ゲスト
(ka0000)
【繭国】精霊とボールとホイッスル
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~14人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/04 22:00
- 完成日
- 2017/07/09 20:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●来たか、とうとう
グラズヘイム王国のとある領地に精霊が住んでいる。
それが真実か否か、隣の者は分からない。
「正直言って、クリシス家は邪魔だ。息子が歪虚になっても同情されつつ咎めなし。まあ、ウィリアムは隠居したし、戦場に出てきたわけか……。にしても、先日も何やらこちらとの境界でやっていたし、邪魔なのだ」
クリシス家と川を挟んで領地を持つ領主ユリアン・メトーポンは呟く。筋肉質で武術もよくするが酒も好きでン十歳以降、おなか周りが気になる年頃のように見える年齢。
「精霊がいるから川でなんかやっているというのも嘘に違いない。そもそもそんなもの見えないし、いないじゃないか」
こちら側では水かさが増したとか、いろいろな事件は起こっていない。船頭たちの話によると、クリシス側の水位は奇妙というのはあったらしい。
あくまで、あ、ちょっとなんか乗り上げたかな程度で、舟から下りるとき段差が怖いといえば怖いという。
「やはり、そこを突くべきだな」
ユリアンは手紙をしたためる。使者を立て隣の領地を揺さぶろうと考えたのだった。
「今領主やってる娘は見た目は良い、息子の嫁にでもと言っていればいいし」
ユリアンはふと思い出す。
「うちの息子も美青年だ! なのに、あのガキが文武両道とかほざいていたのはむかついた! だいたい、なよなよしてどこがいいんだ!」
クリシス家の長男が死んだらきっと息子がもてると思ったが、いまいちだったという過去がある。町の中には渡し船で行ってクリシス家の長男を一目見ようとしていた娘たちが多かったという歯がゆい思いでがよぎってしまった。
さて、ユリアンからの手紙を携えた使者を迎えた領主イノア・クリシスはありのままに説明するしかない。精霊というどこかおとぎ話めいたことを説明するため、嫌味ったらしい返答で堂々めぐりとなりそうだ。
覚悟を決めたところ、扉がノックされた。
「失礼、使者が来たというから私も同席してよいだろうか?」
イノアの父であり、精神的に不安定となって隠居したが、最近だいぶ元気になってきたウィリアムが顔を出した。使者はこの瞬間、「ぎゃ」と思ったがイノアがまだ危ういところに後ろ盾となる人物が同席するのは拒否できない。
イノアは川であったことを説明した。すかさずウィリアムが微笑む。
「驚かれていますね? 私だって精霊がいると言われて信じられませんからね」
可愛い方ですよ、と付け加える。
「船で来られたのでしょう? それであれば一度祠に参りましょう」
「いえいえ、もったいなきお言葉。別に祠ならわかりましょう、お気になさらずに」
「いやいや、私も教会に帰るつもりだからね、ついでだよ、気にしないでくれ」
しばらく言い合うが、ウィリアムがにこやかに押し切った。
二人が出て行ったあと、イノアは溜息を洩らした。
「さすがにお父様というべきですわ……。父がいないと何もできないままかしら……」
不安はよぎる。
年が若い上、女というだけで見下す者もいる。川向うの領主はその気が強い。息子との縁談も散々勧めてくる。
「見え見えなのですわ、養子っていう形でも結局乗っ取ろうという」
兄が兄のままならどれだけ良かったか。
弱気になってはいけないが、寂しくなった。
●精霊はつまらない
ウィリアムに連れられて、メトーポン家の使者は精霊が祭られている祠にやってきた。
あまりにも粗末なそれに鼻先で笑う。
「おや? おかしいですか?」
ウィリアムはさっと突く。
「え?」
「いや、ここには古くから住まう者がいるとは伝えられていたのです。姿は見えないためあまり意識はしていませんでしたが……今思えば、魔法公害が発生したころ、よくこの町は水没しなかったと思いますよ。今考えると肝が冷えますよ」
使者はウィリアムの笑顔が恐ろしい、真実か否かつかめないため。
「……あのお嬢さんは出てくれるとは限りません」
ウィリアムは手を合わせる。教会で祈るように。
「お嬢さん?」
「ええ、お嬢さんのような姿というものですけれど。性別がそもそもあるのかもわかりません。実は男の子かもしれません」
「……」
担がれているのか否か、使者は悩む。
「あなたも是非、お祈りを。こちらの岸に彼女が上がるとはいえ、住んでいるのは同じ川ですから」
確かにその通りだ。
こちらの領地が水没しようとかまわないが、その力をこの領主が使えばどうなる?
使者はほくそ笑む。うまくすれば主のためになるのでは、と。
「そうですね、気持ちですね」
使者は同じように手を合わせた。
顔をあげると祠の陰から少女のようなモノが現れた。形はあるが流水という表現がぴったりくるものだ。
「ぎゃあああああああああ」
使者の口から悲鳴が上がる。
「この方ですよ。ごきげんよう、精霊さん」
ウィリアムは丁寧にお辞儀する。
精霊は悲鳴を上げたほうを指さし何か文句を言っている。
「あなたを始めて見たそうですよ」
「んんんんんんん」
「隣の方です」
「ふーん」
精霊はすぐに興味を失い、ウィリアムに紙きれを取り出した。水にぬれているが、かろうじて字が読める。
「運動会?」
精霊は首をかしげる。
「大人数で競技……走ったり、ボールを投げたりしてその腕を競う大会です」
精霊は体をくねくねして考え、万歳をする。
「やりたい、と?」
精霊はうなずく。
「応援だけは嫌なのですね?」
精霊が疑問を示したため、応援の説明をウィリアムはした。精霊は首を横に振る。
「とはいえ……陸上でやるにはあなたに負担があるのではないのですか? 人間集めてもここだとほとんど何もできません」
精霊は頬を膨らませた。
「水泳だけに特化すればいいですね……水球大会なんてどうでしょうか?」
「ん?」
「水球とは、二つのグループがボールを持ってゴールに入れるスポーツです」
精霊は喜ぶ。
「……そうです、メトーポン殿のところの方も参加しませんか?」
ウィリアムはさらりと告げる。
「は?」
使者は硬直する。
「せっかくならお隣ですし、一緒に精霊殿と楽しみましょう?」
ウィリアムは笑顔のまま、使者の肩をポンとたたいた。
●招待状
ユリアン・メトーポン殿
使者どのから伺っているかもしれないが、精霊殿とそちらの方も遊ぶというのはいかがと思って招待状を送る。
対岸からも見えるとは思うが、近くである我が方からいかがだろうか?
無理強いはしないが、友好関係が続くことを祈り、かつ、精霊と遊ぶことで新たな絆も生まれるかもしれない。
ウィリアム・クリシス
ユリアンは悩む、これが罠である場合も否定できない。
精霊の有無を問うて実際を見せるというのだから、行かないのも怖気ついたと言われかねない。
息子を行かせるか自分で行くか。
「むうう……私が行こう」
ウィリアムがいるということはやり込められる危険性がある。
「誰かある! 泳ぎがうまいやつを用意しろ。水球のチームを作るのだ!」
グラズヘイム王国のとある領地に精霊が住んでいる。
それが真実か否か、隣の者は分からない。
「正直言って、クリシス家は邪魔だ。息子が歪虚になっても同情されつつ咎めなし。まあ、ウィリアムは隠居したし、戦場に出てきたわけか……。にしても、先日も何やらこちらとの境界でやっていたし、邪魔なのだ」
クリシス家と川を挟んで領地を持つ領主ユリアン・メトーポンは呟く。筋肉質で武術もよくするが酒も好きでン十歳以降、おなか周りが気になる年頃のように見える年齢。
「精霊がいるから川でなんかやっているというのも嘘に違いない。そもそもそんなもの見えないし、いないじゃないか」
こちら側では水かさが増したとか、いろいろな事件は起こっていない。船頭たちの話によると、クリシス側の水位は奇妙というのはあったらしい。
あくまで、あ、ちょっとなんか乗り上げたかな程度で、舟から下りるとき段差が怖いといえば怖いという。
「やはり、そこを突くべきだな」
ユリアンは手紙をしたためる。使者を立て隣の領地を揺さぶろうと考えたのだった。
「今領主やってる娘は見た目は良い、息子の嫁にでもと言っていればいいし」
ユリアンはふと思い出す。
「うちの息子も美青年だ! なのに、あのガキが文武両道とかほざいていたのはむかついた! だいたい、なよなよしてどこがいいんだ!」
クリシス家の長男が死んだらきっと息子がもてると思ったが、いまいちだったという過去がある。町の中には渡し船で行ってクリシス家の長男を一目見ようとしていた娘たちが多かったという歯がゆい思いでがよぎってしまった。
さて、ユリアンからの手紙を携えた使者を迎えた領主イノア・クリシスはありのままに説明するしかない。精霊というどこかおとぎ話めいたことを説明するため、嫌味ったらしい返答で堂々めぐりとなりそうだ。
覚悟を決めたところ、扉がノックされた。
「失礼、使者が来たというから私も同席してよいだろうか?」
イノアの父であり、精神的に不安定となって隠居したが、最近だいぶ元気になってきたウィリアムが顔を出した。使者はこの瞬間、「ぎゃ」と思ったがイノアがまだ危ういところに後ろ盾となる人物が同席するのは拒否できない。
イノアは川であったことを説明した。すかさずウィリアムが微笑む。
「驚かれていますね? 私だって精霊がいると言われて信じられませんからね」
可愛い方ですよ、と付け加える。
「船で来られたのでしょう? それであれば一度祠に参りましょう」
「いえいえ、もったいなきお言葉。別に祠ならわかりましょう、お気になさらずに」
「いやいや、私も教会に帰るつもりだからね、ついでだよ、気にしないでくれ」
しばらく言い合うが、ウィリアムがにこやかに押し切った。
二人が出て行ったあと、イノアは溜息を洩らした。
「さすがにお父様というべきですわ……。父がいないと何もできないままかしら……」
不安はよぎる。
年が若い上、女というだけで見下す者もいる。川向うの領主はその気が強い。息子との縁談も散々勧めてくる。
「見え見えなのですわ、養子っていう形でも結局乗っ取ろうという」
兄が兄のままならどれだけ良かったか。
弱気になってはいけないが、寂しくなった。
●精霊はつまらない
ウィリアムに連れられて、メトーポン家の使者は精霊が祭られている祠にやってきた。
あまりにも粗末なそれに鼻先で笑う。
「おや? おかしいですか?」
ウィリアムはさっと突く。
「え?」
「いや、ここには古くから住まう者がいるとは伝えられていたのです。姿は見えないためあまり意識はしていませんでしたが……今思えば、魔法公害が発生したころ、よくこの町は水没しなかったと思いますよ。今考えると肝が冷えますよ」
使者はウィリアムの笑顔が恐ろしい、真実か否かつかめないため。
「……あのお嬢さんは出てくれるとは限りません」
ウィリアムは手を合わせる。教会で祈るように。
「お嬢さん?」
「ええ、お嬢さんのような姿というものですけれど。性別がそもそもあるのかもわかりません。実は男の子かもしれません」
「……」
担がれているのか否か、使者は悩む。
「あなたも是非、お祈りを。こちらの岸に彼女が上がるとはいえ、住んでいるのは同じ川ですから」
確かにその通りだ。
こちらの領地が水没しようとかまわないが、その力をこの領主が使えばどうなる?
使者はほくそ笑む。うまくすれば主のためになるのでは、と。
「そうですね、気持ちですね」
使者は同じように手を合わせた。
顔をあげると祠の陰から少女のようなモノが現れた。形はあるが流水という表現がぴったりくるものだ。
「ぎゃあああああああああ」
使者の口から悲鳴が上がる。
「この方ですよ。ごきげんよう、精霊さん」
ウィリアムは丁寧にお辞儀する。
精霊は悲鳴を上げたほうを指さし何か文句を言っている。
「あなたを始めて見たそうですよ」
「んんんんんんん」
「隣の方です」
「ふーん」
精霊はすぐに興味を失い、ウィリアムに紙きれを取り出した。水にぬれているが、かろうじて字が読める。
「運動会?」
精霊は首をかしげる。
「大人数で競技……走ったり、ボールを投げたりしてその腕を競う大会です」
精霊は体をくねくねして考え、万歳をする。
「やりたい、と?」
精霊はうなずく。
「応援だけは嫌なのですね?」
精霊が疑問を示したため、応援の説明をウィリアムはした。精霊は首を横に振る。
「とはいえ……陸上でやるにはあなたに負担があるのではないのですか? 人間集めてもここだとほとんど何もできません」
精霊は頬を膨らませた。
「水泳だけに特化すればいいですね……水球大会なんてどうでしょうか?」
「ん?」
「水球とは、二つのグループがボールを持ってゴールに入れるスポーツです」
精霊は喜ぶ。
「……そうです、メトーポン殿のところの方も参加しませんか?」
ウィリアムはさらりと告げる。
「は?」
使者は硬直する。
「せっかくならお隣ですし、一緒に精霊殿と楽しみましょう?」
ウィリアムは笑顔のまま、使者の肩をポンとたたいた。
●招待状
ユリアン・メトーポン殿
使者どのから伺っているかもしれないが、精霊殿とそちらの方も遊ぶというのはいかがと思って招待状を送る。
対岸からも見えるとは思うが、近くである我が方からいかがだろうか?
無理強いはしないが、友好関係が続くことを祈り、かつ、精霊と遊ぶことで新たな絆も生まれるかもしれない。
ウィリアム・クリシス
ユリアンは悩む、これが罠である場合も否定できない。
精霊の有無を問うて実際を見せるというのだから、行かないのも怖気ついたと言われかねない。
息子を行かせるか自分で行くか。
「むうう……私が行こう」
ウィリアムがいるということはやり込められる危険性がある。
「誰かある! 泳ぎがうまいやつを用意しろ。水球のチームを作るのだ!」
リプレイ本文
●余興?
エルバッハ・リオン(ka2434)は肌の露出を好む性質であるが一般的なビキニの水着にとどめた。隣の領地のユリアン・メトーポンがどんな性格かわからないため、イベント主催のクリシス親子に迷惑も掛かることは避けたい。その上で、挨拶を交わした後、紹介してもらうことや余興を行い相手の様子をうかがうことは抜かりなく行う。
余興は魔法を用いて水面を歩き、魔法で的を射るといったもの。
(領主は苛立ち、騎士たちはこらえようとしているという感じで、いたって普通ですね)
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804)はハンターが休める場所を花柄レジャーシートで作った後、準備体操も怠りなく行う。シートの上には現在、けが人で出たら癒すのに必要な法具――ヘビーメイス「ダグザ」が陣取っていた。
「イノアさん、こんにちは。ハンターチーム、人数足りないから、参加してお願い! 水着は予備で持ってきたら!」
ピアレーチェの申し出にイノア・クリシスは驚き、父を見る。
「泳ぎが苦手ならキーパーならどうにかなるよ。それに精霊ちゃんと仲良くなるチャンスだよ」
イノアは困惑するが、父は「好きにすればいい」と見守るスタンスであり、覚悟を決めた。
「わ、わかりました」
ふと、視界の隅にいた精霊が嬉しそうに笑ったようだった。
イノアは水着できれば露出が少ない方がいいいとさんざん悩むこととなる。
七夜・真夕(ka3977)はいくつか思うことがあってここにやってきた。
まず、友人のコウ(ka3233)が女連れで来るらしいので冷やかすため。
水球ことウォーターポロなんて珍しいという驚きと興味。
やってきたからには挨拶は欠かさない、精霊と主と仲間たちに。
「まさかこんな再会をすることになるとは思わなかったけど。面白そうだから、楽しむわよ。今日はよろしくね、精霊さんとお魚さんたち」
精霊はこくこくとうなずくが魚は変化なし。魚なのでコミュニケーションは難しい。
「よー」
精霊はまねをして少し言葉を発する。
「うん、よろしくね」
「しくっ」
真夕の真似をして、精霊も頭を下げた。
真夕は人の気配がしたため、笑顔で振り返る。
「うっ、七夜っ」
コウが一歩引いて立ち止まった。
「引くことないよね」
「ああ、その通りだよな」
コウは思わず足を止めてしまった自分に腹を立てつつ真夕のそばに来る。
「今回のメンツは見事に女ばっか? えっと……」
コウは仲間を確認しつつ、恋人のイルミナ(ka5759)を探す。
水着姿でハンター席のところにいる緊張で強張った表情のイルミナを発見した。
「うおっ」
可愛い、似合うといろいろな言葉がコウの中を駆け巡る。彼女に素直に言うか悩みながら棚上げし、競技に集中するふりをすることにした。
「やっ! 今日は……に……楽しみだな。ところで、イルミナ、水球のことわかるか?」
「……水遊びよね。依頼書にあったルールはおぼえているけれど……」
コウはルールを教えてくれるように乞う。
イルミナは慣れていない相手は苦手で、コウの後ろにいる真夕をちらりと見る。
(一緒に依頼を受けた人。それより……コウ、水着、似合うとか言ってくれないのかな?)
イルミナは内心むっとしつつ、コウの様子を眺めていたのだった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)はこの状況をしっかり、きっちり理解していた。だから、眉間にしわを寄せて考えて思わずつぶやく。
「ん~ん~ん~、親善と示威行為と精霊さまを喜ばせる、たぶんまとめてできるイベントなの」
水着「ブルーローズ」をまとって戦場に向かう。その上、アクセサリーとしてさりげなく「エクラアンク」と「パリィグローブ」をつけている。なぜつけているかと言えば、必要になると考えるからだ。
薔薇のようなフリルにパレオの水着にアクセサリーでごまかせている――ということにしておく。
「イノアさまと精霊さまのために、面白おかしく優勝なのっ」
気合を入れた。
●初戦
ウィリアム・クリシスは直接関係者が当たることを避けた。
一回戦目の組み合わせはハンターチーム対メトーポン家の精鋭チーム、精霊チーム対クリシス家の有志チーム。
イノアがチームにいるということはやや不安はあるが、ハンターたちは守ってくれるだろうと信用した。
ハンター側の配置はフォワードにエルバッハとコウ、ピアレーチェ。ハーフバックにイノア、フルバックに真夕とイルミナ、キーパーはディーナである。
「女子供ばかりじゃないか!」
騎士たちは戦意がそがれている様子。
「なら、手加減しなさいよね」
「覚醒するのー」
「えっ?」
真夕とディーナの声が重なって響いたため聞き取りづらかったようだが、何か不穏な雰囲気を川向うの騎士たちは感じた。騎士たちは自分たちの主を思わず見る。主たるユリアンは思わず、ウィリアムを見る。
「スポーツマンシップにのっとった判断ができる審判がついているから」
ウィリアムは請け負った。
ホイッスルが鳴り試合が始まる。
訓練を積み、チームワークで勝る騎士たちはあっという間にボールをゴールにまで運んだ。さあ、ゴールだと投げるがボールが見えない何かに押し戻された。
「むふーん、鉄壁なの」
ディーナ、スキル使う。
審判が注意したため、ディーナは唇をとんがらせた。
「……なんか思ってたよりハードな戦いのようね……」
騎士に横をすり抜けられたイルミナはぼそりとつぶやいた。
「負けるのもシャクだし……行くわよ、コウ!」
「お、おう! 奴らの動きを見たんだ。俺たちだってやれる。イルミナ、連携するぞ!」
「そうね。後ろでとって投げる猟撃士の本懐だわ」
コウは見た、物静かなイルミナに燃える闘志を。心強いとともに、負けられずいいところを見せたいとこぶしを固めた。
「そうですね……負けるのもシャクです」
エルバッハは呟き周りを見ると近くにいる騎士側の守りの青年と目があった。にっこりとほほ笑むと豊かな双丘を二の腕で押すようにして、口元に手を当て「よろしく」というように首をかしげる。
(まあ、そんなものですよね……領主が近くにいないと)
分析されているなど騎士の青年は知らない。
「みんなー、やるよー。歪虚より、怖くないんだ」
ピアレーチェは声をあげる。
その通りで、ハンターは攻勢をかける。
まずはボールを持った騎士にイルミナがフェイントとしつつ近づく。それは避けられたが、彼が方向を変えた先には真夕がいた。
「とうっ! なぜとれるかって……勘よ勘」
真夕は愛らしい不敵な笑みを浮かべ告げ、ボールを投げた。うまく飛ばないがイルミナがすかさずうまくタッチして軌道を変え、前に送る。
騎士が取ろうとしたところに、コウが猛ダッシュ――泳ぎで近づく。水しぶきが大変上がり、視界を遮る。
「今の内だ! とった、行くよ!」
そのすきにピアレーチェはボールをとるとエルバッハめがけて投げた。
「はいっ、取らせてください」
青年は一瞬キョトンとしたため、エルバッハがボールを悠々と受取り、ゴールに投げ込んだ。
はじかれてしまったが、小柄なメンバーであってもやれるという自信につながる。
この後、コツをつかみきびきび動くハンターたちに焦った騎士たちで試合展開される。
「重要かつ暇なほうがいいのはキーパーなの」
ディーナは油断する間もなかった、僅差という勝利であるため、ゴール際の戦いが何度か繰り広げられたのだった。
イノア、浮いているだけで良かった。
精霊チームとクリシス家の有志はのほほんと終わった。
精霊チームにルールを教えるので終わったに過ぎない。教え終わった後は、速攻逆転負けしていた。
●本番?
ユリアンとしてはウィリアムが何を考えているのか探りたかった。ハンターを使って何かしてくるのかとも思われた。娘で現領主であるイノアを試合に出しているが、特に何も見えない。
結論は「分からない」が、自チームが負けたことは憮然となった。
決勝は精霊チームとハンターチームが戦う。
ディーナは精霊が浮かぶところに大きな魚が六匹いるのを眺め、きらりと目が輝き、ごくりとつばを飲む。
「おっきくて食べごたえがありそうなお魚さんなの。もしや、終わったあと、お魚パーティーなの?」
精霊の視線が突き刺さる。
「くー」
精霊がディーナを指さして水に沈んだ。直後、魚たちがディーナに次々にぶつかる。
「ディーナ!?」
「精霊ちゃん!」
異変に真夕とピアレーチェが慌てて近づく。
「ひー、痛い痛い、精霊さまが怒ったの。もしや、お魚さんは精霊さまにとってお猫さまなのっ!? それならしょうがないのあきらめるの」
魚は止まる。
水から出て精霊はディーナを見て首をかしげる。
「うん、お魚さん……もふもふ?」
ディーナは説明する、川辺にいる猫を指さし。
「もー?」
「うん」
「うん」
精霊は何か理解したのか、二人はうなずき合っていた。
「何か会話が成り立っているようね」
「……すごい、ディーナ」
あっけにとられるしかなかった。
「そろそろ、試合開始ですよ」
エルバッハが声をかける。
「コウ、精霊チームと戦う……のだから、スキル使ってもいいかな……」
「精霊はともかく、魚はただの魚じゃねーか?」
コウは少し考える、危険ではないかと。
「……そうね……でも、強弾も遠射もさっきから使っているもの」
「え? スキルの名前じゃねーの?」
「……技術の名前」
コウはイルミナの説明に納得する。ただ投げるよりスキル名あるほうが楽しいと言えば楽しい。
そして、コウはまたイルミナの水着姿から視線をそらした。
「あ……イノア様……精霊殿は水の中に入ると見えませんからご注意を」
沿岸から騎士のジョージ・モースが声をかけてきた。
「え?」
「は?」
イノアのみならずハンターからも困惑の声が上がった。
ホイッスルが鳴り、ゲームが開始される。
精霊は泳ぎ始める、水の中に入って。
「……見えないですね」
エルバッハは苦笑した。陸地にいるときの精霊の姿が人の形でありつつも流水であることを考えればわかりづらいのは当たりまえかもしれない。
ボールは魚がポンとはじいて空を飛ぶ。
「任せろ!」
コウが取ろうとしたところに水しぶきが下から現れた。
「ぷはっ!」
顔面を襲った水に目をつむった瞬間、ボールは持っていかれていた。
「イルミナ、そっちにいったぞ」
「うん」
ボールはやってくる。目を凝らすと精霊がいるのが見えた。
魚が目の前を泳いでいる。
「……なんか調子が狂う……なんて言うと思っているのっ。ていっ!」
「ナイス、カット!」
イルミナがボールを取り、ピアレーチェから賞賛がかかる。
「行くよ、遠射!」
イルミナは思いっきり投げた。
コウとエルバッハがボールの下を目指し泳ぎ、ピアレーチェは様子を見る。
ゴールの前にいるのは川の主。
飛び上がりボールをポーンと打った。
「イルカのショーかな」
真夕は思わず笑う。
こぼれたボールの先に一匹の魚とコウがいる。
「もらっっいっ」
コウは思い切り伸びて取ろうとしたが、魚と激突した。ボールはこぼれて変なところに飛ぶ。
「コーウ!」
「あー」
イルミナと真夕がそれぞれの反応。
「あなたの犠牲は無駄にしません!」
エルバッハが魚が次の行動に移る前にボールをとった。
「イノアさん」
「えっ!?」
飛んできたボールにイノアはおろおろしたが、何とか魚が来る前に投げる。
「いいよ、次はこっち!」
ピアレーチェが受取りゴールめがけて投げるが、主が健闘する。
精霊チーム側で行動が続くき、ボールは再びハンター側のゴールを狙う。
「何度目かの、私の出番なの」
近づいてきた精霊が「ぬー」と何か言う。
「分かっているの……さすがにだけど……けがは治せるのっ!」
精霊はボールを至近距離でディーナ守るゴールに叩き込んだ。
「【ディヴァインウィル】なのっ!」
「こらー」
精霊、言葉をきちんと発した。
試合結果はドローとなった。時間切れであり、延長はなかった。
●命名
「こんなののどこが面白いんだ!」
ウィリアムは笑顔でいたため、ユリアンは怒る。
「精霊ともお互いに仲良くなれる、平和ではないかな?」
「どこが。何かあれば私らにその牙を向けるという暗示だと、触れ回るぞ」
ウィリアムは真顔になった。
「なぜ? どこをどうとったら?」
広めるのは簡単だ。ウィリアムには無垢な精霊と中立を旨とするハンターがついていた。
エルバッハは水着を直しつつ上がり、にっこりとほほ笑む。
「勝敗はつかなかったですね」
「うう、お魚さんたちが突いてくるの」
ディーナは続いて上がる。
「……あの、役に立てたかは……」
「イノアさんのおかげで試合は動きましたわ」
「そうなの」
二人は事実を告げる。
精霊もあがってきて、イノアの頭を撫でた。たぶん褒めているのだろう。
「ありがとうございます」
イノアはホッとした。
「精霊さん、楽しかった?」
「精霊ちゃん、楽しかった?」
ピアレーチェと真夕の質問が重なり、精霊はうなずく。
「良かった」
真夕は微笑むと、弟分のようなコウの方に向かった。
「ね、精霊ちゃんじゃそろそろ可哀想だよね……ね、リオちゃんとかどう?」
精霊はキョトンとする。
「リオちゃん」
再び呼ばれると精霊ははにかんだ様子を見せる。
「とりあえず『リオ(仮)』でもいいのかな?」
嫌われていないようだがピアレーチェはそう尋ねると、リオ(仮)はイノアやウィリアムを見てうなずく。
――ウィンディってどう?
リオ(仮)は一瞬遠くを見た、何か音を聞いたような、懐かしんだような雰囲気だった。それからピアレーチェの頭を撫でた。
「えへへ」
嬉しくなり「リオちゃん」と呼んだ。
「勝負つかなかったのは……残念」
「イルミナ頑張ったもんな」
「……コウもね」
イルミナとコウは黙る。
「で、コウ、この子とどこでどう知り合ったの?」
真夕がポンと尋ねる。
「コウにはもったいないくらい、しっかりした女の子じゃない?」
「あー」
真夕はお姉さん風を吹かせた。褒められたイルミナは戸惑い、真夕とコウを交互に見た。
「……秘密! イルミナ、似合ってる」
コウはイルミナの手を取って真夕から離れる際にぽつり告げた。
「えっ」
聞き返すイルミナの頬は真っ赤だった。
エルバッハ・リオン(ka2434)は肌の露出を好む性質であるが一般的なビキニの水着にとどめた。隣の領地のユリアン・メトーポンがどんな性格かわからないため、イベント主催のクリシス親子に迷惑も掛かることは避けたい。その上で、挨拶を交わした後、紹介してもらうことや余興を行い相手の様子をうかがうことは抜かりなく行う。
余興は魔法を用いて水面を歩き、魔法で的を射るといったもの。
(領主は苛立ち、騎士たちはこらえようとしているという感じで、いたって普通ですね)
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804)はハンターが休める場所を花柄レジャーシートで作った後、準備体操も怠りなく行う。シートの上には現在、けが人で出たら癒すのに必要な法具――ヘビーメイス「ダグザ」が陣取っていた。
「イノアさん、こんにちは。ハンターチーム、人数足りないから、参加してお願い! 水着は予備で持ってきたら!」
ピアレーチェの申し出にイノア・クリシスは驚き、父を見る。
「泳ぎが苦手ならキーパーならどうにかなるよ。それに精霊ちゃんと仲良くなるチャンスだよ」
イノアは困惑するが、父は「好きにすればいい」と見守るスタンスであり、覚悟を決めた。
「わ、わかりました」
ふと、視界の隅にいた精霊が嬉しそうに笑ったようだった。
イノアは水着できれば露出が少ない方がいいいとさんざん悩むこととなる。
七夜・真夕(ka3977)はいくつか思うことがあってここにやってきた。
まず、友人のコウ(ka3233)が女連れで来るらしいので冷やかすため。
水球ことウォーターポロなんて珍しいという驚きと興味。
やってきたからには挨拶は欠かさない、精霊と主と仲間たちに。
「まさかこんな再会をすることになるとは思わなかったけど。面白そうだから、楽しむわよ。今日はよろしくね、精霊さんとお魚さんたち」
精霊はこくこくとうなずくが魚は変化なし。魚なのでコミュニケーションは難しい。
「よー」
精霊はまねをして少し言葉を発する。
「うん、よろしくね」
「しくっ」
真夕の真似をして、精霊も頭を下げた。
真夕は人の気配がしたため、笑顔で振り返る。
「うっ、七夜っ」
コウが一歩引いて立ち止まった。
「引くことないよね」
「ああ、その通りだよな」
コウは思わず足を止めてしまった自分に腹を立てつつ真夕のそばに来る。
「今回のメンツは見事に女ばっか? えっと……」
コウは仲間を確認しつつ、恋人のイルミナ(ka5759)を探す。
水着姿でハンター席のところにいる緊張で強張った表情のイルミナを発見した。
「うおっ」
可愛い、似合うといろいろな言葉がコウの中を駆け巡る。彼女に素直に言うか悩みながら棚上げし、競技に集中するふりをすることにした。
「やっ! 今日は……に……楽しみだな。ところで、イルミナ、水球のことわかるか?」
「……水遊びよね。依頼書にあったルールはおぼえているけれど……」
コウはルールを教えてくれるように乞う。
イルミナは慣れていない相手は苦手で、コウの後ろにいる真夕をちらりと見る。
(一緒に依頼を受けた人。それより……コウ、水着、似合うとか言ってくれないのかな?)
イルミナは内心むっとしつつ、コウの様子を眺めていたのだった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)はこの状況をしっかり、きっちり理解していた。だから、眉間にしわを寄せて考えて思わずつぶやく。
「ん~ん~ん~、親善と示威行為と精霊さまを喜ばせる、たぶんまとめてできるイベントなの」
水着「ブルーローズ」をまとって戦場に向かう。その上、アクセサリーとしてさりげなく「エクラアンク」と「パリィグローブ」をつけている。なぜつけているかと言えば、必要になると考えるからだ。
薔薇のようなフリルにパレオの水着にアクセサリーでごまかせている――ということにしておく。
「イノアさまと精霊さまのために、面白おかしく優勝なのっ」
気合を入れた。
●初戦
ウィリアム・クリシスは直接関係者が当たることを避けた。
一回戦目の組み合わせはハンターチーム対メトーポン家の精鋭チーム、精霊チーム対クリシス家の有志チーム。
イノアがチームにいるということはやや不安はあるが、ハンターたちは守ってくれるだろうと信用した。
ハンター側の配置はフォワードにエルバッハとコウ、ピアレーチェ。ハーフバックにイノア、フルバックに真夕とイルミナ、キーパーはディーナである。
「女子供ばかりじゃないか!」
騎士たちは戦意がそがれている様子。
「なら、手加減しなさいよね」
「覚醒するのー」
「えっ?」
真夕とディーナの声が重なって響いたため聞き取りづらかったようだが、何か不穏な雰囲気を川向うの騎士たちは感じた。騎士たちは自分たちの主を思わず見る。主たるユリアンは思わず、ウィリアムを見る。
「スポーツマンシップにのっとった判断ができる審判がついているから」
ウィリアムは請け負った。
ホイッスルが鳴り試合が始まる。
訓練を積み、チームワークで勝る騎士たちはあっという間にボールをゴールにまで運んだ。さあ、ゴールだと投げるがボールが見えない何かに押し戻された。
「むふーん、鉄壁なの」
ディーナ、スキル使う。
審判が注意したため、ディーナは唇をとんがらせた。
「……なんか思ってたよりハードな戦いのようね……」
騎士に横をすり抜けられたイルミナはぼそりとつぶやいた。
「負けるのもシャクだし……行くわよ、コウ!」
「お、おう! 奴らの動きを見たんだ。俺たちだってやれる。イルミナ、連携するぞ!」
「そうね。後ろでとって投げる猟撃士の本懐だわ」
コウは見た、物静かなイルミナに燃える闘志を。心強いとともに、負けられずいいところを見せたいとこぶしを固めた。
「そうですね……負けるのもシャクです」
エルバッハは呟き周りを見ると近くにいる騎士側の守りの青年と目があった。にっこりとほほ笑むと豊かな双丘を二の腕で押すようにして、口元に手を当て「よろしく」というように首をかしげる。
(まあ、そんなものですよね……領主が近くにいないと)
分析されているなど騎士の青年は知らない。
「みんなー、やるよー。歪虚より、怖くないんだ」
ピアレーチェは声をあげる。
その通りで、ハンターは攻勢をかける。
まずはボールを持った騎士にイルミナがフェイントとしつつ近づく。それは避けられたが、彼が方向を変えた先には真夕がいた。
「とうっ! なぜとれるかって……勘よ勘」
真夕は愛らしい不敵な笑みを浮かべ告げ、ボールを投げた。うまく飛ばないがイルミナがすかさずうまくタッチして軌道を変え、前に送る。
騎士が取ろうとしたところに、コウが猛ダッシュ――泳ぎで近づく。水しぶきが大変上がり、視界を遮る。
「今の内だ! とった、行くよ!」
そのすきにピアレーチェはボールをとるとエルバッハめがけて投げた。
「はいっ、取らせてください」
青年は一瞬キョトンとしたため、エルバッハがボールを悠々と受取り、ゴールに投げ込んだ。
はじかれてしまったが、小柄なメンバーであってもやれるという自信につながる。
この後、コツをつかみきびきび動くハンターたちに焦った騎士たちで試合展開される。
「重要かつ暇なほうがいいのはキーパーなの」
ディーナは油断する間もなかった、僅差という勝利であるため、ゴール際の戦いが何度か繰り広げられたのだった。
イノア、浮いているだけで良かった。
精霊チームとクリシス家の有志はのほほんと終わった。
精霊チームにルールを教えるので終わったに過ぎない。教え終わった後は、速攻逆転負けしていた。
●本番?
ユリアンとしてはウィリアムが何を考えているのか探りたかった。ハンターを使って何かしてくるのかとも思われた。娘で現領主であるイノアを試合に出しているが、特に何も見えない。
結論は「分からない」が、自チームが負けたことは憮然となった。
決勝は精霊チームとハンターチームが戦う。
ディーナは精霊が浮かぶところに大きな魚が六匹いるのを眺め、きらりと目が輝き、ごくりとつばを飲む。
「おっきくて食べごたえがありそうなお魚さんなの。もしや、終わったあと、お魚パーティーなの?」
精霊の視線が突き刺さる。
「くー」
精霊がディーナを指さして水に沈んだ。直後、魚たちがディーナに次々にぶつかる。
「ディーナ!?」
「精霊ちゃん!」
異変に真夕とピアレーチェが慌てて近づく。
「ひー、痛い痛い、精霊さまが怒ったの。もしや、お魚さんは精霊さまにとってお猫さまなのっ!? それならしょうがないのあきらめるの」
魚は止まる。
水から出て精霊はディーナを見て首をかしげる。
「うん、お魚さん……もふもふ?」
ディーナは説明する、川辺にいる猫を指さし。
「もー?」
「うん」
「うん」
精霊は何か理解したのか、二人はうなずき合っていた。
「何か会話が成り立っているようね」
「……すごい、ディーナ」
あっけにとられるしかなかった。
「そろそろ、試合開始ですよ」
エルバッハが声をかける。
「コウ、精霊チームと戦う……のだから、スキル使ってもいいかな……」
「精霊はともかく、魚はただの魚じゃねーか?」
コウは少し考える、危険ではないかと。
「……そうね……でも、強弾も遠射もさっきから使っているもの」
「え? スキルの名前じゃねーの?」
「……技術の名前」
コウはイルミナの説明に納得する。ただ投げるよりスキル名あるほうが楽しいと言えば楽しい。
そして、コウはまたイルミナの水着姿から視線をそらした。
「あ……イノア様……精霊殿は水の中に入ると見えませんからご注意を」
沿岸から騎士のジョージ・モースが声をかけてきた。
「え?」
「は?」
イノアのみならずハンターからも困惑の声が上がった。
ホイッスルが鳴り、ゲームが開始される。
精霊は泳ぎ始める、水の中に入って。
「……見えないですね」
エルバッハは苦笑した。陸地にいるときの精霊の姿が人の形でありつつも流水であることを考えればわかりづらいのは当たりまえかもしれない。
ボールは魚がポンとはじいて空を飛ぶ。
「任せろ!」
コウが取ろうとしたところに水しぶきが下から現れた。
「ぷはっ!」
顔面を襲った水に目をつむった瞬間、ボールは持っていかれていた。
「イルミナ、そっちにいったぞ」
「うん」
ボールはやってくる。目を凝らすと精霊がいるのが見えた。
魚が目の前を泳いでいる。
「……なんか調子が狂う……なんて言うと思っているのっ。ていっ!」
「ナイス、カット!」
イルミナがボールを取り、ピアレーチェから賞賛がかかる。
「行くよ、遠射!」
イルミナは思いっきり投げた。
コウとエルバッハがボールの下を目指し泳ぎ、ピアレーチェは様子を見る。
ゴールの前にいるのは川の主。
飛び上がりボールをポーンと打った。
「イルカのショーかな」
真夕は思わず笑う。
こぼれたボールの先に一匹の魚とコウがいる。
「もらっっいっ」
コウは思い切り伸びて取ろうとしたが、魚と激突した。ボールはこぼれて変なところに飛ぶ。
「コーウ!」
「あー」
イルミナと真夕がそれぞれの反応。
「あなたの犠牲は無駄にしません!」
エルバッハが魚が次の行動に移る前にボールをとった。
「イノアさん」
「えっ!?」
飛んできたボールにイノアはおろおろしたが、何とか魚が来る前に投げる。
「いいよ、次はこっち!」
ピアレーチェが受取りゴールめがけて投げるが、主が健闘する。
精霊チーム側で行動が続くき、ボールは再びハンター側のゴールを狙う。
「何度目かの、私の出番なの」
近づいてきた精霊が「ぬー」と何か言う。
「分かっているの……さすがにだけど……けがは治せるのっ!」
精霊はボールを至近距離でディーナ守るゴールに叩き込んだ。
「【ディヴァインウィル】なのっ!」
「こらー」
精霊、言葉をきちんと発した。
試合結果はドローとなった。時間切れであり、延長はなかった。
●命名
「こんなののどこが面白いんだ!」
ウィリアムは笑顔でいたため、ユリアンは怒る。
「精霊ともお互いに仲良くなれる、平和ではないかな?」
「どこが。何かあれば私らにその牙を向けるという暗示だと、触れ回るぞ」
ウィリアムは真顔になった。
「なぜ? どこをどうとったら?」
広めるのは簡単だ。ウィリアムには無垢な精霊と中立を旨とするハンターがついていた。
エルバッハは水着を直しつつ上がり、にっこりとほほ笑む。
「勝敗はつかなかったですね」
「うう、お魚さんたちが突いてくるの」
ディーナは続いて上がる。
「……あの、役に立てたかは……」
「イノアさんのおかげで試合は動きましたわ」
「そうなの」
二人は事実を告げる。
精霊もあがってきて、イノアの頭を撫でた。たぶん褒めているのだろう。
「ありがとうございます」
イノアはホッとした。
「精霊さん、楽しかった?」
「精霊ちゃん、楽しかった?」
ピアレーチェと真夕の質問が重なり、精霊はうなずく。
「良かった」
真夕は微笑むと、弟分のようなコウの方に向かった。
「ね、精霊ちゃんじゃそろそろ可哀想だよね……ね、リオちゃんとかどう?」
精霊はキョトンとする。
「リオちゃん」
再び呼ばれると精霊ははにかんだ様子を見せる。
「とりあえず『リオ(仮)』でもいいのかな?」
嫌われていないようだがピアレーチェはそう尋ねると、リオ(仮)はイノアやウィリアムを見てうなずく。
――ウィンディってどう?
リオ(仮)は一瞬遠くを見た、何か音を聞いたような、懐かしんだような雰囲気だった。それからピアレーチェの頭を撫でた。
「えへへ」
嬉しくなり「リオちゃん」と呼んだ。
「勝負つかなかったのは……残念」
「イルミナ頑張ったもんな」
「……コウもね」
イルミナとコウは黙る。
「で、コウ、この子とどこでどう知り合ったの?」
真夕がポンと尋ねる。
「コウにはもったいないくらい、しっかりした女の子じゃない?」
「あー」
真夕はお姉さん風を吹かせた。褒められたイルミナは戸惑い、真夕とコウを交互に見た。
「……秘密! イルミナ、似合ってる」
コウはイルミナの手を取って真夕から離れる際にぽつり告げた。
「えっ」
聞き返すイルミナの頬は真っ赤だった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/04 20:13:11 |