• 血盟

【血盟】煩悶憂苦の港

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/06/05 09:00
完成日
2017/06/07 22:31

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●港街ガンナ・エントラータ
 刻令術式外輪船フライングシスティーナ号は、母港である港町へと到着した。あとは入港を待つだけだ。
 途中、想定された歪虚の襲撃は無かった。敵勢力も多大な損害を受けている……というのもあるかもしれないが。
「……」
 やや元気の無さそうな様子で、水の精霊が艦尾付近の見張り台で座り込んでいた。
 疲れているようにも、何かに苦悩しているようにも見える。船の居候であるエロディラも寂しそうな様子で水の精霊にピタリと寄り添っていた。
「私って、なんでしょうか……」
 零れ落ちたような呟き。
 精霊と人が違うというのは、ある程度は分かってきた。
 人は死ぬと偲ばれる――それも、親しければ親しいほど、大切であればあるほどに。その思いに触れた自身がこの姿になったのは偶然に過ぎない。
「この姿が嬉しいという思いと、悲しいという思いと……それで、私は一体、どうしていけばいいのでしょうか」
 ――分からない。
 自分が何故、自我を持ち、存在するのか。
「……そろそろ、戻りたいな」
 遠く西の海を見つめながら水の精霊はそんな言葉を漏らした。
 そもそも自分で望んで人前に出てきた訳でもないのだ。元の場所に戻りたいと思っても不思議ではない。
「ここに居たのですか」
 落ち込んだ気分で佇んでいたその時、『軍師騎士』であるノセヤが声を掛けた。
 もうすぐ上陸準備が必要ではあるのだが、姿が見えないので探していたのだ。
 顔を向けた水の精霊にノセヤは続けて訪ねた。
「……この場所は、誰かに教えて貰ったのですか?」
「いえ、違いますが?」
 質問の意味が分からず首を傾げる水の精霊。
 その仕草にノセヤはグッと胸の中に突き刺さった感情を押し殺す。
「ここは……」
 ノセヤが欄干に手を掛けた。
 今日は西の海が遠くまでよく見える。
「ここは、ソルラ先輩のお気に入りの場所の一つなんです」
「え……」
「悩んだり、苦しかった時、ここでこうして……航跡を眺めていたんです」
 風と波が織り成す音の間にカモメの甲高い鳴き声が響いた。
 その間の後に水の精霊は立ち上がった。
「それなら、私に……ここは相応しくないですね」
「良いんですよ。ここに居て下さい」
 ノセヤの言葉に水の精霊は首を横に振った。
「でも……私はソルラさんではありませんし……」
「……確かに、貴女はソルラ先輩ではありません……ですが、それでも……私や船員達には、貴女が居て欲しいのです」
 甘えだというのは分かっている。
 喪失感を埋めるだけかもしれない。それは水の精霊に対してとても失礼だとも。
 けれども……そうだとしても、今しばらくは、“彼女”が居て欲しい。それが、ノセヤや船員達の正直な気持ちだった。そう素直に思えるのは気持ちの整理が付き始めたからこそなのかもしれない。
「……ノセヤさん、ありがとうございます」
「いえ、ところで……」
 ノセヤが言いかけた所で、突然の館内放送。
 それは港に入る順番待ちをしていた別船の船員が誤って海に落下して、この付近の海上を漂っているかもしれないという内容だった。
 二人は顔を見合わすと欄干から身を乗り出すようにして辺りを見渡す。他の船員達も同様に甲板や窓から視線を海へと向けた。
「あれか?」
 指さしたのはノセヤだった。
 波間に黒い影のような何かが見える。今にも沈んでしまいそうだ。浮いたり、沈んだりを繰り返していた。
「ボートの用意を急いで下さい!」
 通信機に向かって叫ぶノセヤの様子を見て、水の精霊は、ポンっと彼の肩を叩いた。
 そして、水の精霊は微笑を浮かべたまま――船から飛び降りた。艦尾には巨大な外輪が回っているのに、だ。
「!?」
 それこそ欄干から落ちてしまうのではないかというほど身を乗り出したノセヤの視界の中に、海上に降り立つ水の精霊の姿が見えた。
 そのまま、サーと海の上を滑るように走り、あっという間に移動する。
 波間を漂っていた影はすっかりと姿が見えない。しかし、水の精霊は海中に腕を入れると――沈んでいく人を引き上げた。
「凄い……これが、水の精霊の力というのか……」
 灯籠流しの話しを聞いていたが、実際に目の当たりにして、ノセヤは生唾を飲み込んだ。様子を見守っていた船員達が歓声を挙げる。
 水の精霊は人を抱えたまま船へと戻ってきた。まるで、何事も無かったかのように。
「引き上げ用意!」
 船員に命令しつつ、ノセヤは降って沸いた高揚感を抑えながら走り出す。
 ――彼女の持つ力は、これからの王国に必要なものだと。
 精霊との邂逅は偶然ではなく、運命……いや、“想い”が繋いだものなのかもしれないと思いながら。

●実家
 その商会は港町の中でも、特に海運関係でそれなりには名が通った商会だ。
 もちろん、第六商会ほどのネームバリューはないが、それでも、刻令術式の外輪船開発や騎士団のある小隊の援助から知っている者は知っていた。
「例の船が入港待ちという話じゃが」
 片眼鏡の奥、鋭い眼光を見せながら老人の男性が言った。
 この商会の長である。かつてはハンターとして名を馳せた事もあった。
「娘の遺留品を取りに行きます」
 答えたのは婦人だった。凛としている様子ではあるが、全身から発せられる雰囲気は悲しみに包まれている。
 これまで、アルテミス小隊を様々な面で支援してきたのは、この商会のおかげだった。
 小隊長を含む多数の隊員の戦死により、小隊は存続できず、事実上の解散状態になっているので、近いうち、商会からの支援も打ち切られる予定になっている。
「どうしても、船に入るのか?」
「少しでも、娘が残したものを見たいからです」
「ふむ……」
 気持ちは分からない訳ではないと老人の男性は言いたそうであった。
 娘が務めを果たした船に、遺族が遺留品を直接取りに行くというのは、先方の迷惑にもなる……それは、きっと、あの娘はいい顔しないだろうという思いがあるからだ。
「儂にとっても可愛い孫娘じゃった……だがの……」
「司令代理を務める騎士からは許可は頂いています」
「分かった。ただし、儂も同行するからの」
 大事にはならないだろうが、心配な所もある。
 それに、荷物を持ち運ぶのに人も居るだろうし、船の様子も知りたい所ではあった。
 女性は一礼してから部屋を出て行った。こういう行動力の速さは自分の娘だなと感じる。
「だからこそ……心配なのじゃがな……」
 老人は一つの報告書を眺める。
 それは、ハンターオフィスから取り寄せたものだ。
「水の精霊が船に乗っている事も、その精霊が娘の姿をしていると……知らない訳だしの……」

リプレイ本文

●精霊と共に
 ユグディラ――の着ぐるみを被ったチョココ(ka2449)が、海の上をスィーと滑るように駆けていた。
 遊んでいる訳ではなく、チョココの内心は重かった。
「ソルラお姉さまは……いないのですね。会えないのは寂しいですの……」
 刻令術式外輪船フライングシスティーナ号が眼前で係留していた。
 しばらく、船を見つめていたチョココだったが、大きく息を吐き出すと、再び海上を駆け出した。
「でも、いつまでも悲しんでいられないですわっ。だって、お姉さまを困らせてしまいますの……きっと、そうですわ」
 上陸用のボートが横付けされている所に垂れている梯子を掴もうとしたチョココの目の前で、それは出現した。
 金髪金眼の女性騎士の姿をした……精霊。
 その存在は聞いていたが、ここまで似ているとはとも思う。
「ごきげんようですわ、精霊のお姉さま。わたくしはチョココと申します。以後、お見知りおきを、ですの♪」
 くるくるとスケートをしているかのように周りながらチョココは挨拶した。
「こちらこそ、よろしくです。チョココさん」
「ソルラお姉さまに似てますのね。まるで、双子の妹みたいですのー」
 見れば見るほど、凄く似ている……というか、瓜二つだ。
 双子の妹と言われても納得してしまう人も居るかもしれない。
「精霊のお姉さまは、お名前まだ決まってないですの?」
「はい。今、悩んでいます」
「それなら、わたくしはクヴェルがいいと思いますわ。『泉』『源』という意味ですの」
 その言葉に精霊はメモを取り出すと、書き出した。
 ピョンっとチョココがメモを覗き込むと、色々と名前が書かれている。
 名前メモのようだ。
「『泉』……『源』……良いですね」
 何か琴線に触れているようだ。
 水の精霊なだけあって、水を連想させるのが好み……なのかもしれない。
「まるで、想いの湧き出るばしょですわー」
 両手を広げるチョココ。そんな様子に精霊が僅かに悲しそうな顔をした。
 そんな顔しながらも心配かけないつもりか、ぎこちない笑顔を見せる。
「早く名前を決めた方が良いのかと思うのですが、それは人とは何か、自分とは何か、分かってからのつもりなのです」
「自分の存在理由が分からないのは当然ですわ。人は皆、生まれた時はそうですの。皆と同じですのよ?」
「そう……なのですね」
 それが人というものなのかもしれない。
 穏やかな海の上をチョココが滑り出すのを、水の精霊は手を振りながら見送った。

●命題への道標
 梯子を伝って上がってきた水の精霊に、鳳城 錬介(ka6053)は手を差し出した。
 水の精霊は一瞬、ポカンとしていたが遠慮なく手を掴む。
「ありがとうございます……えと……」
「こんにちは、初めまして。鳳城錬介と言います」
 錬介はそう言うと、水の精霊の姿を改めて見た。
「……なるほど。騒がれたわけです。そっくりですね」
「皆さん、そう言いますね。錬介さんは、この姿を見て、何か思うのですか?」
「そうですね……その姿がまた見れて、嬉しいという思いと、悲しいという思いが、半分くらいです」
 微笑を浮かべる騎士はもうこの世には居ない。
 けれど、全く同じ姿の精霊が此処に居る。複雑な思いを錬介はそのまま伝えた。
 水の精霊は頭の上に?マークが浮かんでいる。
「……ふむ。精霊さんはご飯食べられますか? お団子、食べましょう」
 精霊が団子を食べられるかどうか分からないが……。

 端的に言うと、団子は精霊の口の中に入った。その先がどうなるかは分からないが、知る必要もないだろう。
「……なるほど、自分が分からないと」
「難しいです。人とは何かと考えれば考えるほど、深みにはまりそうで」
「分からないと思いますよ。だって、貴女はまだ生まれたばかりじゃありませんか。これから見つけるんですよ」
 団子を囓りつつ、精霊は錬介の話を頷きながら聞いている。
 ちゃんと理解できているのか、不安な所だ。
「俺は記憶が無いのです。何処で生まれ育ち、どうやって生きていたのか……『自分』を失くしてしまって。結構不安でした」
「……私と似ていますね」
「今の自分は、沢山の出会いと経験から、一つ一つ見つけ出したものです。だから、今は、ちょっと自信があります。『これが自分だ』ってね」
 その言葉に錬介を眩しそうに見る精霊。
「……お強いのですね」
「貴女は確か、人という存在を知りたいのでしたよね。良い命題だと思います」
「答えに辿り付けばいいのですが」
 心配そうな精霊に錬介は微笑を浮かべながら言った。
「その命題には、沢山の出会いが必要です。色々な場所へ行き、人と言葉を交わすと良いでしょう」
 きっと、この精霊は、それが出来ると、そう信じて。

●水の精霊
 船内の通路をヴァイス(ka0364)と十色 エニア(ka0370)が歩いていた。
 散歩ではない。水の精霊を探しての事だ。
 精霊が模している亡き騎士の遺族が船に乗って来る前に接触したかったというのもある。
「居たな……」
「本当にそっくり……というか、そのままなのね……」
 大分と探し続けた後、甲板の縁で座り込んで西の海を見つめている精霊を見つけた。
 その光景に、幼き日の自分をヴァイスは重ねる。水の精霊と呼びながら、精霊の隣に座った。
「……還りたいのか?」
「……だと、思います」
 問いに答える精霊の視線はヴァイスとその後ろにいるエニアに向けられた。
 エニアは生唾を飲み込みながら、視線に応えるように微笑を浮かべた。
(姿と声が似ているだけ。そう、ただそれだけ……)
 自分に言い聞かせるように心の中に呟くエニア。
 仲間から知らされてはいたが、実際に会うと多少なりとも心に感じるものがある。
「わたしは、エニアよ。よろしくね、精霊さん」
「はい。よろしくお願いします……その服……」
 エニアの着ているワンピースは、アルテミス小隊の制服に似せて作ってあるものだ。
 それは精霊が模している騎士も同じ服装をしている。
「精霊様の名前は何ていうの?」
 動揺しかかった精霊にエニアが気持ちを入れ替えるように質問する。
「名前は、まだ……」
 取り出したメモには名前らしきものがズラリと書いてあった。
 まだ、決めかねているのだろう。
「まだ決めてないなら……まぁ、しっくりくるのでいいんじゃないかな?」
「そうだな。俺は君自身が決めるべきと思う。慌てる事はない」
 エニアとヴァイスのアドバイスに精霊は頷いた。
「……はい。人という存在が分かるようになったら、決めたいと思います」
 自信無さげな言葉に精霊の苦悩が垣間見えた。
 ちょんとスカートの丈を摘み、エニアの着ているスカートと見比べる。
 短いスカートなので、色々と際どく、思わずヴァイスは視線を逸らした。
 一方、その仕草にエニアはふと思う。
 この精霊は、ソルラさんではないと言いながら、その面影を見ているのではなかろうかと。
「あなたを見る目は、あなた自身を見ていない。きっと、この先、あなたを苦しめる要因になると思う」
「……私も、そう思います……」
「あんたは自我を得て間もないんだろ?」
 落胆した精霊にヴァイスが訊いた。
 精霊は頷く。
「そうですね。まだ、ちょっとしか経っていません」
「だったら、今は悩み、考えろ。そして、苦しいと思ったら、相談しろ。偶然だろうと想いが紡いだ結果だろうと、今、あんたはここにいて俺達と出会った。それは、一期一会のことなんだからな」
 優しくゆっくりとヴァイスはそう告げる。
 結局、人が何かという事の答えは人それぞれだ。精霊が一人で悩むほど答えはでないだろう。だが、その先に、人との繋がりの中に、人とは何かという答えを見つけられるかもしれない。
「ところで、その姿は、ソルラさんに対する想いが原因だと考えてるんだけど、この船から遠く離れても、その姿や声は維持できるの?」
 エニアがそんな疑問を投げ掛ける。
 精霊は人差し指を口元に当てながら、考えるように答えた。
「皆さんが王国西部の海と呼ぶ場所にしか居られません。他の場所は……陸地や遠い海は、長くは滞在できないと思います」
 どうやら、海と縁深い精霊なのかもしれない。
「そうなのね……まぁ、あなたはあなた、です。わたしは、あなたと友達になりたいんだよ」
 ギュッとエニアは精霊の手を取った。
 精霊は少し嬉しそうな表情を浮かべる。
「ありがとうございます、エニアさん。そして、ヴァイスさん。少し、道筋が見えた気がします」
「それは良かった。それじゃ、俺達は行くが、実はもう一つ、伝えておく事がある」
 その台詞に首を傾げる精霊。
 これから遺族が船に上がる事、家族という血の繋がりや様々な感情について向けられるかもしれないとヴァイスは伝えたのだった。

●面談
 ノセヤに頼まれ、私室ではなく司令室の片付けという名の遺品整理をしていた時音 ざくろ(ka1250)は、突然、部屋に入ってきた精霊に驚いた。
 仲間らから話は聞いていたが、やっぱり、目の当たりにすると驚く。
「ソルラ……って、あっ、ごめん、つい……」
 目に涙を浮かべながら、咄嗟に出た言葉。
「大丈夫です……よ、慣れてきましたから。初めまして」
 ざくろは自身を落ち着かせながら、差し出された手を握った。
「初めまして。ざくろは、時音ざくろ。会えて嬉しいよ。これから、よろしくね」
「ざくろさんはここで何を?」
「えと……片付けかな」
 部屋は散らかっているという訳ではないが、整頓されていない感じだった。
 司令室の現在の主はノセヤだが、元々、刻令術の技術者として乗り込んでいたノセヤには自室があったので、今は使っていないのだ。
 つまり、部屋の中の物は、前任の司令の物……。
「ソルラさんの物なのですね」
「……そうです。もうじき、ご家族様が遺品を取りに来るので」
「私も手伝って良いですか?」
 その精霊の申し出にざくろは頷いた。

 やがて、Uisca Amhran(ka0754)が面談の時間を告げに来た。
「行きましょう……ざくろさん、精霊さん」
「うん……ざくろ達が最期を話さないといけないからね」
 Uiscaとざくろの二人は、“あの戦い”に参加していた当事者だ。
 亡くなった騎士の最期を遺族へと伝える大事な責任がある。
 一歩一歩、遺族が待つ部屋に向かうが、足が重く感じた。
 戸は開いたままだった。思ったより多くの荷物が部屋に入りきれなかった様で通路にも置かれている。
 部屋の中には婦人と高齢の男性、そして、仲間のハンター達とノセヤが揃っていた。
「ソルラさんの最後の戦いを共にした戦友のハンターです」
「お嬢さんを護る事が出来なくて、本当に申し訳ありませんでした」
 戸に立つなり、二人は頭を深々と下げる。
「なぜ、謝るのですか。顔をお挙げください」
 婦人の声が耳に入るが、Uiscaは頭を下げたまま、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「私、守れ、ませんでした……ごめん……なさい……」
「ハンターの方々が謝る必要はないはずです。それは、あの子も一番良く分かっていますから。むしろ……聞かせて貰ってもいいかしら。あの子の最期と、貴方達の後ろの人の事も、ね」
 その言葉にUiscaとざくろは顔を見合わせて振り返った。
 精霊の事を婦人は知らないはずではないのか……精霊の紹介や事情の説明は誰がしたのか。
「立ったままというのも、なんだから、とりあえず、席に着こうか」
 場を取り仕切るようにキヅカ・リク(ka0038)が声を掛ける。
 Uiscaとざくろは知る由もないが、先に遺族と接触していたのは彼だったのだ。
 そして、二人は“あの戦い”の事を始めから最期まで、隠すことなく全てを話す。
 遺族は時折、頷きながら、あるいは目元を抑えながら静かに聞いていた。次に、精霊の事へと話は進む。
「最初は皆、精霊さんの存在に戸惑い、怒りを露にする人もいました……」
「この姿で現れた事は、彼女自身の意志ではなく、彼女も戸惑っていて……」
 なんとか水の精霊を擁護しようとUiscaとざくろの二人が言葉を重なった。
 続くはずだった台詞を、キヅカが遮った。
「精霊の事は先にも説明した通りです。そして、これを……」
 スっと遺族に差し出される遺品の一部。
 遺族は一礼すると大事に受け取った。懐かしむように品に手を触れる。
 その時間は短かったかもしれない。しかし、長くも感じられた。
「確かに、受け取りましたよ」
「僕ら、転移者は、元の世界では死んでる事に成ってるから、帰る場所なんかなくて……」
 キヅカが無念の表情のまま口を開いた。
「だから、返してあげられたのは……不謹慎だけど……良かったって思う」
 これで“終わり”だ。そして、“継ぐ事”がある。
 そう、キヅカは心の中で決意すると、強い眼差しを遺族へと向けた。
「ソルラさんが護ろうととしたものは、俺が護る。メフィストも何もかも退けて」
 大勢の者が下を向いている時こそ、誰かが背を見せて示さなきゃいけない。
 それを、あの騎士は教えてくれた。
「あの人の意思を紡げるのは、立ち上がるべき瞬間は、今この時だけなのだと」
「それで、ノセヤさんを信じて欲しいという事なのですね」
 婦人は目を閉じる。
 考えや気持ちを整理しているのだろうか。暫く経ってから婦人は目を開いた。その視線はハンター全員に向けられる。
「……良く分かりました。私の娘はこんなにも愛されていたのですね」
 悲しみの中に、何処か深い優しさを感じる瞳だった。
「あの子、いつになっても縁談を断ってね。実は周囲から嫌われていると思ったら……」
 改めてハンター一人一人をしっかりと見つめる婦人。
 立ち上がると、深く頭を下げて言った。
「ハンターの皆さん、娘――想い――の為に、ありがとうございました」


 遺族への遺品の受け渡しは、大きな騒ぎになる事なく無事に終わった。
 また、遺族の商会からの小隊への援助打ち切りの話は延期、水の精霊はこのまま船に滞在し、新しい形の模索が始まったという。




●ソルラ
「あの剣の事は娘から聞いていますよ。貴女の事も、ね」
 Uiscaから剣の話を問われ、婦人は微笑を浮かべて答えた。
 そして、視線を精霊へと向ける。
「精霊様、お名前はまだ決められていないと聞きましたが」
「はい……」
 その理由も伝わっているはずだ。
 精霊はメモを広げた。
「ちょっといいかしら」
 婦人はそのメモを手に取ると、サッと候補の名前を書き入れる
「この名前は……?」
「精霊様が私の娘の“想い”を継いでいただけるなら、私の娘の名も、候補に入れて下さい」
 そして、メモを精霊に返すと、精霊の手を包みながら、一同を見渡す。
「娘の“想い”を繋いでいく者は、私の子も同然です。もし、帰るところが無くなった時、いつでも、私の所へ帰ってきて下さい」
 そう告げた婦人の笑顔は、娘の笑顔にとても、よく似ていた。



『【血盟】我らに勝利を ~retry~』へ、続く――

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  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニアka0370

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/31 12:39:00
アイコン 【相談卓】海の交差路の先に
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/06/01 05:13:50