ゲスト
(ka0000)
【郷祭】ブロック・ビトウィーン・バレー
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/30 22:00
- 完成日
- 2014/11/09 04:12
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
イルムトラウトは、地図の上に駒を一つトンと置いた。
極彩色の街ヴァリオスと、農業地区ジェオルジを結ぶ街道、その概ね中心部に当たる位置だ。谷の底をいく箇所だ。
「この地点に巨大な岩が複数落下し、街道の通行に大きな影響をきたしています」
曰く、谷から崩れ落ちてきたのだろう、という話だ。これ以上の崩落の危険がないことは確認済みらしい。
一方で、不自然に大きい岩があるという話も出ている。件の岩の一つが動いたという報告もあった。
「現在、ジェオルジ村長祭に向けて各都市とジェオルジへの交通が非常に盛んになっています。この街道が使用不能になる場合の影響は甚大です。早急にこの岩を撤去する必要があります」
軍は今王国西方のヴォイドの動向に警戒を強めている状況であり、迅速な展開は難しい。転移門によって高速で移動できるハンターに依頼が持ち込まれた。
「一方、周囲に負のマテリアルが検知されたと報告がありました」
状況からして、恐らく報告にあった『不自然に巨大な岩』がヴォイドである可能性は高い。
「今回の依頼は件のヴォイドの討伐と、落石の排除になります」
岩自体は、ハンターたちが数人掛かりで押せば動かせるだろうという。大きすぎる物に関しては破壊しても構わない。
岩の撤去を終えた後、掃除や整備担当員に引き継げば依頼完了だ。
「ヴォイドは報告の通りならば大型であり、恐らく相当な脅威になると思われます。十分注意してください」
巨体と岩の装甲を考えるだけで強力なのは想像がつく。イルムは資料を机に置くと、一礼した。
「迅速な処理に期待します。それでは、よろしくお願い致します」
リプレイ本文
●
「文明の利器とは素晴らしい」
エリス・ブーリャ(ka3419)は両手を天に向けて広げた。
「どんな道のりも転移門を使えば、一瞬で移動できるのだから……」
彼女が仰ぐ空はひどく狭い。
ヴァリオス~ジェオルジ間の街道、中間付近にある谷道。山のように盛り上がった地形……恐らく断層によって割れて出来た大きな谷間を街道は走り抜けている。
そこの交通を邪魔する落石の撤去を行っていた。
「もしこの技術がなかったら、此処まで来るのに何度エルちゃんは「休みたい」と音をあげたことだろう」
「おい、サボってねぇで働け」
ロクス・カーディナー(ka0162)に言われて、エリスは頬を膨らませた。
「えーなによー、せっかく盛り上げようとしてあげてるのにー」
「だったら手を止めるなっつの。おら、手伝え」
「ちぇー」
しぶしぶといった様子でロクスが押す岩に手を添えると、彼女は岩をぐいぐい押した。
「そういえば、エルちゃんの他はみんな人間かぁ……って、ほら、あそこにもサボってる子がいるぞ! 私だけ注意は不公平!」
「あいつの様子をよく見ろ」
エリスが指差す南條 真水(ka2377)は、息切れしてぶっ倒れていた。
「ふん……この南條さんの……貧弱さを……甘く見るなよ」
エリスは目をそらした。流石にぜえぜえと息をつく彼女を働かせる訳にもいかない。
谷のほぼ中央、一際巨大な岩を見て、鵤(ka3319)はへらへらと笑った。
「うーわ何だあれ、超でかくなぁーい? 確かに見りゃ一発だわなぁ」
これが動いて攻撃してくるとしたら、巨体そのものが凶器といって差し支えない。鵤は肩を竦めた。
「そうですね……周りの岩も転がってくるでしょうね」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)も頷く。
「とりあえず、岩をどかしている程度じゃ動き出さねぇみたいだな」
リュー・グランフェスト(ka2419)は岩を押しながらも、じっとヴォイドらしきものを見ている。動き出したらすぐに対応するためだ。
「ただ、まだアレの近くには寄れていないですからね。近距離で作業することになったらどうなるか」
椥辻 ヒビキ(ka3172)は難しい顔でそう述べる。レベッカ・アマデーオ(ka1963)も唸った。
「こんなデカブツどうやって……まあ、思いついたこと片っ端からやるしかないか」
「まぁ、どかせるもんはどかしてまお。それから考えるんでもええやろ」
紗耶香(ka3356)はそう言って、四人がかりで大きな岩を押し出した。
一方、ネイハム・乾風(ka2961)は先に谷上に陣取って警戒を続けていた。上からも敵を警戒する必要があると感じたからだ。緊急時は空砲で知らせる手筈になっている。
主戦場になるであろう周辺はひとまず岩の撤去を終えたようだ。ヴォイドの周辺の岩に各々が手をかけるのを、ネイハムはじっと見下ろしている。
「はぁ、なんでこんな重労働なお仕事引き受けたんだろう。自分でもよく分からないよ。いや、困った困った」
少し回復したらしい真水が岩を押す。退け終わる頃にはまたバテていたのはご愛嬌、なのかもしれない。
●
「あらかた退けたな」
「後は……」
ロクスとリューは巨岩の隣に並び立った。
「こいつの周りの岩か」
崖上組のレベッカと紗耶香は既に配置についている。残る五人で岩の撤去を進めているが……。
「動いたぞ!」
「配置につけ!」
と二人が叫ぶと同時に空砲が鳴り響く。岩を放り出して一同は覚醒、後方へ散開する。鵤は防性強化をリューに発動した。
「はいはーい強化強化っとぉ。じゃ、後よろしくぅ~」
ロクスは防御の構えを取りつつ、素早く狙いを定めた。
「あの窪み、あれじゃねぇか」
地表すれすれに、不自然な窪みを見て取った。岩に覆われていて剣を入れるのは難しいだろうが、岩を叩くよりマシだ。ロクスはそこへ狙いを定めた。
一方、リューは全力で叩くべく大上段にバルディッシュを振り上げる。
「行くぜ!」
「遅れんなよ!」
二人は息を合わせて初撃を放つ。ロクスの剣が窪みの奥に突き立ち、リューの巨斧が岩へと傷を入れる。
遅れて、それは立ち上がった。
「でけぇ亀だ……」
「……デカすぎだろ」
その巨躯、八メートル。
並みの家屋に匹敵する巨体だ。大きさが分かっていても、ただ動いているだけで威圧感がある。
「離れるぞ。ありゃまずいぜ……」
二人は飛び退いた。突進一つでも相当な威力になるだろうことが見て分かる。
ロクスは先程突きを入れた感触を思い返す。岩に似た感触だったが、ダメージはあったはずだ。
「岩被りながらでも動けるのかよ」
ゆっくりと頭らしき部分をこちらへ向ける岩亀を見て、ロクスはひとりごちた。
「移動中を狙うというのは無理そうですね」
ヒビキはぽつりと呟き、弓を引いて放った。
岩に辛うじて突き刺さった矢を見て、ヒビキは目を細める。
(この距離まで攻撃してくることはないはず……効果が薄くても構わない)
ヒビキは落ち着いて次の矢を番える。
崖上、紗耶香も弓矢を放つ。位置は風上、風に煽られて矢が逸れることはない。だが放った矢は岩に弾かれて転がった。
「硬すぎやろ……刺さりすらしないんかい」
一方、レベッカはライフルで狙いをつけながら対応を考えていた。
「亀の弱点……ひっくり返す、は現実的じゃないし……」
狙いをつけるのは難しくないが、何処を狙うかが問題だった。
「手っ取り早いのは目とか潰すことだけど、暴れだしそうだしなぁ……」
ネイハムは迷わずにスコープを覗き、射撃を始めた。
銃弾がヒビキの矢の刺さる位置に正確に突き立つ。岩の総体からすれば微々たる傷だが……。
「装甲が硬いといっても一箇所に攻撃が重なればどうかな?」
「……所詮は岩よね。なら……!」
レベッカも魔導銃で同じように狙いをつける。弾丸は辛うじてという程度に岩を抉った。
真水は二歩三歩と後退しながら機導砲を放つ。ユキヤもホーリーライトを同じ場所へ飛ばした。
「足にでも当たるかなと思ったけど、手応えがないなぁ」
「下手な所へ打つよりはマシです」
共に、ロクスと同じく足らしき窪みを狙うものの、さしたるダメージもないようだった。
「そーれ、ビームをドーン!」
エリスも機導砲を放つが、岩を僅かに焦がしただけに終わる。
「甲羅を割るか、本体が出てくるのを待つほうがよさそうだ。リュー君が近づくようだし」
「ちょっと突付いただけじゃあ頭も出してくれないみたーい」
リューとロクス目掛けて、ヴォイドは体当たりを敢行。
何の小細工もないただの突進である。であるが、その巨体が猛然と繰り出す一撃は、相当な威力を持っていた。
「ちっ」
「転がって避けられる大きさじゃねぇな!」
互いに武器でどうにか受けて、衝撃を殺すことには成功した。
長柄の利点を活かし遠くから攻撃を続けるリュー。ロクスは後方へ下がると、デリンジャーを構えて甲羅の傷目掛けて放つ。
「まずは甲羅を割る……!」
巨大な亀はそれらを意にも介さず、鈍重な進撃を開始した。
●
リューが距離を開け、ヴォイドがそれを詰める。
一度の距離は僅かだったが、繰り返す中で皆自然と後退せざるを得なくなっていた。
「エルちゃんから愛を込めて、鉛弾のプレゼントだよー」
エリスがばらまく銃弾を物ともせず、ヴォイドは体当たりを繰り出す。
「っと……!」
リューは突進をバルディッシュの柄で受けて、後ろへ飛んで衝撃を受け流した。その脇で、ヴォイドが突き飛ばした岩は数メートルを転がっていく。
「鵤、右に飛んで!」
「うひゃああ!?」
レベッカの一声に慌ててその場を転がった鵤の鼻先を、岩が転がっていった。
「あんなのに押し潰されたらたまらないね。真っ平らになっちゃうよ」
「マジ勘弁してよぉ! おじさんぺたんこにはなりたくないよ!」
「……おい誰だ今真っ平らなのは南條さんの胸だろう、とか考えたのは」
「あ、それおじさん。って待って真水ちゃんデバイス向けるのやめよ? 仲間割れしてる余裕なくない?」
その様子にヒビキはこめかみをぐりぐりと押した。彼女は意識して岩から離れていたので、岩の被害を受けることはなかった。
「とはいえ、そろそろだと思うのですが」
「えぇ……そうみたいですね」
ヒビキの言葉に同意して、ユキヤはリューへとヒールをかける。
甲羅の傷はそれなり以上に深くなっていた。
「そろそろ、無視してもいられなくなったかい」
ヴォイドの動きが先程よりも激しくなりつつある。ネイハムは離れすぎた距離を移動して埋めながら呟いた。
先程と同じ体当たりの動作を取るヴォイドに、リューは構えを取る。
だがヴォイドは、正面の窪みから頭を突き出した。
「当たらねぇよ!」
巌の如き頭ががばりと開き、ガチン! と凶悪な音を立てて閉じた。
間一髪回避に成功したリューは、すかさず反撃に転じた。斧槍を大きく後ろへ引き絞って構える。全身に力を込め、踏み込みの力を余すことなく穂先へ伝える。
「くらい――やがれええええええ!!」
強烈な刺突がヴォイドの首を突き刺した。
「今だ!」
痛みに呻くヴォイドへと、更に全員が追撃を仕掛ける。ロクスと鵤の銃器が火を吹く。
「チャンスやんね!」
「くたばりなさい!」
「いい的だ、そのままいるといい……」
崖上から、三人が一斉射撃を敢行。
「野郎、こいつも持っていきやがれ!」
ハイテンションで銃弾をぶっ放すエリス。口調まで変化していた。
ヒビキはマテリアルを込めた全力の射撃を放つ。
「袋のネズミ、ならぬ袋の亀ですね」
痛烈な反撃に身を捩った亀は、すぐに頭を引っ込めた。
「とはいえ、本当にタフだな」
リューは体当たりをいなしつつ、呆れたように呟く。
レベッカは先程から岩そのものの体積を削ろうと躍起になっていた。
「どーにも嫌な予感するのよね、あのままにしとくと……」
手が足りずに中々削れないが、やらないよりはマシだ。
更に敵が前に出たことで、真水は後方へ距離をとった。
「南條さんは痛いのが嫌いなんだ。なんだあの噛み付き。カミツキガメか。体当たりも南條さんが食らったらぽっきり折れちゃうよ」
ぺらぺらと、内容の割に余裕ありげに喋りながら真水は銃を構えた。
「それに眼鏡が壊れたらどうするんだ。これ大事なものなんだからな」
瓶底眼鏡を押し上げ、真水は甲羅目掛けて攻撃を継続する。
と、その射撃で、ついに岩の甲羅にヒビが入った。
「よし……ぶち割るぞ!」
重ねてロクスの打ち込んだ一射で、岩の甲羅の一部が剥落し、内部が明らかになった。
ヴォイドが奇っ怪な音の悲鳴を上げる。
「チャンスやね!」
紗耶香の弓矢は、岩の隙間に綺麗に突き刺さった。確実にダメージが通っている。
「こうなれば、後少しです!」
ユキヤのホーリーライトが甲羅の割れ目を押し広げる。そこへ銃弾が殺到した。
甲羅が無意味になったことを悟ったのか、ヴォイドは低く吠えると、身を揺すりだした。
「っ、みんな隠れて!」
とレベッカが叫ぶのにやや遅れて、ヴォイドは甲羅を振り飛ばし始めた。
「ぅおっ! あっぶねえわぁー」
鵤は大きな岩を転がって避け、小さな礫はムーバブルシールドで打ち落とした。
「っと、随分派手じゃねえか!」
ロクスは咄嗟に横の岩へと転がって隠れた。遅れてエリスも飛び込んでくる。
「ひー危ない危ない! 石の雨とか洒落になってないよ!」
リューと真水もそれぞれ岩に隠れた。幾つかは崖上へまで飛んでいったが、ネイハムは空中の岩を狙撃して破壊する。
「あっぶな!」
紗耶香とレベッカは顔を引っ込めてどうにか岩を回避した。
(避けきれませんね)
ヒビキは動じずに弓を引き、マテリアルを込めた一射で大きな岩を破壊していく。礫の幾つかが体を打つが、その程度なら問題はない。
そして岩の雨が止み、ヒビキは岩の鎧を失ったヴォイドを見据えた。
「さぁ――終わりにしましょう」
間髪入れずに彼女は本体へと射撃を敢行する。矢は本体の甲羅の上からでも深々と突き刺さった。岩に比べれば柔らかい。
ロクスも岩陰から剣を構えて飛び出した。
「オラァ、死にさらせ!」
強烈な斬撃が叩き込まれ、飛び退いたロクスと入れ替わりにリューのバルディッシュが弧を描く。
「これでどうだっ!」
渾身の一撃によろめき、吠えながら痛みを訴えるヴォイドへ、ネイハムはふと口元が釣り上がるのを感じた。
「あぁ、そうしてくれる方が撃ち甲斐があるね……」
スコープ越しに狙いを定め、ゆっくりと引き金を引いていく。
「けれど、これで終わりにしよう」
その銃弾が、ヴォイドの体を貫通した。
全員が警戒する中、ヴォイドはぶるりと身を震わせると――。
ズシンと音を立てて倒れた。
●
「怪我してる奴はいないか?」
リューはバルディッシュをしまうと皆に尋ねた。
「リューさんが一番怪我が深いと思いますよ」
ユキヤは曖昧に笑って、彼にヒールをかけた。
「さて、んじゃ撤去始めっかね……」
「もう岩の片付けするの? えー、疲れたからちょっと休もうよー」
ロクスが音頭を取り、撤去作業は再開された。エリスは仰向けに寝転がって抗議していた。
「有志の方だけでいいですから」
「うぐ」
とはいえ、そんなことを笑顔でのたまうヒビキを前にすると、流石にいたたまれない。
「今度は手伝うよ」
ネイハムも崖上から降りて、岩の運搬に精を出している。
「疲れていないしね……エリス君は休んでいるといい」
「やったー、エイハムちゃんやっさしー! イケメン!」
エリスはそれっきり目を閉じてしまった。調子のいい人だなぁ、とエイハムは苦笑した。
「えー、じゃあおじさんも休む! って言えないところが男の辛い所だねぇ」
鵤もせっせと岩を押していた。
「南條さん、今日はもう疲れちゃったよ。これで勘弁して下さい、いやほんとに」
真水はスキルを使って岩を砕いていた。その場から動く気力はないらしい。
「それにしても大きかった……あの背に乗ってのんびり旅に出るっていうのも、うん。おもしろいかもしれないね」
呑気に岩を破壊しながら、真水は呟く。
「ヴォイドでなければ考慮しましたけど」
ユキヤは苦笑しながら杖を振り下ろした。彼も岩を砕いて回っている。
「よっこいしょ! ……あー、終わった後が一番重労働ってどうなの、ねぇ」
レベッカは砕いた破片を抱えて歩き出した。
「うち、ドボジョとちゃうんやけどしゃあないなあ」
紗耶香もぼやいた。
ロクスは片付けがてら、崖上の様子などもチェックして回っていた。崩れそうな地点がないか確認しているのだ。
「また駆り出されるのも面倒だからなァ」
彼がどこまで本気でそう口にしているのかは、誰にも分からないままであった。
「文明の利器とは素晴らしい」
エリス・ブーリャ(ka3419)は両手を天に向けて広げた。
「どんな道のりも転移門を使えば、一瞬で移動できるのだから……」
彼女が仰ぐ空はひどく狭い。
ヴァリオス~ジェオルジ間の街道、中間付近にある谷道。山のように盛り上がった地形……恐らく断層によって割れて出来た大きな谷間を街道は走り抜けている。
そこの交通を邪魔する落石の撤去を行っていた。
「もしこの技術がなかったら、此処まで来るのに何度エルちゃんは「休みたい」と音をあげたことだろう」
「おい、サボってねぇで働け」
ロクス・カーディナー(ka0162)に言われて、エリスは頬を膨らませた。
「えーなによー、せっかく盛り上げようとしてあげてるのにー」
「だったら手を止めるなっつの。おら、手伝え」
「ちぇー」
しぶしぶといった様子でロクスが押す岩に手を添えると、彼女は岩をぐいぐい押した。
「そういえば、エルちゃんの他はみんな人間かぁ……って、ほら、あそこにもサボってる子がいるぞ! 私だけ注意は不公平!」
「あいつの様子をよく見ろ」
エリスが指差す南條 真水(ka2377)は、息切れしてぶっ倒れていた。
「ふん……この南條さんの……貧弱さを……甘く見るなよ」
エリスは目をそらした。流石にぜえぜえと息をつく彼女を働かせる訳にもいかない。
谷のほぼ中央、一際巨大な岩を見て、鵤(ka3319)はへらへらと笑った。
「うーわ何だあれ、超でかくなぁーい? 確かに見りゃ一発だわなぁ」
これが動いて攻撃してくるとしたら、巨体そのものが凶器といって差し支えない。鵤は肩を竦めた。
「そうですね……周りの岩も転がってくるでしょうね」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)も頷く。
「とりあえず、岩をどかしている程度じゃ動き出さねぇみたいだな」
リュー・グランフェスト(ka2419)は岩を押しながらも、じっとヴォイドらしきものを見ている。動き出したらすぐに対応するためだ。
「ただ、まだアレの近くには寄れていないですからね。近距離で作業することになったらどうなるか」
椥辻 ヒビキ(ka3172)は難しい顔でそう述べる。レベッカ・アマデーオ(ka1963)も唸った。
「こんなデカブツどうやって……まあ、思いついたこと片っ端からやるしかないか」
「まぁ、どかせるもんはどかしてまお。それから考えるんでもええやろ」
紗耶香(ka3356)はそう言って、四人がかりで大きな岩を押し出した。
一方、ネイハム・乾風(ka2961)は先に谷上に陣取って警戒を続けていた。上からも敵を警戒する必要があると感じたからだ。緊急時は空砲で知らせる手筈になっている。
主戦場になるであろう周辺はひとまず岩の撤去を終えたようだ。ヴォイドの周辺の岩に各々が手をかけるのを、ネイハムはじっと見下ろしている。
「はぁ、なんでこんな重労働なお仕事引き受けたんだろう。自分でもよく分からないよ。いや、困った困った」
少し回復したらしい真水が岩を押す。退け終わる頃にはまたバテていたのはご愛嬌、なのかもしれない。
●
「あらかた退けたな」
「後は……」
ロクスとリューは巨岩の隣に並び立った。
「こいつの周りの岩か」
崖上組のレベッカと紗耶香は既に配置についている。残る五人で岩の撤去を進めているが……。
「動いたぞ!」
「配置につけ!」
と二人が叫ぶと同時に空砲が鳴り響く。岩を放り出して一同は覚醒、後方へ散開する。鵤は防性強化をリューに発動した。
「はいはーい強化強化っとぉ。じゃ、後よろしくぅ~」
ロクスは防御の構えを取りつつ、素早く狙いを定めた。
「あの窪み、あれじゃねぇか」
地表すれすれに、不自然な窪みを見て取った。岩に覆われていて剣を入れるのは難しいだろうが、岩を叩くよりマシだ。ロクスはそこへ狙いを定めた。
一方、リューは全力で叩くべく大上段にバルディッシュを振り上げる。
「行くぜ!」
「遅れんなよ!」
二人は息を合わせて初撃を放つ。ロクスの剣が窪みの奥に突き立ち、リューの巨斧が岩へと傷を入れる。
遅れて、それは立ち上がった。
「でけぇ亀だ……」
「……デカすぎだろ」
その巨躯、八メートル。
並みの家屋に匹敵する巨体だ。大きさが分かっていても、ただ動いているだけで威圧感がある。
「離れるぞ。ありゃまずいぜ……」
二人は飛び退いた。突進一つでも相当な威力になるだろうことが見て分かる。
ロクスは先程突きを入れた感触を思い返す。岩に似た感触だったが、ダメージはあったはずだ。
「岩被りながらでも動けるのかよ」
ゆっくりと頭らしき部分をこちらへ向ける岩亀を見て、ロクスはひとりごちた。
「移動中を狙うというのは無理そうですね」
ヒビキはぽつりと呟き、弓を引いて放った。
岩に辛うじて突き刺さった矢を見て、ヒビキは目を細める。
(この距離まで攻撃してくることはないはず……効果が薄くても構わない)
ヒビキは落ち着いて次の矢を番える。
崖上、紗耶香も弓矢を放つ。位置は風上、風に煽られて矢が逸れることはない。だが放った矢は岩に弾かれて転がった。
「硬すぎやろ……刺さりすらしないんかい」
一方、レベッカはライフルで狙いをつけながら対応を考えていた。
「亀の弱点……ひっくり返す、は現実的じゃないし……」
狙いをつけるのは難しくないが、何処を狙うかが問題だった。
「手っ取り早いのは目とか潰すことだけど、暴れだしそうだしなぁ……」
ネイハムは迷わずにスコープを覗き、射撃を始めた。
銃弾がヒビキの矢の刺さる位置に正確に突き立つ。岩の総体からすれば微々たる傷だが……。
「装甲が硬いといっても一箇所に攻撃が重なればどうかな?」
「……所詮は岩よね。なら……!」
レベッカも魔導銃で同じように狙いをつける。弾丸は辛うじてという程度に岩を抉った。
真水は二歩三歩と後退しながら機導砲を放つ。ユキヤもホーリーライトを同じ場所へ飛ばした。
「足にでも当たるかなと思ったけど、手応えがないなぁ」
「下手な所へ打つよりはマシです」
共に、ロクスと同じく足らしき窪みを狙うものの、さしたるダメージもないようだった。
「そーれ、ビームをドーン!」
エリスも機導砲を放つが、岩を僅かに焦がしただけに終わる。
「甲羅を割るか、本体が出てくるのを待つほうがよさそうだ。リュー君が近づくようだし」
「ちょっと突付いただけじゃあ頭も出してくれないみたーい」
リューとロクス目掛けて、ヴォイドは体当たりを敢行。
何の小細工もないただの突進である。であるが、その巨体が猛然と繰り出す一撃は、相当な威力を持っていた。
「ちっ」
「転がって避けられる大きさじゃねぇな!」
互いに武器でどうにか受けて、衝撃を殺すことには成功した。
長柄の利点を活かし遠くから攻撃を続けるリュー。ロクスは後方へ下がると、デリンジャーを構えて甲羅の傷目掛けて放つ。
「まずは甲羅を割る……!」
巨大な亀はそれらを意にも介さず、鈍重な進撃を開始した。
●
リューが距離を開け、ヴォイドがそれを詰める。
一度の距離は僅かだったが、繰り返す中で皆自然と後退せざるを得なくなっていた。
「エルちゃんから愛を込めて、鉛弾のプレゼントだよー」
エリスがばらまく銃弾を物ともせず、ヴォイドは体当たりを繰り出す。
「っと……!」
リューは突進をバルディッシュの柄で受けて、後ろへ飛んで衝撃を受け流した。その脇で、ヴォイドが突き飛ばした岩は数メートルを転がっていく。
「鵤、右に飛んで!」
「うひゃああ!?」
レベッカの一声に慌ててその場を転がった鵤の鼻先を、岩が転がっていった。
「あんなのに押し潰されたらたまらないね。真っ平らになっちゃうよ」
「マジ勘弁してよぉ! おじさんぺたんこにはなりたくないよ!」
「……おい誰だ今真っ平らなのは南條さんの胸だろう、とか考えたのは」
「あ、それおじさん。って待って真水ちゃんデバイス向けるのやめよ? 仲間割れしてる余裕なくない?」
その様子にヒビキはこめかみをぐりぐりと押した。彼女は意識して岩から離れていたので、岩の被害を受けることはなかった。
「とはいえ、そろそろだと思うのですが」
「えぇ……そうみたいですね」
ヒビキの言葉に同意して、ユキヤはリューへとヒールをかける。
甲羅の傷はそれなり以上に深くなっていた。
「そろそろ、無視してもいられなくなったかい」
ヴォイドの動きが先程よりも激しくなりつつある。ネイハムは離れすぎた距離を移動して埋めながら呟いた。
先程と同じ体当たりの動作を取るヴォイドに、リューは構えを取る。
だがヴォイドは、正面の窪みから頭を突き出した。
「当たらねぇよ!」
巌の如き頭ががばりと開き、ガチン! と凶悪な音を立てて閉じた。
間一髪回避に成功したリューは、すかさず反撃に転じた。斧槍を大きく後ろへ引き絞って構える。全身に力を込め、踏み込みの力を余すことなく穂先へ伝える。
「くらい――やがれええええええ!!」
強烈な刺突がヴォイドの首を突き刺した。
「今だ!」
痛みに呻くヴォイドへと、更に全員が追撃を仕掛ける。ロクスと鵤の銃器が火を吹く。
「チャンスやんね!」
「くたばりなさい!」
「いい的だ、そのままいるといい……」
崖上から、三人が一斉射撃を敢行。
「野郎、こいつも持っていきやがれ!」
ハイテンションで銃弾をぶっ放すエリス。口調まで変化していた。
ヒビキはマテリアルを込めた全力の射撃を放つ。
「袋のネズミ、ならぬ袋の亀ですね」
痛烈な反撃に身を捩った亀は、すぐに頭を引っ込めた。
「とはいえ、本当にタフだな」
リューは体当たりをいなしつつ、呆れたように呟く。
レベッカは先程から岩そのものの体積を削ろうと躍起になっていた。
「どーにも嫌な予感するのよね、あのままにしとくと……」
手が足りずに中々削れないが、やらないよりはマシだ。
更に敵が前に出たことで、真水は後方へ距離をとった。
「南條さんは痛いのが嫌いなんだ。なんだあの噛み付き。カミツキガメか。体当たりも南條さんが食らったらぽっきり折れちゃうよ」
ぺらぺらと、内容の割に余裕ありげに喋りながら真水は銃を構えた。
「それに眼鏡が壊れたらどうするんだ。これ大事なものなんだからな」
瓶底眼鏡を押し上げ、真水は甲羅目掛けて攻撃を継続する。
と、その射撃で、ついに岩の甲羅にヒビが入った。
「よし……ぶち割るぞ!」
重ねてロクスの打ち込んだ一射で、岩の甲羅の一部が剥落し、内部が明らかになった。
ヴォイドが奇っ怪な音の悲鳴を上げる。
「チャンスやね!」
紗耶香の弓矢は、岩の隙間に綺麗に突き刺さった。確実にダメージが通っている。
「こうなれば、後少しです!」
ユキヤのホーリーライトが甲羅の割れ目を押し広げる。そこへ銃弾が殺到した。
甲羅が無意味になったことを悟ったのか、ヴォイドは低く吠えると、身を揺すりだした。
「っ、みんな隠れて!」
とレベッカが叫ぶのにやや遅れて、ヴォイドは甲羅を振り飛ばし始めた。
「ぅおっ! あっぶねえわぁー」
鵤は大きな岩を転がって避け、小さな礫はムーバブルシールドで打ち落とした。
「っと、随分派手じゃねえか!」
ロクスは咄嗟に横の岩へと転がって隠れた。遅れてエリスも飛び込んでくる。
「ひー危ない危ない! 石の雨とか洒落になってないよ!」
リューと真水もそれぞれ岩に隠れた。幾つかは崖上へまで飛んでいったが、ネイハムは空中の岩を狙撃して破壊する。
「あっぶな!」
紗耶香とレベッカは顔を引っ込めてどうにか岩を回避した。
(避けきれませんね)
ヒビキは動じずに弓を引き、マテリアルを込めた一射で大きな岩を破壊していく。礫の幾つかが体を打つが、その程度なら問題はない。
そして岩の雨が止み、ヒビキは岩の鎧を失ったヴォイドを見据えた。
「さぁ――終わりにしましょう」
間髪入れずに彼女は本体へと射撃を敢行する。矢は本体の甲羅の上からでも深々と突き刺さった。岩に比べれば柔らかい。
ロクスも岩陰から剣を構えて飛び出した。
「オラァ、死にさらせ!」
強烈な斬撃が叩き込まれ、飛び退いたロクスと入れ替わりにリューのバルディッシュが弧を描く。
「これでどうだっ!」
渾身の一撃によろめき、吠えながら痛みを訴えるヴォイドへ、ネイハムはふと口元が釣り上がるのを感じた。
「あぁ、そうしてくれる方が撃ち甲斐があるね……」
スコープ越しに狙いを定め、ゆっくりと引き金を引いていく。
「けれど、これで終わりにしよう」
その銃弾が、ヴォイドの体を貫通した。
全員が警戒する中、ヴォイドはぶるりと身を震わせると――。
ズシンと音を立てて倒れた。
●
「怪我してる奴はいないか?」
リューはバルディッシュをしまうと皆に尋ねた。
「リューさんが一番怪我が深いと思いますよ」
ユキヤは曖昧に笑って、彼にヒールをかけた。
「さて、んじゃ撤去始めっかね……」
「もう岩の片付けするの? えー、疲れたからちょっと休もうよー」
ロクスが音頭を取り、撤去作業は再開された。エリスは仰向けに寝転がって抗議していた。
「有志の方だけでいいですから」
「うぐ」
とはいえ、そんなことを笑顔でのたまうヒビキを前にすると、流石にいたたまれない。
「今度は手伝うよ」
ネイハムも崖上から降りて、岩の運搬に精を出している。
「疲れていないしね……エリス君は休んでいるといい」
「やったー、エイハムちゃんやっさしー! イケメン!」
エリスはそれっきり目を閉じてしまった。調子のいい人だなぁ、とエイハムは苦笑した。
「えー、じゃあおじさんも休む! って言えないところが男の辛い所だねぇ」
鵤もせっせと岩を押していた。
「南條さん、今日はもう疲れちゃったよ。これで勘弁して下さい、いやほんとに」
真水はスキルを使って岩を砕いていた。その場から動く気力はないらしい。
「それにしても大きかった……あの背に乗ってのんびり旅に出るっていうのも、うん。おもしろいかもしれないね」
呑気に岩を破壊しながら、真水は呟く。
「ヴォイドでなければ考慮しましたけど」
ユキヤは苦笑しながら杖を振り下ろした。彼も岩を砕いて回っている。
「よっこいしょ! ……あー、終わった後が一番重労働ってどうなの、ねぇ」
レベッカは砕いた破片を抱えて歩き出した。
「うち、ドボジョとちゃうんやけどしゃあないなあ」
紗耶香もぼやいた。
ロクスは片付けがてら、崖上の様子などもチェックして回っていた。崩れそうな地点がないか確認しているのだ。
「また駆り出されるのも面倒だからなァ」
彼がどこまで本気でそう口にしているのかは、誰にも分からないままであった。
依頼結果
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依頼相談スレッド ロクス・カーディナー(ka0162) 人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/10/30 16:56:36 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/27 17:18:47 |