• 血盟

【血盟】火竜の顎~碧の龍騎士

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/06/05 09:00
完成日
2017/06/13 20:22

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●開かれた龍園
 ――龍園こと、神殿都市ヴリトラルカ。
 長い間西方と断絶していた龍園だったが、先日ハンター達と交流すべく催された宴は龍園の民に大きな変化をもたらした。
 ハンター達の友好的な態度、そして打ち解ける為に凝らした様々な工夫が、排他的な者が少なくなかった彼らの心を溶かしたのだ。また、同時にもたらされた情報や土産、音楽や本など、彼らには何もかもが珍しく、西方への興味を掻き立てるのに充分なものだった。
 これにより、龍騎士隊はいよいよ西方の連合軍へ合流すべく動き始めた――


「サヴィ君、オフィスの準備はどうだい?」
 龍園に設置された転移門の程近く。
 今はまだ伽藍洞だが、近々ハンターオフィスとして使用される予定の部屋へ現れたのは、雪のように白い髪と、頬を縁取る碧い鱗が印象的な青年。見た目は二五歳程だが、青い瞳は少年のような澄んだ光を宿している。
 誰であろう、龍園を守護する龍騎士隊の筆頭・シャンカラその人である。
 部屋の中にいた神官・サヴィトゥールは、シャンカラの気軽い調子の訪いに眉根を寄せた。
「おや、これはこれは隊長殿。このような殺風景な場所へ御自らご視察とは……」
「『隊長』はよしてくれないかな、僕達幼馴染じゃないか」
「立場、というものがあるだろう」
「今は任務中でもないのに」
 肩を落とすシャンカラに、サヴィは黙って唇の端を持ち上げる。
「……僕が嫌がるの絶対分かってやってるよね、君」
 シャンカラは拗ねたように口を尖らせたが、
「何の事だか。それよりももうすぐハンター達との茶会の時間だろう?」
 サヴィの言葉に顔を輝かせた。
 今日もハンター達と交流を深めるべく、これから茶会を催す予定なのだ。

 先の宴で、いずれ西方を訪ねると約束したシャンカラだったが、その前に成さねばならぬ事が幾つかあった。
 ひとつは、ハンターズソサエティ支部およびハンターオフィスの設置。
 龍園には転移門こそあるもののそれきりなのだ。訪れるハンター達の為、そして龍騎士達がソサエティの要請に応じられるようになる為には、オフィスの設置が不可欠だった。オフィスを設けると言う事は連合軍に協力の意を示す事にもなる。
 そしてもうひとつは、ハンター達との親睦を深める事。
 先の宴に訪れたのは自ら交流の意思を持って臨んだハンター達。つまりハンターの中でもとりわけ友好的な者達と言える。龍騎士隊が西方へ踏み出すには、より多くのハンター達と交流を重ねる必要があった。
 他にも細々とした事柄はあるが、それらの準備のため龍人達は龍園から今しばらく離れられない。なので再度龍園で交流をと相成ったのだ。

 シャンカラはさっきの仕返しとばかりにサヴィの肩を叩く。
「楽しみだよ、本当に。オフィスの方はサヴィ君よろしく頼むね。アズラエル様から直々に龍園オフィス代表を拝命したんだろう? アズラエル様、流石の人選だね」
 その言葉にサヴィは忌々し気に顔を歪めた。
「長老め……まあ良い。こちらもこれからハンター達を呼び、オフィスとは何か聴取する事になっている」
「聴取って。お手柔らかに、ね? 終わったら、そちらのハンターさん達にも茶会に合流してもらえたら嬉しいな」
 そう言って踵を返す幼馴染を、サヴィは声を低め引き留めた。
「……ハンター達との交流に浮かれるのも結構だが、『強欲竜の砦』はその後どうなっている? 警戒を疎かにしたりはしていないだろうな」
 シャンカラは表情を引き締め、小さく頷く。
 彼が若くして龍騎士隊長に就任した理由――それは、龍園南方に出現した強欲竜の砦攻めの最中、先代の隊長が討ち死にした為だった。シャンカラは先代の死により総崩れとなった隊を必死に立て直し、隊長就任から半年かけ砦の制圧を成し遂げた。そこでようやく西方との交流に着手したというわけだ。
「勿論。定期的に砦跡を巡回しているし、残党と遭遇したという報告も今の所上がってない。今日もダルマさんが新米騎士君達を数人連れて向かったよ」
「そうか。なら良いが……」
 あまり浮かれ過ぎるな。そう言うと、サヴィは話を打ち切るよう手元の石板に目を落とした。
 部屋を後にしたシャンカラは、ぽつりとひとりごちる。
「浮かれているつもりは……まあ、否定できないかな」
 そして、鋭い幼馴染の指摘にこっそり苦笑したのだった。



「ようこそ龍園へ、心から歓迎致します」
 そうして訪れたハンター達を、シャンカラは笑顔で出迎えた。
 今日は酒宴ではなく茶会とあって、両者腰を落ち着けじっくりと語らう。ハンターと龍騎士が共に戦った龍奏作戦の思い出や、ハンター達がライブラリで大精霊の記憶を垣間見た時の事――
 話も茶のおかわりも進み、しばらく経った時だった。

「――……ッ!」

 和やかな空気は、外から響いた叫び声や飛龍の嘶きによって一変する。
「何だ!?」
 即座に飛び出していくシャンカラの後を、ハンター達も追いかけた。
 すると龍園の端、血塗れで帰還した若い龍騎士達がいた。年長の龍騎士・ダルマと共に強欲竜の砦跡を見回りに行っていた騎士達だ。彼らが乗っていたワイバーン達もまた傷を負っていた。
「しっかり……何があったんだい? ダルマさんは!?」
 血相変えて駆け寄ったシャンカラに、若い騎士が苦し気に報告する。
「砦跡にて、残党と思しき強欲竜の群れと遭遇しました……けれど新兵の我々では歯が立たず……ダルマさんは我々を逃がす為、殿を……奴らを押さえながら、こちらへ撤退してきているはずです」
「何だって?」
 更に別の騎士が言うには、遭遇した竜は全九頭。八頭は小型の走竜だが、群れの頭目の火竜は五メートルを超す巨躯だったと言う。
「市外に防衛線を張ります! 第二小隊はリザードマン達と共に都市の防衛を。第一小隊は僕と共にダルマさん……いえ、火竜討伐へ!」
 しかし時が悪かった。主戦力である第一小隊は、近隣警邏の為丁度出かけてしまった所だったのだ。そこでハンターのひとりが声をあげた。
「私達も一緒に行きます!」
 けれど別のひとりが言う。
「でもそんな大きな火竜相手に、ユニットもなしにどうやって……」
 その時、頭上から降り注ぐ日差しがサッと遮られた。仰げば、青い翼を広げたワイバーン達が彼らの許へ降りてくる。シャンカラは自らの横に降り立ったワイバーンを撫でた。
「……やってくれるかい? いい子だね。皆にあまり高く飛び過ぎないよう言っておくれ」
 そう言い聞かせてからハンター達に向き直る。
「龍騎士隊のワイバーンをお貸しします。突然の事で申し訳ありませんが、どうか僕達に力を貸してください――!」

リプレイ本文


 強欲竜襲来の報せを受け、群れの頭目・火竜を討ち取るべく龍園を飛び立ったのは、龍騎士隊長シャンカラと六人のハンターだった。
「龍達との親交を深めるのは望ましいと思って足を運んでみたら……ですか」
 青き飛龍の背の上、銀色に染まった髪をなびかせながらフィルメリア・クリスティア(ka3380)が呟く。
「まぁ……こういう事も比較的よくある事、とは言えるんですけどね」
 こなした依頼は数知れず。氷の女王の二つ名を持つ彼女にしてみれば、こうしたトラブルは慣れたものかもしれない。
 先導するシャンカラがすまなさそうに目を伏せた。
「すみません、急な戦闘にお付き合い頂いて」
 彼女は思わず目を瞬く。飛竜は素晴らしい速さで空を駆けており、吹きつける風もそれなりに強いのに、よく聞こえたものだと。
「なに、楽しいお茶会の席を設けてくれたお礼さ」
 そう応じたのは大きな耳としっぽを生やしたHolmes(ka3813)だ。豊かな長い髪がふぁさっと小柄な身を包み、まるで桃色の獣のよう。しかしその手にあるのは長さと威力を誇る蛇節槍。可愛いだけでは済みそうもない。
 銀の猫耳と猫しっぽを揺らした氷雨 柊(ka6302)も追い上げてきて、
「火竜を退治して皆の手当てをしたら、またお茶会の続きをできないかしらー?」
 かくりと小首を傾げる。のんびりとした雰囲気を纏うこちらの銀猫娘が抱えているのは、怪しげな輝きを放つ大妖斧だ。可愛いで済みそうもないのはご同様。
 フィルメリアに寄せて来たティス・フュラー(ka3006)は、歳相応に愛らしく唇を尖らせる。
「招かれざる客……ってとこかな。茶会に混ぜて欲しいなら、最低限のマナーは守ってもらいたいところよね」
 いや、私、龍人の茶会のマナーなんて知らないけど。そう付け足したティスに、先の龍園での宴に参加していたノエル・ウォースパイト(ka6291)がうっすら微笑む。
「大丈夫ですよ。龍園の皆さん、打ち解けてみれば皆気さくな方ばかりですから。それにしても……茶会に水を差すのはあまりにも無粋です。相応の報いを受けて頂きましょうか」
 笑顔の中にも、その瞳に宿した翡翠色の光は剣呑な彩を含んでいた。
 一方、背に髪と同じ銀色の翼を現したフェリア(ka2870)は、手を伸ばし飛龍の青い鱗を撫でる。
「フェリアと言います。今回はよろしくお願いします」
 飛龍は人語を操る事ができないと分かっていても、礼をもって接する。帝国の名家出身の彼女らしい振舞いだ。飛龍は長い首を巡らせて振り向くと、「此方こそ」と言わんばかりにゆっくりと瞬きして見せたのだった。

 そこへ前方から一頭の青いワイバーンがやって来た。背にいるのは新米騎士達を率いていた龍騎士ダルマだ。彼の赤く染まった外套を見、シャンカラが思わず叫ぶ。
「ダルマさん、その怪我!」
 しかし彼の視線はシャンカラを通り越し、六人へ向けられていた。
「何だァ?! 人が必死こいて時間稼いでる間に美女侍らせやがって、隊長殿このヤロウッ!」
 その言葉にシャンカラの表情がスッと醒める。確かに今回同行を申し出たのは全員女性であったのだが。シャンカラはにっこり笑顔を作ると、
「そんなに元気なら、龍園の護りは頼むねダルマさん。さあ、先を急ぎましょう」
 喚くダルマを放ってさっさと進み始めた。六人も苦笑混じりの顔を見合わせ、一先ず火竜を目指すのだった。



 オオオォォ――

 風の音に交じり、火竜の咆哮が聞こえて来たのは直後の事だった。ダルマ、ギリギリまで火竜を抑えつつ退却してきたものらしい。行く手に目を凝らせば、根元から叩き折られた翼を引きずり、二本の足で地響きを立てながら向かって来る巨大な火竜が。
 柊はシャンカラに向け声を張る。
「シャンカラさん、ソウルトーチで火竜を引きつける役をお願いできませんかぁ?」
 シャンカラは少々驚いたような顔で柊を見た。その反応に柊もちょっとびくっとしつつ言葉を続ける。
「この中でワイバーンを駆る技術は、シャンカラさんが一番高いと思いますしー……ダメでしょうかぁ?」
 全員で彼の反応を注視していると、彼はハッとして頭を下げた。
「あ、すみませんっ。その、皆さんの作戦に加えて頂けるとは思ってもみなかったというか……嬉しくて。喜んでお引き受け致します」
 チームの一員として受け入れられた事に、心底嬉しそうに微笑むシャンカラ。それから全員で手短に役割を確認し合うと、持ち場へ着くべく飛龍の手綱を繰る。火竜は一行に気付くと一際長い雄叫びを轟かせた。

 ノエル、竜が魔術師達の射程に入る直前、斬龍刀「天墜」の柄を握りしめ全神経にマテリアルを巡らせる。
「隊の統率を担うような器ではありませんが……皆さんが心置きなく戦えますよう」
 先手必勝を発動、機先を制す事に成功した! そのまま竜の側面を取るべく飛龍を飛ばす。
 ノエルの援護を受け、赤く煌めかせたティスが動く。エルフであるティス、エルフハイムの樹木より作られし錬金杖を掲げ、水の気を集中させた。
「茶会に混ざりたいなら、まずはその煩い足音を何とかしないとねっ」
 魔力が一気に凝縮され、氷の嵐となり杖の先端から迸る! 敵は火竜、水属性の攻撃は大いに有効だ。まして高い魔法威力を誇るティスである。並みの敵なら一瞬で無に帰してもおかしくない一撃だった。
 ――しかし。
 火竜を包むように渦巻いた嵐が晴れると、そこには少しも変わらぬ竜の姿があった。否、正確に言えば鱗が二、三足許に落ちている。
「堕ちても竜って事ね……でも、その足は止めさせてもらったの」
 ティスの言う通り、火竜の屈強な足は氷の呪縛を受け地に縫い留められている。その隙に前衛達が竜の許へ翔ぶ!
「こっちです!」
 シャンカラはマテリアルを燃やし、竜の鼻先を掠めて飛び回る。ティスを睨み据えていた火竜の目が彼に移った。すかさずカッと口を開けブレスを吐こうとしたが、
「おっと、そうはいかないよ」
 飄々とした声音がしたかと思うと、火竜の口許に突如幻影の腕が出現。ホームズのファントムハンドがその口を塞ぐべく絡みつく! 口を閉ざさせる事こそ叶わなかったが、突然現れた腕に動転したか狙いが甘くなり、シャンカラは難なく回避する事ができた。
 フィルメリアは火竜の周囲を旋回しつつ、瑠璃色の瞳で火竜を観察する。
「ティスさんの一撃にも耐えますか……けれど、例えどれだけ硬質だろうと、一点に撃ち込み続ければ穴を開けられる筈……」
 そうして龍騎士達がへし折っていた翼の付け根に目を付けると、雪の精霊の加護を持つ銃でその傷口に銃弾を撃ち込む! 肉が露になっていた箇所を過たず抉られ、これには竜も堪らず身を捩る。反射的に彼女を飛龍ごと尾で叩き落そうとしたが、もとより彼女は竜の射程にいない。
「痛みで判断力が鈍りましたか? けれどあなたの敵はそちらだけではありませんよ――吹き荒れよ、氷雪の剣!」
 この間に上手く背後をとったフェリア、神々しい金色のワンドを翳しブリザードを見舞う。紡いだ言のままに、無数の氷片が鋭利な刃となって竜を取り巻いた!
 竜の意識が完全に中空へ向いている中、
「さて、足許お邪魔しますよぅ」
 ぴょこんとその足許へ降り立ったのは銀猫娘・柊だった。乗せて来てくれた飛龍にひらり手を振り、妖斧「ニライカナイ」を構える。
「あら? 右足にも傷がー……龍騎士さんが付けた傷でしょうかぁ? 遠慮なく狙わせていただきますねぇ」
 肌に浮かべたルーン文字が一際濃くなり、彼女のマテリアルの高まりを示す。そして大きく振りかぶると、水と闇の力を持つ刃を全力で傷へ叩きつけた!



 戦いは持久戦の様相を呈した。
 水属性に鱗の剥がれた傷口と、竜の弱点は明らかなのだが何せ巨体である。死にもの狂いで暴れる巨体に穿たれた僅かな瑕疵を狙うのは困難を極めた。氷と焔が交錯し、その間に間に白刃と弾丸が乱れ飛ぶ。
 それでも、
「余所見は許さないよ」
 常時マテリアルを燃やし斬撃を与えるシャンカラ、そして
「独り占めはよくないなぁ、シャンカラ君。ボクにも構ってくれなくちゃ」
 痛烈な連撃を見舞うホームズの両名が竜を引きつけている内に、頑強な鱗の上から少しずつ竜の体力を削っていく。必然ふたりに攻撃が集中しているのだが、龍騎士隊の飛龍は高い機動力を有している。手負いの竜の大振りな攻撃は大抵回避する事ができたし、かつホームズは自己回復術も備えている。互いに決定打を与えられぬまま時が経過していった。

 だがここで戦況が大きく動いた。
「なかなかしぶといのね」
 ティスは自身の髪と同じ銀色の雫を生み出す。六片の雫は光の尾を引いて飛び、被弾する直前で合流。一塊の水球となり火竜の胴を直撃した! すると胸から腹にかけ大きく鱗が剥がれ落ちる。
「お陰で狙いやすくなりましたよぅ」
 ひとり火竜の足許で攻撃を続けていた柊、ここぞとばかりにクラッシュブロウを叩き込む。鱗という鎧を失った下腹へ、妖斧の刃が深々とめり込んだ!
 その一撃は火竜の生命力を大きく刮ぎ落とした。だがそれにより、竜の意識が囮のふたりを離れ柊に向いてしまう。柊を頭から喰い千切らんと、狂暴な顎が開かれた! スキルで回避力を上げ備えていた柊だったが、斧刃が肉深くに食い込み咄嗟に退く事ができない。
「いけませんっ」
 ノエル、懇願するよう飛龍の背に触れた。彼女の意思を汲み取った飛龍は火竜めがけて突っ込み、横面に彼女の刃を届かせる。しかし火竜は止まらない!
「こうべを垂れよ!」
 フェリアも瞬時に超重力を食らわせるものの、柊を巻き込まぬよう加減して撃ち込んだためか、竜の動きを止めるには至らなかった。
 鋭い牙が柊の華奢な肩へ、胴へ食い込む。それだけで意識を失うほどの激痛に見舞われるが、この火竜の顎は三度開く。倒れ込んだ柊に三度牙が食い込もうとした所で、彼女の身体は宙に攫われた。
「しっかりしてください!」
 地面すれすれを滑空してきたシャンカラが、寸での所で彼女を救出したのだ。しかし、着物を赤く濡らした彼女はぐったりと目を閉じたまま。シャンカラは一旦火竜から距離をとると、柊を乗せていた飛龍を呼び寄せてから五人へ叫ぶ。
「柊さんを離脱させます! どうか時間を、」
 稼いでください――シャンカラが皆まで言わずとも、五人は既に動いていた。
「……茶会の再開を誰より心待ちにしていた彼女を、よくも」
 ホームズは竜の視線を柊から断ち切るべく、果敢に正面へ回り込むと、血濡れた顎へ激しい連撃を叩き込む! と、彼女が回避する隙を作るべく、すかさず術式陣を展開したフィルメリアが氷刃【Is Schwert】を発動! 傷口が凍りつく痛みに、火竜の絶叫が轟いた。
 ノエルはちらりと後ろを振り返る。シャンカラが呼び寄せた飛龍は、負傷した柊を乗せ飛び立とうとしていた。邪魔させるわけにはいかない。ぎゅっと手綱を握る。
「……貴方の翼を借りる代わりに、私は貴方の牙となりましょう。もう少しだけ私に力を貸してくださいっ」
 そしてフィルメリアを狙い振り上げられた尾の前に飛び出すと、翡翠色の瞳で動きを見極め受け流し、斬龍刀で横薙ぎに払う。ガツッと大きな音と共に鱗が砕け、尾を半ばから斬り落とす事に成功した!
「ティスさん、このまま決めてしまいましょう」
「はいっ、フェリアさん!」
 フェリアとティスは火竜を左右から挟み込むように展開。射程いっぱいから同時にブリザードを見舞い、その足を永久に地に縛りつけんと持てる魔力を注ぎ込む。
「今です皆さ……!?」
 声を上げかけたティス、敵の思わぬ行動に息を飲んだ。足許を氷で戒められた竜は、己が脚が折れるのも構わずティスの方へ身を倒す。氷と骨とが砕ける嫌な音が周囲に響いた。
 そう、それは火竜最期のあがき。せめて一矢報いろうと、脚をねじ切り両腕でティスへ向け一歩、二歩と這う。そして残された力を振り絞り炎を吐き出した!
 だが。ティス、冷静にパリィグローブ「ディスターブ」で障壁を成し、ほぼダメージもなく受けきった。がら空きとなった竜の背へ向け、フィルメリアが飛び降りる。
「星の許へ――王の許へ還りなさい」
 そして折れた翼の付け根、幾度も銃弾を撃ち込み続けたそこへ、超重練成により巨大化させた星剣を思う様突き立てる!
 竜の断末魔は北の大地を小さく震わせ、その残響が消え入る頃には、その亡骸は跡形もなく消滅していた。軽やかに地に着地したフィルメリア、星剣を鞘に納めながら言う。
「こう言うのもなんですが……伊達に『氷の女王』などと称し称されている訳でも無いので」
 キンッと刃が鞘に収まる音と共に、誰からともなくほうっと息を吐いたのだった。



 ハンターオフィス予定地である建物の一室。
 飛龍によって一足先に龍園に戻っていた柊は、神官達の懸命な手当てにより重体を免れていた。それでも深い傷を負った事に変わりはなく、六人が帰還した今もまだ目を覚まさずにいる。
「柊さん、無事に終えましたよ」
 寝台に横たわり、寝息を立てる柊に語り掛けるフェリア。その横に立ち、シャンカラは唇を噛む。
「すみません……僕がもっと気を付けていれば」
 そんな彼に頭を振ったのはノエルだった。
「そんな風に思われては、柊さんも気にしてしまいます」
 先の宴で知り合いとなっていた彼女に諭され、シャンカラはまだ眉根を寄せながらもこくりと頷いた。
 そこへ、
「お待たせしました、ティス特製のツナサンドです!」
 銀盆にたんとツナサンドを乗せたティスを先頭に、フィルメリアとホームズも部屋へやってきた。
「お疲れさまでした、皆さん」
 てきぱきとお手製のツナサンドを配り始めるティス。
「まさか……ここでツナサンドを作る手伝いをする事になるとは、ね……」
「ふふ、ボクは楽しかったよ。龍園で食べるツナサンド、お味はいかがかな? ……ん、美味しい!」
 すると賑やかさに釣られたか、それとも香りに釣られたか。柊のまぶたがそうっと持ち上がった。
「あ、柊さん! 目が覚めたんですね!」
 にっこり笑顔でツナサンドを差し出すティスに、柊はきょとんとした顔で辺りをきょろきょろ。
「あらー……? 私、どうしたのだったかしらぁ。確かぁ、」
「良いから良いから。美味しいから食べてご覧」
 むにっと柊の口にツナサンドを押し込むホームズ。怪我の記憶に触れさせまいと彼女なりの優しさである。が、
「けほっ!」
 目を白黒させて咳込む柊、
「流石に寝起きにはまだ早いんじゃ」
「心を込めて作りましたよ!」
「それはそうだと思うのだけど、」
「けふっ……あ、美味しいですぅ!」
 少々わちゃわちゃしたが、柊の笑顔で場が和む。シャンカラの顔にも安堵の笑みが浮かんだ。

 火竜の脅威を退けた一行。一室からは賑やかな談笑の声が流れ続け、窓の外では飛龍達が声に耳を傾けつつ満足げに寛いでいた。

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MVP一覧

  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティアka3380

重体一覧

参加者一覧

  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • ツナサンドの高みへ
    ティス・フュラー(ka3006
    エルフ|13才|女性|魔術師
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 唯一つ、その名を
    Holmes(ka3813
    ドワーフ|8才|女性|霊闘士
  • 紅風舞踏
    ノエル・ウォースパイト(ka6291
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士
  • 一握の未来へ
    氷雨 柊(ka6302
    エルフ|20才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ティス・フュラー(ka3006
エルフ|13才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/06/04 02:38:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/04 02:34:43