ゲスト
(ka0000)
【郷祭】村長祭ダービー!
マスター:cr

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/05 22:00
- 完成日
- 2014/11/12 14:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●人馬一体
一面に広がる芝生。広大な緑の絨毯は見るだけで目に薬だ。
そこに多くの人々が集まってくる。人々の目的は一つ、これから始まる大イベントをひと目その目で見ることだ。
やがてドドドドッ、という重く深い音が響く、音はどんどん増え、リズミカルに鼓動を奏でる。そして現れる黒、茶色、灰色、栗色……様々な色の肉体。走るために生まれた流線型の姿が緑の上を駆け抜ける。流れるたてがみ。揺れる尻尾。そう馬だ。
人々は村長祭の一大イベント、競馬大会を見るために集まってきたのだ。
●ウマく行くのか
距離は正面の直線真ん中からスタート、この特設競馬場を一周してスタート地点まで戻ってくる2400メートル。リアルブルーの競馬ではクラシックディスタンスと呼ばれ最も伝統的な距離とされている。クリムゾンウェストでも同じ距離なのは偶然か、はたまた必然か。
最も早い者は誰か。人間が本能的に知りたいと思う疑問に実にシンプルな形で答えるこの競馬。大々的な馬券販売なども行われておらず、あくまでジェオルジの村祭りの域を出ない。それでも多くの人々はこの競馬を楽しみにしてきた。
競馬は予選と決勝に分けて行われる。つまり決勝に進出した馬はこの距離を2回走らなければならない。スピードだけでなくスタミナ、戦略、そして何より馬と鞍上の息……全てが揃った者の上に栄冠が輝く。
●ウマ合う二人
「毎年見に来ていますが楽しみですね。皆さんもそのようです」
バロテッリ商会番頭、モア・プリマクラッセ(kz0066)はそう淡々とつぶやく。声に感情は出ないが、心のなかは興奮しているだろうか。
「あたしもチャンスがあったら参加しようかな」
この地域を治めるジェオルジ家に連なる人間であるルイーザ・ジェオルジもそう言う。彼女はハンターであり、一族の中では異端であるが体を動かす方を得意とするタイプだ。そんな彼女もこの競馬を楽しみにしていた。
そしてまもなく第一レースが始まる。ゲートに馬が入る。村長祭競馬大会、優勝するのは――
一面に広がる芝生。広大な緑の絨毯は見るだけで目に薬だ。
そこに多くの人々が集まってくる。人々の目的は一つ、これから始まる大イベントをひと目その目で見ることだ。
やがてドドドドッ、という重く深い音が響く、音はどんどん増え、リズミカルに鼓動を奏でる。そして現れる黒、茶色、灰色、栗色……様々な色の肉体。走るために生まれた流線型の姿が緑の上を駆け抜ける。流れるたてがみ。揺れる尻尾。そう馬だ。
人々は村長祭の一大イベント、競馬大会を見るために集まってきたのだ。
●ウマく行くのか
距離は正面の直線真ん中からスタート、この特設競馬場を一周してスタート地点まで戻ってくる2400メートル。リアルブルーの競馬ではクラシックディスタンスと呼ばれ最も伝統的な距離とされている。クリムゾンウェストでも同じ距離なのは偶然か、はたまた必然か。
最も早い者は誰か。人間が本能的に知りたいと思う疑問に実にシンプルな形で答えるこの競馬。大々的な馬券販売なども行われておらず、あくまでジェオルジの村祭りの域を出ない。それでも多くの人々はこの競馬を楽しみにしてきた。
競馬は予選と決勝に分けて行われる。つまり決勝に進出した馬はこの距離を2回走らなければならない。スピードだけでなくスタミナ、戦略、そして何より馬と鞍上の息……全てが揃った者の上に栄冠が輝く。
●ウマ合う二人
「毎年見に来ていますが楽しみですね。皆さんもそのようです」
バロテッリ商会番頭、モア・プリマクラッセ(kz0066)はそう淡々とつぶやく。声に感情は出ないが、心のなかは興奮しているだろうか。
「あたしもチャンスがあったら参加しようかな」
この地域を治めるジェオルジ家に連なる人間であるルイーザ・ジェオルジもそう言う。彼女はハンターであり、一族の中では異端であるが体を動かす方を得意とするタイプだ。そんな彼女もこの競馬を楽しみにしていた。
そしてまもなく第一レースが始まる。ゲートに馬が入る。村長祭競馬大会、優勝するのは――
リプレイ本文
秋晴れの青空の下、お待ちかねの村長祭競馬大会が始まった。さあ、早速レースを始めよう。
●第1レース
1枠:ユリアン(ka1664)&アルエット
2枠:リュー・グランフェスト(ka2419)&テンペスト
3枠:天川 麗美(ka1355)&ピンポンダッシュ
4枠:Uisca Amhran(ka0754)&エポナ
5枠:エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)&カンバス
早速予選第1レースに参加する馬たちが馬場に入場し、返し馬を始める。
「楽しんで、勝つつもりで頑張ろうなアルエット」
まず1枠に入ったユリアンがアルエット号と共に馬場に飛び出す。馬場を駆けまわり、芝にアルエットを馴らすユリアン。そこに声をかけたのはリューだった。
「へっ。他の奴らに負けんなよ!」
「勿論。負けるつもりはないよ」
同世代で共に戦った事もある二人は顔見知りであり、そしてライバルとも言うべき存在だ。声を交わし、手を打合せてゲートに入る二頭。
「よし、名前の通り派手に行くぜ、テンペスト!」
鞍上のリュー共々気合は十分だ。
「なんか面白そうよね。目一杯楽しんでみるつもりよ」
3枠に入った麗美は勝敗は二の次、楽しむことを優先している。そんな彼女の愛馬はピンポンダッシュ号。麗美がリアルブルーの文化を調べ、すごく早く走ることを意味する言葉、と聞いて名づけたものだ。果たして名前の通り、すごく早く走るのか。
「エポナ、一緒に頑張ろう♪」
4枠はイスカとエポナ号。エルフの、しかも巫女であるイスカは自然に息づく精霊との交信能力が高い。今回はこれを生かし、エポナの力を引き出して走ろうと思っている。
そして5枠は芦毛の馬、カンバス号だ。鞍上のエヴァは速歩で走らせたり、駆歩で走らせたりしながら、怒った表情や満面の笑みでカンバスの顔を覗きこんでいる。彼女は一言も喋っていないが、代わりにスキンシップと表情で自らの意思を伝える。
かくして全馬がゲートに入る。一瞬の静寂。スターターが旗を一振りするとゲートが開き、五頭が一斉に飛び出した。
まず鼻を切ったのはカンバス。
(早く走るにしろ遅く走るにしろ、次レースまでに体力は減っちゃうもんね。なら、予選だけでも派手に目立たなきゃ!)
そう考えたエヴァが首をトントンと叩くと、グングン加速していく。そうやって逃げを打つカンバスに付いていくのがテンペスト。
「いけえっ!」
鞍上のリューの気合と共にカンバスを追い抜くテンペスト。かわされたカンバスも負けじと抜き返す。互いに抜きあう激しい先頭争い、明らかなオーバーペースだが
「飼い主に似るってーしな。仕方ねぇ。俺もちまちましたのは性に合わねえ」
と止めずに全力で飛ばす二頭。
一方同じく逃げを考えていたイスカだが、エポナが気持よく走れることを重視して無理に前を行く二頭を追っていかない。少し後ろから道中は気分よく競馬を進めることを選択した。
やや開いて馬群後方からの競馬になったのはアルエット。馬群から離されないように、しかし無駄なハイペースに巻き込まれて潰れないように慎重な競馬でチャンスを伺う。
最後に馬群から離れた位置に陣取ったのがピンポンダッシュ。鞍上の麗美は馬に鞭を入れることに抵抗があるため、持ったまま自分のペースで道中を進める。
このまま向こう正面を駆け抜け、第三コーナーに入ったところで異変が起こる。オーバーペースに疲弊し、ペースが落ちていく前を行く二頭。この隙を逃さず鞍上イスカが鞭を一つ入れると、エポナは楽々前の二頭を交わして先頭に立った。
「風を感じられて、すごく気持ちいいです♪」
満面の笑みでトップを走るエポナとイスカ。
一方アルエットにも動きがあった。最後の直線で差しきるためには、良いポジションで最後の直線に入りたい。前を見て隙間を見つけ、コースの内側でその時を伺う。
ピンポンダッシュはここでも馬なりの競馬。変わらず最後方で待機している。
そして最終コーナーを抜けて直線へ。ここでアルエットが仕掛けた。決めていた合図の尻を一叩き。これと同時にテンペストとカンバスの間を抜けて一気にエポナの元へ迫る。エポナが逃げ切るか、アルエットが差しきるか。だが、勝負はこの二頭だけではなかった。
「ピンポンちゃんがんばれー」
その麗美の声と同時にピンポンダッシュは尻尾をグルンと一回しすると、唸りを上げてぐんぐん加速していく。
残り200メートル、ここでエポナとアルエットが並んだ。抜きつ抜かれつのデッドヒート。だが大外からピンポンダッシュが迫る。ゴール板まであと少し。
最後の脚を使いエポナを交わしきったアルエットだが、それ以上のペースで迫るピンポンダッシュ。続けてエポナをかわし、前にいるのはアルエットのみ。
逃げるアルエット、追うピンポン、あと一馬身、あと半馬身……。
だが、そこがゴールだった。勝者と敗者を分けたのは、内を回ったか大外を回ることになったかの差だった。
ゴールを駆け抜けたアルエットの鞍上、ユリアンのもとにリューが行く。
「全力を出し切ったから後悔は無いぜ!決勝でも負けるなよ」
「ああ、勿論さ」
そう言って、再び手を打ち合わせる二人だった。
●第2レース
1枠:榊 兵庫(ka0010)&瑞羽
2枠:ソフィア =リリィホルム(ka2383)&サクラ
3枠:カナタ・ハテナ(ka2130)&馬左衛門
4枠:ナハティガル・ハーレイ(ka0023)&ティルガング
5枠:瀬織 怜皇(ka0684)&セフィリア
第1レースの興奮冷めやらぬが、続けて第2レースが始まる。が、その雰囲気は第1レースとは随分と違っていた。
「こういうお祭り騒ぎは嫌いじゃない。勝ち負けはともかく楽しませて貰おう」
と言いながら榊が入場してくる。勝敗は二の次、祭りを楽しみ、瑞羽号との絆を深めるのが榊の狙いだ。
「個人で馬を飼えるとは良い時代……いや、良い世界へ来たのじゃ。リアルブルーの頃には考えられなかったの。やるからには優勝を目指すのじゃ」
と言ってるカナタはまだ気合の入っている方。馬に駆ける斤量を減らすため、鞍上のカナタは水着姿になっている気合の入りようだ。
「……まぁ、やれるだけ、はやってみましょう」
と言っている瀬織は最初から諦めモード。それもそのはず、エルフであり馬と通じ合うことのできる恋人のイスカが、第1レースで3着に沈んだのだ。勝ち目は無いと思っても仕方ない。
「……俺はつくづく馬絡みの依頼に縁があるってモンだ」
そしてハーレイはティルガング号と馬場に入りながら苦笑いしている。ハーレイはかつて馬型雑魔やケンタウロス型雑魔の討伐依頼をこなしたことがある。そして今日は競馬に出場だ。何でこんなことになったのやらと思いつつ葉巻を一服。慌てて係員が飛んできて注意されている。本馬場は火気厳禁です。
「飛び入り参加、OKでしょうかっ!」
そして最後の一枠にドタドタとサクラ号と共に駆け込んできたのはソフィア。ソフィアは今日、たまたま納品にやってきて楽しそうなお祭り騒ぎを見つけ、ついつい参加してしまったのだ。サクラ号もソフィアが運搬のために借りてきた馬だ。しかし、このサクラ、運搬用の馬であるだけあってガッシリとした馬体はなかなかスタミナがありそうだ。
かくして五頭が無事ゲートに入りレースがスタートする。そしてレース展開も第1レースとは対照的だった。
ゲートが開くと同時に横一線に飛び出す各馬。
「見た所鼻息の荒い馬も多そうじゃ。半数以上は逃げで来るかの?ここは戦略的に考え予選は追込で行くのじゃ。上手く勝てば体力も温存でき決勝に進めるのじゃ」
カナタはそう考え、最後方につこうとした
「行くぜ!ティルガング。折角の晴れの舞台だ……お前の末脚を見せてやれ」
ハーレイもティルガングの首を撫でつつ、そう語り掛け後方に回ろうとした。しかしどの馬も前に出ようとしない。他の者達も考えることが同じだった。逃げ潰れを避けるため、全馬後方からの競馬をしようとしていたのだった。
しかし、横一列のままでゴールインというわけには行かない。結果、押し出されるように瑞羽が先頭に立った。
「……馬の扱いというならば、こちらの世界の住人に一日の長がある。ならば、少しでもリスクは下げておかないと、な」
先頭に押し出された榊は、とにかく馬が暴走しないように抑えて馬群を引っ張る。
瑞羽の後ろに外にサクラ、内にティルガング、そのまた後ろに馬左衛門とセフィリアという形で向こう正面を回って第3コーナーへ。未だ先頭は瑞羽。
「……まだ勝負するには早え。“徐かなること林の如く”ってな?」
ハーレイはまだ前に出ようとしない。そしてその考えは榊以外の全員が同じだった。瑞羽号が脚を使いきり、後ろに下がり始めた時、それがチャンスだ。コーナーをぐーっと廻りながら、今か今かとそのチャンスを待つ。
そして最終コーナーを回って最後の直線に入ったところでハーレイが仕掛ける。
「“疾きこと風の如し”――ぶっちぎれ……ッ!!!」
そして鞭を一叩き。
ほぼ同時に集中して各馬の位置を掴んでいたソフィアが、ハーレイの仕掛けに気づく。一瞬後にソフィアも一叩き。
「……最後に全てを掛けるのがポイントですよ、ね。セフィリア、行きますよ」
さらに瀬織も鞭を入れる。スタンドで応援してくれるイスカの姿が見えた。鞍上も同時に気合が入る。
カナタも同時に鞭を入れ、一気の仕掛け、さあ、まず誰が瑞羽を捉えるのか?
だが――瑞羽の脚が衰えない。未だに前で粘る。後ろから風車鞭で叩く四頭。しかし無情にも瑞羽との間合いが詰まらない。逃げる瑞羽を必死に追うが、順位は変わらずそのままの形でゴールイン。第1レースを見て、全員が慎重な競馬をした結果のスローペースが瑞羽の逃げ切り勝ちを産んだのだった。
「結果は残念じゃったが良くやったの♪ 流石、馬左衛門なのじゃ」
と馬を降りたカナタは愛馬を撫でてブラッシングしてやる。嬉しそうにいななく馬左衛門。和やかに始まった第2レースは、和やかに終わるのだった。
●第3レース
1枠:ドライバー(ka3471)&アトハノトナレヤマトナレ
2枠:レイオス・アクアウォーカー(ka1990)&クミンシード
3枠:ファリス(ka2853)
4枠:フィル・サリヴァン(ka1155)
5枠:星輝 Amhran(ka0724)&カツラダイナマイ
今回の競馬大会、馬を所有していない参加者には貸し出される。ファリスもそういった参加者だった。担当者はファリスの持つうさぎのぬいぐるみを見て、
「お嬢ちゃんにはこいつが良いな」
と言いながら連れてきたのはレッドラビット号。伝説の名馬からその名が取られた馬だそうだ。
「……宜しくお願いしますの。ファリス、頑張るからお馬さんもファリスを助けて欲しいの」
迫力のある馬体に驚きながら、餌をやりつつ毛並を丁寧にブラッシング。そんなファリスに心を許したのか、レッドラビットもファリスの顔を舐める。すっかり打ち解けたようだ。
一方同じく馬を借りてきたドライバーの馬の名はアトハノトナレヤマトナレ号。何というか実に投げやりな名前だが、それとレースは関係無い。果たしてどのようなレースを見せるのか。
「これだけ広い場所なら思いっきり走れるな」
と、広大な競馬場に心を躍らせるのはレイオス。装備も全部預けて身軽になり準備は万全だ。愛馬クミンシード号と共に狙うは優勝あるのみ。仲良しのパルム達も客席で旗を振って応援してくれている。
「祭りといえど、勝負は勝負。狙うは優勝ですね」
と同じく目指すは優勝のみなのはフィル。彼の愛馬の名前は今回登録されていないが、返し馬をしたり馬具の点検をしたりといったフィルの動きは実に堂に入っている。長年共に組んできたパートナーなのだろう、息はピッタリだ。
そして最後に馬場に入場してきたのはキララ。しっかりとケアをしてから入場してきたため一番最後になったが、そのかいあって登録名カツラダイナマイ号、本名・桂の馬体はぴかぴかと輝いている。
(ワシの身が超軽量であるが故に、他者よりも幾分、馬への負担が少ない事は活かせるのぅ?)
そう鞍上のキララは思いながら、ポーカーフェイスを保っている。それはこれからの作戦を悟られぬためだ。
「姉さまー、頑張ってー!」
「キララ、頑張ってください」
代わりに妹とその恋人が声援を飛ばす。キララと桂は前2レースで敗退したこの二人の思いも背負って走る。握る手綱に重みを感じたような気がした。
そして始まる第3レース。その展開はまた、今までとは違うものとなった。ゲートが開くと同時に各場が一斉に飛び出し、ハナを巡って激しい争いを繰り広げる。
そんな先頭争いからまずレッドラビットが降りる。無理はせず、後方からの競馬を選択する。
一方先頭争いの方も変化があった。ドライバーが鞭を叩き、馬を押して前へ前へと出ていく。
その差五馬身、六馬身……馬群から飛び出しての一人旅に入る。大逃げだ。だがこれは明らかなオーバーペース。何とかゴールまで持ってくれれば、第2レースと同じように逃げ切れるが果たしてどうか。
残す3頭は大逃げのペースに巻き込まれて潰されないよう、離れたところで馬群を作る。しかし、各馬もうこれから誰にも抜かされるつもりはない。
「逃げは逃げでも勝ち逃げでいくぜ!」
「共に勝ちに行きましょうか」
とレイオスとフィルが鞭を入れ、馬群の先頭を争っていた。
そしてここでレースに動きが起こる。早くも垂れ始めたカツラダイナマイがずるり、ずるりと下がり始める。そしてこの隙を逃さす二頭ではない。一気に突き放す。
そのまま第三コーナーを回って最終コーナーへ。ここでスタミナを使い果たしたアトハノトナレヤマトナレが下がり、代わって二頭が前に立つ。
「さあ、一気に駆け抜ける! スパートいくぞ、クミン!」
そこからグーっと行って直線に入ったところでレイオスが息を一つ入れ、鞭を一発。それが二の脚を使う合図となった。
一気に加速を始め、先頭に立ったクミンシード。宣言通りこのまま勝ち逃げか?
しかしそうは問屋がおろさなかった。大外から二つの影が飛び出してきた。レッドラビットとカツラダイナマイだ!
キララはわざと先行集団にけしかけ、ペースを十分上げさせたところで後ろに下がった。最初から直線勝負を選択していたのだ。それにまんまと引っかかった逃げ馬三頭にもはや付いていくスタミナは残っていなかった。
あとは直線での叩き合い、レッドラビットかカツラダイナマイか、カツラダイナマイかレッドラビットか?
残り200メートル、前に出たのはレッドラビット。半馬身の差が開いたところでカツラダイナマイが再び加速。客席からの歓声を背に受け、レッドラビットを交わすとそのまま差を広げ、一馬身開けてゴールを駆け抜けた。カツラダイナマイと鞍上のキララの見事な作戦勝ちだった。
レースが終わればノーサイド。スタミナを使い果たした馬を各人がねぎらう。
「よく頑張ってくれましたね」
レースは残念な結果に終わったが大切なパートナーだ。フィルは自分の愛馬の首を優しく何度も撫でていた。
●第4レース
1枠:天竜寺 舞(ka0377)
2枠:アルメイダ(ka2440)&リンク
3枠:Jyu=Bee(ka1681)&戦王丸
4枠:上泉 澪(ka0518)&シロ
5枠:アリスレイ・C・アリーセル(ka2969)
「こっちに来てから馬に乗るようになったけど、乗ってみると結構楽しいんだよね。レースだから勝にこした事はないけど、あたしも馬も楽しんで走れたらいいな」
とわしゃわしゃと愛馬の頭を撫でながら、レースに向けて集中する舞。しかし、これから入って来た他の出走者は実にバラエティに富んだメンバーだった。
「偶にはこういう催しも良い物ですね。馬で思い切り走る機会というのもそうありませんし」
と入場してきたのは澪とシロ号。その名の通り、芦毛、その中でも灰色より相当に白に近い馬体が青空と緑の芝生に実に良く映える。
そして鞍上の澪自身も美しい銀髪を湛えている。その白光は芝を斬り裂くのか。
「馬術は貴族の嗜み! 華麗に夕雅に」
続いて愛馬と共に入場してきたのはアリーセル。アリーセルは自称・由緒正しき名家の出身である。リアルブルーの競馬は、元々貴族たちが各々が持っている馬を共に走らせ、どちらが早いかを競ったことに由来する。そういう意味では、アリーセルは原点に近いと言えた。
が、鞍上のアリーセルは幼少の頃に馬に乗って以来乗っていない。そこで目を閉じ、この競馬場を駆け抜けるイメージトレーニングを行う。目を閉じてじっと立つ人馬の様子は何やら底知れない不気味さを他の騎手たちに感じさせるのだった。
「戦王丸。もちろん負けるつもりは無いわよね? 私達コンビが最強である事を皆に教えてあげるわよ!!」
その頃、芦毛の馬体にブラシをかけ、愛馬に話しかけていたのはJyu=Bee。Jyu=Beeが家出をした時からの相棒は負けん気の強い実に競馬向きの性格だ。そしてそれは鞍上も同じ。闘争心むき出しのコンビはどのような競馬を見せるのか。
「前は色々あったから無理をさせたが、今回はお遊びに近い。気楽にいこう」
そしてアルメイダが入場してきた時、客席は大きなどよめきと笑い声に包まれていた。なぜなら愛馬・リンク号の上に乗るアルメイダもまた馬だったからだ。いや、アルメイダはエルフなので、これは着ぐるみを着ているだけなのだが。
リンクという名は人馬一体、つまり人と馬とが繋がるという意味から付けられている。しかしこれでは馬々一体である。
そんなこんなで各馬ゲートインしてレースはスタート!
「さ、今日も流れる景色を見に行こう?」
ややバラついたスタートから、愛馬の首筋をポンと叩いてハナに立ったのは舞。前には誰もいない広い広い芝生。その風景を満喫しながら実に気持ちよさそうに走る。
その次にはリンクとアルメイダ。馬々一体コンビはこの位置からの競馬。
「僕の前は走らせないよ」
とゲートが開くと同時に先頭に躍り出たアリーセルだったが、あっという間に三番手にまで落ちていた。彼の走らせ方は競馬というよりは馬術。首を高く上げている、実に絵になる優雅な走りだが、これではこの位置になる。
そしてその次に位置取るのは澪とシロ。最後尾はJyu=Beeと戦王丸。芦毛の二頭が連なって走る。二つの白い馬体が後方から先頭を伺う。鞍上の二人の侍が、トップを狙うべく視線を先に向ける。
そのまま綺麗にラインを作って第1、第2コーナーを周り向こう正面へ。向こう正面に入るとアリーセルが下がっていって澪との位置が入れ替わるがその程度で第3コーナーに入る。
そして第3コーナーに入ったところで、馬の蹄の音に混ざりJyu=Beeの一言。
「戦王丸、行くわよ」
それだけで十分だった。その灰色の肉体が弾み、スイッチが入ったかのように加速していく。馬群を前へ、前へと進んでいく戦王丸。
釣られてシロも付いていくが、追っていくのが精一杯。鞍上の澪は長い付き合いから、シロの事は理解している。だから分かる。このペースでついていったらシロが潰れてしまう。競馬を楽しむのが第一で、馬を潰すのは本意ではない。澪はペースを抑え駆け抜ける戦王丸を見送った。
シロの前に居たのはリンク。リンクと戦王丸が並走する。並ぶ馬と馬、並ぶ人と人。
アルメイダは並走させながら、前の依頼の記憶を振り返っていた。以前、リンクには死に物狂いの全力疾走をさせた覚えがある。無理をしすぎた上、その命を散らす馬も沢山いる。無事是名馬。決して無理はさせず、共に気楽な気持ちで行こう……手綱を緩めると、戦王丸が前へと進んでいった。
そして先頭の舞の元にJyu=Beeがたどり着く。そのまま一気に駆け抜け、追い抜いていくJyu=Beeと戦王丸。舞は鞭を振り上げたところでその手を止める。愛馬はよく走ってくれた。ここから鞭を入れ無理をさせるのは良くない。もう気持ちのよい景色は十分見たではないか。
舞はペースを上げず、持ったままで馬群に沈んでいった。
第4コーナーを抜けた時、そこには戦王丸一頭のみ、戦王丸はさらに加速していく。もう誰も追いつけない。
後ろからは何にも来ない! 後ろからは何にも来ない!! 後ろからは何にも来ない!!!
そのまま大きなの差を付けて戦王丸がゴールを駆け抜けた。完勝と行っていい内容だった。
●第5レース
1枠:満月美華(ka0515)
2枠:ジュード・エアハート(ka0410)&メテオーラ
3枠:アルファス(ka3312)&エアハルト
4枠:セレスティア(ka2691)&メリー
5枠:エアルドフリス(ka1856)&グィー
「とりあえず……まず馬ね」
美華は早速馬を借りに向かった。
できるだけスタミナの有る馬をと頼んだ所、ウェディングベル号が今回騎乗する馬になった。どんなかわいらしい馬が来るのかしら、と想像して期待に胸を膨らませる(元から大きい)美華。そして現れた馬は……
「最近はご無沙汰だったけど、久々に思い切り走りたいね」
一方その頃、ジュードは鹿毛の愛馬、メテオーラ号と返し馬を行っていた。メテオーラは昔、ジュードが母と共に弓の訓練をしていたときからの付き合いだ。強い絆が勝利をもたらすか。
「折角の晴れ舞台だ。どうぞよろしく、グィー。終わったら林檎を差し上げよう」
変わって芦毛の牝馬、グィー号に騎乗するのはエアルドフリス。彼は辺境育ちであり、馬と共に育ってきたような生活を送ってきたがそれも昔の話。もう腕は鈍っているだろうと思いつつ、
「祭に華を添えられれば僥倖だ」
と気持ちを切り替えるエアルド。そこにジュードが声をかけた。
「エアさん、終わったら屋台行かない?」
「ああいいぜ、まあ今は競争相手だけどな」
二人は親友同士だ。だが、今は違う。ジュードもライバルの一人に違いない。二人はレース後の再開を約束し一旦別れる。
「がんばろうね。エアハルト」
そのころアルファスは愛馬、エアハルトに声をかけ、目を合わせていた。馬というのは非常に繊細な生物だ。普段は素晴らしく早い馬が、本番のレースになるとまるで力を発揮できないこともままある。その一番の理由は競馬場の雰囲気に恐怖を感じてしまうことだ。だからエアハルトに自身を信じてもらうよう、目と目を合わせ、信頼し全てを任せる決意をした。一蓮托生。互いに互いを信じあう人馬。
「よろしくお願いしますね。メリーは素直な良い子ですよ」
と周りの者に挨拶をしているのはセレスティア。
なんとものどかな雰囲気だが、
「やはり勝負するからには真剣です。やるからには勝ちたいですよね」
彼女の勝負に掛ける気持ちはほかの者たちに負けていない。人馬ともに気合は十分。
そしてそこにウェディングベル号が入ってきた。極限までそぎ落とされたその肉体。漆黒の馬体は筋肉で盛り上がる。決して大きくはないが、名前とは裏腹に周囲に圧倒的な威圧感を与える。
「これ本当に馬なのかしら……」
鬼か何かなのかしら、と鞍上の美華はそう思うのだった。
かくして予選最終レースにがスタートした。
スタートと同時に馬群が二つに分かれる。前を行くのはメテオーラとエアハルト。
「獲物が前にいると思って、逃がさないよう走るんだよ?」
そうジュードは声をかける。メテオーラもそれに答え先頭に立つ。勝負は実力だけで決まらない。運も多大な影響を与える。ならば最初から悔いの無いレースをしよう、そのジュードの思いにメテオーラが答える。
一方のアルファスとエアハルトは自分たちの世界に没頭していた。本来群れを成して生活する馬は前を行く馬を追いかけようとする。だが、アルファスとエアハルトは違う。互いに信頼しあえるパートナーがいる。エアハルトは自分のペースでレースを進める。メテオーラに抜かれてもかからず、しっかり抜き返す。
そこからぐっと離れてメリー、グィー、そしてウェディングベル。
(焦っちゃだめ……まずは様子見よ)
前では二頭が美華の予想通り激しい先頭争い。ウェディングベルは息を乱さず、確かな足取りで走っている。頼んだ通りのスタミナだ。ならばそれを信じ最後に勝負するのが美華の作戦だった。
「落ち着いて。チャンスはきっとあるから。ね?」
セレスティアもメリーを抑える。メリーならば勝負所を分かってくれている。その瞬間に集中し、メリーの思いを感じ取ろうとするセレスティア。
(よし、盛り上がってるぞ)
一方エアルドは少し違っていた。勝敗よりも、この大会が盛り上がることをエアルドは考えていた。ならば、後ろで待って前が開いた瞬間に賭ける。いい位置から競馬を進めるグィー。
そのまま向う正面を回り、第三コーナーを抜けて最終コーナーへ。
「ここが勝負よ!」
「貴女を信じます。行って!」
「よし、今だ!」
最終コーナーを抜けた瞬間、三頭が一斉に勝負をかけた。前を行く二頭に襲い掛かる三頭。
だが、前を行く二頭も負けない。
「さぁ、今こそお前の本領を発揮だ。獲物は俺達が貰うんだ!」
「風よりも早く、自分の達のペースで前へ!」
二人が声をかけると二頭も加速する。
最後の直線、横一線に並ぶ五頭。各馬が目まぐるしく入れ代わる。ワーッと観客席から歓声が上がり、五頭はそのまま並んで駆け抜けた。
ざわめきが収まらない観客席。誰が勝ったのかが分からない。するとゴール板からパルム達が現れる。こういった時は、彼らが審判を務めてくれるのだ。パルム達が集まり、しばしの時間が流れる。
わずか数分ながら、遥かな時が流れたように感じたその時、結果が発表された。首一つの差に五頭が入線する大混戦、それを最後に紙一重の差で制したのはエアハルトだった。
●決勝レース
1枠:ユリアン&アルエット
2枠:榊&瑞羽
3枠:星輝&カツラダイナマイ
4枠:Jyu=Bee&戦王丸
5枠:アルファス&エアハルト
予選レースを終えた頃、日はすっかり傾いていた。緑の芝生がオレンジに染まる。
予選を敗退した者達も、決勝の行方がどうなるか知りたくて客席に混ざる。
「お疲れ様♪」
中には舞のように愛馬に水を飲ませながら、ターフを見つめている者もいる。
舞の愛馬の隣にはアルメイダ。未だ馬の着ぐるみを着たままだ。
ジュードとエアルドは共に屋台を周り、買った食べ物をパクつきながらレースに注目。
「御嬢さん方を眺めるもまた眼福と……」
「お疲れ様。腰、痛いんじゃない?」
と軽口を叩き合う二人。
その頃、馬房では決勝に進出した馬達が出走の刻を待っていた。
そんな中、ソフィアが馬房に入ってくる。彼女は決勝進出者の蹄鉄や馬具の調整を買って出た。
「これでも鍛冶師なんですよー」
と言いながら、トントンと手際よく調整を終える。そして決勝の舞台に立った五頭と五人が馬場に入場してくる。
いずれ劣らぬ強豪揃い、各馬がゲートインすると、その場に居るものが一斉に息を飲む。そして一瞬にも永遠にも終える刻の後、ゲートが開き決勝がスタートした。
ゲートが開く音とともに、Jyu=Beeは戦王丸に囁く。戦王丸は全開で駆け出し、他馬をぐんぐんと引き離していく。大胆にも、Jyu=Beeは決勝の舞台で大逃げに打ってでたのだ。
十馬身程離れてエアハルト。アルファスは決勝でも変わらず、自分達の競馬をすることを心がける。
その次に居るのが瑞羽。ピッタリとエアハルトをマークし、影の様に追走する。
少し離れて後方に待機したのがアルエットとカツラダイナマイ。
そのまま回って第3コーナーへ。今行くか? まだか? いや、今だ。鞍上のアルファスの思いをエアハルトは汲んで、ここから伸び始める。マークしている瑞羽も追走。二頭はそのまま戦王丸を捉える。先頭集団三頭から一歩先に出たのはエアハルト。最終コーナーを周り、一段と大きくなる歓声が彼らには聞こえているだろうか。
先頭集団三頭が作ったトライアングル。この隙間を二つの流星が突き破った。
貯めに貯めた末脚を爆発させアルエットとカツラダイナマイが最後の直線に飛び出していく。二頭はもつれ合うように直線を駆け抜けていく。戯れにも、死闘にも見えるマッチレース。その結末は――
●表彰式
優勝馬と騎手にはレース後も仕事が待っている。が、他の者は関係無い。
「うわぁ、屋台にきのことイモのガーリックワイン蒸しがあるよっ」
イスカと瀬織は屋台で美味しそうな食べ物を買うと、表彰台に立つキララと桂に手を振る。
「あー! わしを置いて二人で屋台を楽しむとはずるいのじゃ!」
最後の直線、数センチだけアルエットが前に出た。だが、最後の最後、ゴール直前でキララの思いを受け取った桂は自らの頭を下げ首を伸ばした。鼻差1センチの決着。勝敗を分けたのは、エルフと馬との通じ合う心だった。
残念ながらどんなに素晴らしいレースであっても、勝者は必ず敗者を生む。だが、全力を出しきった敗者たちは皆一様に晴れ晴れとした顔をしていた。
「……今後も何かと世話になるかもしれないが、宜しく頼むぞ」
榊は瑞羽の身体を優しく撫でていた。
「頑張ってくれてありがとう」
ユリアンはアルエットの栗色の馬体を拭き、水と飼葉をやる。もりもり飼葉を食べるアルエット。
そこに来たソフィアとリューと共に、冷たい飲み物で乾杯する。
「優勝は気分がいいのう!」
ダービージョッキーの栄誉を受けたキララは上機嫌。イスカと瀬織と勝利の美酒……という名のブドウジュースを飲み、その雰囲気に酔ったキララの歌に合わせて、皆が舞い踊る。
競馬場の夜空に、人々の歌声がずっとこだましていた。
●第1レース
1枠:ユリアン(ka1664)&アルエット
2枠:リュー・グランフェスト(ka2419)&テンペスト
3枠:天川 麗美(ka1355)&ピンポンダッシュ
4枠:Uisca Amhran(ka0754)&エポナ
5枠:エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)&カンバス
早速予選第1レースに参加する馬たちが馬場に入場し、返し馬を始める。
「楽しんで、勝つつもりで頑張ろうなアルエット」
まず1枠に入ったユリアンがアルエット号と共に馬場に飛び出す。馬場を駆けまわり、芝にアルエットを馴らすユリアン。そこに声をかけたのはリューだった。
「へっ。他の奴らに負けんなよ!」
「勿論。負けるつもりはないよ」
同世代で共に戦った事もある二人は顔見知りであり、そしてライバルとも言うべき存在だ。声を交わし、手を打合せてゲートに入る二頭。
「よし、名前の通り派手に行くぜ、テンペスト!」
鞍上のリュー共々気合は十分だ。
「なんか面白そうよね。目一杯楽しんでみるつもりよ」
3枠に入った麗美は勝敗は二の次、楽しむことを優先している。そんな彼女の愛馬はピンポンダッシュ号。麗美がリアルブルーの文化を調べ、すごく早く走ることを意味する言葉、と聞いて名づけたものだ。果たして名前の通り、すごく早く走るのか。
「エポナ、一緒に頑張ろう♪」
4枠はイスカとエポナ号。エルフの、しかも巫女であるイスカは自然に息づく精霊との交信能力が高い。今回はこれを生かし、エポナの力を引き出して走ろうと思っている。
そして5枠は芦毛の馬、カンバス号だ。鞍上のエヴァは速歩で走らせたり、駆歩で走らせたりしながら、怒った表情や満面の笑みでカンバスの顔を覗きこんでいる。彼女は一言も喋っていないが、代わりにスキンシップと表情で自らの意思を伝える。
かくして全馬がゲートに入る。一瞬の静寂。スターターが旗を一振りするとゲートが開き、五頭が一斉に飛び出した。
まず鼻を切ったのはカンバス。
(早く走るにしろ遅く走るにしろ、次レースまでに体力は減っちゃうもんね。なら、予選だけでも派手に目立たなきゃ!)
そう考えたエヴァが首をトントンと叩くと、グングン加速していく。そうやって逃げを打つカンバスに付いていくのがテンペスト。
「いけえっ!」
鞍上のリューの気合と共にカンバスを追い抜くテンペスト。かわされたカンバスも負けじと抜き返す。互いに抜きあう激しい先頭争い、明らかなオーバーペースだが
「飼い主に似るってーしな。仕方ねぇ。俺もちまちましたのは性に合わねえ」
と止めずに全力で飛ばす二頭。
一方同じく逃げを考えていたイスカだが、エポナが気持よく走れることを重視して無理に前を行く二頭を追っていかない。少し後ろから道中は気分よく競馬を進めることを選択した。
やや開いて馬群後方からの競馬になったのはアルエット。馬群から離されないように、しかし無駄なハイペースに巻き込まれて潰れないように慎重な競馬でチャンスを伺う。
最後に馬群から離れた位置に陣取ったのがピンポンダッシュ。鞍上の麗美は馬に鞭を入れることに抵抗があるため、持ったまま自分のペースで道中を進める。
このまま向こう正面を駆け抜け、第三コーナーに入ったところで異変が起こる。オーバーペースに疲弊し、ペースが落ちていく前を行く二頭。この隙を逃さず鞍上イスカが鞭を一つ入れると、エポナは楽々前の二頭を交わして先頭に立った。
「風を感じられて、すごく気持ちいいです♪」
満面の笑みでトップを走るエポナとイスカ。
一方アルエットにも動きがあった。最後の直線で差しきるためには、良いポジションで最後の直線に入りたい。前を見て隙間を見つけ、コースの内側でその時を伺う。
ピンポンダッシュはここでも馬なりの競馬。変わらず最後方で待機している。
そして最終コーナーを抜けて直線へ。ここでアルエットが仕掛けた。決めていた合図の尻を一叩き。これと同時にテンペストとカンバスの間を抜けて一気にエポナの元へ迫る。エポナが逃げ切るか、アルエットが差しきるか。だが、勝負はこの二頭だけではなかった。
「ピンポンちゃんがんばれー」
その麗美の声と同時にピンポンダッシュは尻尾をグルンと一回しすると、唸りを上げてぐんぐん加速していく。
残り200メートル、ここでエポナとアルエットが並んだ。抜きつ抜かれつのデッドヒート。だが大外からピンポンダッシュが迫る。ゴール板まであと少し。
最後の脚を使いエポナを交わしきったアルエットだが、それ以上のペースで迫るピンポンダッシュ。続けてエポナをかわし、前にいるのはアルエットのみ。
逃げるアルエット、追うピンポン、あと一馬身、あと半馬身……。
だが、そこがゴールだった。勝者と敗者を分けたのは、内を回ったか大外を回ることになったかの差だった。
ゴールを駆け抜けたアルエットの鞍上、ユリアンのもとにリューが行く。
「全力を出し切ったから後悔は無いぜ!決勝でも負けるなよ」
「ああ、勿論さ」
そう言って、再び手を打ち合わせる二人だった。
●第2レース
1枠:榊 兵庫(ka0010)&瑞羽
2枠:ソフィア =リリィホルム(ka2383)&サクラ
3枠:カナタ・ハテナ(ka2130)&馬左衛門
4枠:ナハティガル・ハーレイ(ka0023)&ティルガング
5枠:瀬織 怜皇(ka0684)&セフィリア
第1レースの興奮冷めやらぬが、続けて第2レースが始まる。が、その雰囲気は第1レースとは随分と違っていた。
「こういうお祭り騒ぎは嫌いじゃない。勝ち負けはともかく楽しませて貰おう」
と言いながら榊が入場してくる。勝敗は二の次、祭りを楽しみ、瑞羽号との絆を深めるのが榊の狙いだ。
「個人で馬を飼えるとは良い時代……いや、良い世界へ来たのじゃ。リアルブルーの頃には考えられなかったの。やるからには優勝を目指すのじゃ」
と言ってるカナタはまだ気合の入っている方。馬に駆ける斤量を減らすため、鞍上のカナタは水着姿になっている気合の入りようだ。
「……まぁ、やれるだけ、はやってみましょう」
と言っている瀬織は最初から諦めモード。それもそのはず、エルフであり馬と通じ合うことのできる恋人のイスカが、第1レースで3着に沈んだのだ。勝ち目は無いと思っても仕方ない。
「……俺はつくづく馬絡みの依頼に縁があるってモンだ」
そしてハーレイはティルガング号と馬場に入りながら苦笑いしている。ハーレイはかつて馬型雑魔やケンタウロス型雑魔の討伐依頼をこなしたことがある。そして今日は競馬に出場だ。何でこんなことになったのやらと思いつつ葉巻を一服。慌てて係員が飛んできて注意されている。本馬場は火気厳禁です。
「飛び入り参加、OKでしょうかっ!」
そして最後の一枠にドタドタとサクラ号と共に駆け込んできたのはソフィア。ソフィアは今日、たまたま納品にやってきて楽しそうなお祭り騒ぎを見つけ、ついつい参加してしまったのだ。サクラ号もソフィアが運搬のために借りてきた馬だ。しかし、このサクラ、運搬用の馬であるだけあってガッシリとした馬体はなかなかスタミナがありそうだ。
かくして五頭が無事ゲートに入りレースがスタートする。そしてレース展開も第1レースとは対照的だった。
ゲートが開くと同時に横一線に飛び出す各馬。
「見た所鼻息の荒い馬も多そうじゃ。半数以上は逃げで来るかの?ここは戦略的に考え予選は追込で行くのじゃ。上手く勝てば体力も温存でき決勝に進めるのじゃ」
カナタはそう考え、最後方につこうとした
「行くぜ!ティルガング。折角の晴れの舞台だ……お前の末脚を見せてやれ」
ハーレイもティルガングの首を撫でつつ、そう語り掛け後方に回ろうとした。しかしどの馬も前に出ようとしない。他の者達も考えることが同じだった。逃げ潰れを避けるため、全馬後方からの競馬をしようとしていたのだった。
しかし、横一列のままでゴールインというわけには行かない。結果、押し出されるように瑞羽が先頭に立った。
「……馬の扱いというならば、こちらの世界の住人に一日の長がある。ならば、少しでもリスクは下げておかないと、な」
先頭に押し出された榊は、とにかく馬が暴走しないように抑えて馬群を引っ張る。
瑞羽の後ろに外にサクラ、内にティルガング、そのまた後ろに馬左衛門とセフィリアという形で向こう正面を回って第3コーナーへ。未だ先頭は瑞羽。
「……まだ勝負するには早え。“徐かなること林の如く”ってな?」
ハーレイはまだ前に出ようとしない。そしてその考えは榊以外の全員が同じだった。瑞羽号が脚を使いきり、後ろに下がり始めた時、それがチャンスだ。コーナーをぐーっと廻りながら、今か今かとそのチャンスを待つ。
そして最終コーナーを回って最後の直線に入ったところでハーレイが仕掛ける。
「“疾きこと風の如し”――ぶっちぎれ……ッ!!!」
そして鞭を一叩き。
ほぼ同時に集中して各馬の位置を掴んでいたソフィアが、ハーレイの仕掛けに気づく。一瞬後にソフィアも一叩き。
「……最後に全てを掛けるのがポイントですよ、ね。セフィリア、行きますよ」
さらに瀬織も鞭を入れる。スタンドで応援してくれるイスカの姿が見えた。鞍上も同時に気合が入る。
カナタも同時に鞭を入れ、一気の仕掛け、さあ、まず誰が瑞羽を捉えるのか?
だが――瑞羽の脚が衰えない。未だに前で粘る。後ろから風車鞭で叩く四頭。しかし無情にも瑞羽との間合いが詰まらない。逃げる瑞羽を必死に追うが、順位は変わらずそのままの形でゴールイン。第1レースを見て、全員が慎重な競馬をした結果のスローペースが瑞羽の逃げ切り勝ちを産んだのだった。
「結果は残念じゃったが良くやったの♪ 流石、馬左衛門なのじゃ」
と馬を降りたカナタは愛馬を撫でてブラッシングしてやる。嬉しそうにいななく馬左衛門。和やかに始まった第2レースは、和やかに終わるのだった。
●第3レース
1枠:ドライバー(ka3471)&アトハノトナレヤマトナレ
2枠:レイオス・アクアウォーカー(ka1990)&クミンシード
3枠:ファリス(ka2853)
4枠:フィル・サリヴァン(ka1155)
5枠:星輝 Amhran(ka0724)&カツラダイナマイ
今回の競馬大会、馬を所有していない参加者には貸し出される。ファリスもそういった参加者だった。担当者はファリスの持つうさぎのぬいぐるみを見て、
「お嬢ちゃんにはこいつが良いな」
と言いながら連れてきたのはレッドラビット号。伝説の名馬からその名が取られた馬だそうだ。
「……宜しくお願いしますの。ファリス、頑張るからお馬さんもファリスを助けて欲しいの」
迫力のある馬体に驚きながら、餌をやりつつ毛並を丁寧にブラッシング。そんなファリスに心を許したのか、レッドラビットもファリスの顔を舐める。すっかり打ち解けたようだ。
一方同じく馬を借りてきたドライバーの馬の名はアトハノトナレヤマトナレ号。何というか実に投げやりな名前だが、それとレースは関係無い。果たしてどのようなレースを見せるのか。
「これだけ広い場所なら思いっきり走れるな」
と、広大な競馬場に心を躍らせるのはレイオス。装備も全部預けて身軽になり準備は万全だ。愛馬クミンシード号と共に狙うは優勝あるのみ。仲良しのパルム達も客席で旗を振って応援してくれている。
「祭りといえど、勝負は勝負。狙うは優勝ですね」
と同じく目指すは優勝のみなのはフィル。彼の愛馬の名前は今回登録されていないが、返し馬をしたり馬具の点検をしたりといったフィルの動きは実に堂に入っている。長年共に組んできたパートナーなのだろう、息はピッタリだ。
そして最後に馬場に入場してきたのはキララ。しっかりとケアをしてから入場してきたため一番最後になったが、そのかいあって登録名カツラダイナマイ号、本名・桂の馬体はぴかぴかと輝いている。
(ワシの身が超軽量であるが故に、他者よりも幾分、馬への負担が少ない事は活かせるのぅ?)
そう鞍上のキララは思いながら、ポーカーフェイスを保っている。それはこれからの作戦を悟られぬためだ。
「姉さまー、頑張ってー!」
「キララ、頑張ってください」
代わりに妹とその恋人が声援を飛ばす。キララと桂は前2レースで敗退したこの二人の思いも背負って走る。握る手綱に重みを感じたような気がした。
そして始まる第3レース。その展開はまた、今までとは違うものとなった。ゲートが開くと同時に各場が一斉に飛び出し、ハナを巡って激しい争いを繰り広げる。
そんな先頭争いからまずレッドラビットが降りる。無理はせず、後方からの競馬を選択する。
一方先頭争いの方も変化があった。ドライバーが鞭を叩き、馬を押して前へ前へと出ていく。
その差五馬身、六馬身……馬群から飛び出しての一人旅に入る。大逃げだ。だがこれは明らかなオーバーペース。何とかゴールまで持ってくれれば、第2レースと同じように逃げ切れるが果たしてどうか。
残す3頭は大逃げのペースに巻き込まれて潰されないよう、離れたところで馬群を作る。しかし、各馬もうこれから誰にも抜かされるつもりはない。
「逃げは逃げでも勝ち逃げでいくぜ!」
「共に勝ちに行きましょうか」
とレイオスとフィルが鞭を入れ、馬群の先頭を争っていた。
そしてここでレースに動きが起こる。早くも垂れ始めたカツラダイナマイがずるり、ずるりと下がり始める。そしてこの隙を逃さす二頭ではない。一気に突き放す。
そのまま第三コーナーを回って最終コーナーへ。ここでスタミナを使い果たしたアトハノトナレヤマトナレが下がり、代わって二頭が前に立つ。
「さあ、一気に駆け抜ける! スパートいくぞ、クミン!」
そこからグーっと行って直線に入ったところでレイオスが息を一つ入れ、鞭を一発。それが二の脚を使う合図となった。
一気に加速を始め、先頭に立ったクミンシード。宣言通りこのまま勝ち逃げか?
しかしそうは問屋がおろさなかった。大外から二つの影が飛び出してきた。レッドラビットとカツラダイナマイだ!
キララはわざと先行集団にけしかけ、ペースを十分上げさせたところで後ろに下がった。最初から直線勝負を選択していたのだ。それにまんまと引っかかった逃げ馬三頭にもはや付いていくスタミナは残っていなかった。
あとは直線での叩き合い、レッドラビットかカツラダイナマイか、カツラダイナマイかレッドラビットか?
残り200メートル、前に出たのはレッドラビット。半馬身の差が開いたところでカツラダイナマイが再び加速。客席からの歓声を背に受け、レッドラビットを交わすとそのまま差を広げ、一馬身開けてゴールを駆け抜けた。カツラダイナマイと鞍上のキララの見事な作戦勝ちだった。
レースが終わればノーサイド。スタミナを使い果たした馬を各人がねぎらう。
「よく頑張ってくれましたね」
レースは残念な結果に終わったが大切なパートナーだ。フィルは自分の愛馬の首を優しく何度も撫でていた。
●第4レース
1枠:天竜寺 舞(ka0377)
2枠:アルメイダ(ka2440)&リンク
3枠:Jyu=Bee(ka1681)&戦王丸
4枠:上泉 澪(ka0518)&シロ
5枠:アリスレイ・C・アリーセル(ka2969)
「こっちに来てから馬に乗るようになったけど、乗ってみると結構楽しいんだよね。レースだから勝にこした事はないけど、あたしも馬も楽しんで走れたらいいな」
とわしゃわしゃと愛馬の頭を撫でながら、レースに向けて集中する舞。しかし、これから入って来た他の出走者は実にバラエティに富んだメンバーだった。
「偶にはこういう催しも良い物ですね。馬で思い切り走る機会というのもそうありませんし」
と入場してきたのは澪とシロ号。その名の通り、芦毛、その中でも灰色より相当に白に近い馬体が青空と緑の芝生に実に良く映える。
そして鞍上の澪自身も美しい銀髪を湛えている。その白光は芝を斬り裂くのか。
「馬術は貴族の嗜み! 華麗に夕雅に」
続いて愛馬と共に入場してきたのはアリーセル。アリーセルは自称・由緒正しき名家の出身である。リアルブルーの競馬は、元々貴族たちが各々が持っている馬を共に走らせ、どちらが早いかを競ったことに由来する。そういう意味では、アリーセルは原点に近いと言えた。
が、鞍上のアリーセルは幼少の頃に馬に乗って以来乗っていない。そこで目を閉じ、この競馬場を駆け抜けるイメージトレーニングを行う。目を閉じてじっと立つ人馬の様子は何やら底知れない不気味さを他の騎手たちに感じさせるのだった。
「戦王丸。もちろん負けるつもりは無いわよね? 私達コンビが最強である事を皆に教えてあげるわよ!!」
その頃、芦毛の馬体にブラシをかけ、愛馬に話しかけていたのはJyu=Bee。Jyu=Beeが家出をした時からの相棒は負けん気の強い実に競馬向きの性格だ。そしてそれは鞍上も同じ。闘争心むき出しのコンビはどのような競馬を見せるのか。
「前は色々あったから無理をさせたが、今回はお遊びに近い。気楽にいこう」
そしてアルメイダが入場してきた時、客席は大きなどよめきと笑い声に包まれていた。なぜなら愛馬・リンク号の上に乗るアルメイダもまた馬だったからだ。いや、アルメイダはエルフなので、これは着ぐるみを着ているだけなのだが。
リンクという名は人馬一体、つまり人と馬とが繋がるという意味から付けられている。しかしこれでは馬々一体である。
そんなこんなで各馬ゲートインしてレースはスタート!
「さ、今日も流れる景色を見に行こう?」
ややバラついたスタートから、愛馬の首筋をポンと叩いてハナに立ったのは舞。前には誰もいない広い広い芝生。その風景を満喫しながら実に気持ちよさそうに走る。
その次にはリンクとアルメイダ。馬々一体コンビはこの位置からの競馬。
「僕の前は走らせないよ」
とゲートが開くと同時に先頭に躍り出たアリーセルだったが、あっという間に三番手にまで落ちていた。彼の走らせ方は競馬というよりは馬術。首を高く上げている、実に絵になる優雅な走りだが、これではこの位置になる。
そしてその次に位置取るのは澪とシロ。最後尾はJyu=Beeと戦王丸。芦毛の二頭が連なって走る。二つの白い馬体が後方から先頭を伺う。鞍上の二人の侍が、トップを狙うべく視線を先に向ける。
そのまま綺麗にラインを作って第1、第2コーナーを周り向こう正面へ。向こう正面に入るとアリーセルが下がっていって澪との位置が入れ替わるがその程度で第3コーナーに入る。
そして第3コーナーに入ったところで、馬の蹄の音に混ざりJyu=Beeの一言。
「戦王丸、行くわよ」
それだけで十分だった。その灰色の肉体が弾み、スイッチが入ったかのように加速していく。馬群を前へ、前へと進んでいく戦王丸。
釣られてシロも付いていくが、追っていくのが精一杯。鞍上の澪は長い付き合いから、シロの事は理解している。だから分かる。このペースでついていったらシロが潰れてしまう。競馬を楽しむのが第一で、馬を潰すのは本意ではない。澪はペースを抑え駆け抜ける戦王丸を見送った。
シロの前に居たのはリンク。リンクと戦王丸が並走する。並ぶ馬と馬、並ぶ人と人。
アルメイダは並走させながら、前の依頼の記憶を振り返っていた。以前、リンクには死に物狂いの全力疾走をさせた覚えがある。無理をしすぎた上、その命を散らす馬も沢山いる。無事是名馬。決して無理はさせず、共に気楽な気持ちで行こう……手綱を緩めると、戦王丸が前へと進んでいった。
そして先頭の舞の元にJyu=Beeがたどり着く。そのまま一気に駆け抜け、追い抜いていくJyu=Beeと戦王丸。舞は鞭を振り上げたところでその手を止める。愛馬はよく走ってくれた。ここから鞭を入れ無理をさせるのは良くない。もう気持ちのよい景色は十分見たではないか。
舞はペースを上げず、持ったままで馬群に沈んでいった。
第4コーナーを抜けた時、そこには戦王丸一頭のみ、戦王丸はさらに加速していく。もう誰も追いつけない。
後ろからは何にも来ない! 後ろからは何にも来ない!! 後ろからは何にも来ない!!!
そのまま大きなの差を付けて戦王丸がゴールを駆け抜けた。完勝と行っていい内容だった。
●第5レース
1枠:満月美華(ka0515)
2枠:ジュード・エアハート(ka0410)&メテオーラ
3枠:アルファス(ka3312)&エアハルト
4枠:セレスティア(ka2691)&メリー
5枠:エアルドフリス(ka1856)&グィー
「とりあえず……まず馬ね」
美華は早速馬を借りに向かった。
できるだけスタミナの有る馬をと頼んだ所、ウェディングベル号が今回騎乗する馬になった。どんなかわいらしい馬が来るのかしら、と想像して期待に胸を膨らませる(元から大きい)美華。そして現れた馬は……
「最近はご無沙汰だったけど、久々に思い切り走りたいね」
一方その頃、ジュードは鹿毛の愛馬、メテオーラ号と返し馬を行っていた。メテオーラは昔、ジュードが母と共に弓の訓練をしていたときからの付き合いだ。強い絆が勝利をもたらすか。
「折角の晴れ舞台だ。どうぞよろしく、グィー。終わったら林檎を差し上げよう」
変わって芦毛の牝馬、グィー号に騎乗するのはエアルドフリス。彼は辺境育ちであり、馬と共に育ってきたような生活を送ってきたがそれも昔の話。もう腕は鈍っているだろうと思いつつ、
「祭に華を添えられれば僥倖だ」
と気持ちを切り替えるエアルド。そこにジュードが声をかけた。
「エアさん、終わったら屋台行かない?」
「ああいいぜ、まあ今は競争相手だけどな」
二人は親友同士だ。だが、今は違う。ジュードもライバルの一人に違いない。二人はレース後の再開を約束し一旦別れる。
「がんばろうね。エアハルト」
そのころアルファスは愛馬、エアハルトに声をかけ、目を合わせていた。馬というのは非常に繊細な生物だ。普段は素晴らしく早い馬が、本番のレースになるとまるで力を発揮できないこともままある。その一番の理由は競馬場の雰囲気に恐怖を感じてしまうことだ。だからエアハルトに自身を信じてもらうよう、目と目を合わせ、信頼し全てを任せる決意をした。一蓮托生。互いに互いを信じあう人馬。
「よろしくお願いしますね。メリーは素直な良い子ですよ」
と周りの者に挨拶をしているのはセレスティア。
なんとものどかな雰囲気だが、
「やはり勝負するからには真剣です。やるからには勝ちたいですよね」
彼女の勝負に掛ける気持ちはほかの者たちに負けていない。人馬ともに気合は十分。
そしてそこにウェディングベル号が入ってきた。極限までそぎ落とされたその肉体。漆黒の馬体は筋肉で盛り上がる。決して大きくはないが、名前とは裏腹に周囲に圧倒的な威圧感を与える。
「これ本当に馬なのかしら……」
鬼か何かなのかしら、と鞍上の美華はそう思うのだった。
かくして予選最終レースにがスタートした。
スタートと同時に馬群が二つに分かれる。前を行くのはメテオーラとエアハルト。
「獲物が前にいると思って、逃がさないよう走るんだよ?」
そうジュードは声をかける。メテオーラもそれに答え先頭に立つ。勝負は実力だけで決まらない。運も多大な影響を与える。ならば最初から悔いの無いレースをしよう、そのジュードの思いにメテオーラが答える。
一方のアルファスとエアハルトは自分たちの世界に没頭していた。本来群れを成して生活する馬は前を行く馬を追いかけようとする。だが、アルファスとエアハルトは違う。互いに信頼しあえるパートナーがいる。エアハルトは自分のペースでレースを進める。メテオーラに抜かれてもかからず、しっかり抜き返す。
そこからぐっと離れてメリー、グィー、そしてウェディングベル。
(焦っちゃだめ……まずは様子見よ)
前では二頭が美華の予想通り激しい先頭争い。ウェディングベルは息を乱さず、確かな足取りで走っている。頼んだ通りのスタミナだ。ならばそれを信じ最後に勝負するのが美華の作戦だった。
「落ち着いて。チャンスはきっとあるから。ね?」
セレスティアもメリーを抑える。メリーならば勝負所を分かってくれている。その瞬間に集中し、メリーの思いを感じ取ろうとするセレスティア。
(よし、盛り上がってるぞ)
一方エアルドは少し違っていた。勝敗よりも、この大会が盛り上がることをエアルドは考えていた。ならば、後ろで待って前が開いた瞬間に賭ける。いい位置から競馬を進めるグィー。
そのまま向う正面を回り、第三コーナーを抜けて最終コーナーへ。
「ここが勝負よ!」
「貴女を信じます。行って!」
「よし、今だ!」
最終コーナーを抜けた瞬間、三頭が一斉に勝負をかけた。前を行く二頭に襲い掛かる三頭。
だが、前を行く二頭も負けない。
「さぁ、今こそお前の本領を発揮だ。獲物は俺達が貰うんだ!」
「風よりも早く、自分の達のペースで前へ!」
二人が声をかけると二頭も加速する。
最後の直線、横一線に並ぶ五頭。各馬が目まぐるしく入れ代わる。ワーッと観客席から歓声が上がり、五頭はそのまま並んで駆け抜けた。
ざわめきが収まらない観客席。誰が勝ったのかが分からない。するとゴール板からパルム達が現れる。こういった時は、彼らが審判を務めてくれるのだ。パルム達が集まり、しばしの時間が流れる。
わずか数分ながら、遥かな時が流れたように感じたその時、結果が発表された。首一つの差に五頭が入線する大混戦、それを最後に紙一重の差で制したのはエアハルトだった。
●決勝レース
1枠:ユリアン&アルエット
2枠:榊&瑞羽
3枠:星輝&カツラダイナマイ
4枠:Jyu=Bee&戦王丸
5枠:アルファス&エアハルト
予選レースを終えた頃、日はすっかり傾いていた。緑の芝生がオレンジに染まる。
予選を敗退した者達も、決勝の行方がどうなるか知りたくて客席に混ざる。
「お疲れ様♪」
中には舞のように愛馬に水を飲ませながら、ターフを見つめている者もいる。
舞の愛馬の隣にはアルメイダ。未だ馬の着ぐるみを着たままだ。
ジュードとエアルドは共に屋台を周り、買った食べ物をパクつきながらレースに注目。
「御嬢さん方を眺めるもまた眼福と……」
「お疲れ様。腰、痛いんじゃない?」
と軽口を叩き合う二人。
その頃、馬房では決勝に進出した馬達が出走の刻を待っていた。
そんな中、ソフィアが馬房に入ってくる。彼女は決勝進出者の蹄鉄や馬具の調整を買って出た。
「これでも鍛冶師なんですよー」
と言いながら、トントンと手際よく調整を終える。そして決勝の舞台に立った五頭と五人が馬場に入場してくる。
いずれ劣らぬ強豪揃い、各馬がゲートインすると、その場に居るものが一斉に息を飲む。そして一瞬にも永遠にも終える刻の後、ゲートが開き決勝がスタートした。
ゲートが開く音とともに、Jyu=Beeは戦王丸に囁く。戦王丸は全開で駆け出し、他馬をぐんぐんと引き離していく。大胆にも、Jyu=Beeは決勝の舞台で大逃げに打ってでたのだ。
十馬身程離れてエアハルト。アルファスは決勝でも変わらず、自分達の競馬をすることを心がける。
その次に居るのが瑞羽。ピッタリとエアハルトをマークし、影の様に追走する。
少し離れて後方に待機したのがアルエットとカツラダイナマイ。
そのまま回って第3コーナーへ。今行くか? まだか? いや、今だ。鞍上のアルファスの思いをエアハルトは汲んで、ここから伸び始める。マークしている瑞羽も追走。二頭はそのまま戦王丸を捉える。先頭集団三頭から一歩先に出たのはエアハルト。最終コーナーを周り、一段と大きくなる歓声が彼らには聞こえているだろうか。
先頭集団三頭が作ったトライアングル。この隙間を二つの流星が突き破った。
貯めに貯めた末脚を爆発させアルエットとカツラダイナマイが最後の直線に飛び出していく。二頭はもつれ合うように直線を駆け抜けていく。戯れにも、死闘にも見えるマッチレース。その結末は――
●表彰式
優勝馬と騎手にはレース後も仕事が待っている。が、他の者は関係無い。
「うわぁ、屋台にきのことイモのガーリックワイン蒸しがあるよっ」
イスカと瀬織は屋台で美味しそうな食べ物を買うと、表彰台に立つキララと桂に手を振る。
「あー! わしを置いて二人で屋台を楽しむとはずるいのじゃ!」
最後の直線、数センチだけアルエットが前に出た。だが、最後の最後、ゴール直前でキララの思いを受け取った桂は自らの頭を下げ首を伸ばした。鼻差1センチの決着。勝敗を分けたのは、エルフと馬との通じ合う心だった。
残念ながらどんなに素晴らしいレースであっても、勝者は必ず敗者を生む。だが、全力を出しきった敗者たちは皆一様に晴れ晴れとした顔をしていた。
「……今後も何かと世話になるかもしれないが、宜しく頼むぞ」
榊は瑞羽の身体を優しく撫でていた。
「頑張ってくれてありがとう」
ユリアンはアルエットの栗色の馬体を拭き、水と飼葉をやる。もりもり飼葉を食べるアルエット。
そこに来たソフィアとリューと共に、冷たい飲み物で乾杯する。
「優勝は気分がいいのう!」
ダービージョッキーの栄誉を受けたキララは上機嫌。イスカと瀬織と勝利の美酒……という名のブドウジュースを飲み、その雰囲気に酔ったキララの歌に合わせて、皆が舞い踊る。
競馬場の夜空に、人々の歌声がずっとこだましていた。
依頼結果
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モア嬢に質問 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/11/04 00:49:55 |
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雑談? エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/11/05 19:52:54 |
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脚質について モア・プリマクラッセ(kz0066) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/30 22:03:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/05 00:35:57 |