リボンのかわりにほしいもの

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/06/09 09:00
完成日
2017/06/15 19:28

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 地鳴りがしたかと思った、と、のちにクロスは語っている。
 その日はさっぱりと晴れた気持ちの良い日で、開け放した窓からはきらきらした青葉の輝きとともにさわやかな風が入り込んでいた。
 そんな、素晴らしい日に。

 ドドドドド……、バッコーン!!!

 衝撃音が、モンド邸に響き渡った。それに次いで、
「きゃあああああ、お嬢さま!!」
 というメイドの叫び声。
(あー、何が起こったか知りたくない……)
 クロスは痛み出した頭を押さえて音のした方へ向った。事件現場は、図書室だった。棚の中身でも盛大にぶちまけたのだろうか、と思いつつ。
「お嬢さま、今度はいったい何を……」
 いつもの嫌味たっぷりの声で図書室へ足を踏み入れたクロスは。
 ただの嫌味では済まされない光景を見て目を見開いた。ダイヤが、苦渋に表情で床にうずくまっている。クロスの顔から血の気が引いた。
「お嬢さま!!!」



 全治五日の、右足の捻挫と打撲。骨に異常がなかったことが、不幸中の幸いであったが、決して動かさず安静にしているように、と医者の命がくだった。痛みどめの薬を飲み、ベッドに押し込められたダイヤは、首をすくめてクロスを伺うように見上げる。
 クロスは当然、鬼の形相だった。
「もう少しお気を付けになってください!!」
「ご、ごめんなさい……」
 ダイヤは天井にまで届く高い本棚の、一番上の本を取るために梯子を使い、そこから足を踏み外して落下したのだった。あの高さから落ちてこの程度で済んだのは誠に運が良かったという他ないだろう。クロスは大きくため息をついた。
「これじゃあ、お誕生日パーティは中止ね」
「当然です」
 ダイヤは来週、誕生日を迎える。この一年余りで親しくなった人々を集めてパーティをしようと張り切っていたのだが、この怪我では中止せざるをえまい。
「ごめんなさい……。私、クロスに迷惑かけてばっかりだわ……」
「迷惑かけているという自覚はおありだったんですね」
「うん……、ごめんなさい」
 いつもなら噛みついてくるはずのクロスの嫌味にも、ムッとする様子すらなく謝罪を繰り返すダイヤ。クロスもさすがに可哀想になる。本当はもっと厳しく言いたいところだが、言葉よりもこの怪我自体が罰となっているようだ、と言葉を飲み込んだ。
「もうわかりましたから。しっかり怪我をなおしてください」
「うん」
 痛みどめが効いて来たのだろう、ダイヤはとろとろと眠そうな目をした。口から飛び出す言葉はまるで、うわごとのようになる。
「ごめんね、クロス……、迷惑だってことは……、わかってるの……」
「ですから、もう」
「わかってるけど……、わかってるけど私……」
 クロスは、息を飲んだ。ダイヤの言わんとすることを察して、目の前がくらりと揺らぐ。
「私……、クロスが好き……。ごめんね……、ごめんね……」
 眠りに落ちたダイヤのまなじりから、涙がひとしずく流れた。



 その、翌日。
 クロスは街へ出てきていた。王都からほど近い街道沿いに、ダイヤが贔屓にしているブランド「RINA'S STAR」が支店を出している。そこの限定品・星屑リボンを、ダイヤは欲しがっていたのだ。誕生日パーティーが開けなくなったダイヤのための、せめてものプレゼントのつもりだった。
 昨日、うわごとのように漏らしたダイヤの本音に、どう答えたらいいのか。その結論はまだ、出ていない。
 けれど。
 嬉しくないわけがなかった。だって、クロスにとって、ダイヤは。
「クロスさま、お待たせしてて申し訳ありません」
 ブティックの店長の声で、クロスはハッと顔を上げた。自分の思考の中に落ちてしまっていた意識を引き戻す。
「星屑リボン、すぐにご用意しますので。ちょっと、バックヤードの方へ行かないと在庫がないものですから……」
 申し訳なさそうにする店長に、クロスは微笑んで首をふった。
「よかったら、私が自分で取って来ましょう。お店は大混雑のようですし」
「いえ、お客様にそんなことをさせるわけには」
「いいんです、バックヤードはこちらですね」
 恐縮する店長を労って、クロスは店の奥へ入った。お屋敷の使用人であるクロスは、外へ出ると自分が客になる、という感覚がどうにも落ち着かなかったのだ。広いバックヤードで、目的の商品を見つけた、そのとき。

 バリーン!!! ドンドン……、きゃあああああああ!!!!!

 様々な音が立て続けにして、店の表の方が騒がしくなった。どうしたのだろう、とクロスがバックヤードから首だけを出して店の様子を伺うと。
「金だァ!!! 金を出せェ!!! おとなしく金を出せば命だけは許してやるぜぇ!!!」
 銃やナイフ、鉈のようなものを持った男たちが店長に迫っていた。
「お頭ぁ、宝石店に押し込む予定じゃなかったんですかあ?」
 来店客を縛り上げながらぼやく声に、髭面のお頭が怒鳴った。
「うるせえな、そっちは後だよ! まずはここで肩慣らしだ。モンド宝石店に押し入るとなれば大仕事だからなァ」
「なるほど、こっちは前試合ってわけっすね!」
 モンド宝石店、という言葉に、クロスは顔をしかめた。つまり。この強盗たちを逃がしてしまうと、次はダイヤの父親が経営する宝石店が襲われる、ということだ。
「き、金庫を開けて参ります」
 店長が、バックヤードへすっとんできた。クロスは素早く、彼の腕をつかんだ。クロスがいることをすっかり忘れていたらしい店長が驚く。
「く、クロスさま!」
「しーっ。僕に、良い考えがあります。このお店、裏口はありますね?」



 クロスは裏口を出て、ハンターオフィスへと駆けて行った。
「金庫は今、からっぽで、銀行へ行っている店員が一時間後に金を持って戻ってくるから、それを待っていて欲しい」
 強盗には、店長がそう説明していた。もちろん、嘘だ。時間を稼いでその間にクロスがハンターを呼びに行く、という、激高されれば命も危うい作戦だったが、幸い強盗はそれを信じた。
「一時間だとぉ? まあ、いい。待ってやろう。ただし、一時間経ってもそいつが戻らなかったらお前ら全員殺してやるからなァ!!!」
 強盗のお頭が、面白そうに笑った。
「待ってる間、酒でも飲むか! ッハハハァ!!」

リプレイ本文

 白昼堂々押し入った、愚かなる強盗たちをはクオン・サガラ(ka0018)「歪み」と称した。
「今のクリムゾンウェストは政治や経済・文化・交通の進歩よりも技術が進み過ぎて各所にその歪が出ている状態で、それはある意味歪虚よりも怖い存在ですからね……。リアルブルーですら数百年の時間と数億の人間の屍の上にその文化がある訳ですし。さて、今回の事件は「それ」が出てしまった不幸な例で、その解決はリアルブルー人の当然の務めといえると思いますね」
 はあ、とクロスは頷いた。大変興味深い説で、時間さえ許せばもっと聞いていたいと思うところだが、残念ながらそういう状況ではない。
「ごうとうなんて……しかも人質を取るなんていけないの、です。しっかりと反省して頂くの……」
 クオンの意見よりも何倍もシンプルな桜憐りるか(ka3748)の発言にも頷き返しつつ、クロスは焦る気持ちを押さえるため、唇を噛んだ。そんなクロスを小宮・千秋(ka6272)がリラックスさせる。
「ほいほーい、なんでかは分かりませんが、悪い事と言うものは重なっちゃうんですかねー。ダイヤさんはお誕生日に災難でしたー。後でお見舞いさせて頂きたいですねー」
 ちらりとクロスが話した、ダイヤの怪我のことを言っているのだ。お屋敷のことを思い出して、クロスは少し微笑んだ。
「はい、是非いらしてください。お嬢さまも喜ぶでしょう」
少し場が和んだところで、イルム=ローレ・エーレ(ka5113)が出発を促す。
「さあ、計画通りに行こう」
 一同はしっかりと頷いた。



 りるかが、ひとり先にブティックへと向かい、裏口から侵入する。これが、計画の第一段階だった。クロスに確認したところによると、ブティックには特に制服はないそうだ。自社の商品を身に着けて働くタイプの店なのだろう。
 りるかは音をたてないように気を付けて、裏口の扉を細く開け、体を滑り込ませた。バックヤードは思いのほか暗い。特に複雑な構造にはなっていないものの、ここから店の様子を詳しく知るのはなかなか難しそうだった。それでも、片手に銃を持ち、もう片方で酒瓶を持ってふんぞり返る男の姿は確認できた。あれが、盗賊の首領であろう。
(何か情報があれば、メモで連絡……。でも、わざわざメモを残すほどの情報は、なさそうなの、です……。それに……)
 時間があまり、ない。様子を伺うのに五分という時間は短すぎたようだ。
 りるかは呼吸を整えると、先ほどまで音をたてないように気を付けて動かしていた手足で、バックヤードに積んであった箱を動かし、物音をたてた。わざと、だ。
「ん!? 何の音だ!?」
 物音にすぐ反応した強盗たちの、声が響く。りるかの姿はまだ見られていない。だが、りるかはすでに演技を始めていた。怒鳴り声に怯えたように身をすくめる。
「誰かいるのか! 出て来い!」
 その言葉に応じて、りるかが恐る恐るといった態度で店へ出て行く。
「あ、あたし……此処で在庫の整理をしていたの、です。でもこわくて動けなく、なってしまって……」
 ブティックの従業員たちが、怪訝そうな顔をした。店長は瞬時に事態を察したらしく、強盗の頭に向かってウチのアルバイトです、と説明をした。頭が、ふん、と鼻を鳴らし、りるかに向かって顎で指示をする。
「おう、お前もこっちで座ってろ。おとなしくしてろよ! それから、だ。おい、誰か! この女が出てきた方を見て来い! まだ何か隠れてるかもしれねえからな」



 りるかがそのようにして人質に合流をした頃。残りのハンターは計画を次の段階へ進めるため、クロスを連れて店へと到着し、班をふたつに分けていた。クロスと共に店の正面から入る班と、裏口から入る班だ。
「りるかはんが入って行って五分経ったら、正面から入る準備やな」
 琴吹 琉那(ka6082)が呟いた。琉那とクオン、千秋が正面からの班である。
「あまり時間がありません。もう入った方がいいのでは!?」
 クロスが焦った。強盗と約束をした時間は一時間。クロスがハンターオフィスでハンターの手配にかかった時間、ハンターたちで計画を立てた時間などを合計すると、すでに五十分近くは経過していた。
 時間を過ぎれば、人質は殺されてしまう。
「落ち着いてください、クロスさん」
「焦りは禁物ですよー」
 クオンと千秋が口々にクロスを宥め、琉那が大きなカバンを持ち上げて笑って見せた。カバンの中身は大半が新聞紙だ。開けられてもばれないように、上の方だけは本物の紙幣にしてある。
「任しておきなはれ。上手くやりますよって」
 クロスは再び深呼吸をして、三人に向かって頷いた。クロスを中へ入れずに待たせるという案も出たが、本人の希望で共に店内へ入ることになった。
「店長さんは、僕が正面から来ると思っているはずですから、少しでも安心させた方がよいかと」
「正論です。大丈夫です、きちんと守りますよ。行きましょう」
 クオンが穏やかに号令をかけ、クロスは店の扉を開いた。
「ただ今戻りまし、た……」
 つとめて平静をよそおって店内に足を踏み入れたクロスは、たちまち現れた強盗にナイフを突きつけられて硬直した。さりげなく琉那と千秋が前へ出る。
「おうおう、お前らが銀行へ行ってたっつー店員だな? この店は今、俺たちが占拠してんだ」
 店の最奥でふんぞりかえりつつ酒を飲み、銃口を店長に向けている頭が、悠然と言った。
「そんな」
 クロスが絶句する。見事な演技だ。しかし、顔色が悪く肩がこわばっているのは演技ではなく本物の恐怖であるらしい。いかに優秀な使用人といえど、刃物を突きつけられて平然とはしていられない。
クオンはクロスの後ろに控え、店内を素早く観察した。頭を含めて、強盗は五人のはずだ。だが、今は店の最奥に頭、その隣で人質を見張っている男がひとり。そしてクオンたちの前にひとり。ふたり、足らない。
(つまり、あとのふたりは……)
 クオンはバレない程度に、店の奥へ続く通路に視線を走らせた。こちらへ響くほどの物音はないが、ずいぶん奥で何か動いているような気配がある。
「ったく、待ちくたびれたぜ。それ、金だろう。いくらだ」
 頭はクロスたちの様子を特に疑うこともなく、真っ先に金に目を付けた。カバンを持つ琉那に向かって顎をしゃくり、クロスにナイフを突きつけていた子分が、それを見て標的を琉那に変える。琉那はへつらうような笑いをして見せた。
「えろうすんまへんなー。銀行混んどってん。いくらやったっけ……とりあえず女手には重過ぎんよ。持ってもろてもええか?」
「なるほど、重過ぎるほど入ってるってわけだな。よし、受け取れ」
 頭の指示で、子分がカバンを受け取ろうと手を伸ばした。千秋がばれないように身構える。そのとき。

 ガタガタガタッ!!
 ッラァふざけんなぐああ!!

「何事だ!?」
 店の奥から物騒な音が響いてきた。



 少しだけ、時間をさかのぼる。クオンたちが正面で店へ入る準備をしていた頃。
「暇な事をよく考えますよねぇ。というか原始的だし」
 骸香(ka6223)がそう言いつつ裏口へ回る。ヒズミ・クロフォード(ka4246)がそれに頷きつつ銃を構えた。
「極力発砲は控えたいデスけどモ。強盗の立て篭もり、見過ごすわけにはいきませんヨ。
元警官の誇りにかけてネ」
 骸香とヒズミ、それにイルムが、裏口班だった。正面からの班が中へ入るのと同時に、バックヤードへ忍び込む手筈だ。骸香は「隠の徒」で、イルムは「隠密」で気配を消す備えをしている。
「りるか君が中へ入ってから五分が経ったね。正面の皆も、店内へ入る頃だろう。ボクたちもそろそろ行こうか」
 イルムがタイミングを見計らい、裏口の扉を開ける。と。
「おーい、こんなところに扉がある、ぞ……」
「!」
「ん!? なんだオメエら!!!」
 扉を開いてすぐ、鉈を持った男と鉢合わせしてしまった。イルムが構えるより早く、男が鉈で斬りかかる。
「うっ」
 なんとか身をかわしたものの、鉈はイルムの左肩をかすめた。姿勢を落としたイルムの、その上から。
 タァン!
 ヒズミの放った銃弾が、男の右手をとらえた。
「ぐえっ!」
 鉈を取り落とし、前かがみによろめく男の首をひっつかんで、骸香が外へ引きずり出す。
「あの世の片道手形かボロ雑巾への片道手形……どっちがいい?」
「ひっ……、ぎゃああああ!」
 男から、断末魔の叫び声が上がった。ヒズミが撃った方の腕を、骸香がひねりあげたのだ。
「ひとまずそんなところにしてあげたらどうデス。中にもまだ強盗はいますシ」
「それもそうだ」
 ヒズミの言葉で、骸香はあっさり男を離す。男はあまりの痛みに地面をのたうちまわり、とても立ち上がって来るとは思えなかった。
「怪我はどうデスかイルムサン」
「かすり傷さ、心配には及ばないよ。急いで中に入ろう。もう気配を消す必要はあまりなくなってしまったかもしれないけどね」
 そう言いつつも、足音を忍ばせてバックヤードへ入った。暗くて狭い通路の先に、店があるようだ。
 イルムは、すぐに気がついた。もうひとり、いる。
 先ほどの騒ぎを聞いて、こちらを逆に奇襲するつもりなのだろう。バックヤードに積まれた箱の後ろのどこかに、身を隠しているものと思われた。
 骸香も、ヒズミもすぐ気がついたようだ。三人は、無言で頷き合う。こんなふうにバレバレに様子を伺うような小物に奇襲は無理だ。三人は、思い切りよく、積み上げられた箱を薙ぎ払うようにしてどかした。
 ガタガタガタッ!!
「なっ!?」
 男が驚いた、その一瞬が、彼にとっての命取りとなった。ノーモーションで繰り出された骸香の飛燕が男の両脚を襲った。
「ッラァふざけんなぐああ!!」
 攻撃を受けながらも無理な体勢で反撃した男のナイフが、骸香の二の腕を斬りつけた。
「ふざけんな、はこっちのセリフだよねえ」
 骸香は傷を受けてもなお、この場に不釣り合いなほど、優美に微笑み、男の脳天に打撃を与えて黙らせた。
「何事だ!?」
 店の方から、声が響いてきた。三人はすばやくバックヤードを突っ切って店の方へと向かう。
 これをよいタイミングと見て、正面から乗り込んでいたクオンたちも動き出した。と秋がクロスをガードし、あとのふたりは瞬時に強盗たちを制圧にかかる。
 琉那が目の前でカバンを受け取ろうとしていた男に落燕で肘撃を打ち込み、防弾ベストの上から掌底で鎧徹しを喰らわせた。男は大きく態勢を崩す。
「ぐはっ、あああああ!?」
何が起こったのかわからない、そんな声が男から上がった。琉那が手を取ったまま足をかけて男を倒したのだ。床に背中を強打し、倒れた男の手から鉈が零れ落ちる。琉那はそれを店の隅へ素早く蹴りとばした。
「一丁上がりやな」
 見事な流れでひとりを沈め、琉那がぱんぱん、と手を払った。
 それと同時に。
 クオンも攻撃を鮮やかに決めていた。クロスの前へと出て、中央のガラスケースの近くにいた強盗にエレクトリックショックを浴びせると、男はぐふう、と蛙のような呻きを上げたちまちへたり込む。クオンはそのまま、盗賊の頭の方へ向かった。ぐずぐずしていれば、頭の銃が誰を撃つかわからない。
 人質は、りるかが覆いかぶさるようにして庇っていた。
「大丈夫、です……、落ち着いてくださいね」
 人質の中に入った直後から安心させる言葉をかけていたりるかは、もう一度、人質の客の前で微笑んで見せた。怯えつつも、彼らはこっくりと頷き、声を殺して身を寄せている。
「こんの野郎どもぉおおおおおお!!!!!!」
 あまりに一瞬の出来事であったために絶句していた頭が、その一瞬ののちに激昂した。酒瓶を床に叩きつけた。けたたましい音と共に瓶が割れ、ガラスが飛び散る。ひいっ、とさすがに人質たちから声が上がった。
「ぶっ殺してやる!!!!!」
 頭が銃口をまっすぐ、クオンに向けた、そのとき。
「全員伏せろ!」
 ヒズミの声が響き、銃を構えた頭の腕は、光のひらめきのごとく繰り出されたイルムのレイピアによって貫かれた。
「ぐああああ!?」
 銃が、手を離れる。床に落ちる前に、瞬脚で距離を詰めた骸香が銃をキャッチした。怪我を負った腕を押さえ、姿勢を低くする頭の首につきつけられるレイピアと、こめかみを正確に狙うヒズミの銃口。
「Freeze. 抵抗しない方がいいデスヨ」
「ぐうぅ」
 頭は、唸って首を動かさぬまま目だけで状況を確認した。子分たちは全員、再起不能。動けば自分の命もない。
「ボクとしては降伏をお勧めするけど?」
 イルムの一言が、すべてを終わらせた。
「ちくしょおおおお!!!」
 頭はがっくりと床に座り込んだ。



 その後のことは、万事セオリーどおりだった。
 強盗を公安へ引き渡し、人質は解放された。ブティックの店員たちは順番に公安の聞き取りを受けながら、めちゃめちゃになってしまった店の片付けに入った。
「素敵なお店なのにこれではお片付けが必要…ですね。良ければお手伝いするの……」
 りるかが申し出て、皆、片付けに手を貸した。
 さて、クロスは。
「本当に、とんだことになってしまって申し訳ありませんでした。クロスさんがいてくれなかったら、どうなっていたことか」
 店長に何度も何度も頭を下げられ、困り切っていた。
「いいんです、店長さんが悪いのではないんですから。私は、星屑リボンがいただければ」
 そう、本来の目的はそれだけだ。ダイヤの欲しがっていたリボンを、クロスは買いに来ただけなのだ。
 誕生日の、プレゼント。
 ダイヤが本当に欲しがっている物はきっとこれではないのだろうけれど。
 いまいち表情の暗いクロスに、イルムが何か感じたらしい。そっと隣に立って、何気なく声をかけた。
「クロス君、大変だったね」
「イルムさん。お怪我の方は」
「心配には及ばないさ。それより、何か悩んでいる様子だね」
「……悩み、と言っていいのか……。どうも、上手く言えないのですが」
 いつもの舌鋒はどこへやら。言葉を濁すクロスに、イルムは微笑んだ。
「上手く言葉にできないのなら、文字にしてみるのも一つの手だよ」
「文字……」
 クロスが、独り言のように呟いた。
「お待たせいたしました。プレゼント用に、ラッピングしてございますよ」
 店長が、星屑リボンの包みをクロスに手渡す。クロスは礼を言ってそれを受けとり、しばらく眺めていたが、何かを決めたように顔を上げた。
「店長さん。ここにつけられるような、メッセージカードはありませんか」
 誕生日を祝う言葉と、それから、あと少しの、何か。
 それをこのプレゼントと共に贈ろう。
 クロスは、そう思った。
 それを持って、お屋敷へ早く帰ろう。ダイヤが、待っている。

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MVP一覧

  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレka5113

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • ヴェルナーの懐刀
    桜憐りるか(ka3748
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 一瞬の狙撃者
    ヒズミ・クロフォード(ka4246
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • 忍者(自称)
    琴吹 琉那(ka6082
    人間(蒼)|16才|女性|格闘士
  • 孤独なる蹴撃手
    骸香(ka6223
    鬼|21才|女性|疾影士
  • 一肌脱ぐわんこ
    小宮・千秋(ka6272
    ドワーフ|6才|男性|格闘士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/05 21:41:37
アイコン 相談卓
骸香(ka6223
鬼|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/06/09 00:42:22