大地の爪 ~廃墟の集落~

マスター:天田洋介

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/07/06 22:00
完成日
2017/07/18 00:17

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ナガケ集落あるのはグラズヘイム王国・古都【アークエルス】東方の森の地だ。
 一度は解散の憂き目にあったものの、青年ガローア・ラグアが再建を決意。ハンターの力を借りて幻獣の獅子鷹『メニュヨール』の退治に成功する。彼に意気投合したドワーフの青年『ベッタ』も移り住んで復興は順調に進んだ。
 ベッタの故郷に棲息していた幻獣『幻の青』を育てることに。その味がリアルブルーの高級和牛霜降り肉を彷彿させたところから『シモフリ』と呼称するようになった。
 森が紅葉に染まる頃、商人一家が集落へと泊まる。やがてシモフリの仔が産まれた。助けた幻獣の赤い兎二羽はまるで牧羊犬のようにシモフリ等を見張ってくれる。
 シモフリの乳を使った乳製品を手がけ、春には開墾したばかりの畑に玉蜀黍に粒を撒く。
 商人一家のタリアナの助力を得て、古都にて『パン屋シモフリ堂』が開店する運びとなった。
 シモフリ堂を切り盛りする女性三人は新しい仲間だ。マリーシュは店長兼事務会計。セリナとチナサはパン焼き職人兼売り子。
 シモフリ堂もハンター達が協力してくれた好スタートを切る。
 夏に備えて馬車と厨房に機導術式冷蔵庫が設置された。本格的な夏にはシモフリ乳のアイスクリームが大好評。シモフリ肉の出荷も始まり、バーガーやドッグ用の肉として使われる。
 秋には玉蜀黍を収穫して冬に備えた。野生の葡萄で葡萄酒造りも行う。
 輸送の人員、そして古都にあるシモフリ堂の従業員も補充。こうして商売の手は広がりつつあった。
 ガローアとベッタはシモフリ堂で行われた新年のパーティをハンター達と共に楽しんだのだった。


 夏を迎えようとするナガケ集落は、穏やかな雰囲気に包まれていた。
 シモフリ達は順調に育ち、放牧場のそこら中に青くまん丸な身体が転がっている。コロコロと太陽の日射しを浴びつつ、餌となる団栗や玉蜀黍を食べて、すくすくと育っていた。
 飼料となる玉蜀黍だが、去年よりも畑は広がっている。春に撒いた粒が育ち、こちらは緑の葉や茎が大地を染めていた。
「雨も適度に降っとるし、今年の秋も玉蜀黍の大豊作や」
「人用の玉蜀黍も順調。虫除けの香草も植えたし、大丈夫でしょ」
 ベッタ、ガローアの二人で玉蜀黍畑を見回った。
「お、がんばっとるな。助かるで」
 ベッタが畑で駆け回る赤い兎に声をかけた。
 近頃、玉蜀黍畑に土竜が出没するので、退治を任せていたのである。もう一羽は放牧場でシモフリの見張り担当だ。二羽ともかけがえのないナガケ集落の仲間になっていた。
「それにしても土竜がこんなにでるとはね。困ったもんだよ」
「後、おいら達にできるんは罠を作るぐらいやからな」
 ガローアがベッタと話していると地響きが鳴った。あまりの不気味さに黙り込んで辺りを見回す。違和感を感じて草地に目を凝らす。「なんだか膨らんで」そう呟いた瞬間、急に大地が盛りあがる。
 大地から何かが飛びだして土塊をまき散らし、一瞬のうちにいなくなった。草地には巨大な穴だけが残る。
「ありゃ、馬鹿でかい土竜や」
 ベッタによれば大きな土竜の肩口から片腕のみが大地から突きだしたのだという。そこから推測すると、全長五mはありそうな巨大な土竜だった。
「玉蜀黍畑にでなくてよかった。でもいつもこうだとは」
「それだけやないで。普通の土竜が畑にでるようになったんが、あいつのせいなら……まずいで、これは」
 被害は今のところないが、このまま放置しておけば大変な事態になるのは明白である。玉蜀黍畑の被害だけでなく、集落の地下が穴だらけにされたのなら建物の倒壊もあり得た。
「輸送の荷馬車を待っているのも惜しいからね。急いで行ってくるよ」
「任せたで」
 ガローアは集落のことをベッタに任せて馬車を走らせた。大急ぎで古都【アークエルス】にあるハンターズソサエティ支部に依頼をだすために。

リプレイ本文


 夜明け前に古都出立したハンター一行が、森中のナガケ集落へ到着したのは暮れなずむ頃である。
「ガローアさん、ベッタさん、ご無沙汰しております。皆さんお元気で、何よりです」
 ミオレスカ(ka3496)が出迎えたガローアとベッタに挨拶していると、視界の隅に青い丸が現れた。転がってきたのは彼女が大切にしているシモフリの『アオタロウ』だ。「アオタロウも元気していましたか」と広げた両腕で抱きしめて、久しぶりの柔らかな感触を味わう。
「ガローア、久しぶり。ハンターから離れて旅してたんだ」
「お久しぶりです。旅はいいですね。どんなところへ行ってきたんですか?」
 ザレム・アズール(ka0878)はガローアと再会の握手を交わした。「美味い物も沢山食べたぞ」と話題を振りまきつつ、集落の現状を訊ねる。
「実際に視て頂いたほうが早いでしょうから」
 ガローアは陽が暮れる前にとハンター一同を巨大土竜の出没現場へと案内した。
「ここ以外にも、いくつか穴が掘られているんです」
 ガローアが指し示した大地の穴は、すでに崩れて埋まっている。周辺を巻き込んで大きく窪んでいて、まるで落とし穴のよう。気づかずに歩いたのなら危険なことこの上ない。
「流石に地中で戦うことも出来ねぇし、ましてはこっちからは見えないしよ。厄介な相手だぜ全く」
 真っ赤な衣服に身を包んだステラ・レッドキャップ(ka5434)が周辺に目をこらす。穴の痕跡はガローアによると、徐々に集落の中心へと近づいているようである。大まかにいって、直径一km円の内側に収まっているという。
「玉蜀黍畑は、とてもすごいね。皆も元気だった?」
 リューリ・ハルマ(ka0502)がガローアと言葉を交わしながら穴の上を跳んでみた。幅は約一m。これが窪んだ周囲の直径であり、そこから巨大土竜の全長は五m前後だと推測される。
「まだ集落に直接の被害は無いんだよね?」
「今のところ、大丈夫です。なぎ倒された玉蜀黍はありませんし、建物も壊されていません」
 リューリは「被害が出る前に何とかしないと」と呟いて、腕を組んで考え込む。
「土竜(ツチリュウ)……か! 呵呵ッ! 土を泳ぐ龍たァな! 楽しみじゃねェか!」
 万歳丸(ka5665)は掲示板に書かれてあった単語を思いだし、腰へと手を当てて大いに笑った。北方で強欲歪虚と戦い、その際に手応えを感じた彼は大いなる勘違いしていた。敵は名が示す通り、土中を這いずる龍なのだろうと。
「最近はもぐらの土精霊が出たって噂だったが、こっちは歪虚なのか? 精霊にしろ歪虚にしろ土に特化すると形状が似るのかもしれんな……」
「普通のモグラを引き連れているようなので、親分的な存在だと想像しているのですが――」
 トリプルJ(ka6653)の疑問にガローアは自らの考えを伝える。今のところ想像に過ぎないのだが、土中から毛が何本か見つかったので、巨大土竜の正体は『幻獣』ではないかと。
「土竜叩きか……。ふむ……叩き潰せば良いのじゃろう?」
 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、にっこりとガローアに笑みを浮かべた。一緒に地面の凹みを辿っていくと、穴から十mほど離れた辺りで完全になくなっている。ガローアによれば、どの穴も似たような状態だということだ。
「今気づいたけど、垂直方向の穴掘りは無理なんじゃないかな」
「水平から斜め上下といった動きだけ、ということじゃな。それならこの跡の説明がつくのぅ」
 ガローアと蜜鈴は平らになった周辺を歩いてみた。目視だけではわからないが、柔らかな踏み具合である。ガローアは用意してきた長く細い鉄棒を取りだす。
「巨大な土竜か、ゴブリンではないけど放置すれば村への被害どころじゃないなら、此処で殺すだけだ何も変わらない」
 カイン・マッコール(ka5336)はガローアから鉄棒をもらい受けた。普通の地面では刺さりきらない。しかし巨大土竜が通ったと思しき周辺の土地には比較的すんなりと突き刺さった。
 巨大土竜の生態を推理したところで、他の穴の跡も確かめる。本格的な巨大土竜退治は明日から。まずは往路で疲れているハンター一行には、ゆっくりと休んでもらう。
「酒はどのようなものが揃っておるのじゃ。斯様に美味なる身と乳があるなれば酒としよっても美味そうじゃがのう? ……乳酒は作れぬのかのう? 無いなれば詮無い、一先ずは葡萄酒を楽しむとしよるか」
「乳酒か。なんや美味そうな響きや」
 蜜鈴の言葉が気になったベッタは、晩食の後に蜜鈴から乳酒について教えてもらった。


 翌朝からハンター一行はナガケ集落の各所へと散らばった。監視を行い、巨大土竜が出現した場合は仲間を呼び集める作戦である。幸いなことに昨晩は出現しなかったようで、新しい穴は見つからなかった。
 赤い兎一羽が土竜退治に奮闘中の玉蜀黍畑周辺に関しては、重点的な見張りが行われる。建物の倒壊も問題だが玉蜀黍の不作は大問題だ。シモフリの育成にも大きく関わるので、もしもがあると甚大な被害に及んでしまう。

 木陰の草むらに寝転んでいたリューリは、虫が鳴きやんだのに気づいた。
(何か起きているのかな。こっそりと地下から巨大土竜が近づいていたり)
 気になった彼女は超聴覚で探りを入れてみる。鋭敏になった耳を大地へと近づけて、両目を閉じ、神経を集中させた。
 聞こえたのは兎や仲間達の足音である。土を掻くような音も耳にしたものの、非常に小さい。普通の土竜一匹が近くにいるようだ。立ちあがり、ギガースアックスで掬うようにして大地を削った。その勢いで普通の土竜が地表へと転がる。ひょいと摘まんで放り投げると、赤い兎が口で見事に受けとめて何処かへと運んでいった。

「次はこの辺りをやってみるか」
 ザレムは斜面に太刀を突き刺して、柄に耳を当ててみた。振動が感じられたときには周辺を探って原因を突き止める。今のところすべてに理由があり、巨大土竜の動きは見つけられなかった。
(畑や建物だけでなく、シモフリにも影響がありそうだからな。怯えると肉質に影響がでそうだし。一つの駄目で、ドミノ倒しになったら大変だ)
 ガローアとベッタに相談して、シモフリ達を放牧場へはださずに、小屋で待機させてもらっている。怪我の被害を危惧してのことだ。普通の土竜は肉食なので五mにも及ぶ個体ならば、仔シモフリは充分に餌となり得た。
 昼食時、弁当を片手に小屋へと立ち寄ると、何頭かのシモフリが眠っていた。簡易の食事で空腹を満たしたとき、藁の上に寝転がるシモフリ達が気になってくる。
(少しぐらい、いいよな)
 シモフリを抱えるようにして撫でると、その手触りはとてもよかった。『もふっ♪』と抱きしめたとき、突然に木扉が開く。
「ザレムはん、いたんやな。……その格好はなんや?」
 小屋に入ってきたベッタが首を傾げる。
「いや、何でもない。ちょっと運動をしていただけだ」
 立ちあがっていたザレムは、両腕をあげながら屈伸を始めたのだった。

「長閑じゃのう」
 蜜鈴は集落近くの小川にそって歩いていた。巨大土竜が水飲みに現れるとは思えないが、妙な雰囲気は感じられる。
 ガローアによれば猪等の野生動物も小川を利用することのことだが、それらしき姿は一頭たりとも見かけられない。野生の勘で本能的に巨大土竜を避けているのかも知れないと考えていたところ、足元に揺れを感じた。
「何じゃ?」
 殺気も感じられて蜜鈴は身構える。銀霊剣に手を掛けて全神経を研ぎ澄ました。敵の存在を探ってみたが、揺れも殺気も感じられない。いつの間にか消え去ってしまう。
(何事もなかったとはかんがえにくいのぉ)
 確証はないが、巨大土竜が近くの土中にいたのではないかと推測する。玉蜀黍畑は小川の側に作られていた。頻繁な普通土竜の出没が巨大土竜と繋がっているとすれば、無視できる事象ではなかった。

 小高い地の高い樹木の太枝へと座ったミオレスカは望遠鏡を手に取る。そしてナガケ集落を俯瞰した。
「野生の勘はまだ残っているようですね。自然と危機を察知しているようですし」
 小屋に戻りたがらないシモフリは、すべてオークの樹木で過ごしている。
 ミオレスカが注目したのは大地の隆起だ。地表からではわからない微妙な筋がいくつか確認できた。
 巨大土竜が集落周辺の地中に隠れているとすれば、どこが根城なのかが問題だ。集落外縁の大岩が転ぶ一帯が一番怪しかった。地面の筋も、そちらへと延びているのが何本か見かけられる。
 午後過ぎには住居へと戻り、得た情報を仲間達と突き合わせる。傾向を読み取って探索再開。二日目には現れず、巨大土竜との遭遇は明日へと持ち越された。

 集落到着から三日目。カインは魔剣を手にしたまま、木陰の椅子へと座り続ける。目の前に広がっていたのは無人の放牧場だ。シモフリは数頭だけがオークの木に登っていて、ほとんどは小屋に退避しているはずである。
(ここからならば、集落のどこに巨大土竜が現れても最短のはずだ)
 そこはナガケ集落のほぼ中心地。巨大土竜の発生を知り得たのなら、すぐに駆けつけられるよう気構えも忘れない。
「妙だ」
 夏場だというのに、心なしか小鳥の囀りや虫の鳴き声はわずかしか聞こえない。「ナガケ集落周辺に異変が起きているのは確実だ」とカインは心の中で呟いたのだった。

「この辺り、ふかふかしてるよな」
 ステラは集落を散策しながら巨大土竜を探す。見かけは普通の大地のようでも、踏んだ感触が妙な周辺がある。そうした場所をチェックしては、新たな穴がないかを探した。
「これ、昨日はなかったよな。昨晩のうちにやってきたのか。もしかして」
 茂みの中に新たな穴跡が見つかる。巨大土竜の姿は見かけられず、凹んだ大地だけが残されていた。集落内に迷い込んだ鹿が巨大土竜に捕食されたようだ。多くの骨とわずかな肉片が残留物として転がっている。
 この事実を仲間達に知らせたところ、多くの仲間が頬を引きつらせた。可能性からすれば、仔だけでなく成体のシモフリが狙われてもおかしくはない。それどころか人がそうなってしまっても、不思議ではなかった。

 万歳丸はトリプルJに協力を願いでて、一緒に巨大土竜を探した。
「土竜は一日に自分と同じ体重の餌を食べることで有名だからなぁ……。放置するわけにもいかねぇか」
「それじゃ鹿を丸ごと食べても不思議じゃねェよな。土竜……どンなナリしてンだろうなァ……」
 万歳丸がおびき寄せるための策として、シモフリ肉の塊を焚き火で炙る。巨大土竜に聞こえるように足音を踏み鳴らした。
 トリプルJは焼けた肉の一部を愛犬のダックスフントに食べさせる。「これは前祝いのようなもんだ。本格的な肉バル目指して頑張ろうぜ、相棒」そういってダックスフントの顔を両手で包むようにしてわしゃわしゃ撫でてから一緒に探した。
 二人は家畜用の玉蜀黍畑の近くに陣取る。初日の確認から穴の跡は増えていき、一つは玉蜀黍畑の端で見つかった。数本の幹が倒れただけだが、畑の中央だったのなら損害を被っている。二度とないように万歳丸は緑溢れる畑へと目を光らせた。
 トリプルJはダックスフントを連れて、畑の外周を巡回。少し離れた位置にある人用の玉蜀黍畑にも足を伸ばす。
「それにしてもこれが捨て肉ったァ、豪勢なもんだぜェ」
 万歳丸が焚き火で炙っていたのは、シモフリのあばら骨付近の肉である。普段は出汁取り使われるようだが充分に美味しかった。
 食べられるまでに時間がかかるのが難点だが、その余裕は充分にある。ナイフであばら骨を切り分けて、もう一本頂こうとしたところで手が止まった。地響きが聞こえたような気がしたからだ。
 まもなくトリプルJがダックスフントを引き連れて戻ってくる。超聴覚によって地中での動きが察せられるという。
「こりゃ怪しいぞ」
「仲間を呼んだほうがいいか?」
 そう二人が話した矢先、突然に大地から土塊がまき散らされる。それはベッタから聴かされていた、巨大土竜の爪先だった。


「すぅ……」
 大きく息を吸った万歳丸があらん限りの大声で雄叫びをあげた。トリプルJは即座に出現させたファントムハンドの幻影腕を穴へと飛び込ませる。
 巨大土竜の片足を掴んで穴の外へ。しかし巨大土竜の力は強く、再び穴へと潜り込んでしまう。
「でやがったぞぉ!」
 出入りが繰り返される最中、トリプルJも大声を張りあげた。ダックスフントも遠吠えをあげる。
 トリプルJのファントムハンドが終わり、巨大土竜が土煙を舞わせながら地中へ。逃がしたかと思われたとき、再びの幻影腕が巨大土竜の足を掴んだ。
「引っ張りあげるから、今のうちに!」
 駆けつけたばかりのリューリがファントムハンドの引き継いだのである。
 咄嗟の判断で万歳丸とトリプルJ、ダックスフントが巨大土竜に体当たりを敢行した。ファントムハンドの引きも相まって、地中の穴から巨大土竜が引きずりだされる。
 それでも諦めずに、巨大土竜は新たな穴を掘ろうとしていた。そのとき巨大土竜の鼻へと強烈な一射が突き刺さる。
「玉蜀黍畑を荒らさせないよう、もう潜らせませんから!」
 遠くから響いたのはミオレスカの声だ。威嚇射撃によって巨大土竜は土中へと潜れずにその場で暴れだす。両手の指からはみだす爪は非常に鋭く、近くにあった樹木の幹をごっそりと剥いだ。熊の爪痕よりも深い跡がいくつも刻まれた。
 次々とハンター仲間が集まっていく。
「こっちだ。土竜」
 カインは爪の攻撃を躱しつつ間合いを詰める。魔剣の刃を突き立てようとしたものの、厚い毛皮に阻まれてしまった。
(毛皮と筋肉が硬いな、この剣じゃ斬り殺すのは難しいか)
 ソウルトーチによる炎を纏ったカインが、巨大土竜の敵意を自らに引きつける。
 そんなとき、上空から一つの影が巨大土竜の背中目がけて落ちた。ジェットブーツで空中を舞ったザレムが太刀を突き立てる。刺さった剣先は、ほんのわずか。振り落とされるものの、難なく着地を果たす。
 ザレムがカインと共に巨大土竜を挟撃すると、蜜鈴が黄泉ノ揺籠を使う。
「凶暴なる微睡み、安寧を乱す者、彼方の敵を常夜の眠りへと誘え」
 蜜鈴の掌から零れた漆黒の種子が芽吹いて、甘い香りが周囲に漂った。華と共に巨大土竜を微睡みへと誘いだす。地上にでた時点で巨大土竜の動きは緩慢になっていたものの、さらに動作が鈍くなる。但し、眠るにまでは至らなかった。
「一番最後なんてついてないぜ。その代わりだが」
 ステラは射程距離に入ってすぐにマシンガンをぶっ放す。
 遠射とターゲッティングを駆使して巨大土竜の腕を狙う。ミオレスカの加勢もあり、巨大土竜の両腕に銃弾が次々と叩き込まれる。跳弾も多かったものの、次第に弾が食い込んでいく。鮮血が飛び散らせながら巨大土竜は唸り声をあげた。
 そして前足に比べれば小さな後ろ足の爪で穴を掘り始める。必死なせいか、わずかな間に全身が埋まるほどの穴が空く。
 ザレムとステラが「まずい」と同時に叫んだ。二人して穴へと駆け寄り、前もって用意していた発煙の道具を穴へと投げ込む。ザレムはさらに大地へと刃を突き立てる。
 再び地上へと飛びだす巨大土竜。明鏡止水で加速した万歳丸が米神へと機甲拳鎚を叩き込む。「あァ?! 獣じゃねェか!!!」と叫びながら。
「奇々怪々、土に潜る獣たァな! だが、その逃げ癖は良くねェ。此処で、決めたらァ……ッ!!」
 万歳丸が朱雀連武も駆使して巨大土竜の腹に連打。取り囲んだ前衛の仲間達も急所と思しき部位に刃や拳をねじ込んでいく。衰弱したせいか、巨大土竜に攻撃が通りやすくなっていた。
「まさか足でも潜れるなんて。でももう無理だよね」
 リューリは爪をギガースアックスで斬り落とす。離れた大地に次々と宙を回転しながら飛んでいった爪が突き刺さる。
「見えているのかわからないけど、念のため」
 ザレムが放ったのはデルタレイの光条だ。巨大土竜の目を順に潰した。
「もうすぐお終いだぁ!」
 トリプルJはリジェネレーションで生命力を回復しつつ、ワイルドラッシュを発動させる。殴打によって巨大土竜の頭部が、まるでゴムマリのように左右へと弾かれた。
 最後の足掻きなのか、巨大土竜が乱暴に手足を振り回す。仲間達が間合いをとるまでカインが一人で相手となった。頭を庇いつつ鎧受けによって。
 カインも下がったとき、一斉に遠隔攻撃が仕掛けられる。
「斯様に遊び、暴れたのじゃ、相応の報いは受けて貰わねばならぬ。安々と逃げおおせると思うは大間違いであった等と……。後悔する暇も与えぬ程に、潔く一思いに滅してやろうてのう? 轟く雷、穿つは我が怨敵点一閃の想いに貫かれ、己が矮小さを識れ」
 蜜鈴が雷霆を落とした。雷の種子を芽吹かせて、茨を巨大土竜に纏わせる。轟音と輝きと共に雷神の祝福を放つ。
「もう一押し」
「結構、しぶといな。いい加減に!」
 ミオレスカとステラの銃撃によって巨大土竜が地面へと仰向けに倒れる。ようやくピクリとも動くことなく、完全に仕留められたのだった。


 ガローアとベッタが騒ぎを知って、現場へとやって来た頃には決着がついていた。
「土竜って、どうやって食べたら美味いだろう?」
 ザレムの呟きを耳にしてガローアとベッタは驚きの表情を浮かべる。解体には力を貸して、切り落とした腕肉を血抜きして冷水で冷やす。
「もしもに備えませんと」
 ミオレスカは何人かの仲間に協力してもらい、他にも巨大土竜がいないかを確かめた。赤い兎の頑張りもあって、玉蜀黍畑に出現していた普通土竜もいなくなった様子である。もう安心だと話しながら夕暮れのあぜ道を歩いて集落の住処へと戻っていく。
 蜜鈴や望んだ者達は、ベッタが用意した湯浴みで戦いの汚れを洗い流した。
「美味なる肉か」
 蜜鈴は湯船に浸かりながら料理に思いを馳せる。今晩のところはガローアの田舎風料理だが、帰りの際に立ち寄る古都シモフリ堂で宴が開かれるという。ガローアとベッタも参加しての、どんちゃん騒ぎが予定されていた。
 土竜は作物を囓るものの基本は肉食だ。臭みがありそうなので香辛料を効かせた上で、シチューの具材として晩食の卓に並ぶ。肉塊に脂部位を乗せてのオーブン焼きも試された。
 晩食後、カインはゴブリンの存在が気になるという。集落の周囲を詳しく調べてみるとのことだ。
「これがシモフリの肉か。なるほど、柔らかくて旨そうな肉だな」
「もし気が変わったら、古都のシモフリ堂まで来てくださいね。待っていますから」
 ガローアからシモフリ肉の塊をもらったカインがでていく。野宿の際、塩を振りかけて焼いたシモフリ肉はとても美味しかったのだが、それは数時間後の出来事である。
 住処に残ったハンター一行は一晩充分に休んだ上で、翌日には馬車で帰路に就いた。ナガケ集落の留守番は、普段古都と集落を往復する運搬人達に任される。ガローアとベッタも古都へと同行するのだった。


 気を利かせたガローアがシモフリのアオタロウを荷馬車に乗せて、古都行きに同行させる。
「アオタロウはおとなしいですね。その鳴き声、お腹空きましたか。玉蜀黍の粒、食べますか?」
 到着までの間、ミオレスカは荷台で一緒に遊んだ。特に何をするのではないのだが、じゃれ合うだけでも充分に楽しかった。
(ああ、安らぐな)
 ザレムも一緒になって、もふもふなお昼寝をする。
 シモフリ堂の一同は事前の連絡によって、集落における巨大土竜出没を知っていた。心配していたようで、退治を伝えると安堵の空気が流れる。シモフリ堂は早々に店仕舞いとなって宴が開かれた。
「思う存分食べてください。お酒も存分に用意しましたので」
 店の代表としてマリーシュが持て成してくれる。店員のセリナとチナサも存分に腕を振るって、次々と料理を作ってくれた。お店で出しているハンバーガーを始めとして、シモフリ肉がふんだんに使われた肉料理が卓へと並べられる。
「よっしゃぁ、肉バルだぜぇ!」
 トリプルJが炙り肉にフォークを突き立てた。愛犬のダックスフントが軽く吠えると、表面だけ茹でられたシモフリの生肉に齧りつく。じっくりと煮込まれたシチュー肉は、トロトロの仕上がり。シモフリ乳から作られたチーズを乗せたハンバーグにも食指が動く。
 ダックスフントが骨をしゃぶっていると、新しい生肉をセリナが運んできてくれる。大いに尻尾を振ってから、床へ置かれた瞬間にむしゃぶりついていた。
「まだまだ時間はあるからな」
「そんなにがっつかなくても大丈夫。まだまだあるからな」
 トリプルJとセリナがいうと、頬に肉片をつけたダックスフントがワンと吠えた。周囲の者達が思わず笑いを零す。
「ほぉ、これは」
 蜜鈴が手にしたカップには白い飲み物が並々と注がれている。単なるシモフリ乳ではなく、酒精の香りが漂う。
「試しに作ってみたんや。味見した分にはイケると思うんやが」
 それはベッタ特製のシモフリ乳酒である。冷蔵庫でヒンヤリと冷やしてあった。軽く一口飲んだ蜜鈴が微笑み、ベッタも別の一杯を頂いた。
「おかげさんで、ええもん知ることができたで」
 ベッタは乳酒を気に入った様子である。おかげで新しい飲み物が提供できると、シモフリ堂の料理人達も喜んでいた。
「シモフリ肉を本格的に味わってもらうのなら、まず塊肉がいいと思いまして」
 ガローアが運んできたシモフリステーキに蜜鈴がナイフを入れる。すっと切れるほど柔らかく、噛む度に肉汁と脂が溢れだす。
「これは旨い。評判になるのは道理じゃ」
「誉めて頂いて恐縮です」
「じゃが、何よりも肴となるは無事に安心した皆の笑顔じゃのう……。此度の良き縁に、感謝じゃ」
 蜜鈴がガローア、ベッタと乾杯。すると周囲の卓へと次々に伝わっていく。宴の席はより盛りあがりをみせた。
「久しぶりのシモフリ料理だから、楽しみにしてたんだ」
 リューリは自ら料理の腕を振るう。シモフリ乳とバターをふんだんに使ったホットケーキ。さらにシモフリ乳のアイスクリームを皿に添える。
「熱いのに、冷たいもんを合わせるんか? どれ……」
 ホットケーキを口にしたベッタが目を丸くする。「旨すぎるわ。こういう食べ方もあるんやな」と感心すること仕切りだ。リューリ自身もホットケーキを頂く。
「これ、好きかも」
 次にリューリが口にしたのはローストビーフならぬ、ローストシモフリだ。主に赤身肉の部分が使われていたものの、ほんのりと脂の旨味も感じられる。ミオレスカも気に入ったようで、頬に手を当てながら笑みを浮かべて身体を左右に揺らす。
「ローストシモフリ、美味しいね」
「本当です。赤身肉なのに口の中にいれた途端、とろけるようで」
 リューリとミオレスカはローストシモフリを堪能した後で、新メニューとなったピザも味わった。シモフリチーズとハムのコラボレーションだ。熱々の一切れは、極上の幸せを感じさせてくれる。
「シモフリのお肉と、乳製品は、やはり、別格ですね」
 美味しそうに食べるミオレスカに誘われて、ザレムが「どれ」といいながらピザを一切れ。瞬く間に二切れ目に手を出したのは、言うまでもない。
「これほどとはな。シモフリの旨さは相変わらずだ。この串焼きもなかなかだぞ」
 ザレムは厨房からシモフリ肉の串焼きを運んでくる。卓の一同で舌鼓を打っていると、ふと思いだしたように話しだした。
「俺が作ったカレーも味わってもらえたら嬉しいんだが。あ、すまないな、ガローア。持ってきてくれるなんて」
「ついでだったんで」
 ザレムのいる卓へとガローアがカレーライスを運んでくる。昨日の土竜肉料理は可もなく不可もなくといった一皿だったが本日のは違う。
「旨味を残しての、野趣溢れるカレーに仕上がっていますよ」
「あの土竜がこんな味になるなんて」
 ガローアとミオレスカが、じっくりとカレーを味わった。ちなみにアオタロウは店員達の人気を集めていた。
「悔しかったんで、いろいろと工夫したんだぜ。特に香辛料とか」
 ザレムも土竜カレーの味を確かめる。シモフリ肉とはまったく違った肉質だが、これはこれで美味しい。
 万歳丸はとても物静かに食事をしていた。普段は賑やかで、とても目立つ彼なのだが、気にしなければわからないほどの存在感のなさである。
 ガローアが卓へとステーキを運んだ。すでに万歳丸はシモフリ肉のステーキを三皿分平らげていた。
「気に入ってもらえたみたいですね」
 ガローアの一言に、座っていた万歳丸が顔をあげる。
「こんなに肉、初めてでよォ。口ィン中で溶けるなんて」
 万歳丸は湯気立つソースがけの一切れをフォークに刺して眺めてから頬張った。「これが……肉だとしたら……、俺が食ってきたのはなンだったンだ……?」美味さに頬が緩んで、目尻が垂れる。
「美味しいですよね。脂がしつこくないのもシモフリ肉の特長なんです」
 ガローアも自分のステーキ皿に手をつけた。そしてソースについて万歳丸と意見を交わす。岩塩のみで味付けもよいが、やはり様々なソースを試すのはやめられないと。そんな二人がいる卓の前で、ステラが立ち止まる。
「万歳丸、すごい食べっぷりだな。ステーキは確かに美味いが、ローストシモフリがすごいってミオレスカがいってたぜ。オレも味わってみたが、確かに凄まじかったな」
「な、何? それは真かァ!」
「おーよ。仕方ねぇな。とってきてやるよ」
 万歳丸が驚愕した姿にくすりと笑いつつ、ステラはローストシモフリがたっぷりと盛られた皿を運んできた。綺麗に並べられた肉片に、ソースで模様が描かれている。先にステラが一枚頂いて「こいつは痺れるぜ」と呟く。
 万歳丸は、ひたすらに頬張る。食べ終わった後の、感嘆のため息がすべてを物語っていた。
 盛りあがりが最高潮に達しようとした頃、楽器演奏が始まって何人かが踊りだす。唄う仲間も現れて、宴はより賑やかになっていった。
「みんながまだ元気なうちに」
「そやな。あれや、あれ」
 ガローアとベッタが運んできたのは、綺麗に磨かれた巨大土竜の爪である。一番立派で綺麗なのを選んで持ってきていた。それに一人一人、サインを入れていく。この日、この場にいた全員の名前をだ。
 玄関口からノックが聞こえてきた。ガローアは「もしかして」と迎えにでる。まだ宴は中盤に差し掛かったばかり。夜遅くまで楽しい時間は続いた。

 数ヶ月後、シモフリ堂の店員だったセリナとチナサはナガケ集落へと入居した。ガローアとベッタと共に新しい一歩を踏みだす。
「アオタロウ、元気ですか」
「よお」
 ミオレスカを始めとした、これまで関わりのあったハンター達がたまに立ち寄ってくれる。これからもナガケ集落は着実に一歩一歩前へと前進していくのだった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズールka0878
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカka3496
  • Rot Jaeger
    ステラ・レッドキャップka5434

重体一覧

参加者一覧

  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • Rot Jaeger
    ステラ・レッドキャップ(ka5434
    人間(紅)|14才|男性|猟撃士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ステラ・レッドキャップ(ka5434
人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/07/04 21:16:55
アイコン 土竜叩き作戦
ミオレスカ(ka3496
エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/07/06 19:08:51
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/04 21:43:14