ゲスト
(ka0000)
幽霊船からふんだくれ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/07/03 22:00
- 完成日
- 2017/07/11 01:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
深い深い海の底から、そのガレオン船は上ってきた。海水をたっぷり吸い込んだ船体は黒く湿っていて、はなはだ臭い。帆は全て無くなっている。はためいているのは、帆柱の上に掲げられた骸骨旗だけ。船腹の両脇に据え付けられている大砲はどれも、使い物にならぬほど赤錆び崩れている。
しかし乗組員は船長以下誰一人として、そんな惨状を気にかけていなかった。
野郎ども、帆を上げろ。これからひと稼ぎに出かけるぞ。
アイアイサー、船長。
船は滑り出す。見えない手で後ろから押されているかのように。
おれたちゃ無敵の海賊だ。
その通りだぜ、船長。
海軍だって怖くねえ。
全くだ、船長。
おお、噂をすれば行く手に商船が。
あの旗はどこの商会のもんだ?
そんなこたあどうでもいい。獲物だ。それ襲え。
てめえ! 荷も奪わないうちに沈めてどうすんだこのくそ馬鹿やろう! 歯あへし折るぞ首引っこ抜くぞ帆桁から吊るすぞ!
すいませんすいません船長、つい勢いあまってぶつけちまって。
チッ、仕方ねえ。ほっぽらかして行くぞ。別の船を捜すんだ。
アイアイサー。おれたちゃ海賊、怖いものなし……。
●
ポルトワール沖合。水深七千メートルに及ぶ海溝の真上。
疾風のように波の上を駆けて行く高速商船。追い風を受け膨らんだマストの上にはためくのは、白地に青の十字が入った旗――ポルトワールのいち海運会社である、グリーク商会の旗。
甲板に立つのは一人の娘。商会の次期会長と目されているニケ・グリーク。
潮風にあおられひっつめ髪がぐちゃぐちゃになり、銀縁メガネの表面に飛沫がくっついているが、それをものともせず、双眼鏡を覗き込む。
彼女は怒っていた。つい先日、商会の新造船が暴走船に当て逃げされ、積み荷もろとも沈没したのだ。
乗っていた船員も――不幸中の幸いか死者だけは出なかったが――多く負傷した。皆熟練の航海者ばかりだ。彼らが復帰しまた仕事が出来るようになるまでに、最低でも一カ月の時間はかかる。
それだけでも最悪な状況であるが、輪をかけて最悪なのが、ぶつかってきた船が通常の船ではなく歪虚の支配する幽霊船だったという点にある。歪虚は人間ではない。法的には獣のようなものだ。従って賠償責任を問えない。見つけたら退治。それでおしまい。
原価償却もすんでいない新品の船を壊され荷を失った揚げ句びた一文も取ることが出来ないとは、どう考えても納得いかない。
悔しさを噛み締めつつ不運な船員たちへの見舞いに行った彼女は、そこで彼らから、このような言葉を聞かされた。
「あの船は――どうやらもと海賊船だったようですぜ――骸骨の旗がマストについてて――骸骨どもも――短刀を持っていやがって――」
詳しく船の形や大きさ、旗の仕様について聞き出したニケは、ポルトワールの市庁舎に赴き、歴史資料を漁ってみた。そして今から一世紀ほど前、彼らの証言と一致する海賊船が海軍に追い詰められ、沈没したことを突き止めた――略奪品を回収出来ないままに。
この記録が正しいのだったら、今でも船は金目の荷を積んでいるはずだ。それを奪えば債務補填に当てられる。
思ったニケは高速商船にハンターを乗せ幽霊船の捜索に乗り出した。
そして今、憎き轢き逃げ相手を発見した。
「いた!」
商船が追いすがる。追いすがる。
ニケは操舵室に通じる伝声管に向かって大声を吹き込む。
「ナルシス! あの船を止めて!」
『何で僕が使われてんのかな……』
「学校で操舵術がトップクラスだったからよ! 早く!」
不詳の弟がぶつぶついう声と同時に、船体が動いた。先を行く幽霊船の前に至近距離で回りこみ、ぶつかるかぶつからないかギリギリのところで回避。
錆び付き破れ海草がぬらぬら絡み付いた時代遅れのガレオン船は、衝突を避けようと大きく傾いだ。倒れるか――いや、復元した。
その間に商船が追い抜く、前を走り始める。
抜かれたことに屈辱を感じたかのように、幽霊船が追いすがる。
そこで商船が速度を落とした。距離を置きつつ、横に並んだ。
ガレオン船の甲板には短剣を持った骸骨の群れ。穴ぼこの目を光らせ、顎をカクカク打ち鳴らしている。どうやら、士気は高い様子だ。
通常の攻撃で歪虚を完全消滅させることは出来ない。臭い匂いをもとから絶つには、ハンターの力が必要だ。
ここからは、彼らの出番である。
「皆さん、お願いします。価値のありそうなものを、根こそぎ奪ってきてください!」
「了解!」
「身ぐるみ剥いでやろうじゃねえか!」
威勢のいい声が飛び交う中、カチャだけが静かであった。艫に寄りかかり空を見ている。船酔いに打ちのめされているのだ。それが証拠に目が、腐ったサバのように淀んでいる。
しかしそんな彼女もハンター。今この時、船の一部となって不参加というわけにはいかなかった。
「ほらカチャ、行くわよ」
同じく依頼に参加していた八橋杏子に足首を捕まれ、ボートへと引きずられていく。
さらば海の亡者たちよ。今度こそ千尋の底に沈むがいい。金は生ける者のためにあるものなのだから。
しかし乗組員は船長以下誰一人として、そんな惨状を気にかけていなかった。
野郎ども、帆を上げろ。これからひと稼ぎに出かけるぞ。
アイアイサー、船長。
船は滑り出す。見えない手で後ろから押されているかのように。
おれたちゃ無敵の海賊だ。
その通りだぜ、船長。
海軍だって怖くねえ。
全くだ、船長。
おお、噂をすれば行く手に商船が。
あの旗はどこの商会のもんだ?
そんなこたあどうでもいい。獲物だ。それ襲え。
てめえ! 荷も奪わないうちに沈めてどうすんだこのくそ馬鹿やろう! 歯あへし折るぞ首引っこ抜くぞ帆桁から吊るすぞ!
すいませんすいません船長、つい勢いあまってぶつけちまって。
チッ、仕方ねえ。ほっぽらかして行くぞ。別の船を捜すんだ。
アイアイサー。おれたちゃ海賊、怖いものなし……。
●
ポルトワール沖合。水深七千メートルに及ぶ海溝の真上。
疾風のように波の上を駆けて行く高速商船。追い風を受け膨らんだマストの上にはためくのは、白地に青の十字が入った旗――ポルトワールのいち海運会社である、グリーク商会の旗。
甲板に立つのは一人の娘。商会の次期会長と目されているニケ・グリーク。
潮風にあおられひっつめ髪がぐちゃぐちゃになり、銀縁メガネの表面に飛沫がくっついているが、それをものともせず、双眼鏡を覗き込む。
彼女は怒っていた。つい先日、商会の新造船が暴走船に当て逃げされ、積み荷もろとも沈没したのだ。
乗っていた船員も――不幸中の幸いか死者だけは出なかったが――多く負傷した。皆熟練の航海者ばかりだ。彼らが復帰しまた仕事が出来るようになるまでに、最低でも一カ月の時間はかかる。
それだけでも最悪な状況であるが、輪をかけて最悪なのが、ぶつかってきた船が通常の船ではなく歪虚の支配する幽霊船だったという点にある。歪虚は人間ではない。法的には獣のようなものだ。従って賠償責任を問えない。見つけたら退治。それでおしまい。
原価償却もすんでいない新品の船を壊され荷を失った揚げ句びた一文も取ることが出来ないとは、どう考えても納得いかない。
悔しさを噛み締めつつ不運な船員たちへの見舞いに行った彼女は、そこで彼らから、このような言葉を聞かされた。
「あの船は――どうやらもと海賊船だったようですぜ――骸骨の旗がマストについてて――骸骨どもも――短刀を持っていやがって――」
詳しく船の形や大きさ、旗の仕様について聞き出したニケは、ポルトワールの市庁舎に赴き、歴史資料を漁ってみた。そして今から一世紀ほど前、彼らの証言と一致する海賊船が海軍に追い詰められ、沈没したことを突き止めた――略奪品を回収出来ないままに。
この記録が正しいのだったら、今でも船は金目の荷を積んでいるはずだ。それを奪えば債務補填に当てられる。
思ったニケは高速商船にハンターを乗せ幽霊船の捜索に乗り出した。
そして今、憎き轢き逃げ相手を発見した。
「いた!」
商船が追いすがる。追いすがる。
ニケは操舵室に通じる伝声管に向かって大声を吹き込む。
「ナルシス! あの船を止めて!」
『何で僕が使われてんのかな……』
「学校で操舵術がトップクラスだったからよ! 早く!」
不詳の弟がぶつぶついう声と同時に、船体が動いた。先を行く幽霊船の前に至近距離で回りこみ、ぶつかるかぶつからないかギリギリのところで回避。
錆び付き破れ海草がぬらぬら絡み付いた時代遅れのガレオン船は、衝突を避けようと大きく傾いだ。倒れるか――いや、復元した。
その間に商船が追い抜く、前を走り始める。
抜かれたことに屈辱を感じたかのように、幽霊船が追いすがる。
そこで商船が速度を落とした。距離を置きつつ、横に並んだ。
ガレオン船の甲板には短剣を持った骸骨の群れ。穴ぼこの目を光らせ、顎をカクカク打ち鳴らしている。どうやら、士気は高い様子だ。
通常の攻撃で歪虚を完全消滅させることは出来ない。臭い匂いをもとから絶つには、ハンターの力が必要だ。
ここからは、彼らの出番である。
「皆さん、お願いします。価値のありそうなものを、根こそぎ奪ってきてください!」
「了解!」
「身ぐるみ剥いでやろうじゃねえか!」
威勢のいい声が飛び交う中、カチャだけが静かであった。艫に寄りかかり空を見ている。船酔いに打ちのめされているのだ。それが証拠に目が、腐ったサバのように淀んでいる。
しかしそんな彼女もハンター。今この時、船の一部となって不参加というわけにはいかなかった。
「ほらカチャ、行くわよ」
同じく依頼に参加していた八橋杏子に足首を捕まれ、ボートへと引きずられていく。
さらば海の亡者たちよ。今度こそ千尋の底に沈むがいい。金は生ける者のためにあるものなのだから。
リプレイ本文
●囮組。
2隻のボートが幽霊船に急接近した。
右舷から天竜寺 舞(ka0377)、榊 兵庫(ka0010)、岩井崎 旭(ka0234)が乗り込む。左舷からは葛音 水月(ka1895)、乙音・S・不知火(ka5369)、杏子がそれぞれ乗り込む。襲撃開始だ。
ゴエモンを背負った舞は舷縁に仁王立ちし、ユナイテッド・ドライブ・ソードを掲げる。乙音は、サイズ・シュルシャナガの赤熱した刃を見せつける。
「海賊共、あたし達がやっつけてやるよ!」
「さぁ海賊狩りの時間だ、閻魔様に土下座しに行きな!」
旭は魔剣イェクルスナウトを正眼に構え、すごんだ。
「せっかく溜め込んだとこわりーけど、一切合財まとめて頂いていくぜ! 来いよ。遊ぼうぜ、海賊ども!」
分かりやすい挑発にスケルトン軍団は色めき立った。手に手に短剣を閃かし顎を鳴らし、襲いかかってくる。兵庫は十文字槍を構え、力強く振るった。範囲内にいたスケルト数体が、たちまちに粉砕される。
「お宝は生きている人間が使ってこそ生きるものだからな。このまま亡者に持たせておいても仕方ないし、我々で有効利用してやることとしようか」
直後何の前触れもなく船嘴が崩壊した。バラバラになった木材が海になだれ込み、沈んで行く。
兵庫はその現象が何を表しているか、速やかに理解した。
「こいつらと幽霊船は密接に繋がっているという訳か。厄介なことだ」
それを聞いた杏子は、思い切り顔をしかめる。
「じゃあ、手加減してやらなきゃならないってこと? この大人数相手に」
兵庫は頷き、肩をすくめる。
「仕方ない。護りを固めて時間を稼ぐぞ」
ところで今の事故、ハンターはもちろんだがスケルトンも巻き込まれていない。ただの1体も。皆素早く後退し、再び陣形を整えている。
スケルトン風情がこれだけ規律だった行動を取るということは……。
(どこかに中心となる個体がいる?)
水月は壁歩きを駆使しマストに上る。目を走らせれば船尾に、明らかに他のと様子が違っている個体がいた。つば広の海賊帽を被りマントを羽織り、腰に長剣を下げ、両の手にいっぱい指輪をつけている。
●回収班。
先攻した囮班に続き回収班が動いた。
ジルボ(ka1732)とステラ・レッドキャップ(ka5434)は幽霊船の右舷に近づいた。水月が作ってくれたロープの足掛かりを活用し、銃眼から中へ潜り込む。
「おーおー、ひでえなこりゃ。砲腔フジツボで埋まってんぞ」
突き出た大砲を後退させ、ボートの係留ロープを駐退索用フックに通し、縛り付ける。ボートにいるステラに向けて腕で、大きく丸を作って見せる。停留完了の合図だ。声を出さないのは、スケルトンどもに気づかれないためだ。
首尾よく双方船内侵入したところでまず襲いかかってきたのは悪臭だった。どうやらこの船、船底の汚水処理が出来ていないらしい。しかしその程度のことで彼らが怯むわけもない。瞳の中に輝くGの字を灯し、意気揚々船倉へ向かう。
「どんな宝が有るんだろうな……あぁ楽しみだぜ!」
「待ってな海賊、お宝の面倒は俺達がしっかり見ててやるよ」
リナリス・リーカノア(ka5126)とカチャは舞の作ってくれた足掛かりを元に、左舷銃眼から船内侵入。両者ビキニ姿にバックパック。目的が略奪である以上、装備は軽い方がいいと踏んだからだ。しかしカチャは変わらず船酔いしている。
「カチャ、大丈夫?」
壁に額をくっつけての頷きしか返せないカチャ。全く大丈夫じゃ無さそうだ。
リナリスはバックパックから、チョコレートと炭酸を引っ張り出した。
「ちょっとずつ食べてよ。酔い止めになるから」
酔いを緩和出来るならなんでもいい、ということで言われた通りちびちびチョコを食べ、ちびちび炭酸を飲むカチャ。リナリスはそんな彼女を後ろから抱き締め、酔いに効くとされるツボを刺激してやった。
「経絡秘孔の一つ、内関を突いた。お前の酔いはすでに覚めているー」
軽口を叩きながら時折ツボと違うところを揉んでいるが、そこはそれ公認的役得である。問題ない。
「頑張ればボーナス出て借金が一気に返せるよ♪ がんばろーね」
酔いが緩和されたことと借金というパワーワードを聞かされたことによりカチャは、俄然やる気が出てきた。
「はい、頑張りますっ」
そのとき大きな振動が響いた。船が揺れる。何事かと思い身構えたところに、トランシーバーから兵庫の声が聞こえてきた。
今起きたのが船嘴の崩壊であること、並びにスケルトンと幽霊船が不可分の関係にあるらしいことが、彼女たちのみならずジルボたちにも伝えられる。
●鬼さんこちら。
急に攻撃を手控えるようになった兵庫に、スケルトンたちが群がる。彼は、動きに支障を来さない程度の傷ならば甘んじて受けることにした。相手に優勢と思わせ、より引き付けるため。
「……俺もそれなりに場数を踏んでいるんでね。攻撃一辺倒でないことをこの辺で証明しないと一廉の武人とは名乗れないからな」
船尾に陣取って顎を鳴らし、指示を出す船長スケルトン。
水月はその足元に向け、手裏剣を投げ付けた。チェイシングスローの効果を受けて、一気に間合いを縮める。
「それ、もらうよっ!」
瞬く間に帽子を引っさらい、再度マストに駆け上る。頭骨をさらした船長に向かい、軽く挑発。
「海賊さんのシンボルって感じ? でもちょっと、くさーいですね?」
船長は一声唸った。水月のいるマストに飛びつき、するする上り始める。さすが海賊、身ごなしが軽い。
旭は水月を見上げ、呼びかけた。
「おーい、その帽子貸してくれ!」
足場の悪い桁の上、長剣を抜き切りかかってきた船長に相対しつつ水月は、帽子を落とす。
雑魚スケルトンの足を砕き転がしつつ、それをつかみ取る旭。
「ちょっと借りるぜ。返すかどーかは別だけどな!」
と怒鳴り、深遠の声を発動。
脳裏に浮かんできたのは、金の延べ棒がぎっちり詰まった箱を船倉に運び込むところ。きらびやかなタペストリーに彩られた船長室。覗くと針が飛び出す鍵穴の仕掛け。踏んだ途端に刃が飛び出す床板。壁に飾られた刀剣の類。豪奢なからくり時計。金鎖をつけ騒ぐ南洋産のオウム。チェストの引き出しを開ければ、燦然と輝く宝石類。
旭はトランシーバーを通じ、その情報を仲間たちへと拡散する。
「おらおらおら、こっちを忘れんな!」
乙音はスケルトンの下半身を狙いサイズを叩きつける。壊し切らず動きを止めるというのが難しかった。手足を優先し砕いているのだが、それでも油断していると転がり移動したりしている。
「大人しくしてろよ!」
肋骨でもぞもぞ這い動く個体を柄で突き、元の場所へ押し戻す乙音。
数体の相手をしていた舞は、はっと昇降口に目をやった。ひしゃげた手足を器用に使い3体かのスケルトンが、梯子を伝い降りて行く。
急いで1体は捕まえたが、残り2体が中へ入ってしまった。
乙音は杏子からトランシーバーを借り回収組に、警戒を呼びかける。
舞は旭から帽子を借り、ゴエモンとパルムの前に持っていった。
「いい、船長の匂いの強い所を探すんだよ。さあ、GO!」
後に続こうと昇降口に群がるスケルトンを蹴散らし、ゴエモンたちを回収組の応援に向かわせる。
●略奪。
回収班はさっさと罠を解除し、ボートに運んで行く。海賊たちが他人の血と汗と涙を糧に稼ぎ取った宝を。
リナリスとカチャはボートの上で、バックパックから何度目かになる吐き出し作業。金貨、銀貨、そしてインゴッドがボートの船底を照り輝かせる。
「ち、ちょっと大丈夫ですかね。喫水線より上に水来てますけど」
「金は重いからねー。囮班のボートにも分散させた方がいいかも」
ジルボとステラは吸い込み作業。膨れ上がったバックパックとポーチを身に帯び、目ぼしいものは残ってないかと最終点検。激烈極まりない悪臭も燃える物欲の前には無力である。
そこにトランシーバーから、乙音の緊急連絡。
『すまん、スケルトン2匹がそっちに行った!』
直後暗闇の中から、カツカツ骨の顎を打ち合わせる音が響いてきた。ランタンとLEDライトを向けてみれば、齧り付くようにしてハシゴを降りてくるスケルトン2体。それらが急にハシゴから転げ落ちた。昇降口から飛び降り体当たりしてきたゴエモンと一緒に。
船倉の床板にぶつかったスケルトンたちは互いの骨が絡まったまま、起き上がろうとする。
ステラはスケルトンが取り落とした短剣を拾い上げたがすぐ捨てた。安物だったのだ。
「財宝の通る道で寝転がられても困るしよー。潔く倒れようぜ?」
頭蓋を打ち抜かれ消え去るスケルトン2体。その代償として船底の一部が破れ、本格的な浸水が始まる。
残りの荷物を手早くボートに運んでから回収班は、ハシゴを登って上甲板へと向かう。
●根こそぎ。
水月と戦っていたスケルトン船長は、昇降口からリナリスたちが姿を現したのを見た。宝が奪われたのではと勘付き、まだ動けるスケルトンたちを船尾へ集めようとする。
兵庫が、舞が、それぞれの武器を振るってその流れを阻害する。
ふがいない部下どもに苛立った船長は、自ら船長室へ向かおうとした。しかしそれは、水月が許さない。巧みに前へ回り込み、帆桁の上から逃がそうとしない。
旭と乙音は共闘して這い群がるスケルトンたちを追いやる。誰ももう、さほどの手加減はしていない。宝はあらかた運び終わっているとの話なので。
「オラ散れっ!」
「せっかく溜め込んだところわりーけど、一切合財まとめて戴いていくぜ!」
そうこうしている間にも、船はじりじり沈んでいく。
回収組は大急ぎで船長室になだれ込んだ。先程旭から説明があった通りの部屋だ。布や木製の調度といったものは傷み切ってぼろぼろではあるが、そうでないものは健在。
壁にかかった刀剣、時計、そして。
『ドロボー! ドロボー! ドロボー!』
骨になっても騒いでいるオウムの足の金鎖。
「お♪ こいつスッゲー良いもん持ってるぞ」
「よこせよオラ」
ステラは早速オウムスケルトンをひねり、金鎖を回収した。
ジルボは鍵つきチェストの引き出しを片端からあけまくる。指輪、首飾り、腕輪、額飾りといったものが転がり出てくる。ダイヤ、ルビー、サファイア、エメラルド、アメジスト、オパール、真珠、黒真珠……。価値の高そうなものだけを素早くセレクトし、回収。
「おー、すげえなこの置き時計。プラチナ作りじゃねえかこの野郎」
「ウヒャヒャヒャ。貰っとけ貰っとけ戦利品だ」
リナリスとカチャは船長の書机を漁る。日誌、銃、羅針盤。懐中時計に望遠鏡。価値があるかないかは分からないが、運べそうなものはすべて片端から、バックパックに詰めていく。
壁に張り付けてある海図は持ち運べそうもないので、写真に収めるに留める。
「リナリスさん、早く早く!」
「うん! あ、ついでだからこの小箱もいただきね♪」
●根こそぎ。
『おーい、回収終わったぞー!』
ジルボの終了宣言を受け、囮班は遠慮を捨てた。取るものを取った以上、手加減してやる理由はない。
「さて、俺たちのターンだな」
兵庫は守りの構えを解き、十文字槍を一閃させる。半壊状態となっていたスケルトンたちが軒並み消滅した。同時に大きく船が傾く。
船長室から出てきた回収班が斜めになった甲板を伝い、ボートに乗り移って行く。
「よっしここからが本番だよ!」
彼らを追おうとするスケルトンたちを舞は、片端から切って捨てた。杏子は頭蓋を次々割って行く。船底が抜け、急激な浸水が始まる。
水月は、先程までとは段違いの早さで剣を踊らせる。
「お宝ごそっといただいちゃいますねー」
体のあちこちを削られ、帆桁の端へと追い詰められて行くスケルトン船長。もう自分の身を守るだけで精一杯。部下へ指令を出すどころではない。
右往左往する雑魚スケルトンたちの塊に向け旭は、容赦ない攻撃を仕掛けた。
「遊びの時間は終わりだぜ! 燃えて尽きろ!!」
竜環ライズ・オン・ウィルをはめた腕に青い光が宿る。甲板に魔法陣が現れる。天に向かって吹き上がった光に巻き込まれたスケルトンは消滅した。そこからからくも逃れたスケルトンたちは乙音の餌食となり、サイズで粉々に打ち砕かれる。
「オマエら全部纏めて閻魔様のお説教コース送りってな!」
スケルトンの大量消滅による影響は間を置かず表れた。幽霊船はその尻を、海の中に沈ませて行く。たかだかと船主楼を持ち上げて。
回収組は大急ぎで係留ロープを切り捨て、沈み行く幽霊船から離れた。せっかく積んだお宝がとばっちりを受けては、何にもならない。
水月が船長の片腕を、持っていた長剣ごと切り飛ばした。
片腕がなくては勝ち目は薄い。スケルトン船長は自ら海に飛び込み逃げようとした。
そこに舞が追いすがる。
「逃がさないよ!」
旭はファントムハンドを延ばし、船長の身を押さえる。
「塵に還る海賊の土産には贅沢すぎんだろ。そいつは、置いてってもらうぜ!」
ドライブ・ソードは船長を粉砕した。飛び散った指輪を可能な範囲でかっさらう旭。
幽霊船は断末魔の軋みを上げ崩壊し、速やかに沈んで行った。深い深い海の底へ。海原をさ迷う海賊の妄念が、ついに終わりを迎えたのである。
――ところで囮組のボートは幽霊船の沈没により起こった大波によって、遠くの方へ押し流されてしまった。それを追いかけて回収するのに、結構な手間がかかったことは言うまでもない。
●帰還。
宝を積み港へ戻って行く商船。
パルムとゴエモンが干し肉とチーズを分け合う前で舞は、リナリスが取ってきた小箱の鍵穴に金具を突っ込んでいる。
リナリスとカチャがその仕事を、後ろからのぞき込んでいる。
「開きそうですか?」
「うん、もうちょっとでいけそうかなーって……」
カチッと小さな音がした。
開けてみると、丸めた羊皮紙が出てきた。ヒョウタンのような形をした島の地図である。あちこち数字と印が書き込んである。
リナリスは目を輝かせた。
「これってもしかして宝島の地図じゃない?」
ありそうな話だ。思った一同はそれを、操舵手のナルシスに見せた。海運学校を出ている彼ならこれの見方が分かるだろうと。
ナルシスは地図を一瞥した後小箱にしまい直し海に投げ込む。
波間に沈み消えて行く小箱。
最初に口を開いたのは舞だった。
「……な、なにすんの?」
「だってあんなもの見せたらさ、姉さん絶対真偽を調べようとするじゃない? そしたらまた僕が駆り出されちゃうじゃない。やだよそんなの」
と彼が勝手な理屈を述べたところに、当のニケがやってくる。
ステラとジルボは奪ってきた財宝の勘定に勤しむ。水月と旭は、スケルトン船長の遺品である指輪と剣を磨く。杏子と兵庫と乙音は潮風に髪をなぶられながら一休み。
弟の狼藉を知ったニケが怒りを爆発させるまで、もうすぐである。
2隻のボートが幽霊船に急接近した。
右舷から天竜寺 舞(ka0377)、榊 兵庫(ka0010)、岩井崎 旭(ka0234)が乗り込む。左舷からは葛音 水月(ka1895)、乙音・S・不知火(ka5369)、杏子がそれぞれ乗り込む。襲撃開始だ。
ゴエモンを背負った舞は舷縁に仁王立ちし、ユナイテッド・ドライブ・ソードを掲げる。乙音は、サイズ・シュルシャナガの赤熱した刃を見せつける。
「海賊共、あたし達がやっつけてやるよ!」
「さぁ海賊狩りの時間だ、閻魔様に土下座しに行きな!」
旭は魔剣イェクルスナウトを正眼に構え、すごんだ。
「せっかく溜め込んだとこわりーけど、一切合財まとめて頂いていくぜ! 来いよ。遊ぼうぜ、海賊ども!」
分かりやすい挑発にスケルトン軍団は色めき立った。手に手に短剣を閃かし顎を鳴らし、襲いかかってくる。兵庫は十文字槍を構え、力強く振るった。範囲内にいたスケルト数体が、たちまちに粉砕される。
「お宝は生きている人間が使ってこそ生きるものだからな。このまま亡者に持たせておいても仕方ないし、我々で有効利用してやることとしようか」
直後何の前触れもなく船嘴が崩壊した。バラバラになった木材が海になだれ込み、沈んで行く。
兵庫はその現象が何を表しているか、速やかに理解した。
「こいつらと幽霊船は密接に繋がっているという訳か。厄介なことだ」
それを聞いた杏子は、思い切り顔をしかめる。
「じゃあ、手加減してやらなきゃならないってこと? この大人数相手に」
兵庫は頷き、肩をすくめる。
「仕方ない。護りを固めて時間を稼ぐぞ」
ところで今の事故、ハンターはもちろんだがスケルトンも巻き込まれていない。ただの1体も。皆素早く後退し、再び陣形を整えている。
スケルトン風情がこれだけ規律だった行動を取るということは……。
(どこかに中心となる個体がいる?)
水月は壁歩きを駆使しマストに上る。目を走らせれば船尾に、明らかに他のと様子が違っている個体がいた。つば広の海賊帽を被りマントを羽織り、腰に長剣を下げ、両の手にいっぱい指輪をつけている。
●回収班。
先攻した囮班に続き回収班が動いた。
ジルボ(ka1732)とステラ・レッドキャップ(ka5434)は幽霊船の右舷に近づいた。水月が作ってくれたロープの足掛かりを活用し、銃眼から中へ潜り込む。
「おーおー、ひでえなこりゃ。砲腔フジツボで埋まってんぞ」
突き出た大砲を後退させ、ボートの係留ロープを駐退索用フックに通し、縛り付ける。ボートにいるステラに向けて腕で、大きく丸を作って見せる。停留完了の合図だ。声を出さないのは、スケルトンどもに気づかれないためだ。
首尾よく双方船内侵入したところでまず襲いかかってきたのは悪臭だった。どうやらこの船、船底の汚水処理が出来ていないらしい。しかしその程度のことで彼らが怯むわけもない。瞳の中に輝くGの字を灯し、意気揚々船倉へ向かう。
「どんな宝が有るんだろうな……あぁ楽しみだぜ!」
「待ってな海賊、お宝の面倒は俺達がしっかり見ててやるよ」
リナリス・リーカノア(ka5126)とカチャは舞の作ってくれた足掛かりを元に、左舷銃眼から船内侵入。両者ビキニ姿にバックパック。目的が略奪である以上、装備は軽い方がいいと踏んだからだ。しかしカチャは変わらず船酔いしている。
「カチャ、大丈夫?」
壁に額をくっつけての頷きしか返せないカチャ。全く大丈夫じゃ無さそうだ。
リナリスはバックパックから、チョコレートと炭酸を引っ張り出した。
「ちょっとずつ食べてよ。酔い止めになるから」
酔いを緩和出来るならなんでもいい、ということで言われた通りちびちびチョコを食べ、ちびちび炭酸を飲むカチャ。リナリスはそんな彼女を後ろから抱き締め、酔いに効くとされるツボを刺激してやった。
「経絡秘孔の一つ、内関を突いた。お前の酔いはすでに覚めているー」
軽口を叩きながら時折ツボと違うところを揉んでいるが、そこはそれ公認的役得である。問題ない。
「頑張ればボーナス出て借金が一気に返せるよ♪ がんばろーね」
酔いが緩和されたことと借金というパワーワードを聞かされたことによりカチャは、俄然やる気が出てきた。
「はい、頑張りますっ」
そのとき大きな振動が響いた。船が揺れる。何事かと思い身構えたところに、トランシーバーから兵庫の声が聞こえてきた。
今起きたのが船嘴の崩壊であること、並びにスケルトンと幽霊船が不可分の関係にあるらしいことが、彼女たちのみならずジルボたちにも伝えられる。
●鬼さんこちら。
急に攻撃を手控えるようになった兵庫に、スケルトンたちが群がる。彼は、動きに支障を来さない程度の傷ならば甘んじて受けることにした。相手に優勢と思わせ、より引き付けるため。
「……俺もそれなりに場数を踏んでいるんでね。攻撃一辺倒でないことをこの辺で証明しないと一廉の武人とは名乗れないからな」
船尾に陣取って顎を鳴らし、指示を出す船長スケルトン。
水月はその足元に向け、手裏剣を投げ付けた。チェイシングスローの効果を受けて、一気に間合いを縮める。
「それ、もらうよっ!」
瞬く間に帽子を引っさらい、再度マストに駆け上る。頭骨をさらした船長に向かい、軽く挑発。
「海賊さんのシンボルって感じ? でもちょっと、くさーいですね?」
船長は一声唸った。水月のいるマストに飛びつき、するする上り始める。さすが海賊、身ごなしが軽い。
旭は水月を見上げ、呼びかけた。
「おーい、その帽子貸してくれ!」
足場の悪い桁の上、長剣を抜き切りかかってきた船長に相対しつつ水月は、帽子を落とす。
雑魚スケルトンの足を砕き転がしつつ、それをつかみ取る旭。
「ちょっと借りるぜ。返すかどーかは別だけどな!」
と怒鳴り、深遠の声を発動。
脳裏に浮かんできたのは、金の延べ棒がぎっちり詰まった箱を船倉に運び込むところ。きらびやかなタペストリーに彩られた船長室。覗くと針が飛び出す鍵穴の仕掛け。踏んだ途端に刃が飛び出す床板。壁に飾られた刀剣の類。豪奢なからくり時計。金鎖をつけ騒ぐ南洋産のオウム。チェストの引き出しを開ければ、燦然と輝く宝石類。
旭はトランシーバーを通じ、その情報を仲間たちへと拡散する。
「おらおらおら、こっちを忘れんな!」
乙音はスケルトンの下半身を狙いサイズを叩きつける。壊し切らず動きを止めるというのが難しかった。手足を優先し砕いているのだが、それでも油断していると転がり移動したりしている。
「大人しくしてろよ!」
肋骨でもぞもぞ這い動く個体を柄で突き、元の場所へ押し戻す乙音。
数体の相手をしていた舞は、はっと昇降口に目をやった。ひしゃげた手足を器用に使い3体かのスケルトンが、梯子を伝い降りて行く。
急いで1体は捕まえたが、残り2体が中へ入ってしまった。
乙音は杏子からトランシーバーを借り回収組に、警戒を呼びかける。
舞は旭から帽子を借り、ゴエモンとパルムの前に持っていった。
「いい、船長の匂いの強い所を探すんだよ。さあ、GO!」
後に続こうと昇降口に群がるスケルトンを蹴散らし、ゴエモンたちを回収組の応援に向かわせる。
●略奪。
回収班はさっさと罠を解除し、ボートに運んで行く。海賊たちが他人の血と汗と涙を糧に稼ぎ取った宝を。
リナリスとカチャはボートの上で、バックパックから何度目かになる吐き出し作業。金貨、銀貨、そしてインゴッドがボートの船底を照り輝かせる。
「ち、ちょっと大丈夫ですかね。喫水線より上に水来てますけど」
「金は重いからねー。囮班のボートにも分散させた方がいいかも」
ジルボとステラは吸い込み作業。膨れ上がったバックパックとポーチを身に帯び、目ぼしいものは残ってないかと最終点検。激烈極まりない悪臭も燃える物欲の前には無力である。
そこにトランシーバーから、乙音の緊急連絡。
『すまん、スケルトン2匹がそっちに行った!』
直後暗闇の中から、カツカツ骨の顎を打ち合わせる音が響いてきた。ランタンとLEDライトを向けてみれば、齧り付くようにしてハシゴを降りてくるスケルトン2体。それらが急にハシゴから転げ落ちた。昇降口から飛び降り体当たりしてきたゴエモンと一緒に。
船倉の床板にぶつかったスケルトンたちは互いの骨が絡まったまま、起き上がろうとする。
ステラはスケルトンが取り落とした短剣を拾い上げたがすぐ捨てた。安物だったのだ。
「財宝の通る道で寝転がられても困るしよー。潔く倒れようぜ?」
頭蓋を打ち抜かれ消え去るスケルトン2体。その代償として船底の一部が破れ、本格的な浸水が始まる。
残りの荷物を手早くボートに運んでから回収班は、ハシゴを登って上甲板へと向かう。
●根こそぎ。
水月と戦っていたスケルトン船長は、昇降口からリナリスたちが姿を現したのを見た。宝が奪われたのではと勘付き、まだ動けるスケルトンたちを船尾へ集めようとする。
兵庫が、舞が、それぞれの武器を振るってその流れを阻害する。
ふがいない部下どもに苛立った船長は、自ら船長室へ向かおうとした。しかしそれは、水月が許さない。巧みに前へ回り込み、帆桁の上から逃がそうとしない。
旭と乙音は共闘して這い群がるスケルトンたちを追いやる。誰ももう、さほどの手加減はしていない。宝はあらかた運び終わっているとの話なので。
「オラ散れっ!」
「せっかく溜め込んだところわりーけど、一切合財まとめて戴いていくぜ!」
そうこうしている間にも、船はじりじり沈んでいく。
回収組は大急ぎで船長室になだれ込んだ。先程旭から説明があった通りの部屋だ。布や木製の調度といったものは傷み切ってぼろぼろではあるが、そうでないものは健在。
壁にかかった刀剣、時計、そして。
『ドロボー! ドロボー! ドロボー!』
骨になっても騒いでいるオウムの足の金鎖。
「お♪ こいつスッゲー良いもん持ってるぞ」
「よこせよオラ」
ステラは早速オウムスケルトンをひねり、金鎖を回収した。
ジルボは鍵つきチェストの引き出しを片端からあけまくる。指輪、首飾り、腕輪、額飾りといったものが転がり出てくる。ダイヤ、ルビー、サファイア、エメラルド、アメジスト、オパール、真珠、黒真珠……。価値の高そうなものだけを素早くセレクトし、回収。
「おー、すげえなこの置き時計。プラチナ作りじゃねえかこの野郎」
「ウヒャヒャヒャ。貰っとけ貰っとけ戦利品だ」
リナリスとカチャは船長の書机を漁る。日誌、銃、羅針盤。懐中時計に望遠鏡。価値があるかないかは分からないが、運べそうなものはすべて片端から、バックパックに詰めていく。
壁に張り付けてある海図は持ち運べそうもないので、写真に収めるに留める。
「リナリスさん、早く早く!」
「うん! あ、ついでだからこの小箱もいただきね♪」
●根こそぎ。
『おーい、回収終わったぞー!』
ジルボの終了宣言を受け、囮班は遠慮を捨てた。取るものを取った以上、手加減してやる理由はない。
「さて、俺たちのターンだな」
兵庫は守りの構えを解き、十文字槍を一閃させる。半壊状態となっていたスケルトンたちが軒並み消滅した。同時に大きく船が傾く。
船長室から出てきた回収班が斜めになった甲板を伝い、ボートに乗り移って行く。
「よっしここからが本番だよ!」
彼らを追おうとするスケルトンたちを舞は、片端から切って捨てた。杏子は頭蓋を次々割って行く。船底が抜け、急激な浸水が始まる。
水月は、先程までとは段違いの早さで剣を踊らせる。
「お宝ごそっといただいちゃいますねー」
体のあちこちを削られ、帆桁の端へと追い詰められて行くスケルトン船長。もう自分の身を守るだけで精一杯。部下へ指令を出すどころではない。
右往左往する雑魚スケルトンたちの塊に向け旭は、容赦ない攻撃を仕掛けた。
「遊びの時間は終わりだぜ! 燃えて尽きろ!!」
竜環ライズ・オン・ウィルをはめた腕に青い光が宿る。甲板に魔法陣が現れる。天に向かって吹き上がった光に巻き込まれたスケルトンは消滅した。そこからからくも逃れたスケルトンたちは乙音の餌食となり、サイズで粉々に打ち砕かれる。
「オマエら全部纏めて閻魔様のお説教コース送りってな!」
スケルトンの大量消滅による影響は間を置かず表れた。幽霊船はその尻を、海の中に沈ませて行く。たかだかと船主楼を持ち上げて。
回収組は大急ぎで係留ロープを切り捨て、沈み行く幽霊船から離れた。せっかく積んだお宝がとばっちりを受けては、何にもならない。
水月が船長の片腕を、持っていた長剣ごと切り飛ばした。
片腕がなくては勝ち目は薄い。スケルトン船長は自ら海に飛び込み逃げようとした。
そこに舞が追いすがる。
「逃がさないよ!」
旭はファントムハンドを延ばし、船長の身を押さえる。
「塵に還る海賊の土産には贅沢すぎんだろ。そいつは、置いてってもらうぜ!」
ドライブ・ソードは船長を粉砕した。飛び散った指輪を可能な範囲でかっさらう旭。
幽霊船は断末魔の軋みを上げ崩壊し、速やかに沈んで行った。深い深い海の底へ。海原をさ迷う海賊の妄念が、ついに終わりを迎えたのである。
――ところで囮組のボートは幽霊船の沈没により起こった大波によって、遠くの方へ押し流されてしまった。それを追いかけて回収するのに、結構な手間がかかったことは言うまでもない。
●帰還。
宝を積み港へ戻って行く商船。
パルムとゴエモンが干し肉とチーズを分け合う前で舞は、リナリスが取ってきた小箱の鍵穴に金具を突っ込んでいる。
リナリスとカチャがその仕事を、後ろからのぞき込んでいる。
「開きそうですか?」
「うん、もうちょっとでいけそうかなーって……」
カチッと小さな音がした。
開けてみると、丸めた羊皮紙が出てきた。ヒョウタンのような形をした島の地図である。あちこち数字と印が書き込んである。
リナリスは目を輝かせた。
「これってもしかして宝島の地図じゃない?」
ありそうな話だ。思った一同はそれを、操舵手のナルシスに見せた。海運学校を出ている彼ならこれの見方が分かるだろうと。
ナルシスは地図を一瞥した後小箱にしまい直し海に投げ込む。
波間に沈み消えて行く小箱。
最初に口を開いたのは舞だった。
「……な、なにすんの?」
「だってあんなもの見せたらさ、姉さん絶対真偽を調べようとするじゃない? そしたらまた僕が駆り出されちゃうじゃない。やだよそんなの」
と彼が勝手な理屈を述べたところに、当のニケがやってくる。
ステラとジルボは奪ってきた財宝の勘定に勤しむ。水月と旭は、スケルトン船長の遺品である指輪と剣を磨く。杏子と兵庫と乙音は潮風に髪をなぶられながら一休み。
弟の狼藉を知ったニケが怒りを爆発させるまで、もうすぐである。
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【相談卓】 ステラ・レッドキャップ(ka5434) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/07/03 19:26:18 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/06/28 22:06:08 |