ゲスト
(ka0000)
【血盟】黒蜥蜴と古の砦
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/06/13 19:00
- 完成日
- 2017/06/19 21:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●現代
「これが200年前の報告書です」
スーツ姿のオフィス職員が、神妙な顔で1枚の羊皮紙を差し出した。
対するのは伝統的装束の聖堂教会司祭。
自分の家名が書かれているのに気づき、困惑したように瞬きをした。
「カーナボン家が災厄の十三魔と交戦して全滅、ですか」
「はい。最近はその歪虚の活動が活発になっていますので、改めて情報収集を行うことになりました」
ハンターの活躍で被害は食い止められている。
しかしハンターとそのユニットを動かすにも金がかかるし、ハンターという貴重な戦力を歪虚1匹に貼り付けるのも難しい。
「小さなものでもかまいません。ガルドブルムについての情報があれば、是非教えていただきたいのです」
「うーん……」
司祭位を持つ少女が困り顔で唸り出す。
職員が深く頭を下げる。
先祖代々維持してきた面子を傷つける情報を出せと言っているのだ。
激高されるならまだましな方で、社会的な影響力を駆使してオフィスや職員個人に圧力をかけてくる可能性すらあった。
「歪虚討伐に役立つならお話しますけど」
「では!」
「いえ、そもそもこの頃のことが伝わっていません」
なお、カーナボン家は最低でも300年続いていることになっている。
不味いことを聞いてしまったと顔を青くする職員の前で、司祭はうんうんうなって何かを思い出そうとしていた。
「実家は田舎にあるので本家が全滅して分家が継ぐのも珍しくはないんです。その際に記録が散逸しますから」
「それは……歪虚との交戦でですか」
「政争に破れてというのもあったみたいですよ。んー、でも」
古びた羊皮紙を何度も読み返す。
最終的に王の目に触れた報告書のようで、当時の大貴族でも触れるのが難しい情報が大量に載っている。
「これ、おかしいのです」
このカーナボン家が後先考えずに戦力を投入してガルドブルムと戦ったのは事実らしい。
しかし作戦が奇妙に過ぎる。
歴史を積み重ねた強力な武器を集めてぶつかるだけ。
隣領や寄親や王家を引きずり込むという工夫が全くされていない。
今そんなことをしようとすれば計画段階で当主押込から政権交代になるだろう。
「他の貴族にはめられて馬鹿な作戦をするしかなくなったって訳でもなさそうですし」
「えっとその」
「お気遣いありがとうございます。貴族を長く続けると毎回有能って訳にもいきませんからね」
きっと大きく失敗したのでしょう。
王国の少女は切なげにため息をつき、直接のつながりのないはずの血族に思いをはせ。
「え」
「あれ?」
清らかな気配が増し、司祭達が数人のハンターごとその場から消失する。
膨大な過去が収められた精霊樹の分樹が、淡い光を静かに放っていた。
●黒竜の現在
『おぉっ』
全長20メートル超える巨体が綺麗に一回転。
硬い岩肌にめり込み短くうめいた。
『もう一度!』
『オゥ、何度でも来い』
巨竜と比べればみすぼらしいほど小さな竜が、牙、爪、尻尾の連撃を分かり易い動きで躱しては技をかけて同属を転ばせる。
技術に関しては大人と赤子だ。
これでも巨竜の技術はましになっている。
ハンターへの復仇のため、巨竜の心身がかつてないほど活性している。
『どこで技をっ』
『200年前に派手にやられてなァ。武者修行のつもりであれこれしているうちにいつの間にかな』
意識の誘導も体の動かし方も惜しみなく見せる。
本来なら10年20年でようやく身につくかどうかの技術が、巨竜の執念により急速に吸収されていく。
まあそれでもせいぜい新米前衛ハンター程度の回避術でしかない。
『人間に? 鉄人形もなかった時代にか!?』
『運が悪けりァあのとき死んでたな』
驚き半分不審半分の視線を正面から受け止め楽しげに笑う。
当時は今と同じくマテリアルの収集に励んでいた。
古くさい建物や遺物を巡るという苦行をしてでも強くなろうとしていた。
当時、ガルドブルムは強くはあったが技がなかった。
心も酷いものだ。気合いの入った覚醒者数人に怯えていた記憶がある。
仮にあのまま強くなっていたとしたら、とうにハンターに狩られてしまっていたはずだ。
『人間に……』
『強い奴等だったぞ。今のハンターの方が圧倒的に強いがな』
黒竜は心底楽しげに笑い、リゼリオがある方向をじっとみつめる。
当時人間が何を考えていたかなど既に全く興味もない。
今の彼にとり強さは手段でしかない。
黒竜はただ、戦いを望んでいた。
●200年前。カーナボン家本陣
金髪の女当主が冷たい目で家臣を見渡した。
槍と弓と分厚い金属鎧で身を固めた男達がわずかに体を震わせる。
「援軍は来ない。我等のみで黒竜と戦う」
「そんな」
「お嬢! 何を考えて」
「こんな砦放棄して巡礼路まで下がりましょう。寄親にも王家にも義理はもう果たしました!」
当主を幼い頃から知る男達が必死に言いつのる。
武勇に優れた先代も、次代の当主になるはずだった男子も、これまでの戦いで全て死んだ。
部下達も半数近くが倒れてこの場にいる男達も傷だらけだ。
「すまない」
当主の顔が青白い。
目に強い光はあるが張り詰めすぎて今にも弾けそうだ。
彼女の脳裏に浮かぶのは、聖堂教会からもたらされた1通の書状。
既に焼き捨てたが、王国全土の巡礼路を用いたマテリアル集積機構――再充填可能なことを考慮に入れれば王国最大の武器について知らされてしまった。
「ここで防ぐしかないのだ」
あの黒竜は馬鹿で乱暴ではあるが鼻が利く。
今は巡礼路周辺の施設でマテリアル略奪を行うだけだが、このままだと巡礼路に秘密に気づく可能性がある。
巡礼路から意識を逸らさなければ最悪巡礼路の情報が歪虚全体に広がってしまうだろう。
しかし援軍は呼べない。
王家と教会の主力は他方面に出払っている。隣領も寄親もこの情報を渡せるほど王家に信頼されていない。
「お嬢様」
「皆、すまない」
既に死ぬ覚悟を固めた目だ。
女当主は全ての財貨を積み上げ、家伝の宝剣のはずの武器を最も強い者達に渡していく。
「作戦開始は明朝だ。家族に別れを告げておけ」
この翌日。
本来の歴史なら当主、郎党、義勇兵の全てが討ち死にする。
いつの間にか数人数が増えていることに、その数人以外誰も気づけていない。
「これが200年前の報告書です」
スーツ姿のオフィス職員が、神妙な顔で1枚の羊皮紙を差し出した。
対するのは伝統的装束の聖堂教会司祭。
自分の家名が書かれているのに気づき、困惑したように瞬きをした。
「カーナボン家が災厄の十三魔と交戦して全滅、ですか」
「はい。最近はその歪虚の活動が活発になっていますので、改めて情報収集を行うことになりました」
ハンターの活躍で被害は食い止められている。
しかしハンターとそのユニットを動かすにも金がかかるし、ハンターという貴重な戦力を歪虚1匹に貼り付けるのも難しい。
「小さなものでもかまいません。ガルドブルムについての情報があれば、是非教えていただきたいのです」
「うーん……」
司祭位を持つ少女が困り顔で唸り出す。
職員が深く頭を下げる。
先祖代々維持してきた面子を傷つける情報を出せと言っているのだ。
激高されるならまだましな方で、社会的な影響力を駆使してオフィスや職員個人に圧力をかけてくる可能性すらあった。
「歪虚討伐に役立つならお話しますけど」
「では!」
「いえ、そもそもこの頃のことが伝わっていません」
なお、カーナボン家は最低でも300年続いていることになっている。
不味いことを聞いてしまったと顔を青くする職員の前で、司祭はうんうんうなって何かを思い出そうとしていた。
「実家は田舎にあるので本家が全滅して分家が継ぐのも珍しくはないんです。その際に記録が散逸しますから」
「それは……歪虚との交戦でですか」
「政争に破れてというのもあったみたいですよ。んー、でも」
古びた羊皮紙を何度も読み返す。
最終的に王の目に触れた報告書のようで、当時の大貴族でも触れるのが難しい情報が大量に載っている。
「これ、おかしいのです」
このカーナボン家が後先考えずに戦力を投入してガルドブルムと戦ったのは事実らしい。
しかし作戦が奇妙に過ぎる。
歴史を積み重ねた強力な武器を集めてぶつかるだけ。
隣領や寄親や王家を引きずり込むという工夫が全くされていない。
今そんなことをしようとすれば計画段階で当主押込から政権交代になるだろう。
「他の貴族にはめられて馬鹿な作戦をするしかなくなったって訳でもなさそうですし」
「えっとその」
「お気遣いありがとうございます。貴族を長く続けると毎回有能って訳にもいきませんからね」
きっと大きく失敗したのでしょう。
王国の少女は切なげにため息をつき、直接のつながりのないはずの血族に思いをはせ。
「え」
「あれ?」
清らかな気配が増し、司祭達が数人のハンターごとその場から消失する。
膨大な過去が収められた精霊樹の分樹が、淡い光を静かに放っていた。
●黒竜の現在
『おぉっ』
全長20メートル超える巨体が綺麗に一回転。
硬い岩肌にめり込み短くうめいた。
『もう一度!』
『オゥ、何度でも来い』
巨竜と比べればみすぼらしいほど小さな竜が、牙、爪、尻尾の連撃を分かり易い動きで躱しては技をかけて同属を転ばせる。
技術に関しては大人と赤子だ。
これでも巨竜の技術はましになっている。
ハンターへの復仇のため、巨竜の心身がかつてないほど活性している。
『どこで技をっ』
『200年前に派手にやられてなァ。武者修行のつもりであれこれしているうちにいつの間にかな』
意識の誘導も体の動かし方も惜しみなく見せる。
本来なら10年20年でようやく身につくかどうかの技術が、巨竜の執念により急速に吸収されていく。
まあそれでもせいぜい新米前衛ハンター程度の回避術でしかない。
『人間に? 鉄人形もなかった時代にか!?』
『運が悪けりァあのとき死んでたな』
驚き半分不審半分の視線を正面から受け止め楽しげに笑う。
当時は今と同じくマテリアルの収集に励んでいた。
古くさい建物や遺物を巡るという苦行をしてでも強くなろうとしていた。
当時、ガルドブルムは強くはあったが技がなかった。
心も酷いものだ。気合いの入った覚醒者数人に怯えていた記憶がある。
仮にあのまま強くなっていたとしたら、とうにハンターに狩られてしまっていたはずだ。
『人間に……』
『強い奴等だったぞ。今のハンターの方が圧倒的に強いがな』
黒竜は心底楽しげに笑い、リゼリオがある方向をじっとみつめる。
当時人間が何を考えていたかなど既に全く興味もない。
今の彼にとり強さは手段でしかない。
黒竜はただ、戦いを望んでいた。
●200年前。カーナボン家本陣
金髪の女当主が冷たい目で家臣を見渡した。
槍と弓と分厚い金属鎧で身を固めた男達がわずかに体を震わせる。
「援軍は来ない。我等のみで黒竜と戦う」
「そんな」
「お嬢! 何を考えて」
「こんな砦放棄して巡礼路まで下がりましょう。寄親にも王家にも義理はもう果たしました!」
当主を幼い頃から知る男達が必死に言いつのる。
武勇に優れた先代も、次代の当主になるはずだった男子も、これまでの戦いで全て死んだ。
部下達も半数近くが倒れてこの場にいる男達も傷だらけだ。
「すまない」
当主の顔が青白い。
目に強い光はあるが張り詰めすぎて今にも弾けそうだ。
彼女の脳裏に浮かぶのは、聖堂教会からもたらされた1通の書状。
既に焼き捨てたが、王国全土の巡礼路を用いたマテリアル集積機構――再充填可能なことを考慮に入れれば王国最大の武器について知らされてしまった。
「ここで防ぐしかないのだ」
あの黒竜は馬鹿で乱暴ではあるが鼻が利く。
今は巡礼路周辺の施設でマテリアル略奪を行うだけだが、このままだと巡礼路に秘密に気づく可能性がある。
巡礼路から意識を逸らさなければ最悪巡礼路の情報が歪虚全体に広がってしまうだろう。
しかし援軍は呼べない。
王家と教会の主力は他方面に出払っている。隣領も寄親もこの情報を渡せるほど王家に信頼されていない。
「お嬢様」
「皆、すまない」
既に死ぬ覚悟を固めた目だ。
女当主は全ての財貨を積み上げ、家伝の宝剣のはずの武器を最も強い者達に渡していく。
「作戦開始は明朝だ。家族に別れを告げておけ」
この翌日。
本来の歴史なら当主、郎党、義勇兵の全てが討ち死にする。
いつの間にか数人数が増えていることに、その数人以外誰も気づけていない。
リプレイ本文
●黒竜来襲
冷たい雨混じりの風が砦に吹き付けた。
染みこむ冷気が兵達の動きを鈍らせ、特に弓兵は繊細な狙いがつけられず戦力が半減してしまう。
ふふふ、と上品なのにとても大きな笑い声がこぼれた。
ぎょっとした目を向けられながら、ミグ・ロマイヤー(ka0665)は小さな体で大きなバリスタの狙いを修正する。
ここが夢の中であれば多少の無茶は行けそうじゃな。帝国軍閥でならしたロマイヤー家昔日の栄光見せてやろうぞ。
そう内心で不敵につぶやき現実の……正確には現実としか思えない過去の記憶達に命令する。
「阿呆が来るぞ。出迎えてやれ!」
「お」
「応っ」
怯え、震え、泣き出しすらしても鍛えた体は裏切らない。
たくましい男達が攻城兵器にとりつき、空をゆっくりと舞う黒竜を睨み付けた。
『ハハッ』
竜の動きがわずかに変わる。
地上の人間が怯えるのを楽しむための無意味な動きを止め、攻城兵器では狙いを付けづらい高度から降下を始める。
「総員、放てぇ!」
柊 恭也(ka0711)の号令。
長弓20数張から放たれた矢が一斉に黒竜を襲う。
距離があるにも関わらず6割以上が命中。しかし強靱な鱗を貫けずに大部分がはじかれ風の中に消えていく。
「あー、またライブラリにアクセスした奴かコレ」
2年前に相対したときと比べてかなり弱い。
大型魔導銃の手触りがある大弓を引き絞り、他の弓兵とは異なり怯えの気配もなく1矢を放つ。
黒い竜鱗が砕ける音。
脂肪の層を抜け分厚い筋肉に突き立つ音。
そして、苦痛に耐える忍耐も矜恃も無く無様にとどろく悲鳴。
弓兵の歓声が響く中、恭也は渋い表情で次の1矢を送り込む。
ガルドブルムが怒りと恐怖の混じった顔で恭也を見る。
再び穴が開いて今度は体液が噴出する。
だが恭也には軽い手応えしか感じられない。
「底なしの体力だな」
ゲーム風にいうなら1パーセントも削れていない。
この夢が終わるまで黒竜を倒せるか正直自信が無くなってきた。
「投石器」
「おぉ!」
ミグの号令で中庭に設置された投石機が起動。
鉄製弾が回転しながら黒竜を狙う。
『ッ』
翼を開いて急減速。
5発が外れて1発が脇腹を掠め、ガルドブルムの目が血走り赤黒く染まる。
「今だ、やれ!」
答える声より早く防壁上のバリスタが起動。
槍あるいは丸太に近いサイズの矢が無防備な竜に命中する。
うち3、4本は暴れる竜腕に弾かれたものの、特に分厚い1矢が右脚を貫き巨大な重しになる。
『貴様ァ!』
矢から伸びる綱はミグの装甲に巻き付いている。
ガルドブルムは吠え、猛り、ミグごとバリスタを潰そうと翼だけで飛んだ。
超重練成による巨大戦斧の大型化からの一閃。
威力はあっても速度が鈍った斧では、理想的なカウンターでも高位歪虚を追い切れない。
至近距離からのブレス。
バリスタ一基を消し炭に変えてミグに迫り、浮き上がった盾とぶつかり威力を弱める。
それでも威力は絶大で、ミグの小さな体の大部分が致命的なレベルの傷を負う。
「ここで倒せなくても後の世の誰かが殺せればいいのじゃ」
不敵に笑ってミグが薄れていく。
その異常にガルドブルムが気づく前に、気合いの籠もった言葉が叩きつけられた。
「ガルドブルム!!」
『ウルセェ!』
大した傷もついていない、つまり薄い戦闘経験しか持たない尻尾が横殴りに振るわれる。
Holmes(ka3813)を乗せた馬がぎりぎりで跳躍。
致命的な一撃を躱した上で主を竜の元まで運んだ。
「いや、今はただの黒竜かな」
小さな体で巨大な竜を平然と見下ろす。
「人間に名を呼ばれて頭に来たかな? そうら、来ると良い。一騎打ちだ。キミの名を呼んだ人間はここだよ、見下げてみると良い、ガルドブルム!!」
言葉にならない罵声が轟く。
恐るべき強度を持つ爪が突き出され力任せに振り下ろされる。
技は雑でも力と速度と強度が補う。
大鎌で受け、鎧で防ぎ、それでも吸収しきれない打撃がHolmesの内臓を激しく揺らした。
『その程度で大きな口をッ』
Holmesの反撃が竜爪に弾かれる。
ガルドブルムが嫌らしく笑い、体勢を崩したHolmesへとどめの一撃を入れようとした。
『痛ヅゥッ』
黒竜の動きがいきなり止まる。
朧な巨腕がガルドブルムの体を掴んで飛翔も跳躍もできなくなる。
「死ねぇ!」
槍1本に皮鎧の男達が後先考えずに突撃する。
竜爪に槍ごと引き裂かれ、鱗を貫けず弾かれても誰一人下がらない。
だから竜はすっかり頭に血が上り、上方への警戒が限りなく薄れた。
リリティア・オルベール(ka3054)が崖から手を離す。
風に吹かれても目に雨が入っても一切気配を出さず、大量の血と引き替えに足を止められた竜まで数メートルに迫る。
「その翼」
覚醒する。
戦士としては細身とすらいえる四肢を膨大なマテリアルが覆う。
その輝きはあまりに強すぎ、ガルドブルムはリリティアと他のハンター以外の人間を認識できなくなった。
「貰い受ける!!」
Holmesが場を整え、過去果てた人間の残滓が竜を足止めし、理論上の限界近くまで高めた連撃を死角から見舞う。
大型攻城兵器にも耐えるはずの竜鱗が、溶けかけのバターのごとくあっさりと切断される。
刃は止まらない。
脂肪と筋の層を貫き、骨すら簡単にえぐり取る。
第2撃。
下段から振り上げられた刃が右の竜翼先端と脇腹を切り裂く。
赤黒い血が飛び散り、上がった悲鳴が砦全体を揺るがせた。
紐状のマテリアルがリリティアの体を引っ張る。
ガルドブルムの背中に着地をし、人間ならば心臓にあたる場所めがけて初回同様の威力をめり込ませた。
『痛イ、イイィッ!』
マテリアルが脈動する。
リリティアが操りリリティアを後押しする正のマテリアルだけではない。
負の属性を持つマテリアルが黒竜の体内から噴出。
神斬と拮抗して心臓への接近を防ぐ。
「なる、ほど」
加速した意識により己の声が間延びして聞こえる。
心臓が無理なら今度こそ翼を切り取ろうとしても、また負のマテリアルが溢れて黒竜の命を繋ぐ。
「そこがあなたの底ですか」
これを最後まで削れば勝てる。
もっとも、200年前ならともかく現代ではこの状況に持ち込むのが極めて難しい。
ひとまずとどめを刺そうと踏み込むと、ガルドブルムでもHolmesの術でも無く過去の王国の砦が最初に限界を迎えた。
石壁が波打ちほどけていく。
致命傷を負った男達が巻き込まれる。
リリティア達はなんとか無事な足場まで戻るが、ガルドブルムと距離が開いて離脱を許してしまった。
●足は止まらず
砲撃にも似た矢が届くたび、黒竜の鱗がちぎれて宙に舞った。
「ガルドさーん、降りといでってばー」
黒い髪をなびかせリチェルカ・ディーオ(ka1760)が馬を走らせる。
歪虚は高度をとっている。
リチェルカにとっては手の届く距離でしかないが戦いはなかなか厳しい。
防壁上の戦い同様に7割ほどの確率で当てはいるのだが、それ以上となるとかなり難しい。
いつ頃気づくかな。
盾もなく軽装のリチェルカでは、本格的に狙われると非常に危険だ。
なにしろ当たれば骨まで燃える。
相棒の幻獣がいれば躱すも防ぐも容易とはいえ、元の世界に戻らないと助力を得られない。
『グゾッ』
濁った声が上から聞こえる。
リチェルカはそっと距離を広げるものの、振り返り様に竜が吐いた炎が足下を掠めてごっそりと体力を削られる。
『イイ気ニ、ナルナ』
黒竜の喉奥で炎が猛る。
ここがチャンスとリチェルカが撃ち、腹から胸にかけていくつも穴を開ける。
血が零れてもガルドブルムの動きは変わらず、極太のブレスが半壊した砦に向かっていく。
ひときわ豪華な装備の女性が、装備とはちぐはぐの動きで防ごうとして失敗する。
みきゃー、と年不相応な悲鳴と同時に法術の輝きがうまれる。
ブレスと光が消えた後には、へたり込む貴族とグローブを尽きだしたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が生き残っていた。
「これも戦神の思し召し、か……善き哉」
莞爾と笑って術を編む。
カソックの下、重度の火傷が時を逆回ししたように再生していく。
「今のは、現代の。まさかこれ、夢では」
「中にいるのが人間ならもう少し耐えなさい。今あなたが崩れると兵の士気が崩壊する」
アデリシアはそう囁き貴族を郎党に任せた。
随分幼い表情の貴族が、無事な砦の奥へ連れていかれる。
「問題はここからか」
右に跳ぶ。
太さの減ったブレスはアデリシアには当たらない。
しかし余波だけで攻城兵器が壊れ石壁の状態も悪くなる。
アデリシア本人も安全ではない。
半死人をこの世に呼び戻す力はあっても、災厄の十三魔の攻撃を1人で抑えられるだけの力は無い。
だから遠慮無く同僚の力を借りることにした。
「ほらほら、こっちも要注意だよー。ガルドさーん?」
砦の兵とは違って恐れる様子が一切ないリチェルカが、崩れた元防壁を駆け上がり無事な砦へようやく戻る。
空を飛ぶ黒竜の瞳は血走りすぎて白目が見えない。
体力の低下で高度がとれなくなっていることに、ガルドブルムはまだ気づけていない。
「さぁ剣を抜け兄弟達! 気高く吼えよ同胞達! その命が燃え尽きるまで立ち向かえ! 勝利をこの手に掴む為に!」
壁の上から男達が飛び出す。
竜に躱され着地にも失敗して無意味に地面に打ち付けられても悲鳴すらあげない。
傷ついた竜鱗に刃とつきたて我が身を焼かれようが竜にへばりつき、文字通り死ぬまで耐える。
「ここまでは追い込んだ。後は……」
ガルドブルムの右目に矢を当てるのと同時に、柊の姿が炎に飲まれて消えた。
●ドラゴンスレイヤー
感情のない瞳が狂乱する竜を映していた。
竜の動きが鈍るほど微かな色が浮かんでくる。
絶対に相手を殺すという冷たい決意だ。
斬龍刀「天墜」を振りかぶり、マーゴット(ka5022)は鋭い踏み込みから何もない場所に刃を振り下ろす。
無色の威力が十数メートル離れた威力に移って拡散。
ブレス発射直後ガルドブルムの全身を切り刻んで絶叫をあげさせた。
炎が溢れる。
竜の喉を焼きながらブレスが広がり、加護があるとはいえ皮鎧でしかないマーゴットの防具を焼き柔肌を傷つける。
ガルドブルムも無事ではすまない。
瓦礫の上にぶつかるように不時着。憎悪の燃える目でマーゴットの死体を探そうとした。
「随分と動きに精彩を欠いていますが不調ですか?」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)の鎧は戦乙女を思わせる優美な形ではあっても重厚だ。
それに加えて身の丈ほどもある大剣を携えているのに、彼女の歩みは軽快でいて浮ついたところがない。
龍の返事は高速で着き出される竜爪だ。
防壁すら貫くはずの一撃は、ヴァルナが一歩前に進むだけで宙を切った。
「何故この地を狙うのです。誰かと因縁でもあるですか」
穏やかな言葉とは逆に攻めは激烈だ。
グレートソードに込められた攻撃的なマテリアルが弾け、黒竜の巨体がよい的になって傷が増え血が飛び散る。
『黙レ!』
剣で受ける必要もない。
鉄靴で不安定な瓦礫を蹴り、より不安定なはずの瓦礫の小山に静かに着地。
斜めに刃を振るってマテリアルを飛ばし左の翼から腹にかけて大小多数の穴を開ける。
「もしやあなた、ガルドブルムではない?」
記憶にある戦いぶりとは非常に遠い。
フリなのか、この時はまだ未熟なのか、どちらにしても外見が同じの雑魔に思えてしまう。
故に、ガルドブルムは心底激怒し手段を選ばず勝とうと決断した。
翼を広げ浮き上がる。
特にリリティアには絶対に近づかないよう細心の注意を払い、一方的にブレスを打てる位置まで駆け上がろうとする。
しかし速度が足り無い。
ヴァルナが握り方とマテリアルの込め方を変える。
マテリアルが横では無く前へ広がり、ガルドブルムの胸を打って鱗ごと肉を飛ばす。
現代なら仮に直撃しても角度の調整から筋肉の精密制御までして8割方受け流すのに、この場の黒竜は最低限の技も持っていない。
『殺ス、絶対ニ、殺ス』
「そうですか」
軽く跳んでひと切り。
左の脚を膝まで割って神経を微塵にする。
黒竜の口から血の泡が零れて高度が急速に落ちていく。
「ありがとう」
「いえ。援護は残り2回です」
アデリシアに再生されたマーゴットが素直にうなずき、盾も持たずに駆けだした。
目指すのはガルドブルムの落ちる先。
黒竜は体勢を崩して爪も尻尾も使えない。
有り余っている、言い換えると使いこなせていない力を炎に変えてマーゴットに向け解放した。
マーゴットは前傾姿勢をさらに前に倒す。
ブレスに当たらなくても熱は凄まじい。
しかしその程度でマーゴットの足は止まらず、黒竜の顎の下に到達してから身を起こす。
それと一体の動きで大上段に構えてからの振り下ろし。
鱗の多くを失った胸部では受けきれない。
斬龍刀は骨複数を絶つだけでは終わらず肺にまで大きな傷をつけた。
「強さを求める気持ちは私にもあるから分からなくもない……。けど、相手を過小評価すると足元を掬われるよ」
力任せの反撃を横に身を投げて回避。
数メートル下の地面に危なげ無く着地する。
『ヲォッ』
強い光がガルドブルムの全身を照らす。
既に物理的な防御は崩壊寸前であり、歪虚として存在するための力を消費して無理矢理この世にとどまり続ける。
「無様な。獣にも戦士にもなろうとしない半端物か」
アデリシアは常に移動を続けて法術の光を灯し続ける。
ここまでやってもガルドブルムの生命力は残っている。
勝率は少なくてもハンターを倒す可能性はまだあるのに、痛みに震えて激しい攻撃も出来ず立て直しのために逃げることもしない。
何もかもが中途半端過た。
「今だ死ねぇ!」
僅かな生き残りの兵士が目をぎらつかせてガルドブルムに殺到する。
自身の腕ではろくにダメージを与えられないのは分かっている。
アデリシアの攻撃を助け、ハンター達が来るまで歪虚を足止めするため命を使っている。
「敵に手が届く死兵は恐ろしい。死兵と化した人間は恐ろしい。そして人間とは元来、恐ろしさを内包したものだ。そんな存在に囲まれて、馬鹿にし続けるような余裕はないだろうさ」
幻の腕が黒竜の体を掴む。
これで、歪虚が逃げ伸びる可能性は0になった。
「これも巡り合わせか」
竜の巨体から流れる負のマテリアルをホーリーヴェールで防ぎ。
負のマテリアルで急速に冷たくなる体で蹴りを1発竜の首筋にたたき込む。
断末魔の悲鳴すら残せず、200年前の黒竜が過去の情景と共に消滅した。
目が覚めると見慣れたオフィスの光景だった。
「イコニアさん、ご先祖さまがんばったんだねー」
「はい。機密の情報に触れられるほど……」
真っ青になった聖堂教会司祭がリチェルカに肩を貸かりて病院に向かっていた。
冷たい雨混じりの風が砦に吹き付けた。
染みこむ冷気が兵達の動きを鈍らせ、特に弓兵は繊細な狙いがつけられず戦力が半減してしまう。
ふふふ、と上品なのにとても大きな笑い声がこぼれた。
ぎょっとした目を向けられながら、ミグ・ロマイヤー(ka0665)は小さな体で大きなバリスタの狙いを修正する。
ここが夢の中であれば多少の無茶は行けそうじゃな。帝国軍閥でならしたロマイヤー家昔日の栄光見せてやろうぞ。
そう内心で不敵につぶやき現実の……正確には現実としか思えない過去の記憶達に命令する。
「阿呆が来るぞ。出迎えてやれ!」
「お」
「応っ」
怯え、震え、泣き出しすらしても鍛えた体は裏切らない。
たくましい男達が攻城兵器にとりつき、空をゆっくりと舞う黒竜を睨み付けた。
『ハハッ』
竜の動きがわずかに変わる。
地上の人間が怯えるのを楽しむための無意味な動きを止め、攻城兵器では狙いを付けづらい高度から降下を始める。
「総員、放てぇ!」
柊 恭也(ka0711)の号令。
長弓20数張から放たれた矢が一斉に黒竜を襲う。
距離があるにも関わらず6割以上が命中。しかし強靱な鱗を貫けずに大部分がはじかれ風の中に消えていく。
「あー、またライブラリにアクセスした奴かコレ」
2年前に相対したときと比べてかなり弱い。
大型魔導銃の手触りがある大弓を引き絞り、他の弓兵とは異なり怯えの気配もなく1矢を放つ。
黒い竜鱗が砕ける音。
脂肪の層を抜け分厚い筋肉に突き立つ音。
そして、苦痛に耐える忍耐も矜恃も無く無様にとどろく悲鳴。
弓兵の歓声が響く中、恭也は渋い表情で次の1矢を送り込む。
ガルドブルムが怒りと恐怖の混じった顔で恭也を見る。
再び穴が開いて今度は体液が噴出する。
だが恭也には軽い手応えしか感じられない。
「底なしの体力だな」
ゲーム風にいうなら1パーセントも削れていない。
この夢が終わるまで黒竜を倒せるか正直自信が無くなってきた。
「投石器」
「おぉ!」
ミグの号令で中庭に設置された投石機が起動。
鉄製弾が回転しながら黒竜を狙う。
『ッ』
翼を開いて急減速。
5発が外れて1発が脇腹を掠め、ガルドブルムの目が血走り赤黒く染まる。
「今だ、やれ!」
答える声より早く防壁上のバリスタが起動。
槍あるいは丸太に近いサイズの矢が無防備な竜に命中する。
うち3、4本は暴れる竜腕に弾かれたものの、特に分厚い1矢が右脚を貫き巨大な重しになる。
『貴様ァ!』
矢から伸びる綱はミグの装甲に巻き付いている。
ガルドブルムは吠え、猛り、ミグごとバリスタを潰そうと翼だけで飛んだ。
超重練成による巨大戦斧の大型化からの一閃。
威力はあっても速度が鈍った斧では、理想的なカウンターでも高位歪虚を追い切れない。
至近距離からのブレス。
バリスタ一基を消し炭に変えてミグに迫り、浮き上がった盾とぶつかり威力を弱める。
それでも威力は絶大で、ミグの小さな体の大部分が致命的なレベルの傷を負う。
「ここで倒せなくても後の世の誰かが殺せればいいのじゃ」
不敵に笑ってミグが薄れていく。
その異常にガルドブルムが気づく前に、気合いの籠もった言葉が叩きつけられた。
「ガルドブルム!!」
『ウルセェ!』
大した傷もついていない、つまり薄い戦闘経験しか持たない尻尾が横殴りに振るわれる。
Holmes(ka3813)を乗せた馬がぎりぎりで跳躍。
致命的な一撃を躱した上で主を竜の元まで運んだ。
「いや、今はただの黒竜かな」
小さな体で巨大な竜を平然と見下ろす。
「人間に名を呼ばれて頭に来たかな? そうら、来ると良い。一騎打ちだ。キミの名を呼んだ人間はここだよ、見下げてみると良い、ガルドブルム!!」
言葉にならない罵声が轟く。
恐るべき強度を持つ爪が突き出され力任せに振り下ろされる。
技は雑でも力と速度と強度が補う。
大鎌で受け、鎧で防ぎ、それでも吸収しきれない打撃がHolmesの内臓を激しく揺らした。
『その程度で大きな口をッ』
Holmesの反撃が竜爪に弾かれる。
ガルドブルムが嫌らしく笑い、体勢を崩したHolmesへとどめの一撃を入れようとした。
『痛ヅゥッ』
黒竜の動きがいきなり止まる。
朧な巨腕がガルドブルムの体を掴んで飛翔も跳躍もできなくなる。
「死ねぇ!」
槍1本に皮鎧の男達が後先考えずに突撃する。
竜爪に槍ごと引き裂かれ、鱗を貫けず弾かれても誰一人下がらない。
だから竜はすっかり頭に血が上り、上方への警戒が限りなく薄れた。
リリティア・オルベール(ka3054)が崖から手を離す。
風に吹かれても目に雨が入っても一切気配を出さず、大量の血と引き替えに足を止められた竜まで数メートルに迫る。
「その翼」
覚醒する。
戦士としては細身とすらいえる四肢を膨大なマテリアルが覆う。
その輝きはあまりに強すぎ、ガルドブルムはリリティアと他のハンター以外の人間を認識できなくなった。
「貰い受ける!!」
Holmesが場を整え、過去果てた人間の残滓が竜を足止めし、理論上の限界近くまで高めた連撃を死角から見舞う。
大型攻城兵器にも耐えるはずの竜鱗が、溶けかけのバターのごとくあっさりと切断される。
刃は止まらない。
脂肪と筋の層を貫き、骨すら簡単にえぐり取る。
第2撃。
下段から振り上げられた刃が右の竜翼先端と脇腹を切り裂く。
赤黒い血が飛び散り、上がった悲鳴が砦全体を揺るがせた。
紐状のマテリアルがリリティアの体を引っ張る。
ガルドブルムの背中に着地をし、人間ならば心臓にあたる場所めがけて初回同様の威力をめり込ませた。
『痛イ、イイィッ!』
マテリアルが脈動する。
リリティアが操りリリティアを後押しする正のマテリアルだけではない。
負の属性を持つマテリアルが黒竜の体内から噴出。
神斬と拮抗して心臓への接近を防ぐ。
「なる、ほど」
加速した意識により己の声が間延びして聞こえる。
心臓が無理なら今度こそ翼を切り取ろうとしても、また負のマテリアルが溢れて黒竜の命を繋ぐ。
「そこがあなたの底ですか」
これを最後まで削れば勝てる。
もっとも、200年前ならともかく現代ではこの状況に持ち込むのが極めて難しい。
ひとまずとどめを刺そうと踏み込むと、ガルドブルムでもHolmesの術でも無く過去の王国の砦が最初に限界を迎えた。
石壁が波打ちほどけていく。
致命傷を負った男達が巻き込まれる。
リリティア達はなんとか無事な足場まで戻るが、ガルドブルムと距離が開いて離脱を許してしまった。
●足は止まらず
砲撃にも似た矢が届くたび、黒竜の鱗がちぎれて宙に舞った。
「ガルドさーん、降りといでってばー」
黒い髪をなびかせリチェルカ・ディーオ(ka1760)が馬を走らせる。
歪虚は高度をとっている。
リチェルカにとっては手の届く距離でしかないが戦いはなかなか厳しい。
防壁上の戦い同様に7割ほどの確率で当てはいるのだが、それ以上となるとかなり難しい。
いつ頃気づくかな。
盾もなく軽装のリチェルカでは、本格的に狙われると非常に危険だ。
なにしろ当たれば骨まで燃える。
相棒の幻獣がいれば躱すも防ぐも容易とはいえ、元の世界に戻らないと助力を得られない。
『グゾッ』
濁った声が上から聞こえる。
リチェルカはそっと距離を広げるものの、振り返り様に竜が吐いた炎が足下を掠めてごっそりと体力を削られる。
『イイ気ニ、ナルナ』
黒竜の喉奥で炎が猛る。
ここがチャンスとリチェルカが撃ち、腹から胸にかけていくつも穴を開ける。
血が零れてもガルドブルムの動きは変わらず、極太のブレスが半壊した砦に向かっていく。
ひときわ豪華な装備の女性が、装備とはちぐはぐの動きで防ごうとして失敗する。
みきゃー、と年不相応な悲鳴と同時に法術の輝きがうまれる。
ブレスと光が消えた後には、へたり込む貴族とグローブを尽きだしたアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が生き残っていた。
「これも戦神の思し召し、か……善き哉」
莞爾と笑って術を編む。
カソックの下、重度の火傷が時を逆回ししたように再生していく。
「今のは、現代の。まさかこれ、夢では」
「中にいるのが人間ならもう少し耐えなさい。今あなたが崩れると兵の士気が崩壊する」
アデリシアはそう囁き貴族を郎党に任せた。
随分幼い表情の貴族が、無事な砦の奥へ連れていかれる。
「問題はここからか」
右に跳ぶ。
太さの減ったブレスはアデリシアには当たらない。
しかし余波だけで攻城兵器が壊れ石壁の状態も悪くなる。
アデリシア本人も安全ではない。
半死人をこの世に呼び戻す力はあっても、災厄の十三魔の攻撃を1人で抑えられるだけの力は無い。
だから遠慮無く同僚の力を借りることにした。
「ほらほら、こっちも要注意だよー。ガルドさーん?」
砦の兵とは違って恐れる様子が一切ないリチェルカが、崩れた元防壁を駆け上がり無事な砦へようやく戻る。
空を飛ぶ黒竜の瞳は血走りすぎて白目が見えない。
体力の低下で高度がとれなくなっていることに、ガルドブルムはまだ気づけていない。
「さぁ剣を抜け兄弟達! 気高く吼えよ同胞達! その命が燃え尽きるまで立ち向かえ! 勝利をこの手に掴む為に!」
壁の上から男達が飛び出す。
竜に躱され着地にも失敗して無意味に地面に打ち付けられても悲鳴すらあげない。
傷ついた竜鱗に刃とつきたて我が身を焼かれようが竜にへばりつき、文字通り死ぬまで耐える。
「ここまでは追い込んだ。後は……」
ガルドブルムの右目に矢を当てるのと同時に、柊の姿が炎に飲まれて消えた。
●ドラゴンスレイヤー
感情のない瞳が狂乱する竜を映していた。
竜の動きが鈍るほど微かな色が浮かんでくる。
絶対に相手を殺すという冷たい決意だ。
斬龍刀「天墜」を振りかぶり、マーゴット(ka5022)は鋭い踏み込みから何もない場所に刃を振り下ろす。
無色の威力が十数メートル離れた威力に移って拡散。
ブレス発射直後ガルドブルムの全身を切り刻んで絶叫をあげさせた。
炎が溢れる。
竜の喉を焼きながらブレスが広がり、加護があるとはいえ皮鎧でしかないマーゴットの防具を焼き柔肌を傷つける。
ガルドブルムも無事ではすまない。
瓦礫の上にぶつかるように不時着。憎悪の燃える目でマーゴットの死体を探そうとした。
「随分と動きに精彩を欠いていますが不調ですか?」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)の鎧は戦乙女を思わせる優美な形ではあっても重厚だ。
それに加えて身の丈ほどもある大剣を携えているのに、彼女の歩みは軽快でいて浮ついたところがない。
龍の返事は高速で着き出される竜爪だ。
防壁すら貫くはずの一撃は、ヴァルナが一歩前に進むだけで宙を切った。
「何故この地を狙うのです。誰かと因縁でもあるですか」
穏やかな言葉とは逆に攻めは激烈だ。
グレートソードに込められた攻撃的なマテリアルが弾け、黒竜の巨体がよい的になって傷が増え血が飛び散る。
『黙レ!』
剣で受ける必要もない。
鉄靴で不安定な瓦礫を蹴り、より不安定なはずの瓦礫の小山に静かに着地。
斜めに刃を振るってマテリアルを飛ばし左の翼から腹にかけて大小多数の穴を開ける。
「もしやあなた、ガルドブルムではない?」
記憶にある戦いぶりとは非常に遠い。
フリなのか、この時はまだ未熟なのか、どちらにしても外見が同じの雑魔に思えてしまう。
故に、ガルドブルムは心底激怒し手段を選ばず勝とうと決断した。
翼を広げ浮き上がる。
特にリリティアには絶対に近づかないよう細心の注意を払い、一方的にブレスを打てる位置まで駆け上がろうとする。
しかし速度が足り無い。
ヴァルナが握り方とマテリアルの込め方を変える。
マテリアルが横では無く前へ広がり、ガルドブルムの胸を打って鱗ごと肉を飛ばす。
現代なら仮に直撃しても角度の調整から筋肉の精密制御までして8割方受け流すのに、この場の黒竜は最低限の技も持っていない。
『殺ス、絶対ニ、殺ス』
「そうですか」
軽く跳んでひと切り。
左の脚を膝まで割って神経を微塵にする。
黒竜の口から血の泡が零れて高度が急速に落ちていく。
「ありがとう」
「いえ。援護は残り2回です」
アデリシアに再生されたマーゴットが素直にうなずき、盾も持たずに駆けだした。
目指すのはガルドブルムの落ちる先。
黒竜は体勢を崩して爪も尻尾も使えない。
有り余っている、言い換えると使いこなせていない力を炎に変えてマーゴットに向け解放した。
マーゴットは前傾姿勢をさらに前に倒す。
ブレスに当たらなくても熱は凄まじい。
しかしその程度でマーゴットの足は止まらず、黒竜の顎の下に到達してから身を起こす。
それと一体の動きで大上段に構えてからの振り下ろし。
鱗の多くを失った胸部では受けきれない。
斬龍刀は骨複数を絶つだけでは終わらず肺にまで大きな傷をつけた。
「強さを求める気持ちは私にもあるから分からなくもない……。けど、相手を過小評価すると足元を掬われるよ」
力任せの反撃を横に身を投げて回避。
数メートル下の地面に危なげ無く着地する。
『ヲォッ』
強い光がガルドブルムの全身を照らす。
既に物理的な防御は崩壊寸前であり、歪虚として存在するための力を消費して無理矢理この世にとどまり続ける。
「無様な。獣にも戦士にもなろうとしない半端物か」
アデリシアは常に移動を続けて法術の光を灯し続ける。
ここまでやってもガルドブルムの生命力は残っている。
勝率は少なくてもハンターを倒す可能性はまだあるのに、痛みに震えて激しい攻撃も出来ず立て直しのために逃げることもしない。
何もかもが中途半端過た。
「今だ死ねぇ!」
僅かな生き残りの兵士が目をぎらつかせてガルドブルムに殺到する。
自身の腕ではろくにダメージを与えられないのは分かっている。
アデリシアの攻撃を助け、ハンター達が来るまで歪虚を足止めするため命を使っている。
「敵に手が届く死兵は恐ろしい。死兵と化した人間は恐ろしい。そして人間とは元来、恐ろしさを内包したものだ。そんな存在に囲まれて、馬鹿にし続けるような余裕はないだろうさ」
幻の腕が黒竜の体を掴む。
これで、歪虚が逃げ伸びる可能性は0になった。
「これも巡り合わせか」
竜の巨体から流れる負のマテリアルをホーリーヴェールで防ぎ。
負のマテリアルで急速に冷たくなる体で蹴りを1発竜の首筋にたたき込む。
断末魔の悲鳴すら残せず、200年前の黒竜が過去の情景と共に消滅した。
目が覚めると見慣れたオフィスの光景だった。
「イコニアさん、ご先祖さまがんばったんだねー」
「はい。機密の情報に触れられるほど……」
真っ青になった聖堂教会司祭がリチェルカに肩を貸かりて病院に向かっていた。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 9人 |
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MVP一覧
- 唯一つ、その名を
Holmes(ka3813)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/06/08 23:41:58 |
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200年物の相談卓 リリティア・オルベール(ka3054) 人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/06/12 01:11:48 |