ゲスト
(ka0000)
養蜂場の悪夢
マスター:小林 左右也

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/06 19:00
- 完成日
- 2017/07/15 20:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ハンターオフィスの休憩スペースにて
休憩用のテーブルには、常日頃から様々な菓子が置かれている。
それは依頼主やハンターたちのお土産だった。地方色溢れる品揃えは、訪れるハンターたちのささやかな楽しみでもあった。
「うわー」
「美味しそう~」
反応がいいのは、やはり女性ハンターたちだ。
種類豊富で、まるで宝石のように輝くベリーがいっぱいに詰まった籠。それらのベリーを使った焼き菓子や砂糖漬け。乾燥させたベリーと木の実を混ぜ込んだパンや、黄金色の蜂蜜やジャムの小瓶と、小さなテーブルはいっぱいになっていた。
「皆さんが揃ったところで、紅茶でも淹れましょうか」
無邪気な反応を見せるハンターたちを微笑ましく見つめるお姉さん。もといハンターオフィス常勤職員のコウ・リィは、にっこりとほほ笑んだ。
この紅茶もいただいたんですよ、とハンターたちに淹れたての紅茶を振る舞う。濃い目に淹れられた紅茶には、ミルクは勿論、ジャムや蜂蜜を入れても美味しいという。
「うう~! 美味しい!!」
「すみません、お代わりお願いします!」
「この砂糖漬け、酒のつまみにも合いそう……」
芳醇な香りに包まれたハンターオフィスに、まったりとした空気が流れる。
あれ、なんでここに居るんだっけ? と誰もが本来の目的を忘れそうになるが。
ひとりのハンターが、はっと何かに気づいたかのように、震える声で呟いた。
「……まさか、ここで紅茶やお菓子をいただいた者は、問答無用でこの依頼主の依頼を引き受けないといけないかって……」
狼狽するハンターの様子に、コウ・リィはニヤリと……笑うわけがなく、困ったように眉を下げる。
「ご期待に沿えなくて申し訳ないですが、そんなことはないのでご安心ください」
●さて依頼は
「今回の依頼について説明いたします。まず依頼主の方は妖精の丘でホテルとワイナリーを経営されている……」
はいはい! と若い女性ハンターが手を上げる。
「あたし知ってます! 若くてイケメンのオーナーさんですよね。そのホテル去年友達と行ってきました。良いところですよね~ホテルもお洒落だし」
「ワインも食事も美味しいしね」
「そうそう! あと温泉!」
「あたしなんか、一泊しかしていないのに、二キロも太っちゃいました」
どっと笑いが起こる。女性陣には温泉にグルメと人気のスポットなのだ。
「僕も行ったことがありますよ。あの辺は自然が豊かだから珍しい昆虫もいっぱいいるんですよね」
「ゲ、虫ぃ?! やだ虫嫌~い!」
「男子って、どうして虫取りなんか好きなのかなぁ……」
「虫取り……昆虫採集と言ってくださいよ」
「まあ、確かにワインは美味いな。メシも美味いし」
どうやら虫好き、酒好きの男性陣にも好まれている場所のようだ。
「それで、オーナーさんはどんなご用だったんですか?」
その質問を待っていたと言わんばかりに、コウ・リィは嬉しそうにニッコリとなる。
「ハンターの皆さんに、手助けをして欲しいと依頼に来られました」
妖精の丘は一応オーナーのレインマン氏の所有する土地ではあるが、手付かずの自然のままである場所の方が多い。お陰で野草や昆虫は自然のまま保たれている。
「だからまだ確認されていない雑魔も数知れず……といったところです」
これまで観光ルートとして解放している所は、雑魔も駆逐済みであるし、どうしても近寄れない場所は立ち入りを禁じている。
今回の依頼は、蜜源となる植物が自生する草原近くの養蜂場が舞台となる。
数年前から規模は小さいながら養蜂を始めたが、ここ最近養蜂しているミツバチが急に襲いかかってくるようになったらしい。
「恐らく一部のミツバチが雑魔化したのではないかと、相談に来られたのです」
養蜂場には、まだ雑魔化していないミツバチもいる。その巣箱を無事回収して欲しいという。
「出発は夜明け前。依頼のお仕事が終わった後は、特製蜂蜜のお土産を用意しているとのことですが、それだけではありません」
コウ・リィはおもむろに、上着の内ポケットから白い封筒を取り出す。
「オーナーさんから皆さんにお礼ということで、レストランのお食事券をいただいております」
おお! とハンターたちの間に歓声が上がる。
食通の間でもこのホテルのレストランの評価は高い。特にランチブッフェは味はもちろん種類も豊富で人気がある。他にもスイーツブッフェもあり、こちらは女性に大変好評だ。
「私もハンターだったら、この依頼に参加したいくらいです……」
と、彼女は悩ましげな溜息をついた。
休憩用のテーブルには、常日頃から様々な菓子が置かれている。
それは依頼主やハンターたちのお土産だった。地方色溢れる品揃えは、訪れるハンターたちのささやかな楽しみでもあった。
「うわー」
「美味しそう~」
反応がいいのは、やはり女性ハンターたちだ。
種類豊富で、まるで宝石のように輝くベリーがいっぱいに詰まった籠。それらのベリーを使った焼き菓子や砂糖漬け。乾燥させたベリーと木の実を混ぜ込んだパンや、黄金色の蜂蜜やジャムの小瓶と、小さなテーブルはいっぱいになっていた。
「皆さんが揃ったところで、紅茶でも淹れましょうか」
無邪気な反応を見せるハンターたちを微笑ましく見つめるお姉さん。もといハンターオフィス常勤職員のコウ・リィは、にっこりとほほ笑んだ。
この紅茶もいただいたんですよ、とハンターたちに淹れたての紅茶を振る舞う。濃い目に淹れられた紅茶には、ミルクは勿論、ジャムや蜂蜜を入れても美味しいという。
「うう~! 美味しい!!」
「すみません、お代わりお願いします!」
「この砂糖漬け、酒のつまみにも合いそう……」
芳醇な香りに包まれたハンターオフィスに、まったりとした空気が流れる。
あれ、なんでここに居るんだっけ? と誰もが本来の目的を忘れそうになるが。
ひとりのハンターが、はっと何かに気づいたかのように、震える声で呟いた。
「……まさか、ここで紅茶やお菓子をいただいた者は、問答無用でこの依頼主の依頼を引き受けないといけないかって……」
狼狽するハンターの様子に、コウ・リィはニヤリと……笑うわけがなく、困ったように眉を下げる。
「ご期待に沿えなくて申し訳ないですが、そんなことはないのでご安心ください」
●さて依頼は
「今回の依頼について説明いたします。まず依頼主の方は妖精の丘でホテルとワイナリーを経営されている……」
はいはい! と若い女性ハンターが手を上げる。
「あたし知ってます! 若くてイケメンのオーナーさんですよね。そのホテル去年友達と行ってきました。良いところですよね~ホテルもお洒落だし」
「ワインも食事も美味しいしね」
「そうそう! あと温泉!」
「あたしなんか、一泊しかしていないのに、二キロも太っちゃいました」
どっと笑いが起こる。女性陣には温泉にグルメと人気のスポットなのだ。
「僕も行ったことがありますよ。あの辺は自然が豊かだから珍しい昆虫もいっぱいいるんですよね」
「ゲ、虫ぃ?! やだ虫嫌~い!」
「男子って、どうして虫取りなんか好きなのかなぁ……」
「虫取り……昆虫採集と言ってくださいよ」
「まあ、確かにワインは美味いな。メシも美味いし」
どうやら虫好き、酒好きの男性陣にも好まれている場所のようだ。
「それで、オーナーさんはどんなご用だったんですか?」
その質問を待っていたと言わんばかりに、コウ・リィは嬉しそうにニッコリとなる。
「ハンターの皆さんに、手助けをして欲しいと依頼に来られました」
妖精の丘は一応オーナーのレインマン氏の所有する土地ではあるが、手付かずの自然のままである場所の方が多い。お陰で野草や昆虫は自然のまま保たれている。
「だからまだ確認されていない雑魔も数知れず……といったところです」
これまで観光ルートとして解放している所は、雑魔も駆逐済みであるし、どうしても近寄れない場所は立ち入りを禁じている。
今回の依頼は、蜜源となる植物が自生する草原近くの養蜂場が舞台となる。
数年前から規模は小さいながら養蜂を始めたが、ここ最近養蜂しているミツバチが急に襲いかかってくるようになったらしい。
「恐らく一部のミツバチが雑魔化したのではないかと、相談に来られたのです」
養蜂場には、まだ雑魔化していないミツバチもいる。その巣箱を無事回収して欲しいという。
「出発は夜明け前。依頼のお仕事が終わった後は、特製蜂蜜のお土産を用意しているとのことですが、それだけではありません」
コウ・リィはおもむろに、上着の内ポケットから白い封筒を取り出す。
「オーナーさんから皆さんにお礼ということで、レストランのお食事券をいただいております」
おお! とハンターたちの間に歓声が上がる。
食通の間でもこのホテルのレストランの評価は高い。特にランチブッフェは味はもちろん種類も豊富で人気がある。他にもスイーツブッフェもあり、こちらは女性に大変好評だ。
「私もハンターだったら、この依頼に参加したいくらいです……」
と、彼女は悩ましげな溜息をついた。
リプレイ本文
●出発
ようやく空の端がうっすらと白んできたが、まだ空にはちらちらと星が瞬いていた。青白い月の灯りの下、浪風悠吏(ka1035)はリヤカーを引いていた。兄の引くリヤカーの後ろを押しながら浪風 鈴太(ka1033)は、まだ暗い空を見上げる。
「たくさん回収して蜂蜜とれたらいいなぁ♪」
相槌を打ちながら、悠吏はこっそりと苦笑する。恐らく弟の頭の中は、甘い蜂蜜のことでいっぱいなのだろう。
すでにリヤカー1台は現地へ運んでいた。他のメンバーは今か今かと浪風兄弟が到着するのを待っていた。
「お待たせ!」
鈴太が手を振ると、それに応えるように、サクヤ・フレイヤ(ka5356)と小宮・千秋(ka6272)が無邪気に手を振り返す。
「悠吏さん、鈴太くん、ありがとう。でもまだ全員集まっていなくて」
「ああ、それなんだけど……」
カストル(ka6924)とポルックス(ka6925)は急用で依頼に参加できなくなったという。オーナーに挨拶に伺った時、ちょうど職員のコウ・リィから連絡があったのだ。
「そっか、じゃあ今日はここにいる6人で頑張らないとね」
サクヤが残念そうに肩を落とすと、千秋も小さくため息を落とす。
「残念ですねー。だって、とーっても美味しそうじゃないですかー」
ホテルのブッフェのことである。千秋の心はすでにランチブッフェへと飛んでいるようだ。それには同意と、ユーレン(ka6859)も大きく頷いた。
「ああ、やつらの分もしっかり食ってやらないとな」
二ノ宮 アザミ(ka6443)も、にっこりと微笑んだ。
「私も頑張りますわ」
ハンターたちの心は、ある意味ひとつになったようだ。
●いざ養蜂場へ
ようやく夜の帳がなりを潜め、空は徐々に明るくなってきた。
妖精の丘養蜂場、と書かれた木製の看板が立っている。その先には蜜源となる薄紫の小花が咲き、規則的に生えたまだ若い木々が並ぶ。微かに甘い花の匂いがする。
「実家が農家だと色々思う所がありますね」
悠吏が実感を込めて呟く。せっかく丹誠込めて育ててきた農作物や家畜も、雑魔にやられてはひとたまりもない。実家が獣害にあった苦い記憶は、今でも心に刻み込まれている。
「……養蜂場が使えなくなるとレストランの方にも支障が出るからね。早めに雑魔を退治して安全を確保しないといけないね。あたしも頑張るよ」
サクヤは無意識のうちに、手のひらを固く握りしめる。
巣箱は横並びに5個、それが4列といったように並んでいるようだ。
朝露に濡れた花畑に足を踏み入れた途端、ヴ、ヴヴヴ……と不穏な羽音が聴こえてくる。
「思っていたより、奴らは敏感のようだな」
ユーレンはまだ薄暗い養蜂場に鋭い眼差しを向ける。近づいただけでこれだけの反応を見せるとなると、囮作戦はかなり有効に思える。
「役割分担ですが、鈴太は超嗅覚で巣箱の判断を任せようと思います。俺は鈴太のサポートをしながら回収役に回ろうと考えていますが、どうでしょう?」
悠吏の案を反対する者はいなかった。鈴太自身も兄と一緒に行動できるのは心強い。
「巣箱回収は任せといてよ!」
「私は囮役となって雑魔さんたちを誘い出して、巣箱から出来るだけ離れまーす」
千秋が囮役を名乗り出ると、ユーレンもそれに続く。
「毒も弱いようであれば、回復手段にスキルを割かねど何とかなるやもしれん。我も囮に回るとしよう」
「あたしも囮役に回るよ。アザミさんも一緒に囮役をお願いできるかな?」
「サクヤさんがそういうのなら、囮役でよろしくてよ?」
サクヤとアザミも囮役。役割分担は決まった。
「ほでは、ブッフェのために全力で行っちゃいますよー」
千秋のやる気に満ちあふれる言葉に、一同に笑みがこぼれた。
●作戦開始
「さあ、おぬしらの敵はここにおるぞ」」
ユーレンが高らかに宣言すると、ミートハンマーを勢いよく振り回しながら、ゆっくりと巣箱に向かう。動くものに強い警戒心を抱く、という情報どおりだ。蜂型雑魔は黒い塊となってユーレンに向かって突進してくる。彼女はそれを確信すると、巣箱から離れるべく走り出す。
うるさいほどの羽ばたきは不快感で耳を塞ぎたくなるほどだ。巣箱2個から出現した雑魔たちがユーレンに向かう。が、突如二手に分かれて方向を変える。
アザミは思わず息を飲んだ。まだ離れているからと、軽く準備体操をしていたのが不味かったのか。真っ直ぐ向かってくる雑魔を目にして覚悟を決める。
「ほら、こっちですわよ」
大きな声を上げ、さらに手を振ると、アザミは草花を蹴散らす勢いで走り出した。
「……なめられたものだな」
自分に向かう雑魔は1体。2体でも一撃でしとめられる自信があった。少々物足りないと感じつつ、油断は大敵だともわかっている。
ユーレンは雑魔の群を横目に、適度な速度を持って走る。木立を縫うように走り抜けながら、巣箱から十分離れたと確信したところで攻撃態勢に入る。
「ここまで来れば、もうよかろう」
メイスファイティングによって、マテリアルが全身に漲る。迫りくる雑魔にミートハンマーを振るうが、予想外に相手の動きが早かった。突如霧散してユーレンの攻撃を避ける。
「雑魔の分際で猪口才な!」
引き返してきた雑魔に、今度こそはと再び片手鎚を振るう。今度は確かな手ごたえを感じる。二度、三度。徐々に小さくなる塊が消え、ようやく手を止めた。
「さーてブッフェのために頑張りますか」
さらなる雑魔を誘い出そうと千秋も動き出す。足下の草花をわさわさ押し分けて進むだけで、面白いように雑魔は反応を見せてくる。最初のユーレンの挑発が効いたのだろう。
「今まで様々な雑魔さんを見てきましたが、虫の雑魔さんは初めてですねー」
巣箱から続々と姿を現す雑魔たち。辺りは朝陽に包まれ、雑魔たちもさらに活発になってきたようだ。1匹1匹が徐々に集まり、黒い塊になっていく様子は気持ち悪いの一言に尽きる。
「すげー!」
姿を現した雑魔の姿に、鈴太は驚きと感嘆の声を上げる。巣箱から姿を露わにした蜂型雑魔は、通常のミツバチよりも大きい。それゆえに普段はわからない細かな造形がしっかりとわかる。
「こらバカ太! お前はまだこっちに下がっていろ」
興味津々の弟を、悠吏は首根っこを掴んで下がらせる。
「ちょっと、怖いというか、えげつないというか」
サクヤは眉間に皺を寄せながらも、千秋の挑発に乗った雑魔に狙いを定める。だが木々を縫うように飛び交う雑魔は狙いが付けにくい。防御に徹して雑魔を引きつけてくれている千秋の体力が尽きる前に始末しなければ。
「……虫相手だから、火属性の攻撃がより効くと助かるけどどうだろう?」
取り敢えずやってみよう。サクヤは火竜票と呼ばれる札を投げつけるや否や、雑魔は青白い炎に包まれる。羽が焼け落ち雑魔は地面に転がるがまだ生きている。とどめを刺すべく次々と札を投げつけ、雑魔は小花と共に青い炎に包まれていった。
囮役が身を挺して雑魔を誘い出してくれたお陰で、無事巣箱の回収を開始できそうだ。鈴太は慎重に距離を詰めながら意識を嗅覚に集中する。
巣箱から発する甘い蜂蜜の匂いや、花の香り、恐らくミツバチがまとう花粉であろう。そこには異質な匂いは混じっていない。鈴太は安堵したように背後の兄を振り返る。
「うん、ここの5個は大丈夫だよ」
ミツバチの箱を選別する弟の姿を眺めながら、悠吏はしみじみと呟いた。
「バカと何とかは使い様ってね。ハンターらしくなってきたじゃないか」
「ゆり兄、ひでー」
笑う兄に、鈴太は唇を尖らせる。軽口を叩きつつも手早くミツバチの巣箱を回収する。5個の巣箱を乗せたリヤカーに網を被せながら、鈴太は目を輝かす。
「もしかして余裕じゃん!?」
「こら油断するな」
そう言っている間に、まだ手付かずの巣箱の方からがちゃがちゃと堅いものがぶつかり合う音が聞こえてくる。互いが争うように、巣箱から蜂の姿をした雑魔が1匹、2匹と這い出てくる。
「よし行ってこい」
「うん、ゆり兄も気を付けて!」
しばらく弟の背を見守っていたが、雑魔の気配に振り返る。
「ミツバチは益虫だが、もうお前らは害虫だ」
間近に迫る雑魔にN=Fシグニスを構える。守りを捨て、攻撃のみに集中する。地面を踏みしめ、迫りくる雑魔に上段から一気に斬りかかる。手ごたえはあり塊は半分以下となった。すかさず二撃目。雑魔は消えたが、捨て身の攻撃は相当なダメージだ。地味に雑魔の体当たりが効いていた。
「悠吏さん、助太刀……もう間に合っていましたねー」
駆けつけた千秋は、にっこりと笑って巣箱を指さす。
「念のため破壊しておきますよー」
宣言と共に、拳でいとも簡単に巣箱を破壊してしまう。
「さすがにここまでやっちゃうと、無事回収し終えたら雑魔さんとは戦わずにお仕事終わりーとはなりませんよねー」
ミツバチの巣箱を無事回収するだけでも問題はないが、雑魔を目の前にすればやはり全滅させないと気が済まない。
「確かに。その通りだな」
これもハンターの性なのかもしれない。悠吏も雑魔の巣箱を蹴散らすように破壊する。当然これだけ派手なことすれば、残りの雑魔が気づかないわけがない。
これまで殲滅したのは4体。いや5体だったか。ふと、アザミが引きつけた雑魔がどうなったのか思い出せない。誰かに確認しようにも、すでに目の前に雑魔の群が矢のように飛んできた。
鈴太は走っていた。ただひたすらに走っていた。
まさか途中で雑魔が出現するとは思ってもみなかった。それもこの雑魔を引き寄せていたのはアザミだとも思わなかった。
「まさか、ずっと追いかけっこしてたの?!」
「ごめんねー!」
ずいぶん長いこと走っていたようだ。アザミは息も絶え絶えになっていた。
「もうやっつけないとダメでしょ」
「でも、わたくし、もうへとへとですわ……」
「え~!」
なんとしても無事に任務を成功させて、美味しい蜂蜜とランチブッフェ!
「蜂蜜が取れなくなるでしょ。悪い虫は、メッ!」
蜂に追いかけられながらも、鈴太はパラケルススを振るう。短剣は溶けるように伸び、鞭となって雑魔を打ち据える。リヤカーを引きながらの攻撃は難しい。一時的に退いたが、すぐに反撃がくるだろう。
「アザミさん、押すの手伝って!」
ここは逃げの一手だ。巣箱を持っている以上、戦闘には持ち込みたくなかった。
「わかりましたわ!」
アザミはリヤカーの後方に付くと、押す手に力を込めた。二人は転がるような速さで、ひたすらに丘を下っていった。
養蜂場は、悠吏、千秋、ユーレンと、雑魔が交戦中だった。蜂型雑魔に加えてミツバチまでもが巣箱から逃げ出して、辺り一面蜂だらけ。大小の蜂たちの羽ばたきは耳を塞ぐほど。この光景はちょっとした悪夢だ。このまま攻撃すれば、保護すべきミツバチまで巻き込まれてしまう。
どうにか巣箱のミツバチから雑魔を遠ざけたい。だがこのままでは埒が明かない。そして、それぞれが動き出す。
ユーレンは自らにプロテクションを発動させる。全身が光に包まれたユーレン。雑魔たち飛んで火に入る夏の虫……惹きつけられるように彼女へ突進する。雑魔の群れがユーレンの身体に触れた途端、防御の力が働き彼らは弾き飛ばされる。
塊が小さくなりつつある雑魔の群れ。しかしその威力はまだ十分。目で敵を追いながら悠吏はレイジオブマルスに持ち替え、素早く引き金を引いた。火属性の魔導拳銃は一撃、さらに一撃と雑魔を炎で焼き尽くす。
残る雑魔に、サクヤはスラッシュエッジを乗せたエスプランドルを振るう。空気を割く鋭い音。雑魔たちは淡い光に包まれた。
あれだけ煩かった羽音が止み、戸惑うくらいの静けさを取り戻した。
「あれ? もう終わっちゃったの?」
鈴太の声に我に返る。無事オーナーの元へ巣箱を届け、戻ってきたようだ。
「ずいぶんと早いな……ああ」
思っていたより時間が経っていたようだ。気が付けばずいぶん陽も高いところにいる。
「アザミさん、鈴太くんと一緒だったんですね」
「そうなのよ。リヤカーって結構しんどいわね」
雑魔がいない養蜂場は、実にのどかな場所だった。和やかな雰囲気の中、全員で残る巣箱をすべてリヤカーに積み終える。
「どれ、我が引いてやろう」
「ありがとうユーレンさん。じゃあオレは後ろから押すね! ほら、ゆり兄も!」
「はいはい。じゃあ出発進行!」
回収する巣箱からは、ぶんぶんと可愛らしい羽音が聞こえてくる。普段だったら怖がるところだが、今はミツバチたちが妙に可愛く見えてくるから不思議だ。
「みんなはブッフェどっちにするんだ? 俺とゆり兄はランチブッフェ」
「……戦闘で身体をけっこう動かしたからね。評判だというランチを十分に堪能させて貰うよ」とサクヤ。
「肉が食いたいから、我も同じくランチブッフェだな」とユーレン。
「折角なので両方頂くと言うのはダメでしょうかー?」と迷うのは千秋。
「確かにスイーツブッフェも捨てがたいですわ」と同意するアザミ。
「よーし、もう少しだから頑張りましょう」
最後に悠吏が締めるものの、帰り道はブッフェの話で持ち切りであった。
●みんなでランチブッフェ
「今日は皆さん、ありがとうございました」
ハンターたちを出迎えたのは、ここのオーナーであるレインマン氏だった。
「当ホテルのシェフが腕を振るったブッフェを存分にお召し上がりください。あとお帰りの際に、今日皆さんが救ってくださったミツバチが集めた蜂蜜と、焼きたてのパンをお土産にご用意しております」
「ゆり兄!! お腹空いた!」
早く早く! と悠吏の腕を引っ張る鈴太に続いて、ハンターたちはレストランへと足を踏み入れた。
レストランには主に山の幸をメインとした料理が数多く用意され、どれにしようか迷うほどだ。
「たまにはこういう余禄があっても良いよね」
サクヤはこんがりと焼けたローストチキンを頬張る。傍らには軽めの赤ワイン。
「これはなかなか良い味だな」
ユーレンは仔羊の香草焼に豪快にかぶりつく。
「ほんと、美味しいですわ」
アザミも赤ワインと一緒にステーキを堪能している。
「とにかくお腹いーっぱい食べちゃいますよー」
迷った千秋だったが、ランチブッフェを選んだようだ。湯気の立つ焼きたてのパンに、バターと蜂蜜をたっぷりと付ける。
「むー! おいひい!」
幸せそうに千秋の表情がほころぶ。つられて鈴太もパンに手をのばし、がぶりと一口。
「うん! おいひい!」
大量の料理をテーブルに乗せているのは浪風兄弟である。主にもりもりと食べているのは鈴太。悠吏も弟の世話に忙しいようだが、しっかり料理に舌鼓を打ちつつ、弟にしっかりと忠告を忘れない。
「姉ちゃんには内緒だ、食えるだけ食うし、今のうちにしっかり良い料理を味わっておくぞ」
「うん!」
ハンターたちは、ひと時の休息を満喫するのであった。
ようやく空の端がうっすらと白んできたが、まだ空にはちらちらと星が瞬いていた。青白い月の灯りの下、浪風悠吏(ka1035)はリヤカーを引いていた。兄の引くリヤカーの後ろを押しながら浪風 鈴太(ka1033)は、まだ暗い空を見上げる。
「たくさん回収して蜂蜜とれたらいいなぁ♪」
相槌を打ちながら、悠吏はこっそりと苦笑する。恐らく弟の頭の中は、甘い蜂蜜のことでいっぱいなのだろう。
すでにリヤカー1台は現地へ運んでいた。他のメンバーは今か今かと浪風兄弟が到着するのを待っていた。
「お待たせ!」
鈴太が手を振ると、それに応えるように、サクヤ・フレイヤ(ka5356)と小宮・千秋(ka6272)が無邪気に手を振り返す。
「悠吏さん、鈴太くん、ありがとう。でもまだ全員集まっていなくて」
「ああ、それなんだけど……」
カストル(ka6924)とポルックス(ka6925)は急用で依頼に参加できなくなったという。オーナーに挨拶に伺った時、ちょうど職員のコウ・リィから連絡があったのだ。
「そっか、じゃあ今日はここにいる6人で頑張らないとね」
サクヤが残念そうに肩を落とすと、千秋も小さくため息を落とす。
「残念ですねー。だって、とーっても美味しそうじゃないですかー」
ホテルのブッフェのことである。千秋の心はすでにランチブッフェへと飛んでいるようだ。それには同意と、ユーレン(ka6859)も大きく頷いた。
「ああ、やつらの分もしっかり食ってやらないとな」
二ノ宮 アザミ(ka6443)も、にっこりと微笑んだ。
「私も頑張りますわ」
ハンターたちの心は、ある意味ひとつになったようだ。
●いざ養蜂場へ
ようやく夜の帳がなりを潜め、空は徐々に明るくなってきた。
妖精の丘養蜂場、と書かれた木製の看板が立っている。その先には蜜源となる薄紫の小花が咲き、規則的に生えたまだ若い木々が並ぶ。微かに甘い花の匂いがする。
「実家が農家だと色々思う所がありますね」
悠吏が実感を込めて呟く。せっかく丹誠込めて育ててきた農作物や家畜も、雑魔にやられてはひとたまりもない。実家が獣害にあった苦い記憶は、今でも心に刻み込まれている。
「……養蜂場が使えなくなるとレストランの方にも支障が出るからね。早めに雑魔を退治して安全を確保しないといけないね。あたしも頑張るよ」
サクヤは無意識のうちに、手のひらを固く握りしめる。
巣箱は横並びに5個、それが4列といったように並んでいるようだ。
朝露に濡れた花畑に足を踏み入れた途端、ヴ、ヴヴヴ……と不穏な羽音が聴こえてくる。
「思っていたより、奴らは敏感のようだな」
ユーレンはまだ薄暗い養蜂場に鋭い眼差しを向ける。近づいただけでこれだけの反応を見せるとなると、囮作戦はかなり有効に思える。
「役割分担ですが、鈴太は超嗅覚で巣箱の判断を任せようと思います。俺は鈴太のサポートをしながら回収役に回ろうと考えていますが、どうでしょう?」
悠吏の案を反対する者はいなかった。鈴太自身も兄と一緒に行動できるのは心強い。
「巣箱回収は任せといてよ!」
「私は囮役となって雑魔さんたちを誘い出して、巣箱から出来るだけ離れまーす」
千秋が囮役を名乗り出ると、ユーレンもそれに続く。
「毒も弱いようであれば、回復手段にスキルを割かねど何とかなるやもしれん。我も囮に回るとしよう」
「あたしも囮役に回るよ。アザミさんも一緒に囮役をお願いできるかな?」
「サクヤさんがそういうのなら、囮役でよろしくてよ?」
サクヤとアザミも囮役。役割分担は決まった。
「ほでは、ブッフェのために全力で行っちゃいますよー」
千秋のやる気に満ちあふれる言葉に、一同に笑みがこぼれた。
●作戦開始
「さあ、おぬしらの敵はここにおるぞ」」
ユーレンが高らかに宣言すると、ミートハンマーを勢いよく振り回しながら、ゆっくりと巣箱に向かう。動くものに強い警戒心を抱く、という情報どおりだ。蜂型雑魔は黒い塊となってユーレンに向かって突進してくる。彼女はそれを確信すると、巣箱から離れるべく走り出す。
うるさいほどの羽ばたきは不快感で耳を塞ぎたくなるほどだ。巣箱2個から出現した雑魔たちがユーレンに向かう。が、突如二手に分かれて方向を変える。
アザミは思わず息を飲んだ。まだ離れているからと、軽く準備体操をしていたのが不味かったのか。真っ直ぐ向かってくる雑魔を目にして覚悟を決める。
「ほら、こっちですわよ」
大きな声を上げ、さらに手を振ると、アザミは草花を蹴散らす勢いで走り出した。
「……なめられたものだな」
自分に向かう雑魔は1体。2体でも一撃でしとめられる自信があった。少々物足りないと感じつつ、油断は大敵だともわかっている。
ユーレンは雑魔の群を横目に、適度な速度を持って走る。木立を縫うように走り抜けながら、巣箱から十分離れたと確信したところで攻撃態勢に入る。
「ここまで来れば、もうよかろう」
メイスファイティングによって、マテリアルが全身に漲る。迫りくる雑魔にミートハンマーを振るうが、予想外に相手の動きが早かった。突如霧散してユーレンの攻撃を避ける。
「雑魔の分際で猪口才な!」
引き返してきた雑魔に、今度こそはと再び片手鎚を振るう。今度は確かな手ごたえを感じる。二度、三度。徐々に小さくなる塊が消え、ようやく手を止めた。
「さーてブッフェのために頑張りますか」
さらなる雑魔を誘い出そうと千秋も動き出す。足下の草花をわさわさ押し分けて進むだけで、面白いように雑魔は反応を見せてくる。最初のユーレンの挑発が効いたのだろう。
「今まで様々な雑魔さんを見てきましたが、虫の雑魔さんは初めてですねー」
巣箱から続々と姿を現す雑魔たち。辺りは朝陽に包まれ、雑魔たちもさらに活発になってきたようだ。1匹1匹が徐々に集まり、黒い塊になっていく様子は気持ち悪いの一言に尽きる。
「すげー!」
姿を現した雑魔の姿に、鈴太は驚きと感嘆の声を上げる。巣箱から姿を露わにした蜂型雑魔は、通常のミツバチよりも大きい。それゆえに普段はわからない細かな造形がしっかりとわかる。
「こらバカ太! お前はまだこっちに下がっていろ」
興味津々の弟を、悠吏は首根っこを掴んで下がらせる。
「ちょっと、怖いというか、えげつないというか」
サクヤは眉間に皺を寄せながらも、千秋の挑発に乗った雑魔に狙いを定める。だが木々を縫うように飛び交う雑魔は狙いが付けにくい。防御に徹して雑魔を引きつけてくれている千秋の体力が尽きる前に始末しなければ。
「……虫相手だから、火属性の攻撃がより効くと助かるけどどうだろう?」
取り敢えずやってみよう。サクヤは火竜票と呼ばれる札を投げつけるや否や、雑魔は青白い炎に包まれる。羽が焼け落ち雑魔は地面に転がるがまだ生きている。とどめを刺すべく次々と札を投げつけ、雑魔は小花と共に青い炎に包まれていった。
囮役が身を挺して雑魔を誘い出してくれたお陰で、無事巣箱の回収を開始できそうだ。鈴太は慎重に距離を詰めながら意識を嗅覚に集中する。
巣箱から発する甘い蜂蜜の匂いや、花の香り、恐らくミツバチがまとう花粉であろう。そこには異質な匂いは混じっていない。鈴太は安堵したように背後の兄を振り返る。
「うん、ここの5個は大丈夫だよ」
ミツバチの箱を選別する弟の姿を眺めながら、悠吏はしみじみと呟いた。
「バカと何とかは使い様ってね。ハンターらしくなってきたじゃないか」
「ゆり兄、ひでー」
笑う兄に、鈴太は唇を尖らせる。軽口を叩きつつも手早くミツバチの巣箱を回収する。5個の巣箱を乗せたリヤカーに網を被せながら、鈴太は目を輝かす。
「もしかして余裕じゃん!?」
「こら油断するな」
そう言っている間に、まだ手付かずの巣箱の方からがちゃがちゃと堅いものがぶつかり合う音が聞こえてくる。互いが争うように、巣箱から蜂の姿をした雑魔が1匹、2匹と這い出てくる。
「よし行ってこい」
「うん、ゆり兄も気を付けて!」
しばらく弟の背を見守っていたが、雑魔の気配に振り返る。
「ミツバチは益虫だが、もうお前らは害虫だ」
間近に迫る雑魔にN=Fシグニスを構える。守りを捨て、攻撃のみに集中する。地面を踏みしめ、迫りくる雑魔に上段から一気に斬りかかる。手ごたえはあり塊は半分以下となった。すかさず二撃目。雑魔は消えたが、捨て身の攻撃は相当なダメージだ。地味に雑魔の体当たりが効いていた。
「悠吏さん、助太刀……もう間に合っていましたねー」
駆けつけた千秋は、にっこりと笑って巣箱を指さす。
「念のため破壊しておきますよー」
宣言と共に、拳でいとも簡単に巣箱を破壊してしまう。
「さすがにここまでやっちゃうと、無事回収し終えたら雑魔さんとは戦わずにお仕事終わりーとはなりませんよねー」
ミツバチの巣箱を無事回収するだけでも問題はないが、雑魔を目の前にすればやはり全滅させないと気が済まない。
「確かに。その通りだな」
これもハンターの性なのかもしれない。悠吏も雑魔の巣箱を蹴散らすように破壊する。当然これだけ派手なことすれば、残りの雑魔が気づかないわけがない。
これまで殲滅したのは4体。いや5体だったか。ふと、アザミが引きつけた雑魔がどうなったのか思い出せない。誰かに確認しようにも、すでに目の前に雑魔の群が矢のように飛んできた。
鈴太は走っていた。ただひたすらに走っていた。
まさか途中で雑魔が出現するとは思ってもみなかった。それもこの雑魔を引き寄せていたのはアザミだとも思わなかった。
「まさか、ずっと追いかけっこしてたの?!」
「ごめんねー!」
ずいぶん長いこと走っていたようだ。アザミは息も絶え絶えになっていた。
「もうやっつけないとダメでしょ」
「でも、わたくし、もうへとへとですわ……」
「え~!」
なんとしても無事に任務を成功させて、美味しい蜂蜜とランチブッフェ!
「蜂蜜が取れなくなるでしょ。悪い虫は、メッ!」
蜂に追いかけられながらも、鈴太はパラケルススを振るう。短剣は溶けるように伸び、鞭となって雑魔を打ち据える。リヤカーを引きながらの攻撃は難しい。一時的に退いたが、すぐに反撃がくるだろう。
「アザミさん、押すの手伝って!」
ここは逃げの一手だ。巣箱を持っている以上、戦闘には持ち込みたくなかった。
「わかりましたわ!」
アザミはリヤカーの後方に付くと、押す手に力を込めた。二人は転がるような速さで、ひたすらに丘を下っていった。
養蜂場は、悠吏、千秋、ユーレンと、雑魔が交戦中だった。蜂型雑魔に加えてミツバチまでもが巣箱から逃げ出して、辺り一面蜂だらけ。大小の蜂たちの羽ばたきは耳を塞ぐほど。この光景はちょっとした悪夢だ。このまま攻撃すれば、保護すべきミツバチまで巻き込まれてしまう。
どうにか巣箱のミツバチから雑魔を遠ざけたい。だがこのままでは埒が明かない。そして、それぞれが動き出す。
ユーレンは自らにプロテクションを発動させる。全身が光に包まれたユーレン。雑魔たち飛んで火に入る夏の虫……惹きつけられるように彼女へ突進する。雑魔の群れがユーレンの身体に触れた途端、防御の力が働き彼らは弾き飛ばされる。
塊が小さくなりつつある雑魔の群れ。しかしその威力はまだ十分。目で敵を追いながら悠吏はレイジオブマルスに持ち替え、素早く引き金を引いた。火属性の魔導拳銃は一撃、さらに一撃と雑魔を炎で焼き尽くす。
残る雑魔に、サクヤはスラッシュエッジを乗せたエスプランドルを振るう。空気を割く鋭い音。雑魔たちは淡い光に包まれた。
あれだけ煩かった羽音が止み、戸惑うくらいの静けさを取り戻した。
「あれ? もう終わっちゃったの?」
鈴太の声に我に返る。無事オーナーの元へ巣箱を届け、戻ってきたようだ。
「ずいぶんと早いな……ああ」
思っていたより時間が経っていたようだ。気が付けばずいぶん陽も高いところにいる。
「アザミさん、鈴太くんと一緒だったんですね」
「そうなのよ。リヤカーって結構しんどいわね」
雑魔がいない養蜂場は、実にのどかな場所だった。和やかな雰囲気の中、全員で残る巣箱をすべてリヤカーに積み終える。
「どれ、我が引いてやろう」
「ありがとうユーレンさん。じゃあオレは後ろから押すね! ほら、ゆり兄も!」
「はいはい。じゃあ出発進行!」
回収する巣箱からは、ぶんぶんと可愛らしい羽音が聞こえてくる。普段だったら怖がるところだが、今はミツバチたちが妙に可愛く見えてくるから不思議だ。
「みんなはブッフェどっちにするんだ? 俺とゆり兄はランチブッフェ」
「……戦闘で身体をけっこう動かしたからね。評判だというランチを十分に堪能させて貰うよ」とサクヤ。
「肉が食いたいから、我も同じくランチブッフェだな」とユーレン。
「折角なので両方頂くと言うのはダメでしょうかー?」と迷うのは千秋。
「確かにスイーツブッフェも捨てがたいですわ」と同意するアザミ。
「よーし、もう少しだから頑張りましょう」
最後に悠吏が締めるものの、帰り道はブッフェの話で持ち切りであった。
●みんなでランチブッフェ
「今日は皆さん、ありがとうございました」
ハンターたちを出迎えたのは、ここのオーナーであるレインマン氏だった。
「当ホテルのシェフが腕を振るったブッフェを存分にお召し上がりください。あとお帰りの際に、今日皆さんが救ってくださったミツバチが集めた蜂蜜と、焼きたてのパンをお土産にご用意しております」
「ゆり兄!! お腹空いた!」
早く早く! と悠吏の腕を引っ張る鈴太に続いて、ハンターたちはレストランへと足を踏み入れた。
レストランには主に山の幸をメインとした料理が数多く用意され、どれにしようか迷うほどだ。
「たまにはこういう余禄があっても良いよね」
サクヤはこんがりと焼けたローストチキンを頬張る。傍らには軽めの赤ワイン。
「これはなかなか良い味だな」
ユーレンは仔羊の香草焼に豪快にかぶりつく。
「ほんと、美味しいですわ」
アザミも赤ワインと一緒にステーキを堪能している。
「とにかくお腹いーっぱい食べちゃいますよー」
迷った千秋だったが、ランチブッフェを選んだようだ。湯気の立つ焼きたてのパンに、バターと蜂蜜をたっぷりと付ける。
「むー! おいひい!」
幸せそうに千秋の表情がほころぶ。つられて鈴太もパンに手をのばし、がぶりと一口。
「うん! おいひい!」
大量の料理をテーブルに乗せているのは浪風兄弟である。主にもりもりと食べているのは鈴太。悠吏も弟の世話に忙しいようだが、しっかり料理に舌鼓を打ちつつ、弟にしっかりと忠告を忘れない。
「姉ちゃんには内緒だ、食えるだけ食うし、今のうちにしっかり良い料理を味わっておくぞ」
「うん!」
ハンターたちは、ひと時の休息を満喫するのであった。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/04 23:31:07 |
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相談卓 サクヤ・フレイヤ(ka5356) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/07/06 02:16:15 |