ゲスト
(ka0000)
路地裏工房コンフォートと銀婚式
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/08 07:30
- 完成日
- 2017/07/17 01:51
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●モニカへ
ピノちゃんは元気ですか?
風邪をぶり返してませんか?
何が有ったのかは知らないけど、手紙はちゃんと読まないとダメ!
モニカが置いていったパンとか、缶詰とか、うちで預かってます。
手紙は挟んでおくので、ちゃんと読みなさい!
追伸 私だって、モニカとピノちゃんの味方だからね
●
朝、家の施錠とカーテンを確かめに、モニカはピノを抱えて窓やドアを順に確かめていく。
昨日、外出中にトラブルが発生した。
それを伝えに来た友人の前で慌てたモニカは、その時に友人から渡されたメモを読まず、抱えていた買い物の袋も放り出して家に閉じこもっていた。
工房のドアを見ると施錠は成されていたが、隙間に一通の便箋と皺を丁寧に伸ばされたメモが挟まっていた。
便箋はモニカを気遣う友人からのもの、メモは昨日読まずに落としてしまったものだ。
危機を知らせ、ハンターを頼れといった趣旨のもので、サインの名前にも覚えが有った。
モニカはそれらを畳むと施錠の確認の作業に戻った。
丸一日経って、翌朝。
モニカは返事をドアに挟んだ。
手紙を読んだ。
もし、これに気が付いてくれたなら、頼みたいことと、話したいことがある。
それを回収した友人が工房のドアをノックした。
「……わーたーしー。大丈夫、他に誰もいないよ」
ややあって、鍵が開けられる。
工房へ入ると、すぐに戸が締められた。
頼みって。そう尋ねると、天鵞絨張りの小さな箱が差し出された。
時計屋の店主の妻からの依頼らしい。古い指輪の修理を頼まれていたという。
「……これ、渡してほしいの。明後日から旅行だって言ってたから」
「――もう! 分かったけど! 渡すけど! もっと、優先することがあるでしょ!」
●
友人の言葉にモニカは笑った。
胸に抱えた幼子をあやしながら静かに、大丈夫だと。
「……私の姉さん、すごく強かったの。ハンターには負けるけど、ただの人間には負けない。私も、……そうなろうと思う。姉さんみたいな力が合ったら、ピノを守れるから」
先日に比べて落ち着きを取り戻した様子に友人は安堵ずるが、怪訝そうに眉を寄せた。
「今から鍛えるつもり? 無茶なこと言ってないで、ちゃんと守って貰いなさい。……ピノちゃん、大っきくなってきて、抱っこし続けるのも大変でしょ? まだやっと這い這いするくらいだし、モニカ1人で守るよりもいいでしょ?」
モニカは黙って首を横に揺らした。
「私が言うのも変だけどさ……」
人見知りで、護衛を頼んだハンターまで怖がっていたのは自分の方だと友人は懐かしそうに目を細める。
ハンターさん、怖くないよ。と、モニカの表情を覗き込む。
モニカはピノをあやしながら微笑んでいた。
「……信じて貰えるかは分からないけど、私の伯父さんは……
……伯父さんの師匠さんはすごいお家に支援して貰ってたんだって。
伯父さんは、そのお家のお嬢様がお嫁に行った先で、ネックレスを作るのを頼まれてた。
私も伯父さんの手伝いで、時々連れて行って貰って……あ、だから、貴族のお客さんも平気なの。
そのお嬢様……奥様って呼ばれてたけど、伯父さんはそう呼んでたかな……
とても優しい人だった。
旅行好きな人で、綺麗な海の話しとか、遠くの街の話とか……色んな場所の話しを聞かせてくれた。
あの日、メイドさんが来たの。
初めて会う人で、赤ちゃんを抱えていた。
そのメイドさんが、私と伯父さんを見てびっくりしてて……
そしたら、奥様がすごく怒って、すごく怖くて……
いつも優しくて、私がお茶を零した時も笑って許してくれたし、怒ってる所なんて見たことなかった。
でも、その時は、すごく怒って、赤ちゃんを、殺そうとしたの。
その赤ちゃんがこの子。ピノっていうのは、私が付けた名前」
友人は黙っていた。
恐らく、先日のトラブルの際に何等かの情報を得ていたのだろう。
「伯父さんが止める声は聞こえたし、奥様も……本当に怒ってたのか分からない。
もしかしたら、ピノは助けちゃダメだったのかもしない。
ハンターさんも、そう思ってるのかも……だから――ううん、何でも無い。ごめんね。
でも、ピノは絶対に守りたい。私の可愛い弟だから。
……だから、だれにも、いわないで。お願い」
●
友人は頷くと箱を持って工房を出た。
時計屋に届け、夫婦でフマーレへ結婚25年の記念に旅行へ行くという2人の道中の無事を祈り、ハンターオフィスへの道案内を引き受ける。
指輪の仕上がりに、モニカへの礼を言いたいと言った妻に、伝えておくと引き受けて。
先日の噂を聞いた時計屋が、捜されていたのはモニカのことかと尋ねるのを人違いだと誤魔化して。
オフィスに夫妻のフマーレまでの護衛の依頼が掲示されたのを見届ける。
今後のことを考えて、オフィスの軒先を彷徨いて帰れずにいると、その依頼を引き受けたらしいハンターが通り掛かった。
明後日の出発までなら相談に乗る。
その言葉に少し迷ってから落ち付いた声で答えた。
「怖い目に遭った友達が身体を鍛えようとしてて……その怖い目のせいで、依頼を出すのも嫌みたいなんです。誰にも言わないって約束したから、私が勝手にお願いするのも……ちょっと、ね? 今はハンターさんも怖がると思うから、そっとしておいてあげたいんですけど……」
友人を心配する言葉を連ねて、やっぱり説得してみます、と、周囲を気にしながらコンフォートへ向かった。
ピノちゃんは元気ですか?
風邪をぶり返してませんか?
何が有ったのかは知らないけど、手紙はちゃんと読まないとダメ!
モニカが置いていったパンとか、缶詰とか、うちで預かってます。
手紙は挟んでおくので、ちゃんと読みなさい!
追伸 私だって、モニカとピノちゃんの味方だからね
●
朝、家の施錠とカーテンを確かめに、モニカはピノを抱えて窓やドアを順に確かめていく。
昨日、外出中にトラブルが発生した。
それを伝えに来た友人の前で慌てたモニカは、その時に友人から渡されたメモを読まず、抱えていた買い物の袋も放り出して家に閉じこもっていた。
工房のドアを見ると施錠は成されていたが、隙間に一通の便箋と皺を丁寧に伸ばされたメモが挟まっていた。
便箋はモニカを気遣う友人からのもの、メモは昨日読まずに落としてしまったものだ。
危機を知らせ、ハンターを頼れといった趣旨のもので、サインの名前にも覚えが有った。
モニカはそれらを畳むと施錠の確認の作業に戻った。
丸一日経って、翌朝。
モニカは返事をドアに挟んだ。
手紙を読んだ。
もし、これに気が付いてくれたなら、頼みたいことと、話したいことがある。
それを回収した友人が工房のドアをノックした。
「……わーたーしー。大丈夫、他に誰もいないよ」
ややあって、鍵が開けられる。
工房へ入ると、すぐに戸が締められた。
頼みって。そう尋ねると、天鵞絨張りの小さな箱が差し出された。
時計屋の店主の妻からの依頼らしい。古い指輪の修理を頼まれていたという。
「……これ、渡してほしいの。明後日から旅行だって言ってたから」
「――もう! 分かったけど! 渡すけど! もっと、優先することがあるでしょ!」
●
友人の言葉にモニカは笑った。
胸に抱えた幼子をあやしながら静かに、大丈夫だと。
「……私の姉さん、すごく強かったの。ハンターには負けるけど、ただの人間には負けない。私も、……そうなろうと思う。姉さんみたいな力が合ったら、ピノを守れるから」
先日に比べて落ち着きを取り戻した様子に友人は安堵ずるが、怪訝そうに眉を寄せた。
「今から鍛えるつもり? 無茶なこと言ってないで、ちゃんと守って貰いなさい。……ピノちゃん、大っきくなってきて、抱っこし続けるのも大変でしょ? まだやっと這い這いするくらいだし、モニカ1人で守るよりもいいでしょ?」
モニカは黙って首を横に揺らした。
「私が言うのも変だけどさ……」
人見知りで、護衛を頼んだハンターまで怖がっていたのは自分の方だと友人は懐かしそうに目を細める。
ハンターさん、怖くないよ。と、モニカの表情を覗き込む。
モニカはピノをあやしながら微笑んでいた。
「……信じて貰えるかは分からないけど、私の伯父さんは……
……伯父さんの師匠さんはすごいお家に支援して貰ってたんだって。
伯父さんは、そのお家のお嬢様がお嫁に行った先で、ネックレスを作るのを頼まれてた。
私も伯父さんの手伝いで、時々連れて行って貰って……あ、だから、貴族のお客さんも平気なの。
そのお嬢様……奥様って呼ばれてたけど、伯父さんはそう呼んでたかな……
とても優しい人だった。
旅行好きな人で、綺麗な海の話しとか、遠くの街の話とか……色んな場所の話しを聞かせてくれた。
あの日、メイドさんが来たの。
初めて会う人で、赤ちゃんを抱えていた。
そのメイドさんが、私と伯父さんを見てびっくりしてて……
そしたら、奥様がすごく怒って、すごく怖くて……
いつも優しくて、私がお茶を零した時も笑って許してくれたし、怒ってる所なんて見たことなかった。
でも、その時は、すごく怒って、赤ちゃんを、殺そうとしたの。
その赤ちゃんがこの子。ピノっていうのは、私が付けた名前」
友人は黙っていた。
恐らく、先日のトラブルの際に何等かの情報を得ていたのだろう。
「伯父さんが止める声は聞こえたし、奥様も……本当に怒ってたのか分からない。
もしかしたら、ピノは助けちゃダメだったのかもしない。
ハンターさんも、そう思ってるのかも……だから――ううん、何でも無い。ごめんね。
でも、ピノは絶対に守りたい。私の可愛い弟だから。
……だから、だれにも、いわないで。お願い」
●
友人は頷くと箱を持って工房を出た。
時計屋に届け、夫婦でフマーレへ結婚25年の記念に旅行へ行くという2人の道中の無事を祈り、ハンターオフィスへの道案内を引き受ける。
指輪の仕上がりに、モニカへの礼を言いたいと言った妻に、伝えておくと引き受けて。
先日の噂を聞いた時計屋が、捜されていたのはモニカのことかと尋ねるのを人違いだと誤魔化して。
オフィスに夫妻のフマーレまでの護衛の依頼が掲示されたのを見届ける。
今後のことを考えて、オフィスの軒先を彷徨いて帰れずにいると、その依頼を引き受けたらしいハンターが通り掛かった。
明後日の出発までなら相談に乗る。
その言葉に少し迷ってから落ち付いた声で答えた。
「怖い目に遭った友達が身体を鍛えようとしてて……その怖い目のせいで、依頼を出すのも嫌みたいなんです。誰にも言わないって約束したから、私が勝手にお願いするのも……ちょっと、ね? 今はハンターさんも怖がると思うから、そっとしておいてあげたいんですけど……」
友人を心配する言葉を連ねて、やっぱり説得してみます、と、周囲を気にしながらコンフォートへ向かった。
リプレイ本文
●
薬屋の娘に気付いた鞍馬 真(ka5819)が久しぶりと声を掛ける。
元気そうな様子を見ると、娘も鞍馬のことを思い出したらしく緊張を緩めて頭を下げる。
リアリュール(ka2003)とカリアナ・ノート(ka3733)がモニカの様子を尋ねると、娘は言い淀んでから元気にしていると応えた。
見覚えの無いハンターに気付くと、声を潜め、弟と家にいる、指輪の修理を終えていたみたいだから、きっと元気だと思うと答えた。
先日の不安は収まっているらしい様子にほっとする。
どうしたいかは彼女自身が決めることだから口出しはしない。
そう前置きしながらも、リアリュールは紫の双眸を優しげに細める。
「私たちはモニカちゃんの気持ちを大事にしたいと思ってることを伝えてほしいな」
カリアナもモニカのことは、今は彼女に任せた方が良さそうだと頷いた。
「えっと。あのね。今は、黙って傍に居てあげて欲しい、わ。今はその方がいい、のかも……」
もしかしたら、説得して貰った方が、もっと傍で力になりたいと胸が軋む。
きっと不安がっているだろう彼女を、どうすれば元気づける事が出来るだろう。
伝えて貰う言葉さえ、思い付かない。
鞍馬はふと首を傾げて娘を見る。
モニカという少女、娘の言うところの友人、懐かしく思い出される若々しく溌剌とした2人。
モニカと直接の面識は無いが、去年の秋、その短い季節に深く関わった知人の依頼を仲介した少女だろう。
彼等から世話になったと聞いている。他人事にはできない。ハンターを頼るという選択肢を、頭の片隅にでも置いておいてくれれば。
「頼ることを無理に押し付ける気は無いが、ハンターとしてでも、私個人としてでも力になるよ」
鞍馬からの言葉に娘は頷き伝えておくと言った。
Gacrux(ka2726)が軽い挨拶を、娘も会釈でそれに応じる。
話しを聞いていた榊 兵庫(ka0010)とクオン・サガラ(ka0018)も、娘の友人の状況を憂えるように声を掛けた。
「……現時点では我々に協力出来ることはあまりないな」
確かめる様な榊の声に娘は躊躇いながらも頷いた。
「他者に対しての信頼する気持ちを取り戻さない限りはどのような働きかけもやぶ蛇になるだろうな。今は静観する他あるまい」
その上で思うところがあれば聞かせて欲しいと娘に問う。
娘は詳細を詳らかにすることは無かったが、鍛えようとしている友人が、先日リアリュールやカリアナ、ガクルックスが探していた少女で、鞍馬が依頼人から聞いているモニカだと話し、心配していたことは伝えておくと言ってハンター達を見回した。
「自衛もいいですけど、生半可に鍛えても却って危険ですので、必要なら協力します」
呼び止める様にクオンが告げた。その生兵法で痛い目を見ているのが自身の現状だと肩を竦めながら。
それを伝えてくれと言い残し、クオンはその場を離れる。
身体を鍛える事で前向きになれるなら、と、リアリュールも声を掛ける。
「ピノ君とできる体操なんかどうかしら?」
娘は瞬いてリアリュールを見る。ピノのことをとても気にしていたから、それは良いかも知れないと。
話しが落ち付いた頃、ガクルックスが娘を呼ぶ。
薬屋でしたねと問えば娘は少し身構えながら頷いた。
「だから……私が勝手にお話ししたり、お願いして、モニカに信用されなくなってしまうと、よく風邪を引いちゃう弟の薬を買いに来れる店が、モニカの近所になくなってしまうので」
自分が信頼出来るだけではだめだと項垂れて、すみませんと娘はハンター達に再度頭を下げた。
気を遣っていると言えば、薬屋に来る客は心身共に参っている人も多いからと苦笑いで。
逸れる話しを繋ぎながら
「こういうことを尋ねるのは憚られますがねえ……」
薬屋に聞きたいと事があると言えば娘は表情を切り替える。
「意図的に流産させる……」
遮る様に、医師にしか売っていないと答えた。
「いえ、それに伴って病を起こすようなもの……症状は、確か」
窶れた女性の様子を、告げながら娘の反応を覗う。
娘は暫く考えて溜息を吐いた。抑も強い薬だと答えて首を傾げ、その病気が流産の原因ではないかと問い返す。
未だに印象は拭えないのか、距離を取りながら不躾な目でガクルックスを覗っている。
モニカとピノに関わる女性を伏せようとする余り抱かれた、有らぬ疑いを払う様に辟易と手を払う。
もう1つ、と娘の顔色を見ながら尋ねる。
「治療に使う劇薬に心当たりは無いですかねえ?」
「ありますよ。多くは無いですが。……発作を抑えるために普通の人が飲むと危ない薬が必要なことも、病気自体が治らない時に、痛みだけでも抑える物……」
訝しむ目がガクルックスの顔を見て、あなたに必要そうには見えないと呟いた。
お友達が使われているんですか、と、少し慣れた様子で娘が尋ねた。曖昧に応じると、危ない様に思うかも知れないけれど前置きを、大切な薬だから取り上げてはだめですよ。そう、薬屋の顔で真摯に告げた。
●
リアリュールは仲間と別れ、出発までの空いた時間にハンターオフィスを訪ねる。
街道の地図とゴブリンや雑魔の出現状況の情報を求めると、受付嬢がテーブルに地図を広げながら話す。
リアリュールに道順を確認しながら地図を辿ると、その付近での目撃例は少ないと答えた。
「ハンターさん達が守って通るなら安全と行って良いでしょう。勿論、十分な注意は必要ですが……それよりも、行き先はフマーレでしたね。騒ぎは落ち着いた様に思えますが、到着してからも、注意は怠らないようにとお伝え下さい」
出発前に集まるハンター達へそれを伝える。ハンター達はそれぞれ心に留め置くと頷いた。
「最近は……本当に物騒です」
クオンが街道を眺めながら呟いた。
トランシーバーの状態を確かめてバイクに跨がると、軽い金属音を立ててを銀の彩るバイザーを下ろした。
荷を積み終えた夫婦が馬車に乗る。
「銀婚式を記念した旅行ですか」
榊が声を掛けると妻が身を乗り出す様に頷いた。
「安心して頂いて宜しいですよ。わたしを含めてそれなりの手練れが揃っていますから。道中の安全は保証させて頂きます」
旅は初めてだという彼女に、微笑んで胸を張る。
馬を馬車の前へ進め、運転席で手綱を執る夫へも振り返って祝いの言葉を掛けた。
「ご結婚25周年? おめでとうございます!」
リアリュールも妻の座る助手席の方へと馬を寄せて声を掛けた。
銀婚の年数に首を傾げると、妻は微笑んでそれを肯定し、溌剌とした声で礼を告げた。
「楽しい旅になるように、しっかりお護りさせていただきますね」
フマーレは夫が若い頃に修行を積んだ街だという。
初めての旅も、見知らぬ街も、夫の思い出の場所も、全てが今からとても楽しみだと楽しそうに笑っている。
「必ず無事に送り届けます。では」
先行するクオンがバイクを動かすエンジン音に、鞍馬も鐙を踏み込み馬に跨がる。
横腹を押し促すとクオンと並んで街道を出発した。
ガクルックスが運転席側に馬を寄せる。先行した2人を除くハンター達で馬車を囲うと、榊が出発を告げる。
榊の声がトランシーバーに届くと、2人は馬車との距離を保ちながら周囲を警戒しつつ進んでいく。
街道を行く馬車は穏やかに、揺れが心地良いのか、夫婦の表情は微睡む様にさえ見える。
「……あの街には、長くお住まいで?」
ガクルックスが声を掛けると、夫は手綱をゆったりと握り直して頷く。
では、同盟のことにもお詳しいのでしょうかねえ。評議会や長老会で通った名前を挙げれば夫は頷き、妻は誰かしらと首を傾げる。
近くにも貴族の屋敷があると言えば、何方かしらと妻はお喋りに興じ、夫は欠伸を1つ零した。
「塀で囲われ、随分と古い建物のようですが……あそこには、どのような方が住んでいるので?」
表札にはヴィスカルディとあったと話すと、妻は深く考えぬ様子で知らないと答え、夫は雲の流れる空を仰いでいた。
話を聞きながらリアリュールは妻の指に指輪を見付ける。
それ、と声を掛けると妻が嬉しそうに笑った。
まだ若い頃、夫からの贈り物。仕舞い込んで傷んでいたが、頼んだ修理が丁度旅行に間に合ったらしい。
「モニカちゃんのところね」
促す様に話しを向けて、夫婦の様子をじっと覗う。
指輪の修理の経緯を話す言葉の端々に、少女と幼子が二人きりのあの店を、気に掛けているらしい様子が垣間見えた。
少しの安堵を得て、視線を周囲の木々へ移す。
先が少し暗くなっている。
榊のトランシーバーには安全に通り抜けられると届いているが、不意に飛び出してこないとも限らないだろうから。
この辺りは一本道だ。
深い陰りを警戒し森まで分け入ったクオンは、道に戻ると藍の鎧に貼り付いてきた枯れ葉を払い、路肩に止めたバイクを走らせる。道を行きながら左右の茂みや、青々と伸び出してくる枝を眺める。
守る対象がいる以上、戦うよりも迂回出来るならその方が良い。が、回れそうな道は暫く無い。
この先で遭遇すると想定するなら。
「挟撃を取られない様に、敵の陣形を崩したいと思います」
エンジン音に負けず良く通る声。
鞍馬も頷き、馬をバイクに並ばせる。
奇襲を警戒し、死角や影に長く伸びた茂みに向けていた目がクオンに向いた。
「そうだな、警戒を続けよう」
先は少し開けている。明るい道に出たからと言って、油断は出来ない。
トランシーバーで榊に連絡を取ると、馬車の安全と、依頼人の穏やかな様子が伝えられた。
●
葉の擦れる音を聞いた。距離はあるが、風のそれとは異なっている。
こちらに気付いた様子は無いが接近している。鞍馬に声を掛けてバイクを止める。
鞍馬は馬の首を茂みへ向けて歩みを止めさせ、陰りの先を見据える。
剣を抜き払う瞬間、青い瞳を金に輝かせる。温い風が髪を揺らして吹き抜けていく。
トランシーバーで榊に連絡を、すぐにリアリュールが応じて夫婦に馬車を止めさせた声も聞こえた。
ガクルックスの身体に一瞬の浮遊感、それが馴染むと鋭い白銀を頂く厚い長柄を軽々と構えて、瞼を撫でる様に青い紋様の走った目を静かに瞬いた。
虹色に輝いた髪を靡かせ、リアリュールも得物を取り出す。
指に挟む黒い手裏剣はその鋭利な先端を燦めかせ、拳銃のグリップはいつでも抜ける様に吊っている。
2人は背後に馬車を庇う様に立ち、先行の2人へ馬車の安全を伝えた。
後方を警戒していたカリアナも得物を構えると、遠方への攻撃に備えて街道を、その周囲を見渡した。
周囲のゴブリンは5匹、数歩を進んだ辺りでこちらに気付いた様子で棍棒を振り上げ走り出す。
距離を推し測り、鞍馬は馬を走らせる。地面を蹴ったしなやかな躯が茂みを踏み越えて木々を分け入る。
馬上から大きく薙いだ血色の刃が、草を切り払い、迫る敵の足を止める。
その馬の影、突撃用に小型化された自動小銃を抱える様に構え、銃の機構を介して放たれた三条の光りが、それぞれに敵を貫いた。
「……こちらだけですか? 馬車の方は」
「まだ動くものが残っているか、――」
木の葉が舞い、落とされた矢、マテリアルを纏った鋭いそれが、クオンの追撃に倒れていたゴブリンへ止めを刺す。
振り返る2人が、次の矢を番える榊を見た。
こちらへの援護に馬車の無事を知る。
「……別段弓が不得手というわけではないからな。本職には及ばぬが、射撃の真似事くらいはしてみせよう」
前方でのゴブリンの出没を聞いた。馬車の守りはガクルックスとリアリュールが整え警戒している。
ここまで接近してくる様子は無いが、敵の接近を許す必要も無い。
鎧う身体に、顔に、マテリアルと呼応する無数の傷が幻影となり蘇る。
しなやかな長弓に番えて狙いを澄ませ矢を放つ。慌てた様に飛び出してきたもう1匹へ、更に後方から水の礫が放たれた。
「依頼人さん達の安全最優先ね」
礫に弾かれたゴブリンは先行の2人がすぐに斃すが、戦いの気配に夫婦と、馬車の馬は落ち付かない。
リアリュールは馬を半歩、歩ませて馬車の馬に並べると声を掛けて宥め、夫婦を振り返り励ます。
「大丈夫よ、じっとしていて」
残り2匹。クオンは銃口を向けマテリアルを込めて引き金を引く。
1匹が斃れると残りの1匹へ鞍馬がマテリアルに研ぎ澄まされた刃を振り下ろした。
衝撃に騒いだ草がやがて静まり、夏の温い風に揺らされる得物を収めて道へ、クオンがバイクに跨がると馬車の仲間へ連絡を取る。
道に転がった屍は茂みの下へ。馬車の通行に差し障りは無いだろう。
思わず手を取り合っていた夫婦が馬車を進め始めると、周りを守っていたハンター達も歩みを合わせて馬を進ませる。
「ゴブリンが一度出たからといって油断しないようにね」
微かな戦闘の痕跡を過ぎ、リアリュールが呟く。
先行する2人も警戒を続けている様で、連絡の間隔もやや短い。
夫婦が笑みを取り戻す頃、目的地の街並みが遠く覗え、その後何事も無く辿り着いた。
ハンター達に礼を告げ、夫婦は街へ向かっていく。
不意に夫が足を止め、ハンター達を振り返った。
さっきのあれ。あれだ。と、ガクルックスを見て、何かを指す様に指を揺らす。
「ヴィス、何とかさん?」
妻がそれを補う様に話を続けた。
あれの、お祝いの。あれの、花束の絵ね、前衛的な。あれ、額縁かしら。あれだ、裏に。
「そう……私は見てないんだけどもね。お祝いで頂いた絵の額縁の裏に、そんな名前を見たと言うのよ」
何かのお役に立てたかしら。
妻はそう言って、夫と腕を組んで街並みへ歩いて行った。
薬屋の娘に気付いた鞍馬 真(ka5819)が久しぶりと声を掛ける。
元気そうな様子を見ると、娘も鞍馬のことを思い出したらしく緊張を緩めて頭を下げる。
リアリュール(ka2003)とカリアナ・ノート(ka3733)がモニカの様子を尋ねると、娘は言い淀んでから元気にしていると応えた。
見覚えの無いハンターに気付くと、声を潜め、弟と家にいる、指輪の修理を終えていたみたいだから、きっと元気だと思うと答えた。
先日の不安は収まっているらしい様子にほっとする。
どうしたいかは彼女自身が決めることだから口出しはしない。
そう前置きしながらも、リアリュールは紫の双眸を優しげに細める。
「私たちはモニカちゃんの気持ちを大事にしたいと思ってることを伝えてほしいな」
カリアナもモニカのことは、今は彼女に任せた方が良さそうだと頷いた。
「えっと。あのね。今は、黙って傍に居てあげて欲しい、わ。今はその方がいい、のかも……」
もしかしたら、説得して貰った方が、もっと傍で力になりたいと胸が軋む。
きっと不安がっているだろう彼女を、どうすれば元気づける事が出来るだろう。
伝えて貰う言葉さえ、思い付かない。
鞍馬はふと首を傾げて娘を見る。
モニカという少女、娘の言うところの友人、懐かしく思い出される若々しく溌剌とした2人。
モニカと直接の面識は無いが、去年の秋、その短い季節に深く関わった知人の依頼を仲介した少女だろう。
彼等から世話になったと聞いている。他人事にはできない。ハンターを頼るという選択肢を、頭の片隅にでも置いておいてくれれば。
「頼ることを無理に押し付ける気は無いが、ハンターとしてでも、私個人としてでも力になるよ」
鞍馬からの言葉に娘は頷き伝えておくと言った。
Gacrux(ka2726)が軽い挨拶を、娘も会釈でそれに応じる。
話しを聞いていた榊 兵庫(ka0010)とクオン・サガラ(ka0018)も、娘の友人の状況を憂えるように声を掛けた。
「……現時点では我々に協力出来ることはあまりないな」
確かめる様な榊の声に娘は躊躇いながらも頷いた。
「他者に対しての信頼する気持ちを取り戻さない限りはどのような働きかけもやぶ蛇になるだろうな。今は静観する他あるまい」
その上で思うところがあれば聞かせて欲しいと娘に問う。
娘は詳細を詳らかにすることは無かったが、鍛えようとしている友人が、先日リアリュールやカリアナ、ガクルックスが探していた少女で、鞍馬が依頼人から聞いているモニカだと話し、心配していたことは伝えておくと言ってハンター達を見回した。
「自衛もいいですけど、生半可に鍛えても却って危険ですので、必要なら協力します」
呼び止める様にクオンが告げた。その生兵法で痛い目を見ているのが自身の現状だと肩を竦めながら。
それを伝えてくれと言い残し、クオンはその場を離れる。
身体を鍛える事で前向きになれるなら、と、リアリュールも声を掛ける。
「ピノ君とできる体操なんかどうかしら?」
娘は瞬いてリアリュールを見る。ピノのことをとても気にしていたから、それは良いかも知れないと。
話しが落ち付いた頃、ガクルックスが娘を呼ぶ。
薬屋でしたねと問えば娘は少し身構えながら頷いた。
「だから……私が勝手にお話ししたり、お願いして、モニカに信用されなくなってしまうと、よく風邪を引いちゃう弟の薬を買いに来れる店が、モニカの近所になくなってしまうので」
自分が信頼出来るだけではだめだと項垂れて、すみませんと娘はハンター達に再度頭を下げた。
気を遣っていると言えば、薬屋に来る客は心身共に参っている人も多いからと苦笑いで。
逸れる話しを繋ぎながら
「こういうことを尋ねるのは憚られますがねえ……」
薬屋に聞きたいと事があると言えば娘は表情を切り替える。
「意図的に流産させる……」
遮る様に、医師にしか売っていないと答えた。
「いえ、それに伴って病を起こすようなもの……症状は、確か」
窶れた女性の様子を、告げながら娘の反応を覗う。
娘は暫く考えて溜息を吐いた。抑も強い薬だと答えて首を傾げ、その病気が流産の原因ではないかと問い返す。
未だに印象は拭えないのか、距離を取りながら不躾な目でガクルックスを覗っている。
モニカとピノに関わる女性を伏せようとする余り抱かれた、有らぬ疑いを払う様に辟易と手を払う。
もう1つ、と娘の顔色を見ながら尋ねる。
「治療に使う劇薬に心当たりは無いですかねえ?」
「ありますよ。多くは無いですが。……発作を抑えるために普通の人が飲むと危ない薬が必要なことも、病気自体が治らない時に、痛みだけでも抑える物……」
訝しむ目がガクルックスの顔を見て、あなたに必要そうには見えないと呟いた。
お友達が使われているんですか、と、少し慣れた様子で娘が尋ねた。曖昧に応じると、危ない様に思うかも知れないけれど前置きを、大切な薬だから取り上げてはだめですよ。そう、薬屋の顔で真摯に告げた。
●
リアリュールは仲間と別れ、出発までの空いた時間にハンターオフィスを訪ねる。
街道の地図とゴブリンや雑魔の出現状況の情報を求めると、受付嬢がテーブルに地図を広げながら話す。
リアリュールに道順を確認しながら地図を辿ると、その付近での目撃例は少ないと答えた。
「ハンターさん達が守って通るなら安全と行って良いでしょう。勿論、十分な注意は必要ですが……それよりも、行き先はフマーレでしたね。騒ぎは落ち着いた様に思えますが、到着してからも、注意は怠らないようにとお伝え下さい」
出発前に集まるハンター達へそれを伝える。ハンター達はそれぞれ心に留め置くと頷いた。
「最近は……本当に物騒です」
クオンが街道を眺めながら呟いた。
トランシーバーの状態を確かめてバイクに跨がると、軽い金属音を立ててを銀の彩るバイザーを下ろした。
荷を積み終えた夫婦が馬車に乗る。
「銀婚式を記念した旅行ですか」
榊が声を掛けると妻が身を乗り出す様に頷いた。
「安心して頂いて宜しいですよ。わたしを含めてそれなりの手練れが揃っていますから。道中の安全は保証させて頂きます」
旅は初めてだという彼女に、微笑んで胸を張る。
馬を馬車の前へ進め、運転席で手綱を執る夫へも振り返って祝いの言葉を掛けた。
「ご結婚25周年? おめでとうございます!」
リアリュールも妻の座る助手席の方へと馬を寄せて声を掛けた。
銀婚の年数に首を傾げると、妻は微笑んでそれを肯定し、溌剌とした声で礼を告げた。
「楽しい旅になるように、しっかりお護りさせていただきますね」
フマーレは夫が若い頃に修行を積んだ街だという。
初めての旅も、見知らぬ街も、夫の思い出の場所も、全てが今からとても楽しみだと楽しそうに笑っている。
「必ず無事に送り届けます。では」
先行するクオンがバイクを動かすエンジン音に、鞍馬も鐙を踏み込み馬に跨がる。
横腹を押し促すとクオンと並んで街道を出発した。
ガクルックスが運転席側に馬を寄せる。先行した2人を除くハンター達で馬車を囲うと、榊が出発を告げる。
榊の声がトランシーバーに届くと、2人は馬車との距離を保ちながら周囲を警戒しつつ進んでいく。
街道を行く馬車は穏やかに、揺れが心地良いのか、夫婦の表情は微睡む様にさえ見える。
「……あの街には、長くお住まいで?」
ガクルックスが声を掛けると、夫は手綱をゆったりと握り直して頷く。
では、同盟のことにもお詳しいのでしょうかねえ。評議会や長老会で通った名前を挙げれば夫は頷き、妻は誰かしらと首を傾げる。
近くにも貴族の屋敷があると言えば、何方かしらと妻はお喋りに興じ、夫は欠伸を1つ零した。
「塀で囲われ、随分と古い建物のようですが……あそこには、どのような方が住んでいるので?」
表札にはヴィスカルディとあったと話すと、妻は深く考えぬ様子で知らないと答え、夫は雲の流れる空を仰いでいた。
話を聞きながらリアリュールは妻の指に指輪を見付ける。
それ、と声を掛けると妻が嬉しそうに笑った。
まだ若い頃、夫からの贈り物。仕舞い込んで傷んでいたが、頼んだ修理が丁度旅行に間に合ったらしい。
「モニカちゃんのところね」
促す様に話しを向けて、夫婦の様子をじっと覗う。
指輪の修理の経緯を話す言葉の端々に、少女と幼子が二人きりのあの店を、気に掛けているらしい様子が垣間見えた。
少しの安堵を得て、視線を周囲の木々へ移す。
先が少し暗くなっている。
榊のトランシーバーには安全に通り抜けられると届いているが、不意に飛び出してこないとも限らないだろうから。
この辺りは一本道だ。
深い陰りを警戒し森まで分け入ったクオンは、道に戻ると藍の鎧に貼り付いてきた枯れ葉を払い、路肩に止めたバイクを走らせる。道を行きながら左右の茂みや、青々と伸び出してくる枝を眺める。
守る対象がいる以上、戦うよりも迂回出来るならその方が良い。が、回れそうな道は暫く無い。
この先で遭遇すると想定するなら。
「挟撃を取られない様に、敵の陣形を崩したいと思います」
エンジン音に負けず良く通る声。
鞍馬も頷き、馬をバイクに並ばせる。
奇襲を警戒し、死角や影に長く伸びた茂みに向けていた目がクオンに向いた。
「そうだな、警戒を続けよう」
先は少し開けている。明るい道に出たからと言って、油断は出来ない。
トランシーバーで榊に連絡を取ると、馬車の安全と、依頼人の穏やかな様子が伝えられた。
●
葉の擦れる音を聞いた。距離はあるが、風のそれとは異なっている。
こちらに気付いた様子は無いが接近している。鞍馬に声を掛けてバイクを止める。
鞍馬は馬の首を茂みへ向けて歩みを止めさせ、陰りの先を見据える。
剣を抜き払う瞬間、青い瞳を金に輝かせる。温い風が髪を揺らして吹き抜けていく。
トランシーバーで榊に連絡を、すぐにリアリュールが応じて夫婦に馬車を止めさせた声も聞こえた。
ガクルックスの身体に一瞬の浮遊感、それが馴染むと鋭い白銀を頂く厚い長柄を軽々と構えて、瞼を撫でる様に青い紋様の走った目を静かに瞬いた。
虹色に輝いた髪を靡かせ、リアリュールも得物を取り出す。
指に挟む黒い手裏剣はその鋭利な先端を燦めかせ、拳銃のグリップはいつでも抜ける様に吊っている。
2人は背後に馬車を庇う様に立ち、先行の2人へ馬車の安全を伝えた。
後方を警戒していたカリアナも得物を構えると、遠方への攻撃に備えて街道を、その周囲を見渡した。
周囲のゴブリンは5匹、数歩を進んだ辺りでこちらに気付いた様子で棍棒を振り上げ走り出す。
距離を推し測り、鞍馬は馬を走らせる。地面を蹴ったしなやかな躯が茂みを踏み越えて木々を分け入る。
馬上から大きく薙いだ血色の刃が、草を切り払い、迫る敵の足を止める。
その馬の影、突撃用に小型化された自動小銃を抱える様に構え、銃の機構を介して放たれた三条の光りが、それぞれに敵を貫いた。
「……こちらだけですか? 馬車の方は」
「まだ動くものが残っているか、――」
木の葉が舞い、落とされた矢、マテリアルを纏った鋭いそれが、クオンの追撃に倒れていたゴブリンへ止めを刺す。
振り返る2人が、次の矢を番える榊を見た。
こちらへの援護に馬車の無事を知る。
「……別段弓が不得手というわけではないからな。本職には及ばぬが、射撃の真似事くらいはしてみせよう」
前方でのゴブリンの出没を聞いた。馬車の守りはガクルックスとリアリュールが整え警戒している。
ここまで接近してくる様子は無いが、敵の接近を許す必要も無い。
鎧う身体に、顔に、マテリアルと呼応する無数の傷が幻影となり蘇る。
しなやかな長弓に番えて狙いを澄ませ矢を放つ。慌てた様に飛び出してきたもう1匹へ、更に後方から水の礫が放たれた。
「依頼人さん達の安全最優先ね」
礫に弾かれたゴブリンは先行の2人がすぐに斃すが、戦いの気配に夫婦と、馬車の馬は落ち付かない。
リアリュールは馬を半歩、歩ませて馬車の馬に並べると声を掛けて宥め、夫婦を振り返り励ます。
「大丈夫よ、じっとしていて」
残り2匹。クオンは銃口を向けマテリアルを込めて引き金を引く。
1匹が斃れると残りの1匹へ鞍馬がマテリアルに研ぎ澄まされた刃を振り下ろした。
衝撃に騒いだ草がやがて静まり、夏の温い風に揺らされる得物を収めて道へ、クオンがバイクに跨がると馬車の仲間へ連絡を取る。
道に転がった屍は茂みの下へ。馬車の通行に差し障りは無いだろう。
思わず手を取り合っていた夫婦が馬車を進め始めると、周りを守っていたハンター達も歩みを合わせて馬を進ませる。
「ゴブリンが一度出たからといって油断しないようにね」
微かな戦闘の痕跡を過ぎ、リアリュールが呟く。
先行する2人も警戒を続けている様で、連絡の間隔もやや短い。
夫婦が笑みを取り戻す頃、目的地の街並みが遠く覗え、その後何事も無く辿り着いた。
ハンター達に礼を告げ、夫婦は街へ向かっていく。
不意に夫が足を止め、ハンター達を振り返った。
さっきのあれ。あれだ。と、ガクルックスを見て、何かを指す様に指を揺らす。
「ヴィス、何とかさん?」
妻がそれを補う様に話を続けた。
あれの、お祝いの。あれの、花束の絵ね、前衛的な。あれ、額縁かしら。あれだ、裏に。
「そう……私は見てないんだけどもね。お祝いで頂いた絵の額縁の裏に、そんな名前を見たと言うのよ」
何かのお役に立てたかしら。
妻はそう言って、夫と腕を組んで街並みへ歩いて行った。
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相談卓 Gacrux(ka2726) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/07/07 22:35:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/04 23:51:33 |