ゲスト
(ka0000)
【交酒】今日の給食は東方料理です。
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/06/06 12:00
- 完成日
- 2017/06/15 00:36
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
――東方との交流。
その言葉にときめくものは、リゼリオ各地にいたけれど、そのなかでもヤマシナ学院の学院長・ヤマシナ氏はとくに緊張していた。
ハンターたちの話を聞く限り、東方はリアルブルーの近世日本のような雰囲気をもつ場所らしい。もともと異文化コミュニケーションにとくに興味を持っていたヤマシナ氏にとって、これは絶好の機会と言えるだろう。
しかし、自分だけが満足するというのはいけない。
生徒も楽しめる、満足できる形での異文化交流をしなければ――
その時、ヤマシナ氏の頭にふとひらめいたものがあった。
●
「……給食体験会?」
生徒達は耳慣れないその単語に、目をぱちくりとさせる。
ヤマシナ学院はリアルブルーの学校制度に影響を受けた、エスカレーター式の学校であるのだが、私立学校の扱いの学院でも給食も出るあたりはなかなか進んでいるのかも知れない。
そのヤマシナ学院のアイデアが、『給食体験会』なのだという。
かんたんに言ってしまえば、東方風の食事を給食として体験的に食事するという企画なのだそうだ。
リアルブルーではオリンピックやワールドカップといった多国間交流が発生する際にこういう形で他国の文化を知ることがままあるのだという。クリムゾンウェスト、というかリゼリオにおける東方はまさしく異国であり、そういう意味では異文化交流というのは正しい判断だろう。
だれもが胸を高鳴らせながら、その日を待ちわびているのだった。
無論、ファナ(kz0176)も、同様に。
――東方との交流。
その言葉にときめくものは、リゼリオ各地にいたけれど、そのなかでもヤマシナ学院の学院長・ヤマシナ氏はとくに緊張していた。
ハンターたちの話を聞く限り、東方はリアルブルーの近世日本のような雰囲気をもつ場所らしい。もともと異文化コミュニケーションにとくに興味を持っていたヤマシナ氏にとって、これは絶好の機会と言えるだろう。
しかし、自分だけが満足するというのはいけない。
生徒も楽しめる、満足できる形での異文化交流をしなければ――
その時、ヤマシナ氏の頭にふとひらめいたものがあった。
●
「……給食体験会?」
生徒達は耳慣れないその単語に、目をぱちくりとさせる。
ヤマシナ学院はリアルブルーの学校制度に影響を受けた、エスカレーター式の学校であるのだが、私立学校の扱いの学院でも給食も出るあたりはなかなか進んでいるのかも知れない。
そのヤマシナ学院のアイデアが、『給食体験会』なのだという。
かんたんに言ってしまえば、東方風の食事を給食として体験的に食事するという企画なのだそうだ。
リアルブルーではオリンピックやワールドカップといった多国間交流が発生する際にこういう形で他国の文化を知ることがままあるのだという。クリムゾンウェスト、というかリゼリオにおける東方はまさしく異国であり、そういう意味では異文化交流というのは正しい判断だろう。
だれもが胸を高鳴らせながら、その日を待ちわびているのだった。
無論、ファナ(kz0176)も、同様に。
リプレイ本文
●
東方――
話題にのぼることはあっても、なかなかその文化に接することはない、クリムゾンウェストの東の地。
ヒトと異なる見た目をした鬼と呼ばれる種族がいたり、様々な文化のかたちが異なる、というのはリゼリオに住む子どもでも一度は耳にしたことはあるに違いない。しかし、それを肌で感じ取ることのできる経験は、そうそうないはずで。
そんな折に開催されるという、ヤマシナ学院の『給食体験会』は学院生以外の耳にも届くこととなった。
何しろ、『給食』という制度自体がまだ珍しいのだ。しかも東方料理が振る舞われるとあれば、話題にならないわけがない。
じっさい、ハンターオフィスにも体験希望を募る募集をしたところ、少数ではあるが興味を持ったらしいハンターからの反応があった。
しかも蓋を開けてみれば、ひとりは鬼の女性であり、リアルブルーの極東地域――日本出身者が一名、欧州系の、いわゆる東洋かぶれが一名。
それぞれこのクリムゾンウェストという世界で、ハンターという立場につくまでは、出会うこともなかったであろう四人、生き方もなにもかもが異なるハンターたち。
でも今日の目的はただ一つ、美味しくて楽しい思い出を、自分たちと子どもたちに作ることだ。
だれもが胸を高鳴らせながら、当日を待ちわびた――。
●
(面白そうな企画ですね)
リアルブルー出身の年若い医師である日下 菜摘(ka0881)は、笑顔を浮かべながらそう心の中で呟く。
食事というものは土地に由来するものであるし、理解を深めるには丁度良い――この経験を通して、子どもたちの東方への理解が深まれば、何よりというものだ。心はつい弾んでしまう。
それを横で見ているのは、金髪を角刈りにし、青い瞳をした着流しの大柄な男性。とはいえ、威圧感というものは殆どなく、どちらかというと柔和な雰囲気に感じられる。大型犬、と言えばわかるだろうか。
彼こそ重度の東洋かぶれ、ハンス・ラインフェルト(ka6750)である。彼は懐からそっと小さな布袋を取り出すと、嬉しそうに微笑んだ。
「それは?」
尋ねてきたのはミオレスカ(ka3496)だ。クリムゾンウェストの辺境北方育ちである彼女にとって、東方の料理はほとんどお目にかかったことがない。なので非常に期待しているのだが――しかし更に横にいた赤黒い肌の老女――その名も婆(ka6451)が、ほう、と目を輝かせた。
「それは箸袋じゃな?」
婆は東方出身の、鬼の女性である。外見こそそこいらの老人と大差ないが、実年齢は定かでなく、かつては気性も荒かったらしいが――それも今は昔の話だ。彼女は老後の人生を、リゼリオ近辺で悠々自適とばかりに過ごしている。
そして今回、鬼の典型的な特徴である角を手ぬぐいを巻くことで隠している。子どもたちが怖がるといけないから、というのが主な理由だ。確かに、鬼の角というのは知らぬ人にとっては異端の象徴のように見えるであろう。隠すという選択は正解であるに違いない。
そして婆の言葉に、ハンスは嬉しそうに頷いた。
「私は昔から自分の箸を使っていまして。指示していた東洋史の教授がそういうことに拘る方でしたので……」
僅かに恥じらいを浮かべた笑みは、普段の表情よりも柔らかい。
「箸の使い方は使い慣れていないことで不便に思う子どももいるでしょうから、教えないといけないでしょうね。郷に入っては郷に従え、と言うことで」
菜摘がくすりと笑って頷いた。
と、ハンスが首をひねる。
「そういえば極東の給食には必ず牛乳がつくと聞いたのですが……シかしこのメニューに牛乳は無粋というもの、和食を食べ付けない方もいるでしょうし、無難に紅茶と緑茶を準備してきたのですが」
真面目にぶつぶつ考えるあたり、本質のまっすぐさが現れているようだった。
「とりあえずは、お招きありがとうございます。こういう給食という制度、とてもいいですね。世界中にこのような教育制度が広まればいいのですけれど」
学校そのものに興味津々なミオレスカは迎え入れてくれた学院の職員達に頭を下げる。
大人数での勉強という機会が殆どなかった彼女からすれば、特殊な空間に見えてならないのだ。
(大人数での勉強は落ち着かない気もしますが、学べることも増えそうですし、それはきっと、学んでいる子どもたちからすれば嫌なこともあるかも知れませんけど、幸せなことですね)
楽しかったことも、嫌だったことも、将来の糧になるのだろうから。
●
「今日の給食は東方料理だってね」
「ハンターさんたちもくるって。楽しみだなあ」
子どもたちは朝からその話題で持ちきりだ。
そして、 ファナ(kz0176)もまた、そんな一人。最近風邪気味なのか声が掠れているが、こくりと待ち遠しそうに頷いた。
やがて給食の時間となり、生徒達は食堂に集まる。既にハンターや教師達もいて、子どもたちの登場によって一層賑やかな状態になった。食べものなどをよそってから、席に着く。配膳の手伝いに婆も混じっていたが、慣れた手つきでしゃもじを扱うあたりは流石、亀の甲より年の功、と言ったところか。
全員に給食が行き渡ったところを見計らって、ぱんぱん、と手を叩く学院長。
「今日ハンターさんをお招きしたのは、一緒にこの給食を食べてもらうのと同時に、東方の料理についての解説をお願いしたく思ったからです。東方の料理はリアルブルーのある地域の料理によく似ています。今日はそれも踏まえた上で、美味しくただきましょう」
子どもたちからはお行儀の良い返事が返ってくる。
それに頷いてから、まずは箸の使い方から説明することになった。
「はじめは不便を感じるかも知れないけれど、東方では子どもでもそれを使って食事を摂っています。なれてくれば、スプーンやフォークではできない繊細な動きも可能で、いろいろ便利なんですよ」
そう、たとえば味噌汁の具をつまみ上げるような動きとか。
実際に試してみれば、子どもたちは目を輝かせてそれを見つめている。未知なるものへの興味というのは、子どもにとってとくに大きいのだ。
「うまくわからんかえ? ほれ、こうして使うんじゃよ」
婆はとくに不慣れそうにしている生徒に手を添え、持ち方指南。
「なぁに、はじめは難しいじゃろ?それなら刺して食えばええ。飯だって、握った箸でかき込みゃあええ。不格好でも縁者よ、箸の持ち方なんて一日でスグできる方が少ないもんじゃし、気が向いたら練習してみい? 礼儀よりも何より、米一粒も残さず食べるん方が大事じゃからのう」
そう、大事なのはこれで東方の料理に興味を持って貰うこと。東方全体に興味を持って貰うこと。
婆の言葉に子どもたちはこくっと頷く。
そして、和食を知るリアルブルー出身者達がそれぞれ、知識やちょっとしたコツなどを教える。ミオレスカは知らないことも多くて、二人の話をじいっと聞いている。よだれを零しそうになりながら、でもあるが。
「私は味噌汁……いえ、御御御付けと呼ぶべきでしょうか、それが大好きです。味噌というのは調味料で、その色合いから赤や白、材料から麦や豆などの種類に別れ、さらに出汁は階層や魚を使うのですが、その魚も鰹節や鯖節、ジャコ、鰯、アゴ、飲み方も温めるのが主流ですが冷や汁というのもあり……一定の決まりはあるにしろ、無限の広がりを感じさせる料理なのです。もっとも、初めて飲む場合は癖の少ないほうが馴染みやすいですから、私はそう言う方には味噌はあわせか白味噌、出しは炒り子出汁でレタスあたりを国したものをお勧めしています。海藻の独特の癖は気にする方が意外と多いですからね」
流石東洋かぶれ、自分が出身地でない分ハンスは客観的な視点からの分析が出来ている。
そこに、菜摘も言葉を添えた。
「味噌は東方でも代表的な調味料ですけれど、こうやって料理の調味料としてに使うだけではなく、肉や魚などを漬け込んでおけば保存食にもなりますし、漬け込むことで食材に新たなおいしさを生み出すことも出来ます。はじめは慣れないかも知れませんけれど、慣れてしまうと病みつきになりますわよ」
西方の家庭で作る保存食は燻製や塩漬けが主流だから、味噌漬けというもののイメージが今ひとつわかない。けれど、味噌汁を口に含んだ子どもたちはすぐにぱっと顔を明るくさせた。
「少ししょっぱい……でもおいしい!」
塩の風味があるのは味噌を造る際に塩をつかっているから。味噌は発酵調味料の為独特の風味があるが、それも慣れてしまえば美味に繋がる。具も大根と油揚げという、味のしみこみやすい食材を選んでいるせいか、具を口に含んで咀嚼した時に口内にひろがる風味もまた美味、というものになる。
「ちなみに蛇足ながら、私が至高と思うのは豆腐と油揚げの味噌汁ですね。同じ大豆からの三様に、心が震えます」
きょとんとしている生徒達に、補足をするのは婆。
「豆腐も、油揚げも、そして味噌も、同じ大豆から作られる加工食品なんじゃよ」
子どもたちは大豆という食材の可能性に、目を見はらせる。
「……醤油と味噌の文化は、何より素晴らしいです。リゼリオでこうも容易く味わえるだなんて、素晴らしいです……でも、味噌汁も、具材によってこうも変わるものなのですね」
子どもたちと同様に、ミオレスカも目を輝かせる。依頼で東方の情報を手にいれたりなんてことは可能だし、実際に赴くことだって不可能ではない。それでも身近で東方の味を感じられるのはやはり嬉しいのだ。
そして皿に盛られた魚料理。鰹のたたきというのだと、教えてもらった。傷みやすい鰹を少しでも安全に、そして美味しく食べられるように工夫された料理だ。鰹の身のまわりに火を通し、中は生の部分があるという料理なのであるのだから。更にショウガやしそを焼く美にし、醤油でいただくのだから、抗菌効果は十分だろう。
(これは是非、自分でも作り方を覚えて帰りたいものです)
ミオレスカは目を輝かせている。もともとリアルブルーの醤油を用いた食文化に感動している彼女だけに、今回は嬉しくてたまらない、と言った表情をのぞかせているのだ。
「そういえば、半分火を通したとは言え、生の魚を食べる文化というのはそう多くないのです。旬のご馳走ではありますが、頭が拒んでしまうものを無理に食べてはいけませんよ? これを揚げれば、同じ薬味で簡単な南蛮漬け風の料理も作れます」
文化圏の違いと食文化の違いを指摘して、ハンスがそっと微笑む。無理してまで食べなくていいと言われて、何人かの子どもが、ほっと息をついたのが感じられた。
また、リゼリオではパン食が主だが、今日はわかめを混ぜ込んだごはんになっている。ほんのり塩味の効いたわかめごはんは、目にもどこか楽しげで、口に含めばほんのりと磯の香り。
(お米の食べ方のバリエーションも、流石東方文化ですね)
ミオレスカが感動を隠せぬまま食べていれば、横で婆が
(礼儀なんぞより、米一粒残さず食べる方が大事じゃからのう)
そう思いながら丁寧に食べている。
皆が美味しそうに箸を持っている姿を見て、菜摘は近くにいた教員に言う。
「……こういう日本食、いえクリムゾンウェスト的には東方料理と言うべきなのでしょうか、これらはこちらではそうそう食べる機会もありませんし、食材も割高ですからね。それでも東方の料理と私の故郷の料理はよく似ていて、久しぶりの味を堪能させて頂きたいですし、出来る限りのアドバイスをさせて頂きましたけれど」
そう、料理の腕前にそれなりの自信を持っている菜摘は、レシピのフォローもしていたのだ。
そして、デザートはみたらし団子。醤油味の甘辛い餡がかかった白い団子は、子どもたちにも大好評だ。見た目のわりに素朴な作り方、深い味わいなどに感動しているミオレスカと、持参した茶を振る舞うハンス。
この光景を眺め、婆は思う。
(学校では他にどんなことをするんかのう)
ミオレスカもまた、
(いつかこう言う場で教える立場になるのも、良いかも知れません)
文化の違いに触れ、それぞれ感じ入るものがあったようだ。
●
体験給食会は成功のうちに終わった。
参加したハンターはそれぞれ思うところがあったようだが、それがこの先きっと良い結果を導いてくれるに違いない。
そうであることを願うのみである。
東方――
話題にのぼることはあっても、なかなかその文化に接することはない、クリムゾンウェストの東の地。
ヒトと異なる見た目をした鬼と呼ばれる種族がいたり、様々な文化のかたちが異なる、というのはリゼリオに住む子どもでも一度は耳にしたことはあるに違いない。しかし、それを肌で感じ取ることのできる経験は、そうそうないはずで。
そんな折に開催されるという、ヤマシナ学院の『給食体験会』は学院生以外の耳にも届くこととなった。
何しろ、『給食』という制度自体がまだ珍しいのだ。しかも東方料理が振る舞われるとあれば、話題にならないわけがない。
じっさい、ハンターオフィスにも体験希望を募る募集をしたところ、少数ではあるが興味を持ったらしいハンターからの反応があった。
しかも蓋を開けてみれば、ひとりは鬼の女性であり、リアルブルーの極東地域――日本出身者が一名、欧州系の、いわゆる東洋かぶれが一名。
それぞれこのクリムゾンウェストという世界で、ハンターという立場につくまでは、出会うこともなかったであろう四人、生き方もなにもかもが異なるハンターたち。
でも今日の目的はただ一つ、美味しくて楽しい思い出を、自分たちと子どもたちに作ることだ。
だれもが胸を高鳴らせながら、当日を待ちわびた――。
●
(面白そうな企画ですね)
リアルブルー出身の年若い医師である日下 菜摘(ka0881)は、笑顔を浮かべながらそう心の中で呟く。
食事というものは土地に由来するものであるし、理解を深めるには丁度良い――この経験を通して、子どもたちの東方への理解が深まれば、何よりというものだ。心はつい弾んでしまう。
それを横で見ているのは、金髪を角刈りにし、青い瞳をした着流しの大柄な男性。とはいえ、威圧感というものは殆どなく、どちらかというと柔和な雰囲気に感じられる。大型犬、と言えばわかるだろうか。
彼こそ重度の東洋かぶれ、ハンス・ラインフェルト(ka6750)である。彼は懐からそっと小さな布袋を取り出すと、嬉しそうに微笑んだ。
「それは?」
尋ねてきたのはミオレスカ(ka3496)だ。クリムゾンウェストの辺境北方育ちである彼女にとって、東方の料理はほとんどお目にかかったことがない。なので非常に期待しているのだが――しかし更に横にいた赤黒い肌の老女――その名も婆(ka6451)が、ほう、と目を輝かせた。
「それは箸袋じゃな?」
婆は東方出身の、鬼の女性である。外見こそそこいらの老人と大差ないが、実年齢は定かでなく、かつては気性も荒かったらしいが――それも今は昔の話だ。彼女は老後の人生を、リゼリオ近辺で悠々自適とばかりに過ごしている。
そして今回、鬼の典型的な特徴である角を手ぬぐいを巻くことで隠している。子どもたちが怖がるといけないから、というのが主な理由だ。確かに、鬼の角というのは知らぬ人にとっては異端の象徴のように見えるであろう。隠すという選択は正解であるに違いない。
そして婆の言葉に、ハンスは嬉しそうに頷いた。
「私は昔から自分の箸を使っていまして。指示していた東洋史の教授がそういうことに拘る方でしたので……」
僅かに恥じらいを浮かべた笑みは、普段の表情よりも柔らかい。
「箸の使い方は使い慣れていないことで不便に思う子どももいるでしょうから、教えないといけないでしょうね。郷に入っては郷に従え、と言うことで」
菜摘がくすりと笑って頷いた。
と、ハンスが首をひねる。
「そういえば極東の給食には必ず牛乳がつくと聞いたのですが……シかしこのメニューに牛乳は無粋というもの、和食を食べ付けない方もいるでしょうし、無難に紅茶と緑茶を準備してきたのですが」
真面目にぶつぶつ考えるあたり、本質のまっすぐさが現れているようだった。
「とりあえずは、お招きありがとうございます。こういう給食という制度、とてもいいですね。世界中にこのような教育制度が広まればいいのですけれど」
学校そのものに興味津々なミオレスカは迎え入れてくれた学院の職員達に頭を下げる。
大人数での勉強という機会が殆どなかった彼女からすれば、特殊な空間に見えてならないのだ。
(大人数での勉強は落ち着かない気もしますが、学べることも増えそうですし、それはきっと、学んでいる子どもたちからすれば嫌なこともあるかも知れませんけど、幸せなことですね)
楽しかったことも、嫌だったことも、将来の糧になるのだろうから。
●
「今日の給食は東方料理だってね」
「ハンターさんたちもくるって。楽しみだなあ」
子どもたちは朝からその話題で持ちきりだ。
そして、 ファナ(kz0176)もまた、そんな一人。最近風邪気味なのか声が掠れているが、こくりと待ち遠しそうに頷いた。
やがて給食の時間となり、生徒達は食堂に集まる。既にハンターや教師達もいて、子どもたちの登場によって一層賑やかな状態になった。食べものなどをよそってから、席に着く。配膳の手伝いに婆も混じっていたが、慣れた手つきでしゃもじを扱うあたりは流石、亀の甲より年の功、と言ったところか。
全員に給食が行き渡ったところを見計らって、ぱんぱん、と手を叩く学院長。
「今日ハンターさんをお招きしたのは、一緒にこの給食を食べてもらうのと同時に、東方の料理についての解説をお願いしたく思ったからです。東方の料理はリアルブルーのある地域の料理によく似ています。今日はそれも踏まえた上で、美味しくただきましょう」
子どもたちからはお行儀の良い返事が返ってくる。
それに頷いてから、まずは箸の使い方から説明することになった。
「はじめは不便を感じるかも知れないけれど、東方では子どもでもそれを使って食事を摂っています。なれてくれば、スプーンやフォークではできない繊細な動きも可能で、いろいろ便利なんですよ」
そう、たとえば味噌汁の具をつまみ上げるような動きとか。
実際に試してみれば、子どもたちは目を輝かせてそれを見つめている。未知なるものへの興味というのは、子どもにとってとくに大きいのだ。
「うまくわからんかえ? ほれ、こうして使うんじゃよ」
婆はとくに不慣れそうにしている生徒に手を添え、持ち方指南。
「なぁに、はじめは難しいじゃろ?それなら刺して食えばええ。飯だって、握った箸でかき込みゃあええ。不格好でも縁者よ、箸の持ち方なんて一日でスグできる方が少ないもんじゃし、気が向いたら練習してみい? 礼儀よりも何より、米一粒も残さず食べるん方が大事じゃからのう」
そう、大事なのはこれで東方の料理に興味を持って貰うこと。東方全体に興味を持って貰うこと。
婆の言葉に子どもたちはこくっと頷く。
そして、和食を知るリアルブルー出身者達がそれぞれ、知識やちょっとしたコツなどを教える。ミオレスカは知らないことも多くて、二人の話をじいっと聞いている。よだれを零しそうになりながら、でもあるが。
「私は味噌汁……いえ、御御御付けと呼ぶべきでしょうか、それが大好きです。味噌というのは調味料で、その色合いから赤や白、材料から麦や豆などの種類に別れ、さらに出汁は階層や魚を使うのですが、その魚も鰹節や鯖節、ジャコ、鰯、アゴ、飲み方も温めるのが主流ですが冷や汁というのもあり……一定の決まりはあるにしろ、無限の広がりを感じさせる料理なのです。もっとも、初めて飲む場合は癖の少ないほうが馴染みやすいですから、私はそう言う方には味噌はあわせか白味噌、出しは炒り子出汁でレタスあたりを国したものをお勧めしています。海藻の独特の癖は気にする方が意外と多いですからね」
流石東洋かぶれ、自分が出身地でない分ハンスは客観的な視点からの分析が出来ている。
そこに、菜摘も言葉を添えた。
「味噌は東方でも代表的な調味料ですけれど、こうやって料理の調味料としてに使うだけではなく、肉や魚などを漬け込んでおけば保存食にもなりますし、漬け込むことで食材に新たなおいしさを生み出すことも出来ます。はじめは慣れないかも知れませんけれど、慣れてしまうと病みつきになりますわよ」
西方の家庭で作る保存食は燻製や塩漬けが主流だから、味噌漬けというもののイメージが今ひとつわかない。けれど、味噌汁を口に含んだ子どもたちはすぐにぱっと顔を明るくさせた。
「少ししょっぱい……でもおいしい!」
塩の風味があるのは味噌を造る際に塩をつかっているから。味噌は発酵調味料の為独特の風味があるが、それも慣れてしまえば美味に繋がる。具も大根と油揚げという、味のしみこみやすい食材を選んでいるせいか、具を口に含んで咀嚼した時に口内にひろがる風味もまた美味、というものになる。
「ちなみに蛇足ながら、私が至高と思うのは豆腐と油揚げの味噌汁ですね。同じ大豆からの三様に、心が震えます」
きょとんとしている生徒達に、補足をするのは婆。
「豆腐も、油揚げも、そして味噌も、同じ大豆から作られる加工食品なんじゃよ」
子どもたちは大豆という食材の可能性に、目を見はらせる。
「……醤油と味噌の文化は、何より素晴らしいです。リゼリオでこうも容易く味わえるだなんて、素晴らしいです……でも、味噌汁も、具材によってこうも変わるものなのですね」
子どもたちと同様に、ミオレスカも目を輝かせる。依頼で東方の情報を手にいれたりなんてことは可能だし、実際に赴くことだって不可能ではない。それでも身近で東方の味を感じられるのはやはり嬉しいのだ。
そして皿に盛られた魚料理。鰹のたたきというのだと、教えてもらった。傷みやすい鰹を少しでも安全に、そして美味しく食べられるように工夫された料理だ。鰹の身のまわりに火を通し、中は生の部分があるという料理なのであるのだから。更にショウガやしそを焼く美にし、醤油でいただくのだから、抗菌効果は十分だろう。
(これは是非、自分でも作り方を覚えて帰りたいものです)
ミオレスカは目を輝かせている。もともとリアルブルーの醤油を用いた食文化に感動している彼女だけに、今回は嬉しくてたまらない、と言った表情をのぞかせているのだ。
「そういえば、半分火を通したとは言え、生の魚を食べる文化というのはそう多くないのです。旬のご馳走ではありますが、頭が拒んでしまうものを無理に食べてはいけませんよ? これを揚げれば、同じ薬味で簡単な南蛮漬け風の料理も作れます」
文化圏の違いと食文化の違いを指摘して、ハンスがそっと微笑む。無理してまで食べなくていいと言われて、何人かの子どもが、ほっと息をついたのが感じられた。
また、リゼリオではパン食が主だが、今日はわかめを混ぜ込んだごはんになっている。ほんのり塩味の効いたわかめごはんは、目にもどこか楽しげで、口に含めばほんのりと磯の香り。
(お米の食べ方のバリエーションも、流石東方文化ですね)
ミオレスカが感動を隠せぬまま食べていれば、横で婆が
(礼儀なんぞより、米一粒残さず食べる方が大事じゃからのう)
そう思いながら丁寧に食べている。
皆が美味しそうに箸を持っている姿を見て、菜摘は近くにいた教員に言う。
「……こういう日本食、いえクリムゾンウェスト的には東方料理と言うべきなのでしょうか、これらはこちらではそうそう食べる機会もありませんし、食材も割高ですからね。それでも東方の料理と私の故郷の料理はよく似ていて、久しぶりの味を堪能させて頂きたいですし、出来る限りのアドバイスをさせて頂きましたけれど」
そう、料理の腕前にそれなりの自信を持っている菜摘は、レシピのフォローもしていたのだ。
そして、デザートはみたらし団子。醤油味の甘辛い餡がかかった白い団子は、子どもたちにも大好評だ。見た目のわりに素朴な作り方、深い味わいなどに感動しているミオレスカと、持参した茶を振る舞うハンス。
この光景を眺め、婆は思う。
(学校では他にどんなことをするんかのう)
ミオレスカもまた、
(いつかこう言う場で教える立場になるのも、良いかも知れません)
文化の違いに触れ、それぞれ感じ入るものがあったようだ。
●
体験給食会は成功のうちに終わった。
参加したハンターはそれぞれ思うところがあったようだが、それがこの先きっと良い結果を導いてくれるに違いない。
そうであることを願うのみである。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/06/05 14:53:59 |