ゲスト
(ka0000)
火輪の輝き
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/01 12:00
- 完成日
- 2017/07/08 22:11
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境部族には様々な形がある。
その中でも部族の掟は部族にあるだけの掟が存在していると言われていた。
歪虚に滅ぼされた部族の生き残りが集まった部族なき部族にも掟が存在する。
その中でも、任務放棄と仲間殺しは許されないことだ。
●
部族なき部族を裏切ったビスの一番古い記憶は自身に父がいない事を母に尋ねていた事。
「シバ様だ。お前の名付けてくれた方。お前も大好きだろう」
時折現れる赤き大地の戦士、シバはビスも良くなついていた。
「これは誰も知らないこと。お前と私の秘密。誰にも、シバ様にも内緒だよ」
笑んだ母親の形のよい唇がゆっくりと開き、空に浮かぶ三日月のよう。
そう、秘密だと言った。
シバにも。
その後、ビスの部族は歪虚に襲われた。多勢に無勢であり、母親はまだ幼いビスを馬に乗せた。
辺境の荒野を彷徨ったビスは湧き水がある洞窟に辿り着く。
水しかない場所で馬もどこかへ走り去ってもビスはいつか出ようと思う気持ちは折れてなかった。
それも限界にきていた頃、灰の髪に変わった服を着た少年が現れた。
本能的に警戒をするビスにその人物はビスを見つめる。
「ほう、美しいですね」
「……歪虚……」
その笑みの後ろにある何かにビスが反応する。
「よくわかりましたね」
にっこり笑む歪虚にビスは隠し持っていた短剣を向けた。
「そんなものでは殺せませんよ」
「けど……お前達は、部族の皆をころしただろ」
空腹で目が回りそうになりながらビスは歪虚を責め立てる。
「いいですねぇ。その目」
にこりと歪虚は満足そうだった。
「気に入りました。貴方を生かしましょう」
思い立った歪虚は獣でも捕まえてきますと行って出ていくと、きちんと獣を捕まえてビスに食わせた。
「申し遅れてました。私、アクベンスと申します」
にっこり微笑んだアクベンスにビスは肉を頬張りながらも警戒の目を向ける。
一緒に過ごした時間は一月もなくアクベンスがどこかへ消えていった。
その間にビスの前に現れたのがシバと部族なき部族のメンバー。
「おお、お前の部族が襲われたと聞いたが、生きていたか。儂が名付けたからか」
呵々と笑うシバにビスは安堵感に満たされる。
「部族なき部族はお前を迎えよう」
差しのべられた手をビスはどれほど待ちわびていただろうか。
部族なき部族に入って間もなく、ある部族が襲われた報告を聞いた。
シバと仲間が連れて帰ってきたのは一人の赤子。
名をテトとし、シバの弟子として部族なき部族のメンバーに育てられた。ビスもまた、その子を大事に育てた。
それから十年近くは経過した頃、ビスは立ち聞きをする。
「テトに跡を継がせようと思ってな」
シバの言葉を聞いてビスは物陰に隠れた。
「今はああじゃが、きっといい戦士になれる。腕っぷしの強さだけが全てじゃないからのう」
そう言い切ったシバはもう腹が決まっているのだろう。
確信したからこそ、ビスは足元から心が揺らいだ。
自分にとって、シバの息子で後継者に選ばれる自信があった。
シバに確かめようとしたが、シバには言うなと告げられた母の声がまるで呪いのように自身を苛む。
苦悩するビスにシバから海狸と共に長期の潜入任務が渡される。
海狸とは似たような時期に部族なき部族へ入った仲間で同年代なのでよく話をした。
彼女は二人きりの時だけ本名で呼ぶ。ビスにはどうでもいい事だ。
定期連絡の時、外から来たメンバーとの情報交換の後でメンバーが「二人が受けてくれてよかった」と漏らす。
「テトにはまだ早いから仕方ないわ」
その言葉にビスの気持ちが再び揺らぎ、声が遠くなる。
自分はテトの代わりだったのかと。
思い込みだろうと自身に言い聞かせるが、動き出した感情はもう収まることが出来ないと感じた。
ビスは決断し、その日の内に姿を消した。
死んだものと思わせ、背格好が似た者を殺して原型を留めないようにして。
同時に海狸が潜入していることを敵に知られて大怪我を負ったことをビスは知らなかった。
任務放棄したビスは行く当てもなく、あの歪虚がいた洞窟へ行こうと足を向ける。
歪虚は年を取らずに昔のままだった。
「また逢いましたね?」
三日月のように唇を薄く開いて歪虚は嗤う。
ビスは様々な『仕事』をして生きていた。
時折消耗してくる歪虚に『マテリアル』を買って与える事があった。
「スコール族長とまともに戦えばそうなる」
冬に競売にかけられていた娘を見て、ビスは奴の玩具に良いと判断して買った。
恐怖に怯えているのに毅然とした目が奴の琴線にかかるだろうと思ったから。
判断は正解だったが、その娘はビスに部族の証である首飾りを探してと願いを乞う。
歪虚を相手に震えていても迎えが来ることを願い、結果喰い殺された。
最期まで悲鳴を押し殺したままで。
娘の気概にビスは探そうと思った。気分が乗った。
そして、気まぐれでハンターだろう女を助けた際に見たのはテト。シバの後継者として動いている事も調べ、ビスの心に苛立ちが募る。
部族なき部族なんか必要ない。
自身に必要なのは赤き大地の戦士シバの後継者という栄誉だ。
●
テトは大巫女と共にいた。
大巫女はこれから幻獣の森に向かうというので、他の部族なき部族のメンバーと共に護衛として一緒に向かおうとしている。
ここ最近の部族なき部族の件を話したいと思っていた。
「アイツに隠し子がいたって驚きじゃないよ。あと三人出てきたっておかしくない」
ばっさり言い切った大巫女にテトは「ですよねー」という表情となる。
「しかし、お前さんはどうするんだい?」
大巫女が言いたいことをテトは理解していた。
任務を放棄し、仲間を殺した者を裁かないとならない。
「テトは…黒犬の兄さまをにゃかまと思ってます……にゃけど」
「お前に仲間など思われたくない」
立ち塞がったのはビスだ。
その手には剣が握られており、戦闘態勢をとる。
「シバの後継者でありたいのに任務もこなせず、仲間を殺した青二才が何をほざく」
凛とした老婆の声にビスは目を細めた。
「やっぱり、こうなりましたねぇ」
のほほんとした声音でアクベンスが割って入る。
「決闘を提案しますよ」
ウィンク一つして人差し指を立てるアクベンスに全員の訝しげな視線を向く。
「私は貴方達の事は一切知りませんが、ビスがした事は重罪でしょうねですから、猫嬢とビスで戦いをしましょう。ビスもいい機会ですので、猫嬢を殺してスッキリしなさい」
アクベンスに言われたビスは言葉を詰まらせて黙り込む。
「場所は先日お会いした採掘場で七日後に会いましょう」
手順も順序もない奇襲のような決闘話を置いてアクベンスとビスは嵐のように消え去った。
「テト、刻限は迫ってるんじゃないかい?」
逃げ回っていたモラトリアムの期限はあと七日。
現在の部族なき部族のリーダーたるテトは部族の掟に背いたビスを処罰しなければならなかった。
その中でも部族の掟は部族にあるだけの掟が存在していると言われていた。
歪虚に滅ぼされた部族の生き残りが集まった部族なき部族にも掟が存在する。
その中でも、任務放棄と仲間殺しは許されないことだ。
●
部族なき部族を裏切ったビスの一番古い記憶は自身に父がいない事を母に尋ねていた事。
「シバ様だ。お前の名付けてくれた方。お前も大好きだろう」
時折現れる赤き大地の戦士、シバはビスも良くなついていた。
「これは誰も知らないこと。お前と私の秘密。誰にも、シバ様にも内緒だよ」
笑んだ母親の形のよい唇がゆっくりと開き、空に浮かぶ三日月のよう。
そう、秘密だと言った。
シバにも。
その後、ビスの部族は歪虚に襲われた。多勢に無勢であり、母親はまだ幼いビスを馬に乗せた。
辺境の荒野を彷徨ったビスは湧き水がある洞窟に辿り着く。
水しかない場所で馬もどこかへ走り去ってもビスはいつか出ようと思う気持ちは折れてなかった。
それも限界にきていた頃、灰の髪に変わった服を着た少年が現れた。
本能的に警戒をするビスにその人物はビスを見つめる。
「ほう、美しいですね」
「……歪虚……」
その笑みの後ろにある何かにビスが反応する。
「よくわかりましたね」
にっこり笑む歪虚にビスは隠し持っていた短剣を向けた。
「そんなものでは殺せませんよ」
「けど……お前達は、部族の皆をころしただろ」
空腹で目が回りそうになりながらビスは歪虚を責め立てる。
「いいですねぇ。その目」
にこりと歪虚は満足そうだった。
「気に入りました。貴方を生かしましょう」
思い立った歪虚は獣でも捕まえてきますと行って出ていくと、きちんと獣を捕まえてビスに食わせた。
「申し遅れてました。私、アクベンスと申します」
にっこり微笑んだアクベンスにビスは肉を頬張りながらも警戒の目を向ける。
一緒に過ごした時間は一月もなくアクベンスがどこかへ消えていった。
その間にビスの前に現れたのがシバと部族なき部族のメンバー。
「おお、お前の部族が襲われたと聞いたが、生きていたか。儂が名付けたからか」
呵々と笑うシバにビスは安堵感に満たされる。
「部族なき部族はお前を迎えよう」
差しのべられた手をビスはどれほど待ちわびていただろうか。
部族なき部族に入って間もなく、ある部族が襲われた報告を聞いた。
シバと仲間が連れて帰ってきたのは一人の赤子。
名をテトとし、シバの弟子として部族なき部族のメンバーに育てられた。ビスもまた、その子を大事に育てた。
それから十年近くは経過した頃、ビスは立ち聞きをする。
「テトに跡を継がせようと思ってな」
シバの言葉を聞いてビスは物陰に隠れた。
「今はああじゃが、きっといい戦士になれる。腕っぷしの強さだけが全てじゃないからのう」
そう言い切ったシバはもう腹が決まっているのだろう。
確信したからこそ、ビスは足元から心が揺らいだ。
自分にとって、シバの息子で後継者に選ばれる自信があった。
シバに確かめようとしたが、シバには言うなと告げられた母の声がまるで呪いのように自身を苛む。
苦悩するビスにシバから海狸と共に長期の潜入任務が渡される。
海狸とは似たような時期に部族なき部族へ入った仲間で同年代なのでよく話をした。
彼女は二人きりの時だけ本名で呼ぶ。ビスにはどうでもいい事だ。
定期連絡の時、外から来たメンバーとの情報交換の後でメンバーが「二人が受けてくれてよかった」と漏らす。
「テトにはまだ早いから仕方ないわ」
その言葉にビスの気持ちが再び揺らぎ、声が遠くなる。
自分はテトの代わりだったのかと。
思い込みだろうと自身に言い聞かせるが、動き出した感情はもう収まることが出来ないと感じた。
ビスは決断し、その日の内に姿を消した。
死んだものと思わせ、背格好が似た者を殺して原型を留めないようにして。
同時に海狸が潜入していることを敵に知られて大怪我を負ったことをビスは知らなかった。
任務放棄したビスは行く当てもなく、あの歪虚がいた洞窟へ行こうと足を向ける。
歪虚は年を取らずに昔のままだった。
「また逢いましたね?」
三日月のように唇を薄く開いて歪虚は嗤う。
ビスは様々な『仕事』をして生きていた。
時折消耗してくる歪虚に『マテリアル』を買って与える事があった。
「スコール族長とまともに戦えばそうなる」
冬に競売にかけられていた娘を見て、ビスは奴の玩具に良いと判断して買った。
恐怖に怯えているのに毅然とした目が奴の琴線にかかるだろうと思ったから。
判断は正解だったが、その娘はビスに部族の証である首飾りを探してと願いを乞う。
歪虚を相手に震えていても迎えが来ることを願い、結果喰い殺された。
最期まで悲鳴を押し殺したままで。
娘の気概にビスは探そうと思った。気分が乗った。
そして、気まぐれでハンターだろう女を助けた際に見たのはテト。シバの後継者として動いている事も調べ、ビスの心に苛立ちが募る。
部族なき部族なんか必要ない。
自身に必要なのは赤き大地の戦士シバの後継者という栄誉だ。
●
テトは大巫女と共にいた。
大巫女はこれから幻獣の森に向かうというので、他の部族なき部族のメンバーと共に護衛として一緒に向かおうとしている。
ここ最近の部族なき部族の件を話したいと思っていた。
「アイツに隠し子がいたって驚きじゃないよ。あと三人出てきたっておかしくない」
ばっさり言い切った大巫女にテトは「ですよねー」という表情となる。
「しかし、お前さんはどうするんだい?」
大巫女が言いたいことをテトは理解していた。
任務を放棄し、仲間を殺した者を裁かないとならない。
「テトは…黒犬の兄さまをにゃかまと思ってます……にゃけど」
「お前に仲間など思われたくない」
立ち塞がったのはビスだ。
その手には剣が握られており、戦闘態勢をとる。
「シバの後継者でありたいのに任務もこなせず、仲間を殺した青二才が何をほざく」
凛とした老婆の声にビスは目を細めた。
「やっぱり、こうなりましたねぇ」
のほほんとした声音でアクベンスが割って入る。
「決闘を提案しますよ」
ウィンク一つして人差し指を立てるアクベンスに全員の訝しげな視線を向く。
「私は貴方達の事は一切知りませんが、ビスがした事は重罪でしょうねですから、猫嬢とビスで戦いをしましょう。ビスもいい機会ですので、猫嬢を殺してスッキリしなさい」
アクベンスに言われたビスは言葉を詰まらせて黙り込む。
「場所は先日お会いした採掘場で七日後に会いましょう」
手順も順序もない奇襲のような決闘話を置いてアクベンスとビスは嵐のように消え去った。
「テト、刻限は迫ってるんじゃないかい?」
逃げ回っていたモラトリアムの期限はあと七日。
現在の部族なき部族のリーダーたるテトは部族の掟に背いたビスを処罰しなければならなかった。
リプレイ本文
今回の依頼に応じたハンター達事前にテトと話がしたいと申し出があった。
場を提供してくれたのはドワーフ工房。
部族なき部族のメンバーである山羊がハンター達を出迎えてくれた。
「テトの様子は?」
オウガ(ka2124)が尋ねると、山羊は一拍置いて口を開く。
「腹は決まっているようだが、何か落としどころが決まってないようだな」
「まあ少人数のコミュニティは、違反者が出た時にきっちり罰則を設けないと結束が緩んじまう」
リカルド=フェアバーン(ka0356)の言葉に山羊も同感だ。
「その通りだが……行動する腰がまだ重くてな」
「仲間殺しともなればか。状況は最悪だな」
「でも、行動するのはテト君だから」
淡々と言葉を口にするリカルドの後にアイラ(ka3941)が声を出す。
先頭を歩く山羊が「入るぞ」と声をかけた。
部屋の中にはドワーフ工房のカペラがテトと話しており、テトの手には一振りの剣。
「それは?」
レイア・アローネ(ka4082)が問うと、カペラは「以前にファリフから頼まれたの」と返す。
「あって損はないと思って」
立ち上がったカペラはハンター達の方を向く。
「後は宜しくね」
癖のある髪を揺らしてカペラが部屋の外に出た。
「まだ、迷っているのか」
静かに尋ねるルイトガルト・レーデル(ka6356)の言葉にテトは顔を上げた。
見透かされたかと思ったかと、どこか目を逸らそうとするテトにオウガが目線を合わせる。
「仲間を殺しちまった時点で、テト、お前の知ってるビスは死んだ」
オウガの言葉を聞いてテトは弾かれるようにオウガの方を向く。
「誰かを殺すってのは、今までの自分をも殺し堕ちるって事なんだ。仲間だったら、尚更だ」
「……オウガのいう事も一理あると思ってますにゃ。ジタバタしても、黒犬の兄さまはテトを信じてくれるにゃかまを殺しに来ますにゃ……シバ様の後継者とか関係にゃく、にゃかまを……護りたいというのがテトの考えですにゃ……」
ぎゅっと、剣へ視線を落として柄を握りしめるテトの手が震えているのは目に見えるほどだ。
例え、腕に自信がなくても、その気持ちに偽りがないと不動シオン(ka5395)は判断する。
「それがお前の出した答えならば、立ち向かえ」
レイアの言葉にテトは弾かれるように顔を上げる。
「覚えておいてくれ。どんな答えを出そうとも私達はお前の味方だ」
クールな印象を覚えるレイアの表情が幾分か和らいだような声音でテトへ語り掛けた。
「守るよ。友達だもの」
穏やかな笑みを浮かべたアイラが柄を握りしめるテトの手に自身の手を重ねる。
「みんにゃ……ありがとうですにゃ……」
笑顔を浮かべたテトだが、それは精一杯の強がりのように見えた。
●
この闘いには、部族なき部族のメンバーが集まっていた。
姿を現しているのは半数ほどで、他のメンバーは隠れて他の歪虚などが入って来ないように見張っているそうだ。
いくら、テトがシバの後継者とあっても、テトの行動次第ではビスの決起を見てリーダーに従わない可能性が出てくることがあるのではないかとルイトガルトは考えていた。
「踏ん張りどころだな」
周囲を一瞥したレイアが呟く。
テトの近く超嗅覚を発動させていたオウガはぴくりと、身体を強張らせて即座に振り向いた。
様子に気づいていたリカルドがその方向へ迷いなく飛び出す。
リカルドが前に構えた試作光斬刀が受け止めたのはアクベンスの長い爪。しかし、アクベンスの動きが早く、空いた手の爪がリカルドの喉に食い込んだ。
「それが……決闘を仕向けた奴がやることかねぇっ」
細められる右目の色が濃くなり、赤色へと変化していた。覚醒で感覚がぼやけているが、首に爪が食い込んでいるので声が出にくいことをどこか客観的に感じていた。
毒づくリカルドは五芒星の紋様が描かれている魔導拳銃をアクベンスへと構え、即座に撃つ。
顔を目がけて撃ったが、アクベンスの頬を掠るだけ。
「二度もファリフへの生贄を作らせる気はねぇよ」
低く告げるオウガはアクベンスが大人しくするとは思っていなかった。
アクベンスが向けるファリフへの執着は今も続いている。
ファリフの気高い魂を穢す為ならば命を狩ることは躊躇することはない。
確実に大切な存在を狙うことは気づいていた。
「不意打ちがあなたの決闘のやり方なの?」
厚みのある両刃剣の切っ先をアクベンスに向けたアイラが睨みつける。
「ご挨拶ですよ、今日も気高き騎士のようですね」
テトを護るように立つアイラにアクベンスは胸に片手を当て一礼した。
「余計な手を出すな」
アクベンスとは別な方向から現れたビスがテトを見据えながら咎めるが、アクベンスは気にしていない模様。
「決闘の介添人にしては、ギャラリーが多いようですね」
周囲に部族なき部族のメンバーが潜んでいることは分かっているのか、アクベンスが目を細める。
「決闘とは対等な立場同士がやるもの。部族なき部族の掟に従い、任務放棄とにゃかま殺しをした黒犬のビスを許すわけにはいかにゃいのにゃ!」
テトがビスへ宣言すると、彼女はぎゅっと拳を握る。
「お前を、処刑するにゃ……!」
その言葉にビスが口元を歪めた。
「お前が、俺を」
嘲笑うビスにハンターと部族なき部族のメンバーがテトを守るように立ちはだかる。
「裁きを受けなさい」
アイラの言葉が戦いの火蓋を切った。
まず最初に動いたのはレイア。
即座にアクベンスの方へと向かい、テトより距離を置かせた。
守りを捨てた攻めの構えでアクベンスへと攻撃をかけた。大上段で振り下ろしたレイアの一撃にアクベンスは後方へと後退る。
ソウルトーチカの炎を纏うオーラのような果敢な攻撃を更に続けた。
「テトには手を出させん。いや、ビスにもだ」
更に間合いを詰めたレイアは中段から剣を薙ぐ。
レイアの言葉にアクベンスは興味深そうに目を瞬いた。
「情熱的ですね」
にやりと笑うアクベンスはレイアの懐に入り、爪でレイアの右肩から首元を一気に肌を引き裂く。
「ぐっ……」
痛みに声をくぐもらせるレイアへ更にアクベンスが蹴りを入れようとした瞬間、どこか呑気な声が聞こえた。
「あー……悪いね」
声の主、リカルドが容赦なく引き金を引き、アクベンスの太ももを撃ち抜くがそれでも蹴りは止まらず、レイアの脇腹へ蹴りを入れる。
「コッチも仕事なんで、野暮ったい真似は止してほしいんだよね」
剣を構えるリカルドはテトからアクベンスを引き離すように立ちはだかる。
リカルドの射撃を受けたアクベンスの蹴りは幾分か衝撃が緩んだがレイアは本能的に脇腹を手で庇いつつ、澄んだ青い瞳で歪虚を睨みつける。
「決してお前などに仕組まれたものじゃない。お前はただの外野……その相手は私達で充分だ!」
痛みを堪え、立ち上がるレイアは声を上げることで自身を鼓舞する。
「ならば、楽しませてもらいましょう」
ゆっくりとアクベンスが笑うと、更にリカルドは牽制するためにアクベンスへと発砲した。
ビスが即座に地を駆るもので速度を上げていた。
一気に間合いを詰めてテトへと攻撃を仕掛けるビスの前へ飛び込んだのはシオン。
武器を差し込んだが、ビスはタイミングをずらして剣をシオンの腕へ斬り込む。
攻撃の勢いにシオンは身体を地につける。
ビスは更に追撃をシオンへと向けた。
即座にシオンは体勢を整えて心の刃を発動させ、ビスの懐へと武器を打ち込むと同時にビスもシオンへと剣を振り下ろす。
二人の武器が打ち合い、金属音が響く。
ビスの攻撃を凌いだシオンはアイラの支援を感じ、生命力が回復していることを察していた。しかし、打ち合った反動で更にビスはシオンを斬り付ける。
ワイルドラッシュを使ったビスの速い攻撃にシオンはもう一度武器を打ち合わせ、力を拮抗させた瞬間にビスへ蹴りを入れてその反動で間合いをとった。
シオンが入れ替わりに離れた瞬間、更に追うビスへ槍が襲う。
じろりと、ビスが睨みつけた先はオウガ。
ビスがオウガの後ろにいるのがテトであり、そのまま獲物へと突き進む。
オウガの前に銀と黒が走る。素早い動きでビスへの間合いを詰めて疾風剣を繰り出したのはルイトガルトだ。
テトとビスで戦わせようと援護のスタイルでいたルイトガルトだが、一方的な狩りにしか見えなかった。
ビスも即座にルイトガルトの攻撃を弾き、後方へと一歩下がる。
ルイトガルトはオウガの槍を拾い、持ち主へ放った。
一方、アクベンスと戦っていたリカルドとレイアだが、疲労が幾分か見えていた。
部族なき部族のメンバーが数名助太刀に入ってくれたが、確実なダメージには繋がらなかった。
目の前ではリカルドとアクベンスが攻防を繰り広げていた。
アクベンスは隙あらば、テトの方へと行こうとしているのか、こちらをおちょくっているのか、両方なのかはわからないが、ともかくハンター達を振り回している。
現在はリカルドが剣と銃で応戦していた。
アクベンスの腕を狙ってリカルドが剣を振り下ろすと、シルクハットのつばで切っ先を払われる。
まだアクベンスに余裕はあるようだとリカルドは判断した。引き離すので手一杯だ。
間合いを詰めてきたアクベンスは長く鋭い爪でリカルドの肌を裂くが、アクベンスは違和感に気づく。
「残念だったな」
ムルパティ・プティ・シラット・鋼の肉塊によって硬化されたリカルドの肉体にはダメージがなかった。
アクベンスは面白そうに目を細めてリカルドを狙い澄まそうとしていたが、それはレイアの攻めの構えでの一撃で中断される。
レイアに前衛を任せたリカルドは後方へ距離を取ってアクベンスの牽制射撃を行う。
「向こうも手こずっているようですね」
ふむ……とビスの方を見つめるアクベンスにレイアは上段から剣を振り下ろした。大きく振りかぶって降ろされた一撃にアクベンスは横へと跳躍する。
リカルドも逃す気はなく、前に出て首元を狙って剣を振るったが、アクベンスはビスの方へと視線を向けた。
ビスは複数との戦いでも表情を崩さずに攻撃に対処していた。
ルイトガルトへの間合いを詰めたビスは水平に剣を薙ぐ。
即座に反応したルイトガルトは黒い刀身で攻撃を受け止め、捻りを加えて攻撃を繋いでビスへ斬りかかる。
対するビスは即座に剣を振り上げてルイトガルトへ振り下ろす。
相打ちに近い攻撃だったが、ビスの方が早い。斬られる痛みの他に右腹部や右足に突き刺さる感触がし、地に崩れる。
いくつもの短剣が彼女の右半身に刺さり、それらが引っ張られる衝撃がルイトガルトに襲う。
短剣の柄部分にマテリアルの紐のようなものがあり、視線を辿るとアクベンスが嗤っていたのを確認したルイトガルトは美しい顔を顰める。
テトの傍から離れなかったオウガがルイトガルトからビスを引き離すために前に出ていた。
「要らぬ横槍が入ったな」
シオンも前に出てビスへ拳銃を発砲する。
横に避けたビスの隙を狙ってオウガが槍を振り追撃を行う。オウガのワイルドラッシュから繰り出される連撃をビスが剣で捌いていく。
体勢を崩されたオウガは間合いを取ろうとしたが、眼前にビスがいた。
同じ霊闘士だからこそ次に何が来るのか本能的に察した瞬間、右肩へ叩きつけられるように斬られたオウガはノックバックの衝撃に耐えきれずに地に伏せる。
ビスはオウガへの追撃をやめ、テトの方へと向かう。一歩前に出たのはアイラだった。
今回の事でアイラの脳裏に見え隠れしているのはシバの事。
そして、答えを垣間見た気がした。
「……ビスさん。貴方には誰もいないでしょう」
剣を持ったままアイラが問いかける。
「シバ様以外の伸ばされた手を握ったことがあった?」
ぴくりと、ビスの目が眇められた。
「殺した海狸さんは貴方に手を伸ばしたのでは?」
ゆっくりとアイラはビスへ剣を構える。
「それを殺害という振り払いをした」
テトならばとアイラはずっと考えていた。
きっと、テトならば伸ばされた手を払ったりしない。
故に、シバはテトを後継者としたのだろう。
今も圧倒的強さが目の前にあり、いつ自分が死んでもおかしくない状況なのに肩を震わせ、気丈にビスを見据えている。
「今、この現状が貴方とテト君の差よ」
ビスの背後に竜の影が見え、反射的に振り向いたその隙にアイラが攻撃を仕掛けた。
地を駆けるもので一気にビスとの間合いを詰め、上段から剣を振り下ろす。ビスが剣で受け止めると、力で押し返してアイラへ渾身の一撃を加える。
声が出ないほどの痛みに襲われたアイラは弾き飛ばされ崩れ落ちた。
「アイラ……!」
テトが叫ぶと、ビスがその方向へ行こうとするが、身体の不自由さに気づく。
ビスの上半身にはオウガとシオンの槍が突き刺されていた。
「……跪け……っ」
出血がまだ治まらず、ゆっくり立ち上がったルイトガルトがビスへ告げる。
「……俺は……シバの……」
口から血を吐き、地に膝をついたビスがテトを睨みつけた。
「テトは、シバ様の後継者という称号はいりませんにゃ……」
ゆっくりとテトは剣を抜くと、その手にオウガとアイラが重ねる。
二人の友情に気づいたテトはそれを振り払う。
小さく、「ありがとうにゃ」と聞こえた。
ビスの手にはまだ剣が握られていた。
二人の剣が交差する。
「テト……!!」
誰かの悲鳴が届いてはいないだろう。
斬られたテトは痛みを堪えてビスを見据える。
「兄様は、にゃかまにゃ……」
本来ならば、気を失ってもおかしくなかったが、テトはその身に剣を受けたまま。
「お前の……罪も命も全部……このテトがもらいうけるにゃぁあああああ!」
絶叫と共にテトは剣をビスの心臓へと突き刺した。
ビスは自身に向けられる刀身に月と蛇の彫が反射したことに気づき、それが最期に見た光景だった。
●
ビスは死亡し、テトは重体。
アクベンスは撤退してしまった。
ハンターにも重傷者もいたので、報告の後ドワーフ工房にて休んでいた。
「正直、見逃してもいいんじゃないかとも思っていた……」
そう吐露するのはレイア。
「アイツらしい選択だな」
オウガが笑って返すが、正直まだ痛い。
テトは今回の依頼で一度も泣かなかった。
「友達だから、処刑したという事を背負わせなかったという訳か」
「まだ弱いからまた助けてって。水臭いくせにちょっと図々しいけど、テト君だし」
ルイトガルトがアイラに言えば、彼女も痛みを堪えて笑っていた。
「オウガ君には大事な人を守る手であってほしいって」
それが誰なのかは知る人ぞ知る話。
「無事ではないが……終わったんだから、よかったじゃねぇか」
リカルドが熱い茶を飲みながら呟く。
「悪くない覚悟だった」
工房の面子より紙巻き煙草を貰ったレイアが窓際で吸っていた。
見上げる空は晴天。
傷が治ればあの黒猫はまた笑顔を見せるのだろう。
場を提供してくれたのはドワーフ工房。
部族なき部族のメンバーである山羊がハンター達を出迎えてくれた。
「テトの様子は?」
オウガ(ka2124)が尋ねると、山羊は一拍置いて口を開く。
「腹は決まっているようだが、何か落としどころが決まってないようだな」
「まあ少人数のコミュニティは、違反者が出た時にきっちり罰則を設けないと結束が緩んじまう」
リカルド=フェアバーン(ka0356)の言葉に山羊も同感だ。
「その通りだが……行動する腰がまだ重くてな」
「仲間殺しともなればか。状況は最悪だな」
「でも、行動するのはテト君だから」
淡々と言葉を口にするリカルドの後にアイラ(ka3941)が声を出す。
先頭を歩く山羊が「入るぞ」と声をかけた。
部屋の中にはドワーフ工房のカペラがテトと話しており、テトの手には一振りの剣。
「それは?」
レイア・アローネ(ka4082)が問うと、カペラは「以前にファリフから頼まれたの」と返す。
「あって損はないと思って」
立ち上がったカペラはハンター達の方を向く。
「後は宜しくね」
癖のある髪を揺らしてカペラが部屋の外に出た。
「まだ、迷っているのか」
静かに尋ねるルイトガルト・レーデル(ka6356)の言葉にテトは顔を上げた。
見透かされたかと思ったかと、どこか目を逸らそうとするテトにオウガが目線を合わせる。
「仲間を殺しちまった時点で、テト、お前の知ってるビスは死んだ」
オウガの言葉を聞いてテトは弾かれるようにオウガの方を向く。
「誰かを殺すってのは、今までの自分をも殺し堕ちるって事なんだ。仲間だったら、尚更だ」
「……オウガのいう事も一理あると思ってますにゃ。ジタバタしても、黒犬の兄さまはテトを信じてくれるにゃかまを殺しに来ますにゃ……シバ様の後継者とか関係にゃく、にゃかまを……護りたいというのがテトの考えですにゃ……」
ぎゅっと、剣へ視線を落として柄を握りしめるテトの手が震えているのは目に見えるほどだ。
例え、腕に自信がなくても、その気持ちに偽りがないと不動シオン(ka5395)は判断する。
「それがお前の出した答えならば、立ち向かえ」
レイアの言葉にテトは弾かれるように顔を上げる。
「覚えておいてくれ。どんな答えを出そうとも私達はお前の味方だ」
クールな印象を覚えるレイアの表情が幾分か和らいだような声音でテトへ語り掛けた。
「守るよ。友達だもの」
穏やかな笑みを浮かべたアイラが柄を握りしめるテトの手に自身の手を重ねる。
「みんにゃ……ありがとうですにゃ……」
笑顔を浮かべたテトだが、それは精一杯の強がりのように見えた。
●
この闘いには、部族なき部族のメンバーが集まっていた。
姿を現しているのは半数ほどで、他のメンバーは隠れて他の歪虚などが入って来ないように見張っているそうだ。
いくら、テトがシバの後継者とあっても、テトの行動次第ではビスの決起を見てリーダーに従わない可能性が出てくることがあるのではないかとルイトガルトは考えていた。
「踏ん張りどころだな」
周囲を一瞥したレイアが呟く。
テトの近く超嗅覚を発動させていたオウガはぴくりと、身体を強張らせて即座に振り向いた。
様子に気づいていたリカルドがその方向へ迷いなく飛び出す。
リカルドが前に構えた試作光斬刀が受け止めたのはアクベンスの長い爪。しかし、アクベンスの動きが早く、空いた手の爪がリカルドの喉に食い込んだ。
「それが……決闘を仕向けた奴がやることかねぇっ」
細められる右目の色が濃くなり、赤色へと変化していた。覚醒で感覚がぼやけているが、首に爪が食い込んでいるので声が出にくいことをどこか客観的に感じていた。
毒づくリカルドは五芒星の紋様が描かれている魔導拳銃をアクベンスへと構え、即座に撃つ。
顔を目がけて撃ったが、アクベンスの頬を掠るだけ。
「二度もファリフへの生贄を作らせる気はねぇよ」
低く告げるオウガはアクベンスが大人しくするとは思っていなかった。
アクベンスが向けるファリフへの執着は今も続いている。
ファリフの気高い魂を穢す為ならば命を狩ることは躊躇することはない。
確実に大切な存在を狙うことは気づいていた。
「不意打ちがあなたの決闘のやり方なの?」
厚みのある両刃剣の切っ先をアクベンスに向けたアイラが睨みつける。
「ご挨拶ですよ、今日も気高き騎士のようですね」
テトを護るように立つアイラにアクベンスは胸に片手を当て一礼した。
「余計な手を出すな」
アクベンスとは別な方向から現れたビスがテトを見据えながら咎めるが、アクベンスは気にしていない模様。
「決闘の介添人にしては、ギャラリーが多いようですね」
周囲に部族なき部族のメンバーが潜んでいることは分かっているのか、アクベンスが目を細める。
「決闘とは対等な立場同士がやるもの。部族なき部族の掟に従い、任務放棄とにゃかま殺しをした黒犬のビスを許すわけにはいかにゃいのにゃ!」
テトがビスへ宣言すると、彼女はぎゅっと拳を握る。
「お前を、処刑するにゃ……!」
その言葉にビスが口元を歪めた。
「お前が、俺を」
嘲笑うビスにハンターと部族なき部族のメンバーがテトを守るように立ちはだかる。
「裁きを受けなさい」
アイラの言葉が戦いの火蓋を切った。
まず最初に動いたのはレイア。
即座にアクベンスの方へと向かい、テトより距離を置かせた。
守りを捨てた攻めの構えでアクベンスへと攻撃をかけた。大上段で振り下ろしたレイアの一撃にアクベンスは後方へと後退る。
ソウルトーチカの炎を纏うオーラのような果敢な攻撃を更に続けた。
「テトには手を出させん。いや、ビスにもだ」
更に間合いを詰めたレイアは中段から剣を薙ぐ。
レイアの言葉にアクベンスは興味深そうに目を瞬いた。
「情熱的ですね」
にやりと笑うアクベンスはレイアの懐に入り、爪でレイアの右肩から首元を一気に肌を引き裂く。
「ぐっ……」
痛みに声をくぐもらせるレイアへ更にアクベンスが蹴りを入れようとした瞬間、どこか呑気な声が聞こえた。
「あー……悪いね」
声の主、リカルドが容赦なく引き金を引き、アクベンスの太ももを撃ち抜くがそれでも蹴りは止まらず、レイアの脇腹へ蹴りを入れる。
「コッチも仕事なんで、野暮ったい真似は止してほしいんだよね」
剣を構えるリカルドはテトからアクベンスを引き離すように立ちはだかる。
リカルドの射撃を受けたアクベンスの蹴りは幾分か衝撃が緩んだがレイアは本能的に脇腹を手で庇いつつ、澄んだ青い瞳で歪虚を睨みつける。
「決してお前などに仕組まれたものじゃない。お前はただの外野……その相手は私達で充分だ!」
痛みを堪え、立ち上がるレイアは声を上げることで自身を鼓舞する。
「ならば、楽しませてもらいましょう」
ゆっくりとアクベンスが笑うと、更にリカルドは牽制するためにアクベンスへと発砲した。
ビスが即座に地を駆るもので速度を上げていた。
一気に間合いを詰めてテトへと攻撃を仕掛けるビスの前へ飛び込んだのはシオン。
武器を差し込んだが、ビスはタイミングをずらして剣をシオンの腕へ斬り込む。
攻撃の勢いにシオンは身体を地につける。
ビスは更に追撃をシオンへと向けた。
即座にシオンは体勢を整えて心の刃を発動させ、ビスの懐へと武器を打ち込むと同時にビスもシオンへと剣を振り下ろす。
二人の武器が打ち合い、金属音が響く。
ビスの攻撃を凌いだシオンはアイラの支援を感じ、生命力が回復していることを察していた。しかし、打ち合った反動で更にビスはシオンを斬り付ける。
ワイルドラッシュを使ったビスの速い攻撃にシオンはもう一度武器を打ち合わせ、力を拮抗させた瞬間にビスへ蹴りを入れてその反動で間合いをとった。
シオンが入れ替わりに離れた瞬間、更に追うビスへ槍が襲う。
じろりと、ビスが睨みつけた先はオウガ。
ビスがオウガの後ろにいるのがテトであり、そのまま獲物へと突き進む。
オウガの前に銀と黒が走る。素早い動きでビスへの間合いを詰めて疾風剣を繰り出したのはルイトガルトだ。
テトとビスで戦わせようと援護のスタイルでいたルイトガルトだが、一方的な狩りにしか見えなかった。
ビスも即座にルイトガルトの攻撃を弾き、後方へと一歩下がる。
ルイトガルトはオウガの槍を拾い、持ち主へ放った。
一方、アクベンスと戦っていたリカルドとレイアだが、疲労が幾分か見えていた。
部族なき部族のメンバーが数名助太刀に入ってくれたが、確実なダメージには繋がらなかった。
目の前ではリカルドとアクベンスが攻防を繰り広げていた。
アクベンスは隙あらば、テトの方へと行こうとしているのか、こちらをおちょくっているのか、両方なのかはわからないが、ともかくハンター達を振り回している。
現在はリカルドが剣と銃で応戦していた。
アクベンスの腕を狙ってリカルドが剣を振り下ろすと、シルクハットのつばで切っ先を払われる。
まだアクベンスに余裕はあるようだとリカルドは判断した。引き離すので手一杯だ。
間合いを詰めてきたアクベンスは長く鋭い爪でリカルドの肌を裂くが、アクベンスは違和感に気づく。
「残念だったな」
ムルパティ・プティ・シラット・鋼の肉塊によって硬化されたリカルドの肉体にはダメージがなかった。
アクベンスは面白そうに目を細めてリカルドを狙い澄まそうとしていたが、それはレイアの攻めの構えでの一撃で中断される。
レイアに前衛を任せたリカルドは後方へ距離を取ってアクベンスの牽制射撃を行う。
「向こうも手こずっているようですね」
ふむ……とビスの方を見つめるアクベンスにレイアは上段から剣を振り下ろした。大きく振りかぶって降ろされた一撃にアクベンスは横へと跳躍する。
リカルドも逃す気はなく、前に出て首元を狙って剣を振るったが、アクベンスはビスの方へと視線を向けた。
ビスは複数との戦いでも表情を崩さずに攻撃に対処していた。
ルイトガルトへの間合いを詰めたビスは水平に剣を薙ぐ。
即座に反応したルイトガルトは黒い刀身で攻撃を受け止め、捻りを加えて攻撃を繋いでビスへ斬りかかる。
対するビスは即座に剣を振り上げてルイトガルトへ振り下ろす。
相打ちに近い攻撃だったが、ビスの方が早い。斬られる痛みの他に右腹部や右足に突き刺さる感触がし、地に崩れる。
いくつもの短剣が彼女の右半身に刺さり、それらが引っ張られる衝撃がルイトガルトに襲う。
短剣の柄部分にマテリアルの紐のようなものがあり、視線を辿るとアクベンスが嗤っていたのを確認したルイトガルトは美しい顔を顰める。
テトの傍から離れなかったオウガがルイトガルトからビスを引き離すために前に出ていた。
「要らぬ横槍が入ったな」
シオンも前に出てビスへ拳銃を発砲する。
横に避けたビスの隙を狙ってオウガが槍を振り追撃を行う。オウガのワイルドラッシュから繰り出される連撃をビスが剣で捌いていく。
体勢を崩されたオウガは間合いを取ろうとしたが、眼前にビスがいた。
同じ霊闘士だからこそ次に何が来るのか本能的に察した瞬間、右肩へ叩きつけられるように斬られたオウガはノックバックの衝撃に耐えきれずに地に伏せる。
ビスはオウガへの追撃をやめ、テトの方へと向かう。一歩前に出たのはアイラだった。
今回の事でアイラの脳裏に見え隠れしているのはシバの事。
そして、答えを垣間見た気がした。
「……ビスさん。貴方には誰もいないでしょう」
剣を持ったままアイラが問いかける。
「シバ様以外の伸ばされた手を握ったことがあった?」
ぴくりと、ビスの目が眇められた。
「殺した海狸さんは貴方に手を伸ばしたのでは?」
ゆっくりとアイラはビスへ剣を構える。
「それを殺害という振り払いをした」
テトならばとアイラはずっと考えていた。
きっと、テトならば伸ばされた手を払ったりしない。
故に、シバはテトを後継者としたのだろう。
今も圧倒的強さが目の前にあり、いつ自分が死んでもおかしくない状況なのに肩を震わせ、気丈にビスを見据えている。
「今、この現状が貴方とテト君の差よ」
ビスの背後に竜の影が見え、反射的に振り向いたその隙にアイラが攻撃を仕掛けた。
地を駆けるもので一気にビスとの間合いを詰め、上段から剣を振り下ろす。ビスが剣で受け止めると、力で押し返してアイラへ渾身の一撃を加える。
声が出ないほどの痛みに襲われたアイラは弾き飛ばされ崩れ落ちた。
「アイラ……!」
テトが叫ぶと、ビスがその方向へ行こうとするが、身体の不自由さに気づく。
ビスの上半身にはオウガとシオンの槍が突き刺されていた。
「……跪け……っ」
出血がまだ治まらず、ゆっくり立ち上がったルイトガルトがビスへ告げる。
「……俺は……シバの……」
口から血を吐き、地に膝をついたビスがテトを睨みつけた。
「テトは、シバ様の後継者という称号はいりませんにゃ……」
ゆっくりとテトは剣を抜くと、その手にオウガとアイラが重ねる。
二人の友情に気づいたテトはそれを振り払う。
小さく、「ありがとうにゃ」と聞こえた。
ビスの手にはまだ剣が握られていた。
二人の剣が交差する。
「テト……!!」
誰かの悲鳴が届いてはいないだろう。
斬られたテトは痛みを堪えてビスを見据える。
「兄様は、にゃかまにゃ……」
本来ならば、気を失ってもおかしくなかったが、テトはその身に剣を受けたまま。
「お前の……罪も命も全部……このテトがもらいうけるにゃぁあああああ!」
絶叫と共にテトは剣をビスの心臓へと突き刺した。
ビスは自身に向けられる刀身に月と蛇の彫が反射したことに気づき、それが最期に見た光景だった。
●
ビスは死亡し、テトは重体。
アクベンスは撤退してしまった。
ハンターにも重傷者もいたので、報告の後ドワーフ工房にて休んでいた。
「正直、見逃してもいいんじゃないかとも思っていた……」
そう吐露するのはレイア。
「アイツらしい選択だな」
オウガが笑って返すが、正直まだ痛い。
テトは今回の依頼で一度も泣かなかった。
「友達だから、処刑したという事を背負わせなかったという訳か」
「まだ弱いからまた助けてって。水臭いくせにちょっと図々しいけど、テト君だし」
ルイトガルトがアイラに言えば、彼女も痛みを堪えて笑っていた。
「オウガ君には大事な人を守る手であってほしいって」
それが誰なのかは知る人ぞ知る話。
「無事ではないが……終わったんだから、よかったじゃねぇか」
リカルドが熱い茶を飲みながら呟く。
「悪くない覚悟だった」
工房の面子より紙巻き煙草を貰ったレイアが窓際で吸っていた。
見上げる空は晴天。
傷が治ればあの黒猫はまた笑顔を見せるのだろう。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 オウガ(ka2124) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/07/01 10:27:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/06/28 19:30:34 |