ゲスト
(ka0000)
或る少女と浜辺の雑魔
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/06/02 07:30
- 完成日
- 2017/06/10 23:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
白い砂浜、見渡せば白い波にエメラルドグリーンの海、振り返れば自分の足跡だけが続いている。
波を輝かせる太陽の眩しさ、砂のさらさらとしたくすぐったい感触、潮騒の心地良い音色。
ジェオルジの北東に広がる海岸、中でも海産物と観光を主産業とし、近くの農耕地域から得られる野菜や果物畜産と併せ、美味な料理を振る舞うと知られる村。
だが、ジェオルジの中でも末端の僻地、まだ水も冷たく内陸が郷祭で賑わう季節に観光客の姿は無く。
産業も娯楽も少ない村からは、年々、若者が出て行き、今では少ない住人の殆どが老人だった。
使って構わないと貸し出された今にも崩れそうな東屋の中、メグ、ことマーガレット・ミケーリは膝を抱えて座り込む。
ここはとても、美しい海だ。
そして、ここに来るまでのことを振り返った。
●
オフィスを訪ね、勧められた依頼に幾つか参加した。
戦闘を含む依頼では荷物になってばかりだったけれど、出来ることが少しずつ増え、コボルトを相手に怯まずに、他のハンターを支援する力を使える程度には経験を積んだ。
けれど、自分が戦えたことはなく、接近されれば慌てしまう。
回復の力を仲間に使うより、自身に使う方が多いくらいの戦績だった。
今日こそは、ちゃんと出来る依頼を受けよう、困っている人を助けたくても、自分じゃ余計に困らせてしまう。
そう思いつつ、依頼を探しに来たある日、いつもはにこやかに声を掛けてくる受付嬢が、依頼を掲示しながら困ったように溜息を吐いていた。
「……何かあったんですか?」
受付嬢に尋ねると、1枚の依頼を示された。
『浜に出る雑魔を駆除して下さい』
それはジェオルジのある村からの依頼だった。
村の浜辺に雑魔が出る、しかし、住人の多くはかくしゃくと、漁に持て成しにと働いており、夏になればまた賑わう村を離れたくは無い。
「……お爺さん達の話しでは、形は甲羅の無い海亀、幅の狭い顔に大きな口が川魚みたいな面構えだそうです。でも、やっぱり海から来たんでしょうね、潮が引いたら浜辺に転がってる事が多いんだそうです。何ヶ月か前にも見付かって……その時は1匹だけでしたので、まさか雑魔とは思わずに集まって角棒でつっついて、海に押し戻したって言うんですが……危なっかしい話しですよ」
受付嬢は溜息を吐く。それが3匹に増えて戻ってきたそうだ。
「ご老人が多いので、駆除しても避難して頂くのがいいのではとお話ししたのですが……」
受付嬢は、その提案を突っぱねた老人を思い出したのか苦笑いで首を横に振った。
「長年暮らした土地を離れたくは無いとのことでした……説得には、自信が有ったんですけどね」
メグは残念そうにする受付嬢を見る。
彼女に言いくるめられて参加した幾つもの依頼の記憶が蘇る。
あれが通じない人がいるのかと感心しながら話を聞く。
「あの、もう一回お願いしてみる……とか」
避難をお願いするだけならできる、危ない場所からは離れないといけないから。と、メグも同行を申し出るが、受付嬢はそれを断った。
「10回くらいはお願いしまして……危ないことはどうにか伝わったようで、逃げる準備はしたと色々と詰まったリュックも拝見しました。……でも、まだ村は離れたくないそうです。危機感だけはどうしても、難しいんですよね」
押し問答の末、出没した雑魔の駆除だけは取り付けたと受付嬢が依頼を見せる。
「……でも、こちらとしてはハンターさんに、その場しのぎの依頼ですっていうのもお願いしづらくて」
本来なら滞在して出没元らしい海に出たり、特徴を有しているらしい川を河口から遡ったり、村に手が伸びていないか調べる必要も有るだろう。村の中での遭遇や戦闘に備え住人の避難が済んでいるに越したことは無い。
それらの調査を省いて、浜に上がってきたものだけを駆除する依頼は頼みづらいと受付嬢が話す。
お話はしましたけれど、調査を行えていない雑魔の相手は難しいと思います。
けれど、もし興味があるなら、村に行ってみては如何でしょうか。
受付嬢の言葉に、メグの背後で緑の球体、淡く発光する不定形の精霊がぽん、とその後頭部に向かって跳ね、メグの首を縦に揺らした。
●
村を訪れたメグは、11回目のお願いのつもりで村の老人と話したが、柔やかに対応したその老人に軽くあしらわれた。そして、ハンターかと問われて思わず頷くと、浜へと連れ出された。
受付嬢の説得の効果が有ったのだろうか、流石に漁へ出ている船は無く、浜辺に小舟が乾されている。
そこから少し離れた辺りに東屋があった。それを指して老人は勝手に使えと呵呵と笑う。
そして、冒頭へ。
老人が去った後、浜辺を眺めて歩いたメグは東屋の床に座り込む。
ここはとても美しい海だ。と、そして、守りたいと思った。
一旦オフィスに帰ったメグが受付嬢に見てきたままを話すと、受付嬢は目を瞠って、直後ににっこりと満面の笑みになった。
「やっぱりハンターさんはすごいですね! 流石です! 私は浜には行けませんでしたから、きっと村の方もハンターさんに期待されてるんですよ! ハンターさんってほんっとうに、優しくて、強いんですから!」
「……そうだったんですか。……私も、先輩の皆さんには憧れちゃうので分かります……この村もはやく解決したら良いですね」
「では、よろしくお願いしますね!」
ぎゅっとメグの手を取って、受付嬢はそう言った。
難しいって言ったじゃ無いですか。
メグの反論を封じるように、緑の精霊が頭の上で跳ねる。
白い砂浜、見渡せば白い波にエメラルドグリーンの海、振り返れば自分の足跡だけが続いている。
波を輝かせる太陽の眩しさ、砂のさらさらとしたくすぐったい感触、潮騒の心地良い音色。
ジェオルジの北東に広がる海岸、中でも海産物と観光を主産業とし、近くの農耕地域から得られる野菜や果物畜産と併せ、美味な料理を振る舞うと知られる村。
だが、ジェオルジの中でも末端の僻地、まだ水も冷たく内陸が郷祭で賑わう季節に観光客の姿は無く。
産業も娯楽も少ない村からは、年々、若者が出て行き、今では少ない住人の殆どが老人だった。
使って構わないと貸し出された今にも崩れそうな東屋の中、メグ、ことマーガレット・ミケーリは膝を抱えて座り込む。
ここはとても、美しい海だ。
そして、ここに来るまでのことを振り返った。
●
オフィスを訪ね、勧められた依頼に幾つか参加した。
戦闘を含む依頼では荷物になってばかりだったけれど、出来ることが少しずつ増え、コボルトを相手に怯まずに、他のハンターを支援する力を使える程度には経験を積んだ。
けれど、自分が戦えたことはなく、接近されれば慌てしまう。
回復の力を仲間に使うより、自身に使う方が多いくらいの戦績だった。
今日こそは、ちゃんと出来る依頼を受けよう、困っている人を助けたくても、自分じゃ余計に困らせてしまう。
そう思いつつ、依頼を探しに来たある日、いつもはにこやかに声を掛けてくる受付嬢が、依頼を掲示しながら困ったように溜息を吐いていた。
「……何かあったんですか?」
受付嬢に尋ねると、1枚の依頼を示された。
『浜に出る雑魔を駆除して下さい』
それはジェオルジのある村からの依頼だった。
村の浜辺に雑魔が出る、しかし、住人の多くはかくしゃくと、漁に持て成しにと働いており、夏になればまた賑わう村を離れたくは無い。
「……お爺さん達の話しでは、形は甲羅の無い海亀、幅の狭い顔に大きな口が川魚みたいな面構えだそうです。でも、やっぱり海から来たんでしょうね、潮が引いたら浜辺に転がってる事が多いんだそうです。何ヶ月か前にも見付かって……その時は1匹だけでしたので、まさか雑魔とは思わずに集まって角棒でつっついて、海に押し戻したって言うんですが……危なっかしい話しですよ」
受付嬢は溜息を吐く。それが3匹に増えて戻ってきたそうだ。
「ご老人が多いので、駆除しても避難して頂くのがいいのではとお話ししたのですが……」
受付嬢は、その提案を突っぱねた老人を思い出したのか苦笑いで首を横に振った。
「長年暮らした土地を離れたくは無いとのことでした……説得には、自信が有ったんですけどね」
メグは残念そうにする受付嬢を見る。
彼女に言いくるめられて参加した幾つもの依頼の記憶が蘇る。
あれが通じない人がいるのかと感心しながら話を聞く。
「あの、もう一回お願いしてみる……とか」
避難をお願いするだけならできる、危ない場所からは離れないといけないから。と、メグも同行を申し出るが、受付嬢はそれを断った。
「10回くらいはお願いしまして……危ないことはどうにか伝わったようで、逃げる準備はしたと色々と詰まったリュックも拝見しました。……でも、まだ村は離れたくないそうです。危機感だけはどうしても、難しいんですよね」
押し問答の末、出没した雑魔の駆除だけは取り付けたと受付嬢が依頼を見せる。
「……でも、こちらとしてはハンターさんに、その場しのぎの依頼ですっていうのもお願いしづらくて」
本来なら滞在して出没元らしい海に出たり、特徴を有しているらしい川を河口から遡ったり、村に手が伸びていないか調べる必要も有るだろう。村の中での遭遇や戦闘に備え住人の避難が済んでいるに越したことは無い。
それらの調査を省いて、浜に上がってきたものだけを駆除する依頼は頼みづらいと受付嬢が話す。
お話はしましたけれど、調査を行えていない雑魔の相手は難しいと思います。
けれど、もし興味があるなら、村に行ってみては如何でしょうか。
受付嬢の言葉に、メグの背後で緑の球体、淡く発光する不定形の精霊がぽん、とその後頭部に向かって跳ね、メグの首を縦に揺らした。
●
村を訪れたメグは、11回目のお願いのつもりで村の老人と話したが、柔やかに対応したその老人に軽くあしらわれた。そして、ハンターかと問われて思わず頷くと、浜へと連れ出された。
受付嬢の説得の効果が有ったのだろうか、流石に漁へ出ている船は無く、浜辺に小舟が乾されている。
そこから少し離れた辺りに東屋があった。それを指して老人は勝手に使えと呵呵と笑う。
そして、冒頭へ。
老人が去った後、浜辺を眺めて歩いたメグは東屋の床に座り込む。
ここはとても美しい海だ。と、そして、守りたいと思った。
一旦オフィスに帰ったメグが受付嬢に見てきたままを話すと、受付嬢は目を瞠って、直後ににっこりと満面の笑みになった。
「やっぱりハンターさんはすごいですね! 流石です! 私は浜には行けませんでしたから、きっと村の方もハンターさんに期待されてるんですよ! ハンターさんってほんっとうに、優しくて、強いんですから!」
「……そうだったんですか。……私も、先輩の皆さんには憧れちゃうので分かります……この村もはやく解決したら良いですね」
「では、よろしくお願いしますね!」
ぎゅっとメグの手を取って、受付嬢はそう言った。
難しいって言ったじゃ無いですか。
メグの反論を封じるように、緑の精霊が頭の上で跳ねる。
リプレイ本文
●
高く昇る白い太陽が波を輝かせ、穏やかな潮騒は村へ続く石畳の、長い年月を経て摩耗した轍を辿るハンター達に耳を擽る。
遠目に褪せた村の建物が見えてくる。潮風の傷みが丁寧に手入れをされ、塗装を重ねた跡さえ見えるが、人の気配の乏しさが物寂しい。
八原 篝(ka3104)は双眼鏡を上げて海を眺めた。
「海岸の雑魔を掃除して今回の仕事はおしまい……だったら簡単なんだけど」
浜辺にはまだ1匹も見当たらない。まだ、潮位が高いのだろう。
村の方へも目を向けるが侵入された様子は無い。
J・D(ka3351)も浜辺の方を眺めている。
「さて、どこかに巣でもあるやら、この砂浜に卵でも産んでいきやがったやら……」
今回だけで根絶出来れば良いがと、呟いて村への道を歩いていく。
2人の声にメグも海へ目を向けたが表情は暗い。
元気が無いのだろうかと、カリアナ・ノート(ka3733)はその横顔を覗いて首を傾げたが、元気づける方法を思い付くと、にっこりと笑んで腰に飛びつき腕を回す。
「……メグおねーさん、元気でた?」
抱き付いちゃえ。と、明るい声で。
今回もよろしくねと笑顔で見上げると、驚いた顔をしながらメグもよろしくと答えた。
長く暮らす村を追いやられるのは癪だろうと、ジェイは近付いて来た村を一瞥して呟く。
「……それで雑魔に取り殺されッちまう様な事になっちまっちゃァ、元も子もあるめえ」
風よけの木と小さな畑。畑には鎌を提げた老齢の男性に手拭いと水筒を差し出す同じ年頃の女性が見えた。親しげな様子の彼等は夫婦だろうか、ハンター達に気付くと皺の多い顔で微笑み、ようこそ、と頭を垂れる。
彼等の家の軒にも網や浮きが吊られ、普段は漁に出ているのだろうと察せられた。
ディビィ・J・ロッカー(ka6843)が彼等の方へと走っていく。溌剌とした声を掛け、雑魔の駆除に来たハンターだと名乗ると、2人は嬉しそうに近付いてくる。
「いやー私も港町の出身でさー。親近感と言いましょーかっ」
漁業中心の港町。だが、これも一つの縁だと、金色の目がなつっこく笑う。
ハンター達を眺めて、ディビィと同じ目的かと尋ねた男性は、宿へ案内すると手招いた。
海沿いに歩く。ディビィは地元を紹介しながら海の話しを続け、男性は皺の多い眦を垂れてそれを聞いている。
ディビィに促されたメグを見ると、先日ぶりだと言って、いい人達を連れてきてくれたとハンター達を見回した。
宿に着くと依頼人が軽く片手を上げて出てくる。
「あなたが、この村の代表者?」
八原が尋ねると、依頼したのは自分だと、その村人が頷く。
「……前に偶然流れ着いた一匹が仲間を呼び寄せただけなら良いけど」
その雑魔の対応に携わった村人も、そうは思っていないらしく溜息を吐く。
村を襲わない、同じ海岸に戻ってくる、この雑魔には不審な部分が多い。
調査のために海へ出たい。そのために船を借りられないかと尋ねると、佇んでいた男性が構わないと応じた。
雑魔が出るのはもう少し日が傾いてからだと、依頼人はハンター達を連れて村を歩く。
小さな商店や、数人が談笑している広場、村人の殆どは漁に出られずに畑を作っているか、手工業に勤しんでいるという。耳を澄ますと機の音が聞こえてきた。
後は勝手に見たら良いと言って、依頼人はハンター達を浜まで連れて戻る。
「……料理で有名ってことは、美味しいお酒もあるのかな」
村の方を振り向いてディビィが尋ねると、依頼人が頷いた。
「海にお酒は欠かせないよ!」
いける口かと笑って、済んだら呑みに来いと、杯を煽る仕草で手を揺らし依頼人は宿へ帰っていく。
その姿が見えなくなる前に、早速調査をと浜辺へ歩き出したカリアナは擽る様な潮風に腕を広げた。
「――わぁあ! 綺麗っ!」
振り返れば真っ白な砂に足跡が続く。何も無い白い浜に静かな波が寄せては返し、少しずつ引いていく。
姉達にも見せたいと青い瞳を輝かせて、はっとして仕事だと思い出した。
●
暫く見ていると波打ち際に鰭のような物が見えた。やがてそれは藻掻くように動いて、浜に上がる。
重たげな甲羅を背負った亀の形に魚の顔。
平たい顔の横に付いたぎょろりとした目にはハンター達が写っていないのか、気付いた様子も無く、浜を海岸線に沿うように這っていく。
その後は真っ直ぐで、どこかへ向かっているようだが村の方向ではない。
八原が向かう先へと双眼鏡を向け、倍率を上げていくが見えるのは浜辺とその先の森くらいだった。
観察をしている中、続けて2匹。最初の1匹と殆ど変わらぬ場所から浜に上がった。
その内の1匹は甲羅を下に打ち上げられて藻掻いている。
もう1匹はそれに気付いたのか引き返してくるがその動きは非常に遅い。
観察に備え船とロープの支度を進める八原とジェイが、その場から仕留められそうな程、緩やかでハンター達に対して無警戒だった。
船を出して海から雑魔を観察し、海中を覗うディビィにも、雑魔の何等かの痕跡や棲み家のような気になる物は見付からない。
村の方から鐘が聞こえた。干潮を知らせているのだろう。
ハンター達は雑魔の出現からの時間を思い起こす。
彼等が浜にいる時間は長くないようだ。
カリアナはメグと並んでその雑魔を観察している。
何をしているのだろうと、じっと様子を覗っていると、メグが不安そうに足を進めた。
近付いて見た方が良いのかな。そう問われてカリアナはメグの震える足を見た。
「……えっとね。ゆっくり進んでいけばいいと思うわ。私もかなり出来ないこと多いもの」
まずは自分が今できることを精一杯できれば、いい。先生にはそう教わった。
メグの手を取って引き留める。いい先生だね、と言って足を止め、近付かない距離を保って、雑魔と同じ方向へ一歩ずつ歩き出した。
打ち寄せる波が雑魔の甲羅に掛かった。
観察は限界だろう。最初に上がってきた場所と、這った方角、今の場所の記録を残すと、八原は1匹に接近しその首へロープを掛けた。
雑魔は一度止まるが、ロープの撓みを知ると波を浴びながら進んでいく。
ジェイが荷物から取り出した弓に、独特の臭気を持つ香り袋を仕込む矢を番える。雑魔の甲羅に落ちた矢が強い臭いを染みつかせた。周囲にも広がったその臭いに、連れていた犬が唸る。
弓を置きロープを最後の1匹の首に掛けた。
「よっし、行くかねェ」
「上手く引っ張ってってもらえたら楽なんだけど」
雑魔は殆ど波に呑まれている。
「随分ゆっくり動いてたね。……みんな乗れるよ」
ディビィが船を浜に戻し、八原とジェイが乗り込むと2人のロープが伸びきらないように漕ぎ出した。
波に任せるように揺られる。
ロープは深く深く潜っていく。感じる手応えに雑魔を逃した訳ではないと分かるが、ロープの端に手が至ると、八原は眉を寄せた。
これ以上は終えないかとジェイもロープを手放した。
眩しさに振り返ると山に沈んでいく日が見える。
海の上は藤色に染まり、遠く白く薄い月が浮かび掛かる。
もうすぐ夜だ。
「夜に舟は出したくないな。雑魔関係なしに落ちたら土左衛門だし」
思ったほど終えなかったけれど、今日は村に戻ろうと呟いた。
波に流されるように船は浜辺に帰ってきた。
ジェイは借りた地図に情報を書き込んで、犬を連れて再び浜へ。
八原は昼間には見られなかった村の中の水路を確認し、避難場所や避難経路を見て回って。
行き合った住人は少ないが、漁に出られずに苛立っている他は、今のところ概ね健康そうだった。
●
宿に戻ると、ハンター達に気付いた依頼人が次の引き潮は日の出の頃だと教えに来た。
夜も見回るというハンター達に、気を付けろと言って差し入れだとサンドウィッチを渡す。
ランタンを準備して、ハンター達は交代で浜辺へ。
ディビィは波打ち際を歩き、ながらそれを齧る。きつね色に焼かれたパンには、期待したような魚や海老では無く、レタスと豚肉のベーコンが挟まれていた。
トランシーバーを持ちだしてはいたが、使うようなことは起きることなく、時間を終える。
カリアナも以前にも夜の見張りで力を発揮したチョコレートを齧るが、潮風に当たった身体は想像以上に疲れていたのだろう、東屋の柱に凭れて目を擦りながら微睡み掛ける。
八原も浜辺へ出るが、丁度後退した時に、何かがたゆたうのを見かけた。
別の雑魔かとランタンの灯りを向ける。
「別の奴が上がってきたりはしないわよね」
訝しむ声に応えぬそれは、片側を輪にしたロープだった。
岩に擦れたのだろう、傷付いたそれを引き上げる。雑魔が出てきたのと同じ場所。
海中に流れが有るのだろう、浜で沈んだ物は、ここに流れ着くようだ。
最後の見張りを終える頃、空が白んで靄が棚引く中で水平線が燦めくと朝日が昇ってくる。
どこで飼われているのだろうか鶏の声が高く響き、ハンター達は浜辺に集まる。
現れた雑魔の動きは変わらない。
それなら、情報はもう十分だろう。
3匹全て浜に出るのを待って、ハンター達は海を背に回り込む。
1匹は海が濯ぎきれなかった臭いを残し、嗅ぎ取ったらしい犬が吠える。
もう1匹の首にはまだロープが残っていたが、岩に絡んでいたのだろう、元の長さの半分程に切れている。
朝日を背にすれば照らされた雑魔の歪さが明瞭に浮かび上がる。どこを見でも無く浜を進んで、波に抗えずに沈み、また浜に打ち上がり。
来た場所、向かう場所は、彼等の進む方向を追えば分かるだろう。この浜と村周辺にマテリアルの汚染された場所は無い。
「もういいわ、逃がさない」
八原がスピアガンを構える。マテリアルを込めるが眩いほどの光りの中、その双眸に揺れた精霊の色をうかがい知ることは出来ない。
頭を狙い放たれた銛が、違わず首の付け根を貫くと雑魔は鰭を暴れさせて砂を巻き上げる。
黒水晶のレンズに赤い点が浮かぶ。遠い光りを収束させて映したようなそれは、しかし、内側からのもの。
赤く光る瞳が照門を覗く。よく調整されたそれは敵に据えた照星を中央に捉えると、狙い通りに貫いた。
万が一に備えて小銃には水中に対応した弾を込めるが、浜で歩みを止めつつ有る雑魔にそれを使う機会は無さそうだ。
メグを気に掛けながら後方で大鎌を構えるカリアナは、刈り取る様にその長い柄を取り回して紫の光を放つ。
その光に囲まれた雑魔が鰭を砂に沈ませて藻掻いた。甲羅には深い亀裂が走っている。
ディビィの足元に波紋が浮かぶ。砂地が水面のように揺らぎ、現れた鎖の幻が白い肌を縛り上げた。
メグを振り返ると、棍棒を握って祈るように目を瞑った。
マテリアルの盾を纏い、砂を蹴って前進、藻掻く雑魔に向かって長柄を叩き付けた。
その瞬間浮かぶ白鯨の幻に微笑み、次の攻撃に構える。
両端に刃を持ったそれは節を屈曲させながら、撓るようにディビィの手に操られた。
斃した雑魔の割れた甲羅からどろりと黒い滴りが零れる。土塊の様なそれは白い砂を穢すように広がって、やがて風に散らされて霧散する。
1匹目が消えると、重力の中藻掻いていた残りの2匹も首をそちらに向けて近付いてくる。
「よそ見してやがるな、こっちだぜェ」
軽い銃声、からりと回るリボルバー。甲羅に跳ねた弾丸は後ろの敵の鰭にも当たる。
「おねーさん、大丈夫?」
動こうとする雑魔に銀の刃を翻し、禍々しいまでの宝玉を朝日に輝かせて氷の矢で貫いた。
「こっちだよ、一緒に頑張ろう」
得物を振るう。幻の白鯨が悠悠と泳ぐ姿を見せる。
刃が甲羅の割れ目を捉えて深く貫いた。
「後1匹……本当にこれで最後みたいね」
鋏の飾りに朝の光りが伝う。狙いを定めて引鉄を引いた。
●
また漁が出来ると嬉しそうな老人に見送られ、ハンター達は村を出る。
来た時よりも少し前を向いて歩くメグが、別れ際にディビィを見詰め、何かを言いかけては何度も躊躇って、深々と頭を下げて、ありがとうございましたと叫ぶように言い残し走り去って行く。
ディビィはその背に手を振り、無傷だよと笑った。
報告の届けられたオフィスでは、依頼を掲示した受付嬢が地図上の印を前後に伸ばして頭を捻っていた。
「何でしょうか、この、何とも言えない感じ……でも、この先に有るのは森と街道だけですよね。もーっと、もーっと先なのでしょうか……」
雑魔の動きは、一直線にどこかを目指し、満ちてきた波に攫われて海流に従い元の場所に打ち上げられるもの。
周辺に発生源となる様な物は無く、この浜辺で出没するのは3匹限りだと確認された。
村も、警戒は続けているらしいが、今では漁にも出ているそうだ。
「……この辺りで何かあったような……」
地図上の街道、ジェオルジとヴァリオスを結ぶその線を指でつついて考え込む。
そういえば、発生源は見付かってませんでしたね。そっちから考えて見るのは如何でしょう。
海底なんてことなら、海に出たハンターさんはもっと危ない目に遭っていたでしょうね。
そして、浜辺と船からの双眼鏡の範囲には無いとするなら、……流れてきたんでしょうか。
受付嬢は地図を撫でる。
後日、新たな依頼が掲示されることとなる。
高く昇る白い太陽が波を輝かせ、穏やかな潮騒は村へ続く石畳の、長い年月を経て摩耗した轍を辿るハンター達に耳を擽る。
遠目に褪せた村の建物が見えてくる。潮風の傷みが丁寧に手入れをされ、塗装を重ねた跡さえ見えるが、人の気配の乏しさが物寂しい。
八原 篝(ka3104)は双眼鏡を上げて海を眺めた。
「海岸の雑魔を掃除して今回の仕事はおしまい……だったら簡単なんだけど」
浜辺にはまだ1匹も見当たらない。まだ、潮位が高いのだろう。
村の方へも目を向けるが侵入された様子は無い。
J・D(ka3351)も浜辺の方を眺めている。
「さて、どこかに巣でもあるやら、この砂浜に卵でも産んでいきやがったやら……」
今回だけで根絶出来れば良いがと、呟いて村への道を歩いていく。
2人の声にメグも海へ目を向けたが表情は暗い。
元気が無いのだろうかと、カリアナ・ノート(ka3733)はその横顔を覗いて首を傾げたが、元気づける方法を思い付くと、にっこりと笑んで腰に飛びつき腕を回す。
「……メグおねーさん、元気でた?」
抱き付いちゃえ。と、明るい声で。
今回もよろしくねと笑顔で見上げると、驚いた顔をしながらメグもよろしくと答えた。
長く暮らす村を追いやられるのは癪だろうと、ジェイは近付いて来た村を一瞥して呟く。
「……それで雑魔に取り殺されッちまう様な事になっちまっちゃァ、元も子もあるめえ」
風よけの木と小さな畑。畑には鎌を提げた老齢の男性に手拭いと水筒を差し出す同じ年頃の女性が見えた。親しげな様子の彼等は夫婦だろうか、ハンター達に気付くと皺の多い顔で微笑み、ようこそ、と頭を垂れる。
彼等の家の軒にも網や浮きが吊られ、普段は漁に出ているのだろうと察せられた。
ディビィ・J・ロッカー(ka6843)が彼等の方へと走っていく。溌剌とした声を掛け、雑魔の駆除に来たハンターだと名乗ると、2人は嬉しそうに近付いてくる。
「いやー私も港町の出身でさー。親近感と言いましょーかっ」
漁業中心の港町。だが、これも一つの縁だと、金色の目がなつっこく笑う。
ハンター達を眺めて、ディビィと同じ目的かと尋ねた男性は、宿へ案内すると手招いた。
海沿いに歩く。ディビィは地元を紹介しながら海の話しを続け、男性は皺の多い眦を垂れてそれを聞いている。
ディビィに促されたメグを見ると、先日ぶりだと言って、いい人達を連れてきてくれたとハンター達を見回した。
宿に着くと依頼人が軽く片手を上げて出てくる。
「あなたが、この村の代表者?」
八原が尋ねると、依頼したのは自分だと、その村人が頷く。
「……前に偶然流れ着いた一匹が仲間を呼び寄せただけなら良いけど」
その雑魔の対応に携わった村人も、そうは思っていないらしく溜息を吐く。
村を襲わない、同じ海岸に戻ってくる、この雑魔には不審な部分が多い。
調査のために海へ出たい。そのために船を借りられないかと尋ねると、佇んでいた男性が構わないと応じた。
雑魔が出るのはもう少し日が傾いてからだと、依頼人はハンター達を連れて村を歩く。
小さな商店や、数人が談笑している広場、村人の殆どは漁に出られずに畑を作っているか、手工業に勤しんでいるという。耳を澄ますと機の音が聞こえてきた。
後は勝手に見たら良いと言って、依頼人はハンター達を浜まで連れて戻る。
「……料理で有名ってことは、美味しいお酒もあるのかな」
村の方を振り向いてディビィが尋ねると、依頼人が頷いた。
「海にお酒は欠かせないよ!」
いける口かと笑って、済んだら呑みに来いと、杯を煽る仕草で手を揺らし依頼人は宿へ帰っていく。
その姿が見えなくなる前に、早速調査をと浜辺へ歩き出したカリアナは擽る様な潮風に腕を広げた。
「――わぁあ! 綺麗っ!」
振り返れば真っ白な砂に足跡が続く。何も無い白い浜に静かな波が寄せては返し、少しずつ引いていく。
姉達にも見せたいと青い瞳を輝かせて、はっとして仕事だと思い出した。
●
暫く見ていると波打ち際に鰭のような物が見えた。やがてそれは藻掻くように動いて、浜に上がる。
重たげな甲羅を背負った亀の形に魚の顔。
平たい顔の横に付いたぎょろりとした目にはハンター達が写っていないのか、気付いた様子も無く、浜を海岸線に沿うように這っていく。
その後は真っ直ぐで、どこかへ向かっているようだが村の方向ではない。
八原が向かう先へと双眼鏡を向け、倍率を上げていくが見えるのは浜辺とその先の森くらいだった。
観察をしている中、続けて2匹。最初の1匹と殆ど変わらぬ場所から浜に上がった。
その内の1匹は甲羅を下に打ち上げられて藻掻いている。
もう1匹はそれに気付いたのか引き返してくるがその動きは非常に遅い。
観察に備え船とロープの支度を進める八原とジェイが、その場から仕留められそうな程、緩やかでハンター達に対して無警戒だった。
船を出して海から雑魔を観察し、海中を覗うディビィにも、雑魔の何等かの痕跡や棲み家のような気になる物は見付からない。
村の方から鐘が聞こえた。干潮を知らせているのだろう。
ハンター達は雑魔の出現からの時間を思い起こす。
彼等が浜にいる時間は長くないようだ。
カリアナはメグと並んでその雑魔を観察している。
何をしているのだろうと、じっと様子を覗っていると、メグが不安そうに足を進めた。
近付いて見た方が良いのかな。そう問われてカリアナはメグの震える足を見た。
「……えっとね。ゆっくり進んでいけばいいと思うわ。私もかなり出来ないこと多いもの」
まずは自分が今できることを精一杯できれば、いい。先生にはそう教わった。
メグの手を取って引き留める。いい先生だね、と言って足を止め、近付かない距離を保って、雑魔と同じ方向へ一歩ずつ歩き出した。
打ち寄せる波が雑魔の甲羅に掛かった。
観察は限界だろう。最初に上がってきた場所と、這った方角、今の場所の記録を残すと、八原は1匹に接近しその首へロープを掛けた。
雑魔は一度止まるが、ロープの撓みを知ると波を浴びながら進んでいく。
ジェイが荷物から取り出した弓に、独特の臭気を持つ香り袋を仕込む矢を番える。雑魔の甲羅に落ちた矢が強い臭いを染みつかせた。周囲にも広がったその臭いに、連れていた犬が唸る。
弓を置きロープを最後の1匹の首に掛けた。
「よっし、行くかねェ」
「上手く引っ張ってってもらえたら楽なんだけど」
雑魔は殆ど波に呑まれている。
「随分ゆっくり動いてたね。……みんな乗れるよ」
ディビィが船を浜に戻し、八原とジェイが乗り込むと2人のロープが伸びきらないように漕ぎ出した。
波に任せるように揺られる。
ロープは深く深く潜っていく。感じる手応えに雑魔を逃した訳ではないと分かるが、ロープの端に手が至ると、八原は眉を寄せた。
これ以上は終えないかとジェイもロープを手放した。
眩しさに振り返ると山に沈んでいく日が見える。
海の上は藤色に染まり、遠く白く薄い月が浮かび掛かる。
もうすぐ夜だ。
「夜に舟は出したくないな。雑魔関係なしに落ちたら土左衛門だし」
思ったほど終えなかったけれど、今日は村に戻ろうと呟いた。
波に流されるように船は浜辺に帰ってきた。
ジェイは借りた地図に情報を書き込んで、犬を連れて再び浜へ。
八原は昼間には見られなかった村の中の水路を確認し、避難場所や避難経路を見て回って。
行き合った住人は少ないが、漁に出られずに苛立っている他は、今のところ概ね健康そうだった。
●
宿に戻ると、ハンター達に気付いた依頼人が次の引き潮は日の出の頃だと教えに来た。
夜も見回るというハンター達に、気を付けろと言って差し入れだとサンドウィッチを渡す。
ランタンを準備して、ハンター達は交代で浜辺へ。
ディビィは波打ち際を歩き、ながらそれを齧る。きつね色に焼かれたパンには、期待したような魚や海老では無く、レタスと豚肉のベーコンが挟まれていた。
トランシーバーを持ちだしてはいたが、使うようなことは起きることなく、時間を終える。
カリアナも以前にも夜の見張りで力を発揮したチョコレートを齧るが、潮風に当たった身体は想像以上に疲れていたのだろう、東屋の柱に凭れて目を擦りながら微睡み掛ける。
八原も浜辺へ出るが、丁度後退した時に、何かがたゆたうのを見かけた。
別の雑魔かとランタンの灯りを向ける。
「別の奴が上がってきたりはしないわよね」
訝しむ声に応えぬそれは、片側を輪にしたロープだった。
岩に擦れたのだろう、傷付いたそれを引き上げる。雑魔が出てきたのと同じ場所。
海中に流れが有るのだろう、浜で沈んだ物は、ここに流れ着くようだ。
最後の見張りを終える頃、空が白んで靄が棚引く中で水平線が燦めくと朝日が昇ってくる。
どこで飼われているのだろうか鶏の声が高く響き、ハンター達は浜辺に集まる。
現れた雑魔の動きは変わらない。
それなら、情報はもう十分だろう。
3匹全て浜に出るのを待って、ハンター達は海を背に回り込む。
1匹は海が濯ぎきれなかった臭いを残し、嗅ぎ取ったらしい犬が吠える。
もう1匹の首にはまだロープが残っていたが、岩に絡んでいたのだろう、元の長さの半分程に切れている。
朝日を背にすれば照らされた雑魔の歪さが明瞭に浮かび上がる。どこを見でも無く浜を進んで、波に抗えずに沈み、また浜に打ち上がり。
来た場所、向かう場所は、彼等の進む方向を追えば分かるだろう。この浜と村周辺にマテリアルの汚染された場所は無い。
「もういいわ、逃がさない」
八原がスピアガンを構える。マテリアルを込めるが眩いほどの光りの中、その双眸に揺れた精霊の色をうかがい知ることは出来ない。
頭を狙い放たれた銛が、違わず首の付け根を貫くと雑魔は鰭を暴れさせて砂を巻き上げる。
黒水晶のレンズに赤い点が浮かぶ。遠い光りを収束させて映したようなそれは、しかし、内側からのもの。
赤く光る瞳が照門を覗く。よく調整されたそれは敵に据えた照星を中央に捉えると、狙い通りに貫いた。
万が一に備えて小銃には水中に対応した弾を込めるが、浜で歩みを止めつつ有る雑魔にそれを使う機会は無さそうだ。
メグを気に掛けながら後方で大鎌を構えるカリアナは、刈り取る様にその長い柄を取り回して紫の光を放つ。
その光に囲まれた雑魔が鰭を砂に沈ませて藻掻いた。甲羅には深い亀裂が走っている。
ディビィの足元に波紋が浮かぶ。砂地が水面のように揺らぎ、現れた鎖の幻が白い肌を縛り上げた。
メグを振り返ると、棍棒を握って祈るように目を瞑った。
マテリアルの盾を纏い、砂を蹴って前進、藻掻く雑魔に向かって長柄を叩き付けた。
その瞬間浮かぶ白鯨の幻に微笑み、次の攻撃に構える。
両端に刃を持ったそれは節を屈曲させながら、撓るようにディビィの手に操られた。
斃した雑魔の割れた甲羅からどろりと黒い滴りが零れる。土塊の様なそれは白い砂を穢すように広がって、やがて風に散らされて霧散する。
1匹目が消えると、重力の中藻掻いていた残りの2匹も首をそちらに向けて近付いてくる。
「よそ見してやがるな、こっちだぜェ」
軽い銃声、からりと回るリボルバー。甲羅に跳ねた弾丸は後ろの敵の鰭にも当たる。
「おねーさん、大丈夫?」
動こうとする雑魔に銀の刃を翻し、禍々しいまでの宝玉を朝日に輝かせて氷の矢で貫いた。
「こっちだよ、一緒に頑張ろう」
得物を振るう。幻の白鯨が悠悠と泳ぐ姿を見せる。
刃が甲羅の割れ目を捉えて深く貫いた。
「後1匹……本当にこれで最後みたいね」
鋏の飾りに朝の光りが伝う。狙いを定めて引鉄を引いた。
●
また漁が出来ると嬉しそうな老人に見送られ、ハンター達は村を出る。
来た時よりも少し前を向いて歩くメグが、別れ際にディビィを見詰め、何かを言いかけては何度も躊躇って、深々と頭を下げて、ありがとうございましたと叫ぶように言い残し走り去って行く。
ディビィはその背に手を振り、無傷だよと笑った。
報告の届けられたオフィスでは、依頼を掲示した受付嬢が地図上の印を前後に伸ばして頭を捻っていた。
「何でしょうか、この、何とも言えない感じ……でも、この先に有るのは森と街道だけですよね。もーっと、もーっと先なのでしょうか……」
雑魔の動きは、一直線にどこかを目指し、満ちてきた波に攫われて海流に従い元の場所に打ち上げられるもの。
周辺に発生源となる様な物は無く、この浜辺で出没するのは3匹限りだと確認された。
村も、警戒は続けているらしいが、今では漁にも出ているそうだ。
「……この辺りで何かあったような……」
地図上の街道、ジェオルジとヴァリオスを結ぶその線を指でつついて考え込む。
そういえば、発生源は見付かってませんでしたね。そっちから考えて見るのは如何でしょう。
海底なんてことなら、海に出たハンターさんはもっと危ない目に遭っていたでしょうね。
そして、浜辺と船からの双眼鏡の範囲には無いとするなら、……流れてきたんでしょうか。
受付嬢は地図を撫でる。
後日、新たな依頼が掲示されることとなる。
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卓~海岸掃除~ J・D(ka3351) エルフ|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/06/02 00:42:53 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/29 21:20:58 |