ゲスト
(ka0000)
【黒祀】空より来たりし傲慢の
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/28 19:00
- 完成日
- 2014/11/05 22:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『始まりの村』トルティアより西回りのルートにて巡礼の旅に出た貴族の娘・クリスティーヌは、ようやく、と言っても良い位の時間をかけて、今、王国中西部へと入った。
「……ついに王国中北西部を抜けましたね、お嬢様!」
小さな川に掛かった木製の橋をとてててて…… と駆け上がりながら、若き侍女・マリアンヌがクリスを振り返り、破顔する。
元気に手を振るマリーの姿に、クリスはやれやれといった微笑で応えた。
「そうですね。誰かさんのせいで、予定よりずいぶんとゆっくりした行程になってしまいましたが」
「はぅっ!? 申し訳ありません! でも、見るもの、聞くもの、皆、初めてのことばかりなので、つい……」
謝りながらも恐縮した様子は見せず、てへっ、と舌を出すマリー。道中、何か珍しいものを見聞きする度に、マリーは一々反応してはそちらへ駆け寄り、寄り道を繰り返してきた。王都の第二街区だけが世界の全てであった者には、初めて目にする外の世界は新鮮な驚きに満ちたものだったのだ。
そんな気持ちが分かるだけに、クリスもまた苦笑を返すだけで何も言わなかった。元々、急ぐ旅ではないが、それでも、あまりにゆっくりしていてはオードラン卿──お嬢にとっての父上様、侍女にとっては雇い主たる旦那様──が渋い顔をなさるに違いない。
「いえいえ、構いませんよ。ゆっくり進めばいいのです。……でも、ここは王国中西部。リベルタース地方のすぐお隣ですけどね」
クリスが意地の悪い笑顔でそう言うと、マリーは「リベルタース!」と叫んでその顔を蒼くした。
歪虚蠢くイスルダ島(※写真は侍女のイメージです)と海を隔てて面するリベルタース地方は王国内でも歪虚が多く出現する土地であり、他の地方に住む人々にとっては天外魔境なイメージで語られることも多い。
「そっ、それはいけません! 早く行きましょう、お嬢様! 一刻も早く通過してしまわないと!」
慌てて戻って来てクリスの背を押し出すマリー。クリスは苦笑を洩らしつつ、急いで橋を歩き渡った。
その日の昼過ぎに辿り着いたのは、その貴族領の端にある、どこにでもありそうな小さな村だった。
産業が全て村内で自己完結しているような、巡礼者相手の宿や土産物屋が幾らかあるだけの── あまりにも何もないので、巡礼者の多くも聖堂での巡礼を終えたらその日の内に次の宿場町を目指す、そんな村。
そんな何の変哲もない村で、二人はこの巡礼の旅で二度目の足止めを喰らうこととなった。
「とにかく村に戻れ! 現在、街道、巡礼路の別を問わず、領内の道路を用いた私的な移動は禁止されている!」
聖堂での祈りを捧げ、老司祭から祝福を受け、村から移動しようとした人々が。領主から派遣されて来た兵士たちに威圧的に追い返される。
クリスは人々の最後尾でゆっくりと踵を返しながら、兵たちの会話に耳を済ませた。いったいどうなっている、何が起こっている、と小声で話す兵隊たち。領主の命を実行する彼等からして何も知らされていないと知り、クリスはその眉根をひそめる。
「どうやらここの貴族領の西──リベルタース地方に多数の歪虚が発生しているらしい」
その日の夜。多くの巡礼者たちでごったがえす宿坊の食堂で、道路閉鎖の理由を教えてくれたのは、王国の新聞社『ヘルメス情報局』の記者を名乗る2人組の男たちだった。
「まだ確証が取れたネタではないが……」
「自分たちは今からそれを取材に行くんです」
ベテランと思しき中年記者と、新人と思しき若い記者が、食事の与太話の態で、だが、周囲には聞こえぬ位の小声でクリスに告げる。それでか、とマリーとクリスは顔を見合わせ頷いた。この村の先にある宿場町には、王都とハルトフォートを結ぶ街道の、その側道に当たる道が通っている。ここの領主もまだ確かな情報は得ていないのだろうが、万一の事態──軍やその輜重が移動する場合に備え、一般人の道路の使用を制限してみたのだろう。
クリスがそう口にすると、記者二人は驚いた顔をした。正規の教育を受けた女性である事は会話から察していたのだろうが、まさか政治や軍事について語るとまでは思っていなかったに違いない。
「長くなると、思われますか?」
「わかりません。ともあれ、足止めを喰らった者らにとっちゃあ、迷惑な話に変わりはありませんや」
翌朝── 情報を教えてくれた新聞社の2人は宿坊からいなくなっていた。何泊もするつもりはないような口ぶりだったから、恐らくは彼等独自のルートを使って村を抜け出したのだろう。
それから数日が経っても、道の閉鎖は解かれなかった。
道路閉鎖直後は宿屋に泊まっていた巡礼者でも裕福な者たちも、宿泊代が吊り上げられるに至って聖堂の宿坊へと移ってきていた。人の増えた宿坊は巡礼者たちでいっぱいになり、しばしば巡礼者間の小競り合いも見られるようになった。
宿坊に留め置かれた巡礼者たちの苛立ちと不満は既に限界に近づきつつあった。聖堂が備蓄していた食糧もそこをつき、今は教会の司祭が後払いを約して村の農家から譲ってもらっているが、それもこの道路の閉鎖が続けばいずれ限界を迎えるだろう。
「お嬢様──」
それらの事情を朝の祈りへ赴いた教会の裏手で聞いて──マリーがギュッとクリスの聖衣を掴んだ。
クリスもまたマリーに頷き…… 困り顔の老司祭と助祭の元へ赴くと、驚いた顔の二人に礼をした後、幾重にも重ねた荷の中から、一粒の宝石を取り出した。
「寄進いたします。これで皆様の食事代を用立ててくださいませ」
「おおっ、オードラン様。いけません。このような高価なものを……!」
「構いません。今は火急の時…… それに、もし、ご飯が食べれなくなってしまったら、私たちも困ってしまいます」
これを見せ金として使えば、あまりの負担にこれ以上の食料供出を渋り始めた村の農民たちも、納得しやすくなるだろう── そう告げるクリスに、老司祭は暫し逡巡したものの…… やがて、腰を深く折り曲げた。
「無駄には、致しませぬ」
驚く若い助祭の横で、宝石を受け取る老司祭。瞬間、急を報せる村の半鐘の音が鳴り響き── 慌てて顔を上げたクリスたちの視界の端。蒼い空を背景に一対の翼が羽ばたくのが見えた。
「鳥……? いや、あれは──」
続く単語は『ハーピー』と訳された。猛禽の翼と鉤爪を四肢に生やした人型の歪虚を指す単語だ。今、空を飛んでいるものは『傲慢』に属する歪虚らしく、襲った獲物から奪ったと思しき銀貨やキラキラした物を表皮に埋め込み、その身を飾り立てている。
「まさか、こんな所まで歪虚が……!? 皆、家に隠れて外に出るな!」
空を見上げ走りながら村人たちに声を掛けて回る兵士たち。
蜂の巣を突いたような騒ぎになった村の様子を見下ろしながら── 『ハーピー』は地上の一点に目をつけると、そちらへ向かって急降下。村への襲撃を開始した。
「……ついに王国中北西部を抜けましたね、お嬢様!」
小さな川に掛かった木製の橋をとてててて…… と駆け上がりながら、若き侍女・マリアンヌがクリスを振り返り、破顔する。
元気に手を振るマリーの姿に、クリスはやれやれといった微笑で応えた。
「そうですね。誰かさんのせいで、予定よりずいぶんとゆっくりした行程になってしまいましたが」
「はぅっ!? 申し訳ありません! でも、見るもの、聞くもの、皆、初めてのことばかりなので、つい……」
謝りながらも恐縮した様子は見せず、てへっ、と舌を出すマリー。道中、何か珍しいものを見聞きする度に、マリーは一々反応してはそちらへ駆け寄り、寄り道を繰り返してきた。王都の第二街区だけが世界の全てであった者には、初めて目にする外の世界は新鮮な驚きに満ちたものだったのだ。
そんな気持ちが分かるだけに、クリスもまた苦笑を返すだけで何も言わなかった。元々、急ぐ旅ではないが、それでも、あまりにゆっくりしていてはオードラン卿──お嬢にとっての父上様、侍女にとっては雇い主たる旦那様──が渋い顔をなさるに違いない。
「いえいえ、構いませんよ。ゆっくり進めばいいのです。……でも、ここは王国中西部。リベルタース地方のすぐお隣ですけどね」
クリスが意地の悪い笑顔でそう言うと、マリーは「リベルタース!」と叫んでその顔を蒼くした。
歪虚蠢くイスルダ島(※写真は侍女のイメージです)と海を隔てて面するリベルタース地方は王国内でも歪虚が多く出現する土地であり、他の地方に住む人々にとっては天外魔境なイメージで語られることも多い。
「そっ、それはいけません! 早く行きましょう、お嬢様! 一刻も早く通過してしまわないと!」
慌てて戻って来てクリスの背を押し出すマリー。クリスは苦笑を洩らしつつ、急いで橋を歩き渡った。
その日の昼過ぎに辿り着いたのは、その貴族領の端にある、どこにでもありそうな小さな村だった。
産業が全て村内で自己完結しているような、巡礼者相手の宿や土産物屋が幾らかあるだけの── あまりにも何もないので、巡礼者の多くも聖堂での巡礼を終えたらその日の内に次の宿場町を目指す、そんな村。
そんな何の変哲もない村で、二人はこの巡礼の旅で二度目の足止めを喰らうこととなった。
「とにかく村に戻れ! 現在、街道、巡礼路の別を問わず、領内の道路を用いた私的な移動は禁止されている!」
聖堂での祈りを捧げ、老司祭から祝福を受け、村から移動しようとした人々が。領主から派遣されて来た兵士たちに威圧的に追い返される。
クリスは人々の最後尾でゆっくりと踵を返しながら、兵たちの会話に耳を済ませた。いったいどうなっている、何が起こっている、と小声で話す兵隊たち。領主の命を実行する彼等からして何も知らされていないと知り、クリスはその眉根をひそめる。
「どうやらここの貴族領の西──リベルタース地方に多数の歪虚が発生しているらしい」
その日の夜。多くの巡礼者たちでごったがえす宿坊の食堂で、道路閉鎖の理由を教えてくれたのは、王国の新聞社『ヘルメス情報局』の記者を名乗る2人組の男たちだった。
「まだ確証が取れたネタではないが……」
「自分たちは今からそれを取材に行くんです」
ベテランと思しき中年記者と、新人と思しき若い記者が、食事の与太話の態で、だが、周囲には聞こえぬ位の小声でクリスに告げる。それでか、とマリーとクリスは顔を見合わせ頷いた。この村の先にある宿場町には、王都とハルトフォートを結ぶ街道の、その側道に当たる道が通っている。ここの領主もまだ確かな情報は得ていないのだろうが、万一の事態──軍やその輜重が移動する場合に備え、一般人の道路の使用を制限してみたのだろう。
クリスがそう口にすると、記者二人は驚いた顔をした。正規の教育を受けた女性である事は会話から察していたのだろうが、まさか政治や軍事について語るとまでは思っていなかったに違いない。
「長くなると、思われますか?」
「わかりません。ともあれ、足止めを喰らった者らにとっちゃあ、迷惑な話に変わりはありませんや」
翌朝── 情報を教えてくれた新聞社の2人は宿坊からいなくなっていた。何泊もするつもりはないような口ぶりだったから、恐らくは彼等独自のルートを使って村を抜け出したのだろう。
それから数日が経っても、道の閉鎖は解かれなかった。
道路閉鎖直後は宿屋に泊まっていた巡礼者でも裕福な者たちも、宿泊代が吊り上げられるに至って聖堂の宿坊へと移ってきていた。人の増えた宿坊は巡礼者たちでいっぱいになり、しばしば巡礼者間の小競り合いも見られるようになった。
宿坊に留め置かれた巡礼者たちの苛立ちと不満は既に限界に近づきつつあった。聖堂が備蓄していた食糧もそこをつき、今は教会の司祭が後払いを約して村の農家から譲ってもらっているが、それもこの道路の閉鎖が続けばいずれ限界を迎えるだろう。
「お嬢様──」
それらの事情を朝の祈りへ赴いた教会の裏手で聞いて──マリーがギュッとクリスの聖衣を掴んだ。
クリスもまたマリーに頷き…… 困り顔の老司祭と助祭の元へ赴くと、驚いた顔の二人に礼をした後、幾重にも重ねた荷の中から、一粒の宝石を取り出した。
「寄進いたします。これで皆様の食事代を用立ててくださいませ」
「おおっ、オードラン様。いけません。このような高価なものを……!」
「構いません。今は火急の時…… それに、もし、ご飯が食べれなくなってしまったら、私たちも困ってしまいます」
これを見せ金として使えば、あまりの負担にこれ以上の食料供出を渋り始めた村の農民たちも、納得しやすくなるだろう── そう告げるクリスに、老司祭は暫し逡巡したものの…… やがて、腰を深く折り曲げた。
「無駄には、致しませぬ」
驚く若い助祭の横で、宝石を受け取る老司祭。瞬間、急を報せる村の半鐘の音が鳴り響き── 慌てて顔を上げたクリスたちの視界の端。蒼い空を背景に一対の翼が羽ばたくのが見えた。
「鳥……? いや、あれは──」
続く単語は『ハーピー』と訳された。猛禽の翼と鉤爪を四肢に生やした人型の歪虚を指す単語だ。今、空を飛んでいるものは『傲慢』に属する歪虚らしく、襲った獲物から奪ったと思しき銀貨やキラキラした物を表皮に埋め込み、その身を飾り立てている。
「まさか、こんな所まで歪虚が……!? 皆、家に隠れて外に出るな!」
空を見上げ走りながら村人たちに声を掛けて回る兵士たち。
蜂の巣を突いたような騒ぎになった村の様子を見下ろしながら── 『ハーピー』は地上の一点に目をつけると、そちらへ向かって急降下。村への襲撃を開始した。
リプレイ本文
やたらと高い街道沿いの宿を避け、村はずれの宿坊を訪れた結城 藤乃(ka1904)は、人々の人いきれに思わず「うわー……」と声を上げた。
皆、足止めを喰らった巡礼者だろう。皆、疲れ切り、そして、イラついていた。
「ひでぇもんさ。この村の連中、足元を見やがって、何もかも値段を吊り上げてきやがる」
浅黄 小夜(ka3062)が事情を聞いて回ると、巡礼者たちはそう不満を洩らした。
だが、村で村人たちに話を聞くと、真逆の答えが返ってきた。──巡礼者の連中、余所者の癖に態度が酷い。俺たちの蓄えを食い潰している自覚はあるのか──
「もし、余裕がありやがるのでしたら、ぜひ手伝って欲しいのですよ」
巡礼者たちの間を忙しそうに動き回りながら、前掛け姿のシスターが藤乃に声を掛ける。
シスターはシレークス(ka0752)だった。聖職者の一人として聖堂に顔を出した際、宿坊のひどい有様を見て自ら手伝いを買って出ていたのだ。
藤乃は大きく嘆息すると、無言で袖を捲った。──面倒くさいが仕方がない。賄いを手伝うくらいは自分にも出来るだろう……
ハーピーの襲撃は翌日。朝の礼拝が終わった後のことだった。
人込みを避け、宿坊の屋根の上で二度寝を決め込んでいたリィフィ(ka2702)は、半鐘の音が鳴ると同時に飛び起き、覚醒しながら空を見上げた。
「ぐるるるる…… この感じ…… 歪虚か!」
狼の耳と尻尾をぴくりと震わせながら、窓から宿坊の中へと飛び込む。
「騒ぐな! 女性と子供、老人から聖堂の奥へ避難! 戦える男たちはみんなを守って!」
突然の襲撃に怯え、動揺するばかりの人々にそう指示を飛ばし、藤乃とシレークスと合流し──
ふと、自分を見上げる幼い視線に気づいて、リィフィはふわりと微笑んでみせた。──だいじょーぶ。リィフィたちが絶対に手を出させないから──
「おいおい、なんだってこんな所に降ってくるんだよ。こんな近場に出られちゃ、知らないフリできねぇじゃんか」
一方、街道沿い── 鳴り響く半鐘の音を背景に、影護 絶(ka1077)はげんなりと呟いた。
(ったく。空飛ぶ歪虚かよ…… 相性キツいわ。とは言え、逃がしちまってもマズイだろうし……)
頭を抱える絶。その横で友人の柊 真司(ka0705)は不敵な笑みを浮かべる。
「まさかハーピーが襲撃してくるとはな…… おもしれぇ。こちとら暇を持て余していたところだ」
あっけに取られる絶を他所に、周囲の村人たちに避難するよう呼びかけながら走り出す真司。絶は両肩をガクリと落とすと、ただ働きになりませんよーに! と祈りながら慌ててその後を追う……
「宗派も違うし、なるべく早く通り過ぎてしまおうと思ってた矢先にこれですか」
信仰上の理由から敢えて村外れの農道を移動していたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)もまた、打ち鳴らされる半鐘の音に歪虚の襲撃を知った。
見て見ぬ振りをするわけにもいかなかった。歪虚は滅ぼすべき世界の敵。そして、彼女は勇敢なる戦いを司る戦神のシスターだ。
「義を見てせざるは勇なきなり── 仕方ありませんね」
アデリシアは祈りの言葉を口にすると、戦闘に備え、動き易くする為に改造した聖衣から更に布地を引き剥がした。
●
ハーピーの降下先は、村の中心に位置する教会──その尖塔に、カダル・アル=カーファハ(ka2166)がいた。
信心の深さ故──などではなかった。彼は生まれてこのかた『その手のモノ』に縋ったことはない。生きる事が即ち戦いであった男である。『救い』などはなから期待などしていない。
教会を訪れたのは、村からの抜け道を探す為だった。そして、それを見つけるより早くハーピーの襲撃に出くわした。
敵が降下して来るのを見て、カダルは戦いの予感に笑みを浮かべた。だが、敵は尖塔ではなく、眼下の裏庭──そこにいる老司祭に向けて一直線に降下していた。
「おい、この俺を無視して行くとはどういうことだ」
カダルは不機嫌に言い捨てると、急降下する敵に向かって弓を引いた。放たれた矢は降下するハーピーの鼻先を掠め飛び、敵が慌てて降下を止める。
旋回し、矢の飛んで来た尖塔の周囲をグルグルと旋回し始めるハーピー。身を隠したカダルは鐘楼の陰をしゃがんで移動し…… 石の柱を背に立ち上がると、飛行する敵の背へ向け再び手早く矢を放つ。
矢は狙い過たずに敵の背を捉え── 寸前、ハーピーは身体を回して回避した。そして、その遠心力を利用して掴んだ石を投擲する。石は、慌てて身を隠したカダルが一瞬前にいた空間を掠め飛び。そのまま鐘を直撃して轟音と破片を撒き散らす。
「誰かが戦っている──!」
その戦場を見上げながら、教会の門を走り抜ける真司と絶。投石でカダルの頭を抑えたハーピーは再び老司祭へ降下を始めていた。
魚を狙う鳥の様に羽を畳んで突っ込んだハーピーは、翼を大きく広げて制動しながらその鉤爪を前へと振り出し──
その鉤爪が老司祭の痩身を捉える寸前。横から飛び出してきたシレークスが、身体ごとぶつかるように老司祭を地面へ押し倒した。
「大丈夫ですか、司祭様!? ……おい、てめぇ。誰の許可を得てこんな所までやって来やがりましたですか、ああっ?!」
老司祭を抱き起こしながら、キッと敵を振り仰いで怒りの炎を燃やすシレークス。そのバラエティに富んだ罵詈雑言の数々に、老司祭が思わず目を丸くする。
一方、攻撃を外したハーピーは再び接近しようとして、今度は横合いから放たれた風の刃に邪魔をされた。苛つくハーピーの視線の先には、青眼の杖を構えた小夜の姿。薄い蒼色の髪と桜色の瞳に覚醒した彼女の足元で、黒猫の幻影がにー、と鳴く。
「風切羽とか、切られたら…… やっぱり飛び辛くなる……?」
再びワンドを振って『ウィンドスラッシュ』を放つ小夜。ハーピーはその刃を跳び避けながら一羽ばたきで小夜へと迫った。振るわれた鉤爪を小夜はどうにか杖で受け凌ぎ。だが、衝撃を受けきれずにコロンと尻から地面へ転ぶ。
「おおっ、随分と増えてやがんな」
集まって来たハンターたちの数を見て、到着した絶が愉快そうに軽口を叩く。真司は敵の注意を引くべく「これでも喰らいな!」と叫びながら、小夜の上を跳ぶハーピーに向かって突撃銃を指切りバーストで撃ち放った。慌てて飛び逃げる敵。真司は銃口を敵へと向けたまま移動し、一定の距離を保ちながら銃撃を浴びせ続ける。
「今だぁ!」
わざと大声で叫びながら、段々跳びに教会の屋根と駆け上がった絶が、地上近くを飛ぶ敵に向かって上から飛びかからんとする。ビクリと反応し、振り返る敵に対して、だが、絶は跳ぶ直前で足を止め。
「いや、いくら覚醒状態でも、んな無茶な戦法とりたくねぇし」
嘯く絶の目の前で、動きを止めたハーピーに横合いから放たれる銃弾。転んだ小夜を庇うようにに立った藤乃が小型拳銃で狙撃したのだ。発砲された弾丸は、甲高い金属音と共にハーピーの表皮の銀貨を一枚、弾き飛ばした。落ちた銀貨を追って慌てて地面へ降りるハーピー。それを機と見たリィフィが抜刀しながら、より低い姿勢で地を這うように──まるで獣の様な姿勢で突っ込んでいく。
気づいたハーピーが慌てて振り返り、威嚇する様に金切り声を発する。それは超音波と化して周囲の者に叩きつけられ── リィフィの横薙ぎを寸前、かわして再び空中へと舞い戻る。
「ハーピーか……! やはり飛ばれると面倒だな。一気に片付けたいところだが……!」
戦場に到着するや否や、アデリシアは抵抗を上げる戦歌を歌い上げつつ突進。空中へ逃げるハーピーに向かって白光に輝く鉄鎖の鞭を振り放った。翼を絡め取らんとしたその一撃は、だが、羽ばたき一つの差で空を切る。
攻撃をかわしたハーピーは、再び老司祭へ向け降下を始めた。藤乃はハッとした。先の銀貨に執着した動きと言い、もしかして……
「司祭さん、その宝石が狙われてる!」
藤乃はそちらへ駆け寄りながら、碌に狙いも定めぬ牽制の銃撃を乱射した。起き上がった小夜がワンドを振るって再び風の刃を投射。一瞬、動きの止まった敵の翼を絡め取り、地面へと叩き落す。
歓声は、だが、直後に現れた闖入者により掻き消された。新たなハーピーが戦場に乱入して来たのだ。
金切り声を上げながら老司祭へと突っ込んで来る新手。腰を抜かした老司祭の前に立ち塞がったのは、やはりシレークスだった。新手の出現に舌を打って悪態をつきながら、横に振るった戦槌でもって鉤爪を打ち弾く。
「だから、誰の許可を得てこんな所にまで来やがったのかと……っ!」
追撃に踏み出しかけた足を、シレークスはグッと堪えた。──相手は素早い。対する自分は大振りだ。己が今すべき事は攻撃ではなく、肉壁として戦えぬ者たちを守ること── シレークスは己の闘争心を内に封じると、守りの構えを取りながらハーピーたちを睨みつけた。
鎖を振るうスペースを確保すべく距離を取るアデリシアに対して、ハーピーが肉薄するように降下した。
両手を張って受ける鎖ごと力任せに迫る鉤爪。寸前、真司が飛ばした『防御障壁』が光の障壁と化して受け止め、砕ける。
アデリシアは更に前に出た。タダでさえ少ない布地が鉤爪に裂かれるのも構わず、敵の足に鎖を巻きつけようとする。その気配を察したのか、上空へと飛び逃げる敵。寸前で敵を逃したアデリシアがクッと奥歯を噛み締める。
「おい、大丈夫か!?」
「平気です。傷ならすぐに癒します」
心配する真司に向かって障壁の礼を返すアデリシア。いや、傷でなく服…… と言いかけた真司は、空から放たれた投石を青鱗の盾で受け弾き。反撃の単射を空へと撃ち放ちながら視野を振り、別の1体に攻撃を受けるシレークスにも光の障壁を展開する。
その敵の背後を取ろうとしたリィフィは、だが、その刃が届く寸前に再び空へと逃げられた。絶の方も同様だ。彼が最初に予測した通り、飛行する敵──それも回避が高い──に一撃離脱に徹せられると予想以上に厄介だった。
「……アレ、倒すのに必要なのよ。ちょっと貸してもらえないかしら?」
老司祭の元に辿り着いた藤乃は司祭の側にしゃがみこむと、そう言って彼が持っていた宝石を借り受けた。
立ち上がって振り返り、空中に高々と掲げ持つ。
「ねぇ、お美しいハーピーさん? ほら、ここにこんなに綺麗な宝石があるのだけれど」
ハーピーにその言葉を解する知能はない。だが、藤乃が手にした宝石を見て、2体のハーピーがぐりんと同時に向く。
我先に藤乃に向かって突進し、空中で身体をぶつけ合うハーピーたち。瞬間、頭を沸騰させた2体はギャーギャーと翼で叩き合い…… そんなハーピーたちを見上げながら、藤乃は宝石を指で弾いてキャッチし、言った。
「ま、上げるなんて一言も言ってないけどね?」
瞬間、呼応するように杖を振る小夜。風の刃が近接する2体の翼を再び絡め取って地に落とす。
その機を逃さず、地を這うように駆けるリィフィ。落とされた内の1体が気づいて金切り声を上げる。
「煩いなぁ…… その声、もらうよ!」
構わず突っ込んだリィフィに対して、倒れた別の1体が鉤爪を後ろへ蹴り出し── ステップでそれをかわしたリィフィがクルリと回転。まるで神楽を舞う様に右手の刀を払いながら、続く回転でもって左手の鞘を金切り声を放つ個体の『鳩尾』へと突き入れる。
肺の空気を一気に吐き出させられた敵の声が止み。その隙を逃さずアデリシアが鉄鞭を振るって鎖を敵の片翼へと絡みつける。暴れる鉤爪にはシレークスが組み付いた。己が傷つくのも構わず、敵の脚を両腕でその豊かな胸に抱え込み、アデリシアと2人、空へ逃れようとするハーピーを綱を引くように地面へ釘付けにする。
「も、ら、つ、たーっ!」
マテリアルを脚に込め、今度こそ屋根から跳躍する絶。跳びながら、大上段に振り被った日本刀を片翼目掛けて振り下ろし。斬り飛ばした翼が地に落ちるより早く、着地後、フェイント混じりの数閃でもってハーピーの喉を横へと切り裂く。
味方が倒されるのを目の当たりにしたもう1体は、狂ったように金切り声を上げながら上空へ逃れようとした。ハンターたちが耳を押さえる間に必死に空へと逃れる敵。だが、それを見逃さない者がいた。超音波の範囲外、尖塔の上のカダルである。
「逃がすかよ、宿代」
鳴り響いた鐘の音に頭を振りつつ、鐘楼の石の柱の間から眼下の敵へと弦を引き絞る。
地上のハンターたちに完全に注意が向いていたハーピーの背中はまったくの無防備だった。カダルはつまらなそうな顔で弦から指を離すと、ハーピーの翼の付け根の腱を正確に打ち抜いた。
まさかの上からの不意打ちに驚き、独楽の様に宙を跳ね回るハーピー。その金切り声を圧するように銃声が響き渡り── 狙い済ました真司の銃撃が敵のこめかみを撃ち貫いた。
●
「怪我人! 怪我人はいない?! 大丈夫?!」
2匹のハーピーが地に落ち、その沈黙が確認されるや、リィフィはそちらに目もくれずに聖堂へと走っていった。
アデリシアは鎖を敵から外しながら、(……鞭というものは初めて使うが、これはこれで使いでがあるかも)とその背をゾクリとさせたりしている。
真司は倒れた敵の周囲に散らばった銀貨や宝石を拾い集めると、それを教会の井戸に持っていって丁寧に洗い始めた。
「なんだ? 宿代にするのか?」
「いや…… こいつは教会に寄進しようと思う。この金はここの人たちにこそ必要だ」
あっけに取られるカダルをよそに、皆が真司の案に応じる。ハーピーの財産を集め始めるハンターたち。内心、めんどくせぇ、とか思いつつ、絶も死骸に張り付いたコインを剥がす。
「お前たちに一つだけ感謝してやるのです」
その死骸を見下ろしながら、シレークスが呟いた。
「こんなにお布施を持って来てくれて、ありがとうなのですよ」
走り寄ってきた子供を抱き止めたリィフィがハーピーの討伐を知らせると、巡礼者と村人たちは安堵しつつ、その表情は暗いままだった。
無理もない。あの敵を倒しても封鎖が解かれるわけじゃない。まだこの状況は続くのだ。
そんな人々に、小夜は、『戦利品』を渡した。そして、喧嘩を止めるよう言おうとして、口ごもる。
「これで少しは路銀の足しになるでしょ? 村の人も安心して食べ物を売ってあげて」
藤乃は人々にそう言うと、ポンと小夜の背中を叩き、腕まくりをしながら厨房へ向かった。
小夜は『黒猫』をギュッと抱きながら、精一杯の表情で訴えかけた。
「喧嘩せんと…… 大変な時は、お互い様やて…… 仲良うしてくれたら、ええなと思います……」
淡々と告げた後、ぺこりと頭を下げて走り去る小夜。人々は互いに顔を見合わせ、己の至らなさを振り返った。
皆、足止めを喰らった巡礼者だろう。皆、疲れ切り、そして、イラついていた。
「ひでぇもんさ。この村の連中、足元を見やがって、何もかも値段を吊り上げてきやがる」
浅黄 小夜(ka3062)が事情を聞いて回ると、巡礼者たちはそう不満を洩らした。
だが、村で村人たちに話を聞くと、真逆の答えが返ってきた。──巡礼者の連中、余所者の癖に態度が酷い。俺たちの蓄えを食い潰している自覚はあるのか──
「もし、余裕がありやがるのでしたら、ぜひ手伝って欲しいのですよ」
巡礼者たちの間を忙しそうに動き回りながら、前掛け姿のシスターが藤乃に声を掛ける。
シスターはシレークス(ka0752)だった。聖職者の一人として聖堂に顔を出した際、宿坊のひどい有様を見て自ら手伝いを買って出ていたのだ。
藤乃は大きく嘆息すると、無言で袖を捲った。──面倒くさいが仕方がない。賄いを手伝うくらいは自分にも出来るだろう……
ハーピーの襲撃は翌日。朝の礼拝が終わった後のことだった。
人込みを避け、宿坊の屋根の上で二度寝を決め込んでいたリィフィ(ka2702)は、半鐘の音が鳴ると同時に飛び起き、覚醒しながら空を見上げた。
「ぐるるるる…… この感じ…… 歪虚か!」
狼の耳と尻尾をぴくりと震わせながら、窓から宿坊の中へと飛び込む。
「騒ぐな! 女性と子供、老人から聖堂の奥へ避難! 戦える男たちはみんなを守って!」
突然の襲撃に怯え、動揺するばかりの人々にそう指示を飛ばし、藤乃とシレークスと合流し──
ふと、自分を見上げる幼い視線に気づいて、リィフィはふわりと微笑んでみせた。──だいじょーぶ。リィフィたちが絶対に手を出させないから──
「おいおい、なんだってこんな所に降ってくるんだよ。こんな近場に出られちゃ、知らないフリできねぇじゃんか」
一方、街道沿い── 鳴り響く半鐘の音を背景に、影護 絶(ka1077)はげんなりと呟いた。
(ったく。空飛ぶ歪虚かよ…… 相性キツいわ。とは言え、逃がしちまってもマズイだろうし……)
頭を抱える絶。その横で友人の柊 真司(ka0705)は不敵な笑みを浮かべる。
「まさかハーピーが襲撃してくるとはな…… おもしれぇ。こちとら暇を持て余していたところだ」
あっけに取られる絶を他所に、周囲の村人たちに避難するよう呼びかけながら走り出す真司。絶は両肩をガクリと落とすと、ただ働きになりませんよーに! と祈りながら慌ててその後を追う……
「宗派も違うし、なるべく早く通り過ぎてしまおうと思ってた矢先にこれですか」
信仰上の理由から敢えて村外れの農道を移動していたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)もまた、打ち鳴らされる半鐘の音に歪虚の襲撃を知った。
見て見ぬ振りをするわけにもいかなかった。歪虚は滅ぼすべき世界の敵。そして、彼女は勇敢なる戦いを司る戦神のシスターだ。
「義を見てせざるは勇なきなり── 仕方ありませんね」
アデリシアは祈りの言葉を口にすると、戦闘に備え、動き易くする為に改造した聖衣から更に布地を引き剥がした。
●
ハーピーの降下先は、村の中心に位置する教会──その尖塔に、カダル・アル=カーファハ(ka2166)がいた。
信心の深さ故──などではなかった。彼は生まれてこのかた『その手のモノ』に縋ったことはない。生きる事が即ち戦いであった男である。『救い』などはなから期待などしていない。
教会を訪れたのは、村からの抜け道を探す為だった。そして、それを見つけるより早くハーピーの襲撃に出くわした。
敵が降下して来るのを見て、カダルは戦いの予感に笑みを浮かべた。だが、敵は尖塔ではなく、眼下の裏庭──そこにいる老司祭に向けて一直線に降下していた。
「おい、この俺を無視して行くとはどういうことだ」
カダルは不機嫌に言い捨てると、急降下する敵に向かって弓を引いた。放たれた矢は降下するハーピーの鼻先を掠め飛び、敵が慌てて降下を止める。
旋回し、矢の飛んで来た尖塔の周囲をグルグルと旋回し始めるハーピー。身を隠したカダルは鐘楼の陰をしゃがんで移動し…… 石の柱を背に立ち上がると、飛行する敵の背へ向け再び手早く矢を放つ。
矢は狙い過たずに敵の背を捉え── 寸前、ハーピーは身体を回して回避した。そして、その遠心力を利用して掴んだ石を投擲する。石は、慌てて身を隠したカダルが一瞬前にいた空間を掠め飛び。そのまま鐘を直撃して轟音と破片を撒き散らす。
「誰かが戦っている──!」
その戦場を見上げながら、教会の門を走り抜ける真司と絶。投石でカダルの頭を抑えたハーピーは再び老司祭へ降下を始めていた。
魚を狙う鳥の様に羽を畳んで突っ込んだハーピーは、翼を大きく広げて制動しながらその鉤爪を前へと振り出し──
その鉤爪が老司祭の痩身を捉える寸前。横から飛び出してきたシレークスが、身体ごとぶつかるように老司祭を地面へ押し倒した。
「大丈夫ですか、司祭様!? ……おい、てめぇ。誰の許可を得てこんな所までやって来やがりましたですか、ああっ?!」
老司祭を抱き起こしながら、キッと敵を振り仰いで怒りの炎を燃やすシレークス。そのバラエティに富んだ罵詈雑言の数々に、老司祭が思わず目を丸くする。
一方、攻撃を外したハーピーは再び接近しようとして、今度は横合いから放たれた風の刃に邪魔をされた。苛つくハーピーの視線の先には、青眼の杖を構えた小夜の姿。薄い蒼色の髪と桜色の瞳に覚醒した彼女の足元で、黒猫の幻影がにー、と鳴く。
「風切羽とか、切られたら…… やっぱり飛び辛くなる……?」
再びワンドを振って『ウィンドスラッシュ』を放つ小夜。ハーピーはその刃を跳び避けながら一羽ばたきで小夜へと迫った。振るわれた鉤爪を小夜はどうにか杖で受け凌ぎ。だが、衝撃を受けきれずにコロンと尻から地面へ転ぶ。
「おおっ、随分と増えてやがんな」
集まって来たハンターたちの数を見て、到着した絶が愉快そうに軽口を叩く。真司は敵の注意を引くべく「これでも喰らいな!」と叫びながら、小夜の上を跳ぶハーピーに向かって突撃銃を指切りバーストで撃ち放った。慌てて飛び逃げる敵。真司は銃口を敵へと向けたまま移動し、一定の距離を保ちながら銃撃を浴びせ続ける。
「今だぁ!」
わざと大声で叫びながら、段々跳びに教会の屋根と駆け上がった絶が、地上近くを飛ぶ敵に向かって上から飛びかからんとする。ビクリと反応し、振り返る敵に対して、だが、絶は跳ぶ直前で足を止め。
「いや、いくら覚醒状態でも、んな無茶な戦法とりたくねぇし」
嘯く絶の目の前で、動きを止めたハーピーに横合いから放たれる銃弾。転んだ小夜を庇うようにに立った藤乃が小型拳銃で狙撃したのだ。発砲された弾丸は、甲高い金属音と共にハーピーの表皮の銀貨を一枚、弾き飛ばした。落ちた銀貨を追って慌てて地面へ降りるハーピー。それを機と見たリィフィが抜刀しながら、より低い姿勢で地を這うように──まるで獣の様な姿勢で突っ込んでいく。
気づいたハーピーが慌てて振り返り、威嚇する様に金切り声を発する。それは超音波と化して周囲の者に叩きつけられ── リィフィの横薙ぎを寸前、かわして再び空中へと舞い戻る。
「ハーピーか……! やはり飛ばれると面倒だな。一気に片付けたいところだが……!」
戦場に到着するや否や、アデリシアは抵抗を上げる戦歌を歌い上げつつ突進。空中へ逃げるハーピーに向かって白光に輝く鉄鎖の鞭を振り放った。翼を絡め取らんとしたその一撃は、だが、羽ばたき一つの差で空を切る。
攻撃をかわしたハーピーは、再び老司祭へ向け降下を始めた。藤乃はハッとした。先の銀貨に執着した動きと言い、もしかして……
「司祭さん、その宝石が狙われてる!」
藤乃はそちらへ駆け寄りながら、碌に狙いも定めぬ牽制の銃撃を乱射した。起き上がった小夜がワンドを振るって再び風の刃を投射。一瞬、動きの止まった敵の翼を絡め取り、地面へと叩き落す。
歓声は、だが、直後に現れた闖入者により掻き消された。新たなハーピーが戦場に乱入して来たのだ。
金切り声を上げながら老司祭へと突っ込んで来る新手。腰を抜かした老司祭の前に立ち塞がったのは、やはりシレークスだった。新手の出現に舌を打って悪態をつきながら、横に振るった戦槌でもって鉤爪を打ち弾く。
「だから、誰の許可を得てこんな所にまで来やがったのかと……っ!」
追撃に踏み出しかけた足を、シレークスはグッと堪えた。──相手は素早い。対する自分は大振りだ。己が今すべき事は攻撃ではなく、肉壁として戦えぬ者たちを守ること── シレークスは己の闘争心を内に封じると、守りの構えを取りながらハーピーたちを睨みつけた。
鎖を振るうスペースを確保すべく距離を取るアデリシアに対して、ハーピーが肉薄するように降下した。
両手を張って受ける鎖ごと力任せに迫る鉤爪。寸前、真司が飛ばした『防御障壁』が光の障壁と化して受け止め、砕ける。
アデリシアは更に前に出た。タダでさえ少ない布地が鉤爪に裂かれるのも構わず、敵の足に鎖を巻きつけようとする。その気配を察したのか、上空へと飛び逃げる敵。寸前で敵を逃したアデリシアがクッと奥歯を噛み締める。
「おい、大丈夫か!?」
「平気です。傷ならすぐに癒します」
心配する真司に向かって障壁の礼を返すアデリシア。いや、傷でなく服…… と言いかけた真司は、空から放たれた投石を青鱗の盾で受け弾き。反撃の単射を空へと撃ち放ちながら視野を振り、別の1体に攻撃を受けるシレークスにも光の障壁を展開する。
その敵の背後を取ろうとしたリィフィは、だが、その刃が届く寸前に再び空へと逃げられた。絶の方も同様だ。彼が最初に予測した通り、飛行する敵──それも回避が高い──に一撃離脱に徹せられると予想以上に厄介だった。
「……アレ、倒すのに必要なのよ。ちょっと貸してもらえないかしら?」
老司祭の元に辿り着いた藤乃は司祭の側にしゃがみこむと、そう言って彼が持っていた宝石を借り受けた。
立ち上がって振り返り、空中に高々と掲げ持つ。
「ねぇ、お美しいハーピーさん? ほら、ここにこんなに綺麗な宝石があるのだけれど」
ハーピーにその言葉を解する知能はない。だが、藤乃が手にした宝石を見て、2体のハーピーがぐりんと同時に向く。
我先に藤乃に向かって突進し、空中で身体をぶつけ合うハーピーたち。瞬間、頭を沸騰させた2体はギャーギャーと翼で叩き合い…… そんなハーピーたちを見上げながら、藤乃は宝石を指で弾いてキャッチし、言った。
「ま、上げるなんて一言も言ってないけどね?」
瞬間、呼応するように杖を振る小夜。風の刃が近接する2体の翼を再び絡め取って地に落とす。
その機を逃さず、地を這うように駆けるリィフィ。落とされた内の1体が気づいて金切り声を上げる。
「煩いなぁ…… その声、もらうよ!」
構わず突っ込んだリィフィに対して、倒れた別の1体が鉤爪を後ろへ蹴り出し── ステップでそれをかわしたリィフィがクルリと回転。まるで神楽を舞う様に右手の刀を払いながら、続く回転でもって左手の鞘を金切り声を放つ個体の『鳩尾』へと突き入れる。
肺の空気を一気に吐き出させられた敵の声が止み。その隙を逃さずアデリシアが鉄鞭を振るって鎖を敵の片翼へと絡みつける。暴れる鉤爪にはシレークスが組み付いた。己が傷つくのも構わず、敵の脚を両腕でその豊かな胸に抱え込み、アデリシアと2人、空へ逃れようとするハーピーを綱を引くように地面へ釘付けにする。
「も、ら、つ、たーっ!」
マテリアルを脚に込め、今度こそ屋根から跳躍する絶。跳びながら、大上段に振り被った日本刀を片翼目掛けて振り下ろし。斬り飛ばした翼が地に落ちるより早く、着地後、フェイント混じりの数閃でもってハーピーの喉を横へと切り裂く。
味方が倒されるのを目の当たりにしたもう1体は、狂ったように金切り声を上げながら上空へ逃れようとした。ハンターたちが耳を押さえる間に必死に空へと逃れる敵。だが、それを見逃さない者がいた。超音波の範囲外、尖塔の上のカダルである。
「逃がすかよ、宿代」
鳴り響いた鐘の音に頭を振りつつ、鐘楼の石の柱の間から眼下の敵へと弦を引き絞る。
地上のハンターたちに完全に注意が向いていたハーピーの背中はまったくの無防備だった。カダルはつまらなそうな顔で弦から指を離すと、ハーピーの翼の付け根の腱を正確に打ち抜いた。
まさかの上からの不意打ちに驚き、独楽の様に宙を跳ね回るハーピー。その金切り声を圧するように銃声が響き渡り── 狙い済ました真司の銃撃が敵のこめかみを撃ち貫いた。
●
「怪我人! 怪我人はいない?! 大丈夫?!」
2匹のハーピーが地に落ち、その沈黙が確認されるや、リィフィはそちらに目もくれずに聖堂へと走っていった。
アデリシアは鎖を敵から外しながら、(……鞭というものは初めて使うが、これはこれで使いでがあるかも)とその背をゾクリとさせたりしている。
真司は倒れた敵の周囲に散らばった銀貨や宝石を拾い集めると、それを教会の井戸に持っていって丁寧に洗い始めた。
「なんだ? 宿代にするのか?」
「いや…… こいつは教会に寄進しようと思う。この金はここの人たちにこそ必要だ」
あっけに取られるカダルをよそに、皆が真司の案に応じる。ハーピーの財産を集め始めるハンターたち。内心、めんどくせぇ、とか思いつつ、絶も死骸に張り付いたコインを剥がす。
「お前たちに一つだけ感謝してやるのです」
その死骸を見下ろしながら、シレークスが呟いた。
「こんなにお布施を持って来てくれて、ありがとうなのですよ」
走り寄ってきた子供を抱き止めたリィフィがハーピーの討伐を知らせると、巡礼者と村人たちは安堵しつつ、その表情は暗いままだった。
無理もない。あの敵を倒しても封鎖が解かれるわけじゃない。まだこの状況は続くのだ。
そんな人々に、小夜は、『戦利品』を渡した。そして、喧嘩を止めるよう言おうとして、口ごもる。
「これで少しは路銀の足しになるでしょ? 村の人も安心して食べ物を売ってあげて」
藤乃は人々にそう言うと、ポンと小夜の背中を叩き、腕まくりをしながら厨房へ向かった。
小夜は『黒猫』をギュッと抱きながら、精一杯の表情で訴えかけた。
「喧嘩せんと…… 大変な時は、お互い様やて…… 仲良うしてくれたら、ええなと思います……」
淡々と告げた後、ぺこりと頭を下げて走り去る小夜。人々は互いに顔を見合わせ、己の至らなさを振り返った。
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相談卓 結城 藤乃(ka1904) 人間(リアルブルー)|23才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/10/28 07:58:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/24 19:43:24 |