クリスとマリー オーサンバラの譚

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2017/05/26 12:00
完成日
2017/06/03 21:47

みんなの思い出

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オープニング

 王国巡礼の旅は始まりの村『トルティア』に始まり、王国全土に点在する聖堂を一巡りした後、王都の丘──王城に並び立つ聖ヴェレニウス大聖堂における祈りと沐浴と抱擁とで完了する──
 若き侍女マリーと共にその旅に出た貴族の娘クリスティーヌも例に漏れない。彼女らがトルティアを出発してから、しかし、既に年単位の年月が流れていた。彼女らは今も旅の途上に──正確には、その寄り道の途上にある。
(ベリアルの王都襲撃やら茨ゴブリンの反乱やらで月単位の足止めに、ユグディラやら観光地やらの寄り道の数々…… いったいいつになったらこの旅を終えられるのやら……)
 やらやら星人(?)と化して溜息を吐くクリス。
 旅の途中、とある馬車同士の事故に出くわし。怪我をした従者からその主──大貴族ダフィールド侯爵家の四男、ルーサー(12歳)を領地に送り届けるよう頼まれて寄り道を余儀なくされた彼女らは、誘拐騒ぎやら船旅やら暴動騒ぎやらを経て…… ようやく、ついに、今しがた。ダフィールド侯爵領の首府、オーサンバラへと辿り着いたのであった。

「ここが、オーサンバラ……? 大貴族、ダフィールド侯爵領の、首府……?」
 信じられないと言う風に、マリーが呆然と呟いた。
 目の前に広がる光景は、良く言えば長閑で平穏── 端的に言ってしまえば、つまり、『田舎』ということになる。
「円卓会議に席を持つ大貴族、700年以上の歴史を誇る大領主のその『首府』が…… まさか! こんな! 田舎であったなんて! これならうち(オードラン伯爵領)の方がずっと都会よ、都会!」
「……侯爵家初代の遺言で、ダフィールドの家名を継ぐ者は代々、この地に居を構えることになってるんだよ。麓のニューオーサンの町は家格に相応しい大都市なんだからな!」
「負け惜しみ?」
「ムカッ! 今に見てろ。明日、ニューオーサンを案内してやる! 吠え面かくなよ!」
 これまでと同じ調子でルーサーを揶揄う侍女マリー。その背後に人の気配を感じて──それが、平民を人とも思わぬ貴族の息子、ここまで一行を案内して来た侯爵家三男ソードと知って、マリーが慌てて口を塞ぐ。
「ここが田舎なのは事実だがな。実際、俺も兄貴たちも実務はニューオーサンで行っている。……領内の経済中心地が時代と共に移ろっても、領主たる侯爵家の居館はオーサンバラにあり続けた── 歴史があると言えば聞こえはいいが、実際はただの古臭い、カビの生えたような町さ」
 気づくか気づかないか程度の語調で微かに、どこか吐き出すような口調でソードが言う。彼の前で正直すぎる言葉と態度を示し過ぎてしまったマリーは、お咎めがないことにホッとして。そんなマリーに苦笑しながら、クリスはその耳元に顔を寄せて囁いた。
「……これからはルーサーのことをルーサー様とお呼びしなければいけませんよ? ちゃんと敬語も使うように」
「……え?」
 思いがけないことを言われたというように、マリーとルーサーがクリスを見返す。
「ここはもう侯爵家のお膝元です。他家の者が──それも女性が──いつまでも対等な口を利いていたら、臣下領民に対するルーサー様の立場というものがないでしょう?」
「えー」
 マリーはぶーたれた。……クリスの話は理解できる。けど、今更、ルーサーに敬語だなんて。わたしの方がおねえちゃんなのに!
(そんなことしたら、ルーサーは絶対に調子に乗る。だって、私だったら絶対調子に乗るもの!)
 悔しさを噛み殺しながら、マリーはドヤ顔を決めているであろうルーサーの方を振り返る。
 だが、当のルーサーは何かショックを受けたように、食い気味にクリスに問い返していた。
「それは家臣の前だけだよね!? 人前じゃなかったら今まで通りに接してくれるんだよね!?」
「勿論。ルーサーがそれを望むなら」
 変わらぬ微笑みと共に頷くクリス。その返事を経て、ルーサーは心底ホッとしたような顔をした。
(……? 変なルーサー)
 マリーは首を捻った。
 言われなくたって、ルーサーは私とクリスの永遠の弟分なのに。

 葡萄畑の只中を抜ける、腰ほどまでの高さしかない石積みの壁に挟まれた狭い道を、丘の上へと歩いて行く。
 辿り着いた領主(侯爵家のことだ)の館は、町ほどには古いデザインではなかった。代々の侯爵たちは先祖の言いつけを頑なに守り続けてきたが、それぞれに思うところはあったのだろう。その居館は700年の間に幾度もの改築や建て増しが行われたようだった。
「ただいま帰ったぞ! 弟の、ルーサーのご帰還だ!」
 園庭が従僕を呼ぶより早く、ソードが両開きの扉を開けてさっさと館のエントランスに入る。
 侯爵家三男の呼びかけに、執事と思しき老紳士が慌てて玄関ホールに罷り越した。続けて大勢の使用人たちがルーサーの身を心配して(或いは心配するふりをして)玄関ホールに迎えに出て来る。
「えーい、うっとうしい! この通りルーサーは無事だ。分かったら散れ、散れ!」
 その人込みを手で追い散らしながら、ソードはクリスらを引き連れて館の奥へと向かった。
 その行く手の先で、若い一人の男が──恐らく20代初頭といったところか──胸の前に手を当て、一行に深々と礼を取った。
 紳士の格好──ネクタイの色の趣味が悪いのは、彼がバトラー(執事)であるからだろうか。また随分と若い男だが…… となると、先程の老紳士は家令か? オードラン家は兼任だが…… 先程見かけた使用人たち──ポーターに小姓にシェフに洗濯女中、御者や下男と言った馬周りの者たちに、多数の従僕やメイドたち──おそらくはこの館に、この館だけに詰めているであろうその人数を見るだけで、侯爵家の財力の程が容易に想像できようというものだ。
「オードラン伯爵家令嬢、クリスティーヌ様。その侍女、マリー様……」
 慎み深く観察の目を向けるクリスに向かって、執事と思しき男はその場にいる客人全員の名を呼び上げた。
「報せは受けておりました。ご受難に遭われたルーサー様を無事、当家までお連れくださったこと、感謝のしようもありません。ご当主様も感激なされ、クリス様らに直々に御礼申し上げたいとの儀、当主より直々に言い付かっております」
 まったく隙のない恭しさで朗々と感謝の言葉を述べる『執事』── ソードが男に悪態を吐いた。──その口調を止めろ。いい加減、虫唾が走る……!
 悪態を吐かれた男は、しかし、態度を全く変えず…… 丁寧な──ソードに対しては慇懃無礼と取れるような──態度と口調で改めてクリスたちに礼をした。
「ご当主は数日中に王都より戻られる予定です。それまでの間、是非当家にご逗留いただき、長旅の疲れを癒していただきたく思います」

リプレイ本文

「こちらが皆様の御部屋となります。全室個室となっております。至らぬ点がございましたらテーブルの上のベルにてお呼びください。では、夕食の用意が出来ましたらお迎えに上がります。本日のメインは川魚のムニエル・シエラリオ風でございます」

 若い『執事』によって部屋へと案内された翌朝──
 まるで一流ホテルで出すような豪華な朝食を終えた一行は、ニューオーサンの町へ繰り出すべく玄関ホールに集まっていた。
「さあ、ルーサー、案内なさい! ご自慢のニューオーサンへ!」
 久方ぶりに巡礼服以外の旅装に着替えたマリーが、高笑いと共にルーサーの前で無い胸を張る。対する少年も余裕綽々。恐らく寝ないで書いたのだろう、自作のパンフレットを手に応戦の構えは万全だ。
「……やれやれ。思いっきり侍女としての役目を放棄する気満々でやがりますね、マリーは」
(フラグ! それフラグですよ、マリーさん……! ドヤ顔したルーサーの前で跪く貴女の未来しか見えません……!)
 そんな少年少女の姿に苦笑するシレークス(ka0752)と、「やっちゃいましたね」顔でマリーを見るサクラ・エルフリード(ka2598)。サクラもまた普段の鎧姿でなく、お出かけ用のワンピースでおめかししている。
「……というか、あの娘、旅の最中も侍女らしいところを見た事ねーです。再教育する必要があるんじゃねーですか、クリス?」
 シレークスに冗談めかして肩を小突かれ、クリスは「あはは……」と力ない笑みでそれに応える。
「クリス、おめーも一緒に行きますですよ。心配しなくても侍女役はわたくしが引き受けてやがるです」
 どーんと胸を叩いて請け負いながら、強引にクリスの腕を取ってマリーとルーサーたちに合流するシレークス。
 そこへ、部下たちと合流するべく出発するつもりで玄関へとやって来たソードがばったりと一行と顔を合わせ……
「あ……」
「あ!」
 ピタリと身体を硬直させたソードと目が合ったユナイテル・キングスコート(ka3458)がズンズンと早足で詰め寄った。
「これはソード殿!」
「うっ!?」
「館内を回らせて頂きましたが、流石はダフィールド侯爵家の館ですね。見事な造りと調度に歴史と伝統を感じます。このユナイテル、感服致しました!」
「そ、それは良かった……では、私はこれで」
 いそいそとその場を去ろうとする侯爵家三男。この館に来る途中、野営した時の事── クリスの『護衛』としてユナイテルにガンガン威圧と牽制を受け続けたソードは、若干、彼女に苦手意識が刷り込まれていた。
「そう言えば、ヴァルナ殿がソード殿を食後のお茶にお誘いしたいと言っておりましたよ!」
「いえ、自分、これから公務が……」
「まさかレディのお誘いを断るなんて、そんな紳士にあるまじきことをソード様がするはずはない! さあ!」
 半ば強引に館の奥へと連れ込まれる三男坊。いったいどんな『茶会』に招待されようというのか──戦々恐々と連れていかれた先、中庭の白いテーブルで。朝の陽光を受けながら白磁のカップで優雅に、典雅に紅茶を飲むヴァルナ=エリゴス(ka2651)の姿に、ソードはホッと息を吐いた。聞けば名家の出身とのこと、幾らか余裕を取り戻して優男風に襟を正したソードだったが、しかし、その直後。ヴァルナの笑顔の向こう、傍らの木に立てかけられた大剣を見やって、グッ、と顔をひきつらせる……

 その頃、ルーエル・ゼクシディア(ka2473)とレイン・レーネリル(ka2887)の二人は、長閑なオーサンバラを2人で観光、もとい、情報収集すべく、手の空いた使用人たちに色々と聞いて回っていた。
「せっかくだし色々と見て回ろうかと。何か美味しい名産品とかありませんかね?」
「新鮮な野菜とか食べたいよね! 名物は? 意外と肉だったりして! あ、虫料理とかだったら、おねーさん、スルーで。急にダイエットしたい気分」
 名産…… 名産……? ここ田舎だから何もないよ──? 若い者たちは皆、オーサンバラでなくニューオーサンの観光を勧めた。古株の者たちは、地元の素朴だが美味しい料理店をそっと教えてくれた(ちなみに特産品はワインらしい)
 逆に、侯爵家の人間に対する事柄に関しては、長く勤めている者はそれなりに客人に対して節度を持っており、自然、家人に対する口も堅く。おしゃべりなのはやはり女中、中でもまだ年季の浅い年若いメイドたちだった。
「お館様はほとんどこの館にはいないなぁ。王都暮らしが長いから!」
 息子さんたち? 長男は堅物。子供の頃から笑ってるのを見たことないって話。逆に次男はいつも気味悪いくらい笑ってたって。三男は将来は将軍になるんだっていう乱暴者。四男は……イヤなガキ!
 家族間の仲は良いかって? さぁ、あれは良いのか悪いのか…… 貴族様の基準はあたしらにはよく分かんないよ。給料はいいけどね!
「……あの執事さんが皆さんのまとめ役なのかな? それにしては随分と若いけど、とても優秀な人なのかな?」
「若い……執事……?」
「え? あのソードさんから風当りが強かった……」
「ああ! 執事というか、あの人は……」
「私がどうかなさいましたか?」
 突然、背後から声を掛けられて、ルーエルとレイン、女中たちは驚いて素っ頓狂な悲鳴を上げた。いつの間にか背後に立っていた若い『執事』の登場に、油を売っていた女中たちが慌てて仕事場に戻る。
「何か使用人に御用でしょうか?」
「あ、いえ、オーサンバラで何か美味しいものはと訊いてまして……」
 『執事』は恭しく一礼すると、幾つかのおススメの場所を教えてくれた。更には、普通では入れぬ農場等にまで侯爵家の名で手配をしてくれた。
「……あの執事さん、何者なんだろう。超有能というか…… こう指パッチンしたら後ろに立ってそう」
 去りゆく執事の背を見やりながら、レインが感心したように言う。
「もしかして、侯爵家と繋がりがある人なのかな?」
 ルーエルがポツリと呟いた。

「領地に関する決定は、やはりご領主様お一人でご采配なさっているのですか?」
 音もなくカップを戻しながら、ヴァルナが向かいに座ったソードに向かって、茶飲み話のついでと言った風を装い、さりげなく本題を切り出した。
「基本的には、そうだ。しかし、最近は円卓会議の為に王都に詰めていることが多い。領内経営に関しては部分的に長兄と次兄に委ねられている」
「……新領に関しては? やはり問題は多いのですか?」
 ジロリ、とソードがヴァルナを見た。いつの間にか話題がきな臭い方向に変わっていたことに気付いたのだろう。
「なぜ、そのような事を?」
「後学の為に。こうしてお話を伺えるのは貴重な機会でありますし……」
 動揺の一切を見せず、涼しい顔をして、ヴァルナ。もっとも、それは方便で、自分が家を継ぐことは絶対にないのであるが……
「政治の話は俺には分からぬ。そう言った話はあの『執事もどき』とするがいい」
「執事もどき?」
 その言葉にユナイテルがピクリと反応した。
「昨日、出迎えてくれたあの若い『執事』の方ですか? ソード殿は彼に何か思うところがあるのですか?」
 ユナイテルに問われたソードの表情は、まさに七色変化と呼ぶに相応しいものだった。軽蔑、苦渋、冷笑、憤怒、悲嘆、渇望、苦み走った苛立ち、その他──諸々がごっちゃになったまま、グッと奥歯を噛み締める……
「私がどうかなさいましたか?」
 いきなり背後から声を掛けられて、3人は驚いた。いつの間にか背後に若い『執事』が(以下略
「私に何か御用でしょうか?」
「うっせえ! 呼んでねぇ! 引っ込んでろ!」
「は」
 恭しく一礼して去っていく『執事』。ソードもまた「興が覚めた」と席を立つ。
「最後に一つ…… ルーサー様のお命を狙ったと思しき騎兵について。ソード様にお心当たりはありませんか?」
 ソードがヴァルナを振り返った。そして、顎に手を当て、頸を捻った。
「野営中に話に聞いたルーサーの冒険譚、その誘拐騒ぎの一節だな? 武装した騎兵だったのろう? そんな金の掛かるもの、ほいほいとそんじょそこらには…… いや、そもそも、ルーサーを狙う意味が分からん。侯爵家の者という以外、あいつはただの子供だぞ?」
「侯爵家の者だから狙われた?」
「親父とか兄とか俺とか他に狙うべき者がいるだろう。身柄、でなく命、だろ? ルーサーだぞ? 訳が分からん」


 同日、午後── 『執事』が用意した馬車からニューオーサンへと降り立ったマリーは、大きさこそ王都に及ばぬものの、その活気に満ち溢れた都会っぷりに言葉を失い、立ち尽くしていた。
「なるほど。確かにこれはいい感じに栄えていますね」
 ワンピ姿のサクラがポンと、慰めるようにマリーの肩を叩く。
 ドヤ顔で胸を張って見せるルーサーに、しかし、マリーは「凄い…… 凄いよ、ルーサー!」と素直な笑顔で頷いた。……恐らく、最初からマリーなりにルーサーを励ますつもりであったのだろう。マリーもまたサクラと同様、元気のないルーサーのことを気に掛けていたらしい。
「なんだよ、それ…… 悔しがってくれないと面白くないよ」
 つまらなそうに口をとがらせながら、どことなく面映ゆそうに、ルーサー。「さあ、案内しなさいよ!」とお手製ガイドブックを指差し、促すマリーに、少年は胸を張って最初の行き先を告げる。
「クリスお嬢様。わたくしたちも参りましょう」
 品すら感じられるようににっこりと──最近とみに板について来たと自画自賛する聖職者の営業スマイル。これもわたくしの人格が成熟して来た賜物でやがりますね、と笑うシレークスに、クリスが「ん?」と揶揄い、笑う……

「これだけ栄えているだけあって、領主に対する評判もよい感じですかね」
 幾つかの店と観光名所を巡り、少し遅めの昼食を取りながら。サクラは街を回りながら住民に聞いた話を総括して言った。
 ルーサーの観光ガイドに連れられて歩きながら、ハンターたちは折を見て侯爵領に関する情報を収集して回っていた。アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は戦神の巡回宣教師として、盛り場や商店街で領内の経済や景気やについて。サクラはシレークスと共に領主や兄弟たちの人気や為人について。
「侯爵領の主産業は、鉱業とその流通・加工により発展した商業、そして金融だという話です。古くは現同盟圏との湖岸貿易で、現在は王都や港町との間の河川貿易が主な経済圏。主な産出品は鉄鋼、石材、貴金属。最近ではマテリアル鋼の値が上がっており、その新規鉱山開発も景気を底上げしているようです。農業に関しては山がちなフェルダー地方ということもあって農地は狭く、食料品の多くは領外からの輸入が多め。故に、新たに獲得した新領への入植が期待されてるようですね」
「好景気が続いていることもあり、住民の領主家に対する評価は高いです。何より700年以上の長きに亘って領主であるという郷土愛にも似た感情があるようですし。侯爵家個々人の為人については良く知らない、というのが正直なところのようですが」
 アデリシアとサクラの話に、クリスは首を傾げた。こうして一見する限り、領内において侯爵家の統治に問題は見られない。故に、新領に対する統治法だけが浮いて見える……

 ユナイテルは、商店街で買った焼きたてのパンをもってリーアの元に歩み寄ると、それを一つ分けながらその傍らに腰を下ろした。彼もまたニューオーサンへの同道を希望し、同じように街を散策していた。
「何か目ぼしいものでも見つけましたか?」
「……そうだな。もう少し自由に動ければ、もう少し幕間を覗けたかもしれないが」
 その言葉に沈黙するユナイテルとアデリシア。──どこの誰とも知れないが、自分たちには尾行がついていた。見ているだけだったので、こちらから手は出さなかったが。
「リーア。監視される覚えは?」
「……心当たりが多すぎるな。逆にそちらが監視されているという可能性は?」
 飄々としたリーアの言葉に、アデリシアは眉をひそめた。彼女はまだこの男を基本的に信用していない。
「……そういえば、貴様、この前も野営の時にも何か言っていたな。情報を集める機会がどうとか…… だが、あのソードの立ち振る舞いからして、部下に何かをさせようとしていたとしても何ら不思議ではなかった。更に付け加えさせてもらえば、私は無条件に門閥貴族を信用できるほど、世間を知らないわけではない」
 アデリシアの言う事を、リーアはそうだな、と首肯した。彼女らはクリスやマリーたちの安全を最優先に行動をしただけだ。それは非難されるようなものではない。
「ただ、俺らみたいな『商売』をしている人間は、それを踏まえた上で何をするか、何ができるかを考える」
 一切の油断なく。そして、一切の予断なく── いざショウダウンという時の為に少しでも『役』を強くする。……切り札は多い方がいい。その為にも手札は一枚でも多く引いておきたい。それがいざという時の『選択の幅』となる。勿論、偽札やババを掴まされる事もままあるが、それだって『札』(=情報)には違いない。
(この男……どこかの間者、ですかね?)
 男の言動からアデリシアはそう推測した。
 それを直接ぶつけるようなことはしなかった。どうせのらりくらりと核心は避けてくるだろうから……


 夕方── ニューオーサンを訪れた一行は帰宅の徒に着いた。
 夕陽に染まるオーサンバラの風景は、ニューオーサンの喧騒が嘘の様に穏やかで。その長閑な雰囲気は、酒と賑わいをこよなく愛するシレークスの様な人間にも好ましく感じられた。
 やがて、オーサンバラを一巡りしたルーエルとレインと合流し、互いに今日の出来事を話し合った。
「意外と皆に好かれているパーフェクト領主だったりして」
 皆の話を聞いたレインが素直な感想を口にして、しかし、新領の有様を知る全員から即座に「それはない」とのツッコミが入る。

 侯爵家の館が見えて来た。それにつれて、明るかったルーサーの表情が徐々に暗くなっていった。まるで祭りの後のように。
「ルーサー」
 馬車から最後に下りた少年を、サクラが背後から呼び止めた。
「不安なこととか寂しいことがあるなら話を聞きますよ? 館では話し難いことでも、ここなら誰も聞いていません」
「……」
「一緒に旅をした仲間として…… なんなら、お姉ちゃんとして(照 悩みを話してくれたらな、と」
「姉……?」
「何か?」
「いえ、なんでも」
 ルーサーは慌てて顔を背けた後、苦み走った表情と共にサクラに向き直った。
「……一週間後には、皆、ここから離れて行っちゃうんでしょう? ……僕を置いて」
「……!」
「皆と出会って、僕は広い世界を知った。でも、この古い世界に一人残されるくらいなら…… 新しい世界なんて、知らなければよかった」

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    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • いつも心に盾を
    ユナイテル・キングスコート(ka3458
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/23 00:17:48
アイコン 相談です・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/05/24 01:34:38