Death laugh

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
3日
締切
2017/06/19 19:00
完成日
2017/07/02 01:43

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 澄み渡った晴天の下、祭りの喧噪が溢れ返る。
 常ならば、轍の音を響かせながら馬車が行き交うメインストリートを、仮装に身を包んだ人々が同じ方向を目指してパレードする様子は、見ているだけでも非日常の世界へと足を踏み入れたかのような感慨を覚えさせる。
 パレードに参加する街の住人達や、踊り子に楽団のメンバー──それら全ての顔に共通する一点が、更に輪を掛けて、観る者を異世界へと迷い込んだような心地にさせた。
 骸骨。
 彼らは皆一様に、しゃれこうべの化粧を身に付けているのである。いやそれは参加者のみならず、列の途中にちらほらと見られるオブジェ、それを牽く馬の被り物に至るまで、にっかりと笑みを拡げる白骨がモチーフになっていた。
 聞くところによれば、それは死者の魂を慰めると同時に、“死”という概念そのものを奉る祝祭なのだという。
 どうあっても避け得ぬ“死”を謳い踊る骸骨のパレード。何故彼らは皆、この世の憂いなど知らぬとばかりに笑みを広げているのか。
「人ばっかり。こんなの初めてだわ」
 そんな風俗の妙に思い耽る事もなく、ラウラ=フアネーレはただ目新しい光景へ、年相応に見入るのみである。旅に出てからこっち、雑踏にも慣れて来た彼女ではあるが、これほど規模の大きい祭事に出くわしたのは初めてで、何もかもが目新しい。
 パレードのみならず、祭り一色に染め上げられた街の至るところで骸骨を見る事ができた。
 例えば、この辺り一帯で住人達が好んで被る帽子を、観光客向けに売っている出店などは、商品を骸骨の上に被せて陳列している。
「変わった帽子ね」
 内側に反り返った広い庇に、高いクラウン──俗にテンガロンハットと呼ばれるその帽子を手に取り、試しに頭に乗せるラウラ。彼女の小さな赤い頭には、傍目に見てもサイズが合っていないのだが、そこはそれ、祭りの昂揚に幾らか浮かれているのだろう。
「どう、似合うかしら」
 彼女は後ろを振り返り、足許に付き添う一匹の黒猫──ルーナを見下ろした。黒猫は、ラウラに一瞥こそ寄越したものの、すぐに関心を失った様子でそっぽを向き、ただ尻尾をゆらりと揺らすばかり。
 この反応に、むむと顔をしかめたラウラは、右手でピストルの形を作り、仮初の銃口をルーナへと向けた。
「命が惜しくば、こっちを向くんだな」
 そればかりでなく、声音を低くして脅し文句を口にする始末である。無礼講とはいえ、些か羽目を外し過ぎではなかろうか。──或は、努めてそう振る舞っているのか。
 なぁう。これには流石に思うところがあったのか、仕方なくといった調子で、ルーナが視線を戻す。だけでなく、彼女はその蒼月の瞳をラウラの翠玉の瞳へ、ジッ──と合わせた。
「あう」その眼差しを遮ったのは、ラウラの赤毛からずり落ちたテンガロンハットの庇である。
 ルーナは呆れたような素振りで視線を切ると、今度こそ我関せずといった調子で顔を洗い、身だしなみを整える作業に没頭し始めた。
 ラウラはと言えば、決まり悪そうにピストルの手真似を解くと、頭の帽子を取ろうとする。──その時だった。

 見ぃつけた♪

 ラウラの背中に、そう声を掛ける者があったのは。その声は、何処か稚気を感じさせるモノだった。
 声に振り返ったラウラが見たのは、一人の青年である。
 シャツはうっすらと青く、紺色のスラックスはベルトではなく、マリンブルーのサスペンダーで留めている。
「あれぇ?」
 青年は、腰を折って顔を下げながらラウラの顔を覗き込んだかと思えば、首を傾げてみせた。やはり稚気めいたその仕草と共に、背中から首筋へ、一房に纏めたブロンドが流れ落ちる。後背まで伸ばした後ろ髪を低位置で纏め、ビーズを束ねた髪留めを巻いて結わっているらしい。
「あの。あなたはどちらさま?」
 青年に釣られてというわけでもなかったが、ラウラも小首を傾け返した。
「あっちゃぁ、ごめんねぇ。どうも、人を間違えちまったみたいでさぁ」
 誰何には応えず、青年は身を起こして頭を書きながら、言い訳がましく言った。
「人を探してるの?」
「そうなんだよ。ボクの連れなんだけどねぇ、この人だかりではぐれちゃって。君とおんなじ年頃で、丁度そんな感じの帽子を被ってるもんだから、間違えちゃったよ」
「それじゃあ、迷子の子を探してるの? 大変じゃない」
「いやいや、ボクなんかと違って、しっかりした子だからねぇ。あの子にしてみれば、寧ろはぐれたのはボクの方だと思ってるかもしんないなぁ」
 確かにこの青年、これまでの言動を聞く限り、眼を離せばふらりと飛んで行きそうな人となりをしている。このまま放っておくと、その連れの子供と再会を果たすのは難儀であるように思われた。
「それじゃあ、わたしも手伝ってあげようか?」
 そう考えた末に申し出る。勿論ラウラとて、この不審を煮詰めて出来上がったかのような青年に何も思わなかったわけではない。それでも同行を申し出たのは、彼からは、悪意が感じられなかったからある。
 旅の道すがら、悪党を目にし、その為すところを一度ならず被りさえした彼女は、生来の直感の高さもあって、悪意というモノを感覚的に察するようになっていた。
 肌を焙るような冷気として、或は血を凍らせるような熱気として。だがこの青年からは、そのどちらも感じないのだ。
「ううん、でもなぁ、せっかくのお祭りなのに、付き合わせるのもいかがなものかなぁ」
 なにやら考え込む素振りで、青年は腰と額に手を添える。その時、男の左脇に吊ってあるホルスターに気が付いたラウラは、ふと疑問を発した。
「あなたも、ガンマンなの?」
「うん? ああ、そうだよ。今は空っぽだけどね」
 台詞の通り、空のホルスターを右手で撫でた青年は、不意に「あれぇ?」と再び首を傾げた。
「ていうことは、お嬢ちゃん。他にガンマンのお知り合いがいるのかい?」
「ええ、そうだけど」
 頷くラウラに、「ふぅん、そっかそっか」と思わせ振りに相槌を打つ青年。
「やっぱりお願いしようかなぁ、人探し」
 やがて彼は、「袖振り合うも、なんとやらって言うからね」などと付け加えつつ、ラウラに向けて手を差し伸べた。 
「ミハイル=フェルメールっていうんだ。以後、お見知りおきを」
「わたしは、ラウラ。ラウラ=フアネーレよ」
 相手の名乗りに応じながら、ラウラが手を握り返そうとした時──
 にゃぁう。青年──ミハイルとラウラの間に、黒猫が割って入った。
「君は──なんてお名前かな?」
 自分をジッと見上げる蒼月の瞳を受けて、囁くように問うミハイル。
「この子はルーナって言うの」
「ふぅん、そっかそっか」
 ミハイルはその口許に浮かべる笑みの毛色を僅かに変え、一人の少女と一匹の猫に微笑み掛ける。
「それじゃあ、僕なんかがお相手じゃ不満だろうけど、お伴願おうかな?」

リプレイ本文

 奇妙な少女だった。
「鬼のお兄さん」
 イッカク(ka5625)の背に、そう声を掛けたのは。
 言動から出で立ちに至るまで粗野な男に、往来で声を掛ける者など滅多に居るものではない。故にイッカクは、振り返るよりも前から、眉間に皴を寄せていた
「……なんだよ、ガキ」
 振り返った先に居たのは、奇妙な少女だった。
 奇しくもイッカクと同じ銀髪。その頭頂にはあまり似つかわしくないテンガロンハットを被っている。
 目鼻立ちは端正なもので、イッカクを前にしても眉一つとて動かさぬ様子が相俟って、何処か人形然とした顔だ。
 何より奇異なのは、その背と懐に種類の異なる銃を携えている事だった。
 背に背負っているのは、ライフル。彼女の背丈とほぼ同等の長さを誇る長物である。そして、両腕の中に抱えているのは布にくるまれたリボルバーだった。
「人を探しているのです」
 少女は片手を上に持ち上げると、眉間を摘まんでみせる。
「こんな風にしわを作っているあなたとは違って、なにが可笑しいのかいつもニコニコと笑っている人です」
 そして今度は指で口角を持ち上げてみせた。
「見掛けたりしませんでしたか?」
 少女は、くいと小首を傾げる。──終始、自ずからは表情を動かさぬまま。
「知らねぇよ、他所を当たりな」
「そうですか。手間をお掛けしました」
 芳しくない返事に、少女はさして落胆した様子もなく「それじゃあ、さよならです」と言って歩き去ろうとした。
 イッカクはそれを流し目に見送ろうとしたが、彼女の矮躯では二挺の銃を持て余すらしく、その歩調は危なげだ。
 舌打ち一つ。
「そいつを寄越しな」
 いや、それでは強盗の台詞だ。
「……銃を貸せ。その恵比寿ヅラしてる野郎見付けるまで持っててやる」
 そう言い直しながら、イッカクは銃に手を伸ばす。が、少女はそれをするりと躱した。
「なんだよ、別にぶん盗ろうってわけじゃねぇ」
「これは、ワタシが持ってないといけないものです」
 そう言いつつ、少女は懐の拳銃を強く抱く。その様子に再び舌を打ったイッカクは、野放図な髪を掻き毟り、唐突に少女の矮躯を抱き上げた。
「──これなら良いだろが」
 少女を肩車しながら、仏頂面のまま鼻を鳴らすイッカク。その頭の上で、少女は「おお」と声を上げる。驚きを表しているにしては、平坦な声だったが
「さすがは鬼のお兄さんです。これなら遠くまでよく見えます」
「イッカクだ。鬼のお兄さんじゃねぇ」
 鬱陶し気に告げるイッカク。対する少女は「イッカク、ですか」と彼の名前を舌の上で転がす。
「おかしな名前です」
「余計な世話だ」
「ワタシは、カトリーナといいます」
 再三舌打つイッカクに取り合わず、少女──カトリーナは言った。
「ところで、イッカクお兄さんを動かす時は、この角で操ればいいですか?」
「そいつに触ったら振り落すぞ」



「ラーウラ♪」
 底抜けに明るい声と共に、後ろから抱き着く者があったのは、ミハイルを伴に加えてから間もない時だった。
「パ、パティ?」
 驚くよりも前に、ラウラはふと思い至った名を呼ぶ。
「もうばれちゃッタ!?」
 頭を抱く手が緩むや、その聞き知った声に「やっぱり」と零しながら、ラウラはくるりと身体を回す。
「──って、だれ!?」
 だが次に面を喰らったのは、見知った顔を求めて後ろを振り返った彼女の方だった。
「えへへ~。おどろいタ?」
 眼を丸くするラウラに、ふにゃりと首を傾けてにぱぁと満足そうに笑うのは、やはりパトリシア=K=ポラリス(ka5996)だ。彼女はその向日葵のような笑みとは別に、この祭りの風習に準じて、ドクロの笑みを顔に描いていた。
「これはまた随分、可愛らしいドクロが居たもんだね」
「んー? あなたはラウラのお知り合いサン?」
 横合いからにこやかに口を挟んだミハイルに対し、パティはかくり──と首を逆方向に傾がせた。
「──やいこら、パティ」
 ミハイルが応じようとした矢先、パティの背後で僅かばかり強(こわ)い声を上げる者があった。
「ばね仕掛けの玩具じゃあるめェし、いきなり駆け出すヤツがあるか。」
 小言めいた口調でそう言ったのは、反りの深いカウボーイハットを被った男──J・D(ka3351)である。
「あう」と呻いたパティは、やがて「だって、ラウラがいたカラ……」と、抗弁を口の中で呟いた。
「そいつは承知してる。だがそう落ち着きがねェんじゃ、危なかしくていけねェな」
「あうう」と見るも明らかに萎れるパティ。
「まァ、反省してるなら構わねェが」
「ハイ! パティは反省してるヨ♪」
 見かねたJDが態度を軟化させると、パティは一転して笑みを浮かべ、ここぞとばかりに手を高く掲げる。それを見たJDは「ったく」と息を吐いて、ラウラとルーナの方を見遣った。
「しばらく振りだな。あの二人も含めて、達者にしてたか?」
「うん、大丈夫よ」
 大丈夫──その言葉の響きが妙に気には掛かった。
「そうかい、そいつはなによりだ」
 だがJDはそう応えるだけに留めておいて、視線をラウラの傍らに立つミハイルへと向けた。先程から終始笑みを絶やさぬ彼の顔が、帽子の庇の奥に佇む黒水晶のレンズへと映り込む。
「ところでおめェさんは、ラウラの知り合いかい?」
 JDは奇しくも、パティと同じ問いを発する。その声音は、声域の差だけでない違いがあった。
「ついさっき友達になったんですよ。ねぇ?」
 その声音の違いに気付いていない素振りで、ミハイルはラウラに向けて微笑んだ。
「え? いつなったの?」
 しかしラウラは、きょとんとした顔でそう返した。それを見たJDは口端にニヤリとした笑みを浮かべると「袖にされちまったなァ?」と零す。この男には珍しい、他人を揶揄するような笑みだった。
「どうやら、そうみたいですねぇ」
 ミハイルはと言えば、変わらぬ笑みを返すばかり。そしてパティは、不思議そうにかくん──と首を巡らせる。
「ほら、こんなとこで立ち止まっている暇ないでしょ。迷子案内の途中なんだから」
 のんびりとしたミハイルを急かすように、ラウラが手を叩いた。
「迷子?」と、パティが四度小首を傾げた。



「おや、こいつは奇遇で」
 ミハイルの連れを探しがてらに祭りを巡る一行にそう声を掛ける者があった。カッツ・ランツクネヒト(ka5177)である。
「HAHA、こりゃまた、顔馴染みが揃い踏みだ。なぁ、マックス」
「ラウラちゃんに、パティちゃん、それに……ルーナさまも!」
 彼だけでなく、エリミネーター(ka5158)や、飼い主の発言に同調して鳴声を上げるシェパード犬マックス、そして、ディーナ・フェルミ(ka5843)も共に居合わせていた。
「またお知り合いかい? お友達が多いのはいいことだねぇ」
 相も変わらぬ笑みを表ヅラに貼り付けたまま、ミハイルが声を発した時、三人が三人共に目の色を変えた。
 変化が最も顕著だったのは、ディーナである。
 エリミネーターは元刑事としての経験から、カッツは元来の飄けたタチから、その変化を素知らぬ笑みで上塗りしたが、ディーナはと言えば、そうもいかなかった。パティと同じく笑う髑髏をモチーフに、しかし彼女とは違ってカラフルな色使いで半面にだけ施したペイントが、ディーナ自身の表情に反して浮かび上がる。人に対して敵意や害意を抱く事に慣れない性分の少女の事、そうおいそれとソレを隠す事は叶わなかった。
「どうしたの、ディーナ」
 出会い頭のラウラが、再会を喜ぶのも忘れて心配そうな声を掛ける。
「う、ううん。なんでもないの」
 遅まきながら笑顔を浮かべて、取り繕うディーナ。そうしながら、彼女は自分の心に宿った衝動に驚いていた。その正体が何なのかはわからない。だがその由縁は知れていた。
 ミハイルの笑み──陰を塗り潰す白光のような、白々しい笑みがそうさせるのだ。
 光。
 それは、聖導士である彼女にとって道標とも言えた。だが、強烈に過ぎる光は、時に闇を見失わせる。──たとえ足許に、奈落の淵がぽっかりと口を開けていたとしても。
「ほんとに大丈夫?」
 首を傾がせながら、上目遣いにディーナの顔を覗き込むラウラ。その邪気のない振舞いに心和まされる間もあればこそ、焦燥の方が前に出る。
 どうしてそんな風にいられるの──と。
 そんな思いを抑え切れずに、咄嗟に浮かべた笑みが綻び掛けたその時──彼女の頭の上に、黒猫がひょいと跳び上がる。
「あ、またルーナったら。もう、人の頭はあなたの椅子じゃないのよ?」
「……いいの、ラウラちゃん」
「ディーナってば、相変わらずこの子に甘いんだから」
 唇を尖らせるラウラに、ディーナは小さく首を横に振った。
「ううん。そんなことないの」
 そして彼女は、再び、ミハイルの笑みをキッと睨む。一歩踏み出てラウラの背後に回りながら放ったその視線には、明確な意思が伴っていた。
 決して穏やかならぬその眼を向けられたミハイルは、やはり打って変わらない漂白とした笑みを返すばかり。いや──幾ばくか、ただでさえ細い眦を、更に細めた。
「──おたくはお初みてぇだが、一体どちら様で?」
 そして彼が何事かを発しようと口を開き掛けた時、カッツが軽薄な笑みを浮かべながら、ディーナの更に前へと踏み出した。
「さっきフラれたばかりだから、今はとりあえずラウラちゃんのお知り合いってことで」
 悩む素振りをみせたかと思えば「よろしくどうぞ」と、すぐにニコリと笑みを張るミハイル。「そいつはまた」とカッツは、へラリと応じる。
「釣り上げる気もねぇサカナ引っ掛けるたぁね。──お祭りだからって、ハメの外しすぎじゃねぇか、ラウラ嬢?」
 肩越しにラウラへと流し目を送るカッツ。その瞳は笑みを浮かべていながら、何処か諭すような気配があった。
「そ、そんなんじゃないわ」
 僅かに平素と異なるその笑みに半ば気圧されたように応えるラウラ。その様子に、カッツは「別に責めてるわけじゃねぇさ」と苦笑を返す。
「ただこういう場所じゃ、無礼講に紛れてよからぬ虫が居やがるもんだからな。気の抜き過ぎは頂けないねぇ。
 なぁ、おたくもそう思うだろ?」
 だがミハイルに向き直ってみれば、瞳に宿る笑みは消えこそしなかったものの、その気配はナイフ染みた鋭さへと転じていた。
「ええ。ボクみたいな紳士が相手で本当によかった」
 対するは、肩すかしの笑顔。ガラス然とした彼の瞳には、笑みの他に宿るモノがなかった。
 緩やかにかぶりを振ったのち、カッツは気を取り直して、ミハイルを見据える。
「そんじゃその紳士サマは一体どんな用件で、垂らしてもねぇ釣り糸に喰い付いたってんだ?」

「HAHA,そういうことなら任せな」
 事の経緯を聞いたエリミネーターは開口一番にそう言った。
「人探しなら、固まって歩く道理もないだろうし、ここは二手に分かれるとしよう」
 その提案に一も二もなく乗ったのは、ディーナである。
 そして、ミハイルとラウラが共に行動する事に、最も反対したのも彼女であった。ミハイルは、あっけなく身を退いたが、ディーナ、パティ、そして「両手に花でも足りねぇな、こりゃ」と宣うカッツと共に行こうとしたラウラに、ビーズを通した髪留めを投げ寄越した。
「そいつを腕にでも着けといてよ。あの子は眼が良いから、向こうから見付けてくれるかも」
 そして、ラウラの背後から尚も敵意を剥き出しにした視線を送るディーナに手を振りながら、彼はJDとエリミネーターの方へと歩みを向けた。

 並んで歩く途中に、エリミネーターはミハイルの左脇に吊ってある空のホルスターを示した。
「そいつは飾りにしちゃあえらく使い込まれてやしないか。縁が焦げてるのは、鉛玉放ったばかりの銃をねじ込んだからかねぇ」
 ミハイルが何か応じるその前に、同じく共に往来を行くJDが「それだけじゃねェ」と後を継いだ。
「さっきから踏み足の重心がちょいとばかり右に偏ってやがる。そいつは、常日頃から身体の左っかわに余計な重り提げてる証しじゃねェか?」
 両側に並び立つ二人の男から何処か剣呑な気配を孕んだ視線を向けられて、ミハイルは立ち止まった。
「やだなぁ、もしかしてボク、痛くもない腹を探られてます?」
「本当に、その腹に一物も抱えてなけりゃ、世は事もねェんだがな」
 薄っぺらな笑みを見透かさんとばかりに、JDはサングラス越しに視線を向ける。だが、そこには何もない。何処までも透かして見えるのに、底が無いのだ。
「おっかないなぁ。恐いから、ボクはそろそろお暇しますよ」
 やがてミハイルは、すっ──と二人の間を抜き去った。百戦錬磨のガンマンと、熟練の元刑事のその隙間を、何気なく。
「──そのミサンガはお近づきの印にあげるって、あの子に伝えておいてください」
 虚を突かれた二人は、すぐさま振り返る。──しかし、そこには雑踏があるばかりで、かの青年の姿など何処にもなかった。



「なにしてやがる」
 イッカクは、唐突に額の角を掴んだカトリーナに眉を上げた。彼の場合、それだけでも人を委縮させるに十分である。
「さっきこうすれば下ろしてくれると言ったのは、イッカクのお兄さんです」
 事もなく返したカトリーナに、舌打ちを零しながらも、イッカクは存外柔らかな手付きで肩の上から少女を下ろしてやる。
 そして彼が顔を上げた時、その青年は居た。
「やぁ。探したよ、カトリーナ」
 その恵比須顔を目にした途端に、イッカクは殆ど反射的に左手を、佩刀した刀の鞘に掛けて鯉口を切っていた。右手を柄に伸ばさずにおいたのは、青年とイッカク、彼我の狭間にカトリーナが居合わせていたからか。
「……てめぇ、なにもんだ」
 獣が唸るような声に、抜き放たれなかった白刃を思わせる剣呑な気配が滲み出ていた。
「ミハイル──」
「名前なんぞ訊いてねぇ。
 その薄気味ワリィ面構えはなんだって言ってんだ」
 誰何に応じようとした声を遮るイッカク。対するミハイルは、笑みを零しながらカトリーナを見遣った。
「ボクの銃を返しておくれよ」
「ダメです。少なくとも、今はあげられません。今返したら、ミハイルはイッカクのお兄さんを撃つ気です」
 だから、ダメです。そう告げる少女に、ミハイルは首を傾げた。
「へぇ。君が選り好みするなんて、珍しいこともあるもんだね」
 まぁいいや。ミハイルはそう呟くと、拘泥する事もなく踵を返す。その後を追おうとするカトリーナ。
「待ちやがれ、ガキ。おまえ、アレがなんなのか承知してやがんのか」
 その背へ、イッカクは問いを放っていた。
 少女は振り返ったのち、しばらく口を噤んでいたが、やがて抱えていた銃から片手を離して小さく振った。
「──さよならです。できればもう、お会いしませんように」
 そしてミハイルに続き、彼女もまた髑髏行き交う雑踏に消えて行く。
 
 じゃきん──と。

 舌打つ代わりに、イッカクは金丁の音を鳴らした。

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MVP一覧

  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843

重体一覧

参加者一覧

  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • クールガイ
    エリミネーター(ka5158
    人間(蒼)|35才|男性|猟撃士
  • この手で救えるものの為に
    カッツ・ランツクネヒト(ka5177
    人間(紅)|17才|男性|疾影士
  • 義惡の剣
    イッカク(ka5625
    鬼|26才|男性|舞刀士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/19 16:04:29
アイコン お話しましょ♪
パトリシア=K=ポラリス(ka5996
人間(リアルブルー)|19才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2017/06/17 15:23:03