• 界冥

【界冥】江ノ島強行偵察

マスター:近藤豊

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/07/05 19:00
完成日
2017/07/07 12:59

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 函館の戦いを終えたメタ・シャングリラは、未だドックで改修中。
 改修作業が終われば、メタ・シャングリラは鎌倉クラスタ攻略へと乗り出す。
 だが、その最中でも統一連合宙軍は座して改修を待つ訳にはいかない。

「……北鎌倉に拠点ザマスか」
 メタ・シャングリラ艦長森山恭子(kz0216)は、本部からの報告書に視線を落とす。
 ハンターが偵察を行った結果、北鎌倉駅跡に20m程のアンテナ塔が存在していたという。
 鎌倉クラスタの妨害電波は、鎌倉クラスタのある鶴岡八幡宮から発信されている。だが、新たに本部からこのアンテナ塔が妨害電波を増幅させているのではないかという情報が寄せられたのだ。そうなれば、初期の攻撃目標はこのアンテナ塔を狙うべきだろう。
「まだ可能性ザマスが、狙ってみる価値はあるザマス。
 でも、それより先にメタ・シャングリラが拠点とする場所が欲しいザマス」
 恭子は、モニターに地図を映し出す。
 そこには鎌倉周辺のエリア情報が表示される。今まで統一連合宙軍が戦いの中で集められた情報が、細かく記載されている。
「敵の遭遇情報が少ない場所は……やはりここザマスか」
 恭子の視線の先には、江ノ島があった。
 湘南海岸から相模湾に突き出た島であり、陸続きで徒歩でも渡る事ができる。一時は湘南のシンボル的存在であったが、歪虚が跋扈するようになってからは島に人も寄りつかない。統一連合宙軍によれば鎌倉クラスタが形成された際、敵は鎌倉クラスタ防衛に注力。江ノ島周辺地域の歪虚目撃例はそれ程多くない。

 それだけじゃない――鎌倉クラスタには困った現象があった。
 鎌倉クラスタ周辺では、機械に動作障害が発生する。

 メタ・シャングリラもその例に漏れないのだが、恭子は少しでもハンターの近くで待機したい。
 後方で一人のんびり待っている訳にはいかない。
 何かあればどうにかしてハンター救援に動く為の措置なのだが、メタ・シャングリラ待機場所を思案していたのだ。
 比較的敵の存在が少なく、攻撃されにくい。
 それでいてハンターに近い場所――。
「江ノ島沖がベストザマスが、江ノ島に強敵が潜んでいれば困るザマス。ここは一つ、ハンターに打診するザマス。生憎、八重樫さんはクリムゾンウェストへ戻っているザマスから……秋葉原に滞在している皆さんへ期待するとするザマス」
 恭子は、各部署への指示をまとめ始める。
 既に江ノ島周辺には浮遊型の小型狂気の姿も確認されている。統一連合宙軍だけでは敵に警戒を強めさせる恐れがある。あくまでもハンターが偵察という形で江ノ島へ入り込み、周辺地域を目視する必要があるのだ。

 残念ながら恭子はその報告を、ハンターが鎌倉を脱出するまで聞く事はできない。
 それでもハンターの無事と前哨戦の成功を願わずには居られなかった。
「ハンターの皆さん、頼むザマスよ」

リプレイ本文

 ――江ノ島。
 かつて修験道の開祖と言われる役小角が開いた霊場とも謂われ、片瀬海岸と繋がる陸繋島としても知られている。
 弁財天を祀る江島神社が存在するこの島に、ハンター達は訪れていた。

 統一連合宙軍所属のメタ・シャングリラが次に攻略する鎌倉クラスタ。
 この作戦において鎌倉周辺地域の情報探索の為だ。

(異常なし。現在確認した敵は浮遊型の小型狂気だけです)
 水城もなか(ka3532)は、いつも以上に張り切っていた。
 統一連合宙軍特務偵察隊所属だったもなか。
 サルヴァトーレ・ロッソ消失事件で偵察隊は解散。偵察兵の職務を全うできずにいた最中、今回の江ノ島強硬偵察任務。それも統一連合宙軍直々の依頼である。
 面目躍如とばかりにもなかは、気合いを入れて江ノ島へ足を踏み入れる。
(現在、中津宮。作戦の障害になりそうな敵はなし。これより江ノ島展望塔へ向かいます)
 もなかは、心の中で呟く。
 心の中で言葉を繰り返し、情報を整理する。かつては観光地であった江ノ島でも今は敵地のど真ん中。少しでも情報を入手して『持ち帰る事』こそ偵察兵の本分。
 僅かな手掛かりでも持ち帰りたいところだ。
「……状況はどうですぅ?」
 もなかの背後から小さな囁きが聞こえて来た。
 振り返れば、小走りで寄ってきた星野 ハナ(ka5852)の姿があった。
 その背後にはおんぶ紐で背負われたユグディラのグデちゃんも一緒だ。途中まではママチャリにグデちゃんを乗せて颯爽と江ノ島へ入ってきたのだが、江ノ島の坂を前にママチャリを断念。島の入り口にママチャリを止めてひっそりと島へ進入していた。
「何か見つかったりしましたぁ?」
 もなかの背中へすり寄るように近づくハナ。
 実はハンター達はハナの提案で戦力を分散していた。少しでも江ノ島周辺地域の情報を迅速に集める為、江ノ島を大まかに三分割して偵察に当たっていた。

 江ノ島入り口のハーバー。
 江ノ島展望台と頂上地域。
 江ノ島岩屋と奥津宮。

 可能な限り戦闘を避け、確実に情報を持ち帰るのが最終目標である。
「あ、ハナさん。異常なしです。敵もほとんどいません」
 もなかは、小声で状況を説明する。
「そうですかぁ」
「でも、気になる事があります。時々崖が大きく削られていたりするんです」
「崖がぁ?」
 もなかの話によれば江ノ島の頂上へ向かう途中、何カ所が崩れた崖を見かけていた。
 単に崖が崩落したのかと思ったが、周辺の木々を見る限り何か不自然さを感じ取っていた。
 もなかの話を耳にしたハナの胸に不安な影が去来する。
「もなかさん、もしかしたら島に何かいるかもですぅ。油断してはいけませんよぉ」
「はい、大丈夫です。情報を持ち帰るまでが偵察兵の任務です」
 もなかもハナ同様、危険を感じ取っていた。
 敵地であるにもかかわらず、敵が少ないのだ。
 統一連合宙軍が倒したものかと思っていたが、江ノ島内部に潜入していたという情報は入っていない。事前情報でも小型狂気だけと聞いていたが、ここまで少ないと警戒心を強めたくなる。
「私達も先へ急ぎますぅ。もなかさん、お気を付けてぇ」
「ハナさんも。無理は禁物ですよ」
 二人は、再び別れる。
 担当地域の探索を継続する為に。


 一方、湘南江の島駅跡地からスタートしたハンター達がいた。
「おらの初めてのお仕事だんず。ちょっこしどきどきだんずけんど、おらけっぱるだんず!」
 独特な方言で依頼の意気込みを語る杢(ka6890)。
 相棒のうさぴょんと共に、ハンターとして初めて依頼へ参加した新人である。
 今回は先輩ハンターから少しでも学ぼうと気合いいっぱい。既に江ノ島周辺の地図も頭へ叩き込んでおり、依頼へ全力で挑む所存だ。
「ここはもう敵地だ。何処から敵が襲ってくるかも分からない。
 だが、大事な事は今回の任務が『偵察』という事だ。入手した情報は持ち帰らなければ意味がない」
 ロニ・カルディス(ka0551)は、後輩ハンターの杢へ忠告を口にする。
 今回の任務はあくまで偵察。発見した敵を掃討する事ではない。敵の強さを図る事も充分な情報なのだが、依頼主の森山恭子(kz0216)はメタ・シャングリラが作戦中に停泊できる場所を探していた。
 ならば、安全な場所の情報が最優先されるべきだ。
「ロニさん、分かっただんず。改めてよろしくお願げーするず。おら、かくれんぼは得意だんずよ」
 杢は、敢えてロニの前で胸を張ってみせる。
「分かった。まずは物陰に隠れながらゆっくり進む。俺達の担当は江ノ島大橋とその周辺だ」
「はいだんず! うさぴょん、行くだんず」
 近くの壁へ張り付く杢。
 周囲の状況を鋭敏視覚で感じ取りながら、怪しい箇所を探る。
 その杢のポーズを真似る様にうさぴょんもぺったりと壁に張り付いている。
「異常はないだんず」
「ここはもう確認済みだ。隠れるならもう少し先へ行ってからでも大丈夫だ」
「そうだっただんずか。なら、はぐいぐだんず」
 杢は、さっと壁から離れて歩き出す。
 時折新人らしからぬ大物ぶりを見せる杢に、ロニは思わずため息をついた。


「鶴岡八幡宮から同心円で北鎌倉なら、本当は大船にだって電波塔があってもおかしくないですしぃ、江ノ島近辺はジャマー範囲を外れていてもおかしくないと思うんですぅ」
 改めて地図を見ながら奥津宮へ向かって歩くハナ。
 当初、ハナの考えではこの江ノ島にアンテナ塔が存在していると考えていた。
 しかし、もなかも感じたようにこの江ノ島に小型狂気の数は少ない。
 この事が意味する事と言えば――。
「相模湾内で阻害されるならぁ、もっと渦巻き状にアンテナ塔が設置されているとか、逗子の方にもあるとかでないとおかしい気がするんですぅ。
 江ノ島だってもっと歪虚あり、アンテナ塔ありの場所な気がするのに小型歪虚だけって何かおかしい気がしますぅ」
 サムエル・コンキング苑を通過して更に奥へと進むハナ。
 おんぶ紐で背負われたグデちゃんは、ハナの言葉の意味が理解できているのか大きく頷いている。
「グデちゃんもそう思いますかぁ。何ででしょうねぇ……」
 疑問を口にするハナ。
 ハナの脳裏には幾つかの理由が浮かんだ。
 一つはこの江ノ島にアンテナ塔は存在せず、妨害電波の範囲外となっているケース。
 その場合、歪虚が少ない事は納得できる。
 しかし、何故歪虚が江ノ島にアンテナ塔が存在していないのだろうか。
 もし、ハナが歪虚の立場であれば鎌倉クラスタを防衛する為に、江ノ島にもアンテナ塔を建設する。統一連合宙軍が機械に頼っている事は彼らも経験的に知っているはずだ。
「ならぁ、やっぱりもう一つの理由ですかねぇ」
 ハナは、もう一つの推論を思い浮かべる。
 それはアンテナ塔が江ノ島にも『かつて』存在していたという説だ。島内の敵も何者かに倒されている。
 だが、それでも疑問が残る。
 鎌倉クラスタの歪虚と敵対しているなら、統一連合宙軍が気付かないはずがない。考えられるとすればつい最近姿を見せた事になる。そもそもリアルブルーで統一連合宙軍とは別に歪虚と敵対するのはハンターぐらい。
 江ノ島で暴れる者の意図がさっぱり掴めない。
「こっちの答えが当たりならぁ厄介ですねぇ。そんな相手とどう接すれば、いいのでしょうぉ」
 ハナは下りの階段をゆっくりと降り始める。
 本当に江ノ島のアンテナ塔を破壊した存在がいるとすれば、敵か味方か。
 仮に出会ったとして、瞬時にそれを判断する事ができるのだろうか。
「まぁ、ヒントはもうすぐですねぇ。ねぇ、グデちゃん」
 背中のグデちゃんに話し掛けるハナ。
 この階段を下りれば間もなく奥津宮だ。
 江ノ島岩屋周辺に歪虚が存在しているならば、敵は『隠れていた』だけになる。
 隠れていただけなら、話は早い。
「さぁ、どうでしょうねぇ。隠れているだけなら良いのですがぁ」


「おら噂で聞いただんず。江ノ島には『イケメンサーファー』がいるっで」
 江ノ島入り口まで到達した杢は、瓦礫の影からこっそり顔を覗かせる。
 そこには、宙を漂う二体の浮遊型小型狂気の姿があった。
「あれが『イケメンサーファー』だんずか……」
 ロニは再びため息をつく。
「違う。あれは狂気。所謂、敵だ」
「なんだんず!? だ、騙されただんず。
 こうなったら、……当たって砕けろだんずー!」
「お、おいっ!」
 ロニが止める前に杢はうさぴょんと共に影から飛び出した。
 龍矢「シ・ヴァユ」を引き絞り、浮遊型の一体に対して強弾を叩き込む。
 さらに攻撃を受けた衝撃で地面へ落下したところを、うさぴょんのワンド「雷光錫」による攻撃が炸裂した。
「やったっ! うさぴょんと倒しただんず!」
「喜ぶのはまだ早い」
 都市迷彩が施されたフード付き外套を翻し、ロニも前へと突き進む。
 無傷の浮遊型が反応する前にパリィグローブ「ディスターブ」による拳を数発放つ。
 クリーンヒットした浮遊型は、そのまま地面へ墜落。ロニがトドメの蹴りを入れる頃には、まったく反応しない状態となった。
「なるべく穏便に済ませたいところだったが、あの位置に敵が居れば片付ける他なかったな。だが、一人で勝手に出るな。場合によっては死ぬかもしれん」
「すまんだんず……」
 杢は素直に頭を下げる。
 一人で突き進んでしまったのは危険だが、敵を排除しなければ江ノ島大橋付近の調査に時間がかかっていた。結果的には敵を排除したのは間違いではない。
「なるべく戦闘を避けて偵察に徹するんだ。
 それより、ここでメタ・シャングリラが停泊か……」
 ロニは付近を見回した。
 片瀬海岸から離れて江ノ島付近に停泊する事は可能だが、その場合海岸線から敵に攻撃される。できれば、もう少し沖合で停泊した方がいいだろう。
「魔導カメラは……ダメか。やはりここでは使えないか」
 ロニは江ノ島の状況を魔導カメラで撮影しようとしたが、やはり動作しない。
 江ノ島の入り口付近まで鎌倉クラスタの妨害電波が届いている証拠だ。
「えーと、ここで停泊はダメだんずっと」
 杢は状況を逐一メモに取っている。
 記録を確実に取る為には手書きが一番と、せっせとメモに情報を記載している。
 既にもう十枚以上になっているが、本人はまったく気にしていない。
「停泊するなら江ノ島の沖か。しかし……気になるな」
 ロニは再び周囲を見回した。
 何かがおかしい。
 敵が少ないとはいえ、遭遇したのは浮遊型の二体だけ。
 敵地でこれだけ敵に出会わないのは心配にもなってくる。
 ロニの脳裏に危険を知らせるアラームが鳴り響く――。


「こ、これは……」
 江ノ島展望台跡に訪れたもなかの前には、巨大な鉄の塊が転がっていた。
 よく見ればアンテナ塔のようにも見えるのだが、横からの衝撃を受けて派手に倒れたような造型だ。
 仮にこれが本当にアンテナ塔であったとするなら、一体何に倒されたのだろうか。
「やっぱり、ここに何かいるのかも……あ、写真写真っと」
 もなかは思い出したように魔導カメラを取り出した。
 実は魔導カメラを使って妨害電波が何処まで届いているかを確認しているのだ。
 今の所、江ノ島の入り口付近から頂上まで魔導カメラはまったく機能していない。妨害電波はここまで届いているようだ。
「さて、どうかな」
 もなかはアンテナ塔らしき残骸の前でシャッターを押す。
 だが、シャッターを押しても魔導カメラは何の反応も示さない。
「ダメかー。江ノ島の頂上まで妨害電波は届いているみたいだね。
 でも……この残骸は気になるなぁ。敵にも遭遇しないし、やっぱり何かいるのかなぁ」
 もなかの頭に浮かんだのは、アンテナ塔を破壊した何かが狂気を潰して回っているという予想だ。
 だが、一体何の為に?
 そして、果たして潰した存在は味方なのだろうか。
「ダメダメ。今は偵察に集中しないと。
 ここでも魔導カメラが機能しないなら、もっと奥へ行けば使えるのかなぁ」
 もなかは、奥津宮の方へ視線を送る。


「うーん、微妙ですぅ」
 岩屋付近でハナは頭を捻っていた。
 グデちゃんと共に奥津宮付近を探索しているが、狂気の群れは見つからない。
 発見した物と言えば、片瀬海岸方面へ双眼鏡を使って調べた際に稲村ヶ崎と逗子マリーナ付近にアンテナ塔らしき存在を確認できた事だ。北鎌倉で発見されたものと同じなら、あのアンテナ塔が妨害電波を増幅しているはずだ。
 さらに――。
 江ノ島奥では浮遊型狂気と思われる残骸と大きく崩れた土砂も発見している。
「グデちゃん、そっちに敵はいた?」
 ハナの問いかけにグデちゃんは横に頭を振った。
 敵地とは思えない状況だが、これでますますハナの立てた推論は補強されていく。
「やっぱり江ノ島付近に『何か』いる……」
「ハナさん!」
 ハナの元へもなかが駆け寄ってきた。
「もなかさん。展望台はぁどうでしたぁ?」
「展望台の跡にアンテナ塔らしきものがあったんですが、何かに壊されたみたいになってて……」
「やはりそうでしたかぁ」
 もなかの情報でハナの推論は確信に変わる。
 何かが江ノ島周辺の敵を掃討している。
 何故そんな事をするのかは分からない。だが、アンテナ塔を破壊できるだけの存在だ。もし、そいつが狂気だけでなくこちらにも牙を向けるなら……。
「あ! 魔導カメラが動いたっ!」
「本当ですかぁ?」
 ハナが思案している間に、もなかはハナとグデちゃんを被写体に撮影していた。
 魔導カメラは正常に機能。無事に二人を写真に収める事ができた。
 魔導カメラが動いたという事は、妨害電波が届いていない事を意味している。
「江ノ島沖ならぁ、メタ・シャングリラも安心して停泊できそうですねぇ」
 敵と出会う事ができなかったハナであるが、メタ・シャングリラの停泊場所を見つける事ができた。
 ここに敵がいないとすれば、アンテナ塔を破壊した存在は一体何処へ行ったのだろうか。


 異変に気付いたのはロニだった。
「……ん!?」
 突然、手にしていた魔導カメラが機能し始めたのだ。
 つい先程まで動かなかった魔導カメラが、急に撮影可能となった。妨害電波が突然止まったのだろうか。
「どうしただんず?」
「隠れろ」
 ロニは杢とうさぴょんの手を引いて物陰に隠れる。
 経験上、何か危険が近づいていると直感したのだ。
 この勘が外れてくれる事を願っていたのだが――。
「あれ? 地震だんず?」
 杢は、微妙な地面の揺れに気付く。
 だが、地震にしてはあまりにも小さい。徐々に大きくなっていく事から余震なのかもしれないが。
 杢の傍らにいたうさぴょんが、杢の足下に抱きついて離れようとしない。
「うさぴょん、どうしただんず……」
 次の瞬間、杢の後ろに気配を感じる。
 異様。
 生物が持つ本能的な部分が、危険を知らせるアラームを鳴らし続ける。
 端的に言えば、『何かヤバい』と知らせている。
「一体、何が……」
 振り返る杢。
 そこには5メートルを超える巨大な獅子が居た。
 それもただの獅子ではない。
 右足から体にかけて機械化され、金属独特の光を放っている。
 さらに背中には青白い光を放つ円筒状の物体が取り付けられている。
 半機半獣の異様な生物――そう表現して差し支えない存在であった。
「なっ!?……」
「声をあげるな」
 杢の口を塞ぐロニ。
 ここで声を上げればあの獅子に気付かれてしまう。
 おそらくロニが抱いていた違和感の原因はあの獅子だろう。
 その時、獅子の眼前に浮遊型の群れが姿を見せる。
「!」
 獅子は浮遊型に飛び掛かり、浮遊型を地面へ叩き落とす。
 そして獅子は一際大きな遠吠え。
 次の瞬間、背中の円筒状のパーツからスパーク。電撃が生み出され、数秒後に周囲へ雷の雨を降らせる。
 雷の直撃を受けた浮遊型はそのまま地面へ動かなくなった。
「な、なんだんず。あれは……」
「……」
 ロニは黙って獅子を見つめていた。
 一体、何の為に狂気を倒しているのか。
 仲間? 否。あんな存在が仲間とは思えない。外見だけ見れば歪虚が生み出した生物だ。おそらく目の前の動く存在を破壊して回っているだけだろう。
 統一連合宙軍の報告にも無かった事から、最近江ノ島に姿を見せたと考えるのが自然だ。
「二人であの獅子を倒すのは危険過ぎる。ここは情報を持ち帰る事を優先する」
「分かっただんず。撤退だんず」
 杢は、うさぴょんと共にゆっくり物陰を移動する。
 その最中、ロニは線香と花火で仕掛けを作る。線香の火が燃え尽きた段階で花火が作動する仕掛けだ。撤退する最中にあの獅子に発見されては堪らない。少しでも注意を逸らしておいた方がいい。
「また会おう。名も知らぬ獅子。次に会った時は……」

 ロニの遙か後方で花火が炸裂する音が響く。
 ――咆哮。地響きと共に爆発にも似た破壊音。
 ロニと杢は、振り返る事無くその場を走り去った。

依頼結果

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MVP一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディスka0551
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    グデチャン
    グデちゃん(ka5852unit004
    ユニット|幻獣
  • いけ!ぷにっ子スナイパー
    杢(ka6890
    ドラグーン|6才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    ウサピョン
    うさぴょん(ka6890unit001
    ユニット|幻獣

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/01 12:31:48
アイコン 相談卓
水城もなか(ka3532
人間(リアルブルー)|22才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/07/03 23:49:38