ゲスト
(ka0000)
【郷祭】素晴らしきティータイムの為に
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/30 19:00
- 完成日
- 2014/11/07 08:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
農耕推進地域ジェオルジの村長祭は、例年になく大規模な物となっていた。
ジェオルジの住民も、他都市から乗り込んできた人々も入り乱れ、上を下への大騒ぎである。
「ま、賑やかなのはいいことよね」
そんな中、領主一族のルイーザ・ジェオルジはまるで他人事のようだった。
領主として村長たちとの会議に明け暮れている弟のセストや、実質この家を切り盛りしている母のバルバラは、連日大わらわだ。普段は所在も知れない父のルーベンですら、珍しく働いている……らしい。本当かどうかは知らないが。
だが元々座学にも家のことにも興味を示さず、ハンターとしてあちこち渡り歩いているルイーザには、手伝おうにも手の出しようが無いというのも正直なところである。
なので、ここぞとばかり最新流行のドレスに身を包み、面白そうな事をやっている場所を覗き回っている。
そんなある日のこと。母がにっこり笑って言った。
「ルイーザ、貴女は随分と優雅なことね」
「え、あ、はい」
自由奔放なルイーザだが、流石にこの母には頭が上がらない。
だが社交的で面倒見の良い姉御肌のルイーザの性格は母譲りで、親娘というよりは時に姉妹のようでもある。
「皆とても忙しいの。貴女もひとつ位、一族の人間として役目をお果たしなさいな」
「あ、はい」
反論を許さないオーラがバルバラから発せられていた。
●
そしてルイーザは途方に暮れる。
「自慢じゃないけど。あたし、ちゃんとした紅茶なんて自分で淹れた事ないわよ……?」
母から託された役目はルイーザにとってかなり荷が重いものだった。
今年、ジェオルジでは領主の実験農園で試験的に茶葉を栽培していた。
秋に摘み取り紅茶に仕上げてみたところ、中々良い出来である。
という訳で、ルイーザが主体となってお茶会を開き、ヴァリオスから来た商人や富裕層にアピールする方法を考えろという指示が下ったのである。
「ティーパーティーに参加するのは嫌いじゃないけど……そうだわ!」
突然、ルイーザがポンと手を打った。
「こういうときこそ、誰かにお願いすればいいのよね! 費用は後でセストに請求すればいいんだし」
一度決めると行動は早い。ルイーザは早速協力者を集めに飛び出して行った。
農耕推進地域ジェオルジの村長祭は、例年になく大規模な物となっていた。
ジェオルジの住民も、他都市から乗り込んできた人々も入り乱れ、上を下への大騒ぎである。
「ま、賑やかなのはいいことよね」
そんな中、領主一族のルイーザ・ジェオルジはまるで他人事のようだった。
領主として村長たちとの会議に明け暮れている弟のセストや、実質この家を切り盛りしている母のバルバラは、連日大わらわだ。普段は所在も知れない父のルーベンですら、珍しく働いている……らしい。本当かどうかは知らないが。
だが元々座学にも家のことにも興味を示さず、ハンターとしてあちこち渡り歩いているルイーザには、手伝おうにも手の出しようが無いというのも正直なところである。
なので、ここぞとばかり最新流行のドレスに身を包み、面白そうな事をやっている場所を覗き回っている。
そんなある日のこと。母がにっこり笑って言った。
「ルイーザ、貴女は随分と優雅なことね」
「え、あ、はい」
自由奔放なルイーザだが、流石にこの母には頭が上がらない。
だが社交的で面倒見の良い姉御肌のルイーザの性格は母譲りで、親娘というよりは時に姉妹のようでもある。
「皆とても忙しいの。貴女もひとつ位、一族の人間として役目をお果たしなさいな」
「あ、はい」
反論を許さないオーラがバルバラから発せられていた。
●
そしてルイーザは途方に暮れる。
「自慢じゃないけど。あたし、ちゃんとした紅茶なんて自分で淹れた事ないわよ……?」
母から託された役目はルイーザにとってかなり荷が重いものだった。
今年、ジェオルジでは領主の実験農園で試験的に茶葉を栽培していた。
秋に摘み取り紅茶に仕上げてみたところ、中々良い出来である。
という訳で、ルイーザが主体となってお茶会を開き、ヴァリオスから来た商人や富裕層にアピールする方法を考えろという指示が下ったのである。
「ティーパーティーに参加するのは嫌いじゃないけど……そうだわ!」
突然、ルイーザがポンと手を打った。
「こういうときこそ、誰かにお願いすればいいのよね! 費用は後でセストに請求すればいいんだし」
一度決めると行動は早い。ルイーザは早速協力者を集めに飛び出して行った。
リプレイ本文
●
ジェオルジ家のキッチンの続きの間。
一抱えもある缶を作業台に置くと、ルイーザ・ジェオルジはにっこりほほ笑んだ。
「じゃあ皆さん、宜しくお願いします」
あからさまに丸投げの気配だ。
シェラリンデ(ka3332)が片足を半歩引き、綺麗にお辞儀する。
「ルイーザ嬢、今回はお招きいただきありがとう、精一杯役割を務めさせてもらうよ」
一見細身の少年然としたふるまいだが、立派な女性である。
「ボクも紅茶はそこそこに嗜むから、こういったことにかかわれるのは嬉しいね?」
「こちらこそ宜しくね! あたしは全然ダメだから、ホントに助かるわ」
ルイーザもドレスをつまみ、ちょっと気取ったお辞儀で応じた。
ロラン・ラコート(ka0363)が早速缶の蓋に手をかけた。
「先ずは実物、見せて貰っても良いかね?」
食に対する興味が深いロランも、初めて目にするジェオルジ産の紅茶である。
「どんな茶葉か楽しみですね♪」
元々紅茶好きなアクセル・ランパード(ka0448)は少し掌に取り分け、香りや葉の状態を確かめている。
中々にしっかりした香りの、少し大きめの茶葉だった。
「成程……」
アクセルが頷きながら何やら思案している。茶葉の大きさや状態で、淹れ方も変わるのだ。
ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)もどこか懐かしげに、指先で茶葉を軽く潰して具合を見ていた。
「僕、ハンターになって初の依頼が、ヒカヤ紅茶を摘んでくるいう依頼だったんや。紅茶に縁があるんかな?」
誰かが摘んだ紅茶がこうしてお茶会に供される。ラィルは目を細め、何だか面白いと思うのだ。
「とにかくまずは飲んでみないとね」
白水 燈夜(ka0236)がそう言って、ルイーザに包みを手渡した。
「これ、お茶うけのシフォンケーキ。作ってきたから」
「ありがとう! そうね、まずは飲んで頂かなきゃね」
ルイーザの意識は既に包みに釘づけである。
「専門の知識がある訳じゃないから、いい提案ができるかは判らないけど……」
燈夜の言葉を最後まで聞いたかどうか、とにかく戸棚から大小の皿を運んでくる。
それよりも、とアクセルがルイーザを呼びとめた。
「手本という訳ではありませんが、一般的な淹茶式で飲んでみましょう。少し確認したい事がありますので、キッチンを拝見しても宜しいですか」
ティーセット、そして汲みたての水を用意させ、アクセルは薬缶を火にかける。
「茶葉本来の味を正確に知らなければ、次に進めませんからね」
流れるような優雅な手つきで、アクセルが作業を進める。ルイーザは感心するばかりだ。
家に居る時は誰かが出してくれるし、自分で飲みたい時には適当に葉っぱをお湯にぶち込むだけの人間にとっては、どこか物珍しい作業に見えてしまう。
ポットを温め、正確に茶葉を量って入れ、素早くお湯を満たし待つこと暫し。
砂時計を睨んでいたアクセルが温めたカップに紅茶を注ぐと、芳しい香りが辺りに漂った。
均等に人数分のカップに注ぐと、皆に勧める。
「……おいしい」
ルイーザが目を見張る。
「どうやら、これが適正時間ですね」
アクセルが満足そうに頷いた。だがルイーザの表情は冴えない。
「……自分でできる気がぜんぜんしないわ」
素直すぎる言葉に、イスフェリア(ka2088)が微笑んだ。
「お茶会のホスト役かぁ……責任重大だよね」
「言わないで!!」
頭を抱えるルイーザの肩に手を置き、イスフェリアは続ける。
「ただ、気負いすぎたら堅くなってしまって、ルイーザさんの個性が消えてしまうかもしれないし。大丈夫、紅茶の淹れ方は、何回かやってみれば、できるようになると思う」
「ソレにネ」
楽しい内緒ごとを告げるようにアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)がくすくす笑った。
「楽しいお茶会の為に必要なモノってわかるカナ? 色々アルとは思うケレド、マズは喜んで欲しい気持ちが大切ダヨ☆」
「皆でお手伝いしますから。一緒に頑張りましょう」
藤田 武(ka3286)に穏やかにそう言われ、ルイーザも思わずこくこくと頷く。
●
シフォンケーキをお茶うけに、相談は進む。
「飾りの華や菓子など、香りの強い物は紅茶の香りと干渉するため厳禁です」
アクセルがここは譲れない、と強く念を押す。
確かに紅茶の大事な特徴である香りが分からなくなるのは、好ましくないだろう。
「けれど適度な甘味は紅茶本来の味を引き立てます。茶会用にこの紅茶に合う菓子を模索しましょう。クッキーなどだけでは寂しいですし、こういったシフォンケーキなどは邪魔にならなくていいでしょうね」
ロランはカップを口に運び、改めてゆっくりと味わう。
「確りした口あたりの紅茶だね。お菓子は引き立て役だから、さっぱりした物の方が良いと思うが……。スフレタイプのチーズケーキなどもいいかもしれないな」
アルヴィンと燈夜には別の案があった。
「紅茶のアピールの為の企画ナンダし、僕カラは茶葉を利用したアレンジを提案スルネ」
「うん、俺もそれはいいと思う」
燈夜は暖かいお茶で少し重くなっていた瞼を見開いた。
「香りによって合う合わないアルと思うカラ、実際にキッチンをお借りシテ、作ってみたいカナ」
「そうだね。……何が合うかな」
「とにかく楽しく、良きアピールの場にナル茶会に出来るよう、頑張るんダヨー!」
ふたりはキッチンへと向かった。
試作品ができるまで、他のメンバーはお茶会の内容を詰めることにする。
早速ラィルが口火を切った。
「このお茶の一番のウリを決めておきたいな、て」
希少性を前面に出して特別な物、贈答用として使ってもらうのか。それとも気軽に飲めるお茶として売り出すのか。
「ジェオルジの紅茶といえば、コレ! って、誰もが思い浮かべるのを決めるとエエと思うで。できるだけ他に流通してるんと被らん方がええな」
ルイーザは成程、と頷く。
「そうね、できれば贈答用に使ってもらえたら嬉しいわね。折角のお茶だもの」
だが話はそう簡単にいくとは限らない。
「商人や富裕層には通と呼ばれる方々が居ます。銘柄や等級の見極めや、何をどう嗜むか、それらも一種のステータスとなりますからね」
アクセルは軽く肩をすくめて見せる。
「俺もやはり紅茶には五月蠅いですから」
「つまり、高く売りだしたからってそれで話題にして貰えるってわけじゃないってことか。難しいわねえ……」
ルイーザはお手上げとばかりに天井を見上げた。
「逆に言えば、ブランドに騙されないのが本当の通です。要は認めさせればいいのです」
そこでアクセルが提案したのは、通向けの卓と、入門用卓を別に設置すること。
「お茶会は、紅茶を深く極めたい人もおれば、気軽に楽しみたい、堅苦しいんが苦手な人も人もおると思うしな。ええ案やと思う」
ラィルが賛同し、次々と案を挙げて行く。
「初心者向けには保管法なんかもあった方がええな。あと、これから寒うなるし、シナモンやジンジャーを加えたスパイスティーや、ブランデーやラム酒を加えるんも喜ばれそうや」
一度スイッチが入ると、色々と想像は膨らんで行く。
「通向けのには、ちょっとええテーブルクロスかけてみたり、ハープとか弦楽系の生演奏があったら優雅やな」
「後は実際の茶葉を置いて、香りも楽しんでもらえると良いね。それからパーティーの最後には、試飲用のお土産を渡せば喜ばれるだろう」
ロランがそう言うと、シェラリンデが続く。
「それなら、紅茶の葉を入れる入れ物も専用のおしゃれなものを準備したらいいとおもうよ?」
凛とした風情だが、内心では結構年頃の女の子らしい好みも持っていたりする。シェラリンデのそんな一面が顔を覗かせた。
「たとえば、だけど。きれいな植物の装飾が入った缶とか、のどかな風景画が描かれた袋とか……できれば、ジェオルジ領に関係のある意匠がいいかなって思うよ」
そうすれば紅茶の葉だけではなく、ジェオルジという土地を売り込むこともできる。
もし職人がいれば、彼らに作って貰うのもいいだろう。
「あら、素敵! あたし、そういうの大好き」
元々華やかなことの好きなルイーザは、身を乗り出した。
それまで黙って事の成り行きを見守っていた武が、控え目に片手を上げた。
「少々宜しいですか」
何事かと皆の視線が集まる。
「私の居たリアルブルーでも、商品をアピールするためには様々な手段が使われていました。中には何を売りたいのかわからない系のアピールも多かったものですが、概ねそれなりの実績を上げていたように思います。そこで、です」
カッと目を見開く武。
「そういった、一見斜め下系のアピール手段を提案します」
「ナナメシタ……?」
ルイーザが眉をひそめた。だが武は気にしない。
「紅茶のゆるキャラで人々にインパクトを与えるのです!」
武は用意していた企画書を取り出す。そこにはティーカップの顔に、お茶の葉が生えた杖を持つキャラクターが描かれていた。
「ティーちゃんです」
「……」
ルイーザにはゆるキャラのイメージが伝わりにくいようだ。
「着ぐるみです。技術的には稚拙かもしれませんが、私が作成しましょう。多少下手でも、素人臭さも魅力になるものです。親しみを持ってもらって、人々をほのぼのした気分に持ち込めれば成功ですね」
「この子がお茶会にいるわけね?」
「そうです。子供達が襲ってくるかもしれませんが、その時はその時。ティータイムでは騒ぐべきではないですよと、作法を教えることもできるでしょう。決め台詞は、『紅茶ったら紅茶』……ですね」
武が甲高い裏声で言ったので、ルイーザは思わず噴き出した。
「リアルブルーの人って、面白いことを考えるのねえ!」
だが武は大まじめである。この方法は、神が啓示したに違いないと信じているからだ。
「そうね、一般向けのテーブルには面白いかもしれないわね」
ルイーザはまだ笑っている。
そこに甘い香りが漂ってきた。
「お待たせ。まだ焼き立てだから生地が落ち着いてないけど」
燈夜が焼き上がった菓子を運んできた。
細かく刻んだ茶葉の入ったシフォンケーキに、可愛いハート型のクッキー。
「簡単だから誰でも出来る、と思う。一応レシピを置いておくから、これも当日配布してもいいかもな」
続けてアルヴィンも大きなトレイに試作品を載せて来る。
「スグに作れる物ダケ、取り敢えず用意シタヨ。ホントは一晩置いた方がイイのもあるケドね」
リンゴの紅茶風味コンポート、紅茶風味のプディングなどなど。
「香りが高いカラ、フレーバーとしてもキット素敵だと思うんダヨ」
そう言って、灰皿の上に茶葉を乗せ、蝋燭の火で炙った。心を落ち着かせる香りが広がる。
「茶香炉ってイウ、リアルブルーの楽しみ方ダヨ。イロイロ楽しめるよネ」
アルヴィンがにっこり笑う。
「今はマダ『無名』、マズは興味を持って貰う事が一番カナと」
「後は……と」
ロランがちらりと横目でルイーザを見た。
「ルイーザは後学の為、お茶を淹れる練習、した方が良いね」
「うっ」
忘れてた。というか、忘れていたかった。そう顔に書いてあった。
●
アクセルの指導の元、ルイーザが白目になりながら危なっかしい手つきでポットを持つ。
「蒸す適正時間は茶葉の種類や形状、水は軟水、硬水で変わります」
「ハイ」
既にいっぱいいっぱいの様子に、イスフェリアが助け船を出した。
ひとまず椅子に落ちつかせて、手を取る。
「ねえ、こういう場は苦手だなぁ……って思わずに。これをゲームだと思って、楽しんでしまえばいいんじゃないかな」
「ゲーム……?」
きょとんとするルイーザに、紫の瞳が優しく微笑む。
「麗しの令嬢を演じるゲーム。いつもの自分とは違う人物に、女優になった気分でなりきってみるの」
「れ、令嬢……」
一応、たぶん、ルイーザも令嬢の端くれではあるはずだ。とてもそうはみえないが。
相手は何を求めているのか、どうしたら喜んでくれるのか。
いいお茶会だったな、美味しい紅茶だったな、って満足してもらえるように。
「難しいわね……」
「例えば忙しそうな弟さんたちご家族に、お疲れさまって淹れてあげる気持ちならどうかな」
ルイーザは何事か考え込んでいる。
「食事だって、好きな人たちと食べると味が違うと思わない? 場の雰囲気も味わいに関わると思うんだ。とにかく来た人に楽しんでもらうのが一番大事だよ」
「イスフェリアの言う通り。ま、固い事抜きで。取りあえずは淹れた相手に、美味しく飲んでもらえる様にっていう、初心だけでも、ね」
イスフェリアとロランの言うことはもっともだった。
「そうね、今までおよばれしか行ったことが無かったけど……そういうことよね」
今まで型や作法を覚えるので精いっぱいだったが、淹れることよりも飲んでもらうことを考えれば何となくわかる。
それからもルイーザの悪戦苦闘は続いた。
「片手じゃなくて、両手を添えて。なるべく動きをゆっくり、丁寧に。相手がにっこり笑ってくれたら、1ポイント!」
イスフェリアのつききりの励ましと、アクセルの的確な指導。
シェラリンデも褒めて伸ばす。
「ずいぶん上手になったと思うよ。普段から飲めるようにしておくとちょっとした楽しみにはいいかもしれないよ? レディの嗜みとしても、ね?」
その様子を、普段お茶を入れる担当のジェオルジ家の者も、感心したように見ている。
「あのルイーザ様が、ねえ……」
恐らく母のバルバラも、これを見ればびっくりすることだろう。
その近くでテーブルにつき、茶菓子の配置などを思案していた燈夜が、眠そうに目をこすった。
「そういえばまだ無名の茶葉なんだっけ」
ラィルもその点は気になっていた。
「まずは何か命名したほうがよさそうやんな」
「うん、何か名前欲しいよね。ぱっと覚えやすいのがいいんじゃないかな」
少しとろんとした目で、それでも一生懸命燈夜は考える。
「だったら……やっぱ産地のジェオルジの名前かな」
「成程……」
武はペンを走らせ、後でルイーザに手渡すまとめにそれを書き加える。
「それもじゃあ、お茶を上手に淹れられるようになるのと一緒に、当日までのルイーザの宿題かな?」
ロランがくすくす笑うと、ルイーザがぎくしゃくとこちらを向いた。
「何か、言った!?」
それから暫く後の、お茶会当日。
「ようこそ、村長祭へ。こちら『ジェオルジの風』というお茶です。宜しければ試飲をどうぞ」
自信に満ちた様子で立ち働くルイーザの姿があった。
「お茶菓子は如何? このお茶の葉が入ってるんですよ」
「……あら?」
さりげなく手伝いに混じっているシェラリンデの姿に、ルイーザが一瞬驚き、そして目くばせした。
少し離れたテーブルでは、謎の着ぐるみが怪しく動いている。
最高の師匠と、最高の仲間のお陰で、紅茶はいずれジェオルジ自慢の特産品になるだろう。
<了>
ジェオルジ家のキッチンの続きの間。
一抱えもある缶を作業台に置くと、ルイーザ・ジェオルジはにっこりほほ笑んだ。
「じゃあ皆さん、宜しくお願いします」
あからさまに丸投げの気配だ。
シェラリンデ(ka3332)が片足を半歩引き、綺麗にお辞儀する。
「ルイーザ嬢、今回はお招きいただきありがとう、精一杯役割を務めさせてもらうよ」
一見細身の少年然としたふるまいだが、立派な女性である。
「ボクも紅茶はそこそこに嗜むから、こういったことにかかわれるのは嬉しいね?」
「こちらこそ宜しくね! あたしは全然ダメだから、ホントに助かるわ」
ルイーザもドレスをつまみ、ちょっと気取ったお辞儀で応じた。
ロラン・ラコート(ka0363)が早速缶の蓋に手をかけた。
「先ずは実物、見せて貰っても良いかね?」
食に対する興味が深いロランも、初めて目にするジェオルジ産の紅茶である。
「どんな茶葉か楽しみですね♪」
元々紅茶好きなアクセル・ランパード(ka0448)は少し掌に取り分け、香りや葉の状態を確かめている。
中々にしっかりした香りの、少し大きめの茶葉だった。
「成程……」
アクセルが頷きながら何やら思案している。茶葉の大きさや状態で、淹れ方も変わるのだ。
ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)もどこか懐かしげに、指先で茶葉を軽く潰して具合を見ていた。
「僕、ハンターになって初の依頼が、ヒカヤ紅茶を摘んでくるいう依頼だったんや。紅茶に縁があるんかな?」
誰かが摘んだ紅茶がこうしてお茶会に供される。ラィルは目を細め、何だか面白いと思うのだ。
「とにかくまずは飲んでみないとね」
白水 燈夜(ka0236)がそう言って、ルイーザに包みを手渡した。
「これ、お茶うけのシフォンケーキ。作ってきたから」
「ありがとう! そうね、まずは飲んで頂かなきゃね」
ルイーザの意識は既に包みに釘づけである。
「専門の知識がある訳じゃないから、いい提案ができるかは判らないけど……」
燈夜の言葉を最後まで聞いたかどうか、とにかく戸棚から大小の皿を運んでくる。
それよりも、とアクセルがルイーザを呼びとめた。
「手本という訳ではありませんが、一般的な淹茶式で飲んでみましょう。少し確認したい事がありますので、キッチンを拝見しても宜しいですか」
ティーセット、そして汲みたての水を用意させ、アクセルは薬缶を火にかける。
「茶葉本来の味を正確に知らなければ、次に進めませんからね」
流れるような優雅な手つきで、アクセルが作業を進める。ルイーザは感心するばかりだ。
家に居る時は誰かが出してくれるし、自分で飲みたい時には適当に葉っぱをお湯にぶち込むだけの人間にとっては、どこか物珍しい作業に見えてしまう。
ポットを温め、正確に茶葉を量って入れ、素早くお湯を満たし待つこと暫し。
砂時計を睨んでいたアクセルが温めたカップに紅茶を注ぐと、芳しい香りが辺りに漂った。
均等に人数分のカップに注ぐと、皆に勧める。
「……おいしい」
ルイーザが目を見張る。
「どうやら、これが適正時間ですね」
アクセルが満足そうに頷いた。だがルイーザの表情は冴えない。
「……自分でできる気がぜんぜんしないわ」
素直すぎる言葉に、イスフェリア(ka2088)が微笑んだ。
「お茶会のホスト役かぁ……責任重大だよね」
「言わないで!!」
頭を抱えるルイーザの肩に手を置き、イスフェリアは続ける。
「ただ、気負いすぎたら堅くなってしまって、ルイーザさんの個性が消えてしまうかもしれないし。大丈夫、紅茶の淹れ方は、何回かやってみれば、できるようになると思う」
「ソレにネ」
楽しい内緒ごとを告げるようにアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)がくすくす笑った。
「楽しいお茶会の為に必要なモノってわかるカナ? 色々アルとは思うケレド、マズは喜んで欲しい気持ちが大切ダヨ☆」
「皆でお手伝いしますから。一緒に頑張りましょう」
藤田 武(ka3286)に穏やかにそう言われ、ルイーザも思わずこくこくと頷く。
●
シフォンケーキをお茶うけに、相談は進む。
「飾りの華や菓子など、香りの強い物は紅茶の香りと干渉するため厳禁です」
アクセルがここは譲れない、と強く念を押す。
確かに紅茶の大事な特徴である香りが分からなくなるのは、好ましくないだろう。
「けれど適度な甘味は紅茶本来の味を引き立てます。茶会用にこの紅茶に合う菓子を模索しましょう。クッキーなどだけでは寂しいですし、こういったシフォンケーキなどは邪魔にならなくていいでしょうね」
ロランはカップを口に運び、改めてゆっくりと味わう。
「確りした口あたりの紅茶だね。お菓子は引き立て役だから、さっぱりした物の方が良いと思うが……。スフレタイプのチーズケーキなどもいいかもしれないな」
アルヴィンと燈夜には別の案があった。
「紅茶のアピールの為の企画ナンダし、僕カラは茶葉を利用したアレンジを提案スルネ」
「うん、俺もそれはいいと思う」
燈夜は暖かいお茶で少し重くなっていた瞼を見開いた。
「香りによって合う合わないアルと思うカラ、実際にキッチンをお借りシテ、作ってみたいカナ」
「そうだね。……何が合うかな」
「とにかく楽しく、良きアピールの場にナル茶会に出来るよう、頑張るんダヨー!」
ふたりはキッチンへと向かった。
試作品ができるまで、他のメンバーはお茶会の内容を詰めることにする。
早速ラィルが口火を切った。
「このお茶の一番のウリを決めておきたいな、て」
希少性を前面に出して特別な物、贈答用として使ってもらうのか。それとも気軽に飲めるお茶として売り出すのか。
「ジェオルジの紅茶といえば、コレ! って、誰もが思い浮かべるのを決めるとエエと思うで。できるだけ他に流通してるんと被らん方がええな」
ルイーザは成程、と頷く。
「そうね、できれば贈答用に使ってもらえたら嬉しいわね。折角のお茶だもの」
だが話はそう簡単にいくとは限らない。
「商人や富裕層には通と呼ばれる方々が居ます。銘柄や等級の見極めや、何をどう嗜むか、それらも一種のステータスとなりますからね」
アクセルは軽く肩をすくめて見せる。
「俺もやはり紅茶には五月蠅いですから」
「つまり、高く売りだしたからってそれで話題にして貰えるってわけじゃないってことか。難しいわねえ……」
ルイーザはお手上げとばかりに天井を見上げた。
「逆に言えば、ブランドに騙されないのが本当の通です。要は認めさせればいいのです」
そこでアクセルが提案したのは、通向けの卓と、入門用卓を別に設置すること。
「お茶会は、紅茶を深く極めたい人もおれば、気軽に楽しみたい、堅苦しいんが苦手な人も人もおると思うしな。ええ案やと思う」
ラィルが賛同し、次々と案を挙げて行く。
「初心者向けには保管法なんかもあった方がええな。あと、これから寒うなるし、シナモンやジンジャーを加えたスパイスティーや、ブランデーやラム酒を加えるんも喜ばれそうや」
一度スイッチが入ると、色々と想像は膨らんで行く。
「通向けのには、ちょっとええテーブルクロスかけてみたり、ハープとか弦楽系の生演奏があったら優雅やな」
「後は実際の茶葉を置いて、香りも楽しんでもらえると良いね。それからパーティーの最後には、試飲用のお土産を渡せば喜ばれるだろう」
ロランがそう言うと、シェラリンデが続く。
「それなら、紅茶の葉を入れる入れ物も専用のおしゃれなものを準備したらいいとおもうよ?」
凛とした風情だが、内心では結構年頃の女の子らしい好みも持っていたりする。シェラリンデのそんな一面が顔を覗かせた。
「たとえば、だけど。きれいな植物の装飾が入った缶とか、のどかな風景画が描かれた袋とか……できれば、ジェオルジ領に関係のある意匠がいいかなって思うよ」
そうすれば紅茶の葉だけではなく、ジェオルジという土地を売り込むこともできる。
もし職人がいれば、彼らに作って貰うのもいいだろう。
「あら、素敵! あたし、そういうの大好き」
元々華やかなことの好きなルイーザは、身を乗り出した。
それまで黙って事の成り行きを見守っていた武が、控え目に片手を上げた。
「少々宜しいですか」
何事かと皆の視線が集まる。
「私の居たリアルブルーでも、商品をアピールするためには様々な手段が使われていました。中には何を売りたいのかわからない系のアピールも多かったものですが、概ねそれなりの実績を上げていたように思います。そこで、です」
カッと目を見開く武。
「そういった、一見斜め下系のアピール手段を提案します」
「ナナメシタ……?」
ルイーザが眉をひそめた。だが武は気にしない。
「紅茶のゆるキャラで人々にインパクトを与えるのです!」
武は用意していた企画書を取り出す。そこにはティーカップの顔に、お茶の葉が生えた杖を持つキャラクターが描かれていた。
「ティーちゃんです」
「……」
ルイーザにはゆるキャラのイメージが伝わりにくいようだ。
「着ぐるみです。技術的には稚拙かもしれませんが、私が作成しましょう。多少下手でも、素人臭さも魅力になるものです。親しみを持ってもらって、人々をほのぼのした気分に持ち込めれば成功ですね」
「この子がお茶会にいるわけね?」
「そうです。子供達が襲ってくるかもしれませんが、その時はその時。ティータイムでは騒ぐべきではないですよと、作法を教えることもできるでしょう。決め台詞は、『紅茶ったら紅茶』……ですね」
武が甲高い裏声で言ったので、ルイーザは思わず噴き出した。
「リアルブルーの人って、面白いことを考えるのねえ!」
だが武は大まじめである。この方法は、神が啓示したに違いないと信じているからだ。
「そうね、一般向けのテーブルには面白いかもしれないわね」
ルイーザはまだ笑っている。
そこに甘い香りが漂ってきた。
「お待たせ。まだ焼き立てだから生地が落ち着いてないけど」
燈夜が焼き上がった菓子を運んできた。
細かく刻んだ茶葉の入ったシフォンケーキに、可愛いハート型のクッキー。
「簡単だから誰でも出来る、と思う。一応レシピを置いておくから、これも当日配布してもいいかもな」
続けてアルヴィンも大きなトレイに試作品を載せて来る。
「スグに作れる物ダケ、取り敢えず用意シタヨ。ホントは一晩置いた方がイイのもあるケドね」
リンゴの紅茶風味コンポート、紅茶風味のプディングなどなど。
「香りが高いカラ、フレーバーとしてもキット素敵だと思うんダヨ」
そう言って、灰皿の上に茶葉を乗せ、蝋燭の火で炙った。心を落ち着かせる香りが広がる。
「茶香炉ってイウ、リアルブルーの楽しみ方ダヨ。イロイロ楽しめるよネ」
アルヴィンがにっこり笑う。
「今はマダ『無名』、マズは興味を持って貰う事が一番カナと」
「後は……と」
ロランがちらりと横目でルイーザを見た。
「ルイーザは後学の為、お茶を淹れる練習、した方が良いね」
「うっ」
忘れてた。というか、忘れていたかった。そう顔に書いてあった。
●
アクセルの指導の元、ルイーザが白目になりながら危なっかしい手つきでポットを持つ。
「蒸す適正時間は茶葉の種類や形状、水は軟水、硬水で変わります」
「ハイ」
既にいっぱいいっぱいの様子に、イスフェリアが助け船を出した。
ひとまず椅子に落ちつかせて、手を取る。
「ねえ、こういう場は苦手だなぁ……って思わずに。これをゲームだと思って、楽しんでしまえばいいんじゃないかな」
「ゲーム……?」
きょとんとするルイーザに、紫の瞳が優しく微笑む。
「麗しの令嬢を演じるゲーム。いつもの自分とは違う人物に、女優になった気分でなりきってみるの」
「れ、令嬢……」
一応、たぶん、ルイーザも令嬢の端くれではあるはずだ。とてもそうはみえないが。
相手は何を求めているのか、どうしたら喜んでくれるのか。
いいお茶会だったな、美味しい紅茶だったな、って満足してもらえるように。
「難しいわね……」
「例えば忙しそうな弟さんたちご家族に、お疲れさまって淹れてあげる気持ちならどうかな」
ルイーザは何事か考え込んでいる。
「食事だって、好きな人たちと食べると味が違うと思わない? 場の雰囲気も味わいに関わると思うんだ。とにかく来た人に楽しんでもらうのが一番大事だよ」
「イスフェリアの言う通り。ま、固い事抜きで。取りあえずは淹れた相手に、美味しく飲んでもらえる様にっていう、初心だけでも、ね」
イスフェリアとロランの言うことはもっともだった。
「そうね、今までおよばれしか行ったことが無かったけど……そういうことよね」
今まで型や作法を覚えるので精いっぱいだったが、淹れることよりも飲んでもらうことを考えれば何となくわかる。
それからもルイーザの悪戦苦闘は続いた。
「片手じゃなくて、両手を添えて。なるべく動きをゆっくり、丁寧に。相手がにっこり笑ってくれたら、1ポイント!」
イスフェリアのつききりの励ましと、アクセルの的確な指導。
シェラリンデも褒めて伸ばす。
「ずいぶん上手になったと思うよ。普段から飲めるようにしておくとちょっとした楽しみにはいいかもしれないよ? レディの嗜みとしても、ね?」
その様子を、普段お茶を入れる担当のジェオルジ家の者も、感心したように見ている。
「あのルイーザ様が、ねえ……」
恐らく母のバルバラも、これを見ればびっくりすることだろう。
その近くでテーブルにつき、茶菓子の配置などを思案していた燈夜が、眠そうに目をこすった。
「そういえばまだ無名の茶葉なんだっけ」
ラィルもその点は気になっていた。
「まずは何か命名したほうがよさそうやんな」
「うん、何か名前欲しいよね。ぱっと覚えやすいのがいいんじゃないかな」
少しとろんとした目で、それでも一生懸命燈夜は考える。
「だったら……やっぱ産地のジェオルジの名前かな」
「成程……」
武はペンを走らせ、後でルイーザに手渡すまとめにそれを書き加える。
「それもじゃあ、お茶を上手に淹れられるようになるのと一緒に、当日までのルイーザの宿題かな?」
ロランがくすくす笑うと、ルイーザがぎくしゃくとこちらを向いた。
「何か、言った!?」
それから暫く後の、お茶会当日。
「ようこそ、村長祭へ。こちら『ジェオルジの風』というお茶です。宜しければ試飲をどうぞ」
自信に満ちた様子で立ち働くルイーザの姿があった。
「お茶菓子は如何? このお茶の葉が入ってるんですよ」
「……あら?」
さりげなく手伝いに混じっているシェラリンデの姿に、ルイーザが一瞬驚き、そして目くばせした。
少し離れたテーブルでは、謎の着ぐるみが怪しく動いている。
最高の師匠と、最高の仲間のお陰で、紅茶はいずれジェオルジ自慢の特産品になるだろう。
<了>
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/27 17:48:38 |
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相談卓 シェラリンデ(ka3332) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/10/30 12:27:20 |