横に、エドガーと夫人の趣味の品と仕事やごく一般的な書物が置かれているのみだった。
 夫人は宝石が好きらしいと、ヒースが蒐集品を思い出す。ルビーが収められていたらしい箱が有った。
 ヒースはサンルームに飾られたネックレスも、夫人の趣味の1つだろうと推測する。
 夫人、と門垣は眉間に皺を刻んだ。
 職務に忠実で口下手なメイド。客間に滞在者の存在を仄めかしても、客人とは言わなかった。
 しかし、夫人が客間を使うかと首を捻る。
 はい、とカリアナは手を上げた。エアルドフリスと見た古い写真について話す。
 サーラと夫人を写したあの写真の背景はどこだったのだろう。花が咲いていたような気がするが。
 嘗て薔薇の植えられていた庭ではないかと、ヒースとジェイは考える。
 そして、ジェイはサーラについて聞いたばかりのことを話した。
「ふむ、興味深いねぇ……一昨年、何かがあったんだろうな」
 エアルドフリスが呟く。サンルームのトルソー、伐たれた薔薇。
「息子が関わっているものなら、丁寧に手入れしたり整理して保管しそうなものだけど……」
 何かを隠す諸諸の痕跡にヒースが溜息を零した。
「息子とは、何者なのかな、私生児か……それとも……」
 そう断じてしまうには別の何かが隠れていそうだとジェイも首を横に。
「……隠したいのなら余所者に滞在を許すわけもないだろう」
 ならば曝いて構わないだろうと、門垣は手掛かりを探し広間に視線を走らせる。
「彼も……息子のことは知らないと言っていたな」
 金目が違和感を感じた執事の発言を思い出す。いつからいたのか、執事がティーセットを乗せたワゴンの傍らに佇んでいた。

「旦那様より、また日を改めてとの言伝を承って参りました。今日はどうぞ休まれてからお帰り下さい」

 紅茶と焼き菓子の甘い香り。
 良い香り、と呟いたカリアナの声にハンター達の緊張も解ける。
 謎が増えただけのような時間だったが、この屋敷で何か良からぬ事が起こっていたと十分に近い確信を得た。

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MVP一覧

  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリスka1856

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 真白き抱擁
    カリアナ・ノート(ka3733
    人間(紅)|10才|女性|魔術師
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師

  • 門垣 源一郎(ka6320
    人間(蒼)|30才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/21 16:29:58
アイコン 依頼内容相談所
ヒース・R・ウォーカー(ka0145
人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/05/23 01:47:28