ゲスト
(ka0000)
猫喫茶「モフル」に行こう
マスター:ことね桃

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/06/23 12:00
- 完成日
- 2017/07/02 04:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ある雨の日のこと。
ハンターオフィスの受付嬢ルナが昔の友人に会うため、久方ぶりにとある街を訪れた。
友人は今、この街で飲食店を経営しているという。かつて大斧を持って戦場を奔走していた友人だが、今はきっと気の良い女将になっているのだろうと想像すると、思わずニヤニヤしてしまう。
そんな中、彼女は手紙に書かれた通りの場所に小さな喫茶店を見つけた。
猫喫茶「モフル」。
第一印象はこれといって特徴のない、シンプルな外観の喫茶店だ。
(……猫?)
白いドアを開けると、猫の形をしたベルが「カラン」と心地よい音を立てた。
店内も外観と同じく、ナチュラルやシンプルと言えば聞こえはいいが、どこか殺風景な印象。だが馴染みのあるハスキーな声が聞こえた瞬間、ルナは顔をほころばせた。
「いらっしゃい、折角の休みなのに雨の中すまないね」
ルナが勤めているオフィスに数年前まで出入りしていた元ハンターのメルダがそこにいたのだから。
「外は寒かったろう?」
メルダは『定休日』の札を確認すると旧友に紅茶を出した。
「そんなことはないわ、こちらも雨が続いているもの。似たようなものよ」
「ああ、この時期はそうだったな。あの頃は毎日走り回っていたから寒いとか考えたこともなかったけど」
大きな体を揺すって笑うメルダ。ハンター引退のきっかけになった傷はほとんど癒えたようで、ルナはほっとした。紅茶を一口だけ啜ると口を開く。
「元気そうでよかったわ。……それで、私を呼んだ理由は?」
「実を言うと、この店を大幅にリニューアルしようと思ってね。色々な意見が聞きたいのさ」
「リニューアル?」
「そ。この店をはじめて2年半になるんだが、居心地のいい店ってのを追及しようと思ってね」
メルダが話した瞬間、スタッフルームに繋がる扉から「カリカリ」と硬い物を掻くような音がした。
「……ああ、腹が減ったんだな」
中座したメルダが扉を開けると、様々な種類の猫が顔を出す。
「えっ、猫!?」
「この子らはね、うちの自慢の看板息子・娘だよ」
喫茶店に大勢の猫がいること、そしてまるで母親のような表情で猫達に餌を与える友人の姿にルナは驚いた。
猫たちの食事が終わると、メルダはルナに向き合う形でどっかりと椅子に腰を下ろした。
「……実を言うとハンターを辞めた後に少しばかり荒れてね。でもそんな時に野良猫を拾って育てていたら、こいつらがなんだか子供のように思えてきた。それで真っ当にこいつらを食わせていくためにこの店を開いたんだよ」
「喫茶店を?」
「丁度リアルブルーから来たハンターに、あっちの世界では清潔な猫とふれあいながら飲み食いを楽しめる店があると聞いたんだ。あたしから戦いがなくなったら料理しかないから、猫の世話をしながらできる仕事ってことで『これだ!』って思ったのさ」
ルナの元に子猫が歩み寄った。壊れ物に触れるかのように恐る恐る手を伸ばすルナに「こうやって抱くんだよ」と抱き方を教え、メルダが続ける。
「役人から許可を得るのには苦労したよ。でも何度も通って頭を下げているうちに、定期的に衛生チェックと大規模な清掃を行うことと、猫によるトラブルを起こさないことを条件に営業が許されたんだ」
「へえ、話がわかる方がいて良かったわね」
「そこからも結構大変だったんだぞ。飲み屋の番犬なんかと違って、すぐ傍に猫がいるわけだろ? 客は猫好きが多いとはいえ馴染んでもらえるまでに時間がかかったし、猫達にも苦労させたさ」
彼女は毎日の徹底的な掃除のみならず、猫達のストレスが溜まらないように自由に休憩できる空間を作ったり、接客に出る時間を区切ったりと工夫を凝らしたという。
「それでな、今年になってようやく経営が安定したんで思い切ってリフォームしようと思うんだよ。もっと猫好きの目に留まって楽しんでもらえるように、それでいて猫達も毎日楽しく過ごせるように助言が欲しいんだ」
「……私、猫なんて飼ったことないから良いアドバイスなんてできないわよ」
ルナは膝の上に乗せた猫を撫でながら唇を尖らせた。そこでメルダがにやりと笑う。
「でも、人脈はある」
「……へ?」
「ハンターオフィスには今も色々なハンターが集まってるんだよな。だからさ、猫好きのハンターがいたらぜひうちのことを伝えてくれ。外部の人だからこそできる忌憚のない意見っていうのを聞いてみたい」
「それは構わないけど。でも皆にも都合があるからすぐには難しいかもしれないわよ」
「いいよ、時間の都合がついた時で。来てくれたらあたしのランチと猫たちでスペシャルな接待をするって言っといてくれ。あ、昼飯はまだだろ? 今準備するからちょっとだけ猫達と遊んでてくれな」
にっと笑った元ハンターは旧友に食事を振舞うべくキッチンに向かった。
ハンターオフィスの受付嬢ルナが昔の友人に会うため、久方ぶりにとある街を訪れた。
友人は今、この街で飲食店を経営しているという。かつて大斧を持って戦場を奔走していた友人だが、今はきっと気の良い女将になっているのだろうと想像すると、思わずニヤニヤしてしまう。
そんな中、彼女は手紙に書かれた通りの場所に小さな喫茶店を見つけた。
猫喫茶「モフル」。
第一印象はこれといって特徴のない、シンプルな外観の喫茶店だ。
(……猫?)
白いドアを開けると、猫の形をしたベルが「カラン」と心地よい音を立てた。
店内も外観と同じく、ナチュラルやシンプルと言えば聞こえはいいが、どこか殺風景な印象。だが馴染みのあるハスキーな声が聞こえた瞬間、ルナは顔をほころばせた。
「いらっしゃい、折角の休みなのに雨の中すまないね」
ルナが勤めているオフィスに数年前まで出入りしていた元ハンターのメルダがそこにいたのだから。
「外は寒かったろう?」
メルダは『定休日』の札を確認すると旧友に紅茶を出した。
「そんなことはないわ、こちらも雨が続いているもの。似たようなものよ」
「ああ、この時期はそうだったな。あの頃は毎日走り回っていたから寒いとか考えたこともなかったけど」
大きな体を揺すって笑うメルダ。ハンター引退のきっかけになった傷はほとんど癒えたようで、ルナはほっとした。紅茶を一口だけ啜ると口を開く。
「元気そうでよかったわ。……それで、私を呼んだ理由は?」
「実を言うと、この店を大幅にリニューアルしようと思ってね。色々な意見が聞きたいのさ」
「リニューアル?」
「そ。この店をはじめて2年半になるんだが、居心地のいい店ってのを追及しようと思ってね」
メルダが話した瞬間、スタッフルームに繋がる扉から「カリカリ」と硬い物を掻くような音がした。
「……ああ、腹が減ったんだな」
中座したメルダが扉を開けると、様々な種類の猫が顔を出す。
「えっ、猫!?」
「この子らはね、うちの自慢の看板息子・娘だよ」
喫茶店に大勢の猫がいること、そしてまるで母親のような表情で猫達に餌を与える友人の姿にルナは驚いた。
猫たちの食事が終わると、メルダはルナに向き合う形でどっかりと椅子に腰を下ろした。
「……実を言うとハンターを辞めた後に少しばかり荒れてね。でもそんな時に野良猫を拾って育てていたら、こいつらがなんだか子供のように思えてきた。それで真っ当にこいつらを食わせていくためにこの店を開いたんだよ」
「喫茶店を?」
「丁度リアルブルーから来たハンターに、あっちの世界では清潔な猫とふれあいながら飲み食いを楽しめる店があると聞いたんだ。あたしから戦いがなくなったら料理しかないから、猫の世話をしながらできる仕事ってことで『これだ!』って思ったのさ」
ルナの元に子猫が歩み寄った。壊れ物に触れるかのように恐る恐る手を伸ばすルナに「こうやって抱くんだよ」と抱き方を教え、メルダが続ける。
「役人から許可を得るのには苦労したよ。でも何度も通って頭を下げているうちに、定期的に衛生チェックと大規模な清掃を行うことと、猫によるトラブルを起こさないことを条件に営業が許されたんだ」
「へえ、話がわかる方がいて良かったわね」
「そこからも結構大変だったんだぞ。飲み屋の番犬なんかと違って、すぐ傍に猫がいるわけだろ? 客は猫好きが多いとはいえ馴染んでもらえるまでに時間がかかったし、猫達にも苦労させたさ」
彼女は毎日の徹底的な掃除のみならず、猫達のストレスが溜まらないように自由に休憩できる空間を作ったり、接客に出る時間を区切ったりと工夫を凝らしたという。
「それでな、今年になってようやく経営が安定したんで思い切ってリフォームしようと思うんだよ。もっと猫好きの目に留まって楽しんでもらえるように、それでいて猫達も毎日楽しく過ごせるように助言が欲しいんだ」
「……私、猫なんて飼ったことないから良いアドバイスなんてできないわよ」
ルナは膝の上に乗せた猫を撫でながら唇を尖らせた。そこでメルダがにやりと笑う。
「でも、人脈はある」
「……へ?」
「ハンターオフィスには今も色々なハンターが集まってるんだよな。だからさ、猫好きのハンターがいたらぜひうちのことを伝えてくれ。外部の人だからこそできる忌憚のない意見っていうのを聞いてみたい」
「それは構わないけど。でも皆にも都合があるからすぐには難しいかもしれないわよ」
「いいよ、時間の都合がついた時で。来てくれたらあたしのランチと猫たちでスペシャルな接待をするって言っといてくれ。あ、昼飯はまだだろ? 今準備するからちょっとだけ猫達と遊んでてくれな」
にっと笑った元ハンターは旧友に食事を振舞うべくキッチンに向かった。
リプレイ本文
ある地方都市のメインストリートに談笑しながら歩くハンターの一団がいた。
その中のひとり、ソフィア =リリィホルム(ka2383)がふいに足を止める。彼女は受付嬢ルナから預かった地図を見直すと、可愛らしく声をあげた。
「皆、ここでいいみたいだよ!」
白い壁に白いドア。壁に「猫喫茶モフル」と浮き彫りにされた看板がある。
「猫カフェ! リアルブルーに転移した時にいつかは行ってみようと思っていたカフェが、こんな所にあるなんて!」
アシェ-ル(ka2983)が興味津々といった様子で声を弾ませた。
一方、その隣で万歳丸(ka5665)は金色の鋭い瞳を不思議そうに瞬かせる。
「猫……か、ふぇ……?」
彼は東方で野山を駆けて成長し、長年にわたり激しい戦いに身を投じてきた鬼である。カフェという娯楽色の強い飲食店についても今ひとつピンと来ないようだ。アシェールが解説する。
「万歳丸さん、カフェとは珈琲やお茶、食べ物を出す飲食店。猫カフェはお店で飼っている猫とふれあいながらお食事できるお店なのです。話によるとここはかなりガッツリ系のお店って話でしたねー」
ガッツリ系という言葉に満足そうに両の口角を吊り上げる万歳丸。
リューリ・ハルマ(ka0502)も紫の大きな瞳を好奇心で輝かせ、声を弾ませた。
「うんうん、猫と遊べてご飯が食べられるんだよね! 猫好きにとっては天国みたいな場所だよねっ」
その隣で鳳城 錬介(ka6053)が整った顔に純朴な笑みを浮かべた。
「良いですね、最近はこういう場が増えて大変嬉しいです」
「猫かふぇ……蒼の世界の噂には聞いていましたけれど、ふふ、きっと和みますわね」
音羽 美沙樹(ka4757)も口元に手をあて、口元を優しく緩める。
仲間たちの間に漂う和やかな空気を背に感じながら万歳丸がドアノブに遠慮なく手を伸ばした。
「よっしゃ、それじゃあ中に入ってみっか!」
メルダの店はルナから聞いたとおり、清潔でシンプルな空間だった。朝のためか客の姿がまばらな分、猫達がのびのびと過ごしている。
「いらっしゃい! あ、あんた達はルナの紹介で来てくれた子達かい?」
挨拶に出たのは「女丈夫」という言葉がよく似合う大柄な女。ハンター達は屈託なく彼女に自己紹介を始めた。
「メルダさんですよね。こんにちわ! 面白そうな仕事があると聞いて! わたし、機導師兼鍛冶師他色々な職人のソフィアです!」
「わたくし、アシェールです。メルダさんって元ハンターという事は、私達の大先輩なんですよね」
「いやいや大先輩なんて恐れ多いよ。アタシは昔ヤンチャしてただけの猫好きおばさんさ。それより皆、忙しいのに足を運んでくれてありがとうね。いつも噂で聞いているよ。世界をかけめぐるハンター達の活躍ぶりをさ!」
思いのほか気さくな店主に安心した美沙樹が一歩あゆみ出た。
「マスターさん、お客様にインタビューさせて貰ってよろしいかしら。このお店でお客様が気に入っていらっしゃる点を伺いたいと思いましたの」
「ん、本人が大丈夫ってんならいいよ!」
胸に手をあて「感謝いたします」と小さく会釈する美沙樹。きっぱりとした気性の彼女は早速仕事モードに切り替わっていた。
万歳丸は良い香りの漂う店内を見回りながらそっと腹に手を当てた。
「……肉が食いてェな」
猫たちを眺めてぼそ、と呟く。彼らは剣呑な視線に気づいたのか、身震いするとてんでに逃げ去ってしまう。そこにやってきたのはメルダだった。
「すまないね、じきに慣れるから気を悪くしないでおくれよ。それよりも、さあ」
彼女は万歳丸へ、分厚い肉と野菜を豪快に挟み込んだ大きなパンと飲み物を差し出した。
「おお、こいつはすげェな。いいのか?」
「お仲間にも軽食を振舞ったばかりさ。食べ盛りは遠慮するんじゃないよ」
周囲を見回すと、仲間がそれと同じ物を相手にナイフとフォークで格闘している姿がある。じゃあ遠慮なく、と万歳丸は椅子に座り料理にかぶりついた。
「うん、まさしく俺好みの味だな。……そういや、この店を改装するんだって?」
頷く店主に万歳丸はやや逡巡した後、彼女の瞳を誠実に見据えた。
「……あー、今までそれなりに稼げるぐれェの客は居たんだろ? ソイツらが離れていくのは良くねェ。今のメニューが気に入ってた奴向けに、残すモンは残すべきだと思うぜ。あとよ、折角色々変えンだ。何かしらで広く伝えるようにしちゃァどうだ。俺のように猫に詳しかねェ連中も安心して入れるような、さ」
入り口や看板でこの店での流儀や猫の扱いを簡単に紹介し、席にも案内を用意することを勧める万歳丸。彼の細やかな心遣いにメルダは感銘を受ける。
「俺は猫のこと、よくわかんねェからよ。俺に説明する流れをもとに資料を用意するのもアリかもな」
強面ながらも協力的な少年にメルダは「よろしく頼むよ」と頷いた。
アシェールは客足が途切れたところで所持品のロボットクリーナーを発進させた。
「さぁ、行くのです。猫ちゃんに遊ばれてくるのです。そして、掃除もしてくるのですっ!」
猫はそれに当初は警戒心をむき出しにしていたが、数分後に元気なトラ猫がクリーナーの上に飛び乗った。しかも驚きのあまり、瞳をまん丸に開いたまま固まりユーモラスな姿を披露したのだからたまらない。
「これが噂の『ロボットクリーナー猫』っ!? 可愛くて癒されますぅ~!!」
両手を握って歓喜するアシェール。猫が転倒しないように手を伸ばすと、その周辺の猫達に囲まれて嬉しい悲鳴をあげる。
「いいな~、わたしもモフモフしてみよっと」
ソフィアもしゃがみ込み、傍にいた白猫に手を伸ばす。するとなぜかその猫が険しい顔になり低い声で唸る。心配する仲間たちに彼女は明るく笑みを返した。
「あはは。何故かわたし、猫にあんまり好かれないんですよねー。わたしは猫好きなんだけどな!」
完全に客足が途切れ、メルダがドアに「準備中」の札をさげる。美沙樹はそれを機に一同を集め、机に大きな紙を広げた。
「こちらはお店の見取り図に、先ほどお客様から伺った要望を写したものですの。アイデアや要望をまとめておけば、どなたとでも情報を共有できますからね」
美沙樹は「皆さん、気づかれたことがあればどんなことでも」と言って椅子に座った。
まずは錬介が提案した。
「俺はキャットタワーやキャットウォークがあるといいと思います」
耳慣れない言葉だったのだろう、メルダが瞳を丸くした。錬介が丁寧に説明する。
「猫の室内用の遊び場や足場のことです。猫は高い所が好きですし、人好きな子でもひとりの時間は大切にする性質でしょうから。人の手が届かない安心できる場所があるというのは喜ぶのではないでしょうか」
メルダが得心した様子で頷いた。錬介は見取り図の隅にいくつかの図案を描いてみせる。
「こういう自由に登れる空間を用意すれば、猫らしい立体感のある動きが見られるようになるでしょう。お客さんも猫が店内でくつろいでいる姿を眺めているだけでも何となく癒しになると思います。爪とぎ用の柱も併せて用意すればインテリアの保護になりますし……何よりも猫の運動不足やストレスの解消にも役立ちますしね」
「ああ、それは助かるよ。今までバックヤードに爪とぎや玩具があれば十分だと思ってたけど、この子らは猫らしく遊べなくて、ストレスを溜め込んでいたかもしれないね」
メルダがしんみりとした様子で、腕の中の猫の背をやさしく撫でた。
ソフィアはそれを切り替えるように、わざとあざとさを感じさせるほど明るい声で提案した。
「えっと、わたしはお客様も猫もくつろげる空間を考えてみました! フロアをマット敷きにして、靴を脱いで上がって、ソファやクッションで寛ぐの」
大胆なリフォーム案を口にする彼女は、迷いなく自らの構想を紙にスケッチした。
「お客様が靴を脱ぐことで店内も猫も汚れにくくなりますからね。消毒用の薬剤も常備しておくといいかも。……それとゆっくり時間を過ごすのに、本を置くのはどうかなあ」
職人らしい実務的な発想が泉の水のように湧き上がる。彼女の前に広げられた紙はたちまち文字と絵で埋め尽くされた。やがてソフィアは手を止めると、人差し指を立てて店主に助言する。
「っと、後はメルダさんがどういうお店にしたいか、っていうのが大事! お店の雰囲気や目的に合わせて請負う職人さんやデザイナーさんがお仕事をしますからね!」
その言葉に生真面目な面のあるメルダは眉を顰め、考え込んだ。
「あ、焦らなくて大丈夫! メルダさんが一番良いと思うやり方を最後に選べばいいんですから、ね?」
メルダにウィンクしたソフィアは美沙樹に目配せした。
「ええ、マスターさんと猫とお客様の満足度の高いお店にすることが肝要ですもの。あたしはフロアの窓を出窓に改装することをおすすめしますわ」
美沙樹は見取り図の窓の部分に出窓らしき線を引いた。それからソファの上で休む猫や、棚の上を闊歩する猫を目を細くして眺め、言葉を続ける。
「猫が日向ぼっこしたり、外を眺めて楽しめるように。猫が寛いでいる様子を見るのは楽しいものですわよ」
リューリが小さく手を打ち鳴らした。
「いいね、それ。直接猫を目にする機会ができれば、猫好きの人はきっと喜ぶよー」
「ええ、それに鳳城さんが仰っていたキャットウォークを階段状にして出窓へ繋げば、猫達も気軽に移動できるでしょう。壁に適度な大きさの板を固定するだけですから、試用してみるのも良いかもしれませんわね。お部屋の印象に似合う色を選んで。板を支える支柱は彫金で猫をあしらった意匠がおすすめですわ」
華やかなアイデアを次々と口にする美沙樹。自分には思いつかないような発想を次々と形にするハンター達をメルダは眩しそうに見つめていた。
次に挙手したのはリューリだった。彼女は溌剌とした声で皆に問いかける。
「日が高くなってきたし、少しお腹が減ってきたんじゃない? メルダさん、キッチンを貸してもらっていいかな?」
リューリの願いに快く応じたメルダとともに、一行はキッチンに移動する。
「このお店って食べごたえがあるご飯系が多いんだよね。でも猫や休憩目的のお客様の中には、お菓子や軽食を色々食べてみたい人もいると思うんだ」
リューリはメルダに許可のもと、一口大のメレンゲをいくつも作るとフライパンで加熱する。
「メレンゲクッキーですか。おいしそうですね」
料理好きの錬介が興味深そうにフライパンの中を覗き込んだ。可愛らしい焼き菓子が甘い香りを漂わせている。
「そう。簡単に作れるし、これからの時期は冷たい物の口直しにも良いと思うの! ホットケーキの生地にメレンゲを混ぜ込むのもフワフワになるからおすすめだよ」
冷ましたクッキーを皆に配るリューリ。各々が口に放り込むと優しい甘みと儚げな食感に心が和む。
そこでまじまじとクッキーを観察するメルダにリューリが助言した。
「メレンゲクッキーやパウンドケーキは混ぜ物次第で風味が変わるので、大きめのお皿に複数の味を並べて出すと喜ばれると思いますよ! プレーンなケーキにはジャムやクリームを添えるだけでも楽しくなります」
「ああ、方向性を急に変えることなく少しずつできる範囲を増やすってことだね」
「そういうこと!」
リューリとメルダがにっと笑いあった。
キッチンで意気投合したメルダとリューリがランチ作りに奮闘する中、アシェールはフロアで魔導カメラによる撮影を楽しんでいた。
猫用通路の出入り口を整備していた美沙樹が彼女へ興味深そうに声をかけると弾んだ声が返ってくる。
「猫ちゃんの写真撮影なのです。後でプロフィールと店主さんからのコメントをあわせて掲示板に貼るのです。初めてのお客様も猫ちゃんたちと仲良くなるきっかけにするのですよ」
「まあ! それは素敵ですわね」
「特にお遊び中の猫ちゃんの写真は幸せいっぱいで喜んでもらえると思うのです」
軽快な音とともに新しい紙が排出される。そこには猫と身軽さ勝負に興じる万歳丸や、ソファでたくさんの猫に囲まれている笑顔の錬介の姿が印刷されていた。
「……ふふ、これもなかなか良い写真なのです」
アシェールは万歳丸の写真に『未来の大英雄』と書き、猫達の写真に重ねた。
一行がメルダとリューリの特製ランチに舌鼓を打ちながら歓談し、最終的に決定した店はログハウス風の家庭的なカフェだった。常連客やハンター達の意見を取り入れると決めたメルダが大型の看板、出窓、自然木を活かしたタワーと足場、大きめの本棚、床の張替えと靴用の棚など、必要な設備を紙に書き出す。
料理は現在のメニューを継続させつつスイーツのフレーバーを増やすことにしたそうだ。
ソフィアはそれを手早く書き写し、大まかな施工費用を算出した。
「この手のリフォームだと見積もりは多分このぐらいかなぁ。あ、よろしければ良心的な工房を紹介しますよー。わたしの工房も随時仕事受付中ですっ!」
ソフィアはおどけたような仕草を交え、見積書の隅に自分の工房の連絡先を記す。それを渡されたメルダは感心したように息を吐いた。
「お前さんのさっきの図案、とても良かったよ。早速うちの看板を依頼しようかね。若いのに大したもんだ」
ソフィアははにかみながら礼を言うと、僅かに頬を赤らめた。
リューリは「いっぱい食べて元気に大きくなるんだよ」と子猫に名残惜しみながら別れを告げた。
万歳丸はメルダに向き合った。
「やー、久々に楽しかったぜ。……折角の余生だ。愉しんで過ごしな。アンタ『ら』の未来は、この未来の大英雄、万歳丸様が請負ったらァ!」
「ああ、頼りにしているよ。この世界の未来はお前さん達に託されているんだ。……あ、少しだけ待ってくれるかい?」
メルダが手にしたものは先ほどアシェールが使っていたものと同じ魔導カメラだった。
「アシェール嬢ちゃんからいただいたカメラ、早速使わせてもらうよ」
彼女は覚醒者としての力が僅かながら残っていたのだろう。ソファにハンター一行と猫を集め、7度シャッターを押した。6枚はハンター達に配り、1枚は自分に。そしてアシェールが撮影した写真も並べてみせる。たちまち万歳丸と錬介が頬を紅潮させた。
「あっ俺の写真! アシェール、アンタなぁ!」
「猫ちゃんと遊ぶ皆さん、とても可愛かったのです」
にわかに盛り上がる面々にメルダがしみじみと感謝の言葉を伝える。
「この写真は店を助けてくれた英雄達として掲示板に貼らせてもらうよ。きっとまた遊びに来ておくれ。次は猫と幸せな写真でいっぱいの賑やかな店になってるはずだからね」
アシェールもまた、仲間たちとメルダと猫たちの姿をカメラに収めた。彼女は仕上がった写真に満足げに頷く。
「どれだけ幸せに見えるかな……うん! みんな、いいお顔なのです!」
その中のひとり、ソフィア =リリィホルム(ka2383)がふいに足を止める。彼女は受付嬢ルナから預かった地図を見直すと、可愛らしく声をあげた。
「皆、ここでいいみたいだよ!」
白い壁に白いドア。壁に「猫喫茶モフル」と浮き彫りにされた看板がある。
「猫カフェ! リアルブルーに転移した時にいつかは行ってみようと思っていたカフェが、こんな所にあるなんて!」
アシェ-ル(ka2983)が興味津々といった様子で声を弾ませた。
一方、その隣で万歳丸(ka5665)は金色の鋭い瞳を不思議そうに瞬かせる。
「猫……か、ふぇ……?」
彼は東方で野山を駆けて成長し、長年にわたり激しい戦いに身を投じてきた鬼である。カフェという娯楽色の強い飲食店についても今ひとつピンと来ないようだ。アシェールが解説する。
「万歳丸さん、カフェとは珈琲やお茶、食べ物を出す飲食店。猫カフェはお店で飼っている猫とふれあいながらお食事できるお店なのです。話によるとここはかなりガッツリ系のお店って話でしたねー」
ガッツリ系という言葉に満足そうに両の口角を吊り上げる万歳丸。
リューリ・ハルマ(ka0502)も紫の大きな瞳を好奇心で輝かせ、声を弾ませた。
「うんうん、猫と遊べてご飯が食べられるんだよね! 猫好きにとっては天国みたいな場所だよねっ」
その隣で鳳城 錬介(ka6053)が整った顔に純朴な笑みを浮かべた。
「良いですね、最近はこういう場が増えて大変嬉しいです」
「猫かふぇ……蒼の世界の噂には聞いていましたけれど、ふふ、きっと和みますわね」
音羽 美沙樹(ka4757)も口元に手をあて、口元を優しく緩める。
仲間たちの間に漂う和やかな空気を背に感じながら万歳丸がドアノブに遠慮なく手を伸ばした。
「よっしゃ、それじゃあ中に入ってみっか!」
メルダの店はルナから聞いたとおり、清潔でシンプルな空間だった。朝のためか客の姿がまばらな分、猫達がのびのびと過ごしている。
「いらっしゃい! あ、あんた達はルナの紹介で来てくれた子達かい?」
挨拶に出たのは「女丈夫」という言葉がよく似合う大柄な女。ハンター達は屈託なく彼女に自己紹介を始めた。
「メルダさんですよね。こんにちわ! 面白そうな仕事があると聞いて! わたし、機導師兼鍛冶師他色々な職人のソフィアです!」
「わたくし、アシェールです。メルダさんって元ハンターという事は、私達の大先輩なんですよね」
「いやいや大先輩なんて恐れ多いよ。アタシは昔ヤンチャしてただけの猫好きおばさんさ。それより皆、忙しいのに足を運んでくれてありがとうね。いつも噂で聞いているよ。世界をかけめぐるハンター達の活躍ぶりをさ!」
思いのほか気さくな店主に安心した美沙樹が一歩あゆみ出た。
「マスターさん、お客様にインタビューさせて貰ってよろしいかしら。このお店でお客様が気に入っていらっしゃる点を伺いたいと思いましたの」
「ん、本人が大丈夫ってんならいいよ!」
胸に手をあて「感謝いたします」と小さく会釈する美沙樹。きっぱりとした気性の彼女は早速仕事モードに切り替わっていた。
万歳丸は良い香りの漂う店内を見回りながらそっと腹に手を当てた。
「……肉が食いてェな」
猫たちを眺めてぼそ、と呟く。彼らは剣呑な視線に気づいたのか、身震いするとてんでに逃げ去ってしまう。そこにやってきたのはメルダだった。
「すまないね、じきに慣れるから気を悪くしないでおくれよ。それよりも、さあ」
彼女は万歳丸へ、分厚い肉と野菜を豪快に挟み込んだ大きなパンと飲み物を差し出した。
「おお、こいつはすげェな。いいのか?」
「お仲間にも軽食を振舞ったばかりさ。食べ盛りは遠慮するんじゃないよ」
周囲を見回すと、仲間がそれと同じ物を相手にナイフとフォークで格闘している姿がある。じゃあ遠慮なく、と万歳丸は椅子に座り料理にかぶりついた。
「うん、まさしく俺好みの味だな。……そういや、この店を改装するんだって?」
頷く店主に万歳丸はやや逡巡した後、彼女の瞳を誠実に見据えた。
「……あー、今までそれなりに稼げるぐれェの客は居たんだろ? ソイツらが離れていくのは良くねェ。今のメニューが気に入ってた奴向けに、残すモンは残すべきだと思うぜ。あとよ、折角色々変えンだ。何かしらで広く伝えるようにしちゃァどうだ。俺のように猫に詳しかねェ連中も安心して入れるような、さ」
入り口や看板でこの店での流儀や猫の扱いを簡単に紹介し、席にも案内を用意することを勧める万歳丸。彼の細やかな心遣いにメルダは感銘を受ける。
「俺は猫のこと、よくわかんねェからよ。俺に説明する流れをもとに資料を用意するのもアリかもな」
強面ながらも協力的な少年にメルダは「よろしく頼むよ」と頷いた。
アシェールは客足が途切れたところで所持品のロボットクリーナーを発進させた。
「さぁ、行くのです。猫ちゃんに遊ばれてくるのです。そして、掃除もしてくるのですっ!」
猫はそれに当初は警戒心をむき出しにしていたが、数分後に元気なトラ猫がクリーナーの上に飛び乗った。しかも驚きのあまり、瞳をまん丸に開いたまま固まりユーモラスな姿を披露したのだからたまらない。
「これが噂の『ロボットクリーナー猫』っ!? 可愛くて癒されますぅ~!!」
両手を握って歓喜するアシェール。猫が転倒しないように手を伸ばすと、その周辺の猫達に囲まれて嬉しい悲鳴をあげる。
「いいな~、わたしもモフモフしてみよっと」
ソフィアもしゃがみ込み、傍にいた白猫に手を伸ばす。するとなぜかその猫が険しい顔になり低い声で唸る。心配する仲間たちに彼女は明るく笑みを返した。
「あはは。何故かわたし、猫にあんまり好かれないんですよねー。わたしは猫好きなんだけどな!」
完全に客足が途切れ、メルダがドアに「準備中」の札をさげる。美沙樹はそれを機に一同を集め、机に大きな紙を広げた。
「こちらはお店の見取り図に、先ほどお客様から伺った要望を写したものですの。アイデアや要望をまとめておけば、どなたとでも情報を共有できますからね」
美沙樹は「皆さん、気づかれたことがあればどんなことでも」と言って椅子に座った。
まずは錬介が提案した。
「俺はキャットタワーやキャットウォークがあるといいと思います」
耳慣れない言葉だったのだろう、メルダが瞳を丸くした。錬介が丁寧に説明する。
「猫の室内用の遊び場や足場のことです。猫は高い所が好きですし、人好きな子でもひとりの時間は大切にする性質でしょうから。人の手が届かない安心できる場所があるというのは喜ぶのではないでしょうか」
メルダが得心した様子で頷いた。錬介は見取り図の隅にいくつかの図案を描いてみせる。
「こういう自由に登れる空間を用意すれば、猫らしい立体感のある動きが見られるようになるでしょう。お客さんも猫が店内でくつろいでいる姿を眺めているだけでも何となく癒しになると思います。爪とぎ用の柱も併せて用意すればインテリアの保護になりますし……何よりも猫の運動不足やストレスの解消にも役立ちますしね」
「ああ、それは助かるよ。今までバックヤードに爪とぎや玩具があれば十分だと思ってたけど、この子らは猫らしく遊べなくて、ストレスを溜め込んでいたかもしれないね」
メルダがしんみりとした様子で、腕の中の猫の背をやさしく撫でた。
ソフィアはそれを切り替えるように、わざとあざとさを感じさせるほど明るい声で提案した。
「えっと、わたしはお客様も猫もくつろげる空間を考えてみました! フロアをマット敷きにして、靴を脱いで上がって、ソファやクッションで寛ぐの」
大胆なリフォーム案を口にする彼女は、迷いなく自らの構想を紙にスケッチした。
「お客様が靴を脱ぐことで店内も猫も汚れにくくなりますからね。消毒用の薬剤も常備しておくといいかも。……それとゆっくり時間を過ごすのに、本を置くのはどうかなあ」
職人らしい実務的な発想が泉の水のように湧き上がる。彼女の前に広げられた紙はたちまち文字と絵で埋め尽くされた。やがてソフィアは手を止めると、人差し指を立てて店主に助言する。
「っと、後はメルダさんがどういうお店にしたいか、っていうのが大事! お店の雰囲気や目的に合わせて請負う職人さんやデザイナーさんがお仕事をしますからね!」
その言葉に生真面目な面のあるメルダは眉を顰め、考え込んだ。
「あ、焦らなくて大丈夫! メルダさんが一番良いと思うやり方を最後に選べばいいんですから、ね?」
メルダにウィンクしたソフィアは美沙樹に目配せした。
「ええ、マスターさんと猫とお客様の満足度の高いお店にすることが肝要ですもの。あたしはフロアの窓を出窓に改装することをおすすめしますわ」
美沙樹は見取り図の窓の部分に出窓らしき線を引いた。それからソファの上で休む猫や、棚の上を闊歩する猫を目を細くして眺め、言葉を続ける。
「猫が日向ぼっこしたり、外を眺めて楽しめるように。猫が寛いでいる様子を見るのは楽しいものですわよ」
リューリが小さく手を打ち鳴らした。
「いいね、それ。直接猫を目にする機会ができれば、猫好きの人はきっと喜ぶよー」
「ええ、それに鳳城さんが仰っていたキャットウォークを階段状にして出窓へ繋げば、猫達も気軽に移動できるでしょう。壁に適度な大きさの板を固定するだけですから、試用してみるのも良いかもしれませんわね。お部屋の印象に似合う色を選んで。板を支える支柱は彫金で猫をあしらった意匠がおすすめですわ」
華やかなアイデアを次々と口にする美沙樹。自分には思いつかないような発想を次々と形にするハンター達をメルダは眩しそうに見つめていた。
次に挙手したのはリューリだった。彼女は溌剌とした声で皆に問いかける。
「日が高くなってきたし、少しお腹が減ってきたんじゃない? メルダさん、キッチンを貸してもらっていいかな?」
リューリの願いに快く応じたメルダとともに、一行はキッチンに移動する。
「このお店って食べごたえがあるご飯系が多いんだよね。でも猫や休憩目的のお客様の中には、お菓子や軽食を色々食べてみたい人もいると思うんだ」
リューリはメルダに許可のもと、一口大のメレンゲをいくつも作るとフライパンで加熱する。
「メレンゲクッキーですか。おいしそうですね」
料理好きの錬介が興味深そうにフライパンの中を覗き込んだ。可愛らしい焼き菓子が甘い香りを漂わせている。
「そう。簡単に作れるし、これからの時期は冷たい物の口直しにも良いと思うの! ホットケーキの生地にメレンゲを混ぜ込むのもフワフワになるからおすすめだよ」
冷ましたクッキーを皆に配るリューリ。各々が口に放り込むと優しい甘みと儚げな食感に心が和む。
そこでまじまじとクッキーを観察するメルダにリューリが助言した。
「メレンゲクッキーやパウンドケーキは混ぜ物次第で風味が変わるので、大きめのお皿に複数の味を並べて出すと喜ばれると思いますよ! プレーンなケーキにはジャムやクリームを添えるだけでも楽しくなります」
「ああ、方向性を急に変えることなく少しずつできる範囲を増やすってことだね」
「そういうこと!」
リューリとメルダがにっと笑いあった。
キッチンで意気投合したメルダとリューリがランチ作りに奮闘する中、アシェールはフロアで魔導カメラによる撮影を楽しんでいた。
猫用通路の出入り口を整備していた美沙樹が彼女へ興味深そうに声をかけると弾んだ声が返ってくる。
「猫ちゃんの写真撮影なのです。後でプロフィールと店主さんからのコメントをあわせて掲示板に貼るのです。初めてのお客様も猫ちゃんたちと仲良くなるきっかけにするのですよ」
「まあ! それは素敵ですわね」
「特にお遊び中の猫ちゃんの写真は幸せいっぱいで喜んでもらえると思うのです」
軽快な音とともに新しい紙が排出される。そこには猫と身軽さ勝負に興じる万歳丸や、ソファでたくさんの猫に囲まれている笑顔の錬介の姿が印刷されていた。
「……ふふ、これもなかなか良い写真なのです」
アシェールは万歳丸の写真に『未来の大英雄』と書き、猫達の写真に重ねた。
一行がメルダとリューリの特製ランチに舌鼓を打ちながら歓談し、最終的に決定した店はログハウス風の家庭的なカフェだった。常連客やハンター達の意見を取り入れると決めたメルダが大型の看板、出窓、自然木を活かしたタワーと足場、大きめの本棚、床の張替えと靴用の棚など、必要な設備を紙に書き出す。
料理は現在のメニューを継続させつつスイーツのフレーバーを増やすことにしたそうだ。
ソフィアはそれを手早く書き写し、大まかな施工費用を算出した。
「この手のリフォームだと見積もりは多分このぐらいかなぁ。あ、よろしければ良心的な工房を紹介しますよー。わたしの工房も随時仕事受付中ですっ!」
ソフィアはおどけたような仕草を交え、見積書の隅に自分の工房の連絡先を記す。それを渡されたメルダは感心したように息を吐いた。
「お前さんのさっきの図案、とても良かったよ。早速うちの看板を依頼しようかね。若いのに大したもんだ」
ソフィアははにかみながら礼を言うと、僅かに頬を赤らめた。
リューリは「いっぱい食べて元気に大きくなるんだよ」と子猫に名残惜しみながら別れを告げた。
万歳丸はメルダに向き合った。
「やー、久々に楽しかったぜ。……折角の余生だ。愉しんで過ごしな。アンタ『ら』の未来は、この未来の大英雄、万歳丸様が請負ったらァ!」
「ああ、頼りにしているよ。この世界の未来はお前さん達に託されているんだ。……あ、少しだけ待ってくれるかい?」
メルダが手にしたものは先ほどアシェールが使っていたものと同じ魔導カメラだった。
「アシェール嬢ちゃんからいただいたカメラ、早速使わせてもらうよ」
彼女は覚醒者としての力が僅かながら残っていたのだろう。ソファにハンター一行と猫を集め、7度シャッターを押した。6枚はハンター達に配り、1枚は自分に。そしてアシェールが撮影した写真も並べてみせる。たちまち万歳丸と錬介が頬を紅潮させた。
「あっ俺の写真! アシェール、アンタなぁ!」
「猫ちゃんと遊ぶ皆さん、とても可愛かったのです」
にわかに盛り上がる面々にメルダがしみじみと感謝の言葉を伝える。
「この写真は店を助けてくれた英雄達として掲示板に貼らせてもらうよ。きっとまた遊びに来ておくれ。次は猫と幸せな写真でいっぱいの賑やかな店になってるはずだからね」
アシェールもまた、仲間たちとメルダと猫たちの姿をカメラに収めた。彼女は仕上がった写真に満足げに頷く。
「どれだけ幸せに見えるかな……うん! みんな、いいお顔なのです!」
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相談&雑談的な ソフィア =リリィホルム(ka2383) ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/06/22 08:23:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/06/22 00:32:33 |