• 春郷祭1017
  • 陶曲
  • 血盟

【春郷祭】【陶曲】【血盟】蒼宝石の人形

マスター:大林さゆる

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/06/16 09:00
完成日
2017/06/25 03:58

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●数日前
 自由都市同盟、極彩色の街「ヴァリオス」近郊の村。
 その一角に、小さな装飾工房があった。
 付近の鉱山でアメジストの原石が採取できるようになってから、この工房ではアメジストの装飾品も作るようになっていた。
「まさか、あの鉱山に精霊が住んでいたとはね。今まで、全く気が付かなかったが、最近は鉱山の作業員たちも、作業中に『子供の精霊を見た』という者も増えてきたな」
 工房で働いている職人たちは、まだ精霊を見たことがなかった。
 だが、工房に運ばれてくるアメジストの原石は、生命力に溢れるような輝きがあった。
 今年の春郷祭での出し物として、この工房では『宝石の装飾品』を作成していた。
「アメジストの装飾品は全て仕上がったな。お次は……御得意様から発注があった蒼いサファイアの装飾品セットの仕上げに取り掛かるとするか」
 工房の御頭が、倉庫へ向かうと、何やら騒がしかった。
「おまえら、どうした?」
 御頭の言葉に、職人たちはかなり慌てていた。
「て、てぇへんですっ!! 蒼いサファイアの装飾品が全て消えています!!」
「なんだって?! 納期は明後日までなんだ。まさか誰かに盗まれたとか……」
「倉庫の鍵は、しっかり締めておきましたよ。昨晩も、倉庫の確認をした時は、蒼いサファイアの装飾品は全てあったんだ……御頭、こっちに来てください」
 職人が倉庫の後ろまで歩いて行くと、壁が破壊されていた。
「ぬっ、やはり何者かが盗んだのか?」
 と、御頭が顰め面をした時、どこからともなく、リュートの音色が聴こえてきた。
「あの、お忙しいところ、すみません。私は旅の者ですが……明け方、蒼いサファイアが人の姿になって、動いている姿を見ましたよ」
 その言葉で、御頭や職人たちが振り返る。見れば、旅芸人の男だった。
「それは本当かっ?!」
 御頭が驚くと、旅芸人はリュートを弾くのを止めて、小さく頷いた。
「はい。確かに、この目で見ました。蒼いサファイアが人形のようになって、ジェオルジの方へと向かっているのを……これは、歪虚の仕業かもしれませんね」
「最近、鉱石が歪虚に狙われてるっていう噂は聴いてたが、実は半信半疑だった。貴方の話が本当なら、いや、真実かどうか確かめるためにも、魔術師協会広報室に相談してみるか」
 御頭がそう言うと、旅芸人が微笑んでいた。
「それは、賢い選択かと……」
「よし、すぐに広報室へ、このことを知らせるんだ」
 御頭の指示で、職人二人が魔導トラックに乗り、魔術師協会へと向かった。


●当日、街道にて
 ヴァリオスから、農耕推進地域ジェオルジへと向かう道中。
 ハンターたちは馬車の護衛として、街道を進んでいた。
 魔術師スコットが御者になり、荷物を載せた馬車の荷台では、マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)とラキ(kz0002)が座り込み、周囲を警戒していた。
「職人さんたちが丹誠こめて作ったアメジストの装飾品は、ジェオルジ近郊の村まで無事に届けないとね」
 先日、ラキは紫水晶の精霊と出会い、鉱山で働く作業員たちを初め、装飾工房の職人たちが鉱石を大切にしていることを間近で見る機会があった。
「……広報室からの話だと、蒼いサファイアが歪虚化して、ジェオルジ地方に向かっているらしいな」
 マクシミリアンはそう告げた後、ふと気になることを呟いた。
「装飾工房に現れた旅芸人……その男の身元は不明だ」
「えっとさ、ただの通りすがりの旅芸人さんじゃないかな? 今は春郷祭の時期だし、いろんな人達が行き来していても、不思議じゃないよ」
 ラキが無邪気に微笑んだ。
 今回、ジェオルジへと向かうのは、フリーマーケットに出品する荷物を運ぶためだ。そのための護衛である。
「……この時期だからこそ、いつも以上に警戒しなければな」
 念を押すマクシミリアン。
 しばらく馬車が進むと、突然、馬が嘶いた。
「来たぞ!」
 スコットは馬車を止めて、皆に知らせる。
 ハンターたちはすぐさま陣取り、戦闘態勢に入った。
「前方にはピエロのような巨人、右と左には貴婦人のような人形が弓を持って、こっちを狙っている」
 巨人も人形も、蒼いサファイアが変貌した姿だった。
「同盟を脅かす嫉妬の歪虚、おまえらの目的が大地を破壊することだというのは紫水晶の精霊から聴いている……サファイアが完全に歪虚化していなければ、精霊が助かる可能性もあるだろう」
 マクシミリアンは、そう言いながらも胸騒ぎがしていた。
 ……何者かに、監視されているような……不気味な気配がした。

リプレイ本文

「人形だけにしては、やけに統制が取れてる……裏で操っているヤツが居るわね、きっと」
 マリィア・バルデス(ka5848)は魔導バイク「ルドルフ」に騎乗し、舌打ちすると、全力で後方へと移動した。まずは馬車の後方を援護して、それからサファイア・レディを狙うつもりでいた。
「確かに、出来過ぎた状況だな。だが、今は目の前にいる敵を退治することに専念するとしよう」
 ロニ・カルディス(ka0551)は、騎乗したR7エクスシアの清廉号を護衛する馬車に隣接させ、射程内にいる右側のサファイア・レディに狙いを定めて、Mライフル「イースクラW」の弾丸を発射。
 清廉号の放った弾丸が命中し、サファイア人形は頭部を貫かれたが、それでも残った胴体で大弓を構え、次の攻撃に備えていた。
 馬車の左側にいたのは、東條 奏多(ka6425)とアリア・セリウス(ka6424)。
 連携して、サファイア・レディを優先的に倒す作戦を取ることにしたようだ。
「サファイアにアメジスト、狙うならもっと別のものもあっただろうに。そんなんで巻き込まれた精霊も可哀そうに……いや、精霊がいるから、この鉱石が狙われてるのか」
 イェジドの鋼夜に騎乗した奏多は、サファイアに精霊が宿っていることに感付いた。
 そして、アリアは紫水晶の精霊から願われ、託された想いを忘れてはいなかった。
「あなたたちの存在そのものが、信じるに値するからなの。精霊だからじゃない、誰かの祈りは私の鼓動となって、強さになる……だから――闇に堕ちてしまったあなた達を、救うわ」
 アリアは相棒であるイェジドのコーディに騎乗し、サファイアに問いかけるように呟く。
 コーディと鋼夜は主人を乗せて、サファイア・レディ目掛けて走り抜けていった。レディが放った矢を『瞬影』で回避する奏多……その反動を活かしてイェジドの鋼夜から飛び降り、サファイア・レディと接近戦に持ち込むことができた。
「星の存亡をかけて戦うんだ、目の前のこいつらを助けられなくてどうする」
 そう自分に言い聞かせる奏多。この戦いが、世界の行く末を左右するものだと、奏多は察していた。
 アリアは次の攻撃に備え『織花・祈奏』を発動させる。燐光のようなマテリアルが大太刀「破幻」を纏い、魔法的な力を宿す。イェジドのコーディは全速で、サファイア・レディに接近していく。


 一方、馬車の前方では、イェジドのフォーコに騎乗したジャック・エルギン(ka1522)が、ロングボウ「レピスパオ」を構え、サファイア・ピエロに狙いを定めて『貫徹の矢』を放った。
 中央にいたピエロに矢が貫通し、深く突き刺さった。矢が命中したのは敵の胴部だったが、致命傷にはならなかった。それでも、ジャックは的確に指示する。
「マクシミリアン、ラキは周囲警戒を頼む。スコットたちは矢避け用にアースウォールを作ってくれ」
「アリアさんにも頼まれたからね。任せといて」
 ラキ(kz0002)は右側から飛んでくる矢をショート・ソードで受け払う。
「……ジャックは弓も使えるのか。命中も良いようだな」
 マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)もまた、ロングソードで敵の矢を払い除けていた。
「アースウォールはダメージを受けたら消えるから、注意してくれ」
 魔術師スコットは杖を掲げ、前方に『アースウォール』を一つ生み出した。続いて、仲間の魔術師たちが、『アースウォール』を発動させ、前方に土の壁が横一列に並んだ。
 ブリジット(ka4843)はイェジドに騎乗していたが、特殊訓練のカタフラクトにより、リラ(ka5679)と相乗りすることができた。
「まずは魔術師さんが作ってくれた土壁の近くまで、移動します」
「それからピエロの出方次第だね」
 リラがイェジドを撫でると、ブリジットは仲間たちの動きを確認しながら、イェジドに乗り、土壁付近まで移動していく。
 右側からサファイア・レディが『レイターコールドショット』を放つ。狙いは馬車だ。
「やはり、狙いは馬車か」
 ロニのR7エクスシア清廉号が『マテリアルカーテン』を展開……敵の攻撃を防ぎ、馬車の荷台は無傷だった。
 マテリアルカーテンのおかげで、馬車は後方へとさらに移動することができた。




 バックアタックを警戒していたマリィアは、馬車の後方に辿り着くと、魔導銃「狂乱せしアルコル」を構え、『遠射』を駆使した『フォールシュート』を放ち、右側に陣取っていたサファイア・レディ2体が弾丸の雨に撃たれた。
「まだ消滅しないわね。手加減無用ということね」
 ロニはR7エクスシア清廉号の操縦席からモニターに映る戦況を鑑みて、『イニシャライズオーバー』の結界を周囲に展開した。
「敵の攻撃に対して、この場は守りを固めた方が良さそうだな」
 清廉号の周囲にいるジャックたちは、結界により守られる。
「ロニ、助かるぜ」
 ジャックは馬車の前方に隣接したまま、ロングボウ「レピスパオ」の弦を弾き、『貫徹の矢』を放った。
「サファイア・ピエロと接近戦になる前に、できるだけダメージを与えてやるぜ」
 ジャックが放った矢は、サファイア・ピエロの腕部に貫通し、ダメージの衝撃で、左腕が砕け散った。だが、右腕には斧を持ち、ピエロは攻撃態勢を変えることはなかった。だが、左腕が使えなくなり、盾が地面に転がり落ちた。
 他のサファイア・ピエロ2体は、まだダメージを受けていなかったが、ハンターたちの防衛を凝視して、動きが止まった。先程、出現した『アースウォール』を警戒したのだろう。
 その隙に、イェジドに騎乗したブリジットとリラは、横一列に並んでいる土壁の後ろまで移動することができた。


 その頃、左側のサファイア・レディ3体と対峙していたのは、奏多とアリアだった。
 鋼夜がマウントロックで飛び掛かり、サファイア・レディ一体が転倒し、移動不能になった。
 奏多は『瞬脚』でサファイア・レディたちに接近すると『ランアウト』で素早く動き、すれ違いざまに『アサルトディスタンス』を駆使し、サファイア・レディ3体をレイピア「アンドレイアー」で切り刻んでいく。
 流れるような奏多の動きに合わせて、コーディがウォークライの咆哮を揚げ、アリアは騎乗したまま『鈴花・回雪』を発動させ、高速で駆け抜けていく……それはまるで、一陣の風のごとく、『透刃花・玲瓏』により放たれた刃は、魔法剣の効果が連なる『織花・祈奏』を纏った大太刀「破幻」……瞬刃の花弁が舞い散るように、宝石の欠片が無数に飛び散った。
 見れば、サファイアの貴婦人たちは、三体、消滅していた。
 奏多とアリアの連携は、無駄なく敵を翻弄して、瞬時に宝石を散らしていた。
「ん? これは……」
 奏多は地に落ちているサファイアの欠片を拾い上げた。
「完全に歪虚化していたなら、宝石は残らないはずだ。見つけたら、拾った方が良さそうだな」
 大事に懐に入れる奏多。
 アリアも、サファイアの欠片を拾い上げた。弱々しい光ではあったが、微かに蒼い色をしていた。
「カナタ、恥じぬよう一気に行きましょう。サファイアの人形たちは、まだ残っているから」
 


「ブリジット! リラ!」
 ジャックはフォーコに騎乗して、スティールステップでサファイア・ピエロの攻撃を回避していた。
 魔術師たちが作ったアースウォールは、中央にいたピエロが大斧を振り回し、ラウンドスウィングで全て破壊してしまったのだ。
 ブリジットとリラは、他のサファイア・ピエロたちにファントムハンドで引き寄せられ、敵の幻影による腕によって捕えられてしまったのだ。
「小癪な真似を」
 ロニは、R7エクスシア清廉号の操縦席に座り、歯軋りする。仲間が捕まった状態でマテリアルライフルを撃てばどうなるか、察しはついた。
「ならば、おまえらに相応しい断罪の光を放ってやろう」
 ロニは清廉号のスキルトレース【Lv15】を起動させ、アギオミカニエンブレムが法具の役割となり『ジャッジメント』を解き放った。
 光の杭がサファイア・ピエロ一体に食い込み、敵を移動不能にさせることができた。
 ブリジットはピエロの腕から逃れるため、『居合』で日本刀「虎徹」を素早く鞘から抜きさり、『縦横無尽』に斬り付けた。
「この機会、絶対に決めてみせます」
 ピエロはファントムハンドでブリジットを自分の元へと引き寄せていたが、ブリジットは密着して攻撃することを狙っていたのだった。
 ブリジットの技は、巨大なピエロの全身を切り刻み、その衝撃で敵の両肩が砕け散るが、サファイア・ピエロは盾で防御していたこともあり、仁王立ちで攻撃に耐えていた。
「リラ、そちらのピエロをお願いします」
「はい♪ 接近戦なら、この手もあるということを、お見せします」
 リラもまた、別のサファイア・ピエロによってファントムハンドで引き寄せられていたが、怯む事もなく、ピエロの腕を掴むと『柔能制剛』を発動させ、豪快に投げ飛ばした。
 サファイア・ピエロはバランスを崩して、移動不能になっていた。
「すごいわね。私も負けてられないわ」
 マリィアは『クイックリロード』で魔導銃「狂乱せしアルコル」の弾丸を充填すると、徐々に接近してくるサファイア・レディたちを狙い『遠射』による『フォールシュート』でマテリアルをこめた連続射撃を繰り出す。
 範囲内にいたサファイア・レディ2体が弾丸の雨に巻き込まれ、砕け散り、消滅。
 残りのサファイア・レディ一体は、馬車を狙って矢を放ってきたが、R7エクスシア清廉号の『マテリアルカーテン』が発動し、敵の攻撃を防ぐことができた。
「レディの対応は、私に任せて」
 マリィアは、奏多とアリアが来たことに気付き、そう告げた。
「どうにも、ピエロが厄介らしいな」
 奏多は鋼夜に騎乗して、馬車の前方へと向かう。
「マリィア、御言葉に甘えて、先に行くわ」
 コーディに騎乗したアリアは、奏多の後を追いかけていった。
「来る前に、押さえてみます」
 ブリジットは『円舞』の捌きで 日本刀「虎徹」を意識的に操ると『縦横無尽』で巨大なピエロを切り刻む。だが、サファイア・ピエロは盾を持ち、防御に徹していた。
 興奮しているイェジドを、ブリジットが宥めていた。
「あたしは大丈夫、イェジド君はサポート、お願いね」
 ブリジットが無事だと分かると、イェジドは落ち着いた様子になり、サファイア・ピエロを警戒していた。
「間合いを取って……いきます!」
 リラは、バトルグローブ「ヴィエント」からの『青龍翔咬波』を放った。
 移動不能になっていたサファイア・ピエロの胴部に命中して、小さな宝石の欠片が飛び散るが、なかなか消滅する気配がなかった。
「ちっ、刺突「一穿」じゃ、届かねー位置にいやがる。だがな、エンフォーサーには、こういう技もあんだぜ!」
 ジャックは距離を見計らい、バスタードソード「アニマ・リベラ」を振り翳して『衝撃波』を繰り出した。サファイア・ピエロの胴部にあった核に命中して、内側から粉々に砕け散り、全身が消滅……残ったのは、小さなサファイアの欠片だった。
 フォーコはサファイアの欠片を銜えると、ジャックの傍らまで走り寄ってきた。
「これは……サファイアの精霊が居るかもしれねーな」
 ジャックは、フォーコからサファイアの欠片を受け取り、精霊が助かる可能性も視野に入れていた。
 奏多は『瞬脚』で走り込み、サファイア・ピエロに接近すると『ランアウト』でさらに移動し、すれ違いざまにレイピア「アンドレイアー」による『アサルトディスタンス』で、巨大なピエロの胴部にある核を切り刻んでいく。
 煌めきながら、サファイア・ピエロが一体、消え去っていった。
「宝石の欠片は無いな」
 奏多もまた、精霊を助け出してやりたいと思っていた。
「もう一体、巨人が残っているわ」
 アリアはコーディに騎乗して、舞い踊る遠心力を乗せた『鈴花・回雪』が起点の技となり、『透刃花・玲瓏』により大太刀「破幻」は朧のごとき、一閃を貫いていく。
 サファイアの巨人は核を貫かれ、罅割れるように砕け散った。だが、散ったのは核の部分……抜け殻となった身体は、まだ残っていた。
「これより照射を開始する。射線上から退避してくれ」
 ロニは、R7エクスシア清廉号のハルバード「ヴァルドゥング」を発動体として『マテリアルライフル』を放った。紫色の光線が地を這う様に迸り、射程内にいたサファイア・ピエロは抵抗する術もなく、跡形もなく消滅していった。
「最後に、もういっちょね」
 マリィアは『クイックリロード』で弾丸を充填し、魔導銃「狂乱せしアルコル」の標準をサファイア・レディに合わせて『遠射』を発動させ、確実に仕留めた。
 サファイアの貴婦人は、頭部を貫かれ、その反動により、全身さえも砕け散り、消滅していった。




 サファイアの人形たちは、全て退治することができたが、消滅する間際、宝石の欠片を残す個体もいた。
 ジャックと奏多は、精霊を助けようと、地面に落ちていたサファイアの欠片を拾い集めていた。
 ロニはR7エクスシア清廉号から降りると、ジャックたちの手伝いをしていた。
「今回の件、ただ単純な襲撃であって欲しいと願っていたが、倒した人形から宝石の欠片が残るのは珍しいな」
 ロニの言う通り、歪虚化したモノは退治すると全て消滅してしまうのだ。持っていた武具さえも。
 だが、今回の人形たちは全て消滅して、武具が消え去っても、宝石の欠片だけは残っていたのだ。
「これは、稀なケースね」
 アリアは地面に落ちているサファイアの欠片を拾い上げた。
「……精霊は、応えてくれるかしら」
 たとえ精霊が応えてくれなくとも、アリアは何者かに奪われる前に、宝石の欠片だけでも救いたかった。
「どうも、さっきから気になるのよね。なんだか、見張られてるみたい」
 マリィアはトランシーバーでマクシミリアンと連絡を取り合い、周囲を警戒しながら巡回していた。
 ブリジットのイェジドは、嗅覚や聴覚を駆使して、見えない敵を追跡していた。
 証拠になるようなモノは見つからなかったが、イェジドは唸り声を上げていた。
「怪しいですね。確かにいたと思ったのですが……証拠が無いというのは、どういうこと?」
 ブリジットが考え込むと、ジャックが明るい笑みで場を和ませる。
「ま、やることはやったんだ。後はどうなるか、俺達のできることをしようぜ」
 サファイアの欠片が、15個ほど集まった頃だろうか。
 宝石が眩い光に包まれたかと思うと、ジャックたちの目の前に、浮遊する女性が現れた。
「あんた、もしかして、サファイアの精霊か?」
 ジャックの問いに、女性の精霊は頷いた。
「……はい、そう呼ばれていた頃もありました。助けて頂いてありがとうございます」
「サファイアの精霊、無事だったのね」
 安堵するアリア。だが、精霊が出現したからこそ、気が抜けなかった。
 何故なら、不審な人物が、ハンターたちや精霊を見張っているかもしれないから。
 ジャックが、サファイアの精霊に問いかけた。
「災難だったとこすまねーが、色々と聞きてえ。装飾工房に現れた旅芸人に、心当たりはあるか? その男の話だと、サファイアが人形になったのは、歪虚の仕業らしいってことだ」
「こちらこそ、戦いを終えたばかりだというのに、私に気が付いてくれてありがとう。旅芸人……ですか。この時期は、たくさん見かけますね」
 サファイアの精霊は、動じることもなく……と言うより、どことなく、のんびりした仕草をしていた。
「じゃあ、あんたをヴォイド化したヤツのこと、覚えてるか? もしかしたら、第一発見者の旅芸人と関わりがあるかもしれねーんだ」
 ジャックが真剣に問うと、サファイアの精霊は眠たげな眼差しで応えた。
「……詳しくは覚えてないけど、私が寝ていたら、いつのまにか『身体』が人形になってたわ。そしたら、リュートの音色が聴こえてきて『素晴らしい』とかなんとか、言ってた声……男性だったかしら。だけど、白い仮面を付けていたから、顔付きまでは記憶にないわね」
 それを聴いて、リラは首を傾げた。
「今回は春郷祭だから、村に辿り着いたら、ラキさんたちと楽しもうと思ってたけど、まさか精霊さんと出会えるなんて……白い仮面を付けた人って、この世にはたくさんいるような気もします」
 ブリジットが相槌を打つ。
「そうよね。正体を隠すには、白い仮面を付けるというのは、王道ですね」
「……だが、手掛かりは、サファイアの精霊が見たという証言だけだ。精霊から聞き出した話ならば、魔術師協会広報室も、記録として残してくれるはずだ。報告する価値はあると思う」
 ロニは、本部にも報告するつもりでいた。
 ジャックが、気になっていたことを精霊に聞いてみた。
「アメジストの精霊は、鉱山の中で『ヤツら』に闇に落されそうになったらしいぜ。あんたらの言う『ヤツら』ってのは、鉱石が採掘されて、工房で加工された場合でも、ヴォイド化する手立てがあるのか?」
「詳しいことはよく分からないけど、自然発生してヴォイド化するモノが多いというのは聴いたことがあるわ。だけど、私の場合は明らかに、何者かが仕込んで、私の『身体』でもあるサファイアを人形にした……実際、あなたたちがヴォイド化した人形を全て倒してくれたら、私は助かったのよ。本当にありがとう」
 サファイアの精霊は礼を述べると、ハンターたちにイクシード・プライムを一つずつ手渡した。
「これを、あなた達に差し上げます。ここでの試練を乗り越えたから」
「ここでの試練? そう、まだ、続くのね」
 決心したかのように告げるアリア。
「それから、カナタさん」
 サファイアの精霊が、奏多に呼びかける。
「俺に、何か用か?」
 自分の名を告げた覚えはなかったが、精霊はどうやら、奏多とアリアの会話を聴いていたようだ。
「フフ、貴方って大人っぽいけど、私のこと、ずっと心配しててくれたでしょ? ちゃんと聴こえてたわよ。アリアさんの気持ちもね」
 サファイアの精霊が優しく微笑む。
「改めて誓うわ。自分の足で、手で、瞳で、真実を見つけ出すと……」
 アリアは受け取った星石に、願いを込めた。
「サファイアが持っていた星の輝き……守ることができたな」
 奏多は、イクシード・プライムと呼ばれる星石を左の掌に持ち、浮遊している精霊を見上げた。
 リアルブルーからクリムゾンウェストに転移してきた奏多。
 その意思が『星の存亡をかけて戦う』ことを、奏多は実感していた。
 こうした依頼にも、大きな陰謀と繋がっている。だからこそ、奏多はヴォイド化してしまった鉱石たちを救いたいと思っていたのだ。



 しばらくすると、精霊は姿を消してしまった。
「さてっと。後は馬車に積んであるアメジストの装飾品を目的地まで運ぶだけだな」
 ジャックは、出身である同盟の不穏な動向も気にはしていたが、今は春郷祭の時期……村に到着して、無事にアメジストの装飾品をフリーマーケットの出店に届けることができたら、ゆっくりと祭りを楽しむことにした。
「荷物を届けるまでが任務だからな」
 馬車を無事に送り届けることができて、ジャックは一安心していた。
 リラはラキに声をかけ、ブリジットと一緒に屋台巡りをすることにした。
「やっぱり同盟の料理は美味しいね」
 ラキが満足そうに笑っていた。
 ハンターたちは、村で祭りを楽しみ、ひと時の安らぎを得ることができた。



●暗転

……ドクン……。

 ……ドクン……。

  ……ドクン……。

 大地の底から、哀しい旋律の音色が響く。

 バイオリンを弾く男がいた。

「わが君よ、もうしばらく、お待ちください」

 男は、静かに、巨大な腕を愛おしそうに見つめていた。

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MVP一覧

  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギンka1522
  • 背負う全てを未来へ
    東條 奏多ka6425

重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    セイレンゴウ
    清廉号(ka0551unit003
    ユニット|CAM
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    フォーコ
    フォーコ(ka1522unit001
    ユニット|幻獣
  • 咲き初めし白花
    ブリジット(ka4843
    人間(紅)|16才|女性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イェジド(ka4843unit001
    ユニット|幻獣
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    コーディ
    コーディ(ka6424unit001
    ユニット|幻獣
  • 背負う全てを未来へ
    東條 奏多(ka6425
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    コウヤ
    鋼夜(ka6425unit003
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アリア・セリウス(ka6424
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/06/15 21:02:17
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/13 08:36:03