ゲスト
(ka0000)
【繭国】魔術師の弟子とどんど焼き七夕
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/11 19:00
- 完成日
- 2017/07/18 00:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●七夕の話だと思う?
グラズヘイム王国の中央かつ北東寄りの中途半端な地域にあるため、人が素通りするべリンガー家の所領地。
王都にも日数短く行け、適度な田舎でいいところではある。
いいところであるが、それ以上でもそれ以下でもない。
だから平和ともいえる。
領主としては頭が痛いのはその何もなさ。発展できそうでできない、これと言った産業もないし、住みやすい以外何もない。そのため、努力するにもしにくいという現実を受け入れ、のんびりとしている地域。
さて、その領内にある小さな町フォークベリーに住むルゥルはおかげでのびのびと生活を送っている。実家のある町に暮らしていたころは近所の貴族の坊ちゃんに耳を引っ張られたり、腹違いの兄に耳を引っ張られたりいじめられていたが、この町はルゥルを受け入れた。今は兄も一応和解しているため、実家に帰ってもいいが、魔術師の師匠の下、独り暮らしするのは楽しかった。
師匠、一年の半分はいない。
だから、独り暮らし。
隣は師匠のハンター仲間であったマーク司祭が住んでいるため、保護者なのは彼であると言える。
ルゥルは、リアルブルーから帰ってのんびりしている。いや、また行けるようになるためには勉強を頑張らねばと思ってはいる。
何事にも息抜きは必要だ。
去年、七夕はやりそびれたということを思い出した。
「やりたいですうう」
それに加えて思い出したのが、以前遊びに行った街道沿いの丘の上の古い家のこと。今は無事解体され、更地になっている。
「……うーん、そうです、やるのですうう」
ルゥルは計画を練ると、まず隣にあるエクラ教会に走り込んだのだった。
●ハンターへの依頼
ハンターズソサエティの支部がある大きな町。
受付係のロビン・ドルトスはルゥルの話を聞いた。
この町の商店街でも今年もイベントをやることにはなっている。いつも通りの感じだろうという認識を持っていた。
ルゥルが持ってきたのは隣町であるが、共に開催するというのはいいかもしれないと考える。
いや、距離があるため、こっち行ってあっちは難しいのはよくわかっているが、小さな町の方でコマーシャルしてもいいのだ。
なら、話に乗ろう。
「それはいいんだけど……なんだ、このどんと焼きって」
ロビンは首をかしげる。
リアルブルーの日本出身の人が通りかかったところに尋ねる。説明を受けてロビンは次のように理解した。
「つまり、キャンプファイアーだな。去年イベントでやった七夕にプラスした行事だ。無病息災、家庭円満、交通安全を願う……なるほど。願い事を葉っぱにつりさげて、最後に燃やす」
そして、一般向け、ハンター向けに依頼を出す前に領主にも話をつけておくべきと考えた。なぜなら町から町への移動があり、人手がいるかもしれないから。
今の情勢を考えれば拒絶はないだろうと考えつつ、念のため出かけたのだった。
●フォークベリーでの催しの案内
小さな町フォークベリーにおいて、昼から夜にかけて催しを行います。
場所 フォークベリー外れの高台。途中階段があるのでご注意ください。
メーンイベント 竹の葉飾りを作る。紙を使って飾りや願い事を短冊に書いて飾ります。
日が落ちてから、どんと焼きを行う。
この際、飾った竹も燃やします。願いが叶うようにと祈るリアルブルーにある祭りです。
その他出店多数 行商や大きな町グローノース商店街から菓子屋や肉屋などの総菜店も出店。
薬草園と近くの村の合同でルームスプレーを作るイベントもあります。
皆様、お誘いの上、いらっしゃってください。
主催 七夕どんと焼き実行委員会
グラズヘイム王国の中央かつ北東寄りの中途半端な地域にあるため、人が素通りするべリンガー家の所領地。
王都にも日数短く行け、適度な田舎でいいところではある。
いいところであるが、それ以上でもそれ以下でもない。
だから平和ともいえる。
領主としては頭が痛いのはその何もなさ。発展できそうでできない、これと言った産業もないし、住みやすい以外何もない。そのため、努力するにもしにくいという現実を受け入れ、のんびりとしている地域。
さて、その領内にある小さな町フォークベリーに住むルゥルはおかげでのびのびと生活を送っている。実家のある町に暮らしていたころは近所の貴族の坊ちゃんに耳を引っ張られたり、腹違いの兄に耳を引っ張られたりいじめられていたが、この町はルゥルを受け入れた。今は兄も一応和解しているため、実家に帰ってもいいが、魔術師の師匠の下、独り暮らしするのは楽しかった。
師匠、一年の半分はいない。
だから、独り暮らし。
隣は師匠のハンター仲間であったマーク司祭が住んでいるため、保護者なのは彼であると言える。
ルゥルは、リアルブルーから帰ってのんびりしている。いや、また行けるようになるためには勉強を頑張らねばと思ってはいる。
何事にも息抜きは必要だ。
去年、七夕はやりそびれたということを思い出した。
「やりたいですうう」
それに加えて思い出したのが、以前遊びに行った街道沿いの丘の上の古い家のこと。今は無事解体され、更地になっている。
「……うーん、そうです、やるのですうう」
ルゥルは計画を練ると、まず隣にあるエクラ教会に走り込んだのだった。
●ハンターへの依頼
ハンターズソサエティの支部がある大きな町。
受付係のロビン・ドルトスはルゥルの話を聞いた。
この町の商店街でも今年もイベントをやることにはなっている。いつも通りの感じだろうという認識を持っていた。
ルゥルが持ってきたのは隣町であるが、共に開催するというのはいいかもしれないと考える。
いや、距離があるため、こっち行ってあっちは難しいのはよくわかっているが、小さな町の方でコマーシャルしてもいいのだ。
なら、話に乗ろう。
「それはいいんだけど……なんだ、このどんと焼きって」
ロビンは首をかしげる。
リアルブルーの日本出身の人が通りかかったところに尋ねる。説明を受けてロビンは次のように理解した。
「つまり、キャンプファイアーだな。去年イベントでやった七夕にプラスした行事だ。無病息災、家庭円満、交通安全を願う……なるほど。願い事を葉っぱにつりさげて、最後に燃やす」
そして、一般向け、ハンター向けに依頼を出す前に領主にも話をつけておくべきと考えた。なぜなら町から町への移動があり、人手がいるかもしれないから。
今の情勢を考えれば拒絶はないだろうと考えつつ、念のため出かけたのだった。
●フォークベリーでの催しの案内
小さな町フォークベリーにおいて、昼から夜にかけて催しを行います。
場所 フォークベリー外れの高台。途中階段があるのでご注意ください。
メーンイベント 竹の葉飾りを作る。紙を使って飾りや願い事を短冊に書いて飾ります。
日が落ちてから、どんと焼きを行う。
この際、飾った竹も燃やします。願いが叶うようにと祈るリアルブルーにある祭りです。
その他出店多数 行商や大きな町グローノース商店街から菓子屋や肉屋などの総菜店も出店。
薬草園と近くの村の合同でルームスプレーを作るイベントもあります。
皆様、お誘いの上、いらっしゃってください。
主催 七夕どんと焼き実行委員会
リプレイ本文
●まず
真白・祐(ka2803)はハンターオフィスに貼られたポスターを見て驚いた。
「七夕とどんど焼き? ……七夕!?」
リアルブルーの高校生だった祐にとって七夕は馴染みのあるイベントだ。
祐はクリムゾンウェストに一緒に転移した同級生の御崎・汀(ka2918)がいる場所に走った。
汀は走り込んできた祐に驚く。
「どうしたのですか? 真白くん」
「今日は何も用事ないよな?」
「はい、ありませんよ」
「なら、行こう、七夕祭りに」
「え?」
汀は悩む間もなく出発した。
天央 観智(ka0896)は唖然とした。
「七夕のお祭りに、どんど焼きですか……元々のなんの祭りでしたっけ」
七夕は星に関する祭りであり、どんど焼きは正月用品等を焼くのだ。
「まあ、楽しめればよいんですかね? 会場は……ひとまず行ってみましょう」
観智は不思議がりながらも出かけた。
ソナ(ka1352)はポスターを見て、先日の仕事を思い出した。
「薬草園の企画もあるのですね。……村との合同って前行った村かしら?」
植物には興味があるため出かけることにした。
ステラ・レッドキャップ(ka5434)はポスターを見て首を傾げた。
「どんど『焼き』ってくらいだから……大きな火を使って作る料理なのかもな?」
独り納得し、知り合いが出店すると耳に挟んだため出かけることにした。
星野 ハナ(ka5852)は前日から準備をしている。素麺を茹で一口大にまとめて冷やしす、飲み物を用意するなど多岐にわたる。
「せっかく七夕に東方茶屋するならそれっぽくしたいですぅ。索餅は七夕にちなんでいる説もありますし、麻花に……それと流し素麺もやっちゃいましょうぉ」
非常に大量の荷物になったため、馬と頑張ることになる。
リュー・グランフェスト(ka2419)は母親が日本出身のため「どんど焼き」のことを聞いた記憶があった。
「こっちでもやろうってやつがいるんだな」
どんなものか見に行くことにした。
エルバッハ・リオン(ka2434)はハナが出店すると聞き、手伝いもかねて出かける。
「今回はどんど焼きを見るくらいですね、目的は」
少なくとものんびり過ごすこともできるだろうと向かった。
柊羽(ka6811)はポスターを見た瞬間、楽しいことには全力で取り組む行動していた。
「祭りだってェんだなら、行くしかあるめェよ!」
彼の好きなことの一つであり、酒も加わればなおよい。
●さて
アシェ-ル(ka2983)はどんど焼きは「盛大なキャンプファイアー」と認識してやってきた。
会場に到着後、意味をルゥル(kz0210)に教わった。
「つまり、無病息災や色々願う行事ですね」
「です」
「手伝うことがあれば何でもします」
「ロビンさーん、このお姉さんがお手伝いしてくれるそうです」
ルゥルに呼ばれて銀縁メガネが特徴の二枚目半オフィス職員ロビン・ドルトスがやってきた。
「はいはい、何か希望はありますか?」
「飾りつけでもチョコの店出店でも!」
「チョコ……近くのスペースありますし、こちらを手伝ってくださいます?」
「はい、喜んでです」
ということでアシェ-ルは手伝いをしつつ祭りを楽しむこととなった。
ハナは荷物を少しずつ運ぶ。かなりの労力であるが、あらかじめ言ってあったためロビンが、会場に来る商人に一つでも乗せてと協力を呼び掛けてくれていたため、多少は楽になった。
高台に上がり切ると声をかけられた。
「こんにちは、すごい荷物ですね」
「エルさん、ひょっとして手伝ってくれるのです?」
エルバッハは「はい」と答えた。
「まずはこれをこっちに……」
二人は準備を黙々と行う。
母への土産話にもなればいいと考えてふらっとリューはやってきたが、まだ準備中である。大量の樽やら箱やらが立地が悪い場所に運ばれていく。
「階段あってこれは辛いんじゃないか」
到着早々手伝いをすることにした。
運ぶ手伝いが終わった後は竹飾りを作っているところに向う。
「笹ではないんだ」
「ですー。竹の方が大きくて飾れるです」
ルゥルがリューにも短冊書いたり飾りを作ることを勧める。
「まだ、始まってないから寂しいな」
リューはしばらくここで過ごすこととした。
セリナ・アガスティア(ka6094)は指示を出す祖母のミモザ・エンヘドゥ(ka6804)に従い準備を進めていた。
「このドレス、私たちの民族衣装ほどではないけれど、素朴な感じが出てていい演出ね」
セリナは褒める。二人が着ている服は鈴蘭を起草させるドレス。
「そうでしょう? 辺境エルフのお店の演出ができましたね」
ミモザはスペースの奥の方に椅子を置くと楽器を手にして座る。
「……え?」
「何を売るのか? それは占いです。さ、占者セリナ、きりきりと働くのですよ!」
「……占うの? 私が、一人で? で、おばあちゃんは弾いているだけなの? なんか不公平?」
「あらあら?」
「はい、やりますけど!」
腑に落ちないセリナであるが椅子に座った。
ミオレスカ(ka3496)は準備の音などを聞き、自然とワクワクしてくる。
階段を上り切ったところの会場で、まず向かうのは本部があるところでもある竹の飾りつけブースだ。
『みんなが美味しいご飯を食べられますように』
短冊をしたためた後、関係者に声をかける。
「すみません、そこの簡易舞台は何か使用予定あるのでしょうか」
ロビンは特にないと告げる。
「それなら、演奏をしてもいいでしょうか?」
「ぜひ!」
相談の結果、日が落ち始めてからとなった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)はポスターを見て日程を調整後、一目散にやってきた。
「お祭りなの! 私の胃袋が火を噴くのー」
屋台制覇のため気合十分であり、朝食はしっかり食べ昼食は抜いた。午後一時から遅い昼ご飯からおやつに夕飯という流れがあるのだ。
●短冊
ネーナ・ドラッケン(ka4376)は催しの内容をここに来て明確に知る。
「これはどんな催し何だい?」
問われたルゥルはしたり顔で説明をした。
「へぇ、リアルブルーではこんなお祭りがあるんだね。ありがとう、見てみるよ」
「楽しんでください」
「うん」
ネーナはひとまずぐるりと回ってみることにした。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は浴衣姿で待ち合わせ場所におり、穂積 智里(ka6819)を見た瞬間、脳内でタヌキが踊り始めた。
「……大変可愛らしいと思いますよ……ぶぶぶっ」
「……そ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!」
智里は顔を真っ赤にして怒る。タヌキ柄の浴衣、彼女自身もちょっと「アレかな」とは思っていた。
「さあ、行きましょう」
ハンスは手を差し出しかけて一瞬後、智里の手をがっちり握って歩き始めた。
「あのぅ……ハンスさん。日本人はあんまり手をつないで歩かないのですが」
智里は「恋人つなぎ」になっている手をあげる。
「え? 東方では手をつないで歩くのは一般的だと」
「それはお隣の国です。ハンスさん、東方って混ざりすぎです」
「んー、私が東方と思うところも国によって違うんですね」
しみじみとつぶやきながらハンスは手を離した。
(あれ……?)
智里は揺れ動いた。
竹飾りつくりで、それぞれの性格がにじみ出る短冊を書いた。
『みんなが元気で健康でありますように』
『今年も東方にご縁がありますように』
マリィア・バルデス(ka5848)は「周りの大人がきちんとしつけをしているから、たまに会う私たちは甘やかしてよい」となぜか考えていた。
目標のルゥルを竹の飾りつけブースで見つける。
ルゥルが気づいて挨拶をする。
「ルゥル、聞いたわよ。お祭りの発案者はあなたなんですってね」
「えへへ」
「偉いわねぇ。お祭りはみんなの心を明るくするからいいことよ」
マリィアはルゥルの頭を撫でた。
「お姉さんも書くです」
「書くわよ」
短冊とペンをもらい『知り合いのみんなが幸せでありますように』と記入した。
祐と汀は階段を上り切った直後、衝撃を受けた。会場の中央には七夕にはそぐわない、キャンプファイアーをするような木が組んであるのだ。
「御崎、あっち」
祐が指さす方に竹が二本置いてあり、七夕らしい趣向になっている。
「うん」
汀はうなずいた。
「はい、短冊書きますか?」
飾りつけコーナーの近くで手伝うアシェ-ルが声をかける。
人懐っこい笑顔に、汀は釣られて微笑む。
「書いてもいいんですか?」
「ぜひお願いします! 特別に私の魔力を念じておきました!」
「え?」
「魔術師なんです」
「……一緒です」
「そうなんですか? なら、あなたも是非念じて書いてくださいね」
「ふふっ、そうします」
汀と裕はテーブルにあるペンを手にそれぞれの願いを書く。
「あれ、念じるといいんだっけ?」
「違いますよ。あ、でも、リアルブルーでも『願いが叶いますように』って飾りますから、念じているんですよね」
「そうだよな。じゃ、俺も」
しっかり念じた。
キヅカ・リク(ka0038)とエイル・メヌエット(ka2807)は浴衣をまとい、はぐれないように手をつなぐ。
「エイル、足痛くない?」
「ええ大丈夫よ」
町の外れかつ階段があるというのはなかなか辛い。
「どんど焼きは初めてね」
「ん……何だっけ」
「え? リアルブルーのお祭りよね? でも、広いからリクも知らないことはあるわね」
「お焚き上げだっけ」
何か違う。
「……まずは短冊書きからしよう」
「そうね」
二人は竹を目印に向かう。
係から短冊を受け取り、ペンで書き記す。
「これでいいかな」
「書けたわ……そんなふうに隠されると気になるわ」
「そんなそんな。僕の願いは……秘密。エイルは」
「秘密」
二人は竹に結ぼうと近づく。
「浴衣も着てお似合いですね」
魔導カメラを構えたアシェ-ルがそこにいた。
二人は顔を見合わせて、頬を赤くする。
「短冊飾って写真撮りますよー。もう、焼けちゃいますね」
アシェ-ルは渾身のギャグを言いながら、短冊飾る二人を撮った。
ちらりと見えた短冊の内容を見てアシェ-ルは余計に妬けてしまう。
『皆が穏やかな日常を送れる世界になりますように。リクとずっと一緒にいられますように』
『エイルがこれからも笑っていられますように』
七夜・真夕(ka3977) は雪継・紅葉(ka5188)の浴衣姿を見て目を細める。紅葉は花をあしらった浴衣と合わせたリボンをポニーテールに結った髪につけている。
「すっごく似合っているわ。可愛い」
「そ、そうかな。真夕も似合っているよ?」
真夕と紅葉は互いの浴衣姿を褒めて微笑む。
「さ、早く行こう」
差し出された真夕の手に紅葉は手を載せる。二人はイベント会場に向かう。
階段を上り切ると盛況そうな祭りに胸が躍った。顔を見合わせるとまずは短冊を書いているところに向かう。
紅葉は「真夕とずっと一緒にいられますように」と書いていたが、真夕はこっそり書いてしまい見えなかった。
ヴァイス(ka0364)は横で短冊を書くアニス・エリダヌス(ka2491)の姿に何度目かの見惚れる状態になっていた。
「ヴァイスさん、わたしの短冊を見ようとしているのですか?」
「あ、いや、その」
顔を真っ赤にして天を仰ぐヴァイスにアニスは笑う。いつも通りの様子、普段と異なる状況。
戦いに身を置くことが多いたため、このような時間は貴重だ。
「ヴァイスさんは何と書いたのですか?」
「アニスは?」
「もう! 質問を質問で返すなんて意地悪です」
「あ」
「わたしのは御教えすることもないと思います」
「そうなのか? そうか……俺も、そうだな……かなえたい」
「はい」
二人ははそれぞれ短冊をつるす。
『一緒にこの幸せな時間を歩んでいけますように』
『この幸せな日々が長く続きますように』
ディーナは短冊に「これからもたくさんおいしいものが食べられますよ」と願いを書いてから屋台に向かう。
目をキラキラギラギラさせて屋台の確認を取り、知り合いがいれば屋台の情報を聞き出したかった。
「行くのー。あー、お土産も物色するのー」
ディーナは先日会った少女領主や精霊と魚たちを思い出していた。
「イノア様も精霊さまにかこつけてお祭りすればいいの。よし、今度会ったら進言しちゃうの」
とこぶしを握っていた。
Gacrux(ka2726)はペットのパルムを連れママチャリでやってきた。先日パルムが頑張ったためそのご褒美もかねている。
階段に止めると籠で眠っているパルムを掴むと徒歩で会場に向かう。
「きゅ?」
寝とぼけた声が手の中からする。
「短冊を書きますよ」
机の上にパルムを置き、受け取った短冊を差し出す。
「俺はなんと書きますかね……」
パルムはペンを持つと短冊に絵を描いている。書き終わるとパルムは満足げだ。短冊を持ったパルムを持って短冊を結ぶのを手伝った。
ステラは道中気づく、地名だと分かりにくかったが一度来ている。以前来た時は草が生え放題だった上、一軒家があったのだった。
どこに向かうか周囲を見ていると、ルゥルとマリィアを発見した。
「こんにちはですー」
「おう、こんにちは」
ルゥルは林檎飴でも食べたのか口が赤い。
「元気そうで何よりだ」
「はいです」
マリィアともあいさつを交わす。
「楽しんでるみたいだな」
「まあね。今来たところなのかしら?」
「知り合いが店出していると聞いたから」
なるほどとマリィアとルゥルがうなずく。
「では、会場にいれば会うですー」
「おう」
ステラは二人と別れて東方茶屋を探す。
「十六時から流し素麺をするですぅ」
ハナの元気な声が届いた。
柊羽は短冊を書いている子供たちを見て怪訝な顔になる。
「こんな紙っ切れに願い事を書いて、何ができるんだ? ってぇんだが……理屈じゃねぇんだよな」
子どもだけでなく大人も楽しそうにしている、平和な光景だ。
飾りをつけようと高いところに手を伸ばす子供がいるのを見て、柊羽は横にしゃがむ。
「飾りつけ手伝ってやるよ」
「ありがとう」
柊羽は抱きあげ、竹の高いところに手が届くようにした。
●香り
ソナは真っ直ぐ薬草園のブースに向う。ブースにはジャイルズ・バルネ、助手のコリン、住み着いたユグディラたちがおり、作業用のテーブルとイス、材料がある。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
「にゃにゃ」
ソナが挨拶をするとコリンとユグディラたちが返した。
「チャちゃんとクロさんには会ったことはあるけれど、この方は初めましてですね」
ソナが挨拶をすると、コリンが「シロッポイ」という名前だと教える。
「先日はお疲れ様でした。あの大量なクリームはどうしたのかしら」
「無事納品されたそうです」
コリンも詳細は知らない。
「それはともかく、スプレーを作るとのことで気になってきました」
「はい、それではこちらにどうぞ」
コリンは椅子を勧めた。
「企画で、基本は決まっている物を作ります」
コリンは説明する。
「なるほど……おすすめとか夏だと虫よけ効果があるものもと考えたのですけど」
「あー、レモングラスやミントですね……持ってきていません」
「いえいえ……レモンも爽やかでいいですね」
ソナは精油を確認しながら自由に作ることにした。
Gacruxが「良いですか?」と声をかけてきた。
コリンが席を勧めると、Gacruxはパルムはテーブルの上に載せて座る。パルムはユグディラを気にしている。
「後で遊んでもらいましょうかね」
Gacruxはさっそくルームスプレーを作る説明を受ける。手順通り作るだけであるが、パルムが精油瓶で遊び、時々匂いを嗅いで嬉しそうにしている。
「やんちゃですね」
ソナに話しかけられるとGacruxは「いつもは寝ているんですけどね」と淡々と答える。
「気を付けてくださいね、パルムは香りまみれになります」
Gacruxはつまんで離した。ビーカーに頭を突っ込もうとしているパルムを。
「あとはこれを瓶に詰めれば終わりですね」
「きゅっきゅー」
スプレーができてパルムは天に掲げる。
「嬉しそうで何よりです」
しばらくパルムが遊ぶのに任せる。
「みぎゃああ」
「ルゥルちゃん、どうしたの!」
突然の声にコリンは驚き。ユグディラは尻尾をぼわっとした。
「こ、こんなところにユグジラがいるです」
ルゥルがユグディラとコリンたちを見る。
「あら? 同じ町に住んでいるのよね?」
マリィアが困惑気味に尋ねる。
「……ルゥルちゃんは信じなかったのと会うタイミングがなくて」
コリンが説明した。
ソナとGacruxは成り行きを見守る。
「な、撫でていいですか」
ルゥルはそろりと近づき、シロッポイの頭に触れる。暫く撫で続け、名残惜しそうにブースを立ち去る。
暫く静寂が流れた。
リクとエイルが寄るとジャイルズが案内を始める、厳めしい表情で。
「ルームスプレーなんておしゃれな文化、どこで知ってくるの」
リクは机の上を見て身近なことは一つあると気づく、理科の実験ぽいと。
「ビーカーに朝のルームスプレーなら……」
「待ってその線引きって何かしら」
エイルの質問にジャイルズは答える。リアルブルーから流れてきた情報で精油で認知症予防ができるという話。
「脳を活性化し、休める……でも、自由に滴数変えてもいいかしら?」
「別にかまわない」
エイルは念のため基準のルームスプレーの分量を記した紙を見る。
「このまま作ってもいいみたいね。スイートオレンジとラベンダーだと甘くさわやかで落ち着く香りになるわ」
「へえ……じゃ、僕は朝元気になれる香りを作ってみよう」
二人は黙々と量って混ぜて、瓶に詰める。よく振ってスプレーするとふわっと香る。
「あれ、すぐに消えちゃう?」
「仕方がないわ、リク。ここ外だし」
二人は礼を述べてから、屋台の方に向かって行った。ブースを離れると、自分たちに爽やかな香りがついているのがよくわかった。
●素麺
「ノンアルコールしかないのか、酒欲しくなるんだよなぁ」
「……え?」
ステラの言葉にエルバッハは思わず彼の上から下までを見た。
「甘味で楽しむけどな」
「そうですね。そろそろ流し素麺をするそうですよ」
「それも気になる」
ステラは甘味を口に放り込む。
「ところで、どんど焼きってなんだ? その、調べる時間がなくて……」
「リアルブルーの祭りで縁起物などを燃やし、その火で餅を焼くとか……実際はこれから知ることはできます」
「そ、そうか」
ステラの表情が一瞬凍ったがすぐに解凍される。
「どうかしたのですか?」
「いや」
「料理だと思っていましたか」
図星を指されステラは大量の冷や汗を流した。
「式神作って、始めますぅ」
ハナの元気な声が響く。
竹やパイプをつないだ長い傾斜があり、【御霊符】で式神を作り、水を流すらしい。
「ふふふ、この程度の命を削ったところで問題ありません」
素麺と水が竹の中を流れていく。
「待ってましたなのー」
ディーナが皿と箸を握り、闘志に燃えて待っていた。
「これは、高速で流すのですぅ!」
式神はただ水を流すだけ。
素麺はただその水を下るだけ。
ハナは普通に傾斜を作ったため、良心的なスピードだ。参加した人は常識の範囲内で楽しんだ。
「まだまだなのですぅ」
ハナは式神が消えるとまた作るを繰り返し、鬼気迫る流し素麺であった。短い時間であっても大盛況である。
「ありがとうございますぅ」
甘味の売れ行きは良くなり、ハナは全力投球していた。
●露店
観智はやってきて、立地に何とも言えない表情になる。
「この近辺の人なら立地は知っているでしょうから、足腰の悪い人は行かないと思いますけれど」
緩やかであるが結構長い階段だ。
「上ってしまえばいいですね」
程よい時間で、会場は賑やかである。歩いていると見知った顔も見かける。
「冷たいものありますかね……」
移動すれば喉も乾く。
アシェ-ルは見てくればとロビンに勧められたが、竹飾りコーナーと近くの屋台をひとまず行き来していた。
ハンスと智里は甘味処食べた後、雑貨屋にやってきた。
「いらっしゃいませ、雑貨屋喫茶出張所へようこそ」
「シール君張り切っていますねぇ」
「っていうか、その喋り方抜けないんだな、ライル」
漫才のような店員の会話を脇にやり、ハンスは智里の頭を見ながら雑貨を探す。
「シックなのに可愛いです」
智里は手に取る。
「ありがとうございます。さすがオーナーの目だ」
「本当……あの人のおかげで俺たちはある」
店員二人がしんみりしている。
「オーナーさんが仕入れるんですか?」
智里の質問に店員たちはうなずく。
「さて、これを頂けますか?」
髪留めを示した。ライルが受け取るとさっと値札を外し、シールがハンスから金額を受け取る。
ハンスはそのまま智里の頭につける。
「え?」
「これはただの男の甲斐性ですので……お返しなんて無粋なことをしてはいけませんよ?」
「ちょ、え?」
智里は困惑し、移動してく背中を追った。
真夕と紅葉が雑貨屋喫茶にやってきた。
「きれい、だね」
紅葉は並べられているアクセサリーを見つめる。
「あ、これ」
真夕は髪留めをつまむと、紅葉の髪に当てる。小さいが前髪やアクセントに程よい。
「色違いもあるわね」
「真夕だと、こっちの色の方が似合う、よ?」
「そうかな」
真夕は色違いで揃いのを買うことにした。
「はい、紅葉」
「あ、でも」
「いいからいいから」
二人は揃いの飾りをつけて店を後にした。
ルゥルを連れてマリィアは回り、雑貨屋喫茶にやってきた。
「せっかくいいことしたんだもの、ルゥルにもご褒美も必要よね?」
「いえいえ、お言葉だけで結構です」
大人びた言葉にマリィアは頬を緩める。
「年齢層高いかしら」
「どんなものが良いんですか?」
シールが尋ねる。
「そうね、キノコある?」
「……こんなのはどうですか?」
奥からライルが妙にリアルな赤いキノコがついた鉛筆を出した。
「みぎゃー」
「それちょうだい、柄違いはあるかしら?」
ライルは違う形のを差し出す。
ルゥルがひたすらお礼を言い、謎のキノコ鉛筆を両手に欣喜雀躍しているのを、マリィアは喜んだ。
ヴァイスとアニスの一つの目的、ミモザとセリナに会うこと。
はぐれないようにしっかりと手を結び、占い店を探す。
「音楽が聞こえます」
喧噪の中、かすかに聞こえる。
セリナが気づき目を見開く。
「あら、前に依頼でご一緒しましたね」
「あ、ああそうだな」
初対面ではない再会がこのような状況だとヴァイスもセリナも想像もしなかった。
アニスは二人を見てほっと息を吐く。
ミモザは楽器を椅子に置くと立ち上がり、悠然と近づく。
「お姉様、おば様、この方がわたしの大切な人のヴァイスさんです」
アニスが紹介する。
「初めまして」
ヴァイスは頭を下げる。
「そんなにかしこまらないでください。私はアニスのおばのような者で、ミモザ・エンヘドゥと言います」
ミモザは自己紹介をし、アニスとヴァイスの様子を眺める。アニスが想い人を亡くして彼女の元からいなくなった時と比べて明るく幸せそうな様子に安堵する。
「辛いことも多かった子なので、幸せにしてあげてくださいね」
「アニスはちょっと頑張りすぎちゃうところがあるので、抱え込みすぎないでくださいね、二人とも」
ミモザとセリナがヴァイスに告げる。
ヴァイスは神妙に返答し、アニスは見守ってくれた二人に改めて感謝した。
「さ、お祭りはまだやっているのです」
「さあ、楽しんでくるのよ」
ミモザとセリナに見送られた。
柊羽は露店を巡り、飲食する。酒もあることはあるが、どーんと飲み、がっつり肉を食う感じではない。
少し拍子抜けはするが、祭りの雰囲気は穏やかで活気はある。
「まあ、毛色が違うがそれはそれかぁ」
おいしそうな匂いにつられて商品を買い、席で空気を楽しむ。
「ハンターか?」
リューが酒を片手にやってきた。
「ああ」
自己紹介をした後、飲み交わした。
「それにしても、酒を飲めばけんかくらいは……」
「なくていいんじゃないか? 家族連れ多いから」
「そうだよな」
「ま、酒を楽しむことには変わらないぜ?」
「なんか、こう、浴びるように飲みたいというか!」
柊羽の気持ちもわかり、リューは笑う。
「飲んで騒いで楽しもうぜ。明日生きるためにさ」
「そうだな」
二人はしばらく飲み食いして話をした。
ネーナは所々で楽器を演奏する人も見た。
「少しでも盛り上げに協力できたらいいが……舞台を使ってもいいのだろうか?」
ミオレスカが演奏しているのが見え、ネーナは舞台の袖にいるロビンに声をかけた。
「ねえ、ボクも演奏か歌を披露したいと思うんだけど、いいのかな?」
「ぜひ」
舞台から下りてきたミオレスカにロビンが説明をした。
「一緒にいかがでしょうか? 知っている楽曲があれば一緒に演奏した方が楽しいと思います」
「そうだね。これはどうだろう?」
「知っています」
二人は舞台に上がる。陽気な演奏が始まると、歌詞を知っている子らが歌い始めた。
●どんど焼き
本日のメーンであるどんど焼き。竹飾りは運ばれ、くべられる。
ルゥルは木に餅を花のようにつけた枝を持って配る。すでに自分がしたくてうずうずしている。
マリィアは一緒について行き、危なくないように気を配る。
そして、最後には餅を焼いて食べるのは少し後になる。
アシェ-ルは炎を眺めていると、今日一日のことが思い出される。
「友達百人……も可能なんです」
過去のことも脳裏をかすめ、炎の先を眺め空を見る。
「あ、お餅。それより、手伝います!」
ルゥルが配り歩いているのに気づいたのだった。
露店を楽しんでいたが、祐は汀が落ち込んでいるように見えた。
キャンプファイアーならぬどんど焼きを眺める。
「……思い出すなぁ……皆、元気かな」
「……元気さ! 俺たちだって元気なんだからさ」
「うん……リアルブルーに帰れる希望もできたんだもの」
「そうだな」
「こっちで仲良くなった人達もいる……できることも頑張りたいと思います」
「御崎……強いな」
絶望に暮れていた汀は、彼女自身が驚く程考えが変わった。
「そんなことないですよ。真白くんもいたし、知り合えた人もいたから」
「そっか……」
祐は照れ臭くなった。
どんど焼きの炎が上がるのを見てミオレスカは不思議な気持ちになる。
「これで、天まで願い事が昇って、世界に広まるのでしょうか」
ネーナはうなずいた。
「今日は楽しかった」
「はい……あ、花火し損ねました」
ミオレスカは荷物から「【嵐】花火セット」を取り出した。
「すごそうだな」
「終わった後にでも……」
が、タイミングを逃してしまった。
リクとエイルはどんど焼きの炎で餅を焼く。
「エイル、口、開けて」
「え? あっ」
エイルは口の中の餅を咀嚼して飲み込んでから、お返しと餅を差し出す。かがんだリクの頬にそっと唇を寄せた。
天に昇る炎に願いも上がっていくのだろうと考えながら、ヴァイスは隣にいるアニスの肩を抱き寄せる。
アニスは彼の胸に頭を傾けた。
Gacruxは一服しつつパルムがユグディラにちょっかいを出すままにしていた。
パルムが楽しそうなのが何よりだと思った。
エルバッハは餅を持って走っているルゥルに出会った。
「こんばんは」
「あ、こんばんはです。お姉さんも焼きますか」
「ありがとうございます」
ルゥルが立ち去った後、餅を焼くため火に近づく。
「こういうお祭りも楽しいですね。来年は出店するのもいいのかもしれません」
餅を食べた後、片付けを手伝いに戻る。
「迫力あるな」
ステラは天を焦がす炎の柱を見、もらった餅の枝を持って近づく。
「……料理とまではいかねーけどな」
無病息災など願う行事だと、別の人にも聞いた。
餅を掲げて、空を見上げた。
どんど焼きの炎を眺め、智里は唇をかむ。心配そうなハンスの顔が視界に入った。
「おばあちゃんもおじいちゃんもあっちにいるから連絡とれないんです……元気だといいなぁ」
「戻れるようにはなりましたし、きっと取れますよ」
ハンスは智里の頭をポンポンと撫でた。
(……子ども扱いされているなぁ……)
智里であるが内心で溜息をついた。
どんど焼きの炎を真夕と紅葉は眺める。
「……キャンプファイアーを思い出しちゃう」
「え?」
「ね、踊りましょ」
真夕は困惑する紅葉の手をとり踊る、会場のどこかで鳴る音楽に合わせて。
時間が許す限り、二人はデートを楽しんだのだった。
竹の飾りも薪の山にくべられた。
「竹は燃えると弾けるかんなァ、そこは気ィつけてやんねェと」
柊羽はハラハラする。
「それは大変だ……」
リューも一緒に注意するが、幸い、問題はなく終われそうだ。
どんど焼きの炎が上がる中、観智は階段を降りていく。こちらに向かってくる人もいるだろうから見守ろうと考えた。
「けが人等が出ないようにすぐ対処できるように見守りはいりますね」
子どもたちが走りって転ぶが、すぐに起き上がり走り出す。
「……元気ですね」
炎が上がる中、離れると静寂も感じる。
「炎は浄化の意味もあるんですよね……」
この地域も比較的平和とはいえ、誰もが願う浄化ともいえるのかもしれない。
閉会宣言が舞台の方でなされた。
ミモザとセリスは片づける。
「セリス、手を止めないのですよ」
「ちょっとくらい思いに浸ってもいいでしょ?」
アニスとヴァイスのことを考えると表情は自然とほころぶのだった。
ソナは帰路につく。
「お祭りは終わると寂しくなるのですよね」
階段を降りながらふと振り返り、ため息をついた。
閉会後の片づけをディーナは自主的に手伝う。小柄な姿のどこにあれだけの食料が消えたのか、隅から隅まで本当に制覇した。
「片づけまでが祭りですぅ」
疲労困憊しているがてきぱき動くハナを見つける。
薬草園のユグディラたち。シロッポイは前足を振り、ルゥルがいる方に立ち去った。
真白・祐(ka2803)はハンターオフィスに貼られたポスターを見て驚いた。
「七夕とどんど焼き? ……七夕!?」
リアルブルーの高校生だった祐にとって七夕は馴染みのあるイベントだ。
祐はクリムゾンウェストに一緒に転移した同級生の御崎・汀(ka2918)がいる場所に走った。
汀は走り込んできた祐に驚く。
「どうしたのですか? 真白くん」
「今日は何も用事ないよな?」
「はい、ありませんよ」
「なら、行こう、七夕祭りに」
「え?」
汀は悩む間もなく出発した。
天央 観智(ka0896)は唖然とした。
「七夕のお祭りに、どんど焼きですか……元々のなんの祭りでしたっけ」
七夕は星に関する祭りであり、どんど焼きは正月用品等を焼くのだ。
「まあ、楽しめればよいんですかね? 会場は……ひとまず行ってみましょう」
観智は不思議がりながらも出かけた。
ソナ(ka1352)はポスターを見て、先日の仕事を思い出した。
「薬草園の企画もあるのですね。……村との合同って前行った村かしら?」
植物には興味があるため出かけることにした。
ステラ・レッドキャップ(ka5434)はポスターを見て首を傾げた。
「どんど『焼き』ってくらいだから……大きな火を使って作る料理なのかもな?」
独り納得し、知り合いが出店すると耳に挟んだため出かけることにした。
星野 ハナ(ka5852)は前日から準備をしている。素麺を茹で一口大にまとめて冷やしす、飲み物を用意するなど多岐にわたる。
「せっかく七夕に東方茶屋するならそれっぽくしたいですぅ。索餅は七夕にちなんでいる説もありますし、麻花に……それと流し素麺もやっちゃいましょうぉ」
非常に大量の荷物になったため、馬と頑張ることになる。
リュー・グランフェスト(ka2419)は母親が日本出身のため「どんど焼き」のことを聞いた記憶があった。
「こっちでもやろうってやつがいるんだな」
どんなものか見に行くことにした。
エルバッハ・リオン(ka2434)はハナが出店すると聞き、手伝いもかねて出かける。
「今回はどんど焼きを見るくらいですね、目的は」
少なくとものんびり過ごすこともできるだろうと向かった。
柊羽(ka6811)はポスターを見た瞬間、楽しいことには全力で取り組む行動していた。
「祭りだってェんだなら、行くしかあるめェよ!」
彼の好きなことの一つであり、酒も加わればなおよい。
●さて
アシェ-ル(ka2983)はどんど焼きは「盛大なキャンプファイアー」と認識してやってきた。
会場に到着後、意味をルゥル(kz0210)に教わった。
「つまり、無病息災や色々願う行事ですね」
「です」
「手伝うことがあれば何でもします」
「ロビンさーん、このお姉さんがお手伝いしてくれるそうです」
ルゥルに呼ばれて銀縁メガネが特徴の二枚目半オフィス職員ロビン・ドルトスがやってきた。
「はいはい、何か希望はありますか?」
「飾りつけでもチョコの店出店でも!」
「チョコ……近くのスペースありますし、こちらを手伝ってくださいます?」
「はい、喜んでです」
ということでアシェ-ルは手伝いをしつつ祭りを楽しむこととなった。
ハナは荷物を少しずつ運ぶ。かなりの労力であるが、あらかじめ言ってあったためロビンが、会場に来る商人に一つでも乗せてと協力を呼び掛けてくれていたため、多少は楽になった。
高台に上がり切ると声をかけられた。
「こんにちは、すごい荷物ですね」
「エルさん、ひょっとして手伝ってくれるのです?」
エルバッハは「はい」と答えた。
「まずはこれをこっちに……」
二人は準備を黙々と行う。
母への土産話にもなればいいと考えてふらっとリューはやってきたが、まだ準備中である。大量の樽やら箱やらが立地が悪い場所に運ばれていく。
「階段あってこれは辛いんじゃないか」
到着早々手伝いをすることにした。
運ぶ手伝いが終わった後は竹飾りを作っているところに向う。
「笹ではないんだ」
「ですー。竹の方が大きくて飾れるです」
ルゥルがリューにも短冊書いたり飾りを作ることを勧める。
「まだ、始まってないから寂しいな」
リューはしばらくここで過ごすこととした。
セリナ・アガスティア(ka6094)は指示を出す祖母のミモザ・エンヘドゥ(ka6804)に従い準備を進めていた。
「このドレス、私たちの民族衣装ほどではないけれど、素朴な感じが出てていい演出ね」
セリナは褒める。二人が着ている服は鈴蘭を起草させるドレス。
「そうでしょう? 辺境エルフのお店の演出ができましたね」
ミモザはスペースの奥の方に椅子を置くと楽器を手にして座る。
「……え?」
「何を売るのか? それは占いです。さ、占者セリナ、きりきりと働くのですよ!」
「……占うの? 私が、一人で? で、おばあちゃんは弾いているだけなの? なんか不公平?」
「あらあら?」
「はい、やりますけど!」
腑に落ちないセリナであるが椅子に座った。
ミオレスカ(ka3496)は準備の音などを聞き、自然とワクワクしてくる。
階段を上り切ったところの会場で、まず向かうのは本部があるところでもある竹の飾りつけブースだ。
『みんなが美味しいご飯を食べられますように』
短冊をしたためた後、関係者に声をかける。
「すみません、そこの簡易舞台は何か使用予定あるのでしょうか」
ロビンは特にないと告げる。
「それなら、演奏をしてもいいでしょうか?」
「ぜひ!」
相談の結果、日が落ち始めてからとなった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)はポスターを見て日程を調整後、一目散にやってきた。
「お祭りなの! 私の胃袋が火を噴くのー」
屋台制覇のため気合十分であり、朝食はしっかり食べ昼食は抜いた。午後一時から遅い昼ご飯からおやつに夕飯という流れがあるのだ。
●短冊
ネーナ・ドラッケン(ka4376)は催しの内容をここに来て明確に知る。
「これはどんな催し何だい?」
問われたルゥルはしたり顔で説明をした。
「へぇ、リアルブルーではこんなお祭りがあるんだね。ありがとう、見てみるよ」
「楽しんでください」
「うん」
ネーナはひとまずぐるりと回ってみることにした。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は浴衣姿で待ち合わせ場所におり、穂積 智里(ka6819)を見た瞬間、脳内でタヌキが踊り始めた。
「……大変可愛らしいと思いますよ……ぶぶぶっ」
「……そ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!」
智里は顔を真っ赤にして怒る。タヌキ柄の浴衣、彼女自身もちょっと「アレかな」とは思っていた。
「さあ、行きましょう」
ハンスは手を差し出しかけて一瞬後、智里の手をがっちり握って歩き始めた。
「あのぅ……ハンスさん。日本人はあんまり手をつないで歩かないのですが」
智里は「恋人つなぎ」になっている手をあげる。
「え? 東方では手をつないで歩くのは一般的だと」
「それはお隣の国です。ハンスさん、東方って混ざりすぎです」
「んー、私が東方と思うところも国によって違うんですね」
しみじみとつぶやきながらハンスは手を離した。
(あれ……?)
智里は揺れ動いた。
竹飾りつくりで、それぞれの性格がにじみ出る短冊を書いた。
『みんなが元気で健康でありますように』
『今年も東方にご縁がありますように』
マリィア・バルデス(ka5848)は「周りの大人がきちんとしつけをしているから、たまに会う私たちは甘やかしてよい」となぜか考えていた。
目標のルゥルを竹の飾りつけブースで見つける。
ルゥルが気づいて挨拶をする。
「ルゥル、聞いたわよ。お祭りの発案者はあなたなんですってね」
「えへへ」
「偉いわねぇ。お祭りはみんなの心を明るくするからいいことよ」
マリィアはルゥルの頭を撫でた。
「お姉さんも書くです」
「書くわよ」
短冊とペンをもらい『知り合いのみんなが幸せでありますように』と記入した。
祐と汀は階段を上り切った直後、衝撃を受けた。会場の中央には七夕にはそぐわない、キャンプファイアーをするような木が組んであるのだ。
「御崎、あっち」
祐が指さす方に竹が二本置いてあり、七夕らしい趣向になっている。
「うん」
汀はうなずいた。
「はい、短冊書きますか?」
飾りつけコーナーの近くで手伝うアシェ-ルが声をかける。
人懐っこい笑顔に、汀は釣られて微笑む。
「書いてもいいんですか?」
「ぜひお願いします! 特別に私の魔力を念じておきました!」
「え?」
「魔術師なんです」
「……一緒です」
「そうなんですか? なら、あなたも是非念じて書いてくださいね」
「ふふっ、そうします」
汀と裕はテーブルにあるペンを手にそれぞれの願いを書く。
「あれ、念じるといいんだっけ?」
「違いますよ。あ、でも、リアルブルーでも『願いが叶いますように』って飾りますから、念じているんですよね」
「そうだよな。じゃ、俺も」
しっかり念じた。
キヅカ・リク(ka0038)とエイル・メヌエット(ka2807)は浴衣をまとい、はぐれないように手をつなぐ。
「エイル、足痛くない?」
「ええ大丈夫よ」
町の外れかつ階段があるというのはなかなか辛い。
「どんど焼きは初めてね」
「ん……何だっけ」
「え? リアルブルーのお祭りよね? でも、広いからリクも知らないことはあるわね」
「お焚き上げだっけ」
何か違う。
「……まずは短冊書きからしよう」
「そうね」
二人は竹を目印に向かう。
係から短冊を受け取り、ペンで書き記す。
「これでいいかな」
「書けたわ……そんなふうに隠されると気になるわ」
「そんなそんな。僕の願いは……秘密。エイルは」
「秘密」
二人は竹に結ぼうと近づく。
「浴衣も着てお似合いですね」
魔導カメラを構えたアシェ-ルがそこにいた。
二人は顔を見合わせて、頬を赤くする。
「短冊飾って写真撮りますよー。もう、焼けちゃいますね」
アシェ-ルは渾身のギャグを言いながら、短冊飾る二人を撮った。
ちらりと見えた短冊の内容を見てアシェ-ルは余計に妬けてしまう。
『皆が穏やかな日常を送れる世界になりますように。リクとずっと一緒にいられますように』
『エイルがこれからも笑っていられますように』
七夜・真夕(ka3977) は雪継・紅葉(ka5188)の浴衣姿を見て目を細める。紅葉は花をあしらった浴衣と合わせたリボンをポニーテールに結った髪につけている。
「すっごく似合っているわ。可愛い」
「そ、そうかな。真夕も似合っているよ?」
真夕と紅葉は互いの浴衣姿を褒めて微笑む。
「さ、早く行こう」
差し出された真夕の手に紅葉は手を載せる。二人はイベント会場に向かう。
階段を上り切ると盛況そうな祭りに胸が躍った。顔を見合わせるとまずは短冊を書いているところに向かう。
紅葉は「真夕とずっと一緒にいられますように」と書いていたが、真夕はこっそり書いてしまい見えなかった。
ヴァイス(ka0364)は横で短冊を書くアニス・エリダヌス(ka2491)の姿に何度目かの見惚れる状態になっていた。
「ヴァイスさん、わたしの短冊を見ようとしているのですか?」
「あ、いや、その」
顔を真っ赤にして天を仰ぐヴァイスにアニスは笑う。いつも通りの様子、普段と異なる状況。
戦いに身を置くことが多いたため、このような時間は貴重だ。
「ヴァイスさんは何と書いたのですか?」
「アニスは?」
「もう! 質問を質問で返すなんて意地悪です」
「あ」
「わたしのは御教えすることもないと思います」
「そうなのか? そうか……俺も、そうだな……かなえたい」
「はい」
二人ははそれぞれ短冊をつるす。
『一緒にこの幸せな時間を歩んでいけますように』
『この幸せな日々が長く続きますように』
ディーナは短冊に「これからもたくさんおいしいものが食べられますよ」と願いを書いてから屋台に向かう。
目をキラキラギラギラさせて屋台の確認を取り、知り合いがいれば屋台の情報を聞き出したかった。
「行くのー。あー、お土産も物色するのー」
ディーナは先日会った少女領主や精霊と魚たちを思い出していた。
「イノア様も精霊さまにかこつけてお祭りすればいいの。よし、今度会ったら進言しちゃうの」
とこぶしを握っていた。
Gacrux(ka2726)はペットのパルムを連れママチャリでやってきた。先日パルムが頑張ったためそのご褒美もかねている。
階段に止めると籠で眠っているパルムを掴むと徒歩で会場に向かう。
「きゅ?」
寝とぼけた声が手の中からする。
「短冊を書きますよ」
机の上にパルムを置き、受け取った短冊を差し出す。
「俺はなんと書きますかね……」
パルムはペンを持つと短冊に絵を描いている。書き終わるとパルムは満足げだ。短冊を持ったパルムを持って短冊を結ぶのを手伝った。
ステラは道中気づく、地名だと分かりにくかったが一度来ている。以前来た時は草が生え放題だった上、一軒家があったのだった。
どこに向かうか周囲を見ていると、ルゥルとマリィアを発見した。
「こんにちはですー」
「おう、こんにちは」
ルゥルは林檎飴でも食べたのか口が赤い。
「元気そうで何よりだ」
「はいです」
マリィアともあいさつを交わす。
「楽しんでるみたいだな」
「まあね。今来たところなのかしら?」
「知り合いが店出していると聞いたから」
なるほどとマリィアとルゥルがうなずく。
「では、会場にいれば会うですー」
「おう」
ステラは二人と別れて東方茶屋を探す。
「十六時から流し素麺をするですぅ」
ハナの元気な声が届いた。
柊羽は短冊を書いている子供たちを見て怪訝な顔になる。
「こんな紙っ切れに願い事を書いて、何ができるんだ? ってぇんだが……理屈じゃねぇんだよな」
子どもだけでなく大人も楽しそうにしている、平和な光景だ。
飾りをつけようと高いところに手を伸ばす子供がいるのを見て、柊羽は横にしゃがむ。
「飾りつけ手伝ってやるよ」
「ありがとう」
柊羽は抱きあげ、竹の高いところに手が届くようにした。
●香り
ソナは真っ直ぐ薬草園のブースに向う。ブースにはジャイルズ・バルネ、助手のコリン、住み着いたユグディラたちがおり、作業用のテーブルとイス、材料がある。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
「にゃにゃ」
ソナが挨拶をするとコリンとユグディラたちが返した。
「チャちゃんとクロさんには会ったことはあるけれど、この方は初めましてですね」
ソナが挨拶をすると、コリンが「シロッポイ」という名前だと教える。
「先日はお疲れ様でした。あの大量なクリームはどうしたのかしら」
「無事納品されたそうです」
コリンも詳細は知らない。
「それはともかく、スプレーを作るとのことで気になってきました」
「はい、それではこちらにどうぞ」
コリンは椅子を勧めた。
「企画で、基本は決まっている物を作ります」
コリンは説明する。
「なるほど……おすすめとか夏だと虫よけ効果があるものもと考えたのですけど」
「あー、レモングラスやミントですね……持ってきていません」
「いえいえ……レモンも爽やかでいいですね」
ソナは精油を確認しながら自由に作ることにした。
Gacruxが「良いですか?」と声をかけてきた。
コリンが席を勧めると、Gacruxはパルムはテーブルの上に載せて座る。パルムはユグディラを気にしている。
「後で遊んでもらいましょうかね」
Gacruxはさっそくルームスプレーを作る説明を受ける。手順通り作るだけであるが、パルムが精油瓶で遊び、時々匂いを嗅いで嬉しそうにしている。
「やんちゃですね」
ソナに話しかけられるとGacruxは「いつもは寝ているんですけどね」と淡々と答える。
「気を付けてくださいね、パルムは香りまみれになります」
Gacruxはつまんで離した。ビーカーに頭を突っ込もうとしているパルムを。
「あとはこれを瓶に詰めれば終わりですね」
「きゅっきゅー」
スプレーができてパルムは天に掲げる。
「嬉しそうで何よりです」
しばらくパルムが遊ぶのに任せる。
「みぎゃああ」
「ルゥルちゃん、どうしたの!」
突然の声にコリンは驚き。ユグディラは尻尾をぼわっとした。
「こ、こんなところにユグジラがいるです」
ルゥルがユグディラとコリンたちを見る。
「あら? 同じ町に住んでいるのよね?」
マリィアが困惑気味に尋ねる。
「……ルゥルちゃんは信じなかったのと会うタイミングがなくて」
コリンが説明した。
ソナとGacruxは成り行きを見守る。
「な、撫でていいですか」
ルゥルはそろりと近づき、シロッポイの頭に触れる。暫く撫で続け、名残惜しそうにブースを立ち去る。
暫く静寂が流れた。
リクとエイルが寄るとジャイルズが案内を始める、厳めしい表情で。
「ルームスプレーなんておしゃれな文化、どこで知ってくるの」
リクは机の上を見て身近なことは一つあると気づく、理科の実験ぽいと。
「ビーカーに朝のルームスプレーなら……」
「待ってその線引きって何かしら」
エイルの質問にジャイルズは答える。リアルブルーから流れてきた情報で精油で認知症予防ができるという話。
「脳を活性化し、休める……でも、自由に滴数変えてもいいかしら?」
「別にかまわない」
エイルは念のため基準のルームスプレーの分量を記した紙を見る。
「このまま作ってもいいみたいね。スイートオレンジとラベンダーだと甘くさわやかで落ち着く香りになるわ」
「へえ……じゃ、僕は朝元気になれる香りを作ってみよう」
二人は黙々と量って混ぜて、瓶に詰める。よく振ってスプレーするとふわっと香る。
「あれ、すぐに消えちゃう?」
「仕方がないわ、リク。ここ外だし」
二人は礼を述べてから、屋台の方に向かって行った。ブースを離れると、自分たちに爽やかな香りがついているのがよくわかった。
●素麺
「ノンアルコールしかないのか、酒欲しくなるんだよなぁ」
「……え?」
ステラの言葉にエルバッハは思わず彼の上から下までを見た。
「甘味で楽しむけどな」
「そうですね。そろそろ流し素麺をするそうですよ」
「それも気になる」
ステラは甘味を口に放り込む。
「ところで、どんど焼きってなんだ? その、調べる時間がなくて……」
「リアルブルーの祭りで縁起物などを燃やし、その火で餅を焼くとか……実際はこれから知ることはできます」
「そ、そうか」
ステラの表情が一瞬凍ったがすぐに解凍される。
「どうかしたのですか?」
「いや」
「料理だと思っていましたか」
図星を指されステラは大量の冷や汗を流した。
「式神作って、始めますぅ」
ハナの元気な声が響く。
竹やパイプをつないだ長い傾斜があり、【御霊符】で式神を作り、水を流すらしい。
「ふふふ、この程度の命を削ったところで問題ありません」
素麺と水が竹の中を流れていく。
「待ってましたなのー」
ディーナが皿と箸を握り、闘志に燃えて待っていた。
「これは、高速で流すのですぅ!」
式神はただ水を流すだけ。
素麺はただその水を下るだけ。
ハナは普通に傾斜を作ったため、良心的なスピードだ。参加した人は常識の範囲内で楽しんだ。
「まだまだなのですぅ」
ハナは式神が消えるとまた作るを繰り返し、鬼気迫る流し素麺であった。短い時間であっても大盛況である。
「ありがとうございますぅ」
甘味の売れ行きは良くなり、ハナは全力投球していた。
●露店
観智はやってきて、立地に何とも言えない表情になる。
「この近辺の人なら立地は知っているでしょうから、足腰の悪い人は行かないと思いますけれど」
緩やかであるが結構長い階段だ。
「上ってしまえばいいですね」
程よい時間で、会場は賑やかである。歩いていると見知った顔も見かける。
「冷たいものありますかね……」
移動すれば喉も乾く。
アシェ-ルは見てくればとロビンに勧められたが、竹飾りコーナーと近くの屋台をひとまず行き来していた。
ハンスと智里は甘味処食べた後、雑貨屋にやってきた。
「いらっしゃいませ、雑貨屋喫茶出張所へようこそ」
「シール君張り切っていますねぇ」
「っていうか、その喋り方抜けないんだな、ライル」
漫才のような店員の会話を脇にやり、ハンスは智里の頭を見ながら雑貨を探す。
「シックなのに可愛いです」
智里は手に取る。
「ありがとうございます。さすがオーナーの目だ」
「本当……あの人のおかげで俺たちはある」
店員二人がしんみりしている。
「オーナーさんが仕入れるんですか?」
智里の質問に店員たちはうなずく。
「さて、これを頂けますか?」
髪留めを示した。ライルが受け取るとさっと値札を外し、シールがハンスから金額を受け取る。
ハンスはそのまま智里の頭につける。
「え?」
「これはただの男の甲斐性ですので……お返しなんて無粋なことをしてはいけませんよ?」
「ちょ、え?」
智里は困惑し、移動してく背中を追った。
真夕と紅葉が雑貨屋喫茶にやってきた。
「きれい、だね」
紅葉は並べられているアクセサリーを見つめる。
「あ、これ」
真夕は髪留めをつまむと、紅葉の髪に当てる。小さいが前髪やアクセントに程よい。
「色違いもあるわね」
「真夕だと、こっちの色の方が似合う、よ?」
「そうかな」
真夕は色違いで揃いのを買うことにした。
「はい、紅葉」
「あ、でも」
「いいからいいから」
二人は揃いの飾りをつけて店を後にした。
ルゥルを連れてマリィアは回り、雑貨屋喫茶にやってきた。
「せっかくいいことしたんだもの、ルゥルにもご褒美も必要よね?」
「いえいえ、お言葉だけで結構です」
大人びた言葉にマリィアは頬を緩める。
「年齢層高いかしら」
「どんなものが良いんですか?」
シールが尋ねる。
「そうね、キノコある?」
「……こんなのはどうですか?」
奥からライルが妙にリアルな赤いキノコがついた鉛筆を出した。
「みぎゃー」
「それちょうだい、柄違いはあるかしら?」
ライルは違う形のを差し出す。
ルゥルがひたすらお礼を言い、謎のキノコ鉛筆を両手に欣喜雀躍しているのを、マリィアは喜んだ。
ヴァイスとアニスの一つの目的、ミモザとセリナに会うこと。
はぐれないようにしっかりと手を結び、占い店を探す。
「音楽が聞こえます」
喧噪の中、かすかに聞こえる。
セリナが気づき目を見開く。
「あら、前に依頼でご一緒しましたね」
「あ、ああそうだな」
初対面ではない再会がこのような状況だとヴァイスもセリナも想像もしなかった。
アニスは二人を見てほっと息を吐く。
ミモザは楽器を椅子に置くと立ち上がり、悠然と近づく。
「お姉様、おば様、この方がわたしの大切な人のヴァイスさんです」
アニスが紹介する。
「初めまして」
ヴァイスは頭を下げる。
「そんなにかしこまらないでください。私はアニスのおばのような者で、ミモザ・エンヘドゥと言います」
ミモザは自己紹介をし、アニスとヴァイスの様子を眺める。アニスが想い人を亡くして彼女の元からいなくなった時と比べて明るく幸せそうな様子に安堵する。
「辛いことも多かった子なので、幸せにしてあげてくださいね」
「アニスはちょっと頑張りすぎちゃうところがあるので、抱え込みすぎないでくださいね、二人とも」
ミモザとセリナがヴァイスに告げる。
ヴァイスは神妙に返答し、アニスは見守ってくれた二人に改めて感謝した。
「さ、お祭りはまだやっているのです」
「さあ、楽しんでくるのよ」
ミモザとセリナに見送られた。
柊羽は露店を巡り、飲食する。酒もあることはあるが、どーんと飲み、がっつり肉を食う感じではない。
少し拍子抜けはするが、祭りの雰囲気は穏やかで活気はある。
「まあ、毛色が違うがそれはそれかぁ」
おいしそうな匂いにつられて商品を買い、席で空気を楽しむ。
「ハンターか?」
リューが酒を片手にやってきた。
「ああ」
自己紹介をした後、飲み交わした。
「それにしても、酒を飲めばけんかくらいは……」
「なくていいんじゃないか? 家族連れ多いから」
「そうだよな」
「ま、酒を楽しむことには変わらないぜ?」
「なんか、こう、浴びるように飲みたいというか!」
柊羽の気持ちもわかり、リューは笑う。
「飲んで騒いで楽しもうぜ。明日生きるためにさ」
「そうだな」
二人はしばらく飲み食いして話をした。
ネーナは所々で楽器を演奏する人も見た。
「少しでも盛り上げに協力できたらいいが……舞台を使ってもいいのだろうか?」
ミオレスカが演奏しているのが見え、ネーナは舞台の袖にいるロビンに声をかけた。
「ねえ、ボクも演奏か歌を披露したいと思うんだけど、いいのかな?」
「ぜひ」
舞台から下りてきたミオレスカにロビンが説明をした。
「一緒にいかがでしょうか? 知っている楽曲があれば一緒に演奏した方が楽しいと思います」
「そうだね。これはどうだろう?」
「知っています」
二人は舞台に上がる。陽気な演奏が始まると、歌詞を知っている子らが歌い始めた。
●どんど焼き
本日のメーンであるどんど焼き。竹飾りは運ばれ、くべられる。
ルゥルは木に餅を花のようにつけた枝を持って配る。すでに自分がしたくてうずうずしている。
マリィアは一緒について行き、危なくないように気を配る。
そして、最後には餅を焼いて食べるのは少し後になる。
アシェ-ルは炎を眺めていると、今日一日のことが思い出される。
「友達百人……も可能なんです」
過去のことも脳裏をかすめ、炎の先を眺め空を見る。
「あ、お餅。それより、手伝います!」
ルゥルが配り歩いているのに気づいたのだった。
露店を楽しんでいたが、祐は汀が落ち込んでいるように見えた。
キャンプファイアーならぬどんど焼きを眺める。
「……思い出すなぁ……皆、元気かな」
「……元気さ! 俺たちだって元気なんだからさ」
「うん……リアルブルーに帰れる希望もできたんだもの」
「そうだな」
「こっちで仲良くなった人達もいる……できることも頑張りたいと思います」
「御崎……強いな」
絶望に暮れていた汀は、彼女自身が驚く程考えが変わった。
「そんなことないですよ。真白くんもいたし、知り合えた人もいたから」
「そっか……」
祐は照れ臭くなった。
どんど焼きの炎が上がるのを見てミオレスカは不思議な気持ちになる。
「これで、天まで願い事が昇って、世界に広まるのでしょうか」
ネーナはうなずいた。
「今日は楽しかった」
「はい……あ、花火し損ねました」
ミオレスカは荷物から「【嵐】花火セット」を取り出した。
「すごそうだな」
「終わった後にでも……」
が、タイミングを逃してしまった。
リクとエイルはどんど焼きの炎で餅を焼く。
「エイル、口、開けて」
「え? あっ」
エイルは口の中の餅を咀嚼して飲み込んでから、お返しと餅を差し出す。かがんだリクの頬にそっと唇を寄せた。
天に昇る炎に願いも上がっていくのだろうと考えながら、ヴァイスは隣にいるアニスの肩を抱き寄せる。
アニスは彼の胸に頭を傾けた。
Gacruxは一服しつつパルムがユグディラにちょっかいを出すままにしていた。
パルムが楽しそうなのが何よりだと思った。
エルバッハは餅を持って走っているルゥルに出会った。
「こんばんは」
「あ、こんばんはです。お姉さんも焼きますか」
「ありがとうございます」
ルゥルが立ち去った後、餅を焼くため火に近づく。
「こういうお祭りも楽しいですね。来年は出店するのもいいのかもしれません」
餅を食べた後、片付けを手伝いに戻る。
「迫力あるな」
ステラは天を焦がす炎の柱を見、もらった餅の枝を持って近づく。
「……料理とまではいかねーけどな」
無病息災など願う行事だと、別の人にも聞いた。
餅を掲げて、空を見上げた。
どんど焼きの炎を眺め、智里は唇をかむ。心配そうなハンスの顔が視界に入った。
「おばあちゃんもおじいちゃんもあっちにいるから連絡とれないんです……元気だといいなぁ」
「戻れるようにはなりましたし、きっと取れますよ」
ハンスは智里の頭をポンポンと撫でた。
(……子ども扱いされているなぁ……)
智里であるが内心で溜息をついた。
どんど焼きの炎を真夕と紅葉は眺める。
「……キャンプファイアーを思い出しちゃう」
「え?」
「ね、踊りましょ」
真夕は困惑する紅葉の手をとり踊る、会場のどこかで鳴る音楽に合わせて。
時間が許す限り、二人はデートを楽しんだのだった。
竹の飾りも薪の山にくべられた。
「竹は燃えると弾けるかんなァ、そこは気ィつけてやんねェと」
柊羽はハラハラする。
「それは大変だ……」
リューも一緒に注意するが、幸い、問題はなく終われそうだ。
どんど焼きの炎が上がる中、観智は階段を降りていく。こちらに向かってくる人もいるだろうから見守ろうと考えた。
「けが人等が出ないようにすぐ対処できるように見守りはいりますね」
子どもたちが走りって転ぶが、すぐに起き上がり走り出す。
「……元気ですね」
炎が上がる中、離れると静寂も感じる。
「炎は浄化の意味もあるんですよね……」
この地域も比較的平和とはいえ、誰もが願う浄化ともいえるのかもしれない。
閉会宣言が舞台の方でなされた。
ミモザとセリスは片づける。
「セリス、手を止めないのですよ」
「ちょっとくらい思いに浸ってもいいでしょ?」
アニスとヴァイスのことを考えると表情は自然とほころぶのだった。
ソナは帰路につく。
「お祭りは終わると寂しくなるのですよね」
階段を降りながらふと振り返り、ため息をついた。
閉会後の片づけをディーナは自主的に手伝う。小柄な姿のどこにあれだけの食料が消えたのか、隅から隅まで本当に制覇した。
「片づけまでが祭りですぅ」
疲労困憊しているがてきぱき動くハナを見つける。
薬草園のユグディラたち。シロッポイは前足を振り、ルゥルがいる方に立ち去った。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/09 15:24:15 |
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魔術師の弟子さんに聞きたいこと エイル・メヌエット(ka2807) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/07/09 18:06:49 |
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祭りだひゃっほい 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/07/11 00:47:45 |