VIPは迷子の子供

マスター:霧原蒼

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/18 15:00
完成日
2014/06/26 02:14

みんなの思い出

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オープニング

●正真正銘、迷子です
 ガサガサと葉擦れの音を立て、生い茂った緑の中からひょっこりと顔を出したのはまだ若い……いや子供だった。ただし、滅多に見ない容姿の子供だ。丸くすべらかな頬と大きな緑青色の瞳、緩やかな曲線を描く細くしなやかな少しくすんだ黄金色の髪。そして髪では隠しきれない両耳は明らかに尖っていた。そう、この子供はエルフなのだ。
「やっべーな。今日も帰れないと父ちゃんにげんこつパンチだよなぁ。あー、薬草採りサボったって叱られるなぁ」
 子供のエルフは周囲を警戒しつつ小さな声でそうぼやき、からっぽの草で編んだ籠に視線を落とす。少々薄汚れてむき出しの腕や足には擦り傷もあるが、エルフの子供は首を横に数回強く振って気持ちを切り替えるかのように大きな声を出す。
「とにかく! 全部お家に帰りついてからだ。待ってろよ! おいらのお家!」
 子供は片手を強く空へと突きだした。

 エルフはリアルブルーには存在しない人間とは似て非なる種族だ。多くのエルフ達は自らの住処である森から出ることは滅多にない。ごく稀に人間達に立ち混じって暮らす好奇心旺盛な若い変わり種のエルフもいるが、それにしてもこの金髪のエルフは小さすぎた。誰がどこからどう見ても、それは帰り道を見失った迷子の子供だった。

 ハンターズソサエティ本部で全支部から集められた依頼情報を眺めていた1人のハンターの背に明るい声が響いた。
「どれを選ぶか迷っているの? あ、もしかして君は新人さん? そうじゃなくてもあんまりハンターの経験がないのかしら? わかる! わかるわ。私も最初はそうだったもの。自分の実力にはどの程度の仕事が最適なのかなんて、いきなりバッチリわかるわけないのよ、当たり前よ!」
 目に痛い様な鮮やかな緋色の服を着た年齢不詳の女は早口でまくし立てた。どうにも言葉を挟む隙がないが、なんとか口を開こうとしたが緋色の服の女は片手をかざして小さく首を振る。
「困ったときはお互い様、この先輩ハンターのおねーさんに任せなさいな。初仕事なんだから、あんまり武辺なのも、権謀術数なのも避けたいわよね。これでもない、これでもない!」
 先輩ハンターだという女は凄まじい速さで各地の情報に目を通してゆく。そしてふと動きが止まった。
「ねぇ君、子供は好きかしら。ちょっと変わった迷子を家に帰す仕事があるみたいなの。興味はない?」
 彼女の言う『ちょっと変わった』が迷子を指すのか、それとも家に帰すに掛かるのか、やっとの事で口を挟めたアナタは言う。
「この仕事、興味を持ってくれたみたいでお姉さん嬉しいわ。実はこの迷子ね、もう1日以上目的された場所をウロウロしているみたいでね。どうやら帰り道を見失ったはぐれたエルフみたいなの」
「……」
「……え? ピンとこない? はぐれエルフよ。場所はエルフへイムのごく近くなのよ。そんな子供エルフが人間と接触したら双方がどんな反応をするかわからないじゃない。下手に帝国軍が関与して大人達に誤解されたら一触即発じゃない。だから誰も手を出したがらないけど、来るかわからないエルフへイムからの迎えを待って子供が衰弱したら大変でしょう。あの近くはアンデッドの歪虚(ヴォイド)も徘徊しているし……だから私達ハンターの出番なのよ」
 一気にまくしたてた先輩ハンターはえっへンと胸を反らし、ニコッと笑った。
「大丈夫。子供が目的された場所からエルフへイムの入り口まではどんなにゆっくり移動しても1昼夜だし、歪虚(ヴォイド)がいそうな場所には地図に印がしてあるわ。ね、駆け出しのハンターだって猟師や軍人には出来ない事が出来るのよ」
 その気になったら行ってらっしゃい、きっと大丈夫だから……と、彼女は優しく笑った。

リプレイ本文

●優しい嘘を重ねて
「さぁて、そろそろ出掛けるか」
 頃合いだ、と低くつぶやきヤナギ・エリューナク(ka0265)は立ち上がる。辺りには雑然と野営の道具が散乱しテントもそのままだったがヤナギは気にしない。こうしてはっきりとわかる跡を残す事こそが目的なのだから、それでいい。

「ふふふっ『飛ばされてきた地図が木の実に引っかかっちゃったよ作戦』は失敗したけど、今度の『慌てて出発した野営作戦』は大成功間違いなしですよ」
 自信満々に胸を反らせクレール(ka0586)は食べ物や薪などの上にいかにも~な感じで置いた地図を満足げに眺める。さっきの木の実よりは断然自然に見えるのだから、手に取るだろうことは間違いない。
「ご自由にお取り下さいって気持ち、伝わるかなぁ?」
 少しずつ緊張が取れてきたのかリンカ・エルネージュ(ka1840)はごく自然な様子で一歩引き、こしらえたばかりの台を腕を組んで見つめた。ごく一般的に使われている文字に絵を添えたのはエルフの子供が読めるのかどうか判断がつかなかったからだ。さらには地図にもわかりやすいようにと絵を添え、最後の仕上げとばかりに台の端に薬草の入った籠を置いた。何日も家を空けたエルフの子供が摘む筈だった薬草の種類はわからないが、せめて何かしらの薬草を持っていたほうが親に叱られる度合いが和らぐのではないかと思ったのだ。
「薬草って、これ必要なんですか? リンカさん」
「絶対に必要だよ。むしろこれが大事って感じ……主に家に帰ってからだけど」
「そうですか! じゃもっと目立つところに置きましょうか?」
 クレールは堅く焼いた小さなパンを避けて薬草の入った籠を前面に入れ替えようとする。
「干し肉とジュースは前に置いてもいいよね。あの子はエルフで森の中にいるけど、ひとりぼっちだから心細くて疲れているとレナは思うんだよね」
 ゆっくりとした口調ながらレナ・クラウステル(ka1953)は干し肉とジュースの位置に関しては譲歩する様子はなく、2つの入った入れ物をそれぞれ両方の手で押さえて台の真ん中に留めている。
「まぁ大事だから地図を調達してきたんだけど、やっぱり最後は飲み食いだってのは私も賛成よ!」
 言いながらもソードレス・アサルト(ka2156)は自らが調達してきたパンと牛乳もレナの干し肉とジュースの横にドン! と乗せる。
「ソードレスさん。真っ正面は譲れないよ」
「奇遇ね、レナ。私もセンターを譲るつもりはなかったりするのよね」
「むむむ!」
「ぐぬぬ!」
 レナとソードレスはそれぞれの推したいアイテムを手に台の真正面で静かに押し合う。
「適当にしておけよ」
 ヤナギは2人の頭上から食べかけのパンを台に乗せた地図の上に置いた。

 アイテム満載の台の正面でレナとソードレスの地味なセンター争いに気付くこともなく、他の者達は着々と出立の準備を続けていた。
「こんな感じですかねー。一応、子供が触ったら危ない物は片づけたんですよねー」
 残す薪の中でも触ると木の繊維で手を傷つけそうなものや、匂いで他の動物を招いてしまいそうな生ものをエリアス・トートセシャ(ka0748)は取りのけようとする。
「ほら、子供はなんでも触っちゃったりするですから……あっ」
「こんな無骨な物はその繊手には似合いませんよ、エリー嬢」
 エリアスの手の中から流れるようにごく自然にささくれだった木の繊維が目立つ薪はガブリエル=VIII(ka1198)の手へと移動していた。ついさっきまで街道に人が通った痕をあからさままでに刻む作業をしていたガブリエルだが、リンかやクレール、エリアスの力仕事っぽい作業を見過ごす事が出来なかった。
「あら、ありがとうございます、エルさん。エルフのちびっこもきっと喜ぶと思いますよー」
「……彼は別に。冒険に相応の対価を払っているに過ぎないのではないかな?」
 親切なガブリエルの表情がすこ~し真顔に戻りつつあるのを興味深げに微笑むエリアスはそれについては何も言わず、薪を見えない場所に取り去って欲しいと言う。
「承知したよ。ついでに歩きづらい下生えも踏みしめておくとするよ」
「こういうのが危ないんだよねーわかるわかる。私もお手伝いするよ、エルさん」
 ガブリエルについてリンカも街道へと向かう。
「本当にそろそろ出ないと追いつかれるぞ」
「その前にその食べかけのパンの説明をしてもらおうかしら?」
 ヤナギの背後ではソードレスが過剰な程の笑顔を浮かべ、レナはその隙にささっと干し肉とジュースをセンターへと据え置いた。

●迷子の護衛
「やっぱり街道を行くのが間違いないな!」
 遠くから細く小さく声が聞こえる。ユキヤ・S・ディールス(ka0382)は相手に気取られる事を回避するため、護衛対象の声がギリギリ聞こえる距離を保って移動していた。ユキヤが感じる範囲内では、子供の声には若干の緊張と虚勢と不安が入り交じる。それでもまだ平静を装って旅を続けるだけの強さがあるのだが、子供にしては剛胆だと思っていた。だからこそ……この小さなな勇者を無事に送り届けるためにユキヤは細心の注意を払って行動していた。ユキヤの漆黒の髪は明るい日差しが零れる木々の間ではよく目立つし、身を潜めたり気配を消す事が得意ではない事はわかっている。バレル・ブラウリィ(ka1228)や藤堂 楓(ka2108)のような身体能力はないからこそ、小さな葉擦れの音や小枝を踏む音も出さないように注意するしかない。
「よーし! ってあれ?」
 子供の声が疑問を含んで高く響く。草を踏んで小走りに移動する音聞いてユキヤも歩を少しばかり速める。
「ここ、誰か居たのか? ったく、やっぱり森の外の奴らはわかって……」
 不自然に声が途切れた。もう少しだけユキヤが前進する。幾重の葉越しに見える隙間の遠い先に立ちつくした子供の姿があった。特徴的な耳と事前に聞いていた通りの服装……森の外に迷い出て帰れなくなったエルフの子供は半端に片づけたような野営の跡地にいた。
「なんだよ。食い物や地図まで置いてって。ここにいた奴らは物の価値ってのがわからねーのか?」
 子供が左や右と首を振って辺りを見渡す。勿論誰の姿もないしユキヤの姿を見つける事もない。
「しょうがない。おいらがちゃんと使ってやるからな!」
 子供は嬉しそうに言い、思わず木々の幹の裏でユキヤは音もなく柔らかな笑みを漏らした。と、同時に同じく護衛班であるバレルと楓は今どこにいるのだろうと考えたが、身を潜める事がユキヤよりも得意な彼等の気配を感じる事は出来ず、小さく首を振ってエルフの子供へと意識を戻した。

●人知れぬ戦い
 そのユキヤが気がかりに思ったバレルと楓はそれぞれに別の場所で別の戦いに身を投じていた。
 バレルの輝く美しくもどこか危険をはらんだ金色の瞳が捉えたのは明らかに敵の姿だった。もはや衣服とは言えない千切れかけた布を三角形の小旗の様に翻しながら骨格標本の様な骸骨が森の中を進んでいるのだ。その歩調は決して早くはないけれど、進行方向にはバレルが補足しているエルフの子供がいる。放置すれば子供を襲うかもしれない。とはいえ、随分と前にユキヤや楓から離れたバレルは単身で味方の援護は期待できない。
「……やるしかないか」
 考えるまでもない。鞘から抜かれた剣は陽光を受けて鮮やかに煌めく。気負った雄叫びも緊張もなく、長い外衣の裾をなびかせバレルは一気に敵へを走った。光そのものの様な剣の切っ先が厭わしい腐食をまとうアンデッドの身体を薙ぐ。
「……!」
 声もなく身をよじったアンデッドの左肩が崩れ、けれどそれで倒れるほど弱くはない。武器を持たない敵は薄汚い骨の両手をかぎ爪の様に曲げたままバレルへと前傾で襲いかかる。身をひねってそれを回避するがわずかに爪に先が衣服を裂いて皮膚に達する。冷たいのか熱いのか解らない様な灼熱感が切り裂かれた腕から伝わってくる。アンデッドの近くでは空気さえも汚されているような感覚に襲われる。バレルは回復の技を使うことなく渾身の力を込めて敵へと剣を振り下ろした。先ほどと同じ場所を痛打されアンデッドの左肩が今度こそボロボロに崩壊し左腕が地面に落ちる。
「これで攻撃力が半減したな」
 バレルは片腕だけで猛然と突進してくる敵に淡く笑みを浮かべつつ身構えた。

 楓が見つけたのは盗賊めいた無頼な3人連れだった。3人が3人とも随分と年輩で木々の枝の様にやせこけている。食い詰めて身を落としたのか身のこなしもパッとしなかったが、ギラギラするような殺気だけは無駄にそして盛大に放出している。彼等の視界の先にはあの子供エルフがいる。先ほどの野営地で食料を抱えた子供など3人の老人盗賊達には格好の餌食となるに違いない。老人達でも襲って勝ち目のありそうな獲物などなかなか求めて得られる物ではない。
「やっちまうべ」
「ガキひとりなら簡単だべ」
「でもよ、ありゃあエルフじゃねーか?」
「どんなガキでもかまわねぇよ」
 3人のうち既に2人が木の棒を片手に構えエルフの子供に向かって行こうとしている。もはや猶予はない。走り出していた楓の身体が更に加速する。森を渡る疾風と化した楓の得物が老盗賊が振り上げていた棒を払いのけた。鈍い音とともに空に舞った棒が遥か後方に落下しごろんと転がる。
「え?」
 自分が手にしていた武器が無くなっている事に気がついた老盗賊が間の抜けた短い声を発する。その時にはもう楓の姿は彼等と子供エルフとを遮る様に立ちはだかっていた。
「誰だ、お前」
「一体どこから沸いて出おった」
「それより、俺の棒っきれを飛ばしたのはお前か!」
 驚く2人の仲間達の横で棒を飛ばされた老人だけが顔を真っ赤にして怒っている。
「自分はあまり言葉を弄するのは苦手です。何も聞かずにこの場を去ってください」
 一切に説明なしに楓は言った。
「……自分もあなた方の後は追いません」
 楓は少し間をおいてそう付け加え、もうこれ以上は必要ないとばかりに口を閉じる。その様子に老族達は互いに顔を見合わせた。怯えたような探る目つきでぶしつけに楓を見ると、不意にきびすを返して逃げ出していった。すぐに木々や葉の向こうに見えなくなってしまう。ガサガサと音だけは聞こえるもののそれも徐々に小さくなる。本当に逃げ去ってしまったのだろう。
「……よかった」
 安堵の溜息をついた楓だった。

●排除すべき敵
 街道を行くと池があることを示す道標があり、すぐに池の端が視界に入ってきた。そこには3体の動く死人が彷徨っている。それぞれが連動している様子はなく、互いに距離を保ちながらゆらゆらと、まるで水辺ではなく水底であるかのように緩慢に移動している。それでも彼等は生き物を襲い、世界を蝕む忌むべきモノだ。
「行くぜっ!」
 剣と銃、2つの武器を手にしたヤナギの声が開戦の合図であったかのように、先行班の7人は敵がまだこちらの存在に気付かないうちに先制攻撃を開始した。
「しつこいんだから……また死んで来なさい」
 格闘武器を装備したままソードレスは自然な流れで腰をためリボルバー拳銃を構える。異なる2つの武器を駆使して戦うスタイルはもう随分前からのものだ。もはや脳で考えて指令をださなくても身体は速やかに最適な動きを選んで行う。それが今の攻撃動作だ。耳に聞き慣れた高い破裂音の様な銃声が響き、弾丸がアンデッドの穢れた肉を穿つ。
「邪魔になるものはゴミもヴォイドも全部片づけるよ!」
 同じく接敵することなくアルケミストタクトを敵へと構えたクレールが狙いを定める。ソードレスが攻撃をしたばかりの同じ敵へとひとすじの光が貫き渡る。バランスを逸した敵が旋回しながら崩れてゆく。
「ここだ!」
 ハンターたるもの完全に倒すまで攻撃の手は緩めない、とばかりに敵の背後に回っていたガブリエルが身を低くしたまま日本刀を模した木製の得物でアンデッドの足を薙ぎ払った。
「こんなところを、うろうろされると困るの……眠って」
「やらせないんだから!」
 レナ、そしてリンカが放った光輝く魔法の矢はガブリエルへと不浄な爪を伸ばそうとしていたアンデッドの右腕と左腕へと突き刺さった。衝撃が走り両腕の腐肉がはぜ胴体から吹き飛ばされ、残る身体もゆっくり前のめりに倒れてゆく。
「離れていないと落ち着いて見られないのですよーでもこの場所でも臨場感ばっちりで落ち着いていられるかどうか自信ないのですよー」
 ナイフを手に構えながらもエリアスの青い瞳は視線を屠った敵から離せない。ヴォイド……この世界の未知なる敵の全てがエリアスの知的好奇心を刺激しまくってたまらないのだ。
「新手だぜ」
 いつの間にか接近していたもう1体のアンデッド、その背後で身を潜めていたヤナギは声とともに飛び出した。激しいステップを踏む熱狂のダンスを踊るかの様に軽くジャンプをすると、やや短い剣を巧みに操り敵の背後から首もとに刃を滑らせる。ずるりと首の半ばまでが切断されほつれた糸だらけのバンダナをした頭部ががくりと胸元にまで傾斜する。それでも生なきモノは動きを止めない。
「ヴォイドの多様性には興味津々ですが……」
 自分の感情よりも理性を優先するエリアスには当然ながら今自分が何を為すべきなのかがわかっている。それは一刻も早くこのヴォイド達を倒す事だ。この街道をこれから辿ってくるだろう子供のエルフには戦いの痕跡さえも見せたくはない。マテリアルから変化した光の筋がヤナギの攻撃で深手を負ったらしいアンデッドの胸を貫く。更にソードレスの銃、クレールが放つ光線が左右から頭を穿ち大穴を開けてゆく。
「最後の一押しは私がしてやろう。疾く死人に戻るが良い」
 ガブリエルは木刀を軽々と鈍器のようにして扱い、腐敗したままの身体で歩き回るアンデッドは今度こそ動きを止めた。
「あとは池の向こう側にいるのだけだよね」
 レナは周囲をぐるりと見渡し、まだ戦闘に気がついていないらしいアンデッドにから目が離せなくなる。
「そうみたい。でもあのままにしておけないから……いくよ」
「うん」
 レナとリンカが並んで走り、エリアスが2人の背を見ながら同じく走り出す。3人の視界の端には池の逆側を同じ敵へと疾走するヤナギの姿が見える。すると、今まで動きのなかったアンデッドがヤナギをめがけて動き出した。
「俺とやりあいてぇってんなら上等だ! かかってきな!」
 その声を正しく理解したというのか、アンデッドは両手を突き出しヤナギを掴みかかろうとする。
「気合いがたらねぇぜ」
 向かってくる不浄な爪をかいくぐり回り込んだヤナギの刃が逆に無防備となったアンデッドの首の後を躊躇無く突き立て、すぐに引き抜き姿勢を崩して飛び退いてゆく。身を翻して振り向いたアンデッドの眼前にはヤナギの姿は遠く、その右脇からレナの魔法の矢が迫る。
「もう眠って!」
「絶対に当てる!」
 リンカの祈りよりも強い言葉とともに放たれた魔法の矢もヤナギの左脇をかすめて進む。空気を振るわせるようにして進む2つの矢はアンデッドの身体を貫き、次の攻撃をと身構えていたエリアスは息を吐いて姿勢を戻した。
「終わったみたいですねー」
 倒れたアンデッドはもう起きあがってはこなかった。

 戦闘の終わったハンター達は一旦身を潜め、エルフの子供が池の端を通る街道を過ぎてゆくと戦闘の後かたづけ……主に敵の骸を埋葬し始めた。とはいえその姿はほぼ腐汁と化していて半ばは地中に消え、古ぼけた細かい骨片が散らばっているだけであったが、野ざらしにするのは忍びなかったのである。
「もうちょっとしっかりとしたものでないと持ち帰る事ができないですね」
 溜息まじりに心底残念そうにしてエリアスが言う。

「そうか。無事に帰ったか」
 魔導短伝話からユキヤの報告を聞いたヤナギの声に喜色が混じる。
「よかったよかった。お家に帰れないってほんとに心細いもんね」
 我が事の様にクレールは喜ぶが、その傍らでレナがへなへなと倒れ込んだ。
「大丈夫?」
 気付いたソードレスがレナへと手を伸ばした。
「うん。ちょっとくたびれちゃったの。いつか、こんな形じゃなくて普通に助けたり話したり笑ったり出来ると良い……な」
 ソードレスの手を借りたレナが立ち上がる。
「では私はテントを回収して戻るとしようかな。あれも森に置きっぱなしではゴミも同然だがまだまだ使える代物だしね」
 ガブリエルは疲れた様子も見せずに言う。
「それなら私も一緒に行くわ。街道に色々道標を立てちゃったしね」
 リンカもガブリエルに並んで歩き出す。

「どうやらこれで無事に任務完了ですね」
 魔導短伝話で仲間達へと報告を済ませたユキヤはホッとした様子で空を見る。今日はどうやら良い一日だったようだ。
「さてと、僕も家に帰りましょうか」
 ユキヤはクルリと振り返り来た道を引き返し始めた。

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MVP一覧

  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールスka0382
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフka0586
  • 可愛いうさぎさん
    レナ・クラウステルka1953

  • ソードレス・アサルトka2156

重体一覧

参加者一覧

  • ブラッド・ロック・ブルー
    ヤナギ・エリューナク(ka0265
    人間(蒼)|24才|男性|疾影士
  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 未来に期待の料理人
    エリアス・トートセシャ(ka0748
    人間(蒼)|25才|女性|機導師

  • ガブリエル=VIII(ka1198
    人間(紅)|28才|女性|聖導士
  • 堕落者の暗躍を阻止した者
    バレル・ブラウリィ(ka1228
    人間(蒼)|21才|男性|闘狩人
  • 青炎と銀氷の魔術師
    リンカ・エルネージュ(ka1840
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 可愛いうさぎさん
    レナ・クラウステル(ka1953
    人間(蒼)|12才|女性|魔術師

  • 藤堂 楓(ka2108
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士

  • ソードレス・アサルト(ka2156
    人間(蒼)|17才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼相談卓
バレル・ブラウリィ(ka1228
人間(リアルブルー)|21才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/06/18 14:50:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/17 17:16:36