ゲスト
(ka0000)
【血盟】走竜の牙~碧の龍騎士【初心】
マスター:鮎川 渓
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/06/05 07:30
- 完成日
- 2017/06/18 07:42
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●『求む、龍園での茶会に参加してくれる初心者ハンター!』
オフィスでそんな依頼書を見たあなたは、思わず手近なオフィス職員に尋ねた。
「あの、こんな簡単な内容が依頼として成立するんですか?」
声を掛けられた職員・モリスは、カウンターの上へクリムゾンウェストの地図を広げて見せる。
「ここから遥か北に、『龍園』と呼ばれる神殿都市があるのはご存知ですか?」
首を振るあなたに、モリスは辺境よりなお北を指して続けた。
「地図で言うと……ここ。北方の地にはかつて『リグ・サンガマ』という王国が存在していたのですが、残念ながら数百年前、歪虚の侵攻により滅んでしまいました」
「はあ」
「しかし、唯一その『龍園』だけは滅びを免れていたのです。そこには少数種族・龍人《ドラグーン》達が住んでいます」
その龍人達は皆覚醒者としての素質を持ち、とりわけワイバーンを駆る龍騎士達は高い戦闘力を有している。そのため、このほど龍騎士達はソサエティに合流する事になったのだが。
「何せ何百年も西方――あ、西方っていうのは王国とか同盟とか、皆さんのよく知るここら辺の事ですよ――との交流が途絶えていたため、西方についてほとんど知識がないのです……というか、龍園の外の世界を知りません。ですので、茶会の席を設け、ハンターさん達の話を色々お聞きしたいと」
あなたは思わず首を捻った。
「それなら経験豊かなベテランハンターに頼むべきでは?」
至極当然の指摘である。モリスは勿論と首肯し、
「この依頼と並行し、ハンターとしての経験を問わずで募集もしています。なるべく幅広く様々なハンターさん達と交流したいというのが龍騎士隊長の……先方の希望なので。ですが、残念ながら未知の北方へ喜び勇んで行く駆け出しハンターさんは多くなくてですねぇ。そこで、別途駆け出しハンターさん達を募る事にしたのです」
龍人達の多くはこれからハンターとして登録し、活動していく事となる。だからこそ駆け出しのハンターならではの話が参考になる事もあるのではないか――そう結んだモリスにあなたは頷き、依頼を引き受ける事にした。
●
「ようこそ龍園へ、心から歓迎致します」
そうして龍園を訪れたあなた達を出迎えたのは、雪のような白い髪と、頬を縁取る碧い鱗が印象的な好青年。
彼こそが龍騎士隊を束ねる若き隊長・シャンカラだった。
見回せば、美しい白亜の結晶神殿を中心に石造りの家々が並び、まるで都市そのものが精緻な彫刻めいている。そこここで青いワイバーンが翼を休め、槍を手にしたリザードマン達が歩き回っていた。整った街並み、そして西方では滅多にお目に掛かれない龍の眷属達の姿に、思わず溜息が出る。
モリスが言っていた通り、一緒に訪れたハンター達は様々だった。あなたのように駆け出しのハンターもいれば、見るからにベテランらしいハンターもいる。龍人達と卓を囲みながら、皆思い思いの話をしている時だった。
「――……ッ!」
和やかな空気は、外から響いた叫び声や飛龍の嘶きによって一変する。
「何だ!?」
即座に飛び出していくシャンカラの後を、あなた達も追いかけた。
すると龍園の端、血塗れで帰還した若い龍騎士達がいた。
「しっかり……何があったんだい!?」
血相変えて駆け寄ったシャンカラに、若い騎士が苦し気に言う。
「制圧済みの強欲竜の砦跡にて、残党と思しき竜の群れと遭遇しました……けれど新兵の我々では歯が立たず……ダルマさんは我々を逃がす為、殿を……奴らを押さえながら、こちらへ撤退してきているはずです」
「何だって?」
ダルマとは龍騎士隊の中でも年長で、戦闘経験豊富な龍騎士の名だ。
更に別の騎士が言うには、遭遇した竜は全九頭。八頭は小型の走竜だが、群れの頭目の火竜は五メートルを超す巨躯だったと言う。竜の群れが迫っているという事実に、緊迫した空気が張りつめる。
「市外に防衛線を張ります! 第二小隊はリザードマン達と共に都市の防衛を。第一小隊は僕と共に火竜討伐へ!」
シャンカラは即座に指示したが、タイミングが悪かった。主戦力である第一小隊は、近隣警邏の為丁度出かけてしまった所だったのだ。そこでベテランハンターのひとりが声をあげる。
「私達も一緒に行きます!」
その申し出にシャンカラはすまなさそうに頷く。
「では、腕に自信のある方は一緒に来てください!」
腕に自信のあるハンター達は、龍騎士から借り受けたワイバーンに跨り、シャンカラと共に火竜討伐へ向かった。
残ったのはあなたと同じ駆け出しハンターばかりだ。
「ぼくらにもできる事、何かないかな」
ひとりが歯噛みして呟く。
すると突然肩を叩かれた。振り向けば、一頭のリザードマンが市外を指し示している。リザードマン達は人語を話す事ができないのだ。指さす先を見ると、残った龍騎士やリザードマン達が、龍園の外で防衛線を張っている所だった。
あなた達は頷き合い、その列に加わる事にした。
龍園を背にし、布陣を整えて程なくすると、向こうから一頭のワイバーンがやって来た。その背には大戦斧を担いだ三十代後半と思しき龍騎士――ダルマの姿があった。
幾らか傷を負っているものの、龍騎士ダルマは前線に立つあなた達を見、豪快に笑う。
「悪ぃなァ、ハンターさん達よぉ。折角の茶会だったってのに」
「お怪我は?」
「隊長さんや他の皆は!?」
尋ねるあなた達にダルマは言う。
「途中で会った。アイツらは群れの頭目のデケェ火竜を叩きに行ったぜ。だが恐らく火竜の相手で手一杯になるはずだ、手下の走竜どもはこっちに任すよう言っておいた」
「……って事は、走竜がこっちに来るって事?」
誰かが呟いた時、彼方から獰猛な咆哮が響いてきた。ダルマを追ってきたのだろう、八頭の走竜が駆けてくる。怯みそうになるが、ダルマは背負っていた戦斧を勇ましく振りかざす。
「悪ぃが俺も手負いだ、付き合って貰うぜェ? なァに相手は小者、万が一ン時は俺やリザードマン達で食い止める。ハンターのお手並み拝見と行こうじゃねェか!」
――茶会に来たはずなのに戦闘になろうとは。けれど迷っている暇はない。竜達はすぐそこまで迫っている。
あなたは得物を強く握りしめた。
オフィスでそんな依頼書を見たあなたは、思わず手近なオフィス職員に尋ねた。
「あの、こんな簡単な内容が依頼として成立するんですか?」
声を掛けられた職員・モリスは、カウンターの上へクリムゾンウェストの地図を広げて見せる。
「ここから遥か北に、『龍園』と呼ばれる神殿都市があるのはご存知ですか?」
首を振るあなたに、モリスは辺境よりなお北を指して続けた。
「地図で言うと……ここ。北方の地にはかつて『リグ・サンガマ』という王国が存在していたのですが、残念ながら数百年前、歪虚の侵攻により滅んでしまいました」
「はあ」
「しかし、唯一その『龍園』だけは滅びを免れていたのです。そこには少数種族・龍人《ドラグーン》達が住んでいます」
その龍人達は皆覚醒者としての素質を持ち、とりわけワイバーンを駆る龍騎士達は高い戦闘力を有している。そのため、このほど龍騎士達はソサエティに合流する事になったのだが。
「何せ何百年も西方――あ、西方っていうのは王国とか同盟とか、皆さんのよく知るここら辺の事ですよ――との交流が途絶えていたため、西方についてほとんど知識がないのです……というか、龍園の外の世界を知りません。ですので、茶会の席を設け、ハンターさん達の話を色々お聞きしたいと」
あなたは思わず首を捻った。
「それなら経験豊かなベテランハンターに頼むべきでは?」
至極当然の指摘である。モリスは勿論と首肯し、
「この依頼と並行し、ハンターとしての経験を問わずで募集もしています。なるべく幅広く様々なハンターさん達と交流したいというのが龍騎士隊長の……先方の希望なので。ですが、残念ながら未知の北方へ喜び勇んで行く駆け出しハンターさんは多くなくてですねぇ。そこで、別途駆け出しハンターさん達を募る事にしたのです」
龍人達の多くはこれからハンターとして登録し、活動していく事となる。だからこそ駆け出しのハンターならではの話が参考になる事もあるのではないか――そう結んだモリスにあなたは頷き、依頼を引き受ける事にした。
●
「ようこそ龍園へ、心から歓迎致します」
そうして龍園を訪れたあなた達を出迎えたのは、雪のような白い髪と、頬を縁取る碧い鱗が印象的な好青年。
彼こそが龍騎士隊を束ねる若き隊長・シャンカラだった。
見回せば、美しい白亜の結晶神殿を中心に石造りの家々が並び、まるで都市そのものが精緻な彫刻めいている。そこここで青いワイバーンが翼を休め、槍を手にしたリザードマン達が歩き回っていた。整った街並み、そして西方では滅多にお目に掛かれない龍の眷属達の姿に、思わず溜息が出る。
モリスが言っていた通り、一緒に訪れたハンター達は様々だった。あなたのように駆け出しのハンターもいれば、見るからにベテランらしいハンターもいる。龍人達と卓を囲みながら、皆思い思いの話をしている時だった。
「――……ッ!」
和やかな空気は、外から響いた叫び声や飛龍の嘶きによって一変する。
「何だ!?」
即座に飛び出していくシャンカラの後を、あなた達も追いかけた。
すると龍園の端、血塗れで帰還した若い龍騎士達がいた。
「しっかり……何があったんだい!?」
血相変えて駆け寄ったシャンカラに、若い騎士が苦し気に言う。
「制圧済みの強欲竜の砦跡にて、残党と思しき竜の群れと遭遇しました……けれど新兵の我々では歯が立たず……ダルマさんは我々を逃がす為、殿を……奴らを押さえながら、こちらへ撤退してきているはずです」
「何だって?」
ダルマとは龍騎士隊の中でも年長で、戦闘経験豊富な龍騎士の名だ。
更に別の騎士が言うには、遭遇した竜は全九頭。八頭は小型の走竜だが、群れの頭目の火竜は五メートルを超す巨躯だったと言う。竜の群れが迫っているという事実に、緊迫した空気が張りつめる。
「市外に防衛線を張ります! 第二小隊はリザードマン達と共に都市の防衛を。第一小隊は僕と共に火竜討伐へ!」
シャンカラは即座に指示したが、タイミングが悪かった。主戦力である第一小隊は、近隣警邏の為丁度出かけてしまった所だったのだ。そこでベテランハンターのひとりが声をあげる。
「私達も一緒に行きます!」
その申し出にシャンカラはすまなさそうに頷く。
「では、腕に自信のある方は一緒に来てください!」
腕に自信のあるハンター達は、龍騎士から借り受けたワイバーンに跨り、シャンカラと共に火竜討伐へ向かった。
残ったのはあなたと同じ駆け出しハンターばかりだ。
「ぼくらにもできる事、何かないかな」
ひとりが歯噛みして呟く。
すると突然肩を叩かれた。振り向けば、一頭のリザードマンが市外を指し示している。リザードマン達は人語を話す事ができないのだ。指さす先を見ると、残った龍騎士やリザードマン達が、龍園の外で防衛線を張っている所だった。
あなた達は頷き合い、その列に加わる事にした。
龍園を背にし、布陣を整えて程なくすると、向こうから一頭のワイバーンがやって来た。その背には大戦斧を担いだ三十代後半と思しき龍騎士――ダルマの姿があった。
幾らか傷を負っているものの、龍騎士ダルマは前線に立つあなた達を見、豪快に笑う。
「悪ぃなァ、ハンターさん達よぉ。折角の茶会だったってのに」
「お怪我は?」
「隊長さんや他の皆は!?」
尋ねるあなた達にダルマは言う。
「途中で会った。アイツらは群れの頭目のデケェ火竜を叩きに行ったぜ。だが恐らく火竜の相手で手一杯になるはずだ、手下の走竜どもはこっちに任すよう言っておいた」
「……って事は、走竜がこっちに来るって事?」
誰かが呟いた時、彼方から獰猛な咆哮が響いてきた。ダルマを追ってきたのだろう、八頭の走竜が駆けてくる。怯みそうになるが、ダルマは背負っていた戦斧を勇ましく振りかざす。
「悪ぃが俺も手負いだ、付き合って貰うぜェ? なァに相手は小者、万が一ン時は俺やリザードマン達で食い止める。ハンターのお手並み拝見と行こうじゃねェか!」
――茶会に来たはずなのに戦闘になろうとは。けれど迷っている暇はない。竜達はすぐそこまで迫っている。
あなたは得物を強く握りしめた。
リプレイ本文
●
「ほぉ」
龍園を背にして立つダルマは、前方で戦う六人の戦いぶりに目を細めていた。
「駆け出しハンター達だと聞いてたが、なかなかやるじゃねェか」
言ってニヤリと顎髭を擦る。
敵を半数討ち取り、戦いは中盤戦。ダルマはまだ一度もこの位置を動いていない。それはハンター達が善戦している証左だ。
今も前衛を大きく回り込んだ敵が防衛線へ向かって来ようとしたが、
「抜かせないよ……『其を留まらせよ。其の滅びに向け、その地より動かせ給うな』――!」
中衛のヴィリー・シュトラウス(ka6706)が放った光の杭に足を貫かれ、動きを止めた所へすかさずオートマチック「チェイサー」から放たれた弾丸が浴びせられる。まだ息があったが、前衛から駆け戻ったファリン(ka6844)の豪快な槍の一撃でとどめを刺された。
「ふぅ……ダンスの途中でいなくなってしまうなんて。随分ですね走竜様」
ファリンは額の汗を拭い小さく息をつく。
急な戦闘とは思えぬ連携ぶりに、ダルマは思わず口笛を鳴らした。それが聞こえたのか、「チェイサー」に弾倉を装填しつつリフィカ・レーヴェンフルス(ka5290)が振り返る。
「何、即席チームとはいえ役割は互いに自覚している。己の務めを果たし、協力し合えれば良いのさ」
「こりゃァお見事」
もう己の出番なしと見て、ダルマはどかりと胡坐をかいた。
彼が適当なのではない(性格は大分テキトウだが)。戦闘開始直後から前・中・後衛と綺麗に分かれた六人は、互いにフォローしつつ危なげない戦いぶりを披露していたのだ。
時は十分程前に遡る――
●
いまだ雪の残る荒野の向こうから、八頭の走竜が姿を現した。獰猛な牙を剥き出し真っ直ぐに向かって来る。
その行く手を阻むよう前線中央に陣取るは、均整のとれた肢体を持つ長身の美女。眩い橙色の髪を無造作に掻き上げ口を開く。
「茶ァ飲むだけの簡単な仕事って話だったはずなんだが……どこへ行こうと荒事は絶えねえな。歪虚連中も、ちったぁ気ィ使えっつーの」
ドゥルセ・H・ルシエンテス(ka6473)だ。麗しい見目とは裏腹な口調で吐き捨て、胸の前でナックル「セルモクラスィア」をガッとかち合わせる。同時に覚醒し、かち合わせた拳に蒼い炎が爆ぜた。
隣でファリンは歳不相応に大きな胸をたゆんと揺らし、ほぅっと息をつく。
「せっかくのお茶会でしたのに……残念ですね。でも来てしまったものは仕方ありません。強欲竜を見るのは初めてですから、これはこれで良い経験をしたと思う事にいたします」
しかし愛らしい吐息に反して、その手にあるのは身の丈を越す撃槍「阿」。
この美女達、闘る気満々である。
同じく前線を担うクラン・クィールス(ka6605)は「莫邪宝剣」に光の刀身を現しながら、
「まぁ、言ってても仕方ないな……さっさと終わらせて、また話を聞くとするか」
言ってちらりと後方へ目をやった。そこには友人レナード=クーク(ka6613)の姿がある。友人ではあるが、戦場を共にするのは今回が初めての事。ハンターとしてはクランの方が少し先輩だ。
(……アイツもハンターだ、戦闘の心配は要らないんだろうが……、……)
若干心配そうなクランをよそに、早くも敵を射程に収めたレナードは、ワンドを翳し詠唱を始めた。首筋や腕に青き星の紋を浮かべ、金に染まった瞳でじっと敵を見据える。走竜達は突出した中央の一頭を起点に、V字の隊列を組み突っ込んで来る。
「まずはその、すばしっこい脚をカチコチにしたるで!」
自身の前方、右翼の一頭へアイスボルトを放つ! 氷の矢は滑るように地を走り、竜の脚を地に縫いとめた。
「走竜にもちゃんと効くんやね、良かった……此処は、あの時龍人さん達と仲良うなれたきっかけの場所やから。これ以上被害が増えへん様、頑張らへんとね」
呟き、クランの視線に気付くとひらひらと手を振るレナード。
密かに安堵したクラン、不完全な翼めく幻影を羽ばたかせ、足止めされた竜へ飛びかかる。頭数は敵の方が多い。数の差を埋めるべく、守りを捨てた構えで強打を繰り出した!
しかし堕ちても竜である。鱗は中々に硬い。胴に大きな斬り傷を刻みつけたもののまだ浅い。その上氷の呪縛を打ち破り、その屈強な脚が解き放たれようとしている。
クラン、赤黒いオーラをガントレット状に纏わせた左手で、剣の柄を強く握り直す。
「いいさ……いずれにせよ、後衛を守るのは前衛の役目……だな」
鋭い爪を掻い潜り、果敢に懐へ飛び込んで行った。
見た目こそ人間だがエルフの血を引くリフィカ、エルフハイム由来の長弓をよっぴく。
「茶会は戦闘の後片付けに変更かな。折角の茶会に無粋な奴等だ……さて、こちらも先ずは足止めと行こう」
鋭敏視覚、それに立体感覚と、己が持てる力を駆使し冷静に敵を捕捉する。穏やかな黒耀の双眸がつと細まり、放った矢は中央の二頭を同時に行動不能へ追い込んだ!
その二頭へすかさず走り寄る影――ドゥルセだ。
「悪ィけど、こっちは茶会を台無しにされてイラついてんだ。お望み通りブッ飛ばしてやる。とっとと頭数減らさせてもらうぜ!」
長身を撓め力を溜めると、頭を狙い抉るような一撃を放つ! 僅かに狙いが逸れたが、右肩の肉を大きくこそげ落とした。右腕はもう使えまい。上々の結果に口の端をつり上げると、戒めを解いたもう一頭が彼女の背へ襲い掛かる!
「甘ェんだよッ」
ドゥルセ、レガースで固めた片脚を上げ、叩きつけられた尾を受け止める。衝撃に顔を歪めども体勢は崩さず、そのまま強烈な回し蹴りをキメた!
一旦距離をとった二頭の竜は、燃えるような目で彼女を睨む。ドゥルセは真っ直ぐに突き出した左手の指をくいっと曲げて見せ、
「ハッ、ヤル気満々ってヤツか? いいぜ。かかってきな」
不敵な笑みを浮かべる。挑発された竜達は唸りを上げて彼女に殺到した。
「竜の屈強な体躯から予想される耐久力……手負いといえど、油断はできない」
中衛を預かるヴィリーは敬虔なエクラ教徒でもある。熱心なエクラ教徒であったという帝国初代皇帝の剣を模した聖剣「カル・マ・ヘトン」に祈りを込め、自由を許している左翼の敵へホーリーライトを投げ込む! 脚に被弾した竜の動きが鈍った。そこへファリンが突っ込んで来る。
「それでは……一緒に踊りましょうか、走竜様」
精霊に祈る事で高めた身体能力をフルに活かし、祖霊の力で威力を増した一撃を思う様食らわせる! 小柄な身体に、攻撃力を重視した長大な槍。その重みを威力に変えて振り回す様は、愛らしい外見に反し豪快そのものだ。
「振っていればいつか当たります!」
どうやら命中力に自身薄な様子の彼女。重い槍が生み出す遠心力に乗って舞い、半ば舞わされているようでもあるが、その穂先は中々の正確さで敵を抉っていく。竜の血飛沫に彩られ、彼女の軽やかな足捌きは一層の冴えを見せるのだった。
●
そうしてリフィカとレナードの支援を受けながら、クランが一頭、ドゥルセが一頭、共闘するヴィリーとファリンが二頭の敵を屠った時だ。
残った四頭の竜達はだしぬけにフッと宙を仰いだ。
「気を付けるんだ、様子がおかしい!」
リフィカが叫ぶが早いか、竜達は二頭ずつ左右に散った。前衛を避けそのまま後衛へ、あるいは龍騎士達が築く防衛線に突っ込もうというのだ!
――ここで冒頭に時が追いつく。
内一頭をヴィリーがジャッジメントで足止めし、リフィカの弾丸が削り、ファリンの槍撃で蹴散らす。
残り三頭。
「待てこのッ!」
ドゥルセ、自らとの喧嘩を放棄した敵を急いで追いかけた。しかし敵の移動力はドゥルセのそれを凌ぐ! そこへ、
「今度は脚だけじゃ済まさへんくらい強く……やね?」
己とリフィカへウィンドガストを付与し終えたレナード、再び氷の矢を放つ。被弾した竜の脚は凍りつくや砕け散った! どっと倒れ込んだ所にドゥルセが追い上げて来る。
「喧嘩の最中に背ェ向けるとは良い度胸じゃねえか!」
熱気を帯びた「セルモクラスィア」で、捻りを加えた打撃を叩き込む! 強烈な一撃が胴に風穴を開けると、竜の身体はたちまち消え失せた。
ところがだ。その間、レナードへ突進する別の一頭の姿があった。
「くっ……!」
気付いたレナードは咄嗟に迎撃しようとするが、たった今術を使ったばかりだ。ウィンドガストで高めた回避力をもって何とか牙を逃れる。だが竜の攻撃は止まらない。この走竜達は連続して噛み付くのだ。再びレナードめがけ顎が開かれた――!
一方、淡い燐光を纏う盾を手にしたヴィリーは、別の一頭の突進を正面から受け止めていた。
「地上で生きてきた強靭な脚力……大したものだよ。けれどこの聖盾をもってすれば、止められない程じゃないっ」
盾に刻まれた法術印が、マテリアルの高まりに呼応するよう輝きを増した。ヴィリーは全身の力を込めて走竜の身体を押し返すと、反動でよろめいたところをすかさず聖剣で斬りつける! 聖なる剣と盾を手に敵を阻むその勇姿、さながら聖騎士の如しだ。
「走竜様。名残は尽きませんが、これでラストダンスと致しましょう」
ファリンも大きく槍を引き刺突を繰り出す! そうして脚を貫かれた走竜は、必死に尾を振り回して反撃したものの、程なくふたりの斬撃に散った。
そしてレナード。
「避けきれへん……っ! でもこの先に行かせる訳にはさせへんから、堪忍したってな……竜さん」
牙で肌を裂かれながらも、至近距離で炎の矢を叩きつける!
「レナード君!」
リフィカも冷気を纏った矢で加勢する。身体が凍えていく感覚に、竜は忌々し気に吠えた。竜達はアイスボルト、コールドショット、制圧射撃にジャッジメントと、中後衛の面々が放つ攻撃に動きを封じられ、まともに力を揮う事すらできなかったのだ。回避せど解除せど三人の術は尽きず、繰り返し動きを封じられてしまうのだから。
しかし憎悪を込めてリフィカを睨み据えた所で、その牙が届くでもない。ならばせめてと再度レナードへ噛みつこうとしたが、次の瞬間大口を開けた竜の首が宙を舞った。
「ッ……?」
思わずぎゅっと瞑った目をそろりと開いたレナード。倒れ込む竜の背後に、友の姿を見てホッと息を吐く。
「……悪い、遅くなった……」
懸命に前線から駆け戻ったクランは、少し決まりが悪そうに呟き、「莫邪宝剣」の刃を静かに収めた。
●
「……はい、これでもう大丈夫だよ」
敵が消えた龍園前。ヴィリーは負傷した仲間達を集め、ヒーリングスフィアを重ね掛ける。そこにはちゃっかり龍騎士ダルマの姿があった。
「悪ィなぁ、俺まで回復して貰っちまってよォ」
ヴィリーは青い目を細めて微笑み、首を横に振る。
「医学者を志す者として、怪我人を放っておく事はできませんから」
「へぇ、なら将来はお医者様かァ? そりゃあ大ェしたモンだな!」
あまりにダルマが大仰に驚くので、ダルマと面識のあるレナードが尋ねてみる。
「確かに、お医者様になるんは難しいことやけど……そないに驚くことなん?」
ダルマが言うには、龍園では年々減少する人口に比例し、治療の心得のある者が減ってきているのだという。学者であるリフィカは興味深げに首肯する。
「確か、龍人は短命なんだろう? 技術や知識を後進に伝える事も、他の種族に比べたら大変な事なのかもしれないな」
「へえ。オレらハンターにはこういう回復術使えるヤツもたくさんいるけどなあ」
「自分で回復もできたりもしますしね?」
ドゥルセとファリンが首を傾げあうと、ダルマはヴィリーを見つつ頷く。
「だが龍園じゃまだ覚醒者は限られてっからよォ。聖導士も増えてくれりゃ、戦闘も楽になンだがなぁ」
その言葉にクランの眉が僅かに顰められる。
「……強欲竜、か。今戦った竜達は、前に龍騎士隊が潰した砦の残党だって話だったが……」
探るようなクランの瞳に、ダルマは思案気に腕を組んだ。
「砦跡から出て来た所に出くわしたから、砦の一派の残りカスなんだとは思うが……ちと気になる事もある。走竜達が半分に減った時に見せたあの動きだ」
ダルマが言っているのは、敵の残りが四頭になった際、竜達が一斉に左右へ逸れた事だった。それまで協力し合う素振りもなく戦っていた竜達だから、六人も不意を突かれてしまった。
後方でその全容を視界に収めていたリフィカが呟く。
「あの四頭の中に走竜達のリーダーがいて、指示をしたと考えるのが自然だが……鳴き声などは聞こえなかったな」
「ん……何か合図を出しているようにも見えなかった」
間近でその様を見ていたクランもますます眉根を寄せる。
では一体どういう事なのか。そもそも今回の強欲竜達のボスは、別部隊が討伐しに行った火竜だったはずだ。
「だがあの火竜、お世辞にも知恵が回るようには見えなかったンだよなァ。遠くから指示するなんざ無理だろうし」
とは火竜に相対したダルマの見立てだ。ならば、あの時見せた統率された動きは一体――
その時、背後の龍騎士隊が歓声を上げた。見れば、青い飛龍を駆る別動隊の七人がこちらへ向かって来る。無事火竜を討伐できたらしい。
ダルマは重くなりかけた空気を振り払うよう、勢いよく立ち上がる。
「ま、隊長殿に報告してみるさ。その内大掛かりな砦跡地の調査に踏み切る事になるだろう。そん時ゃまた手ェ貸して貰えると助かるぜ」
言う間にも、隊長達の帰還ににわかに慌ただしくなる。ヴィリーは思い出したように手を叩いた。
「そうだ、負傷して帰ってきた若い騎士達がいたね。手当に行こうか」
「手伝おう。ダルマ君、我々にできる事があれば言って欲しい」
リフィカがそう申し出ると、
「おう、任せな!」
「ポーションも持参しておりますよ」
傷の癒えたドゥルセとファリンも元気よく頷いた。ダルマの後に続き、龍騎士達に合流すべく歩き出す。
レナードはちょっぴり残念そうに茶会会場の方を振り返った。
「またゆっくりお話できる機会、あるとええんやけど」
そんなレナードの肩を叩き、リフィカは茶目っ気たっぷりに片目を瞑る。
「まぁ、これっきりの関係ではないのだし。次回のお楽しみというところかな」
「……だな」
クランもこくり頷いた。レナードの顔に笑みが戻る。そうして三人も急ぎ仲間の後を追ったのだった。
「ほぉ」
龍園を背にして立つダルマは、前方で戦う六人の戦いぶりに目を細めていた。
「駆け出しハンター達だと聞いてたが、なかなかやるじゃねェか」
言ってニヤリと顎髭を擦る。
敵を半数討ち取り、戦いは中盤戦。ダルマはまだ一度もこの位置を動いていない。それはハンター達が善戦している証左だ。
今も前衛を大きく回り込んだ敵が防衛線へ向かって来ようとしたが、
「抜かせないよ……『其を留まらせよ。其の滅びに向け、その地より動かせ給うな』――!」
中衛のヴィリー・シュトラウス(ka6706)が放った光の杭に足を貫かれ、動きを止めた所へすかさずオートマチック「チェイサー」から放たれた弾丸が浴びせられる。まだ息があったが、前衛から駆け戻ったファリン(ka6844)の豪快な槍の一撃でとどめを刺された。
「ふぅ……ダンスの途中でいなくなってしまうなんて。随分ですね走竜様」
ファリンは額の汗を拭い小さく息をつく。
急な戦闘とは思えぬ連携ぶりに、ダルマは思わず口笛を鳴らした。それが聞こえたのか、「チェイサー」に弾倉を装填しつつリフィカ・レーヴェンフルス(ka5290)が振り返る。
「何、即席チームとはいえ役割は互いに自覚している。己の務めを果たし、協力し合えれば良いのさ」
「こりゃァお見事」
もう己の出番なしと見て、ダルマはどかりと胡坐をかいた。
彼が適当なのではない(性格は大分テキトウだが)。戦闘開始直後から前・中・後衛と綺麗に分かれた六人は、互いにフォローしつつ危なげない戦いぶりを披露していたのだ。
時は十分程前に遡る――
●
いまだ雪の残る荒野の向こうから、八頭の走竜が姿を現した。獰猛な牙を剥き出し真っ直ぐに向かって来る。
その行く手を阻むよう前線中央に陣取るは、均整のとれた肢体を持つ長身の美女。眩い橙色の髪を無造作に掻き上げ口を開く。
「茶ァ飲むだけの簡単な仕事って話だったはずなんだが……どこへ行こうと荒事は絶えねえな。歪虚連中も、ちったぁ気ィ使えっつーの」
ドゥルセ・H・ルシエンテス(ka6473)だ。麗しい見目とは裏腹な口調で吐き捨て、胸の前でナックル「セルモクラスィア」をガッとかち合わせる。同時に覚醒し、かち合わせた拳に蒼い炎が爆ぜた。
隣でファリンは歳不相応に大きな胸をたゆんと揺らし、ほぅっと息をつく。
「せっかくのお茶会でしたのに……残念ですね。でも来てしまったものは仕方ありません。強欲竜を見るのは初めてですから、これはこれで良い経験をしたと思う事にいたします」
しかし愛らしい吐息に反して、その手にあるのは身の丈を越す撃槍「阿」。
この美女達、闘る気満々である。
同じく前線を担うクラン・クィールス(ka6605)は「莫邪宝剣」に光の刀身を現しながら、
「まぁ、言ってても仕方ないな……さっさと終わらせて、また話を聞くとするか」
言ってちらりと後方へ目をやった。そこには友人レナード=クーク(ka6613)の姿がある。友人ではあるが、戦場を共にするのは今回が初めての事。ハンターとしてはクランの方が少し先輩だ。
(……アイツもハンターだ、戦闘の心配は要らないんだろうが……、……)
若干心配そうなクランをよそに、早くも敵を射程に収めたレナードは、ワンドを翳し詠唱を始めた。首筋や腕に青き星の紋を浮かべ、金に染まった瞳でじっと敵を見据える。走竜達は突出した中央の一頭を起点に、V字の隊列を組み突っ込んで来る。
「まずはその、すばしっこい脚をカチコチにしたるで!」
自身の前方、右翼の一頭へアイスボルトを放つ! 氷の矢は滑るように地を走り、竜の脚を地に縫いとめた。
「走竜にもちゃんと効くんやね、良かった……此処は、あの時龍人さん達と仲良うなれたきっかけの場所やから。これ以上被害が増えへん様、頑張らへんとね」
呟き、クランの視線に気付くとひらひらと手を振るレナード。
密かに安堵したクラン、不完全な翼めく幻影を羽ばたかせ、足止めされた竜へ飛びかかる。頭数は敵の方が多い。数の差を埋めるべく、守りを捨てた構えで強打を繰り出した!
しかし堕ちても竜である。鱗は中々に硬い。胴に大きな斬り傷を刻みつけたもののまだ浅い。その上氷の呪縛を打ち破り、その屈強な脚が解き放たれようとしている。
クラン、赤黒いオーラをガントレット状に纏わせた左手で、剣の柄を強く握り直す。
「いいさ……いずれにせよ、後衛を守るのは前衛の役目……だな」
鋭い爪を掻い潜り、果敢に懐へ飛び込んで行った。
見た目こそ人間だがエルフの血を引くリフィカ、エルフハイム由来の長弓をよっぴく。
「茶会は戦闘の後片付けに変更かな。折角の茶会に無粋な奴等だ……さて、こちらも先ずは足止めと行こう」
鋭敏視覚、それに立体感覚と、己が持てる力を駆使し冷静に敵を捕捉する。穏やかな黒耀の双眸がつと細まり、放った矢は中央の二頭を同時に行動不能へ追い込んだ!
その二頭へすかさず走り寄る影――ドゥルセだ。
「悪ィけど、こっちは茶会を台無しにされてイラついてんだ。お望み通りブッ飛ばしてやる。とっとと頭数減らさせてもらうぜ!」
長身を撓め力を溜めると、頭を狙い抉るような一撃を放つ! 僅かに狙いが逸れたが、右肩の肉を大きくこそげ落とした。右腕はもう使えまい。上々の結果に口の端をつり上げると、戒めを解いたもう一頭が彼女の背へ襲い掛かる!
「甘ェんだよッ」
ドゥルセ、レガースで固めた片脚を上げ、叩きつけられた尾を受け止める。衝撃に顔を歪めども体勢は崩さず、そのまま強烈な回し蹴りをキメた!
一旦距離をとった二頭の竜は、燃えるような目で彼女を睨む。ドゥルセは真っ直ぐに突き出した左手の指をくいっと曲げて見せ、
「ハッ、ヤル気満々ってヤツか? いいぜ。かかってきな」
不敵な笑みを浮かべる。挑発された竜達は唸りを上げて彼女に殺到した。
「竜の屈強な体躯から予想される耐久力……手負いといえど、油断はできない」
中衛を預かるヴィリーは敬虔なエクラ教徒でもある。熱心なエクラ教徒であったという帝国初代皇帝の剣を模した聖剣「カル・マ・ヘトン」に祈りを込め、自由を許している左翼の敵へホーリーライトを投げ込む! 脚に被弾した竜の動きが鈍った。そこへファリンが突っ込んで来る。
「それでは……一緒に踊りましょうか、走竜様」
精霊に祈る事で高めた身体能力をフルに活かし、祖霊の力で威力を増した一撃を思う様食らわせる! 小柄な身体に、攻撃力を重視した長大な槍。その重みを威力に変えて振り回す様は、愛らしい外見に反し豪快そのものだ。
「振っていればいつか当たります!」
どうやら命中力に自身薄な様子の彼女。重い槍が生み出す遠心力に乗って舞い、半ば舞わされているようでもあるが、その穂先は中々の正確さで敵を抉っていく。竜の血飛沫に彩られ、彼女の軽やかな足捌きは一層の冴えを見せるのだった。
●
そうしてリフィカとレナードの支援を受けながら、クランが一頭、ドゥルセが一頭、共闘するヴィリーとファリンが二頭の敵を屠った時だ。
残った四頭の竜達はだしぬけにフッと宙を仰いだ。
「気を付けるんだ、様子がおかしい!」
リフィカが叫ぶが早いか、竜達は二頭ずつ左右に散った。前衛を避けそのまま後衛へ、あるいは龍騎士達が築く防衛線に突っ込もうというのだ!
――ここで冒頭に時が追いつく。
内一頭をヴィリーがジャッジメントで足止めし、リフィカの弾丸が削り、ファリンの槍撃で蹴散らす。
残り三頭。
「待てこのッ!」
ドゥルセ、自らとの喧嘩を放棄した敵を急いで追いかけた。しかし敵の移動力はドゥルセのそれを凌ぐ! そこへ、
「今度は脚だけじゃ済まさへんくらい強く……やね?」
己とリフィカへウィンドガストを付与し終えたレナード、再び氷の矢を放つ。被弾した竜の脚は凍りつくや砕け散った! どっと倒れ込んだ所にドゥルセが追い上げて来る。
「喧嘩の最中に背ェ向けるとは良い度胸じゃねえか!」
熱気を帯びた「セルモクラスィア」で、捻りを加えた打撃を叩き込む! 強烈な一撃が胴に風穴を開けると、竜の身体はたちまち消え失せた。
ところがだ。その間、レナードへ突進する別の一頭の姿があった。
「くっ……!」
気付いたレナードは咄嗟に迎撃しようとするが、たった今術を使ったばかりだ。ウィンドガストで高めた回避力をもって何とか牙を逃れる。だが竜の攻撃は止まらない。この走竜達は連続して噛み付くのだ。再びレナードめがけ顎が開かれた――!
一方、淡い燐光を纏う盾を手にしたヴィリーは、別の一頭の突進を正面から受け止めていた。
「地上で生きてきた強靭な脚力……大したものだよ。けれどこの聖盾をもってすれば、止められない程じゃないっ」
盾に刻まれた法術印が、マテリアルの高まりに呼応するよう輝きを増した。ヴィリーは全身の力を込めて走竜の身体を押し返すと、反動でよろめいたところをすかさず聖剣で斬りつける! 聖なる剣と盾を手に敵を阻むその勇姿、さながら聖騎士の如しだ。
「走竜様。名残は尽きませんが、これでラストダンスと致しましょう」
ファリンも大きく槍を引き刺突を繰り出す! そうして脚を貫かれた走竜は、必死に尾を振り回して反撃したものの、程なくふたりの斬撃に散った。
そしてレナード。
「避けきれへん……っ! でもこの先に行かせる訳にはさせへんから、堪忍したってな……竜さん」
牙で肌を裂かれながらも、至近距離で炎の矢を叩きつける!
「レナード君!」
リフィカも冷気を纏った矢で加勢する。身体が凍えていく感覚に、竜は忌々し気に吠えた。竜達はアイスボルト、コールドショット、制圧射撃にジャッジメントと、中後衛の面々が放つ攻撃に動きを封じられ、まともに力を揮う事すらできなかったのだ。回避せど解除せど三人の術は尽きず、繰り返し動きを封じられてしまうのだから。
しかし憎悪を込めてリフィカを睨み据えた所で、その牙が届くでもない。ならばせめてと再度レナードへ噛みつこうとしたが、次の瞬間大口を開けた竜の首が宙を舞った。
「ッ……?」
思わずぎゅっと瞑った目をそろりと開いたレナード。倒れ込む竜の背後に、友の姿を見てホッと息を吐く。
「……悪い、遅くなった……」
懸命に前線から駆け戻ったクランは、少し決まりが悪そうに呟き、「莫邪宝剣」の刃を静かに収めた。
●
「……はい、これでもう大丈夫だよ」
敵が消えた龍園前。ヴィリーは負傷した仲間達を集め、ヒーリングスフィアを重ね掛ける。そこにはちゃっかり龍騎士ダルマの姿があった。
「悪ィなぁ、俺まで回復して貰っちまってよォ」
ヴィリーは青い目を細めて微笑み、首を横に振る。
「医学者を志す者として、怪我人を放っておく事はできませんから」
「へぇ、なら将来はお医者様かァ? そりゃあ大ェしたモンだな!」
あまりにダルマが大仰に驚くので、ダルマと面識のあるレナードが尋ねてみる。
「確かに、お医者様になるんは難しいことやけど……そないに驚くことなん?」
ダルマが言うには、龍園では年々減少する人口に比例し、治療の心得のある者が減ってきているのだという。学者であるリフィカは興味深げに首肯する。
「確か、龍人は短命なんだろう? 技術や知識を後進に伝える事も、他の種族に比べたら大変な事なのかもしれないな」
「へえ。オレらハンターにはこういう回復術使えるヤツもたくさんいるけどなあ」
「自分で回復もできたりもしますしね?」
ドゥルセとファリンが首を傾げあうと、ダルマはヴィリーを見つつ頷く。
「だが龍園じゃまだ覚醒者は限られてっからよォ。聖導士も増えてくれりゃ、戦闘も楽になンだがなぁ」
その言葉にクランの眉が僅かに顰められる。
「……強欲竜、か。今戦った竜達は、前に龍騎士隊が潰した砦の残党だって話だったが……」
探るようなクランの瞳に、ダルマは思案気に腕を組んだ。
「砦跡から出て来た所に出くわしたから、砦の一派の残りカスなんだとは思うが……ちと気になる事もある。走竜達が半分に減った時に見せたあの動きだ」
ダルマが言っているのは、敵の残りが四頭になった際、竜達が一斉に左右へ逸れた事だった。それまで協力し合う素振りもなく戦っていた竜達だから、六人も不意を突かれてしまった。
後方でその全容を視界に収めていたリフィカが呟く。
「あの四頭の中に走竜達のリーダーがいて、指示をしたと考えるのが自然だが……鳴き声などは聞こえなかったな」
「ん……何か合図を出しているようにも見えなかった」
間近でその様を見ていたクランもますます眉根を寄せる。
では一体どういう事なのか。そもそも今回の強欲竜達のボスは、別部隊が討伐しに行った火竜だったはずだ。
「だがあの火竜、お世辞にも知恵が回るようには見えなかったンだよなァ。遠くから指示するなんざ無理だろうし」
とは火竜に相対したダルマの見立てだ。ならば、あの時見せた統率された動きは一体――
その時、背後の龍騎士隊が歓声を上げた。見れば、青い飛龍を駆る別動隊の七人がこちらへ向かって来る。無事火竜を討伐できたらしい。
ダルマは重くなりかけた空気を振り払うよう、勢いよく立ち上がる。
「ま、隊長殿に報告してみるさ。その内大掛かりな砦跡地の調査に踏み切る事になるだろう。そん時ゃまた手ェ貸して貰えると助かるぜ」
言う間にも、隊長達の帰還ににわかに慌ただしくなる。ヴィリーは思い出したように手を叩いた。
「そうだ、負傷して帰ってきた若い騎士達がいたね。手当に行こうか」
「手伝おう。ダルマ君、我々にできる事があれば言って欲しい」
リフィカがそう申し出ると、
「おう、任せな!」
「ポーションも持参しておりますよ」
傷の癒えたドゥルセとファリンも元気よく頷いた。ダルマの後に続き、龍騎士達に合流すべく歩き出す。
レナードはちょっぴり残念そうに茶会会場の方を振り返った。
「またゆっくりお話できる機会、あるとええんやけど」
そんなレナードの肩を叩き、リフィカは茶目っ気たっぷりに片目を瞑る。
「まぁ、これっきりの関係ではないのだし。次回のお楽しみというところかな」
「……だな」
クランもこくり頷いた。レナードの顔に笑みが戻る。そうして三人も急ぎ仲間の後を追ったのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/31 10:07:11 |
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走竜迎撃戦 相談場所 ヴィリー・シュトラウス(ka6706) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/06/04 20:39:50 |